説明

4サイクルエンジンの潤滑構造

【課題】クランク軸を備えるクランク室、動弁機構のそれぞれに適したオイル量を潤滑させることで、オイルの短期間での消費を防止する。
【解決手段】本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造は、クランク室内の圧力変動を利用して、オイルタンクに貯留されたオイルを供給して駆動部品を潤滑するものであり、オイルタンクからクランク室にオイルを供給し、クランク室でミスト化されたオイルをオイルタンクに戻す第1循環経路と、ミスト化されたオイルをオイルタンクから動弁機構室へ供給し、オイルタンクに戻す第2循環経路と、を備え、クランク室とオイルタンクとを仕切壁11で仕切り、仕切壁11の中央部20が、エンジン本体を傾斜させてもオイルタンクに貯留されるオイルの油面の鉛直上方に配置され、中央部20に第2循環経路のミスト化されたオイルを供給する側の開口A1が配設されて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4サイクルエンジンの潤滑構造に関し、特に、刈払機、バックパックブロワなどの携帯式作業機に搭載する4サイクルエンジンの潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯式作業機に搭載される4サイクルエンジンの潤滑構造は、作業者が作業する際、様々な角度に傾けるため、どの様な姿勢でもエンジンの駆動部品を確実に潤滑することが求められている。
【0003】
携帯式作業機に搭載される4サイクルエンジンの潤滑構造として、例えば、特許文献1には、クランク室のほぼ外周を囲む油溜室を形成した4サイクルエンジンの潤滑装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−260926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、4サイクルエンジンの潤滑構造において、クランク軸周りには、多くのオイルを必要とし、動弁機構には、クランク軸周りほど多くのオイルを必要としない。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明では、クランク軸を備えるクランク室内のオイルミストの濃度を調節せずに動弁機構にオイルミストを送る構成になっている。これにより、動弁機構に余剰なオイルが供給されてしまう。
【0007】
そして、動弁機構に供給されるオイルの量が多くなり、動弁機構を含むオイルの供給通路でオイルが滞留し、供給通路でのブローバイガスを燃焼室へ排出する際、オイルも排出される。
【0008】
このように、上記特許文献1に記載の発明では、動弁機構に余剰なオイルが供給されてしまうことで、オイルが燃焼室へ排出されて、オイルが短期間で消費されてしまうという技術的課題がある。
【0009】
したがって、オイルが短期間で消費されることにより、オイルの補充期間が短くなり、オイルの補充を怠ると潤滑不良を起こす。また、オイルが未燃焼の状態で燃焼室から外部に排出されることで、環境への悪影響を与えてしまう。
【0010】
本発明の目的は、クランク軸を備えるクランク室、動弁機構のそれぞれに適したオイル量を潤滑させることで、オイルの短期間での消費を防止することが可能な4サイクルエンジンの潤滑構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造は、クランク室内の圧力変動を利用して、上記クランク室と別に設けられたオイルタンクに貯留されたオイルを供給して駆動部品を潤滑する4サイクルエンジンの潤滑構造であって、上記オイルタンクから上記クランク室に上記オイルを供給し、上記クランク室でミスト化されたオイルを上記オイルタンクに戻す第1循環経路と、上記ミスト化されたオイルを、上記オイルタンクから動弁機構へ供給し、上記オイルタンクに戻す第2循環経路と、上記オイルの循環経路中に含まれるブローバイガスを上記第2循環経路から燃焼室に排出する排出経路と、を備え、上記クランク室と上記オイルタンクとを仕切壁で仕切り、上記仕切壁の中央部が、エンジン本体を傾斜させても上記オイルタンクに貯留される上記オイルの油面の鉛直上方に配置され、上記中央部に上記第2循環経路の上記ミスト化されたオイルを供給する側の開口A1が配設されて構成されている。
【0012】
また、本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造の上記仕切壁の中央部には、上記第1循環経路の上記オイルを戻す側の開口B1が配設されて構成されている。
【0013】
また、本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造は、上記第1循環経路の開口B1における上記オイルタンクへの上記オイルの放出方向に対し、上記第1循環経路の開口B1が上記第2循環経路の開口A1よりも上記放出方向側となるように構成されている。
【0014】
また、本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造は、上記第1循環経路の開口B1にリード弁を備えて構成されている。
【0015】
また、本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造は、上記第2循環経路の一部を弾性管体で構成し、上記弾性管体の端部により上記第2循環経路の開口A1が形成されて構成されている。
【0016】
また、本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造の上記中央部には、対向する一対の起立壁を一体形成するとともに、この一対の起立壁の間に上記弾性管体を配設し、上記一対の起立壁に載せるとともに、上記開口B1にリード弁を配設し、上記リード弁の固定端部を固定する一体の固定部品を一つのボルトで固定することで、上記弾性管体及び上記リード弁が固定されて構成されている。
【0017】
また、本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造は、上記一対の起立壁を連結壁で接続するように形成されて構成されている。
【0018】
また、本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造は、上記連結壁を複数で形成し、上記弾性管体を固定して構成されている。
【0019】
また、本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造は、上記第2循環経路の開口A1における上記ミスト化されたオイルの供給方向に対し、上記放出方向が平行となるように構成されている。
【0020】
また、本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造の上記供給方向は、上記放出方向に対し、逆方向になるように構成されている。
【0021】
また、本発明に係る4サイクルエンジンの潤滑構造の上記仕切壁は、上記クランク室内で回転するクランクウェブの回転軌跡に近接して構成されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、仕切壁の中央部がエンジン本体を傾斜させてもオイルタンクに貯留されるオイルの油面の鉛直上方に配置され、中央部に第2循環経路のミスト化されたオイルを供給する側の開口A1が配設されることで、第2循環経路には、クランク室でミスト化されたオイルのミスト濃度を下げて供給することが可能になる。このため、クランク軸を備えるクランク室、動弁機構のそれぞれに適したオイル量を潤滑させることが可能になる。そして、第2循環経路中のオイル量が少ないので、排出経路によるオイルの短期間での消費を防止することができる。
【0023】
また、仕切壁の中央部に第1循環経路のオイルを戻す側の開口B1が配設されることで、開口B1は油面の鉛直上方に配置され、クランク室から戻されるオイルによる油面の乱れが少ない。このため、オイルタンク内でオイルミストの生成が抑制され、ミスト濃度を下げて第2循環経路に供給することができる。
【0024】
また、第1循環経路の開口B1におけるオイルタンクへのオイルの放出方向に対し、開口B1が第2循環経路の開口A1よりも放出方向側となるように構成されることで、第1循環経路から放出されるオイルが第2循環経路に直接入り込まないように設定されている。これにより、開口A1への余剰なオイル供給をより確実に抑止することができる。
【0025】
また、第1循環経路の開口B1にリード弁を備えることで、オイルの放出方向を設計しやすくなり、オイルタンク内部の構造を容易に設計することができる。
【0026】
また、第2循環経路の一部を弾性管体で構成し、弾性管体の端部により第2循環経路の開口B1が形成されることで、開口B1の位置決めを容易に行うことができる。
【0027】
また、中央部には、対向する一対の起立壁を一体形成するとともに、この一対の起立壁の間に弾性管体を配設し、一対の起立壁に載せるとともに、リード弁の固定端部を固定する一体の固定部品を一つのボルトで固定して、弾性管体及びリード弁が固定されることで、部品点数を減らすことができるとともに、組み立ての容易化を図ることができる。
【0028】
また、一対の起立壁を連結壁で接続するように形成することで、弾性管体を確実に固定することができる。
【0029】
また、連結壁を複数で形成し、弾性管体を固定することで、弾性管体をより確実に固定することができるとともに、弾性管体の変形を抑えられるので、オイルの流体抵抗が大きくならない。
【0030】
また、第1循環経路の開口B1におけるオイルタンクへのオイルの放出方向に対し、開放出方向が平行となるように構成されることで、第1循環経路の開口B1から放出されるオイルが第2循環経路の開口A1に入り込む場合の実効的な距離が長くなり、オイルタンク内でオイルミストの濃度を下げる事ができ、第2循環経路の開口A1への余剰なオイル供給をより確実に抑止することができる。
【0031】
また、供給方向は、放出方向に対して逆方向になるように構成することで、オイルタンク内のオイルミスト濃度を適度に調整でき、クランク軸を備えるクランク室、動弁機構のそれぞれに適したオイル量を潤滑させることが可能になる。そして、第2循環経路中のオイル量が少ないので、排出経路によるオイルの短期間での消費を防止することができる。
【0032】
また、仕切壁は、クランク室内で回転するクランクウェブの回転軌跡に近接して構成されることで、クランク室に滞留するオイルをクランク軸により掻き取ることが可能になり、クランク室内でのオイルのミスト化を促進させることができる。これにより、クランク室内に収容されたクランク軸などへの潤滑性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】本発明の一実施の形態である4サイクルエンジンの構成を模式的に示す斜視図である。
【図1B】本発明の一実施の形態である4サイクルエンジンの構成を模式的に示す平面図である。
【図2】図1Bにおける線I−I´を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態である4サイクルエンジンのクランクケースの構成についてオイルタンク側から斜視した状態を模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施の形態である4サイクルエンジンのクランクケースの構成についてオイルタンク側から斜視し、かつ、一方向から断面視した状態を模式的に示す断面斜視図である。
【図5】本発明の一実施の形態である4サイクルエンジンのクランクケースの構成について、リード弁、固定部品及びボルトを分解した状態を模式的に示す分解斜視図である。
【図6】本発明の一実施の形態である4サイクルエンジンのクランクケースの構成について、第2の送油通路の送油口及び供給通路の供給口の近傍を拡大した拡大斜視図である。
【図7A】本発明の一実施の形態である4サイクルエンジンのクランクケースの第1の状態の断面を模式的に示す断面図である。
【図7B】本発明の一実施の形態である4サイクルエンジンのクランクケースの第2の状態の断面を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の一実施の形態である4サイクルエンジンの潤滑構造の構成を模式的に示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本実施の形態において、4サイクルエンジン30の潤滑構造は、ピストン34の往復動によるクランク室35内の圧力変動を利用して、クランク室35と別に設けられたオイルタンク55に貯留されたオイルを供給して駆動部品を潤滑するものである。
【0035】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本実施の形態の4サイクルエンジン30の構成について図1A、図1B及び図2を用いて説明する。図1Aは、本発明の一実施の形態である4サイクルエンジン30の構成を模式的に示す斜視図であり、図1Bは、本発明の一実施の形態である4サイクルエンジン30の構成を模式的に示す平面図であり、図2は、図1Bにおける線I−I´を模式的に示す断面図である。
【0036】
図1A、図1B及び図2に例示されるように、本実施の形態の4サイクルエンジン30は、ピストン34を摺動可能に支持するシリンダブロック31と、このシリンダブロック31の長手方向の一端側(図2における下方側。)に配置され、クランク室35を形成するクランクケース10と、シリンダブロック31の長手方向の他端側(図2における上方側。)に配置され、シリンダブロック31とともに燃焼室36を形成するシリンダヘッド32と、を備えて構成されている。
【0037】
本実施の形態において、これらシリンダブロック31、シリンダヘッド32及びクランクケース10は、それぞれ別体で構成され、ボルトにより連結されている。そして、クランクケース10の下方側には、オイルを貯留するためのオイルケース33が連結されている。
【0038】
また、クランク室35には、クランクケース10が設けられ、これらシリンダブロック31とクランクケース10とでクランク軸37が回転可能に支持されている。
【0039】
具体的には、クランク軸37の両端は、クランクケース10の内部に形成されたクランク室35から突出するように配置され、クランク室35から突出した両端をシリンダブロック31及びクランクケース10により挟んで回転可能に支持されている。
【0040】
そして、シリンダブロック31内に設けられたシリンダ38には、クランク室35のクランク軸37にクランクウェブ56とコンロッド39とを介して連接されたピストン34が往復移動可能に挿入されている。これにより、クランク軸37は、ピストン34の往復移動により回転運動に変換されている。
【0041】
一方、シリンダブロック31の長手方向の他端側には、上述したように、シリンダヘッド32が設けられている。このシリンダヘッド32には、図示しない気化器に連通する吸気ポート41及びマフラ40に連通する排気ポート42が設けられるとともに、これら吸気ポート41及び排気ポート42を開閉する吸気バルブ43及び排気バルブ44が配設されている。
【0042】
また、シリンダヘッド32の一部には吸気バルブ43及び排気バルブ44を収容する動弁室45が形成されている。この動弁室45は、シリンダヘッド32と動弁室カバー46とにより形成されている。
【0043】
また、吸気バルブ43及び排気バルブ44には、これら吸気バルブ43及び排気バルブ44を駆動するための動弁機構47が連設されている。動弁機構47は、クランク軸37に固着されたバルブ駆動ギヤ48と、バルブ駆動ギヤ48によって駆動されるカムギヤ49と、カムギヤ49の一端部に連設されたカム50と、このカム50により揺動され、シリンダブロック31に回動可能に支持された一対のカムフォロアと、シリンダブロック31の頭部に設けられたロッカー軸に支持されて一端を吸気バルブ43及び排気バルブ44の弁頭に当接させる一対のプッシュロッドと、吸気バルブ43及び排気バルブ44のそれぞれを閉弁方向に付勢する弁ばねと、を有して構成されている。
【0044】
この動弁機構47を構成する各部のうち、バルブ駆動ギヤ48、カムギヤ49及びカムギヤ49は、動弁機構室54内に収容されている。また、動弁機構47を構成する各部のうち、プッシュロッド、弁ばねは、動弁室45内に収容されている。
【0045】
本実施の形態において、オイルケース33は、四方及び下方を囲んだ筺体で形成され、クランクケース10にオイルケース33を装着することで、クランク室35が構成される。そして、クランク軸37を回転可能に収容するクランクケース10の半円筒状の部分が、クランク室35とオイルタンク55との仕切壁11となる。
【0046】
オイルタンク55には、規定のオイル量が貯留されている。ここで、規定のオイル量とは、エンジンを適正に潤滑するための量をいう。具体的には、オイルタンク55に貯留されるオイルの量が規定の下限未満の場合、エンジンを適正に潤滑するのに充分なオイルを循環させることができず、上限を超える場合、供給通路130の開口がオイルの油面下に没してしまい、エンジンを適正に潤滑するのに必要なオイルミストを上手く循環することができない。すなわち、規定のオイル量とは、規定の下限から上限までの間の量をいう。
【0047】
以下、本実施の形態のオイルタンクの内部構造について、図3乃至7を用いて説明する。図3は、本発明の一実施の形態である4サイクルエンジン30のクランクケース10の構成についてオイルタンク55側から斜視した状態を模式的に示す斜視図であり、図4は、本発明の一実施の形態である4サイクルエンジン30のクランクケース10の構成についてオイルタンク55側から斜視し、かつ、一方向から断面視した状態を模式的に示す断面斜視図である。
【0048】
また、図5は、本発明の一実施の形態である4サイクルエンジン30のクランクケース10の構成について、リード弁12、固定部品13及びボルト14を分解した状態を模式的に示す分解斜視図であり、図6は、本発明の一実施の形態である4サイクルエンジン30のクランクケース10の構成について、第2の送油通路120の送油口121及び供給通路130の供給口の近傍を拡大した拡大斜視図であり、図7Aは、本発明の一実施の形態である4サイクルエンジン30のクランクケース10の第1の状態の断面を模式的に示す断面図であり、図7Bは、本発明の一実施の形態である4サイクルエンジンのクランクケースの第2の状態の断面を模式的に示す断面図である。
【0049】
図3乃至図7Bに例示されるように、本実施の形態のクランク室35とオイルタンク55は、仕切壁11により仕切られている。この仕切壁11は、半筒形状をなして形成されている。
【0050】
すなわち、この仕切壁11は、クランク室35側で、このクランク室35内に収容されたクランクウェブ56を回転可能に収容する役目を果たし、これに伴い、オイルタンク55側に突出する曲面部ができる。そして、この曲面部の中央部20が、オイルタンク55側に最も突出している。
【0051】
本実施の形態において、半円筒形状の仕切壁11の中央部20は、エンジン本体を傾斜させてもオイルタンク55に規定のオイル量で貯留されるオイルの油面の鉛直上方に配置される様に構成されている。そして、中央部20には、ミスト化されたオイルを動弁機構47へ供給するための開口A1が配置されている。
【0052】
このように、仕切壁11の中央部20がオイルタンク55に貯留されたオイルの油面の鉛直上方に配置されるとともに、この仕切壁11に開口A1が配置されることで、開口A1には、オイルタンク55に貯留された液状のオイルを入り込ませないようにしている。
【0053】
この開口A1は、ゴムなどの弾性材料を用いて形成された可撓性の弾性管体15の端部により形成されている。この弾性管体15は、中央部20に一体に形成された一対の起立壁16に挟持される。
【0054】
一対の起立壁16の間には、連結壁17が複数形成されている。このため、一対の起立壁16の剛性を高めている。
【0055】
弾性管体15を連結壁17に挟持して固定することで、この弾性管体15をより強固に固定することができる。
【0056】
また、中央部20には、クランク室35のオイルを戻すための開口B1が構成されている。この開口B1には、リード弁12が配設されている。
【0057】
本実施の形態のリード弁12及び弾性管体15の固定手段として、上述したように、一対の起立壁16の間に弾性管体15が挟持されるとともに、リード弁12が一対の起立壁16に載置された固定部品13により保持されている。そして、これらリード弁12及び弾性管体15を保持する固定部品13を一つのボルト14によりクランクケース10に固定することで、容易に組み付けることができる。
【0058】
次に、本実施の形態の4サイクルエンジン内を潤滑するオイルの潤滑構造について、図8を用いて説明する。図8は、本発明の一実施の形態である4サイクルエンジンの潤滑構造の構成を模式的に示す概略説明図である。
【0059】
図8に例示されるように、オイルタンク55とクランク室35との間には、オイルを循環させる第1循環経路100が構成されている。この第1潤滑経路は、オイルタンク55からクランク室35内にオイルを送るための第1の送油通路110と、クランク室35でミスト化されたミストオイルをオイルタンク55に送るための第2の送油通路120とを備えて構成されている。
【0060】
この第1の送油通路110には、オイルタンク55側の端部、すなわち送油口にオイルタンク55内に貯留されたオイルを吸入するための吸入部111が取り付けられている。
【0061】
吸入部111は、ゴムなどの弾性材料を用いて形成された可撓性の管体112と、この管体112に連設され、オイルを吸入する開口B2を具備する錘113とを有して構成されている。
【0062】
吸入部111の錘113は、この錘113の自重により鉛直方向に移動するように設けられている。このため、4サイクルエンジン30が傾いた場合であっても、錘113を常にオイル内に没入させることが可能になる。
【0063】
また、第1の送油通路110の途中には、第1の送油通路110内を流れるオイルを一方向に流すための一方向弁114が設けられている。この一方向弁114は、クランク室35内の圧力変化に応じて開閉するように設定されている。
【0064】
すなわち、ピストン34の上死点側への移動に起因してクランク室35内が負圧状態になることで、一方向弁114が開き、第1の送油通路110を連通状態にしている。このとき、オイルタンク55に貯留されているオイルは、開口B2より吸い込まれて第1の送油通路110を介してクランク室35へ送られる。一方、ピストン34の下死点への移動に起因してクランク室35内が正圧状態になることで、一方向弁114が閉じ、第1の送油通路110が非連通状態になり、オイルの逆流を防止している。
【0065】
クランクケース10の仕切壁11は、クランク室35内で回転するクランクウェブ56の回転軌跡に近接して配置されている。そして、クランク室35内に滞留するオイルをクランクウェブ56が掻き取ることで、クランク室35内でオイルのミスト化が促進される。そして、クランク室35内でミスト化されたオイルは、リード弁12の開閉に起因して開く開口B1を介してオイルタンク55に戻る。
【0066】
具体的には、ピストン34の上死点側への移動に起因してクランク室35内が負圧状態になることで、リード弁12が閉じ、第2の送油通路120を非連通状態にしている。一方、ピストン34の下死点側への移動に起因してクランク室35内が正圧状態になることで、リード弁12が開き、第2の送油通路120を連通状態にしている。
【0067】
このとき、開口B1は、オイルの油面の鉛直上方に位置するので、開口B1から放出するオイルが油面を噴き上がらせることはない。そして、オイルタンク55内でオイルミストの液化が促進する。
【0068】
オイルタンク55と動弁室45との間には、オイルを循環させる第2循環経路101が配設されている。この第2循環経路101は、供給通路130、動弁機構室54、動弁室45、第3の送油通路170、クランク室35及び第2の送油通路120により構成されている。なお、この例では、第2の送油通路120が第1循環経路100と第2循環経路101とを兼用しているが、クランク室35とオイルタンク55との間を第1循環経路100と第2循環経路101とで別々に送油通路を構成し、第2循環経路101の開口A2を別に設けても良い。
【0069】
供給通路130は、オイルタンク55から動弁機構室54及び動弁室45にクランク室でミスト化されたオイルを供給する。このため、動弁機構47を構成するバルブ駆動ギヤ48、カムギヤ49、カム50、プッシュロッド及び弁ばねは、第2循環経路101を流れるオイルにより潤滑される。
【0070】
この供給通路130の一端は上述した開口A1が形成されている。この開口A1は、開口B1と同様に、中央部20に配置されている。
【0071】
本実施の形態では、開口B1からオイルタンク55にオイルを送出する放出方向Bと、開口A1から供給通路130にオイルを供給する供給方向Aとは、互いに平行になるように配置されている。そして、開口B1が開口A1に対して放出方向B側に配置されている。
【0072】
なお、本実施の形態において、放出方向Bと供給方向Aとは逆方向を向いて配置されることにより、第2循環経路101へ供給するオイルミスト濃度がより適切に調整される。ただし、開口B1が開口A1より放出方向Bに対して送出側に配置されることが重要で、同じ方向を向いて配置されても充分な効果が期待できる。
【0073】
このように、供給通路130には、クランク室35内部より薄い濃度のオイルミストが供給される。
【0074】
したがって、オイルミストを必要以上に濃い濃度にすることなく、動弁室45に供給することができる。
【0075】
動弁室45の内側には、動弁室45内に滞留するオイルを吸引する吸引通路160が配設されている。吸引通路160とクランク室35との間には、第3の送油通路170が配設されている。
【0076】
第3の送油通路170の一端側の開口端部は、吸引通路160に連設され、他端側は、クランク室35に連設されている。このとき、第3の送油通路170の他端側の開口端部は、第1の送油通路110の他端側の開口端部と同様に、ピストンが上死点に達する際、全開する位置に配置されている。
【0077】
このとき、動弁室に滞留するオイルミストは第3の送油通路170の開口より吸い込まれて第3の送油通路を介してクランク室35へ送られる。一方、ピストン34の下死点への移動に起因してクランク室35内が正圧状態になることで、第3の送油通路170が非連通状態になり、動弁室45へのオイルの逆流が防止される。また、クランク室35内が正圧状態になることで、リード弁12が開き、クランク室35内で余剰となったオイルが第2の送油通路120を介してオイルタンク55に戻される。
【0078】
また、動弁機構室54とクランク室35との間には、動弁機構室54内の余剰となったオイルをクランク室に戻すための戻し通路180が配設されている。
【0079】
また、動弁機構室54と第1の送油通路110の間には、流量調整通路190が配設されている。この流量調整通路190は、動弁機構室54内の空気を吸い込むことで、第1の送油通路110を介してクランク室35内に供給されるオイルの流量を調整する。
【0080】
流量調整通路190には、流量絞り193が設けられている。流量絞り193は、流量調整通路190による空気の吸い込み量を調整する。
【0081】
動弁室45の内側には、オイルの循環経路中に含まれるブローバイガスを燃焼室36に排出するための排出通路140が配設されている。この排出通路140の一端側141は、動弁室内に連設され、他端側は、エアクリーナ143に連設されている。
【0082】
エアクリーナ143に送られたブローバイガスは、エアクリーナ143内に設けられたオイルセパレータによりミストオイルとブローバイガスに気液分離される。気液分離されたオイルは、エアクリーナ143とクランク室35とを連通する還流通路150を通ってクランク室35に送られる。ブローバイガスは、燃焼室36で燃焼されてからマフラ40を介して外部へ排出される。
【0083】
以上のように、本実施の形態の4サイクルエンジン30の潤滑構造は、第1の送油通路110、第2の送油通路120、供給通路130、排出通路140、還流通路150、吸引通路160、第3の送油通路170、戻し通路180及び流量調整通路190を有しており、クランク室、動弁機構室及び動弁室へのオイルの潤滑を可能にしている。
【0084】
そして、供給通路130に第2の送油通路120から送油されるオイルを直接入り込まないようにしているため、供給通路130から送られる動弁機構室54及び動弁室45への濃度の低いオイルを供給することができる。
【0085】
これにより、ブローバイガスとともに燃焼室36に排出するオイルの量を少なくすることができ、潤滑構造の効率を向上させることができる。
【0086】
なお、本実施の形態の4サイクルエンジン30は、特に刈払機、バックパックブロアなどの携帯式作業機に搭載して好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0087】
10 クランクケース
11 仕切壁
12 リード弁
13 固定部品
14 ボルト
15 弾性管体
16 起立壁
17 連結壁
18 連結溝
20 中央部
30 4サイクルエンジン
31 シリンダブロック
32 シリンダヘッド
33 オイルケース
34 ピストン
35 クランク室
36 燃焼室
37 クランク軸
38 シリンダ
39 コンロッド
40 マフラ
41 吸気ポート
42 排気ポート
43 吸気バルブ
44 排気バルブ
45 動弁室
46 動弁室カバー
47 動弁機構
48 バルブ駆動ギヤ
49 カムギヤ
50 カム
54 動弁機構室
55 オイルタンク
56 クランクウェブ
100 第1循環経路
101 第2循環経路
110 第1の送油通路
111 吸入部
112 管体
113 錘
114 一方向弁
120 第2の送油通路
121 送油口
130 供給通路
131 供給口
140 排出通路
150 還流通路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク室内の圧力変動を利用して、前記クランク室と別に設けられたオイルタンクに貯留されたオイルを供給して駆動部品を潤滑する4サイクルエンジンの潤滑構造であって、
前記オイルタンクから前記クランク室に前記オイルを供給し、前記クランク室でミスト化されたオイルを前記オイルタンクに戻す第1循環経路と、
前記ミスト化されたオイルを、前記オイルタンクから動弁機構へ供給し、前記オイルタンクに戻す第2循環経路と、
前記オイルの循環経路中に含まれるブローバイガスを前記第2循環経路から燃焼室に排出する排出経路と、を備え、
前記クランク室と前記オイルタンクとを仕切壁で仕切り、前記仕切壁の中央部が、エンジン本体を傾斜させても前記オイルタンクに貯留される前記オイルの油面の鉛直上方に配置され、前記中央部に前記第2循環経路の前記ミスト化されたオイルを供給する側の開口A1が配設されること、
を特徴とする4サイクルエンジンの潤滑構造。
【請求項2】
前記仕切壁の中央部には、前記第1循環経路の前記オイルを戻す側の開口B1が配設されること、
を特徴とする請求項1記載の4サイクルエンジンの潤滑構造。
【請求項3】
前記第1循環経路の開口B1における前記オイルタンクへの前記オイルの放出方向に対し、前記開口B1が前記第2循環経路の開口A1よりも前記放出方向側となるように構成すること、
を特徴とする請求項2記載の4サイクルエンジンの潤滑構造。
【請求項4】
前記第1循環経路の開口B1にリード弁を備えること、
を特徴とする請求項3記載の4サイクルエンジンの潤滑構造。
【請求項5】
前記第2循環経路の一部を弾性管体で構成し、前記弾性管体の端部により前記第2循環経路の開口A1が形成されること、
を特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の4サイクルエンジンの潤滑構造。
【請求項6】
前記仕切壁の中央部には、対向する一対の起立壁を一体形成するとともに、この一対の起立壁の間に前記弾性管体を配設し、前記一対の起立壁に載せるとともに、前記開口B1にリード弁を配設し、前記リード弁の固定端部を固定する一体の固定部品を一つのボルトで固定することで、前記弾性管体及び前記リード弁が固定されること、
を特徴とする請求項5記載の4サイクルエンジンの潤滑構造。
【請求項7】
前記一対の起立壁を連結壁で接続するように形成したこと、
を特徴とする請求項6記載の4サイクルエンジンの潤滑構造。
【請求項8】
前記連結壁を複数で形成し、前記弾性管体を固定すること、
を特徴とする請求項7記載の4サイクルエンジンの潤滑構造。
【請求項9】
前記第2循環経路の開口A1における前記ミスト化されたオイルの供給方向に対し、前記放出方向が平行となるように構成すること、
を特徴とする請求項3記載の4サイクルエンジンの潤滑構造。
【請求項10】
前記供給方向は、前記放出方向に対し、逆方向になるように構成すること、
を特徴とする請求項9記載の4サイクルエンジンの潤滑構造。
【請求項11】
前記仕切壁は、前記クランク室内で回転するクランクウェブの回転軌跡に近接して構成すること、
を特徴とする請求項1から10の何れか1項に記載の4サイクルエンジンの潤滑構造。


【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−57554(P2012−57554A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202285(P2010−202285)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】