説明

4サイクルエンジン及びエンジン作業機

【課題】
4サイクルエンジンにおいて安価で簡単な構造でブローバイガス中に含まれるオイルの回収を行う。
【解決手段】
シリンダ2と、ピストン12と、オイルを溜めるオイル室33を画定するクランクケース19と、吸排気バルブを収めた動弁室を覆うシリンダヘッドカバー26を有し、クランクケース14内に溜まったブローバイガスを動弁室26a、26bに導いて動弁室からエアクリーナー室に排出する4サイクルエンジンにおいて、動弁室26aからオイル室33へオイルを戻すための戻り通路31を設け、動弁室26aからエアクリーナー室へのブローバイガスの排気口26cをフェルト29で覆うようにした。フェルト29は例えば帯状であって、上端側はブローバイ排出出口29cの前に配置し、下端側が戻り通路31内に位置するように配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は4サイクルエンジン及びそれを用いたエンジン作業機に関し、特にブローバイガス中に含まれた潤滑油を効果的に回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
刈払機やチェーンソー等の携帯用のエンジン作業機において、近年の公害対策上の理由から2サイクルエンジンでなく4サイクルエンジンが採用されることが多くなってきた。4サイクルエンジンでは、ブローバイガスを回収して再燃焼させるように構成されるのが一般的である。ブローバイガス(Blowby Gas)とは、主にピストンとシリンダの隙間からクランクケース内に流入するガスのことであって、未燃焼の燃料や排気ガス成分が含まれる。ブローバイガス中には未燃焼の炭化水素が多く含まれるため、法律によってブローバイガスを大気中に放出することが禁じられていることが多い。そのため、クランクケース内に溜まったブローバイガスをシリンダヘッドに導き、チューブ等でシリンダヘッドからエアクリーナー室又はシリンダへの吸入ポートに導くことが広く行われている。
【0003】
ブローバイガスの回収にあたって、ブローバイガスと共にクランクケース内に溜まったオイル(潤滑油)の一部も排出されて燃やされてしまうことがある。各部をオイルで潤滑する4サイクルエンジンにおいてはオイルの消費はできるだけ低い方が好ましく、ブローバイガスと共に排出されてしまうオイルをできるだけ回収することが重要である。ブローバイガス中に含まれたオイルの回収方法としては、特許文献1に開示されているようにブローバイガスの流路をラビリンス構造にし、壁面に当てることでブローバイガスに混入しているオイルを付着させる方法や、シリンダヘッドからエアクリーナー室の間にブローバイガスとオイルを分離するためのオイル分離室を設ける方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−115213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の構造である、ラビリンス構造を設けオイルを付着させる方法ではオイルを付着させる壁面を複数形成する必要であり、シリンダヘッドカバーの内壁等に複雑な構造が必要となり製造加工上の困難が伴う。また、ラビリンス構造をシリンダヘッドカバーとは別部品で実現しようとすると部品点数の増加と製造コストアップになってしまう。一方、シリンダヘッドからエアクリーナー室の間にブローバイガスとオイルを分離する為のオイル分離室を作る構造ではエンジンの本体とは別にオイル分離室を設ける必要があり、構造も複雑で部品点数も多くなり、製造コストアップになってしまう。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、簡単な構造でブローバイガス中に含まれるオイルの回収を行うことのできる4サイクルエンジンを実現することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、オイル吸着材を使用することでブローバイガス中に混入したオイルを効果的に分離・回収することができる4サイクルエンジンを実現することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、環境性能に優れエンジンオイルの消費の少ない4サイクルエンジンを用いたエンジン作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0010】
本発明の一つの特徴によれば、シリンダの内部で往復動するピストンと、ピストンを往復動させるクランクを収容するとともにオイルを溜めるオイル室を画定するクランクケースと、シリンダの上部に設けられ吸排気バルブを収めた動弁室を覆うシリンダヘッドカバーを有し、シリンダの燃焼室から漏れたブローバイガスを動弁室に導いて動弁室からエアクリーナー室に排出する4サイクルエンジンにおいて、動弁室からクランクケース内へブローバイガスに含まれるオイルを戻すための戻り通路を設け、動弁室からエアクリーナー室へのブローバイガスの排気口をオイル吸着材で覆い、オイル吸着材の一部を戻り通路の内部まで延ばすように配置した。オイル吸着材には例えばフェルト材を用いることができる。シリンダヘッドカバーには、エアクリーナー室と連通するためのチューブが接続されるブローバイガスの排気口が設けられ、オイル吸着材は排気口とバルブ機構の間に設けられる。オイル吸着材は例えば帯状であって、一端側は排気口を直接覆うか、排気口の前に距離を置くようにして覆い、他端側が戻り通路内に位置するように配置される。
【0011】
本発明の他の特徴によれば、戻り通路はシリンダにおいてピストンの移動方向とほぼ平行に延びるように設けられ、戻り通路の上側は動弁室に開口し、下側はクランクケース内に連通される。戻り通路は、動弁室に配置される吸入弁及び排気弁を動作させるための伝達機構の通路と独立して設けるか、或いは、伝達機構の通路と戻り通路を兼用させるように構成する。伝達機構は吸排気バルブを開閉させるためのプッシュロッドであり、戻り通路はプッシュロッドを貫通させる通路と平行であって、伝達機構の通路とシリンダの間に位置するように設けられる。
【0012】
本発明のさらに他の特徴によれば、クランクケースの内部にオイルポンプが設けられ、
戻り通路はオイルポンプに接続される。シリンダヘッドカバーの内壁にはオイル吸着材を固定するための2つのリブが設けられ、オイル吸着材はリブによって挟まれるように固定されることにより動弁室を二分割する壁部を構成し、オイル吸着材は動弁室の床面を這わせて戻り通路にまで設置される。このように構成した4サイクルエンジンを用いて、エンジンのクランク軸と同軸に取り付けられ、クランク軸からの動力を先端工具に伝達するエンジン作業機が実現される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、クランクケース内へ前記ブローバイガスに含まれるオイルを戻すための戻り通路を設け、オイル吸着材を使用することでブローバイガス中に含まれたオイルを回収するようにしたので、安価で安易な構造でオイルの回収機構を実現でき、オイルの消費量を大きく低減した4サイクルエンジンを実現できる。
【0014】
請求項2の発明によれば、オイル吸着材にフェルト材を用いるようにしたので、安価な材料で効率良くオイルを吸着および回収することができる4サイクルエンジンを実現できる。
【0015】
請求項3の発明によれば、シリンダヘッドカバーにはチューブが接続されるブローバイガスの排気口が設けられ、オイル吸着材は排気口とバルブ機構の間に設けられるので、チューブから排出されるブローバイガスはオイル吸着材を通過したガスとなり、オイル吸着材によって効果的にオイルを回収することができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、戻り通路はシリンダにおいてピストンの移動方向とほぼ平行に延びるように設けられので、戻り通路の製造のための機械加工が容易である。
【0017】
請求項5の発明によれば、オイル吸着材は帯状であって、一端側は排気口を覆い、他端側が戻り通路内に位置するように配置されるので、排気口近傍にてブローバイガスから捕獲されたオイルを確実に戻り通路内に導くことができる。
【0018】
請求項6の発明によれば、戻り通路は、動弁室に配置される吸入弁及び排気弁を動作させるための伝達機構の通路とは独立して設けられるので、伝達機構の動作に影響を与えることなく信頼性の高いオイルの回収機構を実現できる。
【0019】
請求項7の発明によれば、吸排気バルブを開閉させるためのプッシュロッドを通す通路とは独立して戻り通路を設け、伝達機構の通路とシリンダの間に位置するように設けられるので、機械加工が容易であって製造コストの上昇を抑えることができる。
【0020】
請求項8の発明によれば、戻り通路はオイルポンプに接続されるので、回収されたオイルをエンジンの各部の潤滑のために効果的に活用することができる。
【0021】
請求項9の発明によれば、戻り通路は動弁室に配置される吸入弁及び排気弁を動作させるための伝達機構の通路と兼用とされるので、シリンダに新たに戻り通路を設けることなくオイルの回収機構を実現することができる。
【0022】
請求項10の発明によれば、シリンダヘッドカバーの内壁にオイル吸着材を固定するための2つのリブを設け、オイル吸着材はリブによって挟まれるように固定されることにより動弁室を二分割する壁部を構成するので、エアクリーナー室に排出されるブローバイガスは必ずオイル吸着材を通過しないと排出できないので、オイル吸着材によって確実にオイルを回収することができる。
【0023】
請求項11の発明によれば、オイル吸着材を用いたオイルの回収機構を有するエンジン作業機としたので、オイル消費量の少ない使い勝手の良いエンジン作業機を実現することができる。
【0024】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るエンジン作業機1を、刈払機に適用した例の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例に係るエンジン作業機のエンジン10の内部構成を示す縦断面図である。
【図3】図2のA−A部の断面図である。
【図4】オイルポンプ40の構成を示す側面図である。
【図5】エンジン10のピストン下降時のブローバイガスの流れを示す縦断面図である。
【図6】本発明の第2の実施例に係るエンジン作業機のエンジン60の内部構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においてエンジンの上下方向は図2に示す方向であるとして説明する。
【0027】
図1は本発明に係るエンジン作業機1を、刈払機に適用した例の外観を示す斜視図である。図1において、パイプ状の操作棹5に図示しない駆動軸を通し、この駆動軸を、操作棹5の一端に設けたエンジンにて回転させることで、操作棹5の他端に設けたナイロンコードカッタ6を回転させる。ナイロンコードカッタ6の近傍には、刈り払った草の飛散防止のための飛散防御カバー7が設けられる。エンジン作業機1は図示しない肩掛け用吊りベルト等で携帯されるもので、操作棹5の長手中央部付近に作業者が操作するための正面視略U字状を呈するハンドル2が取り付けられる。エンジンの回転数は、ハンドル2に取り付けられたスロットルレバー3により作業者により制御される。スロットルレバー3の操作によってエンジンの回転数が調整される。
【0028】
ハウジング4の内部に収容されるエンジンは、例えば4サイクルの小型のエンジンであり、エンジンの下方には燃料タンク8が設けられる。その他、エンジンの側方及び下方には気化器や排気装置、スターター等が設けられるが、これらの全部又は一部分は合成樹脂製のハウジング4にて覆われるように構成される。
【0029】
図2は、図1のエンジン10の内部構成を示す縦断面図である。エンジン10は、シリンダ11内を往復運動するピストン12と、シリンダ11を保持しクランクシャフト13を回転可能に保持するクランクケース14を有し、シリンダ11には図示しないポートの開閉を行うバルブ25が設けられる。バルブ25は、吸気用と排気用が別々に設けられ、
クランクシャフト13の回転に同期して所定のタイミングで開閉される。ピストン12の往復運動はコンロッド16を介してクランクシャフト13の回転運動に変換される。クランクシャフト13にはギヤ17が接続され、カムギヤ18を介してクランク室19内にあるカム20を有するカムシャフト21に回転を伝達する。
【0030】
カム20にはカムシャフト21の回転軸に対し直角方向に摺動可能なタペット22が当接し、タペット22の他端にはタペット22の摺動に連動して上下移動するプッシュロッド23が接続される。シリンダ11の上部には、吸排気のバルブ機構を収めた動弁室を覆うシリンダヘッドカバー26が設けられる。吸排気のバルブ機構は、吸気用と排気用の2つのバルブ25(図では1つしか見えない)と、吸気用と排気用のそれぞれのバルブに当接してこれらを揺動させるロッカーアーム24により構成される。尚、プッシュロッド23と、これらプッシュロッド23に対応するタペット22とカム20は、吸排気用に2つずつ設けられる。カム20は1本のカムシャフト21に並列に2つ設けられる。
【0031】
ロッカーアーム24の一端は吸気用と排気用とそれぞれのバルブ25に当接し、他端はプッシュロッド23の上部に当接する。ロッカーアーム24は、中央付近で軸支されることのよりシーソーのように可動し、カム20の作用によりプッシュロッド23が上方向に移動すると、ロッカーアーム24のバルブ側端部が下方向に移動することによってバルブ25を下降させる。この結果、バルブ25はシリンダ11の内部で吸気ポート又は排気ポートを開口させることになる。シリンダヘッドカバー26の一端にはブローバイ排気出口26cが設けられ、ブローバイ排気出口26cに接続されるチューブ27により、ブローバイガスが図示しないエアクリーナー室へ送られる。チューブ27のもう一方の端部はエアクリーナー室に接続され、エアクリーナー室の内部に送られたブローバイガスは、シリンダ11への吸入空気と共に図示しない気化器に送られ、シリンダ11の内部で燃焼される。
【0032】
シリンダヘッドカバー26の内面であってブローバイ排気出口26c手前には、内面形状に沿って2つのリブ28a、28bにて形成される溝部が設けられ、その溝部にはオイル吸着材として帯状のフェルト材29がはめ込まれる。フェルト材29の上端はシリンダヘッドカバー26の天井壁まで到達し、図示していないがフェルト材29の横幅はシリンダヘッドカバー26の横幅とほぼ一致するような幅に設定される。オイル吸着材の材質としては、オイルが混入したガスを通過させる際にオイルのみを吸収する効果を有する布材、スポンジ材、その他の吸収材料であれば何でも良いが、本実施例では安価でオイル回収性能に優れた羊毛により製造されるフェルト材29としている。リブ28a、28bはフェルト材29がずれないように押さえる作用をするものなので、フェルト材29とシリンダヘッドカバー26が接する外縁部のほぼ全体をリブ28a、28bで押さえるようにすると好ましい。
【0033】
フェルト材29は動弁室26aの床面を這うようにしてクランク状に曲げられて下方向に延び、動弁室26aの床面から戻り通路31から下方に延びる。フェルト材29の下端は、シリンダ11とクランクケース14の接合部分付近まで延びるように戻り通路31の内部に配置される。戻り通路31は、シリンダ11のピストンの移動方向と平行に延びて、クランクケース14に形成された後述する回収口41(図3、4参照)に開口する。
【0034】
フェルト材29の上端付近は、バルブ25が配置される動弁室26aとブローバイ排気出口26cが開口する側の動弁室26bとを二分するようにシリンダヘッドカバー26の内部空間を区画する。図2の縦断面図からでは理解できないが、ブローバイ排気出口26cに対面する部分のフェルト材29は、横方向の両側にてシリンダヘッドカバー26の内壁に接するような幅に設定される(あるいはシリンダヘッドカバー26のフェルト材29を保持する部分の横方向の幅がフェルト材29と同じくらいになるように絞り込まれている)。そのためシリンダヘッドカバー26の内部空間にて動弁室26aから動弁室26bへのブローバイガスの移動は必ずフェルト材29を通過するようになる。
【0035】
戻り通路31の下端は連通孔39に接続され、連通孔39はオイルポンプ40の回収口41(後述:図4参照)に連通する。クランクケース14のカムシャフト21に設けられたカムギヤ18と重なる位置には、後述するオイルポンプ40が設けられる。クランクケース14は、クランクシャフト13を収容する空間を画定すると共にオイル32を溜めるオイル室33が設けられる。クランクケース14の上下方向には、ブローバイガスを動弁室26aに送るためのプッシュロッド通路15に連通する連通口37が設けられる。連通口37から上方向に連通孔38が延び、シリンダ11とクランクケース14の接合部分付近で連通孔38はプッシュロッド通路15に接続される。さらに、クランクケース14の上下方向であって連通孔38に隣接する部分には、戻り通路31に連結される連通孔39が形成される。
【0036】
次に図3を用いて戻り通路31の形状について説明する。図2のA−A部におけるシリンダ11の断面図である。シリンダ11にはピストン12が往復動するための断面形状が円形の空間11aが形成される。シリンダ11は5本の図示しないネジ又はボルトによってクランクケース14に固定されるため、5つのネジ穴9a〜9eが設けられる。空間11aに平行して2本のプッシュロッド23(図2参照)が通過するための2つのプッシュロッド通路15a、15bが形成される。本実施例では、空間11aとプッシュロッド通路15a、15bの間にフェルト材29を通過させるための戻り通路31が形成される。戻り通路31はA−A断面位置にて長方形の形状をしており、この形状は帯状のフェルト材29に対応した形状としているものである。尚、図では戻り通路31とフェルト材29の間隔がほとんど無いようにされるが、これらの僅かながら隙間を有するようにしても良い。しかしながら、エンジン稼働時の振動によるフェルト材29のズレを防止するという観点からは隙間は少ない方が好ましい。
【0037】
次に、オイルポンプ40の構成を図4を用いて説明する。本実施例で用いられるオイルポンプ40は、外歯車と内歯車がかみ合って回転する内接歯車方式の油ポンプである。オイルポンプ40はインナーロータ44とアウターロータ45、インナーロータ44とアウターロータ45を収容するケーシング46、図示しないポンプカバーを含んで構成される。ポンプカバーによってインナーロータ44とアウターロータ45が蓋されて密閉される。ケーシング46にはインナーロータ44とアウターロータ45の噛み合い体積が増加する膨張行程の始まる位置にクランクケース14と連通する吸込み口42、膨張行程位置にフェルト材29と連通している回収口41が設けられ、噛み合い体積が少なくなる圧縮工程位置にクランク室に通じている吐出し穴43が設けられる。
【0038】
図5は本発明の実施例に係るエンジン作業機のエンジン10の内部構成を示す縦断面図であり、ピストン12の下降時(ピストン下死点位置)のブローバイガスの流れを示す図である。クランク室19は、燃焼によりピストン12が上死点より下死点に下降することによりクランク室19の容積が縮小し圧力が上昇する。このように内部が圧縮されることによりクランク室19に充満しているブローバイガスはミスト化しているオイルと共に矢印51、52のように連通口37から連通孔38の内部に流入して矢印53のように流れる。クランクケース14を鉛直方向に延びる連通孔38は、プッシュロッド23が貫通するプッシュロッド通路15(15a、15b)に連通するので、矢印53のように流れるブローバイガスはプッシュロッド通路15を矢印54、55のように流れて動弁室26aの内部に流入する。
【0039】
動弁室26aにおいては、ブローバイガスは矢印56のように流れてフェルト材29を通過して、矢印57、58のように流れて図示しないエアクリーナー室の内部に流入する。エアクリーナー室にはフィルタ等の濾過器が設けられるが、チューブ27が接続される開口部分は濾過器よりも気化器側に設けられることによりエアクリーナー室に還元されたブローバイガスは、新気と共に再びエンジン10に吸入される。このようにエアクリーナー室に還元されるブローバイガスは、ブローバイ排気出口26cを通過する前に動弁室26aと26bの間に設けられるフェルト材29を通過するので、この通過の際にブローバイガスの中に含まれる気化したオイルがフェルト材29に捕獲され、混入したオイルが取り除かれたブローバイガスだけがエアクリーナー室に流入することになる。またチューブ27はエアクリーナー室に接続されるため、ピストン12の下降による吸気作用によりチューブ27の内部と動弁室26bは、動弁室26a側よりも負圧になるので、シリンダヘッドカバー26の内部から効果的にブローバイガスを排出させることができる。
【0040】
フェルト材29に捕獲されたオイルは重力の影響により下方向に落下する。図5の断面で見るとクランク状に配置されたフェルト材29は、戻り通路31を貫通してシリンダ11とクランクケース14の接合部分付近まで延びる。また、オイルポンプ40の発生させる負圧とフェルト材29による毛細管現象により効果的に回収され、オイルポンプ40を介しクランク室19に戻される。さらに、戻り通路31内を矢印のように流れる戻りオイルはオイルポンプ40の回収口41に繋がれるのでオイルポンプ40によって効果的に吸い上げられる。オイルポンプ40の吸込み口42には、先端にオイルフィルター34が設けられたオイルチューブ35が接続され、オイルチューブ35はオイル32の内部に位置づけられる。
【0041】
以上説明したように本実施例のエンジン10によれば、ブローバイ排気出口26cにオイル吸着材を設けて、オイル吸着材によってブローバイガスを回収するようにしたので、ブローバイガス内に混入したオイルを効果的に捕獲してクランク室に戻すことができる。このためオイルの消費量を大きく低減した4サイクルエンジンを実現できる。また、フェルト材という安価な部材を用いてオイルの回収機構を実現したので4サイクルエンジンの製造コストの大幅上昇を抑えることができる。
【実施例2】
【0042】
次に、図6を用いて本発明の第2の実施例を説明する。第2の実施例のエンジン60においてはフェルト材79の長さと配置状態が第1の実施例と異なる。また、シリンダ61にはフェルト材79によってオイルを戻す専用の通路が設けられない。そのため、フェルト材79にはプッシュロッド通路66の上部付近の斜面部61bに沿って這わせるようにして、フェルト材79に吸収されたオイルが、フェルト材79の毛細管現象及び重力の作用によりプッシュロッド通路66の内部に落下するように構成したものである。このように構成することによって、シリンダ61に図2で示したような戻り通路31を設ける必要がない。またフェルト材79の長さが短いので、フェルト材79の設置も容易に行うことができる。尚、エンジン60の稼働時の振動によってフェルト材79がずれる恐れがあるので、フェルト材79の下端部付近においても接着剤、両面テープあるいは何らかの止具によってフェルト材79をシリンダ61に固定するようにすると信頼性が向上して好ましい。
【0043】
第2の実施例においては、第1の実施例と違ってクランクケース74側の改造を一切行う必要がないので、従来から用いられている4サイクルエンジンにおいてもシリンダヘッドカバー26の形状を変更するだけで本発明を容易に実現することができる。さらに、エンジン60の分解時において、フェルト材79の洗浄または交換が容易であるので、メインテナンス性が良くて使い勝手の良い4サイクルエンジンを実現できる。
【0044】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば上述の実施例においては、OHV(Over Head Valve)方式の4サイクルエンジンを用いて説明したが、OHC(Over Head Camshaft)方式の4サイクルエンジンにおいても同様に適用できる。その場合は、タイミングチェーン等の伝達機構の通路と独立してオイルの戻り通路を設けても良いし、伝達機構の通路にフェルト材によってオイルを戻すようにしても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 エンジン作業機 2 ハンドル 3 スロットルレバー
4 ハウジング 5 操作棹 6 ナイロンコードカッタ
7 飛散防御カバー 8 燃料タンク 9a〜9e ネジ穴
10 エンジン 11 シリンダ 11a 空間
12 ピストン 13 クランクシャフト
14 クランクケース 15 プッシュロッド通路
16 コンロッド 17 ギヤ 18 カムギヤ
19 クランク室 20 カム 21 カムシャフト
22 タペット 23 プッシュロッド 24 ロッカーアーム
25 バルブ 26 シリンダヘッドカバー
26a、26b 動弁室 26c ブローバイ排気出口
27 チューブ 28a、28b リブ
29 フェルト材 30 エンジン 31 戻り通路
32 オイル 33 オイル室 34 オイルフィルター
35 オイルチューブ 37 連通口 38、39 連通孔
40 オイルポンプ 41 回収口 42 吸込み口
43 吐出し穴 44 インナーロータ 45 アウターロータ
46 ケーシング 60 エンジン 61 シリンダ
61b 斜面部 66 プッシュロッド通路
74 クランクケース 78 連通孔 79 フェルト材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダの内部で往復動するピストンと、
ピストンを往復動させるクランクを収容するとともにオイルを溜めるオイル室を画定するクランクケースと、
前記シリンダの上部に設けられ吸排気バルブを収めた動弁室を覆うシリンダヘッドカバーを有し、
前記シリンダの燃焼室から漏れたブローバイガスを前記動弁室に導いて前記動弁室からエアクリーナー室に排出する4サイクルエンジンにおいて、
前記動弁室から前記クランクケース内へ前記ブローバイガスに含まれるオイルを戻すための戻り通路を設け、
前記動弁室から前記エアクリーナー室への前記ブローバイガスの排気口をオイル吸着材で覆い、
前記オイル吸着材の一部を前記戻り通路の内部まで延ばすように配置したことを特徴とする4サイクルエンジン。
【請求項2】
前記オイル吸着材にフェルト材を用いるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の4サイクルエンジン。
【請求項3】
前記シリンダヘッドカバーには、前記エアクリーナー室と連通するためのチューブが接続されるブローバイガスの排気口が設けられ、
前記オイル吸着材は前記排気口と前記吸排気バルブの間に設けられることを特徴とする請求項2に記載の4サイクルエンジン。
【請求項4】
前記戻り通路は前記シリンダにおいて前記ピストンの移動方向とほぼ平行に延びるように設けられ、前記戻り通路の上側は前記動弁室に開口し、下側は前記クランクケース内に連通されることを特徴とする請求項3に記載の4サイクルエンジン。
【請求項5】
前記オイル吸着材は帯状であって、一端側は前記排気口を覆い、他端側が前記戻り通路内に位置するように配置されることを特徴とする請求項4に記載の4サイクルエンジン。
【請求項6】
前記戻り通路は、前記動弁室に配置される吸入弁及び排気弁を動作させるための伝達機構の通路とは独立して設けられることを特徴とする請求項5に記載の4サイクルエンジン。
【請求項7】
前記伝達機構は前記吸排気バルブを開閉させるためのプッシュロッドであり、
前記戻り通路は前記プッシュロッドを貫通させる通路と平行であって、前記伝達機構の通路と前記シリンダの間に位置するように設けられることを特徴とする請求項6に記載の4サイクルエンジン。
【請求項8】
前記クランクケースの内部にオイルポンプが設けられ、
前記戻り通路は前記オイルポンプに接続されることを特徴とする請求項7に記載の4サイクルエンジン。
【請求項9】
前記戻り通路は、前記動弁室に配置される吸入弁及び排気弁を動作させるための伝達機構の通路と兼用とされることを特徴とする請求項5に記載の4サイクルエンジン。
【請求項10】
前記シリンダヘッドカバーの内壁に前記オイル吸着材を固定するための2つのリブを設け、
前記オイル吸着材は前記リブによって挟まれるように固定されることにより動弁室を二分割する壁部を構成し、
前記オイル吸着材は前記動弁室の床面を這わせて前記戻り通路にまで設置されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の4サイクルエンジン。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の4サイクルエンジンと、
前記4サイクルエンジンのクランク軸と同軸に取り付けられ、該クランク軸からの動力を先端工具に伝達する伝達装置を備えたエンジン作業機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−241688(P2012−241688A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115770(P2011−115770)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】