説明

7位レチノイン酸誘導体

【課題】従来のレチノイン酸及びその類似体と比較して光安定性が高く、且つ活性に優れた、新規なレチノイン酸誘導体、及びそれらを効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】下記式:


の7位レチノイン酸誘導体、又はその塩、及びそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光安定性の高い、新規な7位レチノイン酸誘導体、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レチノイン酸は、ビタミンA(レチノール)の誘導体であるレチノイドの1つで、オールトランスレチノイン酸(トレチノイン、ATRA(all trans retinoic acid))や9−シス−レチノイン酸(特許文献1)、13−シス−レチノイン酸(特許文献2)等の立体異性体の存在が知られている。
【0003】
この中でもATRAは、転写因子として機能する核受容体の1つであるRARの天然リガンドであり、ATRAが当該受容体に結合することにより、細胞の増殖、分化、アポトーシス、及び悪性形質転換、機能性ペプチド及びタンパク質の遺伝子発現及び合成が制御される。このため、レチノイン酸及びその類似体は、悪性腫瘍や乾癬の治療に用いられるほか、皮膚科学領域ではニキビや光老化治療薬として利用されている。
【0004】
また、レチノイン酸及びその類似体は、UVに弱く不安定である。このため製造時(合成時)には光を遮断する措置が必要となり、操作が煩雑である。また薬剤に配合した場合は、冷暗所に保存しても1ヶ月程度での使い切りが推奨されるように、有効期限が非常に短く、保存時に特別の注意を要する点が問題となっている。
【0005】
これに対し、薬剤の有効期限を延長する対処法として、薬剤におけるレチノイン酸の初期濃度を高濃度に設定することも考えられる。しかしながら、レチノイン酸は外用により、紅斑、落屑、乾燥等の皮膚炎(レチノイド皮膚炎)や、多用による催奇形性などの副作用の発生が知られており(非特許文献2)、レチノイン酸を過度に高濃度で含有する処方には問題がある。
【0006】
レチノイン酸の光安定性を向上させるため、従来はレチノイン酸又はレチノイン酸誘導体を含有する組成物に、シクロデキストリン(特許文献3)又はフラーレン(特許文献4)等を配合し、光による分解を抑制する対処法がとられていた。しかしながら、上記のような他の成分を混合すると、製剤化における工程が増え、操作が煩雑になる。他の成分で補助することなく、レチノイン酸又はレチノイン酸誘導体自体の光安定性を向上させる試みはこれまでに報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3631259号公報
【特許文献2】特許4418048号公報
【特許文献3】特開2008−106041号公報
【特許文献4】特開2009−269915号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】菊池克子:レチノイド外用、MB Derma、67, p. 21-28 (2002)
【非特許文献2】漆畑修:皮膚の抗老化最前線、株式会社エヌ・ティー・エス、p. 463-472、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来のレチノイン酸及びその類似体と比較して光安定性が高く、且つ活性に優れた、新規なレチノイン酸誘導体、及びそれらを効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、藻類から7位レチノイン酸誘導体を得ることに成功した。検討の結果、当該誘導体は、レチノイン酸と比較して光安定性に優れ、活性も良好な、新規な誘導体であることを見出し、本発明を為すに至った。
【0011】
すなわち、本発明は下記に関する。
(1)下記式(I):
【化1】

(式中、
1は、−COOH、COOR2、−CONHR2、−CONR23、−CHO、−CH2OH、及び−CH2OR4からなる群から選択され、
2及びR3は、各々独立に、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC1−C16アルキル基、好ましくはC1−C7アルキル基、より好ましくはC1−C4アルキル基であるか、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルケニル基、好ましくはC2−C7アルケニル基、より好ましくはC2−C4アルケニル基であるか、又は直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルキニル基、好ましくはC2−C7アルキニル基、より好ましくはC2−C4アルキニル基であり、
4は、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC1−C16アルキル基、好ましくはC1−C7アルキル基、より好ましくはC1−C4アルキル基であるか、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルケニル基、好ましくはC2−C7アルケニル基、より好ましくはC2−C4アルケニル基であるか、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルキニル基、好ましくはC2−C7アルキニル基、より好ましくはC2−C4アルキニル基であるか、又は直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アシル基、好ましくはC2−C7アシル基、より好ましくはC2−C4アシル基であり、
Xは、以下の
【化2】

からなる群から選択され、
5は、同一でも異なってもよく、各々独立に、水素、−OH、−OR6、C1−C6アルキル、C2−C6アルケニル、C2−C6アルキニルであり、
nは、1〜3の整数であり、
6は、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC1−C16アルキル基、好ましくはC1−C7アルキル基、より好ましくはC1−C4アルキル基であるか、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルケニル基、好ましくはC2−C7アルケニル基、より好ましくはC2−C4アルケニル基であるか、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルキニル基、好ましくはC2−C7アルキニル基、より好ましくはC2−C4アルキニル基であるか、又は直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アシル基、好ましくはC2−C7アシル基、より好ましくはC2−C4アシル基であり、
Xのシクロヘキセン環は、当該環の3位と4位、又は4位と5位の間に二重結合を形成してもよい)
の7位レチノイン酸誘導体、又はその塩。
【0012】
(2)また本発明は、下記(I1〜I4)
【化3】

から選択される7位レチノイン酸誘導体を獲得するための方法であって、当該誘導体を藻類から抽出する工程を含んでなる方法に関する。
【0013】
(3)また本発明は、前記7位レチノイン酸誘導体又はその塩を含んでなる医薬組成物、化粧組成物、食用組成物又は殺有害生物組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来のレチノイン酸及びその類似体と比較して光安定性が高く、且つ活性に優れた、新規なレチノイン酸誘導体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の7位レチノイン酸誘導体とオールトランスレチノイン酸(ATRA)とを比較したMS分析の結果を示す。
【図2】図2は、LC−TOF MS及びGC/MCの結果に対する、本発明の7位レチノイン酸誘導体の帰属を示す。これによりレチノイン酸の7位にヒドロキシル基が付加していることが示される。
【図3】図3は、本発明の7位レチノイン酸誘導体と、レチノイン酸(コントロール)の光安定性を比較した試験の結果を示す。初期の活性を100%とし、UVを照射した場合の残存活性の経時変化を示す。全てのpH条件(酸性、中性及びアルカリ性)で本発明の化合物がレチノイン酸より高い光安定性を有することが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で使用される、アルキル、アルケニル、アルキニル及びアシル基に関する「未置換又は置換された」なる用語は、これらの基が未置換であるか、または1個以上のハロゲン原子もしくは直鎖型もしくは分岐型の(C1−C16)アルコキシ基、ヒドロキシ、メルカプト、アルキルチオ、シアノ、(任意に、1もしくは2個の(C1−C6)アルキル基によって置換された)アミノ、ニトロ、カルボキシ、ホルミル、アルコキシカルボニル、(任意に、1または2個の直鎖型もしくは分岐型の(C1−C6)アルキル基によって置換された)アミノカルボニル、およびカルバモイル基によって置換されることを意味する。
【0017】
本発明で使用される「アルキル基」なる用語は、好ましくは直鎖型もしくは分岐型のアルキル基のことを言う。
【0018】
本発明で使用される「アルケニル基」なる用語は、好ましくは直鎖型もしくは分岐型のアルケニル基のことを言う。
【0019】
本発明で使用される「アルキニル基」なる用語は、好ましくは直鎖型もしくは分岐型のアルケニル基のことを言う。
【0020】
式(I)の化合物において、好ましくはR1は、−COOH、−CHO及び−CH2OHから選択される基である。より好ましくは、R1は−COOHである。
【0021】
好ましいXは、R5が、水素、−OH、−OR6(R6は前記の通りである)、メチル及びエチルから選択される。
【0022】
最も好ましいXは、
【化4】

から選択される。
【0023】
式(I)の7位レチノイン酸誘導体の中でも、下記の誘導体はより一層好ましい。
【化5】

【0024】
前記式(I1〜I4)の7位レチノイン酸誘導体は、当該4つの誘導体から選択される少なくとも2つからなる混合物として存在してもよい。好ましくは、4つの誘導体から選択される少なくとも3つからなる混合物であり、より好ましくは、4つの混合物として存在する。
【0025】
塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、ホスホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、樟脳酸、シュウ酸等の酸との塩がある。また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、第三ブチルアミン等の塩基との塩がある。
【0026】
式(I)に示される不飽和基の二重結合は概して全てがE配置を有するが、本発明は二重結合の全てまたは一部分のみがZ配置である式(I)の7位レチノイン酸誘導体、又はその塩にも関する。
【0027】
本発明で使用される「異性体」なる用語は、幾何異性体、光学的異性体又は互変異性体を意味する。本発明は、当該異性体及び互変異性体、及びそれらのあらゆる比率での混合物の全てを包含する。
【0028】
特定の理論に限定されるものではないが、本発明の新規な7位レチノイン酸誘導体は、7位がヒドロキシ化又はオキソ化されるため、従来のレチノイン酸及びレチノイン酸誘導体が有する共役系が遮断され、光安定性が向上していると考えられる。
【0029】
さらに、特定の理論に限定されるものではないが、本発明の新規な7位レチノイン酸誘導体は、互変異性を起こし、常に混合物として存在することで光安定性の向上に貢献する可能性もある。
【0030】
本発明の新規な7位レチノイン酸誘導体の製造方法において使用される藻類には、藍藻類、原核緑藻類、紅藻類、灰色藻類、クリプト藻類、渦鞭毛藻類、黄金色藻類、珪藻類、褐藻類、黄緑藻類、ハプト藻類、ラフィド藻類(緑色鞭藻類)、クロララクニオン藻類、ミドリムシ藻類、プラシノ藻類、緑藻類、車軸藻類などがあり、好ましくは、藍藻類が使用される。藍藻類の中で最も好ましいものは、スピルリナ(Spirulina sp)及びミクロキスティス・エルギノーサ(Microcystis aeruginosa)である。
【0031】
本発明で使用する藻類は、例えば国立環境研究所から入手可能であり、特にスピルリナ原末についてはDICライフテック株式会社等から市販されている。
【0032】
特に、スピルリナは増殖速度が非常に速い藍藻類であり、培養は、幅広い条件(pH 7〜10、温度 20〜30℃)で行うことができ、野外での培養も世界各国行われていることから、工業的利用に適する。前記新規な7位レチノイン酸誘導体は、このスピルリナ及びミクロキスティスから生産できるために、従来の合成法と比較して生産効率が高く、且つコストを抑えることができる。
【0033】
本発明の7位レチノイン酸誘導体を藻類から製造する場合、藻類を培養した後、遠心分離又はフィルター等を用いる濾過により培養物を回収し、脱水濃縮し、乾燥サンプルとする。当該乾燥サンプルから目的物を溶媒により抽出する。当該溶媒の例としては、水、アルコール、エーテル、石油エーテル、ベンゼン、酢酸エチル、クロロホルム等が挙げられる。好ましくは溶媒はアルコールであり、好ましくは、メタノール又はエタノールである。抽出物から溶媒を除去した後、残存物を適切な溶液に溶解させ、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)等により単離することにより、本発明の7位レチノイン酸誘導体を得ることができる。
【0034】
本発明の7位レチノイン酸誘導体は、有機化学合成によって得ることもできる。例えば、レチノイン酸メチルエステル(市販品であっても、当業者に既知の方法により作製してもよい)を、ジクロロホルム(DCM)中で酸化させることにより、7−オキソレチノイン酸メチルエステルを得ることができる。逆相HPLC等で分離精製後、必要に応じて還元することにより7−オキソレチノイン酸を得てもよい。
【0035】
本発明の7位レチノイン酸誘導体は、それ自身単独で、又は他の成分と組み合わせて使用することができる。好ましくは、当該7位レチノイン酸誘導体は、医薬組成物、化粧組成物、食用組成物又は殺有害生物組成物に配合して使用することができる。
【0036】
医薬組成物、化粧組成物又は食用組成物は、創傷、荒れ肌やきめの粗さ、肌のはりの低減、しわ、色素沈着などの乾燥、紫外線、活性酸素及び老化による皮膚障害、乾癬、苔癬、魚鱗癬、角化症、ダリエ症等の皮膚角化異常症、膿疱症、座瘡、湿疹、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患、脱毛症、口腔粘膜の損傷、歯周病等の口腔疾患、ドライアイ、網膜剥離、増殖性硝子体網膜症等の眼疾患、口腔乳頭腫、乳頭腫ウイルス関連疾患、消化器潰瘍等の腫瘍、カポジ肉腫等の悪性腫瘍、口腔白斑病、皮膚癌、乳癌、胃癌、白血病等の前癌症状、並びに癌、関節炎、大腸炎、腎炎等の炎症性疾患、紅斑性狼瘡、全身性エリスマトーデス、遅延型過敏症、臓器移植拒絶等の免疫性疾患、脂血症、アテローム性動脈硬化症等の循環器系疾患、子宮内膜過形成、良性前立腺肥大などの非悪性過増殖性疾患、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患、成長ホルモン分泌低下などの下垂体機能異常、アポトーシス調整異常などに関連する症状又は疾患を予防及び/又は治療するために使用することができる。前記疾患及び障害の予防及び/又は治療は、他の治療法、例えば、外科的療法、レーザー療法、化学療法、薬物療法等と組み合わせて行ってもよい。本発明の新規な7位レチノイン酸誘導体の具体的な適用例としては、例えば、化粧水、乳液、美容クリーム、美容液、化粧下地、ハンドクリーム、ファンデーション、仕上げ用パウダー、パック剤、マスク、貼付剤、洗顔料、クレンジング剤、日焼け止め、日焼け処置剤、ボディーソープ、リンス、シャンプー、育毛剤、養毛剤、整髪料、入浴剤、制汗剤、点眼剤、コンタクトレンズ装着液、洗口剤、健康食品、サプリメント、ビタミン剤、ドリンク剤等が挙げられる。剤型としては、錠剤、顆粒剤、粉末、トローチ、貼付剤、クリーム、溶液、エマルション、ゲル剤、軟膏、ゼリー剤、注射液等が挙げられる。
【0037】
殺有害生物組成物は、虫、ダニ、線虫及び軟体動物等の有害生物(以下、単に「有害生物」と言う)を防除及び駆除するために、有害生物及び有害生物の生育場所に施用して使用することができる。剤型としては、粉剤、粒剤、水和剤、水溶剤、乳剤、液剤、油剤、エアロゾル、マイクロカプセル剤、ペースト剤、くん煙剤、塗布剤、スプレー剤等が挙げられる。
【0038】
本発明の新規な7位レチノイン酸誘導体の他に、前記組成物に配合するものとしては、他の活性成分、賦形剤等がある。他の活性成分としては、ハイドロキノン、コエンザイムQ10、アスコルビン酸等が挙げられる。賦形剤としては、水、アルコール等の溶媒、界面活性剤、植物油、鉱物油等の油、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、保湿剤、分散剤、pH調整剤、紫外線防止剤、着色剤、香料等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。
【0040】
実施例1.化合物の製造(藻類からの抽出)
(1)原料
藍藻類である、スピルリナ(Spirulina sp.)(TU−3)(国立環境研究所から入手)及びミクロキスティス・エルギノーサ(Microcystis aeruginosa)(NIES−88)(国立環境研究所から入手)を用意した。
レチノイン酸(ATRA)は、Aldrich Chemicalsから入手した。
MA培地は、Ca(NO32・4H2O(5mg)、KNO3(10 mg)、NaNO3(5mg)、MgCl2・6H2O(5 mg)、Na2SO4(4 mg)、β-グリセロリン酸ナトリウム五水和物(10 mg)、Na2EDTA(0.5 mg)、FeCl3・6H2O(0.05 mg)、MnCl2・4H2O(0.5 mg)、ZnCl2(0.05 mg)、CoCl3・6H2O(0.5 mg)、Na2MoO4・2H2O(0.08 mg)、H3BO3(2 mg)、Bicine(50 mg)を、100 mlの蒸留水に溶解させて作製した(pH8.6)。
【0041】
(2)方法
1.培養
スピルリナ(TU−3)又はミクロキスティス・エルギノーサ(NIES−88)を、25℃、24mE/m2・sの条件下で4週間、MA培地において培養した。培養後、細胞を遠心分離及び凍結乾燥により回収した。当該凍結乾燥サンプルは、使用するまで−30℃で保存した。
2.抽出及び精製
前記乾燥サンプルにメタノールを加え、抽出物を得た。当該抽出物を、38℃、減圧下で乾燥させ、残存した固体をジクロロメタン(DCM)に懸濁した。当該懸濁物中の不溶性物質を、2,500 rpmで遠心分離することにより除去した。次に、フロリジルカートリッジ(60 gのフロリジル)にこの上清をアプライした。当該カートリッジを、200 mLのDCMで洗浄後、10%アセトン含有DCM及びメタノールを前記カートリッジにアプライし、メタノール溶出により溶出物を得た。この溶出液を蒸発させ、クロロホルムに再懸濁した。当該クロロホルム溶液を、シリカゲルカラムにアプライし、2%メタノール含有クロロホルムで溶出した。当該溶出液の溶媒を除去した後、残存物を、調製用HPLCに供した(カラム:Mightysil ODSカラム(i.d.20 x 250mm, 5mm)、移動相:メタノール含有の25%リン酸バッファ(50 mM, pH3.0)、流速:14 mL/分)。溶出プロファイルを、フォトダイオードアレイ検出器(DAD)(Agilent DAD)でモニターした。この結果、保持時間15〜25分の間に4つのピークが観察され、それぞれを分取した(溶液1〜4)。
【0042】
3.LC−MS/MSによる抽出化合物の分析
前記分取した各溶液(溶液1〜4)中のリン酸バッファを、スチレンポリマーカートリッジ(PS−1)を用いて除去した後、各溶液をLC/MS−MSで分析した。比較のために、ATRAを同様に処理し、分析した。
【0043】
LC/MS−MSは、HPLC(Agilent 1200)(カラム:Zorbax Eclipse Pluse C18 (i.d. 2.1 x 50 mm,1.8 mm)、グラジエント条件:0.2%酢酸及びメタノール、流速0.3 mL/分)及びAgilent 6520 Q−TOFからなるシステムを用いて分析した。MS条件は、イオン化:ESI;ネブライザー(Nebulizer) 50 psi(N2)、乾燥気体:10L/分、350℃(N2);Vcap:5000V、フラグメンター(Fragmentor):100V;スキャン(Scan):100〜1000 m/z; 計測回数/スキャン/:10,000;参照基準(References):121.0509及び922.0098 m/z;衝突エネルギー:15〜30 eVとした。
【0044】
HPLCでは保持時間3.7〜7.7分の間に4つのピークが現れた(化合物1〜4とする)。表1に化合物1〜4のMS分析の結果を示す。本分析において、溶液1〜4は全て同じ結果を示した。これは、本分析のための処理により、各溶液に含まれる化合物が互変異性化を起こし、4つの異性体の混合物となるためと考えられる。
【0045】
【表1】

【0046】
図1には、HPLCで得られた4番目のピークとATRAとを比較したMS分析の結果を示す。これにより、当該化合物の主要なフラグメントパターンは、ATRAのパターンと一致することがわかる。
【0047】
4.化合物の構造決定
4−1.化合物の水素化と分析
上記3で得られた化合物1〜4の混合物、及びパラジウム炭素(触媒)を、乾燥N2流下、乾燥メタノールに懸濁させた。分割したNaBH4粉末を、10分間隔で3時間、当該混合物に添加した。水素化の後、当該反応溶液を、38℃、減圧下で蒸発させた。残存物を水に再懸濁し、PS−1カートリッジアプライした。当該水素化化合物の一部をLC/MS−MSにより分析した。分析は上記3と同条件で行った。
【0048】
4−2.化合物のO−アセチルメチルエステル化と分析
前記水素化化合物の残部を当業者に周知の方法により、O−アセチルメチルエステルに変換した。これを、GC/MS分析に供した。
【0049】
GC/MS分析はJEOL JMS-700KII Mstationを用いて行った。GC条件は、カラム: DB-5MS (30mx 0.25mm I.D. Rf, 025mm);キャリア:He;流速:1.0 ml/分;注入温度:280℃;カラム温度:60℃ (2分保持)から280℃まで、速度8℃/分で温度上昇、とした。MS条件は、イオン化:EI;イオン化電流:200 mA;イオン化エネルギー: 38 eV; 加速電圧: 8.0 KV;Ion mult.: 1.0 KV; イオン源真空: 4 x 10-4 Pa;計測管真空: 1.0 x 10-5 Pa;チャンバー温度:200℃とした。
【0050】
4−3.結果
図2に帰属した結果を示す。この分析により、化合物1〜4は、7位にヒドロキシル基又はオキソ基が付加したレチノイン酸であることがわかった。これにより、化合物1〜4は、下記のケト−エノール互変異性体、及びシス−トランス異性体の4つのいずれかの構造を有することがわかった。
【0051】
【化6】

【0052】
5.各7位レチノイン酸誘導体のモル吸光係数の決定
5−1.LC/MSによる分析
前記化合物1〜4のフォトダイオードアレイ検出(DAD)による最大吸収波長(λmax)での面積比率と、MS分析による面積比率から、各化合物のモル吸光係数(ε)を決定した。
サンプルは化合物1〜4の混合物を用いた。LC/MS分析は、HPLC(Shimadzu LC10 Avp)(カラム:Zorbax Eclipse Pluse C18 (i.d. 2.1 x 50 mm,1.8 mm)、グラジエント条件:0.2%酢酸及びメタノール、流速0.3 mL/分)及び四重極型質量分析器(QMS)(Shimadzu LCMS 2010A)からなるシステムを用いて行った。MS条件は、イオン化:ESI;極性:ネガティブ;ネブライザー:1.5Lmin-1(N2);乾燥気体:0.1Mpa (N2);質量範囲(mass range)0.5スキャン/秒で180〜500 m/z;選択イオンモニタリング(SIM):315 m/z (M−H)-(7−ヒドロキシレチノイン酸)、299 m/z (M−H)- (レチノイン酸)とした。
【0053】
5−2.結果
結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
ATRAのλmax及びモルεは、それぞれ356nm及び45,000であることより、上記の結果から、表1の化合物1〜4の構造を以下の通り決定した。
【0056】
【表3】

【0057】
上記化合物1〜4の混合物は、スピルリナ及びミクロキスティス・エルギノーサの乾燥細胞50 gから、それぞれ3.5 g及び2.5 g作製することができた。
【0058】
実施例2.化合物の製造方法(合成)
レチノイン酸(東京化成工業)を三フッ化ホウ素14%を含むメタノールに溶解し、70℃、30分加熱する。反応液に水を加えてn−ヘキサンで抽出すると、メチルエステルが得られる。当該レチノイン酸メチルエステルを、ジクロロメタン中で二酸化マンガンを用いて酸化し、1−メチルエステル−7−オキソレチノイン酸を得る。これをHPLC(shimadzu LC6AD)(カラム:Mightysil ODS, 20mmφ x300 mmL、条件:移動相50 mM リン酸緩衝液(pH3.0)75%MeOH、流速 14mL/min)で分離する。得られる化合物は、1−メチルエステル−7−ヒドロキシレチノイン酸又は1−メチルエステル−7−オキソレチノイン酸の混合物となる。必要に応じて、メチルエステル部分をNaBH4で還元してもよい。
【0059】
実施例3.活性測定
方法
イースト・ツーハイブリッド・アッセイ(Yeast Two-Hybrid Assay)
イースト・ツーハイブリッド・レチノイン酸活性アッセイには、ヒトRA(レチノイン酸)受容体RAR又はRXR、及び活性化補助因子TIF2を誘導する、組み換え酵母細胞(サッカロマイセス・セルビサエ(Saccharomyces cervisae)T190)を用いた。化学発光性レポーター遺伝子としてβ−ガラクトシダーゼの遺伝子を用いた。β−ガラクトシダーゼの基質であるONPG(o−ニトロフェニル−β−ガラクトシド)を、β−ガラクトシダーゼが分解して黄色のo−ニトロフェノールを生成する。このサンプル中のo−ニトロフェノールを420nmの吸光度を測定することにより定量した。
【0060】
結果
当該化合物1〜4の混合物は、ATRAの活性の1/2であった。
【0061】
実施例4.光安定性試験
方法
本発明の化合物1〜4の混合物及びATRA(コントロール)を、濃度70 ng/mlの溶液とした。溶液はpH条件の異なる3種類を用意し、それぞれ10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有する、0.1%酢酸水溶液(pH3.3)、10 mM リン酸バッファ(pH7.4)及び0.1%トリエチルアミン水溶液(pH11.1)に溶解させることにより調製した。各溶液(0.2 ml)を、Pyrex試験管に移し窒素ガス流を流し込んだ。テフロン(登録商標)ライニングねじ付キャップで密閉後、当該試験管を蛍光灯下60分暴露させた。紫外線強度計(UVR−300, Topcon)で測定したUV−Aエネルギーは、暴露容器表面で1.0μW/cm2であった。暴露後すぐに、暴露したサンプルのRARアゴニスト活性を、イースト・ツーハイブリッド・アッセイを用いて評価した。
【0062】
結果
光安定性試験の結果を図3に示す。本発明の化合物1〜4の混合物は、pH 11.1の溶液中、60分蛍光灯暴露後の残存活性が75%であったのに対して、同条件でのATRA(コントロール)の残存活性は29%であった。残存活性はpHに依存するが、全てのpH条件において、本発明の化合物1〜4の混合物はATRAより高い残存活性を示した。
【0063】
実施例5.処方例
以下の組成の美白用ゲルを作製した。
【0064】
【表4】

【0065】
以下の組成の美白用液体を作製した。
【0066】
【表5】

【0067】
以下の組成の錠剤を作製した。
【0068】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、
1は、−COOH、COOR2、−CONHR2、−CONR23、−CHO、−CH2OH、及び−CH2OR4からなる群から選択され、
2及びR3は、各々独立に、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC1−C16アルキル基、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルケニル基、又は直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルキニル基であり、
4は、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC1−C16アルキル基、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルケニル基、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルキニル基、又は直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アシル基であり、
Xは、以下の
【化2】

からなる群から選択され、
5は、同一でも異なってもよく、各々独立に、水素、−OH、−OR6、C1−C6アルキル、C2−C6アルケニル、C2−C6アルキニルであり、
nは、1〜3の整数であり、
6は、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC1−C16アルキル基、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルケニル基、直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アルキニル基、又は直鎖型又は分岐型の未置換又は置換されたC2−C16アシル基であり、
Xのシクロヘキセン環は、当該環の3位と4位、又は4位と5位の間に二重結合を形成してもよい)
の7位レチノイン酸誘導体、又はその塩。
【請求項2】
1が、−COOH、−CHO及び−CH2OHから選択される基である、請求項1に記載の7位レチノイン酸誘導体、又はその塩。
【請求項3】
5が、水素、−OH、−OR6(R6は請求項1に定義の通りである)、メチル及びエチルから選択される、請求項1又は2に記載の7位レチノイン酸誘導体、又はその塩。
【請求項4】
Xが、
【化3】

から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の7位レチノイン酸誘導体、又はその塩。
【請求項5】
式(I)の7位レチノイン酸誘導体が、
【化4】

から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の7位レチノイン酸誘導体。
【請求項6】
下記(I1〜I4)
【化5】

から選択される7位レチノイン酸誘導体を獲得するための方法であって、当該誘導体を藻類から抽出する工程を含んでなる方法。
【請求項7】
前記7位レチノイン酸誘導体が、式I1〜I4から選択される少なくとも2つの混合物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記藻類が、スピルリナ(Spirulina sp.)又はミクロキスティス(Microcystis sp.)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の7位レチノイン酸誘導体又はその塩を含んでなる医薬組成物、化粧組成物、食用組成物又は殺有害生物組成物。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−251942(P2011−251942A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127155(P2010−127155)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(510154039)株式会社新産業創造研究所 (3)
【Fターム(参考)】