説明

CADASILに関与する遺伝子、診断方法および治療への適用

【課題】神経障害、特にCADASILに対する素因の診断と治療を可能にする、CANDASILにおけるNotch3タンパク質、及びNotch3タンパク質をコードする核酸を提供する。
【解決手段】ヒトNotch3タンパク質をコードする塩基配列およびその対立遺伝子変異体、これらのタンパク質の断片をコードし、かつ、少なくとも10塩基を有する特定の塩基配列、ヒトNotch3ゲノム配列およびその対立遺伝子、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を示す特定の塩基配列、少なくとも10塩基を有する特定の塩基配列またはの断片、特定の塩基配列とハイブリダイズする塩基配列から選択される単離核酸。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
技術分野
本発明は、特にある神経障害、特にCADASILに対する素因の診断を可能にする、CANDASILにおけるNotch3タンパク質の関与の証明、ならびにこの種の病状に関して可能な治療法を試験することを可能にするモデルに関する。
【0002】
背景技術
CADASIL、すなわち「皮質下梗塞および白質脳障害を伴う大脳常染色体優性動脈症」は最近、拡散する大脳白質の異常性を客観化するMRI画像に関連して、その主要な特徴が、常習性皮質下梗塞、片頭痛および血管性痴呆を含む大脳発作の、あるいは痴呆の原因として確認された。
【0003】
病理解剖実験では、複数の小さな深部大脳梗塞、白質脳障害、ならびに特に小脳動脈に関与する非アテローム動脈硬化性血管障害および非アミロイド血管障害が示されている。
【0004】
その名称が示すように、CADASHILは優性常染色体の特性を有する遺伝病である。さらなる情報は、特にH. Chabriat et al., The Lancet, Vol. 346, 7 October 1995のCADASHILの臨床範囲に関する研究に見出せるであろう。
【0005】
この高度障害をきたし、かつ、しばしば死に至る疾病はおそらくは、これまでにはそれ自体、大部分が診断未確定のままであり;1993年以来、約100家族の研究が、非常にしばしば患者に誤った診断(多発性硬化症、アルツハイマー病など)を与えてきたことを示している。最新の研究は、それがその発見中に考えられていたものよりもずっと広く拡がった症状であることを証明する傾向にある。
【0006】
目下のところ追跡されている研究は、特に、可能性ある代替治療法を開発する、遺伝子操作によって提供されるモデルおよび可能性によってこの疾病の診断手段を確定するという目的を有するものである。CADASHILに関与する遺伝子は、第19染色体に位置しており、細かい位置推定は、特に同発明者による2つの特許出願に記載されている。
【0007】
今般、CADASHILに関与する遺伝子をNotch3遺伝子と同定することができた。
【0008】
CADASHILにおけるNotch3の関与を証明することは、特に問題の特許出願に記載されている先の限定を与えられることを可能にし、それは第一の区域(サイズ14cM)はD19S221-D19S215(第一の特許出願)であり、第二の区域(サイズ2cM)はD19S226-D19S199(第二の特許出願)であった。この注目する領域をBACおよびYACコンティグ(連続ヌクレオチド配列)へクローン化し、次いでその大きさを800kbと評価した。制限酵素の助けを用いたこの領域の解析では、NotI、BagIおよびSacII部位が極めて高密度にあるいことが示され、多数の遺伝子の存在が示唆された。cDNAを選択することにより同定された多数の転写物のうち、1つの転写物で、マウス遺伝子Nothc3のコーディング5'末端に位置する配列との極めて高い一致が示された。他の解析因子もこの位置におけるこのNotch3遺伝子の存在を確証させるものと思われるので、後者は注目する区域内のその位置により、好適な候補遺伝子であるとみなされた。
【0009】
既知のCADASHIL家族について行った健常者との比較における比較研究により、大多数のCADASHIL患者においてこのNotch3遺伝子の突然変異が確認できたが、このような突然変異は解析した健常者では認められなかった。最終的に、これらの突然変異の、罹患家族内の疾病表現型との同時分離が証明されたので、CADASHILにおけるNotch3遺伝子の関与が明らかになった。
【0010】
観察された総ての点突然変異が、このタンパク質のEGFドメインの1つにシステインの創出または消失をもたらす。これらの突然変異は第一の6EGF中にそれらの大部分のクラスターを有している。この突然変異体のクラスターは、特にこれら突然変異の「配列決定」検索のための診断的観点から確かに重要である。
【0011】
さらに、これら総ての突然変異は、通常存在する6個のシステインの代わりに、EGFの1つにシステイン数の付加の存在(システイン7個、または5個のいずれか)をもたらす。かくして、これらの突然変異は、分子内または分子間いずれかの異常なジスルフィド結合を形成する結果となる(この場合、ホモまたはヘテロ二量体が形成)。
【0012】
正常または異常な二量体化の受容体機能における役割、特にそれらの活性化における役割はよく知られていない。
【0013】
Notch遺伝子は随分前から、特にショウジョウバエで知られており、それらの同等物が脊椎動物、特にマウスで知られている。その英名「notch」は、この遺伝子の突然変異のいくつかがハエのハネに刻み目(notch)を生じさせることに由来する。Spyros Artavanis-Tskanas et al.,Science 268, 225 (1995)、ならびにそれが含む参考文献は、特にショウジョウバエにおいて、Notchタンパク質は発達中の細胞の運命の明確化に必須の関与をしているが、そのタンパク質は成体器官では常に発現しているとは限らず、後者におけるその機能はまだわかっていないことを示している。より厳密には、Notch3遺伝子の産物、以下「Notch3タンパク質」は、細胞内事象のカスケードを制御する細胞受容体であり、その突然変異は必然的にこのカスケードに多少なりとも混乱をもたらし、これが他の多くの神経障害、特に大脳血管障害をもたらす可能性がある。
【0014】
後に続く本文中に特に神経障害、特に大脳血管型の障害、さらに特にはCADASHILが注目されるが、Notch3遺伝子の産物に対して細胞受容体の機能が与えられ、この受容体の損傷が種々のリガンドばかりか、この変換カスケードに関与する種々のパートナーとの相互作用の混乱をももたらす可能性があることを思い起こすべきである。さらに、Notch3タンパク質がまだ証明されていない他の機能を有するかもしれないという事実が考慮されるべきである。かかかる状況の下、CADASHILと類似性を示す条件もまた、Notch3遺伝子における突然変異の場合に関与するという可能性が高い。
【0015】
関連疾病の中では、散発型のCADASHIL、すなわち、家族履歴なく新たな突然変異に従って生じるものが述べられてもよい。さらにNotch3は、種々の群に分類され得る他の症状にも関与する可能性がある。
【0016】
片頭痛および片麻痺性片頭痛
家族性片麻痺性片頭痛(FHM)に関与する少なくとも1つの遺伝子である、前兆を伴う優性常染色体型の片頭痛は、第19染色体のCADASHIL遺伝子と同じ領域に位置していた。大脳血管の偶発症候および血管性痴呆の繰り返し着手により特徴づけられる症状であるCADASHILを患う患者の30%以上は、前兆を伴う片頭痛に苦しんでいることに着目すべきである。しかしながら、後者は集団の約5%にしか見られず;この観察が、この症状のメカニズムにおけるCADASHIL遺伝子の関与の試験に至った。片頭痛の前兆を伴う、あるいは伴わない形態におけるこの遺伝子の関与は、一般集団における前兆を伴う片頭痛と前兆を伴わない片頭痛の頻度のために、診断および治療上非常に興味深かった。
【0017】
他の血管(脳梗塞)および/または原因不明の痴呆
この群は神経医学、精神医学および内科の非常に多くの患者に相当し、この遺伝子シグナリング経路におけるNotch3またはパートナーは、前記理由のためにこれらの症状に関与する可能性があると考えることは総て理に適っている。
【0018】
家族性発作運動失調
この症状はFHMに関するものと同様である。この症状の原因である遺伝子も、第19染色体の同領域に位置しており、Notch3がこの症状に関与していると考えられる。
【0019】
さらに、この遺伝子突然変異は新生組織型の症状に関するものと同様、他の種でよく知られている発達異常の原因である。この遺伝子を含む領域の再配列を証明し得る奇形および/または新生組織症候群は、それらの生理病理学におけるこの遺伝子の関与についての検索のための主要な候補である可能性がある。
【0020】
これらの疾患は「Notch3受容体関連疾患」の名の下、分類され得る。
【0021】
ある場合においては、これは複遺伝子性起源を有する疾患を含み、ここではNotch3の修飾がその症状の兆候、または悪化の原因である可能性がある。
【発明の概要】
【0022】
本発明は第一に、
a)ヒトNotch3タンパク質をコードする配列およびその対立遺伝子変異体、
b)これらのタンパク質の断片をコードし、かつ、少なくとも10塩基を有する配列、c)ヒトNotch3ゲノム配列およびその対立遺伝子、
d)配列(a)および(c)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を示す配列、e)少なくとも10塩基を有する配列(c)または(d)の断片、
f)(a)〜(e)の配列とハイブリダイズする配列
から選択されることを特徴とする、単離核酸配列に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明の他の特徴ならびに利点は、添付の図面を参照しながら以下の実施例を読めば明らかになるであろう。ここで、
【図1A】図1Aは、ヒトNotch3のcDNA配列、ならびにそれに対応するタンパク質配列を示す。
【図1B】図1Bは、ヒトNotch3のcDNA配列、ならびにそれに対応するタンパク質配列を示す。
【図1C】図1Cは、ヒトNotch3のcDNA配列、ならびにそれに対応するタンパク質配列を示す。
【図1D】図1Dは、ヒトNotch3のcDNA配列、ならびにそれに対応するタンパク質配列を示す。
【図1E】図1Eは、ヒトNotch3のcDNA配列、ならびにそれに対応するタンパク質配列を示す。
【図1F】図1Fは、ヒトNotch3のcDNA配列、ならびにそれに対応するタンパク質配列を示す。
【図1G】図1Gは、ヒトNotch3のcDNA配列、ならびにそれに対応するタンパク質配列を示す。
【図1H】図1Hは、ヒトNotch3のcDNA配列、ならびにそれに対応するタンパク質配列を示す。
【図2】図2は、Notch3遺伝子産物ならびにマウスNotch3を用いてヒトcDNAクローンを配置することにより検出された突然変異の一般構造を示し、 A−34EFGドメイン、3個のNotch/Lin12反復および6個のcdc10反復、ならびにトランスメンブランドメインを有するマウスNotch3遺伝子、 B−上は、図1に対応する一致を有するヒトcDNAからなるB、 下は、少なくとも29個のエキソンからなるcDNAを有するいくつかのゲノム配列の配置、 種々の断片の起源は図4の下で明らかであり; 種々のクローンは商業的に、またはライブラリーを通じて入手可能であり; クローン261623;153875;149693は、IMAGE協会から入手可でき; クローンC-32b03は、GENEXPRESS(Genethon, Evry, France)から入手でき; クローンp28-20;CNA-20は、CLONTECHから入手できる。
【図3】図3は、CADASHILに関与する突然変異の状態および特性を模式的に示す。
【図4】図4は、左から右へ: 種々の脳組織の、 種々の成体器官の、 種々の胎児器官の「ノーザンブロット」解析(ノーザンブロットはヒトポリ(A)DNAのラインにつき2μgを含有)を示し; それらはp28-20、Notch3ヒト1.45kbcDNAプローブとハイブリダイズし;7.5〜9.5kbの転写物が肝臓を除く成体および胎児双方の総ての組織で検出され、該転写物は中央および右側の脳組織で弱く発現し; これに対して左側では、観察した組織の総ての転写物だけでなく、その存在が全く記載されておらず、非常に重要である可能性がある2.4〜1.3kbの転写物の存在が認められる。
【発明の具体的説明】
【0024】
本発明は、それらの自然の染色体環境における、すなわちいわゆる自然状態におけるゲノムヌクレオチド配列に関するものではなく;それらは単離された、すなわちいわゆる直接または間接的に、例えば、コピー(cDNA)、少なくとも部分的に修飾された環境により集められた配列であると認識されるべきである。
【0025】
このように、これはまた、それらを自然状態で有する配列とは少なくとも部分的に異なる配列により部分的に修飾されるか、または運ばれるcDNAおよびゲノムDNAの双方を含む。
【0026】
これらの配列はまた、「非天然の」記載され得る。
【0027】
「核酸配列」とは、修正されたヌクレオチドの正確な結合を示すか、またはそうでなければ核酸の断片、セグメントまたは領域を定義することを可能にする天然の単離された、または合成されたDNAおよび/またはRNA断片を意味すると理解される。
【0028】
タンパク質の「対立遺伝子変異体」とは、ヒトにおいて存在すると考えられる変異タンパク質および多型性の総てを意味すると理解され、これは特にアミノ酸残基の切断、置換、欠失または付加、ならびに人工変異体により得られる。
【0029】
本発明によれば、核酸配列断片は特にタンパク質ドメインをコードしてもよいし、あるいは、検出、同定または増幅方法においてプローブとしてまたはプライマーとして用いてもよい。これらの断片は最小10塩基の大きさを有し、20塩基の、好ましくは30塩基の断片が好ましい。
【0030】
本発明によれば、相同性とは単に統計学的なものであり;それは、その配列が少なくとも80%、好ましくは90%の共通のヌクレオチドを示すことを意味する。
【0031】
本発明によれば、ハイブリダイゼーション条件は、少なくとも95%の一致を保証することが可能である。
【0032】
さらに特には、本発明は
a)図1の配列のアミノ酸を含んでなるポリペプチドをコードする配列、
b)図1に相当する核酸配列、
c)少なくとも10塩基を含有する(a)または(b)の配列の断片、および
d)関連配列(a)、(b)または(c)と比較して最大20個の部分突然変異を含む配列
から選択されるヌクレオチド配列に関する。
【0033】
図1は、正常ゲノムについて配列決定したときのNotch3の配列を表す。
【0034】
この配列は、図3を用いて、互いに関連するそれらを配置させることが可能となる参照により同定される。
【0035】
(a)、(b)、(c)および(d)の特別な目印に関しては、前記目印を適用する。
【0036】
本発明はまた、これらの配列の断片、詳しくはNotch3タンパク質の活性総てまたは一部を保持しているポリペプチドをコードする配列に関する。
【0037】
特に有利な配列の中で、Notch3タンパク質ドメインまたはそのドメインの組み合わせをコードするもの、すなわち配列:
「EGF」反復
「Notch/lin12」反復
「cdc10/SW16」反復
またはトランスメンブラン配列が記載されてもよい。
【0038】
有利な配列の中には、特に、後に続く本文で記載される第二の転写物によりコードされる配列があり、該転写物は1.3〜2.4の間と評価される大きさを有する。
【0039】
これらの配列は、特にNotch3の構成を模式的に表す図2を参照して同定され得る。
【0040】
これらの部分配列は、以下に記載するように、多くの応用、特にNotch型または種々の種のタンパク質構築体を調製するためだけでなく、例えばNotch3リガンドに対するルアーまたはタンパク質に対するアゴニストとして働くと考えられる切断されたNotch様タンパク質を調製するために用いることができる。
【0041】
また、それらの内在作用に関するこれらタンパク質配列を用いて、このように、EGFドメインが他のタンパク質、特に他の受容体に存在することを認識することもでき;例えば、問題のEGF配列の他の適用に関するIain D. Campbell, Current Biology, 3:385-392 (1993)が参照される。
【0042】
記載されている配列は一般に正常な配列であるが、本発明はまた、それらが少なくとも1つの点突然変異、好ましくは総数で20より少ない突然変異を含む限りにおいては、変異した配列に関する。
【0043】
好ましくは本発明は、点突然変異がサイレントでない、すなわちそれらが適切な正常な配列をコードしたアミノ酸の修飾もたらすヌクレオチド配列に関する。さらにより好ましくは、これらの突然変異は、Notch3タンパク質またはこれに対応するそれらの断片、すなわち特にシステインを抑制するか、または対照的にそれらを出現させる突然変異だけでなく荷電部位の点か、あるいは疎水性部位の点かのいずれかでタンパク質の特性が変化している突然変異をも構成するアミノ酸に影響を及ぼす。
【0044】
本発明はまた、タンパク質の発現に効果を有すると考えられるヒトNotch3遺伝子のプロモーターおよび/または調節配列に生じ得る突然変異に関する。
【0045】
このような突然変異の例は後に続く本文中に記載される。
【0046】
概して本発明は、正常なNotch3および変異したNotch3タンパク質の双方、ならびにそれらの断片、さらにはこれに対応するDNAおよびRNA配列、すなわち対立遺伝子に関する。
【0047】
ヒト組織におけるこの遺伝子の発現に関するノーザンブロット研究で2種の転写物が明らかになったことに注目すべきである。1つは7.5〜9.5kbと評価される大きさを有し、試験した総ての組織に存在し;他方は1.3〜2.4kbの大きさで、中枢神経系のいくつかの部分でしか検出されない。本発明はこれら2種の転写物に関する。
【0048】
ヌクレオチド断片の中でも、Notch3遺伝子のイントロンゲノム配列、さらに詳しくは、特に表Aで示されたもののようなイントロンおよびエキソン間の結合配列が記載でき;最後に本発明は、前記ヌクレオチド配列から推定でき、かつ、PCR法などの増幅法に用いてそれらの検出を可能にする総てのプライマーであって、特に表Bに示されるものに関する。
【0049】
本発明はまた、非天然ヌクレオチド、特に例えば硫黄含有ヌクレオチドを含み得る、またはαまたはβ構造を有するヌクレオチド配列に関する。
【0050】
最後にもちろん本発明は、DNAおよびRNA配列の双方、ならびにこれに対応する二本鎖DNAに関する。
【0051】
いくつかの応用に関して以下で記載するように、複合構築体であるタンパク質/DNA/化学化合物、特に例えば挿入試薬の使用に関して提供することが必要であり;このような化合物も本発明の配列を含有するので、本特許に包含されると理解されるべきである。
【0052】
本発明はまた、非天然型、すなわち、それらがそれらの自然状態では得られず、天然源からの精製により得られるか、または以下に記載されるような遺伝子組換えにより得られる、前記配列に相当するポリペプチドまたはペプチドタンパク質に関する。
【0053】
本発明はまた、化学合成によって得られ、かつ、非天然アミノ酸を含有できる同ポリペプチドまたはタンパク質に関する。
【0054】
本発明は、このようにグリコシル化および非グリコシル化型の双方で得られ、かつ、天然の第三級構造を有してもよいし、そうでなくともよい組換えタンパク質に関する。
【0055】
特に本発明は、全受容体、特にそれらの細胞外ドメインに相当する該受容体の可溶性部分と同等の活性を発現すNotch3断片に関する。これらは特に、以下に記載されるように、治療においてルアーとして使用され得る。
【0056】
これらのクローニングベクターおよび発現ベクターは、宿主中の配列、特に該細胞内で効果的なプロモーター配列および調節配列の発現を確実にするエレメントを含んでよい(以下の参考文献を参照)。
【0057】
問題のベクターは自立的に複製してもよいし、あるいはその配列を宿主細胞の染色体へ確実に組み込むことを意図してもよい。
【0058】
自立的複製系の場合、原核宿主細胞か真核宿主細胞かにより、プラスミド型系かウイルス系が好適に用いられると考えられ、ウイルスベクターに関しては、特にアデノウイルス、ポックスウイルスまたはヘルペスウイルスであり得る。当業者ならば、これらのウイルスの各々に関して使用できる技術を知っている(以下の参考文献を参照)。
【0059】
宿主細胞の染色体への配列の組み込みが所望される場合には、組み換えを引き起こすために、組み込まれるヌクレオチド配列のいずれか末端に、宿主細胞から得た1以上の配列を提供することが必要となろう。これらはまた、先行技術において広く記載されている方法でもある。例えば、プラスミドまたはウイルス系の使用が可能であり;かかるウイルスとしては、例えばレトロウイルスまたはAAV(アデノ随伴ウイルス)が挙げられよう。
【0060】
本発明はまた、前記したようなベクターにより形質転換された原核または真核細胞に関し、これは、天然または変異Notch3タンパク質または、例えばそのサブユニットの1つの発現を引き起こすためのものである。
【0061】
前記に示したように、本発明はまた、このように形質転換した細胞を培養し、次いで、発現したタンパク質を回収することにより得られたタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに関し、ベクターを、例えば「リーダー」配列を介してタンパク質の放出が引き起こされるように設計した場合には、こうした回収を細胞内または細胞外で培地から行うことが可能であり、このようなタンパク質はプレタンパク質またはプレプロタンパク質型である。タンパク質を分泌させるこの構築体は、原核細胞系および真核細胞系双方において知られている。
【0062】
これらのタンパク質の産生のために使用できる細胞としては、細菌細胞はもちろんのこと、酵母細胞、ならびに動物細胞、特に哺乳類細胞培養物が記載されてよく、また、例えばバキュロウイルスを用いる昆虫細胞を用いる方法もまた用いられてよい(以下の参考文献を参照)。
【0063】
このようにして得られた細胞により、天然または変異Notch3タンパク質のみならず、これらタンパク質の断片、特に問題の異なるドメインに相当すると考えられるポリペプチドを作製することが可能となる。
【0064】
しかしながら、前記した形質転換細胞はまた、Notch遺伝子とその種々のリガンドと間の相互作用ならびに受容体の下流での生成物に対するその影響を検討するモデルとして用いてよいばかりでなく、特にこの受容体のアゴニストまたはアンタゴニストとして天然または変異Notch3受容体と相互作用する生成物の選択のための応用に用いられてもよい。
【0065】
この種の細胞モデルは遺伝子工学技術を用いて作製してよい。それは、使用が望まれる細胞種により正常型かまたは変異型かの、問題の遺伝子の発現ベクター中へのクローン化、それが自律的複製ベクターであろうと、組み込みベクターであろうと、問題の細胞内で遺伝子の発現させる総てのエレメントを含有するベクター、または問題の配列を発現させる総てのエレメントを有する後者を包含する。このようにして得られた、その特性を与えるNotch3タンパク質を発現する真核または原核細胞は、その微細構造が後に続く本文中に記載されるトランスメンブランタンパク質と同様の位置にあると考えられ、次いでこの細胞について、この細胞の培地に添加することにより、種々のリガンドとNotch3タンパク質の生成物との相互作用を同時に試験したり、Notch3遺伝子の生成物との相互作用が可能な合成化学生成物を試験することが可能となるモデルを構築することが可能となる。特に、問題の生成物はまた、アンタゴニストまたはアゴニスト活性のいずれかを有する生成物であることは注目すべきことである。
【0066】
医薬製品を試験するための細胞モデルの使用は十分公知であり;ここで再び、この種のモデルの詳細を提示する必要はない。
【0067】
この遺伝子の同定に関してもう1つ潜在する適用としては、このタンパク質に対する可能性あるリガンドを同定できるかもしれないということであり、なぜならそれらはヒトNotch3に伴う保存配列を有しているか、またはそれらがNotch3(アフィニティー法)またはこのシグナル経路のパートナーと相互作用するからである。これらモデルはin vitro型、例えばヒト細胞の培養物であってよく、通常の培養または、例えば所望の表現型を発現させるために形質転換された、ある種の血管のような、おそらくは単離器官の形態のいずれかであってよい。
【0068】
本発明はまた、ヒト起源の正常または変異Notch3に相当する表現型を発現する動物、特にマウスのような生物に関する。ここで再び、これらの動物をある種の医薬製品の効力を試験するモデル動物として使用してもよい。
【0069】
本発明はまた、前記の細胞モデルを用いて得られた生成物に関する。
【0070】
このようにして、決定された相互作用のタイプによって、有効成分としてプロNotch3活性を有する化合物を含むことを特徴とする治療用組成物が得られ;これは特に、前記されたようにポリペプチドの総てまたは一部、もしくはこれらと同じポリペプチドを発現するベクター、もしくはプロNotch3活性、Notch3様活性を有するか天然Notch3の産生を誘導する他の化学的または生物学的化合物であってもよい。
【0071】
有効成分が抗Notch3作用を有すると考えられる治療用組成物を証明することもまた可能であろう。
【0072】
これには、ここで再び、ルアーの役割を果たす前記の修飾タンパク質、または特にこれら抗体が変異した受容体を認識し、これらの条件下で正常な受容体の活性をブロックすることができる場合、抗Notch3抗体が含まれてよい。これにはまた、抗Notch3活性を有する化学物質またはNotch3アンタゴニストも含まれてよい。
【0073】
ある場合には、いくつかのNotch3ドメインの使用が、後者を天然リガンドに対するルアーとして働くと考えられる可溶性受容体を用いて変異させた場合、Notch3受容体活性を遮断する治療学上のアプローチを可能にするであろう;その他の場合には、完全な受容体を発現させることにより、タンパク質またはその断片のいずれかを直接用いて、または前記したベクターを用いて特に遺伝子療法を介して直接的にタンパク質を発現させる代替療法を提供することが可能であろう。
【0074】
遺伝子療法と関連して、「裸の」(naked)と前記された遺伝子またはcDNA配列の使用を提供することもまた可能であり;この技術は特にVical社により開発され、このような条件下で、ウイルスベクターの利用を特に必要とせず、ある組織内においてタンパク質を発現することが可能であることが示された。
【0075】
さらに遺伝子療法と関連して、当該技術の状況においても公知のとおり、ex vivoにおいて形質転換され、次いでそのまま、または類器官系でのいすれかで再移植される細胞の使用を提供することも可能である。決定された細胞種の標的化、細胞への浸透、または核への輸送を容易にする薬剤の使用を考えることも可能である。
【0076】
使用可能な多くの医薬化合物の中で、Notch3生成物のリガンドに加えて、正常または変異Notch3遺伝子と相互作用する、もしくはこれら遺伝子の調節または発現において相互作用するセンスまたはアンチセンス配列についてさらに詳細に記載すべきであり、この生成物はまた、Notch3受容体により誘導される発現生成物の下流で相互作用することも可能である。Notch3に相当する可溶性配列についてはさらに記載されるべきである。
【0077】
Notch3受容体、特に変異Notch3受容体をブロックし、次いで/またはこれに相当するリガンドおよび/または、それゆえにプロまたは抗活性を有すると考えられる該受容体により誘導される生成物をブロックするモノクローナル抗体も記載されるべきである。
【0078】
この、Notch3受容体に向けられるモノクローナル抗体は、認識されるエピトープに依存し、治療用組成物での使用を可能にするプロまたは抗Notch3活性を有する可能性があることを思い起こすべきである。
【0079】
最後に、本発明は前記したように、患者において、特にCADASIL型の、またはNotch3受容体に関連した疾病の神経症状に対する素因を診断する方法であって、患者由来の生物学的サンプルを用い、その遺伝子に相当する核酸配列の総てまたは一部を解析することにより、Notch3における突然変異の存在を決定し、少なくとも1種のかかる突然変異の存在がNotch3受容体が関連した神経症状または疾病に対する患者の素因の指標となることを特徴とする方法に関する。
【0080】
他の診断方法では、血管平滑筋細胞の基底膜において予期される沈着物、Notch3タンパク質自身またはその分割産物の1つからなると考えられる沈着物を、抗体により同定することが可能になる。
【0081】
所望の突然変異の中で、表Cおよび図3に参照された突然変異をより詳細に記載してもよい。
【0082】
核酸配列は、ゲノムDNA、cDNAまたはmRNAのいずれであってもよい。前記したように、Notch3受容体における異常性に関連する可能性がある特定の疾患のリストが従前に与えられているが、証明され得る神経障害のうち、特に、脳血管型の障害および特にCADASILが理解されており;これらの症状の中で、これまでのところまだ知られていない病因論の前兆および痴呆を伴う、または伴わない片頭痛におけるNotch3の関与の可能性がさらに詳細に記載されてよい。
【0083】
本発明に基づく診断手段は、隔離して抽出された患者における陽性診断および鑑別診断、または、妊娠の恐れのある患者における選択的前兆候診断(例えば家系履歴)を可能にすると考えられ、それはまた出産前の診断として考えることも可能である。
【0084】
加えて、特異的な突然変異の検出により発展的な診断も可能となる。
【0085】
天然の遺伝子に関する遺伝子における突然変異を証明することを可能にする方法は、もちろん、非常に多数あり;それらはゲノムDNA、cDNAおよび/またはタンパク質を研究することにより行われる。それらは本質的に2つの大きなカテゴリーに分類することができ、第一のタイプの方法は、変異した配列とそれに対応する変異していない天然配列を比較することによって、突然変異の存在を検出するものであり、第二のタイプの方法は、例えば、突然変異の存在による誤対合を検出することにより、突然変異の存在を間接的に検出するものである。
【0086】
両場合において、突然変異の検出に先立ち、Notch3に対応する配列の総てまたは一部を増幅させる方法が一般に好ましいと考えられ;これらの増幅方法はいわゆるPCR(以下の参考文献を参照)またはPCR類似法により行ってよい。PCR類似法とは、直接あるいは間接的な核酸配列の再生産を利用する、または標識系が増幅された、あらゆる方法を称すると理解され;これらの技術は十分い公知であり、一般にポリメラーゼによるDNAの増幅に関連しており;原サンプルがRNAであるとき、あらかじめ逆転写を行うことが望ましく;これまでに非常に多くの方法がこの増幅法、例えば、当業者に十分公知であるいわゆるNASBAおよびTMA法などを存在させることを可能にしてきた。
【0087】
表BはPCRプライマーの配列を示しており、それはPCR反応に関する温度と同様、エキソンの増幅を可能とするものである。
【0088】
配列の増幅に関する一般的な方法を実施例において記載する。
【0089】
点突然変異に関する試験
突然変異の直接配列決定の他、種々の方法を用いることができる。その技術を簡単に記載する:
1)「一本鎖構造多型現象」(Singl Strand Conformation Polymorphisms, SSCP) (以下の参考文献を参照)あるいは変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)に関する試験。2)誤対合領域の切断(S1ヌクレアーゼによる酵素的切断、ピペリジンまたは四酸化オスミウムなどの種々の化合物による化学的切断)に基づく方法。
3)電気泳動によるヘテロ二重らせんの検出。
4)対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)プローブのハイブリケーション (hybrication)での使用に基づく方法。
ハイブリケーション(hybrication)技術に基づく、十分公知である他も使用できる。
【0090】
欠失、逆位または重複型の再配列に関する試験
ゲノムプローブ、cDNAプローブ、オリゴヌクレオチドプローブ、リボプローブ、いわゆる捕捉プローブまたはいわゆる検出プローブを用いるハイブリダイゼーション技術に基づく十分公知である他の方法を、この種の再配列に関する試験に使用することができる。
【0091】
同一家系の数人の患者由来のDNAが入手可能である場合に使用できる、もう1つの診断アプローチは、連鎖解析の方法に基づくものであり、それは関連した家系に属する患者が、罹病遺伝子のキャリアーであろうとなかろうと、有している危険率を予測することを可能にする。この解析は遺伝子のすぐ近傍に位置する多型マーカーあるいは遺伝子内多型マーカーを用いて行うことができる。
【0092】
CADASIL家系における、Notch3遺伝子の突然変異の存在は、それをコードするタンパク質の機能に欠かせないアミノ酸を変化させる突然変異に相当する。
【0093】
さらに、実施例において、これまでに検出された突然変異の位置が示されるが、まだ検出されていないが、病理学的見地から同一のタイプの危険率をもたらすはずである他の突然変異がNotch3遺伝子に存在する可能性がある。
【0094】
いずれの場合においても、その変異Notch3タンパク質は天然タンパク質のそれとは異なる抗原性を示し得る。
【0095】
従って、Notch3に対する変異遺伝子の生成物を検出することにより、CADASIL型の神経障害、特に脳血管性障害およびNotch3受容体に関連した障害に対する感受性の診断あるいは予後を行うことが可能であり;この種の検出は、例えば、モノクロナールまたはポリクロナール抗体を用いて行うことができる。これらの状況下において、よく知られた方法、例えばRIAまたはELISAによってNotch3遺伝子の異常生成物を検出し、アッセイすることができ;これら公知の技術は、後に続く本文に先立ちこれ以上詳細には説明しない。もし皮膚の動脈に存在する沈着物が、Notch3タンパク質またはその切断生成物の1つに相当したとしても、正常タンパク質に対して向けられる抗体を用いることもできよう。
【0096】
本発明はまた、生物学的サンプルにおけるin vivoまたはex vivoで、結像試薬として働くように標識された、変異タンパク質の総てまたは一部に相当するモノクロナールまたはポリクロナール抗体に関する。
【0097】
このように、血管平滑筋細胞の基底に存在する顆粒塊が異常なタンパク質の集積によるものであることは明らかであり、抗体を用いたこのタンパク質に関する試験は、生検またはin vivoのいずれにおいても注目される診断となる。
【0098】
遺伝子生成物の検出に基づく方法
Notch3遺伝子の突然変異はこの遺伝子生成物の種々の修飾の原因である可能性があり、この修飾は診断上のアプローチのため用いることができる。便宜には、そのタンパク質は切断され、サイズが減じられ、またはなくなり;その特性、特にその抗原性が修飾され得る。正常タンパク質または変異体を認識するモノ-またはポリクロナール抗体の使用に基づく、いくつかの公知の方法を用い、かつ、タンパク質抽出物の、または細胞切片(例えば皮膚生検)の研究、あるいはin vivoでおこなわれる研究(PET-スキャン型イメージングなどにおいて検出できる分子と結合する抗体の助けを伴う結像)を用いる診断アプローチにおいて、これら総ての修飾を用いてよい。
【0099】
ポリクロナールまたはモノクロナール抗体は、前記したベクターにより形質転換させた原核また真核細胞から得ることのできるタンパク質またはポリペプチドからなる、免疫薬剤を用いたヒトまたは動物器官の免疫反応によって得られる。好ましくはその免疫薬剤は、Notchタンパク質の変異型の特異的ポリペプチドからなり、その配列は、図3または表Cに相当する突然変異から選択される、少なくとも1つの突然変異を含んでなるポリペプチド配列から選択される。
【0100】
本発明は最後に、特に前記したように、プロNotch3活性を有する化合物を有効成分として含有する治療用組成物、ならびに抗Notch3活性を有する化合物を有効成分として含有する治療用組成物に関する。
【実施例】
【0101】
実施例1
Notch3遺伝子の単離および解析のスキーム
最初に要約した転写物の、遺伝子の位置に関しての目印および解析の続き、ネズミcDNAプローブを用いて、ヒトNotch3遺伝子に対するcDNA、次いで配列がそれおよびネズミcDNA配列を用いて配置され得るゲノムクローンを単離した。
【0102】
配列に関するさらなる情報は、YAC(884gl)に対するcDNA選択によって得られるcDNA断片(884Na4)から、またBAC 13J4 NotI-HindIII断片のサブクローニングにより得られる2つのゲノム断片(J431NHおよびJ432NH)から得られた。
【0103】
総ての配列を用いての(dBest)データバンクの検索では、さらなるクローンの同定が可能であった(IMEGEクローン, Genexpress)。
【0104】
対応するネズミ遺伝子と高度に一致するヒトNotch3遺伝子のコーディング配列は図1に示されている。
【0105】
表Aは、遺伝子の構造を模式的に示し、その配列およびエキソン-イントロン結合部の位置を明記する。
【0106】
この表では、第一のエキソンは、その5'末端エキソン33同様、完全にはクローン化されていない配列に相当する。
【0107】
公知の選択的スプライシング現象にあてはまる選択的cDNAが存在する可能性があることに注目すべきである。
【0108】
この配列は34のEGFドメイン、3個のNotch/lin12反復、ならびに3個のcdc10アンキリン様反復を含む。ヒトおよびネズミタンパク質は、目下のところ利用できる配列に関して90.5%の相同性を示す。1.45kbのEGF様ドメインを含有する部分的ヒトcDNAプローブは、胎児組織ならびにヒト成人組織中に偏在する転写物を明らかにし、その大きさは7.5〜9.5kbの間であり、ネズミ転写物と同じである(図4)。
【0109】
このプローブは脳のある小区域にあるもう1つの転写物を明らかにし、その大きさは1.3〜2,4kbの間と評価される(図4)。
【0110】
実施例2
突然変異の研究
CADASILのNotch3遺伝子における突然変異の範囲を研究するため、まず、実質的なゲノムDNA再配列の存在の可能性を、酵素とNotch3プローブの種々の組み合わせを用いて研究した。
【0111】
徹底的な再配列はCADASIL患者では検出できず、それは次いで点突然変異が試験されるからである。
【0112】
このように、ゲノムDNAにおけるNotch3遺伝子の全コーディング配列の突然変異は、家族関係を持たない51人のCADASIL患者において、SSCP法とヘテロ二重らせん解析を併用して研究した。彼らのうち28人が第19染色体との関連性についての証拠が証明された家族に属し、33人が皮膚の小動脈壁の超微細構造領域を示す(血管平滑筋細胞の基底膜のおけるオスミウム酸親性顆粒の沈着の存在)。
【0113】
3つを除いては総てのスプライシング結合部が解析された。さらに、総ての患者についてエキソン4およびそのスプライシング部位のPCR産物の直接配列決定を行った。
【0114】
42人の患者(82%)では、対応する突然変異と矛盾のない障害が認められ、該突然変異は200の対照染色体いずれにおいても観察されていない。26人の患者については、関連した、影響を及ぼす、またはそうではない1以上を解析することができ、各場合において、突然変異がCADASIL表現型とともに分離したことが確認された。これらは29の異なる突然変異であり、うち20は初期に記載されている。それらは24のミスセンス突然変異を含み、これは40人の患者で出現し、この突然変異は(16)1つのアミノ酸が6個のシステイン残基のうち付加または変異システイン(8)の1つで置換しているはずであり、これがEGFドメインの鍵エレメントである。
【0115】
後者2人の患者における5'末端スプライシング部位での2つの突然変異は、通常、エキソン4のスプライシングに影響を及ぼすはずである。最後の3つの突然変異はミスセンス突然変異であり、3人の患者で前記の突然変異とともに同時に出現する。
【0116】
患者21は、EGF3のコドン141でアルギンからシステインへ変異し、かつ、EGF7のコドン288で保存されたグリシンからアラニンへ変異した2つの異なる億つ善変異を有している。この患者の家系図は入手できず;従ってこれら2つの突然変異の同時分離については研究できなかった。
【0117】
患者29は、アラニン182からシステインへ変異したEFG4における第一の突然変異と、cdc10ドメインにおける、高度に保存されたアラニン1852からトレオニンへ変異した第二の突然変異を有する。
【0118】
最後の患者55は、システイン(224)からトリプトファンへ変異した、かつ、保存されていないロイシン(497)からセリン残基へ変異した、EGFドメインにおける2つの異なる突然変異のキャリアーである。
【0119】
後者の3つのミスセンス突然変異は200個の対照染色体では検出されていないが、それらはシステイン残基を変異させる、または創出するミスセンス突然変異の存在をもまた与えるまれな多型性を含むと考えられる。
【0120】
これら病原性を有する26個の突然変異の大部分が、もっぱらEGF部分に存在することに注目すべきである。25人の患者に出現するこれら突然変異の41%(26のうち11)エキソン4に位置し、65%(26のうち17)は第6EGFドメインに存在する(特に図3を参照)。
【0121】
図3では、発見された主要な突然変異を同定するための検出ができ、選択された名称が突然変異ならびにこれに対応するタンパク質修飾の位置を示す。
【0122】
前記で示したように、Notch遺伝子が成人における神経障害に関与しているという事実は、Notchはショウジョウバエの発達中に関与することが主に知られているので、全く驚くべきことである。今のところどのCADASHIL家族も発達異常を示すまで調べ上げられてはいない。
【0123】
実施例3
SSCP法による患者の突然変異の検出
プライマーとして用いたオリゴヌクレオチドは、イントロン−エキソン結合配列(表B)から合成して、約200bpのゲノム断片を増幅させた。PCRプライマーの配列は以下に与えられている(表A)。
【0124】
解析は血液サンプルまたは他のいずれかの組織から抽出したDNAを用いて行うことができる。
【0125】
増幅反応は、100ngのゲノムDNA、0.5μmの各プライマー、150μlの4dNTPs混合物、Cetus製Taqポリメラーゼ1xPCR、1UのTaqポリメラーゼ(BRL)、P33で標識した1.5μCi αdCTPを含有する最終容量25μl中で、30回の同じサイクル(94℃、15秒;65℃、15秒;72℃、15秒)からなるプロトコールに従って行う。
【0126】
いくつかのプライマーについては、表Aに示したように、70℃の「アニーリング」温度を用いるべきである。
【0127】
PCR生成物は50%ホルムアミド中で変性させ、6%非変性ポリアクリルアミドゲルでの電気泳動により分離した。
【0128】
オートラジオグラフィーの後、異常な変異体の検索の際は、患者において得られたSSCPバンドを健康な対照のそれと比較する。それらの解析は診断のアプローチとして使用することができる。次いで必要であれば、これらの変異体の配列決定を行うことが可能である。
【0129】
表A
Notch3遺伝子のエキソン−イントロン構造(エキソン−イントロン結合部の配列および位置)
【表1】


【0130】
表B
Notch3遺伝子の突然変異のスクリーニングに用いたプライマーの配列
【表2】




【0131】
表C
CADASHIL患者におけるNotch3突然変異
【表3】


【0132】
前記した種々の方法に関する参考文献
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
Saiki et al., Science 239, p.487, 1988 + reference manual
【0133】
SSCP
Orita et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, P.2766-2770, 1989
【0134】
ミスマッチの証明に基づく突然変異の検出のための技術
化学切断
酵素切断(S1ヌクレアーゼ)
ヘテロ二重らせん
対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブ(ASO)
【0135】
参考文献
Cotton et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 4397, 1988
Sherk et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 72, 989, 1975
Cariello, Hum. Gnet., 42, 726, 1988
【0136】
クローニングベクターおよび基礎的な分子生物学技術
−Green Publishing Associates and Wiley Interscience, 1st edition 1987, John Wiley and sonsにより刊行のCurrent protocols in molecular biology, Eds F.M. Ausubel, R. Brent, R.E. Kingston, D.D. Moore, S.G. Seldman, J.A. Smith and K. Struhl
−Molecular cloning, A laboratory manual, J. Sambrook, EF Fritsch and T. Mariatia, 2nd edition, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ヒトNotch3タンパク質をコードする配列およびその対立遺伝子変異体、
b)このタンパク質の断片をコードし、かつ、少なくとも10塩基を有する配列、
c)ヒトNotch3ゲノム配列およびその対立遺伝子、
d)配列(a)および(c)と少なくとも90%の相同性を示す配列、
e)少なくとも10塩基を有する配列(c)または(d)の断片、
f)(a)〜(e)の配列とハイブリダイズする配列
から選択されることを特徴とする単離核酸配列。
【請求項2】
a)図1の配列のアミノ酸を含んでなるポリペプチドをコードする配列、
b)図1に相当する核酸配列、
c)少なくとも10塩基を含有する(a)または(b)の配列の断片、および
d)関連配列(a)、(b)または(c)に対して最大20個の点突然変異を含む配列
から選択されることを特徴とするヌクレオチド配列。
【請求項3】
表Cの突然変異からなる群より選択される少なくとも1種の突然変異を含んでなる、請求項1および2のいずれか1項に記載のヌクレオチド配列。
【請求項4】
少なくとも10塩基を含む、請求項3記載のヌクレオチド配列。
【請求項5】
配列が請求項4の配列から選択されることを特徴とする、特に対立遺伝子変異体に特異的なプライマーとして使用することができるヌクレオチド配列。
【請求項6】
特に、表Bに記載の配列およびそれらの相補的配列からなる核酸プライマーとして使用することができるヌクレオチド配列。
【請求項7】
配列が請求項4の配列から選択されることを特徴とする、特に対立遺伝子変異体に特異的なプローブとして使用することができるヌクレオチド配列。
【請求項8】
配列がNotch3ドメインの1つをコードする、請求項1記載のヌクレオチド配列。
【請求項9】
請求項1〜3および8のいずれか1項に記載の配列を含んでなることを特徴とする、ヌクレオチド配列の適切な宿主中でのクローンニングまたは発現用ベクター。
【請求項10】
該宿主中で該配列を発現させることが可能なエレメントを含んでなる、請求項9記載のベクター。
【請求項11】
自律的に複製するベクターである、請求項9および10のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項12】
染色体組み込みベクターである、請求項9および10のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項13】
ウイルスベクターである、請求項9および10のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項14】
ベクターがアデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルスまたはヘルペスウイルスに基づき作製される、請求項13記載のベクター。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1項に記載のベクターで形質転換した細胞。
【請求項16】
原核細胞である、請求項15記載の細胞。
【請求項17】
真核細胞である、請求項15記載の細胞。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか1項に記載の細胞を培養し、次いで産生されたタンパク質を回収する、請求項1および7の配列(a)〜(f)の1つに相当するタンパク質を生産する方法。
【請求項19】
請求項18記載の方法を用いて得ることができるタンパク質またはポリペプチド。
【請求項20】
可溶性タンパク質またはポリペプチドである、請求項19記載のタンパク質またはポリペプチド。
【請求項21】
配列が、表Cに相当する突然変異から選択される少なくとも1つの突然変異を含んでなるポリペプチド配列から選択される、請求項19記載のNotchタンパク質変異型に特異的なポリペプチド。
【請求項22】
プロ-Notch3活性を有する化合物を有効成分として含むことを特徴とする治療用組成物。
【請求項23】
プロ-Notch3活性を有する化合物が請求項19のタンパク質またはポリペプチドである、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
プロ-Notch3活性を有する化合物が請求項9〜14のいずれか1項に記載の発現ベクターである、請求項22記載の組成物。
【請求項25】
プロ-Notch3活性を有する化合物がNotch3の産生を誘導するセンス配列である、請求項22記載の組成物。
【請求項26】
プロ-Notch3活性を有する化合物がNotch3受容体のエピトープに対して向けられるモノクローナル抗体である、請求項22記載の組成物。
【請求項27】
抗Notch3活性を有する化合物を有効成分として含んでなることを特徴とする治療用組成物。
【請求項28】
有効成分が抗Notch3抗体である、請求項27記載の組成物。
【請求項29】
有効成分がNotch3の発現をブロックするアンチセンス配列である、請求項27記載の組成物。
【請求項30】
有効成分がNotch3に対応する可溶性配列である、請求項27記載の組成物。
【請求項31】
抗Notch3活性を有する化合物がNotch3受容体のエピトープに対して向けられるモノクローナル抗体である、請求項27記載の組成物。
【請求項32】
患者において、特にCADASHIL型の、またはNotch3受容体に関連した疾病の神経障害に対する素因を診断する方法であって、該患者由来の生物学的サンプルを用いて、該遺伝子に対応する核酸配列の総てまたは一部を解析することにより、Notch3遺伝子における突然変異の存在を測定し、少なくとも1種のかかる突然変異の存在が、該患者の神経障害またはNotch3受容体に関連した疾病に対する素因に指標となることを特徴とする方法。
【請求項33】
同定が求められる突然変異が表Cに記載の突然変異からなる群より選択される、請求項32記載の診断方法。
【請求項34】
解析される核酸配列がゲノムDNA、cDNAまたはmRNAである、請求項32および33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
解析がハイブリダイゼーションにより行われる、請求項32〜34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
突然変異の存在がそれに対応する変異していない天然の配列との比較により検出される、請求項32〜34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
対立遺伝子変異体に特異的な少なくとも1種のオリゴヌクレオチドプローブの助けによりハイブリダイゼーションを行う、請求項35記載の方法。
【請求項38】
配列決定により解析を行う、請求項32〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
電気泳動分離により、さらに特にはSSCPまたはDGGEにより解析を行う、請求項32〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
タンパク質の切断を検出することを意図した方法により解析を行う、請求項32〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
突然変異の検出に先立ち、Notch3遺伝子の核酸配列の総てまたは一部を増幅する、請求項32〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
PCRまたはPCR類似法により増幅を行う、請求項41記載の方法。
【請求項43】
増幅を行うために選択されたプライマーが請求項6に定義されたプライマーから選択される、請求項41および42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
いわゆる捕捉プローブおよび/またはいわゆる検出プローブ(これらプローブの少なくとも1つは請求項7記載のプローブである)を含んでなることを特徴とする、生物学的サンプルにおけるNotch3遺伝子の突然変異の検出および/または同定用試薬。
【請求項45】
変異したNotch3受容体の存在を患者由来の生物学的サンプルを用いて同定することを特徴とする、患者におけるCADASHILの神経症状またはNotch3受容体に関連した疾病に対する素因の診断方法。
【請求項46】
ELISAまたはRIA法により検出を行う、請求項45記載の方法。
【請求項47】
この受容体のアゴニストまたはアンタゴニストとして天然または変異Notch3受容体と相互作用する生成物の選択のための、請求項15〜17のいずれか1項に記載の細胞の適用。
【請求項48】
請求項47を用いて得られる生成物。
【請求項49】
請求項19〜21のいずれか1項に記載のタンパク質に対する抗体。
【請求項50】
ヒトまたは動物器官の、請求項19〜21のいずれか1項に記載のタンパク質またはポリペプチドからなる免疫剤との免疫反応によって得られることを特徴とする、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体。
【請求項51】
ヒトまたは動物器官の、請求項20に記載のポリペプチドからなる免疫剤との免疫反応によって得られることを特徴とする、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体。
【請求項52】
結像のために標識した抗体である、請求項49〜51のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項53】
請求項49〜52のいずれか1項に記載の少なくとも1種の抗体を反応物質として含んでなる、請求項45記載の診断方法を行うための試薬。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図1H】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−42012(P2010−42012A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230857(P2009−230857)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【分割の表示】特願平10−507675の分割
【原出願日】平成9年7月31日(1997.7.31)
【出願人】(500025477)アンスティテュ、ナショナル、ド、ラ、サント、エ、ド、ラ、ルシェルシュ、メディカル(アンセルム) (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA    RECHERCHE MEDICAL (INSERM)
【出願人】(500257447)
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE−HOPITAUX DE PARIS
【住所又は居所原語表記】3,avenue Victoria,F−75004 Paris,FRANCE
【Fターム(参考)】