説明

CMP研磨液用添加液及びCMP研磨液、基板の研磨方法、並びに電子部品

【課題】研磨後の基板の表面に、有機残渣が生じることの少ないCMP研磨液用添加液を提供するものである。また、欠陥の発生数を低減できることが可能なCMP研磨液を提供し、半導体デバイス生産のスループットを向上させることを目的とする。
【解決手段】アルコール類及びフェノール類からなる群から選択される少なくとも1種の有機残渣抑制剤と、含有率が0.1質量%以上であるポリカルボン酸と、水と、を含有するCMP研磨液用添加液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CMP研磨液用添加液及びCMP研磨液、基板の研磨方法、並びに研磨された基板を用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造の分野では、超LSIデバイスの高性能化に伴い、従来の延長線上の微細化技術では高集積化・高速化を両立することは限界になり、半導体素子の微細化も進めつつ、垂直方向にも高集積化(配線の多層化)する技術が開発されている。
【0003】
このような多層配線を進めるプロセスにおいて、最も重要な技術の一つにCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)技術がある。多層配線化では、リソグラフィの焦点深度を確保するために一層毎にデバイスを平坦化することが不可欠である。これは、基板の表面に凹凸がある場合、露光工程焦点合わせが不可能であったり、微細配線構造を形成できないからである。
【0004】
このようなCMP工程は、素子分離構造を形成した後に埋め込むプラズマ酸化膜(BPSG・HDP−SiO・p−TEOS)・層間絶縁膜等の酸化ケイ素膜や、金属配線埋め込み後のAl・Cuプラグ平坦化にも適用され、今や半導体製造には欠かせない技術である。
【0005】
このような半導体の高平坦化に必要なCMP研磨液は、シャロー・トレンチ分離(STI)工程で酸化ケイ素膜を高速に研磨し、窒化ケイ素膜を低速に研磨出来る特徴を有するCMP研磨液や、銅やアルミニウム等の金属配線層、金属配線層の下に設けられるバリア層等を研磨するためのメタル配線研磨用CMP研磨液等が知られている。
【0006】
前記STI用のCMP研磨液としては、種々のものが知られているが、凹凸を有する基板を研磨して高い平坦性を有する基板を得るために、砥粒、分散剤及び水を含むスラリーに、ポリアクリル酸等の水溶性高分子化合物及び水を含む添加液を添加するCMP研磨液が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
ところで、CMP工程では、微細化技術の進展と共に、研磨後の表面に生じる欠陥数の少ないCMP研磨液が強く求められている。このような欠陥としては、代表的なものに研磨傷がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3649279号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のような、砥粒、分散剤及び水を含むスラリーに、水溶性高分子化合物及び水を含む添加液を添加して得られるCMP研磨液を用いて基板の研磨を行うと、研磨後の基板の表面に有機物の残渣が付着する場合がある。このような有機残渣は、半導体生産プロセス上問題となるのみならず、上述の研磨傷の発生原因となるおそれもあった。従来、有機残渣は、研磨後に基板の表面を洗浄して除去してきたが、洗浄に時間がかかったり、洗浄しきれなかったりする等の実情があった。この有機残渣は、場合によっては、多く発生することもあるが、これまでその原因については充分に明らかにされていない。
【0010】
本発明は、前記のような課題を解決しようとするものであり、研磨後の基板の表面に、有機残渣が生じることの少ないCMP研磨液及びそれに用いるCMP研磨液用添加液を提供するものである。また、これによって、欠陥の発生数を低減することが可能な基板の研磨方法を提供し、半導体デバイス生産のスループットを向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題に対して種々検討を行った結果、有機残渣の発生する原因は、主にCMP研磨液の調製に用いる添加液にあり、特に水溶性高分子化合物を含む添加液を使用した場合では、有機残渣が発生しやすいことを見いだした。そして、添加液中にアルコール類等からなる有機残渣抑制剤を含ませることによって、前記有機残渣の発生を劇的に改善できることを見いだした。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
<1> アルコール類及びフェノール類からなる群から選択される少なくとも1種の有機残渣抑制剤と、含有率が0.1質量%以上であるポリカルボン酸と、水と、を含有するCMP研磨液用添加液である。
このようなCMP研磨液用添加液によれば、該CMP研磨液用添加液をスラリーとともに混合して得られるCMP研磨液で基板を研磨した後に、基板の表面に有機残渣が発生することを抑制できる。
【0013】
<2> CMP研磨液用添加液総質量中の前記有機残渣抑制剤の含有率が0.1質量%以上30質量%以下である<1>に記載のCMP研磨液用添加液である。
これにより、より効果的に有機残渣の発生を抑制できる。
【0014】
<3> 上記アルコール類が、モノアルコール及びジオールから選択される少なくとも1種である、<1>又は<2>に記載のCMP研磨液用添加液である。
これにより、より効果的に有機残渣の発生を抑制でき、洗浄過程の短縮や、洗浄液の節約、研磨対象である半導体の歩留(収率)を向上させることができる。
【0015】
<4> 上記アルコール類が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール及びイソブタノールからなる群より選択される少なくとも1種のモノアルコールを含む<1>〜<3>のいずれか1つに記載のCMP研磨液用添加液である。
【0016】
<5> 上記アルコール類が、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、3,5−ヘキサンジオール及びジエチレングリコールからなる群より選択される1種以上のジオールを含む<1>〜<3>のいずれか1つに記載のCMP研磨液用添加液である。
これらのアルコール類を含むことにより、より効果的に有機残渣の発生を抑制でき、洗浄過程の短縮や、洗浄液の節約、研磨対象である半導体の歩留(収率)を向上させることができる。
【0017】
<6> 上記フェノール類が、フェノール及びカテコールから選択される少なくとも1種のフェノール類を含む<1>〜<3>のいずれか1つに記載のCMP研磨液用添加液である。
【0018】
<7> 砥粒及び水を含むスラリーと、<1>〜<6>のいずれか1つに記載のCMP研磨液用添加液と、を含むCMP研磨液である。
【0019】
<8> 基板の少なくとも一方の表面に形成された被研磨膜と研磨定盤上の研磨布との間に、<7>に記載のCMP研磨液を供給しながら、前記基板と前記研磨定盤とを相対的に動かして、前記被研磨膜の少なくとも一部を研磨する基板の研磨方法である。
このような方法によれば、研磨後の基板に有機残渣が生じるのを抑制できる。
【0020】
<9> <8>に記載の研磨方法で研磨された基板を用いた電子部品である。
このような電子部品によれば、研磨後の基板に有機残渣が生じるのが抑制されているため、信頼性に優れた電子部品を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、研磨後の基板の表面に、有機残渣が生じることの少ないCMP研磨液及びそれに用いるCMP研磨液用添加液を提供することができる。また、これによって、欠陥の発生数を低減することが可能な基板の研磨方法を提供することができ、半導体デバイス生産のスループットの向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。 また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。 更に本明細書においてCMP研磨液用添加液中又はCMP研磨液中の各成分の量について言及する場合、各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、CMP研磨液用添加液中又はCMP研磨液中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0023】
以下、本発明のCMP研磨液用添加液(以下、単に「添加液」ともいう。)及びCMP研磨液、これを用いた基板の研磨方法(以下、単に「研磨方法」ともいう。)並びに研磨された基板を用いた電子部品の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0024】
1)CMP研磨液用添加液
本発明のCMP研磨液用添加液(前記添加液)は、砥粒及び水を含むスラリーと混合されてCMP研磨液とするための添加液であって、アルコール類及びフェノール類からなる群から選択される少なくとも1種(以下、アルコール類及びフェノール類を合せて単に「アルコール類等」ともいう。)の有機残渣抑制剤と、前記添加液総質量中の含有率が0.1質量%以上のポリカルボン酸の少なくとも1種と、水と、を含有する。前記添加液は、後述する砥粒及び水を含むスラリーと混合して得られるCMP研磨液において、有機残渣低減効果を有する。
【0025】
前記添加液は、後述するCMP研磨液に含有されることにより、研磨後の基板の表面に有機残渣が発生することを抑制できる。これは、例えば以下のように考えられる。
研磨後の基板に有機残渣が発生する原因は種々考えられるが、その一つとして、CMP研磨液中に存在する有機物成分の影響があると推測される。前記有機物成分に由来する有機残渣は、通常のCMP研磨では除去されず、研磨後も基板表面に残存する。これに対して、前記アルコール類等の水溶液を該有機物成分に作用させると、前記有機物成分の溶解性が高まり、前記有機物成分を消失又は減少させことが出来る。有機物成分として、例えば細菌やバクテリアなどがCMP研磨液中に存在する可能性もあり、この場合、前記添加液は殺菌効果を発揮すると考えられる。これにより、有機残渣の発生が低減すると推測される。
【0026】
1−1)有機残渣抑制剤
前記添加液は、前記有機残渣抑制剤の少なくとも1種を含む。これにより、基板表面の有機残渣の発生をより効果的に抑制できる。前記有機残渣抑制剤は、水溶性且つ、後述するCMP研磨液中に存在する有機物成分に対する溶解性を示し、基板との反応性が低いものであればよい。研磨対象や後述のスラリーの種類などに応じて適宜選択されればよい。
【0027】
前記アルコール類としては、モノアルコール及びジオールから選択される少なくとも1種であることが好ましい。これにより、より効果的に有機残渣の発生を抑制でき、洗浄過程の短縮や、洗浄液の節約、研磨対象である半導体の歩留(収率)を向上させることができる。これらは、単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
前記モノアルコールとしては、炭素数1〜4のアルコールが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノールからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。中でも、有機残渣の発生抑制効果の観点から、エタノール、イソプロパノール、プロパノールがより好ましい。
【0029】
前記ジオールとしては、炭素数2〜6のジアルコールが好ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、3,5−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等が挙げられる。中でも、有機残渣の発生抑制効果の観点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオールが好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコールがより好ましい。
【0030】
前記フェノール類としては、例えば、フェノール、カテコール、チモール、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。これにより、より効果的に有機残渣の発生を抑制でき、洗浄過程の短縮や、洗浄液の節約、研磨対象である半導体の歩留(収率)を向上させることができる。中でも、有機残渣の発生抑制効果の観点から、フェノール、チモール、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、が好ましく、チモール、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸がより好ましい。
【0031】
前記有機残渣抑制剤の含有率は、特に制限はないが、例えば前記添加液総質量中の0.1質量%以上30質量%以下の範囲とされることが好ましい。この範囲であれば、有機残渣の低減により有効である。また、有機残渣の原因の一つと考えられるCMP研磨液中に存在する有機物成分に対する溶解性の点では、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、0.9質量%以上が特に好ましい。また、アルコールの揮発を抑制し、CMP研磨液の組成を安定させる観点では、10質量%以下がより好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
【0032】
1−2)ポリカルボン酸
前記添加液は、所定の含有率のポリカルボン酸の少なくとも1種を含む。前記ポリカルボン酸は、凹凸のある基板を研磨した際に、凸部を優先的に研磨し、研磨後の基板の表面を平坦にする機能を有する。ただし、ポリカルボン酸の作用はこれに限定されるものではない。前記ポリカルボン酸及び前記有機残渣抑制剤を含む前記添加液と、後述するスラリーとを混合して得られるCMP研磨液を用いることにより、研磨後の基板表面の有機残渣の発生を抑制することができる。本発明において、ポリカルボン酸とは、不飽和二重結合等の重合性置換基を有するカルボン酸を重合又は共重合してなる高分子化合物として定義される。
【0033】
前記ポリカルボン酸は、重合性置換基を有するカルボン酸のホモポリマーでも、2種以上の重合性基を有するカルボン酸の共重合体でもよく、さらに前記重合性置換基を有するカルボン酸と他の不飽和二重結合を有する単量体との共重合体でもよい。また、前記ポリカルボン酸は、アンモニウム塩やアミン塩等の塩であってもよい。これらは、1種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。前記重合性置換基を有するカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。中でも、アクリル酸、メタクリル酸がより好ましい。
【0034】
また、前記ポリカルボン酸としては、例えば、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アンモニウム塩、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリ(p−スチレンカルボン酸)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム塩、等のポリカルボン酸及びその塩が挙げられる。
【0035】
前記ポリカルボン酸の重量平均分子量は、特に制限はない。具体的には、2,000〜500,000であることが好ましく、2,000〜50,000であることがより好ましい。前記ポリカルボン酸の重量平均分子量は、2,000以上であると均一な研磨特性を発現し、50,000以下であればポリカルボン酸の砥粒と基板表面に対する均一な吸着を得ることができる。前記ポリカルボン酸の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0036】
前記ポリカルボン酸の含有率は、前記添加液総質量中の0.1質量%以上とされる。0.1質量%未満では、研磨後の基板の表面を良好に平坦化することが困難である。前記ポリカルボン酸の含有率の上限値は後述するスラリーとの混合比率や希釈率等に応じて適宜選定すればよいが、上記範囲で含有率が高くなるほど、有機残渣の量が多くなる傾向がある。このため、前記添加液総質量中の30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。前記ポリカルボン酸の含有率は、基板表面の凸部の研磨効果、平坦化効果向上の観点から、前記添加液総質量中の0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましい。
【0037】
1−3)水
前記水は、特に制限されるものではないが、純水を好ましく用いることができる。水は前記添加液の組成中、残部として配合されていればよく、含有率は特に制限はない。前記添加液は、後述のように砥粒及び水を含むスラリーと混合してCMP研磨液を得るために使用される。
【0038】
2)CMP研磨液
前記CMP研磨液は、砥粒の少なくとも1種と、水と、前記CMP研磨液用添加液とを含有する。前記CMP研磨液を後述する基板の研磨方法に用いることにより、研磨後の基板の表面に有機残渣が発生することを抑制できる。
【0039】
2−1)砥粒
前記砥粒は、特に制限はないが、セリウム系砥粒、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、ムライト、ゲルマニア及びこれらの変性物、窒化ケイ素、α−サイアロン、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素等の無機物研磨粒子、ポリスチレン、ポリアクリル、ポリ塩化ビニル等の有機物研磨粒子、の群から選択される少なくとも1種の粒子化合物から選択することができる。前記変性物としては、セリア、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ゲルマニア等の砥粒粒子の表面をアルキル基で変性したものが挙げられる。前記砥粒粒子の表面をアルキル基で変性する方法は、特に制限はないが、例えば、砥粒の粒子表面に存在する水酸基とアルキル基を有するアルコキシシランとを反応させる方法が挙げられる。
【0040】
前記砥粒としては、セリウム系砥粒、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、又はゲルマニアの粒子がより好ましく、セリウム系砥粒、シリカ又はアルミナの粒子が更に好ましい。
【0041】
前記セリウム系砥粒は、酸化セリウム、水酸化セリウム、硝酸アンモニウムセリウム、酢酸セリウム、硫酸セリウム水和物、臭素酸セリウム、臭化セリウム、塩化セリウム、シュウ酸セリウム、硝酸セリウム、炭酸セリウムの群から選択される少なくとも1種の化合物から選択することができる。中でも、酸化セリウム、水酸化セリウムがより好ましい。
【0042】
セリウムには、それ自体に殺菌作用がある。このため、有機物がバクテリアなどに由来する場合、シリカ砥粒やその他殺菌作用の低い砥粒を使用した前記CMP研磨液に前記添加液を適用することがより効果的である。これら砥粒は、1種類単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0043】
前記酸化セリウムは、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、しゅう酸塩のセリウム化合物を酸化することによって得られる。TEOS−CVD法等で形成される酸化珪素膜の研磨に使用する酸化セリウム研磨剤は、一次粒子径が大きく、単結晶の酸化セリウム粒子が用いられているが、研磨傷が入りやすい傾向がある。そこで、本発明で用いる酸化セリウム粒子は、その製造方法を限定するものではないが、5nm以上300nm以下の単結晶の粒子が集合した多結晶であることが好ましい。また、半導体チップ研磨に使用することから、アルカリ金属及びハロゲン類の含有率は酸化セリウム粒子中10ppm以下に抑えることが好ましい。
【0044】
前記酸化セリウム粉末を作製する方法として焼成または過酸化水素等による酸化法が使用できる。焼成温度は350℃以上900℃以下が好ましい。このときの原料としては、炭酸セリウムが好ましい。
【0045】
上記の方法により製造された酸化セリウム粒子は凝集しているため、機械的に粉砕することが好ましい。粉砕方法として、ジェットミル等による乾式粉砕や遊星ビーズミル等による湿式粉砕方法が好ましい。
【0046】
前記シリカ又はアルミナの粒子としては、CMP研磨液中での分散安定性に優れ、CMPにより発生する研磨傷(スクラッチ)の発生数が少ない、コロイダルシリカ又はコロイダルアルミナが好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。
【0047】
前記コロイダルシリカは、シリコンアルコキシドの加水分解又は珪酸ナトリウムのイオン交換による公知の製造方法により製造することができ、粒径制御性やアルカリ金属不純物の点で、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン等のシリコンアルコキシドを加水分解する方法が最もよく利用される。また、前記コロイダルアルミナは、硝酸アルミニウムの加水分解による公知の製造方法により製造することができる。
【0048】
前記砥粒の平均粒径は、10nm〜200nmであることが好ましい。この範囲に設定することにより、良好な研磨速度を得ることができる。前記砥粒の粒径は、光回折散乱式粒度分布計(例えば、COULTER Electronics社製の商品名:COULTER N4SD)で測定した値である。Coulterの測定条件は、測定温度20℃、溶媒屈折率1.333(水)、粒子屈折率Unknown(設定)、溶媒粘度1.005mPa・s(水)、Run Time200sec、レーザ入射角90°であり、Intensity(散乱強度、濁度に相当)が5E+04〜4E+05の範囲に入るように、4E+05よりも高い場合には水で希釈して測定する。
【0049】
前記CMP研磨液総質量中の前記砥粒の含有率は、特に制限されるものではないが、分散剤の安定性等を考慮し、例えば0.05質量%〜20.00質量%とすればよい。
【0050】
2−2)水
前記水は、特に制限されるものではないが、純水を好ましく用いることができる。水は前記CMP研磨液の組成中、残部として配合されていればよく、含有率は特に制限はない。
【0051】
2−3)CMP研磨液用添加液
本発明のCMP研磨液用添加液(前記添加液)は、前記砥粒及び前記水を含むスラリーと混合して前記CMP研磨液とされる。前記添加液に含まれる前記ポリカルボン酸は、例えば凹凸のある基板を研磨した際に、凸部を優先的に研磨し、研磨後の基板の表面を平坦にする機能を有する。
【0052】
前記添加液の含有率は、前記CMP研磨液質量中における前記ポリカルボン酸の含有率が0.1質量%〜2.0質量%となるように含まれることが好ましい。前記ポリカルボン酸の含有率は、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上が更に好ましく、0.4質量%以上が特に好ましく、0.5質量%以上が極めて好ましい。また、前記ポリカルボン酸の含有率は、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましい。含有率が上記範囲であれば、被研磨膜(好ましくは酸化ケイ素膜)の充分な研磨速度を維持しつつ、凹凸のある基板を平坦性良く研磨することができる。
【0053】
2−4)分散剤
前記CMP研磨液は、前記砥粒、前記水及び前記添加液に加え、分散剤の少なくとも1種を含むことができる。前記分散剤は、前記砥粒の水への分散性を向上させる。前記分散剤は、水に溶解可能な化合物であれば、特に制限されない。一般的には、水に対する溶解度が0.1質量%〜99.9質量%となる化合物を指す。例えば、水溶性陰イオン性分散剤、水溶性非イオン性分散剤、水溶性陽イオン性分散剤、水溶性両性分散剤等が挙げられる。半導体チップ研磨に使用する場合は、分散剤中のナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属及びハロゲン、イオウの含有率は10ppm以下に抑えることが好ましい。
【0054】
前記水溶性陰イオン性分散剤としては、例えば、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0055】
前記水溶性非イオン性分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシアセチレンエーテル等が挙げられる。
【0056】
前記水溶性陽イオン性分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。
【0057】
前記水溶性両性分散剤としては、例えば、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0058】
前記分散剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
また、前記分散剤は、低分子分散剤であってもよい。具体的に例示するならば、ウラシル−6−カルボン酸、5−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−4H−ピラン−4−オン、3−ヒドロキシ−2−メチル−4H−ピラン−4−オン、2−エチル−3−ヒドロキシ−4−ピロン、マンデル酸、サリチルアルドキシム、アスコルビン酸、カテコール、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、4−tert−ブチルカテコール、1,4−ベンゾキノンジオキシム、2−ピリジンメタノール、4−イソプロピルトロポロン、2−ヒドロキシ−2,4,6−シクロヘプタトリエン−1−オン、5−アミノ−ウラシル−6−カルボン酸、ベンジル酸等が挙げられる。中でも、研磨速度が速いという観点で、5−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−4H−ピラン−4−オン、3−ヒドロキシ−2−メチル−4H−ピラン−4−オン及び2−エチル−3−ヒドロキシ−4−ピロンが好ましい。
【0060】
前記低分子分散剤は、飽和モノカルボン酸を更に含んでいてもよい。前記飽和モノカルボン酸の炭素数は、2〜6であることが好ましく、2〜5がより好ましい。前記飽和モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、カプロン酸、2−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2,3−ジメチルブタン酸、2−エチルブタン酸、2,2−ジメチルブタン酸及び3,3−ジメチルブタン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が使用可能である。中でも、水溶性が良好で扱いやすいという点で、酢酸、プロピオン酸が好ましい。
【0061】
前記CMP研磨液総質量中の前記分散剤の含有率は、0.01質量%〜1.0質量%であることが好ましい。0.01質量%以上であれば、充分な砥粒の分散性が得られる。1質量%以下であれば砥粒の凝集が抑えられる。
【0062】
2−5)pH調整剤
前記CMP研磨液は、pH調整剤として、酸もしくは塩基を含有してもよい。尚、前記pH調節剤は、前記添加液に配合されてもよい。
【0063】
前記pH調整剤として使用する酸としては、特に限定されない。例えば、硫酸、硝酸、塩酸、過塩素酸、ヨウ酸、臭酸の群から選択される無機酸、シュウ酸、クエン酸、マロン酸、アスパラギン酸、オルト−アミノ安息香酸、パラ−アミノ安息香酸、2−アミノエチルホスホン酸、アラニン、アルギニン、イソニコチン酸、イソロイシン、オキサロ酢酸、オルニチン、グアノシン、グリシン、2−グリセリンリン酸、パラ−グルコース−1−リン酸、グルタミン、グルタミン酸、クロロ酢酸、サリチル酸、サルコシン、シアノ酢酸、ジクロロ酢酸、システイン、N,N―ジメチルグリシン、酒石酸、チロシン、トリクロロ酢酸、トレオニン、ニコチン酸、ニトロ酢酸、ピクリン酸、ピコリン酸、ヒスチジン、プロリン、マレイン酸、リシン、ロイシン等の有機酸、例えば、ポリスルホン酸などの高分子酸化合物などから選択される酸などが挙げられる。
【0064】
塩基としては、例えば、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジフェニルグアニジン、ピペリジン、ブチルアミン、ジブチルアミン、イソプロピルアミン、テトラメチルアンモニウムオキサイド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムフロライド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムフロライド、テトラメチルアンモニウム硝酸塩、テトラメチルアンモニウム酢酸塩、テトラメチルアンモニウムプロピオン酸塩、テトラメチルアンモニウムマレイン酸塩、テトラメチルアンモニウム硫酸塩等が挙げられる。前記塩基は、水溶性のアミン類であることが好ましい。
【0065】
前記CMP研磨液のpHは、半導体デバイス構造のニーズにより、4〜12の範囲で適宜選択される。
【0066】
前記CMP研磨液のpHの測定は、pHメータ(例えば、HORIBA社製のModel F−51)で測定される。標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.21(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液pH6.86(25℃)、ホウ酸塩pH緩衝液pH:9.04(25℃))を用いて、3点校正した後、電極をCMP研磨液に入れて、3分以上経過して安定した後の値を測定する。
【0067】
2−6)CMP研磨液の調製方法
前記CMP研磨液は、前記砥粒の他、必要に応じて添加される前記分散剤及び前記pH調節剤等の各種成分からなる組成物を前記水中に分散させることによって得られるスラリーと、前記CMP研磨液用添加液とを混合して調製される。前記スラリーと前記CMP研磨液用添加液の混合方法としては、通常の撹拌機による分散処理の他にホモジナイザー、超音波分散機、湿式ボールミルなどを用いることができる。
【0068】
3)基板の研磨方法及び研磨された基板を用いた電子部品
3−1)基板の研磨方法
本発明の基板の研磨方法(以下、単に研磨方法ということがある。)は、基板の少なくとも一方の表面に形成された被研磨膜と研磨定盤上の研磨布との間に、前記CMP研磨液を供給しながら、前記基板と前記研磨定盤とを相対的に動かして、前記被研磨膜の少なくとも一部を研磨する。前記CMP研磨液を用いて基板を研磨することにより、研磨後の基板の表面に有機残渣が発生することを抑制でき、欠陥の発生数を低減することが可能となる。これにより、半導体デバイス生産のスループットの向上が図られる。前記研磨方法は、表面に段差を有する基板を研磨して段差を平坦化する研磨工程に好適である。
【0069】
ここで、有機残渣の有無の確認方法は、基板の研磨後、欠陥検査装置上のSEM画像を確認することで、ウエハ上の有機残渣数を確認する方法などが使用可能である。前記欠陥検査装置としては、例えば、Applied Materials社のSEM Vision等を挙げることができる。
【0070】
前記研磨方法では、研磨工程に先立って、前記スラリーと、前記添加液と、必要に応じて脱イオン水等とを、研磨前に混合することにより前記CMP研磨液を調製する混合工程を、さらに備えていてもよい。
【0071】
以下、酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜、多結晶シリコン膜のような無機絶縁層が形成された半導体基板の場合を例に挙げて研磨方法を説明する。
【0072】
前記研磨方法において、使用する研磨装置としては、例えば、半導体基板等の被研磨膜を有する基板を保持するホルダーと、研磨布(パッド)を貼り付け可能で、回転数が変更可能なモータ等を取り付けてある研磨定盤とを有する一般的な研磨装置などを使用することができる。
【0073】
前記研磨装置としては、例えば、荏原製作所(株)製の研磨装置、型番:EPO−111、AMAT製の研磨装置、商品名:Mirra3400、Reflection研磨機、などが挙げられる。研磨布としては、特に制限はなく、例えば、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等を使用することができる。また、前記研磨布には、CMP研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0074】
前記研磨方法における研磨条件としては、特に制限はないが、半導体基板が飛び出さないようにという見地から、研磨定盤の回転速度は200min−1以下の低回転が好ましく、半導体基板にかける圧力(加工荷重)は、研磨後に傷が発生しないようにという見地から、100kPa以下が好ましい。
【0075】
研磨している間、研磨布には、前記CMP研磨液をポンプなどで連続的に供給することが好ましい。この供給量に制限はないが、研磨布の表面が常に前記CMP研磨液で覆われていることが好ましい。
【0076】
前記CMP研磨液の供給方法は、前述のように、(1)前記スラリーと前記添加液の二液を別々の配管で送液し、これらの配管を合流させて供給配管出口の直前で混合して研磨定盤上に供給する方法、(2)前記スラリーと前記添加液の二液を研磨直前に混合する方法、(3)前記スラリーと前記添加液の二液を別々に研磨定盤上へ供給する方法などが挙げられる。
【0077】
研磨終了後の半導体基板は、流水中で良く洗浄後、スピンドライヤなどを用いて半導体基板上に付着した水滴を払い落としてから乾燥させることが好ましい。このように、研磨する膜である無機絶縁層を前記CMP研磨液で研磨することによって、表面の凹凸を解消し、半導体基板全面にわたって平滑な面を得ることができる。この工程を所定数繰り返すことにより、所望の層数を有する半導体基板を製造することができる。
【0078】
前記CMP研磨液が使用される酸化ケイ素被膜の作製方法として、低圧CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。低圧CVD法による酸化ケイ素膜形成は、Si源としてモノシラン:SiH、酸素源として酸素:O を用いる。このSiH−O系酸化反応を400℃以下の低温で行わせることにより得られる。場合によっては、CVD後1000℃またはそれ以下の温度で熱処理される。
【0079】
高温リフローによる表面平坦化を図るためにリン:Pをドープするときには、SiH−O−PH系反応ガスを用いることが好ましい。プラズマCVD法は、通常の熱平衡下では高温を必要とする化学反応が低温でできる利点を有する。プラズマ発生法には、容量結合型と誘導結合型の2つが挙げられる。
【0080】
反応ガスとしては、Si源としてSiH 、酸素源としてNOを用いたSiH−NO系ガスとテトラエトキシシラン(TEOS)をSi源に用いたTEOS−O系ガス(TEOS−プラズマCVD法)が挙げられる。基板温度は250℃〜400℃及び反応圧力は67〜400Paの範囲が好ましい。
【0081】
このように、本発明で研磨される酸化ケイ素膜にはリン、ホウ素等の元素がドープされていてもよい。同様に、低圧CVD法による窒化ケイ素膜形成は、Si源としてジクロルシラン:SiHCl、窒素源としてアンモニア:NHを用いる。このSiHCl−NH系酸化反応を900℃の高温で行わせることにより得られる。プラズマCVD法は、反応ガスとしては、Si源としてSiH、窒素源としてNHを用いたSiH−NH系ガスが挙げられる。基板温度は300℃〜400℃が好ましい。
【0082】
前記基板とは、ダイオード、トランジスタ、化合物半導体、サーミスタ、バリスタ、サイリスタ等の個別半導体、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー)、SRAM(スタティック・ランダム・アクセス・メモリー)、EPROM(イレイザブル・プログラマブル・リード・オンリー・メモリー)、マスクROM(マスク・リード・オンリー・メモリー)、EEPROM(エレクトリカル・イレイザブル・プログラマブル・リード・オンリー・メモリー)、フラッシュメモリー等の記憶素子、マイクロプロセッサー、DSP、ASICなどの理論回路素子、MMIC(モノリシック・マイクロウェーブ集積回路)に代表される化合物半導体などの集積回路素子、混成集積回路(ハイブリッドIC)、発光ダイオード、電荷結合素子等の光電変換素子などを含有する基板を指す。
【0083】
前記添加液及び前記CMP研磨液は、半導体基板に形成された窒化ケイ素膜、酸化ケイ素膜だけでなく、所定の配線を有する配線板に形成された酸化ケイ素膜、ガラス、窒化ケイ素等の無機絶縁膜、ポリシリコン、Al、Cu、Ti、TiN、W、Ta、TaN等を主として含有する膜を研磨対象とすることが可能である。
【0084】
3−2)電子部品
本発明の電子部品は、前記研磨方法で研磨された基板を用いたものである。このような電子部品によれば、研磨後の基板に有機残渣が生じるのを抑制しているため、信頼性に優れた電子部品を得ることができる。
【0085】
前記電子部品とは、半導体素子だけでなくフォトマスク・レンズ・プリズムなどの光学ガラス、ITO等の無機導電膜、ガラス及び結晶質材料で構成される光集積回路・光スイッチング素子・光導波路、光ファイバーの端面、シンチレータ等の光学用単結晶、固体レーザ単結晶、青色レーザLED用サファイヤ基板、SiC、GaP、GaAs等の半導体単結晶、磁気ディスク用ガラス基板、磁気ヘッド等を含む。
【実施例】
【0086】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明の技術思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施例に制限するものではない。例えば、CMP研磨液の材料の種類やその配合比率は、本実施例記載の種類や比率以外でも差し支えなく、研磨対象の組成や構造も、本実施例記載以外の組成や構造でも差し支えない。
【0087】
<実施例1>
(CMP研磨液の作製)
先ず、有機残渣抑制剤としてエタノールを用い、CMP研磨液用添加液を作製した。即ち、ポリカルボン酸としてポリメタクリル酸を用い、これを純水890.1gで希釈して、最終濃度が10質量%となるようにポリカルボン酸水溶液を調製した。その後、このポリカルボン酸水溶液にエタノール9.9gを加え、有機残渣抑制剤の含有率が0.99質量%のCMP研磨液用添加液を得た。
【0088】
続いて、得られたCMP研磨液用添加液1000gに、平均粒径160nm、pH8.7の酸化セリウムスラリーを、砥粒濃度0.5質量%、前記ポリカルボン酸濃度0.5質量%となるように、純水とともに混合して、CMP研磨液を作製した。
【0089】
CMP研磨評価用試験ウエハとして、アドバンテック社製のSiOのブランケットウエハ(初期膜厚1000nm)を用い、前記CMP研磨液により下記の方法により化学機械研磨を行った。
【0090】
(CMP研磨)
アプライドマテリアルズ社製の研磨機Mirra3400(製品名)にて、研磨圧力を20.68kPa(3psi)、定盤回転数/ヘッド回転数=93/87(rpm)、CMP研磨液の供給量を200ml/分とする条件下で、CMP研磨を行った。研磨布としては、発泡ポリウレタン樹脂製研磨布を用いた。
【0091】
(ブランケット基板の研磨速度)
そして、60秒間CMP研磨を行った後の前記ブランケット基板について、膜厚測定装置(大日本スクリーン製造株式会社製、製品名:ラムダエース、VL−M8000LS)を用いて初期膜厚と研磨後の膜厚の差から、研磨速度(nm/min)を求めた。
【0092】
(欠陥検査)
アプライドマテリアルズ社製の欠陥レビュー装置SEM Vision(製品名)にて、欠陥検査を行った。欠陥検査後、装置上に記録されたSEM画像を確認し、ウエハ1枚あたりの有機残渣数を測定した。この結果を表1に示す。
【0093】
<実施例2、3>
実施例1で用いたエタノールを表1に示す各種有機残渣抑制剤に代え、その他は実施例1と同様にしてCMP研磨液を作製し、各CMP研磨液を用いた場合の研磨速度及び有機残渣数を調べた。この結果を表1に併せて示す。
<実施例4>
【0094】
実施例1で用いた有機残渣抑制剤をフェノールに代えるとともに、有機残渣抑制剤の含有率を0.20質量%とし、その他は実施例1と同様にしてCMP研磨液を作製し、該CMP研磨液を用いた場合の研磨速度及び有機残渣数を調べた。この結果を表1に併せて示す。
<実施例5〜8>
実施例1で用いた有機残渣抑制剤を実施例2と同様にイソプロパノールに代えるとともに、有機残渣抑制剤の含有率を0.20質量%、2.00質量%、10.00質量%、30.00質量%にそれぞれ代え、その他は実施例1と同様にしてCMP研磨液を作製し、各CMP研磨液を用いた場合の研磨速度及び有機残渣数を調べた。この結果を表1に併せて示す。
【0095】
<比較例1、2>
実施例1で用いた有機残渣抑制剤を無添加及びアンモニアにそれぞれ代え、その他は実施例1と同様にしてCMP研磨液を作製し、各CMP研磨液を用いた場合の研磨速度及び有機残渣数を調べた。この結果を表1に併せて示す。
【0096】
【表1】

【0097】
(効果の確認)
実施例1〜実施例8に示したように、有機残渣抑制剤を含有した本発明に係るCMP研磨液用添加液を使用することによって、有機残渣数が著しく減少することが明らかとなった。また、実施例1〜実施例8では、研磨速度にも大きな影響はないことがわかった。
これに対して、比較例2には、アンモニアを添加したところ、有機残渣数が増加することが確認できた。アンモニアが有機残渣の除去効果を示さなかった理由として、例えば前記有機物成分がバクテリアなどに由来するものである場合が考えられる。即ち、CMP研磨液中にバクテリアの栄養源となるアンモニアが存在することで、有機物成分に由来する有機残渣が低減できなかった可能性が示唆される。
【0098】
尚、本実施例では、CMP研磨液として、酸化セリウム砥粒を含有するスラリーを含むものを用いたが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えばシリカ砥粒を含有する従来公知のメタルスラリーなどにも応用した場合でも上述と同様の効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール類及びフェノール類からなる群から選択される少なくとも1種の有機残渣抑制剤と、含有率が0.1質量%以上であるポリカルボン酸と、水と、を含有するCMP研磨液用添加液。
【請求項2】
CMP研磨液用添加液総質量中の前記有機残渣抑制剤の含有率が0.1質量%以上30質量%以下である請求項1に記載のCMP研磨液用添加液。
【請求項3】
上記アルコール類が、モノアルコール及びジオールから選択される少なくとも1種である、請求項1又は請求項2に記載のCMP研磨液用添加液。
【請求項4】
上記アルコール類が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール及びイソブタノールからなる群より選択される少なくとも1種のモノアルコールを含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のCMP研磨液用添加液。
【請求項5】
上記アルコール類が、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、3,5−ヘキサンジオール及びジエチレングリコールからなる群より選択される1種以上のジオールを含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のCMP研磨液用添加液。
【請求項6】
上記フェノール類が、フェノール及びカテコールから選択される少なくとも1種のフェノール類を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のCMP研磨液用添加液。
【請求項7】
砥粒及び水を含むスラリーと、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のCMP研磨液用添加液と、を含むCMP研磨液。
【請求項8】
基板の少なくとも一方の表面に形成された被研磨膜と研磨定盤上の研磨布との間に、請求項7に記載のCMP研磨液を供給しながら、前記基板と前記研磨定盤とを相対的に動かして、前記被研磨膜の少なくとも一部を研磨する基板の研磨方法。
【請求項9】
請求項8に記載の研磨方法で研磨された基板を用いた電子部品。

【公開番号】特開2013−69929(P2013−69929A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208197(P2011−208197)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】