説明

ERBB4遺伝子の多型に基づく精神病及び統合失調症の治療法

本出願は、精神病治療薬パリペリドンに反応しやすい患者かどうかを予測するための、ErbB4遺伝子の遺伝的多型の使用を目的とする。ErbB4遺伝子の多型は、精神病治療が必要な患者のうち、プラシーボ効果を示しやすい患者かどうかを予測するためにも用いられる。ErbB4遺伝子の多型を用いて抗精神病薬パリペリドンで患者を治療する方法、及びキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2008年10月29日に出願された、米国仮特許出願第61/109,311号の利益を主張し、この開示全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本出願は、統合失調症及び関連障害などの精神病状態の治療又は診断をするための方法を提供する。特に、本出願は、プラシーボ反応、又はパリペリドン治療への反応を示しやすい患者かどうかを決定するための多型解析の使用、及び最適な治療戦略を決定するための方法を目的とする。
【背景技術】
【0003】
精神病は、患者、その家族、及び社会全体に対して、多大な精神的損害及び経済的損害を与える。統合失調症及び関連障害(例えば、統合失調性感情障害)、及び精神病症状(例えば、双極性障害)を伴う情動障害(気分障害)などの精神病状態は、原因不明の複雑かつ不均質な疾患である。
【0004】
統合失調症は、一般集団の約1%が侵される、重篤な精神的又は神経精神的疾患である。統合失調症は、幻覚、妄想、及び概念の解体などの陽性症状、並びに社会的ひきこもり、感情鈍磨、及び会話の貧困などの陰性症状の両方を有すると特徴づけられる。陽性及び陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale(PANSS))(Kayら、Compr Psychiatry,1991,32:355〜361)、陰性症状評価尺度(Scale for the Assessment of Negative Symptoms(SANS))(Andreasenら、Arch Gen Psychiatry,1982,39:784〜788)、及び陽性症状評価尺度(Scale for the Assessment of Positive Symptoms(SAPS))(Andreasen 1984.Scale for the assessment of positive symptoms.Iowa City,IA:University of Iowa)などの臨床評価尺度は、陽性及び陰性症状を区別し、評価する基準を提供する。
【0005】
初期の研究では、神経伝達物質ドーパミンの異常活性が統合失調症の特徴であることを示した。中脳皮質系のドーパミン活性が低下すると陰性症状をもたらし、中脳辺縁系のドーパミン活性が亢進すると陽性症状又は精神病症状をもたらす。統合失調症及びその他の精神病症状を示す患者は、中枢性ドーパミン受容体を遮断する古典的な抗精神病剤(神経遮断薬)で治療されることが多い。これらの薬剤のドーパミンD2受容体拮抗能は、抗精神病効果と相関する。神経遮断薬としては、クロルプロマジン、チオリダジン、フルフェナジン、ハロペリドール、フルペンチキソール、モリンドン、ロクサピン、及びピモジドが挙げられる。統合失調症の陽性症状の治療に神経遮断薬は有効であるが、陰性症状に対する有効性は低く、又は有効性はない。更に、神経遮断薬は、固縮、振戦、運動緩慢(緩慢な動作)、及び精神緩慢(思考の低下)、並びに遅発性ジスキネジー及び遅発性ジストニーなどの錐体外路症状の原因となる。
【0006】
最近になり、セロトニン、グルタミン酸、及びGABAなど、その他いくつかの神経伝達物質についても、統合失調症状態に関与することが示されている。例えば、ヒトにおいて、グルタミン酸伝達が低下すると統合失調症に似た症状を示し、一方グルタミン酸伝達が亢進すると統合失調症症状が軽減する。このことが、第2世代の非定型抗精神病剤の開発につながる。非定型抗精神病剤は、異なる受容体結合特性及び統合失調症の症状に対する有効性を有する、別の種類の抗精神病剤である。最も非定型な抗精神病剤は、ドーパミンD2受容体に加え、中枢性セロトニン5−HT2受容体に結合する。神経遮断薬とは異なり、非定型抗精神病剤は、陽性症状に加えて陰性症状も改善する。更に、これらは神経遮断薬療法に伴う錐体外路症状を最小限にし、かつ、遅発性ジスキネジー、静座不能、又は急性ジストニー反応の原因となることはまれである。統合失調症症状全体の改善における非定型抗精神病剤の有効性は、更なる神経伝達経路を調節する能力と相関している。非定型抗精神病剤は統合失調症の治療に有効で、神経遮断薬耐性患者に対する第1選択薬として使用されている。非定型抗精神病剤治療では、ある特定の副作用が報告されており、例えば、クロザピンの使用により、重篤な血液疾患(無顆粒球症)、体重増加、及び糖尿病の原因となる恐れがある。生化学的及び神経学的因子に加え、統合失調症及びその他の精神病状態の遺伝的要素がマッピングされている。全ゲノム連鎖研究において、統合失調症及び双極性障害患者と、染色体22q、13q、6p、8p、1q、15q、及び2q上の染色体構造異常又はコピー数変異が関係している。例えば、1q21.1及び15q13.3における、まれな染色体欠失及び重複が、統合失調症のリスクを高めることが報告されている(The International Schizophrenia Consortium,Nature 2008,455,237〜241、Stefanssonら、Nature 2008,455:232〜236、Xuら、Nature Genetics 2008,40:880〜885、及びWalshら、Science 2008,320:539〜543)。更に、これら染色体領域における詳細なマッピング研究により、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ(COMT)、D−アミノ酸オキシダーゼ(DAO)、Disrupted−in−schizophrenia(DISC)−1、Dysbindin(DTNBP1)、及びNeuregulin 1(NRG1)が、潜在的な感受性遺伝子として同定されている。他の研究では、ドーパミントランスポーター、セロトニン5−HT受容体、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体、グルタミン酸トランスポーターSLC1A、及びGタンパク質結合受容体などの機能的候補遺伝子、並びに統合失調症状態におけるそれらの役割について調べられている。これらの研究では、統合失調症及び精神病状態の複雑性が示され、疾患感受性に寄与するいくつかの遺伝子又は遺伝子群が示唆される。
【0007】
これらの遺伝的要素の一部は、統合失調症状態の予測に用いられており、これらにはCOMT、ドーパミントランスポーター、5−HT2A、5−HT2C、NMAD受容体、NRG1、DISC−1、及びDAOが挙げられる(以下の総説、Sawa及びSnyder、Molecular Medicine,2003:3〜9、Owenら、Trends in Genetics,2005,21:518〜525、Craddockら、Journal of Medical Genetics,2005,42:193〜204、Langら、Cellular Physiology Biochemistry,2007,20:687〜702を参照)。
【0008】
ハイスループット遺伝子型同定技術における最近の進歩が全ゲノム関連研究を促進し、以前は不可能であった規模及び分解能で、疾患の病態生理、及び治療に対する患者の反応性を探索している。全ゲノム関連研究は、統合失調症の感受性に対して、コロニー刺激因子2受容体,α,低親和性(顆粒球−マクロファージ)(CSF2RA)、インターロイキン3受容体,α(低親和性)(IL3RA)、リーリン(RELN)、コイルドコイル領域含有60(CCDC60)、網膜芽細胞腫結合タンパク質1(RBP1又はARID4A)、及びジンクフィンガータンパク質804A(ZNF804A)の遺伝的影響の可能性を示した(Lenczら、Molecular Psychiatry 2007,12:572〜580、Shifmanら、PloS Genetics 2008,4:e28、Kirovら、Molecular Psychiatry 2008年3月11日印刷物に先駆けたオンライン出版、Sullivanら、Molecular Psychiatry 2008,13:570〜584、及びO’Donovanら、Nature Genetics,2008年7月30日、印刷物に先駆けた電子出版)。CNTF(毛様体神経栄養因子)、NPAS3(ニューロンPASドメインタンパク質3)、XKR4(ケル式血液型複合体サブユニット関連ファミリー、メンバー4)、TNR(テネイシンR(レストリクチン,ジャヌシン))、GRIA4(グルタミン酸受容体,イオンチャネル型,AMPA 4)、GFRA2(GDNFファミリー受容体α2)、NUDT9P1(nudix(ヌクレオシド二リン酸結合部分X)型モチーフ9偽遺伝子1)の遺伝子は、統合失調症患者のイロペリドンによる治療に対する反応性と関連することが報告されている(Lavedanら、Pharmacogenomics 2008,9(3):289〜301及びLavedanら、Molecular Psychiatry 2008年6月3日、印刷物に先駆けた電子出版)。CERKL(セラミドキナーゼ様)、SLCO3A1(溶質輸送体有機アニオントランスポーターファミリー,メンバー3A1)、BRUNOL4(ブルーノ様4,RNA結合タンパク質(ショウジョウバエ))、及びNRG3(ニューレグリン3)の遺伝子は、治療中のQT延長と関連することが報告された(Volpiら、Molecular Psychiatry 2008年6月3日、印刷物に先駆けた電子出版)。米国特許出願公開第20080027106号は、イロペリドンによる治療への患者の反応性を決定するため、ゲノム解析の使用について開示する。
【0009】
染色体8p21−p12にマッピングされるNRG1は、統合失調症に対する感受性遺伝子であることが最も立証されている遺伝子である。NRG1は、ニューロン移動、分化、及び神経伝達物質(アセチルコリン、GABA−A、及びグルタミン酸)の発現に関与する。NRG1の機能は、主にチロシンキナーゼ受容体のErbBファミリーとの相互作用を介する。NRG1又はErbB4のヘテロ変異体マウスは、統合失調症マウスモデルの行動表現型を呈し、これらはErbB2又はErbB3のノックアウトマウスではみられないことが、遺伝学研究で示されている(Stefanssonら、American Journal of Human Genetics,2002,71:877〜892)。更に、遺伝学研究では、統合失調症のNRG1及びErbB4遺伝子における多型の関連が示されている(Nortonら、American Journal Medical Genetics B,2006,141:96〜101、Silberbergら、American Journal Medical Genetics B,2006,141:142〜148、Benzelら、Behavior Brain Functions,2007,3:31、Walshら、Science,2008,320:539〜543)。更に、神経生理学的研究では、NRG1−ErbB4結合がN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体を阻害し、NMDA受容体におけるグルタミン酸伝達を妨害することを示している(Liら、Neuron,2007,54:583〜597)。グルタミン酸伝達及び統合失調症症状における以前の報告を合わせると、NRG1−ErbB4シグナル伝達経路の欠損は、ドーパミン活性の変化につながり、統合失調症感受性に寄与する、グルタミン酸活性の機能低下の原因となると考えられる。
【0010】
ErbB4(v−erb−a赤芽球性白血病ウイルスの癌遺伝子ホモログ4)タンパク質はチロシンプロテインキナーゼファミリー、及び上皮成長因子受容体サブファミリーの一員である。ErbB4タンパク質は、細胞内シグナル伝達カスケード及び細胞応答の誘導に関与することがよく知られている。以前から、ErbB4タンパク質は、癌、細胞増殖及び細胞遊走の異常を治療又は予防するための標的である。統合失調症におけるNRG1/ErbB4シグナル伝達経路の最近の知見から、NRG1及びErbB4遺伝子に対する修飾因子は、国際公開特許第2008019394号、US20060029546号、及びUS20070213264号に開示されるように、統合失調症の治療又は予防に対する治療標的として用いられている。更に、NRG1遺伝子の多型又は関連する遺伝子情報は、US20020094954号及びUS20050208527号に開示されるように、統合失調症又は精神病状態の診断に使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
抗精神病剤による精神障害の治療及び診断は、長年にわたって徐々に改良されてきた。しかし、患者の抗精神病剤への反応性の程度、及び、ある患者における、重篤な副作用なく治療反応を起こすのに必要であろう投与量を決定するための確実な方法はない。比較的新しい非定型タイプであっても、抗精神病剤はすべて副作用を有するため、この「試行錯誤」期間は、患者にとって時間がかかり、不快で、かつ更には危険である恐れがあり、服薬不履行の可能性を上げていた。したがって、統合失調症患者の診断法及び治療法の必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
抗精神病薬治療に対する患者の反応性を予測又は診断するためのマーカーが提供される。このマーカーはErbB4遺伝子に存在する多型であり、具体的には、配列番号1の201 G>Aの多型である。一実施形態では、患者のErbB4遺伝子の2つの対立遺伝子のヌクレオチド配列を分析することと、配列番号1の201位の多型部位における遺伝子型を決定することと、薬剤により反応しやすいものとして遺伝子型GA又はGGを有する患者を同定すること、及び薬剤により反応しにくいものとして遺伝子型AAを有する患者を同定すること、を含む、パリペリドン、並びにその薬剤として許容される塩及びエステルからなる群から選択される非定型抗精神病剤による治療に対して患者が反応する可能性を予測する方法が提供される。
【0013】
別の実施形態では、患者のErbB4遺伝子の2つの対立遺伝子のヌクレオチド配列を分析することと、配列番号1の201位の多型部位における遺伝子型を決定することと、プラシーボ反応を示しやすいものとして、遺伝子型AAを有する患者を同定すること、を含む、抗精神病剤による治療が必要な患者がプラシーボ反応を示しやすいかどうかを予測する方法が提供される。
【0014】
他の実施形態では、患者のErbB4遺伝子の2つの対立遺伝子のヌクレオチド配列を分析することと、配列番号1の201位の多型部位における遺伝子型を決定することと、プラシーボ反応を示しやすいものとして、遺伝子型AAを有する被験者を同定すること、を含む、抗精神病薬の臨床試験の被験者を選択する方法。
【0015】
他の実施形態では、前記患者からDNAサンプルを得ることと、前記患者のErbB4遺伝子のヌクレオチド配列を分析することと、配列番号1の201位の多型部位における遺伝子型を決定することと、パリペリドン、並びにその薬剤として許容される塩及びエステルからなる群から選択される非定型抗精神病剤を用いて前記遺伝子型GA又はGGを有する前記患者を治療することと、を含む、抗精神病の治療が必要な患者の治療方法が提供される。更なる実施形態では、ErbB4遺伝子を認識し、その一部に結合できるポリヌクレオチドと、前記ポリヌクレオチド及び前記患者からのDNAサンプルを入れるのに好適な容器であって、前記ポリヌクレオチドがErbB4遺伝子に接触できる、容器と、前記ポリヌクレオチドのErbB4遺伝子とのハイブリダイゼーションを検出する手段と、を含む、精神障害患者の治療計画の決定に使用するキットが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ErbB4多型
本明細書で用いるとき、用語、多型は、多型部位において個々人で観察される配列変異を意味する。多型としては、ヌクレオチドの置換、挿入、欠失、及びマイクロサテライトが挙げられ、遺伝子の発現又はタンパク質の機能において検出可能な差が生じる場合があるが、それが必須ではない。用語、多型部位は、集団内で少なくとも2つの別の配列が、最も高頻度で起こるもので99%以下の頻度で発見される、遺伝子座内の位置を意味するのに用いられる。用語、一塩基多型(SNP)は、集団内において、ゲノム中の単一の塩基の位置でヌクレオチドの変異が発現することを意味する。SNPは、ゲノムのある遺伝子内において、又は遺伝子間領域内において起こる場合がある。
【0017】
ErbB4遺伝子内の多型又はSNPは、パリペリドン治療に対する精神障害を有する個人である可能性を予測するために提供される。National Center for Biotechnology InformationのdbSNPデータベースでrs6435681と呼ばれる配列番号1の201 G>Aの多型は、ErbB4遺伝子のイントロン3領域内に位置しており、ErbB4遺伝子の発現に影響する場合がある。ErbB4発現における多型の影響は、ErbB4遺伝子の多型変異体を含む、組み換え細胞及び/又は生物、好ましくは組み換え動物を調製することにより、検討することができる。本明細書で用いるとき、用語、発現には、遺伝子の前駆体mRNAへの転写、mRNA前駆体の成熟mRNA生成のためのスプライシング及びその他プロセシング、mRNAの安定性、成熟mRNAのErbB4タンパク質への翻訳(コドン使用及びtRNA利用を含む)、並びに、本来の発現及び機能に要求される場合、翻訳生成物のグリコシル化及び/又はその他修飾が含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
多型によるErbB4の変化した量又はスプライスバリアントが、正常なNRG1−ErbB4相互作用、及び統合失調症の発症に影響する恐れがあり、したがって、個人の抗精神病治療に対する反応性に影響する。用語、変化した量は、特定の対立遺伝子、例えばErbB4遺伝子内の配列番号1の201 G>Aにおける多型から発現されるmRNA又はポリペプチドの量を意味し、特定の対立遺伝子がプリセットされていると当業者が考えるに至る量を意味する。用語、スプライスバリアントは、当初は同一のゲノムDNA配列から転写されるが、選択的RNAスプライシングを受けたRNA分子を意味する。選択的RNAスプライシングは、一次RNA転写物がスプライシング(一般にはイントロンの除去)を受けるとき起こり、結果として、それぞれが異なるアミノ酸配列をコードする2種以上のmRNA分子が生成される。用語、スプライスバリアントは、選択的スプライシングにより生成された上記RNA分子にコードされたタンパク質も意味する。
【0019】
配列番号1の201位の多型部位におけるSNPは、3つの遺伝子型、GG、GA、及びAAをもたらす。本明細書に記載する臨床集団では、配列番号1の201位の多型部位における遺伝子型GG又はGAを有する個体は、非定型抗精神病剤パリペリドンに対してより反応しやすく、したがって、同じ抗精神病剤を同様の投与量で服用し続けることができる。更に、遺伝子型AAを有する個体は、非定型抗精神病剤パリペリドンに対してより反応しにくく、したがって、より高用量若しくはパリペリドンに加える補助薬物療法、又は別の方法としては、異なる非定型抗精神病剤の使用が必要となることがある。
【0020】
更に、配列番号1の201 G>Aの多型において遺伝子型AAを有する個体は、プラシーボ反応又は効果をより示しやすい。用語、プラシーボ反応は、精神病又は精神障害に対する薬物又は治療を何ら受けない状態での自発的な症状改善を意味し、上記基準により測定することができる。患者は一般に、初期治療後最初の8週間以内、より多くは最初の6週間以内にプラシーボ反応を示すため、プラシーボ反応を示しやすい患者を知ることは、これらの患者の管理に大いに役立つ。別の治療計画、例えば頻繁な監視、又は追加の抗精神病剤が、プラシーボ反応を示す患者の管理に必要である。
【0021】
適切な治療計画を適用して病気の症状を効果的に管理し、副作用を最小限にし、かつ治療期間を短縮できるように、患者が非定型抗精神病剤に反応しやすいのかを予測することが望ましい。また、医師がこれら患者に対して別の治療計画を適用し、及び、臨床試験を適切な患者集団を層別化又は選択することにより計画して、薬の効果を最大限にし、かつコストを削減できるように、患者がプラシーボ効果を示しやすいのかを予測することが望ましい。したがって、患者が治療に反応しやすいかどうか、及び、患者がプラシーボ反応を示しやすいかどうかを評価することは、疾病治療に対する個別化治療計画に大いに役立ち、臨床試験における有効性を最大限に高める。
【0022】
好ましい実施形態では、ErbB4遺伝子内の配列番号1の201位の多型部位における遺伝子型GA又はGGを用い、パリペリドンによる治療に対する個体の反応しやすさを予測する。別の好ましい実施形態では、同一多型部位における遺伝子型AAを用い、パリペリドンによる治療に対する個体の反応しにくさを予測する。好ましい非定型抗精神病剤としては、パリペリドン、並びにその薬剤として許容される塩及びエステル、例えば、そのすべてが参考として本明細書に組み込まれる米国特許第5,254,556号に記載されるパルミチン酸パリペリドンが挙げられる。別の好ましい実施形態では、ErbB4遺伝子内の配列番号1の201位の多型部位における遺伝子型AAを用い、精神病治療を必要とする個体におけるプラシーボ反応の示しやすさを予測する。
【0023】
本明細書に開示される特定の多型に加え、上述の多型と連鎖不平衡である任意の多型も、連鎖不平衡であるSNPと同じように、同じ薬剤又は治療に対する反応性を示す更なるマーカーとしての機能を果たすことができる。したがって、本出願中に開示されるSNPと連鎖不平衡である任意のSNPを用いることができ、それを本明細書に包含することが意図される。
【0024】
多型、遺伝子型、及びハプロタイプの検出
一本鎖構造多型解析、変性高速液体クロマトグラフィー(DHPLC)によるヘテロ二本鎖解析、及びコンピュータによる方法など、たくさんの異なる手技を用いてSNPを同定し、特徴づけてきた。公共データベースに豊富に配列情報があるため、コンピュータツールを用い、ある遺伝子(cDNA又はゲノム配列)について別々に登録された配列と整列されることにより、インシリコでSNPを同定することができる。
【0025】
SNP又は多型を解析するその他の一般的な手技としては、ハイブリダイゼーション、シークエンシング、プライマー伸長法、リガーゼ検出反応、及び切断法が挙げられる。例えば、当業者は、SNP検出を目的に、エンドヌクレオチド(endonucleotide)制限酵素法などの切断法を用いてDNAフラグメントを切断してよい。これらの方法はそれぞれ、適切な検出システムと接続しなければならない。検出技術としては、蛍光偏光法、ピロリン酸塩放出の発光検出法(パイロシークエンシング)、蛍光共鳴エネルギー移動系切断アッセイ、DHPLC、質量分析法、及び、米国特許第6,297,018号及び同第6,300,063号に開示されるものが挙げられる。上述の参照による開示は、そのすべてが参考として本明細書に組み込まれる。
【0026】
上述の方法は、個体におけるErbB4遺伝子の遺伝子型同定及び/又はハプロタイプ同定にも用いることができる。本明細書で用いるとき、用語「ErbB4の遺伝子型」及び「ErbB4のハプロタイプ」は、本明細書に記載する1つ以上の多型部位に存在し、ErbB4遺伝子の1つ以上の更なる多型部位に存在するヌクレオチド対又はヌクレオチドを任意で更に含んでよい、ヌクレオチド対又はヌクレオチドをそれぞれ含む遺伝子型又はハプロタイプを意味する。更なる多型部位は、現在知られている多型部位又は後に発見された部位であってよい。
【0027】
一実施形態では、遺伝子型同定法は、個体に存在する2つのコピーのErbB4遺伝子又はそのフラグメントを含む核酸混合物を個体から単離することと、その個体にErbB4の遺伝子型を割り当てるために、2つのコピー内の1つ以上の多型部位におけるヌクレオチド対を同定することと、を含む。当業者に容易に理解されるように、個体中の遺伝子の2つの「コピー」は、同一の対立遺伝子の場合、又は異なる対立遺伝子の場合がある。特に好ましい実施形態では、遺伝子型同定法は、各多型部位におけるヌクレオチド対を同定することを含む。
【0028】
典型的には、核酸混合物又はタンパク質は、個体から採取した生体サンプル、例えば任意の体液又は組織サンプルから単離される。任意の体液としては、血清、血漿、リンパ液、嚢胞液、尿、便、脳脊髄液、腹水(acitic fluid)が挙げられるが、これらに限定されない。好適な組織サンプルとしては、全血、精液、唾液、涙液、尿、糞便物質、汗、口腔内スメア、皮膚、及び筋肉若しくは神経組織及び毛髪などの特定器官組織の生体組織が挙げられる。
【0029】
別の実施形態では、ハプロタイプ同定法は、個体に存在する2つのコピーのErbB4遺伝子又はそのフラグメントのうち、1つのみを含む核酸分子を個体から単離することと、その個体にErbB4のハプロタイプを割り当てるために、そのコピー内の1つ以上の多型部位におけるヌクレオチドをそのコピー内で同定することと、を含む。核酸は、2つのコピーのErbB4遺伝子又はフラグメントを分離できる上述の方法のうちの1つを含むがこれらに限定されない任意の方法を用いて単離してよいが、標的インビボクローニングが好ましい方法である。当業者に容易に理解されるように、任意の各クローンは、個体に存在する2つのErbB4遺伝子コピーのうち1つにおけるハプロタイプの情報のみを提供する。個体の他のコピーに対するハプロタイプの情報が望まれる場合、更なるErbB4クローンの検査が必要となる。典型的には、個体中のErbB4遺伝子の両コピーのハプロタイプを同定することについて90%超の確率を有するために、少なくとも5つのクローンを検査しなくてはならない。好ましい実施形態では、各多型部位におけるヌクレオチドが同定される。
【0030】
個体中に存在するErbB4遺伝子の各コピーにおける1つ以上の多型部位のヌクレオチドの位相配列を同定することにより、個体のErbB4ハプロタイプ対を決定できる。好ましくは、ハプロタイプ同定法は、ErbB4遺伝子の各コピーにおける各多型部位のヌクレオチドの位相配列を同定することを含む。遺伝子の両コピーのハプロタイプを同定するとき、同定工程は、好ましくは別々の容器に入れられる遺伝子の各コピーについて実施される。しかし、2つのコピーが異なるタグでラベルされる場合、又は別の方法で別々に識別可能若しくは特定可能な場合、同じ容器内でその方法を実施できる場合があることも想定される。例えば、遺伝子の第1及び第2のコピーが異なる第1及び第2の蛍光染料でそれぞれラベルされ、かつ、更に異なる第3の蛍光染料でラベルされる対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドを用いて多型部位の解析が行われる場合、第1及び第3の染料の組み合わせを検出すると第1遺伝子のコピーの多型を同定することになり、一方第2及び第3の染料の組み合わせを検出すると第2遺伝子のコピーの多型を同定することになる。
【0031】
遺伝子型同定法及びハプロタイプ同定法の両方において、ErbB4遺伝子又はそのフラグメントの一方又は両方のコピーから直接多型部位を含有する標的領域を増幅することと、従来の方法により増幅された領域を配列決定することにより、多型部位でのヌクレオチド(又はヌクレオチド対)の同一性を決定できる。多型部位がホモ接合体である個体の部位には1つのヌクレオチドのみが検出され、一方その部位で個体がヘテロ接合体の場合は2つの異なるヌクレオチドが検出されることが、当業者に容易に理解される。多型は、ポジティブ型同定として知られるように直接的に、又はネガティブ型同定とみなされる推論により同定できる。例えば、SNPが参照集団においてグアニン及びシトシンであることが知られているとき、その部位でホモ接合体である全個体においてグアニン又はシトシンであり、又は個体がその部位でヘテロ接合体であるとき、グアニン及びシトシンの両方であるように、部位をポジティブに決定できる。あるいは、グアニンではない(すなわちシトシン/シトシン)又はシトシンではない(すなわちグアニン/グアニン)であるというように、部位をネガティブに決定できる。
【0032】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(米国特許第4,965,188号)、リガーゼ連鎖反応(例えば、Baranyら、Proc Natl Acad Sci USA 88:189〜193,1991、国際公開特許第90/01069号)、リガーゼ検出反応(例えば、Favisら、2004,Applications of the Universal DNA Microarray in Molecular Medicine,Methods in Molecular Medicine、Microarrays in Clinical Diagnostics,T.O.Joos及びP.Fortina,Editors.2004,The Humana Press Inc.USA)、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(例えば、Landegrenら、Science,241:1077〜1080,1988)、転写ベースの増幅系(例えば、米国特許第5,130,238号、同第5,169,766号)、及び等温法(例えば、Walkerら、Proc Natl Acad Sci USA 89:392〜396,1992)が挙げられるが、これらに限定されない任意のオリゴヌクレオチド対象増幅法を用いて、標的領域を増幅することができる。このような方法でプライマー又はプローブとして有用なオリゴヌクレオチドは、多型部位を含む、又は部位に近接する核酸領域に特異的にハイブリッド形成しなくてはならない。典型的には、オリゴヌクレオチドの長さは、10〜35ヌクレオチド、好ましくは15〜30ヌクレオチドである。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドは20〜25ヌクレオチド長である。オリゴヌクレオチドの正確な長さは、当業者が通常考慮し実践する多くの因子によって決まるだろう。
【0033】
標的領域内の多型を、当該技術分野において既知の複数のハイブリダイゼーション系試験法のうち1つを用いて増幅前又は増幅後に解析してもよい。典型的には、このような試験法を実施するにあたり、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドが使用される。対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドを、別々にラベルされたプローブ対(対のうちの一方が標的配列の一変異型に対して完全に一致し、他方が異なる変異型に対して完全に一致する)として用いてもよい。いくつかの実施形態では、2セット以上の対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド対を用いて、2つ以上の多型部位を一挙に検出してもよい。対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーは、特定のSNPの1つのみのヌクレオチドに相補的な、3’末端又は末端から2番目のヌクレオチドを有し、それにより、そのヌクレオチドを含有する対立遺伝子が存在する場合のみ、ポリメラーゼを介する伸長のプライマーとして作用する。好ましくは、検出される多型部位のそれぞれにハイブリダイズするとき、セット中のヌクレオチドは、互いの融解温度が5℃以内、より好ましくは2℃以内である。対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーは、コード鎖又は非コード鎖のどちらかにハイブリダイズしてよい。ErbB4遺伝子内の多型を検出する対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーは、当該技術分野において既知の手技を用いて作製することができる。
【0034】
標的ポリヌクレオチドに対する対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド又は他の遺伝子型同定オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを、溶液中の両物質を入れて実施してもよく、又はこのようなハイブリダイゼーションを、オリゴヌクレオチド又は標的ポリヌクレオチドが固体支持体に共有結合的又は非共有結合的に結合されているときに実施してもよい。例えば、抗体−抗原相互作用、ポリ−L−Lys、ストレプトアビジン、又はアビジン−ビオチン、塩橋、疎水性相互作用、化学結合、又はUV架橋ベーキングにより、結合を介してもよい。対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドは、固体支持体上で直接合成してもよく、又は合成後に固体支持体に結合してもよい。本発明の検出法で使用するのに好適な固体支持体としては、例えば、ウェル(96ウェルプレートのような)、スライド、シート、メンブレン、繊維、チップ、ディッシュ、及びビーズに形成できる、シリコン、ガラス、プラスチック、紙などで製造される基材が挙げられる。固体支持体は、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド又は標的核酸の固定化を促進するために、処置、コーティング、又は誘導体化されてよい。
【0035】
好ましい実施形態では、ErbB4遺伝子型同定オリゴヌクレオチドは、マイクロチップ、ビーズ、又はガラススライドなどの固体表面上に固定、又は固体表面上で合成されてもよい(国際公開特許第98/20020号及び同第98/20019号を参照)。このような固定化遺伝子型同定オリゴヌクレオチドは、プローブハイブリダイゼーション、及びポリメラーゼ伸長アッセイが挙げられるが、これらに限定されない、様々な多型検出アッセイで用いることができる。固定化ErbB4遺伝子型同定オリゴヌクレオチドは、多数の遺伝子における多型についてDNAサンプルを同時に素早くスクリーニングするよう設計される、規則的に配列されたオリゴヌクレオチドを含んでもよい。
【0036】
個体のErbB4遺伝子の遺伝子型又はハプロタイプは、国際公開特許第95/11995号に記載されるような核酸アレイ及びサブアレイに対する遺伝子の一方又は両方のコピーを含む核酸サンプルをハイブリダイゼーションすることにより、決定してもよい。そのアレイは、遺伝子型又はハプロタイプに含まれる多型部位のそれぞれを表す、一連の対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドを含むであろう。
【0037】
リボプローブ(例えば、Winterら、Proc Natl Acad Sci USA 82:7575,1985、Meyersら、Science 230:1242,1985)及び大腸菌mutSタンパク質などヌクレオチドのミスマッチを認識するタンパク質(例えば、Modrich P.Ann Rev Genet 25:229〜253,1991)を用いるリボヌクレアーゼ保護法が挙げられるが、これらに限定されない、ミスマッチ検出法を用いて多型の同一性を決定してもよい。別の方法としては、一本鎖構造多型解析(例えば、Oritaら、Genomics,5:874〜879,1989、Humphriesら、Molecular Diagnosis of Genetic Diseases,R.Elles,ed.,ページ、321〜340,1996)又は変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)(例えば、Wartellら、Nucl Acids Res 18:2699〜2706,1990、Sheffieldら、Proc Natl Acad Sci USA 86:232〜236,1989)で、変異型対立遺伝子を同定することができる。
【0038】
ポリメラーゼ仲介プライマー伸長法を使用して多型を同定してもよい。対立遺伝子特異的PCR、「Genetic Bit Analysis」法(例えば、国際公開特許第92/15712号)、リガーゼ/ポリメラーゼ仲介遺伝子ビット分析(例えば、米国特許第5,679,524号)、及び米国特許第5,302,509号及び同第5,945,283号に開示される関連方法など、このような方法のうちいくつかが説明されている。多型を含む伸長プライマーは、米国特許第5,605,798号に記載される質量分析法により検出することができる。別のプライマー伸長法は、多型部位の下流にあるヌクレオチドの1か所から数か所に位置する標的領域にハイブリダイズする遺伝子型同定オリゴヌクレオチドを使用する。
【0039】
Wallaceら、(国際公開特許第89/10414号)に記載される対立遺伝子特異的プライマーのセットを用いて、核酸の複数の領域を同時に増幅することにより、複数の多型部位を検討することができる。多型部位を含む2つ以上の領域の同時ターゲティング及び同時増幅に、2セット以上の対立遺伝子特異的プライマー対を使用することができる。更に、2つ以上の別々にラベルされた遺伝子型同定オリゴヌクレオチドを用いて複数の多型を同時に検出し、2つ以上の多型部位におけるヌクレオチドの同一性を同時に探索することができる。
【0040】
好ましい実施形態では、複数の多型をリガーゼ検出反応により検出することができる。リガーゼ検出反応は、ポリメラーゼ系システムでよくみられる干渉がない状態で、いくつかのプライマーセットが目的の遺伝子に沿って連結することができるため、複数のSNPの同時検出に好適である(総説、Favisら、2004,Applications of the Universal DNA Microarray in Molecular Medicine,in Methods in Molecular Medicine、Microarrays in Clinical Diagnostics,T.O.Joos及びP.Fortina,Editors.2004,The Humana Press Inc.USA)。目的の領域を増幅し、次いで、目的の配列に相補的な隣接するオリゴヌクレオチド対を結合する耐熱性リガーゼを用いて、各SNPを同時に検出する。対になったオリゴヌクレオチド間の連結部において、配列が鋳型配列に完全に相補的であるときのみ連結が起こるため、LDRは、野生型とフレームシフト又は点変異配列とを識別する。連結生成物をキャピラリー電気泳動法を用いて検出することができ、蛍光染料でラベルされた3’末端に照会塩基を含むオリゴヌクレオチドを識別する。非ゲノム配列をLDRオリゴヌクレオチドに追加して特定のサイズの生成物を生成するため、キャピラリー系検出システムにおいて、異なるラベル及び移動に基づき連結生成物を区別することができる。
【0041】
別の態様は、多型部位を含む、又は多型部位に近接する1つ以上の標的領域に特異的にハイブリダイズするよう設計されたオリゴヌクレオチドプローブ及びプライマーを含む組成物を提供する。本明細書に記載する新規多型部位における個体の遺伝子型又はハプロタイプを確立する方法及び組成物は、ErbB4タンパク質の発現及び機能、又はその欠損により影響を受ける疾患の原因における、多型の影響を調べるため、ErbB4を標的とする薬剤の有効性を調べるため、ErbB4タンパク質の発現及び機能により影響を受ける疾患に対する個体感受性を予測するため、及び、ErbB4を標的とする薬剤に対する個体の反応性を予測するために有用である。
【0042】
別の態様では、人を遺伝的多様性のタイプに従って分類するのに有用なSNPプローブ又はオリゴヌクレオチドが提供される。SNPプローブ又はオリゴヌクレオチドは、従来の対立遺伝子識別アッセイにおいて、SNP核酸の対立遺伝子間を識別することができる。本明細書で用いるとき、用語、SNP核酸は、個体間又は個体群間で、それがなければ同一であるヌクレオチド配列の中で可変なもの、したがって、対立遺伝子として存在するヌクレオチドを含む。このようなSNP核酸の長さは、好ましくは約15〜約500ヌクレオチドである。SNP核酸は、染色体の一部であってよく、又は例えば、PCR又はクローニングによる染色体のかかる部分の増幅による、染色体の一部の正確なコピーであってよい。
【0043】
SNPプローブ又はオリゴヌクレオチドは、SNP核酸の一方の対立遺伝子に相補的であるが、SNP核酸の他の対立遺伝子に相補的ではない。SNPオリゴヌクレオチドは、様々な方法でSNP核酸の対立遺伝子間を識別することができる。例えば、厳密なハイブリダイゼーション条件下において、適切な長さのオリゴヌクレオチドは、SNP核酸の一方の対立遺伝子とハイブリダイズするが、SNP核酸の他の対立遺伝子とハイブリダイズしないであろう。オリゴヌクレオチドを放射線標識又は蛍光標識でラベルしてよい。別の方法としては、適切な長さのオリゴヌクレオチドは、PCRのプライマーとして使用でき、ここで、3’末端ヌクレオチドはSNP核酸の一方の対立遺伝子に相補的であるが、SNP核酸の他の対立遺伝子に相補的ではない。
【0044】
したがって、一実施形態は、ErbB4遺伝子又はそのフラグメントにおける参照配列の多型変異体であるヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチドを提供する。参照配列は配列番号1を含み、多型変異体は、ヌクレオチド:201 G>Aが挙げられるがこれらに限定されない、少なくとも1つの多型を含む。特に好ましい多型変異体は、自然に発生するErbB4遺伝子配列である。本明細書に記載する単離されたポリヌクレオチド、ゲノム又はcDNAフラグメントは、本明細書で同定される少なくとも1つの新規多型部位を含み、その長さは少なくとも10ヌクレオチドで、最大遺伝子の全長の範囲であってよい。
【0045】
本明細書で同定される多型部位の記述は、便宜上、遺伝子のセンス鎖について記載する。しかし、当業者に認識されるように、ErbB4遺伝子を含む核酸分子は相補的な二本鎖分子であってよく、したがって、センス鎖上の特定の部位に関する記述は、相補的アンチセンス鎖上の対応する部位に対しても同様にあてはまる。したがって、いずれの鎖上の同一多型部位について言及されてよく、多型部位を含む標的領域においてどちらの鎖に対しても特異的にハイブリダイズするよう、オリゴヌクレオチドを設計してよい。したがって、本発明は、本明細書に記載するErbB4遺伝子変異型のセンス鎖に相補的な一本鎖ポリヌクレオチドも含む。
【0046】
一実施形態では、別々の容器にパッケージ化される少なくとも2つの遺伝子型同定オリゴヌクレオチドを含むキットが提供される。このキットは、別々の容器にパッケージ化されるハイブリダイゼーション緩衝液(オリゴヌクレオチドがプローブとして使用される場合)などの他の構成要素を含んでもよい。別の方法としては、オリゴヌクレオチドが標的領域の増幅に用いられる場合、キットは、別々の容器にパッケージ化され、ポリメラーゼ及び、PCRなど、ポリメラーゼにより仲介されるプライマー伸長法に最適化された反応緩衝液を含んでよい。
【0047】
頻度、関連性、及び集団
一態様では、集団におけるErbB4遺伝子型又はハプロタイプの頻度を決定する方法が提供される。この方法は、集団の各メンバーに存在するErbB4遺伝子の遺伝子型又はハプロタイプ対を決定することであって、遺伝子型又はハプロタイプが、配列番号1の201位における多型が挙げられるがこれに限定されない、ErbB4遺伝子内の1つ以上の多型部位で検出されるヌクレオチド対又はヌクレオチドを含むことと、集団で発見される任意の特定の遺伝子型又はハプロタイプの頻度を計算することと、を含む。この集団は、対照集団(例えば、その集団群の1つ以上の特徴を代表すると予測できる個体群)、家族集団、同性集団、人口群(例えば、民族地理的起源、医学的状態、又は治療への反応など一般的な特徴を共有する個体群)、及び形質集団(例えば、医学的状態又は治療的処置への反応など目的の形質を示す個体群)であってよい。
【0048】
別の態様では、形質とErbB4遺伝子型又はハプロタイプとの間の関連性を特定する方法に、対照集団でみられるErbB4遺伝子型及び/又はハプロタイプに対する頻度データが用いられる。この方法の好ましい実施形態では、目的の形質は、いくつかの治療的処置に対して患者が示す臨床反応、例えば、ErbB4を標的とする薬剤に対する反応、又は医学的状態の治療的処置に対する反応である。本明細書で用いるとき、用語、医学的状態としては、治療が望ましい1つ以上の身体的及び/又は精神的症状を示す任意の状態又は疾病が挙げられるがこれらに限定されず、これまでに及び新たに確認された疾病及びその他疾患を含む。
【0049】
関連性の方法には、対照集団並びにその形質を示す集団において、目的の遺伝子型又はハプロタイプの頻度に関するデータを取得することを含む。対照集団及び形質集団の一方又は両方の頻度データを、上述の方法のうち1つを用いて集団内の各個体の遺伝子型又はハプロタイプを同定することにより取得してよい。形質集団のハプロタイプを直接的に、又は別の方法としては、上述のハプロタイプ法に対する予測遺伝子型により決定してもよい。
【0050】
対照集団及び/又は形質集団の頻度データを、書面又は電子的形態であってよい事前に決定された頻度データにアクセスすることにより取得することができる。例えば、頻度データは、コンピュータでアクセス可能なデータベースに存在してよい。頻度データを得たら、対照集団及び形質集団における目的の遺伝子型又はハプロタイプの頻度を比較する。好ましい実施形態では、対照集団で観察されたすべての遺伝子型の頻度を比較する。ErbB4遺伝子の特定の遺伝子型又はハプロタイプが、対照集団よりも形質集団で統計学的に有意な量でより頻度が高い場合、その形質が、ErbB4遺伝子型又はハプロタイプと関連すると予測される。
【0051】
別の態様では、目的のErbB4遺伝子型又はハプロタイプと連鎖不平衡にある検出可能な遺伝子型又はハプロタイプを、代用マーカーとして使用することができる。ErbB4遺伝子型と連鎖不平衡にある遺伝子型は、ErbB4遺伝子についての特定の遺伝子型又はハプロタイプが、可能性のある代用マーカー遺伝子型をも示す集団において、対照集団よりも統計学的に有意な量で高い頻度かどうかを決定することにより発見することができ、次いで、このマーカー遺伝子型をErbB4遺伝子型又はハプロタイプと関連していると予測し、続いてErbB4遺伝子型の代わりに代用マーカーとして使用できる。
【0052】
治療に対する臨床反応とErbB4遺伝子型又はハプロタイプとの間の相関を推定するために、治療を受けた個体の集団(以後「臨床集団」と呼ぶ)が示す臨床反応に対するデータを得ることが必要である。この臨床データは、既に行われている臨床試験の結果の解析により得てよく、及び/又は、臨床データは1つ以上の新たな臨床試験を計画する及び実施することにより得てよい。本明細書で用いるとき、用語、臨床試験は、特定の治療に対する反応における臨床データを収集するために計画された任意の研究試験を意味し、第I相、第II相、及び第III相臨床試験を含むが、これらに限定されない。標準法を使用して患者集団を定義し、被験者を登録する。本明細書で用いるとき、用語、臨床反応は、反応あり、反応なし、及び有害反応(すなわち副作用)の定量測定のうち、いずれか又はすべてを意味する。
【0053】
臨床集団に含まれる個体が、目的の医学的状態の存在について等級付けされていることが好ましい。これは、患者が呈している症状が2つ以上の基礎疾患に起因し得る場合、及びその基礎疾患に対する治療が同一でない場合に重要である。この例としては、患者が、喘息又は呼吸器感染のいずれかにより呼吸困難を経験することであろう。両症状を喘息治療薬で治療したとき、実際に喘息ではなかった見かけ上の非反応者の疑似群が存在するであろう。これらの人々は、遺伝子型/ハプロタイプと治療結果との間の相関を検出する能力に影響するであろう。この可能性のある患者の等級付けに、標準的な理学的検査又は1つ以上の検体検査を利用することができる。別の方法としては、ハプロタイプ対と疾患感受性又は重篤度との間に強い相関がある状況のとき、患者の等級付けにハプロタイプ同定を使用することができる。
【0054】
目的の治療的処置は、試験集団内の各個体への投与であり、その治療に対する各個体の反応を1つ以上の所定の基準を用いて測定する。多くの場合、試験集団は様々な反応を示し、試験者は、種々の反応により集計された反応者群(例えば、低、中、高)の数を選択することが意図される。
【0055】
臨床集団又は試験集団における各個体のErbB4遺伝子の、遺伝子型及び/又はハプロタイプが決定され、これらは治療を施す前又は後であってよい。臨床及び多型データの両方を得た後、個々の反応とErbB4遺伝子型又はハプロタイプの内容との間の相関を作成する。相関はいくつかの方法で作成できる。1つの方法では、個体をErbB4遺伝子型又はハプロタイプ(又はハプロタイプ対)(多型群とも呼ぶ)によりグループ分けし、次いで、各多型群のメンバーが示す臨床反応の平均及び標準偏差を計算する。
【0056】
次いでこれらの結果を解析し、多型群間における観察された臨床反応変化が統計的有意であるか否かを決定する。使用し得る統計解析法は、L.D.Fisher及びG.vanBelle、「Biostatistics:A Methodology for the Health Sciences」、Wiley−Interscience(New York)1993に記載されている。この解析はまた、ErbB4遺伝子のどの多型部位が、表現型の差異に最も顕著に関与するかについての回帰計算も含む。
【0057】
エラー最小化最適アルゴリズムに基づく予測モデルを使用して、相関を解析することもできる。考えられる多くの最適化アルゴリズムのうちの1つは遺伝的アルゴリズムである(例えば、R.Judson、「Genetic Algorithms and Their Uses in Chemistry」、in Reviews in Computational Chemistry、第10巻、ページ1〜73、K.B.Lipkowitz及びD.B.Boyd,eds.(VCH Publishers,New York,1997)。シミュレーテッドアニーリング(例えば、Pressら、「Numerical Recipes in C:The Art of Scientific Computing」、Cambridge University Press(Cambridge)1992,Ch.10)、神経回路網(例えば、E.Rich及びK.Knight、「Artificial Intelligence」、第2版(McGraw−Hill,New York,1991,Ch.18)、標準的勾配降下法(例えば、Pressら、上記Ch.10)、又はその他大域的又は局所的最適化法(上記Judsonの考察を参照)も使用できる。更に、2000年6月26日に出願された「Methods for Obtaining and Using Haplotype Data」という表題のPCT出願に記載される遺伝的アルゴリズム法を用いて、相関を見出し得る。
【0058】
Bonferoni法で補正した一般線形モデル、及び/又は、遺伝子型−表現型相関を何度もシミュレートして有意値を計算するブートストラップ若しくは置換法を用いることにより、統計解析を実施できる。多くの多型を解析するとき、因子の補正を行い、偶然発見されるであろう重要な関連性を補正してよい。本明細書に記載する方法において使用する統計法については、Statistical Methods in Biology,3rd edition,Bailey NTJ,Cambridge Univ.Press(1997)、Introduction to Computational Biology,Waterman MS,CRC Press(2000)、及びBioinformatics,Baxevanis AD and Ouellette BFF editors(2001)John Wiley & Sons,Inc.を参照されたい。
【0059】
上記の解析から、ErbB4遺伝子型又はハプロタイプ内容の関数として臨床反応を予測する数学的モデルを、当業者は容易に構築することができる。好ましくは、このモデルを検査するよう計画された1つ以上の追加臨床試験において、モデルを検証する。
【0060】
臨床反応と、ErbB4遺伝子の遺伝子型、ハプロタイプ、又はハプロタイプ対との間の関連性の同定は、治療に反応する個体又は反応しない個体、又は別の方法としては、低濃度で反応するため、更なる治療、すなわちより高用量の薬剤又は異なる薬剤を必要とする個体を決定するための、診断方法を設計する根拠とすることができる。診断方法は、例えば、直接DNA検査(すなわち、ErbB4遺伝子における1つ以上の多型部位の遺伝子型同定又はハプロタイプ同定)、血清学的検査、又は理学的検査測定など、数種の形態のうち1つを選択してよい。唯一の要件は、診断検査結果と、基本的なErbB4遺伝子型又はハプロタイプ(これらは同様に臨床反応に相関する)との間に良好な相関があることである。好ましい実施形態では、この診断方法は、上述の予測的遺伝子型同定法を使用する。
【0061】
コンピュータは、本発明の方法の実施に関与する任意又はすべての解析的及び数学的手法を実施することができる。更に、コンピュータは、ディスプレイ装置上に表示される画像(又はスクリーン)を作るプログラムを実行でき、それにより使用者が操作して、染色体位置、遺伝子構造、及び遺伝子ファミリー、遺伝子発現データ、多型データ、遺伝子配列データ、及び臨床データ集団データ(例えば、1つ以上の集団の民族地理的起源、臨床反応、遺伝子型、及びハプロタイプのデータ)を含む、ErbB4遺伝子及びそのゲノム変異に関連する大量の情報を確認し、解析することができる。本明細書に記載するErbB4多型データは、リレーショナルデータベース(例えば、Oracleデータベースの事例又は一連のASCIIフラットファイル)の一部として保存してよい。これらの多型データを、コンピュータのハードディスクに保存してよく、又は、例えばCD−ROM又はコンピュータによりアクセス可能な1つ以上の他の記憶装置に保存してよい。例えば、ネットワークを介してコンピュータと接続する1つ以上のデータベース上にデータを保存してよい。
【0062】
別の実施形態では、遺伝子型又はハプロタイプと形質との間の関連性を特定する方法を提供する。好ましい実施態様では、この形質は、疾病に対する感受性、疾病の重篤度、疾病の病期、又は薬剤に対する反応である。かかる方法は、遺伝子型と、有効性判定結果、薬物動態学的測定結果、及び副作用判定結果を含む治療結果との間に関連する可能性のある、すべての薬理遺伝学的適用に関する診断検査及び治療的処置の開発において適用可能である。
【0063】
用語及び定義
以下の用語及び定義を提供し、本明細書で頻繁に使用されるいくつかの用語の理解を容易にする。
【0064】
本明細書で用いるとき、用語、精神障害は、精神病症状が以下を非限定的に含む症状を起こし得る、又は起こす、任意の病的精神状態を意味するものとする(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 4th Edition(DSM−IV)Francis A editor,American Psychiatric Press,Wash,DC,1994も参照のこと)。
【0065】
統合失調症
統合失調症、緊張型、亜慢性、(295.21)、
統合失調症、緊張型、慢性(295.22)、
統合失調症、緊張型、急性増悪を伴う亜慢性(295.23)、
統合失調症、緊張型、急性増悪を伴う慢性(295.24)、
統合失調症、緊張型、緩解期(295.55)、
統合失調症、緊張型、不特定(295.20)、
統合失調症、解体型、亜慢性(295.11)、
統合失調症、解体型、慢性(295.12)、
統合失調症、解体型、急性増悪を伴う亜慢性(295.13)、
統合失調症、解体型、急性増悪を伴う慢性(295.14)、
統合失調症、解体型、緩解期(295.15)、
統合失調症、解体型、不特定(295.10)、
統合失調症、妄想型、亜慢性(295.31)、
統合失調症、妄想型、慢性(295.32)、
統合失調症、妄想型、急性増悪を伴う亜慢性(295.33)、
統合失調症、妄想型、急性増悪を伴う慢性(295.34)、
統合失調症、妄想型、緩解期(295.35)、
統合失調症、妄想型、不特定(295.30)、
統合失調症、未分化型、亜慢性(295.91)、
統合失調症、未分化型、慢性(295.92)、
統合失調症、未分化型、急性増悪を伴う亜慢性(295.93)、
統合失調症、未分化型、急性増悪を伴う慢性(295.94)、
統合失調症、未分化型、緩解期(295.95)、
統合失調症、未分化型、不特定(295.90)、
統合失調症、残遺型、亜慢性(295.61)、
統合失調症、残遺型、慢性(295.62)、
統合失調症、残遺型、急性増悪を伴う亜慢性(295.63)、
統合失調症、残遺型、急性増悪を伴う慢性(295.94)、
統合失調症、残遺型、緩解期(295.65)、
統合失調症、残遺型、不特定(295.60)、
妄想性(パラノイア)障害(297.10)、
短期反応精神病(298.80)、
統合失調症様障害(295.40)、
統合失調感情障害(295.70)、
物質誘発性精神障害(297.30)、
精神障害NOS(非定型精神病)(298.90)
【0066】
情動障害
大うつ病性障害、精神病性特徴を伴う重症(296.33)
双極I型障害、単一躁病エピソード、精神病性特徴を伴う重症(296.23)
双極I型障害、最も新しいエピソードが軽躁病(296.43)
双極I型障害、最も新しいエピソードが躁病、精神病性特徴を伴う重症(296.43)
双極I型障害、最も新しいエピソードが混合、精神病性特徴を伴う重症(296.63)
双極I型障害、最も新しいエピソードが抑うつ、精神病性特徴を伴う重症(296.53)
双極I型障害、最も新しいエピソードが不特定(296.89)
双極II型障害(296.89)
気分循環性障害(301.13)
双極性障害NOS(366)
気分障害、(全身状態)によるもの(293.83)
気分障害NOS(296.90)
行為障害、単独攻撃型(312.00)、
行為障害、未分化型(312.90)、
トゥレット障害(307.23)、
慢性運動性又は音声チック障害(307.22)、
一過性チック障害(307.21)、
チック障害NOS(307.20)、
【0067】
精神活性物質使用障害
アルコール離脱性せん妄(291.00)、
アルコール幻覚症(291.30)、
アルコール依存症に伴うアルコール認知症(291.20)、
アンフェタミン又は同作用の交感神経作用薬中毒(305.70)、
アンフェタミン又は同作用の交感神経作用薬せん妄(292.81)、
アンフェタミン又は同作用の交感神経作用薬妄想性障害(292.11)、
大麻妄想性障害(292.11)、
コカイン中毒(305.60)、
コカインせん妄(292.81)、
コカイン妄想性障害(292.11)、
幻覚剤幻覚症(305.30)、
幻覚剤妄想性障害(292.11)、
幻覚剤気分障害(292.84)、
幻覚剤幻覚剤後知覚障害(292.89)、
フェンシクリジン(PCP)又は同作用のアリールシクロヘキシルアミン中毒(305.90)、
フェンシクリジン(PCP)又は同作用のアリールシクロヘキシルアミンせん妄(292.81)、
フェンシクリジン(PCP)又は同作用のアリールシクロヘキシルアミン妄想性障害(292.11)、
フェンシクリジン(PCP)又は同作用のアリールシクロヘキシルアミン気分障害(292.84)、
フェンシクリジン(PCP)又は同作用のアリールシクロヘキシルアミン器質性精神障害NOS(292.90)、
その他又は不特定の精神活性物質中毒(305.90)、
その他又は不特定の精神活性物質せん妄(292.81)、
その他又は不特定の精神活性物質認知症(292.82)、
その他又は不特定の精神活性物質妄想性障害(292.11)、
その他又は不特定の精神活性物質幻覚症(292.12)、
その他又は不特定の精神活性物質気分障害(292.84)、
その他又は不特定の精神活性物質不安障害(292.89)、
その他又は不特定の精神活性物質人格障害(292.89)、
その他又は不特定の精神活性物質器質性精神障害NOS(292.90)
せん妄(293.00)、
認知症(294.10)、
強迫性障害(300.30)、
間欠性爆発性障害(312.34)、
衝動制御障害NOS(312.39)
【0068】
人格障害
人格障害、妄想型(301.00)、
人格障害、統合失調様型(301.20)、
人格障害、統合失調型(301.22)、
人格障害、反社会型(301.70)、
人格障害、境界型(301.83)
【0069】
用語、抗精神病薬又は抗精神病剤は、本明細書で用いるとき、精神障害の人の精神病の症状を低減又は回復するために用いられる任意の薬物を意味し、以下の化合物:マレイン酸アセトフェナジン、臭化水素酸アレンテモール、アルペルチン、アザペロン、マレイン酸バテラピン、ベンペリドール、塩酸ベンズインドピリン、ブロホキシン、ブロムペリドール、デカン酸ブロムペリドール、塩酸ブタクラモール、ブタペラジン、マレイン酸ブタペラジン、マレイン酸カルフェナジン、塩酸カルボトロリン、クロルプロマジン、塩酸クロルプロマジン、クロルプロチキセン、シンペレン、シントリアミド、リン酸クロマクラン、クロペンチキソール、クロピモジド、メシル酸クロピパザン、塩酸クロロペロン、クロチアピン、マレイン酸クロチキサミド、クロザピン、塩酸シクロフェナジン、ドロペリドール、塩酸エタゾラート、フェニミド、フルシンドール、フルメザピン、デカン酸フルフェナジン、エナント酸フルフェナジン、塩酸フルフェナジン、フルスピペロン、フルスピリレン、フルトロリン、塩酸ゲボトロリン、ハロペミド、ハロペリドール、デカン酸ハロペリドール、イロペリドン、塩酸イミドリン、レンペロン、コハク酸マザペルチン、メソリダジン、ベシル酸メソリダジン、メチアピン、ミレンペロン、ミリペルチン、塩酸モリンドン、塩酸ナラノール、塩酸ネフルモジド、オカペリドン、オランザピン、オキシペロミド、ペンフルリドール、マレイン酸ペンチアピン、ペルフェナジン、ピモジド、塩酸ピノキセピン、ピパンペロン、ピペラセタジン、パルミチン酸ピポチアジン、塩酸ピキンドン、エジシル酸プロクロルペラジン、マレイン酸プロクロルペラジン、塩酸プロマジン、クエチアピン、レモキシプリド、塩酸レモキシプリド、リスペリドン、塩酸リムカゾール、塩酸セペリドール、セルチンドール、セトペロン、スピペロン、チオリダジン、塩酸チオリダジン、チオチキセン、塩酸チオチキセン、塩酸チオペリドン、塩酸チオスピロン、塩酸トリフルオペラジン、トリフルペリドール、トリフルプロマジン、塩酸トリフルプロマジン、及び塩酸ジプラシドンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
対立遺伝子−その特定のヌクレオチド配列によって他の形態から区別される遺伝子座の特定の形態。
【0071】
遺伝子−制御されたRNA生成物の生合成のための情報をすべて包含する、プロモーター、エキソン、イントロン、及び発現を制御する他の非翻訳領域を含むDNA断片。
【0072】
遺伝子型−個体中の一対の相同染色体上の遺伝子座内にある1つ以上の多型部位に認められるヌクレオチド対の非位相5’〜3’配列。
【0073】
遺伝子型同定−個体の遺伝子型を決定するためのプロセス。
【0074】
ハプロタイプ−単一個体由来の単一染色体上の遺伝子座内にある1つ以上の多型部位に認められるヌクレオチドの5’〜3’配列。
【0075】
ハプロタイプ対−単一個体中の遺伝子座に認められる2つのハプロタイプ。
【0076】
ハプロタイプ同定−個体中の1つ以上のハプロタイプを決定するための、家系図、分子学的手法、及び/又は、統計学的推測の使用を含むプロセス。
【0077】
同一性−配列を比較することにより判定される、2つ以上のポリペプチド配列間又は2つ以上のポリヌクレオチド配列間の関係。一般に、同一性は、2つのポリヌクレオチド又は2つのポリペプチド配列の、それぞれヌクレオチド対ヌクレオチド、又はアミノ酸対アミノ酸の正確な一致を意味し、配列の長さ全体が比較される。
【0078】
単離された−RNA、DNA,オリゴヌクレオチド、又はタンパク質などの生物学的分子に対して適用される場合、単離されたとは、その分子が、核酸、タンパク質、脂質、炭水化物、又は他の物質(例えば、細胞片および培養培地)などの他の生物学的分子を実質的に含まないことを意味する。一般に、用語「単離された」とは、本発明の方法を実質的に妨害する量で存在しない限り、そのような物質が完全に存在しないこと、又は、水、緩衝液、若しくは塩が存在しないことを表すことを意図しない。
【0079】
連鎖不平衡−遺伝子のマーカーのある組み合わせが、集団内で、その離れている距離から予測されるよりも頻度が多く、又は少なく起こる状態。これは、マーカー群が協調的に遺伝されたことを意味する。これは、領域内の組み換えの減少、又は、マーカーの1つが集団内に挿入されたため、平衡に達するのに十分な時間がなかった創始者効果に由来する場合がある。
【0080】
遺伝子座−遺伝子又は身体的特徴若しくは表現型特徴に対応する、染色体又はDNA分子上の位置。
【0081】
位相−遺伝子座中の2つ以上の多型部位に対するヌクレオチド対の配列に適用される場合、位相とは、その遺伝子座のうちの1つのコピー上の多型部位に存在するヌクレオチドの組み合わせが既知であることを意味する。
【0082】
非位相−遺伝子座中の2つ以上の多型部位に対するヌクレオチド対の配列に適用される場合、非位相とは、その遺伝子座のうちの1つのコピー上の多型部位に存在するヌクレオチドの組み合わせが既知でないことを意味する。
【0083】
ポリヌクレオチド−任意のポリリボヌクレオチド(RNA)又はポリデオキシリボヌクレオチド(polydeoxribonucleotide)(DNA)、非修飾の又は修飾されたRNA又はDNAであってよい。ポリヌクレオチドとしては、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖及び二本鎖RNA、並びに一本鎖及び二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖であってよく、又はより典型的には、二本鎖若しくは一本鎖及び二本鎖領域の混合物であってよいDNA及びRNAを含むハイブリッド分子が非限定的に挙げられる。更に、ポリヌクレオチドは、RNA若しくはDNA、又はRNA及びDNAの両方を含む三本鎖領域を意味する。用語、ポリヌクレオチドには、1つ以上の修飾塩基を含有するDNA又はRNA、及び、安定性若しくは他の理由により修飾された主鎖を有するDNA又はRNAも含む。修飾塩基としては、例えば、トリチル化塩基、及びイノシンなどの通常ではない塩基が挙げられる。DNA及びRNAに様々な修飾をしてよく、したがって、ポリヌクレオチドは、典型的に天然に認められるポリヌクレオチドの化学的、酵素的又は代謝的に修飾された形態、並びにウイルス及び細胞のDNA及びRNAの特徴を有する化学的形態を包含する。「ポリヌクレオチド」は、比較的短いポリヌクレオチドも包含し、それらは多くの場合オリゴヌクレオチドと呼ばれる。
【0084】
ポリペプチド−互いにペプチド結合又は修飾ペプチド結合、すなわち、ペプチドアイソスターで連結された2つ以上のアミノ酸を含む任意のポリペプチド。ポリペプチドは、一般にペプチド、オリゴペプチド又はオリゴマーと呼ばれる短鎖、及び一般にタンパク質と呼ばれる長鎖の両方を意味する。ポリペプチドは、20種の遺伝子がコードするアミノ酸以外のアミノ酸を含んでよい。ポリペプチドは、翻訳後プロセシングなどのような天然プロセスにより、又は当該技術分野において既知の化学修飾技術により修飾されたアミノ酸配列を含む。このような修飾は基本的なテキスト、より詳細なモノグラフ、並びに多数の研究文献に多く記載されている。修飾は、ペプチド主鎖、アミノ酸側鎖、及びアミノ末端又はカルボキシル末端など、ポリペプチド内の任意の場所で起こってよい。
【実施例】
【0085】
実施例1:患者、コホート、及び表現型
臨床試験番号1〜4のパリペリドン処置群をプールし、遺伝的関連性を調べた。試験番号1〜3は、パリペリドンERの第III相試験であり、試験番号4はパルミチン酸パリペリドンの第II/III相試験であった。遺伝的関連性の当初の結果を確認するため、パルミチン酸パリペリドン第III相臨床試験(番号5〜8)並びにパリペリドンER第III/IV相試験(番号9及び10)を含む、追加のパリペリドン処置コホートを評価した。この結果を、試験番号1〜4及び6〜10のプラシーボ群、試験番号1〜3及び11のオランザピン群、試験番号9のクエチアピン群、並びに試験番号5及び11のRisperdal Consta群について更に調べた。
【0086】
試験番号1〜3は、統合失調症の被験者の急性治療におけるパリペリドン−ERの有効性かつ安全性を評価するよう計画された、無作為化二重盲検プラシーボ及び実薬対照第III相試験であった。統合失調症の陽性及び陰性症状(PANSS)スコアが70〜120である活性症状を呈する統合失調症の患者を組み込み、異なる治療群に無作為化した。3mg、6mg、9mg、12mg、又は15mgのパリペリドン−ER、10mgのオランザピン、又はプラシーボ錠剤を1日1回6週間にわたり患者に投与した。主要有効性変数/主要時点は、投与前から投与後までの総PANSSスコアの変化であった。投与前値は、二重盲検された治験薬の投与第1日より前、又は当日の最後の診察による測定値であり、投与後値は、二重盲検期間の終了時点、又は二重盲検期間中の最後の投与開始後観察による測定値であった。試験番号1〜3の臨床試験計画及び結果の詳細は、別に記載した(Marderら、Biol Psychiatry.2007,62:1363〜70、Davidsonら、Schizophr Res.2007,93:117〜30、Kaneら、Schizophr Res.2007,90:147〜61.電子出版)。
【0087】
試験番号4は、統合失調症の被験者における50及び100mg当量の一定用量のパルミチン酸パリペリドンの長時間作用性注射剤の有効性かつ安全性を評価するための、無作為化二重盲検プラシーボ対照第II/IIIの相試験であった。被験者の総PANSSスコアが、スクリーニング時に70〜120、二重盲検治療の開始1日前に60〜120であることが要求された。主要有効性変数は、二重盲検化治療期間の開始時から二重盲検化治療期間の最後の無作為化後評価時までの総PANSSスコアの変化であった。
【0088】
試験番号5は、パルミチン酸パリペリドン及びRisperdal Constaの無作為化二重盲検並行群間比較試験であった。総PANSSスコアが60〜120の被験者を組み入れ、4週間ごとに25、50、75、又は100mg当量の可変用量のパルミチン酸パリペリドン、又は2週間ごとに25、37.5、又は50mgの可変用量のRisperdal Constaが投与された。被験者は、試験の最初の4週間の間、Risperdal Consta群において1〜6mg/日の経口リスペリドンサプリメントを、又はパルミチン酸パリペリドン群においてプラシーボを投与された。これは、期間中に有効性、安全性、及びPKを定期的に評価する、53週間の長期投与試験であった。主要有効性変数は、投与前から投与後までの総PANSSスコアの変化であった。13週でのPANSSスコアを遺伝学研究に用いた。
【0089】
試験番号6及び7は、統合失調症の被験者における、25、50、100、又は150mg当量の一定用量のパルミチン酸パリペリドンの有効性かつ安全性を評価するための、13週間無作為化二重盲検プラシーボ対照並行群間用量反応試験であった。総PANSSスコアが70〜120の被験者を組み入れた。主要有効性変数は、投与前から二重盲検化治療期間中の最後の無作為化後評価時までの総PANSSスコアの変化であった。
【0090】
試験番号8は、3つの一定用量のパルミチン酸パリペリドン(25、100、又は150mg当量)とプラシーボの有効性、安全性、及び忍容性を比較するための、13週間二重盲検無作為化プラシーボ対照並行群間多施設共同用量反応試験であった。二重盲検治療期間の開始時に、統合失調症の被験者を、同例数の4つの治療群(25、100、若しくは150mg当量のパルミチン酸パリペリドン、又はプラシーボ)のうちの1つに無作為に割り当てた。全被験者は、第1日に、150mg当量のパルミチン酸パリペリドン、又は相当するプラシーボを三角筋内に注射された。主要有効性変数/時点は、投与前から投与後までの総PANSSスコアの変化であった。
【0091】
試験番号9は、入院を必要とする最近の統合失調症の急性増悪患者における、後続する任意の多剤投与期間を伴うパリペリドン−ER及びクエチアピンの単剤療法の効果を比較する、6週間二重盲検プラシーボ対照試験であった。被験者を、パリペリドン−ER、クエチアピン、又はプラシーボに、2:2:1の割合で無作為化した。この試験は、2週間の単剤療法期間と、それに続く4週間の追加療法期間から構成された。標的用量は、9又は12mg/日にパリペリドン−ER、及び600又は800mg/日のクエチアピンであった。試験終了時の総PANSSスコアの変化を遺伝学研究に用いた。
【0092】
試験番号10は、プラシーボ及びパリペリドン−ER(3〜12mg/日、増減3mgずつ)の2つの治療群を1:2の割合で用いる、無作為化二重盲検プラシーボ対照並行群間可変用量試験であった。この試験は、5日間のスクリーニング及び休薬期間、並びに6週間の二重盲検期間から構成された。二重盲検期間に続き、適格被験者を、パリペリドン−ERの52週間延長非盲検試験に組み入れることができた。主要有効性変数/時点は、総PANSSスコア、個人的及び社会的機能遂行度尺度(Personal and Social Performance Scale(PSP))、臨床全般印象−重篤度(Clinical Global Impression-Severity(CGI-S))、及び、4訂統合失調症QOL尺度(Schizophrenia Quality of Life Scale Revision 4(SQLS-R4))スコアの変化であった。すべて投与前から投与後の変化である。
【0093】
試験番号11は、統合失調症又は統合失調性の被験者において全期間12か月で行われた、非盲検無作為化国際多施設共同可変用量試験であった。この試験は、第1部が1週〜13週からなり、第2部が14週〜53週からなる、2部に分けられた。組み入れ期間中に被験者の最適な経口用量が設定され、2週間ごとの25、50、又は75mgのリスペリドン長時間作用性注射剤の所定用量に変換されるか、又は組み入れ期間中の最後の用量である1日1回5、10、15、又は20mgのオランザピン錠剤の投与を継続した。
【0094】
上記臨床試験において任意の薬理ゲノム学的部分に同意した被験者から採取したDNAを遺伝学研究で解析した。簡潔にいえば、被験者から血液サンプルを採取し、ゲノムDNAを抽出した。各被験者の約2μgのゲノムDNAについて、Infinium IIプラットフォーム(Illumina,San Diego,CA)に基づく特注SNPマイクロアレイにより、遺伝子型を同定した。特注マイクロアレイには、ErbB4遺伝子のrs6435681に対応するオリゴヌクレオチドを含む、29,080のオリゴヌクレオチドが含まれる。成功した遺伝子座における平均遺伝子型同定コールレートは99.73%であり、2回繰り返しサンプル67組の遺伝子型同定データに基づく再現率は99.6%であった。2つの3組の遺伝子型同定データに基づくメンデル整合性は、2.6×10-5であった。
【0095】
初期の遺伝的関連研究の結果を確認するため、マルチプレックスリガーゼ検出反応アッセイを遺伝子型同定に用いた。約150ngのゲノムDNAを、Luoら、1996及びFavisら、2000(Favisら、2000,Nat Biotechnol.18:561〜4、Luoら、1996,Nucleic Acids Res.24:3071〜8)に従って、リガーゼ系遺伝子型同定アッセイに用いた。薬理ゲノム学的解析における臨床評価項目は、投与前から、二重盲検治療期間の終了時点(試験1〜4、6〜10について)、又は最初の13週の終了時点(試験番号5及び11について)までの以下の7つの尺度(総PANSSスコア(Kay S Rら、1987,Schizophrenia Bulletin 13;2:261〜276)、5つのPANSS Marder因子スコア(Marderら、1997,J Clin Psychiatry 58:538〜46)、及びLindenmayer興奮下位尺度(Lindenmayerら、2004,Schizophr Res.68:331〜7))の変化である。
【0096】
実施例2:統計解析
試験番号1〜4から543人の白色人種を含む685人のパリペリドン処置被験者について、初期遺伝的関連性研究を実施した。すべての解析を、SASソフトウェアパッケージ(バージョン9.1.3)を用いて行った。7つの有効性評価項目は実施例1に記載するものとした。共変量及び表現型−遺伝子型の関連性を調べるのために、一般線形モデルを適用した。性別、人種、国籍、試験、投与量、診断時年齢、罹患期間、疾病サブタイプ、及び投与前スコアなど多数の変数を調べた。重要な共変量(診断時年齢、国籍、投与量、及び投与前スコア)を最終モデルに含めた。年齢及び投与前スコアの共変量を連続型変数として含め、国籍及び投与量の共変量を、カテゴリー変数として含めた。また、一般モデル、付加モデル、優性モデル、及び劣性モデルの4つの遺伝モデルを考慮した。各有効性評価項目及び各遺伝モデルにおいて、rs6435681又は配列番号1の201 G>Aの多型におけるSNPについて、関連性を検査した。偽発見率(False discovery rate)を、関連性試験によるp値の経験分布に基づいて計算した。この解析は白色人種の被験者のみで実施した。全人種の被験者について、追加解析を更に実施した。
【0097】
実施例3:有効性結果
試験1〜4の被験者を含む初期遺伝的関連性研究では、投与前から試験終了時までの総PANSSスコアの変化が、ErbB4遺伝子内のSNPマーカーrs6435681と有意に関連することを明らかにした(未補正p値:8.2×10-7;Bonferroni補正後p値:0.02)。このSNPに遺伝子型AAの患者は、遺伝子型GG/GAの患者と比較して、基準値、つまり二重盲検治療前からの総PANSSスコアの減少がより小さかった。総PANSSスコアの平均減少値は、遺伝子型GG又はGAの患者(N=659)で17.8であり、遺伝子型AAの患者(N=25)で0.6であった。遺伝子型GG/GAの患者の29%が、投与前から30%以上の総PANSSスコアの減少を示し、遺伝子型AAの患者の8%が同程度の総PANSSスコアの減少を示した。
【0098】
これらの試験のプラシーボ群では、rs6435681の遺伝子型AAの患者は、遺伝子型GG/GAの患者と比較して、総PANSSスコアの減少がより大きかった(p値:0.03)。プラシーボ群において、総PANSSスコアの平均減少値は、遺伝子型AAの患者(N=16)で13.7であり、遺伝子型GG又はGAの患者(N=242)で0.6であった。プラシーボ群において、遺伝子型AAの患者の19%が、30%以上の総PANSSスコアの減少を示し、遺伝子型GG又はGAの患者の13%が同程度の減少を示した。
【0099】
初期遺伝学研究の結果を確認するため、初期遺伝的関連性研究と同一の臨床評価項目(すなわち、総PANSS、Marder陽性因子、及びMarder解体型思考因子)及び同一の遺伝モデル(すなわち、劣性)を用いて、更なる解析を実施した。この解析は全人種の被験者について実施した。総PANSSスコアの変化における未補正P値が治療患者群で0.026、プラシーボ群で0.017であり、試験番号8について同様の遺伝的影響が観察された。この実験は多重検定において補正後に統計的に有意ではなかったが、試験番号8において、遺伝子型群全体で総PANSSの変化に最初の実験と同じ傾向が観察された。更に、個人的及び社会的機能遂行度(PSP)尺度の変化における予備解析では、治療患者における、配列番号1の201位の同一多型部位におけるSNPとの関連性について、強力な証拠を示した(P=0.008)。
【0100】
試験番号5〜7及び9〜10のプールした複製実験において、同様の遺伝的影響は観察されなかった(p値は有意でない)。これは、投与レジメンが最適ではなかったか、又は比較的サンプルサイズが小さかったことによるものだろう。更に、オランザピン、リスペリドン、及びクエチアピンで治療された被験者では、同様の遺伝的影響は観察されなかった。これは、サンプルサイズが限られたことによるものだろう。これら実施例3の結果は、配列番号1の201位の多型部位におけるSNPは、パリペリドンの有効性を他の抗精神病剤と区別するのに使用できることを示す。
【0101】
実施例4.追加の表現型解析
配列番号1の201 G>Aにおける多型が、このSNPでの遺伝子型と相関する遺伝的有効性評価項目以外の表現型によるものかどうかを調べるため、関連する可能性のある表現型の分布を更に調べた。これらの表現型を4つのカテゴリーに分類した。
1.個体群統計及び精神医学的病歴:性別、年齢、BMI、人種、国籍、診断時年齢、罹患期間、疾病サブタイプ、抗うつ剤の使用、抗ヒスタミン剤の使用、過去の入院回数、投与前の総PANSSスコア、及び投与前の臨床全般印象−重篤度(CGI−S)尺度。
2.薬物暴露:試験、治療群、中止/早期中止。
3.有害事象:治療により発生したAE、重篤なAE、投与中止に至るAE、及び錐体外路症状(EPS)関連AE。
4.薬物動態学:計測値濃度及び用量補正後濃度から算出されるAUC(血漿中パリペリドン濃度曲線下面積)。
【0102】
遺伝子型AAの被験者における各表現型の分布を、非AA遺伝子型、すなわちGG又はGAをの被験者の分布と比較した。表現型分布がカテゴリー型のとき、カイ二乗検定に対して、カテゴリー型表現型の次元が多すぎない、かつ自由度が高すぎない限り、カイ二乗検定を実施してAAと非AA遺伝子型との表現型分布を比較した。表現型分布が連続型のとき、ANOVA又はWilcoxon順位和検定のいずれかを実施して、AAと非AA遺伝子型との分布を比較した。更に、表現型分布がほぼ正規であったときANOVA検定を行い、正規の仮説から大きく離れたときWilcoxon順位和検定を行った。解析は、パリペリドン及びプラシーボ群を別々に、並びに白色人種及び全人種の被験者を別々に実施した。
【0103】
配列番号1の201 G>Aの多型における遺伝子型と有意に相関する唯一の表現型は、中止/早期中止であった。パリペリドン群では、遺伝子型AAの被験者の47.8%が、非AA遺伝子型の被験者の27.4%と比較して、より高い中止/早期中止率を有し(p値=0.05)、白色人種の48%が、全人種の被験者の31.6%と比較して、より高い中止/早期中止率を有した(p値=0.12)。プラシーボ群では、遺伝子型AAの被験者の33.3%が、非AA遺伝子型の被験者の65.4%と比較して、より低い中止/早期中止率を有し(p値=0.03)、白色人種の31.3%が、全人種の被験者の62%と比較して、より低い中止/早期中止率を有した(p値=0.02)。これについて考えられる説明を探索するため、中止/早期中止の理由を更に調べた。中止/早期中止の大部分が有効性の欠如によるものであり、実施例3と同じ傾向であった。他の表現型では有意な相関はみられなかった。実施例4の結果は、配列番号1の201 G>Aにおける多型の妥当性が、本明細書で調べた表現型により影響を受けないことを示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パリペリドン、並びにその薬剤として許容される塩及びエステルからなる群から選択される非定型抗精神病剤による治療に対して患者が反応する可能性を予測する方法であって、
a)前記患者のErbB4遺伝子の2つの対立遺伝子のヌクレオチド配列を分析することと、
b)前記ErbB4遺伝子の多型部位における遺伝子型を決定することであって、前記多型部位が配列番号1の201位であることと、
c)前記薬剤により反応しやすいものとして前記遺伝子型GA又はGGを有する前記患者を同定すること、および前記薬剤により反応しにくいものとして前記遺伝子型AAを有する前記患者を同定すること、を含む、方法。
【請求項2】
前記非定型抗精神病剤が、パリペリドン及びパルミチン酸パリペリドンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヌクレオチド配列が、ハイブリダイゼーション、シークエンシング、プライマー伸長法、リガーゼ検出反応、及び切断法からなる群から選択される方法により決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ヌクレオチド配列が、リガーゼ検出反応により決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヌクレオチド配列が、ハイブリダイゼーションにより決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
パリペリドン、並びにその薬剤として許容される塩及びエステルからなる群から選択される非定型抗精神病剤による治療に対して患者が反応しにくいことを予測する方法であって、
a)前記患者のErbB4遺伝子の2つの対立遺伝子のヌクレオチド配列を分析することと、
b)前記ErbB4遺伝子の多型部位における遺伝子型を決定することであって、前記多型部位が配列番号1の201位であることと、
c)前記薬剤により反応しにくいものとして、前記遺伝子型AAを有する前記患者を同定すること、を含む、方法。
【請求項7】
前記非定型抗精神病剤が、パリペリドン及びパルミチン酸パリペリドンからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
パリペリドン、並びにその薬剤として許容される塩及びエステルからなる群から選択される非定型抗精神病剤による治療に対して患者が反応しやすいことを予測する方法であって、
a)前記患者のErbB4遺伝子の2つの対立遺伝子のヌクレオチド配列を分析することと、
b)前記ErbB4遺伝子の多型部位における遺伝子型を決定することであって、前記多型部位が配列番号1の201位であることと、
c)前記薬剤により反応しやすいものとして、前記遺伝子型GA又はGGを有する前記患者を同定すること、を含む、方法。
【請求項9】
前記非定型抗精神病剤が、パリペリドン及びパルミチン酸パリペリドンからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
抗精神病剤による治療が必要な患者がプラシーボ反応を示しやすいかどうかを予測する方法であって、
a)前記患者のErbB4遺伝子の2つの対立遺伝子のヌクレオチド配列を分析することと、
b)前記ErbB4遺伝子の多型部位における遺伝子型を決定することであって、前記多型部位が配列番号1の201位であることと、
c)プラシーボ反応を示しやすいものとして、前記遺伝子型AAを有する前記患者を同定すること、を含む、方法。
【請求項11】
抗精神病薬の臨床試験の被験者を選択する方法であって、a)前記患者のErbB4遺伝子の2つの対立遺伝子のヌクレオチド配列を分析することと、
b)前記ErbB4遺伝子の多型部位における遺伝子型を決定することであって、前記多型部位が配列番号1の201位であることと、
c)プラシーボ反応を示しやすいものとして、前記遺伝子型AAを有する前記被験者を同定すること、を含む、方法。
【請求項12】
前記抗精神病薬の臨床試験から前記遺伝子型AAを有する前記被験者を除外することを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
精神病の治療が必要な患者の治療方法であって、
a)前記患者からDNAサンプルを得ることと、
b)前記患者のErbB4遺伝子のヌクレオチド配列を分析することと、
c)前記ErbB4遺伝子の多型部位における遺伝子型を決定することであって、前記多型部位が配列番号1の201位であることと、
d)パリペリドン、並びにその薬剤として許容される塩及びエステルからなる群から選択される非定型抗精神病剤を用いて前記遺伝子型GA又はGGを有する前記患者を治療することと、を含む、方法。
【請求項14】
前記非定型抗精神病剤が、パリペリドン及びパルミチン酸パリペリドンからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
精神障害患者の治療計画の決定に使用するキットであって、
a)ErbB4遺伝子を認識し、前記ErbB4遺伝子の一部に結合できるポリヌクレオチドと、
b)前記ポリヌクレオチド及び前記患者からのDNAサンプルを入れるのに好適な容器であって、前記ポリヌクレオチドが前記ErbB4遺伝子に接触できる、容器と、前記ポリヌクレオチドの前記ErbB4遺伝子とのハイブリダイゼーションを検出する手段と、を含む、キット。
【請求項16】
使用説明書を更に含む、請求項15に記載のキット。

【公表番号】特表2012−507297(P2012−507297A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534768(P2011−534768)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/062577
【国際公開番号】WO2010/096117
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(390033008)ジヤンセン・フアーマシユーチカ・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ (616)
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN PHARMACEUTICA NAAMLOZE VENNOOTSCHAP
【Fターム(参考)】