説明

ErbB受容体薬に対する患者の応答を予測またはモニタリングする方法

本発明は、患者由来の生体液サンプルを準備する段階;前記サンプルからDNAを抽出する段階;およびErbB受容体におけるチロシンキナーゼ活性を変える1以上の突然変異の存在について前記DNAをスクリーニングする段階を含むErbB受容体突然変異の検出方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ErbB受容体薬、例えば上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とするゲフィチニブに対する患者の応答を予測またはモニタリングする方法に関するものである。この方法は、血清などの生体液において低濃度で生じるゲノムDNA中の突然変異についての、感受性が高く、特異的なスクリーニングを提供するものである。この方法は、ErbBチロシンキナーゼ受容体活性を増加することが知られており、ErbB受容体薬治療に対する応答と相関するように思われる突然変異を検出する上で好適である。
【背景技術】
【0002】
ErbB受容体は、TKスーパーファミリー(そのメンバーは細胞の増殖および生存を制御するシグナル伝達経路を調節する)に属するタンパク質チロシンキナーゼ(TK)である。ErbBファミリーの受容体は、4種類の関連の深いサブタイプ、すなわちErbB1(上皮成長因子受容体[EGFR])、ErbB2(HER2/neu)、ErbB3(HER3)およびErbB4(HER4)からなる(非特許文献1)。
【0003】
EGFRからのシグナル伝達は例えば、上皮成長因子(EGF)などの成長因子の結合によって誘発され、EGFR分子の二量体化またはHER2/neuなどの他の関連性の強い受容体とのヘテロ二量体化を生じる。これらの受容体のチロシンキナーゼドメインを介した自身の自己リン酸化およびトランスリン酸化によって、下流エフェクターの補充および増殖シグナルおよび細胞生存シグナルの活性化が生じる(非特許文献2)。突然変異によって過剰発現または活性化されると、ErbB受容体TKは、乳癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、結腸直腸癌、頭部および頸部の癌、ならびに他の多くの固形腫瘍の発達に導く可能性がある(非特許文献3)。EGFRは、非小細胞肺癌および多くの他の上皮癌の40〜80%で過剰発現される(非特許文献4)。抗癌療法は、そのような遺伝子の産生物を標的化して、その活性を阻害するよう設計されてきた。例えば、ゲフィチニブという薬剤は、ErbB1などのEGFRファミリーのチロシンキナーゼ酵素の強力な阻害薬であり、手術不可能なまたは再発性のNSCLCの治療について、2002年7月5日に日本で承認された。
【非特許文献1】Cell, 2000; 103: 211-225
【非特許文献2】Exp. Cell. Res. 2003; 284: 31-53
【非特許文献3】Exp. Cell. Res. 2003; 284: 122-130
【非特許文献4】N. Engl. J. Med. 2004; 350(21): 2129-2139
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
患者の処方薬に対する応答は、それがどの程度良好に作用するか(その効能)およびそれに対する有害反応(副作用)の両方に関して変動するものである。ゲフィチニブの場合、患者は、急速かつ多くの場合で劇的な臨床応答を有する患者の約10%の群を含めて、チロシンキナーゼ阻害薬治療に対して異なる応答を示す(N. Engl. J. Med. 2004; 350(21): 2129-2139)。従って、薬剤に応答する患者を治療前に確認し、さらにはその薬剤に応答している患者を治療後に確認して、医薬をより効率的に標的化に用いることができるようにする必要がある。
【0005】
最近、非小細胞肺癌患者のサブグループがEGFR遺伝子において特異的突然変異を有し、それがチロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブに対する臨床的応答性と相関しているようであることが発見された(Science 2004; 304: 1497-1500)。これらの突然変異によって、増殖因子のシグナル伝達の増加が生じ、その阻害薬に対する感受性が得られる。肺癌でそのような突然変異についてのスクリーニングを行うことで、ゲフィチニブに対する応答を有する患者を確認できるものと思われる(J. Clin. Oncol. 23; 2493-2501)。しかしながら、現在までのところ、確実に突然変異を測定できる唯一の方法は、患者由来の腫瘍生検を行うことによる固形腫瘍サンプルの分析によるものである。これは困難な手法であり、患者にとっては非常に不快であり、腫瘍を手術できない時には実施不可能である場合がある。
【0006】
突然変異について患者をスクリーニングする上での別の問題は、非常に多くの野生型遺伝子の中で突然変異遺伝子を検出することが困難であるという点である。これは当業界で公知の問題であり、低濃度での突然変異DNAの確認が腫瘍の早期検出のために、または早期の段階で患者にとって適切な治療方針を確認する上で重要であり得ることを考慮すると特に重要である(Clin Cancer Res. 2004;10(7):2379-85)。従って、例えば非常に有効であるがわずかな比率の患者にしか効果がない可能性がある治療法を患者に始める前に、侵襲性が比較的小さく、より信頼性が高い、ErbB受容体薬に対する患者の応答をモニターおよび予測する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、患者から採取した生体液サンプルでErbB受容体突然変異を確実に検出する方法を見出した。この方法は、ErbB受容体薬に対する患者の応答または延命効果を予測するために用いることができる。特に、ErbB受容体のチロシンキナーゼ活性を変える突然変異の存在は、患者が薬剤に対して正の応答をする可能性のあることを示しており、それに対して野生型対立遺伝子のみの存在は、患者がErbB受容体薬に対して応答しない可能性があることを示している。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、
(a)患者由来の生体液サンプルを準備する段階;
(b)前記サンプルからDNAを抽出する段階;および
(c)前記受容体における1以上の突然変異の存在について前記DNAをスクリーニングする段階
を含むErbB突然変異の検出方法が提供される。
【0009】
好ましくは、上記のErbB突然変異の検出方法は、ErbB受容体におけるチロシンキナーゼ活性を変える該受容体中の1以上の突然変異の検出を含む。
【0010】
最も好ましくは、前記方法におけるErbB受容体はEGFRである。
【0011】
本発明者らは、患者の生体液サンプルにおける突然変異の測定を用いて、イン・ビボでErbB受容体薬の効果について予測およびモニタリングを行うことが可能であることを見出した。
【0012】
好ましい態様では、本発明は、
(a)患者由来の生体液サンプルを準備する段階;
(b)前記サンプルからDNAを抽出する段階;
(c)ErbB受容体におけるチロシンキナーゼ活性を変える1以上の突然変異の存在について前記DNAをスクリーニングする段階
を含む、ErbB受容体薬に対する患者の応答を予測する方法を提供する。
【0013】
本発明の別の実施形態では、
(a)患者由来の生体液サンプルを準備する段階;
(b)前記サンプルからDNAを抽出する段階;
(c)ErbB受容体におけるチロシンキナーゼ活性を変える1以上の突然変異の存在について前記DNAをスクリーニングする段階
を含む、ErbB受容体薬に対する患者の応答をモニタリングする方法が提供される。
【0014】
当業者には明らかなように、ErbB受容体薬に対する応答をモニタリングすることで、該薬剤の投与をすでに行っている患者の応答を評価することができる(すなわち治療後の患者に利用される)。しかしながら、応答の予測は、ErbB受容体薬に曝露されていない患者で、及び治療前に行う。
【0015】
別の実施形態では、前記方法は、上記の各段階を含み、ErbB受容体薬に対する癌患者の応答の予測が、その患者に対する延命効果を予測するものである。
【0016】
好ましくは、上記のErbB薬剤に対する応答の予測方法は、
(d)突然変異型および野生型の両方の対立遺伝子が検出される患者は、ErbB受容体薬に対して陽性の応答をし、野生型の対立遺伝子のみが検出される患者は該薬剤に対して陽性の応答をしないと結論づける段階
をさらに含む。
【0017】
別の実施形態では、上記のスクリーニング方法は、単一塩基突然変異、小さなインフレーム欠失または塩基置換を検出する対立遺伝子特異的プライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応の使用を含むものである。
【0018】
好ましくは、前記スクリーニング方法は、単一塩基突然変異、小さなインフレーム欠失または塩基置換を検出する対立遺伝子特異的プライマーを用いたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイム−PCR)の使用を含む。
【0019】
さらに別の実施形態において、ErbB薬剤に対する応答の予測方法は、上記の通りであるが、第1のプライマー対を用いて野生型対立遺伝子を検出し、第2のプライマー対を用いて突然変異体対立遺伝子を検出し;各プライマー対のうちの一方のプライマーが、
(a)特定の突然変異に特異的な対立遺伝子である末端3′ヌクレオチドを有するプライマー;および
(b)そのプライマーの3′末端での可能な追加のミスマッチ
を含む。
【0020】
好ましくは、上記の各プライマー対における一方のプライマーは、
(a)プライマー配列および標的配列に特異的なさらなる配列の両方を含む単一分子または核酸二本鎖プローブ;
(b)前記単一分子または核酸二本鎖内のクエンチャー分子の非常に近位にある前記プローブの5′末端に結合した蛍光レポーター色素;
(c)前記プローブの一端にある1以上の非コードヌクレオチド残基;
をさらに含み;
(d)前記レポーター色素およびクエンチャー分子は、前記標的配列の増幅時に分離されるようになる。
【0021】
有利には、前記プローブはScorpion(登録商標)プローブである。
【0022】
好ましくは、本発明による方法は、野生型配列のレベルの10%で存在する突然変異体配列を検出することができる技術を用いるものである。より好ましくは、前記技術は、野生型配列のレベルの9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.1%または0.01%の突然変異体配列を検出することができる。
【0023】
上記の蛍光プローブシステムは、増幅した標的に結合するのに別個のプローブを必要とせず、他の系より迅速かつ効率的に検出が行われるという利点を有する。本発明は、ARMS増幅システムにおけるスコルピオン(登録商標)プライマーの使用によって、EGFR突然変異の検出に用いられる方法の感度が高められることを示している(実施例4参照)。
【0024】
好ましくは上記の方法に記載の生体液は、血液、血清、血漿、汗または唾液のうちのいずれかである。有利には、前記生体液は血清である。
【0025】
EGFR突然変異とNSCLC進行との間の相関を見る既報の試験のほとんどが、回顧的試験のために治療開始後に採取した手術切除腫瘍サンプルでそのような突然変異を示している。しかしながら、初期段階で患者から手術できないNSCLC腫瘍をサンプリングすることが困難であることが、治療開始前に患者を選択する可能性のある前向き試験の実施の試みにおいて障害となっていた。
【0026】
しかしながら本発明は、腫瘍標本以外の癌患者のサンプルから突然変異体EGFRを検出する方法を提供する。生体液のサンプリングは、癌患者におけるEGFR突然変異の過去の分析方法より侵襲性が低い。腫瘍検体の採取とは対照的に、血清サンプルは例えば、容易に採取することができ、試験を繰り返すことができる。さらに腫瘍細胞は、血行中にDNAを放出し、それが血清および血漿中で豊富となることで、癌患者の血清DNAでの突然変異およびマイクロサテライト変化を検出可能にすることが知られている(Cancer Res. 1999;59(1):67-70)。
【0027】
本発明のさらに別の実施形態では、ErbB受容体薬はErbB受容体チロシンキナーゼ阻害薬である。好ましくは、ErbB受容体薬はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬である。好ましい方法では、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬は、ゲフィチニブ、エルロチニブ(Tarceva、OSI−774、CP−358774)、PKI−166、EKB−569、HKI−272(WAY−177820)、ラパチニブ(GW2016、GW−572016、GSK572016)、カネルチニブ(canertinib)(CI−1033、PD183805)、AEE788、XL647、BMS5599626、ZD6474(ZactimaTM)またはWO2004/006846もしくはWO2003/082290に開示のいずれかの化合物からなる群から選択される。
【0028】
本発明の別の実施形態では、ErbB受容体薬はEGFR阻害薬である。好ましくは、EGFR阻害薬は、セツキシマブ(Erbitux、C225)、マツズマブ(EMD−72000)、パニツムマブ(ABX−EGF/rHuMAb−EGFR)、MR1−1、IMC−11F8またはEGFRL11からなる群から選択される抗EGFR抗体である。
【0029】
好ましくは、前記いずれの方法も、単独療法として、または他薬剤との併用で使用されるErbB受容体薬を含む。
【0030】
最も好ましい実施形態では、EFGRチロシンキナーゼ阻害薬は、ゲフィチニブ、エルロチニブ(Tarceva、OSI−774、CP−358774)、PKI−166、EKB−569、HKI−272(WAY−177820)、ラパチニブ(GW2016、GW−572016、GSK572016)、カネルチニブ(CI−1033、PD183805)、AEE788、XL647、BMS5599626、ZD6474(ZactimaTM)またはWO2004/006846もしくはWO2003/082290に開示のいずれかの化合物からなる群から選択される。
【0031】
本発明における突然変異は、核酸の挿入、欠失または置換として生じることが認められる。突然変異は、好ましくは、ErbB受容体のチロシンキナーゼドメインで起こる。好ましくは、突然変異は、EGFRのチロシンキナーゼドメインで起こる。好ましくは、突然変異は、表5に挙げたEGFR突然変異の群から選択される。有利には、突然変異は、EGFRのエキソン18、19、20または21におけるATP結合部位周囲に集まっている。好ましくは、突然変異は、表5に挙げたEGFR突然変異の群から選択される。最も好ましい実施形態では、突然変異はEGFRのエキソン19におけるE746_A750delおよびエキソン21におけるL858Rである。
【0032】
EGFRのエキソン18〜21における約30種の突然変異が、肺腫瘍標本において検出されている。腫瘍標本で検出されたNSCLC関連のEGFR突然変異の中で、エキソン19における15bpヌクレオチドインフレーム欠失(E746_A750del)およびエキソン21におけるコドン858でのアルギニンによるロイシンの置換である点突然変異(L858R)が、これら突然変異の約90%を占める(Cancer Res. 2004;64:8919-8923, Proc. Natl. Acad. Sci USA 2004;101:13306-13311)。
【0033】
有利には、患者は、白血病、多発性骨髄腫またはリンパ腫などの非固形腫瘍、および例えば胆管、骨、膀胱、脳/CNS、神経膠芽腫、乳房、結腸直腸、子宮頚部、子宮内膜、胃、頭部および頚部、肝臓、肺、筋肉、神経、食道、卵巣、膵臓、胸膜/腹膜、前立腺、腎臓、皮膚、精巣、甲状腺、子宮および外陰部の腫瘍などの固形腫瘍からなる群から選択される癌をわずらっている。
【0034】
本発明の別の実施形態では、上記の方法は、
(e)ErbB受容体の下流シグナル伝達経路の成分における1以上の突然変異の存在について前記DNAをスクリーニングする段階
をさらに含む。
【0035】
本発明の第2の態様は、野生型対立遺伝子を検出するのに用いられる第1のプライマー対、およびErbB受容体の突然変異体対立遺伝子を検出するのに用いられる第2のプライマー対を含む組成物であって、各プライマー対における一方のプライマーは、
(a)特定の突然変異に特異的な対立遺伝子である末端3′ヌクレオチドを有するプライマー;および
(b)前記プライマーの3′末端における可能な追加のミスマッチ;
(c)プライマー配列および標的配列に特異的なさらに別の配列の両方を含む単一分子または核酸二本鎖プローブ;
(d)前記単一分子または核酸二本鎖内でクエンチャー分子の非常に近位にある5′末端に結合した蛍光レポーター色素;
(e)前記プローブの一端にある1以上の非コードヌクレオチド残基
をさらに含み、
(f)前記レポーター色素およびクエンチャー分子が前記標的配列の増幅時に分離されるようになる、
前記組成物を包含するものである。
【0036】
本発明の第3の態様は、ErbB薬剤に対する患者の応答を予測するために生体液で実施されるアッセイにおける、ErbB受容体に特異的なプライマーの使用を含むものである。
【0037】
好ましくは、上記の使用は、ErbB薬剤に対する患者の応答を予測するために生体液を調べるための組成物の製造を含むものである。
【0038】
有利には、上記の使用は、
(a)前記サンプルからDNAを抽出する段階
(b)前記受容体におけるチロシンキナーゼ活性を変える1以上の突然変異の存在について前記DNAをスクリーニングする段階
をさらに含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
別段の断りがない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、当業者が共通に理解するものと同じ意味を有する(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術および生化学におけるもの)。分子的方法、遺伝子的方法および生化学的方法については、標準的な技術を用いる。概して、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed. (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.およびAusubel et al., Short Protocols in Molecular Biology (1999) 4th Ed, John Wiley & Sons, Inc.;ならびにGuthrie et al., Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology, Methods in Enzymology, Vol. 194, Academic Press, Inc., (1991), PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Innis, et al. 1990. Academic Press, San Diego, Calif.), McPherson et al., PCR Volume 1 N.Y.), およびGene Transfer and Expression Protocols, pp. 109-128, ed. E. J. Murray, The Humana Press Inc., Clifton, N.J.)(これらの文書は、参照によって本明細書に組み込まれる), Oxford University Press, (1991), Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 2nd Ed. (R. I. Freshney. 1987. Liss, Inc. New York, N.Y.), およびGene Transfer and Expression Protocols, pp. 109-128, ed. E
. J. Murray, The Humana Press Inc., Clifton, N.J.を参照されたい。これらの文書は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0040】
生物マーカー
医学的状態および毒物学的状態への生化学および分子生物学の応用を通じて、生物カーカーと称される各種の生物学的マーカーが確認および研究されてきた。生物マーカーは、組織および生体液の両方で発見することができ、血液が生物マーカーの研究で用いられる最も一般的な生体液である(Proteomics 2000;1:1-13, Physiol. 2005;563:23-60)。
【0041】
生物マーカーは、「正常な生物学的プロセス、発病プロセス、または治療的介入に対する薬理学的応答、の指標として客観的に測定および評価される特徴」と説明することができる。生物マーカーは、生物マーカーの存在もしくはレベルと症状もしくは疾患の何らかの側面(症状もしくは疾患の存在、そのレベルもしくはそのレベルの変化、その種類、その段階、それに対する感受性、あるいは症状もしくは疾患の治療に用いられる薬剤に対する応答性など)との間に相関がある場合に、特定の症状または疾患に関連する同定可能かつ測定可能な指標である。その相関は、定性的、定量的または定性的と定量的の両方であることができる。代表的には、生物マーカーは、化合物、化合物断片または化合物群である。そのような化合物は、タンパク質(およびペプチド)、核酸および他の化合物などの、生物で認められるかまたは生物が産生する化合物であることができる。
【0042】
生物マーカーは、予測力を有する場合があり、それ自体、特定の症状もしくは疾患の存在、レベル、種類もしくは段階(特定の微生物もしくは毒物の存在またはレベルを含む)、特定の症状もしくは疾患に対する感受性(遺伝的感受性を含む)、または特定の治療(薬物治療を含む)に対する応答、を予測または検出するのに用いることができる。生物マーカーは、研究および開発プログラムの効率を改善することで、将来の創薬および薬剤開発においてますます重要な役割を果たすものと考えられる。生物マーカーは、診断剤、疾患進行のモニター、治療のモニターおよび臨床的結果の予測因子として用いることができる。例えば、各種の生物マーカー研究プロジェクトによって、特定の癌ならびに特定の心血管疾患および免疫疾患のマーカーの確認が試みられている。
【0043】
本明細書で使用される「ErbB受容体薬」という用語は、EGFR、ErbB2(HER)、ErbB3およびErbB4などのerbBファミリーの受容体チロシンキナーゼに対して作用する薬剤を含むものである。1実施形態において、ErbB受容体薬はErbB受容体チロシンキナーゼ阻害薬である。別の実施形態では、ErbB受容体薬はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬である。EGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬の例には、ゲフィチニブ、エルロチニブ(OSI−774、CP−358774)、PKI−166、EKB−569、HKI−272(WAY−177820)、ラパチニブ(GW2016、GW−572016)、カネルチニブ(CI−1033、PD183805)、AEE788、XL647、BMS5599626、またはWO2004/006846、WO2003/082831もしくはWO2003/082290に開示のいずれかの化合物などがあるが、これらに限定されるものではない。特に、ゲフィチニブ(IressaTMとも称され、コード番号ZD1839およびChemical Abstracts Registry Number 184475−35−2で知られる)が、国際特許出願WO96/33980に開示されており、ErbB1などの上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーのチロシンキナーゼ酵素の強力な阻害薬である。
【0044】
別の実施形態では、ErbB受容体薬は、例えばセツキシマブ(C225)、マツズマブ(EMD−72000)、パニツムマブ(ABX−EGF/rHuMAb−EGFr)、MR1−1、IMC−11F8またはEGFRL11のうちの1つなど、抗EGFR抗体である。本明細書で言及されるErbB受容体薬は、単独療法として、あるいは同じ種類または異なる種類の他の薬剤との併用で用いることができる。特定の実施形態では、EGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬はゲフィチニブである。
【0045】
「生存期間」とは、患者の「全生存期間」および「無増悪生存期間」を包含するものである。「全生存期間」(OS)とは、ゲフィチニブ投与の開始から何らかの原因による死亡までの時間と定義される。「無増悪生存期間」(PFS)は、ゲフィチニブ投与の開始から進行性疾患の最初の発現または何らかの原因による死亡までの時間と定義される。
【0046】
「応答」とは、部分的応答もしくは安定した疾患を示す患者および進行性疾患の徴候を示す患者という2つの主要な群への患者の分類を含む「固形腫瘍における応答評価基準」(RECIST)に従って得られる測定値によって定義される。
【0047】
「増幅」反応は、非標的核酸より多くの標的核酸の特異的増幅を生じる核酸反応である。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は周知の増幅反応である。
【0048】
「癌」は本明細書においては、腫瘍性表現型への細胞転換から生じる腫瘍増殖を指すのに用いられる。そのような細胞転換には多くの場合、遺伝子突然変異が関与し、本発明の関連では、転換には、本明細書に記載の1以上のErb遺伝子の変化による遺伝子突然変異が関与する。
【0049】
「プローブ」という用語は、検出対象の対立遺伝子の標的配列に対して正確に相補的である配列を有する一本鎖配列特異的オリゴヌクレオチドを指す。
【0050】
「プライマー」という用語は、複製される核酸鎖に対して相補的であるプライマー伸長産物の合成のための開始点として作用することができる一本鎖DNAオリゴヌクレオチド配列または特異的プライマーを指す。プライマーの長さおよび配列は、これらが伸長産物の合成を開始(prime)できるようなものでなければならない。
【0051】
本願は、ErbB核酸突然変異体を記載する。本明細書で使用される「ErbB受容体突然変異体」という用語は、ErbBファミリーのチロシンキナーゼ受容体のメンバーのいずれかをコードする核酸を指すのに用いられる。そこで、「ErbB受容体」という用語は、全ての公知のヒトErbB受容体の相同体および変異体、ならびにErbB受容体の相同体と同定されるのに十分なErbB受容体ファミリーメンバーに対する相同性を示す他の核酸分子を包含するものである。好ましくは、EGFRは、配列番号1として示されるEGFRの配列を有する核酸と同定される。
【0052】
「核酸」という用語は、ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下で、上記で同定された天然核酸とハイブリダイズできるポリヌクレオチドまたはその相補体を含む。「ストリンジェントハイブリダイゼーション条件」とは、50%ホルムアミド、5xSSC(750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5xデンハート液、10%硫酸デキストランおよび20pg/mlの変性・剪断サケ精子DNAを含む溶液中、42℃で一晩のインキュベーション、その後の0.1xSSC中、約65℃でのフィルター洗浄を指す。
【0053】
核酸の検出方法
本発明の関連で、ErbB受容体をコードする突然変異核酸の検出を用いて、薬剤治療に対する応答を予測することができる。通常はErbB受容体遺伝子における突然変異はDNAレベルで起こることから、本発明のその方法は、ゲノムDNA、ならびに転写物およびタンパク質自体における突然変異の検出に基づくものであることができる。転写物および/またはポリペプチドの分析によってゲノムDNA中の突然変異を確認することで、検出された突然変異が被験者において実際に発現されることを確認することが望ましいものとなり得る。
【0054】
ゲノム核酸中での突然変異は、有利には、増幅核酸断片における移動度シフトに基づく技術によって検出される。例えばチェンらの報告(Chen et al., Anal Biochem 1996 Jul 15;239(1):61-9)には、競合移動度シフトアッセイによる単一塩基突然変異の検出が記載されている。さらに、マルセリノら(Marcelino et al., BioTechniques 26(6): 1134-1148 (June 1999))の技術に基づくアッセイが市販されている。
【0055】
好ましい例では、キャピラリーヘテロ二本鎖分析を用いて、ミスマッチの存在の結果によるキャピラリーシステムにおける二本鎖核酸の移動度シフトに基づいて突然変異の存在を検出することができる。
【0056】
サンプルからの分析用の核酸の生成には、核酸増幅が必要である。多くの増幅方法は、酵素連鎖反応(ポリメラーゼ連鎖反応、リガーゼ連鎖反応または自立配列複製など)に基づくものであるか、それがクローニングされているベクターの全て又は一部の複製からのものである。好ましくは、本発明による増幅は、例えばポリメラーゼ連鎖反応によって示される指数関数的増幅である。
【0057】
多くの標的およびシグナル増幅方法が、文献に記載されており、例えばランデグレンらの報告(Landegren, U., et al., Science 242:229-237 (1988))およびルイスの報告(Lewis, R., Genetic Engineering News 10:1, 54-55 (1990))に、これらの方法の概説がある。これらの増幅方法は本発明の方法で用いることができ、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、イン・サイチュ(in situ)のPCR、リガーゼ増幅反応(LAR)、リガーゼハイブリダイゼーション、Qベータ・バクテリオファージ・レプリカーゼ、転写に基づく増幅系(TAS)、転写産物配列決定を伴うゲノム増幅(GAWTS)、核酸配列に基づく増幅(NASBA)およびイン・サイチュ(in situ)ハイブリダイゼーションなどがある。各種増幅技術での使用に好適なプライマーは、当業界で公知の方法に従って製造することができる。
【0058】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
PCRは、特に、米国特許第4683195号および4683202号に記載された核酸増幅方法である。PCRは、DNAポリメラーゼが引き起こすプライマー伸長反応の繰り返しサイクルからなる。標的DNAを熱変性し、増幅されるDNAの反対の鎖上で標的配列を挟む2つのオリゴヌクレオチドがハイブリダイズする。これらのオリゴヌクレオチドは、DNAポリメラーゼによる使用のためのプライマーとなる。DNAはプライマー伸長によって複製され、両方の鎖の第2コピーを生じる。熱変性、プライマーハイブリダイゼーションおよび伸長のサイクルを繰り返すことで、標的DNAを約2〜4時間で百万倍以上に増幅させることができる。PCRは、増幅の結果を測定する検出技術と組み合わせて使用しなければならない分子生物学的手段である。PCRの利点は、約4時間で標的DNAの量を百万〜10億倍に増幅することで、それが感度を増加する点である。PCRを用いて、診断の関連であらゆる公知の核酸を増幅することができる(Mok et al., (1994), Gynaecologic Oncology, 52: 247-252)。
【0059】
自立配列複製(3SR)
自立配列複製(3SR)は、酵素カクテルおよび適切なオリゴヌクレオチドプライマーが介在する逆転写酵素(RT)活性、ポリメラーゼ活性およびヌクレアーゼ活性の順次サイクルを介した核酸鋳型の等温増幅が含むTASの変形である(Guatelli et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:1874)。RNA/DNAヘテロ二本鎖のRNAの酵素分解を熱変性に代えて用いる。RNaseHおよび他の全ての酵素を反応液に加え、全ての段階を同じ温度で行い、それ以上の試薬添加は行わない。このプロセス後に、42℃1時間で、10〜10の増幅が達成されている。
【0060】
ライゲーション増幅(LAR/LAS)
ライゲーション増幅反応またはライゲーション増幅システムは、DNAリガーゼおよび4種のオリゴヌクレオチド(標的鎖当たり2種)を用いる。この技術は、ウーら(Wu, D. Y. and Wallace, R. B. (1989) Genomics 4:560)が記載している。オリゴヌクレオチドは、標的DNA上の隣接する配列にハイブリダイズし、リガーゼによって連結される。反応液を熱変性し、サイクルを繰り返す。
【0061】
Qβレプリカーゼ
この技術では、リザルディらの報告(Lizardi et al. (1988) Bio/Technology 6:1197)に記載されるように、一本鎖RNAを複製するバクテリオファージQβ用のRNAレプリカーゼを用いて、標的DNAを増幅する。最初に、標的DNAを、T7プロモーターおよびQβ5′配列領域を含むプライマーにハイブリダイズさせる。このプライマーを用いると、このプロセスで逆転写酵素がプライマーをその5′末端に結合するcDNAを生成する。これらの2段階はTASプロトコールに類似している。得られるヘテロ二本鎖を熱変性する。次に、Qβ3′配列領域を含む第2のプライマーを用いて、cDNA合成の第2回目を開始する。これによって、Qβバクテリオファージの5′末端および3′末端の両方ならびに活性T7RNAポリメラーゼ結合部位を含む二本鎖DNAが得られる。次に、T7RNAポリメラーゼが、二本鎖DNAを、Qβを模倣する新たなRNAに転写する。十分に洗浄して、ハイブリダイズされていないプローブを除去した後、前記の新たなRNAを標的から溶出し、Qβレプリカーゼによって複製する。後者の反応によって、約20分で10倍の増幅が生じる。
【0062】
代替の増幅技術を本発明で利用することができる。例えば、ローリング・サークル増幅(Lizardi et al., (1998) Nat Genet 19:225)は、DNAポリメラーゼによって駆動され、等温条件下で直線的反応速度または幾何学的反応速度のいずれかで環状オリゴヌクレオチドプローブを複製することができる市販の(RCATTM)増幅技術である。
【0063】
2つの好適に設計されたプライマーの存在下で、DNAの置換および超分岐を介して幾何学的増幅が起こることで、1時間で各サークルの1012以上のコピーが生じる。
【0064】
単一プライマーを用いる場合、RCATによって数分で、標的が共有結合により直列的に結合した数千の標的のDNAコピーの直鎖が生じる。
【0065】
さらに別の技術である鎖置換増幅(SDA;Walker et al., (1992) PNAS (USA) 80:392)は、特定の標的に特有の具体的に定義された配列で開始する。しかし、熱サイクルに基づく他の技術とは異なり、SDAは一連のプライマー、DNAポリメラーゼおよび制限酵素を利用して、特有の核酸配列を指数関数的に増幅させる等温プロセスである。
【0066】
SDAは、標的生成段階および指数関数的増幅段階の両方を含む。
【0067】
標的生成では、二本鎖DNAを熱変性して、2つの一本鎖コピーを作る。一連の特別に製造されたプライマー(塩基配列をコピーするための増幅プライマーと新たに作られた鎖を置換するためのバンパープライマーと)をDNAポリメラーゼと組み合わせて、指数関数的増幅が可能な改変標的を形成する。
【0068】
指数関数的増幅プロセスは、標的生成段階からの改変標的(制限酵素認識部位を有する一本鎖部分DNA鎖)で開始する。
【0069】
増幅プライマーを、その相補DNA配列で各鎖に結合させる。次に、個々のヌクレオチドを添加するための鋳型として改変標的を用い、DNAポリメラーゼがその3’末端からプライマーを伸長する位置を同定するためにプライマーを利用する。こうして、伸長したプライマーが、各末端で完全な制限酵素認識部位を含む二本鎖DNAセグメントを形成する。
【0070】
次に、制限酵素を、二本鎖DNAセグメントにその認識部位に結合させる。制限酵素は、両側セグメントの一方の鎖のみを開裂させ、ニックを形成させた後に認識部位から解離する。DNAポリメラーゼがそのニックを認識し、その部位から鎖を伸長させて、予め形成された鎖に取って代わる。そうして認識部位は、制限酵素およびDNAポリメラーゼによって、標的セグメントを含むDNA鎖の連続的な置換と共に、繰り返しニック形成および復元がなされる。
【0071】
その後、各置換された鎖は、上記の増幅プライマーとアニーリングするのに利用可能である。そのプロセスは、新たなDNA鎖の反復的なニック形成、伸長および置換とともに継続して、元のDNA標的の指数関数的増幅を生じる。
【0072】
核酸が増幅されれば、単一塩基対突然変異の検出に多くの技術が利用可能である。そのような技術の一つは、一本鎖高次構造多型(SSCP)である。SCCP検出は、電気泳動中に、参照DNAと比較した一本鎖突然変異DNAの異常移動に基づくものである。突然変異は、一本鎖DNAにおける高次構造変化を生じさせて、移動度シフトを生じる。蛍光SCCPは、蛍光標識プライマーを用いて検出を補助するものである。したがって、参照および突然変異体DNAを、蛍光標識プライマーを用いて増幅する。その増幅DNAを変性および急冷(snap-cooled)して一本鎖DNA分子を生成し、それを未変性ゲル電気泳動によって調べる。
【0073】
化学的ミスマッチ開裂(CMC)は、ヒドロキシルアミン、四酸化オスミウムおよびピペリジンの組み合わせによるDNAミスマッチ塩基対の認識および開裂に基づくものである。従って、参照DNAと突然変異体DNAの両方を、蛍光標識プライマーを用いて増幅する。アンプリコンをハイブリダイズさせて、次にミスマッチT塩基に結合する四酸化オスミウム、またはミスマッチC塩基に結合するヒドロキシルアミンを用いて開裂させ、その後、ピペリジンによって修飾塩基の部位で開裂を行う。次いで、開裂断片を電気泳動によって検出する。
【0074】
制限断片多型(RFLP)に基づく技術も用いることができる。多くの一塩基多型(SNP)で従来のRFLP分析ができないが、プライマー誘導型制限分析PCR(PIRA−PCR)を用いることで、PCRプライマーを用いてSNP依存的に制限部位を導入することができる。好適な制限部位を導入するPIRA−PCR用のプライマーは、キシアイイらの報告(Xiaiyi et al., (2001) Bioinformatics 17:838-839)に記載のコンピュータ分析によって設計することができる。
【0075】
さらに、WAVE分析に基づく技術を用いることができる(Methods Mol. Med. 2004;108:173-88)。このDNA断片分析システムを用いて、一塩基多型を検出することができ、このシステムは温度変調型液体クロマトグラフィーおよび高分解能マトリクスに基づくものである(Genet Test. 1997-98;1(3):201-6)。
【0076】
リアルタイムPCR(定量PCR、リアルタイム定量PCRまたはRTQ−PCRとも称される)は、同時DNA定量および増幅の方法である(Expert Rev. Mol. Diagn. 2005(2):209-19)。ポリメラーゼ連鎖反応によってDNAを特異的に増幅する。各増幅ラウンド後に、DNAを定量する。一般的な定量方法には、相補DNAとハイブリダイズした時に蛍光を生じる修飾DNAオリゴヌクレオチド(プローブと称される)および二本鎖DNAに挿入する蛍光色素の使用などがある。
【0077】
高感度で迅速なDNA増幅系のために「Scorpion(登録商標)プライマー」と称される特異的プライマーを用いることができる。そのようなプライマーは、プローブを単一分子で特異的標的配列と組み合わせて、単分子反応速度(unimolecular kinetics)の蛍光検出系を生じる(Nucl. Acids Res. 2000;28:3752-3761)。これは、増幅標的に結合するのに別個のプローブを必要とせず、検出をより迅速かつより効率的にするという点で、Molecular BeaconsおよびTaqMan(登録商標)などの他の蛍光プローブ系に勝る長所を有する。これら3種類の検出方法の直接比較(Nucl. Acids Res 2000;28:3752-3761)から、Scorpions(登録商標)が、特に迅速なサイクル条件下で、細胞間プロービング系より性能が良好であることがわかる。Scorpion(登録商標)プライマーのあるバージョンの構造は、対象標的に特異的なプローブ配列に隣接する約6個の塩基の相補ステム配列によってヘアピンループ配座に保持されるものである(Nat. Biotechnol. 1999;17:804-807)。ステムは、蛍光レポーター色素(5′末端に結合)を一緒にクエンチャー分子に非常に近接した位置に配置する働きも有する。この配座では、シグナルは生じない。PCRブロッカーが、プライマー配列からヘアピンループを分離して、Scorpion(登録商標)の3′末端を形成する。このブロッカーは、特異的標的の非存在下でヘアピンループのアンフォールディングを生じると考えられるリードスルーを防止する。PCR中、プライマーから通常の通り伸長が起こる。その後の変性段階およびアニーリング段階後に、ヘアピンループがほどけ、正しい産物が増幅されていた場合は、プローブ配列が、新たに合成された鎖上でプライマーの下流にある特異的標的配列に結合する。この新しい構造は、元のヘアピンループより熱力学的に安定である。蛍光色素がクエンチャーの非常に近位にはすでに存在しないことから、この時点で蛍光シグナルが生じる。この蛍光シグナルは、標的DNAの量に正比例する。
【0078】
代替のScorpion(登録商標)プライマーは、2つの相補的な標識オリゴヌクレオチドの二本鎖を含む。この二本鎖の一方のオリゴヌクレオチドは、5′末端レポーター色素で標識されており、ブロッカー非コードヌクレオチドおよびPCRプライマー要素の両方を有しており、他方のオリゴヌクレオチドは3′末端クエンチャー色素で標識されている。そして、作用機序は上記のScorpion(登録商標)ヘアピンプライマーと本質的に同じであり、リアルタイム定量PCR中に、5′末端レポーターおよび3′末端クエンチャー色素が互いに分離されて、蛍光発光に有意な増加を生じる。
【0079】
Scorpions(登録商標)は、Amplification Refractory Mutation System(ARMS)(Nucl. Acids Res. 1989;17:2503-2516, Nat. Biotechnol. 1999;17:804-807)と併用して、一塩基突然変異の検出を可能にすることができる。適切なPCR条件下で、プライマーの3′末端に位置する一塩基ミスマッチは、完全に適合する対立遺伝子の優先的増殖には十分であることから(Newton et al., 1989)、非常に関連の深い種を区別することができる。上記のプライマーを用いる増幅システムの基礎は、ミスマッチ3′残基を有するオリゴヌクレオチドが適切な条件下でPCRにおけるプライマーとして機能しないということである。この増幅システムにより、アガロースゲル電気泳動後に反応混合物を調べるだけで遺伝子型決定を行うことができる。それは簡易かつ信頼性があり、いずれの対立遺伝子についても、遺伝子座でヘテロ接合体をホモ接合体と明瞭に区別する。ARMSでは、制限酵素消化、従来用いられていた対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドおよびPCR産物の配列解析が必要ない。
【実施例】
【0080】
実施例1−臨床試験および血清サンプルの採取
本研究は、ゲフィチニブ単独療法についての多施設臨床フェーズII試験での相関研究として行った。本研究は、ヒト被験者が関与する生物医学研究に関するヘルシンキ宣言の勧告に基づく適切な倫理審査委員会の承認のもとで実施した。IIIB期またはIV期であると組織学的または細胞学的に立証された化学療法を受けたことがないNSCLCの日本人患者を、本試験に登録した。ゲフィチニブを、250mg/日の固定用量で患者全員に経口投与した。「Response Evaluation Criteria in Solid Tumours(RECIST)」ガイドライン(J. Natl. Cancer Inst. 2000;92:205-216)を用いて、効能を評価した。
【0081】
患者28名を、2002年10月23日〜2003年8月3日に登録した(表1)。患者全員について、応答を評価し、無増悪生存期間および全生存期間の追跡を行った。患者27名から採血を行ってから(2mL)、ゲフィチニブ投与を開始した。27サンプル全てで、1720ng/mLまでの各種濃度で血清DNAを抽出した。
【0082】
検体採取およびDNA抽出。NSCLC患者26名から採血を行ってから、ゲフィチニブ投与を開始した。分離した血清を、使用時まで−80℃で保存した。下記のプロトコール変更を加えてQiamp Blood Kit(Qiagen, Hilden, Germany)を用い、血清DNAを抽出し、精製した。サンプル全体が処理されるまで、1本のカラムを繰り返し用いた。得られたDNAを、無菌の2回蒸留緩衝液50μLに溶出させた。抽出DNAの濃度および純度を、分光測光によって求めた。抽出したDNAは、使用時まで−20℃で保存した。
【0083】
実施例2−E746A750delおよびL858REGFR突然変異を検出するためのScorpionプライマーおよび増幅不応突然変異系(ARMS)の使用
EGFR ScorpionTM Kitの感度
予備実験を行って、EGFR Scorpion Kitの感度を評価する(図1)。1pg〜10000pgの容量でE746_A750del標準DNAを用いた全ての曲線が、45サイクルに達するまでに増加した(図1a)。野生型標準DNAおよび水を陰性対照として用いた場合、曲線は増加せず、50サイクルに到達した時点で平坦なままであった(図1a)。10〜10−5の比で野生標準DNAを含む希釈E746_A750del標準DNAを用いると、E746_A750delの存在を示した全ての曲線が、45サイクルに到達するまでに増加した(図1b)。この研究で測定した容量範囲での標準曲線は直線であり、r値は0.997および0.987であった。いずれの曲線の傾きもほぼ平行であった(図1c)。野生型DNAを含む希釈E746_A750del標準DNAのCtは、E746_A750del標準DNAの全ての容量で、E746_A750del標準DNAのみの値に近かった。野生型DNAを含む希釈E746_A750del標準DNAのピーク蛍光レベルは、10−3未満の比率で野生型DNA標準を含まない場合より低かったが、E746_A750delの存在が明瞭に検出された。1pgまでの量でE746_A750delを含むDNAの曲線は、野生型EGFRのDNAの混入による影響を受けなかった。ヒト癌細胞株のゲノムDNAを用いた細胞ベースの実験では、PC−9細胞由来のDNAを用いたシグナルが検出され、A431細胞からのものは予想通り検出されなかった(図2)。
【0084】
本発明者らは、2つの技術、すなわちARMSTMおよびScorpionTMを併用したEGFR ScorpionTM Kit(DxS Ltd, Manchester, UK)を用いて、リアルタイムPCR反応で突然変異を検出した。エキソン19およびエキソン21の両方におけるE746_A750del、L858Rおよび野生型の検出のための4種類のscorpionプライマーを設計し、それをDxS社(DxS Ltd, Manchester, UK)が合成した。E746_A750delおよびL858R用のscorpionプライマーの配列は、EGFRについてGenBankに記録されたヒト配列(登録番号:AY588246)を基礎とした。反応はいずれも、鋳型DNA1μL、反応緩衝液混合物7.5μL、プライマー混合物0.6mLおよびTaqポリメラーゼ0.1mLを用い、容量25μLで行った。全ての試薬がこのキットに含まれている。リアルタイムPCRを、SmartCycler(登録商標)を以下の条件で用いて実施した:95℃で10分間の初回変性、95℃30秒、62℃60秒の50サイクル、各サイクル終了後の蛍光読み取り(480nmでの光学的励起および520nmでの測定が可能なFAMに設定)。データ解析は、Cepheid SmartCyclerソフトウェア(Ver.1.2b)を用いて行った。閾値サイクル(Ct)は、増殖曲線の最大曲率点を表す二次誘導曲線の最高ピークでのサイクルと定義した。Ctおよび最大蛍光(FI)の両方を、結果の解釈に用いた。陽性結果は、Ct≦45およびFI≧50と定義した。これらの解析は、各サンプルについて二回行った。E746_A750delの検出についての感度を確認するため、本発明者らはEGFR Scorpion Kitに含まれる標準DNAを用いた。1、10、100、1000または10000pgの容量でE746_A750delを含む標準DNA、および10000pgで野生型を含む標準DNAと1、10、100、1000もしくは10000pgの容量でE746_A750delを含む標準DNAとの混合物を用いた。定量のために、既知標準のDNA容量の対数に対してCtのサイクル数をプロットすることで、標準曲線を得た。直線相関係数(R)値および勾配の式を計算した。陽性対照用のDNAは、E746_A750delを含むことが知られている日本人の腺癌PC−9細胞株およびエキソン19に野生型を含むことが知られているヒト類表皮癌A431細胞株から抽出し、それらのDNA10000pgを用いた。
【0085】
ARMSによって検出された血清DNAのEGFR突然変異状態
NSCLC患者27名由来の血清DNAのE746_A750delまたはL858Rを調べた。エキソン19およびエキソン21の両方における野生型を、全ての血清サンプルから検出した。E746_A750delを、12名の患者のサンプルで検出した。L858Rは1名の患者で検出された(表2)。合計で、EGFR突然変異は、患者27名のうち13名で検出された(48.1%)。本来の腫瘍の組織学的サブタイプを、血清中にEGFR突然変異を有する患者23名において表3aにまとめた。23名の腺癌患者の23症例のうちの11症例(47.8%)、扁平上皮細胞癌の2症例のうちの1症例および大細胞癌の2症例のうちの1症例が、EGFR突然変異に関して陽性であった。EGFR突然変異状態は、組織学的タイプと統計的に相関していなかった。EGFR突然変異は、男性患者の場合より女性患者由来のサンプルにおいてより高頻度で検出された(10名中7名;70%対17名中6名;29.4%、表3b)。
【0086】
血清におけるEGFR突然変異状態およびゲフィチニブに対する応答
EGFR突然変異は、進行性疾患患者由来のサンプル(PD、10症例中2症例、18%)より、部分的応答(PR)または安定疾患(SD)を示した患者由来のサンプル(17症例中11症例、75%)において有意に高頻度で認められた(p=0.046、フィッシャーの直接確率検定、表3c)。
【0087】
実施例3:血清におけるEGFR突然変異状態および生存期間に対する影響
統計解析。フィッシャーの直接確率検定を用いて、性別、腫瘍型およびゲフィチニブに対する応答などの異なる特徴を有するNSCLC患者においてEGFR突然変異の存在を比較した。ゲフィチニブに対する応答の解析に関しては、患者をRECIST基準に応じて部分的応答または安定疾患(PR/SD)と進行性疾患(PD)の2つの群に分類した。本発明者らは、標準的なログランク検定を用いて、全生存期間および無増悪生存期間に関してKaplan−Meier曲線を比較した。全生存期間(OS)は、ゲフィチニブ投与開始から何らかの原因による死亡までの時間と定義し、解析の時点でなお生存していることがわかっている患者は、その患者の最後の追跡調査時点で打ち切った。無増悪生存期間(PFS)は、ゲフィチニブ投与開始から進行性疾患の最初の発現または何らかの原因による死亡までの時間と定義し、解析時点で生存していることがわかっており、かつ進行性疾患のない患者は、その患者の最後の追跡調査時点で打ち切った。0.05のP値を、統計的に有意であるとみなした。統計解析は、Stat Viewソフトウェアパッケージ、バージョン5.0を用いて行った。
【0088】
ゲフィチニブ治療を行った患者全員のPFS中央値は98日であり、OS中央値は306日であった。血清にEGFR突然変異のある患者は、EGFR突然変異のない患者と比較して有意に長いPFS中央値を示した(200日対46日、P=0.005、図3a)。EGFR突然変異を有する患者はEGFR突然変異のない患者と比較して長いOS中央値を示したが、統計的有意差はなかった(611日対232日、P=0.078、図3b)。これらの結果は、血清EGFR突然変異が、無増悪生存期間および全生存期間についての予後因子ならびにゲフィチニブで治療を行った患者における応答の予測因子として挙動することを示唆している。
【0089】
実施例4:直接配列決定により解析した、およびARMSと比較して解析した血清におけるEGFR突然変異
患者27名のうちの10名(37.0%)から抽出した血清DNAでの直接配列決定によって、欠失突然変異(E746_A750del)を検出した。
【0090】
PCR増幅および直接配列決定。増幅および直接配列決定を、血清および組織標本から得た各サンプルについて二回実施した。PCRは、鋳型DNA15μL、Ampli Taq Gold DNAポリメラーゼ(Perkin-Elmer, Roche Molecular Systems, Inc., Branchburg, NJ)0.75ユニット、PCR緩衝液2.5μL、0.8mM dNTP、各プライマー0.5μMおよび多形マーカーに応じた各種濃度のMgClを用いて、容量25mLで実施した。プライマーセットの配列および増幅計画は、既報の方法に従った(Nuc. Acids Res. 1989;17:2503-2516)。増幅は、熱サイクラー(Perkin-Elmer, Foster City, CA)を用いて実施した。配列決定は、ABIプリズム310(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて行った。配列をEGFRについてGenBankに記録されたヒト配列(登録番号:AY588246)と比較した。
【0091】
血清サンプルからのPCR産物において、エキソン18、19、20および21に点突然変異は検出されなかった。直接配列決定によって検出された血清EGFR状態は、組織型、性別、ゲフィチニブの応答性(表3)および延命効果(PFS:P=0.277、OS:P=0.859、補充データ2)のいずれとも統計的に相関していなかった。直接配列決定によるEGFR突然変異状態は、対応のあるサンプルの15/27(55.6%)においてARMSによるものと一致していた。4症例におけるEGFR突然変異(E746_A750del)が、直接配列決定によって陽性であり、ARMSによって陰性であった。8症例が直接配列決定によって陰性であり、ARMSによって陽性であった。
【0092】
実施例5:血清のものと比較した腫瘍におけるEGFR突然変異
20種の腫瘍サンプルを、回顧的に患者15名から得た。
【0093】
組織サンプル採取およびDNA抽出。施設内倫理委員会によって承認されたプロトコールに基づいて、腫瘍標本を得た。治療前の診断用に患者15名から得た腫瘍材料のパラフィンブロック20個を、回顧的に採取した。腫瘍サンプル11種を、経気管支肺生検を介して原発癌から採取し、1種を手術によって切除し、9種を転移部位から得た(骨から4種、リンパ節3種、脳1種および結腸1種)。全ての標本について組織学的検査を行って、NSCLCの診断を確認した。DEXPATTMキット(TaKaRa Biomedicals, Shiga, Japan)を用いて、腫瘍サンプルからのDNA抽出を行った。
【0094】
EGFRにおけるエキソン19および21の配列決定を、同じPCR条件下で行った。患者12名からの腫瘍サンプルを配列決定した(表4)。EGFR突然変異が4症例で検出され(25.0%)、そのうちの3症例がエキソン19における15bp欠失(E746_A750del)であり、1症例がエキソン21でのL858Rであった。EGFR突然変異を有する患者の組織型は、3症例で腺癌であり、1症例で大細胞癌であった。これら4名の患者におけるゲフィチニブに対する応答は、2名でPRであり、1名でSDであり、1名の患者でPDであった。他の3つのサンプルは、PCR産物の増幅が低かったことから評価しなかった。
【0095】
腫瘍サンプルおよび血清サンプルのペアを、回顧的に患者11名から入手した(表4)。腫瘍におけるEGFR突然変異状態は、対応のある検体で、8/11(72.7%)の血清におけるものと一致していた。E746_A750delは、2名の患者において腫瘍で陽性かつ血清で陰性であり、E746_A750delは、1名の患者において腫瘍で陰性かつ血清で陽性であった。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【0100】
【表5】



【0101】
配列表


【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1はEGFR Scorpion Kitを用いたE746_A750delおよびL858Rの突然変異についての検出感度を示す。(a)10,000pg(10)、1,000pg(10)、100pg(10)、10pg(10)および1pg(10)という各種容量で、E746_A750delを有する標準DNAを用いた。野生型を有する標準DNA(Wild)および蒸留水(D.W.)を同じ実験で陰性対照として用いた。(b)1pg〜10,000pgの濃度のE746_A750delを有する標準DNAを、1:1(10)、1:10(10−1)、1:100(10−2)、1:1,000(10−3)および1:10,000(10−4)の比率で野生型の標準DNA10,000pgと混合した。(c)容量10,000pgでのE746_A750delを有する標準DNAから得た一次曲線および二次導関数曲線。二次導関数は、増殖曲線の勾配における変化率を表すものである。閾値サイクルは、二次導関数曲線の最高ピークでのサイクル数と定義される(図1cにおける垂直線)。(d)標準曲線は、標準DNA容量の対数に対する各曲線のCt(図1Aおよび1Bに示した)をプロットすることで誘導した。
【図2】図2は、肺癌細胞株由来のゲノムDNAにおけるE746_A750delの検出を示す。(a)E746_A750delを有するPC−9および野生型を有するA431。(b)L858RおよびA431を有する11_18。
【図3】図3は、非小細胞肺癌のEGFR突然変異状態に関する無増悪生存期間(A)および全生存期間(B)を示す。()ログランク検定。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ErbB受容体における1以上の突然変異の検出方法であって、
(a)患者由来の生体液サンプルを準備する段階;
(b)前記サンプルからDNAを抽出する段階;および
(c)前記受容体における1以上の突然変異の存在について前記DNAをスクリーニングする段階
を含む、前記方法。
【請求項2】
ErbB受容体におけるチロシンキナーゼ活性を変える前記受容体中の1以上の突然変異の検出を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ErbB受容体がEGFRである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ErbB受容体薬に対する患者の応答を予測する請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、
(a)患者由来の生体液サンプルを準備する段階;
(b)前記サンプルからDNAを抽出する段階;および
(c)前記受容体におけるチロシンキナーゼ活性を変える1以上の突然変異の存在について前記DNAをスクリーニングする段階
を含む、前記方法。
【請求項5】
ErbB受容体薬に対する患者の応答をモニタリングする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、
(a)患者由来の生体液サンプルを準備する段階;
(b)前記サンプルからDNAを抽出する段階;
(c)前記受容体におけるチロシンキナーゼ活性を変える1以上の突然変異の存在について前記DNAをスクリーニングする段階
を含む、前記方法。
【請求項6】
ErbB受容体薬に対する癌患者の応答の予測が、その患者に対する延命効果を予測するものである請求項4に記載の方法。
【請求項7】
(d)突然変異型および野生型の両方の対立遺伝子が検出される患者は、ErbB受容体薬に対して陽性の応答をするが、野生型の対立遺伝子のみが検出される患者はその薬剤に対して陽性の応答をしないと結論づける段階をさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項8】
上記スクリーニング方法が、単一塩基突然変異、小さなインフレーム欠失または塩基置換を検出する対立遺伝子特異的プライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応の使用を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記スクリーニング方法が、単一塩基突然変異、小さなインフレーム欠失または塩基置換を検出する対立遺伝子特異的プライマーを用いたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイム−PCR)の使用を含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第1のプライマー対を用いて野生型対立遺伝子を検出し、第2のプライマー対を用いて突然変異対立遺伝子を検出し;各プライマー対のうちの一方のプライマーが、
(a)特定の突然変異に特異的な対立遺伝子である末端3′ヌクレオチドを有するプライマー;および
(b)そのプライマーの3′末端での可能な追加のミスマッチ
を含む請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
各プライマー対における一方のプライマーが、
(a)プライマー配列および標的配列に特異的なさらなる配列の両方を含む単一分子または核酸二本鎖プローブ;
(b)前記単一分子または核酸二本鎖内のクエンチャー分子の非常に近位にある前記プローブの5′末端に結合した蛍光レポーター色素;
(c)前記プローブの一端にある1以上の非コードヌクレオチド残基;
を含み;
(d)前記レポーター色素およびクエンチャー分子は、前記標的配列の増幅時に分離されるようになる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記プローブがScorpion(登録商標)プローブである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記突然変異を、野生型配列のレベルの10%で存在する突然変異配列を検出することができる技術を用いて検出する請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記生体液が、血液、血清、血漿、汗または唾液のうちのいずれかである請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記生体液が血清である請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記ErbB受容体薬がErbB受容体チロシンキナーゼ阻害薬である請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記ErbB受容体薬がEGFRチロシンキナーゼ阻害薬である請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記薬剤が、ゲフィチニブ、エルロチニブ(Tarceva、OSI−774、CP−358774)、PKI−166、EKB−569、HKI−272(WAY−177820)、ラパチニブ(GW2016、GW−572016、GSK572016)、カネルチニブ(CI−1033、PD183805)、AEE788、XL647、BMS5599626、ZD6474(ZactimaTM)またはWO2004/006846もしくはWO2003/082290に開示のいずれかの化合物からなる群から選択される請求項16に記載の方法。
【請求項19】
最も好ましいEGFRチロシンキナーゼ阻害薬がゲフィチニブまたはエルロチニブである請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記ErbB受容体薬が、セツキシマブ(Erbitux、C225)、マツズマブ(EMD−72000)、パニツムマブ(ABX−EGF/rHuMAb−EGFR)、MR1−1、IMC−11F8またはEGFRL11からなる群から選択される抗EGFR抗体である請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記ErbB受容体薬を、単独療法としてまたは他の薬剤との併用で使用する請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記突然変異が、核酸の挿入、欠失または置換である請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記突然変異がErbB受容体のチロシンキナーゼドメインで起こる請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記突然変異がEGFRのチロシンキナーゼドメインで起こる請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記突然変異が、EGFRのエキソン18、19、20または21におけるATP結合部位周囲に集まっている請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記突然変異が、表5に挙げたEGFR突然変異の群から選択される請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記突然変異が、EGFRのエキソン19におけるE746_A750delおよびエキソン21におけるL858Rである請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記患者が、白血病、多発性骨髄腫またはリンパ腫などの非固形腫瘍、ならびに胆管、骨、膀胱、脳/CNS、神経膠芽腫、乳房、結腸直腸、子宮頚部、子宮内膜、胃、頭部および頚部、肝臓、肺、筋肉、神経、食道、卵巣、膵臓、胸膜/腹膜、前立腺、腎臓、皮膚、精巣、甲状腺、子宮および外陰部の腫瘍などの固形腫瘍からなる群から選択される癌をわずらっている請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
(d)ErbB受容体の下流シグナリング経路の成分における1以上の突然変異の存在について前記DNAをスクリーニングする段階をさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項30】
ErbB受容体の野生型対立遺伝子を検出するのに用いられる第1のプライマー対およびErbB受容体の突然変異体対立遺伝子を検出するのに用いられる第2のプライマー対を含む組成物であって、各プライマー対における一方のプライマーはさらに、
(a)特定の突然変異に特異的な対立遺伝子である末端3′ヌクレオチドを有するプライマー;および
(b)前記プライマーの3′末端における可能な追加のミスマッチ;
(c)プライマー配列および標的配列に特異的なさらなる配列の両方を含む単一分子または核酸二本鎖プローブ;
(d)前記単一分子または核酸二本鎖内でクエンチャー分子の非常に近位にある5′末端に結合した蛍光レポーター色素;
(e)前記プローブの一端にある1以上の非コードヌクレオチド残基
を含み、
(f)前記レポーター色素およびクエンチャー分子が前記標的配列の増幅時に分離されるようになる、前記組成物。
【請求項31】
ErbB薬に対する患者の応答を予測するための、生体液で実施されるアッセイにおけるErbB受容体に特異的なプライマーの使用。
【請求項32】
ErbB薬に対する患者の応答を予測するために生体液を調べるための組成物の製造におけるErbB受容体に特異的なプライマーの使用。
【請求項33】
(a)前記サンプルからDNAを抽出する段階;および
(b)ErbB受容体におけるチロシンキナーゼ活性を変える1以上の突然変異の存在について前記DNAをスクリーニングする段階
をさらに含む請求項31に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−511008(P2009−511008A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534061(P2008−534061)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004036
【国際公開番号】WO2007/039705
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(502097090)アストラゼネカ ユーケー リミテッド (4)
【出願人】(590001452)国立がんセンター総長 (80)
【Fターム(参考)】