説明

FRP部材の製造方法

【課題】多層FRP層中のマトリックス樹脂の含有量、繊維体積含有率をコントロールすることができるFRP部材の製造方法を提供する。
【解決手段】基材20にフィラメントワインディング法を用いてマトリックス樹脂12a、12b、12cを含む繊維を巻き付けて多層FRP層を形成し、前記多層FRP層を加熱硬化させてFRP部材を製造するFRP部材の製造方法であって、前記多層FRP層の単層毎又は複数層毎に、硬化開始温度の異なるマトリックス樹脂を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメントワインディング法によるFRP部材の製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輌用プロペラシャフト、電気自動車等に搭載される圧力容器(ガスボンベ)等は、鉄等に比べて軽量性、強靭性に優れているFRP(Fiber Reinforced Plastic)部材が用いられている。FRP部材は、例えば、樹脂等の基材と、マトリックス樹脂を含む繊維の層であるFRP層(又は多層FRP層)とを備える。
【0003】
多層FRP層を形成する方法としては、一般的にフィラメントワインディング法が知られている。フィラメントワインディング法とは、例えば、マトリックス樹脂を含浸した繊維を、円筒状の基材に巻き付けて、多層FRP層を形成するものである。
【0004】
FRP部材は、フィラメントワインディング法を用いて多層FRP層を形成し、多層FRP層を加熱硬化させることによって得られる。
【0005】
例えば、特許文献1、2には、円筒状のガスバリア性を有する基材に、フィラメントワインディング法を用いて、マトリックス樹脂を含浸した繊維を巻き付けて多層FRP層を形成し、多層FRP層を加熱硬化等させて、ガスボンベを製造する方法が提案されている。
【0006】
しかし、特許文献1、2の製造方法では、多層FRP層内のマトリックス樹脂は、同一種類のものが用いられている。そのため、多層FRP層を加熱硬化させる際に低粘度化したマトリックス樹脂が、多層FRP層から流れ出てしまう。特に、多層FRP層の内層側(基材側)のマトリックス樹脂が、硬化する前に外層側(基材と反対側)に染み出し易くなってしまう。
【0007】
そうすると、多層FRP層全体のマトリックス樹脂の含有量が減少して、繊維体積含有率(Vf)が高くなり、得られるFRP部材の強度が低下してしまう。
【0008】
通常、加熱硬化時に多層FRP層の内層側のマトリックス樹脂が、外層側に染み出さないようにするために、基材にマトリックス樹脂を含む繊維を巻き付ける張力(フィラメントワインディング張力:以下FW張力)等で調製することも可能である。しかしFW張力等で調製すると、多層FRP層全体がマトリックス樹脂リッチとなり、繊維体積含有率が低くなるため、FRP部材の重量増加、品質低下、剛性低下、強度低下等が起こる場合がある。
【0009】
このように、通常、フィラメントワインディング法では、多層FRP層の各層のマトリックス樹脂の含有量、繊維体積含有率をコントロールすることができない。後述する湿式フィラメントワインディング法では特に困難である。また、多層FRP層の各層のマトリックス樹脂の含有量、繊維体積含有率をコントロールして、多層FRP層の内層側をマトリックス樹脂リッチとし(すなわち低い繊維体積含有率)、外層側を高い繊維体積含有率とすることは、FRP部材の強度向上、軽量化、品質向上等を図る点で有効である。
【0010】
【特許文献1】特開平8−216277号公報
【特許文献2】特開平8−219391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、多層FRP層の各層のマトリックス樹脂の含有量、繊維体積含有率をコントロールすることができるFRP部材の製造方法である。特に、多層FRP層の内層側をマトリックス樹脂リッチとし、外層側を高い繊維体積含有率とすることができるFRP部材の製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、基材にフィラメントワインディング法を用いてマトリックス樹脂を含む繊維を巻き付けて多層FRP層を形成し、前記多層FRP層を加熱硬化させてFRP部材を製造するFRP部材の製造方法であって、前記多層FRP層の単層毎又は複数層毎に、硬化開始温度の異なるマトリックス樹脂を用いる。
【0013】
また、本発明は、基材にフィラメントワインディング法を用いてマトリックス樹脂を含む繊維を巻き付けて多層FRP層を形成し、前記多層FRP層を加熱硬化させてFRP部材を製造するFRP部材の製造方法であって、前記多層FRP層の単層毎又は複数層毎に、硬化開始温度及び硬化開始時の粘度が異なるマトリックス樹脂を用いる。
【0014】
また、前記FRP部材の製造方法において、前記多層FRP層のうち、外層に向かうほど、硬化開始温度の低いマトリックス樹脂を用いることが好ましい。
【0015】
また、前記FRP部材の製造方法において、前記多層FRP層のうち、外層に向かうほど、硬化開始温度の高いマトリックス樹脂を用いることが好ましい。
【0016】
また、前記FRP部材の製造方法において、前記多層FRP層のうち、外層に向かうほど、硬化開始時の粘度が低いマトリックス樹脂を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多層FRP層の単層又は複数層毎に、硬化開始温度の異なるマトリックス樹脂を用いることによって、多層FRP層の各層のマトリックス樹脂の含有量、繊維体積含有率をコントロールすることができるFRP部材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0019】
本実施形態に係るFRP部材の製造方法は、基材にフィラメントワインディング法を用いてマトリックス樹脂を含む繊維を巻き付けて多層FRP層を形成し、多層FRP層を加熱硬化させてFRP部材を製造するものであって、多層FRP層の単層又は複数層毎に、硬化開始温度の異なるマトリックス樹脂を用いる。
【0020】
本実施形態に用いられるフィラメントワインディング法には、湿式フィラメントワインディング法、乾式フィラメントワインディング法等がある。
【0021】
図1は、湿式フィラメントワインディング法による多層FRP層の作製例を示す図である。本実施形態では、硬化開始温度の異なる3種類のマトリックス樹脂を用いたものを例として説明する。
【0022】
図1に示すように、リール14aから繰り出された繊維16が、樹脂浴槽10a内のマトリックス樹脂12aに浸漬された後、ロール18aによって繊維16内の余分なマトリックス樹脂12aが取り除かれる。その後、マトリックス樹脂12aが浸漬された繊維16は、基材20に巻き付けられ、単層又は複数層のFRP層が形成される。その後、上記同様に、マトリックス樹脂12bが浸漬された繊維16が、基材20に、マトリックス樹脂12cが浸漬された繊維16が基材20に順次巻き付けられ、単層又は複数層のFRP層が形成される。このようにして多層FRP層が形成される。
【0023】
一方、乾式フィラメントワインディング法よる多層FRP層の作製は、例えば、繊維に、予め硬化開始温度の異なる樹脂A,B,Cをそれぞれ含浸したもの(プリプレグA,B,C)が、順次基材に巻き付けられ、多層FRP層が形成される。
【0024】
次に、フィラメントワインディング法によるマトリックス樹脂含有の繊維(プリプレグも含む)の巻き付け方の例を説明する。図2(イ)は、フィラメントワインディング法におけるフープ巻きの一例を示す模式図であり、図2(ロ)は、フィラメントワインディング法におけるヘリカル巻きの一例を示す模式図である。図2(イ)に示すように、フープ巻きとは、基材20の軸方向(矢印X)に対して略垂直にマトリックス樹脂含有の繊維16を巻き付けるものである。また、図2(ロ)に示すように、ヘリカル巻きとは、基材20の軸方向(矢印X)に沿って、マトリックス樹脂含有の繊維16をらせん状に巻き付けるものである。上記フープ巻き、ヘリカル巻き等によって、基材20にFRP層を形成することができるが、本実施形態の巻きつけ方としては、上記フープ巻き、ヘリカル巻きに限定されるものでない。
【0025】
図3は、フィラメントワインディング法により作製した多層FRP層の一部模式断面図である。図3に示すように、基材20表面に形成されている多層FRP層22は、上記説明したフープ巻き、ヘリカル巻き等によって、FRP層が複数層形成されたものである。本実施形態では、図3に示すように、FRP層を6層(24a,24b,24c,24d,24e,24f)形成したものを例として説明する。
【0026】
多層FRP層22は、フープ巻き(以下Hoと記す)、ヘリカル巻き(以下Heと記す)単独で形成されたものであっても、フープ巻き、ヘリカル巻きを組み合わせて形成されたものであってもよい。フープ巻き、ヘリカル巻きの組み合わせは、特に制限されるものではないが、例えば、多層FRP層22の内層側、すなわちFRP層24aから、Ho−He−Ho−He−Ho−Heや、Ho−Ho−He−He−Ho−Hoや、He−Ho−Ho−He−Ho−He等が挙げられる。
【0027】
次に、本実施形態に用いられるマトリックス樹脂について説明する。
【0028】
マトリックス樹脂は、多層FRP層の単層(例えば、図3に示す24a)毎又は複数層(例えば、図3に示す24a〜24c)毎に硬化開始温度の異なるものが用いられる。硬化開始温度の異なるものとして、多層FRP層の単層毎又は複数層毎に使用されるマトリックス樹脂の硬化開始温度の差が、異なるものであればよいが、10℃以上であるものが好ましい。例えば、硬化開始温度の異なる3種類のマトリックス樹脂を用いる場合、例えば、マトリックス樹脂Aの硬化開始温度が80℃であれば、マトリックス樹脂Bの硬化開始温度は、90℃以上(又は70℃以下)のものが好ましく、マトリックス樹脂Bの硬化開始温度が、90℃(又は70℃)であれば、マトリックス樹脂Cの硬化開始温度が、100℃以上(又は60℃以下)のものが好ましい。また、上記マトリックス樹脂A,B,C(以下、単にA,B,C)を用いて、図3に示す多層FRP層22を形成する場合、その組み合わせとしては、例えば、多層FRP層22の内層側、すなわちFRP層24aから、A−B−C−A−B−C、A−A−B−B−C−C等が挙げられる。このように、多層FRP層のうち、単層毎又は複数層毎に硬化開始温度の異なるマトリックス樹脂を用いることによって、多層FRP層の各層のマトリックス樹脂含有量、繊維体積含有率を任意にコントロールすることができる。そのため、複雑な層構成を有する多層FRP層を形成することができる。
【0029】
ここで、繊維体積含有率とは、FRP層の単位体積当たりの繊維が占める体積を表している。また、繊維体積含有率が高いと、FRP層の単位体積当たりのマトリックス樹脂の量が少なく、繊維体積含有率が低いと、FRP層の単位体積当たりのマトリックス樹脂の量が多くなる。
【0030】
多層FRP層の形成後、多層FRP層を加熱硬化させることによって、FRP部材が得られる。加熱条件は、多層FRP層の厚さ、使用するマトリックス樹脂の種類等によって、適宜設定されるものであり、特に制限されるものではない。
【0031】
図4は、マトリックス樹脂の硬化開始温度を説明するための図であり、マトリックス樹脂の昇温粘度曲線である。マトリックス樹脂の硬化開始温度とは、図4に示すマトリックス樹脂の昇温粘度曲線において、傾きがゼロから正(プラス)となる温度を言う。
【0032】
また、マトリックス樹脂は、単層毎又は複数層毎に硬化開始温度が異なり、且つ硬化開始時の粘度も異なることが好ましい。硬化開始時の粘度の異なるものとして、単層毎又は複数層毎に使用されるマトリックス樹脂の硬化開始時の粘度の差が、異なるものであればよいが、10Pa・s以上であることが好ましい。例えば、上記のマトリックス樹脂A(硬化開始温度80℃),B(硬化開始温度90℃),C(硬化開始温度100℃)であれば、例えば、マトリックス樹脂Aの硬化開始時の粘度が310Pa・sであれば、マトリックス樹脂Bの硬化開始時の粘度は、400Pa・s以上のものが好ましく、マトリックス樹脂Bの硬化開始時の粘度が、400Pa・sであれば、マトリックス樹脂Cの硬化開始時の粘度が、410Pa・s以上のものが好ましい。
【0033】
また、マトリックス樹脂の硬化開始時の粘度とは、図4に示すマトリックス樹脂の昇温粘度曲線において、上記説明した硬化開始温度時の粘度を言う。このように、硬化開始温度及び硬化開始時の粘度の異なるマトリックス樹脂を用いることによって、より効率的に、多層FRP層の各層のマトリックス樹脂含有量、繊維体積含有率をコントロールすることができる。
【0034】
図4に示すようなマトリックス樹脂の粘度曲線(又は硬化開始時の粘度)は、粘度測定装置(英弘精機社製、レオストレスRS600)によって、測定することができる。
【0035】
また、多層FRP層のうち、外層に向かうほど(図3に示す矢印Y)硬化開始温度の低いマトリックス樹脂を用いて多層FRP層を形成することが好ましい。外層に向かうほど(図3に示す矢印Y)硬化開始温度の低いマトリックス樹脂を用いることによって、多層FRP層の外層から、すなわち図3に示すFRP層24f内のマトリックス樹脂から硬化させることが可能となる。すなわち、先にマトリックス樹脂が硬化した外層(例えば、FRP層24f)が壁となり、内層(例えば、FRP層24a)のマトリックス樹脂が、FRP層外に染み出すことを抑制することができる。したがって、多層FRP層内の内層側をマトリックス樹脂リッチ(すなわち低い繊維体積含有率)とし、外層側を高い繊維体積含有率とすることができるため、FRP部材の強度向上、軽量化、品質等の点で有効である。
【0036】
また、多層FRP層のうち、外層に向かうほど(図3に示す矢印Y)硬化開始温度の高いマトリックス樹脂を用いて多層FRP層を形成することがより好ましい。外層に向かうほど硬化開始温度の高いマトリックス樹脂を用いることによって、内層側のマトリックス樹脂は、外層側に染み出す前に硬化するため、外層に向かうほど硬化開始温度の低いマトリックス樹脂を用いるより、多層FRP層の内層側をマトリックス樹脂リッチとし、外層側を高い繊維体積含有率とすることができる。
【0037】
また、多層FRP層のうち、外層に向かうほど(図3の矢印Y)硬化開始時の粘度が低いマトリックス樹脂を用いて多層FRP層を形成することがより好ましい。多層FRP層の外層に向かうほど硬化開始時の粘度の低いマトリックス樹脂を用いることによって、内層側のマトリックス樹脂は流れ難く、外層側のマトリックス樹脂は流れ易くなるため、多層FRP層の内層側をマトリックス樹脂リッチとし、外層側を高い繊維体積含有率とすることができる。
【0038】
本実施形態において、硬化開始温度の異なるマトリックス樹脂を多層FRP層の単層毎又は複数層毎に用いるためには、使用するマトリックス樹脂の種類、分子構造、又は添加する硬化剤の種類を変えること等が必要である。
【0039】
マトリックス樹脂の種類としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本実施形態では、例えば、上記樹脂等から硬化開始温度の異なるマトリックス樹脂を複数選択し、多層FRP層の単層毎又は複数層毎に使用することができる。
【0040】
また、マトリックス樹脂の分子構造としては、例えば、エポキシ樹脂の場合、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。本実施形態では、例えば、上記樹脂等から硬化開始温度の異なるマトリックス樹脂を複数選択し、多層FRP層の単層毎又は複数層毎に使用することができる。
【0041】
また、マトリックス樹脂に加える硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン等の脂肪族アミン、ジエチレントリアミン等の脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミンまたはジアミノジフェニルスルフォン等の芳香族アミン、ピペリジンまたはジアザピシクロウンデセン等の第一、第三アミン、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物硬化剤等が挙げられる。本実施形態では、例えば、マトリックス樹脂の硬化開始温度を異ならせることができる硬化剤を複数選択し、多層FRP層の単層毎又は複数層毎に使用することができる。
【0042】
本実施形態に用いられる基材としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄等の金属材料、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ABS樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0043】
本実施形態に用いられる繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ポリエチレン繊維、スチール繊維、ザイロン繊維、ビニロン繊維等が挙げられる。また、本実施形態に用いられる繊維の繊維数(フィラメント)は、特に制限されるものではないが1000〜50000フィラメント、好ましくは3000〜30000フィラメントの範囲である。本実施形態に用いられる繊維の繊維数が、1000フィラメントより低いと、繊維中に含まれるマトリックス樹脂の含有量が少なくなる場合があり、50000フィラメントを超えると繊維が太くなり多層FRP層を形成することが困難となる場合がある。特に高強度、高弾性率かつ軽量の点から炭素繊維が好ましい。
【0044】
以上のように、本実施形態に係るFRP部材の製造方法は、多層FRP層の単層又は複数層毎に、硬化開始温度の異なるマトリックス樹脂を用いることによって、多層FRP層の各層のマトリックス樹脂の含有量、繊維体積含有率を任意にコントロールすることができる。また、多層FRP層のうち、外層に向かうほど、硬化開始温度の低いマトリックス樹脂又は硬化開始温度の高いマトリックス樹脂を用いることによって、多層FRP層の内層側をマトリックス樹脂リッチとし、外層側を高い繊維体積含有率とすることができるため、FRP部材の強度向上、軽量化、品質向上等を図ることができる。
【0045】
上記本実施形態に係るFRP部材の製造方法は、例えば、自動車等の車輌用プロペラシャフト等、車輌、消防、医療、レジャー用等に使用される空気、酸素、液化プロパンガス、液化天然ガス等の圧力容器(ガスボンベ)等の製造方法として使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
車輌用等に使用される圧力容器の製造方法を実施例として、以下説明する。
【0048】
(実施例1)
<圧力容器の製造に使用する各種材料>
まず、圧力容器を構成する基材、すなわち、フィラメントワインディング法を用いてマトリックス樹脂を含む繊維を巻き付ける基材について説明する。図5は、フィラメントワインディング法を用いてマトリックス樹脂を含む繊維を巻き付ける基材の模式断面図である。基材26は、口金部28と、胴部30と、ボス32とを備える。
【0049】
胴部30は、ガス不透過性を有するものであればよく、胴部30内の空洞部34にガスが充填される。胴部30は、例えば、上記説明した金属、樹脂等で形成される。
【0050】
口金部28は、空洞部34内へガスを充填し、空洞部34内からガスを取り出すノズルが取り付けられる。また、口金部28、ボス32は、フィラメントワインディング法を用いて基材26にマトリックス樹脂を含む繊維を巻き付ける際に、基材26を回転させるための軸体として利用される。口金部28、ボス32は、強度の点で、上記説明した金属等で形成される。実施例1では、口金部28、ボス32をアルミ、又はSUSで形成した。
【0051】
次に、実施例1で使用したマトリックス樹脂について説明する。図6は、実施例1で使用したマトリックス樹脂の昇温粘度曲線を示す図である。昇温粘度曲線は、粘度測定装置(英弘精機社製、レオストレスRS600)により測定した。図6に示すような硬化開始温度の異なる3種類のマトリックス樹脂A1,B1,C1を用いた。マトリックス樹脂A1とは、エポキシ樹脂であり、図6の昇温粘度曲線から硬化開始温度は85℃、硬化開始時の粘度は210Pa・sであった。マトリックス樹脂B1とは、エポキシ樹脂であり、図6の昇温粘度曲線から硬化開始温度は95℃、硬化開始時の粘度は320Pa・sであった。マトリックス樹脂C1とは、エポキシ樹脂であり、図6の昇温粘度曲線から硬化開始温度は150℃、硬化開始時の粘度は420Pa・sであった。
【0052】
実施例1では、約24000フィラメントの炭素繊維を使用した。
【0053】
<多層FRP層及びFRP部材の形成>
多層FRP層の形成には、図1に示すような湿式フィラメントワインディング法を用いた。また、実施例1では、多層FRP層のうち、外層に向かうほど硬化開始温度の低いマトリックス樹脂を用いて多層FRP層を形成した。以下具体的に説明する。
【0054】
図1に示すリール14aから繰り出された繊維16(上記説明した繊維)を、樹脂浴槽10a内のマトリックス樹脂C1に浸漬させた後、ロール18aによって繊維16内の余分なマトリックス樹脂C1を取り除いた。その後、マトリックス樹脂C1を浸漬させた繊維16を、図5に示す基材26にフープ巻きで巻き付け、FRP層を2層形成した。その後、上記同様に、マトリックス樹脂B1を浸漬させた繊維16を図5に示す基材26にヘリカル巻きで、マトリックス樹脂A1を浸漬させた繊維16を図5に示す基材26にフープ巻きで順次巻き付け、FRP層をそれぞれ2層ずつ形成した。すなわち、計6層のFRP層を備えた多層FRP層を形成した。
【0055】
多層FRP層の形成後、90℃1時間、100℃1時間、110℃1時間、140℃2時間で多層FRP層を加熱硬化させ、FRP部材としての圧力容器を得た。
【0056】
図7は、圧力容器の模式断面図である。図8は、図7に示す点線枠rにおける圧力容器の拡大模式断面図である。実施例1では、図7及び図8に示すFRP部材1において、多層FRP層35のFRP層36a,36bには、マトリックス樹脂C1、FRP層36c,36dには、マトリックス樹脂B1、FRP層36e,36fには、マトリックス樹脂A1を用いた。
【0057】
このように、多層FRP層35のうち、外層に向かうほど硬化開始温度の低いマトリックス樹脂を用いることによって、多層FRP層35の外層(例えば、FRP層36e,36f)から硬化させることが可能となり、内層(例えばFRP層36a,36b)のマトリックス樹脂C1をFRP層外へ染み出すことを抑制することができた。その結果として、実施例1の圧力容器の多層FRP層は、内層側(例えばFRP層36a,36b)がマトリックス樹脂リッチ(すなわち低い繊維体積含有率)であり、外層側(例えば、FRP層36e,36f)が高い繊維体積含有率であった。
【0058】
(実施例2)
実施例2で使用したマトリックス樹脂について説明する。図9は、実施例2で使用したマトリックス樹脂の昇温粘度曲線を示す図である。図9に示すように、熱硬化開始温度の異なる3種類のマトリックス樹脂A2,B2,C2を用いた。マトリックス樹脂A2とは、エポキシ樹脂であり、図9の昇温粘度曲線から硬化開始温度は80℃、硬化開始時の粘度は380Pa・sであった。マトリックス樹脂B2とは、エポキシ樹脂であり、図9の昇温粘度曲線から硬化開始温度は90℃、硬化開始時の粘度は320Pa・sであった。マトリックス樹脂C2とは、エポキシ樹脂であり、図9の昇温粘度曲線から硬化開始温度は100℃、硬化開始時の粘度は200Pa・sであった。また、基材、繊維については実施例1と同様のものを使用した。
【0059】
<多層FRP層及びFRP部材の形成>
多層FRP層の形成には、図1に示すような湿式フィラメントワインディング法を用いた。また、実施例2では、多層FRP層のうち、外層に向かうほど硬化開始温度の高いマトリックス樹脂を用いて多層FRP層を形成した。以下具体的に説明する。
【0060】
リール14aから繰り出された繊維16(上記説明した繊維)を、樹脂浴槽10a内のマトリックス樹脂A2に浸漬させた後、ロール18aによって繊維16内の余分なマトリックス樹脂A2を取り除いた。その後、マトリックス樹脂A2を浸漬させた繊維16を、図5に示す基材26にフープ巻きで巻き付け、FRP層を2層形成した。その後、上記同様に、マトリックス樹脂B2を浸漬させた繊維16を図5に示す基材26にヘリカル巻きで、マトリックス樹脂C2を浸漬させた繊維16を図5に示す基材26にフープ巻きで順次巻き付け、FRP層をそれぞれ2層ずつ形成した。すなわち、計6層のFRP層を備えた多層FRP層を形成した。
【0061】
多層FRP層の形成後、85℃1時間、95℃1時間、105℃1時間、135℃2時間で多層FRP層を加熱硬化させ、FRP部材としての圧力容器を得た。
【0062】
実施例2では、図7及び図8に示すFRP部材1において、多層FRP層35のFRP層36a,36bには、マトリックス樹脂A2、FRP層36c,36dには、マトリックス樹脂B2、FRP層36e,36fには、マトリックス樹脂C2を用いた。
【0063】
このように、多層FRP層35のうち、外層に向かうほど硬化開始温度の高いマトリックス樹脂を用いることによって、外層から硬化し内層側の樹脂の染み出しをおさえたため、内層(例えばFRP層36a,36b)のマトリックス樹脂C1をFRP層外へ染み出すことを抑制することができた。その結果として、実施例2の圧力容器の多層FRP層は、内層側(例えばFRP層36a,36b)がマトリックス樹脂リッチであり、外層側(例えば、FRP層36e,36f)が高い繊維体積含有率であった。
【0064】
このように、多層FRP層のうち、外層に向かうほど硬化開始温度の高い又は低いマトリックス樹脂を用いることによって、内層側をマトリックス樹脂リッチとし、外層側を高い繊維体積含有率とすることができた。特に、多層FRP層のうち、外層に向かうほど硬化開始温度の低いマトリックス樹脂を用いることによって、内層側をマトリックス樹脂リッチとし、外層側を高い繊維体積含有率とすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】湿式フィラメントワインディング法による多層FRP層の作製例を示す図である。
【図2】フィラメントワインディング法におけるフープ巻き及びヘリカル巻きの一例を示す模式図である。
【図3】フィラメントワインディング法により作製した多層FRP層の一部模式断面図である。
【図4】マトリックス樹脂の硬化開始温度を説明するための図であり、マトリックス樹脂の昇温粘度曲線である。
【図5】フィラメントワインディング法を用いてマトリックス樹脂を含む繊維を巻き付ける基材の模式断面図である。
【図6】実施例1で使用したマトリックス樹脂の昇温粘度曲線を示す図である。
【図7】圧力容器の模式断面図である。
【図8】図7に示す点線枠rにおける圧力容器の拡大模式断面図である。
【図9】実施例2で使用したマトリックス樹脂の昇温粘度曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 FRP部材、10a,10b,10c 樹脂浴槽、12a,12b,12c マトリックス樹脂、14a,14b,14c リール、16 繊維、18a,18b,18c ロール、20,26 基材、22,35 多層FRP層、24a〜24f,36a〜36f FRP層、28 口金部、30 胴部、32 ボス、34 空洞部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にフィラメントワインディング法を用いてマトリックス樹脂を含む繊維を巻き付けて多層FRP層を形成し、前記多層FRP層を加熱硬化させてFRP部材を製造するFRP部材の製造方法であって、
前記多層FRP層の単層毎又は複数層毎に、硬化開始温度の異なるマトリックス樹脂を用いること特徴とするFRP部材の製造方法。
【請求項2】
基材にフィラメントワインディング法を用いてマトリックス樹脂を含む繊維を巻き付けて多層FRP層を形成し、前記多層FRP層を加熱硬化させてFRP部材を製造するFRP部材の製造方法であって、
前記多層FRP層の単層毎又は複数層毎に、硬化開始温度及び硬化開始時の粘度が異なるマトリックス樹脂を用いることを特徴とするFRP部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のFRP部材の製造方法であって、前記多層FRP層のうち、外層に向かうほど、硬化開始温度の低いマトリックス樹脂を用いることを特徴とするFRP部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のFRP部材の製造方法であって、前記多層FRP層のうち、外層に向かうほど、硬化開始温度の高いマトリックス樹脂を用いることを特徴とするFRP部材の製造方法。
【請求項5】
請求項4又は5記載のFRP部材の製造方法であって、前記多層FRP層のうち、外層に向かうほど、硬化開始時の粘度が低いマトリックス樹脂を用いることを特徴とするFRP部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−126615(P2008−126615A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316985(P2006−316985)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】