説明

ICタグ交信範囲表示装置およびICタグ交信範囲表示方法

【課題】ICタグの交信距離の校正を簡易に行って、現場環境と交信範囲との整合をとり、交信範囲を表示する。
【解決手段】予め、リーダライタ1の出力強度を最小にして、リーダライタ1とICタグ3との距離を最大交信距離としたときのICタグ3の最小動作電力Rtsと、そのときにリーダライタ1がICタグ3から受信した応答波の受信電力である基準受信電力Rrwsとを、予め実測しておく。次に、リーダライタの出力強度Prwおよびアンテナ利得Gantを、式(4)に適用して、この出力強度Prwのときの推定最大交信距離D’maxが算出される。また、受信電力Rrwと基準受信電力Rrwsとを式(5)に適用して、補正距離dが算出される。そして、アンテナ2とICタグ3との交信距離Dが、式(6)を用いて算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッシブ型ICタグ(以降、ICタグと称す。)の交信範囲を表示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
リーダライタとICタグとの交信(ICタグの読み取り)ができるためには、リーダライタが、ICタグに向かって電波を発射し、そのICタグから返ってきた応答波を復調できる必要がある。すなわち、ICタグに必要な電力が供給されない状態、例えば、リーダライタの出力が不足している場合や、ICタグとリーダライタとの距離が遠すぎる場合には、交信ができなくなる。
【0003】
交信範囲を表示するためには、リーダライタとICタグとの間の交信距離が明らかになっている必要がある。一般的に、交信距離を理論計算によって算出しようとしても、ICタグの応答性能が公開されておらず計算できないことが多い。もし公開されていても理論計算すると現実の交信距離よりずっと長い方向にズレて算出される傾向がある。そこで、特許文献1には、予めリーダライタの出力強度ごとにICタグと交信可能な交信距離を実測しておき(すなわち、交信距離の校正を行っておき)、リーダライタの出力強度を変化させてICタグと交信可能になる出力強度を測定し、その交信可能な出力強度を交信距離に換算して交信距離を求めることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−71516号公報(段落0094、図14(a)参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リーダライタを用いてICタグの読み取りを行う実際の現場では、現場のどの範囲がICタグと交信可能なのかをリーダライタのユーザに表示することによって、作業効率を向上させることができると考えられる。しかしながら、ICタグの交信距離は、公開されていないことが多く、もし公開されていても特定のリーダライタにおいての交信距離を参考値として公開していることが多い。また、ICタグの種類や型式によってまちまちであることが想定される。そこで、特許文献1のように、リーダライタの出力強度を変えつつICタグの交信距離を実測することが考えられる。
【0006】
しかし、実際の現場において、読み取り作業の前に、リーダライタの出力強度を変えつつ、ICタグの交信距離を実測しているのでは、手間も時間も掛かってしまうという問題がある。また、前記問題とは別に、ICタグの交信範囲を表示するためには、表示する範囲が、現場環境(物の配置等)のスケールと整合させる必要もある。
【0007】
そこで、本発明では、ICタグの交信距離を算出可能にするとともに、算出した交信距離と現場環境の距離との整合をとって、現場環境に応じた交信範囲を表示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、まず、読み取り対象となるICタグに対して、リーダライタの出力強度を最小にして、ICタグとの最大の交信距離(最大交信距離)およびその最大交信距離のときにリーダライタがICタグから受信する応答波の受信電力(以降、基準受信電力と称す。)を実測するとともに、その最大交信距離のときのICタグへの到達電力(ICタグが動作可能な最小動作電力;以降、最小動作電力と称す。)を計算により推定する。すなわち、最大交信距離と出力強度と最小動作電力との間の関係式は理論的に生成できるので、最大交信距離と出力強度とが分かれば、最小動作電力を推定することができる。次に、実際の現場でリーダライタの出力を使用したい出力強度に設定したとき、前記関係式にその出力強度と最小動作電力とを代入することによって、その出力強度に対応して推定される最大交信距離(推定最大交信距離)を算出する。そして、実際の現場でリーダライタが受信した受信電力から基準受信電力を減算した差分が、推定最大交信距離よりもICタグがリーダライタに近くに位置していることに起因するものとして、その近くなった距離を補正距離として算出する。すなわち、リーダライタから読み取り対象のICタグまでの交信距離は、推定最大交信距離から補正距離を減算して算出される。なお、交信範囲は、アンテナの正面だけでなく、アンテナの指向性を考慮して、算出される。また、現場環境を撮影した画像上で、その画像に写っているICタグまでの画像上の距離と算出した交信距離とを整合させて、交信範囲を画像に合成表示する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ICタグの交信距離の校正を簡易に行って、現場環境と交信範囲との整合をとり、交信範囲を表示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態におけるリーダライタの適用例を示す図である。
【図2】出力強度と交信距離とICタグへの到達電力との関係を示す図である。
【図3】(a)は、リーダライタの出力強度最小時の最大交信距離とICタグへの到達電力(最小動作電力)との関係を示す図であり、(b)は、最大交信距離の測定例を示す図である。
【図4】受信電力の増加分と補正距離との関係を示す図である。
【図5】アンテナ指向性を示す図である。
【図6】(a)は、アンテナの放射角度と利得の関係を示す図であり、(b)は、交信範囲を示す図である。
【図7】ICタグ交信範囲表示装置を含むリーダライタの構成の一例を示す図である。
【図8】ICタグ交信範囲表示処理の流れを示す図である。
【図9】初期設定の処理の流れを示す図である。
【図10】交信範囲表示の処理の流れを示す図である。
【図11】読み取り対象のICタグを含む周辺の画像の撮影状態の例を示す図である。
【図12】ステップS1006で表示される画像の例を示す図である。
【図13】ステップS1011で表示される画像の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態(以降、「本実施形態」と称す。)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
はじめに、本実施形態におけるICタグ交信範囲表示装置を含むリーダライタの適用例について、図1を用いて説明する。リーダライタ1は、入力されたデータを変調して、アンテナ2を介して、電波を発射する。リーダライタ1は、その電波を受信したICタグ3(パッシブ型ICタグ)から応答波を受信して、その応答波に含まれるデータを取得する。リーダライタ1の電波に対してICタグ3が応答できる範囲は、リーダライタ1の出力強度、アンテナ2の利得(指向性を含む)、およびICタグ3の応答性能等に依存して、交信範囲4のように定まる。仮に、図1に示すように交信範囲4が表示された場合、リーダライタ1を使用するユーザは、その交信範囲4に入っているICタグ3a,3bが、リーダライタ1と交信可能であることを知ることができる。
【0013】
また、ユーザは、この交信範囲4の表示を見て、次に、どの場所に移動すれば、効率良く次の交信範囲4を設定できるかを推測することができる。例えば、図1に示すように、ユーザは、破線で示した位置に移動した場合、交信範囲4がオーバーラップするエリアをわずかにして、ICタグ3c,3dと交信可能になることを予測できる。仮に、交信範囲4の精度が粗かったとしても、交信範囲4が目安として分かる場合と分からない場合とでは、作業効率は大きく異なるものと推測できる。一般的に、ICタグ3の応答性能は、メーカや型式によって異なるだけでなく、公開されていないため、交信範囲4のエリアを、ユーザは知ることができない。そこで、本実施形態では、この交信範囲4を表示する機能を備えたリーダライタ1について説明する。
【0014】
<フレームワーク>
まず、アンテナ2とICタグ3との交信距離Dを計算によって算出するための基本的な考え方について、図2を用いて説明する。リーダライタ1、アンテナ2、およびICタグ3の組において、リーダライタ1の出力強度Prwおよびアンテナ2のアンテナ利得Gantのときに、交信距離Dと、アンテナ2から交信距離Dだけ離れたICタグ3に到達する到達電力Rtとの関係は、式(1)のように表される。また、リーダライタ1の出力強度Prw、アンテナ2のアンテナ利得Gant、および交信距離Dが分かっている場合に、到達電力Rtを算出する場合には、式(1)を変形して、式(2)のように表される。
【数1】


ここで、fは交信周波数、cは光速、πは円周率である。
【0015】
次に、交信距離の校正を行う過程として、図3(a)に示すように、リーダライタ1の出力強度を最小にして(最小出力強度Prws)、ICタグ3と実際に交信を行って、最大の交信距離(最大交信距離Dmax)およびリーダライタ1がICタグ3から受信する応答波の受信電力(基準受信電力Rrws)を実測する。このときの到達電力(最小動作電力Rts)は、式(2)に、最小出力強度Prws、最大交信距離Dmax、およびアンテナ利得Gantを代入して、式(3)のように表される。
【数2】


また、図3(a)に示すように、リーダライタ1の出力強度が最小出力強度Prwsであって最大交信距離Dmaxのときに、リーダライタ1がICタグ3から受信する応答波の電力を基準受信電力Rrwsと表す。
【0016】
最大交信距離の測定については、図3(b)を用いて説明する。リーダライタ1の出力強度は、技術基準適合証明の試験や出荷検査等によって予め分かっている。そこで、リーダライタ1の出力強度を最小に設定して、図3(b)に示すように、リーダライタ1に接続したアンテナ2から、ICタグ3を、予め決めておいた交信距離の増加分ずつ遠ざけては、その位置において交信成功率(交信成功回数/試行回数の百分率)を実測する。なお、図3(b)では、例として、交信距離の増加分を10cmずつとした場合を示している。また、図3(b)では、ICタグ3をリーダライタ1およびアンテナ2から遠ざけるように表しているが、リーダライタ1およびアンテナ2をICタグ3から遠ざけるようにしてもよい。
【0017】
図3(b)に示す表には、測定結果の例を示している。表中では、交信距離(cm)が10,20,30,40,50,60,70と増加するにしたがって、交信成功率(%)は、100,100,100,90,40,70,60となっている。ここで、最大交信距離Dmaxを、「安定的に交信できること」を指標として定義することとする。「安定的に交信できること」とは、交信距離を長くしていったときに、交信成功率が、予め決めておいた閾値を連続して上回る距離のことである。図3(b)に示す表では、閾値を50%とした場合、交信距離が10cm〜40cmの間は、交信成功率が閾値50%以上を保っている。しかし、交信距離が50cmのときに、交信成功率が40%となって、閾値50%を下回っている。したがって、最大交信距離Dmaxは40cmと決定される。なお、図3(b)では、交信距離の増加分を10cmずつとしたが、これ以外の増加分であってもよい。また、閾値を50%としたが、これ以外の値であってもよい。
【0018】
一般的に、ICタグ3をアンテナ2から遠ざけていくと、ICタグ3が動作するのに必要な電力が不足して、動作できなくなる。図3(b)に示すように、リーダライタ1の出力強度が最小出力強度Prwsの場合に、アンテナ2から最も遠く離れて、ICタグ3が動作できる位置の距離を最大交信距離Dmaxとする。なお、リーダライタ1の出力強度を最小にして実測をする利点は、現場環境の影響によって読み取りができなくなるヌル点の発生を小さくすること、かつ、最大交信距離が短くなり、測定がスピーディに行えること、である。
【0019】
次に、実際の現場では、リーダライタ1の出力を使用したい出力強度に設定して、ICタグ3の読み取り作業が行われるので、その読み取り作業の過程における交信距離の算出について、図4を用いて説明する。図4に示すように、リーダライタ1の出力強度Prwは、最小出力強度値Prws以上に設定される。この場合には、アンテナ2とICタグ3との間の最大の交信可能な距離(推定最大交信距離D’max)は、式(1)に、出力強度Prw、アンテナ利得Gant、および最小動作電力Rts(図3参照)を代入することによって算出され、式(4)のように表される。
【数3】

【0020】
通常、ICタグ3の読み取りを行うときには、ICタグ3は、推定最大交信距離D’maxに等しいかまたはアンテナ2により近い交信距離Dの場所に位置している。すなわち、D≦D’maxである。ここで、推定最大交信距離D’maxと交信距離Dとの差分(補正距離d)は、ICタグ3を発信源としたときの、図4に示す受信電力Rrwから図3に示す基準受信電力Rrwsを減算した差分に対応するものとする。すなわち、補正距離dは式(5)のように表される。
【数4】

【0021】
したがって、図4における交信距離Dは、式(6)のように表され、式(4)の推定最大交信距離D’max、および式(5)の補正距離dを式(6)に代入することによって算出される。
【数5】

【0022】
以上より、実際の現場において、リーダライタ1の出力を使用したい出力強度に設定して、ICタグ3の読み取り作業を行う場合、アンテナ2の正面方向の読み取り対象のICタグ3までの交信距離を、式(6)を用いて算出することができる。
【0023】
次に、アンテナ2から発射される電波は、広がりを持っているので、アンテナ2の正面方向以外の交信範囲の算出について、図5および図6を用いて説明する。図5に、リーダライタ1のアンテナ指向性の一例を示す。図5の横軸は、アンテナ2の正面方向を角度0度としたときの角度(度)を表し、縦軸は、利得(dB)を表す。利得は、角度0度のときを0(dB)として表現している。そして、利得の特性は、一般的に、角度0度のときが最も利得が大きく、角度の絶対値が大きくなるにしたがって、利得が低下する。
【0024】
図6(a)は、アンテナ利得Gantを表形式で表したものである。そして、図6(b)は、交信範囲を表している。すなわち、角度ごとに、式(4)を用いて推定最大交信距離D’maxを算出し、その推定最大交信距離D’maxから補正距離dを減算することによって、交信距離Dを算出する。そして、角度ごとに算出された交信距離Dの値を滑らかな曲線で結ぶことによって、交信範囲(図6(b)のドットが付されているエリア)を定める。なお、図6(a)では、7つの角度を記載しているが、角度の数は、7以外であっても構わない。また、図6(a)に記載した角度以外の角度を用いても構わない。
【0025】
以上より、実際の現場において、リーダライタ1の出力を使用したい出力強度に設定して、ICタグ3の読み取り作業を行う場合、リーダライタ1の交信範囲を算出することができる。
【0026】
<ICタグ交信範囲表示装置を含むリーダライタの構成>
次に、本実施形態におけるICタグ交信範囲表示装置を含むリーダライタ1(以降、単に、リーダライタ1と称す。)の構成について、図7を用いて説明する(適宜図1参照)。リーダライタ1は、ICタグ3を読み取る基本動作として、送信系ではデータ入力を変調する変調部23、所定の周波数に変換する送信系RF(Radio Frequency)回路部22、送信系RF回路部22の出力をサーキュレータ(または方向性結合器)21からアンテナ2に送出し、またICタグからの応答波を受ける受信系では、アンテナ2が受信した信号を受信系RF回路部24に出力するサーキュレータ(または方向性結合器)21、サーキュレータ(または方向性結合器)21から出力された信号を所定の周波数に変換する受信系RF回路部24、および受信系RF回路部24から出力される信号を復調して識別データを出力する復調部25を備える。
【0027】
さらに、本実施形態では、リーダライタ1が交信範囲4を算出して、現場で撮影した画像にその交信範囲4を合成して表示するためのICタグ交信範囲表示装置5の構成として、検波部26、A/D(Analog/Digital)変換部27、処理部30、撮像部40、および表示部50を備える。検波部26は、受信電力を求める。A/D変換部27は、検波部26のアナログ信号をディジタル信号に変換する。
【0028】
処理部30は、制御回路部31、交信距離演算部32、画面表示処理部33、および記憶部34を備える。処理部30は、CPU(Central Processing Unit)および主記憶装置に相当する。制御回路部31は、処理部30内の各部32,33の処理制御、および撮像部40および表示部50の制御を司る。交信距離演算部32は、A/D変換部27の出力を受け付け、前記した式(1)〜式(6)の演算を含む交信範囲の演算を実行する。画面表示処理部33は、撮像部40によって撮影された画像と交信距離演算部32の演算結果である交信範囲とを合成して表示部50に出力する。記憶部34は、A/D変換部27の出力、撮像部40が撮影した画像、交信距離演算部32の演算結果等を記憶する。
【0029】
撮像部40は、読み取り対象のICタグ3を含む周囲の読み取り現場を撮影し、画像を生成する。なお、撮像部40が生成した画像は、制御回路部31を介して記憶部34に記憶される。
表示部50は、画面表示処理部33によって生成された画像データを表示する。
【0030】
次に、リーダライタ1の処理の流れについて、図8〜図10を用いて説明する。図8に示すように、リーダライタ1における処理は、大きく初期設定の処理(ステップS801)および交信範囲表示の処理(ステップS802)の2ステップに分けられる。それらのステップの詳細については後記するが、初期設定の処理(ステップS801)では、図3(a)に示す最小出力強度Prws、最大交信距離Dmax、およびICタグ3の最小動作電力Rtsの間の関係を明らかにする。そして、交信範囲表示の処理(ステップS802)では、図4に示す、推定最大交信距離D’max、補正距離d、および交信距離Dを算出する。また、ステップS802では、後記するように、算出した交信距離Dに基づいて、読み取り対象となるICタグの周辺を撮影した画像に交信範囲(交信可能な範囲)を合成して表示する処理が行われる。
【0031】
次に、図9を用いて、リーダライタ1の初期設定の処理の詳細について説明する(適宜図3,7参照)。ステップS901では、リーダライタ1の処理部30は、表示部50に表示した設定メニューから、ユーザによって操作された「初期設定の処理」の選択を受け付ける。ステップS902では、リーダライタ1の処理部30は、図3(b)を用いて説明した最大交信距離の測定用の初期値の入力を受け付ける。具体的には、図3(b)を用いて説明した最大交信距離の測定において、測定開始の交信距離、すなわち、最初にICタグ3をセットする交信距離を受け付ける。また、交信成功率を算出するために、交信成否測定の繰返し回数を受け付ける。また、図3(b)では交信距離の増加幅を10cmキザミとして説明したが、この交信距離の増加幅を受け付ける。
【0032】
ステップS903では、リーダライタ1の処理部30は、最小出力設定を受け付ける。ステップS904では、リーダライタ1は、アンテナ2の前方の所定の距離に設置されたICタグ3に電波を発射し、交信成功回数をカウントするとともに、リーダライタ1の検波部26において求めた受信電力を取得し、そのカウントした交信成功回数および取得した受信電力を記憶部34に記憶する。そして、ステップS905では、交信成否測定が繰返し回数まで実行されたか否かが判定される。繰返し回数まで実行されていない場合(ステップS905でNo)、処理はステップS904へ戻る。また、繰り返し回数まで実行された場合(ステップS905でYes)、処理はステップS906へ進む。
【0033】
ステップS906では、処理部30は、記憶部34に記憶した交信成功回数を繰返し回数で除算して交信成功率を算出し、その交信成功率が閾値以上か否かを判定する。交信成功率が閾値以上の場合(ステップS906でYes)、ステップS907では、処理部30は、現在の交信距離を最大交信距離として記憶部34に記憶するとともに、ステップS904において記憶部34に記憶しておいたリーダライタ1の受信電力の平均値を算出して、その受信電力の平均値を基準受信電力として記憶部34に記憶する。なお、処理部30は、基準受信電力を記憶した後、個々に測定されたリーダライタ1の受信電力を削除する。そして、ステップS908では、処理部30は、ICタグ3とリーダライタ1との交信距離が、交信距離の増加分だけ遠くに変更する指示を表示部50に表示し、ユーザに交信距離の変更を指示する。そして、処理は、ステップS904へ戻る。
【0034】
また、交信成功率が閾値未満の場合(ステップS906でNo)、ステップS909では、交信距離演算部32が、ステップS907において記憶部34に記憶した最大交信距離を式(3)に適用して、ICタグ3の最小動作電力Rtsを算出し、記憶部34に記憶する。ステップS909を終了したとき、初期設定の処理は終了する。
【0035】
次に、交信範囲表示の処理の詳細について、図10を用いて説明する(適宜図7参照)。ステップS1001では、リーダライタ1の処理部30は、表示部50に表示した設定メニューから、ユーザによって操作された「交信範囲表示の処理」の選択を受け付ける。ステップS1002では、リーダライタ1の処理部30は、ユーザによって操作されるリーダライタ1の出力設定を受け付ける。ステップS1003では、交信距離演算部32は、記憶部34に記憶してある最大交信距離および基準受信電力を読み出す。ステップS1004では、交信距離演算部32は、式(4)を用いて、リーダライタ1の出力値に対応する推定最大交信距離D’maxを、角度ごとに算出する。
【0036】
ステップS1005では、処理部30は、読み取り対象のICタグ3を含む周辺の画像の撮影を指示するメッセージを表示部50に表示し、そのメッセージに応じてユーザによって撮像部40を介して撮影された画像を記憶部34に記憶する。ここで、読み取り対象のICタグ3を含む周辺の画像の撮影の状態の一例について、図11を用いて説明する。リーダライタ1とICタグ3との間の交信距離Dを、撮影画像で表現できるようにするために、撮像部40の向きを斜め下向きにしてリーダライタ1に装着し、アンテナ2の真下が撮影画像の縁になるようにする。そして、撮像部40の画角(画角の境界を破線表示)には90度以上のものを用いることによって、ICタグ3を含む周辺の画像を撮影することができる。
【0037】
図10に戻って、ステップS1006では、画面表示処理部33が、表示部50にカーソルを表示し、図示しないカーソル操作部によってカーソルを操作し(例えば、トラックボールやジョグダイヤル等)、撮影した画像内の読み取り対象のICタグ3に合わせたカーソルの座標を取得する。ここで、ステップS1006の詳細について、図12を用いて説明する。図12に示すように、画面表示処理部33がカーソル60を画面中央に表示する。そして、ユーザがカーソルを操作して、ICタグ3にカーソルを移動させ、その位置でクリックすると、画面表示処理部33が、クリックされたカーソルの座標を読み取る。
【0038】
図10に戻って、ステップS1007では、リーダライタ1から、画像内でカーソルを合わせたICタグ3に向けて電波を発射する。ステップS1008では、交信距離演算部32は、リーダライタ1の検波部26において求めた受信電力を取得し、その取得した受信電力を記憶部34に記憶する。ステップS1009では、交信距離演算部32は、ステップS1008において取得した受信電力と基準受信電力とを式(5)に適用して補正距離を算出し、その補正距離とステップS1004において算出した推定最大交信距離とを式(6)に適用して交信距離を算出する。
【0039】
ステップS1010では、画面表示処理部33は、画像の表示スケールと交信距離とを整合する。この整合の方法については、後記する。そして、ステップS1011では、画面表示処理部33は、画像に交信範囲を合成して表示部50に表示する。表示の具体例を、図13に示す。図13には、アンテナ2の位置を表す点と、ICタグ3と、交信範囲4とが表示される。
【0040】
ここで、画像の表示スケールと交信距離との整合の方法について、図13を用いて説明する。画像上の交信距離は、アンテナ2の点とICタグ3との距離で表される。例えば、図13の破線が正方形の目盛を表しているものとして、例えば、目盛を1とする画像上の交信距離は、ピタゴラスの定理より算出でき、√(1+5.5)=5.59となる。そして、実際の交信距離は、ステップS1009で算出された交信距離Dであるので、表示の縮尺率αは、5.59/Dとなる。すなわち、角度ごとの推定最大交信距離に対しても、表示の縮尺率αを乗算して、画像上の交信範囲を算出することができる。
【0041】
以上、実施形態では、初期設定の過程において、交信範囲を算出するときのキーとなるICタグ3の最小動作電力Rtsを算出する。具体的には、リーダライタ1とICタグ3との間で、リーダライタ1の出力強度を最小にして、最大交信距離Dmaxを実測し、実測によって求めた最大交信距離Dmax、リーダライタ1の最小出力強度Prws、アンテナ利得Gantを式(3)に適用することによって、ICタグ3の最小動作電力Rtsを求める。また、最大交信距離DmaxのときにICタグ3から受信するリーダライタ1の受信電力を基準受信電力Rrwsとして実測しておく。
【0042】
次に、交信範囲表示の処理の過程において、リーダライタ1の出力を使用する出力強度Prwに設定したとき、最小動作電力Rts、リーダライタ1の出力強度Prw、およびアンテナ利得Gantを式(4)に適用することによって、推定最大交信距離D’maxを算出する。また、交信範囲を算出するためには、アンテナの指向性を考慮する必要があり、角度ごとのアンテナ利得Gantを式(4)に適用して角度ごとの推定最大交信距離D’maxを算出し、交信範囲を形成する。
【0043】
また、読み取り対象となるICタグ3を含む画像を撮影して、その撮影した画像上に交信範囲を合成して表示するために、ICタグ3までの画像上の距離と交信距離Dとの整合をとる。この際、交信距離Dは、推定最大交信距離D’maxから、リーダライタ1が受信した受信電力Rrwと基準受信電力Rrwsとを式(5)に適用することによって算出される補正距離dを減算することによって算出される。そして、この交信距離Dと、画像上のICタグ3までの距離との縮尺率を算出して、この縮尺率を推定最大交信距離D’maxに乗算することによって、画像上の距離と交信距離Dとの整合をとる。最終的には、リーダライタ1は、撮影した画像と交信範囲を合成して、表示部50に表示する。
【0044】
このように、リーダライタ1の出力を最小出力強度にしたケースだけにおいて実測すれば、ICタグ3の最小動作電力Rtsを算出することができ、その算出した最小動作電力Rtsを用いて、任意の出力強度における交信範囲を算出することができる。すなわち、特許文献1に記載のように、出力強度ごとに交信距離を実測する手間を低減することができ、ICタグの交信距離の校正を簡易に行うことができるようになる。また、現場環境を撮影した画像と交信範囲とのスケールの整合をとることによって、現場環境を撮影した画像上に交信範囲を表示することが可能となる。
【0045】
なお、図7では、ICタグ交信範囲表示装置5は、リーダライタ1に内蔵されるように記載したが、外付けであっても構わない。また、実施形態では、交信範囲4を画像上に表示するように記載したが、読み取り対象のICタグ3までの交信距離Dおよび推定最大交信距離D’maxを数値で表示部50に表示しても構わない。また、最小動作電力Rtsを求めるときに、リーダライタ1の出力強度を最小に設定したが、これに限られなくてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 リーダライタ
2 アンテナ
3 ICタグ
4 交信範囲
5 ICタグ交信範囲表示装置
26 検波部
27 A/D変換部
30 処理部
31 制御回路部
32 交信距離演算部
33 画面表示処理部
34 記憶部
40 撮像部
50 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッシブ型ICタグを読み取るリーダライタに備えられ、前記リーダライタの読み取り範囲を表示するICタグ交信範囲表示装置であって、
前記パッシブ型ICタグの最小動作電力Rtsおよび前記リーダライタのアンテナ利得Gantを記憶する記憶部と、
前記リーダライタの出力強度Prwの設定値に対して、その設定された出力強度Prwと、前記記憶部からアンテナ利得Gantおよび最小動作電力Rtsとを取得し、アンテナ利得Gant、最小動作電力Rts、および前記リーダライタの使用時の出力強度Prwを式(4)に適用して、前記リーダライタと前記パッシブ型ICタグとの最大の交信距離である推定最大交信距離D’maxを算出する交信距離演算部と
を備えることを特徴とするICタグ交信範囲表示装置。
【数3】

ただし、cは光速、πは円周率、fは交信周波数である。
【請求項2】
前記ICタグ交信範囲表示装置は、さらに、
前記アンテナ利得Gantの指向特性を角度ごとに前記記憶部に記憶しており、
前記交信距離演算部が、前記角度ごとのアンテナ利得Gantを前記式(4)に適用して、角度ごとの推定最大交信距離D’maxとして算出される交信範囲を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のICタグ交信範囲表示装置。
【請求項3】
前記ICタグ交信範囲表示装置は、さらに、
前記パッシブ型ICタグからの応答の受信電力Rrwを求める検波部と、
前記パッシブ型ICタグが最小動作電力Rtsになっているときに、前記リーダライタが前記パッシブ型ICタグからの応答を受信した受信電力を基準受信電力Rrwsとして記憶する記憶部と、を備え、
前記交信距離演算部が、前記検波部によって求められた受信電力Rrwおよび前記基準受信電力Rrwsを式(5)に適用して、補正距離dを算出し、前記推定最大交信距離D’maxおよび前記補正距離dを式(6)に適用して、前記リーダライタと前記読み取り対象のパッシブ型ICタグとの交信距離Dを算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のICタグ交信範囲表示装置。
【数6】

【請求項4】
前記ICタグ交信範囲表示装置は、さらに、
前記読み取り対象のパッシブ型ICタグを含む周辺を撮影する撮像部と、
前記撮像部によって撮影された画像と、前記交信範囲とを表示する表示部と、
前記撮像部によって撮影された画像の距離スケールと、前記算出された交信距離Dのスケールとを整合させて、前記撮像部によって撮影された画像と前記交信範囲とを合成して前記表示部に表示する画面表示処理部と
を備えることを特徴とする請求項3に記載のICタグ交信範囲表示装置。
【請求項5】
前記ICタグ交信範囲表示装置は、さらに、
前記リーダライタの出力強度が最小である最小出力強度Prwsのときに、前記読み取り対象のパッシブ型ICタグとの交信距離が最大となる最大交信距離Dmaxの位置における前記パッシブ型ICタグへの到達電力である最小動作電力Rtsを、前記最小出力強度Prws、前記アンテナ利得Gant、および前記最大交信距離Dmaxを式(3)に適用して算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のICタグ交信範囲表示装置。
【数2】

【請求項6】
前記最大交信距離Dmaxを、前記リーダライタと前記パッシブ型ICタグとの間を所定の距離に設定して、交信成功回数をカウントし、前記所定の距離ごとに前記交信成功回数を交信の繰り返し回数で除算して求めた交信成功率が、前記所定の距離を徐々に遠くしていったときに、前記記憶部に予め記憶されている交信成功率の閾値を初めて下回る直前のその所定の距離として決定する処理部
を備えることを特徴とする請求項5に記載のICタグ交信範囲表示装置。
【請求項7】
パッシブ型ICタグを読み取るリーダライタに備えられ、前記リーダライタの読み取り範囲を表示するICタグ交信範囲表示装置で用いられるICタグ交信範囲表示方法であって、
前記ICタグ交信範囲表示装置は、前記パッシブ型ICタグの最小動作電力Rtsおよび前記リーダライタのアンテナ利得Gantを記憶する記憶部と、演算処理を行う交信距離演算部と、を備え、
前記交信距離演算部が、前記リーダライタの出力強度Prwの設定値に対して、その設定された出力強度Prwと、前記記憶部からアンテナ利得Gantおよび最小動作電力Rtsとを取得し、アンテナ利得Gant、最小動作電力Rts、および前記リーダライタの使用時の出力強度Prwを前記式(4)に適用して、前記リーダライタと前記パッシブ型ICタグとの最大の交信距離である推定最大交信距離D’maxを算出する
ことを特徴とするICタグ交信範囲表示方法。
【請求項8】
前記ICタグ交信範囲表示装置は、さらに、前記アンテナ利得Gantの指向特性を角度ごとに前記記憶部に記憶しており、
前記交信距離演算部が、前記角度ごとのアンテナ利得Gantを前記式(4)に適用して、角度ごとの推定最大交信距離D’maxとして算出される交信範囲を算出する
ことを特徴とする請求項7に記載のICタグ交信範囲表示方法。
【請求項9】
前記ICタグ交信範囲表示装置は、さらに、前記パッシブ型ICタグからの応答波の受信電力Rrwを求める検波部と、前記パッシブ型ICタグが最小動作電力Rtsになっているときに、前記リーダライタが前記パッシブ型ICタグからの応答波を受信した受信電力を基準受信電力Rrwsとして記憶する記憶部と、を備え、
前記交信距離演算部が、前記検波部によって求められた受信電力Rrwおよび前記基準受信電力Rrwsを前記式(5)に適用して、補正距離dを算出し、前記推定最大交信距離D’maxおよび前記補正距離dを前記式(6)に適用して、前記リーダライタと前記読み取り対象のパッシブ型ICタグとの交信距離Dを算出する
ことを特徴とする請求項7に記載のICタグ交信範囲表示方法。
【請求項10】
前記ICタグ交信範囲表示装置は、さらに、前記読み取り対象のパッシブ型ICタグを含む周辺を撮影する撮像部と、前記撮像部によって撮影された画像と、前記交信範囲とを表示する表示部と、画面表示処理部とを備え、
前記画面表示処理部が、前記撮像部によって撮影された画像の距離スケールと、前記算出された交信距離Dのスケールとを整合させて、前記撮像部によって撮影された画像と前記交信範囲とを合成して前記表示部に表示する
ことを特徴とする請求項9に記載のICタグ交信範囲表示方法。
【請求項11】
前記ICタグ交信範囲表示装置は、さらに、前記リーダライタの出力強度が最小である最小出力強度Prwsのときに、前記読み取り対象のパッシブ型ICタグとの交信距離が最大となる最大交信距離Dmaxの位置における前記パッシブ型ICタグへの到達電力である最小動作電力Rtsを、前記最小出力強度Prws、前記アンテナ利得Gant、および前記最大交信距離Dmaxを前記式(3)に適用して算出する
ことを特徴とする請求項7に記載のICタグ交信範囲表示方法。
【請求項12】
前記ICタグ交信範囲表示装置は、前記最大交信距離Dmaxを、前記リーダライタと前記パッシブ型ICタグとの間を所定の距離に設定して、交信成功回数をカウントし、前記所定の距離ごとに前記交信成功回数を交信の繰り返し回数で除算して求めた交信成功率が、前記所定の距離を徐々に遠くしていったときに、前記記憶部に予め記憶されている交信成功率の閾値を初めて下回る直前のその所定の距離として決定する
ことを特徴とする請求項11に記載のICタグ交信範囲表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−123692(P2011−123692A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281164(P2009−281164)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】