説明

IGF−I融合ポリペプチドの組み合わせ治療用物質による肥満治療法

少なくとも一つのIGF1変異体成分および融合成分(F)、ならびに任意でシグナル配列を含み、天然のIGF1またはIGF2ポリペプチドと比較して向上した安定性を示す、融合タンパク質を提供する。この融合成分(F)は、多量体形成成分、ターゲティングリガンド、または他の活性物質もしくは治療的作用物質であってもよい。IGF1変異体は天然のIGF1と比較して、向上した骨格筋肥大を誘導する能力を有する事が示された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、インスリン様成長因子I(IGFI)ポリペプチドおよびインスリン様成長因子2(IGF2)ポリペプチド、このようなポリペプチドの作製方法、ならびにこのようなポリペプチドの投与のための治療的方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の記載
インスリン様成長因子(IGF)は、インスリン様の、かつ増殖刺激特性を有するタンパク質のファミリーを構成する。本IGFは、プロインスリンに対し近い構造的相同性を示し、類似した生物学的効果を引き出す。ヒトIGFI(別名ソマトメジンC)は、タンパク質およびDNAの、SEQ ID NO:1〜2に示される配列を有する、70aaの塩基性ペプチド(pl 8.4) であり、かつ、プロインスリンに対し43%の相同性を有する(Rinderknecht et al. (1978) J. Biol. Chem. 253:2769-2776(非特許文献1))。ヒトIGF2は、タンパク質およびDNAの、SEQ ID NO:3〜4に示される配列を有する、67アミノ酸の塩基性ペプチドである。IGF1およびIGF2に対して極めて高い結合能を有する高分子量の特定の結合タンパク質は、キャリアタンパク質として、またはIGF1機能の調節因子としての働きをする(Holly et al. (1989) J. Endocrinol. 122:611-618(非特許文献2))。
【0003】
IGFIおよびIGF2ならびにこれらの変異体は、成長ホルモン欠損症、熱傷、骨格損傷を含む組織の消耗、感染症、癌、嚢胞性線維症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカージ型ストロフィー、常染色体劣性ジストロフィー、多発性筋炎、ならびにミオパシーおよびAIDSを患うヒトを処置するために用いられてきた(米国特許第5,622,932号(特許文献1))。
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,622,932号
【非特許文献1】Rinderknecht et al. (1978) J. Biol. Chem. 253:2769-2776
【非特許文献2】非特許文献Holly et al. (1989) J. Endocrinol. 122:611-618
【発明の開示】
【0005】
発明の簡単な概要
最も広い態様において、本発明は、IGF1およびIGF2変異体分子をそれを必要とする被験者に提供する組成物および方法を含む。より詳しくは、本発明は、融合成分(F)に融合した、治療的なIGF1もしくはIGF2の変異体またはこれらの類似体を含む融合ポリペプチドを提供する。本発明の融合ポリペプチドは、治療的に有効な状態を維持することが可能であり、かつ天然に存在する分子よりも長い間利用可能であり、かつIGF結合タンパク質による失活に耐性がある。本発明の融合ポリペプチドはまた、様々なインビトロおよびインビボでの診断的アッセイ法および予後アッセイ法において使用され得る。
【0006】
第一の局面において、本発明は、以下を含むIGF1融合ポリペプチドを特徴とする: (a) 少なくとも一つのIGF1変異体成分、(b) 融合成分(F)、および任意で(c) シグナル配列。このIGF1融合ポリペプチドにおいて、前記IGF変異体成分はSEQ ID NO:1のヒトIGF1タンパク質であり、以下を含む: (i) 例えば68-70(Δ68-70)、Δ67-70、Δ66-70、Δ65-70などの、3〜6個アミノ酸の欠失、Lys68の欠失(Δ68)、他のアミノ酸による68番目のアミノ酸の置換、65〜70番目のアミノ酸の欠失(Δ65-70)、Lys65の欠失(Δ65)、および他のアミノ酸による65番目のアミノ酸の置換からなる群より選択される、C末端の修飾; (ii) 1〜3番目のアミノ酸の欠失(Δ1-3)および異なるアミノ酸によるGlu3の置換からなる群より選択される、N末端の修飾; ならびに/または(iii) Arg36の欠失(Δ36)、Arg 37の欠失(Δ37)、例えばArg36Alaなどの、異なるアミノ酸によるArg36の置換、および例えばArg37Alaなどの、異なるアミノ酸によるArg37の置換からなる群より選択される、Arg36および/またはArg37の修飾。特定の態様において、IGF1融合タンパク質は、1〜3番目のアミノ酸およびArg37の欠失を有する(2D-IGF1-Fc)(Δ1-3、ΔArg37)。他の特定の態様において、IGF1融合タンパク質は、1〜3番目のアミノ酸、Arg37、および68〜70番目のアミノ酸の欠失を有する(3D-IGF1-Fc)(Δ1-3、ΔArg37、Δ68-70)。
【0007】
第二の局面において、本発明は、以下を含むIGF2融合ポリペプチドを特徴とする:(a) 少なくとも一つのIGF2変異体成分、(b) 融合成分(F)、および任意で(c) シグナル配列。このIGF2融合ポリペプチドにおいて、前記IGF変異体成分はSEQ ID NO:3のヒトIGF2タンパク質であり、以下を含む: (i) 例えば、65-67番目などの3個のアミノ酸の欠失(Δ65-67)、Lys65の欠失(Δ65)、および他のアミノ酸による65番目のアミノ酸の置換からなる群より選択される、C末端の修飾; (ii) 1〜6番目のアミノ酸の欠失(Δ1-6)および異なるアミノ酸によるGlu6の置換からなる群より選択される、N末端の修飾; ならびに/または(iii) Arg37の欠失(Δ37)、Arg 38の欠失(Δ38)、例えばArg37Alaなどの、異なるアミノ酸によるArg37の置換、および例えばArg38Alaなどの、異なるアミノ酸によるArg38の置換からなる群より選択される、Arg37および/またはArg38の修飾。
【0008】
融合成分(F)は、融合ポリペプチドの機能を増強する任意の成分である。したがって、例えばFは、例えばその血清半減期、組織浸透性、免疫原性の欠如、または安定性を増大させることにより、その産生および/もしくは回収において役立つ融合ポリペプチドの生物活性を増強するか、または融合ポリペプチドの薬理学的性質もしくは薬物動態学的プロファイルを増強する可能性がある。好ましい態様において、融合成分は、IGF変異体成分が、生物活性がより低い区画にIGFを隔離する可能性がある血清結合タンパク質を回避することを可能にする。
【0009】
好ましい態様において、Fは、(i)少なくとも一つのシステイン残基を任意で含む、1〜約500アミノ酸長のアミノ酸配列、(ii)ロイシンジッパー、(iii)ヘリックスループモチーフ、(iv)コイル-コイルモチーフ、および(v)免疫グロブリンドメインからなる群に由来する、多量体形成成分(multimerizing component)である。一部の態様において、融合成分は、例えばヒトのIgG、IgM、またはIgAに由来する、免疫グロブリン由来ドメインを含む。特定の態様において、該免疫グロブリン由来ドメインは、Fcドメイン、およびIgGの重鎖からなる群より選択される。IgGのFcドメインは、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、ならびに各アイソタイプグループ内の任意のアロタイプから選択してもよい。
【0010】
特定の態様において、本発明は、以下を含むIGF1融合ポリペプチドを特徴とする: (i) 1〜3番目のアミノ酸の欠失(Δ1-3またはdelGPE)、Arg36の欠失(Δ36)、およびC末端における3〜6個のアミノ酸の欠失(Δ68-70)を含むSEQ ID NO:1のヒトIGF1タンパク質を含む、IGF1変異体成分、(ii) IgGのFcドメイン、および任意で(iii) シグナル配列。
【0011】
他の特定の態様において、本発明は、以下を含むIGF2融合ポリペプチドを特徴とする: (i) 1〜6番目のアミノ酸の欠失(Δ1-6またはdelAYRPSE)、Arg37の欠失(Δ37)、およびC末端における3個のアミノ酸の欠失(Δ65-67)を含むSEQ ID NO:3のヒトIGF2タンパク質を含む、IGF2変異体成分、(ii) IgGのFcドメイン、および任意で(iii)シグナル配列。
【0012】
他の態様において、融合成分(F)は、予め選択された細胞表面タンパク質に特異的に結合し、それによって前記IGF1またはIGF2を標的細胞、例えば筋細胞に送達することが可能なターゲティングリガンド、またはその誘導体もしくは断片である。特定の態様において、ターゲティング成分は、MuSK受容体に結合することが可能なMuSKリガンドまたはMuSKリガンドの断片である。特定の態様において、前記のMuSK特異的なリガンドは、MuSKに結合することが可能なアグリンもしくはその断片もしくは誘導体であるか、または例えばscFvを含む抗MuSK抗体もしくはその断片もしくは誘導体である。他の特定の態様において、筋肉ターゲティング融合ポリペプチドの筋肉ターゲティングリガンドは、同種親和性の筋肉カドヘリンを発現する筋肉細胞または他の細胞に特異的に結合することが可能な、3種またはそれ以上の筋肉カドヘリン(M-カドヘリン)細胞外カドヘリンドメインもしくはその誘導体もしくは断片を含む。一つの特定の態様において、前記の筋肉ターゲティングリガンドは、本質的に第一の3つ(3)または4つ(4)のM-カドヘリンのN末端細胞外ドメインからなる。
【0013】
他の態様において、本発明の融合成分(F)は、治療目的で予め選択された部位に送達することが望ましい任意の作用物質でありうる他の活性化合物である。特定の態様において、前記の活性物質または治療的作用物質は第二の細胞表面受容体に対するリガンドであり、かつこれは第二の受容体に結合して活性化することが可能である。他の態様において、前記の活性物質または治療的作用物質は、標的細胞において活性を有する他の作用物質の活性をブロックすることが可能な作用物質である。特定の態様において、前記の活性物質または治療的作用物質は、IL-15、ミオトロフィン(myotrophin)、ウロコルチン(urocortin)、ウロコルチンII、天然のまたは突然変異体のIGF1またはIGF2、インスリン、ミオスタチン(myostatin)のプロドメイン、hGH、プロリフェリン、ホリスタチン(follistatin)、FSTL1およびFLRG、ならびにそれらの生物活性断片からなる群より選択される。
【0014】
本発明のポリペプチドまたは融合ポリペプチドは、さらに任意でシグナル配列(SS)成分をコードしてもよい。SSが前記のポリペプチドの一部である場合、例えば分泌されたタンパク質または膜結合タンパク質に由来する、任意の供給源に由来する合成または天然の配列を含む当技術分野に公知である任意のSSを用いてもよい。一般に、シグナル配列は本発明の融合ポリペプチドの開始部またはアミノ末端に配置される。
【0015】
本発明の融合ポリペプチドの成分は互いに直接結合するか、または一つもしくは複数のスペーサー配列を介して結合しうる。一つの好ましい態様において、前記の成分は互いに直接融合される。他の好ましい態様において、前記の成分は、1〜200アミノ酸のスペーサーによって結合する。Any spacer known to the art may be used to connect the polypeptide components.スペーサー配列はまた、融合ポリペプチドの発現を増強する、制限部位を提供する、成分ドメインが最適な三次構造および四次構造を形成することを可能にする、ならびに/または前記成分とその受容体との相互作用を増強するために使用される配列も含む可能性がある。ある態様において、本発明の融合ポリペプチドは、1〜25アミノ酸である、一つまたは複数の成分の間の一つまたは複数のペプチド配列を含む。
【0016】
本発明の融合ポリペプチドの成分は様々な構成で配列される可能性があり、かつ例えば、IGF-F; IGF-IGF-F; IGF-F-IGF; F-IGF; F-IGF-IGFなどの複数のIGF変異体ポリペプチドを含みうる。しかしながら、FがFcである場合、Fcは、本融合ポリペプチドのC末端上に存在しなければならない。同様に、ヒト成長ホルモン(hGH)などの第二の活性成分を含む融合物においては、前記の構成はIGF変異体-hGHでなければならない。
【0017】
第二の局面において、本発明は、本発明の融合ポリペプチドをコードする核酸を特徴とする。
【0018】
第三の局面において、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターを特徴とする。さらなる第四および第五の局面において、本発明は、発現制御配列に機能的に連結された核酸分子を含む発現ベクター、および適切な宿主細胞中に発現ベクターを含む、融合ポリペプチド産生のための宿主-ベクター系; 適切な宿主細胞が、限定されるものではないが、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、または哺乳動物細胞である、宿主-ベクター系を含む、本発明の核酸分子を含むベクターを包含する。適切な細胞の例は、大腸菌(E. coli)細胞、枯草菌(B. subtilis)細胞、BHK細胞、COS細胞、およびCHO細胞を含む。さらに包含されるものは、アセチル化またはペグ化により修飾される、本発明の融合ポリペプチドである。タンパク質をアセチル化またはペグ化する方法は、当技術分野において周知である。
【0019】
関連した第六の局面において、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターを用いてトランスフェクトした宿主細胞を、宿主細胞に由来するタンパク質の発現に適した条件下で培養する段階、およびこのように作製したポリペプチドを回収する段階を含む、本発明の融合ポリペプチドを作製する方法を特徴とする。
【0020】
第七の局面において、本発明は、治療的有効量の本発明のIGF融合タンパク質を、それを必要とする被験者または疾患もしくは状態の発症の危険がある被験者に投与する段階を含む、疾患または状態の処置のための治療的方法を特徴とする。前記の疾患または状態が萎縮などの筋肉の状態である場合、本発明の治療的方法は、この筋肉に関連する疾患または状態が改善または抑制される、治療的有効量の本発明のIGF融合タンパク質をそれを必要とする被験者に投与する段階を含む。本発明の融合ポリペプチドにより処置される前記の筋肉に関連する状態または障害は、例えば以下を含む、多くの原因に起因しうる:脱神経;変性性の、代謝的な、または炎症性のニューロパシー; 小児のおよび若年性の脊髄性筋肉萎縮症; 自己免疫性運動性ニューロパシー; 癌、AIDS、飢餓、または横紋筋融解症から生じる悪液質を含む慢性疾患; デュシェンヌ型などの筋ジストロフィー症候群。本発明の治療的方法は、例えば心筋梗塞後の向上した心臓組織の生存など、IGF欠損症から生じる、または増加したIGFレベルにより向上する可能性がある、小人症および心疾患を含む任意の状態の処置に有用である。
【0021】
したがって、第八の局面において、本発明は薬学的に許容される担体と共に本発明の融合タンパク質を含む薬学的組成物を特徴とする。このような薬学的組成物は、薬学的に許容される担体と共に、融合タンパク質またはこれらをコードする核酸を含みうる。
【0022】
他の目的および利点は、以下の詳細な説明の検討から明白になると思われる。
【0023】
詳細な説明
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」には、明確に特記しない限り複数形も含まれる。したがって、例えば「1つの方法」への言及は、一つまたは複数の方法、ならびに/または本明細書に記載される種類の、および/もしくは本開示およびその他を読むことで当業者に明白となる段階を含む。
【0024】
特に定義していない限り、本明細書で用いた全ての技術用語および科学用語は本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似するまたは同等のいかなる方法および材料も、本発明の実践または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料について以下に説明する。
【0025】
一般的な説明
本発明は、一つまたは複数のIGF変異体成分および融合成分(F)を含む融合ポリペプチドおよびそれらをコードする核酸を包含し、これらは多量体形成成分、ターゲティング成分、および/または一つもしくは複数の追加的な活性物質または治療的作用物質を含みうる。
【0026】
定義
本発明の融合ポリペプチドの成分の「生物活性」断片または誘導体は、標的部位において所望の効果を達成することが可能な、任意の天然に存在する分子またはその突然変異体もしくは誘導体を包含する。例えば、IGF1の変異体が本明細書に記載されており、これらは向上した活性特性および安定性を有する。本発明は、IGF1受容体に結合することが可能な、本明細書に記載されるIGF1分子の突然変異体または誘導体の使用を想定している。任意のターゲティング成分の誘導体の「生物活性」断片は、標的細胞に結合することが可能なその任意の部分または突然変異体である。したがって、例えばターゲティングリガンドがアグリンである場合、生物活性断片または誘導体は、MuSK受容体に結合することが可能な、アグリンの任意の部分または突然変異体である。
【0027】
「処置」、「処置すること」等の用語は、本明細書では一般に、望ましい薬理学的および/または生理学的な効果を得るという意味で使用される。この効果は、疾患、状態、もしくはその症状の完全または部分的な予防に関して予防的であってもよく、ならびに/または疾患もしくは状態、および/もしくは疾患もしくは状態に帰因する副作用の、部分的または完全な治癒に関して治療的であってもよい。本明細書で用いられる「処置」とは、哺乳動物、特にヒトにおける疾患または状態の任意の処置を包含し、以下の段階を含む:(a) 疾患もしくは状態の素因があるが、まだ疾患もしくは状態を持っていると診断されていない被験者において、疾患または状態が起こることを防止すること; (b) 疾患または状態を阻害する、即ち、その進行を阻止すること; (c) 疾患または状態を緩和すること、即ち、疾患または状態の後退を引き起こすこと。疾患の方法により処置される被験者の集団は、望ましくない状態または疾患を患う被験者、およびこの状態または疾患の発症の危険がある被験者を含む。
【0028】
「治療的有効量」という用語は、投与した被験者に所望の効果をもたらす用量を意味する。正確な用量は、処置の目的によって決まり、公知の技術を使用して当業者により確定可能であると考えられる(例えば、Lloyd (1999) The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照)。
【0029】
本明細書で使用する場合、「状態または疾患」は一般に、宿主にとって望ましくないおよび/または有害な、哺乳動物宿主、特にヒトの宿主の状態を包含する。したがって、骨格筋を特異的に標的とする融合ポリペプチドを用いた筋肉に関連する状態の処置は、哺乳動物、特に減少した標的筋肉受容体の活性化を反映する症状を有するヒト、または疾患、状態、もしくは処置プログラムに応答してこのような減少したレベルを有すると予想されるヒトの処置を包含する。筋肉に関連する状態または疾患の処置は、ヒト被験者の処置を包含し、本処置において、本発明の前記の筋肉特異的な融合ポリペプチドを用いた標的筋肉受容体の活性化の増強は、筋肉に関連する状態または疾患に起因する望ましくない症状の改善をもたらす。本明細書で使用する場合、「筋肉に関連する状態」はまた、特定の標的筋肉受容体の活性化を一時的または長期的に変更することが望ましい状態も含む。
【0030】
IGF1またはIGF2の変異体成分
本発明のポリペプチドの第一の成分は、IGF1またはIGF2の変異体(「IGF変異体」)である。IGF1の場合、このような変異体は、以下の修飾を有する成熟ヒトIGF1(SEQ ID NO:1)を含む:(i) C末端における3〜6個のアミノ酸、例えばLys65〜Ala70の欠失; (ii) 1〜3番目のアミノ酸の欠失、および例えばGlu3ArgまたはGlu3Alaなどの、アラニン、バリン、ヒスチジン、またはアルギニン等の異なるアミノ酸によるGlu3の置換からなる群より選択される、N末端における修飾; ならびに/または(iii) Arg36の欠失、Arg 37の欠失、例えばArg36Alaなどの、異なるアミノ酸によるArg36の置換、および例えばArg37Alaなどの、異なるアミノ酸によるArg37の置換からなる群より選択される、Arg36および/またはArg37の修飾。
【0031】
IGF2の場合、このような変異体は、以下を含む、SEQ ID NO:3のヒトIGF2タンパク質である: (i) 例えば、65-67番目などの3個のアミノ酸の欠失(Δ65-67)、Lys65の欠失(Δ65)、および他のアミノ酸による65番目のアミノ酸の置換からなる群より選択される、C末端の修飾; (ii) 1〜6番目のアミノ酸の欠失(Δ1-6)、および例えばGlu6ArgまたはGlu6Alaなどの、アラニン、バリン、ヒスチジン、またはアルギニン等の異なるアミノ酸によるGlu6の置換からなる群より選択される、N末端の修飾; ならびに/または(iii) Arg37の欠失(Δ37)、Arg 38の欠失(Δ38)、例えばArg37Alaなどの、異なるアミノ酸によるArg37の置換、および例えばArg38Alaなどの、異なるアミノ酸によるArg38の置換からなる群より選択される、Arg37および/またはArg38の修飾。
【0032】
このような修飾はIGF1またはIGF2の変異体に由来する融合成分の開裂を妨害し、したがって、その安定性および半減期を増大させる。
【0033】
ターゲティングリガンド成分
一部の態様において、本発明の融合ポリペプチドの融合成分はターゲティングリガンドである。ターゲティングリガンドは、例えば、他のいかなる身体組織よりも予め選択された細胞標的上に比較的高い程度で存在する、受容体のような表面タンパク質などの予め選択された細胞上の標的に高い親和性で特異的に結合する、タンパク質またはその断片などの分子である。例えば、米国特許第5,814,478号および第6,413,740号に記載されるように、MuSK受容体は筋肉に対して特異性が高い。したがって、同種のリガンドであるアグリンおよびそのMuSK結合部分は、本発明の融合ポリペプチドにおける融合成分として有用なターゲティングリガンドの例である。ターゲティングリガンドの他の例は、ヒトカドヘリンに由来するカドヘリンドメインのグループである。したがって、例えば、ヒト筋肉カドヘリンに由来するヒトカドヘリンドメインが、標的筋細胞に対する本発明のターゲティング融合ポリペプチドに用いられ得る。本発明の融合ポリペプチドのターゲティングリガンド成分は、予め選択された標的細胞に結合することが可能な、天然のもしくは操作されたリガンド、またはその断片を含みうる。
【0034】
本発明の別の態様において、本発明のターゲティング融合ポリペプチドのターゲティングリガンド成分は、同種親和性のカドヘリンを発現する標的細胞に特異的に結合ことが可能な、少なくとも3、4、または5つの筋肉カドヘリン(M-カドヘリン)ドメインまたはその誘導体もしくは断片からなる。(Shimoyama et al. (1998) J. Biol. Chem. 273(16): 10011- 10018; Shibata et al. (1997) J. Biol. Chem. 272(8):5236-5270)。好ましい態様において、本発明の融合ポリペプチドは、IGF1変異体成分に融合した、ヒトM-カドヘリンの細胞外ドメイン(または同種親和性のM-カドヘリンに結合することが可能なその生物活性断片もしくは誘導体)に由来する少なくとも3つのカドヘリンドメインを含む。
【0035】
ターゲティングリガンドのさらなる例はまた、限定はされないが、予め選択された細胞表面タンパク質に高い親和性で結合する抗体およびその部分も含む。「高い親和性」は、当技術分野において公知のアッセイ方法、例えばBiaCore分析によって決定される少なくとも10-7モル濃度の平衡解離定数を意味する。ある態様において、本発明のターゲティング融合ポリペプチドのターゲティングリガンド成分は、選択された組織特有の表面タンパク質または標的である組織特有の受容体に対して作製された抗体から分離された、一つまたは複数の免疫グロブリン結合ドメインも含みうる。本明細書において使用される「免疫グロブリンまたは抗体」という用語は、免疫グロブリン遺伝子またはその断片に由来するフレームワーク領域を含む、ヒトを含む哺乳動物のポリペプチドを意味する。これは、抗原を特異的に結合および認識し、抗原は、本発明の場合、組織特有の表面タンパク質、標的である組織特有の受容体、またはこれらの部分である。意図されたターゲティング融合ポリペプチドが哺乳動物の治療として使用される場合、免疫グロブリン結合領域は、対応している哺乳動物の免疫グロブリンに由来しなければならない。ターゲティング融合ポリペプチドが診断およびELISAなどの非治療的用途に対して意図される場合、免疫グロブリン結合領域は、ヒトまたは例えばマウスなどの非ヒト哺乳動物のいずれかに由来しうる。ヒト免疫グロブリン遺伝子または遺伝子断片は、κ、λ、α、γ、δ、ε、およびμの定常領域、加えて無数の免疫グロブリン可変領域の遺伝子を含む。軽鎖は、κまたはλのいずれかとして分類される。重鎖はγ、μ、α、δ、またはεとして分類され、次いで、それぞれ免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを定義する。各IgGクラス内には、異なるアイソタイプ(例えばIgG1、IgG2等)が存在する。典型的には、抗体の抗原結合領域は、結合の特異性および親和性の決定において最も重要であると考えられる。
【0036】
ヒトIgGの例示的な免疫グロブリン(抗体)の構造的単位は、四量体を含む。各四量体は、ポリペプチド鎖の2つの同一の対から構成され、各対は、一つの軽鎖(約25 kD)および一つの重鎖(約50 kD〜70 kD)を有する。各鎖のN末端は、主として抗原認識に関与する約100個〜110個またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を定義する。「可変軽鎖」(VL)および可変重鎖(VH)という用語はそれぞれ、これらの軽鎖および重鎖を指す。
【0037】
抗体は、無傷の免疫グロブリンとして、または様々なペプチダーゼでの消化により作製された多数の十分特徴付けられた断片として、存在する。例えば、ペプシンはヒンジ領域におけるジスルフィド結合より下で抗体を消化し、F(ab)'2、すなわちジスルフィド結合によりVH-CHに連結された、それ自身軽鎖であるFabの二量体を生成する。F(ab)'2は、ヒンジ領域におけるジスルフィド結合を切断するように穏やかな条件下で還元され、それによりF(ab)'2二量体をFab'単量体へと変換しうる。このFab'単量体は本質的に、ヒンジ領域の一部を有するFabである。様々な抗体断片は無傷の抗体の消化によって定義されるが、当業者は、そのような断片が化学的に、または組換えDNA方法を使用することのいずれかにより、新たに合成されうることを認識しているものと思われる。従って、本明細書に用いられる場合、免疫グロブリンまたは抗体という用語はまた、抗体全体の改変により作製される抗体断片、または組換えDNA方法を用いて新たに合成される抗体断片(例えば、一本鎖Fv(scFv))、またはフェーズディスプレイライブラリーを使用して同定される抗体断片を含む(例えば、McCafferty et al. (1990) Nature 348:552-554を参照)。さらに、本発明の融合ポリペプチドは、免疫グロブリンの重(VH)鎖または軽(VL)鎖の可変領域、ならびに組織特有の表面タンパク質および標的であるその受容体結合部分を含む。このような可変領域を作製する方法は、Reiter, et al. (1999) J. MoI. Biol. 290:685-698に記載されている。
【0038】
抗体を調製する方法は当技術分野において公知である。例えば、Kohler & Milstein (1975) Nature 256:495-497; Harlow & Lane (1988) Antibodies: a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Lab., Cold Spring Harbor, NYを参照されたい。関心対象の抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子は細胞によりクローニングすることが可能であり、例えばモノクローナル抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマによりクローニングして組換えモノクローナル抗体を作製するために使用することができる。モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子ライブラリーをハイブリドーマまたは形質細胞により作製することもできる。重鎖および軽鎖の遺伝子産物の無作為な組み合わせにより、異なる抗原特異性を有する抗体の大規模なプールが作製される。一本鎖抗体または組換え抗体の作製技術(米国特許第4,946,778号; 米国特許第4,816,567号)を、本発明の融合ポリペプチドおよび方法において使用される抗体の作製に適合させることができる。また、トランスジェニックマウスまたは他の哺乳動物などの他の生物を、ヒト抗体またはヒト化抗体を発現させるために使用してもよい。あるいは、ファージディスプレイ技術を、抗体、可変ドメインなどの抗体断片、および選択された抗原に特異的に結合するヘテロメリックな(heteromeric)Fab断片を同定するために使用することができる。
【0039】
好ましい免疫グロブリン(抗体)のスクリーニングおよび選択は、当技術分野において公知の様々な方法により行うことができる。例えば、組織特有の受容体または標的受容体に特異的なモノクローナル抗体の存在についての最初のスクリーニングは、例えばELISAに基づいた方法またはファージディスプレイの使用により行うことができる。第二のスクリーニングは、本発明の組織特有の融合ポリペプチドの構築における使用のため、所望のモノクローナル抗体を同定および選択するために行うことが好ましい。第二のスクリーニングは、当技術分野において公知の任意の適当な方法によって行ってもよい。一つの好ましい方法は、「バイオセンサー改変アシストプロファイリング(Biosensor Modification-Assisted Profiling)」(「BiaMAP」)(米国特許出願公開第2004/101920号)と呼ばれ、所望の特徴を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンの迅速な同定を可能にする。より具体的には、モノクローナル抗体は、抗体の評価:抗原相互作用に基づいて別個のエピトープ関連群分類される。
【0040】
活性物質または治療的作用物質
いくつかの態様において、本発明のポリペプチドの融合成分(F)は、第二の活性物質もしくは治療的作用物質またはその突然変異体もしくは誘導体、すなわち予め選択した標的部位、例えば細胞または組織に送達した場合に所望の効果を有することが可能な分子を含む。活性物質または治療的作用物質は、標的とする細胞または組織への送達時に所望の効果を有することが可能な、小分子、ホルモン、成長因子、治療的生物製剤、活性化抗体およびこれらの一部、ならびに阻止抗体およびこれらの一部を含むがこれらに限定されるわけではない。
【0041】
融合ポリペプチドが筋細胞または筋組織に向けられる、特定の態様において、この融合ポリペプチドは、筋細胞において活性を有する第二の活性物質または治療的作用物質を含む。そのような物質には、インスリン、IL-15、ミオトロフィン、ウロコルチン、ウロコルチンII、ヒトミオスタチンプロペプチド、天然のまたは突然変異体のIGF1もしくはIGF2、hGH、プロリフェリン、ホリスタチン、FSTL1およびFLRG、または生物活性を有するこれらの突然変異体、誘導体、もしくは断片が含まれるがこれらに限定されるわけではない。さらに、活性物質または治療的作用物質は、例えばミオスタチン、アクチビン受容体、BMP受容体1、TNF受容体、IL-1受容体、ALK3受容体、およびALK4受容体を阻止する阻止抗体またはその生物活性誘導体を含み得る。あるいは、活性物質または治療的作用物質は、例えばIFG1受容体、B2アドレナリン受容体、またはIL-15受容体複合体を活性化する活性化抗体を含んでもよい。
【0042】
多量体形成成分
特定の態様において、本発明の融合ポリペプチドの融合成分(F)は多量体形成成分を含む。多量体形成成分は、他の多量体形成成分と相互作用して、より高次元の構造、例えば二量体、三量体等を形成することが可能な任意の天然のまたは合成された配列を含む。多量体形成成分は、1〜500アミノ酸長のアミノ酸配列、ロイシンジッパー、ヘリックスループモチーフ、およびコイル-コイルモチーフからなる群より選択してもよい。多量体形成成分が1〜500アミノ酸長のアミノ酸配列を含む場合、本配列は、一つまたは複数のシステイン残基を有する多量体形成成分を含む他の融合ポリペプチド上の対応するシステイン残基とジスルフィド結合を形成することが可能な、一つまたは複数のシステイン残基を含有する。いくつかの態様において、多量体形成成分は、例えばヒトIgG、IgM、もしくはIgAに由来する免疫グロブリン由来ドメイン、またはマウスを含むがこれに限定されない他の動物に由来する同等の免疫グロブリンドメインを含む。特定の態様において、免疫グロブリン由来ドメインは、IgGの定常領域、IgGのFcドメイン、Fcタンパク質、およびIgGの重鎖からなる群より選択される。IgGのFcドメインは、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、ならびに各アイソタイプグループ内の任意のアロタイプから選択してもよい。
【0043】
成分スペーサー
本発明のターゲティング融合ポリペプチドの成分は互いに直接結合するか、またはスペーサーを介して結合しうる。「スペーサー」または「リンカー」という用語は、一つまたは複数の成分ドメイン間に挿入される、例えば核酸もしくはアミノ酸、またはポリエチレングリコール等の非ペプチド部分などの一つまたは複数の分子を意味する。例えばスペーサー配列は、操作を容易にするため、成分間に制限部位を提供するために使用される。スペーサーはまた、成分がその最適な三次もしくは四次構造を取るおよび/またはその標的分子と適切に相互作用するように立体障害を減少させるため、宿主細胞由来の融合ポリペプチドの発現を増強させるためにも提供され得る。
【0044】
スペーサー配列は、天然で受容体成分に結合する一つまたは複数のアミノ酸を含んでもよく、または融合タンパク質の発現を増強させるため、特に望ましい関心対象の部位を提供するため、成分ドメインが最適な三次構造を形成することを可能にするため、および/または成分とその標的分子との相互作用を増強させるために使用される、追加された配列であってもよい。ある態様において、スペーサーは、1〜100アミノ酸、好ましくは1〜25アミノ酸である、一つまたは複数の成分間の一つまたは複数のペプチド配列を含む。ある特定の態様において、スペーサーは3アミノ酸の配列、より具体的にはGly Pro Gly の3アミノ酸の配列である。
【0045】
核酸の構築および発現
本発明の融合ポリペプチドの個々の成分は、当技術分野に公知の分子生物学的方法を用いて核酸分子から作製してもよい。適切な欠失および突然変異を有するSEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:4の核酸を、本明細書に記載されるIGF1またはIGF2変異体を調製するために使用してもよい。そのような核酸分子は、適切な宿主細胞に導入する場合、融合ポリペプチドを発現することが可能なベクターに挿入される。適切な宿主細胞には、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞が含まれるがこれらに限定されるわけではない。DNA断片をベクターに挿入するための当業者に公知の任意の方法を発現ベクター構築のために使用してもよく、該発現ベクターは本発明の融合ポリペプチドを、転写/翻訳制御シグナルの制御下にコードしている。これらの方法には、インビトロでの組換えDNA法および合成法、ならびにインビボでの組換え法が含まれ得る(Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory; Current Protocols in Molecular Biology, Eds. Ausubel, et al., Greene Publ. Assoc., Wiley-lnterscience, NYを参照されたい)。
【0046】
本発明の核酸分子の発現は、組換えDNA分子により形質転換させた宿主において本分子が発現されるように、第二の核酸配列により調節してもよい。例えば、本発明の核酸分子の発現は、当技術分野に公知の任意のプロモーター/エンハンサーエレメントにより制御してもよい。融合ポリペプチド分子の発現の制御に使用されうるプロモーターには、Squinto et al. (1991) Cell 65:1-20に記載される長い末端反復; SV40初期プロモーター領域、CMVプロモーター、M-MuLV 5’末端反復、ラウス肉腫ウイルスの3’末端の長い末端反復に含まれるプロモータ、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター、メタロチオニン遺伝子の調節配列; ラクタマーゼプロモーターまたはtacプロモーターなどの原核生物発現ベクター(加えて、「Useful proteins from recombinant bacteria」 Scientific American (1980) 242:74-94を参照); Gal4プロモーターなどの、酵母または真菌に由来するプロモーターエレメント、ADH(alcohol dehydrogenase)プロモーター、PGK(phosphoglycerol kinase)プロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター、ならびにエラスターゼI遺伝子、インスリン遺伝子、免疫グロブリン遺伝子、マウス乳腺癌ウイルス、アルブミン遺伝子、αフェトプロテイン遺伝子、α1抗トリプシン遺伝子、βグロビン遺伝子、ミエリン塩基性タンパク質遺伝子、ミオシン軽鎖2遺伝子、および性腺刺激放出ホルモン遺伝子に由来する組織特有の転写制御領域、が含まれるがこれに限定されない。
【0047】
本発明の核酸構築物は、当技術分野に公知の方法により発現ベクターまたはウイルスベクターに挿入され、核酸分子は発現制御配列に機能的に連結される。さらに、融合ポリペプチドの発現に適した宿主細胞に導入されている本発明の発現ベクターを含む、組織特異的な本発明の融合ポリペプチド産生のための宿主-ベクター系もまた提供される。適した宿主細胞は、大腸菌(E. coli)などの細菌細胞、ピキア パストリス(Pichia pastoris)などの酵母細胞、スポドプテラ フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)などの昆虫細胞、またはCOS、CHO、293、BHK、もしくはNS0などの哺乳動物細胞であり得る。
【0048】
本発明はまた、発現ベクターにより形質転換した細胞を、組織特異的融合ポリペプチドの産生を可能にする条件下で増殖させることにより本発明の融合ポリペプチドを作製するための方法、およびこのように産生された融合ポリペプチドを回収する方法を包含する。細胞は、本発明の核酸構築物を含む組換えウイルスを用いて形質導入することもできる。
【0049】
本融合ポリペプチドは、その後の安定なポリペプチドの形成を可能にする任意の技術により精製してもよい。例えば限定するわけではないが、本融合ポリペプチドは可溶性ポリペプチドとして、または封入体として細胞から回収してもよく、これらから、本融合ポリペプチドは8Mの塩酸グアニジウムおよび透析により定量的に抽出され得る。融合ポリペプチドをさらに精製するために、従来のイオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、またはゲル濾過を用いてもよい。本融合ポリペプチドはまた、真核細胞または原核細胞からの選択後に条件培地から回収することもできる。
【0050】
治療的方法
本発明はIGF1またはIGF2を与える事により改善され得る障害、例えばIGF欠損症により引き起こされるまたは悪化する状態を患う患者の処置のための、本明細書に記載される治療用物質としてのIGF融合ポリペプチドの開発をさらに提供する。例えば、筋肉量の減少または萎縮は、様々な生理学的または病理学的な状態に関連する。例えば筋萎縮症は、神経の損傷; 変性性の、代謝性の、もしくは炎症性の神経障害、例えばギヤン‐バレー症候群; 末梢神経障害; または環境有害物質もしくは薬物により引き起こされる神経傷害に起因する脱神経が原因である可能性がある。筋萎縮症はまた、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー ゲーリグ病)などの成人の運動ニューロン疾患; 乳児脊髄性筋萎縮症および若年性脊髄性筋萎縮症; ならびに多巣性の伝導体ブロック(multifocal conductor block)を伴う自己免疫性運動神経障害を含む運動神経障害に起因する脱神経が原因である可能性がある。筋萎縮症はまた、例えば卒中または脊髄損傷に起因する麻痺; 例えば骨折、靭帯もしくは腱の損傷、捻挫、または脱臼などの損傷に起因する骨格不動化; または長期の床上安静の結果として生じる慢性疾患が原因である可能性がある。筋萎縮症を引き起こす場合がある代謝ストレスまたは栄養不全には、癌、ならびにAIDS、飢餓または横紋筋融解、および甲状腺の障害および糖尿病などの内分泌障害を含む他の慢性疾病の悪液質が含まれる。筋萎縮症はまた、デュシェーヌ型、ベッカー型、筋緊張性の、顔面肩甲上腕型、エメリー‐ドライフス型、眼咽頭筋型、肩甲上腕骨型、肢帯筋型、および先天性などの筋ジストロフィー症候群、ならびに遺伝性遠位型筋障害として公知のジストロフィーに起因し得る。筋萎縮症はまた、良性の先天性緊張低下、中心コア病、ネマリン筋障害、および筋細管(中心核)筋障害などの先天性筋障害に起因する。筋萎縮症はまた、加齢の過程においても発生する。様々な病理学的状態にある筋萎縮症は、増大したタンパク質分解および低下した筋タンパク質の産生に関連する。
【0051】
本発明のIGF1融合ポリペプチドおよびIGF2融合ポリペプチドはまた、小人症などのIGF欠損症に関連する疾患においても有用である。さらに、IGFは心筋梗塞などの事象の後の心筋細胞の生存を向上させることが示されており、したがって本発明の融合ポリペプチドは、このような事象を経験している被験者において有用である。
【0052】
本発明のIGF融合ポリペプチドの、哺乳動物中に存在する多数のIGF結合タンパク質を回避する能力により、これらは萎縮促進状態からの回復など、増加したIGFレベルの恩恵を受ける可能性のある状態、骨格筋肉量が減少している状況、または例えば不動化、加齢、癌等からの回復における筋肉の肥大が望ましい状況の効果的な処置に関して治療的に有用となる。
【0053】
IGF受容体が広範に渡って発現するため、融合成分がFcまたは他の活性成分などの多量体形成成分である本発明のIGF融合分子を、さらに、筋肉以外の状況において使用することもできる。例えば、IGF1およびIGF2は骨成長因子であることが示されており、したがって成長ホルモンへのIGF1-FcもしくはIGF2-FcまたはIGF1もしくはIGF2の融合は、骨粗鬆症もしくは他の骨量減少または年齢に関連する衰弱、虚弱、もしくはサルコペニアを含む衰弱の処置において有用であり得る。本非標的化分子は、悪液質などの、より一般的な体重消耗の状況においても有用であり得る。悪液質は、筋肉量を含むがこれに限定されない体重の減少をもたらす状態である。悪液質の状況は癌誘導悪液質、AIDS誘導悪液質、敗血症誘導悪液質、腎不全誘導悪液質、およびうっ血性心不全を含み、また、低身長を引き起こす地中海貧血症を含む多くの状況において、成長遅延も存在する。低身長は一般に、IGF1-FcもしくはIGF2-Fc、またはIGF1-GHもしくはIGF2-GHの態様などの、直接筋肉に対して標的化されていないIGF1またはIGF2の融合タンパク質に関する状況である。IGF1またはIGF2に関するさらなる使用は、インスリンの補償または代用である。インスリン非感受性糖尿病の状況において、本発明のIGF1またはIGF2の融合タンパク質が使用され得る。そのような変異体は、高血糖症において単にインスリンの代用としてさらに使用され得る。本明細書に記載されるIGF1およびIGF2の融合のさらなる追加的な使用は、人工呼吸器からの個体の離脱、および血液細胞の増殖が望ましい貧血などの状態の処置における使用を含む。
【0054】
投与の方法
タンパク質または核酸などの薬剤の治療的送達のための、当技術分野に公知の方法を、本発明のIGF融合ポリペプチドまたはIGF融合ポリペプチドをコードする核酸の治療的送達に使用することができ、これらには、例えば細胞のトランスフェクション、遺伝子治療、送達賦形剤または薬学的に許容される担体による直接投与、本発明のIGF融合ポリペプチドをコードする核酸を含む組換え細胞を提供することによる非直接的送達がある。
【0055】
例えばリポソーム、微粒子、マイクロカプセルへの封入、化合物の発現が可能な組換え細胞、受容体依存性エンドサイトーシス、レトロウイルスベクターまたは他のベクターの一部としての核酸の構築などの様々な送達系が公知であり、本発明の融合ポリペプチドの投与に使用することができる。導入方法は、経腸的または非経口的であることができ、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、肺、鼻腔内、眼内、硬膜外、および経口的な経路を含むがこれらに限定されない。化合物は、任意の便利な経路、例えば注入またはボーラス注射、上皮または粘膜皮内層による吸収(例えば、口腔粘膜、直腸、および腸粘膜等)によって投与してもよく、他の生物活性物質と共に投与してもよい。投与は、全身投与または局所投与とすることができる。さらに、本発明の薬学的組成物は、脳室内および髄腔内注射を含む任意の適した経路によって中枢神経系に導入することが望ましく; 脳室内注射は、脳室内カテーテル、例えばオンマヤリザーバーのようなリザーバーに結合した脳室内カテーテルによって容易になる。例えば吸入器または噴霧器、およびをエアロゾル化薬剤を用いた製剤を使用することにより、肺への投与を用いてもよい。
【0056】
特定の態様において、本発明の薬学的組成物を処置を必要とする領域に対して局部的に投与することが望ましい。これは、限定するわけではないが、例えば手術中の局部的な注入、あるいは例えば注射、カテーテル手段、または多孔性の、非多孔性の、もしくはゼラチン状の材料で作られた、シラスティック膜などの膜、繊維、もしくは市販の皮膚代用物を含むインプラントによるインプラント手段などの局所適用により達成してもよい。
【0057】
他の態様において、活性薬剤は、小胞、特にリポソームにより送達することができる(Langer (1990) Science 249:1527-1533を参照)。さらに別の態様において、活性薬剤は制御放出系により送達される。ある態様では、ポンプが使用される場合がある(Langer (1990)上記参照)。他の態様では、ポリマー材料を使用することができる(Howard et al. (1989) J. Neurosurg. 71 :105を参照)。本発明の活性薬剤がタンパク質をコードする核酸である他の態様において、本核酸は、適切な核酸発現ベクターの一部として構築し、例えばレトロウイルスベクターを用いることにより(例えば米国特許第4,980,286号を参照)、または直接注射することにより、または微粒子銃(microparticle bombardment)(例えば遺伝子銃; Biolistic, Dupont)を使用することにより、または脂質、もしくは細胞表面受容体、もしくはトランスフェクション剤をコーティングすることにより細胞内となるように投与することによって、または細胞核に入ることが知られているホメオボックス様ペプチドに連結させて投与すること(例えば、Joliot et al., 1991 , Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:1864-1868を参照)等によって、そのコードされるタンパク質の発現を促進するためにインビボで投与してもよい。あるいは、核酸を細胞内に導入して、発現のために、相同的組換えによって宿主細胞DNA内に組み入れることができる。
【0058】
細胞のトランスフェクションおよび遺伝子治療
本発明は、インビトロまたはインビボにおける細胞のトランスフェクションのための、本発明の融合ポリペプチドをコードする核酸の使用を包含する。これらの核酸は、標的細胞および生物のトランスフェクションのために、多数の周知のベクターのうちの任意のベクターに挿入することが可能である。本核酸は、ベクターと標的細胞との相互作用を介して、エクスビボまたはインビボで細胞にトランスフェクトされる。組成物は、治療的応答を引き出すのに十分な量で、(例えば筋肉への注射により)被験者に投与される。
【0059】
他の局面において、本発明は、組織に特異的な本発明の融合ポリペプチドをコードする核酸により細胞をトランスフェクトする段階を含み、該核酸がターゲティング融合ポリペプチドをコードする核酸に機能的に連結した誘導可能なプロモータを含む核酸である、標的部位、すなわちヒトまたは他の動物の標的細胞または組織を処置する方法を提供する。
【0060】
併用療法
多くの態様において、本発明の融合ポリペプチドは、一つまたは複数の追加的な化合物または療法と組み合わせて投与してもよい。例えば、複数の融合ポリペプチドを一つまたは複数の治療的化合物と併せて同時に投与することができる。本併用療法は、同時の、または交互の投与を包含し得る。さらに、この併用は、急性投与または慢性投与を包含し得る。
【0061】
薬学的組成物
本発明はまた、本発明の融合タンパク質および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を提供する。「薬学的に許容される」という用語は、動物、より具体的にはヒトへの使用に対して、連邦政府または州政府の規制当局により認可されている、または米国薬局方もしくは一般に認められている薬局方に記載されている事を意味する。「担体」という用語は、それを用いて治療用物質を投与する、希釈剤、アジュバント、付形剤、または賦形剤を意味する。このような薬学的担体は、水、および石油、動物油、植物油、もしくは合成された、ピーナッツオイル、大豆油、鉱油、ゴマ油等を含む油などの液体を滅菌したものであることができる。好適な薬学的付形剤には、デンプン、グルコース、乳糖、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が含まれる。組成物はまた、望ましければ、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を含んでもよい。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤等の形態を取ることができる。この組成物は従来の結合剤およびトリグリセリドのような担体と共に坐剤として調剤することができる。経口製剤は、製薬グレードのマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等のような標準的な担体を含みうる。適切な薬学的担体の例は、E. W. Martinにより、「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0062】
好ましい態様において、本組成物は、日常的な手順に従って、ヒトに対する静脈内投与に適合した薬学的組成物として調剤される。必要な場合、本組成物は、溶解剤、および注射部位の痛みを和らげるためのリドカインなどの局所麻酔剤を含んでもよい。組成物が注入によって投与されるものである場合、組成物は、滅菌した製薬グレードの水または生理食塩水の入った注入ボトルを用いて投薬することができる。組成物が注射によって投与される場合、投与の前に成分を混合できるように、注射用の滅菌水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0063】
本発明の活性物質は、中性のまたは塩の形態として調剤することができる。薬学的に許容される塩は、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等に由来する塩など、遊離アミノ基により形成された塩、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等に由来する塩など、遊離カルボキシル基により形成された塩を含む。
【0064】
状態または疾患の処置に効果的であると考えられる本発明の融合ポリペプチドの量は、本記載に基づく標準的な臨床的技術によって決定することができる。さらに、最適な用量範囲の同定を助けるために、任意でインビトロアッセイ法を用いてもよい。製剤において用いられる正確な用量はまた、投与経路および状態の重篤性に依存し、医師の判断および各被験者の状況に従って決定すべきである。しかしながら、静脈内投与の適切な用量範囲は、一般にキログラム体重当たり活性化合物約20〜5000マイクログラムである。鼻腔内投与の適切な用量範囲は、一般に約0.01pg/kg体重〜1mg/kg体重である。有効量は、インビトロまたは動物モデル試験系に由来する用量反応曲線から推定してもよい。
【0065】
キット
本発明はまた、本発明の少なくとも一種の融合ポリペプチドまたは融合ポリペプチドをコードする核酸で満たした一個または複数個の容器を含む薬学的パックまたはキットを提供する。本発明のキットは、例えば診断的使用を含む、任意の適用可能な方法において使用され得る。そのような容器に任意で関連して、薬学的または生物学的製造物の製造、使用、または販売を統制している政府機関により規定された形態で通知を提供することができ、その通知には、(a)人への投与用に製造、使用、または販売することについての機関による認可、(b)使用についての指示、またはこれらの両方が反映されている。
【0066】
トランスジェニック動物
本発明は、本発明のIGF融合ポリペプチドを発現する、ヒト以外のトランスジェニック動物を含む。トランスジェニック動物は、マイクロインジェクション、レトロウイルス感染などによってキナーゼをコードする核酸を受精卵母細胞の雄性前核内に導入し、偽妊娠させた代理母動物の体内で卵母細胞を発生させることによって作製することができる。発現ベクターにおいて有用である任意の調節配列または他の配列が、本トランスジェニック配列の一部を形成し得る。特定の細胞に導入遺伝子の発現を誘導するために、組織特有の調節配列を導入遺伝子と機能的に連結させることができる。本発明の組織特異的融合ポリペプチドを発現するヒト以外のトランスジェニック動物は、このような融合タンパク質を作製する手段としての用途を含む、様々な用途において有用である。さらに、本導入遺伝子は、組織特異的融合ポリペプチドの発現が例えば小分子の投与によって制御され得るように、誘導性プロモーターの制御下に配置してもよい。
【0067】
実施例
以下の実施例は、本発明の方法および組成物を実現するおよび使用する方法に関する完全な開示および説明を当業者に提供するために記載されており、本発明者らが発明とみなす範囲を限定するすることは意図していない。使用する数字(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保する努力は成されているが、ある程度の実験的誤差および偏りは許容されるべきである。特に規定されない限り、部分は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏であり、かつ圧力は大気圧であるか、またはその近傍である。
【0068】
実施例1 IGF融合ポリペプチドの、Lys 65または68での切断
融合ポリペプチドを、ヒトFcに融合したヒトIGF1(Δ1-3、delR37)を含有するヒトIGF1を用いて構築した。本ポリペプチドを精製し、マウスに注射した。血液試料を7日間、24時間毎に採取した。ウエスタン分析を、ヒトFcに特異的な抗体を使用して実施した。3日後、IGF1-Fcが血清中でタンパク質分解により切断された事を示す、低移動度のバンドが認められた。より多くの血清を採取し、この低移動度の種を精製して配列決定した。IGF1-Fc構造物が、IGF1変異体のリシン68またはリシン65で切断される事が確認された。本結果に基づいて、末端の3〜6つのアミノ酸が除去された、または65位または68位のリシンがアラニンまたはグリシンなどの他のアミノ酸に突然変異した構造物を調製した。このような変異体は、多量体形成成分、ターゲティングリガンド、および他の活性化合物などの融合成分を含む、本発明の融合ポリペプチドの調製において用いられ、これらは、IGF1変異体成分の65位または68位にリシンを有する同等の構造物よりも大きな安定性および半減期を有する事が分かっている。
【0069】
実施例2 IGF1-Fc融合ポリペプチド
融合ポリペプチド構築物を、変異体IGF1(Δ1-3、delR37)およびヒトIgG由来Fcを用い、IGF1変異体-FcまたはFc-IGF1変異体を使用して作製した。IGF1の活性は、IGF1受容体およびAktキナーゼをリン酸化するその能力によって測定した。このようなリン酸化は、様々な分子に対するリン酸特異的抗体を用いたウエスタンブロットによって、または受容体(例えばIGFR)の免疫沈降によって、および抗ホスホチロシンに対して特異的な抗体を用いたウェスタンブロットによって決定した。このようなブロットは、構造物IGF1-Fcを使用した場合にAktの有効なリン酸化を示したが、構造物Fc-IGF1を使用した場合は活性をほとんどまたは全く示さなかった。
【0070】
IGF1(Δ1-3、delR37)-Fcは、SCIDマウスに毎日の注射を介して、または一日おきの注射を介して、腹腔内投与または皮下投与した。4.5mg/kgの融合タンパク質を注射に使用した。対照マウスには、IGF1-Fcタンパク質を与えなかった。マウスの第三のグループには、1日当たり15mg/kgのデキサメタゾン両方を皮下に与えた。本用量は、12日後に15%の筋肉量の損失をもたらすのに十分である。マウスの第四のグループには、デキサメタゾンおよびIGF1(Δ1-3、delR37)-Fcの両方を与えた。この第四のグループのマウスには、萎縮も萎縮における統計学的に有意な減少も起こらなかった(デキサメタゾンおよびIGF1(Δ1-3、delR37)の両方を与えたマウスの前脛骨(TA)筋における5%の萎縮 対 デキサメタゾンのみを与えたマウスのTAにおける15%の萎縮)。
【0071】
実施例3 IGF1-hGH融合ポリペプチド
hGHを有するIGF1(Δ1-3、delR37)を融合成分として使用して、融合ポリペプチドを構築した。IGF1活性を測定することに加えて、ヒト成長ホルモン(hGH)の活性を、Stat5をリン酸化するその能力によって測定した。驚くべきことに、IGF1変異体-hGH構成を有する構築物はIGF1受容体およびStat5の両方のリン酸化を生じさせ、一方、hGH-IGF1変異体構成を有する構築物は、活性をほとんどまたは全く有さなかった。
【0072】
リン酸化アッセイ法は、上記のhGHおよびhIGF1変異体両方を含む、IGF1変異体-hGH構成を有する融合タンパク質が、IGF1受容体、Akt、およびStat5を同時に活性化することが可能である事を示した。このようなリン酸化は、様々な分子に対するリン酸特異的抗体を用いたウエスタンブロットによって、または受容体(例えばIGFR)の免疫沈降によって、および抗ホスホチロシンに対して特異的な抗体を用いたウェスタンブロットによって決定した。さらに、上記の融合ポリペプチドの全ては、最初の三つのアミノ酸の欠失(Δ1-3)、ならびに36位および/または37位のアルギニンの除去または置換のいずれかを有するヒトIGF1突然変異体を使用して作製した。このような突然変異体IGF1分子により、切断に対する耐性、ならびにC2C12筋管におけるシグナル伝達能力への影響の無い、IGF-1結合タンパク質(具体的には、IGF1結合タンパク質5)による低下した結合が、両方実証された。
【0073】
上記のIGF1変異体、ならびに65〜70番目もしくは68〜70番目のアミノ酸の欠失、または65位および68位でのリシンの突然変異を含む融合タンパク質を構築し、様々な分子に対するリン酸特異的抗体を使用するウエスタンブロットによって、または受容体の免疫沈降(例えばIGFR)によって、および抗ホスホチロシンに対して特異的な抗体を用いたウェスタンブロットによって決定されるように、IGF1受容体、Akt、およびStat5を同時に活性化するそれらの能力について試験した。さらに、C2C12筋管を本融合物と接触させ、IGF1単独またはhGH単独のいずれかによって生じた肥大と比較して、肥大を測定した。アグリンなどのターゲティングリガンドが融合成分として使用される構築物では、活性を、MuSKなどの標的受容体のリン酸化によって測定してもよい(Glass et al. (1996) 85:513- 523; Beguinot et al. (1988) Biochemistry. 27 (9): 3222-8)。
【0074】
実施例4 IGF2融合ポリペプチド
上記の構築物の全ては、IGF2タンパク質またはSEQ ID NOS:3〜4に示されるようなDNAを用いて調製した。IGF2の65位のリシンがIGF2変異体を含む融合タンパク質の切断に関与している事が見出され、末端の3アミノ酸(65〜67)に欠失を有するIGF2変異体の使用を支持した。
【0075】
実施例5 血糖における、2D-IGF1-Fc(Δ1-3、ΔArg37)の効果
13週齢のC57/BL6マウスを使用した(グループ当たりn=3マウス)。マウスは4時間、絶食させた。ベースラインおよび注射後の血液試料を尾静脈から収集し、血糖をグルコメーターで測定した。IGF1またはIGF1-Fcのいずれかのインスリンを腹腔内に投与し、薬物の投与の60分後に尾静脈から収集した血液から、グルコースを測定した。インスリンは、2U/kgで投与した。IGF-Iは、インスリン受容体に関するIGF-Iの比較の親和性に基づいて、インスリン(700ug/Kg)より10倍高い用量で使用した。2D-IGF1-Fc(hlGFΔ1-3、ΔArg37)は、IGF-Iの用量(3.5mg/kg)に対して等モルの用量で投与した。
【0076】
結果:
インスリンは血糖において66%の減少(ベースライン207±5.5mg/dl 対 注射後70±22.2mg/dl)をもたらし、IGF-Iは血糖において45%の減少(ベースライン200±6.7mg/dl 対 注射後109±13.7 mg/dl)を誘導し、および2D-IGFI-Fcは30%の血糖減少(ベースライン184±7.3mg/dl 対 注射後129±15.9mg/dl)をもたらした。これらの結果は、急性試験(acute study)における絶食させたC57BI/6マウスの血糖の低下において、IGFI-Fcが効果的である事を示した。
【0077】
実施例6 2D-IGF1-Fcおよび3D-IGF1-Fcの薬物動態学的分析
CD-1マウス(グループ当たりn=5)に、ヒトIGF1誘導体2D-IGF1-Fcまたは3D-IGF1-Fc(hlGF、Δ1-3、ΔArg37、Δ68-70)のいずれかを、5mg/kgで皮下注射した。血清試料を、7日間にわたって収集し、ELISA法を、抗ヒトIGF1(USB カタログ番号17661-05)および検出抗体であるヤギ抗ヒトIgGを用いて実施した。Fc-HRP (Jackson lmmuno Research カタログ番号109-035-098)。結果は、図1に示されている。薬物動態学的パラメータは、表1に示されている。
【0078】
(表1)薬物動態学的パラメータ

【0079】
実施例7 インビボで骨格筋肥大を誘導する、IGFI-Fc分子
2D-IGFI-Fcおよび3D-IGFI-Fcを、8週齢の成体SCIDマウスに、毎日1.6mg/kgの用量で、または生理食塩水媒体を用いて、12日間皮下注射した(グループ当たりN=5)。実験の最後に筋肉(前脛骨筋および腓腹筋複合体)を摘出し、この筋肉の湿重量を測定した。2D-IGFI-Fcの注射は、対照筋肉と比較して、前脛骨筋質量において23.07±2.14%(平均±SEM)の増加をもたらし、腓腹筋質量において17.00±2.07%の増加をもたらした。3D-IGFI-Fcの注射は、対照筋肉と比較して、前脛骨筋質量において9.45±3.72%の増加をもたらし、腓腹筋質量において9.31±2.15%の増加をもたらした。
【0080】
実施例8 骨格筋肥大の誘導における、2D-IGFI-FcのIGF-Iに対する優位性
骨格筋肥大の誘導における2D-IGFI-Fcの有効性もまた、修飾していないIGF-Iと直接比較した。それぞれの等モル用量(4.8mg/kgの2D-IGFI-Fc、または0.93mg/kgのIGF-I)または生理食塩水媒体を、一日おきに12日間、8週齢の成体SCIDマウスに皮下注射した(グループ当たりN=5)。実験の最後に筋肉(前脛骨筋および腓腹筋複合体)を摘出し、この筋肉の湿重量を測定した。2D-IGFI-Fcの注射は、対照筋肉と比較して、前脛骨筋質量において13.35% ±2.26(平均±SEM)の増加をもたらし、腓腹筋質量において9.39% ±3.68%の増加をもたらした。IGF-Iの注射は、対照筋肉と比較して、前脛骨筋質量において2.24%±2.27の増加をもたらし、腓腹筋質量において0.81%±1.51の増加をもたらした。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】0、24、48、72、96、120、144、および168時間目のCD-1マウスにおける、IGF1変異体、2D-IGF1-Fc(□)または3D-IGF1-Fc(■)の血清濃度を示すグラフである(グループ当たりn=5)(平均±SEM)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも一つのIGF1変異体ポリペプチド成分;および
(b)融合成分(F)
を含む、融合タンパク質であって、
該IGF変異体成分が、
(i)1〜3番目のアミノ酸の欠失(Δ1-3)、
(ii)Lys65(Δ65)および、Lys68(Δ68)の一方または両方の欠失または置換、
(iv)65〜70番目のアミノ酸の欠失(Δ65-70)、
(v) Arg36(Δ36)および、Arg37(Δ37)の一方または両方の欠失または置換
からなる群より選択される一つまたは複数の修飾を含むSEQ ID NO:1のヒトIGF-1タンパク質である、融合タンパク質。
【請求項2】
融合成分が多量体形成成分(multimerizing component)である、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項3】
多量体形成成分が、(i)少なくとも一つのシステイン残基を任意で含む、1〜約500アミノ酸長のアミノ酸配列、(ii)ロイシンジッパー、(iii)ヘリックスループモチーフ、(iv)コイル-コイルモチーフ、および(v)免疫グロブリンドメインからなる群より選択される、請求項2記載の融合タンパク質。
【請求項4】
免疫グロブリンドメインがヒトIgGのFcドメインである、請求項3記載の融合タンパク質。
【請求項5】
IGF1変異体ポリペプチドが、SEQ ID NO:1の1〜3番目、および37番目の位置でのアミノ酸の欠失(Δ1-3、Δ37)を含む、請求項3記載の融合タンパク質。
【請求項6】
68〜70番目のアミノ酸の欠失(Δ1-3、Δ37、Δ68=70)をさらに含む、請求項5記載の融合タンパク質。
【請求項7】
請求項4記載の融合タンパク質の二量体。
【請求項8】
請求項1記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項9】
請求項8記載の核酸を含むベクター。
【請求項10】
請求項9記載のベクターを含む宿主-ベクター系。
【請求項11】
宿主細胞が、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞からなる群より選択される、請求項10記載の宿主-ベクター系。
【請求項12】
請求項9記載のベクターを用いてトランスフェクションした宿主細胞を、宿主細胞に由来するタンパク質の発現に適した条件下で培養する段階、およびこのように作製したポリペプチドを回収する段階を含む、融合タンパク質を作製する方法。
【請求項13】
請求項1記載の融合タンパク質および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項14】
治療的有効量の請求項13記載の薬学的組成物を、それを必要とする被験者またはIGF1不全疾患もしくはIGF1不全状態の発症の危険がある被験者に投与する段階を含む、IGF1不全疾患もしくはIGF1不全状態、またはIGF1により改善もしくは向上する状態の処置のための治療的方法。
【請求項15】
IGF1疾患または状態が筋萎縮症、小人症、または心筋梗塞である、請求項14記載の治療的方法。
【請求項16】
筋萎縮症が、脱神経;変性性の、代謝的な、または炎症性のニューロパシー;小児のおよび若年性の脊髄性筋肉萎縮症;自己免疫性運動性ニューロパシー;慢性疾患、AIDS、飢餓、もしくは横紋筋融解症;筋ジストロフィー症候群;筋肉減少症(sarcopenia); 不動化; 加齢; 慢性疾患の結果である、または萎縮を引き起こす薬剤を用いた処置の結果である、請求項15記載の治療的方法。
【請求項17】
前記疾患または状態が、骨粗鬆症、年齢に関連する衰弱もしくは虚弱、または筋肉減少症である、請求項14記載の治療的方法。
【請求項18】
前記疾患または状態が体重の減少を伴う、請求項14記載の治療的方法。
【請求項19】
前記疾患または状態が悪液質またはうっ血性心不全である、請求項14記載の治療的方法。
【請求項20】
前記疾患または状態が地中海貧血症、糖尿病、高血糖症、または貧血症である、請求項14記載の治療的方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−526233(P2008−526233A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550507(P2007−550507)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/000495
【国際公開番号】WO2006/074390
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(597160510)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】