説明

III族窒化物半導体発光素子およびその製造方法

【課題】静電耐圧特性を向上させ、かつ発光効率を向上させること。
【解決手段】III 族窒化物半導体発光素子は、サファイア基板10上に、n型コンタクト層11、ESD層12、n型クラッド層13、発光層14、p型クラッド層15、p型コンタクト層16が積層された構造である。ESD層12はピット20を有し、このピット20を埋めずにn型クラッド層13、発光層14が形成されている。n型クラッド層13と発光層14との界面でのピット20の直径は110〜150nmである。また、発光層14の障壁層はAl組成比が3〜7%のAlGaNである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n型層にピットを生じさせることにより、発光層にかかる歪の緩和による発光効率、および静電耐圧特性を向上させたIII 族窒化物半導体発光素子に関し、特に発光層の障壁層としてAlGaNを用いたものである。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体発光素子において、n型層にピットを発生させ、ピットを埋めないようにして発光層を形成した構造が知られている。
【0003】
たとえば特許文献1では、nコンタクト層上に、i−GaN層、n−GaN層の2層からなるESD層を設け、i−GaN層にピットを発生させ、n−GaN層のSi濃度と膜厚を所定の範囲とすることで、静電耐圧特性が向上することが示されている。また、発光層には、障壁層をAlGaNとするMQW構造が示されている。
【0004】
また、特許文献2には、n型層上に、上面でのピット径が0.05μm以上のピットを有した中間層を設け、中間層上にピットを埋めないようにして発光層が形成されたIII 族窒化物半導体発光素子が示されている。これにより、通電時の逆方向電流を抑制できることが示されている。また、特許文献2では発光層として、GaNとInGaNを繰り返し積層したMQW構造を用いることが示されている。
【0005】
また、特許文献3には、成長基板から発光層までの間に、ピットを有する層を設け、これにより発光層の歪を緩和して発光効率を向上させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−180495
【特許文献2】特開2007−201424
【特許文献3】特開平11−220169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
III 族窒化物半導体発光素子のMQW構造の発光層において、障壁層としてAlGaNを用い、より効率的に電子を閉じ込めることで発光効率を向上させることが試みられている。しかし、n型層にピットを生じさせ、発光層の障壁層としてAlGaNを用いた場合、ピット径が小さすぎると発光層にかかる歪みの緩和が十分でなく、発光出力が低下し、ピット径が大きすぎるとキャリアの閉じ込めが弱くなり、発光効率が低下してしまうという問題がある。
【0008】
特許文献1では、発光層の障壁層としてAlGaNを用いることは示されているが、ピット径に関する考察はない。また、特許文献2では、発光層の障壁層としてGaNを用いた場合のピット径については検討されているが、AlGaNを用いた場合については言及がない。
【0009】
そこで本発明の目的は、n型層にピットを発生させ、MQW構造の発光層の障壁層としてAlGaNを用いたIII 族窒化物半導体発光素子において、静電耐圧特性を向上させつつ、発光層にかかる歪みの緩和とキャリアの閉じ込め率向上によって発光効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、n型層、発光層、p型層が順に積層され、n型層にピットを有したIII 族窒化物半導体発光素子において、発光層とn型層との界面におけるピットの直径は、110〜150nmであり、発光層は、AlGaNからなる障壁層と、InGaNからなる井戸層とが繰り返し積層されたMQW構造である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子である。
【0011】
ここでIII 族窒化物半導体とは、一般式Alx Gay Inz N(x+y+z=1、0≦x、y、z≦1)で表される半導体であり、Al、Ga、Inの一部を他の第13族元素であるBやTlで置換したもの、Nの一部を他の第15族元素であるP、As、Sb、Biで置換したものをも含むものとする。より一般的には、Gaを少なくとも含むGaN、InGaN、AlGaN、AlGaInNを示す。n型不純物としてはSi、p型不純物としてはMgが通常用いられる。
【0012】
発光層とn型層との界面におけるピットの直径は、ピットを発生させる際のIII 族窒化物半導体層の成長温度によって制御可能である。たとえば、成長温度を850〜920℃とすることでピット径を110〜150nmとすることができる。
【0013】
障壁層のAl組成比は、3〜7%とすることが望ましい。発光層内でのキャリアの閉じ込めがより強化され、オーバーフローを低減することができるため、発光効率をより向上させることができる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、障壁層のAl組成比は、3〜7%である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子である。
【0015】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、n型層は、n型コンタクト層、ESD層、n型クラッド層が積層された構造であり、ピットはESD層から発生し、ピットを埋めずにn型クラッド層、発光層が形成されている、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子である。
【0016】
第4の発明は、n型層、発光層、p型層が順に積層され、n型層にピットを発生させたIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、ピットは、成長温度を850〜920℃として発生させ、発光層は、AlGaNからなる障壁層と、InGaNからなる井戸層とを繰り返し積層して形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、静電耐圧特性を向上させつつ、発光層にかかる歪みやキャリアの閉じ込めを制御して発光効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の構成を示した図。
【図2】実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の製造工程を示した図。
【図3】ESD層12の成長温度とピット径との関係を示したグラフ。
【図4】ESD層12の成長温度と光出力との関係を示したグラフ。
【図5】障壁層14AのAl組成比と光出力との関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
図1は、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の構成を示した図である。III 族窒化物半導体発光素子は、サファイア基板10を有し、サファイア基板10上にバッファ層(図示しない)を介して、n型コンタクト層11、ESD層12、n型クラッド層13、発光層14、p型クラッド層15、p型コンタクト層16が順に積層されている。p型コンタクト層16上の一部領域には、n型コンタクト層11に達する深さの溝が形成され、その溝により露出したn型コンタクト層上にはn電極17が形成されている。また、p型コンタクト層16表面のほぼ全域にはITOからなる透明電極18が形成され、透明電極18上にはp電極19が形成されている。
【0021】
サファイア基板10表面には、光取り出し効率を向上させるために、ドット状、ストライプ状などの凹凸加工が施されていてもよい。また、サファイア以外にも、SiC、ZnO、Si、GaNなどを成長基板として用いてもよい。
【0022】
n型コンタクト層11は、Siが高濃度にドープされたn−GaNである。n電極17とのコンタクトを良好とするために、n型コンタクト層11をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0023】
ESD層12は、ピット20を発生させて歪みを緩和し、静電耐圧特性の向上や光出力向上を図るための層である。ESD層12は、たとえばn型コンタクト層11側から順に、第1ESD層、第2ESD層、第3ESD層の3層で構成される。第1ESD層は、Si濃度が1×1016〜5×1017/cm3 のn−GaNである。第1ESD層の厚さは200〜1000nmである。また、第1ESD層の表面にはピットが生じており、そのピット密度は、1×108 /cm2 以下である。第2ESD層は、ノンドープのGaNである。第2ESD層の厚さは50〜200nmである。第2ESD層の表面にもピットが生じており、そのピット密度は2×108 /cm2 以上である。第2ESD層はノンドープであるが、残留キャリアによりキャリア濃度が1×1016〜1×1017/cm3 となっている。第3ESD層は、SiがドープされたGaNであり、Si濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )である。たとえば、第3ESD層の厚さを30nmとする場合にはSi濃度は3.0×1018〜1.2×1019/cm3 である。このESD層12に発生させたピット20は、ESD層12上に積層されるn型クラッド層13、発光層14に埋められておらず、ピット形状に沿ってこれらn型クラッド層13、発光層14が形成されている。
【0024】
n型クラッド層13は、InGaNとGaNとが繰り返し15回積層された超格子構造である。n型クラッド層13表面(n型クラッド層13と発光層14との界面)におけるピット20の直径は、110〜150nmである。
【0025】
発光層14は、AlGaNからなる障壁層と、InGaNからなる井戸層とが繰り返し5回積層されたMQW構造である。障壁層のAl組成比は、3〜7%である。また、井戸層のIn組成比は、たとえば、発光波長が380〜460nmとなるような値である。
【0026】
p型クラッド層15は、p−AlGaNとp−InGaNを繰り返し7回積層させた超格子構造である。p型不純物はMgである。
【0027】
p型コンタクト層16は、Mgドープのp−GaNである。p電極19とのコンタクトを良好とするために、p型コンタクト層16をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0028】
次に、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法について図2を参照に説明する。
【0029】
まず、サファイア基板10を水素雰囲気中で加熱してクリーニングを行い、サファイア基板10表面の付着物を除去する。その後、MOCVD法によって、サファイア基板10上にAlNからなるバッファ層(図示しない)を介してGaNからなるn型コンタクト層11を形成する(図2(a))。キャリアガスには水素と窒素、窒素源にはアンモニア、Ga源にはTMG(トリメチルガリウム)、n型ドーパントガスにはSiH4 (シラン)を用いた。
【0030】
次に、n型コンタクト層11上に、MOCVD法によってESD層12を形成する。ESD層12の成長温度は、850〜920℃とする。これにより、ESD層12表面に密度が1〜5×108 /cm2 程度のピット20を発生させる(図2(b))。
【0031】
次に、ESD層12上にMOCVD法によってn型クラッド層13、発光層14を順に積層させる。キャリアガス、窒素源、Ga源は上記と同様で、In源にはTMI(トリメチルインジウム)、Al源にはTMA(トリメチルアルミニウム)を用いた。n型クラッド層13、発光層14はピット20を埋め込まないようにして形成する(図2(c))。ここで、ESD層12を850〜920℃で形成したため、n型クラッド層13と発光層14との界面におけるピットの直径は110〜150nmとなる。
【0032】
図3は、ESD層12の成長温度と、n型クラッド層13と発光層14との界面におけるピット径との関係を示したグラフである。図3のように、ピット径はESD層12の成長温度によって制御可能であることがわかり、ESD層12の成長温度を850℃、920℃、990℃としたときに、それぞれ150nm、110nm、80nmのピット径が得られることがわかる。
【0033】
次に、発光層14上にp型クラッド層15、p型コンタクト層16を積層される(図2(d)。これらの層を形成時に、ピット20は埋め込まれて表面が平坦化される。p型ドーパントガスとしてCp2 Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いた。
【0034】
次に、熱処理によってMgを活性化した後、p型コンタクト層16表面側からドライエッチングを行ってn型コンタクト層11に達する溝を形成する。そして、p型コンタクト層16表面に透明電極18を形成し、さらに透明電極18上にp電極19、ドライエッチングによって溝底面に露出したn型コンタクト層11上にn電極17を形成する。以上によって図1に示すIII 族窒化物半導体発光素子が製造される。
【0035】
図4は、ESD層12の成長温度と相対光出力との関係を示したグラフであり、図5は、ESD層12の成長温度を850℃とした場合の発光層14の障壁層のAl組成比と、相対光出力との関係を示したグラフである。相対光出力は、ESD層12の成長温度を850℃、Al組成比0%(すなわち障壁層がGaN)とした場合の光出力を1とした値である。図4から、ESD層12の成長温度を上げてピット径を小さくしすぎると、発光層14にかかる歪みの緩和が十分でなく相対光出力が低下し、また逆に成長温度を下げてピット径を大きくしすぎても、キャリアの閉じ込めが弱くなり相対光出力が低下してしまうことが見て取れる。したがって、実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子のように、ESD層12の成長温度は850〜920℃、ピット径にして110〜150nmとするのが望ましい範囲であると推測される。また、図4、5から障壁層のAl組成比を増加させると相対光出力も増加することがわかる。これは、Al組成比が高いほど発光層14内でのキャリアの閉じ込めが強化され、オーバーフローが低減されるためである。また、図5から、Al組成比3%のときにAl組成比0%の場合のおよそ1.1倍の光出力が得られ、障壁層のAl組成比は3〜7%とするのが望ましいと推測される。
【0036】
なお、本発明はn型層にピットを有し、n型層と発光層との界面におけるピット径が110〜150nmであること、および発光層の障壁層がAlGaNであること、に特徴を有するものであり、それ以外の構造については従来より知られている種々の構造を採用可能である。たとえば、基板として導電性の材料を用い、もしくはレーザーリフトオフなどによって基板を除去し、上下に電極を設けて縦方向に導通をとる構造の発光素子にも本発明は適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のIII 族窒化物半導体発光素子は、種々の光源として利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10:サファイア基板
11:n型コンタクト層
12:ESD層
13:n型クラッド層
14:発光層
15:p型クラッド層
16:p型コンタクト層
17:n電極
18:透明電極
19:p電極
20:ピット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型層、発光層、p型層が順に積層され、前記n型層にピットを有したIII 族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層と前記n型層との界面における前記ピットの直径は、110〜150nmであり、
前記発光層は、AlGaNからなる障壁層と、InGaNからなる井戸層とが繰り返し積層されたMQW構造である、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記障壁層のAl組成比は、3〜7%である、ことを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記n型層は、n型コンタクト層、ESD層、n型クラッド層が積層された構造であり、前記ピットはESD層から発生し、前記ピットを埋めずに前記n型クラッド層、前記発光層が形成されている、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
n型層、発光層、p型層が順に積層され、前記n型層にピットを有したIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、
前記ピットは、成長温度を850〜920℃として発生させ、
前記発光層は、AlGaNからなる障壁層と、InGaNからなる井戸層とを繰り返し積層して形成する、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−169383(P2012−169383A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27980(P2011−27980)
【出願日】平成23年2月11日(2011.2.11)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】