説明

III族窒化物半導体結晶の製造方法

【課題】GaN結晶の転位密度を減少させることが可能な、Naフラックス法によるGaN結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】種結晶18として、サファイア基板100と、サファイア基板100上に形成されたGaN層101と、によって構成されたテンプレート基板を用い、GaN層101上に15μm/h以上の成長速度でGaN結晶102を成長させた。インクルージョン103によって転位104の伝搬が阻止されるため、GaN結晶102の転位密度が減少する。次に、GaN結晶102上に7μm/h以下の成長速度でGaN結晶105を成長させた。GaN結晶105はステップフロー成長し、転位104はGaN結晶105中において曲げられるため、転位密度がさらに減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス法によって種結晶上にIII 族窒化物半導体結晶を製造する方法に関するものであり、転位の少ないIII 族窒化物半導体結晶を得ることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNなどのIII 族窒化物半導体結晶の製造方法として、いわゆるNaフラックス法が知られている。これは、Na(ナトリウム)とGa(ガリウム)との混合融液を約800℃、数十気圧下で窒素とを反応させて、GaNを結晶成長させる方法である。
【0003】
このNaフラックス法では、種結晶して、たとえば、サファイア基板上にHVPE法やMOCVD法などによってGaNを成長させたテンプレート基板や、GaN自立基板を用いる。
【0004】
Naフラックス法において、III 族窒化物半導体結晶の成長速度を制御する方法として、特許文献1に記載の方法がある。特許文献1には、窒素の流量によって成長速度を制御し、成長速度を一定に保つことで均質なGaN結晶を製造する方法が記載されている。しかし、成長速度を故意に変化させてGaN結晶を成長させることは記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−263169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Naフラックス法によってGaN結晶を製造する場合において、種結晶としてテンプレート基板などの転位密度の高いものを用いると、転位密度を大きく低減することが難しく、結晶性を向上させることが困難であった。
【0007】
そこで本発明の目的は、フラックス法によるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、III 族窒化物半導体結晶の転位密度を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、III 族金属とアルカリ金属とを少なくとも含む混合融液と、少なくとも窒素を含む気体とを反応させ、種結晶にIII 族窒化物半導体を結晶成長させるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、種結晶上に、成長速度を15μm/h以上としてインクルージョンを有するIII 族窒化物半導体結晶を成長させる第1工程と、第1工程の後、成長速度を15μm/hよりも遅くしてインクルージョンを有しないIII 族窒化物半導体結晶を成長させる第2工程と、を有することを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0009】
ここでIII 族窒化物半導体とは、一般式Alx Gay Inz N(x+y+z=1、0≦x、y、z≦1)で表される半導体であり、Al、Ga、Inの一部を他の第13族元素(第3B族元素)であるBやTlで置換したもの、Nの一部を他の第15族元素(第5B族元素)であるP、As、Sb、Biで置換したものをも含むものとする。より一般的には、Gaを少なくとも含むGaN、InGaN、AlGaN、AlGaInNを示す。
【0010】
III 族金属は、Ga、Al、Inのうち少なくとも1つであり、特にGaのみを用いてGaN結晶を製造するのが望ましい。
【0011】
アルカリ金属は、通常はNa(ナトリウム)を用いるが、K(カリウム)を用いてもよく、NaとKの混合物であってもよい。さらには、Li(リチウム)やアルカリ土類金属を混合してもよい。また、混合融液には、結晶成長させるIII 族窒化物半導体の伝導型、磁性などの物性の制御や、結晶成長の促進、雑晶の抑制、成長方向の制御、などの目的でドーパントを添加してもよい。たとえばC(炭素)を添加すると、雑晶の抑制や結晶成長促進の効果を得られる。また、n型ドーパントしてGe(ゲルマニウム)などを用いることができ、p型ドーパントとしてZn(亜鉛)などを用いることができる。
【0012】
また、窒素を含む気体とは、窒素分子や、アンモニア等の窒素を構成元素として含む化合物の気体であり、それらの混合ガスでもよく、さらには希ガス等の不活性ガスを含んでいてもよい。
【0013】
また、インクルージョンは、III 族窒化物半導体結晶の育成中に混合融液が取り込まれ、III 族窒化物半導体結晶中にその混合融液が残って包含されたものである。
【0014】
成長速度の制御は、温度、圧力、混合融液全体に対するIII 族金属のモル比、などによって制御することができる。
【0015】
第1工程においてIII 族窒化物半導体結晶中にインクルージョンを発生させるには、成長速度を15μm/h以上とすればよい。ただし、成長速度は30μm/h以下とするのがよい。これよりも速いと、インクルージョンの発生が多発し、結晶性が悪化しすぎてしまう。より望ましいのは、20〜30μm/hである。また、種結晶表面にあらかじめエッチングなどによって凹凸を設けておくことで、インクルージョンを発生しやすくしてもよい。
【0016】
第1工程において成長させるIII 族窒化物半導体結晶の厚さは、0.5mm以上とすることが望ましい。0.5mm以上とすれば、転位密度を十分に低減することができ、第2工程でのIII 族窒化物半導体結晶の成長において、ステップフロー成長を起こしやすくすることができる。よりステップフロー成長を起こしやすくするために、第1工程で成長させるIII 族窒化物半導体結晶表面の転位密度は、1×108 /cm2 以下となるようにすることが望ましい。ただし、第1工程において成長させるIII 族窒化物半導体結晶の厚さは2mm以下とすることが望ましい。これより厚くしても、第1工程による転位密度の低減効果が飽和してしまうためである。より望ましくは0.8〜1.5mmである。
【0017】
第2工程におけるIII 族窒化物半導体結晶の成長速度は、インクルージョンが発生しない成長速度であればよく、15μm/hより遅い速度であればよい。特に、7μm/h以下の成長速度とすることが望ましい。ステップフロー成長が発生しやすく、ステップフロー成長によって転位をIII 族窒化物半導体結晶の主面に平行な方向に曲げることができ、転位密度を低減することができる。より望ましくは1〜7μm/hである。
【0018】
種結晶は、III 族窒化物半導体自立基板であってもよいし、テンプレート基板であってもよい。テンプレート基板は、サファイア基板などの異種基板上にHVPE法やMOCVD法などによってIII 族窒化物半導体層を形成した基板である。特に本発明は、種結晶としてテンプレート基板を用いる場合に適している。本発明を用いることでテンプレート基板を用いた場合であっても転位密度を大きく低減することができる。
【0019】
第2の発明は、第1の発明において、第2工程は、7μm/h以下の成長速度でIII 族窒化物半導体結晶を成長させる工程である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0020】
第3の発明は、第2の発明において、第1工程は、混合融液全体に対するIII 族金属のモル比を18〜30%とすることで、III 族窒化物半導体結晶の成長速度を15μm/h以上とし、第2工程は、混合融液全体に対するIII 族金属のモル比を13%以下とすることで、III 族窒化物半導体結晶の成長速度を7μm/h以下とする、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0021】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、第1工程は、III 族窒化物半導体結晶を0.5mm以上成長させる工程である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0022】
第5の発明は、第4の発明において、第2工程は、III 族窒化物半導体結晶を0.4mm以上成長させる工程である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0023】
第6の発明は、第1の発明から第5の発明において、種結晶のIII 族窒化物半導体結晶を成長させる側の表面は、1×108 /cm2 以上の転位密度である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0024】
第7の発明は、第1の発明から第5の発明において、種結晶は、異種基板上にIII 族窒化物半導体層が形成されたテンプレート基板である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
第1の発明によれば、インクルージョンによって転位の伝搬を阻止することができるため、III 族窒化物半導体の転位密度を低減することができる。そして、その後にインクルージョンが発生しない成長速度でIII 族窒化物半導体結晶を成長させることで、転位密度が低く、かつインクルージョンを有しないIII 族窒化物半導体結晶を得ることができる。
【0026】
また、第2の発明のように、第2の工程で成長速度を7μm/h以下とすれば、III 族窒化物半導体結晶がステップフロー成長しやすくなる。そのため、III 族窒化物半導体結晶の転位密度をさらに低減することができる。
【0027】
また、第3の発明のように、III 族窒化物半導体結晶の成長速度は、混合融液全体に対するIII 族金属のモル比によって制御することができ、モル比を13%以下とすることで、混合融液の粘性が小さくなり、成長速度が7μm/h以下となるため、ステップフロー成長を起こすことができる。
【0028】
また、第4の発明のように、第1の工程においてIII 族窒化物半導体結晶を0.4mm以上の厚さに成長させれば、転位を十分に低減することができる。さらに、転位が十分に低減されたことでステップフロー成長が起こりやすくなるため、第2工程においてステップフロー成長による転位密度の低減の効果がより高まる。また、第5の発明のように、第1の工程で0.4mm以上成長させた後に第2工程で0.5mm以上成長させれば、転位をさらに低減することができる。
【0029】
また、第6の発明のように、本発明は1×108 /cm2 以上の高い転位密度を有した種結晶を用いる場合に特に有効である。このような転位密度の高い種結晶を用いた場合は、種結晶上にIII 族窒化物半導体を2次元成長させにくく、転位を主面に平行な方向に曲げて伝搬を阻止することが難しいため、転位密度を低減することが難しかったが、本発明によれば、転位密度が高い種結晶を用いた場合にも、III 族窒化物半導体結晶の転位密度を効果的に低減することができる。
【0030】
また、第7の発明のように、本発明は種結晶をテンプレート基板とする場合に有効である。テンプレート基板は転位密度が高く、成長速度を下げてもステップフロー成長が発生しにくいため、本発明を適用することで効果的に転位密度の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1のGaN結晶の製造に用いる製造放置1の構成を示した図。
【図2】実施例1のGaN結晶の製造工程を示した図。
【図3】実施例1のGaN結晶の製造工程を示した図。
【図4】インクルージョン103の発生機構を説明した図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
図1は、実施例1のGaN結晶の製造方法に用いる製造装置1の構成を示した図である。製造装置1は、圧力容器10と、反応容器11と、坩堝12と、加熱装置13と、供給管14、16と、排気管15、17と、によって構成されている。
【0034】
圧力容器10は、円筒形のステンレス製であり、耐圧性を有している。また、圧力容器10には、供給管16、排気管17が接続されている。圧力容器10の内部には、反応容器11と加熱装置13が配置されている。反応容器11は耐熱性を有している。反応容器11内には、坩堝12が配置される。坩堝12は、たとえばW(タングステン)、Mo(モリブデン)、BN(窒化ホウ素)、アルミナ、YAG(イットリウムアルミニウムガーネット)などである。坩堝12には、GaとNaを含む混合融液21が保持され、混合融液21中には種結晶18が保持される。反応容器11には、供給管14、排気管15が接続されており、供給管14、排気管15に設けられた弁(図示しない)により反応容器11内の換気、窒素の供給、反応容器11内の圧力の制御、を行う。また、圧力容器10にも供給管16より窒素が供給され、供給管16、排気管17の弁(図示しない)で窒素の供給量、排気量を調整することで、圧力容器10内の圧力と反応容器11内の圧力とがほぼ同じになるよう制御する。また、加熱装置13により、反応容器11内の温度を制御する。
【0035】
なお、反応容器11として耐圧性を有したものを使用すれば、必ずしも圧力容器10は必要ではない。また、坩堝12を回転あるいは揺動させて坩堝12中に保持される混合融液21を攪拌することができる装置を設け、GaN結晶の育成中に混合融液21を撹拌して混合融液21中のNa、Ga、窒素の濃度分布が均一となるようにするとよい。GaN結晶を均質に育成することができる。また、GaN結晶育成中のNaの蒸発を防止するために、坩堝12には蓋を設けてもよい。
【0036】
次に、製造装置1を用いたGaN結晶の製造方法について説明する。
【0037】
まず、種結晶18として、サファイア基板100上にHVPE法やMOCVD法によってGaN層101が形成されたテンプレート基板を用意する。GaN層101のGaN結晶を成長させる側の表面(サファイア基板100側とは反対側の表面)の転位密度は、1×109 〜1×1010/cm2 である。
【0038】
次に、この種結晶18を、坩堝12の底面に配置し、Na、Ga、Cを坩堝12内に配置し、その坩堝12を反応容器11の中に入れて封をし、さらにその反応容器11を圧力容器10内に配置して封をした。NaやGaは、固体の状態で坩堝12内に配置してもよいし、液体のNa、Gaをそれぞれ坩堝12内に入れたり、液体のNa、Gaを混合してから坩堝12内に入れてもよい。Na、Ga、Cを合わせた全体に対するGaのモル比は22%とした。Cは雑晶の発生を抑制し、結晶成長を促進するために添加した。次に、加熱装置13により加熱して坩堝12内にGaとNaの混合融液21を生じさせ、混合融液21の温度を870℃とした。また、供給管14、排気管15により反応容器11内に窒素を供給して、反応容器11内の圧力を4.2MPaとした。また、圧力容器10内にも供給管16、排気管17より窒素を供給して、圧力容器10内の圧力が反応容器11内の圧力と同程度となるようにした。種結晶18は、GaとNaの混合融液21中に保持される。この温度、圧力を60時間維持し、種結晶18のGaN層101上に厚さ1.2mmのGaN結晶102を成長させた。GaN結晶102の成長速度は20μm/hである。
【0039】
ここで、混合融液21全体に対するGaのモル比を22%として、GaN結晶102の成長速度を20μm/hに制御しているため、GaN結晶102の成長中、2次元核成長部の会合部やオーバーグロース部に混合融液21の一部が残る。その後GaN結晶102がさらに成長することで、残された混合融液21が結晶中に取り込まれ、GaN結晶102中にインクルージョン103が発生する(図4参照)。また、GaN結晶102中には、種結晶18のGaN層101から多数の転位104が伝搬する。しかし、その転位104の一部は、インクルージョン103によってその伝搬が阻止されて終端する(図2、図4参照)。その結果、GaN結晶102の転位密度は、その成長とともに減少していく。そして、厚さ1.2mmまで成長したGaN結晶102では、その表面の転位密度は1×108 /cm2 以下に低減されており、GaN層101表面の転位密度よりも1桁から2桁のオーダー低い転位密度となっている。
【0040】
上記のGaN結晶102を成長させる工程では、混合融液21全体に対するGaのモル比を22%とすることによってGaN結晶102の成長速度を20μm/hに制御しているが、GaN結晶102の成長速度は15μm/h以上とすればよく、GaN結晶102中にインクルージョン103を発生させることができる。GaN結晶102の成長速度を15μm/h以上とするには、混合融液21全体に対するGaのモル比を18%以上とすればよい。ただし、GaN結晶102の成長速度は30μm/h以下とするのがよい。これよりも成長速度が速いと、インクルージョン103が多数発生して結晶性を悪化させてしまい望ましくない。より望ましいGaN結晶102の成長速度は、20〜30μm/hである。GaN結晶102の成長速度がこの範囲となるためには、混合融液21全体に対するGaのモル比を18〜30%とすればよい。
【0041】
次に、加熱、加圧を停止して常温、常圧に戻し、GaN結晶102の結晶成長を終了させた後、坩堝12から種結晶18を取り出し、エタノールなどによってNaを除去した。また、坩堝12内の残留物も除去した。
【0042】
次に、再び種結晶18、Na、Ga、Cを坩堝12内に配置し、その坩堝12を反応容器11に入れて密封し、さらにその反応容器11を圧力容器10内に配置した。Na、Ga、C全体に対するGaのモル比は7%とした。そして、GaN結晶102の育成時と同様の温度、圧力として100時間維持し、GaN結晶102上に厚さ0.6mmのGaN結晶105を成長させた。GaN結晶105の成長速度は6μm/hである。
【0043】
ここで、混合融液21全体に対するGaのモル比を7%としており、混合融液21中のGa量が少ないため、混合融液21の粘性が小さく、横方向に成長しやすい条件となっていて、ステップフロー成長が起こりやすくなっている。ステップフロー成長とは、結晶表面のテラスからの結晶成長が少なく、ステップから横方向(結晶表面に水平な方向)に結晶が成長する結晶成長モードである。また、混合融液21中のGa量が少ないためにGaNの成長速度が6μm/hと遅くなっており、これもGaN結晶105がステップフロー成長しやすい条件となっている。さらに、前工程により成長させたGaN結晶102表面の転位密度を1×108 /cm2 以下としていることも、ステップフロー成長を発生させやすくする要因となっている。その結果、GaN結晶102上に成長するGaN結晶105は、ステップフロー成長が支配的な成長となる。このステップフロー成長によって、GaN結晶102から伝搬する転位104の大部分はGaN結晶105中において横方向(GaN結晶105の主面に水平な方向)に曲げられ、GaN結晶105の主面に垂直な方向への転位104の伝搬は阻害される(図3参照)。その結果、GaN結晶102上に育成されたGaN結晶105の表面は、GaN結晶102よりも転位密度が減少している。
【0044】
上記のGaN結晶105を成長させる工程では、混合融液21全体に対するGaのモル比を7%とすることによってGaN結晶100の成長速度を6μm/hとしているが、GaN結晶100のステップフロー成長が発生しやすくし、転位密度を低減するためには、GaN結晶105の成長速度を7μm/h以下とすればよく、このとき、混合融液21全体に対するGaのモル比は13%以下とすればよい。より望ましいGaN結晶105の成長速度は1〜7μm/hである。GaN結晶105の成長速度がこの範囲となるためには、混合融液21全体に対するGaのモル比を4〜13%とすればよい。また、上記工程では、GaN結晶105を厚さ0.6mm成長させているが、GaN結晶105の転位密度を十分に低減するためには0.4mm以上の厚さに成長させればよい。より望ましくは0.5〜1.5mmである。また、GaN結晶105がステップフロー成長しやすくなるよう、GaN結晶102の厚さを0.5mm以上とするのが望ましい。GaN結晶102表面の転位密度がより低減し、GaN結晶102上に形成するGaN結晶105の成長モードを、よりステップフロー成長が支配的な成長モードとすることができる。より望ましいGaN結晶102の厚さは0.8〜1.5mmである。
【0045】
なお、GaN結晶105を成長させた後、GaN結晶105上に、7μm/hより速く15μm/h以下の範囲の成長速度でさらにGaN結晶を成長させてもよい。成長速度がこの範囲であれば、インクルージョン103が発生せず、転位密度を増加させてしまうこともないので、より短時間で良質のGaN結晶を育成することができる。
【0046】
次に、加熱、加圧を停止して常温、常圧に戻し、GaN結晶105の結晶成長を終了させ、種結晶18および種結晶18上に成長したGaN結晶102、105を取り出し、付着したNaをエタノールなどによって除去する。そして、得られた結晶から種結晶18、およびインクルージョン103を含むGaN結晶102を研磨などによって除去した。これにより、インクルージョン103を含まず、かつ転位密度の低い良好な結晶性を有するGaN結晶105を得ることができた。
【0047】
この得られたGaN結晶105を種結晶として、再びNaフラックス法によってGaN結晶105上にGaN結晶を成長させてもよい。さらに良質なGaN結晶を得ることができる。
【0048】
以上に述べた実施例1のGaN結晶の製造方法によれば、転位密度の多いテンプレート基板を用いた場合であっても、転位密度がテンプレート基板のGaN層よりも大きく低減されたGaN結晶を製造することができる。
【実施例2】
【0049】
実施例1と同様に、サファイア基板100上にGaN層101が形成されたテンプレート基板を用い、製造装置1を用いてGaN層101上にGaN結晶を成長させた。混合融液中全体に対するGaのモル比、成長温度、成長圧力は、実施例1のGaN結晶102の成長時と同様であり、それぞれ22%、870℃、4.2MPaとした。成長速度は20μm/hであり、40時間成長させて0.8mmのGaN結晶を育成した。このとき、GaN結晶にはインクルージョンが発生し、実施例1のGaN結晶102と同様に転位密度が低減される。その後、成長温度は保持したまま圧力を2.3MPaに下げて、成長速度を7μm/hとし、これを60時間維持して厚さ約0.4mmのGaN結晶をさらに成長させた。成長速度を7μm/hとしているため、ステップフロー成長が支配的な成長となり、転位がGaN結晶主面に平行な方向に曲げられるため、転位密度をさらに低減することができる。
【0050】
以上に述べた実施例2のGaN結晶の製造方法もまた、実施例1のGaN結晶の製造方法と同様に、転位密度の多いテンプレート基板を用いた場合であっても、転位密度がテンプレート基板のGaN層よりも大きく低減されたGaN結晶を製造することができる。
【0051】
なお、実施例1では、混合融液全体に対するGaのモル比を変えることでGaNの成長速度を制御し、実施例2では圧力の制御によって成長速度を制御しているが、温度、圧力、混合融液全体に対するGaのモル比、のいずれか2以上を制御することでGaNの成長速度を制御してもよい。また、不純物を添加することで成長速度を制御してもよい。
【0052】
また、実施例1、2では、種結晶としてテンプレート基板を用いたが、GaN自立基板を用いてもよい。
【0053】
また、実施例1、2は、GaN結晶の製造方法であったが、本発明はGaN以外のIII 族窒化物半導体、たとえばAlGaN、InGaN、AlGaInNなどの製造にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により製造されるIII 族窒化物半導体結晶は、III 族窒化物半導体からなる電子デバイスの成長基板などに利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10:圧力容器
11:反応容器
12:坩堝
13:加熱装置
14、16:供給管
15、17:排気管
18:種結晶
100:サファイア基板
101:GaN層
102、105:GaN結晶
103:インクルージョン
104:転位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III 族金属とアルカリ金属とを少なくとも含む混合融液と、少なくとも窒素を含む気体とを反応させ、種結晶にIII 族窒化物半導体を結晶成長させるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、
前記種結晶上に、成長速度を15μm/h以上としてインクルージョンを有するIII 族窒化物半導体結晶を成長させる第1工程と、
前記第1工程の後、成長速度を15μm/hよりも遅くしてインクルージョンを有しないIII 族窒化物半導体結晶を成長させる第2工程と、
を有することを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程は、7μm/h以下の成長速度でIII 族窒化物半導体結晶を成長させる工程である、
ことを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程は、前記混合融液全体に対するIII 族金属のモル比を18〜30%とすることで、III 族窒化物半導体結晶の成長速度を15μm/h以上とし、
前記第2工程は、前記混合融液に前記III 族金属を供給し、前記混合融液全体に対するIII 族金属のモル比を13%以下とすることで、III 族窒化物半導体結晶の成長速度を7μm/h以下とする、
ことを特徴とする請求項2に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程は、III 族窒化物半導体結晶を0.5mm以上成長させる工程である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程は、III 族窒化物半導体結晶を0.4mm以上成長させる工程である、ことを特徴とする請求項4に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記種結晶のIII 族窒化物半導体結晶を成長させる側の表面は、1×108 /cm2 以上の転位密度である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記種結晶は、異種基板上にIII 族窒化物半導体層が形成されたテンプレート基板である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法によって製造したIII 族窒化物半導体結晶を種結晶として、III 族金属とアルカリ金属とを少なくとも含む混合融液と、少なくとも窒素を含む気体とを反応させ、前記種結晶上に再度III 族窒化物半導体結晶を成長させる、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−207677(P2011−207677A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77175(P2010−77175)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】