説明

III族窒化物結晶の成長方法

【課題】複数のAlNタイル基板を用いて主表面におけるピットの発生が少ない大型のIII族窒化物結晶を成長させるIII族窒化物結晶の成長方法を提供する。
【解決手段】本III族窒化物結晶の成長方法は、平面充填ができる三角形および凸四角形のいずれかの形状である主表面10mを有するAlNタイル基板10を複数準備する工程と、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点において互いに向かい合う頂点部の数が3以下であるように、複数のAlNタイル基板10を平面充填させて配置する工程と、配置された複数のAlNタイル基板10の主表面10m上にIII族窒化物結晶20を成長させる工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のAlNタイル基板の主表面上にIII族窒化物結晶を成長させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光デバイス、電子デバイスなどの半導体デバイスに好適に用いられるIII族窒化物結晶は、そのコストを低減する観点から、大型のものが求められている。
【0003】
ここで、自然界において大型のIII族窒化物結晶が存在しないため、下地基板として、III族窒化物結晶以外の化学式を有する基板を用いて、III族窒化物結晶を成長させる必要がある。たとえば、特開2000−349338号公報(以下、特許文献1という)には、下地基板であるIII族窒化物結晶以外の化学式を有する基板上に反りや割れを発生させずに厚いIII窒化物(GaN)結晶膜を成長させる方法が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている成長方法では、下地基板の主表面の面積を大きくすると、III族窒化物結晶と下地基板との間の結晶格子の不整合により、III族窒化物結晶内部の歪みが大きくなり、反りや割れが発生するため、大型のIII族窒化物結晶を成長させることが困難であった。
【0005】
そこで、特開2008−133151号公報(以下、特許文献2という)は、複数の種基板を種基板の側部側にずらして配置する配置工程と、HVPE法(ハイドライド気相成長法、以下同じ)により複数の種基板の各々の表面上にIII族窒化物結晶を成長させる成長工程とを備え、その成長工程において複数の種基板の各々の表面上に成長した結晶の各々が一体化するように成長させる結晶成長方法を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−349338号公報
【特許文献2】特開2008−133151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に提案されている結晶成長方法では、一体化して得られたIII族窒化物結晶は、その主表面にピットが多く発生するため、それから得られるIII族窒化物結晶基板の歩留まりが低下する問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するため、複数のAlNタイル基板を用いて主表面におけるピットの発生が少ない大型のIII族窒化物結晶を成長させるIII族窒化物結晶の成長方法を提供することを目的とする。このようなピットの発生が少ない大型のIII族窒化物結晶からは、大型のIII族窒化物結晶基板が歩留まりよく得られる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、平面充填ができる三角形および凸四角形のいずれかの形状である主表面を有するAlNタイル基板を複数準備する工程と、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において互いに向かい合う頂点部の数が3以下であるように、複数のAlNタイル基板を平面充填させて配置する工程と、配置された複数のAlNタイル基板の主表面上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、を備えるIII族窒化物結晶の成長方法である。
【0010】
本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法において、AlNタイル基板の主表面の形状は、平面充填ができる凸四角形とすることができる。また、上記のIII族窒化物結晶を成長させる工程において、昇華法により、1800℃以上2400℃以下でIII族窒化物結晶としてAlN結晶を成長させることができる。また、上記の複数のAlNタイル基板を平面充填させて配置する工程において、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離を10μm以上となるようにAlNタイル基板を配置することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数のAlNタイル基板を用いて主表面におけるピットの発生が少ない大型のIII族窒化物結晶を成長させるIII族窒化物結晶の成長方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法において、AlNタイル基板の準備工程および配置工程の一例を示す概略図である。ここで、(A)は配置されたAlNタイル基板の概略平面図であり、(B)は(A)のIB−IBにおける概略断面図である。
【図2】本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法において、III族窒化物結晶の成長工程を示す概略断面図である。
【図3】典型的なIII族窒化物結晶の成長方法におけるAlNタイル基板の配置の一例を示す概略平面図である。
【図4】本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法におけるAlNタイル基板の配置の一例を示す概略平面図である。
【図5】典型的なIII族窒化物結晶の成長方法におけるAlNタイル基板の配置の別の例を示す概略平面図である。
【図6】本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法におけるAlNタイル基板の配置の別の例を示す概略平面図である。
【図7】本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法において用いられる結晶成長方法の一例を示す概略断面図である。
【図8】III族窒化物結晶の成長方法において、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う二点の間の距離のうち最も短い距離とIII族窒化物結晶の主表面におけるピット発生率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1および図2を参照して、本発明の一実施形態であるIII族窒化物結晶の成長方法は、平面充填ができる三角形および凸四角形のいずれかの形状である主表面10mを有するAlNタイル基板10を複数準備する工程(図1)と、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおいて互いに向かい合う頂点部の数が3以下であるように、複数のAlNタイル基板10を平面充填させて配置する工程(図1)と、配置された複数のAlNタイル基板10の主表面10m上にIII族窒化物結晶20を成長させる工程(図2)と、を備える。本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法によれば、主表面20mに発生するピット20pが少ない大型のIII族窒化物結晶20が得られる。
【0014】
(AlNタイル基板の準備工程)
図1を参照して、本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法は、まず、平面充填ができる三角形および凸四角形のいずれかの形状である主表面10mを有するAlNタイル基板10を複数準備する工程(AlNタイル基板の準備工程)を備える。
【0015】
ここで、平面充填とは、平面内を一定形状のAlNタイル基板で稠密に敷き詰める操作をいう。AlNタイル基板10の主表面の形状は、平面充填ができる三角形および凸四角形のいずれかである。AlNタイル基板を容易に作製する観点から、AlNタイル基板10の主表面の形状は平面充填できる凸四角形であることが好ましい。ここで、凸四角形とは、4つの角が全て凸状になっている四角形、すなわち4つの角の内角がいずれも180°未満の四角形をいう。平面充填ができる三角形は、任意の三角形であれば足りるが、AlNタイル基板を容易に作製する観点から、正三角形、二等辺三角形、直角三角形などが好ましい。平面充填できる凸四角形は、平行四辺形であれば足りるが、AlNタイル基板を容易に作製する観点から、正方形、長方形、菱形などが好ましい。
【0016】
AlNタイル基板10の大きさは、特に制限はないが、AlNタイル基板のハンドリング性が高い観点から、AlNタイル基板10の主表面10mにおいて、最も短い辺の長さが10mm以上が好ましく、最も長い辺の長さが50mm以下が好ましい。AlNタイル基板10の厚さは、特に制限はないが、AlNタイル基板の機械的強度およびハンドリング性が高い観点から、100μm以上2000μm以下が好ましい。
【0017】
AlNタイル基板10は、その主表面10m上にIII族窒化物結晶20をエピタキシャル成長させることができる。AlNタイル基板を形成するAlN結晶は、III族窒化物結晶の1種であり、III族窒化物結晶の結晶構造である六方晶系のウルツ鉱型結晶構造を有しているため、III族窒化物結晶との結晶格子の整合性が高いからである。また、AlNタイル基板10は、III族窒化物結晶20として、特にAlN結晶を好適にエピタキシャル成長させることができる。AlN基板とAlN結晶とは、結晶構造のみならず格子定数も同じであるため、同じ結晶格子を有するからである。
【0018】
ここで、AlNタイル基板10は、特に制限はないが、たとえば、AlNバルク結晶を所定の結晶面で切り出し、その主表面10mおよび側表面10sを研磨またはエッチングなどの表面処理をすることにより準備される。ここで、側表面10sを上記の表面処理をしていないAlNタイル基板10であっても、主表面10mを上記の表面処理をしている限り、用いることも可能である。AlNタイル基板10の主表面10m上に結晶性の高いIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させる観点から、AlNタイル基板10は、その主表面10mおよび側表面10sは所定の面方位を有することが好ましい。AlNタイル基板10は六方晶系のウルツ鉱型構造の結晶構造を有するため、AlNタイル基板10の主表面10mは(0001)面、AlNタイル基板10の側表面10sは{1−100}面(M面)、{11−20}面(A面)、{31−40}面、ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な面(ここで、{31−40}面、ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な面は、いずれもM面とA面との間の面方位を有する面である。)の少なくともいずれかの面などが好ましい。
【0019】
また、配置された複数のAlNタイル基板の主表面上に一体化した結晶性の高いIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させる観点から、AlNタイル基板10は、その主表面10mの平均粗さRaは、20nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましく、その側表面10sの平均粗さRaは、20nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。ここで、平均粗さRaとは、JIS B0601:2001に規定される算術平均粗さRaをいい、具体的には、粗さ曲線からその平均線の方向に標準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から粗さ曲線までの距離(偏差の絶対値)を合計し標準長さで平均した値をいう。かかる平均粗さRaは、AFM(原子間力顕微鏡)により測定される。
【0020】
また、上記の複数のAlNタイル基板をより稠密に平面充填させる観点から、AlNタイル基板の寸法のばらつきに関して、頂点部の内角の平均値からのばらつきは、±1°以内が好ましく、±0.1°以内がより好ましく、一辺の長さの平均値からのばらつきは、±5μm以内が好ましく、±1μm以内がより好ましい。
【0021】
(AlNタイル基板の配置工程)
図1を参照して、本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法は、次いで、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおいて互いに向かい合う頂点部の数が3以下であるように、複数のAlNタイル基板10を平面充填させて配置する工程(AlNタイル基板の配置工程)を備える。このように、複数のAlNタイル基板10を配置することにより、図2に示すように、それらの主表面10m上に、主表面20mに発生するピット20pが少ない大型のIII族窒化物結晶が20を成長させることができる。
【0022】
図3を参照して、典型的なIII族窒化物結晶の成長方法においては、たとえば、主表面10mが正三角形である複数のAlNタイル基板10を、それらの頂点部が互いに向かい合うように平面充填させて配置する。すなわち、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点P(たとえば、点P31、点P32)において、互いに向かい合う頂点部の数は6である。このように配置された複数のAlNタイル基板10においてはAlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおける空隙部が大きくなるため、これらの複数のAlNタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生が多くなる。このため、かかるIII族窒化物結晶から得られるIII族窒化物結晶基板の歩留まりが低くなる。
【0023】
ここで、図3のような平面充填においては、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点Pのうち互いに隣り合う任意の二点(たとえば、点P31と点P32)間の距離Dは、主表面が正三角形であるAlNタイル基板10の一辺の長さSに隣り合うAlNタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eを加えた距離D0(D0=S+E)に相当する(すなわち、D=D0)。
【0024】
これに対して、図4を参照して、本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法においては、たとえば、主表面10mが正三角形である複数のAlNタイル基板10を、一部のAlNタイル基板の頂点部と他の一部のAlNタイル基板の頂点部とが向かい合わないようにずらして平面充填させて配置する。すなわち、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点P(たとえば、点P41、点P42、点P43、点P44)において、互いに向かい合う頂点部の数は3となる。したがって、このような平面充填をすることにより、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおいて互いに向かい合う頂点部の数を3以下とすることができる。このように配置された複数のAlNタイル基板10においては、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う点P(たとえば、点P41、点P42、点P43、点P44)の数は多くなるが、それらの点における空隙部が小さくなるため、これらの複数のAlNタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生が少なくなる。このため、かかるIII族窒化物結晶から得られるIII族窒化物結晶基板の歩留まりが高くなる。
【0025】
ここで、図4のような平面充填においては、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点Pのうち互いに隣り合うある二点の間の距離Dにおいて、たとえば、点P41と点P42との間の距離D41と、点P42と点P43との間の距離D42は、互いに異なる場合がある。主表面が正三角形であるAlNタイル基板10の一辺の長さSに隣り合うAlNタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eを加えたものに相当する距離D0と、上記距離D41と、上記距離D42との間には、D0=D41+D42の関係がある。
【0026】
また、複数のAlNタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生をより少なくする観点から、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離(図4においては、距離D41および距離D42)は、10μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、1000μm以上がさらに好ましい。
【0027】
また、複数のAlNタイル基板10上に一体化されたIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させ、さらに成長させるIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生を少なくする観点から、隣り合うAlNタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eは、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましく、理想的には0μmであることが望ましい。
【0028】
なお、図3および図4においては、AlNタイル基板10の主表面の形状が正三角形の場合について説明したが、AlNタイル基板の主表面の形状が、二等辺三角形、直角三角形、その他の任意の三角形の場合についても同様である。
【0029】
図5を参照して、典型的なIII族窒化物結晶の成長方法においては、たとえば、主表面10mが正方形である複数のAlNタイル基板10を、それらの頂点部が互いに向かい合うように平面充填させて配置する。すなわち、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点P(たとえば、点P51、点P52)において、互いに向かい合う頂点部の数は4である。このように配置された複数のAlNタイル基板10においてはAlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおける空隙部が大きくなるため、これらの複数のAlNタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生が多くなる。このため、かかるIII族窒化物結晶から得られるIII族窒化物結晶基板の歩留まりが低くなる。
【0030】
ここで、図5のような平面充填においては、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点Pのうち互いに隣り合う任意の二点(たとえば、点P51と点P52)間の距離Dは、主表面が正方形であるAlNタイル基板10の一辺の長さSに隣り合うAlNタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eを加えた距離D0(D0=S+E)に相当する(すなわち、D=D0)。
【0031】
これに対して、図6を参照して、本発明にかかるIII族窒化物結晶の成長方法においては、たとえば、主表面10mが正方形である複数のAlNタイル基板10を、一部のAlNタイル基板の頂点部と他の一部のAlNタイル基板の頂点部とが向かい合わないようにずらして平面充填させて配置する。すなわち、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点P(たとえば、点P61、点P62、点P63、点P64)において、互いに向かい合う頂点部の数は2となる。したがって、このような平面充填をすることにより、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う任意の点Pにおいて互いに向かい合う頂点部の数を3以下とすることができる。このように配置された複数のAlNタイル基板10においては、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う点P(たとえば、点P61、点P62、点P63、点P64)の数は多くなるが、それらの点における空隙部が小さくなるため、これらの複数のAlNタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生が少なくなる。このため、かかるIII族窒化物結晶から得られるIII族窒化物結晶基板の歩留まりが高くなる。
【0032】
ここで、図6のような平面充填においては、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点Pのうち互いに隣り合うある二点の間の距離Dにおいて、たとえば、点P61と点P62との間の距離D61と、点P62と点P63との間の距離D62は、互いに異なる場合がある。主表面が正方形であるAlNタイル基板10の一辺の長さSに隣り合うAlNタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eを加えたものに相当する距離D0と、上記距離D61と、上記距離D62との間には、D0=D61+D62の関係がある。
【0033】
また、複数のAlNタイル基板10上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生をより少なくする観点から、AlNタイル基板10の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離(図6においては、距離D61および距離D62)は、10μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、1000μm以上がさらに好ましい。
【0034】
また、複数のAlNタイル基板10上に一体化されたIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させ、さらに成長させるIII族窒化物結晶の主表面におけるピットの発生を少なくする観点から、隣り合うAlNタイル基板の互いに対向する側表面の間の距離Eは、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましく、理想的には0μmであることが望ましい。
【0035】
なお、図5および図6においては、AlNタイル基板10の主表面の形状が正方形の場合について説明したが、AlNタイル基板の主表面の形状が、長方形、菱形、その他の任意の平行四辺形の場合についても同様である。
【0036】
(III族窒化物結晶の成長工程)
図2を参照して、本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法は、次いで、配置された複数のAlNタイル基板10の主表面10m上にIII族窒化物結晶20を成長させる工程を備える。上記のような配置がされた複数のAlNタイル基板10の主表面10m上にIII族窒化物結晶20を成長させることにより、主表面20mにおけるピット20pの発生が少ない大型のIII族窒化物結晶20が得られる。このため、かかるIII族窒化物結晶から歩留まりよく大型のIII族窒化物結晶基板が得られる。
【0037】
ここで、III族窒化物結晶20を成長させる方法は、特に制限はないが、結晶性の高いIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させる観点から、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、MBE(分子線エピタキシ)法、昇華法などの気相法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などが、好適に用いられる。AlNタイル基板10上にIII族窒化物結晶20としてAlN結晶またはIII族元素としてAlを含むIII族窒化物結晶(たとえば、AlxInyGa1-x-yN結晶(x>0、y≧0、x+y≦1))を成長させる場合には、結晶品質および結晶成長速度が高い観点から、昇華法が好ましい。
【0038】
図7を参照して、昇華法によるIII族窒化物結晶20の成長方法を説明する。図7に示すように、昇華法により結晶成長させるための成長装置100は、坩堝101と、加熱体121と、反応容器123と、加熱部125とを主に備えている。坩堝101は、たとえばグラファイト製である。この坩堝101は、通気口101aを有している。この坩堝101の周りには、坩堝101の内部と外部との通気を確保するように加熱体121が設けられている。この加熱体121の周りには、反応容器123が設けられている。この反応容器123の外側中央部には、加熱体121を加熱するための高周波加熱コイルなどの加熱部125が設けられている。
【0039】
加熱体121および反応容器123の端部には、それぞれ、反応容器123内に配置された坩堝101へたとえば窒素ガスなどのキャリアガスを流すための導入口121a、123aと、反応容器123の外部へキャリアガスを排出するための排出口121b、123bとが設けられている。また、反応容器123の下部および上部には、坩堝101の下方および上方の温度を測定するための放射温度計127a、127bがそれぞれ設けられている。
【0040】
なお、上記成長装置100は、上記以外の様々な要素を含んでいてもよいが、説明の便宜上、これらの要素の図示および説明は省略する。
【0041】
まず、坩堝101の上部内面上に複数のAlNタイル基板10を平面充填させて配置する。AlNタイル基板10の平面充填は、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において互いに向かい合う頂点部の数が3以下であるように行ない、具体的には、上記のAlNタイル基板の配置工程において説明したとおりである。このとき、AlNタイル基板10の昇華を抑制するために、それらの裏主表面側にはたとえばグラファイト製の保護材が密着するように設置することが好ましい。
【0042】
次に、原料17を準備する。III族窒化物結晶20としてAlN結晶を成長させる場合には、原料17はたとえばAlN粉末などを用いる。この原料17を、Alタイル基板10と互いに向かい合うように、坩堝101の下部に設置する。
【0043】
次に、反応容器123内に窒素ガスを流しながら、加熱部125を用いて加熱体121を加熱することにより、坩堝101内の温度を上昇させる。そして、原料17が昇華する温度まで原料17を加熱する。この加熱により、原料17が昇華して昇華ガスを生成する。この昇華ガスを、原料17よりも低温に設置されているAlNタイル基板10の主表面10m上に再度固化させる。ここで、結晶品質および結晶成長速度が高い観点から、結晶成長温度(具体的にはAlNタイル基板およびAlNタイル基板上に成長したAlN結晶の温度)は1800℃以上2400℃以下が好ましい。また、結晶成長速度を高める観点から、原料17の温度は1700℃以上2300℃以下が好ましい。
【0044】
こうして、複数のタイル基板10の主表面10m上にIII族窒化物結晶20が一体化して成長して、主表面20mにピットの発生が少ない大型のIII族窒化物結晶20が得られる。ここで、上記の昇華法により、III族窒化物結晶としてAlN結晶を成長させる場合は、結晶成長温度として1800℃以上2400℃以下が好適である。
【0045】
ここで、典型的なIII族窒化物結晶の成長方法(すなわち、タイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において互いに向かい合う頂点部の数が4以上となるように平面充填された複数のタイル基板の主表面上にIII族位窒化物結晶を成長させる方法)でAlN結晶を成長させる場合においては、1800℃以上2400℃以下の結晶成長温度で主表面に発生するピットの発生率が高くなるという問題点があった。
【0046】
これに対して、本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法(すなわち、タイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において互いに向かい合う頂点部の数が3以下になるように平面充填された複数のタイル基板の主表面上にIII族窒化物結晶を成長させる方法)でAlN 結晶を成長させる場合においては、1800℃以上2400℃以下の結晶成長温度においても、主表面に発生するピットの発生率を低く抑制することができる。かかる観点から、昇華法によりIII族窒化物結晶(たとえばAlN結晶)を成長させる場合、結晶成長温度が1800℃以上2400℃以下のときに、本実施形態のIII族窒化物結晶の成長方法の有用性が高い。
【実施例】
【0047】
(実施例A)
1.AlNタイル基板の準備
AlN母結晶をその(0001)面に平行な面でワイヤソーにより切り出して複数のウエハを形成し、これらのウエハを{31−40}面に平行な方向ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な方向の二次元方向に切り出して、それらの切り出し面をCMP(化学機械的研磨)により研磨することにより、主表面の面方位が(0001)面で、主表面の面方位のずれ角が(0001)面から0.1°以内であり、側表面の面方位が{31−40}面ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な面のいずれかであり、側表面の面方位のずれ角が{31−40}面ならびに{31−40}面および{0001}面の両面に垂直な面のいずれかから0.1°以内であり、主表面および側表面における各頂点部の内角が90°±0.1°であり、一辺の長さが2mm±1μmで厚さが400μm±1μmである正方形板状のAlNタイル基板が多数得られた。かかるAlNタイル基板の主表面および側表面の平均粗さRaは、いずれも5nm以下であった。
【0048】
2.AlNタイル基板の配置
図1を参照して、上記のようにして得られたAlNタイル基板を、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離D(具体的には、距離D11、距離D12など)のうち最も短い距離D11が、1μm±1μm以内(例A−1)、10μm±1μm(例A−2)、100μm±1μm(例A−3)、1000μm±1μm(例A−4)の4種類のパターンで、<31−40>方向に10枚、<31−40>方向および<0001>方向の両方向に垂直な方向に10枚、合計100枚を平面充填させて配置した。隣り合うAlNタイル基板において互いに隣り合う側表面の間の距離は、2μm以下であった。
【0049】
主表面が一辺2mm±1μmの正方形であるAlNタイル基板を100枚平面充填させて得られた一辺がほぼ20mmの正方形状の主表面を有する基板の中には、直径15mmの円Cが含まれていた。
【0050】
ここで、例A−1の場合は、点P1と点P2、点P3と点P4、点P5と点P6、点P7と点P8、点P9と点P10、点P11と点P12、点P13と点P14、点P15と点P16、および点P17と点P18が、それぞれ実質的に一致する場合であり、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数は81であり、これらの各点において互いに向かい合う頂点部の数が4である典型的な配置の例である。また、例A−2、例A−3および例A−4の場合は、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数は162であり、これらの各点において互いに向かい合う頂点部の数が2である本発明の配置の例である。
【0051】
3.III族窒化物結晶の成長
上記の例A−1〜例A−4のそれぞれにおいて、平面充填させた100枚のAlNタイル基板の主表面上に、昇華法によりAlN結晶を成長させた。結晶成長条件は、N2ガス分圧が85kPa、結晶成長温度が2220℃であった。かかる条件で、50時間結晶成長させることにより、いずれの例においても、約20mm×約20mm×厚さ1mmの一体化したAlN結晶が得られた。それぞれの例において、得られたAlN結晶の主表面に発生したピットの数を確認した。具体的には、波長365nmの水銀ランプを光源として顕微鏡にて蛍光像を観察し、ピットを形成するファセットの成長痕の数を数えることによりピットの数を確認した。かかるピットの数を、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数で割ることにより、ピット発生率(%)を算出した。例A−1〜A−4における、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う点の数、ピットの数およびピット発生率を表1にまとめた。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示された実施例AにおけるAlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離のうち最も短い距離とピット発生率との関係を図8に図示した。
【0054】
表1および図8を参照して、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離のうち最も短い距離が1μm±1μm(このとき、二点は実質的に一致し、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において向かい合う頂点部の数は4)のときは、GaN結晶(III族窒化物基板)の主表面におけるピット発生率は高いのに対し、上記の距離が10μm±1μm、100μm±1μm、および1000μm±1μm(いずれの距離においても、AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において向かい合う頂点部の数は2)のときは上記のピット発生率が低くなり、上記の距離が10μm±1μm、100μm±1μm、および1000μm±1μmと大きくなる程、上記のピット発生率が低下することがわかった。
【0055】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
10 AlNタイル基板、10m,20m 主表面、10s 側表面、17 原料、20 III族窒化物結晶、20p ピット、100 成長装置、101 坩堝、101a 通気口、121 加熱体、121a,123a 導入口、121b,123b 排出口、123 反応容器、125 加熱部、127a,127b 放射温度計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面充填ができる三角形および凸四角形のいずれかの形状である主表面を有するAlNタイル基板を複数準備する工程と、
前記AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う任意の点において互いに向かい合う前記頂点部の数が3以下であるように、複数の前記AlNタイル基板を平面充填させて配置する工程と、
配置された複数の前記AlNタイル基板の前記主表面上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、を備えるIII族窒化物結晶の成長方法。
【請求項2】
前記AlNタイル基板の前記主表面の形状は、平面充填ができる凸四角形である請求項1に記載のIII族窒化物結晶の成長方法。
【請求項3】
前記III族窒化物結晶を成長させる工程において、昇華法により、1800℃以上2400℃以下で前記III族窒化物結晶としてAlN結晶を成長させる請求項1または請求項2に記載のIII族窒化物結晶の成長方法。
【請求項4】
複数の前記AlNタイル基板を平面充填させて配置する工程において、前記AlNタイル基板の頂点部が互いに向かい合う複数の点のうち互いに隣り合う任意の二点の間の距離が10μm以上となるように前記AlNタイル基板を配置する請求項1から請求項3のいずれかに記載のIII族窒化物結晶の成長方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−87029(P2013−87029A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230690(P2011−230690)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】