説明

NMPの蒸留装置

【課題】リチウムイオン二次電池の電極製造工程などから回収される使用済みのNMPを再生する蒸留装置であって、原料中の水分濃度や処理量の変動に拘わらず、簡単かつ安全に精製でき、オンサイトでの自動運転に適したNMPの蒸留装置を提供する。
【解決手段】NMPの蒸留装置は、被処理液である使用済みのNMPを蒸留して高濃度NMPと軽沸成分含有の水とに分離する第1の蒸留塔1と、第1の蒸留塔1の缶出液を更に蒸留して高純度NMPと高沸成分含有の高濃度NMPとに分離する第2の蒸留塔2とを備えており、更に、自動処理機能として、第1及び第2の蒸留塔1,2において減圧運転、循環運転を行って定常状態に調整して連続処理運転を開始するスタートアップ機能と、連続処理運転において原料タンク41又は製品タンク42の液面に応じて、再び循環運転に切り替える運転モード切替機能とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NMPの蒸留装置に関するものであり、詳しくは、リチウムイオン二次電池の電極製造工程などから回収される使用済みのNMP(N−メチル−2−ピロリドン)をリサイクルするためにオンサイトで精製可能なNMPの蒸留装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の製造においては、リチウム化合物などの活物質、ポリフッ化ビニリデン等のバインダー及び溶媒としてのN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記する。)から成る電極材料を基材にコーティングし、これを焼成して電極を作成する。焼成工程においてガスとして発生するNMPは、吸着法あるいは水吸収法により回収され、輸送時の安全上の問題から予め濃度80%以下の水溶液に調製された後、再度、高純度製品に精製するために化学工場へ輸送される。なお、化学工場においては、最初の製造時と同様に、回収されたNMPを公知の蒸留法によって純度99.9%以上に精製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−279401号公報
【特許文献2】特開平6−263725号公報
【特許文献3】特開平8−27105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、NMPのリサイクルは、上記の様に、輸送コストと共に濃度調節などのための前処理を必要とするため、上記の電池の製造などにおいては、負担軽減の観点から、オンサイトでの精製が望まれる。しかしながら、NMPの蒸留精製は、高度に熟練した技術が要求されるため、化学工場以外の場所では馴染み難いと言う実情がある。すなわち、電池の製造工程から回収されるNMPには、水およびNMPの各沸点の中間に沸点がある軽沸成分やNMP由来の高沸成分が含まれているため、2段階の精密な蒸留操作が必要であり、しかも、季節変動や製造プロセスの変動によりNMP中の水分量(NMP濃度)が変動し、処理量も変動するため、定常運転が難しいと言う問題がある。
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、リチウムイオン二次電池の電極製造工程などから回収される使用済みのNMPを再生するための蒸留装置であって、原料中の水分濃度や処理量の変動に拘わらず、簡単かつ安全にNMPを精製でき、オンサイトでの自動運転に適したNMPの蒸留装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては、2塔式を採用し、第1の蒸留塔において原料NMPから軽沸成分が含まれる水を除去して高濃度NMPを精製し、更に第2の蒸留塔において高濃度NMPから高沸成分を除去して高純度NMPを精製する。そして、自動処理機能として、連続処理運転を開始する際、蒸留塔を定常状態に調整するための減圧運転、循環運転を順次に行って連続処理運転を開始するスタートアップ機能と、連続処理運転の際、原料タンク及び製品タンクの液面に応じて再び循環運転に切り替える運転モード切替機能とを付加することにより、処理量や原料中の水分量の変動に対応して、簡単かつ安全に稼働できる様にした。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、軽沸成分および高沸成分を不純物として含有する使用済みのNMPを精製するNMPの蒸留装置であって、被処理液として使用済みのNMPを貯蔵する原料タンクと、原料タンクから供給された被処理液を蒸留し、缶出液・留出液として、濃度99%以上の高濃度NMPと軽沸成分含有の水とに分離する第1の蒸留塔と、第1の蒸留塔の缶出液を更に蒸留し、留出液・缶出液として、濃度99.9%以上の高純度NMPと高沸成分含有の高濃度NMPとに分離する第2の蒸留塔と、第2の蒸留塔の留出液として得られた高純度NMPを貯蔵する製品タンクとを備え、自動処理機能として、予め、第1及び第2の蒸留塔においてそれぞれ減圧運転を行った後、原料タンクの被処理液を第1の蒸留塔へ供給し且つ第2の蒸留塔の留出液を原料タンクへ戻す循環運転を行って各蒸留塔を定常状態に調整し、次いで、連続処理運転を開始するスタートアップ機能と、連続処理運転において原料タンクの液面が所定高さまで低下した場合または製品タンクの液面が所定高さまで上昇した場合、再び循環運転に切り替える運転モード切替機能とを備えていることを特徴とするNMPの蒸留装置に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1の蒸留塔において軽沸成分が含まれる水を除去して高濃度NMPを精製し、更に第2の蒸留塔において高沸成分を除去して高純度NMPを精製すると共に、自動処理機能として、第1及び第2の蒸留塔において減圧運転、循環運転を順次に行って連続処理運転を開始するスタートアップ機能と、連続処理運転の際に循環運転に切り替える運転モード切替機能とを備えているため、高度な熟練技術を必要とすることなく、自動運転により、簡単かつ安全にオンサイトでNMPを精製できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るNMPの蒸留装置の主要部の構成例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るNMPの蒸留装置(以下、「蒸留装置」と言う。)の一実施形態を説明する。本発明において、「NMP」とは、N−メチル−2−ピロリドン及びこれを主成分とする水溶液を言う。また、被処理液である使用済みのNMP(以下、「原料NMP」と言う。)に含まれる不純物としては、水およびNMPの各沸点の中間に沸点がある蟻酸などの軽沸成分、ならびに、 -ブチルラクトン(GBL)、n-メチルスクシンイミド等のNMP由来の高沸成分が挙げられる。
【0011】
本発明の蒸留装置は、軽沸成分および高沸成分を不純物として含有する原料NMPを精製する自動運転可能な2塔式の装置であり、図1に示す様に、概略、被処理液として原料NMPを貯蔵する原料タンク41と、当該原料タンクから供給された被処理液を蒸留し、缶出液・留出液として、濃度99%以上の高濃度NMPと軽沸成分含有の水とに分離する第1の蒸留塔1と、当該第1の蒸留塔の缶出液を更に蒸留し、留出液・缶出液として、濃度99.9%以上の高純度NMPと高沸成分含有の高濃度NMPとに分離する第2の蒸留塔2と、当該第2の蒸留塔で留出液として得られた高純度NMPを一旦回収し且つ分析用の試料を採取する第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32と、これらチェックドラムに回収された高純度NMPを貯蔵する製品タンク42と、第2の蒸留塔2の缶出液として得られた高沸成分含有の高濃度NMP(廃液)を貯蔵する廃液タンク43とを備えている。
【0012】
原料タンク41は、例えばリチウムイオン二次電池の電極製造工程から排出される例えば濃度95%以下、通常は濃度70〜90%程度の原料NMPを貯蔵する容器であり、連続して効率的に蒸留処理を行うために設けられる。原料タンク41には、電極製造工程などから原料NMPを当該原料タンクへ送り込む流路と共に、原料NMPを被処理液として第1の蒸留塔1へ供給する原料供給用の流路90が接続される。符号61は原料供給ポンプを示し、符号74は流量調整弁を示す。
【0013】
第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2は、供給された原料NMPを蒸留精製するための蒸留塔であり、第1の蒸留塔1は、原料NMPを精製し、軽沸成分および水が除去された高濃度NMPを得るために設けられ、第2の蒸留塔2は、高濃度NMPを更に精製し、高沸成分が除去された高純度NMPを得るために設けられる。第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2は、従来周知の蒸留塔、すなわち、不規則または規則充填物が空塔内に装填された充填塔、多孔板トレイ等の気液接触用のトレイ(棚段)が空塔内に多数設置された棚段塔などによって構成される。
【0014】
第1の蒸留塔1は、処理すべき原料NMPが上記の流路90を通じて塔中段部に供給される様になされている。そして、第1の蒸留塔1の塔底部には、原料NMPを加熱蒸発させるため、リボイラー67を含む炊上げ機構が付設される。斯かる炊上げ機構は、第1の蒸留塔1の塔底部の原料NMPを炊き上げる機構であり、原料NMPを水蒸気などの熱媒体との熱交換により加熱蒸発させるリボイラー67と、塔底部から原料NMPを抜き出してリボイラー67に供給し且つ当該リボイラーで蒸気化されたNMPを再び塔底部に戻す塔底液循環用の流路91とから成る。
【0015】
リボイラー67としては、複数の伝熱管によって多数の流路が構成された多管式熱交換器などが使用できる。そして、流路91のリボイラー67よりも上流側には、第1の蒸留塔1の塔底部を循環する塔底液の一部、すなわち、第1の蒸留塔1で濃縮された高濃度NMPを缶出液として第2の蒸留塔2へ供給する流路93が流路91から分岐して設けられる。
【0016】
また、第1の蒸留塔1の塔頂部には、分離された水蒸気を凝縮する凝縮器が設けられる。凝縮器としては、通常、多数の流路を構成する複数の伝熱管または伝熱板に冷媒が流れ且つ凝縮性蒸気(蒸留分離された蒸気)を通すことにより斯かる凝縮性蒸気を液化する多管式、スパイラル式、プレート式、二重管式などの凝縮器が使用される。冷却凝縮器の底部には、不純物の軽沸成分を含有する凝縮水を留出液として系外に排出する流路92が設けられる。流路92には、留出液の流量を制御するための流量調整弁75及び排出弁76が配置される。更に、流路92には、後述する循環運転の際に第1の蒸留塔1の留出液を原料タンク41へ戻すための流路100が分岐して設けられる。また、塔頂には、第1の蒸留塔1の塔内を減圧し、また、不活性ガスを供給するため、後述する流路80が接続されている。
【0017】
一方、第2の蒸留塔2は、第1の蒸留塔1で蒸留分離された高濃度NMPが上記の流路93によって塔底部に供給される様になされている。第2の蒸留塔2の塔底部には、高濃度NMPを更に加熱蒸発させるため、リボイラー68を含む炊上げ機構が付設される。斯かる炊上げ機構は、第1の蒸留塔1におけるのと同様の炊き上げる機構であり、高濃度NMPを加熱蒸発させるリボイラー68と、塔底部から高濃度NMPを抜き出してリボイラー68に供給し且つ当該リボイラーで蒸気化されたNMPを再び塔底部に戻す塔底液循環用の流路94とから成る。
【0018】
リボイラー68としては、前述のリボイラー67と同様のものが使用される。そして、リボイラー68よりも上流側には、第2の蒸留塔2の塔底部を循環する高濃度NMPの一部、すなわち、第2の蒸留塔2に残留し且つ不純物の高沸成分を含んだ塔底液を缶出液として抜き出す流路96が上記の流路94から分岐して設けられる。そして、流路96の下流側には、抜き出された高濃度NMPを冷却するための廃液クーラー35と、冷却された高濃度NMPを廃液タンク43に送液する流路97と、廃液タンク43に一旦貯蔵された廃液である高濃度NMPを通じて適宜系外に取り出すための流路98が設けられる。なお、符号78は缶出液の流量を制御する流量調整弁を示し、符号64は廃液排出用のポンプを示す。
【0019】
また、第2の蒸留塔2の塔頂には、分離された高純度NMPを凝縮する凝縮器が設けられる。斯かる凝縮器としては、前述の第1の蒸留塔1におけるのと同様のものが使用される。上記の凝縮器の底部には、凝縮した高純度NMPを留出液として取り出す流路95が付設され、流路95は、第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32に接続される。符号77は、留出液の流量を制御する流量調整弁77を示す。上記の第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32は、第2の蒸留塔2で得られた高純度NMPの純度を分析し、製品としての可否を判別するために設けられる。図示しないが、第1のチェックドラム31と第2のチェックドラム32は、これらの間で上記の流路95に介装された切替弁により、交互に高純度NMPを受け入れる様になされている。
【0020】
なお、第2の蒸留塔2の塔頂には、当該第2の蒸留塔の塔内を減圧し、また、不活性ガスを供給するため、後述する流路82が接続されている。更に、第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32には、容器内を減圧し、また、不活性ガスを供給するため、後述する流路83,84が接続されている。
【0021】
また、精製された高純度NMPを取り出すため、上記の第1のチェックドラム31には流路86が接続され、第2のチェックドラム32には流路87接続されており、これら流路86,87は、製品抜出しポンプ62及び流路88を介して製品タンク42に接続される。図示しないが、流路86と流路87には、各々、開閉弁が付設されており、第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32から製品タンク42へ高純度NMPを切り替えて送り出す様になされている。更に、流路88には、後述する循環運転の際に第2の蒸留塔2から留出した第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32内の高純度NMPを原料タンク41へ戻すための流路100が分岐して設けられる。製品タンク42は、高純度NMPを貯留する容器であり、必要に応じて高純度NMPを例えば電池の製造工程に製品供給ポンプ63及び流路89を通じて供給される様になされている。
【0022】
本発明の蒸留装置においては、通常の蒸留と同様に、減圧条件下で蒸留操作を行うため、系内を真空引きする減圧ラインが付設され、また、酸素の混入を防ぐと共に系内の圧力を調整するため、系内に窒素ガスを供給する不活性ガスラインが付設される。
【0023】
具体的には、第1の蒸留塔1の塔頂には、窒素ガス供給設備から伸長され且つ圧力調整弁71が介装された流路80が接続され、第2の蒸留塔2の塔頂には、前記の流路80の圧力調整弁71よりも下流側から分岐して設けられ且つ圧力調整弁72が介装された流路82が接続される。流路82は、第2の蒸留塔2の塔頂部分において分岐され、更に前述の流路83,84がとして分岐されて第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32に接続される。更に、流路82の先端は、系内を真空引きするための真空ポンプ34に繋ぎ込まれる。流路85は、真空ポンプ34の排気用の流路である。また、窒素供給用の流路80の圧力調整弁71よりも上流側には、第2の蒸留塔2、第1のチェックドラム31および第2のチェックドラム32へ窒素を供給するための流路81が分岐して設けられる。流路81には、圧力調整弁73が介装され、その先端は、上記の流路82の圧力調整弁72よりも下流側に繋ぎ込まれる。
【0024】
本発明の蒸留装置では、第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2における蒸留操作を制御し、後述する自動処理機能を発揮させるため、第1の蒸留塔1の例えば塔底側の下部充填層には温度計51が付設され、第1の蒸留塔1の塔底部には液面計52が付設される。また、第2の蒸留塔2の塔底部には温度計53及び液面計(図示省略)が付設される。そして、蒸留プログラムが搭載された制御装置により、予め設定された処理条件および上記の温度や液面の検出機器からの検出信号に基づき、炊上げ機構の作動、各流路の開閉、切替、流量調整などを制御する様に構成される。
【0025】
本発明の蒸留装置は、上記の制御装置による自動処理機能として、減圧運転、循環運転を順次に行って定常状態に調整した後に連続処理運転を開始するスタートアップ機能、連続処理運転から循環運転に切り替える運転モード切替機能、および、自動停止機能を発揮する様に構成される。以下、本発明の蒸留装置の運転方法ならびにNMPの精製方法と共に、上記の自動処理機能について説明する。
【0026】
[減圧運転]
制御盤からの運転開始操作により、先ず、減圧運転として、真空ポンプ34を稼働させ、流路80,82,83,84を通じて第1の蒸留塔1、第2の蒸留塔2、第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32を所定圧力まで減圧する。その際、系内を例えば100Torr以下まで一旦真空引きした後、窒素ガス供給設備から流路80及び流路81を通じて第1の蒸留塔1、第2の蒸留塔2、第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32へ微量の窒素ガスを供給し、これら機器内の圧力を一定圧力に保持する。
【0027】
上記の減圧運転では、各機器内の温度上昇によって副生物が発生するのを防止するため、例えば、第1の蒸留塔1の圧力は、圧力調整弁71及び72の制御により100Torrに設定し、第2の蒸留塔2、第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32の圧力は、圧力調整弁73の制御により100Torr以下に設定する。なお、第1の蒸留塔1は、第2の蒸留塔2よりも更に減圧された状態に保持されるが、圧力調整弁72により第1の蒸留塔1内のガス吸引量を制御することにより、1台の真空ポンプ34による運転が可能である。
【0028】
[循環運転]
減圧運転の後は、直ちに蒸留処理は行わずに、第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2に予め収容したメイキャップ液を使用して全還流運転を行い、系内を安定化させる。これにより、第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2をそれぞれ定常状態に調整し、次の連続処理運転へ円滑に移行することが出来る。
【0029】
具体的には、先ず、第1の蒸留塔1のリボイラー67にスチームを供給し、炊上げ機構を稼働させて加熱を開始する。スチーム流量は、例えば40分程度かけて設計流量まで徐々に増やす。その後、温度計51により下部充填層の温度を検出してカスケード制御を行い、下部充填層の温度を例えば130〜140℃に維持する。そして、下部充填層(回収部)の温度を検出してリボイラー67のスチーム流量をカスケード制御することにより、第1の蒸留塔1への原料NMPの供給量の変動および原料NMPの濃度の変動、すなわち、水分量の変動に対応させて最適な加熱を行うことが出来る。
【0030】
ところで、第1の蒸留塔1の下部充填層(回収部)においては、NMPと水の沸点差が大きいため、温度勾配が大きくなる。そして、斯かる位置を温度計51の検出位置として選定した場合には、応答が速すぎて下部充填層における温度の変動幅およびスチーム流量の変動幅が共に大きくなる。そこで、温度計51の温度検出位置(付設位置)は、応答がある程度鈍いNMP成分の温度を検出する位置に設定することにより、上記の変動幅を小さくする。その結果、原料MNPの組成の顕著な変化にも対応でき、また、塔底部のNMP中の水分濃度および塔頂部の水中のNMP濃度を共に低下させ、分離効率を向上させることが出来る。すなわち、本発明においては、循環運転(全還流運転)により定常状態とする際、第1の蒸留塔においては、回収部の温度がNMPの沸点に相当する温度となる様に、リボイラーのスチーム流量を制御可能に構成される。
【0031】
次いで、第2の蒸留塔2のリボイラー68にスチームを供給し、炊上げ機構を稼働させて加熱を開始する。スチーム流量は、例えば40分程度かけて設計流量まで徐々に増やす。その後、温度計53により下部充填層の温度を検出して、第2の蒸留塔2の塔底部および下部充填層の温度を例えば100〜130℃に維持し、上部充填層の温度を例えば100〜130℃に維持する。
【0032】
引き続いて、第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2を稼働させた状態において、原料NMPを連続供給し、第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2の缶出液を原料タンク41へ戻す循環操作を行い、予め設定された自動運転データの設定値の微調整を行う。これにより、系内を最適な運転条件に調整することが出来る。
【0033】
具体的には、先ず、原料NMPの連続供給を開始する。原料NMPの供給では、第1の蒸留塔1への急激な供給により運転が乱れない様に、流量調整弁74の開度を徐々に上げ、例えば90分かけて設計流量にする。一方、第1の蒸留塔1において連続留出を開始する。その際、流量調整弁75の開度を約15分かけて徐々に所定流量にすることにより、還流比の急激な変化による塔内の乱れを抑制する。第1の蒸留塔1の還流比は還流分配機構により所定の割合に分配される。第1の蒸留塔1の留出液は、流路100を通じて原料タンク41へ戻す。また、第1の蒸留塔1において缶出を開始する。その際、液面計52で塔底液の液面を検出し、抜出量を調整することにより、塔底部における液面制御を行う。
【0034】
次いで、第2の蒸留塔2において連続留出を開始する。その際、流量調整弁77の開度を約15分かけて徐々に所定流量にすることにより、還流比の急激な変化による塔内の乱れを抑制する。第2の蒸留塔2の還流比は還流分配機構により所定の割合に分配される。そして、第2の蒸留塔2の留出液は、原料中のNMP濃度を一定にし、系内の濃度分布を一定に保つため、流路99を通じて原料タンク41へ戻す。また、第2の蒸留塔2において缶出を開始する。その際、第2の蒸留塔2への供給流量に基づいて流量調整弁78を比率制御し、流路96を通じて缶出液として供給流量の10%程度を過酸化物の濃縮を抑制するために廃液として抜き出す。
【0035】
更に、第2の蒸留塔2においては、塔底部の液面計(図示省略)を利用して炊き上げ機構のリボイラー68のスチーム量を調整し、留出量を制御する。 斯かる制御により、第2の蒸留塔2への供給量の変動によって規格外の留出液が塔頂部から取り出される危険性を低減できる。上記の様に、循環運転により運転条件を最適な条件に調整する。そして、第2の蒸留塔2の留出液の送液先を原料タンク41から例えば第1のチェックドラム31に切り替え、連続処理運転を開始する。
【0036】
すなわち、本発明の蒸留装置においては、自動処理機能として、予め、第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2においてそれぞれ循環運転を行い、原料タンク41の原料NMP(被処理液)を第1の蒸留塔1へ供給し且つ第2の蒸留塔2の留出液を原料タンク41へ戻すことにより、各蒸留塔を定常状態に調整し、次いで、連続処理運転を開始するスタートアップ機能を備えている。斯かる機能により、供給される原料NMPの組成に完全に適応した定常状態に系内を調整でき、円滑に連続処理運転に移行できる。
【0037】
[連続処理運転]
連続処理運転においては、第1の蒸留塔1の留出液(低沸成分含有の水)は流路92を通じて系外に排出し、第1の蒸留塔1の缶出液(高濃度NMP)は流路93を通じて第2の蒸留塔2に供給する。また、第2の蒸留塔2の留出液(高純度NMP)は流路95を通じて第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32に一旦貯蔵し、第2の蒸留塔2の缶出液(高沸成分含有の高濃度NMP)は流路96、廃液クーラー35、流路97を介して廃液タンク43に貯蔵する。
【0038】
第2の蒸留塔2の留出液として取り出される高純度NMPは、第1のチェックドラム31と第2のチェックドラム32に対して交互に切り替えて貯蔵される。その際の第1のチェックドラム31と第2のチェックドラム32の切替えは、これらチェックドラム間の流路95に介装された切替弁(図示省略)を各チェックドラム31,32に付設された液面計(図示省略)に基いて制御することにより自動で行う。
【0039】
例えば、第1のチェックドラム31に一定量(例えば容器の内容積の80%相当量)の高純度NMPが貯液された際、流路95からの高純度NMPの送液を第2のチェックドラム32に切り替えると共に、流路86の開閉弁(図示省略)を開き、製品抜出しポンプ62を起動してミニマムフロー運転を行い、第1のチェックドラム31内のNMPの濃度を均一にする。そして、次の第2のチェックドラム32が満液になる前に、第1のチェックドラム31の高純度NMP(製品)の純度を分析し、純度が所期の規格に適合している場合には流路88を介して製品タンク42へ高純度NMPを移送する。また、第2のチェックドラム32に貯液した場合も同様に、一定量の高純度NMPが貯液された際、流路95において切替操作を行うと共に、流路87の開閉弁(図示省略)を開き、製品抜出しポンプ62によりミニマムフロー運転を行ってNMP濃度を均一化し、そして、次の第1のチェックドラム31が満液になる前に高純度NMP(製品)の純度を分析し、純度が所期の規格に適合している場合には製品タンク42へ高純度NMPを移送する。
【0040】
なお、高純度NMPの純度分析は、各チェックドラム31及び32から試料採取流路(図示省略)を通じて高純度NMPの一部を採取し、ガスクロマトグラフィーを使用して行う。簡易的には、カールフィッシャー水分濃度計を使用し、水分濃度からNMP純度を逆算することも出来る。また、純度が所定の規格に達していない場合には、流路99を通じて各チェックドラム31及び32のNMPを原料タンク41へ戻す。他方、廃液タンク43に貯蔵された廃液(高沸成分含有の高濃度NMP)は、適宜、廃液排出ポンプ64及び流路98を介して系外のドラム缶またはローリー車へ排出される。
【0041】
[運転切替]
また、連続処理運転においては、電極の製造プロセスの変動により処理量や原料NMP中の水分量が変動し、原料タンク41の原料NMPの貯蔵量や、製品タンク42の製品量(高純度NMPの貯蔵量)が変化する場合がある。そこで、連続処理運転において原料タンク41の原料NMPの貯蔵量が減少した場合、または、製品タンク42の高純度NMPの貯蔵量が増加した場合には、運転を停止せずに、待機運転として、再び前述の循環運転へ移行させる。
【0042】
すなわち、本発明の蒸留装置においては、自動処理機能として、連続処理運転において原料タンク41の液面が所定高さまで低下した場合または製品タンク42の液面が所定高さまで上昇した場合、再び循環運転に切り替える運転モード切替機能を備えている。原料タンク41の液面高さ(下限高さ)は、当該タンクの内容積の例えば20%相当量に対応する高さに予め設定され、製品タンク42の液面高さ(上限高さ)は、当該タンクの内容積の例えば90%相当量に対応する高さに予め設定される。
【0043】
更に、上記の運転モード切替機能は、第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32の液面を検出して運転を切り替える様になされていてもよい。すなわち、好ましい態様において、運転モード切替機能は、連続処理運転において上記の様に原料タンク41の液面が所定高さまで低下した場合、製品タンク42の液面が所定高さまで上昇した場合、または、第1のチェックドラム31若しくは第2のチェックドラム32の液面が所定高さまで上昇した場合、再び循環運転に切り替える様になされている。
【0044】
上記の様に連続処理運転中に循環運転へ移行した後は、前述した様に、第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2の各運転条件を自動で調整できる。そして、原料タンク41、製品タンク42、第1のチェックドラム31及び第2のチェックドラム32の液面が許容範囲にあるか否かを判別し、許容範囲にある場合には、再び自動連続処理運転に移行する。本発明においては、運転モード切替機能により、原料NMPの処理量や原料NMP中の水分量の変動に対応でき、安全に且つ安定して高純度のNMPを精製することが出来る。
【0045】
[運転停止]
上記の様な連続処理運転において、制御盤からの運転停止操作を行った場合、または、異常発生の検出によりインターロックが作動した場合(緊急停止の場合)には、予め設定されたプログラムに基づき、以下の手順に従って装置が自動停止する。すなわち、装置の運転停止では、先ず、第1の蒸留塔1の炊上げ機構のリボイラー67へのスチームの供給を停止し、かつ、第2の蒸留塔2の炊上げ機構のリボイラー68へのスチームの供給を停止する。これにより、第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2において、それぞれ留出液、缶出液の抜出しを停止させる。次いで、原料供給ポンプ61、製品抜出しポンプ62及び真空ポンプ34を含む全てのポンプを停止させた後、真空ブレイクを行う。すなわち、系内を窒素により略大気圧まで昇圧する。
【0046】
すなわち、本発明の蒸留装置においては、自動処理機能として、運転停止操作または緊急停止操作により、第1及び第2の蒸留塔におけるリボイラーの稼働、原料タンクからの被処理液の供給、ならびに、第1及び第2の蒸留塔からの留出液・缶出液の抜出しを停止し、第1及び第2の蒸留塔に不活性ガスを供給してこれらの塔内圧力を均等にする自動停止機能を備えている。本発明においては、上記の様な自動停止機能を備えていることにより、第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2の塔内組成を運転停止時の状態に保持することが出来、再度、運転を行う際、各塔内の組成が乱れず、一層円滑に起動が可能である。
【0047】
上記の様に、本発明の蒸留装置においては、第1の蒸留塔1において軽沸成分が含まれる水を除去して高濃度NMPを精製し、更に第2の蒸留塔2において高沸成分を除去して高純度NMPを精製すると共に、自動処理機能として、第1及び第2の蒸留塔1,2において減圧運転、循環運転を順次に行って定常状態に調整した後に連続処理運転を開始するスタートアップ機能、ならびに、連続処理運転の際に原料タンク41及び製品タンク42の各液面を検出し、原料NMPの供給量や原料NMP中の水分量の変動に対応して循環運転に切り替える運転モード切替機能を備えているため、高度な熟練技術を必要とすることなく、自動運転により、簡単かつ安全にオンサイトでNMPを精製することが出来る。なお、本発明の蒸留装置においては、図中に鎖線の枠内に示す第1の蒸留塔1及び第2の蒸留塔2ならびにこれらの付属機器を除き、原料タンク41、製品タンク42、廃液タンク43及びこれらに付随する機器類は、従来使用されていたものを使用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 :第1の蒸留塔
2 :第2の蒸留塔
31:第1のチェックドラム
32:第2のチェックドラム
34:真空ポンプ
41:原料タンク
42:製品タンク
43:廃液タンク
51:温度計
52:液面計
53:温度計
61:原料供給ポンプ
62:製品抜出しポンプ
67:リボイラー
68:リボイラー
71〜73:圧力調整弁
74〜78:流量調整弁
76:排出弁
80〜98:流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽沸成分および高沸成分を不純物として含有する使用済みのNMPを精製するNMPの蒸留装置であって、被処理液として使用済みのNMPを貯蔵する原料タンクと、原料タンクから供給された被処理液を蒸留し、缶出液・留出液として、濃度99%以上の高濃度NMPと軽沸成分含有の水とに分離する第1の蒸留塔と、第1の蒸留塔の缶出液を更に蒸留し、留出液・缶出液として、濃度99.9%以上の高純度NMPと高沸成分含有の高濃度NMPとに分離する第2の蒸留塔と、第2の蒸留塔の留出液として得られた高純度NMPを貯蔵する製品タンクとを備え、自動処理機能として、予め、第1及び第2の蒸留塔においてそれぞれ減圧運転を行った後、原料タンクの被処理液を第1の蒸留塔へ供給し且つ第2の蒸留塔の留出液を原料タンクへ戻す循環運転を行って各蒸留塔を定常状態に調整し、次いで、連続処理運転を開始するスタートアップ機能と、連続処理運転において原料タンクの液面が所定高さまで低下した場合または製品タンクの液面が所定高さまで上昇した場合、再び循環運転に切り替える運転モード切替機能とを備えていることを特徴とするNMPの蒸留装置。
【請求項2】
蒸留装置は、第2の蒸留塔で留出液として得られた高純度NMPを回収するチェックドラムを備え、運転モード切替機能は、連続処理運転において原料タンクの液面が所定高さまで低下した場合、製品タンクの液面が所定高さまで上昇した場合、または、チェックドラムの液面が所定高さまで上昇した場合、再び循環運転に切り替える様になされている請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項3】
第1の蒸留塔は、原料タンクからの被処理液の供給量に応じてリボイラーのスチーム流量を制御可能に構成されている請求項1又は2に記載の蒸留装置。
【請求項4】
第1の蒸留塔は、回収部の温度がNMPの沸点に相当する温度となる様に、リボイラーのスチーム流量を制御可能に構成されている請求項1〜3の何れかに記載の蒸留装置。
【請求項5】
自動処理機能として、運転停止操作または緊急停止操作により、第1及び第2の蒸留塔におけるリボイラーの稼働、原料タンクからの被処理液の供給、ならびに、第1及び第2の蒸留塔からの留出液・缶出液の抜出しを停止し、第1及び第2の蒸留塔に不活性ガスを供給してこれらの塔内圧力を均等にする自動停止機能を備えている請求項1〜4の何れかに記載の蒸留装置。
【請求項6】
自動停止機能においては、第1及び第2の蒸留塔の塔内圧力を均等にする際、低圧側の蒸留塔の塔内圧力を高圧側に揃えた後、両方の蒸留塔の塔内圧力を常圧まで昇圧する様になされている請求項5に記載の蒸留装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−56484(P2011−56484A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212426(P2009−212426)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】