説明

NaS電池の処理方法

【課題】廃棄されたNaS電池を、大量に効率良く処理することができるNaS電池の処理方法を提供する。
【解決手段】正極容器の内部に固体電解質管が装入され、正極容器と固体電解質管との間の空間に硫黄が充填され、固体電解質管内にナトリウムが充填された構造のNaS電池を処分するNaS電池の処理方法であって、NaS電池を金属製錬炉に投入し、ナトリウム成分を、金属製錬工程で生成するスラグの中に吸収して無害化するとともに、硫黄成分を、金属製錬工程で生成する硫酸又は石膏の中に回収することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みのNaS電池を廃棄処分するためのNaS電池の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電力貯蔵用システムとして、ナトリウムと硫黄との反応を利用したNaS電池の開発が進められている。
このNaS電池は、例えばアルミニウム等からなる正極容器の内部に、β―アルミナ固体電解質管が装入されており、正極容器とβ―アルミナ固体電解質管との間の空間に硫黄が充填され、β―アルミナ固体電解質管内にナトリウムが充填された構造とされている。そして、固体電解質を介してナトリウムと硫黄とが可逆反応することにより、充電と放電とが繰り返し行われる構成とされている。なお、正極容器及びβ―アルミナ固体電解質管は、取扱いを簡便にするために、通常、ステンレス等からなる外装容器内に収容されている。
【0003】
ところで、このNaS電池は、充電と放電とを繰り返すことにより劣化していくことから、その使用寿命は10年程度とされており、使用寿命を経過した使用済みのNaS電池を適切に処理する必要がある。
そこで、例えば特許文献1−3には、使用済みのNaS電池を処理するための各種技術が開示されている。
【0004】
特許文献1には、NaS電池の口部を切断して加熱油槽内に浸漬し、内部から溶融ナトリウムを流下させて回収する方法が開示されている
特許文献2には、使用済みのNaS電池を解体して、溶融ナトリウムをパラフィン槽内に取り出す方法及び解体が容易な構造のNaS電池が提案されている。
特許文献3には、使用済みNaS電池の電極キャップを切断した上で正極容器や固体電解質管を破壊し、これを過剰空気下で焼却する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−088029号公報
【特許文献2】特開平10−144362号公報
【特許文献3】特開平06−060915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、NaS電池の実用化が進み、数多くのNaS電池が使用されるようになってきている。ここで、NaS電池の使用寿命は、前述のように10年程度とされていることから、将来、大量のNaS電池が廃棄処分されることが予想される。よって、NaS電池の廃棄処理を効率的に行うことが求められている。
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載された処理方法では、NaS電池を一つずつ解体して、内部から金属ナトリウムを回収していることから、大量のNaS電池を処理することは困難であった。
また、金属ナトリウムが酸素に触れると酸化反応によって発熱することから、溶融ナトリウムの取り出しを、溶融パラフィン等に浸漬した状態で行う必要があった。さらに、ナトリウムを取り出した後に硫黄を回収することになるが、硫黄は酸化によってSOガスとなるため、取扱いが困難となる。このように、取扱いが困難なナトリウムや硫黄を個別に取り出すことから、これらに対応する設備や工程を設ける必要があり、NaS電池の処理を効率良く行うことができなかった。
【0008】
また、特許文献3に記載された処理方法では、使用済みNaS電池を過剰空気下で焼却することにより、ナトリウムと硫黄とを反応させて同時に取り出すことから、前述のように金属ナトリウムを直接取り扱うことはない。しかしながら、ナトリウムや硫黄を外部へと流下させるために、NaS電池の電極キャップを切断したり、正極容器及び固体電解質管を破壊したりすることから、切断時や破壊時に金属ナトリウムが、焼却炉の外で漏れ出してしまうおそれがあった。また、焼却炉内に流出するナトリウム及び硫黄の存在比率によっては、NaSO等の中性物質に変換することができないおそれがあった。さらに、正極容器や固体電解質管等のナトリウムや硫黄以外の物質は、焼却灰として残存することになるため、この焼却灰をさらに処理する必要があった。
【0009】
このように、特許文献1−3に記載された処理方法では、NaS電池を効率的に処理することができなかった。すなわち、従来、NaS電池を工業的に処理する方法は確立されていなかったのである。
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、廃棄されたNaS電池を、大量に効率良く処理することができるNaS電池の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明に係るNaS電池の処理方法は、ナトリウムと硫黄とを含有するNaS電池を処分するNaS電池の処理方法であって、前記NaS電池を金属製錬炉に投入し、ナトリウム成分を、金属製錬工程で生成するスラグの中に吸収して無害化するとともに、硫黄成分を、金属製錬工程で生成する硫酸又は石膏の中に回収することを特徴としている。
【0011】
この構成のNaS電池の処理方法においては、NaS電池を金属製錬炉に投入することによって、ナトリウムや硫黄を回収する構成とされている。すなわち、NaS電池を金属製錬炉に投入すると、NaS電池の外装容器、正極容器及び固体電解質管が溶融し、内部に充填されたナトリウムや硫黄が金属製錬炉に流出することになる。ここで、金属製錬炉内は酸化雰囲気とされていることから、ナトリウムは酸化され、金属製錬工程で生成するスラグの中に吸収されて無害化されることになる。また、硫黄についても酸化によってSOガス等になり、金属製錬工程において生成する硫酸又は石膏の中に回収されることになる。よって、NaS電池を解体してナトリウムや硫黄を個別に取り出す必要がなく、効率的にNaS電池を処理することができる。
【0012】
また、NaS電池を金属製錬炉に投入していることから、金属ナトリウムを取り扱う必要がなく、かつ、金属製錬設備に附属している硫酸回収機構等を利用して硫黄成分を回収することができるので、複雑な設備を新たに導入する必要がなく、確実にNaS電池を処理することができる。
さらに、単にナトリウムと硫黄とを反応させるのではなく、金属製錬炉内の反応を利用していることから、ナトリウムと硫黄との存在比率が安定していなくても、ナトリウム及び硫黄を確実に処理することができる。
また、外装容器、正極容器及び固体電解質管といった部材についても、前述のように、金属製錬炉で溶融されるため、金属製錬炉内で生成するスラグなどに回収されることになり、焼却灰等の廃棄物が発生しない。
【0013】
ここで、前記金属製錬炉が銅製錬炉であり、前記金属製錬工程が銅製錬工程であることが好ましい。
銅製錬工程では、銅製錬炉で発生したスラグを回収する手段、及び、硫黄成分を回収する手段(硫酸工場)を備えていることから、これら既存を設備を利用することでNaS電池の処理を効率的に行うことが可能となる。
【0014】
また、前記銅製錬炉は、内部の熔体を外部へと排出する熔体排出口と、上方から垂下されたランス列と、を備えており、前記NaS電池は、前記ランス列よりも前記熔体排出口から離間した位置に投入されることが好ましい。
この場合、ランス列によって前記銅製錬炉内の熔体に空気が吹き込まれるため、熔体の流動によって炉内に投入されたNaS電池が熔体排出口から離間する方向に向けて移動することになり、炉内の滞留時間が確保される。よって、銅製錬炉内においてNaS電池を確実に溶融することができる。
【0015】
また、前記銅製錬炉は、連続製銅設備の溶錬炉であることが好ましい。
この場合、前記銅製錬炉が連続製銅設備の溶錬炉であることから、NaS電池を連続的に投入して処理しても、ナトリウム等をスラグの中に吸収することができ、このスラグが連続的に処理されることから、NaS電池の処理効率を大幅に向上することができる。また、既存の連続製銅設備の溶錬炉にNaS電池を投入することで、この連続製銅設備に附属するスラグ処理機構や硫酸回収機構を利用してナトリウムや硫黄を回収することができる。
【0016】
さらに、前記金属製錬炉に投入する前に、前記NaS電池に対して穴明け加工を行うことが好ましい。
NaS電池の正極容器や電極キャップに予め穴明け加工を行うことで、高温の金属製錬炉内にNaS電池を投入した際に、正極容器や固体電解質管の内部圧力が異常に上昇することを防止することができる。また、予め穴明け加工を行うことで、β―アルミナ固体電解質管内のナトリウムに熔体が速やかに接触し、ナトリウムの酸化吸収を促進することができる。
【0017】
また、前記金属製錬炉に投入する前に、前記NaS電池に対して切断加工を行うことが好ましい。
例えば、NaS電池の外装容器や正極容器の肉厚が厚い場合や溶融し難い材料で構成されていた場合等には、外装容器や正極容器に予め切断加工をしておくことで、正極容器の内容物の溶融を促進することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、廃棄されたNaS電池を、大量に効率良く処理することができるNaS電池の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】NaS電池の一例を示す断面説明図である。
【図2】本発明の実施形態であるNaS電池の処理方法において使用される連続製銅設備の概略説明図である。
【図3】本発明の実施形態であるNaS電池の処理方法において使用される溶錬炉の概略説明図である。
【図4】図3に示す溶錬炉の上面図である。
【図5】本発明の実施形態であるNaS電池の処理方法において使用されるNaS電池の前処理装置の概略説明図である。
【図6】本発明の実施形態であるNaS電池の処理方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照にして説明する。
まず、図1を参照して、本発明の実施形態において処理されるNaS電池50の一般的な構造について説明する。
【0021】
このNaS電池50は、正極容器53と、この正極容器53内に収容された固体電解質管55と、これら正極容器53と固体電解質管55を収容する外装容器51と、を備えている。ここで、外装容器51(すなわちNaS電池の外形)は、例えば直径90mm、長さ520mmの円筒状に形成されている。
正極容器53の上部には、径方向内方に向けて突出した支持部54が形成されており、この支持部54の上に、環状絶縁部材57が配置されており、この環状絶縁部材57は、正極容器53の内周面と固体電解質管55の外周面との間に嵌着された構成とされている。この環状絶縁部材57の上には、電極キャップ59が配設されている。
【0022】
そして、固体電解質管55の内部には、ナトリウム65が充填されている。また、正極容器53と固体電解質管55との間の空間には、グラファイトフェルトに硫黄を含浸させた硫黄電極67が配設されている。
また、正極容器53の上端には、正極端子61が接続されており、固体電解質管55には、負極端子62が挿入されている。
【0023】
ここで、正極容器53はアルミニウムで構成されており、外装容器51はニッケルを含有するステンレス鋼で構成されている。また、固体電解質管55は、β―アルミナで構成されている。さらに、環状絶縁部材57は、α―アルミナで構成されており、電極キャップ59は、アルミニウム等で構成されている。さらに、正極端子61及び負極端子62は、アルミニウム等で構成されている。
【0024】
このNaS電池50では、固体電解質管55の内部に充填されたナトリウム(Na)と、固体電解質管55の外側に配置された硫黄(S)とが、β―アルミナからなる固体電解質管55を介して反応することによって、充電及び放電が行われる構成とされている。
すなわち、2Na+XS→Na(放電)、Na→2Na+XS(充電)の可逆反応によって、充電及び放電が繰り返し行われるのである。ここで、反応によって生成する多硫化ナトリウム(Na)は、前述の硫黄電極67内に存在することになる。
【0025】
次に、本実施形態であるNaS電池の処理方法に用いられる銅製錬炉について図2から図4を用いて説明する
この銅製錬炉は、図2に示す連続製銅設備1において上流側(図2において左側)に設けられた溶錬炉10である。
【0026】
この連続製銅設備1は、原料である銅精鉱を加熱溶融してマットMとスラグSgとを有する熔体を生成する溶錬炉10と、この溶錬炉10で生成されたマットMとスラグSgとを分離する分離炉3と、この分離炉3で分離されたマットMをさらに酸化して粗銅CとスラグSgとを生成する製銅炉4と、この製銅炉3で生成された粗銅Cを精製して、より品位の高い銅を生成する精製炉5とを有する。これら溶錬炉10、分離炉3、製銅炉4、精製炉5は、樋6A、6B、6Cで連結されており、熔体が重力の作用によって溶錬炉10、分離炉3、製銅炉4、精製炉5の順に移動させられるように、この順に高低差をつけて設けられている。
【0027】
ここで、溶錬炉10及び製銅炉4には、銅精鉱、酸素富化空気、溶剤、冷剤等を炉内に供給するための複数の管からなるランス15、7が、これらの炉の天井を挿通して昇降自在に設けられており、また、炉内から発生するガスを排出するための排出口がこれらの炉の天井部に設けられており、この排出口にボイラー18、8が接続されている。
分離炉3は、溶錬炉10から送り込まれた熔体中のマットMとスラグSgとを比重差を利用して分離するものであって、比重の大きいマットMの層の上に比重の小さいスラグSgの層が形成されるようになっている。この分離炉3には、複数の電極9が下端をスラグ中に浸漬させた状態にして挿通されている。分離炉3では、これら電極9にトランスから三相交流を入力してジュール熱を発生させることで熔体の保温を行っている。
【0028】
この連続製銅設備1で銅を製錬するには、乾燥した銅精鉱とフラックス(硅砂、石灰等)とを酸素富化空気と共に溶錬炉10の熔体中にランス15で吹き込む。溶錬炉10では、原料の溶解と酸化反応が進行し、主成分が硫化銅及び硫化鉄の混合物からなるマットMと、銅精鉱中の脈石、溶剤、酸化鉄等からなるスラグSgが生成される。このマットMとスラグSgは樋6Aにより分離炉3に送られ、ここで比重差により下層のマットMと上層のスラグSgとに分離される。
分離炉2において分離されたスラグSgは、別途回収されることになる。また、溶錬炉10等で生成したSOガス等の含硫ガスは、図示しない硫酸工場へと移送され、硫酸又は石膏(CaS0)として回収される。
【0029】
一方、分離炉3で分離されたマットMは樋6Bを介して製銅炉4に送られる。製銅炉4では、さらに空気と共にフラックスを吹き込んでマットM中の硫黄と鉄分を酸化し、純度98.5%以上の粗銅Cを得る。製銅炉4において連続的に生成された粗銅Cは、樋6Cを介して精製炉5に注入される。また、このプロセスにおいて、製銅炉4における酸化の工程では、銅の一部も酸化してスラグSaの中に取り込まれてしまう。つまり、製銅炉スラグSaには酸化鉄と共にかなりの量の酸化銅(14〜16%)が含まれる。このため、通常のプロセスでは、製銅炉スラグSaを水砕により固体粉末化し、乾燥後、溶錬炉10に回送して、原料鉱石と共に再び溶解させて銅の回収を図っている。
【0030】
次に、NaS電池50が投入される溶錬炉10について、図3及び図4を参照して説明する。この溶錬炉10は、炉本体11と、この炉本体11から熔体を排出する熔体排出口13と、ランス15が複数配列されたランス列16と、炉本体11内部から発生する排ガスを回収するアップテーク17及びボイラー18と、NaS電池を投入する投入装置20と、を備えている。
【0031】
投入装置20は、NaS電池50を搬送する搬送部21と、NaS電池50に対して前処理を施す前処理装置22と、前処理されたNaS電池50を溶錬炉10内に投入する投入シュート29と、を備えている。ここで、投入シュート29は、NaS電池50がランス列16よりも熔体排出口13から離間した位置に投入されるように配設されている。具体的には、熔体排出口13に対してランス列16を挟んで反対側に配置されたアップテーク17の近傍に、NaS電池50が投入されるように構成されているのである。
【0032】
前処理装置22は、図5に示すように、外部から区画された加工室23を有しており、この加工室23の内部に、NaS電池50を保持する保持部材24と、NaS電池50の外装容器51等に対して切断加工を行う切断機25と、NaS電池50の外装容器51等に対して穴明け加工を行う穴明け機26と、が配設されている。そして、加工室23の後段側に、投入シュート29が接続されている。
この加工室内23は、除湿した窒素ガス等の不活性ガスが導入されて非酸化性雰囲気とされており、切断加工及び穴明け加工を非酸化性雰囲気で実施可能な構成とされている。
また、この加工室23内にNaS電池50が連続して装入され、加工後のNaS電池50が投入シュート29へと連続的に排出されるように構成されている。
【0033】
次に、この溶錬炉10を用いたNaS電池の処理方法について、図6のフロー図を参照して説明する。
使用済みのNaS電池50は、搬送部21によって前処理装置22へと搬送され、この前処理装置22において、切断機25及び穴明け機26を用いて外装容器51及び正極容器53に切断加工、電極キャップ59に穴明け加工が施される(前処理工程S1)。なお、切断機25によって、外装容器51及び正極容器53の外周部分に切れ込みを複数形成してもよい。
【0034】
切断加工及び穴明け加工が施されたNaS電池50は、投入シュート29を介して溶錬炉10内に投入される(投入工程S2)。この投入工程S2では、前述のように、熔体排出口13に対してランス列16を挟んで反対側に配置されたアップテーク17の近傍に、NaS電池50が投入されることになる。
溶錬炉10内に投入されたNaS電池50は、例えば1220〜1240℃とされた高温の熔体中に浸漬されて溶融する(溶融工程S3)。これにより、NaS電池50の外装容器51、正極容器53、固体電解質管55が溶融し、内部に充填されていたナトリウム(Na)や硫黄(S)も溶錬炉10内に流出することになる。
【0035】
ここで、溶錬炉10内に流出したナトリウム(Na)は、溶錬炉10内の酸素によって酸化されて、溶錬炉10内において発生するスラグSgの中に吸収される。
また、溶錬炉10内に流出した硫黄(S)は、溶錬炉10内の酸素によって酸化されてSOガス等になり、硫化銅や硫化鉄等から発生した含硫ガスとともに、アップテーク17及びボイラー18を介して回収され、図示しない硫酸工場へと移送される。
さらに、硫黄電極67に存在する多硫化ナトリウム(Na)は、ナトリウム分と硫黄分とに分解して、ナトリウム分がスラグSg中に吸収され、硫黄分がSOガス等になって回収される。
【0036】
また、ステンレスからなる外装容器51は、ニッケル分が粗硫酸ニッケルとして回収され、他の成分は酸化してスラグSgに吸収される。
アルミニウムからなる正極容器53、電極キャップ59、正極端子61及び負極端子62についても、酸化してスラグSgに吸収されることになる。
アルミナからなる固体電解質管55及び環状絶縁部材57は、そのままスラグSgに吸収される。
さらに、硫黄電極67を構成するグラファイトフェルトは、溶錬炉10内で燃焼し、排ガスとしてアップテーク17及びボイラー18を介して排出される。
【0037】
溶錬炉10で発生したスラグSgは、熔体排出口13を介してマットMとともに分離炉3へと移送される。そして、前述のように、スラグSgは、分離炉3にてマットMから分離されて回収される。このスラグSgは、溶融したスラグSgを水流中に落下させることによって急冷凝固させ、粒径約2mmの水砕スラグとし、セメント原料、サンドブラスト材、コンクリート用細骨材等として再利用される。
また、SOガスとして硫酸工場に移送された硫黄成分は、硫酸及び石膏として回収される。
こうして、NaS電池を構成するすべての部材が処理されることになる。
【0038】
このような構成とされた本実施形態であるNaS電池の処理方法によれば、NaS電池50を連続製銅設備1の溶錬炉10に投入することによって、ナトリウム(Na)や硫黄(S)を回収する構成とされているので、NaS電池50を解体してナトリウムや硫黄を個別に取り出す必要がなく、また、取扱いが困難な金属ナトリウムを取り扱う必要がないため、効率的にNaS電池50を処理することができる。
また、硫黄が酸化することによってSOガスが発生するが、連続製銅設備1においては恒常的にSOガスが発生するので、連続製銅設備1に設けられた既存の硫酸工場を利用することで、硫黄分を硫酸や石膏として回収することが可能となる。
【0039】
さらに、溶錬炉10内でナトリウム及び硫黄を酸化させて処理しているので、ナトリウムと硫黄との存在比率が安定していなくても、ナトリウム及び硫黄を確実に処理することができる。
また、外装容器51、正極容器53、固体電解質管55、環状絶縁部材57、電極キャップ59、正極端子61及び負極端子62といった部材についても、溶錬炉10内で溶融されるため、スラグSgに回収されることになる。さらに、硫黄電極67を構成するグラファイトフェルトは、溶錬炉10内で燃焼されて、通常の排ガスとして排出されることになる。よって、NaS電池50をそのまま溶錬炉10に投入しても、焼却灰等の廃棄物が発生せず、通常の連続製銅工程によってすべて処理されることになる。
【0040】
また、NaS電池50は、熔体排出口13に対してランス列16を挟んで反対側に配置されたアップテーク17の近傍に投入されるように構成されているので、ランス15から吹き込まれた空気による熔体の流動により、投入されたNaS電池50が熔体排出口13から離間する方向に向けて移動することになり、熔体内の滞留時間が確保され、溶錬炉10内においてNaS電池50を確実に溶融することができる。
さらに、連続製銅設備1の溶錬炉10にNaS電池50を投入しているので、ナトリウム等が吸収されたスラグSgが連続的に処理されることになり、NaS電池50を連続的に投入することが可能となり、NaS電池50の処理効率を飛躍的に向上することができる。
【0041】
また、溶錬炉10にNaS電池50を投入する投入装置20に、前処理装置22が設けられており、溶錬炉10に投入する前に、NaS電池50の正極容器53や電極キャップ59に対して穴明け加工を行う構成としているので、1220〜1240℃といった高温の熔体内にNaS電池50を投入しても、正極容器53や固体電解質管55の内部圧力が異常に上昇することを防止することができ、処理作業を安定して行うことができる。また、予め穴明け加工を行うことで、固体電解質管55内のナトリウム65に熔体が速やかに接触し、ナトリウム65の酸化吸収を促進することができる。
【0042】
さらに、前処理装置22において、溶錬炉10に投入する前にNaS電池50の外装容器51等に対して切断加工を行う構成としており、さらに、外装容器51の外周部分に複数の切れ込みを形成していることから、NaS電池50の外装容器51の肉厚が厚い場合や溶融し難い材料で構成されていた場合であっても、外装容器51及び正極容器53の内容物の溶融を促進することができ、確実にNaS電池50を処理することができる。
しかも、本実施形態では、非酸化性雰囲気とされた加工室23内で、外装容器51、正極容器53及び電極キャップ59に対して切断加工や穴明け加工を行うことが可能な構成とされていることから、万が一、切断加工や穴明け加工によってナトリウムが漏洩したとしても、ナトリウムの酸化反応が抑制されることになる。
【0043】
以上、本発明の実施形態であるNaS電池の処理方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、NaS電池を投入する銅製錬炉として連続製銅設備の溶錬炉を使用したものとして説明したが、これに限定されることはなく、自溶炉、反射炉といった他の銅製錬炉にNaS電池を投入してもよい。
また、銅製錬炉を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、Ni製錬炉等の他の金属の製錬設備を利用してNaS電池を処理してもよい。
【0044】
また、処理するNaS電池の構造は、図1に示すものに限定されることはなく、他の構造のNaS電池であっても適用することができる。
さらに、投入前のNaS電池への切断加工や穴明け加工は、必須のものではなく、必要に応じて実施すればよい。
また、外装容器毎、銅製錬炉に投入する構成としたが、外装容器から正極容器を取り出して、銅製錬炉に投入してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 連続製銅設備
10 溶錬炉(金属製錬炉)
13 熔体排出口
16 ランス列
50 NaS電池
Sg スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムと硫黄とを含有するNaS電池を処分するNaS電池の処理方法であって、
前記NaS電池を金属製錬炉に投入し、
ナトリウム成分を、金属製錬工程で生成するスラグの中に吸収して無害化するとともに、硫黄成分を、金属製錬工程で生成する硫酸又は石膏の中に回収することを特徴とするNaS電池の処理方法。
【請求項2】
前記金属製錬炉が銅製錬炉であり、前記金属製錬工程が銅製錬工程であることを特徴とする請求項1に記載のNaS電池の処理方法。
【請求項3】
前記銅製錬炉は、内部の熔体を外部へと排出する熔体排出口と、上方から垂下されたランス列と、を備えており、
前記NaS電池は、前記ランス列よりも前記熔体排出口から離間した位置に投入されることを特徴とする請求項2に記載のNaS電池の処理方法。
【請求項4】
前記銅製錬炉は、連続製銅設備の溶錬炉であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のNaS電池の処理方法。
【請求項5】
前記金属製錬炉に投入する前に、前記NaS電池に対して穴明け加工を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のNaS電池の処理方法。
【請求項6】
前記金属製錬炉に投入する前に、前記NaS電池に対して切断加工を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のNaS電池の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−175914(P2011−175914A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40091(P2010−40091)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】