説明

NdFeBのエッチング方法

【課題】NdFeBを迅速且つ容易に所望する形状を形成することが可能なNdFeBのエッチング方法を得る。
【解決手段】基板2上のNdFeB層1上にフォトレジスト3a、3b、3c、3d、3eを形成し、物理エッチング用のガスとハロゲンガスとの混合ガスを用いてプラズマエッチングを行って、露呈しているNdFeB層1をパターニングし、パターン1a、1b、1c、1d、1eを形成する。なお、上記混合ガスにおけるハロゲンガス含有率は4%〜10%のいずれかの値とするとよい。また、物理エッチング用のガスには、Arガス、Nガス、及びCOガスからなる群の中から選択されるいずれか1つのガス又は2以上のガスを含む混合ガスなどを用いることができる。また、プラズマエッチングを行う場合のRFバイアス値は、1.2W/cm以上とするとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NdFeBをエッチングする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、下記特許文献1に開示されているように、NdFeBを含む磁石の表面を研磨又はエッチングなどで加工する技術が公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−190407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表面を研磨してNdFeBを所望する形状に加工するには、エッチングよりも手間がかかることが多いだけでなく、形状の均一性を得ることが困難な場合がある。また、NdFeBを単にエッチングするだけでは、所望する形状に形成することが困難な場合がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、NdFeBを迅速且つ容易に所望する形状を形成することが可能なNdFeBのエッチング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明のNdFeBのエッチング方法は、基板上にNdFeB層を形成する工程と、前記NdFeB層上に所定パターンのフォトレジスト層を形成する工程と、物理エッチング用のガスとハロゲンガスとを含む混合ガスを用いて、前記NdFeB層を前記フォトレジスト側からエッチングする工程と、を有しているものである。ここで、前記ハロゲンガスがClガスである場合、前記混合ガスにおけるClガス含有率は4.0%〜14.3%(好ましくは4%〜8%程度)が望ましい。なお、前記混合ガスにおけるClガス含有率が4%未満である場合、フォトレジストのパターンが破壊され、所望する形状のNdFeB層などを得ることができない。また、前記混合ガスにおけるClガス含有率が15%を超える場合、フォトレジストとの選択性が低いエッチングとなるので、十分な選択性効果が得られず好ましくない。ここで、Clガスの代わりに、Fガスを用いると、混合ガスにおけるFガスの最適な含有率が変わるが、同じエッチング効果を得られる。また、物理エッチング用のガスに、Clガス、Fガス両方のガスを混合した混合ガスを用いてもよい。
【0007】
上記(1)の構成によれば、十分な選択性効果が得られるので、NdFeBを迅速且つ容易に所望する形状にすることができる。特に、NdFeBの微細パターンを形成するのに適している。また、研磨工程を必要とすることなく、且つ、研磨工程を行う場合に比べてより均一な形状を得ることができる。
【0008】
(2) 上記(1)のNdFeBのエッチング方法においては、前記物理エッチング用のガスが、Arガス、Nガス、及びCOガスからなる群の中から選択されるいずれか1つのガス又は2以上のガスを含む混合ガスであることが好ましい。
【0009】
上記(2)の構成によれば、NdFeBを容易に物理エッチングすることができる。
【0010】
(3) 上記(1)又は(2)のNdFeBのエッチング方法においては、前記エッチングがプラズマを用いたプラズマエッチングであり、前記プラズマエッチングにおけるRFバイアス値が1.2W/cm以上であることが好ましい。なお、上述した選択性が向上することから、前記プラズマエッチングにおけるRFバイアス値は、2.5W/cm以上であることがより好ましい。
【0011】
上記(3)の構成によれば、さらに選択性効果を向上することができるとともに、さらに迅速にNdFeBをエッチングすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るNdFeBのエッチング方法を説明するための工程図であって、(a)がエッチングされるNdFeBを表面に有したSi基板の図、(b)がエッチングのためのフォトレジストを形成した図、(c)がエッチング後、(d)がフォトレジストを除去した後を示した図である。
【図2】本発明の実施例1に係る結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例2に係る結果を示すグラフである。
【図4】比較例1に係る結果を示す写真である。
【図5】本発明の実施例3に係る結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るNdFeBのエッチング方法について説明する。
【0014】
まず、図1(a)に示したように、NdFeB層1を表面に有している基板2を準備する。なお、NdFeB層1は基板2表面にスパッタリングなどによって形成できる。なお、基板の材料には、Si、酸化膜付Si、ガラスなどを用いることができる。
【0015】
次に、図1(b)に示したように、エッチングを行う前の準備として、フォトリソグラフィーによって、フォトレジスト3a、3b、3c、3d、3eをNdFeB層1上にパターン形成する。
【0016】
続いて、図1(c)に示したように、物理エッチング用のガスと、ハロゲンガス(Clガス及びFガスのうちいずれか1つのガス又は2つのガスが好ましい。)との混合ガスを用いてプラズマエッチングを行って、露呈しているNdFeB層1をパターニングし、パターン1a、1b、1c、1d、1eを形成する。なお、上記混合ガスにおけるClガス含有率は4.0%〜14.3%(好ましくは、4%〜8%程度)のいずれかの値とするとよい。また、物理エッチング用のガスには、Arガス、Nガス、COガスからなる群の中から選択されるいずれか1つのガス又は2以上のガスを含む混合ガスなどを用いることができる。また、プラズマエッチングを行う場合のRFバイアス値は、1.2W/cm程度(直径4インチ(約100mm)のウエハに100W)以上とするとよい。好ましくは、2.5W/cm程度(直径4インチ(約100mm)のウエハに200W)以上のRFバイアス値とするとよい。また、プラズマエッチングは、0℃〜100℃の範囲の温度環境において、0.13Pa〜13.3Pa(1mTorr〜100mTorr)の範囲の圧力下で行うことができる。また、プラズマエッチングには、誘導結合プラズマ(ICP)エッチング、マイクロ波を用いたプラズマ(ECR)エッチングなどの種類があり、本実施形態においてもいずれかのエッチング方法を用いることができる。
【0017】
最後に、図1(d)に示したように、フォトレジスト3a、3b、3c、3d、3eを除去することで、目的のパターン1a、1b、1c、1d、1eのNdFeBを基板2上に形成することができる。
【0018】
本実施形態のNdFeBのエッチング方法によれば、十分な選択性効果が得られるので、NdFeBを迅速且つ容易に所望する形状にすることができる。特に、NdFeBの微細パターン(例えば、先が尖った凸形状、水玉のような凸形状など)を形成するのに適している。また、研磨工程を必要とすることなく、且つ、研磨工程を行う場合に比べてより均一な形状を得ることができる。
【0019】
また、物理エッチング用のガスに、Arガス、Nガス、Heガス、Oガス、COガス、Xeガス、及びKrガスからなる群の中から選択されるいずれか1つのガス又は2以上のガスを含む混合ガスなどを用いるので、NdFeBを容易に物理エッチングすることができる。
【0020】
また、プラズマエッチングにおけるRFバイアス値を1.2W/cm以上とするので、従来よりもさらに選択性効果を向上することができるとともに、従来よりもさらに迅速にNdFeBをエッチングすることが可能である。
【実施例】
【0021】
次に、実施例を用いて、本発明について説明する。
【0022】
(実施例1)
上記実施形態に示したエッチング方法を用いて、NdFeB表面をエッチングし、プラズマエッチングのRFバイアス値の変化によって、エッチング結果がどのように変化するか調査した。具体的には、図1(b)に示した構成と同様の素子(基板2としてはSi基板、フォトレジスト3a〜3eとしてはAZエレクトロニックマテリアルズ(株)製のフォトレジストAZP4903を用いた。)を3つ形成した後、上記素子それぞれのNdFeB層を下記表1に示したエッチング条件A、B、Cの各条件下で、誘導結合プラズマ(ICP)を用いてエッチングし、(1)誘導結合プラズマ(ICP)におけるRFバイアス値と、NdFeBのエッチング速度との関係性、(2)誘導結合プラズマ(ICP)におけるRFバイアス値と、フォトレジストとNdFeBとの間の選択性との関係性、を調査した。調査結果を図2のグラフに示す。
【0023】
【表1】

【0024】
図2のグラフから、RFバイアス値が増加するに従って、NdFeBのエッチング速度が増加していることがわかる。また、RFバイアス値が増加するに従って、フォトレジストとNdFeBとの間の選択性が増加していることもわかる。すなわち、RFバイアス値を増加させると、徐々に、フォトレジストとNdFeBとの間の選択性効果を向上することができるとともに、さらに迅速にNdFeBをエッチングすることが可能となることがわかる。
【0025】
(実施例2)
上記実施形態に示したエッチング方法を用いて、NdFeB表面をエッチングし、混合ガスに対するClガスの割合の変化によって、エッチング結果がどのように変化するか調査した。具体的には、図1(b)に示した構成と同様の素子(基板2としてはSi基板、フォトレジスト3a〜3eとしてはAZエレクトロニックマテリアルズ(株)製のフォトレジストAZP4903を用いた。)を6つ形成した後、上記素子それぞれのNdFeB層を下記表1に示したエッチング条件A、D、E、F、G、Hの各条件下で、誘導結合プラズマ(ICP)を用いてエッチングし、(1)混合ガスに対するClガスの割合と、NdFeBのエッチング速度との関係性、(2)混合ガスに対するClガスの割合と、フォトレジストとNdFeBとの間の選択性との関係性、を調査した。調査結果を図3のグラフに示す。
【0026】
図3のグラフから、以下のことがわかる。すなわち、混合ガスに対するClガスの割合を変化させると、NdFeBのエッチング速度が40〜60(nm/min)の間で変化することがわかる。しかし、フォトレジストとNdFeBとの間の選択性は、混合ガスに対するClガスの割合が減少するに従って、増加していることがわかる。特に、混合ガスに対するClガスの割合が14.3%程度(表1の条件Eから、Cl/(Ar+Cl)=7/(42+7)≒14.3%と算出。)以下になると、フォトレジストとNdFeBとの間の選択性が急激に増加していることがわかる。また、図3のグラフから、混合ガスに対するClガスの割合を14.3%程度以上の条件に変更してエッチングすると、フォトレジストとNdFeBとの間の選択性がなくなってしまうことがわかる。
【0027】
(比較例1)
混合ガスに対するClガスの割合を2.3%(表1の条件Hから、Cl/(Ar+Cl)=2/(84+2)≒2.3%と算出。)に変更した以外は、実施例2と同様のエッチング方法でNdFeB表面をエッチングし、混合ガスに対するClガスの割合の変化によって、エッチング結果がどのようになるか調査した。調査結果の写真を図4に示す。
【0028】
図4の写真から、混合ガスに対するClガスの割合が2.3%となると、フォトレジストが崩壊してしまっていることがわかる。
【0029】
実施例2及び比較例1から、フォトレジストとNdFeBとの間の選択性を考えると、混合ガスに対するClガスの割合を4.0%〜14.3%(好ましくは、4%〜8%程度)とすることが望ましいということがわかった。
【0030】
(実施例3)
実施例2の条件のうち条件Fで、2種類の素子のNdFeB表面を2時間エッチングし、エッチング結果がどのようになるか調査した。具体的には、略正方形のフォトレジストを規則的にNdFeB表面に設けた素子と、長尺状のフォトレジストを規則的にNdFeB表面に設けた素子とについて、上記エッチングを行った。略正方形のフォトレジストを規則的にNdFeB表面に設けた素子のエッチング結果の光学顕微鏡写真を図5左側に、尺状のフォトレジストを規則的にNdFeB表面に設けた素子のエッチング結果の光学顕微鏡写真を図5右側に示す。なお、図5に示した両方のNdFeBは、表面にあったフォトレジストもエッチングによって除去されている。
【0031】
図5からわかるように、所望する形状にNdFeBを加工できていることがわかる。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。例えば、また、本発明においては、物理的なエッチング方法として、プラズマエッチングを用いたが、従来からある他の物理的なエッチング方法を用いてもよい。
【0033】
また、本発明においては、混合ガスにClガスを含むものであるが、Clガスの代わりにFガスを含むものであってもよいし、Clガス、Fガス両方を含むものであってもよい。
【0034】
上記実施形態においては、基板2上にNdFeB層1を形成した素子をエッチングしたが、NdFeB層1の代わりに、Au/NdFeB/Ta層を形成してエッチングすることとしてもよい。本構成によれば、Au層をNdFeB層表面の酸化層とすることができるともに、Ta層をNdFeB層と基板との接着層とすることができる。
【0035】
また、上記実施例においては、フォトレジストとしてAZP4903を用いたが、日本化薬(株)製のSU−8又はKMPR、若しくは東京応化工業(株)製のPMER−900cpなどの厚レジストを用いてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 NdFeB層
1a、1b、1c、1d、1e パターン
2 基板
3a、3b、3c、3d、3e フォトレジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にNdFeB層を形成する工程と、
前記NdFeB層上に所定パターンのフォトレジスト層を形成する工程と、
物理エッチング用のガスとハロゲンガスとを含む混合ガスを用いて、前記NdFeB層を前記フォトレジスト側からエッチングする工程と、を有していることを特徴とするNdFeBのエッチング方法。
【請求項2】
前記ハロゲンガスがClガスであって、前記混合ガスにおけるClガス含有率が4.0%〜14.3%であることを特徴とする請求項1に記載のNdFeBのエッチング方法。
【請求項3】
前記ハロゲンガスが、Fガス、又は、FガスとClガスとの混合ガスであることを特徴とする請求項1に記載のNdFeBのエッチング方法。
【請求項4】
前記物理エッチング用のガスが、Arガス、Nガス、及びCOガスからなる群の中から選択されるいずれか1つのガス又は2以上のガスを含む混合ガスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のNdFeBのエッチング方法。
【請求項5】
前記エッチングがプラズマを用いたプラズマエッチングであり、前記プラズマエッチングにおけるRFバイアス値が1.2W/cm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のNdFeBのエッチング方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−15292(P2012−15292A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149768(P2010−149768)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】