説明

Ni基単結晶超合金

【課題】高温・高応力下で使用される高温部材として好適な、TMF特性とクリープ特性および耐硫化腐食に優れたNi基単結晶超合金を提供すること。
【解決手段】質量%で、
Co:8〜12%、Cr:5〜7.5%、Mo:0.2〜1.2%、
W:5〜7%、Al:5〜6.5%、Ta:8〜12%、
Hf:0.01〜0.2%、Re:2〜4%、Si:0.005〜0.1%
を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、単結晶である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基単結晶超合金に関する。
【背景技術】
【0002】
Ni基超合金が、ジェットエンジンやガスタービンなどのタービンブレードやタービンベーンの基材に使用される場合、初期のジェットエンジンではさほど燃焼ガス温度が高くなかったため、タービンブレードやタービンベーンは無冷却で使用されていた。しかし、近年のジェットエンジンなどに代表されるガスタービン機関では、出力および効率向上のために、タービンの入口ガス温度がより高温化されている。これにともない、特に大型発電用ガスタービンのタービンブレードやタービンベーンは、高温強度の保持のために、中空翼の構造を有し、翼内部を強制的に空気や蒸気を用いて冷却し、基材の温度上昇を防いでいる。このようなタービンブレードやタービンベーンでは、翼表面温度は900℃を超える一方、翼内部は600℃程度となっている。こうした翼表面と内部の温度差は、熱疲労(Thermo-mechanical fatigue:TMF)を発生させる。
【0003】
また、特にタービンブレードは、高温の燃焼ガスにさらされるのと同時に、高速回転するため、遠心力による高い応力に耐えなければならず、この要求に対しては、高温でのクリープ特性もTMFと同様に重要である。
【0004】
従来、耐熱疲労特性を目的にしたNi基超合金が知られている(特許文献1、2)。また、クリープ特性の優れたNi基超合金(特許文献3)は、多くの高温機器で使用実績が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2841970号公報
【特許文献2】特許第3214330号公報
【特許文献3】米国特許第4643782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年のジェットエンジンやガスタービンの進歩にともない燃焼ガス温度が高温化される中、より優れた熱疲労特性とクリープ特性および耐硫化腐食に優れたNi基超合金の出現が望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、900℃/392MPaにおけるクリープ特性が600時間以上、1000℃/245MPaにおけるクリープ特性が160時間以上、TMF特性は、温度範囲:400〜900℃の範囲、ひずみ範囲:±0.64%、周波数66min/サイクル、波形:三角波+台形波、位相:逆位相の条件で200回以上であり、かつ耐硫化腐食が、75%NaSO+25%NaCl成分の塩を900℃に加熱し、20時間浸漬したときの腐食減量が、0.001mm以下であることを具体的な目標としている。
【0008】
そして、本発明は、大型発電用ガスタービンのタービンブレードやタービンベーンなどの高温・高応力下で使用される高温部材として好適な、TMF特性とクリープ特性および耐硫化腐食に優れたNi基単結晶超合金を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の特徴を有している。
【0010】
第1の発明は、質量%で、
Co:8〜12%、
Cr:5〜7.5%、
Mo:0.2〜1.2%、
W:5〜7%、
Al:5〜6.5%、
Ta:8〜12%、
Hf:0.01〜0.2%、
Re:2〜4%、
Si:0.005〜0.1%
を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、単結晶であることを特徴としている。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明の特徴において、
質量%で、
Co:8〜11%、
Cr:5〜7%、
Mo:0.2〜1%、
W:5.5〜7%、
Al:5〜6%、
Ta:9〜12%、
Hf:0.05〜0.2%、
Re:2.5〜4%、
Si:0.005〜0.08%
を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、単結晶である
ことを特徴としている。
【0012】
第3の発明は、上記第2の発明の特徴において、
質量%で、
Co:8〜10%、
Cr:6〜7%、
Mo:0.5〜1%、
W:5.5〜6.5%、
Al:5〜6%、
Ta:9〜11%、
Hf:0.05〜0.15%、
Re:2.5〜3.5%、
Si:0.005〜0.08%
を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、単結晶である
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、TMF特性とクリープ特性および耐硫化腐食に優れたNi基単結晶超合金が提供され、このNi基単結晶合金は、大型発電用ガスタービンのタービンブレードやタービンベーンなどの高温・高応力下で使用される高温部材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】表1に示した化学組成を有する合金の900℃/392MPaでのクリープ特性とTMF特性(60分の圧縮保持)を示した図である。
【図2】表1に示した化学組成を有する合金の1000℃/245MPaでのクリープ特性とTMF特性(60分の圧縮保持)を示した図である。
【図3】実施例における本発明合金と比較合金6の硫化腐食試験の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のNi基単結晶超合金における化学組成の限定の理由は、以下のとおりである。
【0016】
Coは、ガンマ相のNiと置換し、マトリックスを固溶強化する元素である。また、ガンマプライムソルバス温度を下げることにより溶体化温度幅を広げ、熱処理特性を向上させる効果のある元素である。含有量は、8〜12質量%とする。8質量%より少ないと溶体化温度幅が小さく、12質量%より多いとガンマプライム量が少なくなり、強度を低下させる。Coの含有量は、好ましくは、8〜11%であり、より好ましくは、8〜10%である。
【0017】
Crは、高温耐食性を向上させる元素である。含有量は、5〜7.5質量%とする。5質量%より少ないと耐食性を低下させ、7.5質量%を超えると有害相を生成し高温強度が低下する。Crの含有量は、好ましくは、5〜7%であり、より好ましくは、6〜7%である。
【0018】
Moは、ガンマ/ガンマプライムミスフィットを負として高温での強化メカニズムの一つであるラフト効果を促進させる元素である。含有量は、0.2〜1.2質量%とする。Moは、素地中に固溶して高温強度を上昇させるとともに、析出硬化によって高温強度に寄与する。0.2質量%より少ないと高温強度が低下し、4質量%を超えると有害相を生成し高温強度が低下する。Moの含有量は、好ましくは、0.2〜1%であり、より好ましくは、0.5〜1%である。
【0019】
Wは、Moと同様に、固溶強化と析出硬化の作用がある。含有量は、5〜7質量%とする。要求されるクリープ強度やTMF強度を得るには最低でも5質量%が必要であり、また、7質量%を超える添加は有害相を生成し、強度が低下する。Wの含有量は、好ましくは、5.5〜7%であり、より好ましくは、5.5〜6.5%である。
【0020】
Alは、Niと化合し、ガンマ母相中に析出するガンマプライム相を構成するNiAlで表される金属間化合物を、体積分率で50〜70%の割合で形成し、TMF強度およびクリープ強度を向上させる。含有量は、5〜6.5質量%とする。Alが5質量%より少ないとガンマプライム相量が少なく要求されるTMF強度およびクリープ強度が得られず、6.5質量%を超えても要求されるTMF強度およびクリープ強度が得られない。Alの含有量は、好ましくは、5〜6%である。
【0021】
Taは、ガンマプライム相を強化してクリープ強度を向上させる有効な元素である。含有量は、8〜12質量%とする。Taが8質量%未満では要求されるTMF強度およびクリープ強度が得られず、12質量%を超えると共晶ガンマプライム相の生成を促し、溶体化熱処理を困難にさせる。Taの含有量は、好ましくは、9〜12%であり、より好ましくは、9〜11%である。
【0022】
Hfは、耐酸化性を向上させる効果があるので、化学組成成分として添加することが有効である。添加量は、0.01〜0.2質量%とする。Hfが0.01質量%未満では耐酸化性の効果が得られず、0.2質量%を超えると有害相の生成を助長するのでTMF強度およびクリープ強度を低下させる。Hfの添加量は、好ましくは、0.05〜0.2%であり、より好ましくは、0.05〜0.15%である。
【0023】
Reは、ガンマ相に固溶し、固溶強化により高温強度を向上させる。またReは耐食性を向上させる効果もある。一方、Reを多量に添加すると、高温時にTCP相が析出してTMF強度およびクリープ強度を低下させるおそれがある。そこで、添加量は、2〜4質量%とする。2質量%未満では強度が低下し、4質量%を超える添加ではTCP相の析出によりのクリープ強度が低下する。Reの添加量は、好ましくは、2.5〜4%であり、より好ましくは、2.5〜3.5%である。
【0024】
Siは、耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。含有量は、0.005〜0.1質量%とする。0.005質量%未満では耐酸化性の効果が得られない。0.1質量%を超えると要求されるクリープ強度が得られない。Siの含有量は、好ましくは、0.005〜0.08%である。
【0025】
上記のとおり化学組成を有する本発明のNi基単結晶合金は、たとえば以下のようなプロセスによって製造することができる。
【0026】
上記化学組成を有する原料を溶解し、鋳造して単結晶鋳造物を得た後、この単結晶鋳造物に対して溶体化処理−1次時効処理−2次時効処理を施すことにより、本発明のNi基単結晶合金は製造される。溶体化処理の条件としては、真空中において1250〜1350℃の温度範囲に1〜20時間保持し、次いで空冷することが例示される。1次時効処理の条件としては、真空中において1000〜1200℃の温度範囲に1〜10時間保持し、次いで空冷することが例示される。2次時効処理の条件としては、真空中において850〜900℃の温度範囲に15〜30時間保持し、次いで空冷することが例示される。
【0027】
なお、各処理に採用される条件は、Ni基単結晶超合金の化学組成に応じて適当なものに設定される。
【0028】
以下に実施例を示す。
<実施例>
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示した化学組成を有するNi基超合金を、真空中において200mm/hの凝固速度で溶解、鋳造して単結晶鋳造物を得た。次に、得られた単結晶鋳造物を真空中において1300℃(10℃単位。以下同じ)で1時間予熱した後、1330℃で10時間保持してから空冷する溶体化処理を行い、その後、真空中において1100℃で4時間保持してから空冷する1次時効処理と、真空中において870℃で20時間保持してから空冷する2次時効処理とを行った。
【0031】
そして、単結晶合金鋳造物を平行部直径4mm、平行部長さ20mmのクリープ試験片に加工し、900℃、392MPaおよび1000℃、245MPaの条件でクリープ試験を行った。
【0032】
また、TMF試験は高周波で試験片を加熱して実施した。TMF試験において、温度を下限の400℃から上限の900℃まで変動させ、ひずみを±0.64%で加え、温度変動とひずみとは連動させた。周波数は1サイクルで66min、波形は三角波であり、圧縮時に60分保持した。これらの試験条件はガスタービンの運用条件を模擬するものであり、タービン翼表面温度が定常時900℃、停止時400℃と仮定して実施した。また、昇降温速度:166.7℃/minである。
【0033】
図1および図2にクリープ試験とTMF試験の結果を示した。
【0034】
図3には75%NaSO+25%NaCl成分の塩を900℃に加熱溶融し、溶融した塩中に20時間試料を浸漬して硫化腐食試験を実施した。図3図中の縦軸に硫化腐食減量を長さに換算して示した。
【0035】
以上の結果を表2にまとめて示す。
【0036】
【表2】

【0037】
本発明合金は、900℃/392MPaにおけるクリープ特性が600時間以上、1000℃/245MPaにおけるクリープ特性が160時間以上であり、TMF特性は、上記条件で200回以上であり、かつ腐食減量が、0.001mm以下である。TMF特性とクリープ特性および耐硫化腐食に優れたNi基単結晶超合金が得られていることが確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Co:8〜12%、
Cr:5〜7.5%、
Mo:0.2〜1.2%、
W:5〜7%、
Al:5〜6.5%、
Ta:8〜12%、
Hf:0.01〜0.2%、
Re:2〜4%、
Si:0.005〜0.1%
を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、単結晶であることを特徴とするNi基単結晶超合金。
【請求項2】
質量%で、
Co:8〜11%、
Cr:5〜7%、
Mo:0.2〜1%、
W:5.5〜7%、
Al:5〜6%、
Ta:9〜12%、
Hf:0.05〜0.2%、
Re:2.5〜4%、
Si:0.005〜0.08%
を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、単結晶であることを特徴とする請求項1に記載のNi基単結晶合金。
【請求項3】
質量%で、
Co:8〜10%、
Cr:6〜7%、
Mo:0.5〜1%、
W:5.5〜6.5%、
Al:5〜6%、
Ta:9〜11%、
Hf:0.05〜0.15%、
Re:2.5〜3.5%、
Si:0.005〜0.08%
を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、単結晶であることを特徴とする請求項2に記載のNi基単結晶合金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−163659(P2010−163659A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6746(P2009−6746)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】