説明

OCTシステムを備える手術用顕微鏡

【課題】OCT走査光路による物体領域の深部像の検出が可能で、拡大率が可変でコンパクトに構成された手術用顕微鏡を提供する。
【解決手段】本発明は、顕微鏡主対物レンズ系101および拡大率を可変な拡大システム108を含む顕微鏡結像光学系を通る観察光路109を備える、手術用顕微鏡100に関するものである。顕微鏡結像光学系は物体領域114に由来する収束観察光路109を平行な光路へ移行させる。物体領域114を検査するために、手術用顕微鏡はOCTシステム120を含んでいる。本発明によると、OCTシステム120は、顕微鏡結像光学系を通して案内されるOCT走査光路190を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡主対物レンズ系と拡大率を可変な拡大システムを含む顕微鏡結像光学系と、顕微鏡結像光学系を通る観察光路とを備え、顕微鏡結像光学系は物体領域に由来する収束観察光路を平行な光路へ移行させ、物体領域を検査するためのOCTシステムが設けられている、手術用顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冒頭に述べた種類の手術用顕微鏡は特許文献1から公知である。同文献には、可変な拡大率のためのズームシステムが付属する、立体視観察光路が通る顕微鏡主対物レンズを備えた手術用顕微鏡が記載されている。手術用顕微鏡はOCTシステムを含んでいる。このOCTシステムは、干渉信号を評価するための分析ユニットを備える、短いコヒーレントなレーザ光線からOCT走査光路を生成するためのモジュールを含んでいる。このモジュールには、OCT走査光路をスキャンする装置が付属している。OCT走査光路によって手術領域を走査するために、このスキャン装置は2つの運動軸を中心として位置調節することができる2つのスキャンミラーを含んでいる。特許文献1に記載された手術用顕微鏡では、OCT走査光路はビーム分割鏡を介して手術用顕微鏡の照明光路へ入力結合され、これとともに顕微鏡主対物レンズを通して物体領域へ向うように誘導される。
【0003】
光コヒーレンス断層撮影法の手法は、生物組織内部の構造を非侵襲的に検査し測定することを可能にする。相応のOCTシステムを備える光コヒーレンス断層撮影法は光学的な画像生成法として、特に、生物組織の断面画像または体積画像をマイクロメートルの解像度で生成することを可能にする。これに対応するOCTシステムは、試料光路と参照光路に供給される、時間的にインコヒーレントで空間的にコヒーレントであるコヒーレンス長lcの光のための光源を含んでいる。試料光路は、検査されるべき組織に対して向けられる。OCTシステムは、組織内の散乱中心に基づいて試料光路へとはね返されたレーザ放射を、参照光路に由来するレーザ放射と重ね合わせる。重ね合わせによって干渉信号が生じる。この干渉信号を基にして、検査された組織におけるレーザ放射に対する散乱中心の位置を決めることができる。
【0004】
OCTシステムについては、「タイムドメインOCT」と「フーリエドメインOCT」の構造原理が知られている。
【0005】
「タイムドメインOCT」の構造は、たとえば特許文献2で図1aを参照しながら、5欄40行から11欄10行に説明されている。このようなシステムでは、参照光路の光学的な経路長が、高速運動可能な参照鏡によって継続的に変えられる。試料光路と参照光路に由来する光は、光検出器で重ね合わされる。試料光路と参照光路の光学的な経路長が一致したときに、光検出器に干渉信号が発生する。
【0006】
「フーリエドメインOCT」は、たとえば特許文献3に説明されている。試料光路の光学的な経路長を測定するために、同じく、試料光路に由来する光が参照光路に由来する光に重ね合わされる。しかし「タイムドメインOCT」とは異なり、試料光路の光学的な経路長を測定するために、試料光路と参照光路に由来する光が直接検出器へ供給されるのではなく、まず分光計によってスペクトル分解される。そして、こうして生成された、試料光路と参照光路に由来する重ね合わされた信号のスペクトル強度が、検出器によって検出される。検出器信号を評価することで、同じく、試料光路の光学的な経路長を判定することができる。
【0007】
特許文献4は、接眼レンズを覗き込むことによって、手術用領域を立体視観察光路で検査することを観察者に可能にする手術用顕微鏡を開示している。この手術用顕微鏡は、ディスプレイと、ビーム分割キューブとして構成されたビームスプリッタとを備える、データ取り込みのための装置を含んでいる。このビームスプリッタは、手術用顕微鏡の本体で、顕微鏡主対物レンズと接眼レンズとの間の平行な観察光路に配置されており、ディスプレイ光学系によって無限大に結像されたディスプレイ画像を、手術用顕微鏡における平行な観察光路に重ね合わせる。
【0008】
【特許文献1】欧州特許第0815801B1号明細書
【特許文献2】米国特許第5,321,501号明細書
【特許文献3】国際公開第2006/10544A1号パンフレット
【特許文献4】欧州特許第1220004B1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、OCT走査光路による物体領域の深部像の検出が可能であり、このOCT走査光路の推移が、接眼レンズを覗き込む観察者のために物体領域の拡大像を惹起する、手術用顕微鏡における光学的な観察光路の推移に一致しており、物体領域におけるOCT走査光路の断面が選択された拡大率に適合化される、拡大率が可変でコンパクトに構成された手術用顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、OCTシステムが、顕微鏡結像光学系を通して案内されるOCT走査光路を設ける、冒頭に述べた種類の手術用顕微鏡によって解決される。
【0011】
このようにして、特に平坦でない物体領域の場合に、光学的な観察光路とOCT走査放射とが物体領域の同一のゾーンをカバーすることが保証される。すなわちOCT走査放射によって、その手術用顕微鏡の双眼鏡筒を覗き込む観察者に表示されている観察画像そのものを走査することができる。このとき、OCT走査放射に依拠する物体領域の深部断面を検出することができる。
【0012】
本発明の発展例では、OCT走査光路を観察光路に入力結合し、それによってOCT走査光路を観察光路に重ね合わせたうえで、顕微鏡結像光学系を通して物体領域へと案内する入力結合部材が設けられる。入力結合部材はビーム分割鏡として構成され、特に平面鏡またはビーム分割キューブとして構成されるのが好ましい。このようにして、同時観察者は物体領域への視界を常に開いておくことが可能となる。
【0013】
発展例では、観察光路から像情報を出力結合するために、顕微鏡結像光学系と入力結合部材との間に出力結合部材が配置されている。
【0014】
本発明の発展例では、入力結合部材と顕微鏡主対物レンズとの間に、特にズームシステムとして構成された無限焦点レンズ系が配置されている。このようにして、OCTシステムによって取得可能なOCT情報の横解像度を、手術用顕微鏡の接眼レンズを覗き込む観察者に表示される観察画像に合わせて適合化させながら変えることが可能である。
【0015】
本発明の発展例では、OCTシステムはOCT走査光路をスキャンするために第1のスキャンミラーを含んでいる。これに加えて、第2のスキャンミラーが設けられているのが好ましく、この場合、第1のスキャンミラーは第1の回転軸を中心として動かすことができ、第2のスキャンミラーは第2の回転軸を中心として動かすことができる。第1と第2の回転軸は側方にオフセットされて、互いに直角をなしている。このようにして、垂直に延びる網目パターンに応じた物体領域の走査が可能である。
【0016】
本発明の発展例では、OCTシステムは、OCT走査光路のための光射出区域を有する光導波路を含んでおり、光導波路の光射出区域を動かすための手段が設けられている。このようにして、物体領域でOCT走査平面を変えることができ、同時観察のための観察光路にある、可視光のために設計されている光学コンポーネントを考慮したうえで、さまざまなOCT波長に合わせてシステムを調整することが可能である。
【0017】
本発明の発展例では、OCT走査光路には、OCT走査平面への光導波路の射出端部の幾何学的結像を調整するために、位置調節可能な光学システムが設けられている。このようにして、手術用顕微鏡のOCT走査平面を、システムの光学的な観察光路の観察平面に対して相対的に変位させることができ、また、顕微鏡結像光学系の結像倍率を調節するときに、光学的な観察光路における結像倍率がOCT走査光路における結像倍率に一致するようにOCT走査放射の結像倍率を再調整することが可能である。このようにして、該当する結像倍率を同一に保つことができる利点がある。
【0018】
本発明の発展例では、位置調節可能な光学部材には駆動ユニットが付属している。このようにして、たとえばOCT走査平面を手術用顕微鏡の観察平面に対して相対的に所定の値だけ変えることができる。
【0019】
本発明の発展例では、OCTシステムは、第1の波長をもつ第1のOCT走査光線を提供するように、および、第1の波長とは異なる第2の波長をもつ第2のOCT走査光線を提供するように設計されている。このようにして、患者のさまざまな組織構造や身体器官を検査するために、手術用顕微鏡を最適化することができる。
【0020】
本発明の発展例では、異なる波長のOCT走査光線を提供する第1と第2のOCTシステムが設けられる。このようにして、異なるOCT波長に基づいた物体領域の検査が最大の解像度で可能となる。特に、それによりOCT走査光線を用いてさまざまな侵入深さで組織を検査することができる。さらに、種々の用途に合わせて手術用顕微鏡を設計することが可能である。
【0021】
本発明の発展例では、手術用顕微鏡の作業間隔が変化したときに、OCTシステムにおける光学的な経路長の相応の変化を調整するために、顕微鏡結像光学系とOCTシステムとの結合器が設けられる。このようにして、顕微鏡結像光学系によって鮮明に結像される物体領域を、OCTシステムによっても走査できることが保証される。
【0022】
本発明の発展例では、光学的な観察光路における結像倍率とOCT走査光路における結像倍率とを互いに適合化するために、顕微鏡結像光学系とOCTシステムのコリメート光学系との結合器が設けられる。このようにして、OCT走査光路が、光学的な観察光路で見ることのできる観察領域を走査することが保証される。
【0023】
本発明の有利な実施形態が図面に示されており、以下において説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1の手術用顕微鏡100は、光学軸102と、相応に変位可能な焦点面103とを備え、アクチュエータ150によって焦点合わせ可能な顕微鏡主対物レンズ系101を有している。顕微鏡主対物レンズ系101は、部分光学系151,152、153を含んでいる。顕微鏡主対物レンズ系には、双眼鏡筒104の立体視観察光路と、照明鏡107を備える照明装置106の照明光路105とが通っている。この照明鏡は、顕微鏡主対物レンズ系101の物体と反対側に配置されている。
【0025】
双眼鏡筒104には、ズーム可能な拡大システム108が付属している。顕微鏡主対物レンズ系101とズーム可能な拡大システム108とが、手術用顕微鏡100の顕微鏡結像光学系を形成する。図1は、手術用顕微鏡100における立体視観察光路の右側の観察光路109を示している。
【0026】
双眼鏡筒104とズーム可能な拡大システム108との間には、直角プリズム110,111で構成される第1のビーム分割キューブ112が、平行な右側の観察光路109にある。第1のビーム分割キューブ112と同じビーム分割キューブが、平行な左側の観察光路の対応する位置に配置されている。第1のビーム分割キューブ112と第2のビーム分割キューブは二重の機能を有している。すなわちこれらは、手術用顕微鏡の右側の観察光路109と左側の観察光路にある第1のディスプレイ113の表示と図1には示さない第2のディスプレイの表示とを入力結合させる入力結合部材として作用する。
【0027】
すなわち、双眼鏡筒104における物体領域114の像に、第1のディスプレイ113と第2のディスプレイの表示が重ね合わされる。それと同時に、第1のビーム分割キューブ112と第2のビーム分割キューブは、第1のOCTシステム120によって提供されるOCT走査光路190を入力結合するための部材として作用する。
【0028】
手術用顕微鏡100は、OCT像を撮像するための第1のOCTシステム120を含んでいる。このOCTシステムは、光導波路122から射出されるOCT走査光路190を生成させ分析するためのユニット121を含んでいる。光導波路122から射出される走査光路190は、OCTスキャンユニット126の第1のスキャンミラー124と第2のスキャンミラー125へと案内され、OCTスキャンユニット126の後、レンズ131とレンズ132を備える調整可能なコリメート光学系130を通過する。コリメート光学系130は駆動装置133を有しており、走査光路190を集束して平行な光束140にする。
【0029】
当然ながら、OCTスキャンユニット126の第1のスキャンミラー124と第2のスキャンミラー125によって、平行なOCT走査光路を偏向させることも可能である。そのためには、光導波路122とOCTスキャンユニット126との間に配置される適切なコリメート光学系、例えば集光レンズが必要となる。その場合、OCTスキャンユニット126の光導波路と反対側にあるコリメート光学系130は不要である。
【0030】
OCTスキャンユニット126に由来する光束140は、観察光路106にあるビーム分割キューブ112へと案内される。ビーム分割キューブ112は、この観察光路における観察光の、人間の目に見えるスペクトル領域に対しては実質的に透過性である。逆にビーム分割キューブはOCT走査光路の光を反射させ、これを観察光路106に重ね合わせる。ビーム分割キューブ112は、平行平面板を備える鏡部材として製作されていてよいことを付言しておく。
【0031】
OCT走査光路190の光は、顕微鏡主対物レンズ101によってOCT走査平面195で集束される。OCT走査平面195は、OCTスキャンユニット126、集光レンズ130、ビーム分割キューブ112、顕微鏡主対物レンズ101を備えるOCT走査光路の光学部材によって、物体領域に光導波路122の射出端部が幾何学的に結像される平面である。すなわち、光導波路の射出端部の相応の幾何学的結像は、OCT走査平面195に位置している。
【0032】
OCT走査光路へはね返された光は、顕微鏡主対物レンズ101、ズーム可能な拡大システム108、ビーム分割キューブ112を介してユニット121へと戻っていく。そこで、物体領域114から後方散乱されたOCT走査光は、参照光路に由来するOCT放射によって干渉される。干渉信号が検出器によって検出され、計算機ユニットによって評価され、計算機ユニットはこの信号を基にして、物体領域114におけるOCT光の散乱中心と、参照分路における光の経路長との間の光学的な経路長差を算定する。
【0033】
顕微鏡主対物レンズ系101の位置調節によって手術用顕微鏡100の作業間隔180が変わると、手術用顕微鏡における対応するOCTシステムの走査光路の光学的な経路長も変化する。焦点合わせ可能な顕微鏡主対物レンズ系101のアクチュエータ150は、信号回線185を介して、手術用顕微鏡におけるOCTシステムと電気接続されている。このことは、OCTシステムと顕微鏡主対物レンズ系との結合を惹起し、そのようにして、物体領域114からの手術用顕微鏡の作業間隔180が変わった場合に、必要に応じて、OCTシステムにおける参照光路の光学的な経路長を相応に適合化する。
【0034】
物体領域114に由来する像情報を記録ユニットへ供給するために、ズーム可能な拡大システム108とビーム分割キューブ112の間には出力結合部材141がある。
【0035】
図2は、図1のII−II線に沿った断面図を示している。この図面は、図1の手術用顕微鏡100の立体視観察光路の推移を説明するものである。顕微鏡主対物レンズ101の光学軸102はその中心に位置している。右側の観察光路109と左側の観察光路110は、照明鏡107によって方向転換される照明光路105とともに、顕微鏡主対物レンズ101を、互いに分離された断面領域201,202、203で通過している。
【0036】
図3は、図1の手術用顕微鏡100における第1のOCTシステム120と第2のOCTシステム320を示している。第1のOCTシステム120と同じく、第2のOCTシステム320も、OCT走査光路を生成し分析するためのユニット321を含んでいる。ただし、両方のOCTシステム120,320のOCT走査光路の波長領域は相違している。すなわち、第1のOCTシステムは波長λ1=1310nmのOCT走査放射に依拠している。第2のOCTシステム320は、波長λ2=800nmのOCT走査放射によって作動する。当然ながら、これ以外の動作波長用としてOCTシステムを設計することもできる。動作波長は特に600nm<λ<1500nmの範囲内で具体化することができ、好ましくはそれぞれ用途に応じる。
【0037】
第1のOCTシステム120のOCT走査光路190は、集光レンズ130を介して、手術用顕微鏡100の右側の観察光路にある第1のビーム分割キューブへ入力結合され、第2のOCTシステム320のOCT走査光路390は、第2の集光レンズを介して、手術用顕微鏡100の左側の観察光路にある第2のビーム分割キューブへ重ね合わされる。
【0038】
そのためにOCTシステム320は、OCTシステム120と同じく、スキャンミラー324,325と、OCT走査光路390の光を集光して平行な光束にする集光レンズ330とを備えるOCTスキャンユニット326を含んでいる。
【0039】
OCTシステム120,320の第1のスキャンミラー124,324と第2のスキャンミラー125,325は、アクチュエータ301,302,303,304によって、互いに垂直に延びる2つの軸305,306,307、308を中心として回転運動可能なように配置されている。このことは、OCT走査光路190,390を互いに独立して1つの平面でスキャンすることを可能にする。
【0040】
図1に示す手術用顕微鏡100の光学的な観察光路の物体平面に対する、OCT走査平面の調整を操作者に可能にするために、集光レンズ131,331および光導波路127,327の射出端部133,333の位置調節可能性が意図されている。そのために、集光レンズ131,331と光導波路127,327に駆動ユニット371,372,373、374が割り当てられている。これらの駆動ユニットによって、集光レンズ131,331と光導波路127,327を二重矢印374,375,376、377に示すように変位させることができる。それによって特に、OCT走査平面の位置を変えられるばかりでなく、希望する値に合わせた光導波路127,327の射出端部の拡大ないし縮小も行うことができる。
【0041】
図4は、図1の光導波路127の前面区域402を示している。光導波路127は波長λ1=1310nmの光に対してモノモードファイバとして作用する。光導波路127のファイバコアの直径dは次式、
【数1】

を満たしており、このときNAは光導波路の前面の開口数である。したがって光導波路127のファイバコアの直径dは、5μm<d<10μmの範囲内にあるのが好ましい。このパラメータ範囲内では、光導波路127はガウス形の波長モードで光を案内する。OCT走査光線401は、胴部パラメータW1と開口パラメータθ1とによって特徴づけられる、近似的にガウス形の放射断面形状で光導波路127から射出され、このとき次式が成り立つ。
【数2】

【0042】
したがって、d1=10μmのファイバコア直径と波長λ1=1310nmについては、光線発散を表す目安としてθ0≒0.0827radの開口角が得られる。
【0043】
光導波路122の前面402は、図1に示す手術用顕微鏡100にあるスキャンミラー124、125、集光レンズ130、ビーム分割鏡150、反射鏡107、顕微鏡主対物レンズ系101を介して、OCT走査平面195へ物体領域108で結像される。
【0044】
図5は、OCT走査光線401の強度分布の推移をOCT走査平面501に対して垂直に示している。OCT走査平面501では、OCT走査放射の強度分布は最小の狭隘部を有している。OCT走査平面の範囲外では、OCT走査光路の直径が増加していく。OCT走査光線401は図4の光導波路122から近似的にガウス形の放射断面形状で射出されるので、集光レンズ130と顕微鏡主対物レンズ系101は、OCT走査光線にとってOCT走査平面195の領域で、OCT走査光線401のいわゆるガウス光束500を惹起する。このガウス光束500は、ガウス光束の胴部の縦方向長さを表す目安としての共焦点パラメータzによって、および、OCT走査光線401の最小の狭隘部502の直径を表す目安としての、すなわちその胴部の直径を表す目安としての胴部パラメータWによって特徴づけられ、このとき次式が成り立つ:
【数3】

ここでλ1はOCT走査光線の波長である。ガウス光束500の胴部パラメータWと、図4に示す、光導波路122から射出される走査光線401の胴部パラメータW1との間には、次の関係が成り立つ:
W=βW1
ここでβは、OCT走査平面における図1の光導波路122の射出端部の上に述べた幾何学的結像の拡大パラメータないし縮小パラメータである。βは、図1のコリメート光学系130の焦点距離f1と、顕微鏡主対物レンズ系101と拡大システム108とを備える顕微鏡結像光学系の焦点距離f2との間で、次の関係によって結びついている:
2/f1=β
【0045】
OCTシステムの位置調節可能なコリメート光学系は、顕微鏡結像光学系の結像倍率の変化に合わせて、これに対応するOCT光路の結像パラメータβを適合化することを可能にする。この適合化のために、該当するそれぞれの結像倍率が等しく選択されるのが好ましい。
【0046】
それにより、OCT走査光路の特定のスキャンパターンについて、図1の手術用顕微鏡100の接眼レンズを覗き込んだときに観察者に呈示される観察画像に合わせて、当該スキャンパターンが自動的に適合化される。
【0047】
OCT走査光線401によって解像することができる構造のサイズは、OCT走査平面195におけるその直径によって決まり、すなわち胴部パラメータWによって決まる。たとえば、ある用途が手術用顕微鏡におけるOCTシステムの約40μmの横解像度を必要とする場合、ナイキストの定理により、表面におけるOCT走査光線401の断面積は約20μmでなければならない。したがって、図1に示すOCT走査光線123の波長がλのとき、OCTシステム120の希望する解像度のためには、OCT光路の光学的な結像の倍率と、光導波路122のファイバコアの直径とを適切に選択しなくてはならない。
【0048】
ガウス光束の胴部の縦方向長さを表す目安としての共焦点パラメータzは、図1のOCT走査光路190で後方散乱された光を検出することができる軸方向の深部領域を決める。すなわち、共焦点パラメータzが小さくなるほど、OCT走査放射で走査される物体からOCT走査平面195までの距離で、横解像度に関わるOCTシステムの損失は大きくなる。散乱中心の場所は、胴部パラメータWおよび共焦点パラメータzによって決まる「漏斗」の内部でしか、特定することができないからである。
【0049】
一方では、OCTシステムの軸方向解像度は、OCTシステムで使用される光源の光のコヒーレンス長lcによって制限されており、他方では、OCTシステムの横解像度は、その深度ストロークが共焦点パラメータを超えると減少するので、OCTシステムの深度ストロークに合わせて共焦点パラメータzを調整するのが好都合である。
【0050】
そしてOCT走査光線401の特定の波長λについて、図1のOCTシステムの可能な横解像度が得られる。波長λとレイリーパラメータzが胴部パラメータWを決めるからである。そして、図1に示すOCT走査光路190の光学系ユニット、および光導波路122のファイバコアの寸法設定を、該当する胴部パラメータが生じるように選択することができる。同様のことは、手術用顕微鏡の第2のOCTシステム320のOCT走査光路にある光学系ユニットについても当てはまる。
【0051】
図1に示す手術用顕微鏡100は、可視スペクトル領域についての顕微鏡主対物レンズ101の焦点面103と、手術用顕微鏡のOCTシステムのOCT走査平面195とが一致するように設計されている。そうすれば、図5に示す該当するOCT走査光線の胴部502は手術用顕微鏡の焦点面に位置する。
【0052】
手術用顕微鏡のこのような設計に代えて、OCT走査平面と手術用顕微鏡の焦点面とのオフセットが意図されてもよい。このようなオフセットは、OCT走査平面の領域におけるOCT走査光線の共焦点パラメータよりも大きくないのが好ましい。このことは、たとえば手術用顕微鏡の焦点面のすぐ下に位置する物体領域を、OCTによって視覚化することを可能にする。あるいは特定の用途については、たとえば手術用顕微鏡によって患者の目の角膜の表面を検査できるようにし、それと同時にOCTシステムによって患者の目の角膜の裏面またはそのレンズを視覚化するために、共焦点パラメータを上回る決められたオフセットを設けるのが有意義である。
【0053】
OCT走査平面を共焦点パラメータzの分だけさらに図1の顕微鏡主対物レンズ系101から遠ざけることによって、物体領域におけるOCTシステムの深度ストロークを最大にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】OCTシステムが組み込まれた第1の手術用顕微鏡である。
【図2】手術用顕微鏡の顕微鏡主対物レンズを示す図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】第1および第2のOCTシステムを備えている手術用顕微鏡の区域である。
【図4】手術用顕微鏡でOCTシステムの光導波路から射出されるOCT走査光線の強度分布である。
【図5】手術用顕微鏡の物体領域のOCT走査平面におけるOCT走査光線の強度分布である。
【符号の説明】
【0055】
100 手術用顕微鏡、101 顕微鏡主対物レンズ系、108 拡大システム、109 観察光路、114 物体領域、120 OCTシステム、190 OCT走査光路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡主対物レンズ系(101)および拡大率を可変な拡大システム(108)を含み、物体領域(114)に由来する収束観察光路(109)を平行な光路へと移行させる顕微鏡結像光学系(101,108)と、
前記顕微鏡結像光学系(101,103)を通る、物体領域を検査するための観察光路(109)と、
物体領域(114)を検査するためのOCTシステム(120,320)とが設けられている、手術用顕微鏡(100)であって、
前記OCTシステム(120,320)は前記顕微鏡結像光学系(101,108)を通して案内されるOCT走査光路(190,390)を提供することを特徴とする手術用顕微鏡。
【請求項2】
前記OCT走査光路(190,390)を前記観察光路(109,110)に入力結合し、それによってこれを前記観察光路(109)へ重ね合わせたうえで前記顕微鏡結像光学系を通して物体領域(114)へ案内する入力結合部材(112)が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の手術用顕微鏡。
【請求項3】
ディスプレイ表示器(113)が設けられており、前記OCT走査光路(190,390)のための前記入力結合部材(112)はディスプレイ情報の入力結合部材としての作用をして前記観察光路(109)にディスプレイ情報を重ね合わせることを特徴とする請求項3に記載の手術用顕微鏡。
【請求項4】
前記入力結合部材(112)は、平面鏡またはビーム分割キューブとして構成されたビーム分割鏡として構成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の手術用顕微鏡。
【請求項5】
前記顕微鏡結像光学系(101,108)と前記入力結合部材(112)の間に、前記観察光路(109)から像情報を出力結合するための出力結合部材(141)が配置されていることを特徴とする請求項2から4までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項6】
前記顕微鏡結像光学系の前記拡大システムは無限焦点レンズ系(108)として構成されていることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項7】
前記無限焦点のレンズ系はズームシステム(108)として構成されていることを特徴とする請求項6に記載の手術用顕微鏡。
【請求項8】
前記OCTシステム(120)は前記OCT走査光路(190)をスキャンするために第1の回転軸(306)を中心として動かすことができる第1のスキャンミラー(124)を含んでいることを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項9】
第2の回転軸(306)を中心として動かすことができる第2のスキャンミラー(125)がさらに設けられており、前記第1の回転軸(306)と前記第2の回転軸(305)は側方にオフセットされて互いに直角をなしていることを特徴とする請求項8に記載の手術用顕微鏡。
【請求項10】
前記OCTシステムは前記OCT走査光路(190,390)のための光射出区域(402)を有する光導波路(127,327)を含んでおり、前記光導波路(127,327)の前記光射出区域(402)を動かすための手段(371,372)が設けられていることを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項11】
前記OCTシステムは平行な走査光路(109)を前記入力結合部材(112)に供給するコリメート光学系(130)を含んでいることを特徴とする請求項1から10までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項12】
前記OCT走査光路(190)に、OCT走査平面(195)への前記光導波路(127,327)の射出端部(402)の幾何学的結像を調整するために、位置調節可能な光学系(130,131,331)が設けられていることを特徴とする請求項1から11までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項13】
位置調節可能な前記光学系(130,131,331)には駆動ユニット(373,374)が付属していることを特徴とする請求項12に記載の手術用顕微鏡。
【請求項14】
前記OCTシステムは第1の波長をもつ第1のOCT走査光線を提供するため、および、前記第1の波長とは異なる第2の波長をもつ第2のOCT走査光線を提供するように設計されていることを特徴とする請求項1から13までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項15】
波長の異なるOCT走査光線(190,390)を提供するために第1のOCTシステム(120)と第2のOCTシステム(320)が設けられていることを特徴とする請求項1から14までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項16】
前記手術用顕微鏡(100)の作業間隔(180)が変化したときに、前記OCTシステム(120,320)における参照光路の光学的な経路長の相応の変化を調整するために、前記顕微鏡結像光学系(101,108)と前記OCTシステム(120,320)との結合器が設けられていることを特徴とする請求項1から15までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項17】
前記手術用顕微鏡(100)の光学的な観察光路(109)における結像倍率と前記OCT走査光路(190)における結像倍率とを互いに適合化するために、前記顕微鏡結像光学系(101,108)と前記OCTシステム(120)の前記コリメート光学系(130)との結合器が設けられていることを特徴とする請求項1から16までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−264490(P2008−264490A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290529(P2007−290529)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(506085066)カール・ツアイス・サージカル・ゲーエムベーハー (17)
【Fターム(参考)】