説明

PID制御装置および制御パラメータ更新方法

【課題】PID制御のための制御パラメータとして、個々に最適な値を設定すること。
【解決手段】PID制御装置1の生成手段42は、所定の周波数で変化する信号あるいはデータを生成する。加算手段43は、生成手段42が生成した信号あるいはデータを、目標値に基づくPID制御信号あるいはPID制御データに加算し、PID制御対象21などへ供給する。更新手段41は、PID制御対象21などによる動作の検出信号あるいはデータに含まれる、所定の周波数で変化する信号あるいはデータに基づく変化量に応じてPID制御信号を生成するための制御パラメータ36を更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PID制御装置および制御パラメータ更新方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、シリアルプリンタを開示する。このシリアルプリンタは、エンコーダからの検出パルスに基づき用紙の実搬送速度を検出し、その実搬送速度を予め設定された通常速度用の目標速度パターンに沿った目標速度に一致させるように、紙送りモータをPID(Proportinal(比例)、Integral(積分)、Differential(微分))制御する。
【0003】
【特許文献1】特開2004−175082号公報(段落0036など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1にあるように、プリンタではPID制御が使用されている。PID制御では、たとえば検出する瞬時速度が目標速度に収束するように瞬時制御速度を得るために、比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインなどの多くの制御パラメータを使用する。そして、この制御パラメータは、プリンタを出荷する前に、たとえば製造時にプリンタのメモリに記憶される。出荷された各プリンタは、この製造時に組み込まれた制御パラメータを使用して、紙送りモータの速度などをPID制御することになる。
【0005】
したがって、たとえば紙送りモータにより駆動されるPFローラの軸受けなどに塗布されるグリスの粘性などが、プリンタの使用年数や環境変化により変化し、その結果として紙送りモータの駆動負荷が増減したとしても、プリンタは、製造時に組み込まれた制御パラメータを使用して、紙送りモータの速度などをPID制御することになる。
【0006】
また、紙送りモータの負荷は、プリンタ毎に異なる。そのため、製造する複数のプリンタに対して所定の制御パラメータを記憶させた場合、そのプリンタ毎に異なる負荷により、PID制御により実現される実際の動作は、プリンタ毎に異なるものとなってしまう。
【0007】
そして、制御パラメータの値には、このようなプリンタのばらつき、プリンタの使用環境の変化、プリンタの経年変化などを考慮したものが選択されることになる。各プリンタに設定される制御パラメータの値は、個々のプリンタに最適化されたものとはならない。
【0008】
なお、このような状況は、プリンタに限られるものではなく、たとえばスキャナや用紙搬送装置などの、PID制御を実行するPID制御装置において発生している。
【0009】
本発明は、PID制御のための制御パラメータとして、個々に最適な値を設定することができるPID制御装置およびPID制御パラメータ更新方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るPID制御装置は、所定の周波数で変化する信号あるいはデータを生成する生成手段と、生成手段が生成した信号あるいはデータを、目標値に基づくPID制御信号あるいはPID制御データに加算し、PID制御対象へ供給する加算手段と、PID制御対象による動作の検出信号あるいはデータに含まれる、所定の周波数で変化する信号あるいはデータに基づく変化量に応じてPID制御信号を生成するための制御パラメータを更新する更新手段と、を有するものである。
【0011】
この構成を採用すれば、PID制御装置は、自らが使用するPID制御用の制御パラメータを、PID制御対象による動作に応じて更新することができる。この更新をすることで、PID制御装置は、PID制御のための制御パラメータとして、個々に最適な値を設定することができる。
【0012】
本発明に係るPID制御装置は、上述した発明の構成に加えて、複数の離散的な調整周波数を記憶するメモリを有し、更新手段が、メモリに記憶される複数の調整周波数を1つずつ順番に生成手段に供給するものである。
【0013】
この構成を採用すれば、PID制御装置は、PID制御のための制御パラメータを、複数の調整周波数を考慮した値に設定することができる。
【0014】
本発明に係るPID制御装置は、上述した発明の各構成に加えて、メモリが、調整周波数毎に、複数の理想とする応答特性値を記憶し、更新手段が、各調整周波数を生成手段に供給したときの変化量に基づいて判断される応答特性と応答特性値とを比較し、応答特性が不足する場合には制御パラメータを増やすように更新し、応答特性が過剰である場合には制御パラメータを減らすように更新するものである。
【0015】
この構成を採用すれば、制御パラメータを、個々のPID制御装置の周波数応答特性が理想とする周波数応答特性に近づくように更新することができる。
【0016】
本発明に係るPID制御装置は、上述した発明の各構成に加えて、メモリが、調整周波数毎に、制御パラメータの調整量を記憶し、更新手段が、応答特性が、複数の理想とする応答特性値を基準とした所定の範囲内となるように、各調整周波数での更新処理を繰り返すものである。
【0017】
この構成を採用すれば、調整前の制御パラメータが、理想とする周波数応答特性での値から大きくずれていたとしてしも、個々のPID制御装置の周波数応答特性が理想とする周波数応答特性に近づくように更新することができる。
【0018】
本発明に係るPID制御パラメータ更新方法は、目標値に基づくPID制御信号あるいはPID制御データに、所定の周波数で変化する信号あるいはデータ加算し、PID制御対象へ供給するステップと、PID制御対象による動作の検出信号あるいはデータを蓄積するステップと、蓄積された検出信号あるいはデータに基づいて、その信号あるいはデータに含まれる、所定の周波数で変化する信号あるいはデータに基づく変化量に応じてPID制御信号を生成するための制御パラメータを更新するステップと、を有するものである。
【0019】
この方法を採用すれば、PID制御用の制御パラメータを、PID制御対象による動作に応じて更新することができる。この更新方法を採用することで、PID制御装置は、PID制御のための制御パラメータとして、個々に最適な値を設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係るPID制御装置および制御パラメータ更新方法を、図面に基づいて説明する。PID制御装置は、プリンタを例として説明する。制御パラメータ更新方法は、プリンタの動作の一部として説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係るプリンタ1の主な機構を示す構成図である。プリンタ1は、印刷データに基づくイメージを用紙Pに印刷する。
【0022】
プリンタ1は、たとえば図示外の外部I/F(インタフェース)により印刷データを受信すると、印刷媒体の一種としての用紙Pを給紙トレイ2から排紙トレイ3まで搬送し、その搬送途中において用紙Pへインクを吐出する。このような印刷を実現するために、プリンタ1は、給紙トレイ2から排紙トレイ3まで用紙Pを搬送する搬送機構と、その印刷媒体の搬送経路上に設定される印刷位置において用紙Pへインクを吐出する吐出機構と、を有する。
【0023】
給紙トレイ2や排紙トレイ3は、たとえばA4サイズの用紙Pなどが載置可能なサイズを有する。排紙トレイ3は、プリンタ1をテーブル上に載置したときに略水平となる姿勢で、プリンタ1の図示外の筐体により保持される。給紙トレイ2は、プリンタ1をテーブル上に載置したときにその一端が他端より下がった傾斜姿勢で、プリンタ1の図示外の筐体により保持される。給紙トレイ2は、排紙トレイ3側の端部が他端より下がる傾斜姿勢に保持される。給紙トレイ2に載置される用紙Pは、給紙トレイ2の下端部に位置決めされる。
【0024】
搬送機構は、主に、LD(ロード)ローラ5、用紙ガイド6、PF(ペーパーフィード)ローラ7、プラテン8、排紙ローラ9などを有する。
【0025】
LDローラ5は、図1に示すように、給紙トレイ2の下端部と対向する位置に配設される。LDローラ5は、図1の紙面に略垂直な方向を回転軸として、回転可能である。LDローラ5は、円板の一側部が切り欠かれた略板かまぼこ形状の断面を有する。LDローラ5の外周部には、図示外のゴム部材などが配設される。
【0026】
LDローラ5は、印刷をしていないとき、その切欠き部位が給紙トレイ2と対向し、且つ給紙トレイ2と離間する姿勢で停止する。そのため、給紙トレイ2に載置された用紙Pは、LDローラ5と給紙トレイ2との間の隙間に入り込む。なお、給紙トレイ2は、その下端部に、LDローラ5と接離可能なホッパー、分離部材などを有するものであってもよい。この場合、LDローラ5は、ホッパーや分離部材と対向する位置に配設される。LDローラ5および給紙トレイ2は、自動給紙ユニット(ASF)10として一体化されている。
【0027】
用紙ガイド6、PFローラ7、プラテン8および排紙ローラ9は、自動給紙ユニット10と排紙トレイ3との間に、略一列に並べて配設される。
【0028】
用紙ガイド6は、その上面が略平らな板形状の部材である。
【0029】
PFローラ7は、略円柱形状のローラである。PFローラ7の上側には、従動ローラ11が配設される。PFローラ7および従動ローラ11は、図1の紙面に略垂直な方向を回転軸として、回転可能に配設される。
【0030】
プラテン8は、図示外の複数のガイドリブを有する。複数のガイドリブは、プラテン8の上面に形成される。プラテン8は、ガイドリブの延在方向が印刷媒体の搬送方向に沿う向きとなる姿勢で配設される。なお、プラテン8は、用紙Pと異なる色、たとえば黒色などの樹脂材料により形成するとよい。また、プラテン8には、スポンジなどのインク受容部材を配設するようにしてもよい。インク受容部材は、複数のガイドリブの間において、ガイドリブより上方へ突出しないように配設するとよい。
【0031】
排紙ローラ9は、略円柱形状のローラである。排紙ローラ9の上側には、従動ローラ12が配設される。排紙ローラ9および従動ローラ12は、図1の紙面に略垂直な方向を回転軸として、回転可能に配設される。
【0032】
以上の構成を有する搬送機構の上方には、吐出機構が配設される。吐出機構は、主に、キャリッジ軸14、キャリッジ15、インクタンク16、記録ヘッド17などを有する。
【0033】
キャリッジ軸14は、円柱形状の軸部材である。キャリッジ軸14は、PFローラ7の上方において、図1の紙面に略垂直な方向に延在する向きで配設される。
【0034】
キャリッジ15は、プラテン8の上方に位置するように、キャリッジ軸14により保持される。キャリッジ15は、キャリッジ軸14の軸方向へ移動可能である。
【0035】
インクタンク16は、液体インクを収容する容器である。インクタンク16は、キャリッジ15に着脱可能に配設される。プリンタ1では、一般的に4〜9色のインクを使用する。1つのインクタンク16は、1色分のインクを収容するものであっても、複数色のインクを収容するものであってもよい。なお、インクタンク16は、キャリッジ15とは別に設けられるインクタンクユニットに着脱可能に配設されてもよい。この場合、インクタンク16のインクは、図示外のチューブによりインクタンクユニットからキャリッジ15へ供給するようにすればよい。
【0036】
記録ヘッド17は、複数のインク吐出ノズル18を有する。各インク吐出ノズル18の内側には、図示外のピエゾ素子が配設される。ピエゾ素子は、所定の電圧パルスが印加されると、変形する。ピエゾ素子の変形により、インク吐出ノズル18内に充填されるインクは、インク吐出ノズル18から吐出される。
【0037】
記録ヘッド17は、キャリッジ15の下面に配設される。記録ヘッド17は、プラテン8と対向する。記録ヘッド17に備えられる複数のインク吐出ノズル18は、プラテン8に向かってインクを吐出する向きに配設される。この記録ヘッド17とプラテン8との間が、用紙Pにインクを吐出する印刷位置となる。
【0038】
図2は、図1のプリンタ1の機構を制御する、プリンタ1の駆動制御系の主な構成を示すブロック図である。
【0039】
プリンタ1は、PFモータ21、図示外のCR(キャリッジ)モータなどのアクチュエータを有する。PFモータ21は、PFモータドライバ22により駆動が制御される。PFモータ21は、PFローラ7、排紙ローラ9、LDローラ5を回転駆動する。CRモータは、キャリッジ15を駆動する。
【0040】
なお、プリンタ1は、この他にたとえばASFモータ、APG(Auto Paper Gap)モータ、従動ローラレリースモータ、ポンプモータ、加圧モータ、インクセレクタモータなどを有するものであってもよい。ASFモータは、PFモータ21の替わりにLDローラ5を回転駆動する。APGモータは、PFローラ7と従動ローラ11との間隔および排紙ローラ9と従動ローラ12との間隔を調整する。ポンプモータは、記録ヘッド17内のインクを吸引する。加圧モータは、キャリッジ15とは別体のインクタンクユニットからキャリッジ15へインクを圧送する。インクセレクタモータは、複数のインクの中から1つのインクを選択し、それを記録ヘッド17へ供給する。
【0041】
また、プリンタ1は、PFセンサ23、PW(ペーパーワイド)センサ24、リニアエンコーダ25、ロータリエンコーダ26などのセンサを有する。PFセンサ23は、給紙ローラとPFローラ7との間に設けられ、用紙ガイド6上の印刷媒体の有無を検出する。PWセンサは、キャリッジ15の下面に配設され、印刷位置へ供給される印刷媒体の有無を検出する。リニアエンコーダ25は、キャリッジ15のキャリッジ軸14方向の移動を検出する。
【0042】
ロータリエンコーダ26は、図1に示すように、ロータ26aと、光学センサ26bとを有する。ロータ26aは、PFローラ7と一体的に回転する。光学センサ26bは、ロータ26aが所定量回転する毎に、ロータ26aの外周部に形成されたスリット26cを検出し、パルス信号を出力する。パルス信号のパルス幅や周期は、ロータ26aの回転速度に応じて変化する。ロータ26aの回転速度が早くなるほど、光学センサ26bが出力するパルス信号のパルス幅や周期は短くなる。
【0043】
また、プリンタ1は、制御部31を有する。制御部31には、ロータリエンコーダ26などのセンサからの検出信号が入力される。制御部31は、PFモータ21などのアクチュエータへの制御信号を出力する。なお、制御部31が出力する制御信号は、直接にPFモータ21などのアクチュエータへ供給されるのではなく、実際には上述したPFモータドライバ22などのドライバを介して供給される。PFモータドライバ22などのドライバは、制御部31からの制御信号にしたがってPFモータ21などの駆動を制御する。
【0044】
なお、制御部31は、たとえば図示外のマイクロコンピュータが図示外の制御プログラムを実行することで実現される。制御部31は、複数のマイクロコンピュータが共働することで実現されてもよい。たとえば制御部31は、印刷データに基づいてプリンタ1の目標制御データを生成するマイクロコンピュータと、このマイクロコンピュータからの目標制御データに基づいてアクチュエータを制御するDCユニット用のマイクロコンピュータとで構成されていてもよい。制御部31において生成される目標制御データには、たとえばPFモータ21の目標速度や、PFモータ21の回転量に対応する目標位置などがある。目標制御データの値は、適宜更新される。DCユニット用のマイクロコンピュータは、目標制御データの値が更新されると、新たな値に基づいた制御を開始する。
【0045】
また、制御部31を実現するためにマイクロコンピュータにより実行される制御プログラムは、たとえば図2中のメモリ37に記憶されていればよい。制御プログラムは、プリンタ1の出荷時に予め組み込まれたものであっても、プリンタ1の出荷後に組み込まれたものであってもよい。プリンタ1の出荷後に組み込まれる制御プログラムは、たとえばCD−ROMなどのコンピュータ読取可能な記録媒体によりユーザへ提供されたり、インターネットなどの伝送媒体を介してユーザへ提供されたりすればよい。
【0046】
プリンタ1の制御部31には、プリンタ1の動作モードに応じて異なる機能が実現される。プリンタ1の動作モードには、たとえば印刷モード、PID制御パラメータ更新モードなどがある。印刷モードは、印刷データに基づく印刷を実行するモードである。PID制御パラメータ更新モードは、用紙搬送のためのPID制御に使用する制御パラメータ36を更新するモードである。
【0047】
印刷モードでは、制御部31には、たとえば図示外の印刷シーケンス実行部、図示外のキャリッジ駆動制御部、搬送制御部32、出力部33、速度演算部34、位置演算部35などが実現される。
【0048】
速度演算部34は、ロータリエンコーダ26の検出信号の、単位時間当たりのパルス数に基づいて、PFローラ7の瞬時回転速度を演算する。
【0049】
位置演算部35は、ロータリエンコーダ26の検出信号の、所定のタイミングからの累積パルス数に基づいて、PFローラ7の瞬時検出位置を演算する。
【0050】
搬送制御部32には、用紙搬送のための目標速度や目標位置などの目標制御データが供給される。搬送制御部32は、PFモータ21の駆動速度をPID制御する。具体的には、搬送制御部32は、PFローラ7の瞬時回転速度が目標速度となるように瞬時制御速度を生成する。また、搬送制御部32は、PFローラ7の瞬時検出位置が目標位置となるタイミングでPFモータ21が停止するように瞬時制御速度を生成する。なお、搬送制御部32がPID制御に使用する制御パラメータ36は、たとえばメモリ37に記憶される。制御パラメータ36には、たとえば比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインなどがある。
【0051】
搬送制御部32が生成した瞬時制御速度は、印刷モードでは、そのまま出力部33に供給される。出力部33は、供給された瞬時制御速度に応じた制御信号をPFモータドライバ22へ出力する。
【0052】
キャリッジ駆動制御部には、キャリッジ15の目標速度、インク吐出パターンなどの目標制御データが供給される。キャリッジ駆動制御部は、リニアエンコーダ25の検出に基づくキャリッジ15の瞬時移動速度が目標速度となるように、CRモータの駆動速度をPID制御する。キャリッジ駆動制御部は、キャリッジ15の位置が所定の位置になると、インク吐出パターンの電圧を、記録ヘッド17の複数のピエゾ素子に印加する。ピエゾ素子は、所定の電圧パルスが印加されると変形し、インク吐出ノズル18からインクが吐出される。
【0053】
印刷シーケンス実行部は、印刷シーケンスを実行する。印刷シーケンス実行部は、印刷データに基づいて目標制御データを生成する。給紙トレイ2に載置される用紙Pに対して印刷をするためには、給紙トレイ2上の用紙Pを印刷位置へ搬送し、印刷位置に供給されている用紙Pに対してインクを吐出し、印刷位置に供給されている用紙Pを送り、さらに印刷が完了した用紙Pを給紙位置から排紙トレイ3へ搬送する必要がある。
【0054】
これらの各段階の制御のために、印刷シーケンス実行部は、目標制御データを生成する。給紙トレイ2上の用紙Pを印刷位置へ搬送するための目標制御データとしては、たとえば用紙搬送の目標速度、用紙Pを停止させる目標位置などがある。印刷位置に供給されている用紙Pに対してインクを吐出するための目標制御データとしては、たとえばキャリッジ15の目標速度、インク吐出パターンなどがある。印刷位置に供給されている用紙Pを送るための目標制御データとしては、たとえば用紙Pを停止させる目標位置などがある。印刷が完了した用紙Pを給紙位置から排紙トレイ3へ搬送するための目標制御データとしては、たとえば用紙搬送の目標速度、駆動時間などがある。
【0055】
印刷シーケンス実行部は、印刷データに基づいて、これらの各段階での目標制御データを生成する。各段階での目標制御データの値は、印刷シーケンス実行部により適宜更新される。
【0056】
印刷シーケンス実行部は、生成した目標制御データを、搬送制御部32やキャリッジ駆動制御部へ供給する。印刷シーケンス実行部は、たとえばまず給紙トレイ2上の用紙Pを印刷位置へ搬送するための目標制御データを搬送制御部32へ供給し、次にインクを吐出するための目標制御データをキャリッジ駆動制御部へ供給し、次に用紙Pを送るための目標制御データを搬送制御部32へ供給し、次に印刷が完了した用紙Pを給紙位置から排紙トレイ3へ搬送するための目標制御データを搬送制御部32へ供給する。
【0057】
このように印刷シーケンス実行部は、印刷データに基づく制御段階にしたがった所定の順番で目標制御データを供給する。搬送制御部32は、その目標制御データにしたがってPFモータ21をPID制御により駆動し、給紙トレイ2上の用紙Pを印刷位置へ搬送する。キャリッジ駆動制御部は、目標制御データにしたがってCRモータをPID制御により駆動し、且つ、記録ヘッド17からインク吐出パターンにてインクを吐出させる。搬送制御部32は、目標制御データにしたがってPFモータ21をPID制御により駆動し、印刷位置へ供給されている用紙Pを送る。キャリッジ駆動制御部および搬送制御部32は、インク吐出パターンが無くなるまで、インク吐出駆動制御と、紙送り制御とを繰り返す。インク吐出パターンが無くなると、搬送制御部32は、目標制御データにしたがってPFモータ21をPID制御により駆動し、印刷位置にある用紙Pを排紙トレイ3へ排出する。これにより、給紙トレイ2上の用紙Pは、排紙トレイ3まで搬送され、その間に印刷イメージに基づく画像が印刷される。
【0058】
このように印刷モードでは、瞬時制御速度を生成する搬送制御部32、出力部33、PFモータドライバ22、PFモータ21、PFローラ7、ロータリエンコーダ26、速度演算部34および位置演算部35により、制御閉ループが構成される。
【0059】
PID制御パラメータ更新モードでは、制御部31には、図2に示すように、更新手段としての調整シーケンス実行部41、搬送制御部32、生成手段としての正弦波発生部42、加算手段としての加算部43、出力部33、速度演算部34、位置演算部35、ログ蓄積部44などが実現される。搬送制御部32、出力部33、速度演算部34および位置演算部35は、印刷モードにおける同名の構成要素と同じものである。また、PID制御パラメータ更新モードでは、印刷モードでの制御閉ループに加算部43を加えた制御閉ループが形成される。
【0060】
ログ蓄積部44は、速度演算部34が生成するPFローラ7の瞬時回転速度と、位置演算部35が生成するPFローラ7の瞬時検出位置とをメモリ37に蓄積する。これにより、メモリ37には、PFローラ7の瞬時回転速度を蓄積した検出速度ログ46と、PFローラ7の瞬時検出位置を蓄積した検出位置ログ47とが生成される。
【0061】
正弦波発生部42は、複数の瞬時正弦波のデータで構成される正弦波のデータを生成する。
【0062】
加算部43には、搬送制御部32が生成する瞬時制御速度と、正弦波発生部42が生成する瞬時正弦波とが供給される。加算部43は、供給される瞬時制御速度と瞬時正弦波とを加算し、出力部33へ供給する。
【0063】
調整シーケンス実行部41は、メモリ37に記憶される調整基準速度48、調整テーブル49を使用して所定の調整シーケンスを実行する。調整シーケンスにおいて、調整シーケンス実行部41は、搬送制御部32、正弦波発生部42、ログ蓄積部44を使用する。調整シーケンス実行部41は、メモリ37に記憶される制御パラメータ36を更新する。
【0064】
調整基準速度48は、調整シーケンスにおいて搬送制御部32へ供給される目標速度である。
【0065】
図3は、図2中のメモリ37に記憶される調整テーブル49のデータ構造を示す図である。調整テーブル49は、調整周波数毎の複数のレコードを有する。図3において横一列がたとえば1つのレコードである。図3の調整テーブル49は、AからOまでの調整周波数用の15個のレコードを有する。調整周波数は、調整シーケンスにおいて正弦波発生部42に供給される。また、調整周波数毎のレコードは、調整順のデータ、理想ゲイン範囲のデータ、理想位相範囲のデータ、制御パラメータ36の調整量のデータなどを有する。制御パラメータ36の調整量のデータは、さらに不足時の比例ゲインの調整量のデータ、不足時の積分ゲインの調整量のデータ、不足時の微分ゲインの調整量のデータ、過剰時の比例ゲインの調整量のデータ、過剰積分ゲインの調整量のデータ、過剰時の微分ゲインの調整量のデータなどで構成される。なお、調整順の値などは、図3に例示される値とは異なるものであってもよい。
【0066】
図4は、印刷モードやPID制御パラメータ更新モードにおいて形成される制御閉ループのゲインの周波数特性図である。横軸は、周波数であり、図の右側ほど高い周波数となる。横軸にそって、左側から順番にAからOの15個の調整周波数が図示されている。縦軸は、ゲインである。
【0067】
図4において、制御閉ループの理想ゲイン特性は、一点鎖線で示される。図4に示す理想ゲイン特性は、調整周波数Aから調整周波数Iまでに相当する周波数範囲でのゲインが1であり、それ以上の周波数ではゲインが減衰し、調整周波数Oではゲインが略0に近くなる特性である。
【0068】
また、図4において、制御閉ループのゲインの理想範囲は、斜線で示される。制御閉ループのゲインの理想範囲は、理想ゲイン特性に基づいて決定される。制御閉ループの理想ゲイン特性は、ゲインの理想範囲に含まれる。
【0069】
また、図4において、制御閉ループのゲインの調整前特性の一例は、点線で示される。制御閉ループのゲインの調整後特性の一例は、実線で示される。調整前のゲイン特性では、調整周波数H、I、Jなどにおいてゲインが、ゲインの理想範囲より低くなっており、ゲインが不足している。調整後のゲイン特性は、その全体がゲインの理想範囲内となっている。なお、ゲインはたとえば調整周波数Oにおいてゲインが過剰となり、ゲインの理想範囲より高くなることもある。
【0070】
ゲインが不足する場合、これをゲインの理想範囲内とするためには、ゲインを上げる必要がある。不足時の比例ゲインの調整量のデータ、不足時の積分ゲインの調整量のデータおよび不足時の微分ゲインの調整量のデータは、この調整に使用される。比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインは、調整テーブル49に設定された値で加算される。
【0071】
逆に、ゲインが過剰である場合、これをゲインの理想範囲内とするためには、ゲインを下げる必要がある。過剰時の比例ゲインの調整量のデータ、過剰時の積分ゲインの調整量のデータおよび過剰時の微分ゲインの調整量のデータは、この調整に使用される。比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインは、調整テーブル49に設定された値で減算される。
【0072】
次に、以上の構成を有するプリンタ1の動作を説明する。ここでは、PID制御パラメータ更新モードによる、PID制御用の制御パラメータ36の更新動作を説明する。
【0073】
図5は、PID制御パラメータ更新モードにおいて調整シーケンス実行部41が実行する動作のフローチャートである。
【0074】
図6は、PID制御パラメータ更新モードにおける各構成要素の動作を示すタイミングチャートである。図6のタイミングチャートには、図の上側から順番に、瞬時制御速度(搬送制御部32の出力)と、瞬時正弦波(正弦波発生部42の出力)と、瞬時検出速度(速度演算部34の出力)と、が示されている。
【0075】
なお、PID制御パラメータ更新モードは、たとえばプリンタ1の製造時や、プリンタ1の出荷後に適宜実行するようにすればよい。プリンタ1の出荷後に実行するタイミングとしては、たとえば月や年単位での所定の使用期間を過ぎる度であったり、所定の印刷枚数毎であったり、所定の環境変化が生じる度であったりすればよい。この他にもたとえば、プリンタ1には、PFモータ21などの動作負荷の変化などを測定するためのメジャメント動作をするものがある。PID制御パラメータ更新モードは、そのメジャメント動作毎に実施したり、その測定結果が過去のものから大きく変化したときに実施するようにしたりしてもよい。PFローラ7の軸受けなどに塗布されるグリスの粘性などは、プリンタ1の使用年数や環境変化により変化する。グリスの粘性が増減すると、PFモータ21の駆動負荷も増減する。
【0076】
図5に示すように、調整シーケンス実行部41は、まず、メモリ37から調整基準速度48を読み込み、それを目標速度として搬送制御部32へ供給する(ステップST1)。
【0077】
搬送制御部32は、目標速度が供給されると、瞬時制御速度を出力する。この時点では、調整シーケンス制御部31は、正弦波発生部42に正弦波の出力を指示していない。そのため、加算部43は、搬送制御部32が出力する瞬時制御速度をそのまま出力部33へ供給する。出力部33は、供給された瞬時制御速度に応じた制御信号をPFモータドライバ22へ出力する。PFモータドライバ22は、PFモータ21の駆動を開始する。
【0078】
PFモータ21の駆動が開始されると、PFローラ7や排紙ローラ9などが回転し始める。ロータリエンコーダ26のロータ26aも、PFローラ7とともに回転する。ロータリエンコーダ26の光学センサ26bは、ロータ26aが所定量回転する毎に、パルス信号を出力する。速度演算部34は、単位時間当たりのロータリエンコーダ26の検出信号のパルス数に基づいて、PFローラ7の瞬時回転速度を演算する。また、位置演算部35は、所定のタイミングからのロータリエンコーダ26の検出信号の累積パルス数に基づいて、PFローラ7の瞬時検出位置を演算する。
【0079】
速度演算部34により演算される瞬時検出速度は、搬送制御部32へ供給される。搬送制御部32は、メモリ37からPID制御用の制御パラメータ36を読み込み、読み込んだ制御パラメータ36を用いて、PFローラ7の瞬時回転速度が目標速度となるように瞬時制御速度を生成する。搬送制御部32は、出力する瞬時制御速度を新たに演算したものへ更新する。
【0080】
PID制御用の制御パラメータ36を用いて演算される瞬時制御速度は、基本的に、瞬時回転速度と目標速度との差が大きいほど、大きい差により更新される。PFモータ21の回転速度が上がり、その結果として瞬時回転速度が目標速度に近づくと、瞬時制御速度はだんだんと小さな差で更新されるようになる。調整基準速度48が目標速度である場合、瞬時制御速度は、図6に例示するように、ある時間が経過すると、目標速度としての調整基準速度48に略一致する速度となる。
【0081】
調整基準速度48を搬送制御部32へ目標速度として供給した後、調整シーケンス実行部41は、メモリ37の調整テーブル49から、調整順が1番のレコードを読み込む(ステップST2)。図3の調整テーブル49では、調整周波数Iのレコードが調整順の1番である。調整シーケンス実行部41は、正弦波発生部42に調整周波数Iの正弦波の出力を指示するとともに、ログ蓄積部44にログの蓄積開始を指示する(ステップST3)。
【0082】
正弦波発生部42は、図6に示すように、最初の瞬時正弦波のデータの1回目の出力を開始する。瞬時正弦波の値は、調整シーケンス実行部41により指示された調整周波数Iで変化する。また、ログ蓄積部44は、速度演算部34が生成するPFローラ7の瞬時回転速度と、位置演算部35が生成するPFローラ7の瞬時検出位置とをメモリ37に蓄積する。これにより、メモリ37には、PFローラ7の瞬時回転速度を蓄積した検出速度ログ46と、PFローラ7の瞬時検出位置を蓄積した検出位置ログ47とが生成される。
【0083】
正弦波発生部42が発生した瞬時正弦波のデータは、加算部43に供給される。加算部43は、正弦波発生部42から供給される瞬時正弦波に、搬送制御部32が生成する瞬時制御速度を加算し、出力部33へ供給する。出力部33は瞬時正弦波が加算された速度に応じた制御信号をPFモータドライバ22へ出力する。PFモータドライバ22は、PFモータ21の駆動速度をこの新たな制御信号に応じた速度へ変更する。PFローラ7、ロータリエンコーダ26のロータ26aの回転速度が増減する。ロータリエンコーダ26の検出信号のパルス数や、速度演算部34が演算するPFローラ7の瞬時回転速度も増減する。
【0084】
瞬時制御速度に瞬時正弦波が加えられたことによって速度演算部34が演算するPFローラ7の瞬時回転速度が増減すると、瞬時回転速度と目標速度との差も増減する。搬送制御部32は、この新たな瞬時回転速度の増減に応じて瞬時制御速度を更新する。このように、搬送制御部32は、その出力に外乱としての正弦波が加算されると、その加算される正弦波に応じて瞬時制御速度を更新する。たとえば、正弦波の周波数におけるゲインが1であり且つ位相遅れが無いとすると、搬送制御部32は、瞬時制御速度を、その出力に外乱として加算される正弦波と逆相で変化させる。
【0085】
また、この外乱としての正弦波が加算されている期間において、ログ蓄積部44は、速度演算部34が演算する瞬時検出速度と、位置演算部35が演算する瞬時検出位置とをメモリ37に蓄積する。メモリ37には、複数の瞬時検出速度からなる検出速度ログ46と、複数の瞬時位置速度からなる検出位置ログ47とが生成される。
【0086】
正弦波発生部42に調整周波数Iの正弦波の出力を指示し且つログ蓄積部44にログの蓄積開始を指示した後、調整シーケンス実行部41は、2周期以上の期間が経過したか否かを判断する(ステップST4)。そして、調整周波数Iの2周期以上の期間が経過した場合、調整シーケンス実行部41は、正弦波発生部42に調整周波数Iの正弦波の出力終了を指示し、ログ蓄積部44にログの蓄積終了を指示する(ステップST5)。なお、調整シーケンス実行部41は、3周期以上の所定の周期期間が経過したか否かを判断するようにしてもよい。
【0087】
正弦波出力およびログ蓄積を終了させた後、調整シーケンス実行部41は、メモリ37に蓄積された検出速度ログ46および検出位置ログ47を読み込み、ゲインおよび位相を演算する(ステップST6)。その後、調整シーケンス実行部41は、応答特性が基準内であるか否かを判断する(ステップST7)。
【0088】
図3では、調整周波数Iについての理想ゲイン範囲は、0.95〜1となっている。演算したゲインが0.95より小さい場合、調整シーケンス実行部41は、応答特性が基準内ではないと判断する。調整シーケンス実行部41は、図5の制御シーケンスを開始してからのその調整周波数Iでの調整回数が所定回数以下であると判断した上で(ステップST8)、メモリ37に記憶される制御パラメータ36を更新する(ステップST9)。
【0089】
PID制御に用いる制御パラメータ36には、比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインなどがある。調整シーケンス実行部41は、これら比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインの値を、調整テーブル49に記憶される不足時の制御パラメータ36の調整量の値、あるいは過剰時の制御パラメータ36の調整量の値で増減する。たとえば演算したゲインが理想ゲイン範囲より低くてゲインが不足している場合、調整シーケンス実行部41は、メモリ37に記憶される比例ゲインの値を、それより0.1大きい値へ変更する。
【0090】
制御パラメータ36を更新した後、調整シーケンス実行部41は、図6に示すように再び、正弦波発生部42に調整周波数Iの正弦波の出力を指示するとともに、ログ蓄積部44にログの蓄積開始を指示する。また、調整シーケンス実行部41は、メモリ37に蓄積された検出速度ログ46および検出位置ログ47に基づいて、更新された制御パラメータ36に基づくゲインおよび位相を演算し、応答特性が基準内であるか否かを判断する(ステップST3〜7)。
【0091】
図6に示すように、制御パラメータ36が更新されることで、調整周波数Iでの2回目の瞬時検出速度の2周期目以降の振幅は、制御パラメータ36が更新される前の1回目の瞬時検出速度の2周期目以降の振幅より小さくなる。これは、瞬時制御速度は、調整周波数Iでの瞬時検出速度の変化に好適に追従するように、搬送制御部32により更新されたことを意味する。
【0092】
なお、調整周波数Iでの瞬時検出速度の変化に追従しないように瞬時制御速度が更新されることもある。この場合、調整周波数Iでの2回目の瞬時検出速度の2周期目以降の振幅は、制御パラメータ36が更新される前の1回目の瞬時検出速度の2周期目以降の振幅より大きくなる。
【0093】
そして、調整周波数Iでの調整処理において演算したゲインが0.95以上、1以下になると、調整シーケンス実行部41は、応答特性が基準内であると判断する(ステップST7)。調整シーケンス実行部41は、調整周波数Iでの調整処理を終了する。
【0094】
なお、この2回目の判断においても応答特性が基準内ではないと判断する場合、調整シーケンス実行部41は、メモリ37に記憶される制御パラメータ36を、調整テーブル49に基づいて再び更新する(ステップST8〜ST9)。調整シーケンス実行部41は、応答特性が基準内となるまで、ステップST2〜ST9までの調整処理を繰り返す。また、ステップST8の判断において調整周波数Iでの調整回数が所定回数に達したと判断すると、調整シーケンス実行部41は、調整周波数Iでの調整処理を終了する。
【0095】
調整周波数Iについての調整処理を終了すると、調整シーケンス実行部41は、調整テーブル49のすべての調整周波数についての応答特性判断が完了したか否かを判断する(ステップST10)。調整周波数Iについての調整処理は、調整テーブル49の最初の調整周波数についての調整処理である。調整テーブル49の14個の調整周波数が未処理である。調整シーケンス実行部41は、調整テーブル49のすべての調整周波数についての応答特性判断が完了していないと判断する。
【0096】
調整シーケンス実行部41は、調整テーブル49から次の、すなわち2番目の調整順のレコードを読み込み、最初の調整周波数Iの場合と同じように検出調整処理を実行する(ステップST2〜ST9)。図6では、調整シーケンス実行部41は、1つ目の調整周波数での調整制御が2回で完了すると、2つ目の調整周波数での調整制御を開始している。
【0097】
調整シーケンス実行部41は、以上のように、調整テーブル49から調整順にしたがってレコードを1つずつ読み込み、その読み込んだレコードの調整周波数でのゲインおよび位相を調整する。調整シーケンス実行部41は、ステップST10の判断において、調整テーブル49のすべてのレコードについての応答特性判断が完了したと判断すると、PID制御用の制御パラメータ36の更新動作を終了する。
【0098】
以上のように、この実施の形態では、正弦波発生部42が、所定の単一の周波数で変化する正弦波のデータを生成する。加算部43は、この正弦波のデータを、搬送制御部32が生成する瞬時制御速度に加算する。ログ蓄積部44は、その正弦波が加算されたときの瞬時検出速度をメモリに蓄積する。調整シーケンス実行部41は、メモリに蓄積された瞬時検出速度に基づいて、制御パラメータ36の更新の要否を判断し、メモリ37に記憶される制御パラメータ36を更新する。
【0099】
特に、調整シーケンス実行部41は、メモリ37に記憶される複数の調整周波数について、理想的な応答特性の範囲に近づくように1つずつ順番に調整する。また、調整シーケンス実行部41は、各調整周波数における調整において、制御パラメータ36を少しずつ繰り返し更新する。
【0100】
したがって、調整後の制御パラメータ36は、その制御パラメータ36を記憶するプリンタ1において、略所望の理想に近い周波数応答特性のものとなる。調整前の制御パラメータ36が、理想とする周波数応答特性での値から大きくずれていたとしてしも、個々のPID制御装置の周波数応答特性が理想とする周波数応答特性に近づくように更新することができる。
【0101】
その結果、この調整後には、搬送制御部32は、その理想に近い周波数応答特性の制御パラメータ36を用いて、PID制御のための瞬時制御速度を生成することができる。プリンタ1は、PID制御のための制御パラメータ36として、個々に最適な値のものを使用することができる。特に、プリンタ1などのように、出荷後の保守サービスがなされない売り切りのPID制御装置であっても、そのPID制御用の制御パラメータ36を、理想的な値に設定し、維持することができる。プリンタ1などではインクミストなどにより経時的に特性が悪化する傾向にあるが、そのような悪化が多少生じたとしても、PID制御用の制御パラメータ36を理想的な値に維持することができる。
【0102】
以上の実施の形態は、本発明の好適な実施の形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【0103】
たとえば上記実施の形態では、搬送制御部32、正弦波発生部42などは、マイクロコンピュータに実現される機能ブロックとして実現されている。この他にもたとえば、搬送制御部32、正弦波発生部42などは、複数の部品を組合せて形成されてもよい。この場合、搬送制御部32や正弦波発生部42などは、速度データなどの替わりに、速度信号などを出力することになる。
【0104】
上記実施の形態では、調整シーケンス実行部41は、調整周波数毎に繰り返し調整をし、1つの調整周波数での調整が完了すると次の調整周波数での調整を実行している。この他にもたとえば、調整シーケンス実行部41は、調整テーブル49に記憶されるすべての調整周波数の調整を1度ずつ実行し、さらにそれを繰り返して実行するようにしてもよい。
【0105】
上記実施の形態は、プリンタ1のPFモータ21をPID制御するための制御パラメータ36を更新する場合を例として説明している。この他にもたとえば、プリンタ1のCRモータ、ASFモータ、APGモータ、従動ローラレリースモータ、ポンプモータ、加圧モータ、インクセレクタモータなどをPID制御し、このPID制御に使用する制御パラメータを更新するようにしてもよい。また、プリンタ1以外にも、たとえばスキャナ、用紙搬送装置などPID制御装置において、PID制御の制御パラメータを更新するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、用紙などの印刷媒体をPID制御により搬送するプリンタなどにおいて好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施の形態に係るプリンタの主な機構を示す構成図である。
【図2】図1のプリンタ1の駆動制御系の主な構成を示すブロック図である。
【図3】図2中のメモリに記憶される調整テーブルのデータ構造を示す図である。
【図4】制御閉ループのゲインの周波数特性図である。
【図5】PID制御パラメータ更新モードのフローチャートである。
【図6】PID制御パラメータ更新モードでのタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0108】
37 メモリ、41 調整シーケンス実行部(更新手段)、42 正弦波発生部(生成手段)、43 加算部(加算手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数で変化する信号あるいはデータを生成する生成手段と、
上記生成手段が生成した信号あるいはデータを、目標値に基づくPID制御信号あるいはPID制御データに加算し、PID制御対象へ供給する加算手段と、
上記PID制御対象による動作の検出信号あるいはデータに含まれる、上記所定の周波数で変化する信号あるいはデータに基づく変化量に応じて上記PID制御信号を生成するための制御パラメータを更新する更新手段と、
を有することを特徴とするPID制御装置。
【請求項2】
複数の離散的な調整周波数を記憶するメモリを有し、
前記更新手段は、上記メモリに記憶される複数の調整周波数を1つずつ順番に前記生成手段に供給することを特徴とする請求項1記載のPID制御装置。
【請求項3】
前記メモリは、前記調整周波数毎に、複数の理想とする応答特性値を記憶し、
前記更新手段は、各調整周波数を前記生成手段に供給したときの前記変化量に基づいて判断される応答特性と上記応答特性値とを比較し、応答特性が不足する場合には前記制御パラメータを増やすように更新し、応答特性が過剰である場合には前記制御パラメータを減らすように更新すること、
を特徴とする請求項2記載のPID制御装置。
【請求項4】
前記メモリは、前記調整周波数毎に、制御パラメータの調整量を記憶し、
前記更新手段は、応答特性が、複数の理想とする応答特性値を基準とした所定の範囲内となるように、各調整周波数での更新処理を繰り返すことを特徴とする請求項3記載のPID制御装置。
【請求項5】
目標値に基づくPID制御信号あるいはPID制御データに、所定の周波数で変化する信号あるいはデータ加算し、PID制御対象へ供給するステップと、
上記PID制御対象による動作の検出信号あるいはデータを蓄積するステップと、
上記蓄積された検出信号あるいはデータに基づいて、その信号あるいはデータに含まれる、上記所定の周波数で変化する信号あるいはデータに基づく変化量に応じて上記PID制御信号を生成するための制御パラメータを更新するステップと、
を有することを特徴とするPID制御パラメータ更新方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−219691(P2007−219691A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37575(P2006−37575)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】