説明

PLL回路

【課題】PLLのロック時間を高速化する。
【解決手段】PLLを構成するローパスフィルタ107に対して回路の最大電圧を与えて充電する。その過程でクロック計数カウンタ102が基準クロック10の一周期におけるVCO出力クロックの数をカウントし、所定の2時点でのカウント値により基準クロックとVCO出力クロック27に対する分周クロックとのロックポイントにおける位相差を推定する。この推定は、演算処理回路105において、VCO個体のカタログデータに基づいて行ない、カウンタロード値24を算出し、分周カウンタ109はこれを分周信号28、位相比較器106は該推定位相差とし、充電後にローパスフィルタに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPLL(Phase Locked Loop)回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、基準クロックに周波数ロックしたクロックを得るPLL回路では、基準クロックと電圧制御発振器(VCO)出力クロックを分周した信号の位相比較を行った後、位相比較信号をローパスフィルタ(LPF)によって直流分に変換し、直流信号をVCOに与えてVCO出力クロックを得る。このようなPLL回路の構成では、電源起動からロックするまでの時間はLPFを構成する抵抗ならびにコンデンサなどのデバイスの値によって決定し、所望のロックアップ時間を得られない場合はPLL回路のループ経路にデジタル処理を施して高速化を図る。
【0003】
PLLのロックアップ時間を速めるPLL回路の一例が特開2001−251186号(特許文献1)に記載されており、その構成を図7に示す。このPLL回路は、フエーズロックループ部分を構成するPLL部701と、シフト信号SSの供給に応答してVCO713Aの発振周波数帯を選択・シフトする選択信号Sを出力する周波数帯選択回路702と、最初に選択した発振周波数帯でVCO713Aに接地GNDを供給して自走発振させこのVCO出力信号VOを一定時間サンプリングして計数したサンプリング値COを生成するサンプリング回路703と、サンプリング値COと期待値EXとを比較し比較結果に対応して電圧制御切換信号SVとシフト信号SSとを出力する比較回路704と、期待値EXを保持する期待値レジスタ705で構成される。
【0004】
同図において、電源起動時からPLL回路がロックするまでの動作を説明する。初期条件として、VCO713Aの制御電圧信号SCは、切換回路715により接地GNDに接続されており、同時に周波数帯選択回路702からの選択信号Sで指定された発振周波数帯でVCO713Aは自走状態となる。この状態でタイマ回路731の出力のタイマ信号Tが’1’の期間である初期設定期間のときのみ、VCO713Aの自走状態の周波数をANDゲート732でサンプリングし、このゲート信号VGをカウンタ回路733でカウントする。この計数結果のカウント値であるサンプリング値COと期待値EXとを比較回路704で比較を行う。期待値EXは、PLL回路がロックする周波数、即ちロック周波数に相当する値である。
【0005】
比較回路704は、例えば大きい周波数帯域から選択をスタートさせると、期待値EXの方が大きい場合にシフト信号SSを周波数帯選択回路702に送る。周波数帯選択回路702は、シフト信号SSの供給に応答して選択信号Sをシフトし、切り換わった選択信号Sの供給に応答してVCO713Aは発振周波数帯を変える。比較回路704は、切り換わった発振周波数帯でカウントされたCOと期待値EXの方を比較し、EXが大きい場合は再度シフト信号SSを周波数帯選択回路702に送る。以下、周波数帯選択、カウント、比較を繰り返し、カウンタ回路出力COより期待値EXが小さくなるまでその処理を繰り返す。このように期待値に最も近い発振周波数帯を高速に選択させることでロック時間を早くしている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−251186(第4頁−第6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来のPLL回路では、時定数の大きいLPFの場合には高速にロックできないという第1の問題点がある。その理由は、LPFへの充電電圧は位相比較器からの電圧値に依存し、目的の周波数帯に到達する時間は選択された電圧とは無関係であるためである。一般に、PLL回路の基準周波数と出力クロック周波数の比率が大きい場合、ロック時間は長くなり、LPFの時定数は大きくなる。しかし、ロック時間は、目的の周波数帯で選ばれた中間電圧をLPFに与えて充電される時間よりも早くすることができない。即ち、製造バラツキの大きいVCOを使用した時にロック時間が長くなるということである。
【0008】
また、周波数帯選択の精度を上げる場合に回路規模が大きくなるという第2の問題点がある。その理由は、周波数帯選択の精度を上げるためには選択信号SSの本数が多くなり、それに対応したVCOのアナログ電圧制御ステイ構成が複雑になるからである。
【0009】
更に、参照する期待値はVCOのカタログデータで正確には決定することができず、ロック時間の期待値は信頼性に乏しいという第3の問題点がある。その理由は、例えばVCOデバイスである電圧制御水晶発振器の周波数許容偏差は、可変周波数範囲のおおよそ2分の1ほどであり、VCOの電圧制御範囲を0から3.3Vにし期待値を中心の1.65V対応の値とした場合は、期待値はこの±1/2に当たる0.825V〜2.475V対応の値の範囲でばらついてしまうからである。
【0010】
そこで、本発明の目的は、最も早い時間でLPFがロックポイントに到達するように制御することでPLLのロック時間を高速化したPLL回路を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、LPFやVCOを除いた全ての回路をデジタル化することで装置を小型化できるPLL回路を提供することにある。
【0012】
本発明の更なる目的は、ロック時間を理論値どおりとすることで装置の信頼性を高めることができるPLL回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のPLL回路は、PLLを構成するローパスフィルタに対して回路の最大電圧を与えて充電し、充電する過程で基準クロックの一周期におけるVCO出力クロックの数をカウントし、所定の2時点でのカウント値により基準クロックとVCO出力クロックに対する分周クロックとのロックポイントにおける位相差を推定し、充電後に該推定位相差をローパスフィルタに供給することを特徴とする。
【0014】
より詳しくは、本発明のPLL回路は、直流電圧の電位によって出力周波数を可変する電圧制御発振器(VCO)(図1の108)と、VCOが発生するVCO出力クロックを分周する分周カウンタ(図1の109)と、基準クロックと分周カウンタより得られる分周クロックの位相を比較し位相差を出力する位相比較器(図1の106)と、位相差を直流に変えてVCOに供給するローパスフィルタ(図1の107)で構成されるPLL回路において、該PLL回路全体の制御を行うステイトマシン(図1の101)と、基準クロックの立ち上がりをトリガとしてステイトマシンより与えられる設定時間を測定するタイマー(図1の100)と、基準クロックの一周期におけるVCO出力クロックのクロック数をカウントし、標準カウント値との差分値を出力するクロック計数カウンタ(図1の102)と、起動からタイマーにより設定されたn秒後のクロック計数カウンタからの差分値を保持する第1レジスタ(図1の103)と、タイマーにより設定された(n+m)秒後のクロック計数カウンタからの差分値を保持する第2レジスタ(図1の104)と、第2レジスタが保持する差分値と第1レジスタが保持する差分値との差分値からVCOの可変周波数範囲、第2レジスタが保持する差分値からVCOの中心周波数誤差をそれぞれ求め、求めた可変周波数範囲と中心周波数誤差からロックアップ時における位相差を求めて、これに対応するカウンタロード値を分周カウンタに出力する演算処理回路(図1の105)とを付加したことを特徴とする。
【0015】
また、位相比較器(図1の106)は、タイマーによる所定の設定時間の間、基準クロックと、該基準クロックの位相反転したクロックとの排他的論理和を前記ローパスフィルタへ出力することにより電源電圧を供給することを特徴とする。
【0016】
また、ロックアップポイントは、ステイトマシンにおいて、標準クロック数と、クロック計数カウンタから出力されるVCO出力クロックのクロック数との一致により検出することを特徴とする。
【0017】
また、演算処理回路(図1の105)は、複数のVCO個体に関するカタログデータを内蔵しており、カタログデータから、第2レジスタが保持する差分値を挟む最寄りの2つの相当差分値と、該相当差分値対応のVCO個体の中心周波数誤差とを抽出して、第2レジスタが保持する差分値との比例計算により中心周波数誤差を算出する第1手順と、カタログデータから、第2レジスタが保持する差分値と第1レジスタが保持する差分値との差分値を挟む最寄りの2つの相当差分値と、該相当差分値対応のVCO個体の可変周波数範囲とを抽出して、第2レジスタが保持する差分値と第1レジスタが保持する差分値との差分値との比例計算により可変周波数範囲を算出する第2手順と、算出した中心周波数誤差対可変周波数範囲の比に、位相一致の場合の位相角度を乗算して位相差を算出する第3手順と、算出した位相差に、基準クロックの一周期におけるVCO出力クロックのクロック数の半数を乗算してカウンタロード値を算出する第4手順とを有することを特徴とする。
【0018】
また、演算処理回路(図1の105)は、第2レジスタが保持する差分値と、第2レジスタが保持する差分値と第1レジスタが保持する差分値との差分値とにより、テーブルルックアップすることによりカウンタロード値を求めることができるROM(図8)を有するようにしてもよい。
【0019】
演算処理回路(図1の105)は、複数のVCO個体に関するカタログデータを内蔵しており、カタログデータから、第2レジスタが保持する差分値を挟む最寄りの2つの相当差分値と、該相当差分値対応のVCO個体の中心周波数誤差とを抽出して、第2レジスタが保持する差分値との比例計算により中心周波数誤差を算出する第1手順と、カタログデータから、第2レジスタが保持する差分値と第1レジスタが保持する差分値との差分値を挟む最寄りの2つの相当差分値と、該相当差分値対応のVCO個体の可変周波数範囲とを抽出して、第2レジスタが保持する差分値と第1レジスタが保持する差分値との差分値との比例計算により可変周波数範囲を算出する第2手順と、算出した中心周波数誤差および可変周波数範囲により、テーブルルックアップすることによりカウンタロード値を求めることができるROM(図9)を有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のPLL回路によれば、LPFに装置の最大電圧を供給して充電時間を最速にし、充電期間中に2点の時間軸でクロック数をカウントして基準値との差分を得ることによりVCOの可変周波数範囲および中心周波数の変動を判断してロックポイントの位相を計算することとしたため、最も速い時間でLPFがロックポイントに到達するように制御することでPLLのロック時間を高速化できるという効果がある。
【0021】
また、LPFやVCOを除いた全ての回路をデジタル化することでPLD(Programable Logic Array)などによる実現が可能となり、装置の小型化を可能にする効果もある。
【0022】
更に、VCOのカタログデータで回路のパラメータとロックポイントまでの制御工程が決定するので、ロック時間は理論値通りであり装置の信頼性が高くなるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[本発明の考え方]
発明の具体的な説明に入る前に、想到した技術思想について先ず説明する。PLL回路のロック時間はLPFの時定数とVCOの可変周波数範囲で決定する。更に、LPFの時定数は、基準クロックの周波数(基準周波数)とVCOの出力クロックの周波数(出力クロック周波数)の比率、ならびにダンピングファクタと呼ばれるPLLの係数ζで決定され、基準周波数と出力クロック周波数の比率が大きいほど時定数は大きくロック時間は長くなり、係数ζが大きいほど時定数は小さくロック時間は短くなる。
【0024】
例えば、オーディオコーデックで用いられる12.288MHzをVCOの中心周波数とし、可変周波数範囲を±90ppmとして1KHzの基準周波数にロックさせるPLL回路を例にすると、係数ζを2とした時、ロック時間は10秒となる。
【0025】
この場合のLPFに電源電圧3.3Vを入力した時のVCOの出力周波数と経過時間の関係を図3に示す。LPFに電源電圧を加えた時、中心周波数である12.288MHzへの到達時間は0.53秒であり、ロック時間の計算値10秒に対し約1/19である。従って、VCOがロックする周波数、即ちVCOに与える電圧が予め分かっていれば、その電圧への制御を行うことによって0.53秒に近い時間でロックすることが可能となる。本発明は、上記制御電圧に直結する数値を充電期間中に演算等により求めて早急にロックすることを図ったものである。
【0026】
ところで、可変周波数範囲ならびに中心周波数はVCOの製造バラツキにより変動する。以下にVCOの個体(個々のVCOをいう)による変動の特徴を述べる。
【0027】
図4は中心周波数誤差が0ppm、可変周波数範囲が±90ppmである個体A、中心周波数誤差が−20ppm、可変周波数範囲が±90ppmである個体B、中心周波数誤差が+20ppm、可変周波数範囲が±90ppmである個体CそれぞれのVCOのLPFに、電源電圧を与えた時のVCO出力クロックの周波数遷移を示す。
【0028】
図4を見て明らかなように、遷移の傾きは同じであり、ある任意の時点における出力周波数が異なる。従って、可変周波数範囲が同じVCOの中心周波数の変動を判断する場合は、ある任意の一時点を通過する時の周波数が分かれば、そのVCOの中心電圧における変動を知ることができる。
【0029】
図5は中心周波数誤差が0ppm、可変周波数範囲が±90ppmである個体A、中心周波数誤差が0ppm、可変周波数範囲が±110ppmである個体D、中心周波数誤差が0ppm、可変周波数範囲が±130ppmである個体EそれぞれのVCOのLPFに、電源電圧を与えた時のVCOの出力クロックの周波数遷移を示す。
【0030】
図5を見て明らかなように、遷移の傾きは可変周波数範囲で異なり、中心周波数を通過する時間は等しくなる。従って、直線の傾きが分かれば、そのVCOの可変周波数範囲を知ることができる。
【0031】
図6は中心周波数12.288MHzのVCOの出力クロック数を0.1秒ごとにカウントした値である。LPFは係数ζ=2、ロック時間=10秒で求められたものであり、0.1秒経過時と0.2秒経過時の個体A,B,C,D,Eのカウント値ならびに0.1秒経過時と0.2秒経過時の基準値との差分値を表示している。
【0032】
今、ここに0.1秒経過時の基準値との差分値が36、0.2秒経過時の基準値との差分値が23の個体Fがあるとする。この個体Fの中心周波数誤差と可変周波数範囲を図6の値を用いて求める。中心周波数誤差は、図4の説明で述べたとおり、ある任意の時間の周波数で求められる。個体Fの0.2秒時の差分値である23は、個体Aの0.2秒時の差分値である30と、個体Bの0.2秒時の差分値である5の間にあるので、以下の式を使って個体Fの中心周波数誤差を求めることができる。
(30−23)/(30−5)×−20[ppm]=−6[ppm] 式1
可変周波数範囲は、図5の説明で述べたとおり、周波数遷移の直線の傾きで求められる。図6の個体A、Eの0.2秒と0.1秒の差分値の差分を使って求められる。個体Fの0.2秒と0.1秒時のカウント値の差分は13であり、個体Aの差分である10と、個体Eの差分である15の間にあるので、以下の式を使って個体Fの可変周波数範囲を求めることができる。
【0033】
(13−10)/(15−10)×(130−90)+90=114[ppm] 式2
以上のようにして、個体Fは中心周波数誤差が−6ppm、可変周波数範囲が114のVCOデバイスであることが分かる。
【0034】
次に、上記で求めた中心周波数誤差と可変周波数範囲を使ってPLLの基準クロックとVCOクロック分周値の位相を求める。PLLの位相比較器に排他的論理和回路を用いた場合、位相検出は0から180度の範囲であり、基準周波数と分周値が全く同じである場合は90度の位相となる。個体Fの位相ずれは式3で求められる。
【0035】
変動/範囲×90[度]=−6/114×90=−4.7[度] 式3
個体Fにおいては−4.7度だけ中心よりずれた位相がロックポイントとなる。
[構成の説明]
さて、図1は本発明のPLL回路の一実施例を示すブロック図である。このPLL回路は、位相比較器106,LPF107,VCO108および分周カウンタ109により構成される一般的なPLL回路に、タイマー100,ステイトマシン101,クロック計数カウンタ102,Aレジスタ103,Bレジスタ104および演算処理回路105を付加した構成となっている。付加部分は、上述の例えば個体Fに対する位相ずれ、更には位相ずれに対応した位相比較器106に対する制御信号を生成する。
【0036】
位相比較器106は排他的論理和回路で実現され、基準クロック10と分周信号28との位相差信号26を出力する。位相差は0〜180度の範囲で出力され、基準クロック10と分周信号28が全く同じ周波数の場合は90度位相出力となる。
【0037】
LPF107は抵抗とコンデンサで実現され、位相差信号26を直流信号に変換し、VCO108の電圧制御信号25として出力する。基準クロック10とVCO出力クロック27の比が大きくなるにしたがってLPF107の時定数は大きくなる。
【0038】
VCO108は電圧制御信号25によって周波数を可変としたVCO出力クロック27を出力する。VCO出力クロック27は分周カウンタ109へ出力すると共に、クロック計数カウンタ102へも供給され、後述のように、VCO108の個体変動を反映した位相制御のために使用される。
【0039】
分周カウンタ109は、ロード信号21により、上記VCO108の個体変動を反映したカウンタロード値24をロードして、VCO出力クロック27をトリガとして分周信号28を出力し基準クロックとの位相を制御するのに供する。また、このような動作に先立って、ロード信号21により、基準クロック10と逆相になる値の分周信号28を基準クロック10の立ち上がり時にロードして位相比較器106へ供給する。
【0040】
ステイトマシン101は、基準クロック10と、タイマー100からのタイマー完了信号13ならびにクロック計数カウンタ102からのロックポイント通過検出信号14をトリガとして状態遷移しPLL回路全体の制御を行う。ステイトマシン101は、タイマー100へ時間設定値11とタイマー開始信号12を出力し、クロック計数カウンタ102へクリア信号15とイネーブル信号16ならびに標準値17を出力するとともに、Aレジスタ103へ書込み信号20、Bレジスタ104へ書込み信号19を出力する。標準値17とは、前述の例における中心周波数12.288MHzに対応するクロック計数カウンタ値であり、ステイトマシン101に予め埋め込まれている。
【0041】
更に、ステイトマシン101は分周カウンタ109へロード信号21を出力する。ロード信号21は、ステイト1〜4の間は基準クロック10と逆相になる値の分周信号28を基準クロック10の立ち上がりでロードし、それ以降はロード値24をVCO出力クロック27をトリガとしてロードし、それぞれ分周信号28として出力する。また、分周カウンタ109は、クロック計数カウンタ102からクロック計数カウンタ値18を入力しステイト遷移のために使用する。
【0042】
タイマー100は基準クロック10をトリガとして動作し、ステイトマシン101から出力されたタイマー開始信号12によってタイムカウントを開始し、時間設定値11で指定された設定タイマー時間経過後にタイマー完了信号13を出力する。
【0043】
クロック計数カウンタ102は、クリア信号15によってリセットされ、イネーブル信号16期間中のVCOの出力クロック27のクロック数を計数し、標準値17との差分値18およびクロック計数カウンタ値18−1を出力する。また、差分値18によりロックポイント通過検出信号14を出力する。
【0044】
Aレジスタ103はクロック計数カウンタ値18を書込み信号20によって記憶しAレジスタ出力値22を出力する。Aレジスタ103が記憶するクロック計数カウンタ値18は、先の例で言えば、固体Fの「36」ということになる。
【0045】
Bレジスタ104はクロック計数カウンタ値18を書込み信号19によって記憶しBレジスタ出力値23を出力する。Bレジスタ104が記憶するクロック計数カウンタ値18は、先の例で言えば、固体Fの「23」ということになる。
【0046】
演算処理回路105は、Aレジスタ出力値22とBレジスタ出力値23の差分からVCOの周波数可変範囲、Bレジスタ出力値23からVCO中心周波数誤差を判定し、ロック時の基準クロック10と分周信号28の位相差であるカウンタロード値24を分周カウンタ109へ出力する。演算処理回路105には、図6で示したようなテーブルが記憶されており、そのテーブルを使用する。テーブル内の各値はVCOのカタログデータであり、正確である。
【0047】
演算処理回路105は、先ず、Bレジスタ出力値23(先の例では23)に対して式1、Aレジスタ出力値22(先の例では13)に対して式2を適用する。式1と式2で使用する他の値は、前述のような考え方により演算処理回路105が上記のテーブルから自動的に抽出する。
【0048】
そして、式1で算出した中心周波数誤差(先の例では−5ppm)と、式2で算出した
可変周波数範囲(先の例では114ppm)に対して式3を適用して位相ずれ(先の例では−4.7度)を算出する。最後に、この位相ずれに対して、式4による演算を行なうことによりカウンタロード値24を算出する。
【0049】
位相×基準クロック内のカウンタ長÷2 式4
式4において、基準クロック内のカウンタ長とは、基準クロックの1周期内におけるVCO出力クロック27のカウント数であり、基準クロックが1KHz、VCO出力クロック27の中心周波数を12.288MHzとすると12288となる。また、2で除算するのは、位相比較器106を排他的論理和回路で構成するため、位相の可変範囲が180度となるからである。
[動作の説明]
次に、本発明のPLL回路の動作について、図2の状態遷移図に沿って説明する。図2は、ステイトマシン101におけるステイト0〜6の状態の遷移を示している。
[ステイト0]
電源起動時にステイトマシン101はリセットされ、リセット後にタイマー100へ第1の設定時間値11を送り、クリア信号15を出力し、ステイト1へ遷移する。
[ステイト1]
分周カウンタ109は、ロード信号21により、基準クロック10と逆相になる値の分周信号28を基準クロック10の立ち上がり時にロードする。位相比較器106は、排他的論理和回路で構成され、上記分周信号28と基準クロック10との排他的論理和出力はステイト1の全期間で論理1になる。これによりLPF107へ電源電圧を供給して充電する。
【0050】
ステイトマシン101からクロック計数カウンタイネーブル信号16が出力され、クロック計数カウンタ102は、タイマー完了信号13の入力によって定められる第1の設定時間の間、VCOクロック27のクロック数をカウントする。タイマー100から第1の設定時間経過時にタイマー完了信号13が出力されるとカウントを停止する。
【0051】
ステイトマシン101はAレジスタ103へ書き込み信号20を出力するとともにタイマー100へ第2の時間設定値11を出力し、クリア信号15を出力し、ステイト2へ遷移する。第1の設定時間経過時は、図6の0.1秒経過時に相当し、測定された個体の0.1秒時のクロック計数値の標準値17との差分がAレジスタ103に書き込まれる。
[ステイト2]
分周カウンタ109はステイト1と同じく、基準クロック10と分周信号28が逆相になる値を基準クロック10の立ち上がり時にロードし、位相比較器106の出力を全期間で論理1にすることでLPF107へ電源電圧を供給して充電する。
【0052】
ステイトマシン101からクロック計数カウンタイネーブル信号16が出力され、クロック計数カウンタ102は、タイマー完了信号13の入力によって定められる第2の設定時間の間、VCOクロック27のクロック数をカウントする。タイマー100から第2の設定時間経過時にタイマー完了信号13が出力されるとカウントを停止する。
【0053】
ステイトマシン101はBレジスタ104へ書き込み信号19を出力するとともにクリア信号15を出力し、ステイト3へ遷移する。第2の設定時間経過時は、図6の0.2秒経過時に相当し、測定された個体の0.2秒時のクロック計数値の標準値17との差分BAレジスタ104に書き込まれる。
[ステイト3]
分周カウンタ109はステイト2と同じく、基準クロック10と分周信号28が逆相になる値を基準クロック10の立ち上がり時にロードし、位相比較器106の出力を全期間で論理1にすることでLPF107へ電源電圧を供給して充電する。
【0054】
演算処理回路105はAレジスタ103とBレジスタ104の値からロックポイントの位相差を計算し、それに相当するカウンタロード値24を出力する。
【0055】
ステイトマシン101からイネーブル信号16が出力され、クロック計数カウンタ102は基準クロック10の1周期の間のVCOクロック27のクロック数をカウントする。その結果、クロック計数カウンタ102が標準クロック数、即ちPLLのロックポイント値を通過すると、ステイトマシン101へロックポイント通過検出信号14を出力し、ステイトマシン101はタイマー100へ第3の時間設定値11を出力し、ステイト4へ遷移する。
[ステイト4]
分周カウンタ109はステイト3と同じく、基準クロック10と分周信号28が逆相になる値を基準クロック10の立ち上がり時にロードし、位相比較器106の出力を全期間で論理1にすることでLPF107へ電源電圧を供給して充電する。
【0056】
タイマー100から第3の設定時間経過時にタイマー完了信号13が出力されると、ステイトマシン101はタイマー100へ第4の時間設定値11を出力し、ステイト5へ遷移する。
【0057】
ステイト4はLPF107への過充電期間である。ステイト5でロックポイント電圧を供給するとLPF107の出力電圧は低下するため、過充電期間を必要とする。参考として挙げている中心周波数12.288MHzのVCO107と1KHzの基準クロック10のPLL回路の場合、ステイト4は約0.4秒となる。タイマー100から第3の設定時間経過時にタイマー完了信号13が出力されると、ステイトマシン101はステイト5へ遷移する。
[ステイト5]
分周カウンタ109は基準クロック10の立ち上がり時に演算処理回路105から出力されるカウンタロード値24を第4の設定時間の間だけロードし、LPF107を介してVCO108へロックポイント電圧を供給する。
【0058】
第4の設定時間は位相比較器106よりロックポイント位相値が出力されてからLPF107へ安定してロック電圧が供給されるまでの時間となる。参考として挙げている中心周波数12.288MHzのVCO108と1KHzの基準クロック10のPLL回路の場合、ステイト5は約0.3秒となる。
【0059】
[ステイト6]
ステイトマシンは待機状態となりPLL回路は通常動作となる。
[他の実施例]
次に、演算処理回路105の他の実施例について説明する。以上の説明では、演算処理回路105は、式1〜式4による演算によりカウントロード値を求めるとしている。ここでは、装置を小型化する構成を提案する。
【0060】
図8は、式1〜式4をROM化し、このROMの一方の入力にAレジスタが保持する差分値を導き、他方の入力にBレジスタが保持する差分値を導く。この2入力でROMテーブルをルックアップすることによりカウンタロード値24を求めるようにした構成例である。これは、ROMへ入力する差分値のビット数が充分に小さい場合に好適であって、この場合は演算部が不要になる。ROMは、Aレジスタが保持する差分値とBレジスタが保持する差分値を変数として、これに対する式1〜式4による算出結果をテーブル化したものである。式1と式2による算出の詳細は、前述の演算処理回路105における説明のとおりである。
【0061】
図9は、式3と式4をROM化し、このROMの一方の入力に式1の演算結果を導き、他方の入力に式2の演算結果を導く。この2入力でROMテーブルをルックアップすることによりカウンタロード値24を求めるようにした構成例である。これは、ROMへ入力する差分値のビット数が大きい場合に好適であって、この場合は式1および式2による演算部を必要とする。ROMは、式1の演算結果と式2の演算結果を変数として、これに対する式3および式4による算出結果をテーブル化したものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のPLL回路の一実施例の構成を示すブロック図
【図2】図1に示した実施例の動作を示す状態遷移図
【図3】VCOの出力周波数の遷移を示す図
【図4】LPF経由で電源電圧を与えた時のVCO出力周波数遷移の一例を示す図
【図5】LPF経由で電源電圧を与えた時のVCO出力周波数遷移の他の例を示す図
【図6】VCOのカタログデータを例示した図
【図7】本発明のPLL回路の動作を示すタイミングチャート
【図8】本発明のPLL回路における演算処理回路の他の例を示すブロック図
【図9】本発明のPLL回路における演算処理回路の更に他の例を示すブロック図
【図10】従来例のPLL回路の一例を示すブロック図
【符号の説明】
【0063】
100 タイマー
101 ステイトマシン
102 クロック計数カウンタ
103 Aレジスタ
104 Bレジスタ
105 演算処理回路
106 位相比較器
107 LPF
108 VCO
109 分周カウンタ
10 基準クロック
11 時間設定値
12 タイマー開始信号
13 タイマー完了信号
14 ロックポイント通過検出信号
15 クリア信号
16 イネーブル信号
17 標準値
18 クロック計数カウンタ値
19 書込み信号
20 書込み信号
21 ロード信号
22 Aレジスタ出力値
23 Bレジスタ出力値
24 カウンタロード値
25 電圧制御信号
26 位相差信号
27 クロック
28 分周信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PLLを構成するローパスフィルタに対して回路の最大電圧を与えて充電し、充電する過程で基準クロックの一周期におけるVCO出力クロックの数をカウントし、所定の2時点でのカウント値により前記基準クロックと前記VCO出力クロックに対する分周クロックとのロックポイントにおける位相差を推定し、前記充電後に該推定位相差を前記ローパスフィルタに供給することを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
直流電圧の電位によって出力周波数を可変する電圧制御発振器(VCO)と、
前記VCOが発生するVCO出力クロックを分周する分周カウンタと、
基準クロックと前記分周カウンタより得られる分周クロックの位相を比較し位相差を出力する位相比較器と、
前記位相差を直流に変えて前記VCOに供給するローパスフィルタで構成されるPLL回路において、
該PLL回路全体の制御を行うステイトマシンと、
前記基準クロックの立ち上がりをトリガとして前記ステイトマシンより与えられる設定時間を測定するタイマーと、
前記基準クロックの一周期における前記VCO出力クロックのクロック数をカウントし、前記標準カウント値との差分値を出力するクロック計数カウンタと、
起動から前記タイマーにより設定されたn秒後の前記クロック計数カウンタからの差分値を保持する第1レジスタと、
前記タイマーにより設定された(n+m)秒後の前記クロック計数カウンタからの差分値を保持する第2レジスタと、
前記第2レジスタが保持する差分値と前記第1レジスタが保持する差分値との差分値からVCOの可変周波数範囲、前記第2レジスタが保持する差分値からVCOの中心周波数誤差をそれぞれ求め、求めた可変周波数範囲と中心周波数誤差からロックアップ時における位相差を求めて、これに対応するカウンタロード値を前記分周カウンタに出力する演算処理回路とを付加したことを特徴とするPLL回路。
【請求項3】
前記位相比較器は、前記タイマーによる所定の設定時間の間、前記基準クロックと、該基準クロックの位相反転したクロックとの排他的論理和を前記ローパスフィルタへ出力することにより電源電圧を供給することを特徴とする請求項2に記載のPLL回路。
【請求項4】
前記ロックアップポイントは、前記ステイトマシンにおいて、前記標準クロック数と、前記クロック計数カウンタから出力される前記VCO出力クロックのクロック数との一致により検出することを特徴とする請求項2〜請求項に3記載のPLL回路。
【請求項5】
前記演算処理回路は、
複数のVCO個体に関するカタログデータを内蔵しており、
前記カタログデータから、前記第2レジスタが保持する差分値を挟む最寄りの2つの相当差分値と、該相当差分値対応のVCO個体の中心周波数誤差とを抽出して、前記第2レジスタが保持する差分値との比例計算により前記中心周波数誤差を算出する第1手順と、
前記カタログデータから、前記第2レジスタが保持する差分値と前記第1レジスタが保持する差分値との差分値を挟む最寄りの2つの相当差分値と、該相当差分値対応のVCO個体の可変周波数範囲とを抽出して、前記第2レジスタが保持する差分値と前記第1レジスタが保持する差分値との差分値との比例計算により前記可変周波数範囲を算出する第2手順と、
前記算出した中心周波数誤差対可変周波数範囲の比に、位相一致の場合の位相角度を乗算して前記位相差を算出する第3手順と、
前記算出した位相差に、前記基準クロックの一周期における前記VCO出力クロックのクロック数の半数を乗算して前記カウンタロード値を算出する第4手順とを有することを特徴とする請求項2〜請求項4に記載のPLL回路。
【請求項6】
前記演算処理回路は、
前記第2レジスタが保持する差分値と、前記第2レジスタが保持する差分値と前記第1レジスタが保持する差分値との差分値とにより、テーブルルックアップすることにより前記カウンタロード値を求めることができるROMを有することを特徴とする請求項2〜請求項4に記載のPLL回路。
【請求項7】
前記演算処理回路は、
複数のVCO個体に関するカタログデータを内蔵しており、
前記カタログデータから、前記第2レジスタが保持する差分値を挟む最寄りの2つの相当差分値と、該相当差分値対応のVCO個体の中心周波数誤差とを抽出して、前記第2レジスタが保持する差分値との比例計算により前記中心周波数誤差を算出する第1手順と、
前記カタログデータから、前記第2レジスタが保持する差分値と前記第1レジスタが保持する差分値との差分値を挟む最寄りの2つの相当差分値と、該相当差分値対応のVCO個体の可変周波数範囲とを抽出して、前記第2レジスタが保持する差分値と前記第1レジスタが保持する差分値との差分値との比例計算により前記可変周波数範囲を算出する第2手順と、
前記算出した中心周波数誤差および可変周波数範囲により、テーブルルックアップすることにより前記カウンタロード値を求めることができるROMを有することを特徴とする請求項2〜請求項4に記載のPLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−231959(P2009−231959A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72248(P2008−72248)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(303013763)NECエンジニアリング株式会社 (651)
【Fターム(参考)】