説明

PVD被膜形成方法

本発明は、金属酸化物、窒化物、若しくは炭化物、又はそれらの混合物の被膜を形成する方法に関するものであり、これによれば、アルゴンと反応性ガスとの混合ガス(5、6)中で、200Wcm-2より大きいピークパルス電力で、一個以上のターゲット(3)における高電力インパルス・マグネトロン・スパッタリングHIPIMS放電を操作することにより、成膜速度が向上すると共に反応性ガス分圧フィードバックシステムの必要性が除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高成膜速度を有する大電力パルス・マグネトロン・スパッタリング(HIPIMS)法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬いPVD被膜は、下に置かれる材料を酸化及び磨耗から保護するためにしばしば使用されている。そのような硬い被膜は、反応性マグネトロン・スパッタリングのようなPVD法によって蒸着される。反応性スパッタガスを用いることは問題を引き起こす、というのも所望の材料が、金属表面に比較して異なる特性を有する電気絶縁層のような層をターゲット表面上に形成するからである。特に、反応されるターゲット表面のスパッタ率又は電子放射率が金属表面のそれとは異なっているとき、プロセスを不安定にするヒステリシス効果が発生する。
【0003】
確立されたPVD技術は、ターゲット上における厚い被反応層の形成を避けるために、二重マグネトロンつまり二重マグネトロン・スパッタリング(DMS)及び直流パルス電力によってどのように硬質被膜を反応的に蒸着するかを教示している。被反応ターゲット表面からの低いスパッタ率についての問題は依然として残り;所望の複合物を獲得するために、ある特定の反応ガス分圧が必要とされるが、同時にターゲット表面は反応物によって同様に覆われる。結果はよく知られたヒステリシス問題であり、前記ヒステリシス問題は、反応ガスの流量を制御するための多少とも複雑な(圧力、光学的、又は電気的)フィードバックシステムによって通常は克服される。
【0004】
大電力パルス・マグネトロン・スパッタリング(HIPMS)は、金属被膜の蒸着、又は例えばCrNのような金属窒化物を反応性HIPIMSによって導くために用いられている。TiO2は、HIPIMSを利用してセラミックTiO1.8ターゲットから成長されて高速度が達成された。HIPMISは、アルミナの反応性スパッタリングに使用されてきたが、従来のヒステリシス現象と酸素流量のフィードバック制御とをともなっており、また成膜速度はパルスDCスパッタリングに比較して25〜30%だけであった。他の問題は、混合金属酸化物、窒化物、炭化物、又はそれらの混合物の被膜が蒸着されるとき、異なる金属ターゲットが反応して、異なる反応性ガス分圧においてヒステリシス効果を示し、混合金属硬質被膜を共に蒸着することを、不可能でないなら、困難にする。
【0005】
XRDアモルファス・アルミナ層を蒸着するために、反応性アルゴン/酸素混合気において、アルミニュウムターゲットを備えるマグネトロン及びHIPIMS電源をどのように操作するかについてもよく知られている。前記層がナノメータサイズのガンマ・アルミナ粒子を含んでいるとしても、微細構造は多孔性であって、多くの被膜の用途における蒸着層の適合性を低下させる。
【0006】
HIPIMS技術を利用した蒸着は、グロッカー(Glocker)他による「酸化ジルコニウム及び酸化タンタルの大電力パルス反応性スパッタリング」、2004年真空被膜学会(Society of Vacuum Coaters)505/856−7188、ISSN0737−5921、第47回年次技術会議議事録(2004年4月24〜29日)、米国テキサス州ダラス、頁183〜186、コンスタンチニディス(Konstantinidis)他による、「大パルスマグネトロン・スパッタリングによって蒸着された酸化チタン薄膜」、固体薄膜(Thin Solid Film)、第515巻、2006年11月23日、No.3、頁1182〜1186、スプロール(Spraul)他による「高インパルス・マグネトロン・スパッタリング(HPPMS)を用いる酸化アルミナ被膜の反応性スパッタ蒸着」2004年真空被膜学会505/856−7188、ISSN0737−5921、第47回年次技術会議議事録(2004年4月24〜29日)、米国テキサス州ダラス、頁96〜100、及びミュエンツ(Muenz)他による、独国特許出願公開第102005033769号に記載されている。しかしながら、上述の問題は解決されるべきものとしてまだ残っている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、成膜速度が速く、且つ反応性ガス分圧フィードバックシステムに対する必要性が除かれる方法を提供することである。さらに、広い表面上への均一な被膜の蒸着が可能にされ、及び発明された方法によって、異なる金属又は合金のターゲットから混合金属酸化物、窒化物、炭化物、又はそれらの混合物の共蒸着が可能にされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】真空蒸着装置の概略図である。
【図2】本発明の一実施形態により被覆されたインサートの走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の一実施形態により被覆されたインサートからのX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によると、例えば切削及び成形用工具への、並びに金属薄板への、並びに例えば表面技術、装飾、及び表面保護の目的のための構成要素への、特にアルミナを含む混合金属酸化物、窒化物、炭化物、又はそれらの混合物の被膜を形成するためのマグネトロン・スパッタリング法が提供される。切削工具インサートへの被膜の蒸着に利用される方法が、図1を参照して、以下によって実行される。
【0010】
超硬合金、サーメット、立方晶窒化硼素、ダイヤモンド、セラミック、又は高速度鋼のような硬質材料の基材、好適には超硬合金の基材が準備され、金属酸化物、窒化物、炭化物、又はそれらの混合物の適切な化学量論的結晶性の被膜を成長させるために、前記基材上に良好な付着性の硬質耐磨耗性被膜がマグネトロン・スパッタリングを用いて蒸着され、蒸着は、ターゲットの表面を本質的に金属状態に維持する一方で、同時に基材における反応性条件を維持することに基礎を置く。これは、損害を与えるヒステリシス性プロセス挙動を選択された動作点においてターゲット表面が有する程度にはターゲット表面が反応性ガスによって反応されないことを意味している。これは、アルゴンと反応性ガスとを含む混合ガス中で、200Wcm-2より大きいピークパルス電力で、好適には少なくとも320Wcm-2で、及び好適には15mTorr以下の全圧、より好適には10mTorr以下の全圧、最も好適には6mTorr以下の全圧で、一以上のターゲット(3)におけるHIPIMS放電を操作することによって達成される。得られた層の化学量論組成と、スパッタ・ターゲットの反応性ガス被覆率とを測定すると、ターゲットが反応性ガスによって極く僅かに覆われる状態の下で、層の完全な化学量論組成が達成されることが驚くべきことに見出される。
【0011】
さらに驚くべきことに、ヒステリシス効果が減少又は除去され、従ってパルスDCスパッタリングの場合のように成膜速度が低下しないことが見出される。従って、反応性ガス分圧フィードバックシステムに対する必要性が解消される。動作点におけるヒステリシスがない場合、プロセスは、酸素流量の各選択値に対するよく規定された特性パラメータを有する安定したモードで作動され得る。
【0012】
HIPIMSでは、高ピークパルス電力は、スパッタされた原子のイオン密度を非常に高め、従ってスパッタリングがターゲット金属イオンによって実行され、このことはHIPIMSにおける低成膜速度をもたらす。驚くべきことに、本発明による方法を適用することによって達成された速度は、先行技術に比較して少なくとも3倍速い。
【0013】
基材として準備された適切なタイプの切削工具が、真空チャンバ内において本発明の次の実施形態による金属酸化物被膜で被覆される。
【0014】
基材(10)に標準的な清浄化処置を施した後、基材は、蒸着中に回転操作可能な基材ホルダ(4)に搭載される。蒸着面積、即ち基材ホルダ(4)とそこに搭載された基材(10)の露出した表面の合計は、一個以上のターゲットの合計面積の好適には少なくとも10倍であり、一個以上のターゲットの合計面積の好適には10〜25倍であり、ターゲット(3)を備える少なくとも一つのマグネトロン・スパッタ源から好適には6cmの最小距離で、より好適には8〜20cmの間の距離にある。基材ホルダ(4)は電気的に浮遊しているか、接地されているか、又はオプションのバイアス電源(8)に接続されているかであり、前記バイアス電源(8)は、当業者に一般的な方法に従って、直流又は交流又はパルス直流作動モードを備えるものである。ターゲット(3)の材料は、所望の被膜の金属組成によって選択される。ターゲット(3)が搭載されるマグネトロン源のタイプは、平衡形又は不平衡形又は調節式の磁石システムを有する任意の標準的な市販の構造又は特別な構造であってよく、その形状は例えば円形又は長方形であってよい。
【0015】
蒸着は真空チャンバ(1)内で実行され、前記真空チャンバ(1)は最初に高真空ポンプ(2)によって5×10-4Torr未満まで、好適には5×10-6Torr未満まで排気される。蒸着前に、基材(10)は、300〜900℃、好適には450〜700℃、最も好適には570〜630℃の間の温度まで好適に加熱される。アルゴンがスパッタガスとして用いられ、前記アルゴンは第1弁又は質量流量制御器(5)をとおして真空チャンバ(1)内に導かれる。一定流量のアルゴンが用いられて、チャンバ圧力を15mTorr以下、好適には1〜10mTorr、最も好適には3〜8mTorrにする。蒸着は好適には純アルゴンスパッタガス内で開始されるが、第2弁又は質量流量制御器(6)をとおしてシステム内に酸素を導入するのと同時に又はその後にさえ始められてもよい。酸素ガス(O2)は一定流量で導入され、これは蒸着中維持される。純アルゴンスパッタガス中での開始の場合、酸素ガス(O2)は、10分未満の遅延の後、より好適には1〜3分の遅延の後に好適に導入される。酸素ガス(O2)の流量は、化学量論的酸化物が得られるように選択され、前記流量は例えばターゲットの大きさ及びポンピング速度のような蒸着装置の特性に依存する。適切な酸素流量値は、被覆酸素の化学量論組成の測定により流量値を調節することによって、熟練技術者により経験的に決められる。しかしながら、通常サイズの生産システムに関しては、200〜1000sccmの酸素ガス(O2)流量が用いられるだろう。
【0016】
蒸着は、電源(7)によって生み出された、200Vから、好適には500Vから、最も好適には650Vから2000Vまで、好適には1000Vまで、最も好適には750Vまでの範囲の負電圧パルスを陽極(真空チャンバの壁)に対してターゲットに印加することによって始められる。パルス幅は、2μsから、好適には10μsから、最も好適には20μsから200μsまで、好適には100μsまで、より好適には100μs未満、より好適には75μs未満、最も好適には40μsまでの範囲にあり、また繰返し周波数は、100Hzから、好適には300Hzから、最も好適には500Hzから10kHzまで、好適には3kHzまで、最も好適には1.5kHzまでの範囲にある。電源(7)は、好適には直流定電圧源または最も好適には統合パルス直流電源で給電される目的に適したパルスユニットを具備している。好適には一定電圧を有しているパルスは、マグネトロン・スパッタリング・グロー放電(9)を点火させ、前記グロー放電(9)は、各パルス中の最大ピークまで増大する電流を有し、そこでピークパルス電力に達する。電流は最大値に到達した後は、一定であるか又はピーク値の最低でも50%まで低下する。しかしながら、好適には電流の最大値は電圧パルスの最後に達せられる。二つの連続するパルスの間において、蒸着装置に対する電力の入力はなく、従ってプラズマは、イオン/電子再結合によって消失する。各パルス間の時間は、グロー放電が好適に決して消失しないように本技術分野の熟練した操作者によって選択される。さらに、ピーク電流パルス最大値、パルス幅、及び繰返し周波数は、十分に、即ち上述の限界によって選択され、その結果例えば成膜速度、ターゲット電圧、発光、及び被膜のような特性パラメータにおける酸素流量に対するヒステリシス効果はターゲット酸化物被覆率と同様に低減または除去される。
【0017】
蒸着は適切な時間継続され、その後インサートは200℃未満に冷めるまで放置され、そして真空システムから取り出される。
【0018】
本発明の方法の一実施形態では、ターゲット(3)の面積は1000〜2000cm2であり、基材ホルダ(4)の面積は10000〜20000cm2である。代替実施形態のために、最大スパッタ電流は、980〜2800A、好適には1120〜1680Aであり、及び最大瞬時電力は、200kWから、好適には320kWから2000kWまで、好適には4000kWまでのものである。
【0019】
本発明の方法の他の実施形態では、ターゲットを有する二つ以上のマグネトロン・スパッタ源が準備され、これらターゲットは互いに同じか又は異なる金属組成を有してよい。
【0020】
一実施形態では、一個以上のターゲットはAlMe合金の同じ金属組成のものであり、ここでMeは、Mg、Zn、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Cd、Cu、Cr、及びSnのグループの一つ以上の金属を表す記号であり、並びに真空チャンバ内の混合ガスはアルゴンと酸素ガス(O2)との混合ガスであり、蒸着被膜は、二相酸化物、又は(Al1-xMex23若しくはスピネル(Me)xAl23+x(0<x≦1)のタイプの混合酸化物を含んでいる。好適には同じ金属組成の一個以上のターゲットはアルミニュウムのものであり、その場合蒸着被膜は、好適には0.1〜30μm、より好適には1〜10μm、最も好適には2〜5μmの厚さに蒸着されたアルミナの結晶相、より詳しくはガンマもしくはアルファ・アルミナの結晶相を含んでいる。最も好適には蒸着被膜は単相アルファ・アルミナを含んでいる。
【0021】
本発明の方法の更なる一実施形態では、互いに異なる金属組成を有する二個以上のターゲット、並びにアルゴン及び酸素ガス(O2)の混合ガスが用いられて、(Al1-xMex23若しくはスピネル(Me)xAl23+x(0<x≦1)のタイプの多層若しくは混合酸化物、又は二相酸化物が蒸着される。
【0022】
本発明の一代替実施形態では、基材として準備された適切なタイプの切削工具が、本発明の方法の第1実施形態で説明されたように進行することによって、真空チャンバ(1)内で、金属酸化物、窒化物、炭化物、又はそれらの混合物で被覆されるが、酸素だけを用いる代わりに、酸素又は窒素又は窒素と炭化水素との混合ガスのような酸素、窒素、及び/又は炭素含有ガスを含む反応性混合ガスを用いてもよい。この代替実施形態では、一個以上のターゲットはAlMe合金の同じ金属組成のものであり、ここでMeは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及びWのグループの一つ以上の金属を表す記号である。この代替実施形態では、蒸着は純アルゴンのスパッタガス中で開始されるが、第2弁又は質量流量制御器(6)をとおして反応性ガスを導入するのと同時に又はその後にさえ始められてもよい。純アルゴンのスパッタガス中で開始する場合、反応性ガスは10分未満の遅延の後、より好適には1〜3分の遅延の後に好適に導入される。反応性ガスの組成は、酸素/窒素/炭素の所望のバランスで被膜を得るために当業者が選択することに従って選択される。反応性ガス流量は、酸化物、窒化物、炭化物、又はそれらの混合物の化学量論的被膜が獲得されるように熟練技術者によって選択され、前記流量は、例えばターゲットの大きさ及びポンピング速度のような蒸着装置の特性に依存する。しかしながら、通常サイズの生産システムに関しては、全反応性ガスの200〜1000sccmの流量が用いられるだろう。
【0023】
さらに別の代替実施形態では、二個以上のターゲットが互いに異なる金属組成を有していて、酸化物、窒化物、炭化物、又はそれらの混合物の、混合又は多層AlMe被膜が得られ、ここでMeは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及びWのグループの一つ以上の金属を表す記号である。
【0024】
金属酸化物、窒化物、炭化物、又はそれらの混合物の間及び頂部に、酸化物、炭化物、若しくは窒化物、又はその混合物の耐摩耗性の他の層が、本発明の方法により、又は本技術分野で公知の方法により蒸着されてよい。一つの例は、切削工具の磨耗検出に用いられるTiNの頂層である。
【0025】
本発明によると、例えば切削及び成形用工具、並びに金属薄板、並びに例えば表面技術、装飾、及び表面保護の目的のための構成要素に適した、アルミナを含んでいる酸化物、窒化物、炭化物、又はそれらの混合物も提供され、切削工具インサートへの被膜の蒸着は、図1を参照して以下によって実行される。
【0026】
超硬合金、サーメット、立方晶窒化硼素、ダイヤモンド、セラミック、又は高速度鋼のような硬質材料の基材、好適には超硬合金の基材が準備され、前記基材の上に良好な付着性の硬質耐磨耗性被膜が、酸化物、窒化物、炭化物、又はそれらの混合物の化学量論的結晶性の被膜を成長させるマグネトロン・スパッタリングを用いて蒸着され、蒸着は、基材における反応状態を有する一方で、同時にターゲットの表面を本質的に金属状態に維持することに基礎を置いている。これは、アルゴン及び反応性ガスを含む混合ガス中で、200Wcm-2より大きいピークパルス電力で、好適には少なくとも320Wcm-2ピークパルス電力で、及び好適には15mTorr以下の全圧、より好適には10mTorr以下の全圧、最も好適には6mTorr以下の全圧で、及び十分高い繰返し周波数で一以上のターゲット(3)におけるHIPIMS放電を操作することによって達成される。得られた層の化学量論組成と、成膜ターゲットの反応性ガス被覆率とを測定すると、ターゲットが反応性ガスによって極く僅かに覆われる条件の下で、層の完全な化学量論組成が達成されることが驚くべきことに見出される。
【0027】
一実施形態では、一個以上のターゲットはAlMe合金の同じ金属組成のものであり、ここでMeは、Mg、Zn、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Cd、Cu、Cr、及びSnのグループの一つ以上の金属を表す記号であり、並びに真空チャンバ内の混合ガスはアルゴンと酸素ガス(O2)との混合ガスであり、この場合蒸着被膜は、(Al1-xMex23若しくはスピネル(Me)xAl23+x(0<x≦1)のタイプの混合酸化物、又は二相酸化物を含んでいる。好適には同じ金属組成の一個以上のターゲットはアルミニュウムのものであり、その場合蒸着被膜は、好適には0.1〜30μm、より好適には1〜10μm、最も好適には2〜5μmの厚さに蒸着されたアルミナの結晶相、より詳しくはガンマもしくはアルファ・アルミナの結晶相を含んでいる。最も好適には蒸着被膜は単相アルファ・アルミナを含んでいる。
【0028】
本発明の方法の更なる一実施形態では、互いに異なる金属組成を有する二個以上のターゲット、並びにアルゴン及び酸素ガス(O2)の混合ガスが用いられて、(Al1-xMex23若しくはスピネル(Me)xAl23+x(0<x≦1)のタイプの多層若しくは混合酸化物、又は二相酸化物が蒸着される。
【0029】
一つの代替実施形態では、一個以上のターゲットはAlMe合金の同じ金属組成のものであり、ここでMeは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及びWのグループの一つ以上の金属を表す記号であり、真空チャンバ内の混合ガスは、アルゴンと反応性ガスとの混合ガスであり、前記反応性ガスは、酸素又は窒素又は窒素と炭化水素との混合ガスのような、酸素、窒素、及び/又は炭素含有ガスを含むものであって、この場合蒸着被膜は立方晶AlMe(C、N、O)被膜を含んでいる。好適には、同じ金属組成の一個以上のターゲットはAlTiのものであり、この場合蒸着被膜は、好適には0.1〜30μm、より好適には1〜10μm、最も好適には2〜5μmの厚さで蒸着された、NaCl構造を有するAlTi(C、N)の結晶相を含む。最も好適には、同じ金属組成の一個以上のターゲットはTiのものであって、この場合蒸着被膜はTi(C、N)を含む。
【0030】
さらに別の一代替実施形態では、二個以上のターゲットが互いに異なる金属組成を有し、この場合酸化物、窒化物、炭化物、若しくはそれらの混合物の、混合又は多層AlMe被膜が得られ、ここでMeは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及びWのグループの一つ以上の金属を表す記号である。
【0031】
金属酸化物、窒化物、炭化物、又はそれらの混合物の間及び頂部に、酸化物、炭化物、又は窒化物、又はその混合物の耐摩耗性の他の層が、本発明の方法により、又は本技術分野で公知の方法により蒸着されてよい。さらに別の被膜の例は、切削工具の磨耗検出に用いられるTiNの頂層である。
【0032】
例1:
コバルトがWC10%の組成の市販グレードH10Fの切削工具インサート及びインサートスタイルSNUN1204(サイズ12×12×4mm)が、以下によって、図1の超高真空蒸着装置内で被覆された。インサート(10)は、標準的な処置手順を利用して清浄化されて、基材ホルダ(4)に搭載され、前記基材ホルダ(4)は、蒸着中に回転操作可能であって、200cm2の面積を有しており、マグネトロン・スパッタ・ターゲット(3)の上方約10cmの位置にあった。基材ホルダ(4)は電気的に浮遊していた。ターゲット(3)は、直径50mmで厚さ3mmのアルミニュウム円板であった。蒸着は真空チャンバ(1)内で実行され、前記真空チャンバ(1)は最初に5×10-7Torrまで排気された。蒸着が開始される前に、インサート(10)は、適切な表面温度の約600℃まで加熱された。アルゴンがスパッタガスとして用いられ、前記スパッタガスは第1質量流量制御器(5)を通してチャンバ(1)内に導入された。100sccmの一定流量のアルゴンが用いられ、前記流量はチャンバ(1)内の6mTorrの全圧を招来した。
【0033】
蒸着は、700Vの負電圧パルスを陽極(チャンバの壁)に対してターゲット(3)に印加することにより始められた。パルス幅は35μsであり、また繰返し周波数は1kHzであった。この目的のために電源(7)が用いられ、前記電源(7)は、直流定電圧源(ピナクル、アドバンストエナジー(Pinnacle, Advanced Energy))で給電されるパルスユニット(SPIK、Melec Gmbh)を具備するものである。一定電圧を有する、結果として生じたパルスは、パルス中に最大限度まで増大する電流を有するマグネトロン・スパッタリング・グロー放電(9)を点火した。蒸着は、第1質量流量制御器(5)を通して導入された純アルゴンのスパッタガス中で開始された。蒸着の開始から約2分後に、酸素ガス(O2)が第2質量流量制御器(6)を通して3.4sccmの一定流量で導入された。蒸着がシステム内でヒステリシスなしに実行されたので、プロセスは、酸素流量の選択された値のための、パルスの明確に規定された最大スパッタ電流とともに安定したモードで操作されることができた。この特定の蒸着の実行のために選択された電圧及び酸素流量は、110Wの時間平均電力を与えた。この条件のための最大スパッタ電流は、9.1A、即ち6.4kWの最大瞬時電力に決定された。蒸着は3時間継続され、蒸着後、インサートは真空システムから取り出される前に、200℃未満に冷めるまで放置された。
【0034】
図2に示されたインサートの分析は、基材(b)上の被膜(a)が、良好な付着性のアルミナ層であって、可視的光学範囲において透明で2.0μmの厚さを有し、比較表1のように0.67μm/hの成膜速度に対応しているアルミナ層から構成されていることが明らかになった。被膜が、図3のX線回折像に示されるように少なくとも五つのピークによって識別される一つの化学量論的結晶層のアルファAl23を含むことが見出された。アルファとして指定されたピーク以外のピークの全ては基材で生じたものである。
【表1】

【0035】
本発明による方法を用いたとき、成膜速度が、従来技術に比較して少なくとも3倍速いことが表1からわかる。DMSの成膜速度は比較のため含まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性の金属酸化物、窒化物、若しくは炭化物、又はそれらの混合物の被膜の蒸着方法であって、
アルゴンと反応性ガスとの混合ガス中で、200Wcm-2より大きなピークパルス電力で、100μsまでのパルス幅で、及び100Hzからの繰返し周波数で、一個以上のターゲットにおける高電力インパルス・マグネトロン・スパッタリングHIPIMS放電を操作することにより特徴付けられる、蒸着方法。
【請求項2】
電源によって生み出された200Vから、好適には500Vから、最も好適には650Vから2000Vまで、好適には1000Vまで、最も好適には750Vまでの範囲の負電圧パルスを陽極に対して前記ターゲットに印加することによって蒸着が開始されることを特徴とする、請求項1に記載の蒸着方法。
【請求項3】
2μsから、好適には10μsから、最も好適には20μsから40μsまでのパルス幅によって特徴付けられる、請求項1又は2に記載の蒸着方法。
【請求項4】
300Hzから、最も好適には500Hzから10kHzまで、好適には3kHzまで、最も好適には1.5kHzまでの繰返し周波数によって特徴付けられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蒸着方法。
【請求項5】
マグネトロン・スパッタ・グロー放電(9)をパルスが点火するパルスユニットを具備する電源(7)を使うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の蒸着方法であって、
前記グロー放電(9)は、ピークパルス電力が達せられる各パルス中の最大ピークまで上昇する電流をともない、その後電流は一定であるか又はピーク値の最低でも50%まで低下する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の蒸着方法。
【請求項6】
15mTorr以下、好適には10mTorr以下、最も好適には6mTorr以下の全圧によって特徴付けられる請求項1〜5のいずれか一項に記載の蒸着方法。
【請求項7】
前記被膜が切削工具に蒸着されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の蒸着方法。
【請求項8】
前記被膜が、X線回折によって測定されたとき、結晶性酸化物層を含んでいることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の蒸着方法。
【請求項9】
前記被膜が、二相酸化物、又は(Al1-xMex23若しくはスピネル(Me)xAl23+xのタイプの混合酸化物を含んでいることを特徴とする請求項8に記載の蒸着方法であって、前記xは、0<x≦1であり、及び前記Meは、Mg、Zn、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Cd、Cu、Cr、及びSnのグループの一つ以上の金属を表している、請求項8に記載の蒸着方法。
【請求項10】
前記酸化物被膜が、X線回折によって測定されたとき、結晶性アルファAl23を含んでいることを特徴とする、請求項8に記載の蒸着方法。
【請求項11】
酸化物、窒化物、若しくは炭化物、又はそれらの混合物の被膜と、硬質材料の基材とを具備する切削工具であって、
アルゴンと反応性ガスとの混合ガス中で、200Wcm-2より大きなピークパルス電力で、100μsまでのパルス幅で、及び100Hzからの繰返し周波数で、一個以上のターゲットにおける高電力インパルス・マグネトロン・スパッタリング・HIPIMS放電を操作することにより前記被膜が蒸着される切削工具。
【請求項12】
前記被膜が、X線回折によって測定されたとき、結晶性酸化物層を含んでいることを特徴とする、請求項11に記載の切削工具。
【請求項13】
前記被膜が、二相酸化物、又は(Al1-xMex23若しくはスピネル(Me)xAl23+xのタイプの混合酸化物を含んでいることを特徴とする請求項12に記載の切削工具であって、前記xは、0<x≦1であり、及び前記Meは、Mg、Zn、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Cd、Cu、Cr、及びSnのグループの一つ以上の金属を表している、請求項12に記載の切削工具。
【請求項14】
前記酸化物被膜が、X線回折によって測定されたとき、結晶性アルファAl23を含んでいることを特徴とする、請求項12に記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−529295(P2010−529295A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510742(P2010−510742)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056528
【国際公開番号】WO2008/148673
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】