説明

R−T−B系希土類永久磁石、モーター、自動車、発電機、風力発電装置

【課題】R−T−B系合金中のDy濃度を高くすることなく、高い保磁力(Hcj)が得られ、しかもDyを添加したことによる磁化(Br)の低下を抑制でき、優れた磁気特性が得られるR−T−B系希土類永久磁石を提供する。
【解決手段】RFe14Bを主として含む主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなり、RはNdを必須元素として含む希土類元素であり、前記焼結体はGaを必須元素として含み、前記粒界相が、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含み、前記第3粒界相は、前記第1粒界相および前記第2粒界相より前記希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ前記第1粒界相および前記第2粒界相よりFeの原子濃度が高いR−T−B系希土類永久磁石とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R−T−B系希土類永久磁石、モーター、自動車、発電機、風力発電装置に係り、特に、優れた磁気特性を有し、モーターや発電機に好適に用いられるR−T−B系希土類永久磁石およびこれを用いたモーター、自動車、発電機、風力発電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からR−T−B系希土類永久磁石は、各種モーターや発電機などに使用されている。近年、R−T−B系希土類永久磁石の耐熱性向上に加え、省エネルギーへの要望が高まっていることから、自動車を含めたモーター用途の比率が上昇している。
R−T−B系希土類永久磁石は、Nd、Fe、Bを主成分とするものである。R−T−B系磁石合金においてRは、Ndの一部をPr、Dy、Tb等の他の希土類元素で置換したものである。TはFeの一部をCo、Ni等の他の遷移金属で置換したものである。Bはホウ素である。
【0003】
R−Fe−B系希土類永久磁石に用いられる材料としては、主相成分であるRFe14B相(但し、Rは少なくとも1種の希土類元素を示す)の存在容量割合が87.5〜97.5%であり、希土類又は希土類と遷移金属の酸化物の存在容量割合が0.1〜3%であるR−Fe−B系磁石合金において、該合金の金属組織中に主成分としてZrとBとからなるZrB化合物、NbとBとからなるNbB化合物、及びHfとBとからなるHfB化合物から選ばれる化合物が、平均粒径5μm以下で、かつ上記合金中に隣り合って存在するZrB化合物、NbB化合物、及びHfB化合物から選ばれる化合物間の最大間隔が50μm以下で均一に分散しているものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、R−Fe−B系希土類永久磁石に用いられる材料としては、R−Fe−Co−B−Al−Cu(但し、RはNd、Pr、Dy、Tb、Hoのうち1種又は2種以上で、Ndを15〜33質量%含有する)系希土類永久磁石材料において、M−B系化合物、M−B−Cu系化合物、M−C系化合物(MはTi、Zr、Hfのうち1種又は2種以上)のうち少なくとも2種と、更にR酸化物とが合金組織中に析出しているものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3951099号公報
【特許文献2】特許第3891307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、より一層高性能なR−T−B系希土類永久磁石が求められ、R−T−B系希土類永久磁石の保磁力などの磁気特性をより一層向上させることが要求されている。特にモーターにおいては回転に伴ってモーター内部に電流が発生してモーター自体が発熱して高温となり、磁力が低下して効率が低下するという問題がある。この問題を克服するために、室温において高い保磁力を有する希土類永久磁石が要求されている。
【0007】
R−T−B系希土類永久磁石の保磁力を向上させる方法としては、R−T−B系合金中のDy濃度を高くする方法が考えられる。R−T−B系合金中におけるDy濃度を高くするほど、焼結後に保磁力(Hcj)の高い希土類永久磁石が得られる。しかし、R−T−B系合金中のDy濃度を高くすると、磁化(Br)が低下してしまう。
このため、従来の技術では、R−T−B系希土類永久磁石の保磁力などの磁気特性を十分に高くすることは困難であった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、R−T−B系合金中のDy濃度を高くすることなく、高い保磁力(Hcj)が得られ、優れた磁気特性が得られるR−T−B系希土類永久磁石を提供することを目的とする。
また、優れた磁気特性を有する上記のR−T−B系希土類永久磁石を用いたモーター、自動車、発電機、風力発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、R−T−B系希土類永久磁石に含まれる組織と、粒界相の組成と、R−T−B系希土類永久磁石の磁気特性との関係を調べた。その結果、主相よりRを多く含む粒界相が、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含み、第3粒界相が、前記第1粒界相および前記第2粒界相より前記希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ前記第1粒界相および前記第2粒界相よりFeの原子濃度が高いものである場合、2種類以下の粒界相を含むR−T−B系希土類永久磁石と比較して、Dy濃度を高くすることなく、十分に高い保磁力(Hcj)が得られ、R−T−B系希土類永久磁石の磁気特性が効果的に向上されることを見出し、本発明に至った。
【0010】
この効果は、R−T−B系希土類永久磁石に含まれる粒界相が、第1粒界相および第2粒界相より前記希土類元素濃度が低く、かつ前記第1粒界相および前記第2粒界相よりFeの原子濃度が高い第3粒界相を含むことによるものと推定される。
【0011】
すなわち本発明は、下記の各発明を提供するものである。
(1) RFe14Bを主として含む主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなり、RはNdを必須元素として含む希土類元素であり、前記焼結体はGaを必須元素として含み、前記粒界相が、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含み、前記第3粒界相は、前記第1粒界相および前記第2粒界相より前記希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ前記第1粒界相および前記第2粒界相よりFeの原子濃度が高いことを特徴とするR−T−B系希土類永久磁石。
【0012】
(2) 前記第3粒界相のFeの原子濃度が、50〜70at%であることを特徴とする、(1)に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
(3) 前記焼結体における前記第3粒界相の体積比率が、0.005〜0.25%であることを特徴とする、(1)または(2)に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
(4) 前記第3粒界相のGaの原子濃度が、第1粒界相および第2粒界相のGaの原子濃度より高いことを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
【0013】
(5) 前記第1粒界相のFeの原子濃度が、前記第2粒界相のFeの原子濃度より高いことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
(6) 前記第1粒界相の希土類元素の合計原子濃度が、前記第2粒界相の希土類元素の合計原子濃度より高いことを特徴とする、(5)に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
(7) 前記第2粒界相の酸素の原子濃度が、前記主相、前記第1粒界相および前記第3粒界相の酸素の原子濃度より高いことを特徴とする、(5)または(6)に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
【0014】
(8) (1)〜(7)のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類永久磁石を備えることを特徴とするモーター。
(9) (8)に記載のモーターを備えることを特徴とする自動車。
【0015】
(10) (1)〜(7)のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類永久磁石を備えることを特徴とする発電機。
(11) (10)に記載の発電機を備えることを特徴とする風力発電装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明のR−T−B系希土類永久磁石は、RFe14B(ただし、RはNdを必須元素として含む希土類元素である)を主として含む主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えたGaを含む焼結体からなり、前記粒界相が、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含み、前記第3粒界相は、前記第1粒界相および前記第2粒界相より前記希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ前記第1粒界相および前記第2粒界相よりFeの原子濃度が高いものであるので、高い保磁力(Hcj)が得られる。
【0017】
また、本発明のR−T−B系希土類永久磁石では、Dy濃度を高くすることなく十分に高い保磁力(Hcj)が得られるので、Dyを添加することによる磁化(Br)などの磁気特性の低下を抑制できる。
その結果、本発明のR−T−B系希土類永久磁石は、モーターや発電機に好適に用いられる優れた磁気特性を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明のR−T−B系希土類永久磁石の一例の顕微鏡写真であり、実験例3のR−T−B系希土類永久磁石の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のR−T−B系希土類永久磁石(以下、「R−T−B系磁石」と略記する。)において、RはNdを必須元素として含む希土類元素であり、TはFeを必須とする金属であり、Bはホウ素である。なお、Rは保磁力(Hcj)のより優れたR−T−B系磁石とするために、Dyを含むことが好ましい。
本発明のR−T−B系磁石は、RFe14Bを主として含む主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなるものである。ここで、焼結体はGaを必須元素として含む。
【0020】
本発明のR−T−B系磁石を構成する粒界相は、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含むものである。
第3粒界相は、第1粒界相および第2粒界相より希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ第1粒界相および第2粒界相よりFeの原子濃度が高いものである。したがって、第3粒界相は、第1粒界相および第2粒界相より主相に近い組成を有するものとなっている。
本発明のR-T-B系磁石において得られる保磁力(Hcj)を向上させる効果は、粒界相中にFeを高濃度で含む第3粒界相が形成されていることによるものと推定される。
【0021】
第3粒界相のFeの原子濃度は、50〜70at%であることが好ましい。第3粒界相のFeの原子濃度が上記範囲内であると、粒界相中に第3粒界相が含まれていることによる効果が、より一層効果的に得られる。これに対し、第3粒界相のFeの原子濃度が上記範囲未満であると、粒界相中に第3粒界相が含まれていることによる保磁力(Hcj)を向上させる効果が、不十分となる恐れが生じる。また、第3粒界相のFeの原子濃度が上記範囲を超えると、R17相あるいはFeが析出して磁気特性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0022】
また、焼結体における第3粒界相の体積比率は、0.005〜0.25%であることが好ましい。第3粒界相の体積比率が上記範囲内であると、粒界相中に第3粒界相が含まれていることによる効果が、より一層効果的に得られる。これに対し、第3粒界相の体積比率が上記範囲未満であると、保磁力(Hcj)を向上させる効果が、不十分となる恐れが生じる。また、第3粒界相の体積比率が上記範囲を超える焼結体は、R17相あるいはFeが析出して磁気特性に悪影響を及ぼすため、好ましくない。
【0023】
また、焼結体における第3粒界相は、Gaの原子濃度が、第1粒界相および第2粒界相のGaの原子濃度より高いことが好ましい。本実施形態のR−T−B系磁石は、Gaを含む永久磁石用合金材料を含む原料を、成型し、焼結し、熱処理することにより得られるGaを含む焼結体からなるものである。Gaの原子濃度が、第1粒界相および第2粒界相より高い第3粒界相は、Ga含む永久磁石用合金材料を含む原料を、成型し、焼結し、熱処理することにより容易に製造できるものとなる。この理由は、永久磁石用合金材料に含まれるGaが、第3粒界相の生成を促進しているためと推定される。
【0024】
また、本実施形態においては、Feの原子濃度は、第2粒界相<第1粒界相<第3粒界相となっていることが好ましい。このようなR−T−B系磁石では、主相粒子間への粒界成分の回り込みが良好なため、磁気的に主相粒子が隔離されて高い保磁力が発現できる。
【0025】
また、本発明のR−T−B系磁石の組成は、Rを27〜33質量%、好ましくは30〜32質量%含み、Bを0.85〜1.3質量%、好ましくは0.87〜0.98質量%含むものであって、残部がTと不可避不純物であることが好ましい。
【0026】
R−T−B系磁石を構成するRが27質量%未満であると、保磁力が不十分となる場合があり、Rが33質量%を超えると磁化が不十分となるおそれがある。
また、R−T−B系磁石のRは、Ndを主成分とすることが好ましい。R−T−B系磁石のRに含まれるNd以外の希土類元素としては、Dy、Sc、Y、La、Ce、Pr、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられ、中でも特に、Dyが好ましく用いられる。
【0027】
R−T−B系磁石がDyを含むものである場合、Dyの原子濃度は、2質量%〜17質量%であることが好ましく、2質量%〜15質量%であることがより好ましく、4質量%〜9.5質量%であることがさらに好ましい。R−T−B系磁石のDyの原子濃度が17質量%を超えると、磁化(Br)の低下が顕著となる。また、R−T−B系磁石のDyの原子濃度が2質量%未満であると、R−T−B系磁石の保磁力がモーター用途としては不十分となる場合がある。
【0028】
R−T−B系磁石に含まれるTは、Feを必須とする金属であり、Fe以外にCo、Niなどの他の遷移金属を含むものとすることができる。Fe以外にCoを含む場合、Tc(キュリー温度)を改善することができ好ましい。
【0029】
また、R−T−B系磁石に含まれるBは0.85質量%〜1.3質量%含まれていることが好ましい。R−T−B系磁石を構成するBが0.85質量%未満であると、保磁力が不十分となる場合があり、Bが1.3質量%を超えると磁化が著しく低下するおそれがある。
なお、R−T−B系磁石に含まれるBは、ホウ素であるが、一部をCまたはNで置換できる。
【0030】
また、R−T−B系磁石には、保磁力を向上させるために、Gaが含まれている。Gaは0.03質量%〜0.3質量%含まれていることが好ましい。Gaを0.03質量%以上含む場合、第3粒界相の生成を促進させ、保磁力を効果的に向上させることができる。しかし、Gaの含有量が0.3質量%を超えると磁化が低下するため好ましくない。
また、R−T−B系磁石には、保磁力を向上させるために、Al、Cuが含まれていることが好ましい。Alは0.01質量%〜0.5質量%含まれていることが好ましい。Alを0.01質量%以上含む場合、保磁力を効果的に向上させることができる。しかし、Alの含有量が0.5質量%を超えると磁化が低下するため好ましくない。
【0031】
さらに、R−T−B系磁石の酸素濃度は低いほど好ましく、0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。酸素の含有量が0.5質量%以下である場合、モーター用として十分な磁気特性を達成できる。酸素の含有量が0.5質量%を超える場合、磁気特性が著しく低下するおそれがある。
また、R−T−B系磁石の炭素濃度は低いほど好ましく、0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。炭素の含有量が0.5質量%以下である場合、モーター用として十分な磁気特性を達成できる。なお、炭素の含有量が0.5質量%を超える場合、磁気特性が著しく低下するおそれがある。
【0032】
次に、本発明のR−T−B系磁石の製造方法について説明する。本発明のR−T−B系磁石を製造するには、Ga含む永久磁石用合金材料を含む原料を、成型し、焼結し、熱処理する方法などが挙げられる。
本発明のR−T−B系磁石を製造する際に用いられるGa含む永久磁石用合金材料としては、R−T−B系磁石の組成に対応する組成を有し、Ga含むR−T−B系合金と、金属粉末とを含むものを用いることが好ましい。
【0033】
永久磁石用合金材料として、Ga含むR−T−B系合金と、金属粉末とを含むものを用いた場合、これを成形して焼結することにより容易に粒界相が希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含み、第3粒界相が、第1粒界相および第2粒界相より希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ第1粒界相および第2粒界相よりFeの原子濃度が高いR−T−B系磁石が得られる。
また、永久磁石用合金材料として、Ga含むR−T−B系合金と金属粉末とを含むものを用いた場合、永久磁石用合金材料に含まれる金属粉末の使用量を調節することにより、焼結体における第3粒界相の体積比率を0.005〜0.25%の範囲に容易に調節でき、より高い保磁力(Hcj)を有するR−T−B系磁石が得られる。
【0034】
さらに、永久磁石用合金材料は、Ga含むR−T−B系合金からなる粉末と金属粉末とが、混合されてなる混合物であることが好ましい。永久磁石用合金材料が、Ga含むR−T−B系合金からなる粉末と金属粉末とが混合されてなる混合物である場合、粉末のGa含むR−T−B系合金と金属粉末とを混合するだけで、容易に品質の均一な永久磁石用合金材料が得られるとともに、これを成形して焼結することで、容易に品質の均一なR−T−B系磁石が得られる。
【0035】
永久磁石用合金材料に含まれるGa含むR−T−B系合金において、RはNd、Pr、Dy、Tbから選ばれる1種または2種以上であって、DyまたはTbを前記R−T−B系合金中に4質量%〜9.5質量%含むものであることが好ましい。
R−T−B系合金からなる粉末の平均粒度(d50)は、3〜4.5μmであることが好ましい。また、金属粉末の平均粒度(d50)は、0.01〜300μmの範囲であることが好ましい。
【0036】
また、永久磁石用合金材料に含まれる金属粉末としては、Al、Si、Ti、Ni、W、Zr、TiAl合金、Cu、Mo、Co、Fe、Taなどの粉末を用いることができ、特に限定されないが、Al、Si、Ti、Ni、W、Zr、TiAl合金、Co、Fe、Taのうちのいずれかを含むことが好ましく、Fe、Ta、Wのうちのいずれかの粉末であることがより好ましい。
【0037】
金属粉末は、永久磁石用合金材料中に0.002質量%〜9質量%含まれていることが好ましく、0.02質量%〜6質量%含まれていることがより好ましく、さらに0.6質量%〜4質量%含まれていることが好ましい。金属粉末の含有量が0.002質量%未満であると、R−T−B系磁石の粒界相が、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含み、第3粒界相が、第1粒界相および第2粒界相より希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ第1粒界相および第2粒界相よりFeの原子濃度が高いものとならず、R−T−B系磁石の保磁力(Hcj)を十分に向上させることができない恐れがある。また、金属粉末の含有量が9質量%を超えると、R−T−B系磁石の磁化(Br)や最大エネルギー積(BHmax)などの磁気特性の低下が顕著となるため好ましくない。
【0038】
本発明のR−T−B系磁石を製造する際に用いられる永久磁石用合金材料は、Ga含むR−T−B系合金と金属粉末とを混合することにより製造することができるが、Ga含むR−T−B系合金からなる粉末と金属粉末とを混合する方法により製造されたものであることが好ましい。
Ga含むR−T−B系合金からなる粉末は、例えば、SC(ストリップキャスト)法により合金溶湯を鋳造して鋳造合金薄片を製造し、得られた鋳造合金薄片を、例えば、水素解砕法などにより解砕し、粉砕機により粉砕する方法などによって得られる。
【0039】
水素解砕法としては、室温で鋳造合金薄片に水素を吸蔵させ、300℃程度の温度で熱処理した後、減圧して水素を脱気し、その後、500℃程度の温度で熱処理して鋳造合金薄片中の水素を除去する方法などが挙げられる。水素解砕法において水素の吸蔵された鋳造合金薄片は、体積が膨張するので、合金内部に容易に多数のひび割れ(クラック)が発生し、解砕される。
また、水素解砕された鋳造合金薄片を粉砕する方法としては、例えば、ジェットミルなどの粉砕機により、水素解砕された鋳造合金薄片を0.6MPaの高圧窒素を用いて平均粒度3〜4.5μmに微粉砕して粉末とする方法などが挙げられる。
【0040】
このようにして得られた永久磁石用合金材料を用いてR−T−B系磁石を製造する方法としては、例えば、永久磁石用合金材料に、潤滑剤として0.02質量%〜0.03質量%のステアリン酸亜鉛を添加した原料を、横磁場中成型機などを用いてプレス成型し、真空中で1030℃〜1080℃で焼結し、その後400℃〜800℃で熱処理する方法などが挙げられる。
【0041】
なお、上述した例においては、SC法を用いてGa含むR−T−B系合金を製造する場合について説明したが、本発明において用いられるGa含むR−T−B系合金はSC法を用いて製造されるものに限定されるものではない。例えば、Ga含むR−T−B系合金を、遠心鋳造法、ブックモールド法などを用いて鋳造してもよい。
【0042】
また、Ga含むR−T−B系合金と金属粉末とは、上述したように、鋳造合金薄片を粉砕してGa含むR−T−B系合金からなる粉末としてから混合してもよいが、例えば、鋳造合金薄片を粉砕する前に、鋳造合金薄片と金属粉末とを混合して永久磁石用合金材料とし、その後、鋳造合金薄片の含まれる永久磁石用合金材料を粉砕してもよい。この場合、鋳造合金薄片と金属粉末とからなる永久磁石用合金材料を、鋳造合金薄片の粉砕方法と同様にして粉砕して粉末とし、その後、上記と同様にして成形して焼結することにより、R−T−B系磁石を製造することが好ましい。
また、R−T−B系合金と金属粉末との混合は、R−T−B系合金からなる粉末に、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を添加した後に行ってもよい。
【0043】
本発明の永久磁石用合金材料中の金属粉末は、微細で均一に分布していてもよいが、微細で均一に分布していなくてもよく、例えば、粒度1μm以上であってもよいし、5μm以上に凝集していても効果を発揮する。また、永久磁石用合金材料中に金属粉末が含まれていることによる保磁力向上の効果は、Dy濃度が高いほど大きく、Gaが含まれているとさらに大きく発現する。
【0044】
本実施形態のR−T−B系磁石は、粒界相が、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含み、前記第3粒界相は、前記第1粒界相および前記第2粒界相より前記希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ前記第1粒界相および前記第2粒界相よりFeの原子濃度が高いものであるので、高い保磁力(Hcj)を有し、しかも十分に磁化(Br)の高いモーター用の磁石として好適なものとなる。
【0045】
R−T−B系磁石の保磁力(Hcj)は、高いほど好ましいが、モーター用の磁石として用いる場合、30kOe以上であることが好ましい。モーター用の磁石において保磁力(Hcj)が30kOe未満であると、モーターとしての耐熱性が不足する場合がある。
また、R−T−B系磁石の磁化(Br)も高いほど好ましいが、モーター用の磁石として用いる場合、10.5kG以上であることが好ましい。R−T−B系磁石の磁化(Br)が10.5kG未満であると、モーターのトルクが不足する恐れがあり、モーター用の磁石として好ましくない。
【0046】
本実施形態のR−T−B系磁石は、R−T−B系合金中におけるDy濃度を高くすることなく、十分に高い保磁力(Hcj)が得られるものであり、Dyの添加量を低くしたことにより磁化(Br)などの磁気特性の低下が抑制されたものであるので、モーター、自動車、発電機、風力発電装置などに好適に用いられる優れた磁気特性を有するものとなる。
【実施例】
【0047】
「実験例1」
Ndメタル(純度99wt%以上)、Prメタル(純度99wt%以上)、Dyメタル(純度99wt%以上)、フェロボロン(Fe80%、B20w%)、Alメタル(純度99wt%以上)、Coメタル(純度99wt%以上)、Cuメタル(純度99wt%以上)、Gaメタル(純度99wt%以上)、鉄塊(純度99%wt以上)を表1に示す合金A〜Dの成分組成になるように秤量し、アルミナるつぼに装填した。
【0048】
【表1】

【0049】
その後、アルミナるつぼの入れられた高周波真空誘導炉の炉内をArで置換し、1450℃まで加熱して溶融させて水冷銅ロールに溶湯を注ぎ、ロール周速度1.0m/秒、平均厚み0.3mm程度となるようにSC(ストリップキャスト)法により、鋳造合金薄片を得た。
【0050】
次に、鋳造合金薄片を以下に示す水素解砕法により解砕した。まず、鋳造合金薄片を直径5mm程度になるように粗粉砕し、室温の水素中に挿入して水素を吸蔵させた。続いて、粗粉砕して水素を吸蔵させた鋳造合金薄片を300℃まで加熱する熱処理を行った。その後、減圧して水素を脱気し、さらに500℃まで加熱する熱処理を行って鋳造合金薄片中の水素を放出除去し、室温まで冷却する方法により解砕した。
次に、水素解砕された鋳造合金薄片に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛0.025wt%を添加し、ジェットミル(ホソカワミクロン100AFG)により、0.6MPaの高圧窒素を用いて、水素解砕された鋳造合金薄片を平均粒度(d50)4.5μmに微粉砕して粉末とした。
【0051】
このようにして得られた表1に示す平均粒度のR−T−B系合金からなる粉末(合金A〜D)に、表2に示す粒度の金属粉末を、表3に示す割合(永久磁石用合金材料中に含まれる金属粉末の濃度(質量%))で添加して混合することにより永久磁石用合金材料を製造した。なお、金属粉末の粒度は、レーザ回析計によって測定した。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
次に、このようにして得られた永久磁石用合金材料を、横磁場中成型機を用いて成計圧力0.8t/cmでプレス成型して圧粉体とした。その後、得られた圧粉体を真空中で焼結した。焼結温度は1080℃で焼結した。その後500℃で熱処理して冷却することにより、実験例1〜実験例45のR−T−B系磁石を作製した。
【0055】
そして、得られた実験例1〜実験例45のR−T−B系磁石それぞれの磁気特性をBHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)で測定した。その結果を表3に示す。
なお、表3において「Hcj」とは保磁力であり、「Br」とは磁化であり、「SR」とは角形性であり、「BHmax」とは最大エネルギー積である。また、これらの磁気特性の値は、それぞれ5個のR−T−B系磁石の測定値の平均である。
【0056】
また、このようにして得られた実験例1、実験例3、実験例8、実験例11、実験例31、実験例33、実験例34、実験例37、実験例42のR−T−B系磁石のRリッチ相の第3粒界相の体積比率を以下に示す方法により調べた。
すなわち、平均厚みの±10%以内の厚みのR−T−B系磁石を樹脂に埋め込んで研磨し、これを走査電子顕微鏡(日本電子JSM−5310)にて反射電子像を撮影し、得られた300倍の写真を用いて、Rリッチ相の第3粒界相の体積比率を算出した。
その結果を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
また、走査電子顕微鏡にて実験例1〜実験例42のR−T−B系磁石の反射電子像を2000〜5000倍で撮影し、そのコントラストによりR−T−B系磁石の主相、粒界相(第1粒界相〜第3粒界相)を判別し、さらにFE−EPMA(電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて主相および粒界相の組成を調べた。
その結果を表5〜表8に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
【表7】

【0062】
【表8】

【0063】
実験例1〜実験例45のうち、永久磁石用合金材料が金属粉末を含まない実験例1、31、Gaを含まないR−T−B系磁石である実験例12〜30は、第3粒界相がほとんど観察されず、その体積率は0.005%未満であった。
より詳細には、実験例1、31、12〜30は、粒界相がほぼ第1粒界相と第2粒界相とからなるものであった。また、実験例12、22は、第1粒界相および前記第2粒界相よりFeの原子濃度が高い第3の相を含むものであったが、この第3の相は、主相よりRを多く含む粒界相ではなく、第3粒界相ではなかった。
【0064】
表3、表5〜表8に示すように、主相よりRを多く含む粒界相が、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含み、第3粒界相が、第1粒界相および第2粒界相より希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ第1粒界相および第2粒界相よりFeの原子濃度が高い本発明の実施例である実験例2〜実験例11では、第3粒界相を含まない実験例1と比較して、保磁力(Hcj)が高くなっている。また、本発明の実施例である実験例32〜実験例34、実験例36〜実験例39、実験例41〜実験例45のR−T−B系磁石では、第3粒界相を含まない実験例31と比較して、保磁力(Hcj)が高くなっている。
このことより、粒界相が第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相を含むことにより、Dyの添加量を増やすことなく、保磁力を高くできることが分かる。
【0065】
また、表3および表4に示すように、焼結体における第3粒界相の体積比率が、0.005〜0.25%である場合、保磁力(Hcj)を効果的に向上させることができることが、確認できた。
【0066】
また、図1は、本発明のR−T−B系希土類永久磁石の一例である実験例3のR−T−B系磁石の顕微鏡写真である。図1に示すR−T−B系磁石の顕微鏡写真(FE−EPMAの反射電子像)において、黒に近い濃い灰色の部分は主層であり、薄い灰色の部分は粒界相である。そして、図1に示すR−T−B系磁石は、粒界相が平均原子量の異なる第1粒界相(図1の薄い灰色の部分の中でもより白に近い色の部分)と第2粒界相(図1の薄い灰色の部分の中では黒っぽい色の部分)と第3粒界相(図1の薄い灰色の部分の中ではさらに黒っぽい色の部分)とを含んでいることが分かる。
なお、反射電子像は倍率2000倍、加速電圧は15kVで撮影した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe14Bを主として含む主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなり、
RはNdを必須元素として含む希土類元素であり、前記焼結体はGaを必須元素として含み、
前記粒界相が、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1粒界相と第2粒界相と第3粒界相とを含み、
前記第3粒界相は、前記第1粒界相および前記第2粒界相より前記希土類元素の合計原子濃度が低く、かつ前記第1粒界相および前記第2粒界相よりFeの原子濃度が高いことを特徴とするR−T−B系希土類永久磁石。
【請求項2】
前記第3粒界相のFeの原子濃度が、50〜70at%であることを特徴とする、請求項1に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
【請求項3】
前記焼結体における前記第3粒界相の体積比率が、0.005〜0.25%であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
【請求項4】
前記第3粒界相のGaの原子濃度が、第1粒界相および第2粒界相のGaの原子濃度より高いことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
【請求項5】
前記第1粒界相のFeの原子濃度が、前記第2粒界相のFeの原子濃度より高いことを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
【請求項6】
前記第1粒界相の希土類元素の合計原子濃度が、前記第2粒界相の希土類元素の合計原子濃度より高いことを特徴とする、請求項5に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
【請求項7】
前記第2粒界相の酸素の原子濃度が、前記主相、前記第1粒界相および前記第3粒界相の酸素の原子濃度より高いことを特徴とする、請求項5または請求項6に記載のR−T−B系希土類永久磁石。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類永久磁石を備えることを特徴とするモーター。
【請求項9】
請求項8に記載のモーターを備えることを特徴とする自動車。
【請求項10】
請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類永久磁石を備えることを特徴とする発電機。
【請求項11】
請求項10に記載の発電機を備えることを特徴とする風力発電装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−15169(P2012−15169A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147621(P2010−147621)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】