R−T−B系永久磁石の製造方法
【課題】HDDR法を用いて良好な角型性と高い保磁力を有するR−T−B系永久磁石を提供する。
【解決手段】50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満であり、R2T14B相を含むR−T−B系合金粉末(RはNdおよび/またはPrを50原子%以上含む希土類元素、TはFe、またはFeとCo)と、粒径75μm未満のR’(R’はNd、Pr、Dy、Tbから選ばれる1種以上)、またはR’−M系合金(MはAl、Ga、Cu、Co、Ni、Cr、Fe、Si、Geから選ばれる1種以上)の粉末との混合粉末の圧粉体を200℃以上600℃以下の水素雰囲気中で熱処理を施す第一熱処理工程と、圧粉体に対し水素雰囲気中で650℃以上1000℃以下の温度で熱処理を施す第二熱処理工程と、真空または不活性雰囲気中で圧粉体に対し650℃以上1000℃以下の温度で熱処理を施す第三熱処理工程とを実行する。
【解決手段】50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満であり、R2T14B相を含むR−T−B系合金粉末(RはNdおよび/またはPrを50原子%以上含む希土類元素、TはFe、またはFeとCo)と、粒径75μm未満のR’(R’はNd、Pr、Dy、Tbから選ばれる1種以上)、またはR’−M系合金(MはAl、Ga、Cu、Co、Ni、Cr、Fe、Si、Geから選ばれる1種以上)の粉末との混合粉末の圧粉体を200℃以上600℃以下の水素雰囲気中で熱処理を施す第一熱処理工程と、圧粉体に対し水素雰囲気中で650℃以上1000℃以下の温度で熱処理を施す第二熱処理工程と、真空または不活性雰囲気中で圧粉体に対し650℃以上1000℃以下の温度で熱処理を施す第三熱処理工程とを実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDDR法によって作製される多孔質構造を有するR−T−B系永久磁石、および前記R−T−B系永久磁石を熱間圧縮することによって作製されるR−T−B系高密度磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能永久磁石として代表的なR−T−B系焼結磁石(RはNdおよび/またはPrを50原子%以上含む希土類元素、TはFe、またはFeとCo)は、三元系正方晶化合物であるR2T14B相を主相として含む組織を有し、優れた磁気特性を発揮する。R−T−B系永久磁石においては、主相であるR2T14B相の結晶粒径を小さくすることにより保磁力が向上することが知られている。1μm以下の平均結晶粒径を有するR−T−B系永久磁石を得る方法として、HDDR(Hydrogenation−Disproportionation−Desorption−Recombination)処理法が知られている。
【0003】
「HDDR」は水素化(Hydrogenation)および不均化(Disproportionation)と、脱水素(Desorption)および再結合(Recombination)とを順次実行するプロセスを意味している。公知のHDDR処理は、例えば、R−T−B系合金のインゴットまたは粉末を、水素雰囲気または水素ガスと不活性ガスとの混合雰囲気中で温度500℃〜1000℃に保持し、それによって上記インゴットまたは粉末に水素を吸蔵(水素吸蔵処理)させた後、例えば水素圧力が13Pa以下の真空雰囲気、または水素分圧が13Pa以下の不活性雰囲気になるまで温度500℃〜1000℃で脱水素処理し、次いで冷却する。
【0004】
上記処理において、典型的には次のような反応が進行する。すなわち、前記水素吸蔵処理によって、水素化ならびに不均化反応(双方を合わせて「HD反応」と呼ぶ。反応式の例:Nd2Fe14B+2H2→2NdH2+12Fe+Fe2B)が進行し、微細組織が形成される。次いで脱水素処理を行うことにより、脱水素ならびに再結合反応(双方をあわせて「DR反応」と呼ぶ。反応式の例:2NdH2+12Fe+Fe2B→Nd2Fe14B+2H2)が起こり、微細なR2Fe14B相を含む合金が得られる。
【0005】
HDDR処理を施して製造されたR−T−B系合金粉末(以下、HDDR磁粉と称する)は、大きな保磁力を有し、磁気的異方性を示している。HDDR処理によってR−T−B系合金粉末を製造する方法は、例えば、特許文献1や特許文献2に開示されている。HDDR処理によれば、0.1μm〜1μmの非常に微細な結晶粒径を有する永久磁石粉末が得られる。
【0006】
さらに、近年、平均粒径10μm未満に微粉砕したR−T−B系合金粉末を成型して圧粉体を作製し、その圧粉体に対してHDDR処理を施すことにより作製した多孔質のバルク磁石(以下、多孔質磁石と称する)が開発され、特許文献3に開示されている。この多孔質磁石は、平均粒径が10μm未満の微粉末に対してHDDR処理を施しているために、HDDR反応を短時間で進行させることができ、結果としてHDDR反応を均一に進行させることができるため、減磁曲線の角型性に優れている。特許文献3では、HDDR処理において、昇温時の反応速度制御の困難性に起因する磁気特性低下を抑制するために、HD反応のための昇温工程を真空または不活性雰囲気で行うことが望ましいと記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、HDDR処理によって得られた永久磁石粉末をホットプレスなどの熱間成型法によって、バルク化することができることが開示されている。
【0008】
特許文献5には、HDDR処理によって磁石粉末を得る際、R−T−B系合金粉末に対してHD処理を行う前に、30kPa(0.3atm)以上100kPa(1.0atm)以下の水素雰囲気下で、600℃以下の温度で保持することが開示されている。この方法によれば、HD反応が起きない温度で、R2T14B相中に水素を含有させてR2Fe14BHx(xは水素量を表す)とし、その後、20kPa(0.2atm)以上60kPa(0.6atm)以下の水素雰囲気下でHD反応温度まで昇温され、その状態に保持される。このとき、水素化および不均化させることによって、その後のDR反応後に高い異方化度を有する永久磁石粉末が得られる。
【0009】
また、HDDR磁粉とNd−Cu合金粉末を混合し、熱処理することによってHDDR磁粉の保磁力をさらに高めることができることが、たとえば非特許文献1などに示されている。非特許文献1によれば、上記HDDR磁粉の保磁力向上は、熱処理温度がNd−Cu合金の融点よりも高い時、融解したNd−Cu合金がR2T14B相の結晶粒間に拡散することによって、R2T14B相の結晶粒間における磁気的な結合が切断されたためであるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1−132106号公報
【特許文献2】特開平2−4901号公報
【特許文献3】国際公開第2007/135981号公報
【特許文献4】特開平4−253304号公報
【特許文献5】特開2001−76917号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H.Sepehri−Amin,T.Ohkubo,T.Nishiuchi,S.Hirosawa,K.Hono,Scripta Materialia vol.63 pp.1124−1127(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
非特許文献1に記載されているように、HDDR磁粉とNd−Cu合金粉末を混合し熱処理することによって、Nd−Cu合金がR2T14B相の結晶粒界に拡散し、保磁力が向上する。しかしながら、この磁粉は減磁曲線の角型性が悪いという問題がある。
【0013】
そこで、本発明者らは、前述した背景技術を踏まえ、特許文献3によって製造される角型性に優れる多孔質磁石に対してNd−Cu合金を拡散させ、角型性に優れ、かつ保磁力の高い磁石を作製しようと試みた。しかしながら、多孔質磁石はバルク体であるために、大きな磁石に対してNd−Cu合金などの希土類合金を内部まで拡散させることは困難であり、磁石の内部と外部で磁気特性のばらつきが生じるという問題があった。
【0014】
特許文献3には、磁気特性の向上などを目的として、HDDR処理前の圧粉体に別の合金を混合してもよいと記述されている。このため、本発明者らは、R−T−B系合金粉末とNd−Cu合金粉末の混合粉を磁界中で成型し、R2T14B相のc軸方向を所定方向に揃えた成型体に対して、特許文献3に開示されているHDDR処理を施すことを試みた。しかしながら、得られた多孔質磁石は、Nd−Cu合金粉末を混合していない多孔質磁石と比べて配向度および角型性が大きく劣っていた。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の主たる目的は、従来のHDDR磁粉にNd−Cu合金を拡散させた磁粉に比べて良好な角型性を示し、かつ従来の多孔質磁石に比べて高い保磁力を有するR−T−B系永久磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のR−T−B系永久磁石の製造方法は、50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満であり、R2T14B相を含むR−T−B系合金粉末(RはNdおよび/またはPrを50原子%以上含む希土類元素、TはFe、またはFeとCo)と、粒径75μm未満のR’金属(R’はNd、Pr、Dy、Tbから選ばれる1種以上)またはR’−M系合金(MはAl、Ga、Cu、Co、Ni、Cr、Fe、Si、Geから選ばれる1種以上)の粉末との混合粉末を用意する工程と、前記混合粉末を成型して圧粉体を作製する工程と、前記圧粉体を200℃以上600℃以下の温度の水素雰囲気中で熱処理を施す第一熱処理工程と、前記第一熱処理工程の後、前記圧粉体に対し、650℃以上1000℃以下の水素雰囲気中で熱処理を施す第二熱処理工程と、前記第二熱処理工程の後、前記圧粉体に対し、650℃以上1000℃以下の真空または不活性雰囲気中で熱処理を施す第三熱処理工程とを含み、前記第一熱処理工程終了時から前記第二熱処理工程の開始時までの昇温を、真空または不活性雰囲気中で行う。
【0017】
ある好ましい実施形態では、前記第一熱処理工程における水素雰囲気の水素分圧は10kPa以上500kPa以下である。
【0018】
ある好ましい実施形態では、前記第一熱処理工程終了後、前記第二熱処理工程の開始までの時間を60分以下とする。
【0019】
ある好ましい実施形態では、前記第二熱処理工程における水素雰囲気の水素分圧は20kPa以上500kPa以下である。
【0020】
ある好ましい実施形態では、前記R’−M系合金におけるR’含有量は、25原子%以上100原子%未満である。
【0021】
ある好ましい実施形態では、前記混合粉末における前記R−T−B系合金粉末と前記R’金属またはR’−M系合金の粉末との混合比率は、重量比で(R−T−B系合金粉末):(R’またはR’−M系合金粉末)=m:1(5≦m≦100)である。
【0022】
ある好ましい実施形態において、前記混合粉末を用意する工程は、前記R−T−B系合金粉末を準備する工程と、前記R’金属またはR’−M系合金の粉末を準備する工程と、前記R−T−B系合金粉末と前記R’金属またはR’−M系合金の前記粉末とを混合する工程とを含む。
【0023】
ある好ましい実施形態において、前記混合粉末を用意する工程は、R−T−B系合金とR’金属またはR’−M系合金との混合物を、50%体積中心粒径が1μm以上10μm以下の粉末に粉砕する工程を含む。
【0024】
ある好ましい実施形態において、前記混合粉末を用意する工程は、前記R’金属またはR’−M系合金の粉末に水素を吸蔵させる工程の後、前記R−T−B系合金と前記水素を吸蔵させた前記R’金属またはR’−M系合金の混合物を微粉砕する工程を含む。
【0025】
ある好ましい実施形態において、前記第二熱処理工程および前記第三熱処理工程における熱処理の温度は950℃以下である。
【0026】
ある好ましい実施形態において、前記第一熱処理工程、前記第二熱処理工程、および、前記第三熱処理工程の間、前記圧粉体は成形容器内に保持されている。
【0027】
本発明のR−T−B系高密度磁石の製造方法は、上記のいずれかに記載の製造方法によって製造されたR−T−B系永久磁石を準備する工程と、熱間圧縮成型によって前記R−T−B系永久磁石の密度を高める工程とを含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、50%体積中心粒径1μm以上10μm未満のR−T−B系合金粉末と粒度75μm未満のR’金属またはR’−M系合金の粉末の混合粉末を成型した圧粉体に対して、まず200℃以上600℃以下の水素雰囲気で熱処理を行う。このとき、R−T−B系希土類合金中の希土類リッチ相およびR’金属またはR’−M系合金に水素を吸蔵させることができる。その結果、後のHDDR処理における反応の不均一性に伴う角型性および配向度の低下を抑制し、優れた磁気特性を有する磁石を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態で好適に使用され得るホットプレス装置を示す図である。
【図2】第一熱処理工程の温度T1と残留磁束密度Brとの関係を示すグラフである。
【図3】第一熱処理工程の温度T1と保磁力HcJとの関係を示すグラフである。
【図4】第一熱処理工程の温度T1と配向度(Br/Jmax)との関係を示すグラフである。
【図5】第一熱処理工程の温度T1と角型比(Hk/HcJ)との関係を示すグラフである。
【図6】第一熱処理工程の温度T1と最大エネルギー積((BH)max)との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例において、T1=300℃で作製したサンプルの破断面を示す電子顕微鏡像を示す図である。
【図8】実施例および比較例の減磁曲線を示すグラフである。
【図9】多孔質磁石および高密度磁石の減磁曲線を示すグラフである。
【図10】M71の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(1000倍)である。
【図11】M76の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(1000倍)である。
【図12】M81の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(1000倍)である。
【図13】M71の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(10000倍)である。
【図14】M76の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(10000倍)である。
【図15】M81の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(10000倍)である。
【図16】M96のS1の試料の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(10000倍)である。
【図17】M96のS3の試料の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(10000倍)である。
【図18】圧粉体の作製に使用され得る成形容器およびプレス治具の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、R−T−B系合金粉末とR’−M系合金粉末の混合粉末の成型体に対して特許文献3記載のHDDR処理を行った磁石の配向度および角型性が劣る原因について詳細な考察を行った。
【0031】
HDDR処理によって磁気的異方性が得られたR−T−B系磁石におけるR2T14B相の磁化容易軸であるc軸は、HDDR処理前のR2T14B相のc軸とほぼ同一の方位となることが知られている。このようにR2T14B相の方位を記憶するメカニズムについては、さまざまな考察がなされている。HD処理後に得られる組織中には、典型的にはRH2相やα−Fe相、Fe2B相などが存在する。この組織を、以下「不均化組織」と呼ぶ。この組織に、HDDR処理前のR2T14B相のc軸の向きを伝承している領域が存在すると考えられる。これは、特許文献3の多孔質磁石でも同様であると考えられる。
【0032】
上述したように、特許文献3では、R−T−B系合金粉末を成型して圧粉体を作製し、その圧粉体に対して施すHDDR処理において、昇温時の反応速度制御の困難性に起因する磁気特性低下を抑制するために、HD反応のための昇温工程を真空または不活性雰囲気で行うことが望ましいと記載されている。しかしながら、R−T−B系合金粉末とR’−M系合金粉末を混合し、成型した成型体の加熱を真空または不活性雰囲気で行うと、昇温中に液相を生成する温度の低いR’−M系合金の一部あるいは全部が溶解することが分かった。その際に生成した液相中の希土類量がR2T14B相と平衡する液相の希土類量よりも多いと、液相が平衡組成となるまでR2T14B相を溶解してしまう可能性がある。
【0033】
その後、従来技術における通常のHD反応においては、R2T14B相、液相のいずれも水素と反応し、RH2相、α−Fe相、Fe2B相に分解するなどして不均化組織を形成する。しかしながら、上記R−T−B系合金粉末とR’−M系合金粉末を混合し、成型した圧粉体に対してHDDR処理を行った場合、液相中の少なくとも昇温中にR2T14B相が溶解した成分と、水素との反応で生成する組織は、磁界中成型によりR2T14B相のc軸方向を揃えた方向とは無関係な方向に生成するため、次いで行うDR反応によって再結合したR2T14B相のc軸方向は、磁界中成型によってR2T14B相のc軸方向を揃えた方向とは無関係な方向に向いてしまい、全体としてHDDR処理前の状態よりも配向度が低下してしまう可能性がある。
【0034】
また、このようにR2T14B相、液相のいずれからもRH2相、α−Fe相、Fe2B相が分解して生成すると、HD反応により形成した組織は不均一なものとなり、結果として保磁力のばらつきが大きくなって角型性がR’−M系合金粉末を混合していない場合に比べて悪化するのではないかと考えられる。さらに、M元素がR2T14B相に固溶する場合は、真空または不活性雰囲気での昇温の過程でR’−M系合金から生成した液相からの拡散によってM元素がR2T14B相の表面近傍に固溶し、その結果HDDR反応がR2T14B相の内部と外部で不均一となることも角型性が悪化する一因になるのではないかと考えられる。
【0035】
R−T−B系合金粉末とR’−M系合金粉末の混合粉末の圧粉体をHDDR処理することによって生じる配向度および角型性の悪化は、上述のようにHD反応前の昇温過程においてR’−M系合金が溶解することによって生成する液相が主原因であり、この生成を抑制することができれば、配向度、角型性の悪化は阻止できると考えられる。そこで本発明者らは、これを解決するためにHD反応の前に水素雰囲気で600℃以下の温度において熱処理をする第一熱処理工程を導入し、HDDR反応の前にR−T−B系合金粉末中の希土類リッチ相および/またはR’金属またはR’−M系合金を水素化させることによって上記液相の生成を抑制し、その後HDDR反応させることによって配向度、角型性に優れるR−T−B系多孔質磁石が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0036】
以下、本発明によるR−T−B系永久磁石の製造方法について、望ましい実施形態を詳細に説明する。
【0037】
<原料合金>
まず、主たる相として硬磁性相であるR2T14B相および希土類リッチ相を含むR−T−B系合金(原料合金)を用意する。ここで、「R」は希土類元素であり、Ndおよび/またはPrを50原子%以上含む。本明細書における希土類元素Rはイットリウム(Y)を含んでもよい。TはFeまたはFeとCoである。このR−T−B系合金(原料合金)は、R2T14B相を体積比率で50%以上含んでいることが望ましい。原料合金に含まれる希土類元素Rの大部分は、R2T14B相および希土類リッチ相を構成しているが、一部はR2O3やその他の相を構成している。
【0038】
希土類元素Rの組成比率は原料合金全体の10原子%以上30原子%以下であることが望ましく、12原子%以上17原子%以下であることがより望ましい。さらに12原子%以上14原子%以下であると、HDDR処理後の組織において1μm以上の希土類リッチ相(非磁性)の塊を減らすことができる。また、HDDR処理中のR2T14B相の粒成長を抑制でき、同時にR2T14B相の構成比率を高められる。その結果HcJや減磁曲線の角型性の向上が期待できる。さらに、熱間圧縮成形までおこなった際の磁化の向上も図れる。また、Rの一部をDyおよび/またはTbとすることで、保磁力を向上させることができる。
【0039】
Bの組成比率は原料合金全体の3原子%以上15原子%以下が望ましく、5原子%以上8原子%以下がより望ましく、5.5原子%以上7.5原子%以下がさらに望ましい。Bはその一部をCで置換してもよいが、その置換量は置換前のBの量に対して10原子%以下であることが望ましい。
【0040】
「T」は残余を占め、Fe、またはFeおよびFeの一部を置換したCoである。その置換量はT全体の量に対して50原子%以下であることが望ましい。また、原料合金全体に対するCoの総量は、コストなどの観点から、20原子%以下であることが望ましく、5原子%以下であることがさらに望ましい。Coを全く含有しない場合でも高い磁気特性は得られるが、0.5原子%以上のCoを含有すると、より安定した磁気特性を得ることができる。
【0041】
磁気特性向上などの効果を得るため、Al、Ti、V、Cr、Ga、Nb、Mo、In、Sn、Hf、Ta、W、Cu、Si、Zr、Niなどの元素を適宜添加してもよい。ただし、添加量の増加は、特に飽和磁化の低下を招くため、総量で全体の10原子%以下とすることが望ましい。原料合金には不可避の不純物を含有していてもよい。
【0042】
原料合金は、磁気特性に悪影響を及ぼすα−Fe相の量を低減することのできるストリップキャスト法により作製することが望ましいが、ブックモールド法、遠心鋳造法、アトマイズ法などによっても作製することができる。原料合金における組織均質化などを目的として、粉砕前の原料合金に対して熱処理を施してもよい。このような熱処理は、真空または不活性ガス雰囲気において、典型的には1000℃以上の温度で実行され得る。
【0043】
<拡散材>
拡散材としてR’の金属またはR’−M系合金を用意する。これらの拡散材は、「拡散金属」と称してもよいが、本明細書では「拡散材」と総称する。ここで、「R’」は希土類元素であり、Nd、Pr、Dy、Tbからなる群から選択された少なくとも1種の希土類元素である。また、「M」は、Al、Ga、Cu、Co、Ni、Cr、Fe、Si、Geからなる群から選択された少なくとも1種の元素である。R’−M系合金は、後に記載する第一熱処理工程においてR’の水素化物(R’Hx)とR’−M化合物(R’M、R’M2など)とに分解するが、このとき生成するR’−M化合物の融点が、後に記載する第二熱処理工程(HD工程)の熱処理温度よりも高くなるように、「M」を選ぶことが望ましい。拡散材は、不可避の不純物を含有していてもよい。
【0044】
R’−M系合金における希土類元素R’の組成比率は25原子%以上100原子%未満であることが望ましく、30原子%以上80原子%以下であることがより望ましく、40原子%以上70原子%以下であることがさらに望ましい。
【0045】
また、R’−M系合金をあらかじめ10kPa以上の水素雰囲気において600℃以下の温度で水素吸蔵させたものを使用してもよい。水素吸蔵後のR’−M系合金は、R’の水素化物とR’−M化合物に分解してもよい。特にR’の組成比率が80原子%以上となると、後に記載するHDDR処理の第一熱処理工程において、R’−M系合金が水素吸蔵することによって体積が膨張するため圧粉体に割れが発生することから、あらかじめ水素吸蔵させたR’−M系合金を使用することが望ましい。
【0046】
拡散材は、ブックモールド法、遠心鋳造法、アトマイズ法、ストリップキャスト法、液体超急冷法などの公知の方法によって作製することができる。
【0047】
<混合粉末>
次に、上記原料合金と拡散材を混合した混合粉末を作製する。その際、原料合金と拡散材を別々に粉砕した後に混合しても、原料合金と拡散材の混合物を粉砕してもよい。
【0048】
原料合金と拡散材を別々に粉砕する場合には、まず原料合金をジョークラッシャーなどの機械的粉砕法や水素吸蔵粉砕法などを用いて粗粉砕し、大きさ50μm〜1000μm程度の粗粉砕粉末を作製する。この粗粉砕粉末に対してジェットミルなどによる微粉砕を行い、典型的には50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満の原料合金粉末を作製する。
【0049】
なお、50%体積中心粒径(D50)は気流分散型レーザー回折法により測定できる。50%体積中心粒径が明らかに所望の範囲内であることを確認できるレベルである場合には、任意抽出の粉末の粒径を電子顕微鏡観察によって簡易に確認してもよい。
【0050】
一方、拡散材を機械的粉砕法や水素吸蔵粉砕法などを用いて粗粉砕し、例えば大きさ75μm未満の拡散材粉末を作製する。拡散材の粉砕時には、粉砕性の向上などを目的として固体潤滑剤および/または液体潤滑剤を添加してもよい。拡散材粉末の大きさは、JIS Z 2510記載の方法によってJIS Z 8801−1に規定のふるいを用いて分級し、所望の粒度の範囲に調整すればよいが、拡散材粉末も50%体積中心粒径は気流分散型レーザー回折法によって測定して求めるか、電子顕微鏡によって確認する。
【0051】
作製した原料合金粉末と拡散材粉末を公知の粉末混合法によって混合し混合粉末を得る。
【0052】
取り扱いの観点から、原料合金粉末および拡散材粉末の50%体積中心粒径はそれぞれ1μm以上であることが望ましい。50%体積中心粒径が1μm未満になると、混合粉末が大気雰囲気中の酸素と反応しやすくなり、酸化による発熱・発火の危険性が高まるからである。取り扱いをより容易にするためには、50%体積中心粒径を3μm以上に設定することが望ましい。拡散材粉末の50%体積中心粒径は、酸化抑制の観点から10μm以上であることが好ましい。成型体の機械的強度向上という観点から、原料合金粉末の50%体積中心粒径の望ましい上限は9μmであり、さらに望ましい上限は8μmである。また、HDDR反応の均一性という観点から、拡散材粉末の粒径は75μm未満である。
【0053】
原料合金と拡散材を別々に粉砕することにより、原料合金粉末の50%体積中心粒径を1μm以上10μm未満、拡散材粉末の50%体積中心粒径を10μm以上とすることができ、特に酸素と反応しやすい拡散材の酸化を抑制することができる。
【0054】
また、原料合金と拡散材の混合物を粉砕する場合においては、まず原料合金と拡散材の混合物をジョークラッシャーなどの機械的粉砕法や水素吸蔵粉砕法などを用いて粗粉砕し、大きさ50μm〜1000μm程度の粗粉砕粉末を作製する。この粗粉砕粉末に対してジェットミルなどによる微粉砕を行い、50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満の混合粉末を作製する。原料合金と拡散材をそれぞれ大きさ50μm〜1000μm程度の粗粉砕粉末としてから混合し、混合した粗粉砕粉を微粉砕してもよい。
【0055】
混合粉末の50%体積中心粒径が1μm未満になると、混合粉末が大気雰囲気中の酸素と反応しやすくなり、酸化による発熱・発火の危険性が高まる。取り扱いをより容易にするためには、50%体積中心粒径を3μm以上に設定することが望ましい。圧粉体の機械的強度向上という観点から、50%体積中心粒径の望ましい上限は9μmであり、さらに望ましい上限は8μmである。
【0056】
原料合金と拡散材の混合物を粉砕することによって、原料合金と拡散材が均一に混合された混合粉末を容易に作製することができる。
【0057】
原料合金と拡散材の混合比は、重量比で(原料合金):(拡散材)=m:1(5≦m≦100)であることが望ましい。mが5未満であると、拡散材の割合が多くなりすぎるために、主相であるR2T14B相の体積率の低下を招き、結果として残留磁束密度の低下を招く可能性がある。また、mが100を超えると拡散材を添加した効果がほとんど得られなくなる可能性がある。
【0058】
混合粉末における希土類元素RおよびR’の総量は、混合粉末全体の10原子%以上30原子%以下であることが望ましく、12原子%以上17原子%以下であることがより望ましい。また、混合粉末における希土類元素RおよびR’の総量は、混合粉末全体の15原子%以下であると、ホットプレス後に金型から取り出しやすいのでより望ましい。
【0059】
<圧粉体>
次に、上記の混合粉末を成型し、圧粉体を作製する。圧粉体を成型する工程は、10MPa〜200MPaの圧力を付加し、0.4MA/m〜16MA/mの磁界中(静磁界、パルス磁界など)で行うことが望ましい。成型は公知の粉末プレス装置によって行うことができる。粉末プレス装置から取り出し時の圧粉体密度(成型体密度)は、3.5g/cm3〜5.2g/cm3程度である。
【0060】
また、成形は例えば図18や特開平7−153612号公報に記載のような容器内に混合粉末を充填した後に、0.05MPa〜10MPaの圧力を付加して圧粉体を作製してもよい。この場合は、容器に圧粉体を入れたまま後のHDDR処理を行う。容器内で成形することによって、圧粉体密度が低い場合においても取り扱いが容易となる。圧粉体密度を低くすることにより、後のHDDR処理において、水素吸蔵に伴う体積膨張によって生じる内部応力を圧粉体内部で緩和することができるため、クラックの発生を抑制することができる。この場合の圧粉体密度は3.0g/cm3〜4.0g/cm3程度である。
【0061】
上記の成型工程は、磁界を印加することなく実行してもよい。磁界配向を行わない場合、最終的には等方性の多孔質磁石が得られることになる。しかし、より高い磁気特性を得るためには、磁界配向を行いながら成型工程を実行し、最終的に異方性の多孔質磁石を得ることが望ましい。
【0062】
原料合金および拡散材の粉砕工程、および上記圧粉体の成型工程は、原料合金および拡散材の酸化を抑制しながら行うことが望ましい。原料合金および拡散材の酸化を抑制するには、各工程および各工程間のハンドリングをできる限り酸素量を抑制した不活性雰囲気で行うことが望ましい。DR処理前の圧粉体の酸素量は1質量%以下に抑制することが望ましく、0.6質量%以下に抑制することがより望ましい。
【0063】
本発明では、混合粉末を圧縮して成型した圧粉体に対してHDDR処理を行う。この圧粉体の内部には、水素ガスが移動・拡散可能な隙間が粉末粒子の間に十分な大きさで存在している。また、本発明では、50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満の原料粉末を使用しているため、水素が粉末粒子内の全体を移動することが容易である。これらのHD反応およびDR反応を短時間で進行させることができる。こうして、HDDR後の組織が均質化されるため、高い磁気特性、特に良好な角型性が得られるとともに、HDDR工程に要する時間を短縮できるという利点が得られる。
【0064】
<HDDR処理>
次に上記成型工程によって得られた圧粉体に対し、HDDR処理を施す。本実施形態において、HDDR処理は第一熱処理工程、第二熱処理工程、第三熱処理工程の3工程を含む。
【0065】
第一熱処理工程は、混合粉末を用いて成型した圧粉体に対し、水素雰囲気中、200℃以上600℃以下の温度で熱処理を施す工程である。第一熱処理工程では、R2T14B相のHD反応は起こらないが、R2T14B相の結晶格子間に水素が吸蔵される。また、R2T14B相の結晶粒間に存在する希土類リッチ相は水素化され、主にRの水素化物として存在する。また、拡散材はR’の水素化物とR’−M化合物に分解される。RおよびR’の水素化物の融点は、第二熱処理工程の熱処理温度よりも高いため、第二熱処理工程の前に生成する液相量を低減することができる。そのため、第一熱処理工程を行うことにより、第二熱処理工程の前に液相が生成して、R2T14B相と反応し、磁気特性、特に配向度および角型性が悪化することを抑制する。
【0066】
第一熱処理工程においては、R2T14B相の結晶格子間に水素が吸蔵され、R2T14B相の体積が約2%膨張することを、粉末X線回折測定より求めた格子定数から確認している。このことから、圧粉体の寸法や形状によっては、体積膨張によって生じる内部応力により圧粉体にクラックが生じてしまう可能性がある。このクラックの抑制のため、例えば、水素が通気可能な程度に密閉された容器など、圧粉体の体積膨張を抑制する拘束治具を用いてHDDR処理を行ってもよい。
【0067】
一例として拡散材としてNd90Al10合金(原子%)を使用した場合について具体的に説明する。
【0068】
原料合金とNd90Al10合金を混合し、第一熱処理工程を行わない場合、つまり真空または不活性雰囲気で第二熱処理工程の熱処理温度まで昇温した場合、Nd90Al10合金はNdとNd2Alの共晶温度である630℃以上で液相を生成する。この温度は、第二熱処理工程の熱処理温度よりは低いため、第二熱処理工程の前に、生成した液相とR2T14B相が反応してしまい、前述の理由で配向度および角型性が悪化する。
【0069】
一方、第一熱処理工程を行った場合、Nd90Al10合金はNdHxとNdAl2に分解することをX線回折測定により確認した。これらの融点は、いずれも後の第二熱処理工程の熱処理温度より高いため、NdHxから脱水素反応が起こらない限り、第二熱処理工程の熱処理温度以下では液相は生成しない。そのため、液相生成に起因する配向度および角型性の悪化を抑制することができる。
【0070】
第一熱処理工程の熱処理温度は、R2T14B相のHD反応が起こってしまうと、反応速度制御の困難性から配向度が悪化するため、R2T14B相のHD反応が起こる温度以下で行う必要がある。
【0071】
R−T−B系合金粉末の圧粉体を100kPaの水素雰囲気中で昇温しながら水素吸収挙動を調査したところ、610℃〜700℃において急激に水素を吸収することが確認された。そこで、700℃においてR−T−B系合金粉末の圧粉体を水素化させた後にX線回折測定によって構成相を調査したところ、R2T14B相は不均化し、RHx相とα−Fe相とFe2B相に分解していることが確認された。したがって、この水素の吸収はR2T14B相のHD反応によるものと考えられる。また、前記反応温度より低い600℃においてR−T−B系合金粉末の圧粉体を水素化させた後にX線回折測定によって構成相を調査したところ、R2T14B相のHD反応は起こっておらず、希土類リッチ相は主にRHx相となっていることが確認された。したがって、R2T14B相を不均化させることなく、希土類リッチ相を高融点化合物である希土類水素化物RHxとするための第一熱処理工程の熱処理温度は、600℃以下である。
【0072】
水素化の反応速度を向上させるため、熱処理温度は200℃以上であり、400℃以上であることが望ましい。また、水素化を十分進行させるために、600℃以下の所定の温度まで昇温した後に所定時間保持してもよく、その保持時間は120分以下であることが望ましい。120分を超えて熱処理を行っても、それ以上の効果は見られず、生産性の悪化を招く。
【0073】
また、第一熱処理工程における雰囲気の水素分圧は、10kPa以上が好ましい。また、50kPa以上であれば希土類リッチ相および拡散材の水素化が十分に進行するのでより好ましい。また、500kPaを超える水素分圧では、処理に特殊な装置が必要となるため、500kPa以下であることが望ましい。なお、より好ましい水素分圧は150kPa以下である。水素分圧が150kPaを超えると水素吸蔵が急激に起こってしまい、水素吸蔵に伴う体積膨張によって圧粉体にクラックが入ってしまう可能性がある。
【0074】
次に、雰囲気を真空(1.3Pa以下)または不活性雰囲気に切り替えて、第二熱処理工程の熱処理温度まで昇温する。昇温中の雰囲気に水素ガスが存在すると、R2T14B相のHD反応が進行してしまうため、反応速度制御が困難となり、結果として磁気特性の低下を招く可能性があるが、特許文献5などの従来のHDDR磁粉(原料合金粉末の平均粒子径が50μm〜10mm)の製造においては、水素ガスが存在することによって生じるHD反応で不均化する領域はごく一部であり、適切な昇温速度の下では、一定量の水素が存在しても表面のごくわずかな領域のみが昇温中に水素化および不均化するにとどまり、HDDR処理後の配向度への影響はそれほど顕在化しない。一方、本発明の製造方法では、50%体積中心粒径が10μm未満の微粉末を対象としており、表面積は従来のHDDR磁粉よりも100倍以上も大きく、昇温中の雰囲気に水素が存在することによって起こるHD反応の進行が、従来のHDDR磁粉の製造に比べて顕著であり、結果HDDR処理後の配向度の低下が顕在化する。
【0075】
なお、本明細書において、不活性ガスとはアルゴンおよび/またはヘリウムなどの希土類元素と反応しないガスを意味する。昇温工程を窒素雰囲気で行うと、希土類元素と窒素ガスが反応して希土類窒化物(NdN3など)を生成する可能性がある。
【0076】
また、昇温時間が長すぎると、第一熱処理工程により生成したRおよびR’の水素化物の脱水素反応が生じ、その結果新たに液相が生成されて、主相であるR2T14B相と反応し、得られる磁石の配向度および角型性を悪化させる可能性があるため、昇温時間(第一熱処理工程終了時から、第二熱処理工程の開始時までの時間)は60分以下とすることが望ましく、30分以下とすることがより望ましく、10分以下とすることがさらに望ましい。なお、雰囲気ガスの置換に要する時間や装置の昇温能力等を考慮すると、昇温時間は通常1分以上である。
【0077】
次いで行う第二熱処理工程は、水素雰囲気中においてR2T14B相をHD反応させて不均化組織を得る工程である。この時、第二熱処理工程の温度および水素分圧を適正に制御することによって最終的に得られる磁石の磁気的異方性を高めることができる。この時、第一熱処理工程で水素化された拡散材の形態は変化しない。
【0078】
第二熱処理工程の温度は650℃以上1000℃以下である。650℃未満では不均化が十分に進むまでに時間がかかりすぎる。また、1000℃を超えると不均化組織が粗大化するため、後の第三熱処理工程によって得られるR2T14B相の集合組織が粗大となり、磁気特性、特に保磁力の低下を招く。粒成長を抑制するという観点から、第二処理工程の温度を950℃以下に設定することが好ましく、900℃以下に設定することがより好ましい。
【0079】
第二熱処理工程の水素分圧は20kPa以上であることが望ましい。水素分圧が20kPa未満ではR2T14B相の不均化が十分に進むまでに時間がかかりすぎるため、生産性の低下を招く可能性がある。また、500kPaを超える水素分圧では、処理に特殊な装置が必要となるため、500kPa以下であることが望ましい。なお、より好ましい水素分圧は150kPa以下である。水素分圧が150kPaを超えると水素吸蔵が急激に起こってしまい、水素吸蔵に伴う体積膨張によって圧粉体にクラックが入ってしまう可能性がある。
【0080】
第二熱処理工程に要する時間は、10分以上5時間以下であることが望ましい。10分未満では、R2T14B相の不均化が十分に進まない可能性がある。また、5時間を超えると不均化組織が粗大化するため、第三熱処理工程後の再結合組織が粗大となり、磁気特性、特に保磁力の低下を招く可能性がある。より望ましくは15分以上2時間以下である。
【0081】
次いで行う第三熱処理工程では、真空(1.3Pa以下)または不活性雰囲気において650℃以上1000℃以下で保持することにより、RおよびR’の水素化物の脱水素反応を起こし、R2T14B相を再結合反応により生成させる。なお、第三熱処理工程の雰囲気を段階的に変化させることで脱水素反応の過程を制御することもできる。例えば、絶対圧または水素分圧が1kPa〜20kPaの雰囲気に5分以上300分以下の時間で制御したのち、真空または不活性雰囲気において650℃以上1000℃以下で保持することでHcJを制御することができる。
【0082】
第三熱処理工程で生成したR2T14B相は典型的には0.1μm以上1.0μm以下の平均結晶粒径を有する集合組織を形成する。また、再結合に使用されなかったRおよびR’の水素化物の脱水素反応が起こるとともに、Rに富む液相が生成し、R2T14B相の結晶粒界に粒界相(希土類リッチ相)が形成されて保磁力が発現する。このとき、液相中にR’−M化合物が溶解するため、M元素がR2T14B相内および/またはR2T14B相の結晶粒界に拡散することによって、保磁力が向上する。さらに、焼結反応も同時に起こり、多孔質の永久磁石となる。粒成長を抑制するという観点から、第三処理工程の温度を950℃以下に設定することが好ましく、900℃以下に設定してもよい。
【0083】
第三熱処理工程の温度は650℃以上1000℃以下である。650℃未満では脱水素反応が実質的に起こらない。また、1000℃を超えると再結合したR2T14B相が結晶粒成長してしまうため、磁気特性、特に保磁力の低下を招く。また、第三熱処理工程に要する時間は、5分以上10時間以下が望ましく、10分以上2時間以下がより望ましい。
【0084】
<多孔質磁石>
上記HDDR処理によって、3.5g/cm3以上7.0g/cm3以下の密度を有する多孔質磁石が得られる。この多孔質磁石においては、第二熱処理工程より前に粉末粒子の磁化容易軸を所定方向に配向させておくことにより、HDDR処理で形成する集合組織内の微細なNd2Fe14B型結晶相の磁化容易軸を磁石全体にわたって所定方向に配向することができる。
【0085】
この多孔質磁石には、HDDR処理工程で相互に結合した粉末粒子の間に、三次元網状に連通する長径10μm程度の空隙が存在している。圧粉体を構成していた個々の粉末粒子は、HDDR処理により隣接する粉末粒子と結合し、剛性を発揮する三次元構造を形成するとともに、個々の粉末粒子内では微細なNd2Fe14B型結晶相の集合組織が形成されている。
【0086】
本発明のR−T−B系多孔質磁石の密度は、3.5g/cm3以上7.0g/cm3以下であるが、粉末粒子間の隙間が存在した状態でも、粒子同士が結合し、十分な機械的強度と優れた磁気特性とを発揮する。
【0087】
本実施形態では、成型工程後に圧粉体に対してHDDR処理を施すため、HDDR処理後には粉末成型を行わない。このため、成型のための加圧によって磁粉が粉砕されて磁気特性が劣化するようなことがHDDR処理後に生じず、HDDR粉末を圧縮するボンド磁石に比べて高い磁気特性を得ることができる。
【0088】
<多孔質磁石の熱間圧縮成型>
上記の方法によって得られた多孔質磁石は、そのままの状態でバルク永久磁石として利用することができるが、さらにホットプレス法などの熱間圧縮成型を用いることによって、高密度化を行い、平均結晶粒径0.1μm以上1μm以下のR2T14B相の集合組織を有する高密度磁石を得ることができる。以下に熱間圧縮成型による高密度化について、具体的な実施形態の一例を示す。多孔質磁石に対する熱間圧縮は、公知の熱間圧縮技術を用いて行うことができる。例えば、ホットプレス、SPS(spark plasma sintering)、HIP、熱間圧延などの熱間圧縮成型を行うことが可能である。なかでも、所望の形状を得やすいホットプレスやSPSが好適に用いられ得る。以下、ホットプレスを行う手順について説明する。
【0089】
本実施形態では、図1に示す構成を有するホットプレス装置を用いる。この装置は、中央に開口部を有する金型(ダイ)27と多孔質磁石を加圧するための上パンチ28aおよび下パンチ28bと、これらのパンチ28a、28bを昇降する駆動部30a、30bとを備えている。
【0090】
上述した方法によって作製した多孔質磁石(図1では参照符号「10」と付している)を、図1に示す金型27に装填する。このとき、配向方向とプレス方向とが一致するように装填を行うことが望ましい。金型27およびパンチ28a、28bは、使用する雰囲気ガス中で加熱温度および印加圧力に耐えうる材料から形成される。このような材料としては、カーボンや、タングステンカーバイドなどの超硬合金が望ましい。なお、多孔質磁石10の外形寸法は金型27の開口部寸法よりも小さく設定しておくことにより、異方性を高められる。次に、多孔質磁石10を装填した金型27をホットプレス装置にセットする。ホットプレス装置は、真空(1.3Pa以下)または不活性雰囲気に制御することが可能なチャンバ26を備えていることが望ましい。チャンバ26内には、例えば抵抗加熱によるカーボンヒーターなどの加熱装置と、多孔質磁石を加圧して圧縮するためのシリンダーとが備え付けられている。
【0091】
チャンバ26内を真空または不活性ガス雰囲気で満たした後、加熱装置により金型27を加熱し、金型27に装填された多孔質磁石10の温度を600℃〜900℃に高め、9.8〜294MPaの圧力Pで多孔質磁石10を加圧する。多孔質磁石10に対する加圧は、金型27の温度が設定レベルに到達してから開始することが望ましい。金型の温度が十分に高くない場合には、加圧時に多孔質磁石に割れが生じたり、得られる高密度磁石の配向度が悪化してしまう可能性がある。加圧しながら600℃〜900℃の温度で10分以上保持した後、冷却する。加熱圧縮により高密度化された磁石が大気と接触して酸化しない程度の低い温度(100℃以下程度)まで冷却が進んだ後、本実施例の磁石をチャンバから取り出す。こうして、上記の多孔質磁石から本実施形態のR−T−B系高密度磁石を得ることができる。
【0092】
こうして得られた磁石の密度は真密度の90%以上に達する。また、本実施形態によれば、最終的な結晶相集合組織において、個々の結晶粒の最短粒径aと最長粒径bの比b/aが2未満である結晶粒が全結晶粒の50体積%以上存在する。この点において、本実施形態の磁石は、例えば特開平02−39503号公報などに記載の従来の熱間塑性加工による異方性バルク磁石と大きく異なっている。このような磁石の結晶組織においては最短粒径aと最長粒径bの比b/aが2を超えた扁平な結晶粒が支配的である。
【実施例】
【0093】
下の表1に示す組成の原料合金、および表2に示す組成の拡散材を用意し、上述した実施形態の製造方法により、多孔質磁石を作製した。以下、本実験例における多孔質磁石の作製方法を説明する。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
(実験例1)
まず、表1の組成を有する急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を得た。なお、50%体積中心粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(Sympatec社製、HEROS/RODOS、以下すべて同じ装置で測定)によって測定した。
【0097】
また、表2の組成を有する急冷凝固合金をメルトスピニング法で作製した。具体的には、オリフィス径0.8mmφの石英ノズル中で合金を溶解し、ロール周速度20m/sで回転する銅ロールに噴射し、リボン状の合金を得た。この合金を機械粉砕により粉砕し、目開き25μmのふるいを用いて分級し、大きさが25μm以下の拡散材粉末を得た。なお、得られた拡散材粉末の粒径は明らかに1μm以上であることを、電子顕微鏡観察によって確認した。
【0098】
得られた原料合金粉末および拡散材粉末を、メノウ乳鉢を用い表3に示す混合比で混合し、混合粉末M1〜M5を得た。
【0099】
【表3】
【0100】
次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、0.64MA/mの磁界中において、磁界と平行方向に76MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0101】
次に、圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で温度T1=200、250、300、400、600、700(℃)まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0102】
作製したサンプルの寸法と重量から密度を計算すると、5.8〜6.6g/cm3であった。
【0103】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。図2は第一熱処理工程の温度T1と残留磁束密度Br、図3はT1と保磁力HcJ、図4はT1と配向度(Br/Jmax)、図5はT1と角型比(Hk/HcJ)、図6はT1と最大エネルギー積((BH)max)の関係を示す。なお,Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に1.6MA/mまで外部磁界を印加した時のサンプルの磁化の最大測定値であり、Br/Jmaxが大きいほど配向度に優れている。また、Hkは磁化が減磁曲線上でBr×0.9となる時の外部磁界の値であり、Hk/HcJが大きいほど減磁曲線の角型性に優れている。
【0104】
図2〜6には、比較例として第一熱処理工程無しの結果も示している。なお、第一熱処理工程無しのサンプルは、100kPaのアルゴン流気中で840℃まで14℃/minで昇温した後に、雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えて840℃で2時間保持して第二熱処理工程を行い、次いで雰囲気を100kPaのアルゴン流気中で840℃を1時間保持して第三熱処理工程を行い、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却して作製した。
【0105】
図4および図5より明らかなように、T1が200℃以上600℃以下で作製したサンプルは、第一熱処理工程無しのサンプルに比べて、配向度および角型性に優れており、T1が400℃以上600℃以下で作製したサンプルにおいては、配向度および角型性に特に優れている。T1が700℃で作製したサンプルでは、水素流気中における700℃までの昇温過程でR2T14B相のHD反応が進行してしまうため、配向度および角型性のいずれも小さな値を示している。
【0106】
図7は、混合粉M2について、上記作製方法においてT1=300℃で作製したサンプルの破断面を示す電子顕微鏡写真である。図7において見られる、点在している約25μm程度の比較的大きな空隙Aは、HDDR処理前に拡散材が存在していた場所であると考えられる。すなわち、拡散材はDR処理後に生成した微細なR2T14B相の結晶粒間へ拡散し、これによって大きな保磁力が得られたと考えられる。
【0107】
また、作製したサンプルの減磁曲線の一例として、図8に混合粉M3について、上記作製方法においてT1=600℃で作製したサンプルの減磁曲線を示す。また、比較例として、上記作製方法で作製した第一熱処理工程無しのサンプルの減磁曲線もあわせて示す。図8から明らかなように、比較例のサンプルの減磁曲線は角型性が非常に悪いが、本発明の第一熱処理工程を行うことにより、減磁曲線の角型性に優れる磁石を作製することができる。
【0108】
(実験例2)
原料合金B1,B2の急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粗粉砕粉末を得た。また、拡散材D1,D4の急冷合金をメルトスピニング法で作製した。具体的には、オリフィス径0.8mmφの石英ノズル中で合金を溶解し、ロール周速度20m/sで回転する銅ロールに噴射し、リボン状の合金を得た。この合金を機械粉砕により粉砕し、粒径425μm以下の粗粉砕粉末を得た。また、拡散材D7の合金を高周波加熱により溶解した後に凝固させ、インゴットを得た。得られたインゴットを機械粉砕により425μm以下に粉砕し、拡散材粗粉末を得た。
【0109】
原料合金の粗粉末と拡散材の粗粉末を表4に示す混合比で混合した後、ジェットミル法により微粉砕することによって、50%体積中心粒径4.5〜6.8μmの混合粉末M6〜M8を得た。
【0110】
【表4】
【0111】
得られた混合粉末をプレス装置の金型に充填し、0.64MA/mの磁界中において、磁界と平行方向に76MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0112】
得られた混合粉末の圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0113】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。なお,Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に1.6MA/mまで外部磁界を印加した時のサンプルの磁化の最大測定値であり、Hkは減磁曲線上で磁化がBr×0.9となる時の外部磁界の値である。
【0114】
測定結果を表5に示す。表からわかるように、原料合金と拡散材の粗粉末を混合してから微粉砕して混合粉末を作製しても、良好な磁気特性が得られることが分かった。
【0115】
【表5】
【0116】
(実験例3)
実験例1で説明した混合粉末M2の圧粉体、および実験例2で説明した混合粉末M6〜8の圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、全圧が100kPaで、水素分圧がP1=0、10、20、50、100kPaである水素/アルゴン混合ガス流気雰囲気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0117】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。
【0118】
測定結果を表6に示す。表6よりわかるように、第一熱処理工程において流気するガス中の水素分圧が10kPa以上において良好な磁気特性が得られる。
【0119】
【表6】
【0120】
(実験例4)
実験例1で説明した混合粉末M2の圧粉体、および実験例2で説明した混合粉末M6〜8の圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を表7に記載の雰囲気ガス流気(全圧が100kPaのアルゴンガス流気、または全圧が100kPaで水素分圧が50kPaの水素/アルゴン混合ガス流気)に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温した。次いで雰囲気を全圧が100kPaの水素流気に切り替えた後840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。また、第一熱処理工程終了時から第二熱処理工程開始時までの雰囲気を水素分圧が50kPaの水素/アルゴン混合ガス流気で行ったものについては、そのままの雰囲気で第二熱処理工程を行うサンプルも作製した。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを作製した。
【0121】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。
【0122】
測定結果を表7に示す。表7よりわかるように、第一熱処理工程終了時から第二熱処理工程開始時までにおいて流気するガスの水素分圧P2が0kPaにおいては良好な磁気特性が得られるが、P2が50kPaでは配向度および角型性が悪化する。これは、第一熱処理工程終了時から第二熱処理工程開始時までの昇温中において一部HD反応が起こっているためであると考えられる。
【0123】
【表7】
【0124】
ここで、P2は、第一熱処理工程終了時から第二熱処理工程開始時までにおいて流気するガスの水素分圧であり、P3は、第二熱処理工程における水素分圧である。
【0125】
(実験例5)
実験例1で説明した混合粉末M2の圧粉体、および実験例2で説明した混合粉末M6〜8の圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、表8のt1の時間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで表8のr2の昇温速度で昇温した。次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0126】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。
【0127】
測定結果を表8に示す。表8よりわかるように、いずれの条件においても良好な磁気特性が得られる。
【0128】
【表8】
【0129】
(実験例6)
原料合金B2の急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。作製した急冷凝固合金を実験例1で説明した方法と同様の方法で粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を作製した。
【0130】
また、拡散材D2、D3、D4、D5、D6、D7、D8、D9、D10、D11の組成を有する粉末を実験例1で説明した方法と同様の方法で作製した。得られた拡散材粉末の粒径は明らかに1μm以上であることを、電子顕微鏡観察によって確認した。
【0131】
作製した原料合金粉末および拡散材粉末を用い、実験例1で説明した方法と同様の方法で混合し、表9に示す混合粉末M9〜M31を得た。実験例1で説明した方法と同様の方法で圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0132】
作製した圧粉体に対して実験例1で説明した方法と同様の方法でHDDR処理を行った。また、比較例として原料合金B2のみの圧粉体を作製し、圧粉体に対して同様のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0133】
【表9】
【0134】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。
【0135】
測定結果を表10に示す。表からわかるように、拡散材を混合していないサンプルに対し、拡散材を混合しているサンプルはいずれも高い保磁力を有することが分かる。また、拡散材の混合量が多くなるほど保磁力は高くなる傾向がみられる。特に、保磁力は拡散材組成がNd80Al20〜Nd50Al50において、また配向度および角型比は拡散材組成がNd50Al50〜Nd35Al65において良好な結果を示した。
【0136】
【表10】
【0137】
(実験例7)
原料合金B2の急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を得た。
【0138】
また、拡散材D7の急冷凝固合金をメルトスピニング法で作製した。具体的には、オリフィス径0.8mmφの石英ノズル中で合金を溶解し、ロール周速度20m/sで回転する銅ロールに噴射し、リボン状の合金を得た。この合金を機械粉砕により粉砕し、ふるいを用いて表11に示す拡散材粒度に分級し、拡散材粉末を得た。得られた拡散材粉末の粒径は、電子顕微鏡観察によって、明らかに1μm以上であることを確認した。
【0139】
得られた原料合金粉末および拡散材粉末を、メノウ乳鉢を用い表11に示す混合比で混合し、混合粉末を得た。
【0140】
【表11】
【0141】
次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、0.8テスラ(T)の磁界中において、磁界と平行方向に76MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0142】
作製した圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0143】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。測定結果を表12に示す。表からわかるように、様々な拡散材の粒径に対して、いずれも良好な磁気特性を示した。
【0144】
【表12】
【0145】
(実験例8)
原料合金B2の急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。作製した急冷凝固合金を実験例1で説明した方法と同様の方法で粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を作製した。
【0146】
また、拡散材D12、D13、D14、D15、D16、D17、D19、D20、D21、D22、D23、D24、D25、D26、D27の組成を有する急冷凝固合金を実験例1で説明した方法と同様の方法で作製した。作製した拡散材粉末の粒径は明らかに1μm以上であることを、電子顕微鏡観察によって確認した。
【0147】
作製した原料合金粉末および拡散材粉末を用い、実験例1で説明した方法と同様の方法で表13に示す混合粉末の圧粉体を作製した。
【0148】
圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0149】
得られた圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0150】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。なお,Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に1.6MA/mまで外部磁界を印加した時のサンプルの磁化の最大測定値であり、Hkは磁化がBr×0.9となる時の外部磁界の値である。
【0151】
測定結果を表13に示す。表よりわかるように、様々な拡散材に対して良好な磁気特性を示した。
【0152】
【表13】
【0153】
(実験例9)
原料合金B2の急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を得た。
【0154】
また、拡散材D1、D2、D5、D18の組成を有する急冷凝固合金をメルトスピニング法で作製した。具体的には、オリフィス径0.8mmφの石英ノズル中で合金を溶解し、ロール周速度20m/sで回転する銅ロールに噴射し、リボン状の合金を得た。この合金を水素ガス流気中で400℃まで昇温し水素を吸蔵させた後、機械粉砕により粉砕し、目開き25μmのメッシュを用いて分級し、大きさが25μm以下の拡散材粉末を得た。なお、得られた拡散材粉末の粒径は明らかに1μm以上であることを、電子顕微鏡観察によって確認した。
【0155】
得られた原料合金粉末および拡散材粉末を、メノウ乳鉢を用い表14に示す混合比で混合し、混合粉末を得た。
【0156】
【表14】
【0157】
次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、0.64MA/mの磁界中において、磁界と平行方向に76MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0158】
作製した圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0159】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。
【0160】
測定結果を表14に示す。表よりわかるように、水素を吸蔵させた拡散材を混合した場合においても良好な磁気特性を示した。
【0161】
(実験例10)
実験例1で説明した方法と同一の方法で混合粉末M4の圧粉体を作製し、圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で420℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し第一熱処理工程を行い、420℃で保持することなく雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替え、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温した。その後、雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま100kPa(大気圧)のアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った後、室温まで冷却し、多孔質磁石を得た。
【0162】
また、得られた多孔質磁石を、超硬合金製の金型中で750℃に加熱し、196MPaの圧力で10分間の熱間圧縮処理(ホットプレス)を行うことにより、密度7.21g/cm3の高密度磁石を得た。
【0163】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。得られた結果を図9に示す。図からわかるように、多孔質磁石および高密度磁石ともに、良好な磁気特性が得られる。また、ホットプレスによって保磁力はほとんど変化しないのに対し、減磁曲線の角型性が改善していることも確認された。
【0164】
(実験例11)
まず、表15の組成を有する急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を作製した。
【0165】
【表15】
【0166】
また、拡散材D4の組成を有する急冷凝固合金をメルトスピニング法で作製した。具体的には、オリフィス径0.8mmφの石英ノズル中で合金を溶解し、ロール周速度20m/sで回転する銅ロールに噴射し、リボン状の合金を作製した。この合金を水素流気中で400℃まで昇温し水素を吸蔵させた後、機械粉砕により粉砕し、目開き53μmのメッシュを用いて分級し、大きさが53μm以下の拡散材粉末を作製した。なお、作製した拡散材粉末の粒径は明らかに1μm以上であることを、電子顕微鏡観察によって確認した。
【0167】
作製した原料合金粉末および拡散材粉末を、メノウ乳鉢を用い表16に示す混合比で混合し、混合粉末を作製した。
【0168】
【表16】
【0169】
次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と直角方向に32MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0170】
次に、圧粉体に対して前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で温度T1=600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、860℃を120分保持して第二熱処理工程を行った。その後、860℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で60分保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを作製した。
【0171】
作製したサンプルの寸法と重量から密度を計算すると、5.8〜6.7g/cm3であった。
【0172】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表17に示す。表17からわかるようにいずれのサンプルも良好な磁気特性が得られている。特に、原料合金B6、B7、B8を使用したサンプルを比較すると、原料合金の希土類量が少なくなるほどBr7.6(真密度を7.6g/cm3と仮定してBrと密度から計算した値)と角型性が向上することがわかる。図10〜図12にM71、M76、M81の研磨面の走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製:S−800)による反射電子像(1000倍)を示す。M71からM81にむかって原料合金の希土類量が少なくなるにしたがって明るいコントラストで示される希土類リッチ相(希土類リッチ相のなかには相対的に明るいコントラストで示される金属相と暗いコントラストで示される酸化物相が存在する)の1μm以上の塊が減少していることがわかる。また、図13〜図15に図10〜図12に比べて倍率をあげたM71、M76、M81の研磨面の走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製:S−4300)による反射電子像(10000倍)を示す。M71からM81にむかって原料合金の希土類量が少なくなるにしたがって暗いコントラストで示されるR2T14B相の結晶粒径が小さくなっていくことがわかる。
【0173】
【表17】
【0174】
(実験例12)
まず、実験例11で作製した原料合金B6〜B10の原料合金粉末と拡散材D4の拡散材粉末を、メノウ乳鉢を用い表18に示す混合比で混合し、混合粉末を作製した。
【0175】
【表18】
【0176】
次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と直角方向に32MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0177】
次に、圧粉体に対して前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で温度T1=600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、860℃を120分保持して第二熱処理工程を行った。その後、860℃に保持したまま表19に示すように炉内の水素分圧を2.0〜10.0kPaに調整しながら60分保持し、次いで860℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で60分保持し、第三熱処理工程を行った。その後、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを作製した。
【0178】
【表19】
【0179】
作製したサンプルの寸法と重量から密度を計算すると、6.1〜6.7g/cm3であった。
【0180】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表20に示す。表20からわかるようにいずれのサンプルも良好な磁気特性が得られている。特に、条件S2〜S5のように第3熱処理工程の1段目に水素分圧2kPa〜6kPaで処理した場合に高いHcJが得られていることがわかる。図16、図17にM96のS1とS3の試料の研磨面の走査型電子顕微鏡(日本電子製:JSM−7001FA)による反射電子像を示す。S3の場合にはS1に比べてR2T14B相内に存在する微細なFe相が減少していることが分かる。
【0181】
【表20】
【0182】
(実験例13)
実験例12で作製した混合粉末M92〜M96と同様の混合粉末を作製した。次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と直角方向に32MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0183】
次に、圧粉体に対して前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で温度T1=600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、860℃を120分保持して第二熱処理工程を行った。その後、860℃に保持したまま表21に示すように炉内の水素分圧を4.0kPaに調整しながら15分〜180分保持し、次いで860℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で60分保持し、第三熱処理工程を行った。その後、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを作製した。
【0184】
【表21】
【0185】
作製したサンプルの寸法と重量から密度を計算すると、6.0〜6.4g/cm3であった。
【0186】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表22に示す。表22からわかるようにいずれのサンプルも良好な磁気特性が得られている。特に、条件S8〜S10のように第3熱処理工程の1段目に45〜120分間処理した場合に高いHcJが得られていることがわかる。
【0187】
【表22】
【0188】
(実験例14)
実験例11で作製した混合粉末M80と同様の混合粉末を作製した。次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と直角方向に32MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.3g/cm3であった。
【0189】
次に、圧粉体に対して前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で温度T1=600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、860℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、860℃のまま炉内の水素分圧を4.0kPaに調整しながら1時間保持し、次いで860℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で10分間保持し、第三熱処理工程を行った。その後、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、多孔質磁石を作製した。作製した多孔質磁石の寸法と重量から密度を計算すると、5.49g/cm3であった。
【0190】
作製した多孔質磁石に対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表23に示す。
【0191】
さらに多孔質磁石を超硬合金製の金型中で800℃に加熱し、50MPaの圧力で20分間の熱間圧縮処理(ホットプレス)を行うことにより、密度7.48g/cm3の高密度磁石を得た。作製した高密度磁石に対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表23に示す。表23からわかるようにいずれのサンプルも良好な磁気特性が得られ、特にホットプレスによってHDDR処理後に比べさらに磁気特性が向上していることが分かる。
【0192】
【表23】
【0193】
(実験例15)
実験例11で作製した混合粉末M80と同様の混合粉末1を作製した。次に、図18に示すような成形容器2およびプレス治具3を用意した。この実験例における成形容器2は、非磁性ステンレスから形成されている。混合粉末1を、内側の寸法が12mm×20mmで高さが20mmの角型の成形容器2に充填した。次に、成形容器2の内側寸法よりもわずかに小さい角型のプレス治具3で成形容器2の解放面に蓋をした。プレス方向と垂直方向(20mmの方向)に1.2MA/mの磁界を印加しながら、プレス治具3を手で押しつけた。このとき、約0.1MPaの圧力を付加して成形容器2内の粉末1を成形して圧粉体を作製した。圧粉体の密度はおよそ3.6g/cm3であった。
【0194】
その後、プレス治具3を成形容器2から取り外し、成形容器2ごとHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温した。そして、第一熱処理工程を行い、600℃で保持することなく雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替え、860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温した。次に雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、860℃を3時間保持して第二熱処理工程を行った。次に860℃のまま100kPaのアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った後、室温まで冷却し、多孔質磁石を作製した。作製した多孔質磁石の密度は約4.7g/cm3であった。
【0195】
このように、本明細書における「圧粉体」とは、低圧の圧縮に起因して密度が低いために、それ自体では機械的強度が足りず、自立できない状態の粉末を含むものとする。なお、成形容器2は、図示される形状を有する容器に限定されない。特開平7−153612号公報に開示されている充填容器およびその改変例を、圧粉体の形成行程および/またはHDDR処理工程において成形容器として使用することもできる。
【0196】
次に、多孔質磁石を超硬合金製の金型中で800℃に加熱し、50MPaの圧力で15分間の熱間圧縮処理(ホットプレス)を行うことにより、密度が7.47g/cm3の高密度磁石を作製した。作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。得られた結果を表24に示す。表24からわかるように、成形容器を用いて成形し、成形容器ごとHDDR処理を行っても、良好な磁気特性が得られる。
【0197】
【表24】
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明により作製された磁石は、従来のHDDR磁粉にNd−Cu合金を拡散させた磁石に比べて良好な角型性を示し、かつ従来の多孔質磁石に比べて高い保磁力を有するため、これらの特性が求められる様々な用途に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0199】
10 多孔質磁石
27 金型(ダイ)
28a 上パンチ
28b 下パンチ
30a 駆動部
30b 駆動部
26 チャンバ
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDDR法によって作製される多孔質構造を有するR−T−B系永久磁石、および前記R−T−B系永久磁石を熱間圧縮することによって作製されるR−T−B系高密度磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能永久磁石として代表的なR−T−B系焼結磁石(RはNdおよび/またはPrを50原子%以上含む希土類元素、TはFe、またはFeとCo)は、三元系正方晶化合物であるR2T14B相を主相として含む組織を有し、優れた磁気特性を発揮する。R−T−B系永久磁石においては、主相であるR2T14B相の結晶粒径を小さくすることにより保磁力が向上することが知られている。1μm以下の平均結晶粒径を有するR−T−B系永久磁石を得る方法として、HDDR(Hydrogenation−Disproportionation−Desorption−Recombination)処理法が知られている。
【0003】
「HDDR」は水素化(Hydrogenation)および不均化(Disproportionation)と、脱水素(Desorption)および再結合(Recombination)とを順次実行するプロセスを意味している。公知のHDDR処理は、例えば、R−T−B系合金のインゴットまたは粉末を、水素雰囲気または水素ガスと不活性ガスとの混合雰囲気中で温度500℃〜1000℃に保持し、それによって上記インゴットまたは粉末に水素を吸蔵(水素吸蔵処理)させた後、例えば水素圧力が13Pa以下の真空雰囲気、または水素分圧が13Pa以下の不活性雰囲気になるまで温度500℃〜1000℃で脱水素処理し、次いで冷却する。
【0004】
上記処理において、典型的には次のような反応が進行する。すなわち、前記水素吸蔵処理によって、水素化ならびに不均化反応(双方を合わせて「HD反応」と呼ぶ。反応式の例:Nd2Fe14B+2H2→2NdH2+12Fe+Fe2B)が進行し、微細組織が形成される。次いで脱水素処理を行うことにより、脱水素ならびに再結合反応(双方をあわせて「DR反応」と呼ぶ。反応式の例:2NdH2+12Fe+Fe2B→Nd2Fe14B+2H2)が起こり、微細なR2Fe14B相を含む合金が得られる。
【0005】
HDDR処理を施して製造されたR−T−B系合金粉末(以下、HDDR磁粉と称する)は、大きな保磁力を有し、磁気的異方性を示している。HDDR処理によってR−T−B系合金粉末を製造する方法は、例えば、特許文献1や特許文献2に開示されている。HDDR処理によれば、0.1μm〜1μmの非常に微細な結晶粒径を有する永久磁石粉末が得られる。
【0006】
さらに、近年、平均粒径10μm未満に微粉砕したR−T−B系合金粉末を成型して圧粉体を作製し、その圧粉体に対してHDDR処理を施すことにより作製した多孔質のバルク磁石(以下、多孔質磁石と称する)が開発され、特許文献3に開示されている。この多孔質磁石は、平均粒径が10μm未満の微粉末に対してHDDR処理を施しているために、HDDR反応を短時間で進行させることができ、結果としてHDDR反応を均一に進行させることができるため、減磁曲線の角型性に優れている。特許文献3では、HDDR処理において、昇温時の反応速度制御の困難性に起因する磁気特性低下を抑制するために、HD反応のための昇温工程を真空または不活性雰囲気で行うことが望ましいと記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、HDDR処理によって得られた永久磁石粉末をホットプレスなどの熱間成型法によって、バルク化することができることが開示されている。
【0008】
特許文献5には、HDDR処理によって磁石粉末を得る際、R−T−B系合金粉末に対してHD処理を行う前に、30kPa(0.3atm)以上100kPa(1.0atm)以下の水素雰囲気下で、600℃以下の温度で保持することが開示されている。この方法によれば、HD反応が起きない温度で、R2T14B相中に水素を含有させてR2Fe14BHx(xは水素量を表す)とし、その後、20kPa(0.2atm)以上60kPa(0.6atm)以下の水素雰囲気下でHD反応温度まで昇温され、その状態に保持される。このとき、水素化および不均化させることによって、その後のDR反応後に高い異方化度を有する永久磁石粉末が得られる。
【0009】
また、HDDR磁粉とNd−Cu合金粉末を混合し、熱処理することによってHDDR磁粉の保磁力をさらに高めることができることが、たとえば非特許文献1などに示されている。非特許文献1によれば、上記HDDR磁粉の保磁力向上は、熱処理温度がNd−Cu合金の融点よりも高い時、融解したNd−Cu合金がR2T14B相の結晶粒間に拡散することによって、R2T14B相の結晶粒間における磁気的な結合が切断されたためであるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1−132106号公報
【特許文献2】特開平2−4901号公報
【特許文献3】国際公開第2007/135981号公報
【特許文献4】特開平4−253304号公報
【特許文献5】特開2001−76917号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H.Sepehri−Amin,T.Ohkubo,T.Nishiuchi,S.Hirosawa,K.Hono,Scripta Materialia vol.63 pp.1124−1127(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
非特許文献1に記載されているように、HDDR磁粉とNd−Cu合金粉末を混合し熱処理することによって、Nd−Cu合金がR2T14B相の結晶粒界に拡散し、保磁力が向上する。しかしながら、この磁粉は減磁曲線の角型性が悪いという問題がある。
【0013】
そこで、本発明者らは、前述した背景技術を踏まえ、特許文献3によって製造される角型性に優れる多孔質磁石に対してNd−Cu合金を拡散させ、角型性に優れ、かつ保磁力の高い磁石を作製しようと試みた。しかしながら、多孔質磁石はバルク体であるために、大きな磁石に対してNd−Cu合金などの希土類合金を内部まで拡散させることは困難であり、磁石の内部と外部で磁気特性のばらつきが生じるという問題があった。
【0014】
特許文献3には、磁気特性の向上などを目的として、HDDR処理前の圧粉体に別の合金を混合してもよいと記述されている。このため、本発明者らは、R−T−B系合金粉末とNd−Cu合金粉末の混合粉を磁界中で成型し、R2T14B相のc軸方向を所定方向に揃えた成型体に対して、特許文献3に開示されているHDDR処理を施すことを試みた。しかしながら、得られた多孔質磁石は、Nd−Cu合金粉末を混合していない多孔質磁石と比べて配向度および角型性が大きく劣っていた。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の主たる目的は、従来のHDDR磁粉にNd−Cu合金を拡散させた磁粉に比べて良好な角型性を示し、かつ従来の多孔質磁石に比べて高い保磁力を有するR−T−B系永久磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のR−T−B系永久磁石の製造方法は、50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満であり、R2T14B相を含むR−T−B系合金粉末(RはNdおよび/またはPrを50原子%以上含む希土類元素、TはFe、またはFeとCo)と、粒径75μm未満のR’金属(R’はNd、Pr、Dy、Tbから選ばれる1種以上)またはR’−M系合金(MはAl、Ga、Cu、Co、Ni、Cr、Fe、Si、Geから選ばれる1種以上)の粉末との混合粉末を用意する工程と、前記混合粉末を成型して圧粉体を作製する工程と、前記圧粉体を200℃以上600℃以下の温度の水素雰囲気中で熱処理を施す第一熱処理工程と、前記第一熱処理工程の後、前記圧粉体に対し、650℃以上1000℃以下の水素雰囲気中で熱処理を施す第二熱処理工程と、前記第二熱処理工程の後、前記圧粉体に対し、650℃以上1000℃以下の真空または不活性雰囲気中で熱処理を施す第三熱処理工程とを含み、前記第一熱処理工程終了時から前記第二熱処理工程の開始時までの昇温を、真空または不活性雰囲気中で行う。
【0017】
ある好ましい実施形態では、前記第一熱処理工程における水素雰囲気の水素分圧は10kPa以上500kPa以下である。
【0018】
ある好ましい実施形態では、前記第一熱処理工程終了後、前記第二熱処理工程の開始までの時間を60分以下とする。
【0019】
ある好ましい実施形態では、前記第二熱処理工程における水素雰囲気の水素分圧は20kPa以上500kPa以下である。
【0020】
ある好ましい実施形態では、前記R’−M系合金におけるR’含有量は、25原子%以上100原子%未満である。
【0021】
ある好ましい実施形態では、前記混合粉末における前記R−T−B系合金粉末と前記R’金属またはR’−M系合金の粉末との混合比率は、重量比で(R−T−B系合金粉末):(R’またはR’−M系合金粉末)=m:1(5≦m≦100)である。
【0022】
ある好ましい実施形態において、前記混合粉末を用意する工程は、前記R−T−B系合金粉末を準備する工程と、前記R’金属またはR’−M系合金の粉末を準備する工程と、前記R−T−B系合金粉末と前記R’金属またはR’−M系合金の前記粉末とを混合する工程とを含む。
【0023】
ある好ましい実施形態において、前記混合粉末を用意する工程は、R−T−B系合金とR’金属またはR’−M系合金との混合物を、50%体積中心粒径が1μm以上10μm以下の粉末に粉砕する工程を含む。
【0024】
ある好ましい実施形態において、前記混合粉末を用意する工程は、前記R’金属またはR’−M系合金の粉末に水素を吸蔵させる工程の後、前記R−T−B系合金と前記水素を吸蔵させた前記R’金属またはR’−M系合金の混合物を微粉砕する工程を含む。
【0025】
ある好ましい実施形態において、前記第二熱処理工程および前記第三熱処理工程における熱処理の温度は950℃以下である。
【0026】
ある好ましい実施形態において、前記第一熱処理工程、前記第二熱処理工程、および、前記第三熱処理工程の間、前記圧粉体は成形容器内に保持されている。
【0027】
本発明のR−T−B系高密度磁石の製造方法は、上記のいずれかに記載の製造方法によって製造されたR−T−B系永久磁石を準備する工程と、熱間圧縮成型によって前記R−T−B系永久磁石の密度を高める工程とを含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、50%体積中心粒径1μm以上10μm未満のR−T−B系合金粉末と粒度75μm未満のR’金属またはR’−M系合金の粉末の混合粉末を成型した圧粉体に対して、まず200℃以上600℃以下の水素雰囲気で熱処理を行う。このとき、R−T−B系希土類合金中の希土類リッチ相およびR’金属またはR’−M系合金に水素を吸蔵させることができる。その結果、後のHDDR処理における反応の不均一性に伴う角型性および配向度の低下を抑制し、優れた磁気特性を有する磁石を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態で好適に使用され得るホットプレス装置を示す図である。
【図2】第一熱処理工程の温度T1と残留磁束密度Brとの関係を示すグラフである。
【図3】第一熱処理工程の温度T1と保磁力HcJとの関係を示すグラフである。
【図4】第一熱処理工程の温度T1と配向度(Br/Jmax)との関係を示すグラフである。
【図5】第一熱処理工程の温度T1と角型比(Hk/HcJ)との関係を示すグラフである。
【図6】第一熱処理工程の温度T1と最大エネルギー積((BH)max)との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例において、T1=300℃で作製したサンプルの破断面を示す電子顕微鏡像を示す図である。
【図8】実施例および比較例の減磁曲線を示すグラフである。
【図9】多孔質磁石および高密度磁石の減磁曲線を示すグラフである。
【図10】M71の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(1000倍)である。
【図11】M76の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(1000倍)である。
【図12】M81の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(1000倍)である。
【図13】M71の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(10000倍)である。
【図14】M76の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(10000倍)である。
【図15】M81の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(10000倍)である。
【図16】M96のS1の試料の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(10000倍)である。
【図17】M96のS3の試料の研磨面の走査型電子顕微鏡による反射電子像(10000倍)である。
【図18】圧粉体の作製に使用され得る成形容器およびプレス治具の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、R−T−B系合金粉末とR’−M系合金粉末の混合粉末の成型体に対して特許文献3記載のHDDR処理を行った磁石の配向度および角型性が劣る原因について詳細な考察を行った。
【0031】
HDDR処理によって磁気的異方性が得られたR−T−B系磁石におけるR2T14B相の磁化容易軸であるc軸は、HDDR処理前のR2T14B相のc軸とほぼ同一の方位となることが知られている。このようにR2T14B相の方位を記憶するメカニズムについては、さまざまな考察がなされている。HD処理後に得られる組織中には、典型的にはRH2相やα−Fe相、Fe2B相などが存在する。この組織を、以下「不均化組織」と呼ぶ。この組織に、HDDR処理前のR2T14B相のc軸の向きを伝承している領域が存在すると考えられる。これは、特許文献3の多孔質磁石でも同様であると考えられる。
【0032】
上述したように、特許文献3では、R−T−B系合金粉末を成型して圧粉体を作製し、その圧粉体に対して施すHDDR処理において、昇温時の反応速度制御の困難性に起因する磁気特性低下を抑制するために、HD反応のための昇温工程を真空または不活性雰囲気で行うことが望ましいと記載されている。しかしながら、R−T−B系合金粉末とR’−M系合金粉末を混合し、成型した成型体の加熱を真空または不活性雰囲気で行うと、昇温中に液相を生成する温度の低いR’−M系合金の一部あるいは全部が溶解することが分かった。その際に生成した液相中の希土類量がR2T14B相と平衡する液相の希土類量よりも多いと、液相が平衡組成となるまでR2T14B相を溶解してしまう可能性がある。
【0033】
その後、従来技術における通常のHD反応においては、R2T14B相、液相のいずれも水素と反応し、RH2相、α−Fe相、Fe2B相に分解するなどして不均化組織を形成する。しかしながら、上記R−T−B系合金粉末とR’−M系合金粉末を混合し、成型した圧粉体に対してHDDR処理を行った場合、液相中の少なくとも昇温中にR2T14B相が溶解した成分と、水素との反応で生成する組織は、磁界中成型によりR2T14B相のc軸方向を揃えた方向とは無関係な方向に生成するため、次いで行うDR反応によって再結合したR2T14B相のc軸方向は、磁界中成型によってR2T14B相のc軸方向を揃えた方向とは無関係な方向に向いてしまい、全体としてHDDR処理前の状態よりも配向度が低下してしまう可能性がある。
【0034】
また、このようにR2T14B相、液相のいずれからもRH2相、α−Fe相、Fe2B相が分解して生成すると、HD反応により形成した組織は不均一なものとなり、結果として保磁力のばらつきが大きくなって角型性がR’−M系合金粉末を混合していない場合に比べて悪化するのではないかと考えられる。さらに、M元素がR2T14B相に固溶する場合は、真空または不活性雰囲気での昇温の過程でR’−M系合金から生成した液相からの拡散によってM元素がR2T14B相の表面近傍に固溶し、その結果HDDR反応がR2T14B相の内部と外部で不均一となることも角型性が悪化する一因になるのではないかと考えられる。
【0035】
R−T−B系合金粉末とR’−M系合金粉末の混合粉末の圧粉体をHDDR処理することによって生じる配向度および角型性の悪化は、上述のようにHD反応前の昇温過程においてR’−M系合金が溶解することによって生成する液相が主原因であり、この生成を抑制することができれば、配向度、角型性の悪化は阻止できると考えられる。そこで本発明者らは、これを解決するためにHD反応の前に水素雰囲気で600℃以下の温度において熱処理をする第一熱処理工程を導入し、HDDR反応の前にR−T−B系合金粉末中の希土類リッチ相および/またはR’金属またはR’−M系合金を水素化させることによって上記液相の生成を抑制し、その後HDDR反応させることによって配向度、角型性に優れるR−T−B系多孔質磁石が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0036】
以下、本発明によるR−T−B系永久磁石の製造方法について、望ましい実施形態を詳細に説明する。
【0037】
<原料合金>
まず、主たる相として硬磁性相であるR2T14B相および希土類リッチ相を含むR−T−B系合金(原料合金)を用意する。ここで、「R」は希土類元素であり、Ndおよび/またはPrを50原子%以上含む。本明細書における希土類元素Rはイットリウム(Y)を含んでもよい。TはFeまたはFeとCoである。このR−T−B系合金(原料合金)は、R2T14B相を体積比率で50%以上含んでいることが望ましい。原料合金に含まれる希土類元素Rの大部分は、R2T14B相および希土類リッチ相を構成しているが、一部はR2O3やその他の相を構成している。
【0038】
希土類元素Rの組成比率は原料合金全体の10原子%以上30原子%以下であることが望ましく、12原子%以上17原子%以下であることがより望ましい。さらに12原子%以上14原子%以下であると、HDDR処理後の組織において1μm以上の希土類リッチ相(非磁性)の塊を減らすことができる。また、HDDR処理中のR2T14B相の粒成長を抑制でき、同時にR2T14B相の構成比率を高められる。その結果HcJや減磁曲線の角型性の向上が期待できる。さらに、熱間圧縮成形までおこなった際の磁化の向上も図れる。また、Rの一部をDyおよび/またはTbとすることで、保磁力を向上させることができる。
【0039】
Bの組成比率は原料合金全体の3原子%以上15原子%以下が望ましく、5原子%以上8原子%以下がより望ましく、5.5原子%以上7.5原子%以下がさらに望ましい。Bはその一部をCで置換してもよいが、その置換量は置換前のBの量に対して10原子%以下であることが望ましい。
【0040】
「T」は残余を占め、Fe、またはFeおよびFeの一部を置換したCoである。その置換量はT全体の量に対して50原子%以下であることが望ましい。また、原料合金全体に対するCoの総量は、コストなどの観点から、20原子%以下であることが望ましく、5原子%以下であることがさらに望ましい。Coを全く含有しない場合でも高い磁気特性は得られるが、0.5原子%以上のCoを含有すると、より安定した磁気特性を得ることができる。
【0041】
磁気特性向上などの効果を得るため、Al、Ti、V、Cr、Ga、Nb、Mo、In、Sn、Hf、Ta、W、Cu、Si、Zr、Niなどの元素を適宜添加してもよい。ただし、添加量の増加は、特に飽和磁化の低下を招くため、総量で全体の10原子%以下とすることが望ましい。原料合金には不可避の不純物を含有していてもよい。
【0042】
原料合金は、磁気特性に悪影響を及ぼすα−Fe相の量を低減することのできるストリップキャスト法により作製することが望ましいが、ブックモールド法、遠心鋳造法、アトマイズ法などによっても作製することができる。原料合金における組織均質化などを目的として、粉砕前の原料合金に対して熱処理を施してもよい。このような熱処理は、真空または不活性ガス雰囲気において、典型的には1000℃以上の温度で実行され得る。
【0043】
<拡散材>
拡散材としてR’の金属またはR’−M系合金を用意する。これらの拡散材は、「拡散金属」と称してもよいが、本明細書では「拡散材」と総称する。ここで、「R’」は希土類元素であり、Nd、Pr、Dy、Tbからなる群から選択された少なくとも1種の希土類元素である。また、「M」は、Al、Ga、Cu、Co、Ni、Cr、Fe、Si、Geからなる群から選択された少なくとも1種の元素である。R’−M系合金は、後に記載する第一熱処理工程においてR’の水素化物(R’Hx)とR’−M化合物(R’M、R’M2など)とに分解するが、このとき生成するR’−M化合物の融点が、後に記載する第二熱処理工程(HD工程)の熱処理温度よりも高くなるように、「M」を選ぶことが望ましい。拡散材は、不可避の不純物を含有していてもよい。
【0044】
R’−M系合金における希土類元素R’の組成比率は25原子%以上100原子%未満であることが望ましく、30原子%以上80原子%以下であることがより望ましく、40原子%以上70原子%以下であることがさらに望ましい。
【0045】
また、R’−M系合金をあらかじめ10kPa以上の水素雰囲気において600℃以下の温度で水素吸蔵させたものを使用してもよい。水素吸蔵後のR’−M系合金は、R’の水素化物とR’−M化合物に分解してもよい。特にR’の組成比率が80原子%以上となると、後に記載するHDDR処理の第一熱処理工程において、R’−M系合金が水素吸蔵することによって体積が膨張するため圧粉体に割れが発生することから、あらかじめ水素吸蔵させたR’−M系合金を使用することが望ましい。
【0046】
拡散材は、ブックモールド法、遠心鋳造法、アトマイズ法、ストリップキャスト法、液体超急冷法などの公知の方法によって作製することができる。
【0047】
<混合粉末>
次に、上記原料合金と拡散材を混合した混合粉末を作製する。その際、原料合金と拡散材を別々に粉砕した後に混合しても、原料合金と拡散材の混合物を粉砕してもよい。
【0048】
原料合金と拡散材を別々に粉砕する場合には、まず原料合金をジョークラッシャーなどの機械的粉砕法や水素吸蔵粉砕法などを用いて粗粉砕し、大きさ50μm〜1000μm程度の粗粉砕粉末を作製する。この粗粉砕粉末に対してジェットミルなどによる微粉砕を行い、典型的には50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満の原料合金粉末を作製する。
【0049】
なお、50%体積中心粒径(D50)は気流分散型レーザー回折法により測定できる。50%体積中心粒径が明らかに所望の範囲内であることを確認できるレベルである場合には、任意抽出の粉末の粒径を電子顕微鏡観察によって簡易に確認してもよい。
【0050】
一方、拡散材を機械的粉砕法や水素吸蔵粉砕法などを用いて粗粉砕し、例えば大きさ75μm未満の拡散材粉末を作製する。拡散材の粉砕時には、粉砕性の向上などを目的として固体潤滑剤および/または液体潤滑剤を添加してもよい。拡散材粉末の大きさは、JIS Z 2510記載の方法によってJIS Z 8801−1に規定のふるいを用いて分級し、所望の粒度の範囲に調整すればよいが、拡散材粉末も50%体積中心粒径は気流分散型レーザー回折法によって測定して求めるか、電子顕微鏡によって確認する。
【0051】
作製した原料合金粉末と拡散材粉末を公知の粉末混合法によって混合し混合粉末を得る。
【0052】
取り扱いの観点から、原料合金粉末および拡散材粉末の50%体積中心粒径はそれぞれ1μm以上であることが望ましい。50%体積中心粒径が1μm未満になると、混合粉末が大気雰囲気中の酸素と反応しやすくなり、酸化による発熱・発火の危険性が高まるからである。取り扱いをより容易にするためには、50%体積中心粒径を3μm以上に設定することが望ましい。拡散材粉末の50%体積中心粒径は、酸化抑制の観点から10μm以上であることが好ましい。成型体の機械的強度向上という観点から、原料合金粉末の50%体積中心粒径の望ましい上限は9μmであり、さらに望ましい上限は8μmである。また、HDDR反応の均一性という観点から、拡散材粉末の粒径は75μm未満である。
【0053】
原料合金と拡散材を別々に粉砕することにより、原料合金粉末の50%体積中心粒径を1μm以上10μm未満、拡散材粉末の50%体積中心粒径を10μm以上とすることができ、特に酸素と反応しやすい拡散材の酸化を抑制することができる。
【0054】
また、原料合金と拡散材の混合物を粉砕する場合においては、まず原料合金と拡散材の混合物をジョークラッシャーなどの機械的粉砕法や水素吸蔵粉砕法などを用いて粗粉砕し、大きさ50μm〜1000μm程度の粗粉砕粉末を作製する。この粗粉砕粉末に対してジェットミルなどによる微粉砕を行い、50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満の混合粉末を作製する。原料合金と拡散材をそれぞれ大きさ50μm〜1000μm程度の粗粉砕粉末としてから混合し、混合した粗粉砕粉を微粉砕してもよい。
【0055】
混合粉末の50%体積中心粒径が1μm未満になると、混合粉末が大気雰囲気中の酸素と反応しやすくなり、酸化による発熱・発火の危険性が高まる。取り扱いをより容易にするためには、50%体積中心粒径を3μm以上に設定することが望ましい。圧粉体の機械的強度向上という観点から、50%体積中心粒径の望ましい上限は9μmであり、さらに望ましい上限は8μmである。
【0056】
原料合金と拡散材の混合物を粉砕することによって、原料合金と拡散材が均一に混合された混合粉末を容易に作製することができる。
【0057】
原料合金と拡散材の混合比は、重量比で(原料合金):(拡散材)=m:1(5≦m≦100)であることが望ましい。mが5未満であると、拡散材の割合が多くなりすぎるために、主相であるR2T14B相の体積率の低下を招き、結果として残留磁束密度の低下を招く可能性がある。また、mが100を超えると拡散材を添加した効果がほとんど得られなくなる可能性がある。
【0058】
混合粉末における希土類元素RおよびR’の総量は、混合粉末全体の10原子%以上30原子%以下であることが望ましく、12原子%以上17原子%以下であることがより望ましい。また、混合粉末における希土類元素RおよびR’の総量は、混合粉末全体の15原子%以下であると、ホットプレス後に金型から取り出しやすいのでより望ましい。
【0059】
<圧粉体>
次に、上記の混合粉末を成型し、圧粉体を作製する。圧粉体を成型する工程は、10MPa〜200MPaの圧力を付加し、0.4MA/m〜16MA/mの磁界中(静磁界、パルス磁界など)で行うことが望ましい。成型は公知の粉末プレス装置によって行うことができる。粉末プレス装置から取り出し時の圧粉体密度(成型体密度)は、3.5g/cm3〜5.2g/cm3程度である。
【0060】
また、成形は例えば図18や特開平7−153612号公報に記載のような容器内に混合粉末を充填した後に、0.05MPa〜10MPaの圧力を付加して圧粉体を作製してもよい。この場合は、容器に圧粉体を入れたまま後のHDDR処理を行う。容器内で成形することによって、圧粉体密度が低い場合においても取り扱いが容易となる。圧粉体密度を低くすることにより、後のHDDR処理において、水素吸蔵に伴う体積膨張によって生じる内部応力を圧粉体内部で緩和することができるため、クラックの発生を抑制することができる。この場合の圧粉体密度は3.0g/cm3〜4.0g/cm3程度である。
【0061】
上記の成型工程は、磁界を印加することなく実行してもよい。磁界配向を行わない場合、最終的には等方性の多孔質磁石が得られることになる。しかし、より高い磁気特性を得るためには、磁界配向を行いながら成型工程を実行し、最終的に異方性の多孔質磁石を得ることが望ましい。
【0062】
原料合金および拡散材の粉砕工程、および上記圧粉体の成型工程は、原料合金および拡散材の酸化を抑制しながら行うことが望ましい。原料合金および拡散材の酸化を抑制するには、各工程および各工程間のハンドリングをできる限り酸素量を抑制した不活性雰囲気で行うことが望ましい。DR処理前の圧粉体の酸素量は1質量%以下に抑制することが望ましく、0.6質量%以下に抑制することがより望ましい。
【0063】
本発明では、混合粉末を圧縮して成型した圧粉体に対してHDDR処理を行う。この圧粉体の内部には、水素ガスが移動・拡散可能な隙間が粉末粒子の間に十分な大きさで存在している。また、本発明では、50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満の原料粉末を使用しているため、水素が粉末粒子内の全体を移動することが容易である。これらのHD反応およびDR反応を短時間で進行させることができる。こうして、HDDR後の組織が均質化されるため、高い磁気特性、特に良好な角型性が得られるとともに、HDDR工程に要する時間を短縮できるという利点が得られる。
【0064】
<HDDR処理>
次に上記成型工程によって得られた圧粉体に対し、HDDR処理を施す。本実施形態において、HDDR処理は第一熱処理工程、第二熱処理工程、第三熱処理工程の3工程を含む。
【0065】
第一熱処理工程は、混合粉末を用いて成型した圧粉体に対し、水素雰囲気中、200℃以上600℃以下の温度で熱処理を施す工程である。第一熱処理工程では、R2T14B相のHD反応は起こらないが、R2T14B相の結晶格子間に水素が吸蔵される。また、R2T14B相の結晶粒間に存在する希土類リッチ相は水素化され、主にRの水素化物として存在する。また、拡散材はR’の水素化物とR’−M化合物に分解される。RおよびR’の水素化物の融点は、第二熱処理工程の熱処理温度よりも高いため、第二熱処理工程の前に生成する液相量を低減することができる。そのため、第一熱処理工程を行うことにより、第二熱処理工程の前に液相が生成して、R2T14B相と反応し、磁気特性、特に配向度および角型性が悪化することを抑制する。
【0066】
第一熱処理工程においては、R2T14B相の結晶格子間に水素が吸蔵され、R2T14B相の体積が約2%膨張することを、粉末X線回折測定より求めた格子定数から確認している。このことから、圧粉体の寸法や形状によっては、体積膨張によって生じる内部応力により圧粉体にクラックが生じてしまう可能性がある。このクラックの抑制のため、例えば、水素が通気可能な程度に密閉された容器など、圧粉体の体積膨張を抑制する拘束治具を用いてHDDR処理を行ってもよい。
【0067】
一例として拡散材としてNd90Al10合金(原子%)を使用した場合について具体的に説明する。
【0068】
原料合金とNd90Al10合金を混合し、第一熱処理工程を行わない場合、つまり真空または不活性雰囲気で第二熱処理工程の熱処理温度まで昇温した場合、Nd90Al10合金はNdとNd2Alの共晶温度である630℃以上で液相を生成する。この温度は、第二熱処理工程の熱処理温度よりは低いため、第二熱処理工程の前に、生成した液相とR2T14B相が反応してしまい、前述の理由で配向度および角型性が悪化する。
【0069】
一方、第一熱処理工程を行った場合、Nd90Al10合金はNdHxとNdAl2に分解することをX線回折測定により確認した。これらの融点は、いずれも後の第二熱処理工程の熱処理温度より高いため、NdHxから脱水素反応が起こらない限り、第二熱処理工程の熱処理温度以下では液相は生成しない。そのため、液相生成に起因する配向度および角型性の悪化を抑制することができる。
【0070】
第一熱処理工程の熱処理温度は、R2T14B相のHD反応が起こってしまうと、反応速度制御の困難性から配向度が悪化するため、R2T14B相のHD反応が起こる温度以下で行う必要がある。
【0071】
R−T−B系合金粉末の圧粉体を100kPaの水素雰囲気中で昇温しながら水素吸収挙動を調査したところ、610℃〜700℃において急激に水素を吸収することが確認された。そこで、700℃においてR−T−B系合金粉末の圧粉体を水素化させた後にX線回折測定によって構成相を調査したところ、R2T14B相は不均化し、RHx相とα−Fe相とFe2B相に分解していることが確認された。したがって、この水素の吸収はR2T14B相のHD反応によるものと考えられる。また、前記反応温度より低い600℃においてR−T−B系合金粉末の圧粉体を水素化させた後にX線回折測定によって構成相を調査したところ、R2T14B相のHD反応は起こっておらず、希土類リッチ相は主にRHx相となっていることが確認された。したがって、R2T14B相を不均化させることなく、希土類リッチ相を高融点化合物である希土類水素化物RHxとするための第一熱処理工程の熱処理温度は、600℃以下である。
【0072】
水素化の反応速度を向上させるため、熱処理温度は200℃以上であり、400℃以上であることが望ましい。また、水素化を十分進行させるために、600℃以下の所定の温度まで昇温した後に所定時間保持してもよく、その保持時間は120分以下であることが望ましい。120分を超えて熱処理を行っても、それ以上の効果は見られず、生産性の悪化を招く。
【0073】
また、第一熱処理工程における雰囲気の水素分圧は、10kPa以上が好ましい。また、50kPa以上であれば希土類リッチ相および拡散材の水素化が十分に進行するのでより好ましい。また、500kPaを超える水素分圧では、処理に特殊な装置が必要となるため、500kPa以下であることが望ましい。なお、より好ましい水素分圧は150kPa以下である。水素分圧が150kPaを超えると水素吸蔵が急激に起こってしまい、水素吸蔵に伴う体積膨張によって圧粉体にクラックが入ってしまう可能性がある。
【0074】
次に、雰囲気を真空(1.3Pa以下)または不活性雰囲気に切り替えて、第二熱処理工程の熱処理温度まで昇温する。昇温中の雰囲気に水素ガスが存在すると、R2T14B相のHD反応が進行してしまうため、反応速度制御が困難となり、結果として磁気特性の低下を招く可能性があるが、特許文献5などの従来のHDDR磁粉(原料合金粉末の平均粒子径が50μm〜10mm)の製造においては、水素ガスが存在することによって生じるHD反応で不均化する領域はごく一部であり、適切な昇温速度の下では、一定量の水素が存在しても表面のごくわずかな領域のみが昇温中に水素化および不均化するにとどまり、HDDR処理後の配向度への影響はそれほど顕在化しない。一方、本発明の製造方法では、50%体積中心粒径が10μm未満の微粉末を対象としており、表面積は従来のHDDR磁粉よりも100倍以上も大きく、昇温中の雰囲気に水素が存在することによって起こるHD反応の進行が、従来のHDDR磁粉の製造に比べて顕著であり、結果HDDR処理後の配向度の低下が顕在化する。
【0075】
なお、本明細書において、不活性ガスとはアルゴンおよび/またはヘリウムなどの希土類元素と反応しないガスを意味する。昇温工程を窒素雰囲気で行うと、希土類元素と窒素ガスが反応して希土類窒化物(NdN3など)を生成する可能性がある。
【0076】
また、昇温時間が長すぎると、第一熱処理工程により生成したRおよびR’の水素化物の脱水素反応が生じ、その結果新たに液相が生成されて、主相であるR2T14B相と反応し、得られる磁石の配向度および角型性を悪化させる可能性があるため、昇温時間(第一熱処理工程終了時から、第二熱処理工程の開始時までの時間)は60分以下とすることが望ましく、30分以下とすることがより望ましく、10分以下とすることがさらに望ましい。なお、雰囲気ガスの置換に要する時間や装置の昇温能力等を考慮すると、昇温時間は通常1分以上である。
【0077】
次いで行う第二熱処理工程は、水素雰囲気中においてR2T14B相をHD反応させて不均化組織を得る工程である。この時、第二熱処理工程の温度および水素分圧を適正に制御することによって最終的に得られる磁石の磁気的異方性を高めることができる。この時、第一熱処理工程で水素化された拡散材の形態は変化しない。
【0078】
第二熱処理工程の温度は650℃以上1000℃以下である。650℃未満では不均化が十分に進むまでに時間がかかりすぎる。また、1000℃を超えると不均化組織が粗大化するため、後の第三熱処理工程によって得られるR2T14B相の集合組織が粗大となり、磁気特性、特に保磁力の低下を招く。粒成長を抑制するという観点から、第二処理工程の温度を950℃以下に設定することが好ましく、900℃以下に設定することがより好ましい。
【0079】
第二熱処理工程の水素分圧は20kPa以上であることが望ましい。水素分圧が20kPa未満ではR2T14B相の不均化が十分に進むまでに時間がかかりすぎるため、生産性の低下を招く可能性がある。また、500kPaを超える水素分圧では、処理に特殊な装置が必要となるため、500kPa以下であることが望ましい。なお、より好ましい水素分圧は150kPa以下である。水素分圧が150kPaを超えると水素吸蔵が急激に起こってしまい、水素吸蔵に伴う体積膨張によって圧粉体にクラックが入ってしまう可能性がある。
【0080】
第二熱処理工程に要する時間は、10分以上5時間以下であることが望ましい。10分未満では、R2T14B相の不均化が十分に進まない可能性がある。また、5時間を超えると不均化組織が粗大化するため、第三熱処理工程後の再結合組織が粗大となり、磁気特性、特に保磁力の低下を招く可能性がある。より望ましくは15分以上2時間以下である。
【0081】
次いで行う第三熱処理工程では、真空(1.3Pa以下)または不活性雰囲気において650℃以上1000℃以下で保持することにより、RおよびR’の水素化物の脱水素反応を起こし、R2T14B相を再結合反応により生成させる。なお、第三熱処理工程の雰囲気を段階的に変化させることで脱水素反応の過程を制御することもできる。例えば、絶対圧または水素分圧が1kPa〜20kPaの雰囲気に5分以上300分以下の時間で制御したのち、真空または不活性雰囲気において650℃以上1000℃以下で保持することでHcJを制御することができる。
【0082】
第三熱処理工程で生成したR2T14B相は典型的には0.1μm以上1.0μm以下の平均結晶粒径を有する集合組織を形成する。また、再結合に使用されなかったRおよびR’の水素化物の脱水素反応が起こるとともに、Rに富む液相が生成し、R2T14B相の結晶粒界に粒界相(希土類リッチ相)が形成されて保磁力が発現する。このとき、液相中にR’−M化合物が溶解するため、M元素がR2T14B相内および/またはR2T14B相の結晶粒界に拡散することによって、保磁力が向上する。さらに、焼結反応も同時に起こり、多孔質の永久磁石となる。粒成長を抑制するという観点から、第三処理工程の温度を950℃以下に設定することが好ましく、900℃以下に設定してもよい。
【0083】
第三熱処理工程の温度は650℃以上1000℃以下である。650℃未満では脱水素反応が実質的に起こらない。また、1000℃を超えると再結合したR2T14B相が結晶粒成長してしまうため、磁気特性、特に保磁力の低下を招く。また、第三熱処理工程に要する時間は、5分以上10時間以下が望ましく、10分以上2時間以下がより望ましい。
【0084】
<多孔質磁石>
上記HDDR処理によって、3.5g/cm3以上7.0g/cm3以下の密度を有する多孔質磁石が得られる。この多孔質磁石においては、第二熱処理工程より前に粉末粒子の磁化容易軸を所定方向に配向させておくことにより、HDDR処理で形成する集合組織内の微細なNd2Fe14B型結晶相の磁化容易軸を磁石全体にわたって所定方向に配向することができる。
【0085】
この多孔質磁石には、HDDR処理工程で相互に結合した粉末粒子の間に、三次元網状に連通する長径10μm程度の空隙が存在している。圧粉体を構成していた個々の粉末粒子は、HDDR処理により隣接する粉末粒子と結合し、剛性を発揮する三次元構造を形成するとともに、個々の粉末粒子内では微細なNd2Fe14B型結晶相の集合組織が形成されている。
【0086】
本発明のR−T−B系多孔質磁石の密度は、3.5g/cm3以上7.0g/cm3以下であるが、粉末粒子間の隙間が存在した状態でも、粒子同士が結合し、十分な機械的強度と優れた磁気特性とを発揮する。
【0087】
本実施形態では、成型工程後に圧粉体に対してHDDR処理を施すため、HDDR処理後には粉末成型を行わない。このため、成型のための加圧によって磁粉が粉砕されて磁気特性が劣化するようなことがHDDR処理後に生じず、HDDR粉末を圧縮するボンド磁石に比べて高い磁気特性を得ることができる。
【0088】
<多孔質磁石の熱間圧縮成型>
上記の方法によって得られた多孔質磁石は、そのままの状態でバルク永久磁石として利用することができるが、さらにホットプレス法などの熱間圧縮成型を用いることによって、高密度化を行い、平均結晶粒径0.1μm以上1μm以下のR2T14B相の集合組織を有する高密度磁石を得ることができる。以下に熱間圧縮成型による高密度化について、具体的な実施形態の一例を示す。多孔質磁石に対する熱間圧縮は、公知の熱間圧縮技術を用いて行うことができる。例えば、ホットプレス、SPS(spark plasma sintering)、HIP、熱間圧延などの熱間圧縮成型を行うことが可能である。なかでも、所望の形状を得やすいホットプレスやSPSが好適に用いられ得る。以下、ホットプレスを行う手順について説明する。
【0089】
本実施形態では、図1に示す構成を有するホットプレス装置を用いる。この装置は、中央に開口部を有する金型(ダイ)27と多孔質磁石を加圧するための上パンチ28aおよび下パンチ28bと、これらのパンチ28a、28bを昇降する駆動部30a、30bとを備えている。
【0090】
上述した方法によって作製した多孔質磁石(図1では参照符号「10」と付している)を、図1に示す金型27に装填する。このとき、配向方向とプレス方向とが一致するように装填を行うことが望ましい。金型27およびパンチ28a、28bは、使用する雰囲気ガス中で加熱温度および印加圧力に耐えうる材料から形成される。このような材料としては、カーボンや、タングステンカーバイドなどの超硬合金が望ましい。なお、多孔質磁石10の外形寸法は金型27の開口部寸法よりも小さく設定しておくことにより、異方性を高められる。次に、多孔質磁石10を装填した金型27をホットプレス装置にセットする。ホットプレス装置は、真空(1.3Pa以下)または不活性雰囲気に制御することが可能なチャンバ26を備えていることが望ましい。チャンバ26内には、例えば抵抗加熱によるカーボンヒーターなどの加熱装置と、多孔質磁石を加圧して圧縮するためのシリンダーとが備え付けられている。
【0091】
チャンバ26内を真空または不活性ガス雰囲気で満たした後、加熱装置により金型27を加熱し、金型27に装填された多孔質磁石10の温度を600℃〜900℃に高め、9.8〜294MPaの圧力Pで多孔質磁石10を加圧する。多孔質磁石10に対する加圧は、金型27の温度が設定レベルに到達してから開始することが望ましい。金型の温度が十分に高くない場合には、加圧時に多孔質磁石に割れが生じたり、得られる高密度磁石の配向度が悪化してしまう可能性がある。加圧しながら600℃〜900℃の温度で10分以上保持した後、冷却する。加熱圧縮により高密度化された磁石が大気と接触して酸化しない程度の低い温度(100℃以下程度)まで冷却が進んだ後、本実施例の磁石をチャンバから取り出す。こうして、上記の多孔質磁石から本実施形態のR−T−B系高密度磁石を得ることができる。
【0092】
こうして得られた磁石の密度は真密度の90%以上に達する。また、本実施形態によれば、最終的な結晶相集合組織において、個々の結晶粒の最短粒径aと最長粒径bの比b/aが2未満である結晶粒が全結晶粒の50体積%以上存在する。この点において、本実施形態の磁石は、例えば特開平02−39503号公報などに記載の従来の熱間塑性加工による異方性バルク磁石と大きく異なっている。このような磁石の結晶組織においては最短粒径aと最長粒径bの比b/aが2を超えた扁平な結晶粒が支配的である。
【実施例】
【0093】
下の表1に示す組成の原料合金、および表2に示す組成の拡散材を用意し、上述した実施形態の製造方法により、多孔質磁石を作製した。以下、本実験例における多孔質磁石の作製方法を説明する。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
(実験例1)
まず、表1の組成を有する急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を得た。なお、50%体積中心粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(Sympatec社製、HEROS/RODOS、以下すべて同じ装置で測定)によって測定した。
【0097】
また、表2の組成を有する急冷凝固合金をメルトスピニング法で作製した。具体的には、オリフィス径0.8mmφの石英ノズル中で合金を溶解し、ロール周速度20m/sで回転する銅ロールに噴射し、リボン状の合金を得た。この合金を機械粉砕により粉砕し、目開き25μmのふるいを用いて分級し、大きさが25μm以下の拡散材粉末を得た。なお、得られた拡散材粉末の粒径は明らかに1μm以上であることを、電子顕微鏡観察によって確認した。
【0098】
得られた原料合金粉末および拡散材粉末を、メノウ乳鉢を用い表3に示す混合比で混合し、混合粉末M1〜M5を得た。
【0099】
【表3】
【0100】
次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、0.64MA/mの磁界中において、磁界と平行方向に76MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0101】
次に、圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で温度T1=200、250、300、400、600、700(℃)まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0102】
作製したサンプルの寸法と重量から密度を計算すると、5.8〜6.6g/cm3であった。
【0103】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。図2は第一熱処理工程の温度T1と残留磁束密度Br、図3はT1と保磁力HcJ、図4はT1と配向度(Br/Jmax)、図5はT1と角型比(Hk/HcJ)、図6はT1と最大エネルギー積((BH)max)の関係を示す。なお,Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に1.6MA/mまで外部磁界を印加した時のサンプルの磁化の最大測定値であり、Br/Jmaxが大きいほど配向度に優れている。また、Hkは磁化が減磁曲線上でBr×0.9となる時の外部磁界の値であり、Hk/HcJが大きいほど減磁曲線の角型性に優れている。
【0104】
図2〜6には、比較例として第一熱処理工程無しの結果も示している。なお、第一熱処理工程無しのサンプルは、100kPaのアルゴン流気中で840℃まで14℃/minで昇温した後に、雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えて840℃で2時間保持して第二熱処理工程を行い、次いで雰囲気を100kPaのアルゴン流気中で840℃を1時間保持して第三熱処理工程を行い、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却して作製した。
【0105】
図4および図5より明らかなように、T1が200℃以上600℃以下で作製したサンプルは、第一熱処理工程無しのサンプルに比べて、配向度および角型性に優れており、T1が400℃以上600℃以下で作製したサンプルにおいては、配向度および角型性に特に優れている。T1が700℃で作製したサンプルでは、水素流気中における700℃までの昇温過程でR2T14B相のHD反応が進行してしまうため、配向度および角型性のいずれも小さな値を示している。
【0106】
図7は、混合粉M2について、上記作製方法においてT1=300℃で作製したサンプルの破断面を示す電子顕微鏡写真である。図7において見られる、点在している約25μm程度の比較的大きな空隙Aは、HDDR処理前に拡散材が存在していた場所であると考えられる。すなわち、拡散材はDR処理後に生成した微細なR2T14B相の結晶粒間へ拡散し、これによって大きな保磁力が得られたと考えられる。
【0107】
また、作製したサンプルの減磁曲線の一例として、図8に混合粉M3について、上記作製方法においてT1=600℃で作製したサンプルの減磁曲線を示す。また、比較例として、上記作製方法で作製した第一熱処理工程無しのサンプルの減磁曲線もあわせて示す。図8から明らかなように、比較例のサンプルの減磁曲線は角型性が非常に悪いが、本発明の第一熱処理工程を行うことにより、減磁曲線の角型性に優れる磁石を作製することができる。
【0108】
(実験例2)
原料合金B1,B2の急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粗粉砕粉末を得た。また、拡散材D1,D4の急冷合金をメルトスピニング法で作製した。具体的には、オリフィス径0.8mmφの石英ノズル中で合金を溶解し、ロール周速度20m/sで回転する銅ロールに噴射し、リボン状の合金を得た。この合金を機械粉砕により粉砕し、粒径425μm以下の粗粉砕粉末を得た。また、拡散材D7の合金を高周波加熱により溶解した後に凝固させ、インゴットを得た。得られたインゴットを機械粉砕により425μm以下に粉砕し、拡散材粗粉末を得た。
【0109】
原料合金の粗粉末と拡散材の粗粉末を表4に示す混合比で混合した後、ジェットミル法により微粉砕することによって、50%体積中心粒径4.5〜6.8μmの混合粉末M6〜M8を得た。
【0110】
【表4】
【0111】
得られた混合粉末をプレス装置の金型に充填し、0.64MA/mの磁界中において、磁界と平行方向に76MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0112】
得られた混合粉末の圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0113】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。なお,Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に1.6MA/mまで外部磁界を印加した時のサンプルの磁化の最大測定値であり、Hkは減磁曲線上で磁化がBr×0.9となる時の外部磁界の値である。
【0114】
測定結果を表5に示す。表からわかるように、原料合金と拡散材の粗粉末を混合してから微粉砕して混合粉末を作製しても、良好な磁気特性が得られることが分かった。
【0115】
【表5】
【0116】
(実験例3)
実験例1で説明した混合粉末M2の圧粉体、および実験例2で説明した混合粉末M6〜8の圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、全圧が100kPaで、水素分圧がP1=0、10、20、50、100kPaである水素/アルゴン混合ガス流気雰囲気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0117】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。
【0118】
測定結果を表6に示す。表6よりわかるように、第一熱処理工程において流気するガス中の水素分圧が10kPa以上において良好な磁気特性が得られる。
【0119】
【表6】
【0120】
(実験例4)
実験例1で説明した混合粉末M2の圧粉体、および実験例2で説明した混合粉末M6〜8の圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を表7に記載の雰囲気ガス流気(全圧が100kPaのアルゴンガス流気、または全圧が100kPaで水素分圧が50kPaの水素/アルゴン混合ガス流気)に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温した。次いで雰囲気を全圧が100kPaの水素流気に切り替えた後840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。また、第一熱処理工程終了時から第二熱処理工程開始時までの雰囲気を水素分圧が50kPaの水素/アルゴン混合ガス流気で行ったものについては、そのままの雰囲気で第二熱処理工程を行うサンプルも作製した。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを作製した。
【0121】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。
【0122】
測定結果を表7に示す。表7よりわかるように、第一熱処理工程終了時から第二熱処理工程開始時までにおいて流気するガスの水素分圧P2が0kPaにおいては良好な磁気特性が得られるが、P2が50kPaでは配向度および角型性が悪化する。これは、第一熱処理工程終了時から第二熱処理工程開始時までの昇温中において一部HD反応が起こっているためであると考えられる。
【0123】
【表7】
【0124】
ここで、P2は、第一熱処理工程終了時から第二熱処理工程開始時までにおいて流気するガスの水素分圧であり、P3は、第二熱処理工程における水素分圧である。
【0125】
(実験例5)
実験例1で説明した混合粉末M2の圧粉体、および実験例2で説明した混合粉末M6〜8の圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、表8のt1の時間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで表8のr2の昇温速度で昇温した。次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0126】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。
【0127】
測定結果を表8に示す。表8よりわかるように、いずれの条件においても良好な磁気特性が得られる。
【0128】
【表8】
【0129】
(実験例6)
原料合金B2の急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。作製した急冷凝固合金を実験例1で説明した方法と同様の方法で粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を作製した。
【0130】
また、拡散材D2、D3、D4、D5、D6、D7、D8、D9、D10、D11の組成を有する粉末を実験例1で説明した方法と同様の方法で作製した。得られた拡散材粉末の粒径は明らかに1μm以上であることを、電子顕微鏡観察によって確認した。
【0131】
作製した原料合金粉末および拡散材粉末を用い、実験例1で説明した方法と同様の方法で混合し、表9に示す混合粉末M9〜M31を得た。実験例1で説明した方法と同様の方法で圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0132】
作製した圧粉体に対して実験例1で説明した方法と同様の方法でHDDR処理を行った。また、比較例として原料合金B2のみの圧粉体を作製し、圧粉体に対して同様のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0133】
【表9】
【0134】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。
【0135】
測定結果を表10に示す。表からわかるように、拡散材を混合していないサンプルに対し、拡散材を混合しているサンプルはいずれも高い保磁力を有することが分かる。また、拡散材の混合量が多くなるほど保磁力は高くなる傾向がみられる。特に、保磁力は拡散材組成がNd80Al20〜Nd50Al50において、また配向度および角型比は拡散材組成がNd50Al50〜Nd35Al65において良好な結果を示した。
【0136】
【表10】
【0137】
(実験例7)
原料合金B2の急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を得た。
【0138】
また、拡散材D7の急冷凝固合金をメルトスピニング法で作製した。具体的には、オリフィス径0.8mmφの石英ノズル中で合金を溶解し、ロール周速度20m/sで回転する銅ロールに噴射し、リボン状の合金を得た。この合金を機械粉砕により粉砕し、ふるいを用いて表11に示す拡散材粒度に分級し、拡散材粉末を得た。得られた拡散材粉末の粒径は、電子顕微鏡観察によって、明らかに1μm以上であることを確認した。
【0139】
得られた原料合金粉末および拡散材粉末を、メノウ乳鉢を用い表11に示す混合比で混合し、混合粉末を得た。
【0140】
【表11】
【0141】
次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、0.8テスラ(T)の磁界中において、磁界と平行方向に76MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0142】
作製した圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0143】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。測定結果を表12に示す。表からわかるように、様々な拡散材の粒径に対して、いずれも良好な磁気特性を示した。
【0144】
【表12】
【0145】
(実験例8)
原料合金B2の急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。作製した急冷凝固合金を実験例1で説明した方法と同様の方法で粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を作製した。
【0146】
また、拡散材D12、D13、D14、D15、D16、D17、D19、D20、D21、D22、D23、D24、D25、D26、D27の組成を有する急冷凝固合金を実験例1で説明した方法と同様の方法で作製した。作製した拡散材粉末の粒径は明らかに1μm以上であることを、電子顕微鏡観察によって確認した。
【0147】
作製した原料合金粉末および拡散材粉末を用い、実験例1で説明した方法と同様の方法で表13に示す混合粉末の圧粉体を作製した。
【0148】
圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0149】
得られた圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0150】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。なお,Jmaxは、着磁したサンプルの着磁方向に1.6MA/mまで外部磁界を印加した時のサンプルの磁化の最大測定値であり、Hkは磁化がBr×0.9となる時の外部磁界の値である。
【0151】
測定結果を表13に示す。表よりわかるように、様々な拡散材に対して良好な磁気特性を示した。
【0152】
【表13】
【0153】
(実験例9)
原料合金B2の急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を得た。
【0154】
また、拡散材D1、D2、D5、D18の組成を有する急冷凝固合金をメルトスピニング法で作製した。具体的には、オリフィス径0.8mmφの石英ノズル中で合金を溶解し、ロール周速度20m/sで回転する銅ロールに噴射し、リボン状の合金を得た。この合金を水素ガス流気中で400℃まで昇温し水素を吸蔵させた後、機械粉砕により粉砕し、目開き25μmのメッシュを用いて分級し、大きさが25μm以下の拡散材粉末を得た。なお、得られた拡散材粉末の粒径は明らかに1μm以上であることを、電子顕微鏡観察によって確認した。
【0155】
得られた原料合金粉末および拡散材粉末を、メノウ乳鉢を用い表14に示す混合比で混合し、混合粉末を得た。
【0156】
【表14】
【0157】
次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、0.64MA/mの磁界中において、磁界と平行方向に76MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0158】
作製した圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを得た。
【0159】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。
【0160】
測定結果を表14に示す。表よりわかるように、水素を吸蔵させた拡散材を混合した場合においても良好な磁気特性を示した。
【0161】
(実験例10)
実験例1で説明した方法と同一の方法で混合粉末M4の圧粉体を作製し、圧粉体に対してHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で420℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し第一熱処理工程を行い、420℃で保持することなく雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替え、840℃まで14℃/minの昇温速度で昇温した。その後、雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、840℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、840℃のまま100kPa(大気圧)のアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った後、室温まで冷却し、多孔質磁石を得た。
【0162】
また、得られた多孔質磁石を、超硬合金製の金型中で750℃に加熱し、196MPaの圧力で10分間の熱間圧縮処理(ホットプレス)を行うことにより、密度7.21g/cm3の高密度磁石を得た。
【0163】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。得られた結果を図9に示す。図からわかるように、多孔質磁石および高密度磁石ともに、良好な磁気特性が得られる。また、ホットプレスによって保磁力はほとんど変化しないのに対し、減磁曲線の角型性が改善していることも確認された。
【0164】
(実験例11)
まず、表15の組成を有する急冷凝固合金をストリップキャスト法で作製した。得られた急冷凝固合金を水素吸蔵崩壊法によって粒径425μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルを用いて粗粉末を微粉砕し、50%体積中心粒径4.2〜4.5μmの微粉末を作製した。
【0165】
【表15】
【0166】
また、拡散材D4の組成を有する急冷凝固合金をメルトスピニング法で作製した。具体的には、オリフィス径0.8mmφの石英ノズル中で合金を溶解し、ロール周速度20m/sで回転する銅ロールに噴射し、リボン状の合金を作製した。この合金を水素流気中で400℃まで昇温し水素を吸蔵させた後、機械粉砕により粉砕し、目開き53μmのメッシュを用いて分級し、大きさが53μm以下の拡散材粉末を作製した。なお、作製した拡散材粉末の粒径は明らかに1μm以上であることを、電子顕微鏡観察によって確認した。
【0167】
作製した原料合金粉末および拡散材粉末を、メノウ乳鉢を用い表16に示す混合比で混合し、混合粉末を作製した。
【0168】
【表16】
【0169】
次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と直角方向に32MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0170】
次に、圧粉体に対して前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で温度T1=600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、860℃を120分保持して第二熱処理工程を行った。その後、860℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で60分保持し、第三熱処理工程を行った。次に、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを作製した。
【0171】
作製したサンプルの寸法と重量から密度を計算すると、5.8〜6.7g/cm3であった。
【0172】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表17に示す。表17からわかるようにいずれのサンプルも良好な磁気特性が得られている。特に、原料合金B6、B7、B8を使用したサンプルを比較すると、原料合金の希土類量が少なくなるほどBr7.6(真密度を7.6g/cm3と仮定してBrと密度から計算した値)と角型性が向上することがわかる。図10〜図12にM71、M76、M81の研磨面の走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製:S−800)による反射電子像(1000倍)を示す。M71からM81にむかって原料合金の希土類量が少なくなるにしたがって明るいコントラストで示される希土類リッチ相(希土類リッチ相のなかには相対的に明るいコントラストで示される金属相と暗いコントラストで示される酸化物相が存在する)の1μm以上の塊が減少していることがわかる。また、図13〜図15に図10〜図12に比べて倍率をあげたM71、M76、M81の研磨面の走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製:S−4300)による反射電子像(10000倍)を示す。M71からM81にむかって原料合金の希土類量が少なくなるにしたがって暗いコントラストで示されるR2T14B相の結晶粒径が小さくなっていくことがわかる。
【0173】
【表17】
【0174】
(実験例12)
まず、実験例11で作製した原料合金B6〜B10の原料合金粉末と拡散材D4の拡散材粉末を、メノウ乳鉢を用い表18に示す混合比で混合し、混合粉末を作製した。
【0175】
【表18】
【0176】
次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と直角方向に32MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0177】
次に、圧粉体に対して前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で温度T1=600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、860℃を120分保持して第二熱処理工程を行った。その後、860℃に保持したまま表19に示すように炉内の水素分圧を2.0〜10.0kPaに調整しながら60分保持し、次いで860℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で60分保持し、第三熱処理工程を行った。その後、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを作製した。
【0178】
【表19】
【0179】
作製したサンプルの寸法と重量から密度を計算すると、6.1〜6.7g/cm3であった。
【0180】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表20に示す。表20からわかるようにいずれのサンプルも良好な磁気特性が得られている。特に、条件S2〜S5のように第3熱処理工程の1段目に水素分圧2kPa〜6kPaで処理した場合に高いHcJが得られていることがわかる。図16、図17にM96のS1とS3の試料の研磨面の走査型電子顕微鏡(日本電子製:JSM−7001FA)による反射電子像を示す。S3の場合にはS1に比べてR2T14B相内に存在する微細なFe相が減少していることが分かる。
【0181】
【表20】
【0182】
(実験例13)
実験例12で作製した混合粉末M92〜M96と同様の混合粉末を作製した。次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と直角方向に32MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.2〜4.5g/cm3であった。
【0183】
次に、圧粉体に対して前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で温度T1=600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、860℃を120分保持して第二熱処理工程を行った。その後、860℃に保持したまま表21に示すように炉内の水素分圧を4.0kPaに調整しながら15分〜180分保持し、次いで860℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で60分保持し、第三熱処理工程を行った。その後、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、サンプルを作製した。
【0184】
【表21】
【0185】
作製したサンプルの寸法と重量から密度を計算すると、6.0〜6.4g/cm3であった。
【0186】
作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表22に示す。表22からわかるようにいずれのサンプルも良好な磁気特性が得られている。特に、条件S8〜S10のように第3熱処理工程の1段目に45〜120分間処理した場合に高いHcJが得られていることがわかる。
【0187】
【表22】
【0188】
(実験例14)
実験例11で作製した混合粉末M80と同様の混合粉末を作製した。次に、この混合粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と直角方向に32MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。圧粉体の密度は、寸法と重量に基づいて計算すると、4.3g/cm3であった。
【0189】
次に、圧粉体に対して前述のHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で温度T1=600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、30分間保持し、第一熱処理工程を行った。その後、雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替えた後、860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温し、次いで雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、860℃を2時間保持して第二熱処理工程を行った。その後、860℃のまま炉内の水素分圧を4.0kPaに調整しながら1時間保持し、次いで860℃のまま5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で10分間保持し、第三熱処理工程を行った。その後、100kPaのアルゴン流気中で室温まで冷却し、多孔質磁石を作製した。作製した多孔質磁石の寸法と重量から密度を計算すると、5.49g/cm3であった。
【0190】
作製した多孔質磁石に対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表23に示す。
【0191】
さらに多孔質磁石を超硬合金製の金型中で800℃に加熱し、50MPaの圧力で20分間の熱間圧縮処理(ホットプレス)を行うことにより、密度7.48g/cm3の高密度磁石を得た。作製した高密度磁石に対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。結果を表23に示す。表23からわかるようにいずれのサンプルも良好な磁気特性が得られ、特にホットプレスによってHDDR処理後に比べさらに磁気特性が向上していることが分かる。
【0192】
【表23】
【0193】
(実験例15)
実験例11で作製した混合粉末M80と同様の混合粉末1を作製した。次に、図18に示すような成形容器2およびプレス治具3を用意した。この実験例における成形容器2は、非磁性ステンレスから形成されている。混合粉末1を、内側の寸法が12mm×20mmで高さが20mmの角型の成形容器2に充填した。次に、成形容器2の内側寸法よりもわずかに小さい角型のプレス治具3で成形容器2の解放面に蓋をした。プレス方向と垂直方向(20mmの方向)に1.2MA/mの磁界を印加しながら、プレス治具3を手で押しつけた。このとき、約0.1MPaの圧力を付加して成形容器2内の粉末1を成形して圧粉体を作製した。圧粉体の密度はおよそ3.6g/cm3であった。
【0194】
その後、プレス治具3を成形容器2から取り外し、成形容器2ごとHDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPaの水素流気中で600℃まで14℃/minの昇温速度で昇温した。そして、第一熱処理工程を行い、600℃で保持することなく雰囲気を100kPaのアルゴン流気に切り替え、860℃まで14℃/minの昇温速度で昇温した。次に雰囲気を100kPaの水素流気に切り替えた後、860℃を3時間保持して第二熱処理工程を行った。次に860℃のまま100kPaのアルゴン流気中で1時間保持し、第三熱処理工程を行った後、室温まで冷却し、多孔質磁石を作製した。作製した多孔質磁石の密度は約4.7g/cm3であった。
【0195】
このように、本明細書における「圧粉体」とは、低圧の圧縮に起因して密度が低いために、それ自体では機械的強度が足りず、自立できない状態の粉末を含むものとする。なお、成形容器2は、図示される形状を有する容器に限定されない。特開平7−153612号公報に開示されている充填容器およびその改変例を、圧粉体の形成行程および/またはHDDR処理工程において成形容器として使用することもできる。
【0196】
次に、多孔質磁石を超硬合金製の金型中で800℃に加熱し、50MPaの圧力で15分間の熱間圧縮処理(ホットプレス)を行うことにより、密度が7.47g/cm3の高密度磁石を作製した。作製したサンプルに対して3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、磁気特性をBHトレーサー(装置名:MTR−1412(メトロン技研社製))で測定した。得られた結果を表24に示す。表24からわかるように、成形容器を用いて成形し、成形容器ごとHDDR処理を行っても、良好な磁気特性が得られる。
【0197】
【表24】
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明により作製された磁石は、従来のHDDR磁粉にNd−Cu合金を拡散させた磁石に比べて良好な角型性を示し、かつ従来の多孔質磁石に比べて高い保磁力を有するため、これらの特性が求められる様々な用途に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0199】
10 多孔質磁石
27 金型(ダイ)
28a 上パンチ
28b 下パンチ
30a 駆動部
30b 駆動部
26 チャンバ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満であり、R2T14B相を含むR−T−B系合金粉末(RはNdおよび/またはPrを50原子%以上含む希土類元素、TはFe、またはFeとCo)と、粒径75μm未満のR’金属(R’はNd、Pr、Dy、Tbから選ばれる1種以上)またはR’−M系合金(MはAl、Ga、Cu、Co、Ni、Cr、Fe、Si、Geから選ばれる1種以上)の粉末との混合粉末を用意する工程と、
前記混合粉末を成型して圧粉体を作製する工程と、
前記圧粉体を200℃以上600℃以下の温度の水素雰囲気中で熱処理を施す第一熱処理工程と、
前記第一熱処理工程の後、前記圧粉体に対し、650℃以上1000℃以下の水素雰囲気中で熱処理を施す第二熱処理工程と、
前記第二熱処理工程の後、前記圧粉体に対し、650℃以上1000℃以下の真空または不活性雰囲気中で熱処理を施す第三熱処理工程と、
を含み、
前記第一熱処理工程終了時から前記第二熱処理工程の開始時までの昇温を、真空または不活性雰囲気中で行う、R−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項2】
前記第一熱処理工程における水素雰囲気の水素分圧は10kPa以上500kPa以下である、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項3】
前記第一熱処理工程終了後、前記第二熱処理工程の開始までの時間を60分以下とする、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項4】
前記第二熱処理工程における水素雰囲気の水素分圧は20kPa以上500kPa以下である、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項5】
前記R’−M系合金におけるR’含有量は、25原子%以上100原子%未満である、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項6】
前記混合粉末における前記R−T−B系合金粉末と前記R’金属またはR’−M系合金の粉末との混合比率は、重量比で(R−T−B系合金粉末):(R’またはR’−M系合金粉末)=m:1(5≦m≦100)である、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項7】
前記混合粉末を用意する工程は、
前記R−T−B系合金粉末を準備する工程と、
前記R’金属またはR’−M系合金の粉末を準備する工程と、
前記R−T−B系合金粉末と前記R’金属またはR’−M系合金の前記粉末とを混合する工程と、
を含む、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項8】
前記混合粉末を用意する工程は、
R−T−B系合金とR’金属またはR’−M系合金との混合物を、50%体積中心粒径が1μm以上10μm以下の粉末に粉砕する工程を含む、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項9】
前記混合粉末を用意する工程は、
前記R’金属またはR’−M系合金の粉末に水素を吸蔵させる工程の後、前記R−T−B系合金と前記水素を吸蔵させた前記R’金属またはR’−M系合金の混合物を微粉砕する工程を含む、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項10】
前記第二熱処理工程および前記第三熱処理工程における熱処理の温度は950℃以下である、請求項1から9のいずれかに記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項11】
前記第一熱処理工程、前記第二熱処理工程、および、前記第三熱処理工程の間、前記圧粉体は成形容器内に保持されている、請求項1から9のいずれかに記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の製造方法によって製造されたR−T−B系永久磁石を準備する工程と、
熱間圧縮成型によって前記R−T−B系永久磁石の密度を高める工程と、
を含む、R−T−B系高密度磁石の製造方法。
【請求項1】
50%体積中心粒径が1μm以上10μm未満であり、R2T14B相を含むR−T−B系合金粉末(RはNdおよび/またはPrを50原子%以上含む希土類元素、TはFe、またはFeとCo)と、粒径75μm未満のR’金属(R’はNd、Pr、Dy、Tbから選ばれる1種以上)またはR’−M系合金(MはAl、Ga、Cu、Co、Ni、Cr、Fe、Si、Geから選ばれる1種以上)の粉末との混合粉末を用意する工程と、
前記混合粉末を成型して圧粉体を作製する工程と、
前記圧粉体を200℃以上600℃以下の温度の水素雰囲気中で熱処理を施す第一熱処理工程と、
前記第一熱処理工程の後、前記圧粉体に対し、650℃以上1000℃以下の水素雰囲気中で熱処理を施す第二熱処理工程と、
前記第二熱処理工程の後、前記圧粉体に対し、650℃以上1000℃以下の真空または不活性雰囲気中で熱処理を施す第三熱処理工程と、
を含み、
前記第一熱処理工程終了時から前記第二熱処理工程の開始時までの昇温を、真空または不活性雰囲気中で行う、R−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項2】
前記第一熱処理工程における水素雰囲気の水素分圧は10kPa以上500kPa以下である、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項3】
前記第一熱処理工程終了後、前記第二熱処理工程の開始までの時間を60分以下とする、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項4】
前記第二熱処理工程における水素雰囲気の水素分圧は20kPa以上500kPa以下である、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項5】
前記R’−M系合金におけるR’含有量は、25原子%以上100原子%未満である、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項6】
前記混合粉末における前記R−T−B系合金粉末と前記R’金属またはR’−M系合金の粉末との混合比率は、重量比で(R−T−B系合金粉末):(R’またはR’−M系合金粉末)=m:1(5≦m≦100)である、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項7】
前記混合粉末を用意する工程は、
前記R−T−B系合金粉末を準備する工程と、
前記R’金属またはR’−M系合金の粉末を準備する工程と、
前記R−T−B系合金粉末と前記R’金属またはR’−M系合金の前記粉末とを混合する工程と、
を含む、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項8】
前記混合粉末を用意する工程は、
R−T−B系合金とR’金属またはR’−M系合金との混合物を、50%体積中心粒径が1μm以上10μm以下の粉末に粉砕する工程を含む、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項9】
前記混合粉末を用意する工程は、
前記R’金属またはR’−M系合金の粉末に水素を吸蔵させる工程の後、前記R−T−B系合金と前記水素を吸蔵させた前記R’金属またはR’−M系合金の混合物を微粉砕する工程を含む、請求項1に記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項10】
前記第二熱処理工程および前記第三熱処理工程における熱処理の温度は950℃以下である、請求項1から9のいずれかに記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項11】
前記第一熱処理工程、前記第二熱処理工程、および、前記第三熱処理工程の間、前記圧粉体は成形容器内に保持されている、請求項1から9のいずれかに記載のR−T−B系永久磁石の製造方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の製造方法によって製造されたR−T−B系永久磁石を準備する工程と、
熱間圧縮成型によって前記R−T−B系永久磁石の密度を高める工程と、
を含む、R−T−B系高密度磁石の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図18】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図18】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−216807(P2012−216807A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−70560(P2012−70560)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]