説明

SAW発振器

【課題】1つのSAW共振片を使用して異なる周波数の信号を出力し、インピーダンス素子でSAW共振片の周波数変化量と制御電圧の関係を調整するSAW発振器を提供する。
【解決手段】SAW発振器10は、第1IDT14および第2IDT16を圧電基板上に直列配設したSAW共振片12と、第1IDT14に入力される信号の位相と第2IDT16に入力される信号の位相とを同じまたは異にするスイッチ部30と、第1IDT14および第2IDT16に信号を供給する発振段36と、SAW共振片12に接続されたインピーダンス素子40とを備えた構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性表面波(SAW)発振器に係り、特に異なる振動モードをSAW共振片で励起することによって異なる周波数の信号を出力するSAW発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のSAW発振器は、周波数の異なる信号を出力する場合、共振周波数の異なるSAW共振片を複数設け、いずれか1つのSAW共振片を共振させて、このSAW共振片から信号を出力している。具体的には、従来のSAW共振片では、1つのSAW共振片から1つの周波数の信号しか得られない。このためSAW発振器の搭載される電子機器が異なる周波数の信号を必要とする場合、SAW発振器は、その必要になる周波数が得られるSAW共振片を複数備える必要がある。そしてSAW発振器は、各SAW共振片の入力側と出力側にスイッチ部を接続し、このスイッチ部にSAW共振片を共振させる発振段を接続している。このSAW発振器は、スイッチ部を切り替えることにより、複数のSAW共振片のうちいずれか1つを選択して、この選択されたSAW共振片を発振段に接続し、このSAW共振片を共振させることにより得られた信号を外部に出力している。
【0003】
このようなSAW発振器では、SAW共振片における周波数変化量と制御電圧の関係を調整するために、SAW共振片にインピーダンス素子が接続されている。すなわちSAW共振片毎に電気的等価回路のパラメータ(等価定数)が異なっているので、各SAW共振片にインピーダンス素子を接続して、各SAW共振片の周波数変化量と制御電圧の関係が同等になるように調整している。
【0004】
なお、このようなSAW発振器について開示されたものとして、例えば特許文献1があげられる。
【特許文献1】特開2005−295351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、異なる周波数の信号を出力するSAW発振器は、複数のSAW共振片を備えなければならいので大型になってしまい、また高価になってしまう。またSAW共振片毎にインピーダンス素子を接続させなければならないので、SAW発振器が大型になってしまい、また高価になってしまう。さらに近年は、例えばHD−SDI(ハイビジョン−シリアルディジタルインターフェース)信号方式に対応するため、複数の周波数を利用する電子機器が増えており、特に60i/59.94iフォーマットに対応する場合には、信号の周波数として1/1と1/1.001が必要になっている。具体的な一例としては、この信号の周波数として60Hzと59.94Hzが必要になっている。
【0006】
本発明は、1つのSAW共振片を使用して異なる周波数の信号を出力し、インピーダンス素子でSAW共振片の周波数変化量と制御電圧の関係を調整するSAW発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るSAW発振器は、第1IDTおよび第2IDTを圧電基板上に直列配設したSAW共振片と、第1IDTに入力される信号の位相と第2IDTに入力される信号の位相とを同じまたは異にするスイッチ部と、第1IDTおよび第2IDTに信号を供給するとともに、SAW共振片から出力された信号の一部を増幅し、またこの信号の他の一部を外部に出力する発振段と、前記SAW共振片に接続されたインピーダンス素子と、を備えたことを特徴としている。
【0008】
スイッチ部を設けることにより第2IDTの極性を反転させることができる。これによりSAW共振片に対称モードと斜対称モードを励起することができ、これらの振動モードに応じた周波数を有する信号を出力できる。すなわちSAW共振片から周波数の異なる複数の信号を出力できる。またSAW共振片にインピーダンス素子を接続することで、SAW共振片の周波数変化量と制御電圧の関係を調整することができる。そしてSAW共振片から複数の信号を出力する場合でも、SAW共振片の電気的等価回路の等価定数を同じにすることができるので、インピーダンス素子の数を従来に比べて削減することができる。そして以上のことから、SAW発振器を小型化することができ、また低価格化にすることができる。
【0009】
そして前述したインピーダンス素子は、SAW共振片に直列接続された第1インピーダンス素子およびSAW共振片に並列接続された第2インピーダンス素子の少なくともいずれか一方を備えたことを特徴としている。これにより第1インピーダンス素子の素子値を変えることで、周波数変化量と制御電圧の関係における周波数変化量を調整できる。また第2インピーダンス素子の素子値を変えることで、周波数変化量と制御電圧の関係における制御感度を調整できる。
【0010】
また本発明に係るSAW発振器は、第1IDTと第2IDTとの間に第3IDTが設けられたことを特徴としている。また本発明に係るSAW発振器は、第1IDTと第3IDTとの間に第4IDTが設けられるとともに、第3IDTと第2IDTとの間に第5IDTが設けられたことを特徴としている。SAW共振片の圧電基板上に配設されるIDTをこのような構成にしても、SAW共振片に対称モードと斜対称モードを励起することができ、これらの振動モードに応じた周波数を有する信号を出力できる。
【0011】
また本発明に係るSAW発振器は、SAW共振片から出力される信号の周波数は複数あり、これらの信号の周波数は、1/1と1/1.001との差を有することを特徴としている。すなわち、これらの信号のうち一方の信号と他方の信号とは変調幅として1000ppmの差を有している。これによりSAW発振器は、1000ppmの変調幅(周波数差)を有する信号を出力することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明に係るSAW発振器の最良の実施形態について説明する。図1はSAW発振器の概略構成を説明するブロック図である。図2はSAW共振片およびスイッチ部の説明図である。なお図2に示されるSAW共振片には、IDTと反射器のみが示されている。
【0013】
SAW発振器10は、縦結合2モードSAW共振片12、スイッチ部30、発振段36、インピーダンス素子40、電圧制御移相回路42およびタンク回路38を備えている。図2に示されるSAW共振片12は、すだれ状電極(IDT)を圧電基板28の上に備えている。このIDTは、第1IDT14、第2IDT16および第3IDT20である。第1IDT14および第2IDT16は、複数の電極指18の基端をバスバー19で接続した櫛部を有し、2つの櫛部(一方の櫛部14a,16aと他方の櫛部14b,16b)の電極指18をそれぞれ噛み合せて形成されている。そして第1IDT14および第2IDT16は、電極指18に沿った方向と交差する方向、すなわち圧電基板28に励起されたSAWが伝搬する方向に沿って直列に設けられている。
【0014】
なお第1IDT14における各櫛部14a,14bの電極指18のピッチと、第2IDT16における各櫛部16a,16bの電極指18のピッチは同じピッチλ1になっている。また第1IDT14および第2IDT16のそれぞれにおいて、一方の櫛部14a,16aを構成している電極指18と他方の櫛部14b,16bを構成している電極指18とのピッチ、すなわち隣り合っている電極指18の間隔はλ1/2になっている。
【0015】
また第3IDT20は、第1IDT14および第2IDT16の間に設けられている。すなわち第3IDT20は、第1IDT14および第2IDT16とともに、圧電基板28に励起されたSAWが伝搬する方向に沿って直列に設けられる。この第3IDT20は、第1,第2IDT14,16を構成している電極指18に沿った電極指21を複数有している。そして第3IDT20の各電極指21の両端がバスバー22で接続されている。この第3IDT20を構成している電極指21のピッチ、すなわち隣り合う電極指21の間隔はλ2/2になっている。
【0016】
またSAW共振片12は、第1〜第3IDT14,16,20を挟み込む位置に反射器24を備えている。この反射器24は、各IDT14,16,20の電極指18,21と平行に形成された導体ストリップ26を有し、各導体ストリップ26の両端を接続して形成されている。
【0017】
このようなSAW共振片12の第2IDT16にスイッチ部30が接続されている。スイッチ部30は、第2IDT16の極性を反転させるため、すなわち第1IDT14に入力される信号の位相と第2IDT16に入力される信号の位相とを同一にしたり異ならしたりするために設けられている。
【0018】
具体的には、スイッチ部30は、第1スイッチ部30aおよび第2スイッチ部30bを備えている。第1スイッチ部30aは、入力側となる端子cを備えるとともに、出力側となる端子aおよび端子bを備えている。この第1スイッチ部30aは、周波数切換制御信号によって端子cの接続先が切り替えられる。そして第1スイッチ部30aの端子aは第2IDT16の一方の櫛部16aに接続され、端子bは第2IDT16の他方の櫛部16bに接続されている。また第1スイッチ部30aの端子cは、第1IDT14の入力側となる一方の櫛部14aに接続されている。
【0019】
また第2スイッチ部30bは、入力側となる端子dおよび端子eを備えるとともに、出力側となる端子fを備えている。この第2スイッチ部30bは、周波数切換制御信号によって端子fの接続先が、第1スイッチ部30aの切り替えに連動して切り替えられる。そして第2スイッチ部30bの端子eは第2IDT16の一方の櫛部16aに接続され、端子dは第2IDT16の他方の櫛部16bに接続されている。また第2スイッチ部30bの端子fは、第1IDT14の出力側となる他方の櫛部14bに接続されている。
【0020】
このようなSAW共振片12は、図1に示されるように発振段36に接続されて、帰還発振回路34が構成されている。具体的には、第1IDT14の一方の櫛部14aと第1スイッチ部30aの端子cが発振段36の一方側に接続されるとともに、第1IDT14の他方の櫛部14bと第2スイッチ部30bの端子fが発振段36の他方側に接続されている。この発振段36は、SAW共振片12を共振させるためのものであり、SAW共振片12(第1IDT14および第2IDT16)に信号を供給している。また発振段36は、SAW共振片12から出力された信号の一部を増幅し、またこの信号の他の一部を帰還発振回路34の外部に出力している。
【0021】
またSAW共振片12にインピーダンス素子40が接続されている。このインピーダンス素子40は、図3に示されるSAW共振片の周波数変化量と制御電圧の関係(周波数可変特性)を調整するものである。なお制御電圧Vcは、帰還発振回路34の外部から電圧制御移相回路42に入力される。そしてインピーダンス素子40は、第1インピーダンス素子40aおよび第2インピーダンス素子40bを備えている。第1インピーダンス素子40aは、SAW共振片12の入力側において第1IDT14の一方の櫛部14aおよび第1スイッチ部30aと発振段36との間に直列接続されている。この第1インピーダンス素子40aは、図3(A)に示されるように、周波数変化量を調整するときに用いられ、具体的な一例としては伸張コイルやコンデンサを用いることができる。
【0022】
また第2インピーダンス素子40bは、SAW共振片12の出力側において第1IDT14の他方の櫛部14bおよび第2スイッチ部30bと発振段36との間に並列接続されている。すなわち第2インピーダンス素子40bは、この一端が帰還発振回路34に接続され、他端が接地されている。この第2インピーダンス素子40bは、図3(B)に示されるように、周波数変化量の制御感度(傾き)を調整するときに用いられ、具体的な一例としてはコンデンサを用いることができる。なおインピーダンス素子40としては、SAW共振片12に直列接続された第1インピーダンス素子40aおよびSAW共振片12に並列接続された第2インピーダンス素子40bの少なくともいずれか一方を備えることができる。
【0023】
また図1に示される電圧制御移相回路42は、第1インピーダンス素子40aと発振段36の間に接続されている。この電圧制御移相回路42は、周波数選択型のSAW発振器10の位相条件を満足させるために、制御電圧Vcに基づいて発振段36から出力される信号の位相を所定量進ませ、または遅らせて、所定の位相量に調整するものである。さらにタンク回路38は、帰還発振回路34において第2インピーダンス素子40bと発振段36の間に接続されている。このタンク回路38は、コイルとコンデンサの共振回路(LC並列共振回路)で構成されている。
【0024】
次に、SAW発振器10の作用について説明する。図4はSAW共振片に励起される振動モードを説明する図である。ここで図4(A),(B)におけるグラフの縦軸は振動強度を示し、横軸はSAW共振片12の長手方向(SAWの伝搬方向)を示している。
【0025】
まずSAW共振片12の第2IDT16は、第1スイッチ部30aおよび第2スイッチ部30bが連動して切り替わることにより、極性が変化する。すなわち図2のスイッチ部30において実線で示されるように、第1スイッチ部30aにおいて端子cと端子aが接続されていれば、第2スイッチ部30bにおいて端子fと端子dが接続されている。また図2のスイッチ部30において破線で示されるように、第1スイッチ部30aにおいて端子cと端子bが接続されていれば、第2スイッチ部30bにおいて端子fと端子eが接続されている。なおスイッチ部30は、周波数制御信号によって端子cと端子fの接続先が切り替えられる。
【0026】
そしてSAW共振片12の第2IDT16は、第1スイッチ部30aにおいて端子cと端子aが接続され、第2スイッチ部30bにおいて端子fと端子dが接続されていれば、第1IDT14と同じ極性になる。つまり第1IDT14に入力される信号と第2IDT16に入力される信号が同位相になる。そして第1IDT14および第2IDT16に同位相の信号が入力されると、圧電基板28にSAWが励起されて、反射器24の間に定在波が生じる。この場合には、図4(A)に示されるように、SAW共振片12に対称(S0)の振動モードが励起される。
【0027】
またSAW共振片12の第2IDT16は、第1スイッチ部30aにおいて端子cと端子bが接続され、第2スイッチ部30bにおいて端子fと端子eが接続されていれば、第1IDT14と異なる極性になる。つまり第1IDT14に入力される信号と第2IDT16に入力される信号が逆位相になる。そして第1IDT14および第2IDT16に逆位相の信号が入力されると、圧電基板28にSAWが励起されて、反射器24の間に定在波が生じる。この場合には、図4(B)に示されるように、SAW共振片12に斜対称(A0)の振動モードが励起される。
【0028】
図5はインピーダンスと周波数との関係を示す図である。この図5はインピーダンスと周波数の関係の一例を示しており、縦軸がインピーダンスを示し、横軸が周波数を示している。また図5の破線はS0モードを示し、実線はA0モードを示している。この図5から、SAW共振片12にS0モードが励起されることによって得られる信号と、SAW共振片12にA0モードが励起されることによって得られる信号とが、1つのSAW共振片12から得られることがわかる。すなわち1つのSAW共振片12から周波数の異なる信号が得られることが分かる。またS0モードによって得られた信号は、A0モードによって得られた信号の周波数よりも高いことがわかる。そして本実施形態に係るSAW共振片12は縦結合型なので、横結合2モードSAW共振片に比べて得られる周波数差が大きくなっている。なお横結合2モードSAW共振片では、出力される信号の変調幅(周波数の差)として700〜800ppmが限界である。
【0029】
そしてSAW共振片12の圧電基板28に励起されたSAWは電気信号に変換され、SAW共振片12から出力される。このSAW共振片12から出力された信号は、タンク回路38を介して発振段36に入力される。そして入力された信号が分けられてその一部が発振段36で増幅され、他の一部が発振段36(帰還発振回路34)から出力される。
【0030】
次に、SAW共振片12の周波数可変特性の調整方法について説明する。周波数変化量や制御感度は、SAW発振器10の設計を満たすために調整する必要がある。例えば、同じ製造工程で製造されたSAW共振片12が複数ある場合でも、その等価定数が各々異なっているので、これらのSAW共振片12が設けられたSAW発振器10の周波数変化量や制御感度はそれぞれ異なることになる。このため各複数のSAW共振片12の出力特性に応じ、周波数変化量や制御感度を同様にするために、すなわちSAW発振器10の設計を満たすために、インピーダンス素子40を各SAW共振片12それぞれ調整する必要がある。
【0031】
まず図3(A)に示される周波数変化量の調整について説明する。周波数変化量は、第1インピーダンス素子40aの素子値、すなわち第1インピーダンス素子40aが伸張コイルであればインダクタンスを変化させることにより、また第1インピーダンス素子40aがコンデンサであれば容量値を変化させることにより調整される。これにより周波数可変特性は、図3(A)に示される実線が破線で示されるように、周波数変化量が変化する方向に調整される。
【0032】
次に図3(B)に示される制御感度の調整について説明する。制御感度は、第2インピーダンス素子40bの素子値、すなわち第2インピーダンス素子40bがコンデンサであれば容量値を変化させることにより調整される。これにより周波数可変特性は、図3(B)に示される実線が破線で示されるように、傾き(制御感度)が変化する方向に調整される。
【0033】
次に、SAW発振器10(SAW共振片12)から出力される信号の周波数差(変調幅)を調整する方法について説明する。図6は周波数差を調整するときの関係を示す図である。ここで図6(A)の縦軸は変調幅を示し、横軸は第1,第2IDT14,16の電極指18の対数を示している。なお図6(A)の場合、第3IDT20を構成する電極指21の対数は20対となっている。また図6(B)の縦軸は変調幅を示し、横軸は第1IDT14を構成する電極指18のピッチλ1と第3IDT20を構成する電極指21のピッチλ2との比λ2/λ1を示している。なお図6(B)の場合、第1,第2IDT14,16を構成している電極指18の対数は各80対であり、第3IDT20を構成している電極指21の対数は20対である。
【0034】
まず第1の方法としては、第1IDT14および第2IDT16を構成している電極指18の対数を変えればよい。すなわち第1IDT14を構成する電極指18の対数N1および第2IDT16を構成する電極指18の対数N2を少なくした場合は変調幅が大きくなり、対数N1,N2を多くした場合は変調幅が小さくなる。より具体的には、第1IDT14の対数N1および第2IDT16の対数N2をそれぞれ40対とした場合は、図6(A)からわかるように変調幅が約2400ppmとなっている。また第1IDT14の対数N1および第2IDT16の対数N2をそれぞれ90対とした場合は、図6(A)からわかるよう変調幅が約900ppmとなっている。このため変調幅を1000ppmとするためには、図6(A)から読み取って対数N1,N2を85対とすればよい。このような第1〜第3IDT14,16,20の対数を設定すると、SAW共振片12から出力される信号の周波数差として1/1と1/1.001とを得ることができる。
【0035】
また第2の方法としては、第1,第2IDT14,16を構成する電極指18のピッチλ1と第3IDT20を構成する電極指21のピッチλ2の比λ2/λ1を変えればよい。すなわち第1,第2IDT14,16における電極指18のピッチλ1と第3IDT20における電極指21のピッチλ2を同じにした場合は変調幅が大きくなり、ピッチλ1とピッチλ2の比を大きくした場合は変調幅が小さくなる。より具体的には、第1,第2IDT14,16のピッチλ1と第3IDT20のピッチλ2の比が同じ場合は、図6(B)からわかるように変調幅が約1100ppmとなっている。また第1,第2IDT14,16のピッチλ1と第3IDT20のピッチλ2の比が1.020の場合は、図6(B)からわかるように変調幅が約320ppmとなっている。このため変調幅を1000ppmとするためには、図6(B)から読み取ってピッチλ1とピッチλ2の比を1.001とすればよい。このような第1〜第3IDT14,16,20のピッチの比を設定すると、SAW共振片12から出力される信号の変調幅として1000ppm、すなわち周波数として1/1と1/1.001とを得ることができる。
【0036】
このようなSAW発振器10は、1つのSAW共振片12で異なる周波数の信号を出力できるので、小型化されることができる。またSAW発振器10には、SAW共振片12が1つだけ設けられているので、振動モードとしてS0モードを励起する場合でもA0モードを励起する場合でも、SAW共振片12の等価定数が同じになる。各振動モードの等価定数が同じのため、インピーダンス素子40の調整により、各振動モードで同じ特性とすることができる。したがってSAW発振器10は、SAW共振片12に接続されるインピーダンス素子40の数を従来に比べて削減できるので、小型化され、安価に製造されることができる。
【0037】
またSAW共振片12にインピーダンス素子40を接続したことから、周波数変化量と制御電圧の関係において、周波数変化量および制御感度の少なくともいずれか一方を調整することができる。各振動モードでの等価定数が同じのため、インピーダンス素子40の調整により、各振動モードで同じ特性変化を示す。そのため、各周波数での周波数変化量や制御特性が同等な特性を得ることができる。
【0038】
そしてSAW発振器10は、複数の周波数の信号を出力することができるので、複数の周波数を利用する電子機器に搭載されることができる。またSAW発振器10に設けられるSAW共振片12は縦結合型なので、横結合2モードSAW発振器に比べてS0モードとA0モードとの周波数差、すなわちSAW発振器10から出力される信号の周波数差を大きく取ることができる。このため本実施形態に係るSAW発振器10は、出力される信号の周波数として1/1と1/1.001とを得ることができ、この周波数差が必要な電子機器の60i/59.94iフォーマットに対応することができる。
【0039】
なおSAW共振片12は、前述した構成に限定されることはなく、次に説明する構成であってもよい。図7は第1変形例に係るSAW共振片およびスイッチ部の説明図である。なお図7に示されるSAW共振片には、IDTと反射器のみが示されている。この第1変形例に係るSAW共振片60において、前述した実施形態に係るSAW共振片12と構成が異なる箇所は第3IDTである。すなわち第1変形例に係るSAW共振片60の第3IDT62は、第1IDT14および第2IDT16と同様に、複数の電極指64の基端をバスバー66で接続した櫛部を有し、2つの櫛部(一方の櫛部62aと他方の櫛部62b)の電極指64をそれぞれ噛み合せて形成されている。なお第3IDT62における各櫛部62a,62bの電極指64のピッチはそれぞれλ2となっている。また第3IDT62において、一方の櫛部62aを構成している電極指64と他方の櫛部62bを構成している電極指64とのピッチ、すなわち隣り合っている電極指64の間隔はλ2/2になっている。
【0040】
また第1IDT14および第2IDT16の構成は、前述した実施形態と同構成である。そして、これらの第1〜第3IDT14,16,62を挟み込む位置に反射器24が設けられている。この反射器24の構成は、前述した実施形態と同構成である。
【0041】
このようなSAW共振片60において、第3IDT62における一方の櫛部62aは、第1スイッチ部30aの端子cおよび第1IDT14の一方の櫛部14aに接続されている。また第3IDT62における他方の櫛部62bは、第2スイッチ部30bの端子fおよび第1IDT14の他方の櫛部14bに接続されている。なお第1スイッチ部30aおよび第2スイッチ部30bは、前述した実施形態と同構成になっている。
【0042】
そしてSAW共振片60から出力される信号の周波数差(変調幅)を調整する方法は、前述した実施形態と同様に行えばよい。すなわち第1の方法として、第1IDT14および第2IDT16を構成している電極指18の対数を変えればよい。また第2の方法として、第1,第2IDT14,16を構成する電極指18のピッチλ1と第3IDT62を構成する電極指64のピッチλ2の比を変えればよい。これによりSAW共振片60から出力される信号の周波数差(変調幅)を変えることができる。
【0043】
図8は第2変形例に係るSAW共振片およびスイッチ部の説明図である。なお図8に示されるSAW共振片には、IDTと反射器のみが示されている。第2の変形例に係るSAW共振片70は、第1IDT14と第2IDT16の間に第3IDT72、第4IDT78および第5IDT80を設けた構成である。この第3IDT72は、第1IDT14および第2IDT16と同様に、複数の電極指74の基端をバスバー76で接続した櫛部を有し、2つの櫛部(一方の櫛部72aと他方の櫛部72b)の電極指74をそれぞれ噛み合せて形成されている。なお第3IDT72における各櫛部72a,72bの電極指74のピッチはそれぞれλ2となっている。また第3IDT72において、一方の櫛部72aを構成している電極指74と他方の櫛部72bを構成している電極指74とのピッチ、すなわち隣り合っている電極指74の間隔はλ2/2になっている。
【0044】
また第4IDT78は、第1IDT14と第3IDT72の間に設けられている。さらに第5IDT80は、第3IDT72と第2IDT16の間に設けられている。この第4IDT78および第5IDT80は、第1IDT14等の電極指18に沿った複数の電極指82を備えており、これらの電極指82の両端がバスバー84で接続されている。この第4,第5IDT78,80を構成している電極指82のピッチ、すなわち隣り合う電極指82の間隔はλ3/2になっている。
【0045】
また第1IDT14および第2IDT16の構成は、前述した実施形態と同構成である。そして、これらの第1〜第5IDT14,16,72,78,80を挟み込む位置に反射器24が設けられている。この反射器24の構成は、前述した実施形態と同構成である。
【0046】
このようなSAW共振片70において、第3IDT72における一方の櫛部72aは、第1スイッチ部30aの端子cおよび第1IDT14の一方の櫛部14aに接続されている。また第3IDT72における他方の櫛部72bは、第2スイッチ部30bの端子fおよび第1IDT14の他方の櫛部14bに接続されている。なお第1スイッチ部30aおよび第2スイッチ部30bは、前述した実施形態と同構成になっている。また第4IDT78および第5IDT80は、第1IDT14や第3IDT72、スイッチ部30a,30bに接続されていない。
【0047】
そしてSAW共振片70から出力される信号の周波数差(変調幅)を調整する方法は、前述した実施形態と同様に行えばよい。すなわち第1の方法として、各IDTを構成している電極指の対数を変えればよい。また第2の方法として、各IDTのピッチλ1,λ2,λ3の比を変えればよい。これによりSAW共振片70から出力される信号の周波数差(変調幅)を変えることができる。
【0048】
図9は第3変形例に係るSAW共振片およびスイッチ部の説明図である。なお図9に示されるSAW共振片には、IDTと反射器のみが示されている。
第3変形例に係るSAW共振片90は、第1IDT14および第2IDT16を設けた構成である。この第1IDT14および第2IDT16は前述した実施形態と同構成であればよい。また第1,第2IDT14,16を挟み込む位置に反射器24が設けられている。この反射器24の構成は、前述した実施形態と同構成である。そしてSAW共振片90から出力される信号の周波数差(変調幅)を調整する方法は、前述した実施形態と同様に行えばよい。すなわち第1IDT14および第2IDT16を構成している電極指18の対数を変えればよい。これによりSAW共振片90から出力される信号の周波数差(変調幅)を変えることができる。
【0049】
このような図7〜図9に示されるSAW共振片60,70,90は振動モードとしてS0モードとA0モードを励起することができるので、1つのSAW共振片60,70,90で異なる周波数の信号を出力できる。またSAW共振片60,70,90は、振動モードとしてS0モードを励起する場合でもA0モードを励起する場合でも、等価定数が同じになる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】SAW発振器の概略構成を説明するブロック図である。
【図2】SAW共振片およびスイッチ部の説明図である。
【図3】SAW共振片の周波数変化量と制御電圧の関係を示す図である。
【図4】SAW共振片に励起される振動モードを説明する図である。
【図5】インピーダンスと周波数との関係を示す図である。
【図6】周波数差を調整するときの関係を示す図である。
【図7】第1変形例に係るSAW共振片およびスイッチ部の説明図である。
【図8】第2変形例に係るSAW共振片およびスイッチ部の説明図である。
【図9】第3変形例に係るSAW共振片およびスイッチ部の説明図である。
【符号の説明】
【0051】
10………SAW発振器、12………SAW共振片、14………第1IDT,16………第2IDT、28………圧電基板、30………スイッチ部、36………発振段、40………インピーダンス素子、40a………第1インピーダンス素子、40b………第2インピーダンス素子、62,72………第3IDT、78………第4IDT、80………第5IDT。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1IDTおよび第2IDTを圧電基板上に直列配設したSAW共振片と、
前記第1IDTに入力される信号の位相と前記第2IDTに入力される信号の位相とを同じまたは異にするスイッチ部と、
前記第1IDTおよび前記第2IDTに前記信号を供給する発振段と、
前記SAW共振片に接続されたインピーダンス素子と、
を備えたことを特徴とするSAW発振器。
【請求項2】
前記インピーダンス素子は、前記SAW共振片に直列接続された第1インピーダンス素子および前記SAW共振片に並列接続された第2インピーダンス素子の少なくともいずれか一方を備えたことを特徴とする請求項1に記載のSAW発振器。
【請求項3】
前記第1IDTと前記第2IDTとの間に第3IDTが設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載のSAW発振器。
【請求項4】
前記第1IDTと前記第3IDTとの間に第4IDTが設けられるとともに、前記第3IDTと前記第2IDTとの間に第5IDTが設けられたことを特徴とする請求項3に記載のSAW発振器。
【請求項5】
前記SAW共振片から出力される信号の周波数は複数あり、これらの信号の周波数は1/1および1/1.001を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のSAW発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−243719(P2007−243719A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64622(P2006−64622)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】