説明

SiC単結晶の製造装置および製造方法

【課題】溶液法において三次元成長および凸状成長を抑制して、平坦性の高いSiC単結晶を成長させる装置および方法を提供する。
【解決手段】SiC溶液を収容する容器、
該容器内の該SiC溶液を適温に維持する温度制御手段、
SiC種結晶をその結晶成長面の裏面全体に面接触した状態で保持する保持手段として作用し、且つ、該SiC種結晶を冷却する冷却手段として作用する下端部を有する保持軸、および
該結晶成長面にSiC単結晶が継続的に成長するように、該結晶成長面を該SiC溶液に接触させた状態に維持するための該保持軸の位置制御手段、
を備えたSiC単結晶の製造装置であって、
該保持軸の下端部は、該面接触した該結晶成長面の面内温度分布を均一化するための均熱手段を有することを特徴とするSiC単結晶の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液法によりSiC単結晶を製造するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な溶液法によるSiC単結晶の成長法においては、黒鉛坩堝内でSi原料を加熱して溶融させたSi溶液中に、黒鉛坩堝からのCを溶解させてSiC溶液とし、SiC溶液の表面に、保持軸の下端に保持したSiC種結晶の下面を接触させ、この下面を起点としてSiC単結晶を成長させる。SiC単結晶の成長は先ずSiC種結晶の下面から始まり、以降は成長したSiC単結晶の下面(結晶成長部)から後続のSiC単結晶の成長が起きる。したがって、このSiC単結晶の結晶成長部とSiC溶液の接触面(溶液表面)との間に、成長方向(鉛直方向)に沿って下から上に温度低下する適当な温度勾配が常に維持されていなければならない。そのために、種結晶は背面(上面)から保持軸を介して常に冷却されている必要がある。
【0003】
特許文献1には、III族窒化物単結晶を溶液法により成長させる際に、種結晶保持部の裏側(上側)に中空構造を備え、冷却ガスを導入することにより種結晶を冷却して結晶成長を行なうことが開示されている(段落0025、0042)。しかし、SiC単結晶の溶液法による成長にそのまま適用すると、冷却ガスが吹付けられる部位が過冷却されるため、対応する部位に成長する結晶に細かい凹凸が発生する3次元成長や、この部位の結晶成長が促進され凸状成長が起きてしまい、平坦な結晶成長ができないという問題があった。
【0004】
特許文献2には、液体原料と気体原料を反応させて半導体単結晶を成長させる際に、結晶を成長させるときの成長面温度の不均一による欠陥発生を防ぐために、成長開始部である種結晶中心部から周辺部に亘って基板温度の面内分布(成長方向に直角な面内での温度分布)を変化させることが開示されている。しかし、SiC単結晶の溶液法による成長においては、平坦な結晶成長を確保するには基板温度の面内分布は均一とする必要があり、採用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−222453号公報
【特許文献2】特開2009−221041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、溶液法において三次元成長および凸状成長を抑制して、平坦性の高いSiC単結晶を成長させる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、基本形態において、本発明のSiC単結晶の製造装置は、
SiC溶液を収容する容器、
該容器内の該SiC溶液を適温に維持する温度制御手段、
SiC種結晶をその結晶成長面の裏面全体に面接触した状態で保持する保持手段として作用し、且つ、該SiC種結晶を冷却する冷却手段として作用する下端部を有する保持軸、および
該結晶成長面にSiC単結晶が継続的に成長するように、該結晶成長面を該SiC溶液に接触させた状態に維持するための該保持軸の位置制御手段、
を備えたSiC単結晶の製造装置であって、
該保持軸の下端部は、該面接触した該結晶成長面の面内温度分布を均一化するための均熱手段を有することを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のSiC単結晶の製造方法は、
SiC溶液を収容する容器を準備する工程、
該容器内の該SiC溶液を適温に維持するように温度制御する工程、
保持軸の下端部に、SiC種結晶をその結晶成長面の裏面全体で面接触した状態で保持し、且つ、該下端部を冷却手段として該SiC種結晶を冷却する工程、および
該結晶成長面にSiC単結晶が継続的に成長するように、該結晶成長面を該SiC溶液に接触させた状態に維持するために該保持軸を位置制御する工程、
を含み、
該保持軸の下端部に設けた均熱手段により、該面接触した該結晶成長面の面内温度分布を均一化する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、基本形態において、SiC種結晶をその結晶成長面の裏面全体に面接触した状態で保持する保持手段として作用し、且つ、該SiC種結晶を冷却する冷却手段として作用する下端部を有する保持軸の下端部が、該面接触した該結晶成長面の面内温度分布を均一化するための均熱手段を有することにより、該結晶成長面からの結晶成長速度が均一化され、三次元成長や凸状成長が抑制され、成長するSiC単結晶の平坦性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】溶液法によりSiC単結晶を成長させるための装置の(1)基本構成および(2)保持軸下端部を示す模式図である。
【図2】従来の保持軸下端部の形状を示す模式図である。
【図3】本発明の保持軸下端部の形状を示す模式図である。
【図4】本発明の保持軸下端部の望ましい形態を示す模式図である。
【図5】図2に示した従来の保持軸下端部を用いて成長したSiC単結晶の成長表面の外観写真である。
【図6】図3に示した本発明の保持軸下端部を用いて成長したSiC単結晶の成長表面の外観写真である。
【図7】図4に示した本発明の望ましい形態の保持軸下端部を用いて成長したSiC単結晶の成長表面の外観写真である。
【図8】(1)従来および(2)本発明の保持軸下端部について、冷却ガスの流れをシミュレーション計算するのに用いたモデルを示す。
【図9】(1)従来および(2)本発明の保持軸下端部について、それぞれ図7のモデルを用いてシミュレーション計算した冷却ガスの流れを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照して、溶液法によるSiC単結晶の製造装置を説明する。
【0012】
製造装置10は、SiC溶液12を収容する黒鉛製等の容器14、この容器14内のSiC溶液12を適温に維持する誘導コイル16を含む温度制御手段、SiC種結晶18をその結晶成長面Gの裏面U全体に面接触した状態で保持する保持手段として作用し且つSiC種結晶18を冷却する冷却手段として作用する下端部20Eを有する保持軸20、および結晶成長面GにSiC単結晶が継続的に成長するように、結晶成長面GをSiC溶液12に接触させた状態に維持するための保持軸20の位置制御手段22を備えている。
【0013】
典型的には、黒鉛坩堝14内でSi原料を誘導コイル16で加熱して溶融させたSi溶液中に、黒鉛坩堝14からのCを溶解させてSiC溶液12とし、SiC溶液12の表面に、黒鉛製の保持軸14の下端に保持したSiC種結晶16の下面を接触させ、この下面を起点(=結晶成長面G)としてSiC単結晶を成長させる。種結晶18の裏面温度は熱電対24により、溶液12の表面温度は放射温度計26により、適宜モニターする。
【0014】
本発明の改良点は、保持軸20の下端部20Eの構造である。
【0015】
図2に、従来の保持軸20の下端部20Eとその直上の保持軸20の本体の一部とを示す。図には、下端部20Eに面接触した状態でSiC種結晶18を保持される。
【0016】
保持軸20は内管20Nと外管20Gとから成る二重管構造をしており、内管20N内がガス等の冷却流体の供給流路Sを構成し、内管20Nと外管20Gとの間の間隙が冷却流体の戻り流路Rを構成する。
【0017】
下端部20Eは、外部にSiC種結晶18を保持する底部Bと、この底部Bの周縁から立ち上がって保持軸20の本体に連続する側壁Wとから成る中空体である。冷却流体は、底部Bと側壁Wとで囲まれた中空部P内を矢印に沿って流れる。すなわち、供給流路Sから噴出した冷却流体は底部Bの中央に衝突して周辺に流れ、矢印に沿って戻り流路Rから排出される。
【0018】
上記従来構造の保持軸下端部20Eでは、特許文献1について述べたのと同じく、冷却流体が衝突する底部Bの中央部が過冷却されるため、種結晶18の対応する部位に成長する結晶に細かい凹凸が発生する3次元成長や、この中央部の結晶成長が促進されて凸状成長が起きてしまい、平坦な結晶成長ができなかった。
【0019】
図3に、上記従来の欠点を解消するための本発明の保持軸下端部20Eの構造を示す。
すなわち、本発明は、保持軸20の下端部20Eは、結晶成長面の面内温度分布を均一化するための均熱手段を有する。
【0020】
本発明の望ましい第1実施形態によれば、
保持軸20は、その本体内を長手方向に延びて下端部20Eに達する冷却流体の供給流路Sおよび戻り流路Rを備え、
下端部20Eは、SiC単結晶を外側に面接触させて保持する底部Bと、この底部Bの周縁から立ち上がって保持軸20の本体に連続する側壁Wとで囲まれた中空体を成し、供給流路Sから中空部P内へ吹き出した冷却流体が、底部Bに衝突し底部Bを介してSiC単結晶を冷却し、戻り流路Rを通って中空体から排出され、
中空体の底部Bは、供給流路Sからの冷却流体が衝突する中央部から戻り流路Rに向かう周縁部にかけて厚さが減少していることにより均熱手段として作用する。すなわち、
更に望ましい第2形態においては、上記本発明のSiC単結晶の製造装置は、
SiC単結晶の成長方向よりもこれと直角な方向の熱伝導率が大きい均熱板を、該下端部と該SiC種結晶との間に介在させたことを特徴とする。
これによって、ガスによる冷却効果が大きい部位が種結晶及び成長中の結晶を冷却する前に、水平方向に温度が均一化しやすくなり、三次元結晶成長が更に抑制される。
【0021】
一層望ましい第3形態においては、上記本発明のSiC単結晶の製造装置は、該保持軸の外周を断熱材で覆ったことを特徴とする。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明する。
〔比較例〕
図2に示す従来の保持軸下端部20を用いて、下記条件によりSiC単結晶を成長させた。
【0023】
<成長条件>
冷却流体:Arガス
底部の厚み(t):5mm
底部のテーパ角度:0°(平坦)
底部直径:D1=52φ、D2=36φ
得られたSiC単結晶は、最小厚み(周縁部)=163μm、最大厚み(中央部)=632μmであった。面内成長量の差の最大厚みに対する割合は、(632−163)/632×100=74%であった。
【0024】
〔実施例1〕
図3に示す本発明の保持軸下端部20を用いて、下記条件によりSiC単結晶を成長させた。
【0025】
<成長条件>
冷却流体:Arガス
底部の厚み(t):15mm
底部のテーパ角度:18°
底部直径:D1=48φ、D2=40φ
得られたSiC単結晶は、最小厚み(周縁部)=416μm、最大厚み(中央部)=1085μmであった。面内成長量の差の最大厚みに対する割合は、(1085−416)/1085×100=62%であった。従来法による比較例よりも平坦性が向上した。
【0026】
〔実施例2〕
図4に示す本発明の望ましい形態による保持軸下端部20Eを用いた。
【0027】
下端部20Eは、図3の構成に均熱板30および断熱材40を付加した。
【0028】
まず、底部Bの外面(底面)とSiC種結晶18との間に、パイロリティック・グラファイト(PG)の均熱板30を介在させた。PGは、板厚方向に積層した構造を有しており、熱伝導率の異方性が極めて大きく、板面方向が345W/mKであるのに対して、板厚方向が1.7W/mKと、ほぼ200倍の差がある。板厚方向すなわちSiC単結晶の成長方向に比べて、これと直角な板面方向の熱伝導率が200倍の大きさであり、面内温度分布の均一化にとって非常に有利である。
【0029】
更に、保持軸20の外周を断熱材40で覆った。保持軸20は高温(例えば2000℃)のSiC溶液12上の炉内雰囲気から常に加熱される。断熱材40は、保持軸20内の冷却流体(本実施例ではArガス)を望ましくない加熱から遮る。
【0030】
図4の保持軸下端部20Eを用いて、下記の条件によりSiC単結晶を成長させた。
【0031】
<成長条件>
冷却流体:Arガス
底部の厚み(t):5mm
均熱板厚み:3mm
底部のテーパ角度:18°
底部直径:D1=48φ、D2=40φ
断熱材:材質Carbon
得られたSiC単結晶は、最小厚み(周縁部)=680μm、最大厚み(中央部)=984μmであった。面内成長量の差の最大厚みに対する割合は、(984−680)/984×100=31%であった。実施例1に比べて更に平坦性が向上した。
【0032】
図5、6、7に、比較例、実施例1、実施例2で得られたSiC単結晶の成長表面の外観写真を示す。成長表面の平坦性が順に向上していることが分かる。
【0033】
〔実施例3〕
本発明により保持軸20の下端部20Eの内部空間Pにおける冷却流体の流れがどのように改良されたかを、流体の流速分布についてシミュレーション計算により検討した。
【0034】
図8に、用いた(1)従来例および(2)本発明例のモデルを、図9に(1)従来例および(2)本発明例のシミュレーション結果を、それぞれ示す。
【0035】
<シミュレーション条件>
流量:5L/min
最大流速:3.5m/s
人工拡散条件
流線拡散
横風拡散=0.1
表示条件
流線:30本
ベクトル本数:50×50
従来例(1)および本発明例(2)について、いずれもX(底部中央)とY(底部周縁)に停流部(○囲みの部分)が生じているが、本発明(2)により停流部の大きさが小さくなっていることが分かる。これにより、本発明により、冷却流体がよりスムーズに流れ、面内温度分布の均一化を促進すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、溶液法において三次元成長および凸状成長を抑制して、平坦性の高いSiC単結晶を成長させる装置および方法が提供される。
【符号の説明】
【0037】
10 製造装置
12 SiC溶液
14 黒鉛製等の容器
16 誘導コイル
18 SiC種結晶
20 保持軸
20E 保持軸の下端部
22 保持軸の位置制御手段
24 熱電対
26 放射温度計
20N 保持軸の内管
20G 保持軸の外管
30 均熱版
40 断熱材
S 冷却流体の供給流路
R 冷却流体の戻り流路
B 保持軸下端部の底部
W 保持軸下端部の側壁
P 保持軸下端部の中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC溶液を収容する容器、
該容器内の該SiC溶液を適温に維持する温度制御手段、
SiC種結晶をその結晶成長面の裏面全体に面接触した状態で保持する保持手段として作用し、且つ、該SiC種結晶を冷却する冷却手段として作用する下端部を有する保持軸、および
該結晶成長面にSiC単結晶が継続的に成長するように、該結晶成長面を該SiC溶液に接触させた状態に維持するための該保持軸の位置制御手段、
を備えたSiC単結晶の製造装置であって、
該保持軸の下端部は、該面接触した該結晶成長面の面内温度分布を均一化するための均熱手段を有することを特徴とするSiC単結晶の製造装置。
【請求項2】
請求項1において、
該保持軸は、その本体内を長手方向に延びて該下端部に達する冷却流体の供給流路および戻り流路を備え、
該下端部は、該SiC単結晶を外側に面接触させて保持する底面と、該底面の周縁から立ち上がって該保持軸の該本体に連続する側面とで囲まれた中空体を成し、該供給流路から該中空体内へ吹き出した該冷却流体が、該底面に衝突し該底面を介して該SiC単結晶を冷却し、該戻り流路を通って該中空体から排出され、
該中空体の該底面は、該供給流路からの冷却流体が衝突する中央部から該戻り流路に向かう周縁部にかけて厚さが減少していることにより該均熱手段として作用することを特徴とするSiC単結晶の製造装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
SiC単結晶の成長方向よりもこれと直角な方向の熱伝導率が大きい均熱板を、該下端部と該SiC種結晶との間に介在させたことを特徴とするSiC単結晶の製造装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項において、該保持軸の外周を断熱材で覆ったことを特徴とするSiC単結晶の製造装置。
【請求項5】
SiC溶液を収容する容器を準備する工程、
該容器内の該SiC溶液を適温に維持するように温度制御する工程、
保持軸の下端部に、SiC種結晶をその結晶成長面の裏面全体で面接触した状態で保持し、且つ、該下端部を冷却手段として該SiC種結晶を冷却する工程、および
該結晶成長面にSiC単結晶が継続的に成長するように、該結晶成長面を該SiC溶液に接触させた状態に維持するために該保持軸を位置制御する工程、
を含み、
該保持軸の下端部に設けた均熱手段により、該面接触した該結晶成長面の面内温度分布を均一化する工程を有することを特徴とするSiC単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−140267(P2012−140267A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293354(P2010−293354)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】