SiC構造体、半導体装置およびSiC構造体の製造方法
【課題】部材が熱サイクルを複数回受けたとしても強固に接合された状態を維持することが可能なSiC構造体、半導体装置およびSiC構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るSiC構造体10は、SiCからなり、対象物を放熱するための放熱用部品1と、SiCからなるベース体3と、放熱用部品1とベース体3とを接合する、SiとCとを含む接合部7とを備えるSiC構造体10である。上記接合部7は、放熱用部品1またはベース体3と接合する接合面から、上記接合面に交差する方向に関して、接合部7の中央部に向かってCの濃度が減少する。上記接合部7の組成はSi1−xCx(0<x<1)で表わされることが好ましい。
【解決手段】本発明に係るSiC構造体10は、SiCからなり、対象物を放熱するための放熱用部品1と、SiCからなるベース体3と、放熱用部品1とベース体3とを接合する、SiとCとを含む接合部7とを備えるSiC構造体10である。上記接合部7は、放熱用部品1またはベース体3と接合する接合面から、上記接合面に交差する方向に関して、接合部7の中央部に向かってCの濃度が減少する。上記接合部7の組成はSi1−xCx(0<x<1)で表わされることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC構造体、半導体装置およびSiC構造体の製造方法に関するものであり、より特定的には、熱応力による破損を抑制することができるSiC構造体、当該SiC構造体を用いた半導体装置および当該SiC構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばハイブリッド自動車などに用いられるインバータ回路において、インバータ回路を駆動した際に、インバータ回路を構成する半導体素子が発生する熱を効率よく冷却するため、チャネルやフィンを有する構造体が組み込まれる。
【0003】
たとえば特開2004−289947号公報(特許文献1)には、マイクロチャネル冷却装置を用いて、インバータ回路から発生する熱を冷却する電力変換装置が開示されている。マイクロチャネル冷却装置はヒートシンクと、ヒートシンクに接続された複数本のフィンと、ヒートシンクやフィンを冷却する冷却ファンとから構成されている。インバータ回路が発生する熱がヒートシンクに伝播すると、当該熱はヒートシンクからフィンに伝わり、ヒートシンクやフィンに対向するように配置される冷却ファンの回転により冷却される。
【0004】
また特開2008−124430号公報(特許文献2)には、インバータ回路を構成するパワーモジュール(パワー半導体素子)に放熱用の部材が取り付けられ、特許文献1のマイクロチャネル冷却装置と同様に、当該放熱用の部材にフィンが複数本取り付けられた構造体が開示されている。複数本のフィンに挟まれた領域に冷却媒体が通ることにより、当該放熱用の部材に伝播した熱を冷却する。また、当該フィンは、ヒートシンクや放熱用の部材と、たとえばろう材により接合されており、放熱用の部材と、上記冷却媒体の流通空間を形成するケースとの接合はOリングによりなされていることが併せて開示されている。
【0005】
ところで、上述した接合技術として、たとえば特開2008−69059号公報(特許文献3)には、ホウ素系の焼結助剤を用いて形成されたSiC焼結体同士を、Siからなる接合部を用いて接合した接合体および、当該接合体の接合方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−289947号公報
【特許文献2】特開2008−124430号公報
【特許文献3】特開2008−69059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献2において、上述した放熱用の部材は銅などでつくられる旨が記載されている。特許文献2において記載されていないが、銅のほかにアルミニウムなどの金属材料から形成されると推察される。
【0008】
当該パワーモジュールを実際に使用した際に、たとえば放熱用の部材が半導体素子の発熱により加熱されたり、それが冷却媒体により冷却されたりの熱サイクルを繰り返し受ける。しかるにパワーモジュールにおいて実際に加熱がなされるのは半導体素子であるため、放熱用の部材と半導体素子との熱膨張係数の差が大きくなる。このため、熱サイクルを繰り返し受けることにより、当該放熱用の部材は大きな熱応力を頻繁に受ける。したがって放熱用の部材の耐熱性が劣化し、寿命が短縮化する可能性がある。
【0009】
また、上述したように、特許文献2の冷却用の素子は、放熱用の部材とフィンとがろう材により接合されている。すると、当該部材とこれを接合するろう材との材質の差による熱膨張係数の差も大きくなる。したがって、当該部材が熱サイクルを複数回受けることにより、当該ろう材の接合力が劣化する可能性がある。Oリングにより当該冷却用の部材と固定されたケースについても、部材が繰り返し熱サイクルを受けることにより接合強度が劣化する可能性がある。このように劣化すれば、たとえば冷却媒体がOリングにより本来接合されているべき箇所から漏洩する可能性がある。なお、特許文献1においては、開示されているマイクロチャネル冷却装置を構成する部材の材質などは開示されていないが、特許文献2の放熱用の部材などと同様の材質を用いていると推察される。
【0010】
また、特許文献3は熱サイクルにより熱応力を繰り返し受ける部材に関するものとしては開示も示唆もされていない。
【0011】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものである。その目的は、部材が熱サイクルを複数回受けたとしても強固に接合された状態を維持することが可能なSiC構造体、半導体装置およびSiC構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るSiC構造体は、SiCからなり、対象物を放熱するための放熱用部品と、SiCからなるベース体と、放熱用部品とベース体とを接合する、SiとCとを含む接合部とを備えるSiC構造体である。上記接合部は、上記放熱用部品または上記ベース体と接合する接合面から、上記接合面に交差する方向に関して、上記接合部の中央部に向かってCの濃度が減少する。
【0013】
炭化珪素(SiC)は熱伝導性が優れているため、上述した放熱用部品などに使用するに適した材料である。またSiCは熱膨張率が金属に比べて低いため、SiCからなる放熱用部品などに対して、熱サイクルによる繰り返し応力を与えても、たとえば金属からなる放熱用部品に比べて、熱膨張や熱収縮する割合が小さい。
【0014】
さらにSiCからなる放熱用部品とベース体とを接合する接合部には、シリコン(Si)と炭素原子(C)とを含んでいる。これは両者を接合する(接合部を形成する)材料がSiで形成されており、かつ接合する処理を行なう際に、放熱用部品やベース体に含まれている炭素原子(C)が固溶されて接合部の内部に拡散するためである。接合部の放熱用部品やベース体との境界部から、接合部の中央部に向かって拡散して固溶する。このため上記境界部から、接合部の中央部に向かってCの濃度が減少する。このため放熱用部品とベース体との境界部分に配置された接合部には、放熱用部品やベース体と同様に、SiとCとを含有することになる。このため当該接合部は、放熱用部品やベース体と組成の連続性を有する。したがって放熱用部品やベース体と、接合部との熱膨張係数の差が小さくなるため、熱サイクルによる熱応力が小さくなる。このため、当該接合部における応力集中や、応力集中に起因する部材の破損などの不具合を抑制することができる。以上より、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体の耐久性を向上させることができる。なお上述したように、接合部においてもSiとCとを含有するが、上述した本発明に係るSiC構造体において、接合部はSi1−xCx(0<x<1)で表わされることが好ましい。
【0015】
上述した本発明に係るSiC構造体において、上記ベース体は平板形状であることが好ましい。ベース体が平板形状であれば、当該ベース体の一方の主表面上にたとえば放熱用部品を接合することにより、安定した形状を有し、放熱効果の高いSiC構造体を形成することができる。なお、ここで主表面とは、表面のうち最も面積の大きい主要な面をいう。
【0016】
上述した本発明に係るSiC構造体において、上記放熱用部品には、上記ベース体の主表面に沿った方向に複数の柱状構造体が一定間隔ごとに並んでいることが好ましい。このように複数の柱状構造体を並べた構成とすれば、当該放熱用部品を構成する構造体の数が多くなる。このため、当該放熱用部品の表面積が大きくなる。したがって、たとえば放熱用部品が加熱されたとしても当該放熱用部品の表面を冷却することにより、高効率に当該放熱用部品を冷却することができる。したがって、放熱用部品が吸収する熱を効率よく放熱することができる。
【0017】
上述した本発明に係るSiC構造体と、電気信号を供給する半導体素子とを備える半導体装置は、上述したようにSiC構造体が高効率に冷却され、高効率に放熱することができるため、たとえば半導体素子が駆動することにより発生する熱を高効率に放熱することができる。したがって当該半導体装置は、熱サイクルを繰り返し受けることによる耐久性を向上することができる。
【0018】
本発明に係るSiC構造体の製造方法は、SiCからなり、対象物の熱を放熱するための放熱用部品を準備する工程と、SiCからなるベース体を準備する工程と、上記放熱用部品と上記ベース体との少なくともいずれか一方の主表面上にSi層を形成する工程と、上記放熱用部品と上記ベース体とが上記Si層を挟むように接触した状態で、上記Si層をSiの融点以上に加熱する工程とを備える。
【0019】
上述した方法によれば、Si層が放熱用部品とベース体とに接触した状態で加熱され、Si層が溶融する。このため、当該溶融したSi層が放熱用部品とベース体とを接合する接合部となる。そしてSi層が溶融する際に、放熱用部品やベース体に含まれるCがSi層の内部に流入し、SiとCとを含む(上述したSi1−xCxの化学式で表わされる)接合部が形成される。このため、接合部が放熱用部品やベース体と同様にSiとCとを含む部材となる。このように接合される側の部材(放熱用部品やベース体)を構成する元素の一部が、接合部に流入して固溶するため、より確実に、接合される側の部材と接合部とを強固に接合することができる。
【0020】
また上述したように、接合される側(放熱用部品やベース体)と接合部との両方にSiとCとが含まれるため、組成の差が小さくなるため、両者間の熱膨張係数の差が小さくなり、熱サイクルによる熱応力に起因した破損などを抑制することが可能なSiC構造体を形成することができる。
【0021】
上記製造方法における上記加熱する工程では、Si層を1400℃以上1800℃以下に加熱することが好ましい。大気圧下におけるSiの融点は1414℃であり、Si層の加熱温度を1400℃未満とすれば接合のための反応に時間を要することになる。このため、接合のためにSi層を溶融する際には当該Si層を1400℃以上に加熱することが好ましい。大気圧下におけるSiCの融点は2730℃であるため、たとえばSi層を1400℃に加熱し、Si層に接触するSiCからなる接合される部材が同等の温度に加熱されても当該接合される部材は溶融しない。しかしSiCは昇華性を有し、たとえば2300℃に加熱すれば昇華する。このためSiCを1800℃以上に加熱すれば、昇華の前段階である兆候が出現することがある。このためSiCにて形成された接合される部材を1800℃以上に加熱すれば、変形などの不具合を来たす可能性がある。このため上記範囲内の温度に加熱することが好ましい。
【0022】
上記SiC構造体の製造方法における上記加熱する工程は、真空中または不活性ガス雰囲気中にて行なうことが好ましい。このようにすれば、より確実に接合部にCの元素を流入させて、より確実に当該接合部をSi1−xCxとすることができる。したがって、当該接合部が熱サイクルを繰り返し受けた際の熱応力を小さくし、当該接合部が破損することをより確実に抑制することができる。
【0023】
また上記加熱する工程を不活性ガス中にて行ない、その際に当該不活性ガス中にCを含むガスを追加供給する。このようにすれば、拡散により接合部に流入されるC元素に加えて、処理を行なう雰囲気中に含まれるC元素の一部が、溶融した接合部に流入する。したがってこの場合、Cを含有しない雰囲気中や真空中にて加熱処理を行なった場合に比べて、より高い濃度のCを当該接合部に含有させることができる。このため、接合部に含まれるCの濃度を高くして、接合される部材に含まれるCの濃度により近づけることができる。つまり、接合部の組成を接合される部材の組成により近づけることができる。したがって、当該SiC構造体に熱サイクルが繰り返し加わっても、当該接合部などが破損することをより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、部材が熱サイクルを複数回受けたとしても強固に接合された状態を維持することが可能なSiC構造体、半導体装置およびSiC構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態1に係るSiC構造体の構成を示す、図2の線分I−Iにおける概略断面図である。
【図2】本実施の形態1に係るSiC構造体を構成する放熱用部品の外観を示す概略斜視図である。
【図3】本実施の形態1に係るSiC構造体の放熱用部品とベース体とを接合する接合部における一のC濃度分布を示すグラフである。
【図4】本実施の形態1に係るSiC構造体の放熱用部品とベース体とを接合する接合部における他のC濃度分布を示すグラフである。
【図5】本発明に係るSiC構造体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】本実施の形態1に係るSiC構造体を形成する際の、図5の工程(S10)にて準備した放熱用部品の態様を示す概略断面図である。
【図7】本実施の形態1に係るSiC構造体を形成する際の、図5の工程(S20)にて準備したベース体の態様を示す概略断面図である。
【図8】本実施の形態1に係るSiC構造体を形成する際の、図5の工程(S30)にてSi層を形成した放熱用部品の態様を示す概略断面図である。
【図9】本実施の形態1に係るSiC構造体を形成する際の、図5の工程(S40)にて準備したベース体の態様を示す概略断面図である。
【図10】図9に示す接合前の各部材内部の各位置におけるSiおよびCの濃度を示す概略断面図およびグラフである。
【図11】図1に示す接合後の各部材内部の各位置におけるSiおよびCの濃度を示す概略断面図およびグラフである。
【図12】本実施の形態2に係るSiC構造体の構成を示す、図13の線分XII−XIIにおける概略断面図である。
【図13】本実施の形態2に係るSiC構造体の外観を示す概略斜視図である。
【図14】本実施の形態2に係るSiC構造体を形成する際の、図5の工程(S40)を実施する態様を示す概略断面図である。
【図15】本実施の形態2に係るSiC構造体を半導体素子に接続させた半導体装置の態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施の形態について説明する。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす要素には同一の参照符号を付し、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
【0027】
(実施の形態1)
図1の概略断面図に示すように、本発明の実施の形態1に係るSiC構造体10は、パワーモジュール(パワー半導体素子)の駆動により発生する熱を外部に放熱するために用いられる部材(マイクロチャネル冷却装置)である。SiC構造体10は、対象物を放熱するための放熱用部品1と、SiCからなるベース体3と、放熱用部品1とベース体3とを接合する接合部7とを備えている。放熱用部品1とベース体3とは、いずれもSiCからなる構造体である。
【0028】
図1における放熱用部品1の最上面(接合部7と接触する面)には、図2に示すように、一定の幅や深さを有する1本の曲線状の溝5が形成されている。当該溝5の一方の端部(図2の溝5の手前部の左側に存在する端部)から他方の端部(図2の溝5の手前部の右側に存在する端部)へ、たとえば液体窒素などの冷却媒体が流通する。上記冷却媒体は、たとえば当該SiC構造体10に伝播される熱を冷却する役割を有するものである。放熱用部品1、ベース体3ともに、熱伝導性に優れたSiCで形成されるため、当該SiC構造体10に伝播される熱はスムーズに冷却媒体に伝播され、冷却される。溝5は図2に示す曲線状であってもよいが、任意の他の形状であってもよい。図1に示すように溝5の断面は矩形状となっているが、たとえば円形状や半円形状などであってもよい。また、図2に示す溝5の一方の端部と他方の端部とは放熱用部品1の同一の側面上に存在するが、当該一方の端部と他方の端部とは、放熱用部品1の異なる側面上に存在してもよい。放熱用部品の主表面において溝5が折り返す回数なども任意とすることができる。
【0029】
図3、図4におけるグラフの横軸は、グラフの下側に描写されているSiC構造体10の放熱用部品1、接合部7およびベース体3の各位置を、同グラフの縦軸は、上記構造体を構成する各位置におけるC濃度を示す。図3に示すように、SiCで構成される放熱用部品1およびベース体3の内部においては、どの領域においても曲線21が表わすC濃度はほぼ一定になっている。図4においても同様である。しかしこれらが接合された接合部7の内部におけるC濃度は、SiCで構成される放熱用部品1およびベース体3の内部におけるC濃度に比べて小さくなり、接合部7の内部はSi1−xCx(0<x<1)で表わされる組成となっている。
【0030】
すなわち接合部7はSiとCとを含む。この接合部7におけるCの濃度は、図3のグラフにおける曲線21または図4のグラフにおける曲線22に示すように、放熱用部品1またはベース体3と接合する接合面から、接合面に交差する方向(すなわち放熱用部品からベース体3に向かう、図3や図4における左右方向)に関して、当該接合部7の中央部に向かって減少することが好ましい。図3の曲線21が示すように、上記接合面から上記中央部に向けて、C濃度が単調に減少するように分布していてもよいし、図4の曲線22が示すように、上記接合面から上記中央部に向けて、C濃度が単調に減少した後、中央部においてはC濃度がほぼ一定の値を保つ分布となってもよい。このほか図示しないが、たとえば上記接合面から上記中央部に向けてC濃度が一旦減少するが中央部にやや近い領域で一旦ほぼ一定の値となり、さらに中央部側において再び中央部に向けてC濃度が減少するような分布となっていてもよい。
【0031】
接合部7の内部におけるC濃度が上述したような分布となっていれば、接合部7の内部において、放熱用部品1やベース体3との接合面に近い領域においては中央部よりもC濃度が高い。このため、接合部7のうち接合面に近い領域の組成はより放熱用部品1やベース体3に近い。このため、接合される部材(放熱用部品1やベース体3)と接合部7との組成の差の傾きを小さくすることができる。したがって、たとえば当該SiC構造体10に熱サイクルが連続的に印加されたとしても、当該接合部7の接合面近傍の領域における組成の変化が小さいことから、たとえば熱膨張係数差に基づく熱応力を小さくすることができる。したがって、熱応力に起因する接合部7などの破損などの発生を抑制することができる。
【0032】
また、上述したように接合部7の接合面近傍における組成の変化を小さくすることにより、接合部7の接合面近傍における接合される部材との接合強度を高くすることができる。接合部7の接合面近傍における組成の変化が小さく、接合部7と接合される部材とがより類似の材質となるためである。したがって、より強固に安定に接合された接合部7とすることができる。
【0033】
図1、図2に示すように、SiC構造体10を構成する放熱用部品1およびベース体3は平板形状を有している。このような形状を有することにより、ベース体3の一方の主表面と、放熱用部品1の一方の主表面とを接合部7を介して安定した形状のSiC構造体10となるように形成することができる。
【0034】
また、ベース体3が平板形状を有することにより、たとえばパワーモジュールの内部にて発生した熱を、大きな面積を有する当該ベース体3の一方の主表面に高効率に伝播させることができる。したがって、当該ベース体3からSiC構造体10にて冷却したり、ベース体3を通じてSiC構造体10から放熱する効率を向上することができる。
【0035】
次に当該SiC構造体10の製造方法について説明する。図5のフローチャートに示すように、まず放熱用部品を準備する工程(S10)を実施する。具体的には、図6の断面図に示す放熱用部品1を準備する工程である。
【0036】
上述したように放熱用部品1は多結晶SiCにて形成されることが好ましい。多結晶SiCは単結晶のSiCよりも安価であるため、多結晶SiCを用いれば、当該SiC構造体10のコストを低減することができる。まず放熱用部品1を形成する土台を形成するために、多結晶SiCからなるインゴットを、所望の形状、寸法を有する平板形状となるよう切断加工することが好ましい。図6に示すように、たとえば平板形状からなる多結晶SiCの構造体に対して、冷媒流通部4を形成する。冷媒流通部4は、図2に示すように、放熱用部品1を形成する構造体の一方の主表面から一定の深さの領域に対して、冷媒を流すための溝5として形成されるものである。
【0037】
具体的には冷媒流通部4は、たとえば放熱用部品1を形成する構造体の一方の主表面から一定の深さの領域を、図2に示す曲線などの形状の溝5を形成するようにエッチングすることにより形成する。エッチングするためには、たとえば当該放熱用部品を形成する多結晶SiCの構造体の主表面上にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いて、所望の領域における当該構造体の主表面から一定の深さの領域を除去することが好ましい。
【0038】
次に図5のフローチャートに示すベース体を準備する工程(S20)を実施する。具体的には、たとえば平板形状を有するベース体3を形成する工程である。SiC構造体10においてはベース体3も上述した放熱用部品1と同様に、対象物が発生する熱を放熱する機能を有する部材である。したがってベース体3も放熱用部品1と同様に多結晶SiCにて形成されることが好ましい。多結晶SiCからなるインゴットを、所望の形状、寸法を有するベース体3となるよう切断加工することにより、ベース体3を形成することが好ましい。
【0039】
続いて図5のフローチャートに示すSi層を形成する工程(S30)を実施する。具体的には、先の工程で準備した放熱用部品1とベース体3とを接合するためのSi層を形成する工程である。
【0040】
最終的に形成されるSiC構造体10は、図1に示すように、放熱用部品1のうち冷媒流通部4(溝5)が形成された主表面と、ベース体3の主表面とが接合部7により接合された構成となる。このため図8に示すように、放熱用部品1の冷媒流通部4が形成された主表面上にSi層9を形成することが好ましい。Si層9は、たとえばシラン(SiH4)ガスを用いて減圧CVD法を用いることにより、所望の主表面上に形成することができる。なおSi層9を堆積させる際には、500℃以上800℃以下の温度下で処理することが好ましい。
【0041】
ただしこの場合、たとえば溝5の底面(溝5を形成する面のうち、放熱用部品1の主表面に沿った方向に存在する面)上にもSi層が形成されることがある。したがって、これを抑制するため、Si層9を形成した後にたとえばフォトリソグラフィを行ない、所望の領域(放熱用部品1の主表面上)のみにSi層9が形成されるように処理することが好ましい。
【0042】
またSi層9の厚み(図8におけるSi層9の上下方向の厚み)は、0.1μm以上10μm以下とすることが好ましい。Si層9の厚みを10μm以上とすれば、多結晶SiCの放熱用部品1上に形成されるSi層9が支配的になり、Si層9が形成される主表面の凹凸を反映したSi層9が形成されることがある。したがって形成されるSi層9の表面の面粗度が大きくなることがある。また、当該厚みが0.1μm未満となれば、厚みが足りないため減圧CVD法を用いることにより所望の高品質なSi層9を形成することが困難となる。なおSi層9は、上述した厚みの範囲の中でも0.1μm以上1μm以下とすることがより好ましい。
【0043】
上述したように、放熱用部品1のベース体3と接合される主表面上にSi層9を形成する場合、溝5の底面に形成されるSi層を除去する工程が加わる。このため放熱用部品1の代わりに、ベース体3の放熱用部品1と接合される主表面上にSi層9を形成することがより好ましい。このようにすれば、主表面上の全面に形成したSi層9をそのまま次工程に用いることができるため、処理時間を短縮することができる。
【0044】
そして図5に示すSi層にて接合する工程(S40)を行なう。具体的には、放熱用部品1とベース体3とが先の工程にて形成したSi層9を挟むように接触した状態で、Si層9をSiの融点以上に加熱することにより、放熱用部品1とベース体3とを接合する工程である。
【0045】
たとえば図8に示すように放熱用部品1の溝5(冷媒流通部4)が形成された主表面上にSi層9が形成されている場合、図9に示すように放熱用部品1のSi層9とベース体3の主表面とを接触させる。図9のように放熱用部品1とベース体3とを接触させた時点における放熱用部品1、ベース体3およびSi層9の内部を構成する各位置のSiとCとの濃度分布を図10に示す。図10の左側の図は、下側から順に放熱用部品1、(放熱用部品1の一方の主表面上に形成した)Si層9、ベース体3が積まれた状態を示す。そして右側のグラフは、上記各部材の各位置のSiとCとの濃度分布を示す。具体的には当該グラフの縦軸は、左側に配置された積層構造の各位置を示し、当該グラフの横軸は、各位置におけるSi濃度とC濃度との割合を示す。当該グラフの横軸が示すSi濃度とC濃度とは、右側ほど当該濃度が高いことを示す。ただし上述したように、グラフの横軸が示すのは各位置におけるSiとCとの濃度の和(100%)に対する、SiとCそれぞれの濃度の割合(%)であり、各元素の濃度の絶対値ではない。
【0046】
図10に示すように、Si層9が形成された放熱用部品1とベース体3とが接合前に互いに接触した状態においては、SiCからなる放熱用部品1およびベース体3の内部の各領域においてSiとCとがほぼ同程度の濃度含まれている。そしてSi層9の内部においては、Siが放熱用部品1およびベース体3の内部におけるSiの約2倍の濃度含まれている。これに対して、Si層9の内部においてはCは含まれていない。
【0047】
次にSi層9を加熱して接合部7を形成させ、放熱用部品1とベース体3とを互いに接合させ、図1に示すSiC構造体10を形成した状態における放熱用部品1、ベース体3および接合部7の各位置のSiとCとの濃度分布を図11に示す。図11の左側の図は、図10と同様に下側から順に放熱用部品1、接合部7、ベース体3を示す。そして右側のグラフは、上記各部材の各位置のSiとCとの濃度分布を示す。当該グラフの縦軸と横軸については、図10と同様である。
【0048】
図11に示すように、放熱用部品1およびベース体3の内部については、図10の接合前の状態と同程度のSiとCとが含まれている。しかし加熱により形成された接合部7の内部においては、図11の上下方向(接合面に交差する方向)に関して接合部7と放熱用部品1、ベース体3との界面(接合面)から中央部に向けて、Siの濃度の割合が漸次増加し、Cの濃度の割合が漸次減少する。そして上記中央部においてはある領域内にてSi、Cともにほぼ一定の濃度を示す。
【0049】
具体的には加熱によりSi層9のSiが溶融し、かつ放熱用部品1およびベース体3を構成するSiCのC元素の一部がSi層9が溶融してなる接合部7の内部に進入して固溶しているものと考えられる。このため接合部7の内部においてはSi1−xCx(0<x<1)の化学式で表わされる組成となる。上記化学式におけるxの値は、接合部7を構成する元素のうちC元素が占める割合である。このため図11の右側のグラフに示すように、接合部7においてはCが含まれる分、Siの割合が図10のSi層9のほぼ100%に比べれば減少している。
【0050】
上述したように、図11の上下方向(接合面に交差する方向)に関して接合部7の、放熱用部品1やベース体3と接合する界面(接合面)近傍に比べて、中央部においてはCの濃度の割合が低い。これは加熱時に放熱用部品1やベース体3の内部に含まれているCが接合部7の内部に進入して固溶するためであり、接合面から離れた中央部に向かうにつれて、拡散したCが到達する割合が少なくなるためである。
【0051】
なお、接合後に形成される接合部7の内部におけるCの濃度(絶対量および、SiC全体に対する割合)は、図11や図1の上下方向に関して連続的に変化(増加ないし減少)することが好ましい。ここで連続的に変化するとは、接合部7の組成を示す化学式であるSi1−xCx(0<x<1)のxの値が、図11や図1の上下方向に関して連続的に変化することを意味する。したがって図11や図1の上下方向に関して部分的にxの値が一定となってもよい。また、たとえば接合面から中央部に向かう途上において、上述したxの値が、たとえば減少した後部分的に増加し、また減少するなどの変化をとってもよい。
【0052】
同様に接合部7の内部におけるSiの濃度についても、上述した接合面から中央部に向かうにつれて連続的に変化することが好ましい。接合部7は接合前にSi層9であった領域であるため、通常はSi1−xCxで示されるxの値の範囲は0<x<0.5であり、接合部7内においてはSiの濃度の割合は放熱用部品1やベース体3におけるSiの濃度の割合よりも大きくなる。しかし接合時のSiやCの拡散が激しい場合には、0.5≦x<1となってもよい。
【0053】
上述したxの値は0.5に近いことがより好ましい。この場合、接合部7の組成が放熱用部品1やベース体3の組成により近くなる。したがって接合部7の、放熱用部品1やベース体3との熱膨張係数の差がより小さくなる。このためSiC構造体10に熱サイクルを与えた場合においても接合部7に発生する熱応力を小さくすることができる。
【0054】
以上のように加熱時に元素の拡散や固溶が起こることにより、放熱用部品1やベース体3とが接合される。この処理を行なう際の加熱は、1400℃以上1800℃以下にすることが好ましい。また加熱処理は真空中または不活性ガス雰囲気中にて行なうことが好ましく、不活性ガスとしてはArまたはNの雰囲気を用いることが好ましい。ArまたはNの雰囲気を用いれば、当該不活性ガス雰囲気中にCを含むガスを追加供給することができる。このようにすれば、接合部7の内部に、元々放熱用部品1やベース体3に含まれるC元素が進入することによるCのほかに、雰囲気中に含まれるCを接合部7に含めさせることができる。このため、接合部7の内部におけるCの含有する割合を、より放熱用部品1やベース体3におけるCの含有する割合に近づけることができる。このためSiC構造体10に熱サイクルを与えた場合に接合部7に発生する熱応力をより小さくすることができる。したがって、当該接合部7における応力集中や、応力集中に起因する部材の破損などの不具合を抑制することができる。以上より、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体10の耐久性を向上させることができる。
【0055】
(実施の形態2)
図12の概略断面図に示すように、本発明の実施の形態2に係るSiC構造体20は、本発明の実施の形態1に係るSiC構造体10と基本的に同様の態様を備えている。しかしSiC構造体20は、図12および図13に示すように、SiCからなり、対象物を放熱するための放熱用部品としての複数台のフィン11が、SiCからなるベース体13の一の表面上に配置された構成を有している。ベース体13とフィン11とは接合部17により接合されている。以上の点においてSiC構造体20はSiC構造体10と異なる。
【0056】
ベース体13についてはSiC構造体10のベース体3と同様の平板形状の構造体である。しかし放熱用部品としてのフィン11は、ベース体3の一方の主表面に沿った方向に複数、一定間隔ごとに並んでいる柱状構造体(直方体状構造体)である。
【0057】
SiC構造体20に対象物を放熱するための機能を持たせるために、ベース体13の主表面に沿った方向に関して隣り合うフィン11に挟まれた間隙15を冷媒が通る構成としてもよい。しかしたとえば、フィン11に対向する位置に冷却用ファンを載置することによりフィン11を冷却する構成としてもよい。
【0058】
この場合において、ベース体13の、フィン11と対向する主表面と反対側の主表面(図12、図13における上側の主表面)側に載置された、たとえばインバータ回路が発生する熱がSiC構造体20に伝播する場合を考える。このときSiC構造体20のベース体13からフィン11に伝播した熱は、フィン11に対向する冷却用ファンにより放熱され、フィン11が冷却される。フィン11を多数配置すれば、これらのフィン11の表面積の和が大きくなる。フィン11の表面積の和が大きくなるほど、フィン11の表面から放熱される効率が高くなる。このため、図12、図13のSiC構造体20には一例として10本のフィン11が配置されているが、フィン11は任意の本数とすることができ、その本数はより多い方が好ましい。
【0059】
次に当該SiC構造体20の製造方法について説明する。SiC構造体20の製造方法についても、SiC構造体10の製造方法と同様に図5のフローチャートに従う。図5の放熱用部品を準備する工程(S10)においては、図12または図13に示す、平板形状のフィン11を複数台形成する。当該フィン11は多結晶SiCを用いて形成することが好ましい。ここではたとえば多結晶SiCからなるインゴットを、所望の形状、寸法を有するフィン11となるよう切断加工することにより、フィン11を形成することが好ましい。
【0060】
次に図5のフローチャートに示すベース体を準備する工程(S20)を実施する。具体的には、たとえば平板形状を有するベース体13を形成する工程である。ベース体13も多結晶SiCにて形成されることが好ましい。多結晶SiCからなるインゴットを、所望の形状、寸法を有するベース体13となるよう切断加工することにより、ベース体13を形成することが好ましい。
【0061】
続いて図5のフローチャートに示すSi層を形成する工程(S30)を実施する。これは具体的には、ベース体13と複数台のフィン11とを接合するためのSi層19を形成する工程である。
【0062】
SiC構造体20のSi層19は、SiC構造体10のSi層9と同様の組成であるため、Si層9と同様の手順により形成されることが好ましい。すなわちSi層19は、たとえばシラン(SiH4)ガスを用いて減圧CVD法を用いることにより、所望の主表面上に形成することができる。なおSi層19を堆積させる際には、500℃以上800℃以下の温度下で処理することが好ましい。
【0063】
またSi層19の厚み(図12、13におけるSi層19の上下方向の厚み)は、Si層9の厚みと同様に0.1μm以上10μm以下とすることが好ましく、上述した厚みの範囲の中でも0.1μm以上1μm以下とすることがより好ましい。
【0064】
Si層19は、ベース体13のフィン11と接合される主表面上に形成されてもよいし、フィン11のベース体13と接合される表面上に形成されてもよい。ただし複数台のフィン11のそれぞれの、ベース体13と接合される表面上にSi層19を形成するよりも、1台のベース体13のフィン11と接合される主表面上にSi層19を形成する方が高効率である。
【0065】
そして図5に示すSi層にて接合する工程(S40)を行なう。SiC構造体10の工程(S40)と同様に、放熱用部品であるフィン11とベース体13とが先の工程にて形成したSi層19を挟むように接触した状態で、Si層19をSiの融点以上に加熱することにより、フィン11とベース体13とを接合する工程である。
【0066】
SiC構造体20を形成する際の工程(S40)についても、SiC構造体10を形成する際の工程(S40)と同様に、接合される前における各部材の各位置のSiとCとの濃度の割合の分布、および接合後における各部材の各位置のSiとCとの濃度の割合の分布は、図10および図11で説明することができる。なお、図10、11における放熱用部品1はSiC構造体20を形成する際のフィン11であり、図10、11におけるベース体3はSiC構造体20を形成する際のベース体13である。また図10におけるSi層9はSiC構造体20を形成する際のSi層19に相当し、図11における接合部7はSiC構造体20における接合部17に相当する。
【0067】
SiC構造体20を形成する際の工程(S40)についても、加熱温度は1400℃以上1800℃以下にすることが好ましい。また加熱処理は真空中または不活性ガス雰囲気中にて行なうことが好ましく、不活性ガスとしてはArまたはNの雰囲気を用いることが好ましい。ArまたはNの雰囲気を用いれば、当該不活性ガス雰囲気中にCを含むガスを追加供給することができる。
【0068】
なお、SiC構造体20を形成する際の工程(S40)においては、図14に示すように、治具18に複数台のフィン11を、ベース体13と対向する表面が上側を向くようにセットすることが好ましい。このようにすれば、たとえば一方の主表面上にSi層19が形成されたベース体13を、Si層19がベース体13とフィン11とに挟まれるように配置する作業が容易になる。この治具18は、たとえば上述した工程(S30)においてフィン11のベース体13と対向する表面上にSi層19を形成する場合においても同様に用いることができる。なお治具18は、たとえばカーボンを用いて形成することが好ましく、カーボンの代わりにたとえばボロンナイトライドを用いて形成してもよい。
【0069】
以上の手順により形成されたSiC構造体20は、SiC構造体10と同様に、フィン11やベース体13がSiCからなる。このため、ベース体13に伝播された熱は、SiCの高い熱伝導性により容易にフィン11の方へ移動する。またSiC構造体20についても、接合部17の組成がフィン11やベース体13に近いSi1−xCxであるため、たとえばSiC構造体20に熱サイクルを与えた場合に接合部17に発生する熱応力をより小さくすることができる。したがって、当該接合部17における応力集中や、応力集中に起因する部材の破損などの不具合を抑制することができる。以上より、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体20の耐久性を向上させることができる。
【0070】
図15は、以上に述べたSiC構造体20がインバータ回路を構成するパワーモジュール(パワー半導体素子)に取り付けられた半導体装置の概略断面図である。図15のSiC構造体20は、その上側が図12、13に示すベース体13であり、その下側に複数本伸びる柱状構造体が図12、13に示すフィン11である。そして図15に示すように、SiC構造体20の上側の主表面上に、インバータ回路などの半導体素子30(パワー素子)を載置した電極パターン40、半導体素子30と電極パターン40とを囲む枠50、枠50の外側に配置された図示しない負荷と電気的に接続するための電極70、半導体素子30と電極70とを電気的に接続するためのワイヤ60、そして半導体素子30を充填するためのシリコンゲル80を備える半導体装置が形成される。
【0071】
たとえば図15に示されない負荷が駆動することにより、電極70やワイヤ60を用いて当該負荷と接続された半導体素子30が発熱する。このとき、半導体素子30の熱は、電極パターン40から、熱伝導性に優れたSiC構造体20の方へ速やかに伝播される。そしてSiC構造体20を構成する複数のフィン11により、当該熱は外部に放熱される。
【0072】
半導体素子30の発熱の有無、発熱の程度により、当該半導体素子30はSiC構造体20に対して熱サイクルを与えることになる。この場合においても、SiC構造体20のベース体13とフィン11とを接合する接合部17(図12、13参照)がSi1−xCx(0<x<1)の組成を有するため、当該接合部17において発生する熱応力を小さくすることができる。このため当該接合部17における応力集中や、応力集中に起因する部材の破損などの不具合を抑制することができる。以上より、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体20の耐久性を向上させることができる。
【0073】
なお、図15においては一例として、半導体装置にSiC構造体20を用いた場合を図示している。しかしSiC構造体20の代わりにSiC構造体10を用いても、同様の効果を奏することができる。
【実施例1】
【0074】
本発明の実施の形態1に係るSiC構造体10を、上述した手順に従い形成した。まず図5のフローチャートに示す工程(S10)として、30mm×30mm×5mmの平板形状(直方体状)を有する、図6に示す放熱用部品1を形成した。ここでは多結晶SiCからなるインゴットを、上記形状、寸法を有する放熱用部品1となるよう切断加工した。また、上記平板形状の構造体の一方の主表面上にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いて、所望の領域における当該構造体の主表面から深さ1mm(図6における上下方向)の領域を幅0.5mm(図6における左右方向)除去することにより、冷媒流通部4(溝5)を形成した。
【0075】
次に図5に示す工程(S20)として、30mm×30mm×2mmの平板形状(直方体状)を有する、図7に示すベース体3を形成した。ここでは多結晶SiCからなるインゴットを、上記形状、寸法を有するベース体3となるよう切断加工した。
【0076】
続いて図5に示す工程(S30)において、図8に示すように、放熱用部品1の冷媒流通部4(溝5)が形成された主表面上に、厚みが1μmのSi層9を形成した。Si層9は、たとえばシラン(SiH4)ガスを用いて減圧CVD法を用いることにより、上記主表面上に形成した。このとき、放熱用部品1を1450℃に加熱することにより処理を行なった。なおここで、溝5の底面(溝5を形成する面のうち、放熱用部品1の主表面に沿った方向に存在する面)上に形成されたSi層は、フォトリソグラフィ技術により除去した。
【0077】
そして図5に示す工程(S40)において、図9に示すように放熱用部品1のSi層9とベース体3の主表面とを接触させるように配置し、この状態で当該構造体を導入した炉内を10−5Pa以下の高真空とし、上記Si層9を1400℃にて5分間加熱する処理を行なった。この処理を行なうことにより、放熱用部品1とベース体3とは接合部7において強固に接合し、一体のSiC構造体10が形成された。このSiC構造体10の接合部7はSiとCとを含み、放熱用部品1やベース体3の組成に近い組成を有するものとなっている。このためSiC構造体10に熱サイクルを与えた場合に接合部7に発生する熱応力をより小さくし、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体10の耐久性を向上させることができた。
【実施例2】
【0078】
本発明の実施の形態2に係るSiC構造体20を、上述した手順に従い形成した。まず図5のフローチャートに示す工程(S10)として、0.5mm×5mm×10mmの平板形状(直方体状)を有する、図12〜図14に示すフィン11を10台形成した。ここでは多結晶SiCからなるインゴットを、上記形状、寸法を有するベース体3となるよう切断加工した。
【0079】
次に図5に示す工程(S20)として、5mm×10mm×3mmの平板形状(直方体状)を有する、図12〜図14に示すベース体3を1台形成した。ここでは多結晶SiCからなるインゴットを、上記形状、寸法を有するベース体13となるよう切断加工した。
【0080】
続いて図5に示す工程(S30)において、ベース体13の、フィン11と接合しようとする主表面上に、厚みが0.5μmのSi層19を形成した。Si層19は、たとえばシラン(SiH4)ガスを用いて減圧CVD法を用いることにより、上記主表面上に形成した。このとき、ベース体13の一方の主表面を1450℃に加熱することにより処理を行なった。
【0081】
そして図5に示す工程(S40)において、図14に示すようにフィン11を、ベース体13と接合する表面が上側を向くように、治具18を用いてセットした。次にベース体13のSi層19が、フィン11の上側を向いた面と接触するように配置した。この状態で当該構造体を導入した炉内を10−5Pa以下の高真空とし、上記Si層9を1410℃にて5分間加熱する処理を行なった。この処理を行なうことにより、フィン11とベース体13とは接合部17において強固に接合し、一体のSiC構造体20が形成された。このSiC構造体20の接合部17はSiとCとを含み、フィン11やベース体13の組成に近い組成を有するものとなっている。このためSiC構造体20に熱サイクルを与えた場合に接合部17に発生する熱応力をより小さくし、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体20の耐久性を向上させることができた。
【0082】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、今回開示した実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、熱サイクルを複数回受けたとしても強固に接合された状態を維持することが可能なSiC構造体、半導体装置およびSiC構造体の製造方法を提供する技術として、特に優れている。
【符号の説明】
【0084】
1 放熱用部品、3,13 ベース体、4 冷媒流通部、5 溝、7,17 接合部、9,19 Si層、10,20 SiC構造体、11 フィン、15 間隙、18 治具、21,22 曲線、30 半導体素子、40 電極パターン、50 枠、60 ワイヤ、70 電極、80 シリコンゲル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC構造体、半導体装置およびSiC構造体の製造方法に関するものであり、より特定的には、熱応力による破損を抑制することができるSiC構造体、当該SiC構造体を用いた半導体装置および当該SiC構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばハイブリッド自動車などに用いられるインバータ回路において、インバータ回路を駆動した際に、インバータ回路を構成する半導体素子が発生する熱を効率よく冷却するため、チャネルやフィンを有する構造体が組み込まれる。
【0003】
たとえば特開2004−289947号公報(特許文献1)には、マイクロチャネル冷却装置を用いて、インバータ回路から発生する熱を冷却する電力変換装置が開示されている。マイクロチャネル冷却装置はヒートシンクと、ヒートシンクに接続された複数本のフィンと、ヒートシンクやフィンを冷却する冷却ファンとから構成されている。インバータ回路が発生する熱がヒートシンクに伝播すると、当該熱はヒートシンクからフィンに伝わり、ヒートシンクやフィンに対向するように配置される冷却ファンの回転により冷却される。
【0004】
また特開2008−124430号公報(特許文献2)には、インバータ回路を構成するパワーモジュール(パワー半導体素子)に放熱用の部材が取り付けられ、特許文献1のマイクロチャネル冷却装置と同様に、当該放熱用の部材にフィンが複数本取り付けられた構造体が開示されている。複数本のフィンに挟まれた領域に冷却媒体が通ることにより、当該放熱用の部材に伝播した熱を冷却する。また、当該フィンは、ヒートシンクや放熱用の部材と、たとえばろう材により接合されており、放熱用の部材と、上記冷却媒体の流通空間を形成するケースとの接合はOリングによりなされていることが併せて開示されている。
【0005】
ところで、上述した接合技術として、たとえば特開2008−69059号公報(特許文献3)には、ホウ素系の焼結助剤を用いて形成されたSiC焼結体同士を、Siからなる接合部を用いて接合した接合体および、当該接合体の接合方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−289947号公報
【特許文献2】特開2008−124430号公報
【特許文献3】特開2008−69059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献2において、上述した放熱用の部材は銅などでつくられる旨が記載されている。特許文献2において記載されていないが、銅のほかにアルミニウムなどの金属材料から形成されると推察される。
【0008】
当該パワーモジュールを実際に使用した際に、たとえば放熱用の部材が半導体素子の発熱により加熱されたり、それが冷却媒体により冷却されたりの熱サイクルを繰り返し受ける。しかるにパワーモジュールにおいて実際に加熱がなされるのは半導体素子であるため、放熱用の部材と半導体素子との熱膨張係数の差が大きくなる。このため、熱サイクルを繰り返し受けることにより、当該放熱用の部材は大きな熱応力を頻繁に受ける。したがって放熱用の部材の耐熱性が劣化し、寿命が短縮化する可能性がある。
【0009】
また、上述したように、特許文献2の冷却用の素子は、放熱用の部材とフィンとがろう材により接合されている。すると、当該部材とこれを接合するろう材との材質の差による熱膨張係数の差も大きくなる。したがって、当該部材が熱サイクルを複数回受けることにより、当該ろう材の接合力が劣化する可能性がある。Oリングにより当該冷却用の部材と固定されたケースについても、部材が繰り返し熱サイクルを受けることにより接合強度が劣化する可能性がある。このように劣化すれば、たとえば冷却媒体がOリングにより本来接合されているべき箇所から漏洩する可能性がある。なお、特許文献1においては、開示されているマイクロチャネル冷却装置を構成する部材の材質などは開示されていないが、特許文献2の放熱用の部材などと同様の材質を用いていると推察される。
【0010】
また、特許文献3は熱サイクルにより熱応力を繰り返し受ける部材に関するものとしては開示も示唆もされていない。
【0011】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものである。その目的は、部材が熱サイクルを複数回受けたとしても強固に接合された状態を維持することが可能なSiC構造体、半導体装置およびSiC構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るSiC構造体は、SiCからなり、対象物を放熱するための放熱用部品と、SiCからなるベース体と、放熱用部品とベース体とを接合する、SiとCとを含む接合部とを備えるSiC構造体である。上記接合部は、上記放熱用部品または上記ベース体と接合する接合面から、上記接合面に交差する方向に関して、上記接合部の中央部に向かってCの濃度が減少する。
【0013】
炭化珪素(SiC)は熱伝導性が優れているため、上述した放熱用部品などに使用するに適した材料である。またSiCは熱膨張率が金属に比べて低いため、SiCからなる放熱用部品などに対して、熱サイクルによる繰り返し応力を与えても、たとえば金属からなる放熱用部品に比べて、熱膨張や熱収縮する割合が小さい。
【0014】
さらにSiCからなる放熱用部品とベース体とを接合する接合部には、シリコン(Si)と炭素原子(C)とを含んでいる。これは両者を接合する(接合部を形成する)材料がSiで形成されており、かつ接合する処理を行なう際に、放熱用部品やベース体に含まれている炭素原子(C)が固溶されて接合部の内部に拡散するためである。接合部の放熱用部品やベース体との境界部から、接合部の中央部に向かって拡散して固溶する。このため上記境界部から、接合部の中央部に向かってCの濃度が減少する。このため放熱用部品とベース体との境界部分に配置された接合部には、放熱用部品やベース体と同様に、SiとCとを含有することになる。このため当該接合部は、放熱用部品やベース体と組成の連続性を有する。したがって放熱用部品やベース体と、接合部との熱膨張係数の差が小さくなるため、熱サイクルによる熱応力が小さくなる。このため、当該接合部における応力集中や、応力集中に起因する部材の破損などの不具合を抑制することができる。以上より、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体の耐久性を向上させることができる。なお上述したように、接合部においてもSiとCとを含有するが、上述した本発明に係るSiC構造体において、接合部はSi1−xCx(0<x<1)で表わされることが好ましい。
【0015】
上述した本発明に係るSiC構造体において、上記ベース体は平板形状であることが好ましい。ベース体が平板形状であれば、当該ベース体の一方の主表面上にたとえば放熱用部品を接合することにより、安定した形状を有し、放熱効果の高いSiC構造体を形成することができる。なお、ここで主表面とは、表面のうち最も面積の大きい主要な面をいう。
【0016】
上述した本発明に係るSiC構造体において、上記放熱用部品には、上記ベース体の主表面に沿った方向に複数の柱状構造体が一定間隔ごとに並んでいることが好ましい。このように複数の柱状構造体を並べた構成とすれば、当該放熱用部品を構成する構造体の数が多くなる。このため、当該放熱用部品の表面積が大きくなる。したがって、たとえば放熱用部品が加熱されたとしても当該放熱用部品の表面を冷却することにより、高効率に当該放熱用部品を冷却することができる。したがって、放熱用部品が吸収する熱を効率よく放熱することができる。
【0017】
上述した本発明に係るSiC構造体と、電気信号を供給する半導体素子とを備える半導体装置は、上述したようにSiC構造体が高効率に冷却され、高効率に放熱することができるため、たとえば半導体素子が駆動することにより発生する熱を高効率に放熱することができる。したがって当該半導体装置は、熱サイクルを繰り返し受けることによる耐久性を向上することができる。
【0018】
本発明に係るSiC構造体の製造方法は、SiCからなり、対象物の熱を放熱するための放熱用部品を準備する工程と、SiCからなるベース体を準備する工程と、上記放熱用部品と上記ベース体との少なくともいずれか一方の主表面上にSi層を形成する工程と、上記放熱用部品と上記ベース体とが上記Si層を挟むように接触した状態で、上記Si層をSiの融点以上に加熱する工程とを備える。
【0019】
上述した方法によれば、Si層が放熱用部品とベース体とに接触した状態で加熱され、Si層が溶融する。このため、当該溶融したSi層が放熱用部品とベース体とを接合する接合部となる。そしてSi層が溶融する際に、放熱用部品やベース体に含まれるCがSi層の内部に流入し、SiとCとを含む(上述したSi1−xCxの化学式で表わされる)接合部が形成される。このため、接合部が放熱用部品やベース体と同様にSiとCとを含む部材となる。このように接合される側の部材(放熱用部品やベース体)を構成する元素の一部が、接合部に流入して固溶するため、より確実に、接合される側の部材と接合部とを強固に接合することができる。
【0020】
また上述したように、接合される側(放熱用部品やベース体)と接合部との両方にSiとCとが含まれるため、組成の差が小さくなるため、両者間の熱膨張係数の差が小さくなり、熱サイクルによる熱応力に起因した破損などを抑制することが可能なSiC構造体を形成することができる。
【0021】
上記製造方法における上記加熱する工程では、Si層を1400℃以上1800℃以下に加熱することが好ましい。大気圧下におけるSiの融点は1414℃であり、Si層の加熱温度を1400℃未満とすれば接合のための反応に時間を要することになる。このため、接合のためにSi層を溶融する際には当該Si層を1400℃以上に加熱することが好ましい。大気圧下におけるSiCの融点は2730℃であるため、たとえばSi層を1400℃に加熱し、Si層に接触するSiCからなる接合される部材が同等の温度に加熱されても当該接合される部材は溶融しない。しかしSiCは昇華性を有し、たとえば2300℃に加熱すれば昇華する。このためSiCを1800℃以上に加熱すれば、昇華の前段階である兆候が出現することがある。このためSiCにて形成された接合される部材を1800℃以上に加熱すれば、変形などの不具合を来たす可能性がある。このため上記範囲内の温度に加熱することが好ましい。
【0022】
上記SiC構造体の製造方法における上記加熱する工程は、真空中または不活性ガス雰囲気中にて行なうことが好ましい。このようにすれば、より確実に接合部にCの元素を流入させて、より確実に当該接合部をSi1−xCxとすることができる。したがって、当該接合部が熱サイクルを繰り返し受けた際の熱応力を小さくし、当該接合部が破損することをより確実に抑制することができる。
【0023】
また上記加熱する工程を不活性ガス中にて行ない、その際に当該不活性ガス中にCを含むガスを追加供給する。このようにすれば、拡散により接合部に流入されるC元素に加えて、処理を行なう雰囲気中に含まれるC元素の一部が、溶融した接合部に流入する。したがってこの場合、Cを含有しない雰囲気中や真空中にて加熱処理を行なった場合に比べて、より高い濃度のCを当該接合部に含有させることができる。このため、接合部に含まれるCの濃度を高くして、接合される部材に含まれるCの濃度により近づけることができる。つまり、接合部の組成を接合される部材の組成により近づけることができる。したがって、当該SiC構造体に熱サイクルが繰り返し加わっても、当該接合部などが破損することをより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、部材が熱サイクルを複数回受けたとしても強固に接合された状態を維持することが可能なSiC構造体、半導体装置およびSiC構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態1に係るSiC構造体の構成を示す、図2の線分I−Iにおける概略断面図である。
【図2】本実施の形態1に係るSiC構造体を構成する放熱用部品の外観を示す概略斜視図である。
【図3】本実施の形態1に係るSiC構造体の放熱用部品とベース体とを接合する接合部における一のC濃度分布を示すグラフである。
【図4】本実施の形態1に係るSiC構造体の放熱用部品とベース体とを接合する接合部における他のC濃度分布を示すグラフである。
【図5】本発明に係るSiC構造体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】本実施の形態1に係るSiC構造体を形成する際の、図5の工程(S10)にて準備した放熱用部品の態様を示す概略断面図である。
【図7】本実施の形態1に係るSiC構造体を形成する際の、図5の工程(S20)にて準備したベース体の態様を示す概略断面図である。
【図8】本実施の形態1に係るSiC構造体を形成する際の、図5の工程(S30)にてSi層を形成した放熱用部品の態様を示す概略断面図である。
【図9】本実施の形態1に係るSiC構造体を形成する際の、図5の工程(S40)にて準備したベース体の態様を示す概略断面図である。
【図10】図9に示す接合前の各部材内部の各位置におけるSiおよびCの濃度を示す概略断面図およびグラフである。
【図11】図1に示す接合後の各部材内部の各位置におけるSiおよびCの濃度を示す概略断面図およびグラフである。
【図12】本実施の形態2に係るSiC構造体の構成を示す、図13の線分XII−XIIにおける概略断面図である。
【図13】本実施の形態2に係るSiC構造体の外観を示す概略斜視図である。
【図14】本実施の形態2に係るSiC構造体を形成する際の、図5の工程(S40)を実施する態様を示す概略断面図である。
【図15】本実施の形態2に係るSiC構造体を半導体素子に接続させた半導体装置の態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施の形態について説明する。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす要素には同一の参照符号を付し、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
【0027】
(実施の形態1)
図1の概略断面図に示すように、本発明の実施の形態1に係るSiC構造体10は、パワーモジュール(パワー半導体素子)の駆動により発生する熱を外部に放熱するために用いられる部材(マイクロチャネル冷却装置)である。SiC構造体10は、対象物を放熱するための放熱用部品1と、SiCからなるベース体3と、放熱用部品1とベース体3とを接合する接合部7とを備えている。放熱用部品1とベース体3とは、いずれもSiCからなる構造体である。
【0028】
図1における放熱用部品1の最上面(接合部7と接触する面)には、図2に示すように、一定の幅や深さを有する1本の曲線状の溝5が形成されている。当該溝5の一方の端部(図2の溝5の手前部の左側に存在する端部)から他方の端部(図2の溝5の手前部の右側に存在する端部)へ、たとえば液体窒素などの冷却媒体が流通する。上記冷却媒体は、たとえば当該SiC構造体10に伝播される熱を冷却する役割を有するものである。放熱用部品1、ベース体3ともに、熱伝導性に優れたSiCで形成されるため、当該SiC構造体10に伝播される熱はスムーズに冷却媒体に伝播され、冷却される。溝5は図2に示す曲線状であってもよいが、任意の他の形状であってもよい。図1に示すように溝5の断面は矩形状となっているが、たとえば円形状や半円形状などであってもよい。また、図2に示す溝5の一方の端部と他方の端部とは放熱用部品1の同一の側面上に存在するが、当該一方の端部と他方の端部とは、放熱用部品1の異なる側面上に存在してもよい。放熱用部品の主表面において溝5が折り返す回数なども任意とすることができる。
【0029】
図3、図4におけるグラフの横軸は、グラフの下側に描写されているSiC構造体10の放熱用部品1、接合部7およびベース体3の各位置を、同グラフの縦軸は、上記構造体を構成する各位置におけるC濃度を示す。図3に示すように、SiCで構成される放熱用部品1およびベース体3の内部においては、どの領域においても曲線21が表わすC濃度はほぼ一定になっている。図4においても同様である。しかしこれらが接合された接合部7の内部におけるC濃度は、SiCで構成される放熱用部品1およびベース体3の内部におけるC濃度に比べて小さくなり、接合部7の内部はSi1−xCx(0<x<1)で表わされる組成となっている。
【0030】
すなわち接合部7はSiとCとを含む。この接合部7におけるCの濃度は、図3のグラフにおける曲線21または図4のグラフにおける曲線22に示すように、放熱用部品1またはベース体3と接合する接合面から、接合面に交差する方向(すなわち放熱用部品からベース体3に向かう、図3や図4における左右方向)に関して、当該接合部7の中央部に向かって減少することが好ましい。図3の曲線21が示すように、上記接合面から上記中央部に向けて、C濃度が単調に減少するように分布していてもよいし、図4の曲線22が示すように、上記接合面から上記中央部に向けて、C濃度が単調に減少した後、中央部においてはC濃度がほぼ一定の値を保つ分布となってもよい。このほか図示しないが、たとえば上記接合面から上記中央部に向けてC濃度が一旦減少するが中央部にやや近い領域で一旦ほぼ一定の値となり、さらに中央部側において再び中央部に向けてC濃度が減少するような分布となっていてもよい。
【0031】
接合部7の内部におけるC濃度が上述したような分布となっていれば、接合部7の内部において、放熱用部品1やベース体3との接合面に近い領域においては中央部よりもC濃度が高い。このため、接合部7のうち接合面に近い領域の組成はより放熱用部品1やベース体3に近い。このため、接合される部材(放熱用部品1やベース体3)と接合部7との組成の差の傾きを小さくすることができる。したがって、たとえば当該SiC構造体10に熱サイクルが連続的に印加されたとしても、当該接合部7の接合面近傍の領域における組成の変化が小さいことから、たとえば熱膨張係数差に基づく熱応力を小さくすることができる。したがって、熱応力に起因する接合部7などの破損などの発生を抑制することができる。
【0032】
また、上述したように接合部7の接合面近傍における組成の変化を小さくすることにより、接合部7の接合面近傍における接合される部材との接合強度を高くすることができる。接合部7の接合面近傍における組成の変化が小さく、接合部7と接合される部材とがより類似の材質となるためである。したがって、より強固に安定に接合された接合部7とすることができる。
【0033】
図1、図2に示すように、SiC構造体10を構成する放熱用部品1およびベース体3は平板形状を有している。このような形状を有することにより、ベース体3の一方の主表面と、放熱用部品1の一方の主表面とを接合部7を介して安定した形状のSiC構造体10となるように形成することができる。
【0034】
また、ベース体3が平板形状を有することにより、たとえばパワーモジュールの内部にて発生した熱を、大きな面積を有する当該ベース体3の一方の主表面に高効率に伝播させることができる。したがって、当該ベース体3からSiC構造体10にて冷却したり、ベース体3を通じてSiC構造体10から放熱する効率を向上することができる。
【0035】
次に当該SiC構造体10の製造方法について説明する。図5のフローチャートに示すように、まず放熱用部品を準備する工程(S10)を実施する。具体的には、図6の断面図に示す放熱用部品1を準備する工程である。
【0036】
上述したように放熱用部品1は多結晶SiCにて形成されることが好ましい。多結晶SiCは単結晶のSiCよりも安価であるため、多結晶SiCを用いれば、当該SiC構造体10のコストを低減することができる。まず放熱用部品1を形成する土台を形成するために、多結晶SiCからなるインゴットを、所望の形状、寸法を有する平板形状となるよう切断加工することが好ましい。図6に示すように、たとえば平板形状からなる多結晶SiCの構造体に対して、冷媒流通部4を形成する。冷媒流通部4は、図2に示すように、放熱用部品1を形成する構造体の一方の主表面から一定の深さの領域に対して、冷媒を流すための溝5として形成されるものである。
【0037】
具体的には冷媒流通部4は、たとえば放熱用部品1を形成する構造体の一方の主表面から一定の深さの領域を、図2に示す曲線などの形状の溝5を形成するようにエッチングすることにより形成する。エッチングするためには、たとえば当該放熱用部品を形成する多結晶SiCの構造体の主表面上にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いて、所望の領域における当該構造体の主表面から一定の深さの領域を除去することが好ましい。
【0038】
次に図5のフローチャートに示すベース体を準備する工程(S20)を実施する。具体的には、たとえば平板形状を有するベース体3を形成する工程である。SiC構造体10においてはベース体3も上述した放熱用部品1と同様に、対象物が発生する熱を放熱する機能を有する部材である。したがってベース体3も放熱用部品1と同様に多結晶SiCにて形成されることが好ましい。多結晶SiCからなるインゴットを、所望の形状、寸法を有するベース体3となるよう切断加工することにより、ベース体3を形成することが好ましい。
【0039】
続いて図5のフローチャートに示すSi層を形成する工程(S30)を実施する。具体的には、先の工程で準備した放熱用部品1とベース体3とを接合するためのSi層を形成する工程である。
【0040】
最終的に形成されるSiC構造体10は、図1に示すように、放熱用部品1のうち冷媒流通部4(溝5)が形成された主表面と、ベース体3の主表面とが接合部7により接合された構成となる。このため図8に示すように、放熱用部品1の冷媒流通部4が形成された主表面上にSi層9を形成することが好ましい。Si層9は、たとえばシラン(SiH4)ガスを用いて減圧CVD法を用いることにより、所望の主表面上に形成することができる。なおSi層9を堆積させる際には、500℃以上800℃以下の温度下で処理することが好ましい。
【0041】
ただしこの場合、たとえば溝5の底面(溝5を形成する面のうち、放熱用部品1の主表面に沿った方向に存在する面)上にもSi層が形成されることがある。したがって、これを抑制するため、Si層9を形成した後にたとえばフォトリソグラフィを行ない、所望の領域(放熱用部品1の主表面上)のみにSi層9が形成されるように処理することが好ましい。
【0042】
またSi層9の厚み(図8におけるSi層9の上下方向の厚み)は、0.1μm以上10μm以下とすることが好ましい。Si層9の厚みを10μm以上とすれば、多結晶SiCの放熱用部品1上に形成されるSi層9が支配的になり、Si層9が形成される主表面の凹凸を反映したSi層9が形成されることがある。したがって形成されるSi層9の表面の面粗度が大きくなることがある。また、当該厚みが0.1μm未満となれば、厚みが足りないため減圧CVD法を用いることにより所望の高品質なSi層9を形成することが困難となる。なおSi層9は、上述した厚みの範囲の中でも0.1μm以上1μm以下とすることがより好ましい。
【0043】
上述したように、放熱用部品1のベース体3と接合される主表面上にSi層9を形成する場合、溝5の底面に形成されるSi層を除去する工程が加わる。このため放熱用部品1の代わりに、ベース体3の放熱用部品1と接合される主表面上にSi層9を形成することがより好ましい。このようにすれば、主表面上の全面に形成したSi層9をそのまま次工程に用いることができるため、処理時間を短縮することができる。
【0044】
そして図5に示すSi層にて接合する工程(S40)を行なう。具体的には、放熱用部品1とベース体3とが先の工程にて形成したSi層9を挟むように接触した状態で、Si層9をSiの融点以上に加熱することにより、放熱用部品1とベース体3とを接合する工程である。
【0045】
たとえば図8に示すように放熱用部品1の溝5(冷媒流通部4)が形成された主表面上にSi層9が形成されている場合、図9に示すように放熱用部品1のSi層9とベース体3の主表面とを接触させる。図9のように放熱用部品1とベース体3とを接触させた時点における放熱用部品1、ベース体3およびSi層9の内部を構成する各位置のSiとCとの濃度分布を図10に示す。図10の左側の図は、下側から順に放熱用部品1、(放熱用部品1の一方の主表面上に形成した)Si層9、ベース体3が積まれた状態を示す。そして右側のグラフは、上記各部材の各位置のSiとCとの濃度分布を示す。具体的には当該グラフの縦軸は、左側に配置された積層構造の各位置を示し、当該グラフの横軸は、各位置におけるSi濃度とC濃度との割合を示す。当該グラフの横軸が示すSi濃度とC濃度とは、右側ほど当該濃度が高いことを示す。ただし上述したように、グラフの横軸が示すのは各位置におけるSiとCとの濃度の和(100%)に対する、SiとCそれぞれの濃度の割合(%)であり、各元素の濃度の絶対値ではない。
【0046】
図10に示すように、Si層9が形成された放熱用部品1とベース体3とが接合前に互いに接触した状態においては、SiCからなる放熱用部品1およびベース体3の内部の各領域においてSiとCとがほぼ同程度の濃度含まれている。そしてSi層9の内部においては、Siが放熱用部品1およびベース体3の内部におけるSiの約2倍の濃度含まれている。これに対して、Si層9の内部においてはCは含まれていない。
【0047】
次にSi層9を加熱して接合部7を形成させ、放熱用部品1とベース体3とを互いに接合させ、図1に示すSiC構造体10を形成した状態における放熱用部品1、ベース体3および接合部7の各位置のSiとCとの濃度分布を図11に示す。図11の左側の図は、図10と同様に下側から順に放熱用部品1、接合部7、ベース体3を示す。そして右側のグラフは、上記各部材の各位置のSiとCとの濃度分布を示す。当該グラフの縦軸と横軸については、図10と同様である。
【0048】
図11に示すように、放熱用部品1およびベース体3の内部については、図10の接合前の状態と同程度のSiとCとが含まれている。しかし加熱により形成された接合部7の内部においては、図11の上下方向(接合面に交差する方向)に関して接合部7と放熱用部品1、ベース体3との界面(接合面)から中央部に向けて、Siの濃度の割合が漸次増加し、Cの濃度の割合が漸次減少する。そして上記中央部においてはある領域内にてSi、Cともにほぼ一定の濃度を示す。
【0049】
具体的には加熱によりSi層9のSiが溶融し、かつ放熱用部品1およびベース体3を構成するSiCのC元素の一部がSi層9が溶融してなる接合部7の内部に進入して固溶しているものと考えられる。このため接合部7の内部においてはSi1−xCx(0<x<1)の化学式で表わされる組成となる。上記化学式におけるxの値は、接合部7を構成する元素のうちC元素が占める割合である。このため図11の右側のグラフに示すように、接合部7においてはCが含まれる分、Siの割合が図10のSi層9のほぼ100%に比べれば減少している。
【0050】
上述したように、図11の上下方向(接合面に交差する方向)に関して接合部7の、放熱用部品1やベース体3と接合する界面(接合面)近傍に比べて、中央部においてはCの濃度の割合が低い。これは加熱時に放熱用部品1やベース体3の内部に含まれているCが接合部7の内部に進入して固溶するためであり、接合面から離れた中央部に向かうにつれて、拡散したCが到達する割合が少なくなるためである。
【0051】
なお、接合後に形成される接合部7の内部におけるCの濃度(絶対量および、SiC全体に対する割合)は、図11や図1の上下方向に関して連続的に変化(増加ないし減少)することが好ましい。ここで連続的に変化するとは、接合部7の組成を示す化学式であるSi1−xCx(0<x<1)のxの値が、図11や図1の上下方向に関して連続的に変化することを意味する。したがって図11や図1の上下方向に関して部分的にxの値が一定となってもよい。また、たとえば接合面から中央部に向かう途上において、上述したxの値が、たとえば減少した後部分的に増加し、また減少するなどの変化をとってもよい。
【0052】
同様に接合部7の内部におけるSiの濃度についても、上述した接合面から中央部に向かうにつれて連続的に変化することが好ましい。接合部7は接合前にSi層9であった領域であるため、通常はSi1−xCxで示されるxの値の範囲は0<x<0.5であり、接合部7内においてはSiの濃度の割合は放熱用部品1やベース体3におけるSiの濃度の割合よりも大きくなる。しかし接合時のSiやCの拡散が激しい場合には、0.5≦x<1となってもよい。
【0053】
上述したxの値は0.5に近いことがより好ましい。この場合、接合部7の組成が放熱用部品1やベース体3の組成により近くなる。したがって接合部7の、放熱用部品1やベース体3との熱膨張係数の差がより小さくなる。このためSiC構造体10に熱サイクルを与えた場合においても接合部7に発生する熱応力を小さくすることができる。
【0054】
以上のように加熱時に元素の拡散や固溶が起こることにより、放熱用部品1やベース体3とが接合される。この処理を行なう際の加熱は、1400℃以上1800℃以下にすることが好ましい。また加熱処理は真空中または不活性ガス雰囲気中にて行なうことが好ましく、不活性ガスとしてはArまたはNの雰囲気を用いることが好ましい。ArまたはNの雰囲気を用いれば、当該不活性ガス雰囲気中にCを含むガスを追加供給することができる。このようにすれば、接合部7の内部に、元々放熱用部品1やベース体3に含まれるC元素が進入することによるCのほかに、雰囲気中に含まれるCを接合部7に含めさせることができる。このため、接合部7の内部におけるCの含有する割合を、より放熱用部品1やベース体3におけるCの含有する割合に近づけることができる。このためSiC構造体10に熱サイクルを与えた場合に接合部7に発生する熱応力をより小さくすることができる。したがって、当該接合部7における応力集中や、応力集中に起因する部材の破損などの不具合を抑制することができる。以上より、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体10の耐久性を向上させることができる。
【0055】
(実施の形態2)
図12の概略断面図に示すように、本発明の実施の形態2に係るSiC構造体20は、本発明の実施の形態1に係るSiC構造体10と基本的に同様の態様を備えている。しかしSiC構造体20は、図12および図13に示すように、SiCからなり、対象物を放熱するための放熱用部品としての複数台のフィン11が、SiCからなるベース体13の一の表面上に配置された構成を有している。ベース体13とフィン11とは接合部17により接合されている。以上の点においてSiC構造体20はSiC構造体10と異なる。
【0056】
ベース体13についてはSiC構造体10のベース体3と同様の平板形状の構造体である。しかし放熱用部品としてのフィン11は、ベース体3の一方の主表面に沿った方向に複数、一定間隔ごとに並んでいる柱状構造体(直方体状構造体)である。
【0057】
SiC構造体20に対象物を放熱するための機能を持たせるために、ベース体13の主表面に沿った方向に関して隣り合うフィン11に挟まれた間隙15を冷媒が通る構成としてもよい。しかしたとえば、フィン11に対向する位置に冷却用ファンを載置することによりフィン11を冷却する構成としてもよい。
【0058】
この場合において、ベース体13の、フィン11と対向する主表面と反対側の主表面(図12、図13における上側の主表面)側に載置された、たとえばインバータ回路が発生する熱がSiC構造体20に伝播する場合を考える。このときSiC構造体20のベース体13からフィン11に伝播した熱は、フィン11に対向する冷却用ファンにより放熱され、フィン11が冷却される。フィン11を多数配置すれば、これらのフィン11の表面積の和が大きくなる。フィン11の表面積の和が大きくなるほど、フィン11の表面から放熱される効率が高くなる。このため、図12、図13のSiC構造体20には一例として10本のフィン11が配置されているが、フィン11は任意の本数とすることができ、その本数はより多い方が好ましい。
【0059】
次に当該SiC構造体20の製造方法について説明する。SiC構造体20の製造方法についても、SiC構造体10の製造方法と同様に図5のフローチャートに従う。図5の放熱用部品を準備する工程(S10)においては、図12または図13に示す、平板形状のフィン11を複数台形成する。当該フィン11は多結晶SiCを用いて形成することが好ましい。ここではたとえば多結晶SiCからなるインゴットを、所望の形状、寸法を有するフィン11となるよう切断加工することにより、フィン11を形成することが好ましい。
【0060】
次に図5のフローチャートに示すベース体を準備する工程(S20)を実施する。具体的には、たとえば平板形状を有するベース体13を形成する工程である。ベース体13も多結晶SiCにて形成されることが好ましい。多結晶SiCからなるインゴットを、所望の形状、寸法を有するベース体13となるよう切断加工することにより、ベース体13を形成することが好ましい。
【0061】
続いて図5のフローチャートに示すSi層を形成する工程(S30)を実施する。これは具体的には、ベース体13と複数台のフィン11とを接合するためのSi層19を形成する工程である。
【0062】
SiC構造体20のSi層19は、SiC構造体10のSi層9と同様の組成であるため、Si層9と同様の手順により形成されることが好ましい。すなわちSi層19は、たとえばシラン(SiH4)ガスを用いて減圧CVD法を用いることにより、所望の主表面上に形成することができる。なおSi層19を堆積させる際には、500℃以上800℃以下の温度下で処理することが好ましい。
【0063】
またSi層19の厚み(図12、13におけるSi層19の上下方向の厚み)は、Si層9の厚みと同様に0.1μm以上10μm以下とすることが好ましく、上述した厚みの範囲の中でも0.1μm以上1μm以下とすることがより好ましい。
【0064】
Si層19は、ベース体13のフィン11と接合される主表面上に形成されてもよいし、フィン11のベース体13と接合される表面上に形成されてもよい。ただし複数台のフィン11のそれぞれの、ベース体13と接合される表面上にSi層19を形成するよりも、1台のベース体13のフィン11と接合される主表面上にSi層19を形成する方が高効率である。
【0065】
そして図5に示すSi層にて接合する工程(S40)を行なう。SiC構造体10の工程(S40)と同様に、放熱用部品であるフィン11とベース体13とが先の工程にて形成したSi層19を挟むように接触した状態で、Si層19をSiの融点以上に加熱することにより、フィン11とベース体13とを接合する工程である。
【0066】
SiC構造体20を形成する際の工程(S40)についても、SiC構造体10を形成する際の工程(S40)と同様に、接合される前における各部材の各位置のSiとCとの濃度の割合の分布、および接合後における各部材の各位置のSiとCとの濃度の割合の分布は、図10および図11で説明することができる。なお、図10、11における放熱用部品1はSiC構造体20を形成する際のフィン11であり、図10、11におけるベース体3はSiC構造体20を形成する際のベース体13である。また図10におけるSi層9はSiC構造体20を形成する際のSi層19に相当し、図11における接合部7はSiC構造体20における接合部17に相当する。
【0067】
SiC構造体20を形成する際の工程(S40)についても、加熱温度は1400℃以上1800℃以下にすることが好ましい。また加熱処理は真空中または不活性ガス雰囲気中にて行なうことが好ましく、不活性ガスとしてはArまたはNの雰囲気を用いることが好ましい。ArまたはNの雰囲気を用いれば、当該不活性ガス雰囲気中にCを含むガスを追加供給することができる。
【0068】
なお、SiC構造体20を形成する際の工程(S40)においては、図14に示すように、治具18に複数台のフィン11を、ベース体13と対向する表面が上側を向くようにセットすることが好ましい。このようにすれば、たとえば一方の主表面上にSi層19が形成されたベース体13を、Si層19がベース体13とフィン11とに挟まれるように配置する作業が容易になる。この治具18は、たとえば上述した工程(S30)においてフィン11のベース体13と対向する表面上にSi層19を形成する場合においても同様に用いることができる。なお治具18は、たとえばカーボンを用いて形成することが好ましく、カーボンの代わりにたとえばボロンナイトライドを用いて形成してもよい。
【0069】
以上の手順により形成されたSiC構造体20は、SiC構造体10と同様に、フィン11やベース体13がSiCからなる。このため、ベース体13に伝播された熱は、SiCの高い熱伝導性により容易にフィン11の方へ移動する。またSiC構造体20についても、接合部17の組成がフィン11やベース体13に近いSi1−xCxであるため、たとえばSiC構造体20に熱サイクルを与えた場合に接合部17に発生する熱応力をより小さくすることができる。したがって、当該接合部17における応力集中や、応力集中に起因する部材の破損などの不具合を抑制することができる。以上より、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体20の耐久性を向上させることができる。
【0070】
図15は、以上に述べたSiC構造体20がインバータ回路を構成するパワーモジュール(パワー半導体素子)に取り付けられた半導体装置の概略断面図である。図15のSiC構造体20は、その上側が図12、13に示すベース体13であり、その下側に複数本伸びる柱状構造体が図12、13に示すフィン11である。そして図15に示すように、SiC構造体20の上側の主表面上に、インバータ回路などの半導体素子30(パワー素子)を載置した電極パターン40、半導体素子30と電極パターン40とを囲む枠50、枠50の外側に配置された図示しない負荷と電気的に接続するための電極70、半導体素子30と電極70とを電気的に接続するためのワイヤ60、そして半導体素子30を充填するためのシリコンゲル80を備える半導体装置が形成される。
【0071】
たとえば図15に示されない負荷が駆動することにより、電極70やワイヤ60を用いて当該負荷と接続された半導体素子30が発熱する。このとき、半導体素子30の熱は、電極パターン40から、熱伝導性に優れたSiC構造体20の方へ速やかに伝播される。そしてSiC構造体20を構成する複数のフィン11により、当該熱は外部に放熱される。
【0072】
半導体素子30の発熱の有無、発熱の程度により、当該半導体素子30はSiC構造体20に対して熱サイクルを与えることになる。この場合においても、SiC構造体20のベース体13とフィン11とを接合する接合部17(図12、13参照)がSi1−xCx(0<x<1)の組成を有するため、当該接合部17において発生する熱応力を小さくすることができる。このため当該接合部17における応力集中や、応力集中に起因する部材の破損などの不具合を抑制することができる。以上より、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体20の耐久性を向上させることができる。
【0073】
なお、図15においては一例として、半導体装置にSiC構造体20を用いた場合を図示している。しかしSiC構造体20の代わりにSiC構造体10を用いても、同様の効果を奏することができる。
【実施例1】
【0074】
本発明の実施の形態1に係るSiC構造体10を、上述した手順に従い形成した。まず図5のフローチャートに示す工程(S10)として、30mm×30mm×5mmの平板形状(直方体状)を有する、図6に示す放熱用部品1を形成した。ここでは多結晶SiCからなるインゴットを、上記形状、寸法を有する放熱用部品1となるよう切断加工した。また、上記平板形状の構造体の一方の主表面上にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いて、所望の領域における当該構造体の主表面から深さ1mm(図6における上下方向)の領域を幅0.5mm(図6における左右方向)除去することにより、冷媒流通部4(溝5)を形成した。
【0075】
次に図5に示す工程(S20)として、30mm×30mm×2mmの平板形状(直方体状)を有する、図7に示すベース体3を形成した。ここでは多結晶SiCからなるインゴットを、上記形状、寸法を有するベース体3となるよう切断加工した。
【0076】
続いて図5に示す工程(S30)において、図8に示すように、放熱用部品1の冷媒流通部4(溝5)が形成された主表面上に、厚みが1μmのSi層9を形成した。Si層9は、たとえばシラン(SiH4)ガスを用いて減圧CVD法を用いることにより、上記主表面上に形成した。このとき、放熱用部品1を1450℃に加熱することにより処理を行なった。なおここで、溝5の底面(溝5を形成する面のうち、放熱用部品1の主表面に沿った方向に存在する面)上に形成されたSi層は、フォトリソグラフィ技術により除去した。
【0077】
そして図5に示す工程(S40)において、図9に示すように放熱用部品1のSi層9とベース体3の主表面とを接触させるように配置し、この状態で当該構造体を導入した炉内を10−5Pa以下の高真空とし、上記Si層9を1400℃にて5分間加熱する処理を行なった。この処理を行なうことにより、放熱用部品1とベース体3とは接合部7において強固に接合し、一体のSiC構造体10が形成された。このSiC構造体10の接合部7はSiとCとを含み、放熱用部品1やベース体3の組成に近い組成を有するものとなっている。このためSiC構造体10に熱サイクルを与えた場合に接合部7に発生する熱応力をより小さくし、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体10の耐久性を向上させることができた。
【実施例2】
【0078】
本発明の実施の形態2に係るSiC構造体20を、上述した手順に従い形成した。まず図5のフローチャートに示す工程(S10)として、0.5mm×5mm×10mmの平板形状(直方体状)を有する、図12〜図14に示すフィン11を10台形成した。ここでは多結晶SiCからなるインゴットを、上記形状、寸法を有するベース体3となるよう切断加工した。
【0079】
次に図5に示す工程(S20)として、5mm×10mm×3mmの平板形状(直方体状)を有する、図12〜図14に示すベース体3を1台形成した。ここでは多結晶SiCからなるインゴットを、上記形状、寸法を有するベース体13となるよう切断加工した。
【0080】
続いて図5に示す工程(S30)において、ベース体13の、フィン11と接合しようとする主表面上に、厚みが0.5μmのSi層19を形成した。Si層19は、たとえばシラン(SiH4)ガスを用いて減圧CVD法を用いることにより、上記主表面上に形成した。このとき、ベース体13の一方の主表面を1450℃に加熱することにより処理を行なった。
【0081】
そして図5に示す工程(S40)において、図14に示すようにフィン11を、ベース体13と接合する表面が上側を向くように、治具18を用いてセットした。次にベース体13のSi層19が、フィン11の上側を向いた面と接触するように配置した。この状態で当該構造体を導入した炉内を10−5Pa以下の高真空とし、上記Si層9を1410℃にて5分間加熱する処理を行なった。この処理を行なうことにより、フィン11とベース体13とは接合部17において強固に接合し、一体のSiC構造体20が形成された。このSiC構造体20の接合部17はSiとCとを含み、フィン11やベース体13の組成に近い組成を有するものとなっている。このためSiC構造体20に熱サイクルを与えた場合に接合部17に発生する熱応力をより小さくし、熱サイクルを繰り返し受けるSiC構造体20の耐久性を向上させることができた。
【0082】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、今回開示した実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、熱サイクルを複数回受けたとしても強固に接合された状態を維持することが可能なSiC構造体、半導体装置およびSiC構造体の製造方法を提供する技術として、特に優れている。
【符号の説明】
【0084】
1 放熱用部品、3,13 ベース体、4 冷媒流通部、5 溝、7,17 接合部、9,19 Si層、10,20 SiC構造体、11 フィン、15 間隙、18 治具、21,22 曲線、30 半導体素子、40 電極パターン、50 枠、60 ワイヤ、70 電極、80 シリコンゲル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiCからなり、対象物を放熱するための放熱用部品と、
SiCからなるベース体と、
前記放熱用部品と前記ベース体とを接合する、SiとCとを含む接合部とを備えるSiC構造体であり、
前記接合部は、前記放熱用部品または前記ベース体と接合する接合面から、前記接合面に交差する方向に関して、前記接合部の中央部に向かってCの濃度が減少する、SiC構造体。
【請求項2】
前記接合部はSi1−xCx(0<x<1)で表わされる、請求項1に記載のSiC構造体。
【請求項3】
前記ベース体は平板形状である、請求項1または2に記載のSiC構造体。
【請求項4】
前記放熱用部品には、前記ベース体の主表面に沿った方向に複数の柱状構造体が一定間隔ごとに並んでいる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のSiC構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のSiC構造体と、
電気信号を供給する半導体素子とを備える、半導体装置。
【請求項6】
SiCからなり、対象物の熱を放熱するための放熱用部品を準備する工程と、
SiCからなるベース体を準備する工程と、
前記放熱用部品と前記ベース体との少なくともいずれか一方の主表面上にSi層を形成する工程と、
前記放熱用部品と前記ベース体とが前記Si層を挟むように接触した状態で、前記Si層をSiの融点以上に加熱する工程とを備える、SiC構造体の製造方法。
【請求項7】
前記加熱する工程において、前記Si層を1400℃以上1800℃以下に加熱する、請求項6に記載のSiC構造体の製造方法。
【請求項8】
前記加熱する工程は、真空中または不活性ガス雰囲気中にて行なう、請求項6または7に記載のSiC構造体の製造方法。
【請求項9】
前記不活性ガス雰囲気中にCを含むガスを追加供給する、請求項6〜8のいずれか1項に記載のSiC構造体の製造方法。
【請求項1】
SiCからなり、対象物を放熱するための放熱用部品と、
SiCからなるベース体と、
前記放熱用部品と前記ベース体とを接合する、SiとCとを含む接合部とを備えるSiC構造体であり、
前記接合部は、前記放熱用部品または前記ベース体と接合する接合面から、前記接合面に交差する方向に関して、前記接合部の中央部に向かってCの濃度が減少する、SiC構造体。
【請求項2】
前記接合部はSi1−xCx(0<x<1)で表わされる、請求項1に記載のSiC構造体。
【請求項3】
前記ベース体は平板形状である、請求項1または2に記載のSiC構造体。
【請求項4】
前記放熱用部品には、前記ベース体の主表面に沿った方向に複数の柱状構造体が一定間隔ごとに並んでいる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のSiC構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のSiC構造体と、
電気信号を供給する半導体素子とを備える、半導体装置。
【請求項6】
SiCからなり、対象物の熱を放熱するための放熱用部品を準備する工程と、
SiCからなるベース体を準備する工程と、
前記放熱用部品と前記ベース体との少なくともいずれか一方の主表面上にSi層を形成する工程と、
前記放熱用部品と前記ベース体とが前記Si層を挟むように接触した状態で、前記Si層をSiの融点以上に加熱する工程とを備える、SiC構造体の製造方法。
【請求項7】
前記加熱する工程において、前記Si層を1400℃以上1800℃以下に加熱する、請求項6に記載のSiC構造体の製造方法。
【請求項8】
前記加熱する工程は、真空中または不活性ガス雰囲気中にて行なう、請求項6または7に記載のSiC構造体の製造方法。
【請求項9】
前記不活性ガス雰囲気中にCを含むガスを追加供給する、請求項6〜8のいずれか1項に記載のSiC構造体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−23451(P2011−23451A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165463(P2009−165463)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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