説明

TIG溶接装置

【課題】これらの課題を解決する手段として、円筒鞍型圧力容器の貫通穴の開先斜面に対して溶接トーチが傾斜し溶接することで、アーク溶接中の溶融池が重力影響を受けにくく安定した溶接ビート形成するように構成するTIG溶接装置を提供することにある。
【解決手段】円筒鞍型形状圧力容器と、該容器の貫通穴と管台とを溶接する、傾斜面の開先内3次元溶接において、開先傾斜面に対して溶接トーチ(4)を傾けることのできるTIG溶接装置であって、開先傾斜角度に対してモータを駆動源とし、平行リンク機構部(A)を設け、溶接トーチ(4)を傾けることが可能な傾斜駆動手段(15)を設けたことを特徴とするTIG溶接装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、TIG溶接装置に関するものであり、特に、円筒鞍型形状圧力容器の貫通穴と円筒パイプ(以下、管台と称する。)を溶接する、傾斜面の開先内3次元溶接において、開先傾斜面に対して溶接トーチが傾けることのできるTIG溶接装置である。
【背景技術】
【0002】
従来、アークの位置を変化させずにトーチの傾斜角を制御する構成については種々な提案例がなされている。第一の従来例としては、多関節型のロボットを用い、トーチの傾斜とアークの位置の制御を同時に行う技術が開示されている。
【0003】
しかし、この従来例によると、多関節ロボットを用いることで、制御が複雑になり、かつ、装置も大型になるという欠点があった。例えば、特許文献1のように。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−246447号公報
【0005】
次に、第2の従来例として、図6に示すように、モータ(回転アクチュエータ)(22)の傾斜軸(23)に、L字状の腕杆(24)を設けると共に、該腕杆(24)の遊端側に支持部(25)を介してトーチ(26)を、アーク位置(28)に合わせる技術も開示されている。
【0006】
しかし、この第2の従来例も、モータ(22)の回転軸心(27)とアーク位置(28)を合わせた構成であることから、溶接する場合にモータ(22),傾斜軸(23)などが管台や圧力容器などと干渉することから、縁部のみなどの特殊な場合を除いて溶接は行えないという欠点を有する。
【0007】
さらに、第3の従来例として、図7に示すように、駆動ピニオン(29)に噛み合い円弧歯車(部分歯車)(30)を設けると共に、該円弧歯車をガイドローラ(31)により支持して傾斜中心(円弧中心)(32)に沿って正逆に回動自在、あるいは回転自在に構成している。そして、円弧歯車(30)に、該円弧歯車(30)側に設けたガイド部(またはガイドローラ)(33)に案内されて傾斜中心(32)に沿って正逆に回動自在、あるいは回転自在なブラケット(34)を設けると共に、該ブラケット(34)に傾斜中心(32)に向かうトーチ(35)を設けている。
【0008】
そして円弧歯車(30)の左右両端にスプロケット(36)を取り付けると共に、これらスプロケット(36)に外側から巻回される一対のチェーン(37)を設け、これらチェーン(37)の一端部(38)に連結すると共に、他端をブラケット(34)に連結している。
【0009】
駆動ピニオン(29)の正逆駆動により円弧歯車(30)を傾斜中心(32)に沿って正逆に回動させることで、スプロケット(36)に案内されるチェーン(37)を介してブラケット(34)を同方向に倍に回動させ、アーク位置(39)を変化させずにトーチ(35)の回転角を制御し得る。
【0010】
しかし、上記の第3の従来例は、溶接トーチを傾斜する角度の可動範囲を大きくすると、円弧歯車(30)を大きくする必要があり、溶接トーチ作動時に管台と干渉するため適用が困難であるという欠点があった。
【0011】
最後に、第4の従来例として、図8に示すように、アーク位置(47)の上方に回転アクチュエータ(40)や平行リンク機構(44,45)が位置し、平板の溶接は交差することなく行える。 回転アクチュエータ(40)を正逆に回転し、従動リンク(43)を支軸(42)の廻りに同方向に回転させる。従動リンク(43)の回動により、第2平行リンク(45)によって溶接トーチ(46)が下方へ移動され、傾斜角度を順次変化させることで、アーク位置(47)を変化させずに傾斜角を制御し得るよう構成している。
【0012】
しかしながら、リンク機構を用いて全体がコンパクトな軸構成ではあるが、リンク数が多く装置も大型になる。また、片側方向しか傾斜できず、逆方向に溶接トーチを傾斜出来ないという欠点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明は、これらの課題を解決する手段として、円筒鞍型圧力容器の貫通穴の開先斜面に対して溶接トーチが傾斜し溶接することで、アーク溶接中の溶融池が重力影響を受けにくく安定した溶接ビート形成するよう構成するもので、即ち,円筒型鞍型形状の圧力容器の貫通穴と円筒パイプを溶接する,傾斜面の開先内3次元溶接において、開先傾斜面に対して溶接トーチを傾けるTIG溶接装置を開発・提供することにある。
【0014】
そこでこの発明は、以下述べる要求事項を、解決できるTIG溶接装置であり、発電用圧力容器の一部を構成する継手や配管,例えば原子炉圧力容器の溶接継手に関連した配管及び圧力容器等は、核分裂によって生じた熱エネルギーで上記を発生し、高温・高圧の蒸気としてタービン発電機を回し、電力を生み出す機能,かつ、加熱した蒸気や構造物を冷却するための冷却水を供給させる機能を担っており、高温、高圧蒸気または給水に耐える材料で形成しなければならないため、大型の厚肉材もしくは耐腐食性の高い材質で構成されている。
【0015】
即ち,これらの配管及び圧力容器では、高耐圧性や高耐腐食性が要求され、特に起動、停止時には低温から高温にまで及ぶ大きな温度変化に晒されるため、熱収縮量が大きく、応力が集中し易い溶接継手等の溶接接続箇所においては、溶接品質が高く強度も強いことが要求される。溶接継手においては、図1に示すように、圧力容器の鞍型部位に、圧力容器の軸に対して平行に複数の貫通穴があり、これら貫通穴と管台を溶接する開先形状は円筒形で傾斜した形状となり、溶接軌道は斜面に沿って楕円軌跡を描きながら、溶接金属の湯流れを防止するため、溶接斜面の角度に応じて、溶接の進行方向に対し溶接トーチを傾斜させながら安定した溶接をすることが要求される。
【0016】
さらに、開先傾斜角が大きい場合、溶接トーチを傾斜する角度の可動範囲を大きくすることが要求され、また、管台が溶接部近傍に林立しており、管台間隔が狭い場合、溶接トーチ傾斜機構を配置するには、駆動機構の小形化かつ動作範囲を小さくすることが要求される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、この発明は、これらの課題を解決する手段として、円筒鞍型圧力容器の貫通穴の開先斜面に対して溶接トーチが傾斜し溶接することで、アーク溶接中の溶融池が重力影響を受けにくく安定した溶接ビード形成するように構成するもので、即ち,円筒型鞍型形状の圧力容器の貫通穴と円筒パイプを溶接する,傾斜面の開先内3次元溶接において、開先傾斜面に対して溶接トーチを傾けるTIG溶接装置を提供することにある。
【0018】
この発明は、図4に示すように、傾斜駆動手段を設けることで、駆動機構の可動範囲を小さくすることにより、林立する管台との装置干渉を回避でき、開先傾斜角が大きい場合、溶接トーチを傾斜する角度の可動範囲を大きくするよう構成する。
【0019】
また、溶接トーチの傾斜動作を平歯車機構(7a,7b,7c)及び、かさ歯車(9a,9b)機構により、薄型かつ小型な駆動機構とし、回転駆動手段(16)、上下駆動手段(17)、傾斜駆動手段(15)により位置検出機能でモータ駆動をフィードバックしながら開先傾斜角度に応じて同期しながら動作させる構造にするものである。
【0020】
さらに、図3(a)(b)にそれぞれ示す,連結バー(13a)(13b)に設けた、回転軸〔作動リンク〕(11a)と回転軸〔従動リンク〕(11b)を支軸として回転する平行リンク機構部(A)を構成し、モータ(6)により回転作動するとともに、該支軸の真下を溶接トーチ(4)のタングステン電極(5)するよう構成する。
【発明の効果】
【0021】
この発明によると、円筒管台の溶接において、隣接する管台の管間隙との干渉を回避しながら斜面に沿って安定した溶接ができるいう極めて有益なる効果を奏する。
【0022】
さらに、全体構成の制御により、開先傾斜角度に応じて同期しながら動作させることで、溶接トーチ(4)を傾斜しながら3次元軌跡動作で溶接電源(19)により溶接することで達成される。
【0023】
さらに、正逆駆動で腕杆(C)を傾斜軸芯に沿って正逆に回動させることによって、タングステン電極先端(21)を変化させずに溶接トーチ(4)を制御しうる。
【0024】
平行リンク機構部(A)により、溶接トーチ(4)の傾斜角度範囲が大きくとれることで、開先が傾斜した形状の溶接部位でも斜面に沿って楕円軌跡を描きながら、溶接金属の湯流れを防止することができることにより、安定した溶接施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の一実施例を示し、圧力容器と管台との全体構成の断面図である。
【図2】この発明の一実施例を示し、圧力容器と管台の開先形状を示す一部欠截拡大断面図である。
【図3】この発明の一実施例を示す溶接トーチの傾斜機構の構成を示し、(a)は、側面図であり、(b)は、正面図である。
【図4】この発明の一実施例を示し、全体構成を示す説明図である。
【図5】この発明の一実施例を示す圧力容器と管台の開先形状を示す一部欠截拡大断面図である。
【図6】従来例の溶接トーチ傾斜機構を示す説明図である。
【図7】従来例の溶接トーチ傾斜機構を示す説明図である。
【図8】従来例の溶接トーチ傾斜機構を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明の一実施例に係る圧力容器(1)と管台(2)の全体構成を示し、円筒鞍型圧力容器(1)の軸方向に複数の貫通穴が設けら、これら貫通穴にそれぞれ管台(2)を差し込み、圧力容器(1)の内面部に開先加工が施されている部位の溶接継手(3)を安定して溶接するものである。
【実施例】
【0027】
この発明の一実施例を図面に基づいて説明すると、先ず、この発明を使用するための、圧力容器(1)と管台(2)の全体構成を、図1に示す。この圧力容器(1)は円筒鞍型圧力容器であって、該容器の軸方向に貫通穴が設けられており、該貫通穴に管台(2)を差し込み、圧力容器(1)の内面部に開先加工が施されている部位の溶接継手(3)を安定して溶接するためのTIG溶接装置である。
【0028】
また、図2においては、この発明の一実施例に係る圧力容器(1)と管台(2)の開先形状(20)を示すものであり、圧力容器(1)は、球面体であるための該圧力容器(1)と管台(2)を溶接するための開先形状(20)は傾斜した形状となり、該開先形状(20)と管台(2)を溶接する部位が溶接継手(3)である。
【0029】
さらに、開先形状(20)は、圧力容器(1)の円筒形の斜面に形成しているため、溶接軌道は、3次元軌跡となり、開先形状(20)で囲まれた管台(2)の上端に載置し、あるいは嵌め込んだ回転駆動手段(16)を設け、その上部に、上下駆動手段(17)を設け、該上下駆動手段に腕杆(C)を設け、該腕杆に、傾斜駆動手段(15)を介して、平行リンク機構部(A)を設け、該平行リンク機構部(A)の下端部に溶接トーチ(4)を設けたものである。
【0030】
この溶接トーチ(4)の傾斜角度範囲を大きくとれる平行リンク機構部(A)と、前記回転駆動手段(16)、上下駆動手段(17)、傾斜駆動手段(15)の各手段を、同期させて動作することで、3次元軌跡動作を形成する構造を設けており、上下駆動手段(17)、回転駆動手段(16)、傾斜駆動手段(15)は、制御装置(18)により制御され、溶接電源(19)を備えて溶接することが可能となる。
【0031】
また、管台(2)は、図1に示すように、複数本林立しているため、駆動機構配置は、図3(a),(b)の溶接トーチ傾斜機構の構成とし、図4に示すように、林立する管台(2)との一の例として、干渉を回避して圧力容器(1)と管台(2)との周囲に溶接トーチ(4)を楕円状に溶接継手(3)を施す構成としている。
【0032】
次に、図3(a),(b)、並びに図5に、この発明に係る溶接トーチ傾斜機構を構成をする平行リンク機構(A)を詳述すると、薄板状で縦長のベース(B)に、モータ(6)とエンコーダ(10)を固定して設け、モータ軸に設けた平歯車(7a)は、平歯車(7b)を介してエンコーダ(10)の軸に設けた平歯車(7c)と噛み合っている。
【0033】
そして、前記縦長のベース(B)を挟んで平行に、一対のやはり薄板状の左・右リンクバー(14a,14b)を設け、これら左・右リンクバー間に、上端部には、逆三角形状の枠体からなる上部連結バー(13a)、中間部には、該上部連結バーと同様な形状の中部連結バー(13b)、そして下端部には、略T字状の下部連結バー(13c)を設けている。
【0034】
上部連結バー(13a)の上辺は、リンクピン(12a)、(12b)で、左・右リンクバー(14a,14b)と枢着され、中間部に位置する,中部連結バー(13b)の上辺も、リンクピン(12c)、(12d)で、該両リングバーに枢着され、下部連結バー(13c)は、リンクピン(12e)、(12f)で枢着されている。
【0035】
これら上部連結バー(13a)の横幅寸法(X1)、中部連結バー(13b)の横幅寸法(X2)、そして下部連結バー(13c)の横幅寸法(X3)とは、それぞれ、同一寸法であり、左・右リンクバー(14a,14b)に、それぞれ回動可能に枢支されている。
【0036】
また、逆三角形状の枠体からなる上部連結バー(13a)の下端頂部に位置する回転軸(11a)の軸芯と、前記リンクピン(12a)までの寸法(Y1)、並びに回転軸(11a)の軸芯と、前記リンクピン(12b)までの寸法(Z1)は同一である。さらに、中部連結バー(13b)の下端頂部に位置する回転軸(11b)の軸芯と、前記リンクピン(12c)までの寸法(Y2)、並びに回転軸(11b)の軸芯と、前記リンクピン(12d)までの寸法(Z2)は同一である。そして下部連結バー(13c)の下方に位置するタングステン電極先端(21)とリンクピン(12e)までの寸法(Y3)と、該タングステン電極先端(21)からリンクピン(12f)までの寸法(Z3)は、同一である。尚、回転軸(11a)(11b)を固定端とするものである。
【0037】
モータ(6)は、平歯車(7a),(7b)、シャフト(8)、かさ歯車(9a),(9b)を介して回転軸(11a)を回転させ、該回転軸(11a)が回転することで、連結バー(13a),(13b)が回転し、リンクバー(14)を介することで、連結バー(13c)、溶接トーチ(4)、タングステン電極(5)が、タングステン電極先端(21)中心に傾斜するものである。
【0038】
開先傾斜角度情報により傾斜駆動手段(15)は、回転駆動手段(16)、上下駆動手段(17)と連動しながら、制御装置(18)の指令で溶接トーチ(4)がエンコーダ(10)の位置情報で傾斜し溶接を行うものである。
【0039】
以上のような構成であり、開先傾斜角度に応じて同期しながら動作させることで、溶接トーチを傾斜しながら3次元軌跡動作で溶接電源(19)により溶接することで達成されるものであり、平行リンク機構部(A)により溶接トーチ(4)の傾斜角度範囲が大きくとれることで、開先が傾斜した形状の溶接部位でも斜面にそって楕円軌跡を描きながら、溶接金属の湯流れを防止することで安定した溶接施工が可能となり達成される。
【産業上の利用可能性】
【0040】
この発明によると、円筒鞍型圧力容器と管台とを溶接するTIG溶接装置の技術を確立し、実施・販売することにより産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0041】
1 圧力容器
2 管台
3 溶接継手
4 溶接トーチ
5 タングステン電極
6 モータ
7a,7b,7c 平歯車
8 シャフト
9a かさ歯車
9b かさ歯車
10 エンコーダ
11a 回転軸
11b 回転軸
12a,12b,12c,12d,12e,12f リンクピン
13a,13b,13c 連結バー
14a,14b リンクバー
15 傾斜駆動手段
16 回転駆動手段
17 上下駆動手段
18 制御駆動手段
19 溶接電源
20 開先形状
21 タングステン電極先端
A 平行リンク機構部
B ベース
C 腕杆
22 モータ(アクチュエータ)
23 傾斜軸
24 腕杆
25 支持部
26 トーチ
27 傾斜軸芯
28 アーク位置
29 駆動ピニオン
30 円弧歯車
31 ガイドローラ
32 傾斜中心
33 ガイド部
34 ブラケット
35 トーチ
36 スプロケット
37 チェーン
38 固定部
39 アーク位置
40 モータ(回転アクチュエータ)
41 作動リンク
42 支軸
43 従動リンク
44 第1平行リンク機構
45 第2平行リンク機構
46 溶接トーチ
47 アーク位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒鞍型形状圧力容器と、該容器の貫通穴と管台とを溶接する、傾斜面の開先内3次元溶接において、開先傾斜角度に対して溶接トーチ(4)を傾けることのできるTIG溶接装置であって、開先傾斜角度に対してモータを駆動源とし、平行リンク機構部(A)を設け、溶接トーチ(4)を傾けることが可能な傾斜駆動手段(15)を設けたことを特徴とするTIG溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−200740(P2012−200740A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65709(P2011−65709)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(391018639)バブ日立工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】