説明

X線エネルギースペクトルの放射線量子の背景補正された計数を決定する方法

【課題】対象サンプルに関するX線エネルギースペクトルの放射線量子の背景補正された計数を正確かつ速く決定する方法。
【解決手段】本発明の方法は、対象サンプルから蛍光X線ビームを発生させるステップであって、前記X線ビームは、解析結晶及び検出器に入射されるステップと、前記解析結晶を、前記蛍光X線ビームに対して角度θが得られるように回転させ、前記検出器を、前記蛍光X線ビームに対して角度2θが得られるように回転させるステップと、一定の検出器角度2θで、前記検出器を用いて、パルス高分布エネルギースペクトルを測定するステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象サンプルに関するX線エネルギースペクトルの放射線量子の背景補正された計数を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、様々な非破壊技術を使用して、それが固体、粉体、或いは液体であっても、物質(のサンプル)が解析されている。波長分散型X線蛍光分光分析(WD-XRF)は、X線分光分析技術の一例であり、この技術では、対象サンプルは、サンプルに蛍光を出させるX線を照射され、サンプル物質の組成に関する情報を生ずるパルス高分布(PHD: Pulse Height Distribution)スペクトルを結果として生じる。このPHDスペクトルは、検出器電子機器によって記録され、この機器は、ブラッグの法則(Bragg’s law)に従って、結晶角度(crystal angle)θの2倍、角度2θに正確に置かれた検出器にサンプルのX線蛍光を反射する分光結晶(analyzing crystal)の結晶角度Θでサンプルによって出射される放射線量子(radiation quanta)をカウントする。当該分野では知られていることであるが、サンプルに関して信頼性のある情報を得るためには、対応する計数(カウント数)は、存在している背景信号(background signal)によって補正されるべきである。
【0003】
実際には、この背景補正は、「背景左右法(background-left-right method)」として知られるものによって実行される。このために、対象サンプルのために2θで対象のピークの左側と右側との計数が測定される。これらの測定に基づき、このピークにおける背景を計算することができる。この背景信号は、2θの測定位置で使用され、その結果、背景補正された計数が決定される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この既知の方法は、幾つかの欠点を持っている。第1には、対象サンプルに対して、通常通りのピーク位置の計数、それに加えて、2つの背景位置の計数、を別々に測定してやる必要があり、これは時間がかかり過ぎる。さらに、強度を測定しようとしている2θスペクトルの左と右の位置の選択は、かなり恣意的なもので、計算された背景信号に誤りをもたらし得るものであり、従って、結果として生じた背景補正された計数(background-corrected count)にも誤りをもたらし得る。
【0005】
本発明の目的は、2θ位置での一回のみの測定で存在するピーク信号と背景信号を正確かつ速く決定するような、冒頭で説明した種類の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため、本発明による方法は、以下のステップ:
a)スペクトルに2つまたはそれ以上の異なる測定窓(measurement window)を規定するステップと、
b)前記測定窓における放射線量子の計数を測定するステップと、
c)第1及び第2の測定窓から構成される1つの組を選択するステップと、
d)前記測定窓の組の間で規定される関係を使用しながら、前記第2の測定窓の放射線量子の計数に基づき、第1の測定窓のための背景信号を計算するステップと、
e)前記第1の測定窓における放射線量子の計数から前記背景信号を引き、前記第1の測定窓における放射線量子の背景補正された計数を生じさせるステップと、
を含むことで特徴付けられる。
【0007】
本発明による方法は、存在している背景信号に関する情報を生成するような関係であって、上述したような種類のX線エネルギースペクトル(PHD)における1組の測定窓の間にある関係の洞察に基づくものである。本発明の方法によれば、PHDそれ自体に存在する情報を使用して背景信号が計算される。本発明の方法を使用することは、離れた背景位置で測定することを不要とし、従って、現状の技術に比べて計測時間を効果的に短くする。
【0008】
本方法の第1の好適な実施態様によれば、前記関係は、下記のステップ:
i)対象サンプルに関連付けられた一連のブランクサンプル(blank sample)のためのX線エネルギースペクトルを記録するステップと、
ii)それぞれのX線スペクトルのために前記ステップa),b),c)を実行し、ブランクサンプルごとに、それぞれ選択された測定窓の組のための対応点(x、y)のセットを生成するステップと、
iii)前記対応点をつうじて前記測定窓の組の間で前記関係を規定するような関数に適合させるステップと、
によって規定される。
この第1の実施態様によれば、前記測定窓の組の間の関係は、数学的に決定される。
【0009】
第2の実施態様によれば、第2の測定窓の放射線量子の計数を変数として代入する場合、第1の測定窓の背景信号は、前記関数から生成されるもの(結果)として正確に計算することができる。
【0010】
信頼性のある結果を得るためには、第1及び第2の測定窓のそれぞれの対応点は、適切に選択されるべきである。以下の3つの実施態様は、一般的なガイドラインを意図したものであり、多くに場合においてこれらの例は実用上便利であろう。第1の実施例では、第1の測定窓は、対象サンプルの対象のエネルギーを本質的に中心とする。第2の実施例では、第2の測定枠は、対象サンプルの複数の対象エネルギーを本質的に中心とする。第3の実施例では、1つの組に含まれる第1及び第2の測定窓は、スペクトルのなかに隣接して置かれる。
【0011】
本発明は、本発明による方法のステップを実行する手段を設けた放射線解析装置にも関する。
本発明は、本発明による方法のステップを実行するためのコンピュータプログラムにも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以降、諸図面を参照しつつ、本発明をさらに説明する。
図1は、本発明による方法を実行するための手段を設けた放射線解析装置、即ち分光計の実施態様を示す。実際には、図1に示すような放射線解析装置は、特にX線解析装置である。
【0013】
図1に示すX線解析装置は、X線源1、サンプルホルダー2、コリメータ3、4、分光結晶5(analyzing crystal)、およびX線検出器を具える。多くのタイプのX線検出器6が使用に適しており、例えば、ガスイオン化検出器、シンチレーション(scintillation)検出器、固体(solid-state)検出器、などである。
【0014】
X線ビーム7は、サンプル8に入射し、サンプルにX線蛍光を出射させる。蛍光X線ビーム9は、コリメータ3を介して分光結晶5の表面10に入射し、この後、反射のブラッグの法則(Bragg’s Law)に従ってそこ(表面10)から反射したさらなるX線ビーム11は、コリメータ4を介してX線検出器6に到達する。
【0015】
駆動モータ12及びトランスミッションギヤ13は、この図の平面に垂直な軸のまわりを任意の角度Θで分光結晶を回転させる。X線検出器に入射したX線ビームのエネルギーは、この回転によって狭い範囲のなかで選択される。
【0016】
トラスミッションギア14を介して機能するモータ12は、前記結晶の回転にマッチするように検出器を回転させる。即ち、同様に図面の平面に直角の軸のまわりを回転させる。この回転によって、円15の弧に沿って移動する。検出器角度と結晶角度の設定は、連結されている(θ/2θ)。
【0017】
検出器によって生成されたアナログ検出器信号は、利得制御回路16によって制御される。その後、この検出器信号は、A/Dコンバータ17によって1次デジタル信号振幅に変換される。検出器によって生成された検出器信号の信号振幅は、検出器に入射するX線光子のエネルギーに対応する。従って、検出器によって生成された信号の振幅の発生の分散は、検出器に入射するX線光子のエネルギー分散に相当するものである。この信号の振幅の発生分散は、本明細書では、以降、「パルス高分散(PHD)」と呼ぶこととし、これは、例えば、ヒストグラムの形式でモニタ31の陰極線管に表示される。放射線検出器6によって生成されるアナログ検出器信号は、検出器読取回路手段18によって処理されるが、このことは以下に詳細に述べる。
【0018】
検出器読取回路の高速操作を達成するために、A/Dコンバータ17はフラッシュADCとする。マルチチャネル解析器の一部を構成する、マルチチャネルメモリ19の形式の記憶装置回路は、検出器によって生成された検出器信号をパルス高分散に変換するために設ける。マルチチャネルメモリのチャネル番号は、検出器によって生成された検出器信号振幅(detector signal amplitude)の信号振幅のための値の狭い範囲に対応し、この狭い範囲の幅は、マルチチャンネルメモリのチャンネルの数と、X線解析を実施することに対応するX線エネルギーの範囲の所定の幅との比率によって決定されるものである。1つの1次デジタル信号をマルチチャネルメモリに与えることによって、マルチチャネルメモリのうちの対応するチャネルに格納されている値が1単位ずつ増加するということをもたらし、この対応するチャネルは、検出器のX線量子(quant)のエネルギーによって生成された検出器信号振幅に対応するものである。A/Dコンバータに一連の検出器信号を与えることによって、マルチチャネルメモリの計数(カウント数)を分散させる。同様に、マルチチャネルメモリのチャネル番号は、X線検出器によって検出されたX線光子のエネルギーの値の狭い範囲に対応する。
【0019】
本発明によれば、少なくとも2つの測定窓が規定され、これらは、マルチチャネルメモリ19に格納されている対応するチャネルデータ(数)を伴う使用可能なチャネルの一部を含む。図1の実施態様では、2つの測定窓W1,W2が図示されているが、W1は、サンプルの対象エネルギー(1つまたは複数)に対応するチャネルを含む測定窓である。これは、当該分野で普通に使用されている窓即ちウィンドウ(window)である。測定窓W2は、本発明による方法で使用される追加の窓である。測定窓W2はW1とは異なるべきであるが、具体的な用途に依存して自由に選択することができる。様々な基準をW2の選択のために設定することができるが、これらのうちの幾つかを後で説明する。窓における計数(カウント数)は、対応するMCMチャネルにおける計数の合計すなわち総数によって決定される。
【0020】
実際の解析の前に実行されるキャリブレーション(校正)ステップでは、第1の測定窓と第2の測定窓との間に存在する関係を解析のもとサンプルに対して決定してやらなければならない。この目的のため、メモリ20では、一連のブランクサンプルにおける窓W1とW2との計数が、キャリブレーションデータ点(x、y)として格納され、ここでxはPHD窓W2に相当し、yはPHD窓W1に相当する。
【0021】
次に、W2とW1との間の関係を表すキャリブレーション点(校正点)をつうじて関数を適合させる。この関数(校正曲線)をメモリ21に格納する。図1では、左側へのデータの流れは前述のキャリブレーションステップに相当するものであり、これは後で詳細に説明する。
【0022】
図1では、右側へのデータの流れは、解析ステップに相当する。本発明による演算手段22では、解析を受けているサンプル(未知のサンプル)のための追加の窓W2において決定された計数の合計は、メモリ21に存在する関数に変数として代入する。この操作の結果として生じるものは、測定窓W1に存在する背景信号である。
【0023】
減算手段23では、この背景信号を測定窓W1における総計数(カウント数)から引いてやると、解析の対象のサンプルための測定窓W1における背景補正された計数が生成される。
【0024】
別個の装置として図示した、メモリ手段20、キャリブレーション手段21、乗算手段22、減算手段23によって実施される関数は、この目的のためにプログラムされたコンピュータ手段によって実行されることに注意されたい。
まず、本発明を以下の2つの実施例に基づき説明する。
【0025】
実施例1
この実施例では、マトリックス(matrix)はCuとCu/Zn(真鍮)である。我々は、検体の銀のための背景を解析した(2θ=16度)。分光計の設定は、60kV/66mAである。300μmの真鍮フィルターを使用した。ブランクのための測定時間は1000sである。
ブランクはCuベースの合金である。3つのサンプルは、合金の3つの異なるサブグループ:
サンプルCKD 299 :真鍮
サンプル CKD 307:アルミニウム−青銅
サンプル CKD 311:スズ−青銅
から取得されたサンプルである。
【0026】
関連するPHDスペクトルを図2Aに示す。以下の例では、x/y図が、測定点の組(x/y)=(N(W2);N(W1))を形成することによって形成される。ここでNはW1、W2のそれぞれのエネルギーに関連するデータ値(この場合では強度値、すなわち合計の計数)をさす。上述のこれら3つのサンプルのための図を図2Bに示す。
【0027】
一連の値シリーズ1は、3つのサンプルのx/y点を含み、ここでは線形回帰によって適合されており、第1対第2の窓の強度(計数/計数率(counts/counts rates))の関連性を使用することによって、背景キャリブレーション線を生ずる。結果として生じた関数は
Y=0.20092708*x+2115 (1)
である。
【0028】
式(1)に変数xとしてN(W2)を与えると、関連するサンプルのための窓W1における背景信号B(W1)がy値として生じ、この例では窓W1におけるN(W1)のための数値が単に計算される。計算値と測定値との違いは、以下のようになる。
【0029】
【表1】

【0030】
表1で*デルタ=N(W1計算値)−N(W1測定値)である。
【0031】
**相対デルタ=[N(W1計算値]-N(W1測定値)]/N[W1測定値)である。
【0032】
***BEC=背景相当濃度(Background equivalent concentration)であり、約105カウント/ppm Agになる解析(3つのサンプルすべてにおいてほぼ同じである)の間に当該サンプルの各地点で決定されたAgの感度を用いたものであり、
BEC[ppm Ag]~デルタ[計数]/105[計数/ppm Ag]
である。
【0033】
BEC[ppm]で示された相違の算術平均はこの例では以下のようになる
デルタBEC(適合ブランク)=(0.5+0.15+0.6)ppm/3=1.25/3ppm=0.42ppm (2)
もちろん、1つのブランクのみでもキャリブレーション(校正)をすることも可能である。この適合は、ゼロを通る線まで数学的に通分される(mathematically reduces)。しかしながら、適応可能な範囲も減少することなる。
【0034】
実施例2
以下のサンプルは、背景キャリブレーション手順をさらにもっと拡張しなければならないような、強く変化するマトリクス(平均原子量、あるいは平均質量吸収に関して)に適用したものである。
【0035】
簡単にするため、我々は3つのマトリクス系H3BO3+WO3(WO3が0〜75%、残りはH3BO3)を使う。平均質量吸収係数μは、それに応じてほぼ1から55cm2/gに変化するが、これは非常に大きな範囲である。75%を超えるサンプルの作製は不可能である。ロジウムチューブ設定は、4kWフィリップスMagixプロWD-XRF分光計において60/66kV/mAである。
【0036】
1次ビームフィルターは使用しない。結晶はLiF(200)である。
示した例は、2θ=22度での解析のために取られたものである。一般的に、スペクトルの背景形状は、Rh-Compton波長領域では強く曲がっているものである。ここで角度は、相対的に曲がっている背景形状(underground shape)での位置で人為的に選択される。22度は、約16keVに相当し、これはZrKαとNbKαエネルギーの間にある。以下の表に示した9つのブランクを使用した(すべて22度での元素ピーク(element peak)以外)。これらブランクについて、それぞれ500s測定した。
【0037】
【表2】

【0038】
一般性の制限をせずに、我々は、実用上の理由から以下のサンプルのための計数に代えて、対応計数率(corresponding count rates、即ち計数を測定回数で割ったもの)を使用する。
【0039】
図3Aは、測定点の組(X,Y)=(N(W2);N(W1))を形成することによって形成されたx/y図であり、ここでNは、ブランクのサンプルのために窓W2と窓W1のエネルギーにそれぞれ関連するデータ値である(この例では強度の値)。第1のPHD窓(25/75)の計数率がy軸にプロットされており、第2のPHD窓(76/125)の計数率がx軸にプロットされている。
【0040】
計算された多項式(ここで次数は5)は図のなかに表示してある。図の下部には第2の窓(76/125)の計数率、そこの下には第1の窓の計数率が与えられている。左から右への測定点は、その順序で75%から0%のWO3を含む。
【0041】
これは、人工サンプル(synthetical sample)のセットである。この場合には、存在する元素を伴うような本当の実用サンプルを持っていない。従って、幾つかのブランクサンプル自体を未知のものとして使用するものとする。
このような選択された未知のものの背景を決定するために、2つの例を挙げる。
【0042】
実施例2A:未知のものとしてのサンプルH3
ブランクセットからH3を除外し、残りのサンプルで多項式を再計算した。H3は、その他のサンプルのセットはるか外側に位置し、この例では外挿(extrapolation)をしなければならないことを意味する。結果を図3Cに示す。
【0043】
この多項式はその他の8つのブランクで計算され、右に外挿される。H3(5.806kcps)の第2のPHD窓の測定した計数率は、多項式に入れられ、28.888kcpsという第1の窓(25/75)の背景の計算値を与える。当該サンプルの29.024kcpsという測定値と比べると、相対偏差は−0.0049であり、これは4.9プロミル(pro mille)(すべての値は丸めてある)である。
【0044】
実施例2B:未知のものとしてのサンプルWO3_5
ブランクのセットからサンプルWO3_5(WO3が5%)を除外し、これを未知のものとして使用した。図3Dに示した残りのサンプルのセット(その他の8つのサンプル)で多項式を計算した。
【0045】
サンプルWO3_5のために新たに計算された値は、8.7695kcpsになる。8.7402kcpsという測定値と比べると、相対偏差は0.0033=3.3プロミル(pro mille)となる。
【0046】
本発明は、選択された測定窓(W1)に存在する背景信号に関する情報は当該窓の外のデータのなかに存在するということを教示している。このような背景信号を得るためには、第2の測定窓(W2)を選択してやらなければならない。当業者の誰であっても実施し得ることである測定窓W2を適切に選択したときには、窓W1と窓W2との間にある背景情報を与える関係を確立することができる。
【0047】
上述した操作は、以下の一般アルゴリズムによって公式化することができる。
B(W1未知サンプル)=F{N(W2:W1)ブランクのセット}(N(W2未知サンプル)) (4)
ここで、B(Wi,サンプルj)は、サンプルjのための窓Wiにおける背景信号を意味し、
N(Wi,サンプルj)は、サンプルjのための窓Wiにおける測定された計数を意味し、
F{W2:W1ブランクのセット}はブランクのセットの{N(W2);N(W1)}のx/yデータ点のための適合させた関数(fit-function)を意味する。
【0048】
窓W1におけるサンプルjのための全部の計数(率)を見つけるためには、以下の操作をしてやる必要がある。
N背景補正された(W1未知サンプル)=N(W1未知サンプル)-B(W1未知サンプル) (5)
【0049】
一般的にいえば、本発明によれば、関係が、前に規定したようなタイプのエネルギースペクトルの測定窓の組の間に存在する。多数の実践的なケースでは、第2の窓は、散乱背景(Scatter background)に加えて、マトリックスの元素(element)のおかげで追加の蛍光ピークを含むこともできる。これらのケースでは、キャリブレーションをオーバーラップする追加のエネルギーラインによって、或いは、単純にこのような余計な干渉のないその他の適切な窓を選ぶことによって、これらのピークをはじめに逆畳み込み(デコンボリューション:deconvolution)することも多くの場合可能である。
【0050】
解析の正確さは、σ、計数の統計的誤りに依存する。本発明による方法の場合は、背景位置(当該分野の技術水準によれば)における背景の測定がもはや必要ではないということに応じて測定時間を増すことができるため、背景のσは減じられる。背景信号を差し引くことによって影響される誤差項が、長い測定時間(たとえば100sの代わりに1000s)でブランクを測定することによって減少させることができるため、誤りσをさらに減じることができる。このような長い測定時間は、キャリブレーションステップで使用することができ、これは解析対象のサンプルの実際の測定の前に一回だけ実施しなければならないものである。従って、前述したような長い測定時間は、解析を終えるために必要な未知サンプルの測定時間には影響を与えない。その結果、トータルのLLD(検知の下限:Low Limits of Detection)の利得は、約2までの係数とすることができる。このLLD値はサンプルごとの決定のためのものである。
【0051】
キャリブレーション
キャリブレーションの間、実際の解析のために使用されることとなる、例えばW1とW2などのような同じ窓の組で測定が実施される。一連のブランクサンプルを使用して校正点(x、y)のセットを生じさせる。ここでは、x値は、W2で測定された強度値などのようなデータを表し、y値は、W1で測定された強度値などのようなデータを表す。次に、関数は、W2とW1との間の関係を表すキャリブレーション点(校正点)をつうじて適合される。多くの適切な適合技術が当業者に知られている。キャリブレーションステップは、本発明のすべての具体的な適用のため、および、対象の分光結晶のすべての角度Θのために実行しておく必要がある。
【0052】
基準
ブランクサンプルの選択
ブランクサンプルには検体(analyte)を入れないことが好適である。結果として、ブランクサンプルの組成は解析をしようとしているサンプルの組成と異なることが認識される。
この相違は、とりわけ、異なる測定データ(通常は強度値(intensity values))を生じさせ得るような、異なる実効吸収係数(effective absorption coefficient)μ或いは異なる平均原子量に起因し得るものである。当該技術分野では、この異なる組成は、異なる「マトリクス(matrix)」と称する。
【0053】
マトリクスは、具体的な用途で解析すべきサンプル対して変えることもできる。特定の用途に対するサンプルのマトリクスは小さな変動のみしか示していないときは、W1とW2との間の関係は、線形関数によって非常にうまく説明できることがわかった。マトリクスの変更が大きくなったときは、関数はより複雑になる。
【0054】
一般的にいえば、具体的な用途において予期されるマトリクスの変化の範囲をカバーするために、変化するマトリクスと共に十分な数のブランクサンプルをキャリブレーションのために使わなければならない。
【0055】
W2の選択
組におけるその他の窓を補正するのに使用される、組に含まれる追加の窓は(一般にW2と称する)、当業者によって適切に選択すべきである。望ましくは、W2は、W1におけるデータに影響を与える現象から多分もたらされるようなデータに関連するようなエネルギーを含むべきものとする。幾つかのサンプルは、より高次の反射(higher-order reflections)を生ずる、検体に関連するエネルギーの1つまたは複数の倍数(multiples of energy)を含む追加の測定窓W2,W3,・・・である。追加の窓W3などは、「検出器エスケイプ(detector escape)」に関連するエネルギーを含み得る。
【0056】
W2,W3,・・・の選択は、本発明の意図する用途即ち応用例に強く依存するものであることは明らかであるが、(76/135)としてのW2の選択は広い範囲の用途をカバーすることがわかった。
【0057】
本方法のステップの詳細な上述した説明に基づき、当業者は既知のプログラミング技術を使用することによって本方法のステップを実行するコンピュータプログラムを作り出すことができるであろう。
【0058】
応用分野
本発明は、説明した或いは図示した実施例に限定されるものではない。本発明をシーケンシャルXRF機器の文脈で説明してきたが、その用途は確かにそのとおりであるがこれに限定されるものではない。例えば、本発明による方法は、追加の背景チャネルを陳腐化させるような効果をもたらす、XRF機器(より具体的には同時WD-XRF、シーケンシャルWD-XEF、トータル反射XRF(TXRF)、及び/または、エネルギー分散XRF(ED-XRF機器))と共によく使用される。説明したMCA電子機器は、スケーラー(単一窓)電子機器として同様に使うことができる。後者の場合には、測定窓は順番で計測しなければならない。さらに、本方法の用途はXRF用途のみに限定されず、X線回折(XRD)用途などのような同様のX線解析技術にも適用することができる。
【0059】
本発明による方法は、対象の関連エネルギーを持つ幾つの数の検体(当該分野では主要元素或いは主要として知られる)が存在し得るような、分析サンプルに適することは当業者には明らかである。本明細書で説明したサンプルは説明のみを目的としたものであり、1つの検体のサンプルに言及したものである。
【0060】
本発明は、一般に、前述した説明及び図面に鑑みて付属の請求の範囲内にある何らかの実施態様にまで及ぶものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明による放射線解析装置の実施態様を示す図である。
【図2A】多元(diverse)Cuベース合金の3つのサンプルに関するPHDスペクトルを示す図である。
【図2B】図2Aのサンプルのための測定窓の組の間の関係を示す図である。
【図3A】多元H3BO3ベース及びWO3合金の9つのサンプルに関するPHDスペクトルを示す図である。
【図3B】図3Aのサンプルのための測定窓の組の間の関係を示す図である。
【図3C】図3Aのサンプルのなかかから選択された第1の減少させたセットのための測定窓の組の間の関係を示す図である。
【図3D】図3Aのサンプルのなかかから選択された第2の減少させたセットのための測定窓の組の間の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象サンプルに関するX線エネルギースペクトルの放射線量子の背景補正された計数を決定する方法であって、
対象サンプルから蛍光X線ビームを発生させるステップであって、前記X線ビームは、解析結晶及び検出器に入射されるステップと、
前記解析結晶を、前記蛍光X線ビームに対して角度θが得られるように回転させ、前記検出器を、前記蛍光X線ビームに対して角度2θが得られるように回転させるステップと、
一定の検出器角度2θで、前記検出器を用いて、パルス高分布エネルギースペクトルを測定するステップと、
を有し、以下のステップ:
a)前記パルス高分布エネルギースペクトルにおけるエネルギーの範囲に対応する、2以上の異なる測定窓を規定するステップと、
b)前記測定窓の放射線量子の計数を測定値として測定するステップと、
c)第1及び第2の測定窓から構成される組を選択するステップと、
d)前記測定窓の組の間で規定される関係を使用して、前記第2の測定窓における前記測定値に基づき、前記第1の測定窓のための背景信号を計算するステップと、
e)前記第1の測定窓の放射線量子の計数から前記背景信号を引き、前記第1の測定窓における放射線量子の背景補正された計数を生成するステップと、
が実施されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記関係は、以下のステップ:
i)前記角度θを有する前記解析結晶と、前記検出器角度2θを有する前記検出器とを用いて、前記対象サンプルに関連する一連のブランクサンプルに対して、X線エネルギースペクトルを記録するステップと、
ii)それぞれのX線エネルギースペクトルに対して、前記ステップa)、b)、及びc)を実行し、ブランクサンプルごとに、それぞれの選択された測定窓の組のための測定値(x,y)のセットを生成するステップと、
iii)前記測定値を介した関数の適合を行い、前記関数により、前記測定窓の組の間の関係が規定されるステップと、
によって規定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップd)は、前記関数の結果として、前記第2の測定窓における放射線量子の計数を変数として代入する場合は、前記第1の測定窓における前記背景信号を、計算するステップを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記関係は、以下のステップ:
i)前記対象サンプルに関連する少なくとも1つのブランクサンプルのX線エネルギースペクトルを記録するステップと、
ii)それぞれのX線エネルギースペクトルに対して、前記ステップa)、b)、及びc)を実行し、測定窓のそれぞれの選択された組のための測定値(x,y)のセットを生成するステップと、
iii)前記第1及び第2の測定窓における強度の計数の比率を計算するステップであって、前記比率は、前記第1及び第2の測定窓における強度の計数の間の前記関係を規定する、ステップと、
によって規定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップd)は、前記比率に前記第2の測定窓における放射線量子の計数を乗じて、前記第1の測定窓における前記背景信号を計算するステップを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の測定窓は、実質的に、前記対象サンプルの対象エネルギーを中心とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の測定窓は、実質的に、前記対象サンプルの対象エネルギーの倍数を中心とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の測定窓及び第2の測定窓の組は、実質的に、前記スペクトルの中で隣接して配置されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法のステップを実行するための手段が設けられている放射線解析装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法のステップを実行するためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【公開番号】特開2008−309807(P2008−309807A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253361(P2008−253361)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【分割の表示】特願2003−555195(P2003−555195)の分割
【原出願日】平成14年11月14日(2002.11.14)
【出願人】(503310327)
【Fターム(参考)】