説明

X線分析装置及びX線分析方法

【課題】 測定位置特定の操作性に優れていると共に、高精度で距離測定を行うことができるX線分析装置及びX線分析方法を提供すること。
【解決手段】 試料S上の照射ポイントに1次X線X1を照射するX線管球2と、試料Sから放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器3と、信号を分析する分析器4と、照射ポイントP1を決定するために試料S上を光学的に観察可能な第1観察系5と、該第1観察系5よりも被写界深度が小さくかつ狭域を光学的に観察可能であると共に決定した照射ポイントP1との距離を焦点調整によって測定可能な第2観察系6と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料表面の蛍光X線分析等を行うX線分析装置及びX線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、X線源から出射されたX線を試料に照射し、試料から放出される特性X線である蛍光X線をX線検出器で検出することで、そのエネルギーからスペクトルを取得し、試料の定性分析又は定量分析を行うものである。この蛍光X線分析は、試料を非破壊で迅速に分析可能なため、工程・品質管理などで広く用いられている。近年では、高精度化・高感度化が図られて微量測定が可能になり、特に材料や複合電子部品などに含まれる有害物質の検出を行う分析手法として普及が期待されている。
【0003】
従来、例えば特許文献1には、光学顕微鏡の対物レンズと、X線分析装置のX線発生器とを、同一光軸上で切り替え自在としたレボルバを備えた複合装置が提案されている。この複合装置では、光学顕微鏡によって検出した分析位置に対して、試料の移動及び該移動に伴う分析対象位置の位置合わせを行うことなく、同じ試料位置のままでX線発生器からの1次X線を照射してX線分析を行うことができる。また、この複合装置では、レボルバによって対物レンズの倍率を変えながら試料の観察を行い、z方向の位置合わせは対物レンズの焦点位置と1次X線の焦点位置とを一致するように予め設定している。
【0004】
【特許文献1】特開2007−292476号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
従来のX線分析装置では、まず測定位置を特定して指定するために光学顕微鏡で試料観察を行っているが、定量分析等を行う場合には、特定した測定位置(照射ポイント)とX線源等のX線光学系との距離を高精度に測定する必要がある。上記特許文献1に記載の技術では、対物レンズの焦点位置と1次X線の焦点位置とを一致するように予め設定しているため、測定位置までの距離を測定する構成を採用してはいない。また、この技術では、光学顕微鏡とX線光学系とを同軸に配するためにミラー等の光学系を用いているが、測定位置を特定するために視野が大きい光学顕微鏡が好ましく、この場合、大型のミラー等の光学系が必要になる。しかしながら、ミラーのために大きなスペースが必要になってX線源と試料との距離が離れてしまい、高い感度が得難くなるという不都合があった。
また、光学顕微鏡によって測定位置とX線源等のX線光学系との距離を測定する手法として光学顕微鏡の焦点距離によって測定する方法がある。この方法の場合、特に凹凸のある試料に対して測定位置を指定する際は被写界深度が大きい方が操作性が高いのに対し、測定位置との距離を測定する際には高い精度で距離測定を行うために被写界深度の小さい方が望ましい。このため、測定位置を特定する光学顕微鏡を用いて距離測定を行う場合は、被写界深度が大きく、距離測定の精度が低いという不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、測定位置特定の操作性に優れていると共に、高精度で距離測定を行うことができるX線分析装置及びX線分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のX線分析装置は、試料上の照射ポイントに放射線を照射する放射線源と、前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、前記信号を分析する分析器と、前記照射ポイントを決定するために前記試料上を光学的に観察可能な第1観察系と、該第1観察系よりも被写界深度が小さくかつ狭域を光学的に観察可能であると共に決定した前記照射ポイントとの距離を焦点調整によって測定可能な第2観察系と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のX線分析方法は、放射線源から試料上の照射ポイントに放射線を照射し、X線検出器により前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力すると共に、分析器により前記信号を分析するX線検出方法であって、第1観察系により、前記試料上を光学的に観察して前記照射ポイントを決定するステップと、前記第1観察系よりも被写界深度が小さく狭域を光学的に観察可能な第2観察系により、決定した前記照射ポイントとの距離を焦点調整によって測定するステップと、を有していることを特徴とする。
【0009】
これらのX線分析装置及び方法では、第1観察系で照射ポイントを決定するために試料上を光学的に観察し、該第1観察系よりも被写界深度が小さくかつ狭域な光学的に観察可能な第2観察系で照射ポイントとの距離を焦点調整によって測定するので、広域で被写界深度の大きい第1観察系によって照射ポイントを特定することで高い操作性を得ることができると共に、狭域で被写界深度の小さい第1観察系によって試料との距離を高精度に測定することができる。
【0010】
また、本発明のX線分析装置は、前記第2観察系で測定した前記照射ポイントとの距離に基づいて前記放射線源と前記照射ポイントとの距離を算出し、該距離に応じて前記分析器で分析した結果を補正する処理部を備えていることを特徴とする。
また、本発明のX線分析方法は、処理部により、前記第2観察系で測定した前記照射ポイントとの距離に基づいて前記放射線源と前記照射ポイントとの距離を算出し、該距離に応じて前記分析器で分析した結果を補正するステップを有していることを特徴とする。
【0011】
すなわち、これらのX線分析装置及び方法では、処理部が第2観察系で測定した照射ポイントとの距離に基づいて放射線源と照射ポイントとの距離を算出し、該距離に応じて分析器で分析した結果を補正するので、定量計算等に上記補正を行うことで高い精度の定量分析等が可能になる。
【0012】
また、本発明のX線分析装置は、前記第1観察系と前記第2観察系とが互いに異なる位置に配置され、前記試料を載置する試料ステージと、該試料ステージを前記第1観察系による観察領域と前記第2観察系による観察領域との間で移動可能な移動機構と、を備え、前記放射線源から出射される放射線の光軸上に前記第2観察系の光学部材が移動可能に設置されていることを特徴とする。すなわち、このX線分析装置では、放射線源から出射される放射線の光軸上に第2観察系の光学部材が移動可能に設置されているので、第2観察系が視野の狭い光学系であり、採用するミラー等の光学部材として小さな配置スペースで済む小型のものを使用可能である。したがって、第1観察系の光学部材を上記光軸上に配する場合に比べて、放射線源と試料とを近づけることが可能になり、より良好な感度を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法によれば、第1観察系で照射ポイントを決定するために試料上を光学的に観察し、該第1観察系よりも被写界深度が小さくかつ狭域な光学的に観察可能な第2観察系で照射ポイントとの距離を焦点調整によって測定するので、広域で被写界深度の大きい第1観察系によって照射ポイントを特定することで高い操作性を得ることができると共に、狭域で被写界深度の小さい第1観察系によって試料との距離を高精度に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法の一実施形態を、図1を参照しながら説明する。
【0015】
本実施形態のX線分析装置は、例えばエネルギー分散型の蛍光X線分析装置であって、図1に示すように、試料Sを載置すると共に移動可能な試料ステージ1と、試料S上の任意の照射ポイントP1に1次X線(放射線)X1を照射するX線管球(放射線源)2と、試料Sから放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器3と、X線検出器3に接続され上記信号を分析する分析器4と、照射ポイントP1を決定するために試料S上を光学的に観察可能な第1観察系5と、該第1観察系5よりも被写界深度が小さくかつ狭域を光学的に観察可能であると共に決定した照射ポイントP1との距離を焦点調整によって測定可能な第2観察系6と、試料ステージ1を第1観察系5による観察領域と第2観察系6による観察領域との間で移動可能な移動機構7と、分析器4に接続され特定の元素に対応したX線強度を判別する解析処理を行う処理部8と、を備えている。
【0016】
上記X線管球2は、管球内のフィラメント(陽極)から発生した熱電子がフィラメント(陽極)とターゲット(陰極)との間に印加された電圧により加速されターゲットのW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)などに衝突して発生したX線を1次X線X1としてベリリウム箔などの窓から出射するものである。
【0017】
上記X線検出器3は、X線の入射窓に設置されている半導体検出素子(例えば、pin構造ダイオードであるSi(シリコン)素子)(図示略)を備え、X線光子1個が入射すると、このX線光子1個に対応する電流パルスが発生するものである。この電流パルスの瞬間的な電流値が、入射した特性X線のエネルギーに比例している。また、X線検出器3は、半導体検出素子で発生した電流パルスを電圧パルスに変換、増幅し、信号として出力するように設定されている。
【0018】
上記分析器4は、上記信号から電圧パルスの波高を得てエネルギースペクトルを生成する波高分析器(マルチチャンネルパルスハイトアナライザー)である。
上記第1観察系5は、第2観察系6と異なる位置に配置されて第2観察系6の観察領域と別の位置に観察領域を有し、該観察領域に配置された試料Sの拡大画像等を視認及び撮像可能な観察用カメラ等で構成された光学顕微鏡である。
【0019】
上記第2観察系6は、複数設置されたミラー6aを介して試料Sの拡大画像等を視認及び撮像可能な光学顕微鏡及び観察用カメラ等で構成された光学顕微鏡である。なお、少なくとも1次X線X1の光軸上に配されたミラー6aは、可動式であって、分析時には1次X線X1の光軸上から退避可能になっている。
【0020】
上記試料ステージ1は、試料Sを固定した状態で上下左右の水平移動及び高さ調整可能なXYZステージである。
また、上記移動機構7は、試料ステージ1に接続又は内蔵されて試料ステージ1を上下左右に移動させるステッピングモータ等で構成されている。この移動機構7は、試料ステージ1を第1観察系5による観察領域と第2観察系6による観察領域との間で移動可能とされている。
【0021】
上記処理部8は、CPU等で構成され解析処理装置として機能するコンピュータであり、分析器4から送られるエネルギースペクトルから特定の元素に対応したX線強度を判別する制御部本体8aと、これに基づいて分析結果を表示するディスプレイ部8bと、照射ポイントP1の位置入力等の各種命令や分析条件等を入力可能な操作部8cと、を備えている。
この処理部8は、第2観察系6で測定した照射ポイントP1との距離に基づいてX線管球2と照射ポイントP1との距離を算出し、該距離に応じて分析器4で分析した結果を補正する機能を有している。
【0022】
これら試料ステージ1、X線管球2、X線検出器3、第1観察系5及び第2観察系6等は、減圧可能な試料室9に収納され、X線が大気中の雰囲気に吸収されないように測定時には、試料室9内が減圧されるようになっている。
【0023】
次に、本実施形態のX線分析装置を用いたX線分析方法について、図1を参照して説明する。
【0024】
まず、試料ステージ1上に試料Sをセットした後、試料室9内を所定の減圧状態とし、処理部8は、移動機構7によって試料ステージ1を駆動して試料Sを移動し、第1観察系5の観察領域に配する。さらに、第1観察系5によって試料Sの表面を広域観察して照射ポイントP1を任意に決定し、指定することで、指定した照射ポイントP1のXY座標を記録する。なお、この際、多点分析を行うために複数の照射ポイントP1を指定しても構わない。
【0025】
次に、処理部8が、移動機構7によって試料ステージ1を駆動して試料Sを移動し、第2観察系6の観察領域に配する。さらに、第2観察系6によって試料Sの表面を狭域観察して上記XY座標の照射ポイントP1において焦点位置を変化させながら画像処理を用いて最も焦点が合った距離を計測し、その情報から照射ポイントP1からX線管球2までの距離を算出する。なお、複数の照射ポイントP1を指定した場合は、各照射ポイントP1について上記距離を測定、算出する。
【0026】
この後、1次X線X1の光軸上のミラー6aを退避させ、X線管球2から1次X線X1を試料Sに照射することにより、発生した特性X線及び散乱X線をX線検出器3で検出する。
さらに、X線を検出したX線検出器3は、その信号を分析器4に送り、分析器4はその信号からエネルギースペクトルを取り出し、処理部8へ出力する。
【0027】
処理部8では、分析器4から送られたエネルギースペクトルから特定元素に対応するX線強度を判別し、これらの分析結果をディスプレイ部8bに表示する。
この際、処理部8では、算出したX線管球2と照射ポイントP1との距離に応じて分析器4で分析した結果(分析対象の元素の濃度や膜厚)を補正し、正確な定量を行う。
【0028】
このように本実施形態のX線分析装置及びX線分析方法では、第1観察系5で照射ポイントP1を決定するために試料S上を光学的に観察し、該第1観察系5よりも被写界深度が小さくかつ狭域な光学的に観察可能な第2観察系6で照射ポイントP1との距離を焦点調整によって測定するので、広域で被写界深度の大きい第1観察系5によって照射ポイントP1を特定することで高い操作性を得ることができると共に、狭域で被写界深度の小さい第1観察系5によって試料との距離を高精度に測定することができる。
【0029】
また、処理部8が第2観察系6で測定した照射ポイントP1との距離に基づいてX線管球2と照射ポイントP1との距離を算出し、該距離に応じて分析器で分析した結果を補正するので、定量計算等に上記補正を行うことで高い精度の定量分析等が可能になる。
【0030】
さらに、X線管球2から出射される1次X線X1の光軸上に第2観察系6の光学部材であるミラー6aが移動可能に設置されているので、第2観察系6が視野の狭い光学系であり、採用するミラー6aとして小さな配置スペースで済む小型のものを使用可能である。したがって、第1観察系5の光学部材を上記光軸上に配する場合に比べて、X線管球2と試料Sとを近づけることが可能になり、より良好な感度を得ることができる。
【0031】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態では、試料室内を減圧雰囲気にして分析を行っているが、真空(減圧)雰囲気でない状態で分析を行っても構わない。
また、上記実施形態は、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置であるが、本発明を、他の分析方式、例えば波長分散型の蛍光X線分析装置や、照射する放射線として電子線を使用し、二次電子像も得ることができるSEM−EDS(走査型電子顕微鏡・エネルギー分散型X線分析)装置に適用しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法の一実施形態において、X線分析装置を示す概略的な全体構成図である。
【符号の説明】
【0034】
1…試料ステージ、2…X線管球(放射線源)、3…X線検出器、4…分析器、5…第1観察系、6…第2観察系、8…処理部、S…試料、P1…照射ポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の照射ポイントに放射線を照射する放射線源と、
前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、
前記信号を分析する分析器と、
前記照射ポイントを決定するために前記試料上を光学的に観察可能な第1観察系と、
該第1観察系よりも被写界深度が小さくかつ狭域を光学的に観察可能であると共に決定した前記照射ポイントとの距離を焦点調整によって測定可能な第2観察系と、を備えていることを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線分析装置において、
前記第2観察系で測定した前記照射ポイントとの距離に基づいて前記放射線源と前記照射ポイントとの距離を算出し、該距離に応じて前記分析器で分析した結果を補正する処理部を備えていることを特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のX線分析装置において、
前記第1観察系と前記第2観察系とが互いに異なる位置に配置され、
前記試料を載置する試料ステージと、
該試料ステージを前記第1観察系による観察領域と前記第2観察系による観察領域との間で移動可能な移動機構と、を備え、
前記放射線源から出射される放射線の光軸上に前記第2観察系の光学部材が移動可能に設置されていることを特徴とするX線分析装置。
【請求項4】
放射線源から試料上の照射ポイントに放射線を照射し、X線検出器により前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力すると共に、分析器により前記信号を分析するX線検出方法であって、
第1観察系により、前記試料上を光学的に観察して前記照射ポイントを決定するステップと、
前記第1観察系よりも被写界深度が小さく狭域を光学的に観察可能な第2観察系により、決定した前記照射ポイントとの距離を焦点調整によって測定するステップと、を有していることを特徴とするX線分析方法。
【請求項5】
請求項4に記載のX線分析方法において、
処理部により、前記第2観察系で測定した前記照射ポイントとの距離に基づいて前記放射線源と前記照射ポイントとの距離を算出し、該距離に応じて前記分析器で分析した結果を補正するステップを有していることを特徴とするX線分析方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−48727(P2010−48727A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214716(P2008−214716)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】