説明

X線撮影装置及び測定方法

【課題】 特別な構成を設けることなくX線曝射の開始及び停止において生じる遅延時間を簡易で安価に測定する技術を提供する。
【解決手段】 X線を曝射してX線画像を取得するX線撮影装置は、X線を出力する出力手段と、出力手段に制御信号を供給してX線出力に係る動作を制御する制御手段と、出力されたX線を検出して電荷を蓄積する複数の検出素子を備えた検出手段と、複数の検出素子を一定の速度で順に走査して、各検出素子に蓄積された電荷を読み出す読出手段と、各検出素子の電荷を画素値に変換して画像を生成する生成手段と、生成した画像を解析して、制御信号の出力に対する、出力手段のX線出力に係る動作の遅延を測定する測定手段とを備える。出力手段は検出手段が備える各検出素子に対して一定強度のX線を出力し、測定手段は、画像において画素値の変化が存在する領域と存在しない領域との境界の位置と、走査の速度とに基づいて遅延を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線撮影装置及び測定方法に関し、特に、X線出力動作に係る遅延を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板上に成膜、形成したアモルファスシリコンやポリシリコンを材料として検出素子とTFTを作成し、作成された検出素子とTFTを二次元的に配列した平面検出器を用いたX線撮影装置が知られている。これらの装置としては様々なタイプがあるが、一般的にX線が平面検出器に入射すると、蛍光体によりX線は可視光に波長変換される。変換光は検出素子により電荷に変換され、検出素子内に電荷として蓄積される。そして、TFTが行毎にオンすることにより、平面検出器に蓄積された電荷が逐次読み出されて画素値に変換される。このような平面検出器を用いたX線撮影装置においては、X線を曝射するX線発生装置(X線光源)と平面検出器との間に被写体を設置し、被写体を透過したX線の平面検出器上における強度分布に従って画像が形成される。
【0003】
近年、静止画の撮影だけでなく、動画を撮影可能な平面検出器が開発されている。
静止画像の撮影を高速に繰り返す動画撮影においては、
・X線発生装置にX線曝射を示す信号が入力されるタイミングと、それに応じてX線発生装置からX線曝射が開始されるタイミングとのずれ(X線曝射開始遅延時間)。
・X線発生装置にX線曝射の停止を示す信号が入力されるタイミングと、それに応じてX線発生装置からのX線曝射が停止されるタイミングとのずれ(X線曝射停止遅延時間)。
が動画像品質に影響を及ぼしうる。この点について、図7〜9を参照して説明する。図7は、動画撮影モードのX線曝射信号、X線強度及び読出しの関係を示すタイミングチャートである。
【0004】
平面検出器はX線曝射に起因する電荷の蓄積と電荷の読出しとを交互に繰り返す。図7において「読出し」は、平面検出器からの電荷の読み出しを行う期間を示しており、Hiの期間は電荷を読み出す期間、Loの期間は電荷を読み出さない期間(図7の例では電荷の蓄積が行われている)を示している。
【0005】
電荷を読み出して画像を撮影する場合、一般的にオフセット補正が行われるが、平面検出器を有する動画撮影装置のオフセット補正及び駆動の手法が知られている(特許文献1)。図7は、1回のX線曝射に対して2回の電荷の読み出しを行い、X線曝射後に読み出した画像からX線曝射しない時に読み出した画像を減算することによりX線画像を作成する場合のタイミングチャートを示している。
【0006】
図7において「X線曝射信号」はX線発生装置に対して供給されるX線曝射信号の推移を示しており、X線曝射信号がHiの期間はX線曝射、Loの期間はX線曝射の停止を示している。不図示のX線発生装置はX線曝射信号がHiになるとX線曝射を開始し、X線曝射信号がLoになるとX線曝を停止する。ただし、X線曝射信号がHiになってから実際のX線曝射が開始するまで時間(X線曝射開始遅延時間)がかかり、またX線曝射信号がLoになってから実際のX線曝射が停止するまでに時間(X線曝射停止遅延時間)を要する。図7において「X線強度」はX線発生装置から実際に出力されるX線の強度の推移を示している。図7において、X線曝射開始遅延時間はTa、X線曝射停止遅延時間はTbである。また、X線曝射は電荷の蓄積中に行なわれる。
【0007】
動画撮影のフレームレートが高い場合、フレーム間隔に対してX線曝射開始遅延時間及びX線曝射停止遅延時間の大きさが相対的に大きくなる。図8は、動画撮影モードのフレームレートが高い場合のX線曝射信号、X線強度及び読出しとのタイミングチャートである。
【0008】
動画撮影時のフレームレートが高くなると、電荷の読出し時間は一定であるので、電荷の蓄積期間が狭くなる。そして、X線曝射にはX線曝射開始遅延時間とX線曝射停止遅延時間が存在するために、実際のX線曝射と電荷の読出しが重なってしまうことがありうる。図8において、斜線で示す部分は、実際のX線曝射と電荷の読出しとが重なっている部分を示している。重なっている時間はTcである。
【0009】
通常、X線画像を撮影するためには、所定のX線線量を曝射する必要がある。したがって、X線曝射と電荷の読出しが重なると、曝射されたX線の強度が蓄積電荷に反映されないため、X線画像の品質が劣化する。
【0010】
所定のX線線量を曝射するには、X線曝射信号をHiにする時間を所定時間確保するか、X線曝射信号のHiの期間を短くして、X線発生装置のX線管電流やX線間電圧を上げることが考えられる。これらのうち後者のように、X線発生装置のX線管電流を増やすとX線発生装置が高価になり、またX線間電圧を上げ過ぎると撮影したX線画像のコントラストが低下するという問題がある。そのため、所定のX線線量を曝射するために、X線曝射信号のHiにする時間を所定時間確保する手法が一般的に採用されている。その上で、動画撮影時のフレームレートを上げるために、電荷読出しを終了してからX線曝射を開始するまでの時間、及び、X線曝射を終了してから電荷読出しを開始するまでの時間をできるだけ小さくする必要がある。
【0011】
図9は、電荷読出しの終了と同時にX線曝射が開始し、さらにX線曝射の終了と同時に電荷読出しが開始する場合の、X線曝射信号、X線強度及び読出しとの関係を示すタイミングチャートである。
【0012】
図9では、予めX線曝射開始遅延時間TaとX線曝射停止遅延時間Tbを測定しておく。そして、電荷読出し終了のタイミングから測定したTaだけ早くX線曝射信号をHiにするとともに、電荷読出し開始のタイミングからTbだけ早めにX線曝射信号をLoにする。このような制御を行うことにより、実際のX線曝射の期間と電荷の読出しの期間とを重ねることなく、フレームレートを極力高めることができる。
【0013】
通常、平面検出器は撮影部位や撮影目的によって様々なX線発生器と接続することができるが、X線発生器によってX線曝射開始遅延時間とX線曝射停止遅延時間が異なる。そのため、X線曝射開始遅延時間とX線曝射停止遅延時間とは、使用する装置毎に予め測定しておく必要がある。
【0014】
X線曝射開始遅延時間とX線曝射停止遅延時間を測定し、測定した遅れ時間を補正して曝射開始タイミング及び曝射終了タイミングを補正する構成が特許文献2に記載されている。また、読出しタイミングを測定するために、平面検出器とは異なるX線検出器を平面検出器の外側に設ける構成が特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−301053号公報
【特許文献2】特開昭62−276798号公報
【特許文献3】特開2004−166728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、特許文献2の構成では、X線曝射開始遅延時間TaとX線曝射停止遅延時間Tbとを測定する具体的手法が記載されていない。通常、実際のX線強度を測定するためのX線検出器を別に用意して、そのX線検出器の出力と、X線曝射信号及び読出し信号をオシロスコープ等で測定する必要があり、測定するのに手間隙がかかるという課題があった。
【0017】
また、特許文献3の構成では、X線曝射開始遅延時間TaとX線曝射停止遅延時間Tbを測定するのに、平面検出器の外側に別のX線検出器を設ける必要があるため、コストが高くなるという問題があった。
【0018】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、特別な構成を設けることなくX線曝射の開始及び停止において生じる遅延時間を簡易で安価に測定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明によるX線撮影装置は以下の構成を備える。即ち、
X線を曝射してX線画像を取得するX線撮影装置であって、
X線を出力する出力手段と、
前記出力手段に制御信号を供給して当該出力手段のX線出力に係る動作を制御する制御手段と、
前記出力手段により出力されたX線を検出して電荷を蓄積する複数の検出素子を備えた検出手段と、
前記複数の検出素子を一定の速度で順に走査して、各検出素子に蓄積された電荷を読み出す読出手段と、
読み出した各検出素子の電荷を画素値に変換して、画像を生成する生成手段と、
生成した前記画像を解析して、前記制御信号の出力に対する、前記出力手段のX線出力に係る動作の遅延を測定する測定手段と
を備え、
前記出力手段は前記検出手段が備える各検出素子に対して一定強度のX線を出力し、
前記測定手段は、前記画像において画素値の変化が存在する領域と存在しない領域との境界の位置と、前記走査の速度とに基づいて前記遅延を測定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、特別な構成を設けることなくX線曝射の開始及び停止において生じる遅延時間を簡易で安価に測定する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るX線撮影装置の構成を示す概略ブロック図
【図2】本発明の実施形態に係る平面検出器の構成を示す概略平面図
【図3】、
【図4】、
【図5】、
【図6】本発明の実施形態に係るX線曝射の遅延時間測定のタイミングチャート
【図7】、
【図8】、
【図9】動画撮影におけるX線曝射及び電荷読出しに係るタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
<<実施形態1>>
(X線撮影装置の構成)
図1に、本実施形態に係るX線撮影装置の概略ブロック図を示す。101はX線曝射を制御するX線発生器、102はX線を曝射するX線管球である。100は被験者(被写体)、103は被験者100を透過したX線を検知するための平面検出器、104は平面検出器103から読み出したX線画像を表示するための表示部、105はX線撮影装置全体を制御する制御部である。
【0024】
制御部105はX線発生器101とX線曝射信号で接続しており、制御部105がX線曝射信号を制御(Hi又はLo)にすることによって、X線発生器101はX線曝射を開始又は停止する。そして、制御部105は、静止画撮影モードの場合は1回のX線曝射、動画撮影モードの場合はX線をパルス的に連続して曝射するように制御する。なお、X線曝射の遅延時間を測定する際は、被写体である被験者は存在しない状態で撮影する。
【0025】
また、制御部105は平面検出器103と読出し開始信号で接続しており、制御部105が読出し開始信号を制御(Hi又はLo)にすることによって、平面検出器103は読出しを開始する。また、制御部105は平面検出器103とMODE信号線で接続しており、制御部105はMODE信号線を制御(Hi又はLo)にすることによって、静止画撮影モードと動画撮影モードとを切り換える。平面検出器103は、本実施形態では、ゲート線を1行毎にオンすることによって平面検出器103から電荷が逐次読み出される。このように、本実施形態では、平面検出器を構成する検出素子の電荷を一行ずつ読み出して画像を取得するが、電荷の読み出しに係る走査の速度は一定であり、予め知られている。
【0026】
更に、制御部105はX線曝射タイミングと平面検出器103の読出しタイミングとを制御するタイミング制御部106を有している。タイミング制御部106は、通常、X線曝射が平面検出器103の蓄積期間中に行われるように制御する。特に、X線曝射開始遅延時間TaとX線曝射停止遅延時間Tbを測定する時は、平面検出器103の読出し中にX線曝射を開始して、かつ停止するようにX線発生器101を制御する。
【0027】
また、制御部105は、平面検出器103の読出し中にX線曝射した画像を解析することによりX線曝射に係る遅延時間を測定する遅延時間測定部(X線曝射遅延時間測定部)107を有している。遅延時間測定部107は、開始遅延測定部(X線曝射開始遅延時間測定部)108と、停止遅延測定部(X線曝射停止遅延時間測定部)109を備える。開始遅延測定部108は、X線曝射を示す信号入力から実際にX線が曝射されるまでのX線曝射開始遅延時間を測定する。停止遅延測定部109は、X線曝射の停止を示す信号入力から実際にX線曝射が停止するまでのX線曝射停止遅延時間を測定する。後述するように、本実施形態では、均一なX線を曝射し、一定速度で走査して取得した画像において画素値の変化が見られる領域と見られない領域との境界の位置と、電荷の読出しに係る走査速度に基づいて、X線曝射の遅延時間を測定する。
【0028】
(平面検出器の構成)
図2は平面検出器103の概略平面図を示している。図2の平面検出器103は、受光したX線信号を電荷に変換する検出素子が格子状に設けられた構成を有する。検出素子の数は、実際には、例えば2000×2000程度の数になる。検出素子においてX線信号から変換された電荷は、それぞれ対応するコンデンサに蓄えられる。
【0029】
図2では紙面の縦方向にX軸を設定している。本実施形態では、検出素子の読出し順序はX座標が増える方向(本実施形態では上から下)とする。また、平面検出器103の一番上の行の座標をX1、一番下の行の座標をX6としている。座標X2〜X5は、座標X1及びX6の間の行の座標である。本実施形態では、平面検出器を構成する検出素子の電荷を一行ずつ一定速度で読み出すが、X2、X4はX線曝射信号の立ち上がり/立ち下がりの位置に対応し、X3、X5は実際のX線曝射の開始/終了の時点の位置に対応する。そして、本実施形態では、T1、T2、T4、T6の時刻は予め決まっているで、X1、X2、X4、X6の値は予め算出でき、装置に設定されている。ただし、X1、X2、X4、X6の値はX線曝射の遅延測定ごとに、X線曝射信号の切り替えタイミングに応じて算出してもよい。
【0030】
縦線110は、平面検出器103において画素値を検出する位置を示している。図2に示す縦線110の位置は説明を分かりやすくするための一例であり、例示したものに限られない。
【0031】
(動画撮影モードでのX線曝射)
図3は、動画撮影モードで1回のX線曝射を行った際の、X線曝射信号、X線強度、読出し開始信号、電荷の読出し、及び読出した画素値の時間的推移を示すタイミングチャートである。時刻T1〜T6は、図2に示した平面検出器103のX座標X1〜X6を読み出した時刻に対応する。
【0032】
図3において、タイミング制御部106は、時刻T1に、読出し開始信号をHi、かつ電荷の読出し中にX線曝射信号をHiにしている。入力される読出し開始信号がHiになると平面検出器103は電荷の読出しを開始する。入力されるX線曝射信号がHiになると、X線発生器101はX線管球102からX線を曝射するように制御する。また、タイミング制御部106は所定時間経過後に読出し開始信号をLo(図3の例では時刻T1と時刻T2の間)、電荷の読出し中にX線曝射信号をLo(図3の例では時刻T4)にする。平面検出器103は読出し開始信号がLoになっても影響を受けず、全ての行を読み出すまで読出し動作を続ける。一方、X線発生器101は入力されるX線曝射信号がLoになると、X線曝射を停止する。このようにして、タイミング制御部106は電荷の読出し中にX線曝射が行われるように制御する。タイミング制御部106がX線曝射信号をHiにする期間はX線撮影装置によって様々であるが、30FPSのフレームレートで動画撮影をするX線撮影装置の場合は、通常、数ms程度である。
【0033】
図3において、図7と同様に、X線曝射信号はX線曝射するための信号、X線強度は実際に曝射されたX線の強さ、読出しは平面検出器からの電荷の読み出し、画素値は図2の平面検出器の縦線110での画素値を示している。
【0034】
そして、前述のように、時刻T1〜T6は、図2に示した平面検出器103のX座標X1〜X6を読み出した時刻に対応する。すなわち、時刻T1は電荷の読出しを始めた時刻であり、同時に平面検出器103の座標X1の電荷を読み出した時刻である。T6は電荷の読出しが終わった時刻であり、同時に平面検出器103の座標X6の電荷を読み出した時刻である。時刻T2はX線曝射信号をHiにした時刻であり、同時に平面検出器103の座標X2の電荷を読み出した時刻である。そして、X線曝射信号がHiになるとX線発生器101はX線管球102からX線を曝射する。ただし、既に説明した様に、X線曝射開始遅延時間があるために、実際のX線は時刻T3から始まる。そして、時刻T3は平面検出器の座標X3行の電荷を読み出した時刻でもある。時刻T4はX線曝射信号をLoにした時刻であり、同時に平面検出器103の座標X4の電荷を読み出した時刻である。そして、X線曝射信号がLoになるとX線発生器101はX線管球102からのX線を曝射を停止する。ただし、X線曝射停止遅延時間があるために、実際のX線は時刻T5で終了する。そして、時刻T5は平面検出器103の座標X5の電荷を読み出した時刻でもある。なお、前述のように、X1、X2、X4、X6の値は予め知られており、装置に設定されている。
【0035】
(X線曝射に係る遅延時間の測定)
次に、開始遅延測定部108と停止遅延測定部109によるX線曝射に係る遅延時間の測定手順について説明する。開始遅延測定部108と停止遅延測定部109は、電荷の読出し中にX線曝射した画像を解析することにより、X線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間を測定する。
【0036】
具体的には、図3に示すように、電荷を読み出した時刻T1から実際にX線が曝射された時刻T3まで画素値は一定の値である。そして、時刻T3を過ぎると画素値が増加し、実際のX線曝射が停止した時刻T5まで画素値が増加する。この時、画素値は、実際のX線が曝射した時刻T3から電荷を読み出した時刻T5まで、X線強度を積分した値になる。その後、実際のX線曝射が停止すると、画素値の読出しが終了した時刻T6まで一定の値となる。
【0037】
また、前述のように、平面検出器103からの電荷の読出しは一定の時間(本実施形態ではTf)で行単位に読み出される。このTfの値は予め知られており、装置に設定されている。このため、X線曝射信号をHiにした時刻T2、X線曝射信号をLoにした時刻T4とすると、時刻T2と時刻T4の時に読み出した座標X2とX4は下記の式で計算できる。
【0038】
X2=X1+(T2−T1)/Tf (1)
【0039】
X4=X1+(T4−T1)/Tf (2)
従って、開始遅延測定部108は、式(1)で計算した座標X2と、画素値が増加した増加した時の座標X3を用いて、次の式でX線曝射開始遅延時間Taを計算する。
【0040】
Ta=(X3−X2)/Tf (3)
同様に、停止遅延測定部109は、式(2)で計算した座標X4と、画素値が増加した後に一定の画素値になった座標X5を用いて、次の式でX線曝射開始遅延時間Tbを計算する。
【0041】
Tb=(X5−X4)/Tf (4)
【0042】
上記のように、本実施形態では、検出素子に蓄積された電荷の読出しが一定の速度で行われることに着目して、一定強度の均一なX線により撮影された画像を解析することにより、X線曝射に係る遅延を測定する。すなわち、画素値の変化が存在する領域と存在しない領域との境界の位置と、電荷の読出しに係る走査の速度とに基づいて、遅延を測定する。特に、本実施形態では、制御部からX線発生器に供給されるX線曝射信号(制御信号)が切り替わるタイミングに走査している平面検出器の検出素子と上記境界との間の距離を、走査速度で走査するのに要する時間を上記遅延として測定する。このため、本実施形態の構成によれば、既存のX線撮影装置の構成要素の他に特別な装置を設けることなく、簡易・安価にX線曝射に係る遅延時間を測定することが可能である。
【0043】
本実施形態では、次の2つの遅延時間を測定する場合を説明したが、特定対象はどちらか一方でもよい。
・X線曝射信号がX線出力停止を示す信号からX線出力を示す信号へ切り替わってから、X線発生器が実際にX線出力を開始するまでの遅延(X線曝射開始遅延時間)。
・X線曝射信号がX線出力を示す信号からX線出力停止を示す信号へ切り替わってから、X線発生器が実際にX線出力を停止するまでの遅延(X線曝射停止遅延時間)。
【0044】
また、図3において、行単位で読み出した画素値は、実際のX線が曝射した時刻T3から電荷を読み出した時刻までX線強度を積分した値になるので、行毎に差分を計算すればX線強度が計算できる。そして、この計算したX線強度、X線曝射信号、読出し信号及び画素値等を表示部104に表示すれば、オシロスコープ等で測定したように、これらの信号のタイミングが視覚的に見ることができる。
【0045】
そして、測定したX線曝射開始遅延時間TaとX線曝射開始遅延時間Tbを制御部105は不図示の記憶装置に記憶し、通常の撮影時にこの測定値を用いて、特許文献2に記載の手法で撮影すれば良好なX線画像が撮影できる。
【0046】
以上の手法により、開始遅延測定部108はX線曝射開始遅延時間Taを測定し、停止遅延測定部109はX線曝射開始遅延時間Tbを測定することができる。
【0047】
本実施形態では、遅延時間測定部107は開始遅延測定部108と停止遅延測定部109の両方を備えた構成を説明したが、開始遅延測定部108、停止遅延測定部109のいずれか一つを備える構成としてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、検出素子の読出し順序は平面検出器103の上から下として説明しているが、これに限定されるものではない。例えば平面検出器103の上から下と下から上の両側から読み出してもよいし、或いは横方向に読み出してもよい。また、本実施形態では、平面検出器を駆動する構成を説明したが、これに限定されるものではなく、例えばMIS型フォトダイオードを用いてもよい。
【0049】
また、本実施形態では、図3に示した画素値は、図2に示した縦線110での画素値として説明したが、これに限定されるものではなく、例えば行単位で画素値を平均した平均画素値でもよい。また、本実施形態では、測定したX線曝射開始遅延時間TaとX線曝射開始遅延時間Tbを制御部105が記憶するとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えばX線発生器101や平面検出器103が記憶してもよい。
【0050】
また、タイミング制御部106がX線曝射信号をHiにする期間は数ms程度であるとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば不図示の入力装置によって入力された時間だけ、X線曝射信号をHiにしてもよい。また、本実施形態では、制御部105内にタイミング制御部106があるとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えばX線発生器101や平面検出器103にあってもよい。
【0051】
<<実施形態2>>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態に係るX線撮影装置は、実施形態1のX線撮影装置と同様の構成を有し、タイミング制御部106は同様に電荷の読出し中にX線を曝射するように制御する。実施形態1と異なるのは、本実施形態では、X線曝射を複数回曝射し、オフセット補正するための読出し、X線曝射中の読出し、及び検出素子をリセットする読出しを行う点である。
【0052】
動画撮影モードのX線曝射信号、X線強度及、読出し開始信号、読出し及び読み出した画素値のタイミングチャートを図4に示す。図4において、RDはX線を曝射しない場合の読出し、RXはX線を曝射した場合の読出し、RRは検出素子に蓄積された電荷をリセットするための読出しを示している。そして、RD1、RX1、RR1はそれぞれ1回目の読出し、RD2、RX2はそれぞれ2回目の読出しを表す。そして、n枚目のオフセット補正した画像の画素値Inは(nは1以上の自然数)は式(5)で得られる。ただし、式(5)でのRXn、RDnは、n回目の読出しによる画素値を示している。
【0053】
In=RXn−RDn (n=1、2、…) (5)
【0054】
また、開始遅延測定部108と停止遅延測定部109とを備える遅延時間測定部107は、オフセット補正した画像Inを解析することによって、X線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間とを測定する。測定手順は、実施形態1と同様であるので説明を省略する。
【0055】
更に、X線曝射を複数回行うことによって、X線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間を複数回測定する。そして、測定した複数回のX線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間の中で、最も大きい測定値をそれぞれX線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間とする。
【0056】
また、時刻T41〜T43は図2の座標X4を読み出した時の時刻であり、時刻T41はRX1読出し中の時刻、T42は読出しRR1中の時刻、時刻T43は読出しRD2中の時刻である。そして、時刻T41で電荷が読み出された検出素子(座標X4の検出素子)は、電荷が読み出された後にリセットされる。ところが、時刻T41以降もX線曝射が続くので、座標X4の検出素子は再びX線を検出して電荷が蓄積される。そのため、時刻T42で座標X4の検出素子を読み出すとX線が曝射された画素値になる。そして、検出素子の電荷を読み出すと、当該検出素子に蓄積された電荷はその後にリセットされるので、時刻T43で座標X4の検出素子を読み出すとX線が曝射されていない時の画素値になる。そのため、読出しRD2で得られた画像はオフセット補正画像として用いることができる。
【0057】
このように、オフセット補正を複数回行う場合は、X線を曝射しない場合の読出しRD、X線を曝射した場合の読出しRX、検出器に蓄積された電荷をリセットするための読出しRRを行う必要がある。
【0058】
上記のように、本実施形態では、X線が出力されているときに生成した画像と、X線が出力されていないときに撮影された画像との差分画像を解析して、X線曝射動作に係る遅延を測定する。このように、オフセット補正を行って遅延測定を行っているため、測定誤差を小さくすることができる。
【0059】
本実施形態では、式(5)を用いてオフセット補正を行っているが、これに限定されるものではなく、例えば、X線を曝射しない場合の読出しRD1を1回だけ行い、2回目以降のX線を曝射しない場合の読出しRD2を省略してもよい。この場合、オフセット補正した画像Inは下記の式で計算する。
【0060】
In=RXn−RD1 (n=1,2,…) (6)
【0061】
また、本実施形態では、最も大きい測定値をそれぞれX線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間として説明したが、それに限定されるものではない。例えば最大のX線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間に不図示の入力装置で入力された時間を加算した値でもよい。
【0062】
<<実施形態3>>
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。本実施形態に係るX撮影装置は、実施形態1に係るX線撮影装置と同様の構成を有し、タイミング制御部106は同様に電荷の読出し中にX線を曝射するように制御する。本実施形態では、特に、X線曝射時間が大きく、一回のX線曝射の開始から終了までの一連の期間が動画の読出し期間内に入らない場合を説明する。
【0063】
動画撮影モード時のX線曝射信号、X線強度及、動画読出し、静止画読出し及び読み出した画素値のタイミングチャートを図5に示す。読出し開始信号は既に説明しているので省略している。
【0064】
図5において、時刻T3は実際にX線曝射を開始した時刻あり、時刻T5は実際にX線曝射が停止した時刻である。図5の例では、X線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間が大きく、動画読出し期間中に時刻T3と時刻T5に入っていない。このような場合は、読出し時間が長い静止画読出しを行って、X線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間を測定する。図5において、静止画読出しは期間が長いので、時刻T3と時刻T5が静止画読出しの期間に入っている。そのため、既に説明した手法により、X線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間が測定できる。ただし、静止画読出しは、動画の読み出し時間Tfと異なる時間Trで行単位で行われるため、式(1)〜(4)のTfをTrに置き換えて計算する必要がある。
【0065】
上記のように、本実施形態では、一定時間おきに所定の読出し期間に検出素子から電荷を読み出す構成において、一回のX線曝射の開始から終了までの一連の期間が読出し期間に収まらない場合、この読出し期間を(静止画読出しの期間に)拡大している。このため、本実施形態によれば、X線撮影装置の動画撮影環境に関わらず、X線曝射に係る動作遅延を測定することができる。
【0066】
本実施形態では、読出し時間が長い読出しは静止画読出しとして説明したが、これに限定されるものではなく、電荷の読出しが長ければよいので、平面検出器の一行を読み出す時間が時間Trではなく、別の時間で読み出してもよい。
【0067】
また、本実施形態では、最初に動画読出しを行った後に静止画読出しを行うとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば最初に読出し時間の長い静止画読出しを行ってもよい。
【0068】
<<実施形態4>>
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。本実施形態に係るX線撮影装置は、実施形態1に係るX線撮影装置と同様の構成を有し、タイミング制御部106は同様に電荷の読出し中にX線を曝射するように制御する。本実施形態では、特に、X線曝射時間が大きく、一回のX線曝射の開始から終了までの一連の期間が複数の動画の読出し期間をまたがる場合について説明する。
【0069】
動画撮影時のX線曝射信号、X線強度及、動画読出し及び読み出した画素値のタイミングチャートを図6に示す。読出し開始信号は既に説明しているので省略する。また、オフセット補正を行うためのX線を曝射しない場合の読出しは既に実施形態2で説明したので省略する。
【0070】
図6において、RXはX線を曝射した場合の読出し、RRは検出器に蓄積された電荷をリセットするための読出しを示している。そして、RX1、RR1はそれぞれ1回目の読出し、RX2、RR2はそれぞれ2回目の読出しを表している。図4に示したX線を曝射しない場合の読出しRDは、既に説明したので省略する。時刻T11は1回目の読出しRX1を始めた時刻、時刻T12は1回目の読出しRR1を始めた時刻、時刻T13は2回目の読出しRX2を始めた時刻である。時刻T2はX線曝射信号をHiにした時刻、時刻T3は実際にX線曝射を開始した時刻、時刻T4はX線曝射信号をLoにした時刻、時刻T5は実際にX線曝射が停止した時刻である。
【0071】
図6では、X線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間が大きく、1回の動画読出し中に時刻T3と時刻T5に入らない。このような場合は、動画の読出しを複数回行って、X線曝射開始遅延時間とX線曝射開始遅延時間を測定する。また、X線曝射信号をHiにした時刻T2、1回目の読出しRX1を始めた時刻T11、X線曝射信号をLoにした時刻T4等を調整することにより、1回目の読出しRX1に時刻T3が入り、2回目の読出しRX2に時刻T5が入っている。
【0072】
開始遅延測定部108は、画素値が増加した増加した時の座標X3を用いて、式(7)でX線曝射開始遅延時間Taを計算する。
【0073】
Ta=T11−T2+(X3−X1)*Tf (7)
【0074】
同様に、停止遅延測定部109は、実施形態1で説明した式(2)で計算した座標X4の座標を計算し、画素値が増加した後に一定の画素値になった座標X5を用いて、式(8)でX線曝射開始遅延時間Tbを計算する。
【0075】
Tb=T13−T12−(X4−X1)*Tf+(X5−X1)*Tf (8)
【0076】
上記のように、本実施形態では、X線曝射信号が切り替わるタイミングと、撮影画像における画素値の変動の有無に係る境界に存在する検出素子を走査したタイミングとが、それぞれ異なる読出し期間に存在する場合を説明した。このような場合であっても、実施形態1と同様に、X線曝射に係る動作の遅延を測定することが可能である。
【0077】
上記の各構成は、X線撮像装置、特に、医療用のX線撮像装置や、工業用の非破壊検査装置としてのX線撮像装置に適用することができる。上記のように、各実施形態の構成においては、読出し中にX線曝射を行い、X線曝射中に撮影したX線画像を解析することにより、X線曝射開始遅延時間とX線曝射停止遅延時間を測定する。このため、簡単でコストを上げることなく、X線曝射開始遅延時間及びX線曝射停止遅延時間の少なくともいずれかを測定することが可能である。
【0078】
<<その他の実施形態>>
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を曝射してX線画像を取得するX線撮影装置であって、
X線を出力する出力手段と、
前記出力手段に制御信号を供給して当該出力手段のX線出力に係る動作を制御する制御手段と、
前記出力手段により出力されたX線を検出して電荷を蓄積する複数の検出素子を備えた検出手段と、
前記複数の検出素子を一定の速度で順に走査して、各検出素子に蓄積された電荷を読み出す読出手段と、
読み出した各検出素子の電荷を画素値に変換して、画像を生成する生成手段と、
生成した前記画像を解析して、前記制御信号の出力に対する、前記出力手段のX線出力に係る動作の遅延を測定する測定手段と
を備え、
前記出力手段は前記検出手段が備える各検出素子に対して一定強度のX線を出力し、
前記測定手段は、前記画像において画素値の変化が存在する領域と存在しない領域との境界の位置と、前記走査の速度とに基づいて前記遅延を測定する
ことを特徴とするX線撮影装置。
【請求項2】
前記測定手段は、
前記制御手段から供給される前記制御信号が切り替わるタイミングに前記読出手段が走査している前記検出素子と前記境界との間の距離を、前記走査の速度で走査するのに要する時間を前記遅延として測定することを特徴とする請求項1に記載のX線撮影装置。
【請求項3】
前記測定手段は、
前記制御信号がX線出力停止を示す信号からX線出力を示す信号へ切り替わってから、前記出力手段が実際にX線出力を開始するまでの遅延と、前記制御信号がX線出力を示す信号からX線出力停止を示す信号へ切り替わってから、前記出力手段が実際にX線出力を停止するまでの遅延と、の少なくともいずれかの遅延を測定することを特徴とする請求項2に記載のX線撮影装置。
【請求項4】
前記測定手段は、前記生成手段が生成した画像と、前記X線が出力されていないときに撮影された画像との差分画像を解析して前記遅延を測定することを特徴とする請求項2又は3に記載のX線撮影装置。
【請求項5】
前記読出手段は、
一定時間おきに所定の読出し期間に前記電荷を読み出し、
一回のX線曝射の開始から終了までの一連の期間が前記読出し期間に収まらない場合、前記読出し期間を拡大して前記電荷を読み出す
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【請求項6】
前記読出手段は、
一定時間おきに所定の読出し期間に前記電荷を読み出し、
前記制御信号が切り替わるタイミングと、前記境界に存在する前記検出素子を走査したタイミングとは、それぞれ異なる前記読出し期間に存在する
ことを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載のX線撮影装置。
【請求項7】
X線を曝射してX線画像を取得するX線撮影装置による、X線曝射に係る遅延の測定方法であって、
出力手段が、X線を出力する出力工程と、
制御手段が、前記出力手段に制御信号を供給して当該出力手段のX線出力に係る動作を制御する制御工程と、
検出手段が備える複数の検出素子がそれぞれ、前記出力工程により出力されたX線を検出して電荷を蓄積する検出工程と、
読出手段が、前記複数の検出素子を一定の速度で順に走査して、各検出素子に蓄積された電荷を読み出す読出工程と、
生成手段が、読み出した各検出素子の電荷を画素値に変換して、画像を生成する生成工程と、
測定手段が、生成した前記画像を解析して、前記制御信号の出力に対する、前記出力手段のX線出力に係る動作の遅延を測定する測定工程と
を有し、
前記出力工程においては、前記検出手段が備える各検出素子に対して一定強度のX線を出力し、
前記測定工程においては、前記画像において画素値の変化が存在する領域と存在しない領域との境界の位置と、前記走査の速度とに基づいて前記遅延を測定する
ことを特徴とする測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−29920(P2012−29920A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172728(P2010−172728)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】