説明

X線管及びそれを用いたX線CT装置

【課題】電子ビームの焦点のサイズ及び焦点の位置を制御でき、電子ビームの照射におけるボケを防ぎ且つコンパクトなサイズのX線管を提供する。
【解決手段】コイルフィラメント111と、アノード102と、電子ビームの経路上に孔を備えたコイルフィラメント111を収納するウエネルト112と、ウエネルト112の開口に設けられたアパーチャ113と、電子ビームの経路を挟んで所定方向に相互に対向して溝の開口の近傍に配置された1対のXエレクトロード114と、所定方向に直交する方向に相互に対向し且つXエレクトロード114と同一面上に配置された1対のYエレクトロード115と、を備え、Xエレクトロード114の電圧及びYエレクトロード115の電圧を制御することにより、照射領域のサイズの変更、及び電子ビームの経路の移動を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用機器、工業機器で使用されるX線CT装置(CT:Computed Tomography コンピュータ断層撮影)で用いられるX線管及びそのX線CT装置に関する。さらに詳しくは、CTスキャナーにおける電子ビームの照射範囲のサイズの変更及び電子ビームの経路の移動の機能を有するX線管及びそれを用いたX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置は、X線を主とする放射線を曝射して被写体の透過を検出し、検出した放射線の強度を示す投影データから被写体内の画像を再構成する画像診断装置である。このX線CT装置は、医療の最先端で急速に普及し、医療現場ではなくてはならない診断装置として、疾病の診断、治療や手術計画等を初めとする多くの医療行為において重要な役割を果たしている。また、工業用のX線検査装置においても、同様の原理でCTが製品化されている。X線CT装置の原理は、X線が被写体を透過する性質を利用し、多方向から被写体に向けてX線を照射し、被写体の反対側に対向させた検出器で投影データを測定し、断面像として画像を再構成するものである。
【0003】
具体的には、医用のX線CT装置は、患者をスライド移動させながら、X線発生源であるX線管と被写体の反対側に対向させた検出器を高速で回転させてスライス投影し、X線投影データを測定して断面像を合成する。この医用のX線CT装置では、患者へのX線被曝量を抑えることや、撮影の高速化、高分解能化が要求される。そのため、医用のX線CT装置では、マルチスライス技術や、超高速画像処理などの技術により、高速かつ分解能の高い診断技術が提供されている。また、工業用のX線CT装置では、一般にX線発生部と被写体の反対側に対向させた検出器を固定し、被写体を回転させて投影データを測定し、断面像を合成する方法が用いられている。
【0004】
X線CT装置のX線発生源であるX線管は、電子ビームを発生する電子光学系を有し、この電子光学系から照射される電子ビームを高速回転するアノードに衝突させ、アノード衝突でX線を発生する構成を備えている。X線CT装置におけるX線発生部は、上述した構成によりX線を発生するX線管で構成されている。ここで、以下の説明では、電子光学系としてコイルフィラメントを用いた場合に、フィラメントの長手方向(コイルの円の法線方向)をX方向、X線管の電子光学系から照射される電子ビームが進む方向がZ方向、XとZと直交する方向をY方向として説明する。
【0005】
近年、この様なX線CT装置における高度化に伴い、固定焦点で使用されているX線発生源(X線管)に焦点可変、焦点移動の機能を付加することで、分解能向上、疑似欠陥低減、又は診断機能向上に対応した次世代CTスキャナーの開発が要望されている。ここで、X線CT装置における実焦点とは電子がアノードに衝突してX線を発生した場所を指し、アノード上の電子ビームの照射範囲にあたる。
【0006】
X線CT装置におけるX線管の焦点は、一般に固定焦点で使用されているが、アノードに着弾する電子ビーム(X線光源)を検出系に対して載置されている被検体の体軸と直交する方向(XY方向)への微小移動を行うことで、照射したX線を検出することで得られる投影データの空間分解能を増やすことができる。この様なXY方向への移動による、高解像度のX線CT装置の技術(例えば、特許文献1参照。)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−158138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような、X線CT装置において電子ビームの軌道はコイルフィラメントの断面の中央部とコイルフィラメントの断面の周辺部とでは違いが生じるので、コイルフィラメントの断面の周辺部からの電子は、コイルフィラメントの断面の中心部からの電子とは異なる位置でクロスオーバを形成し、アノードに照射された電子ビームにおいてボケが発生してしまう。特に前述した電子ビームの経路の移動を行った場合にボケの発生が顕著に表れてしまう。
【0009】
また、検出系のXY方向に電子ビームを移動するには、X線源が焦点可変(言い換えると、アノードに対する照射範囲の変更)や焦点移動(言い換えると、電子ビームの経路の移動)の機能を有する必要がある。この点、X線管のフィラメントは、大きなビーム電流が確保可能である反面、コイル状になっているため、電子ビームの発生軌道が複雑であり、電子ビームの経路の移動や照射範囲のサイズの変更により軌道を制御することが困難である。そして、電子ビームの経路の移動や照射範囲のサイズの変更を行う機構を備えた場合、X線源の大きさが大きくなってしまうおそれがある。また、電子ビームの経路の移動や照射範囲のサイズの変更を行うには大きな電圧が必要となってしまう。さらに大きな電圧を供給する場合、電源を小型化することが困難である。電源が大きくなってしまうと、当然X線源全体のサイズも大きくなってしまう。
【0010】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、電子ビームのアノードに対する照射範囲の変更及び電子ビームの経路の移動を制御でき、アノードに照射された電子ビームの照射におけるボケを防止し、且つX線源をコンパクトなサイズにするX線管及びそれを使用したX線CT装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のX線管は、通電によって電子ビームを放出するフィラメントと、前記電子ビームが入射することによりX線を出射するアノードと、前記フィラメントを収容する溝を有し、該溝の前記アノード側に面する開口から前記電子ビーム通過させる収納部材と、前記電子ビームの経路を挟んで所定方向に相互に対向して前記溝の前記開口の前記アノード側の近傍に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第1電極部材と、前記所定方向に直交する方向に相互に対向し且つ前記1対の第1電極部材を含む面と同一面上に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第2電極部材と、前記第1電極部材及び前記第2電極部材に印加する電圧を制御する電圧制御手段と、を備え、前記収納部材の前記溝の前記開口の前記所定方向と直交する方向の幅は、前記フィラメントが収容されている部分の前記所定方向と直交する方向の幅よりも狭く、前記電圧制御手段は、前記第1電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向のサイズの変更、及び前記電子ビームの前記所定方向への移動を制御し、前記第2電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向と直交する方向のサイズの変更、及び前記電子ビームの前記所定方向と直交する方向への移動を制御する、ことを特徴とするものである。
【0012】
請求項6に記載のX線管は、通電によって電子ビームを放出するフィラメントと、前記電子ビームが入射することによりX線を出射するアノードと、前記フィラメントを収容する溝を有し、該溝の前記アノード側に面する開口から前記電子ビーム通過させる収納部材と、前記電子ビームの経路を挟んで所定方向に相互に対向して前記溝の前記開口の前記アノード側の近傍に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第1電極部材と、前記所定方向に直交する方向に相互に対向し且つ前記1対の第1電極部材を含む面と同一面上に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第2電極部材と、前記第1電極部材及び前記第2電極部材に印加する電圧を制御する電圧制御手段と、前記電子ビームの経路上で前記第1電極部材及び前記第2電極部材と前記アノードとの間に、前記電子ビームの経路を囲うように配置された前記電子ビームの経路を偏向する電磁偏向器と、を備え、前記収納部材の前記溝の前記開口の前記所定方向と直交する方向の幅は、前記フィラメントが収容されている部分の前記所定方向と直交する方向の幅よりも狭く、前記電圧制御手段は、前記第1電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向のサイズの変更を制御し、前記第2電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向と直交する方向のサイズの変更を制御する、ことを特徴とするものである。
【0013】
請求項7に記載のX線CT装置は、X線を曝射するX線管と、前記X線管から曝射されたX線を検出する検出器と、前記検出器の検出に基づく前記投影データから画像を再構成する再構成手段と、前記X線管の制御を含む前記X線の検出によるスキャンの制御を行う制御手段と、を備えるX線CT装置であって、前記X線管は、通電によって電子ビームを放出するフィラメントと、前記電子ビームが入射することによりX線を出射するアノードと、前記フィラメントを収容する溝を有し、該溝の前記アノード側に面する開口から前記電子ビーム通過させる収納部材と、前記電子ビームの経路を挟んで所定方向に相互に対向して前記溝の前記開口の前記アノード側の近傍に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第1電極部材と、前記所定方向に直交する方向に相互に対向し且つ前記1対の第1電極部材を含む面と同一面上に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第2電極部材と、を備え、前記収納部材の前記溝の前記開口の前記所定方向と直交する方向の幅は、前記フィラメントが収容されている部分の前記所定方向と直交する方向の幅よりも狭く、前記制御手段は、前記第1電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向のサイズの変更、及び前記電子ビームの前記所定方向への移動を制御し、前記第2電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向と直交する方向のサイズの変更、及び前記電子ビームの前記所定方向と直交する方向への移動を制御する電圧制御手段を備える、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載のX線管及び請求項7に記載のX線CT装置は、電子が出射される溝の開口部に突出部を設け、さらにフィラメントの近傍の同一平面内に、所定方向へのアノードに対する電子ビームの照射範囲の変更及び移動を行う第1電極部材と、所定方向と直交する方向へのアノードに対する電子ビームの照射範囲の変更及び移動を行う第2電極部材とを配置した構成である。これにより、突出部によりフィラメントの断面の周辺部から出射された電子を遮蔽することができ、アノードに照射された電子ビームにおけるボケの発生を抑えることができる。また、第1電極部材と第2電極部材とを電子ビームの経路上の異なる位置に配置した場合に比べてX線管を小型化できる。また、フィラメントの近傍に電極を配置したことで、電子ビームの照射範囲のサイズの変更や移動のために電極に印加する電圧を抑えることができる。さらに、電極に印加する電圧を抑えることにより、電極に電気を供給する電源を小型化できるので、X線管をより小型化することが可能となる。
【0015】
請求項6に記載のX線管は、電子が出射される溝の開口部に突出部を設け、フィラメントの近傍の同一平面内に、所定方向へのアノードに対する電子ビームの照射範囲の変更を行う第1電極部材と、所定方向と直交する方向へのアノードに対する電子ビームの照射範囲の変更を行う第2電極部材とを配置し、さらに第1電極部材及び第2電極部材とアノードとの間に電子ビームを移動させる電磁偏向器を配置した構成である。これにより、突出部によりフィラメントの断面の周辺部から出射された電子を遮蔽することができ、アノードに照射された電子ビームにおけるボケの発生を抑えることができるとともに、第1電極部材及び第2電極部材によって電子ビームの経路の移動を行う場合に比べ、制御が容易となり、安定した電子ビームの経路の移動が行える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係るX線管のX線を照射している状態のXZ方向の断面図
【図2】第1の実施形態に係るX線管のX線を照射している状態のYZ方向の断面図
【図3】アノード側から見たウェルネルトの平面図
【図4】アノード側からフィラメント側へ見たXエレクトロード及びYエレクトロードの平面図
【図5】アパーチャによる電子ビームの遮蔽を説明するためのX線を照射している状態のフィラメント及びその近傍のYZ方向の拡大断面図
【図6】(A)大きな照射範囲のサイズの状態のXZ方向の断面図、(B)大きな照射範囲のサイズの状態のYZ方向の断面図
【図7】(A)小さな照射範囲のサイズの状態のYZ方向の断面図、(B)小さな照射範囲のサイズの状態のYZ方向の断面図
【図8】XYエレクトロードに基準電圧に重畳された電圧とその時の照射範囲のサイズとの関係を表すグラフ
【図9】(A)X方向の電子ビームの経路の移動を説明するためのXZ方向の模式的な断面図、(B)Y方向の電子ビームの経路の移動を説明するためのYZ方向の模式的な断面図
【図10】XYエレクトロードに基準の電位に重畳された電圧とその時の電子ビームの経路の移動距離との関係を表すグラフ
【図11】本発明に係るX線管を搭載したX線CT装置の構成を示すブロック図
【図12】電流のカットオフのためのウエネルト及びアパーチャへの高電圧の印加のタイミングを説明するための図
【図13】ウエネルト及びアパーチャへ印加した電圧とアパーチャに到達する管電流の割合の関係を表すグラフ
【図14】第2の実施形態に係るX線管のX線を照射している状態のXZ方向の断面図
【図15】第2の実施形態に係るX線管のX線を照射している状態のYZ方向の断面図
【図16】電磁偏向器の一例であるトロイダルコイルの模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1の実施形態〕
以下、この発明の第1の実施形態に係るX線管及びそのX線管を用いたX線CT装置について説明する。以下では、まずX線管の構成を説明し、その後X線CT装置全体の説明をする。以下の説明では、後述するコイルフィラメントの長手方向(コイルの円の法線方向)、すなわち図1の紙面に向かって上下方向をX方向、X線管の電子工学系から出射される電子ビームが進む方向、すなわち図1の紙面に向かって左右方向をZ方向、XとZと直交する方向、すなわち図1の紙面の法線方向をY方向として説明する。
【0018】
また、以下の説明ではアノードに電子が照射される照射範囲のサイズの変更及びアノードに照射される電子ビームの経路の移動(電子ビームの移動ともいう)として説明するが、上述したように一般的にX線CT装置における実焦点といわれるものは電子がアノードに衝突してX線を発生した場所を指すので、言い換えれば、照射範囲のサイズの変更は実焦点のサイズの変更と言え、電子ビームの経路の移動は実焦点の移動と言える。
【0019】
(X線管)
図1は、本実施形態に係るX線管のX線を照射している状態のXZ方向の断面図である。また、図2は、本実施形態に係るX線管のX線を照射している状態のYZ方向の断面図である。
【0020】
X線管100は、フィラメント加熱電流の供給及び高電圧の印加を受けてX線を発生させる。このX線管100は、図1に示すように、通電により熱電子を放出するコイルフィラメント111を有する電子銃(コイルフィラメント式電子銃)110と、コイルフィラメント111から放出された電子が照射されることによりX線を出射するアノード102とが設けられている。電子銃110及びアノード102は、シールド120内に密閉されている。
【0021】
電子銃110は、コイルフィラメント111、ウエネルト112、アパーチャ113、一対のXエレクトロード114a及び114b(以下、総称して「Xエレクトロード114」ともいう)、並びに一対のYエレクトロード115a及び115b(以下、総称して「Yエレクトロード115」ともいう)で構成されている。ここで、このXエレクトロード114が本発明における「第1電極部材」であり、Yエレクトロード115が本発明における「第2電極部材」にあたる。以下では、Xエレクトロード114及びYエレクトロード115を合わせて「XYエレクトロード」と呼ぶことがある。そして、電子銃110は、後述するXエレクトロード114及びYエレクトロード115が形成する開口から−Z軸方向に降ろした垂線上にコイルフィラメント111を配している。電子銃110は、このコイルフィラメント111に対するフィラメント加熱電流の供給及び高電圧の印加を受け、電子を開口から+Z軸方向へ経路L上に出射する。経路Lは図1の一点鎖線で示される直線である。
【0022】
アノード102は、Z軸方向に延びる回転部材103と一体化されており、コイルフィラメント111と開口とを結ぶ経路L上に配置されている。このアノード102の経路L上の表面に、電子銃110から出射した電子ビームが照射される。そして、電子ビームの表面への照射を受けて、アノード102は、経路Lと直交する方向(回転部材103と直交する方向)にX線を出射する。
【0023】
従って、アノード102の形状は、その頂面が−Z軸方向に向いた円錐台形状であり、その円錐表面に相当する側面102aの法線は、例えば経路Lに対して数度程度傾斜している。また、回転部材103は、シールド120の外部に引き出されており、モータ(不図示)によって回転する。シールド120と回転部材103との間にはシーリングユニット104が設けられている。回転部材103の中心軸は、コイルフィラメント111と電子銃110の開口とを結ぶ電子ビームの経路LからX軸方向にシフトしている。従って、電子ビームは、アノード102の傾斜面である側面102aに照射される。アノード102の少なくとも電子ビームが照射される当該側面102a部分は、例えばタングステンにより形成されている。尚、このシフトの方向は、後述するコイルフィラメント111の長手方向に一致する。
【0024】
シールド120のアノード102から出射したX線が通過する位置には、ベリリウム膜からなる窓105が設けられている。X線は、この窓105を介して、X線管100の外部に照射される。
【0025】
このようなX線管100において、電子銃110は、図1及び図2に示すように、電子ビームの出射方向に向かって、ウエネルト112、コイルフィラメント111、アパーチャ113、XYエレクトロードが、この順に配列されている。
【0026】
ウエネルト112は、図3に示すようなステンレス等の非磁性金属からなる円板状の部材である。図3はアノード102側から見たウエネルト112の平面図である。そして、ウエネルト112は、アノード102側の面に溝112aを有している。本実施形態では、溝112aは図3に示すように長方形の両端が膨らんだ形状を有している。溝112aの長手方向(X軸方向)の中心軸はコイルフィラメント111の長手方向の中心軸と一致している。さらにウエネルト112の中心は、経路Lと一致している。
【0027】
ウエネルト112の溝112aのアノード102側には、アパーチャ113が設けられている。アパーチャ113は、開口113aを有する板状(本実施形態では円板状)の部材である。このアパーチャ113は、出射された電子ビームの範囲を制限する部材である。開口113aは、図1に示すようにX軸方向には溝112aより大きな幅を有している。そして、開口113aは、図2に示すようにY軸方向には溝112aより小さな幅を有している。本実施形態では、開口113aは図3に示す溝112aのように長手方向の両側端部が膨らんだ長方形の形状を有している。そして、開口113aの長手方向(X軸方向)の中心軸は溝112aの長手方向の中心軸に一致している。このウエネルト112及びアパーチャ113が本発明における「収納部材」にあたる。そして、溝112a及び開口113aが本発明における「溝」にあたり、アパーチャ113は本発明における「収納部材の突出」した部分にあたる。
【0028】
コイルフィラメント111は、螺旋状に巻回しつつ溝112aと同じ方向に延びる、すなわち、溝112aの伸びる方向(X軸方向)に長手方向を有するフィラメントである。コイルフィラメント111は、例えばタングステンによって形成されており、通電されることによって熱電子を放出する。コイルフィラメント111は、溝112a内に半ば収納されているが、ウエネルト112に接触はしていない。
【0029】
一対のXエレクトロード114a及び114bは、経路Lを挟んで相互に対向するように設けられており、X軸方向に配列されている。Xエレクトロード114aと114bとの間の距離は、コイルフィラメント111の長手方向の長さよりも長くなるように配置されている。また、一対のYエレクトロード115a及び115bも、経路Lを挟んで相互に対向するように設けられており、Y軸方向に配列されている。そして、Xエレクトロード114及びYエレクトロード115は、同一平面(XY平面)上に配置されている(図4参照)。このXエレクトロード114、後述するようにそれぞれに同じ電位がかけられ印加される電圧が変更された場合にはアノード102に対する電子ビームの照射範囲FEBを変更し、一方が所定電圧上げられ他方が所定電圧下げられた場合には電子ビームの経路を移動するものである。また、Yエレクトロード115も同様に、それぞれに同じ電位がかけられ印加される電圧が変更された場合にはアノード102に対する電子ビームの照射範囲FEBを変更し、一方が所定電圧上げられ他方が所定電圧下げられた場合には電子ビームの経路を移動するものである。
【0030】
Xエレクトロード114は、電圧が印加されて、Xエレクトロード114a及び114bの1対の電極間に電界を発生させる。このXエレクトロード114は、ステンレス等の非磁性金属により形成されている。また、一対のXエレクトロード114の形状は相互に同一である。各Xエレクトロード114の形状は、経路L上の1点を中心とする円板の一部であり、その弦はY方向に延びている。
【0031】
Yエレクトロード115は、電圧が印加されて、Yエレクトロード115a及び115bの1対の電極間に電界を発生させる。このYエレクトロード115は、ステンレス等の非磁性金属により形成されている。一対のYエレクトロード115の形状は相互に同一であり、長方形の形状をしている。
【0032】
そして、対向するXエレクトロード114a及びXエレクトロード114bの間に挟まれるようにYエレクトロード115が配置されている。具体的には、のXエレクトロード114及びYエレクトロード115の配置は図4に示すように配置されている。図4はアノード102側からコイルフィラメント111側へ見たXエレクトロード114及びYエレクトロード115の平面図である。各Xエレクトロード114と各Yエレクトロード115との間には隙間があいている。そして、対向するXエレクトロード114と対向するYエレクトロード115とによって電子ビームが通過するための隙間が形成される。図4では、XYエレクトロードによって形成された隙間の向こうにコイルフィラメント111が見えている。
【0033】
ウエネルト112、Xエレクトロード114a及び114b、Yエレクトロード115a及び115bには、X線管100の外部から電位が印加される。また、コイルフィラメント111には、X線管100の外部から電力が供給される。このXエレクトロード114a及び114b並びにYエレクトロード115a及び115bは相互に絶縁されており、これらの電位は相互に独立して制御可能となっている。すなわち、Xエレクトロード114a及び114bにはそれぞれ異なる電圧を印加することができ、また、Yエレクトロード115a及び115bにはそれぞれ異なる電圧を印加することができる。
【0034】
次に、上述の如く構成されたX線管100の動作について説明する。まず、シールド120内を真空とする。次に、アノード102とウエネルト112との間に、ウエネルト112にはアノード102に比べて低い電圧を印加する。例えば、アノード102に接地電位を印加し、ウエネルト112に−数十kVの電位を印加する。また、シールド120に接地電位を印加する。これにより、シールド120内に、ウエネルト112からアノード102に向かう電界が形成される。このウエネルト112への電圧の印加は後述する高電圧発生装置013によって行われる。また、ウエネルト112へ印加する電圧値の制御はスキャン制御部031によって行われる。
【0035】
また、コイルフィラメント111の電位は、ウエネルト112の電位よりもやや正極側の電位とする。
【0036】
この状態で、コイルフィラメント111に、X線管100の外部から電力を供給して通電させる。これにより、コイルフィラメント111が加熱され、熱電子を放出する。放出された電子のうち図5に示す点線201と一点鎖線202との間に放出される電子はアパーチャ113によって遮蔽されるため、実際には点線501と一点鎖線502との間の電子ビームはアノード102に照射されない。実際に照射されるのは一点鎖線502で挟まれた領域の電子ビームである。放出された電子は、ウエネルト112によるレンズ効果によって収縮し、経路Lに沿って電子ビームEBを形成し、アノード102の側面102aに対して照射される。
【0037】
電子ビームの軌道はコイルフィラメント111の断面の中央部(一点鎖線502で挟まれる領域)とコイルフィラメント111の断面の周辺部(点線501と一点鎖線502との間の領域)では違いが生じるので、点線501と一点鎖線502との間の電子は点線501で示すように一点鎖線502で挟まれる領域の電子とは異なる位置でクロスオーバを形成し、アノード102での焦点におけるボケが発生してしまう。特に後述する電子ビームの経路の移動を行った場合にボケの発生が顕著に表れてしまう。
【0038】
そこで、アパーチャ113によりボケを発生させる原因となる点線501と一点鎖線502との間の電子を遮蔽することで、ボケのない正確な焦点を形成することが可能となる。コイルフィラメント111から放出された一点鎖線502で挟まれる領域の電子ビームは、YZ断面で見た場合ウエネルト112からXYエレクトロードの間にかけてクロスオーバし、後述するXYエレクトロードレンズ効果で電子ビームはほぼ平行ビームとなりアノード102に向かう。
【0039】
ここで、上述したようにコイルフィラメント111から発生する電子ビームをアパーチャ113によって制限しているので、アパーチャ113を設けない状態に比べて電流が減ってしまうことも考えられる。そこで、アパーチャ113によって制限された不足分の電流を、コイルフィラメント111の径及び長さをアパーチャ113を設けない場合に比べて大きくすることで補う構成にしてもよい。
【0040】
アノード102の側面102aにおける電子ビームEBが照射される領域を照射範囲FEBとする(これは、一般的には実焦点FEBともいわれる。以下ではすべて照射範囲FEBという)。照射範囲FEBの形状は、コイルフィラメント111の形状が縮小された形状である。
【0041】
これにより、アノード102の照射範囲FEBに相当する部分がX線を出射する。X線は窓105に到達し、窓105を透過してX線管100の外部に出射する。このようにして、X線管100は、X線CT装置のX線源として使用される。
【0042】
このX線管100は、Xエレクトロード114a及び114b、Yエレクトロード115a及び115bにそれぞれ電位を印加することにより、静電場を形成し、照射範囲FEBの大きさを制御するとともに、電子ビームEBの軌道を制御することができる。具体的には、ウエネルト112の電位を基準電位として、Xエレクトロード114及びYエレクトロード115のそれぞれに基準電位に数kV程度以内の電位を加えた電圧を印加する。このXエレクトロード114a及び114b、Yエレクトロード115a及び115bへの電圧の印加は後述する高電圧発生装置013によって行われる。また、Xエレクトロード114a及び114b、Yエレクトロード115a及び115bへ印加する電圧の制御はスキャン制御部031によって行われる。
【0043】
そこで、まず照射範囲FEBのサイズの変更を具体的に説明する。図6(A)は大きな照射範囲FEBのサイズの状態のXZ方向の断面図であり、図6(B)は大きな照射範囲FEBのサイズの状態のYZ方向の断面図である。また、図7(A)は小さな照射範囲FEBのサイズの状態のXZ方向の断面図であり、図7(B)小さな照射範囲FEBのサイズの状態のYZ方向の断面図である。
【0044】
Xエレクトロード114a及び114bの電位をいずれもウエネルト112の電位と等しくした場合を基準(図6(A)の点線で示される経路)にし、例えば、Xエレクトロード114a及び114bの双方に対して、いずれもウエネルト112の電位に対して+2kVとするように、同じ量の電位を加えた電圧を印加する。そうすると、図6(A)に示すように、電子ビームEBのビーム径をX方向において拡大することができ、照射範囲FEBのX方向におけるサイズを大きくすることができる。
【0045】
同様にY方向についても、Yエレクトロード115a及び115bの電位をいずれもウエネルト112の電位と等しくした場合を基準(不図示)にし、例えば、Yエレクトロード115a及び115bの双方に対して、いずれもウエネルト112の電位に対して+2kVとするように、同じ量の電位を加えた電圧を印加する。そうすると、図6(B)に示すように、電子ビームEBのビーム径をY方向において拡大することができ、照射範囲FEBのY方向におけるサイズを大きくすることができる。
【0046】
逆に、Xエレクトロード114a及び114bの双方に対して、いずれもウエネルト112の電位に対して、同じ量の電位を引いた電圧を印加する。そうすると、図7(A)に示すように、電子ビームEBのビーム径をX方向に縮小することができ、照射範囲FEBのX方向における大きさを小さくすることができる。
【0047】
同様にY方向についても、Yエレクトロード115a及び115bの双方に対して、いずれもウエネルト112の電位に対して、同じ量の電位を引いた電圧を印加する。そうすると、図7(B)に示すように、電子ビームEBのビーム径をY方向に縮小することができ、照射範囲FEBのY方向における大きさを小さくすることができる。
【0048】
ここで、XYエレクトロードそれぞれに印加する電圧と照射範囲FEBのサイズの大きさとの関係を説明する。図8は、XYエレクトロードに基準電圧に重畳された電圧とその時の照射範囲FEBのサイズとの関係を表すグラフである。図8は、縦軸にYエレクトロード115に印加した電圧(kV)を採り、横軸にXエレクトロード114に印加した電圧を採ったグラフである。ここで、図8における0はウエネルト112に印加されている電圧がXYエレクトロードに印加されている状態からどのくらい電圧が上げられたか又は下げられたかを示している。さらに、図8はXYエレクトロードへの特定の印加電圧に対する照射範囲のサイズ(照射範囲FXBで表わしている。)をグラフ中に表している。図8では各Xエレクトロード114に同じ量だけ電圧を上げ又は下げ、各Yエレクトロード115に同じ量だけ電圧を上げ又は下げたものとする。
【0049】
Xエレクトロード114及びYエレクトロード115にそれぞれVX11(kV)、VY11(kV)を加えると、照射範囲FXBのサイズは1辺L11mmの正方形となる。また、Xエレクトロード114にVX12(kV)をYエレクトロード115にVY12(kV)を加えると、照射範囲FXBのサイズは1辺L11mmの正方形よりも小さい1辺L12(mm)の正方形(L12<L11)となる。XYエレクトロードに印加する電圧を下げていくと照射範囲FXBのサイズは小さくなり、XYエレクトロードに印加する電圧を上げていくと照射範囲FXBのサイズは大きくなる。
【0050】
次に照射範囲FEBの移動について具体的に説明する。図9(A)はX方向の照射範囲FEBの移動を説明するためのXZ方向の模式的な断面図である。また、図9(B)はY方向の照射範囲FEBの移動を説明するためのYZ方向の模式的な断面図である。
【0051】
Xエレクトロード114a及び114bの電位をいずれも等しい電位とした場合を基準(図9(A)の点線901で示される経路)にする。ここで、いずれも等しい電位とはウエネルト112とおなじ電位でもよいし、ウエネルト112と同じ電位であるXエレクトロード114a及び114bに対して何れも等しい電圧を印加した電位でもよい。そして、この基準の状態から、例えば、Xエレクトロード114aに正の電位を加え(電圧を上げて)、Xエレクトロード114bに対して負の電位を加える(電圧を下げる)。そうすると、図9(A)に示すように、電子ビームEBの経路を+X方向に移動することができ、照射範囲FEBを+X方向に移動することができる。
【0052】
逆に、基準の電位に対して、Xエレクトロード114aに負の電位を加え(電圧を下げ)、Xエレクトロード114bに正の電位を加える(電圧を上げる)ことで、図9(A)とは逆の方向、すなわち−Xの方向に電子ビームEBの経路を移動することができ、照射範囲FEBを−X方向に移動することができる。
【0053】
同様にY方向についても、Yエレクトロード115a及び115bの電位をいずれも等しい電位とした場合を基準(図9(B)の点線503で示される経路)にする。ここで、いずれも等しい電位とはウエネルト112とおなじ電位でもよいし、ウエネルト112と同じ電位であるYエレクトロード115a及び115bに対して何れも等しい電圧を印加した電位でもよい。そして、この基準の状態から、Yエレクトロード115aに正の電位を加え(電圧を上げて)、Yエレクトロード115bに対して負の電位を加える(電圧を下げる)。そうすると、図9(B)に示すように、電子ビームEBの経路を+Y方向に移動することができ、照射範囲FEBを+Y方向に移動することができる。
【0054】
逆に、基準の電位に対して、Yエレクトロード115aに負の電位を加え(電圧を下げ)、Yエレクトロード115bに正の電位を加える(電圧を上げる)ことで、図9(B)とは逆の方向、すなわち−Yの方向に電子ビームEBの経路を移動することができ、照射範囲FEBを−Y方向に移動することができる。
【0055】
ここで、XYエレクトロードそれぞれに印加する電圧と電子ビームの経路の移動による照射範囲の移動距離との関係を説明する。図10は、XYエレクトロードに基準の電位に加えた電圧とその時の照射範囲の移動距離との関係を表すグラフである。図10は、横軸にXエレクトロード114a又はYエレクトロード115aに印加した電圧(kV)を採り、縦軸にXY方向それぞれの方向への電子ビームの経路の移動距離(mm)を採ったグラフである。ここで、図10における0は同じ電位の電圧がXYエレクトロードに印加されている状態を示し、そこからどのくらい電圧が上げられたか又は下げられたかを示している。図10はXエレクトロード114aの電圧を上げた場合にはXエレクトロード114bの電圧を下げ、Xエレクトロード114aの電圧を下げた場合にはXエレクトロード114bの電圧を上げている。同様に、Yエレクトロード115aの電圧を上げた場合にはYエレクトロード115bの電圧を下げ、Yエレクトロード115aの電圧を下げた場合にはYエレクトロード115bの電圧を上げている。そして、実線601がXエレクトロード114に電圧を重畳させた場合のX方向の照射範囲FEBの移動距離を表し、一点鎖線602がYエレクトロード115に電圧を重畳させた場合のY方向の照射範囲FEBの移動距離を表している。
【0056】
Xエレクトロード114及びYエレクトロード115に基準の電位に対して印加する電圧を変更していない状態では照射範囲FEBの移動はなく移動距離は0(mm)である。また、Xエレクトロード114aに−VX21(kV)をXエレクトロード114bに+VX21(kV)を加えると、照射範囲FEBは−X方向にL21(mm)移動する。また、Xエレクトロード114aに+VX21(kV)をXエレクトロード114bに−VX21(kV)を加えると、照射範囲FEBは+X方向にL21mm移動する。また、Yエレクトロード115aに−VY21(kV)をYエレクトロード115bに+VY21(kV)を加えると、照射範囲FEBは−X方向にL22(mm)移動する。また、Yエレクトロード115aに+VY21(kV)をYエレクトロード115bに−VY21(kV)を加えると、照射範囲FEBは+Y方向にL22(mm)移動する。
【0057】
このように、Xエレクトロード114aに印加する電圧を上げ、Xエレクトロード114bに印加する電圧を下げていくと照射範囲FEBは+X方向に移動し、Xエレクトロード114aに印加する電圧を下げ、Xエレクトロード114bに印加する電圧を上げていくと照射範囲FEBは−X方向に移動する。また、Yエレクトロード115aに印加する電圧を上げ、Yエレクトロード115bに印加する電圧を下げていくと照射範囲FEBは+X方向に移動し、Yエレクトロード115aに印加する電圧を下げ、Yエレクトロード115bに印加する電圧を上げていくと照射範囲FEBは−X方向に移動する。
【0058】
以上で説明したように、Xエレクトロード114及びYエレクトロード115に印加する電圧を変更することで、照射範囲FEBのサイズの変更及び電子ビームの経路の移動を行うことができる。ここで、コイルフィラメント111からの距離が離れるにつれ、コイルフィラメント111から射出された電子ビームは照射中心から広がるなどして調整するための照射範囲FEBのサイズや電子ビームの経路の位置から電子ビームの経路がよりずれてしまう。そのため、コイルフィラメント111から離れた場所ほど所望の照射範囲FEBのサイズへの変更や電子ビームの経路の移動を行うにあたり、大きな電圧を印加する必要がある。この点、本実発明では、Xエレクトロード114及びYエレクトロード115を同一平面に配置することにより、Xエレクトロード114及びYエレクトロード115いずれもコイルフィラメント111に近接して配置することができる。そのめ、本発明によれば、Xエレクトロード114又はYエレクトロード115のいずれかをコイルフィラメント111から離して配置した場合と比較して、X方向及びY方向のいずれの方向に対しても照射範囲FEBの変更や電子ビームの経路の移動を行うために必要とする電圧を小さく抑えることが可能となる。
【0059】
さらに、上述したように低い電圧で照射範囲FEBのサイズの変更及び電子ビームの経路の移動を所望のサイズ及び位置に調整することが可能なため、Xエレクトロード114及びYエレクトロード115のそれぞれに電気を供給するための電源自体を小さくすることが可能となる。それにより、その供給電源を含むX線CT装置の全体のサイズを小さくすることが可能となる。
【0060】
また、上述したように、Xエレクトロード114及びYエレクトロード115をコイルフィラメント111の近傍の同一平面に配置され、これらとコイルフィラメント111が近傍に配置されているため、コイルフィラメント111からアノード102までの距離を短くすることができる。これにより、コイルフィラメント111及びアノード102を含んで構成されるX線管100の全体の大きさを小さくすることが可能となる。
【0061】
図11は、このようなX線管100を搭載したX線CT装置の構成を示すブロック図である。
【0062】
X線CT装置は、架台装置010、寝台装置020、及び処理ユニット030を備えて構成されている。架台装置010と寝台装置020は、処理ユニット030により制御可能に信号線で接続されている。
【0063】
架台装置010は、X線を主とする放射線を曝射し、被検体を透過した放射線を検出する装置であり、開口を有する。この架台装置010の内部には、ガントリと呼ばれる回転架台011が収容されている。X線管100は、この回転架台011に検出器012と対になって設置される。X線管100と検出器012とは、回転架台011の開口を挟んで対向して設置される。また、架台装置010の内部には、X線管100と対になって高電圧発生装置013と絞り駆動装置014が配置され、回転架台011と対になって回転駆動装置015が配置され、検出器012と対になってデータ収集装置016が配置される。
【0064】
回転架台011は、回転駆動装置015の駆動に従動して開口を中心に回転する。高電圧発生装置013は、X線管100のコイルフィラメント111に対する加熱電流の供給及び高電圧の印加、Xエレクトロード114、Yエレクトロード115、及びウエネルト112に対する電圧の印加をそれぞれ独立して行う。
【0065】
絞り駆動装置014は、X線管100と検出器012との間に介在するコリメータ017の照視野形状を可変させることで、発生した放射線をファンビーム形状やコーンビーム形状に絞る。
【0066】
検出器012は、多列多チャンネルの放射線検出素子を配し、被検体Pを透過した放射線を検出して、その検出データ(純生データ)を電流信号として出力する。放射線検出素子は、シンチレータ等の蛍光体でX線を光に変換し更にその光をフォトダイオード等の光電変換素子で電荷に変換する間接変換形や、X線による半導体内の電子正孔対の生成及びその電極への移動すなわち光導電現象を利用した直接変換形が主流である。
【0067】
データ収集装置016は、放射線検出素子毎にI−V変換器と積分器とプリアンプとA/D変換器を備え、各放射線検出素子からの電流信号を電圧信号に変換し、電圧信号を放射線の曝射周期に同期して周期的に積分して増幅し、ディジタル信号に変換している。データ収集装置016は、ディジタル信号に変換した検出データを信号線を介して処理ユニット030に出力する。
【0068】
寝台装置020は、基台の上面に寝台天板021を載置する。寝台天板021には、被検体Pが載置される。寝台天板021は、寝台駆動装置022の駆動に従動して所定の速度で開口軸方向に移動可能となっている。
【0069】
回転架台011の回転と寝台天板021の移動が同時に行われることで、X線管100及び検出器012と寝台天板021との相対移動がヘリカル形状となり、ヘリカルスキャンが実施される。また寝台天板021の停止中に回転架台011の回転が行われることで、コンベンショナルスキャン又はダイナミックスキャンが実施される。
【0070】
処理ユニット030は、スキャン制御部031と、前処理部032と、投影データ記憶部033と、再構成処理部034と、画像記憶部035と、画像処理部036と、表示装置037と、入力装置038とを備える。
【0071】
表示装置037は、CRTや液晶ディスプレイ等のモニタであり、再構成された被検体P内の画像を表示する。入力装置038は、キーボード、マウス、トラックボール等の入力インターフェースであり、操作者により撮影条件が入力され、また配置されている開始ボタンの押下等が入力される。
【0072】
スキャン制御部031は、入力装置038を用いて入力された撮影条件に従って、スキャンを制御する。撮影条件には、被検体の総撮影範囲、総撮影範囲内で区分けされた各区域の範囲、ヘリカルピッチ(HP)、回転速度、管電圧(kV)、管電流(mA)、及び照射範囲FEBのサイズ等が含まれる。
【0073】
スキャンの制御としては、高電圧発生装置013、回転駆動装置015、データ収集装置016、絞り駆動装置014、及び寝台駆動装置022、前処理部032、再構成処理部034に対して、所定のタイミングで各種の制御信号を出力することで、回転架台011の回転、寝台の移動、X線管100が曝射するX線の線量、X線管100内で出射される照射範囲FEBのサイズ、投影データの前処理、及び画像の再構成を制御する。
【0074】
特に、X線管100のアノード102に照射される電子の照射範囲FEBのサイズにおける制御では、スキャン制御部031は、照射範囲FEBを大サイズにするときにXエレクトロード114a及び114bの双方に対して同じ量だけ電圧を上げるよう高電圧発生装置013を制御する。Yエレクトロード115に対しても同様である。
【0075】
一方、照射範囲FEBを小サイズにするときは、スキャン制御部031は、Xエレクトロード114a及び114bの双方に対して同じ量だけ電圧を下げるよう高電圧発生装置013を制御する。Yエレクトロード115に対しても同様である。
【0076】
また、照射範囲FEBをX方向に移動するときには、スキャン制御部031は、Xエレクトロード114a及び114bのそれぞれに同じ電位でかつ正負が逆の電圧を加えるよう高電圧発生装置013を制御する。
【0077】
また、電子ビームの経路をY方向に移動するときには、スキャン制御部031は、Yエレクトロード115a及び115bのそれぞれに同じ電位でかつ正負が逆の電圧を加えるよう高電圧発生装置013を制御する。
【0078】
Xエレクトロード114及びYエレクトロード115に対する電圧の制御では、スキャン制御部031は、高電圧発生装置013に対して電位を制御する制御信号を出力し、高電圧発生装置013が制御信号に従った電位を付与する。このスキャン制御部031が本発明における「電圧制御手段」にあたる。
【0079】
前処理部032は、純生データに対してX線の強度を補正する感度補正を施し、投影データPDを投影データ記憶部033に出力する。投影データ記憶部033には、前処理部032から出力された投影データが記憶される。各投影データには、ビュー番号が付される。ビュー番号は、X線を曝射した角度を示す。例えば、X線CT装置では、回転架台011が1周する間にX線管100がX線をn回曝射すると、360/nにX線の曝射角度が区分けされ、その区分けに対応してビュー番号が付される。
【0080】
再構成処理部134は、投影データを逆投影することで被検体P内の画像を再構成する。この再構成処理部134は、Feldkamp法に代表される画像再構成アルゴリズムによる再構成処理により、投影データ記憶部133から読み出した投影データを逆投影し、被検体P内を画像データとして再構成する。再構成された画像データは、画像記憶部035に入力されて格納される。
【0081】
画像処理部036は、画像記憶部035に記憶されている画像データに対して、直交座標系のビデオフォーマットに変換するスキャンコンバージョン処理等の各種の画像処理を施して表示画像を生成する。表示装置037は、この画像処理部036で生成された表示画像を表示する。
【0082】
以上に説明したように、本実施形態に係るX線管は、ウエネルとの電子ビームの出口付近に余分な電子ビームを遮蔽するアパーチャを配置するとともに、XYエレクトロードを電子ビームを出射するフィラメントの近傍の同一平面内に配置した構成である。
【0083】
この様な構成にすることにより、アパーチャにより出射される電子ビームの外側の部分を遮蔽することができるため、焦点のボケを発生させる原因となる電子ビームを抑えることができ、ボケを抑えたより正確な焦点を形成することが可能となる。
【0084】
また、XYエレクトロードそれぞれを配置するために必要なフィラメントとアノードとの間の距離を短くでき、X線管を小型化することが可能となる。
【0085】
さらに、XYエレクトロードのいずれもフィラメントの近傍に配置しているため、フィラメントから出射された電子ビームに対して照射範囲のサイズの変更や電子ビームの経路の移動を行うためにXYエレクトロードに印加する電圧を小さく抑えることが可能となる。さらに、これにより、XYエレクトロードへ電源を供給する電源供給源を小型化することができ、X線CT装置全体を小型化することが可能となる。
【0086】
〔第2の実施形態〕
以下、この発明の第2の実施形態に係るX線管について説明する。本実施形態に係るX線管はウエネルト及びアパーチャに対しコイルフィラメントの電圧よりも高い電圧を印加することが可能な構成であることが第1の実施形態と異なるものである。そこで、以下ではアパーチャに対する高電圧の印加及びその効果について主に説明する。以下の説明では、第1の実施形態と同一の符号を付された機能部は特に説明のない限り同じ機能を有するものとする。
【0087】
本実施形態に係るアパーチャ113及びウエネルト112は電圧供給源である高電圧発生装置013からの電圧を受けることができるように構成されている。ここで、アパーチャ113及びウエネルト112は、コイルフィラメント111及びXYエレクトロードとは独立して電圧を受けることができる構成である。そして、アパーチャ113及びウエネルト112は、コイルフィラメント111と比較して非常に大きい電圧の供給を受けることができる。ここで、本実施形態ではウエネルト112とアパーチャ113には同じ電圧をかける構成にしているが、これは独立した異なる電圧をかける構成にすることも可能である。
【0088】
ここで、電子ビームの経路の移動といった電子ビームの制御を行う場合、コイルフィラメント111から出射された電子ビームが常にアパーチャ112に照射されている状態では、被検体に対して電子ビームが連続的に移動してしまう。この様に電子ビームが連続的に移動すると画像に白い線が現れるいわゆる尾引き現象が発生する。この様な尾引き現象が画像に発生すると、正確な診断を行うことが困難になる。そこで、X線CT装置では電子ビームの経路の移動が完了した時点でアノード102上に電子ビームが照射されることが望ましい
【0089】
本実施形態においても、通常の電子ビームの出射状態では、スキャン制御部031はコイルフィラメント111に対しては−数十V程度の電圧が、ウエネルト112及びアパーチャ113に対してはコイルフィラメント111と比べて数kV負側に高い電圧が印加されるよう高電圧発生装置013を制御する。
【0090】
そして、スキャン制御部031は、電子ビームの経路の移動を行う制御信号、すなわちXYエレクトロードに電子ビームの経路の移動を行うための電圧の変更を行う制御信号を高電圧発生装置013に送信するタイミング(電子ビームの移動開始のタイミング)で、ウエネルト112及びアパーチャ113に対して電圧を印加する制御信号を高電圧発生装置013に送信する。このウエネルト112及びアパーチャ113を制御する信号は、XYエレクトロードを制御する信号よりも早く送信される構成にしてもよい。
【0091】
そして、スキャン制御部031は、電子ビームの経路の移動が完了したタイミングで、ウエネルト112及びアパーチャ113に対しての電圧を印加する制御信号を高電圧発生装置013に送信する。ここで、電子ビームの経路の移動が完了するタイミングは、統計的に算出された時間をスキャン制御部031が予め記憶しておく構成でもよいし、照射範囲FEBの位置を計測し、照射範囲FEBの位置の移動が停止した情報を受けて、スキャン制御部031が電子ビームの経路の移動が完了したと判断する構成にしてもよい。
【0092】
通常の電子ビームの出射状態では、ウエネルト112及びアパーチャ113は−数十kV程度の電圧が印加されている。
【0093】
そして、電子ビームの経路の移動開始時にスキャン制御部031からの制御を受けて、電子ビームの経路の移動が開始されるタイミングで、ウエネルト112及びアパーチャ113に電圧が印加される。これにより、本実施形態に係るX線管100では、アパーチャ113は出射された電子ビームの外側部分を遮蔽する程度に突出しているため、ウエネルト112及びアパーチャ113の間にはほぼ隙間なく高い電圧がかかる。そして、ウエネルト112及びアパーチャ113に印加された電圧により、コイルフィラメント111から出射された−数十kVの電子はコイルフィラメント111側に反発され、コイルフィラメント111から射出された電子は抑制され、ウエネルト112及びアパーチャ113で覆われた内部から外に射出されなくなる。これによって、X線管100はコイルフィラメント111からアノード102に向けて射出された電子ビームをカットオフすることができる。
【0094】
そして、電子ビームの経路の移動終了後のスキャン制御部031からの制御を受けて、ウエネルト112及びアパーチャ113は−数十kVの電圧が印加される。これにより、高電圧によるコイルフィラメント111から出射された電子の抑制(カットオフ)が解除され、電子ビームがアノード102に照射される。
【0095】
図12は電流のカットオフのためのウエネルト112及びアパーチャ113への高電圧の印加のタイミングを説明するための図である。図12はXYエレクトロードにXYの正の方向に電子ビームを偏向させる電圧をかけている状態からXYの負の方向に電子ビームを偏向させる電圧をかけている状態へ変化している。図12の上段は電子ビームの経路の移動前及び移動後のXYエレクトロードに掛っている電圧の状態を表し、中段はウエネルト112及びアパーチャ113にカットオフ用の電圧が掛けられている状態を示しており、下段は時間の推移を表している。図12に示すように、特定の状態のXYエレクトロードに対して電子ビームの経路を移動するために電圧の変更が開始されるタイミングで、カットオフ用の電圧の印加がウエネルト112及びアパーチャ113になされ、電子ビームの経路の移動が完了しXYエレクトロードへ電子ビームの経路を移動するための電圧の変更が終了するタイミングで、ウエネルト112及びアパーチャ113へのカットオフ用の電圧の印加が終了する。
【0096】
ここで、図13を参照して、ウエネルト112及びアパーチャ113への電圧の印加と管電流との関係を説明する。図13はウエネルト112及びアパーチャ113へ印加した電圧とアノード102へ到達する管電流の割合の関係を表すグラフである。図13のグラフは縦軸をコイルフィラメント111から照射された管電流に対するアノード102へ到達する管電流の割合(%)に採り、横軸をウエネルト112及びアパーチャ113へ印加した電圧(kV)に採っている。
【0097】
図13に示すように、ウエネルト112及びアパーチャ113への電圧を−VkVとした時には、45%程度の管電流がアノード102に到達している。そして、ウエネルと112及びアパーチャ113への電圧を−VkVと比較して以上に低い電圧である−VkV以上とすると、アノード102に到達する管電流はほぼなくなる。この様に、本実施形態では、−VkVの電圧をウエネルト112及びアパーチャ113に印加すると、電子ビームをほぼカットオフすることができる。ここで、本実施形態では、図13に示すように−VkVにおいてほぼ管電流がなくなるため電子ビームの経路の移動中にウエネルト112及びアパーチャ113へ印加する電圧を−VkVとしたが、これは管電流をほぼなくすことができる電圧であれば他の電圧でもよく、例えば、コイルフィラメント111の電圧が低い場合にはより低い電圧を用いることも可能である。
【0098】
そして、以上に説明したX線管100を用いたX線CT装置において、第1の実施形態と同様に、架台装置010、寝台装置020、及び処理ユニット030によってX線CT画像が生成される。
【0099】
以上で説明したように、本実施形態に係るX線管は、電子ビームの経路の移動を行うタイミングでウエネルト及びアパーチャにコイルフィラメントから出射される電子と比べて高い電圧を印加することが可能な構成である。これにより、コイルフィラメントから出射された電子は抑制され、電子ビームの経路の移動の間はアノードに電子ビームの照射が行われず、X線管の外にX線が照射されないため電子ビームの経路の移動の間に出射される電子による画像形成への影響を軽減することができ、尾引き現象を抑制し良好な画像を生成することが可能となる。
【0100】
〔第3の実施形態〕
以下、この発明の第3の実施形態に係るX線管について説明する。本実施形態に係るX線管は電子ビームの経路の移動用の電磁偏向器を設けた構成であることが第1の実施形態と異なるものである。そこで、以下では電子ビームの経路の移動用の電磁偏向器の構成及び作用について主に説明する。図14は本実施形態に係るX線管のX線を照射している状態のXZ方向の断面図であり、図15は本実施形態に係るX線管のX線を照射している状態のYZ方向の断面図である。以下の説明では、第1の実施形態と同一の符号を付された機能部は特に説明のない限り同じ機能を有するものとする。
【0101】
本実施形態に係るX線管100は、第1の実施形態と同様にコイルフィラメント111とアノード102との間のコイルフィラメント111の近傍の同一平面内にXエレクトロード114及びYエレクトロード115を有している。さらに、本実施形態に係るX線管100は、XYエレクトロードとアノード102との間に電磁偏向器700を配置している。本実施形態では電磁偏向器700として図16に示すトロイダルコイル700aを用いているが、これは他の構造を有する電磁偏向器でもよく、例えばサドルコイルの構造を有する電磁偏向器でもよい。ここで、図16は電磁偏向器700の一例であるトロイダルコイル700aの模式図である。
【0102】
本実施形態では、XYエレクトロードによって照射範囲のサイズの変更を行い、電磁偏向器700によって電子ビームの経路の移動を行う。すなわち、XYエレクトロードに対して照射範囲のサイズ変更を行う電圧の変更を行い、その後の電子ビームの経路の移動を行う電圧の変更は行わず、電磁偏向器700に電圧をかけることで電子ビームの経路の移動を行う。以下で、電磁偏向器700及びXYエレクトロードの動作を具体的に説明する。
【0103】
電磁偏向器700は、経路Lを囲むように設けられたトロイダルコイル700aをその中心軸が経路Lと一致するように設けている。この電磁偏向器700は外部の電源発生源から電圧を受けることにより大きな電磁場を発生させる。そして、電磁偏向器700は、発生させた電磁場により、磁界を介して電子ビームEBの経路を移動させる。この電子ビームEBの経路の移動が電子ビームの偏向である。
【0104】
また、本実施形態に係るXエレクトロード114及びYエレクトロード115は照射範囲FEBのサイズの変更にのみ用いられる。これはスキャン制御部031が、サイズ変更のときのみXエレクトロード114及びYエレクトロード115に対し電圧を変更させる制御を行い、電子ビームの移動の制御にはXエレクトロード114及びYエレクトロード115に対し電圧の変更は行わないことでなされる。すなわち、ウエネルト112に印加されている電圧を基準としてその基準の電圧に対し照射範囲FEBのサイズ変更のための電圧の変更のみが行われる。
【0105】
そして、以上に説明したX線管100を用いたX線CT装置において、第1の実施形態と同様に、架台装置010、寝台装置020、及び処理ユニット030によってX線CT画像が生成される。
【0106】
以上で説明したように本実施形態に係るX線管は、XYエレクトロードによって照射範囲のサイズを調整し、電磁偏向器によって電子ビームの経路の移動を行う構成である。これにより、電磁偏向器を用いるため構造的には第1の実施形態に比べ大きな構造となるが、XYエレクトロードに電子ビームの偏向を行うための電圧の変更の制御を行う必要がなくなるため、コイルフィラメントに対する電圧の変動を抑えることができ、コイルフィラメントから発生する電流を安定させる、すなわち電子ビームの制御を容易にすることができ、安定した電子ビームの移動が可能となる。
【0107】
また、以上では第1の実施形態を基に本実施形態を説明したが、第2の実施形態に対して本実施形態の機能を付加しても動作可能である。
【符号の説明】
【0108】
010 架台装置
011 回転架台
012 検出器
013 高電圧発生装置
014 駆動装置
015 回転駆動装置
016 データ収集装置
017 コリメータ
020 寝台装置
021 寝台天板
022 寝台駆動装置
030 処理ユニット
031 スキャン制御部
032 前処理部
033 投影データ記憶部
034 再構成処理部
035 画像記憶部
036 画像処理部
037 表示装置
038 入力装置
100 X線管
102 アノード
103 回転部材
104 シーリングユニット
105 窓
110 電子銃(コイルフィラメント式電子銃)
111 コイルフィラメント
112 ウエネルト
113 アパーチャ
114a、114b Xエレクトロード
115a,115b Yエレクトロード
700 電磁偏向器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電によって電子ビームを放出するフィラメントと、
前記電子ビームが入射することによりX線を出射するアノードと、
前記フィラメントを収容する溝を有し、該溝の前記アノード側に面する開口から前記電子ビーム通過させる収納部材と、
前記電子ビームの経路を挟んで所定方向に相互に対向して前記溝の前記開口の前記アノード側の近傍に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第1電極部材と、
前記所定方向に直交する方向に相互に対向し且つ前記1対の第1電極部材を含む面と同一面上に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第2電極部材と、
前記第1電極部材及び前記第2電極部材に印加する電圧を制御する電圧制御手段と、
を備え、
前記収納部材の前記溝の前記開口の前記所定方向と直交する方向の幅は、
前記フィラメントが収容されている部分の前記所定方向と直交する方向の幅よりも狭く、
前記電圧制御手段は、
前記第1電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向のサイズの変更、及び前記電子ビームの前記所定方向への移動を制御し、
前記第2電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向と直交する方向のサイズの変更、及び前記電子ビームの前記所定方向と直交する方向への移動を制御する、
ことを特徴とするX線管。
【請求項2】
前記フィラメントは、コイルフィラメントであり、コイルの直径方向を含む面が前記所定方向と直交する方向を含むように配置され、前記コイルの前記所定方向の長さが前記コイルの直径と比べて長く構成されていることを特徴とする請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記電圧制御手段は、
既に前記第1電極部材及び前記第2電極部材に電圧を印加している状態で、
前記第1電極部材のそれぞれに同電位状態で印加する電圧を変更することで前記所定方向の前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲のサイズを変更し、
前記第2電極部材のそれぞれに同電位状態で印加する電圧を変更することで前記所定方向と直交する方向の前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲のサイズを変更する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のX線管。
【請求項4】
前記電圧制御手段は、
既に前記第1電極部材及び前記第2電極部材に電圧を印加している状態で、
前記第1電極部材の一方の現在印加している電圧から所定電圧上げて、他方に現在印加している電圧から前記所定電圧下げることで、前記第1電極部材の一方又は他方のいずれかの方向に電子ビームを移動させ、
前記第2電極部材の一方の現在印加している電圧から所定電圧上げて、他方に現在印加している電圧から前記所定電圧下げることで、前記第2電極部材の一方又は他方のいずれかの方向に電子ビームの焦点を移動させる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載のX線管。
【請求項5】
前記収納部材の前記溝を形成する部材は電圧を印加可能に構成されており、
前記電圧制御手段は、前記溝を形成する部材に対し、前記フィラメントに印加されている電圧と比較して低い電圧を印加し、前記フィラメントから放出された前記電子ビームの前記アノードへの入射をカットオフする、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のX線管。
【請求項6】
通電によって電子ビームを放出するフィラメントと、
前記電子ビームが入射することによりX線を出射するアノードと、
前記フィラメントを収容する溝を有し、該溝の前記アノード側に面する開口から前記電子ビーム通過させる収納部材と、
前記電子ビームの経路を挟んで所定方向に相互に対向して前記溝の前記開口の前記アノード側の近傍に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第1電極部材と、
前記所定方向に直交する方向に相互に対向し且つ前記1対の第1電極部材を含む面と同一面上に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第2電極部材と、
前記第1電極部材及び前記第2電極部材に印加する電圧を制御する電圧制御手段と、
前記電子ビームの経路上で前記第1電極部材及び前記第2電極部材と前記アノードとの間に、前記電子ビームの経路を囲うように配置された前記電子ビームの経路を偏向する電磁偏向器と、
を備え、
前記収納部材の前記溝の前記開口の前記所定方向と直交する方向の幅は、
前記フィラメントが収容されている部分の前記所定方向と直交する方向の幅よりも狭く、
前記電圧制御手段は、
前記第1電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向のサイズの変更を制御し、
前記第2電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向と直交する方向のサイズの変更を制御する、
ことを特徴とするX線管。
【請求項7】
X線を曝射するX線管と、前記X線管から曝射されたX線を検出する検出器と、前記検出器の検出に基づく前記投影データから画像を再構成する再構成手段と、前記X線管の制御を含む前記X線の検出によるスキャンの制御を行う制御手段と、を備えるX線CT装置であって、
前記X線管は、
通電によって電子ビームを放出するフィラメントと、
前記電子ビームが入射することによりX線を出射するアノードと、
前記フィラメントを収容する溝を有し、該溝の前記アノード側に面する開口から前記電子ビーム通過させる収納部材と、
前記電子ビームの経路を挟んで所定方向に相互に対向して前記溝の前記開口の前記アノード側の近傍に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第1電極部材と、
前記所定方向に直交する方向に相互に対向し且つ前記1対の第1電極部材を含む面と同一面上に配置され、それぞれに電圧が印加される1対の第2電極部材と、
を備え、
前記収納部材の前記溝の前記開口の前記所定方向と直交する方向の幅は、
前記フィラメントが収容されている部分の前記所定方向と直交する方向の幅よりも狭く、
前記制御手段は、
前記第1電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向のサイズの変更、及び前記電子ビームの前記所定方向への移動を制御し、前記第2電極部材の前記電圧を制御することにより、前記電子ビームの前記アノードに対する照射範囲の前記所定方向と直交する方向のサイズの変更、及び前記電子ビームの前記所定方向と直交する方向への移動を制御する電圧制御手段を備える、
ことを特徴とするX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−49108(P2011−49108A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198563(P2009−198563)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】