説明

X線管装置及びX線CT装置

【課題】 扇形状をスライス方向に連ねた形状のX線を照射する際に、断層面内のX線強度分布に偏りを生じさせないX線管装置を提供する。
【解決手段】 スライス方向と平行な中心軸を有する円柱形状部を有する陽極と、前記陽極に電子線を照射する陰極と、照射された前記電子線が衝突することで形成されるX線焦点から放射されたX線が透過するX線照射窓と、を備えたX線管装置であって、前記陰極は、前記中心軸と直交する面内において、前記X線照射窓の中心と前記中心軸とを通る直線である基準線に対し、線対称となる位置に設けられた陰極対を含むことを特徴とするX線管装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線管装置及びX線CT(Computed Tomography)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置とは、被検体にX線を照射するX線管装置と、被検体を透過したX線量を投影データとして検出するX線検出器と、を被検体の周囲で回転させることにより得られる複数角度からの投影データを用いて被検体の断層画像を再構成し、再構成された断層画像を表示するものである。X線CT装置で表示される画像は、被検体の中の臓器の形状を描写するものであり、画像診断に使用される。
【0003】
近年のX線CT装置の開発では、断層面と直交する方向、いわゆるスライス方向にX線検出器が多列化されており、X線検出器を1回転させる間に広範囲の投影データが取得可能となりつつある。他方、多くのX線CT装置に搭載されるX線管装置では、単一のX線焦点から円錐状のX線が照射される。円錐状にX線が照射された場合、X線検出器の検出素子とX線焦点とを結んだ線の断層面に対する傾き、いわゆるコーン角が大きくなることに起因する不具合、例えばコーン角に起因する偽像であるコーンビームアーチファクトが断層画像上に生ずる。
【0004】
そこで、単一のX線焦点からX線を照射するのではなく、スライス方向において異なる位置にX線焦点を分布させたX線管装置が提案されている。例えば、特許文献1では、スライス方向と平行な中心軸を有する円柱(円筒)形状陽極の側面に、電子線をスライス方向に掃引しながら照射している。このようにすることで、円錐状ではなく、扇形状をスライス方向に連ねた形状のX線を照射することが可能となり、コーン角に起因する不具合を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007-531204公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなX線照射では、陽極表面に照射される電子線強度分布に偏りが生じるため、断層面内のX線強度分布が扇形状の中心線に対し非対称となり、画質劣化の原因となることが懸念される。
【0007】
そこで、本発明の目的は、扇形状をスライス方向に連ねた形状のX線を照射する際に、断層面内のX線強度分布に偏りを生じさせないX線管装置を提供すること、及びそのX線管装置を搭載することで画質劣化を防止できるX線CT装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、X線焦点が形成される陽極の表面と直交する線に対し、線対称となる位置に設けられた陰極対を含む陰極を備えることを特徴とするX線管装置である。
【0009】
具体的には、円柱形状部を有し前記円柱形状部の中心軸を回転軸として回転する陽極と、前記陽極に向けて電子線を放出する陰極と、前記電子線が前記陽極に衝突することで発生するX線を放射する放射窓と、を備えたX線管装置であって、前記陰極は、前記中心軸と直交する面内において、前記放射窓の中心と前記中心軸とを通る直線である基準線に対し、線対称となる位置に設けられた陰極対を含むことを特徴とするX線管装置である。
【0010】
また、前記X線管装置と、前記X線管装置に対向配置され被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線管装置と前記X線検出器を搭載し前記被検体の周囲を回転する回転円盤と、前記X線検出器により検出された複数角度からの透過X線量に基づき前記被検体の断層画像を再構成する画像再構成装置と、前記画像再構成装置により再構成された断層画像を表示する画像表示装置と、を備え、前記陽極の回転軸が前記回転円盤の回転軸と平行であることを特徴とするX線CT装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、扇形状をスライス方向に連ねた形状のX線を照射する際に、スライス面内のX線強度分布に偏りを生じさせないX線管装置を提供すること、及びそのX線管装置を搭載することで画質劣化を防止できるX線CT装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のX線CT装置の全体構成を示すブロック図
【図2】第一の実施形態のX線管装置をX-Y平面で切断した断面図
【図3】図2中のA-A断面図
【図4】第一の実施形態の要部周辺の斜視図
【図5】第二の実施形態の要部周辺の斜視図
【図6】第二の実施形態での電子線軌道の一例を示す図
【図7】第三の実施形態の要部周辺の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に従って本発明に係るX線CT装置の好ましい実施形態について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0014】
図1を用いて本発明を適用したX線CT装置1の全体構成を説明する。以降の説明と対応付けるため、図1にはX/Y/Z方向を示している。X線CT装置1はスキャンガントリ部100と操作卓120とを備える。
【0015】
スキャンガントリ部100は、X線管装置101と、回転円盤102と、コリメータ103と、X線検出器106と、データ収集装置107と、寝台105と、ガントリ制御装置108と、寝台制御装置109と、X線制御装置110と、を備えている。X線管装置101は寝台105上に載置された被検体にX線を照射する装置である。
【0016】
コリメータ103はX線管装置101から照射されるX線の放射範囲を制限する装置である。回転円盤102は、寝台105上に載置された被検体が入る開口部104を備えるとともに、X線管装置101とX線検出器106を搭載し、被検体の周囲を回転するものである。X線検出器106は、X線管装置101と対向配置され被検体を透過したX線を検出することにより透過X線の空間的な分布を計測する装置であり、多数のX線検出素子を回転円盤102の回転方向(チャネル方向ともいう)と回転軸方向(スライス方向ともいう)との2次元に配列したものである。
【0017】
データ収集装置107は、X線検出器106で検出されたX線量をデジタルデータとして収集する装置である。ガントリ制御装置108は回転円盤102の回転を制御する装置である。寝台制御装置109は、寝台105の上下前後動を制御する装置である。X線制御装置110はX線管装置101に入力される電力を制御する装置である。
【0018】
操作卓120は、入力装置121と、画像演算装置122と、表示装置125と、記憶装置123と、システム制御装置124とを備えている。入力装置121は、被検体氏名、検査日時、撮影条件などを入力するための装置であり、具体的にはキーボードやポインティングデバイスである。画像演算装置122は、データ収集装置107から送出される計測データを演算処理してCT画像再構成を行う装置である。表示装置125は、画像演算装置122で作成されたCT画像を表示する装置であり、具体的にはCRT(Cathode-Ray Tube)や液晶ディスプレイ等である。記憶装置123は、データ収集装置107で収集したデータ及び画像演算装置122で作成されたCT画像の画像データを記憶する装置であり、具体的にはHDD(Hard Disk Drive)等である。システム制御装置124は、これらの装置及びガントリ制御装置108と寝台制御装置109とX線制御装置110を制御する装置である。
【0019】
入力装置121から入力された撮影条件、特にX線管電圧やX線管電流などに基づきX線制御装置110がX線管装置101に入力される電力を制御することにより、X線管装置101は撮影条件に応じたX線を被検体に照射する。X線検出器106は、X線管装置101から照射され被検体を透過したX線を多数のX線検出素子で検出し、透過X線の分布を計測する。回転円盤102はガントリ制御装置108により制御され、入力装置121から入力された撮影条件、特に回転速度などに基づいて回転する。寝台105は寝台制御装置109によって制御され、入力装置121から入力された撮影条件、特にらせんピッチなどに基づいて動作する。
【0020】
X線管装置101からのX線照射とX線検出器106による透過X線分布の計測が回転円盤102の回転とともに繰り返されることにより、様々な角度からの投影データが取得される。取得された様々な角度からの投影データは画像演算装置122に送信される。画像演算装置122は送信された様々な角度からの投影データを逆投影処理することによりCT画像を再構成する。再構成して得られたCT画像は表示装置125に表示される。
【0021】
本発明のX線管装置101は、XY面内において扇形状となるX線をZ軸方向、すなわちスライス方向に連ねた状態で照射する。さらに、照射されるX線の強度分布は扇形状の中心線に対し線対称となり、偏りが生じることがない。X線管装置101の具体的な構成について、以下説明する。
【0022】
(第一の実施形態)
図2乃至図4を用いて、本実施形態のX線管装置101の構成について説明する。図2はX線管装置101をX-Y平面で切断した断面図であり、図3は図2中のA-A断面図である。図4は本実施形態のX線管装置101の要部周辺の斜視図である。なお、図2(a)はX線管装置101の全体を示しており、図2(b)は要部を拡大して示している。
【0023】
X線管装置101は、陽極201と、陰極202L、202Rと、外囲器203と、放射窓204と、陽極支持軸205と、容器209とを備える。
【0024】
陽極201は、中心軸206を有する円柱形状の陽極母材と、陽極母材の円柱側面上に設けられたターゲットとを備える。ターゲットはタングステンなどの高融点で原子番号の大きい材質で構成される。ターゲット上には、後述する陰極202L、202Rから放出された電子線207が衝突することによりX線焦点が形成され、X線焦点からX線208が発生する。陽極母材はターゲットを保持する部材であり、銅などの熱伝導率の高い材質からなる。なおターゲットと陽極母材とは同電位である。
【0025】
陰極202L、202Rは、陽極201に向けて電子線207を放出するものであり、フィラメントもしくは冷陰極と、集束電極とを備える。フィラメントはタングステンなどの高融点材料をコイル状に巻いたものであり、電流が流されることにより加熱され、熱電子を放出する。冷陰極はニッケルやモリブデンなどの金属材料を鋭利に尖らせてなるもので、陰極表面に電界が集中することで電界放出により電子を放出する。集束電極は、放出された電子を陽極201上のX線焦点へ向けて集束させるための集束電界を形成する。フィラメントもしくは冷陰極と、集束電極とは同電位である。また、陰極202L、202Rと陽極201との間には百数十kVの電位差が印加され、電子線207は数百mAの電流となる。
【0026】
陽極支持軸205は、陽極201の両底面に接続され、陽極201と同じ中心軸206を有する。また陽極支持軸205は、後述する外囲器203に回転可能に保持されており、図示しない駆動源により中心軸206を回転軸として回転させられる。陽極201に衝突する電子線207のエネルギーの内、X線に変換される割合は1%程度に過ぎず、残りのほとんどのエネルギーは熱となる。すなわち、陽極201は数十kWの熱量で加熱される。そこで、陽極支持軸205とともに陽極201を回転させることにより、陽極201に入力される熱量を分散させ、陽極201が過剰に加熱されることを防止する。
【0027】
外囲器203は、陽極201と陰極202L、202Rとの間を電気的に絶縁するために、両者を真空雰囲気中に保持する。外囲器203には放出ガスの少ないガラスやセラミックスなどが用いられる。また陽極201と陰極202L、202Rとの間を電気的に絶縁可能であれば、外囲器203の一部に金属が用いられても良い。
【0028】
容器209は、外囲器203を収納するものである。容器209の中には、外囲器203とともに、冷却媒体である冷却水もしくは外囲器203を電気的に絶縁するとともに冷却媒体となる絶縁油が充填される。容器209内に充填された冷却水もしくは絶縁油は、容器209に接続される配管を通じて冷却器に導かれ、冷却器にて熱を放散した後、配管を通じて容器209内に戻される。また容器209はほぼ円筒形状をしており、容器209の中心軸は、陽極201の中心軸206と一致している。
【0029】
放射窓204は、X線208をX線管装置101外へ放射するために、外囲器203及び容器209に備えられる。放射窓204は、X線透過率が高いベリリウムなどの原子番号の小さい材質で構成される。放射窓204は、XY面内において扇形状となるX線208をZ軸方向、すなわちスライス方向に連ねた状態で照射するのに十分な長さ、例えば陽極201のスライス方向の長さと同等の長さを有する。
【0030】
本実施形態の陰極202L、202Rは、XY面内において、陽極201の中心軸206と、放射窓204の中心とを通る直線210に対し、線対称となる位置に設けられる。すなわち、陰極202Lと陰極202Rとは、基準線となる直線210に対し、線対称となる位置で対をなす。さらに、対をなす陰極202Lと陰極202Rとから放出された各電子線207が、陽極201の側面上の同じ位置で同じ大きさのX線焦点を形成するように、陰極202Lと陰極202Rは配置される。なお、XY面内におけるX線焦点の大きさはできるだけ小さいことが好ましい。また、陰極202L、202Rのスライス方向の長さは、陽極201のスライス方向の長さと同等である。
【0031】
陰極202Lと陰極202Rのいずれか一方から放出された電子線207がXY面内において陽極201の表面に入射する角度は、電子線207が陽極201の表面に入射する位置により異なる。図2(b)を用いて、陰極202Rから放出された電子線207の入射角度について説明する。XY面内において陽極201は円弧状になっているので、陰極202Rからみて直線210よりも遠い位置で陽極201に入射した電子線207の入射角度は、近い位置で入射した場合に比べて大きい。つまり、陰極202Rから放出される電子線207の密度がほぼ均一であったとしても、陽極201に入射するときには、陰極202Rからみて直線210よりも遠い位置のほうが近い位置よりも電子線207の密度が低くなり、電子線強度の分布に偏りが生じることとなる。電子線強度分布が偏ると、断層面内のX線強度分布が扇形状の中心線に対し非対称となり、ひいてはX線CT装置で取得される断層画像の画質劣化の原因となる。
【0032】
そこで本実施形態では、直線210に対し線対称となる位置に配置された陰極202Lと陰極202Rの対からそれぞれ放出された各電子線207が、陽極201の側面上の同じ位置でX線焦点を形成するようにしている。このような構成とすることにより、XY面内において電子線強度分布に偏りを生じさせずにすむので、扇形状をスライス方向に連ねた形状のX線を照射する際に、直線210に対し線対称となるX線強度分布とすることができる。すなわち、X線CT装置で取得される断層画像の画質劣化を抑制することができる。
【0033】
なお、電子線207は、線対称となる位置に配置された陰極202Lと陰極202Rの対から同時に放出されても良いし、所定の時間間隔で交互に切り替えられて放出されても良い。電子線207の放出を交互に切り替えるには、例えば陰極202Lと陽極201との間、及び陰極202Rと陽極201との間に網目状の電極をそれぞれ設け、各々の網目状電極に印加する電位を交互に制御すれば良い。電子線207の放出を交互に切り替える場合は、X線CT装置がある角度の投影データを取得する時間間隔よりも短い時間間隔で切り替え、陰極202Lから電子線207が放出されている時間と陰極202Rから電子線207が放出されている時間が等しいことが好ましい。このように電子線207を切り替えることにより、ある角度の投影データが取得される間において、X線強度分布を直線210に対し線対称とすることができる。
【0034】
また、本実施形態では、X線管装置101の管軸である容器209の中心軸と、陽極201の回転軸である中心軸206とを一致させているので、回転円盤102の回転時にX線管装置101の各部にかかる遠心力分布が均一となる。つまり、X線管装置の中心軸と円筒形状陽極の中心軸とが偏心している特許文献1に開示されたX線管装置に比べ、高速スキャンの遠心力に耐えうるX線管装置101を製作する上で有利である。
【0035】
(第二の実施形態)
図5に、第二の実施形態の要部周辺の斜視図を示す。第一の実施形態と大きく異なる点は、陰極202L、202Rの構成である。以下、第一の実施形態と異なる構成を中心に説明する。なお、第一の実施形態と同じ構成については、同じ符号とし、説明を省略する。
本実施形態では、XY面における陰極202L、202Rの配置は第一の実施形態と同じであるが、Z方向において陰極202Lと陰極202Rの対が複数に分割された構成となる。なお、図5には、Z方向において陰極202Laと陰極202Raの対と、陰極202Lbと陰極202Rbの対、陰極202Lcと陰極202Rcの対の3つに分割した例を示しているが、分割数は3つに限定されるものではない。
【0036】
このような構造とすることにより、Z方向、すなわちスライス方向に沿って形成される複数のX線焦点からコーン状のX線208a、208b、208cが照射されるので、単一のX線焦点からX線が照射される場合に比べて、コーン角が小さくなり、コーン角に起因する偽像であるコーンビームアーチファクトを低減することができる。
【0037】
さらに、陰極202Laと陰極202Raの対と、陰極202Lbと陰極202Rbの対、陰極202Lcと陰極202Rcの対のいずれか一対のみから電子線を放出させるようにしても良い。こうすることにより、X線照射範囲を必要最小限にしたり、いずれかの陰極対に不具合が生じた場合にも残りの陰極対を使用したりすることでX線照射が可能となる。
【0038】
また、本実施形態では、各陰極202La、202Ra、202Lb、202Rb、202Lc、202Rcから放出される電子線207a、207b、207cをスライス方向に掃引する掃引手段を設けても良い。掃引手段は、例えば特許文献1と同様にスライス方向に電界を生成する電極でも良いし、スライス方向及び電子線207a、207b、207cと直交する方向に磁界を生成する励磁コイルでも良い。電子線207a、207b、207cをスライス方向に掃引させることにより、スライス方向に沿って形成されるX線焦点の位置を陰極202La、202Ra、202Lb、202Rb、202Lc、202Rcが配置された位置に制限されることなく設定できる。
【0039】
さらに、電子線207の掃引周期は、陽極201の回転周期と非同期であることが好ましい。図6に、陽極201の側面に描かれる電子線207の軌跡の例207a-1〜3、207b-1〜3、207c-1〜3を示す。なお、図6は陽極201の側面を平面に展開したものである。また、符号207a-1〜3、207b-1〜3、207c-1〜3のa、b、cは電子線207a、207b、207cのうちのいずれの電子線の軌跡であるかを表し、符号207a-1〜3、207b-1〜3、207c-1〜3の1〜3は陽極201が回転する毎に電子線207a、207b、207cが描く軌跡の順番を表す。すなわち、陽極201の1回転目の電子線207aの軌跡が符号207a-1であれば、2回転目では符号207a-2の軌跡を描くことになる。
【0040】
前述したように、陽極201は電子線207a、207b、207cが衝突することにより数十kWの熱量で加熱されるので、入力される熱量を分散させたほうが良い。電子線207a、207b、207cの掃引周期と、陽極201の回転周期とが同期する場合、電子線207a、207b、207cの軌跡は同じ場所となり、陽極201の同じ場所が繰り返し加熱されることとなる。そこで、本実施形態では、電子線207a、207b、207cの掃引周期と、陽極201の回転周期とを非同期とすることで、電子線207a、207b、207cの軌跡をずらして重ならないようにし、陽極201の過剰な加熱を防止できるようにする。なお、陽極201のN回転目とN+1回転目の電子線207a、207b、207cの軌跡のずれ量は、陽極201の円周方向における電子線207a、207b、207cの幅以上とすることが好ましい。さらに、電子線207a、207b、207cの軌跡が、陽極201のN回転目とN+1回転目との間で、より離れていることが望ましい。そこで、陽極201の回転周期が、電子線207a、207b、207cの掃引の半周期から電子線207a、207b、207cの幅分ずれるようにしても良い。
【0041】
(第三の実施形態)
図7に、第三の実施形態の要部周辺の斜視図を示す。第一の実施形態と大きく異なる点は、陽極201と、陰極202L、202Rの構成である。以下、第一の実施形態と異なる構成を中心に説明する。なお、第一の実施形態と同じ構成については、同じ符号とし、説明を省略する。
【0042】
本実施形態では、陽極701が円柱の両底面に円錐台を組み合せた形状である。陽極701の側面、すなわち円柱及び円錐台の側面にはターゲットが備えられる。なお、円錐台の中心軸は円柱の中心軸206と一致する。
【0043】
また、一方の円錐台の側面に電子線207aを照射する陰極202aと、円柱の側面に電子線207bを照射する陰極202Lbと陰極202Rbとの対と、他方の円錐台の側面に電子線207cを照射する陰極202cとが備えられる。陰極202a、202Lb、202Rb、202cは、電子線207a、207b、207cが陽極701に衝突する位置が放射窓204側から見たときに一直線上に並ぶように配置される。
【0044】
このような構造とすることにより、Z方向、すなわちスライス方向に沿って配置された複数のX線焦点からコーン状のX線208a、208b、208cが照射されるので、単一のX線焦点からX線が照射される場合に比べて、コーン角が小さくなり、コーン角に起因する偽像であるコーンビームアーチファクトを低減することができる。
また、陽極701のスライス方向の長さを、第一、第二の実施形態に比べて短くでき、ひいてはX線管装置101の小型化、軽量化を図ることができる。
【0045】
なお、本発明は、実施形態で開示した複数の構成要素を適宜に組み合わせて実施しても良い。例えば、第三の実施形態の構造において、陰極202a、202Lb、202Rb、202cから放出される電子線207a、207b、207cをスライス方向に掃引する電極を設けても良い。
【0046】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、第一の実施形態において、陰極202L、202Rのスライス方向の長さを陽極201の長さよりも短くし、陰極202L、202Rから放出される電子線207aをスライス方向に掃引する電極を設けても良い。また第三の実施形態において、陽極701が円柱の一方の底面に円錐台を組み合わせた形状であっても良い。
【符号の説明】
【0047】
1 X線CT装置、100 スキャンガントリ部、101 X線管装置、102 回転円盤、103 コリメータ、104 開口部、105 寝台、106 X線検出器、107 データ収集装置、108 ガントリ制御装置、109 寝台制御装置、110 X線制御装置、120 操作卓、121 入力装置、122 画像演算装置、123 記憶装置、124 システム制御装置、125 表示装置、201、701 陽極、202L、202R、202La、202Ra、202Lb、202Rb、202Lc、202Rc、202a、202b:陰極、203 外囲器、204 放射窓、205 陽極支持軸、206:中心軸、207、207a、207b、207c 電子線、208、208a、208b、208c X線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状部を有し前記円柱形状部の中心軸を回転軸として回転する陽極と、前記陽極に向けて電子線を放出する陰極と、前記電子線が前記陽極に衝突することで発生するX線を放射する放射窓と、を備えたX線管装置であって、
前記陰極は、前記中心軸と直交する面内において、前記放射窓の中心と前記中心軸とを通る直線である基準線に対し、線対称となる位置に設けられた陰極対を含むことを特徴とするX線管装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線管装置において、
前記陽極は、前記円柱形状部の底面に、前記円柱形状部の中心軸と同じ中心軸を有する円錐台部を組み合わせた形状であり、
前記陰極は、前記円錐台部の側面に向けて電子線を放出する陰極をさらに有することを特徴とするX線管装置。
【請求項3】
請求項1に記載のX線管装置において、
前記陰極対は前記回転軸の方向に沿って複数備えられることを特徴とするX線管装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のX線管装置において、
前記電子線を前記回転軸方向に掃引する掃引手段をさらに備え、
前記電子線の掃引周期が前記陽極の回転周期と非同期であることを特徴とするX線管装置。
【請求項5】
被検体にX線を照射するX線源と、前記X線源に対向配置され前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器を搭載し前記被検体の周囲を回転する回転円盤と、前記X線検出器により検出された透過X線量に基づき被検体の断層画像を再構成する画像再構成装置と、前記画像再構成装置により再構成された断層画像を表示する画像表示装置と、を備えたX線CT装置であって、
前記X線源は、請求項1乃至4に記載のX線管装置であって、前記陽極の回転軸が前記回転円盤の回転軸と平行であることを特徴とするX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−93102(P2013−93102A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232609(P2011−232609)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】