位置算出方法及び位置算出装置
【課題】 移動体に備えられた衛星測位用ユニット及び慣性測位用ユニットの計測結果を併用した位置算出手法の提案。
【解決手段】 GPSユニット3とINSユニット5とを備えた位置算出装置1において、位置算出精度判定部6は、位置算出精度を判定する。影響度合設定部7は、位置算出精度判定部6により判定された位置算出精度に基づいて、GPS計測結果のINS計測結果に対する影響度合を設定する。カップリング処理部9は、影響度合設定部7により設定された影響度合に基づいてGPS計測結果とINS計測結果とのカップリング処理を実行して、移動体の位置を算出する。
【解決手段】 GPSユニット3とINSユニット5とを備えた位置算出装置1において、位置算出精度判定部6は、位置算出精度を判定する。影響度合設定部7は、位置算出精度判定部6により判定された位置算出精度に基づいて、GPS計測結果のINS計測結果に対する影響度合を設定する。カップリング処理部9は、影響度合設定部7により設定された影響度合に基づいてGPS計測結果とINS計測結果とのカップリング処理を実行して、移動体の位置を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に備えられた衛星測位用ユニット及び慣性測位用ユニットの計測結果を用いた位置算出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるシームレス測位やモーションセンシング、姿勢制御など様々な分野において、慣性センサーの活用が注目されている。慣性センサーとしては、加速度センサーやジャイロセンサー、圧力センサー、地磁気センサーなどが広く知られている。慣性センサーの検出結果を利用して慣性航法演算を行って位置算出を行うシステム(以下、「INS(Inertial Navigation System)」と称する。)も実用化されている。
【0003】
INSにおいては、慣性センサーの検出結果に含まれ得る種々の誤差成分に起因して位置算出の正確性が低下するという問題があり、位置算出の正確性を向上させるための様々な技術が考案されている。例えば、特許文献1には、INS演算結果を、GPS(Global Positioning System)を利用して補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0019963号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GPSを利用してINS演算結果を補正する技術は、GPS演算結果が正しいことを前提としている。特許文献1に開示された技術も同様である。しかし、GPS演算結果は、GPS衛星から受信したGPS衛星信号の信号強度、受信環境、GPS衛星の天空配置、マルチパスといった種々の要因により、演算結果の精度が低下する場合がある。このため、常にGPS演算結果を利用してINS演算結果を補正することが、必ずしも位置算出の精度改善に繋がるとは限らなかった。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、移動体に備えられた衛星測位用ユニット及び慣性測位用ユニットの計測結果を併用して、移動体の位置をより正確に算出するための手法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための第1の形態は、移動体に備えられた衛星測位用ユニットの第1の計測結果と、前記移動体に備えられた慣性測位用ユニットの第2の計測結果とを用いて、前記移動体の位置を算出する位置算出方法であって、位置算出精度を判定することと、前記位置算出精度に基づいて、前記第1の計測結果の前記第2の計測結果に対する影響度合を設定することと、前記影響度合に基づき、前記第1の計測結果と前記第2の計測結果とのカップリング処理を実行して前記移動体の位置を算出することと、を含む位置算出方法である。
【0008】
また、他の形態として、移動体に備えられた衛星測位用ユニットの第1の計測結果と、前記移動体に備えられた慣性測位用ユニットの第2の計測結果とを用いて、前記移動体の位置を算出する位置算出装置であって、位置算出精度を判定する位置算出精度判定部と、前記位置算出精度に基づいて、前記第1の計測結果の前記第2の計測結果に対する影響度合を設定する影響度合設定部と、前記影響度合に基づき、前記第1の計測結果と前記第2の計測結果とのカップリング処理を実行して前記移動体の位置を算出するカップリング処理部と、を備えた位置算出装置を構成してもよい。
【0009】
この第1の形態等によれば、位置算出精度を判定する。そして、位置算出精度に基づいて、慣性測位用ユニットの計測結果(第2の計測結果)に対する衛星測位用ユニットの計測結果(第1の計測結果)の影響度合を設定する。これにより、特に連続動作時における影響度合の適正化を実現することができる。そして、適正化した影響度合に基づき第1の計測結果と第2の計測結果とのカップリング処理を実行することで、位置算出の正確性を向上させることができる。
【0010】
また、第2の形態として、第1の形態の位置算出方法において、前記判定することは、前記移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数に基づいて前記位置算出精度を判定することを含む、位置算出方法を構成することとしてもよい。
【0011】
この第2の形態によれば、移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数から、位置算出精度を簡易且つ適切に判定することができる。
【0012】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の位置算出方法において、前記カップリング処理は、算出した位置に含まれている誤差を推定する誤差推定演算を含み、前記判定することは、前記誤差推定演算で推定した誤差に基づいて前記位置算出精度を判定することを含む、位置算出方法を構成することとしてもよい。
【0013】
この第3の形態によれば、カップリング処理において誤差推定演算を行うことで推定した位置の誤差から、位置算出精度を簡易且つ適切に判定することができる。
【0014】
また、第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態の位置算出方法において、前記影響度合には、前記第1の計測結果を採用して前記カップリング処理を実行する実行頻度が含まれており、前記影響度合を設定することは、前記位置算出精度に基づいて前記実行頻度を設定することを含み、前記位置を算出することは、前記実行頻度に従って前記第1の計測結果を採用した前記カップリング処理を実行することを含む、位置算出方法を構成することとしてもよい。
【0015】
この第4の形態によれば、位置算出精度に基づいて、第1の計測結果を採用してカップリング処理を実行する実行頻度を適正化し、カップリング処理の実効性を向上させることができる。
【0016】
また、第5の形態として、第4の形態の位置算出方法において、前記実行頻度を設定することは、前記位置算出精度が高いほど低い頻度を設定することである、位置算出方法を構成してもよい。
【0017】
この第5の形態によれば、位置算出精度が高いほど、第1の計測結果を採用してカップリング処理を実行する実行頻度を低く設定することで、衛星測位用ユニットへの依存度を低減させることができる。位置算出精度が高ければ、第1の計測結果の影響度合を下げてカップリング処理を実行しても、位置算出の正確性は保証される。
【0018】
また、第6の形態として、第1〜第3の何れかの形態の位置算出方法において、前記カップリング処理は、前記第1の計測結果を観測量とするカルマンフィルター処理を含み、前記影響度合を設定することは、前記位置算出精度に基づいて前記カルマンフィルター処理に用いる誤差パラメーター値を設定することを含み、前記位置を算出することは、前記第1の計測結果及び前記誤差パラメーター値を用いて前記カルマンフィルター処理を実行することを含む、位置算出方法を構成することとしてもよい。
【0019】
誤差パラメーター値は、例えば、カルマンフィルター処理において第1の計測結果を重視する程度を決定付ける値である。第6の形態によれば、位置算出精度に基づいて誤差パラメーター値を設定することで、誤差パラメーター値を適正化し、移動体の位置をより正確に求めることが可能となる。
【0020】
また、第7の形態として、第6の形態の位置算出方法において、前記誤差パラメーター値を設定することは、前記位置算出精度が高いほど大きい値を設定することである、位置算出方法を構成することとしてもよい。
【0021】
この第7の形態によれば、位置算出精度が高いほど、カルマンフィルター処理に用いる誤差パラメーター値に大きい値を設定することで、衛星測位用ユニットへの依存度を低減させることができる。位置算出精度が高ければ、第1の計測結果の影響度合を下げてカップリング処理を実行しても、位置算出の正確性は保証される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】位置算出装置の主要構成図。
【図2】第1の位置算出装置の構成図。
【図3】カップリング処理の入出力データの説明図。
【図4】第1のモード設定条件の説明図。
【図5】第2のモード設定条件の説明図。
【図6】位置算出を行った実験結果の一例を示す図。
【図7】位置算出を行った実験結果の一例を示す図。
【図8】ナビゲーションシステムのシステム構成の説明図。
【図9】カーナビゲーション装置の機能構成を示すブロック図。
【図10】演算設定テーブルのテーブル構成の一例を示す図。
【図11】ナビゲーション処理の流れを示すフローチャート。
【図12】カップリング処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態の一例について説明する。本実施形態は、衛星測位システムの一種であるGPS(Global Positioning System)と、慣性航法演算を行うシステムであるINS(Inertial Navigation System)とを併用して位置算出を行う実施形態である。
【0024】
1.原理
1−1.システム構成
図1は、本実施形態における位置算出装置1の主要構成図である。位置算出装置1は、移動体に備えられて、当該移動体の位置を算出する装置(位置算出システム)である。移動体は、自動車やオートバイ、自転車、船、電車といった物の他、人間自体であってもよい。人間が位置算出装置1を携帯し、人間自身が位置算出装置1を備えることとしてもよい。図1では、ユニット(モジュール)を二重線で図示し、ユニットの計測結果を利用して演算処理を行う処理ブロックを一重線で図示することで、両者を区別する。図2についても同様である。
【0025】
位置算出装置1は、ユニット(モジュール)として、GPSユニット3と、INSユニット5とを備える。また、位置算出装置1は、主要な処理ブロックとして、位置算出精度判定部6と、影響度合設定部7と、カップリング処理部9とを有する。
【0026】
GPSユニット3は、衛星測位システムを利用して測位を行うためのユニット(衛星測位用ユニット)である。GPSユニット3は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を受信するアンテナや、受信したGPS衛星信号を処理するプロセッサー等を有して構成される。
【0027】
GPSユニット3は、GPS衛星信号のコード位相やドップラー周波数、擬似距離、擬似距離変化率等のGPSメジャメント情報を計測可能に構成されている。また、GPSユニット3は、GPSメジャメント情報を用いたGPS演算を行って、移動体の位置や速度(速度ベクトル)等を計測可能に構成されている。GPSメジャメント情報やGPS演算結果は、GPS計測結果(第1の計測結果)としてカップリング処理部9に出力される。
【0028】
INSユニット5は、慣性航法を利用して測位を行うためのユニット(慣性測位用ユニット)である。INSユニット5は、加速度センサーやジャイロセンサー等の慣性センサーや、慣性センサーをパッケージ化した慣性計測ユニット(IMU(Inertial Measurement Unit))、慣性センサーの計測結果を処理するプロセッサー等を有して構成される。
【0029】
INSユニット5は、慣性センサーの計測結果を用いて、移動体の加速度(加速度ベクトル)や角速度等をINSメジャメント情報として計測可能に構成されている。また、INSユニット5は、INSメジャメント情報を用いた慣性航法演算(INS演算)を行って、移動体の位置や速度(速度ベクトル)、姿勢角等を計測可能に構成されている。INSメジャメント情報やINS演算結果は、INS計測結果(第2の計測結果)としてカップリング処理部9に出力される。
【0030】
位置算出精度判定部6は、位置算出の確からしさである位置算出精度を判定する。具体的には、位置算出精度判定部6は、移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数に基づいて位置算出精度を判定する。また、位置算出精度判定部6は、カップリング処理部9がカップリング処理において所定の誤差推定演算を行うことで推定したカップリング推定誤差に基づいて、位置算出精度を判定する。
【0031】
影響度合設定部7は、位置算出精度判定部6により判定された位置算出精度に基づいて、GPS計測結果(第1の計測結果)のINS計測結果(第2の計測結果)に対する影響度合を設定する。
【0032】
カップリング処理部9は、影響度合設定部7により設定された影響度合に基づいて、GPS計測結果(第1の計測結果)とINS計測結果(第2の計測結果)とのカップリング処理を実行して移動体の位置等を算出する。
【0033】
図2は、図1の位置算出装置1を適用した第1の位置算出装置1Aの構成図である。第1の位置算出装置1Aでは、図1の位置算出精度判定部6が位置誤差レベル判定部6Aを有し、影響度合設定部7が影響モード設定部7Aを有する。また、図1のカップリング処理部9がカルマンフィルター処理部9Aを有する。
【0034】
位置誤差レベル判定部6Aは、後述するモード設定条件(第1又は第2のモード設定条件)に従って位置誤差レベルを判定する。位置誤差レベルは、位置算出精度を決定付ける位置誤差のレベルである。
【0035】
影響モード設定部7Aは、位置誤差レベル判定部6Aにより判定された位置誤差レベルに基づいてGPS影響モードを設定する。GPS影響モードは、GPSの影響度合を決定づけるモードである。本実施形態では、GPS計測結果のINS計測結果に対する影響度合が低い順に、「第1の影響モード」、「第2の影響モード」、「第3の影響モード」及び「第4の影響モード」の4種類のモードを択一的に設定する場合を想定する。
【0036】
カルマンフィルター処理部9Aは、GPS計測結果を観測量“Z”とするカルマンフィルター処理を実行して、GPS計測結果とINS計測結果とをカップリング(結び付け)する。具体的には、カルマンフィルターの理論に基づき、予測演算(時刻更新)と補正演算(観測更新)とを行って、移動体の状態“X”を推定する。
【0037】
本実施形態において、移動体の状態“X”には、少なくとも移動体の位置が含まれる。予測演算では、例えば、INSユニット5から入力したINS計測結果を制御入力“U”として、1つ前の時刻(前回時刻)における状態補正値“X+”から、現在の時刻(今回時刻)における状態“X”を予測する演算を行って、状態予測値“X−”を算出する。
【0038】
補正演算では、例えば、GPSユニット3から入力したGPS計測結果を観測量“Z”として用いて、予測演算で算出した状態予測値“X−”を補正する演算を行って、状態補正値“X+”を算出する。そして、算出した状態補正値“X+”を、カップリング結果として出力する。
【0039】
また、カルマンフィルター処理部9Aは、GPS計測結果とは別に、移動体の運動モデルに基づく制約条件を観測量“Z”として適用可能に構成されている。本実施形態では、移動体の停止時における速度制約条件である「停止時速度制約条件」と、移動体の移動時における速度制約条件である「移動時速度制約条件」との2種類の速度制約条件を適用する場合を想定する。
【0040】
停止時速度制約条件(第1の制約条件)は、移動体の停止時に適用可能な制約条件である。移動体が停止しているのであれば、理想的には移動体の速度はゼロである。従って、移動体が停止していると判定した場合は「移動体の各軸の速度成分=0(速度ベクトル=ゼロベクトル)」を観測量“Z”として与えることができる。
【0041】
移動時速度制約条件(第2の制約条件)は、移動体の移動時に適用可能な制約条件である。例えば、移動体として四輪自動車を想定した場合、通常、四輪自動車はジャンプや横滑りすることはないと仮定することができる。従って、移動体が移動していると判定した場合は「移動体の縦横方向の速度成分=0」を観測量“Z”として与えることができる。
【0042】
本実施形態では、GPS計測結果と上記の制約条件(停止時速度制約条件又は移動時速度制約条件)とを切り替えて観測量“Z”に適用する場合を一例として説明する。なお、本実施形態とは異なり、GPS計測結果と上記の制約条件とを観測量“Z”として併用することも当然に可能である。
【0043】
図3は、カルマンフィルター処理の入出力データの説明図である。制御入力“U”と、観測量“Z”と、状態“X”との対応関係を表したテーブルを図示している。カップリングには種々の方式が存在する。その中でも、ルーズカップリング(疎結合)と呼ばれる方式と、タイトカップリング(密結合)と呼ばれる方式とが一般的に用いられる。
【0044】
ルーズカップリング方式は、GPSとINSとの結び付きが比較的弱いカップリング方式である。この方式では、例えば、制御入力“U”をINS演算結果(位置、速度、姿勢角等)とし、観測量“Z”をGPS演算結果(位置、速度等)としてカップリング処理を実行する。そして、移動体情報(位置、速度、姿勢角等)を状態“X”として推定する。
【0045】
タイトカップリング方式は、GPSとINSとの結び付きが比較的強いカップリング方式である。この方式では、例えば、制御入力“U”をINS演算結果(位置、速度、姿勢角等)とし、観測量“Z”をGPSメジャメント情報(コード位相、ドップラー周波数、擬似距離、擬似距離変化率等)としてカップリング処理を実行する。そして、移動体情報(位置、速度、姿勢角等)を状態“X”として推定する。
【0046】
また、タイトカップリング方式として、制御入力“U”をINSメジャメント情報(加速度、角速度等)とし、観測量“Z”をGPSメジャメント情報(コード位相、ドップラー周波数、擬似距離、擬似距離変化率等)とし、状態“X”を移動体情報(位置、速度、姿勢角等)とする手法も存在する。
【0047】
本実施形態の位置算出方法は、上記の何れのカップリング方式に対しても実質的に同一に適用可能である。つまり、GPS計測結果(第1の計測結果)として、GPSメジャメント情報を適用してもよいし、GPS演算結果を適用してもよい。また、INS計測結果(第2の計測結果)として、INSメジャメント情報を適用してもよいし、INS演算結果を適用してもよい。
【0048】
INS計測結果及びGPS計測結果として用いる情報は、適用するシステムに応じて適宜設定可能である。この場合、カルマンフィルター処理の予測演算及び補正演算で用いる演算式やパラメーター値を、適用するシステムに応じて適宜設定すればよい。なお、具体的な演算式やパラメーター値については、公知の手法に基づき定義可能であるため、ここでは説明を省略する。
【0049】
1−2.GPS影響モードの設定
本実施形態では、大きく分けて2つのGPS影響モード設定方法について説明する。第1の設定方法は、移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数に基づいて位置算出精度を判定し、当該位置算出精度に基づいてGPS影響モードを設定する方法である。第2の設定方法は、カップリング処理において所定の誤差推定演算を行うことで推定したカップリング推定誤差に基づいて位置算出精度を判定し、当該位置算出精度に基づいてGPS影響モードを設定する方法である。
【0050】
(1)第1の設定方法
図4は、GPS影響モードの第1の設定方法の説明図であり、GPS影響モードの設定で用いる第1のモード設定条件を定めた第1のモード設定条件テーブルを図示したものである。第1のモード設定条件テーブルには、第1のモード設定条件と、位置誤差レベルと、設定モードとが対応付けて定められている。
【0051】
第1のモード設定条件は、移動体が移動を開始してからの経過時間(以下、「移動開始後経過時間」と称す。)、又は、移動体が移動を開始してからの位置算出回数(以下、「移動開始後位置算出回数」と称す。)に応じた条件が定められている。「移動を開始してから」とは、移動体が停止した状態から動き出してからという意味である。
【0052】
1番目の条件は「移動開始後経過時間≦第1の閾値時間θT1、又は、移動開始後位置算出回数≦第1の閾値回数θC1」であり、位置誤差レベルは「L1」、設定モードは「第1の影響モード」である。2番目の条件は「第1の閾値時間θT1<移動開始後経過時間≦第2の閾値時間θT2、又は、第1の閾値回数θC1<移動開始後位置算出回数≦第2の閾値回数θC2」であり、位置誤差レベルは「L2」、設定モードは「第2の影響モード」である。
【0053】
3番目の条件は「第2の閾値時間θT2<移動開始後経過時間≦第3の閾値時間θT3、又は、第2の閾値回数θC2<移動開始後位置算出回数≦第3の閾値回数θC3」であり、位置誤差レベルは「L3」、設定モードは「第3の影響モード」である。4番目の条件は「第3の閾値時間θT3<移動開始後経過時間、又は、第3の閾値回数θC3<移動開始後位置算出回数」であり、位置誤差レベルは「L4」、設定モードは「第4の影響モード」である。
【0054】
位置誤差レベルは、位置算出精度を表すレベルであり、数字が大きいほど位置誤差が大きく、位置算出精度が低いことを意味する。また、設定モードは、数字が大きいほどGPSの影響度合が高いことを意味する。
【0055】
第1〜第3の閾値時間「θT1,θT2,θT3」及び第1〜第3の閾値回数「θC1,θC2,θC3」は、本実施形態の位置算出方法を適用するシステムに応じて適宜設定可能である。例えば、位置算出を「1秒間隔」で行うシステムに適用するのであれば、「θT1=60秒、θT2=90秒、θT3=120秒」や「θC1=50回、θC2=100回、θC3=150回」といった値を定めておくことができる。
【0056】
移動体が停止している場合は、停止時速度制約条件を利用することで、位置算出の誤差を低減させることができる。誤差が低減された状態で移動を開始すると、暫くの間は位置算出精度が高い状態が維持される。しかし、慣性航法演算では、加速度(加速度ベクトル)を積分して速度(速度ベクトル)を算出し、速度(速度ベクトル)を積分して距離及び移動方向を算出し、算出した距離を前回位置に継ぎ足すように加算することで位置を算出する。つまり、多重の積分演算を行って累積的に位置を求めるために、時間経過に伴って誤差が累積する特徴がある。そのため、移動を開始してからの経過時間が長くなると、位置算出の精度が低下する。
【0057】
そこで、第1の設定方法では、移動開始後経過時間が長くなるほど、又は、移動開始後位置算出回数が多くなるほど、位置誤差レベルが高い(位置算出精度が低い)と判定する。そして、位置誤差レベルが高いほど、GPS計測結果をINS計測結果に強く作用させるために、GPSの影響度合を高くする。
【0058】
第1の設定方法は、移動体が頻繁に停止及び移動を繰り返す環境(例えば都心部)に適した設定方法である。都心部では、信号機が多く存在するために、自動車は頻繁に停止及び移動を繰り返す。また、道路が入り組んでいるために、自動車の移動方向も頻繁に変化する。これらの環境では、慣性航法演算に誤差が生じやすいため、移動開始からの時間経過に応じてGPSの影響度合を変更することで、誤差の累積を抑えることができる。
【0059】
(2)第2の設定方法
図5は、GPS影響モードの第2の設定方法の説明図であり、GPS影響モードの設定で用いる第2のモード設定条件を定めた第2のモード設定条件テーブルを図示したものである。第2のモード設定条件テーブルには、第2のモード設定条件と、位置誤差レベルと、設定モードとが対応付けて定められている。位置誤差レベル及び設定モードは、図4の第1のモード設定条件テーブルと同じである。
【0060】
第2のモード設定条件は、カップリング推定誤差に基づいて定義されている。カップリング推定誤差は、カップリング結果に含まれ得る誤差の推定値であり、カップリング処理において所定の誤差推定演算を行うことで推定される。例えば、カルマンフィルター処理では、推定対象とする状態“X”の誤差“P”を設定して演算を行う。予測演算及び補正演算において、状態“X”と併せて誤差“P”の予測及び補正を行うことで、カップリング推定誤差が定まる。
【0061】
状態“X”が複数の要素で構成される場合は、誤差“P”は行列形式の誤差共分散行列“P”で表すことができる。この場合、誤差共分散行列“P”の対角成分から、各要素の誤差を見積もることができる。例えば、状態“X”の要素が移動体の位置、速度及び姿勢角であれば、誤差共分散行列“P”の対角成分が、それぞれカップリング位置推定誤差、カップリング速度推定誤差及びカップリング姿勢角推定誤差となる。
【0062】
1番目の条件は「カップリング推定誤差≦第1の閾値誤差θE1」であり、位置誤差レベルは「L1」、設定モードは「第1の影響モード」である。2番目の条件は「第1の閾値誤差θE1<カップリング推定誤差≦第2の閾値誤差θE2」であり、位置誤差レベルは「L2」、設定モードは「第2の影響モード」である。
【0063】
3番目の条件は「第2の閾値誤差θE2<カップリング推定誤差≦第3の閾値誤差θE3」であり、位置誤差レベルは「L3」、設定モードは「第3の影響モード」である。4番目の条件は「第3の閾値誤差θE3<カップリング推定誤差」であり、位置誤差レベルは「L4」、設定モードは「第4の影響モード」である。
【0064】
この場合は、カップリング位置推定誤差、カップリング速度推定誤差及びカップリング姿勢角推定誤差に対してそれぞれ閾値を定めておく。例えば、第1の閾値誤差θE1に相当する閾値として“10[m]”、“1[m/s]”、“1[°]”、第2の閾値誤差θE2に相当する閾値として“20[m]”、“2[m/s]”、“2[°]”、第3の閾値誤差θE3に相当する閾値として“30[m]”、“3[m/s]”、“3[°]”をそれぞれ定めておく。そして、カップリング位置推定誤差、カップリング速度推定誤差及びカップリング姿勢角推定誤差それぞれに対する閾値判定を行い、AND条件又はOR条件を適用して位置誤差レベルを判定する。
【0065】
カップリング推定誤差が小さければ、位置算出精度は高いと考えられる。そのため、GPSの影響度合を低くしても、位置算出の正確性はある程度保証される。しかし、カップリング推定誤差が大きければ、位置算出精度は低いと考えられる。そのため、GPSの影響度合を高くしなければ、位置算出精度の改善が図れない。
【0066】
そこで、カップリング推定誤差が大きいほど、位置誤差レベルが高い(位置算出精度が低い)と判定する。そして、位置誤差レベルが高いほど、GPS計測結果をINS計測結果に強く作用させることを目的として、GPSの影響度合を高く設定する。
【0067】
第2の設定方法は、高品質のGPS衛星信号を継続して受信可能な環境(例えばオープンスカイ環境)に適した設定方法である。オープンスカイ環境では、GPSメジャメント情報やGPS演算結果を高い精度で取得することができるため、INS計測結果とのカップリング処理を実行することで、位置算出精度が向上する。従って、GPSの影響度合を下げる方向に作用し易くなり、INSを重視した位置算出が実現され易くなる。
【0068】
1−3.演算設定
カップリング処理部9は、GPS影響モードに応じて演算設定を変更してカップリング処理を行う。本実施形態において、演算設定には、GPS計測結果採用頻度と、カルマンフィルター処理で用いる誤差パラメーター値とが含まれる。
【0069】
GPS計測結果採用頻度は、GPS計測結果を採用してカップリング処理を実行する実行頻度である。図2では、カルマンフィルター処理部9Aが、観測量“Z”であるGPS計測結果を採用して補正演算を実行する頻度が、GPS計測結果採用頻度に相当する。
【0070】
GPSの影響度合が高いモードでは、GPS計測結果をINS計測結果に対して強く作用させることが必要となる。逆に、GPSの影響度合が低いモードでは、GPS計測結果をINS計測結果に対する作用を弱める必要がある。そこで、GPSの影響度合が低いモードほど、より低い頻度をGPS計測結果採用頻度に設定する。
【0071】
誤差パラメーター値は、カルマンフィルターの演算において設定するパラメーター値の一種である。本実施形態では、観測量“Z”の誤差に相当する観測誤差(観測雑音)“R”を、誤差パラメーターの一例として説明する。
【0072】
カルマンフィルター処理の補正演算において、観測誤差“R”を小さく設定すると、観測量“Z”に追従するように状態“X”が補正される。つまり、観測量“Z”を信用・重視して状態“X”を推定するようにフィルターが作用する。それに対して、観測誤差“R”を大きく設定すると、状態予測値“X−”に追従するように状態“X”が補正される。つまり、予測演算で予測された状態予測値“X−”を信用・重視して状態“X”を推定するようにフィルターが作用する。
【0073】
そこで、GPSの影響度合が低いモードほど、GPS計測結果のINS計測結果に対する作用を弱めることを目的として、より大きな値を観測誤差(R値)に設定する。
【0074】
1−4.実験結果
実際に位置算出を行った実験結果を説明する。移動体を予め定められた経路に沿って移動させ、その場合に算出される位置を東西南北の2次元平面にプロットする実験を行った。図4の第1のモード設定条件を適用し、移動開始後経過時間に基づいてGPS影響モードを設定した。実験に用いた移動開始後経過時間の閾値は「θT1=60秒、θT2=90秒、θT3=120秒」である。各図において、横軸は東西方向、縦軸は南北方向をそれぞれ示す。単位はメートル[m]である。東西方向「0m」、南北方向「0m」の位置をスタート地点とし、スタート地点から西方向に向かい、時計回り方向に周回する経路を辿った。ゴール地点は、スタート地点の近傍所定位置である。
【0075】
図6は、従来の位置算出方法を適用した実験結果である。この実験ではGPSとINSとのカップリング処理は行っていない。図6では、移動体の真の軌跡を「点線」で、GPS演算位置の軌跡を「一点鎖線」で、INS演算位置の軌跡を「実線」でそれぞれ示している。
【0076】
この実験結果を見ると、最初のうちは真の軌跡に沿ったINS演算位置の軌跡が得られているが、長時間が経過すると、INS演算位置の誤差が増大していることがわかる。特に、点線で囲った部分A1に着目すると、本来は右に曲がるべき場所でINS演算位置は曲がることができず、そのまま行き過ぎてしまっている。その後、行き過ぎた道を引き返したが、本来曲がるべき場所から少し離れた場所で曲がっており、その距離分の誤差が位置誤差として重畳してしまっている。
【0077】
図7は、本実施形態の位置算出方法を適用した実験結果である。この実験ではGPSとINSとのカップリング処理を行った。図7では、移動体の真の軌跡を「点線」で、GPS演算位置の軌跡を「一点鎖線」で、カップリング演算位置の軌跡を「実線」でそれぞれ示している。
【0078】
この実験結果を見ると、長時間が経過しても位置誤差が増大することはなく、良好な結果が得られていることがわかる。部分A1での行き過ぎの問題も解消されている。部分A1の前段部分を調べてみると、部分A2では、GPS影響モードが「第2の影響モード」から「第3の影響モード」に変化していた。つまり、この部分では、GPSの影響度合がより高いモードに遷移していた。その結果、GPS演算位置の軌跡に引き寄せられて、カップリング演算位置の軌跡が真の軌跡に徐々に近付いていく様子が確認できる。
【0079】
2.実施例
次に、上記の位置算出装置を備えた電子機器の実施例について説明する。ここでは、位置算出装置を具備するナビゲーション装置の実施例を説明する。但し、本発明を適用可能な実施例が以下説明する実施例に限定されるわけではないことは勿論である。
【0080】
2−1.システム構成
図8は、本実施例におけるナビゲーションシステム1000のシステム構成の説明図である。ナビゲーションシステム1000は、移動体の一種である四輪自動車(以下、単に「自動車」と称す。)に、位置算出装置を具備した電子機器の一種であるカーナビゲーション装置100が設置されたシステムである。
【0081】
カーナビゲーション装置100は、自動車に設置され、自動車の運転者に対するナビゲーションを行う電子機器である。カーナビゲーション装置100は、GPSユニット3と、INSユニット5とを備える。
【0082】
本実施例では、GPSユニット3は、GPSメジャメント情報55を計測して出力する。また、INSユニット5は、INSメジャメント情報56を、機体座標系(Body Frame)として知られるBフレームで計測して出力する。Bフレームは、例えば、移動体の前方を正とする前後方向をR軸(ロール軸)、右方を正とする左右方向をP軸(ピッチ軸)、鉛直下方を正とする上下方向をY軸(ヨー軸)とする三次元直交座標系である。
【0083】
カーナビゲーション装置100は、GPSユニット3から取得したGPSメジャメント情報を用いてGPS演算処理を行い、且つ、INSユニット5から取得したINSメジャメント情報を用いてINS演算処理を行う。そして、これらの演算結果に対するカップリング処理を実行して自動車の位置を算出し、算出位置をプロットしたナビゲーション画面を表示部30であるディスプレイに表示させる。
【0084】
自動車の位置は、自動車の移動空間を定める絶対的な座標系であるNフレームにおいて演算する。Nフレームは、例えば、北東下座標系として知られるNED(North East Down)座標系や、地球中心地球固定座標系として知られるECEF(Earth Centered Earth Fixed)座標系として定義される。
【0085】
2−2.機能構成
図9は、カーナビゲーション装置100の機能構成の一例を示すブロック図である。カーナビゲーション装置100は、GPSユニット3と、INSユニット5と、処理部10と、操作部20と、表示部30と、通信部40と、記憶部50とを備えて構成される。
【0086】
処理部10は、記憶部50に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従ってカーナビゲーション装置100の各部を統括的に制御する制御装置であり、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを有して構成される。処理部10は、記憶部50に記憶されたナビゲーションプログラム51に従ってナビゲーション処理を行い、自動車の現在位置を指し示した地図を表示部30に表示させる処理を行う。
【0087】
操作部20は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号を処理部10に出力する。この操作部20の操作により、目的地の入力等の各種指示入力がなされる。
【0088】
表示部30は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、処理部10から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部30には、ナビゲーション画面等が表示される。
【0089】
通信部40は、処理部10の制御に従って、装置内部で利用される情報をインターネット等の通信ネットワークを介して外部とやりとりするための通信装置である。この通信には、公知の無線通信技術を適用可能である。
【0090】
記憶部50は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置によって構成され、カーナビゲーション装置100のシステムプログラムや、ナビゲーション機能等の各種機能を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0091】
記憶部50には、プログラムとして、処理部10により読み出され、ナビゲーション処理(図11参照)として実行されるナビゲーションプログラム51が記憶されている。ナビゲーションプログラム51は、カップリング処理(図12参照)として実行されるカップリングプログラム513をサブルーチンとして含む。
【0092】
また、記憶部50には、データとして、演算設定テーブル52と、モード設定条件テーブル53と、設定モード54と、GPSメジャメント情報55と、INSメジャメント情報56と、GPS演算結果57と、INS演算結果58と、カップリング結果59とが記憶される。
【0093】
演算設定テーブル52は、カップリング処理における演算設定が定義されたテーブルであり、そのテーブル構成の一例を図10に示す。演算設定テーブル52には、GPS影響モード521と、演算設定523とが対応付けて記憶されている。
【0094】
GPS計測結果採用頻度については、第1の影響モードでは「採用しない」が定められ、第2の影響モードでは「10回に1回」が定められている。また、第3の影響モードでは「5回に1回」が定められており、第4の影響モードでは「毎回」が定められている。つまり、GPSの影響度合が低くなるほど、より低い頻度がGPS計測結果採用頻度に設定される。
【0095】
カルマンフィルター処理の観測誤差(R値)には、位置の観測誤差である位置観測誤差“RP”と、速度の観測誤差である速度観測誤差“RV”とが含まれる。第1の影響モードではGPS計測結果を採用しないため、観測誤差は「−(無し)」が定められている。また、第2の影響モードでは「RP=500,RV=50」が定められ、第3の影響モードでは「RP=100,RV=10」が定められ、第4の影響モードでは「RP=(σP)2,RV=(σV)2」が定められている。
【0096】
“σP”及び“σV”は、GPS演算結果に含まれる位置誤差及び速度誤差である。本願発明者が行った実験によれば、通常の測位環境では、位置誤差及び速度誤差は“σP=3〜4[m]”、“σV=0.6〜0.8[m/s]”程度の値として算出される。このため、第4の影響モードでは、位置観測誤差“RP”として“10”程度の値が設定され、速度観測誤差“RV”として“0.5”程度の値が設定される。従って、GPSの影響度合が低くなるほど、より大きな値が観測誤差“R”に設定される。
【0097】
モード設定条件テーブル53には、GPS影響モードを設定するための条件が定められたテーブルであり、例えば第1のモード設定条件テーブルや第2のモード設定条件テーブル(図4及び図5参照)がこれに含まれる。
【0098】
設定モード54は、設定されているGPS影響モードであり、影響モード設定処理により随時更新される。
【0099】
2−3.処理の流れ
図11は、処理部10が、記憶部50に記憶されたナビゲーションプログラム51に従って実行するナビゲーション処理の流れを示すフローチャートである。
【0100】
先ず、処理部10は、GPSユニット3及びINSユニット5から、GPSメジャメント情報55及びINSメジャメント情報56の取得を開始する(ステップA1)。そして、処理部10は、移動状況判定処理を行う(ステップA3)。具体的には、例えば、INSユニット5からINSメジャメント情報56として取得した自動車の加速度(加速度ベクトル)や角速度に基づいて、自動車が停止している状態であるか、移動している状態であるかを判定する。
【0101】
その後、処理部10は、GPS演算処理を行う(ステップA5)。具体的には、GPSユニット3から取得したGPSメジャメント情報55を用いて、公知の測位計算を行って、自動車の位置や速度(速度ベクトル)を演算する。また、公知の誤差推定演算を行って、位置及び速度(速度ベクトル)の誤差を推定する。そして、これらの演算結果をGPS演算結果57として記憶部50に記憶させる。
【0102】
また、処理部10は、INS演算処理を行う(ステップA7)。具体的には、INSユニット5から取得したINSメジャメント情報56を用いて、公知の慣性航法演算を行って、自動車の位置や速度(速度ベクトル)、姿勢角を演算する。そして、これらの演算結果をINS演算結果58として記憶部50に記憶させる。
【0103】
その後、処理部10は、位置算出精度判定処理を行う(ステップA8)。具体的には、記憶部50に記憶されたモード設定条件テーブル53を参照し、移動開始後経過時間又は移動開始後位置算出回数や、カップリング推定誤差に基づいて、位置算出精度を示す位置誤差レベルを判定する。
【0104】
次いで、処理部10は、影響モード設定処理を行う(ステップA9)。具体的には、記憶部50に記憶されたモード設定条件テーブル53を参照し、ステップA8で判定した位置誤差レベルに対応付けられた設定モードで記憶部50の設定モード54を更新する。
【0105】
その後、処理部10は、記憶部50に記憶されたカップリングプログラム513に従ってカップリング処理を実行する(ステップA11)。
【0106】
図12は、カップリング処理の流れを示すフローチャートである。
処理部10は、GPS演算結果57をカップリング処理に採用するか否かを判定する(ステップB1)。具体的には、影響モード設定処理で設定されたGPS影響モードに対応付けられたGPS計測結果採用頻度に基づき、今回のカップリング処理においてGPS演算結果57を採用するか否かを判定する。
【0107】
GPS演算結果57をカップリング処理に採用すると判定したならば(ステップB1;Yes)、処理部10は、最新のGPS演算結果57を観測量とする観測量ベクトル“Z”を設定する(ステップB3)。また、演算設定テーブル52を参照し、現在の設定モード54に対応する観測誤差に基づいて観測誤差共分散行列“R”を設定する(ステップB5)。そして、処理部10は、ステップB3及びB5で設定した観測量ベクトル“Z”及び観測誤差共分散行列“R”を用いて、カルマンフィルター処理を実行する(ステップB7)。
【0108】
一方、ステップB1においてGPS演算結果57をカップリング処理に採用しないと判定したならば(ステップB1;No)、処理部10は、ステップA3で判定した移動状況を判定する(ステップB9)。そして、移動状況が「移動」である場合は(ステップB9;移動)、移動時制約速度ベクトルを観測量ベクトル“Z”として設定する(ステップB11)。また、移動時用速度観測誤差(例えば所定値)に基づき観測誤差共分散行列“R”を設定する(ステップB13)。そして、処理部10は、ステップB11及びB13で設定した観測量ベクトル“Z”及び観測誤差共分散行列“R”を用いて、カルマンフィルター処理を実行する(ステップB7)。
【0109】
また、移動状況が「停止」である場合は(ステップB9;停止)、処理部10は、停止時制約速度ベクトルを観測量ベクトル“Z”として設定する(ステップB15)。また、停止時用速度観測誤差(例えば所定値)に基づき観測誤差共分散行列“R”を設定する(ステップB17)。そして、処理部10は、ステップB15及びB17で設定した観測量ベクトル“Z”及び観測誤差共分散行列“R”を用いて、カルマンフィルター処理を実行する(ステップB7)。
【0110】
ステップB7においてカルマンフィルター処理を行うと、処理部10は、その結果をカップリング結果59として記憶部50に記憶させる。そして、処理部10は、カップリング処理を終了する。
【0111】
図11のナビゲーション処理に戻り、カップリング処理を行ったならば、処理部10は、カップリング結果59を出力する(ステップA13)。そして、処理部10は、処理を終了するか否かを判定する(ステップA15)。例えば、操作部20を介してユーザーによりナビゲーションの終了指示操作がなされた場合に、ナビゲーション処理を終了すると判定する。
【0112】
まだ処理を終了しないと判定した場合は(ステップA15;No)、処理部10は、ステップA3に戻る。また、処理を終了すると判定した場合は(ステップA15;Yes)、処理部10は、ナビゲーション処理を終了する。
【0113】
3.作用効果
GPSユニット3とINSユニット5とを備えた位置算出装置1において、位置算出精度判定部6は、位置算出精度を判定する。影響度合設定部7は、位置算出精度判定部6により判定された位置算出精度に基づいて、GPS計測結果のINS計測結果に対する影響度合を設定する。カップリング処理部9は、影響度合設定部7により設定された影響度合に基づいてGPS計測結果とINS計測結果とのカップリング処理を実行して、移動体の位置を算出する。
【0114】
位置算出精度判定部6は、例えば、移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数に基づいて位置算出精度を判定する。また、位置算出精度判定部6は、例えば、カップリング処理部6が所定の誤差推定演算を行うことで推定したカップリング推定誤差に基づいて位置算出精度を判定する。
【0115】
第1の位置算出装置1Aでは、影響度合設定部7は影響モード設定部7Aを有し、位置算出精度判定部6が有する位置誤差レベル判定部6Aにより判定された位置誤差レベルに基づいてGPS影響モードを設定する。具体的には、位置誤差レベルが低いほど(位置算出精度が高いほど)、GPSの影響度合が低いGPS影響モードを設定する。
【0116】
また、第1の位置算出装置1Aでは、カップリング処理部9はカルマンフィルター処理部9Aを有し、影響モード設定部7Aより設定されたGPS影響モードに応じて演算設定を変更してカルマンフィルター処理を実行する。演算設定には、GPS計測結果を採用してカップリング処理を実行する実行頻度が含まれ、GPSの影響度合が低い影響モードほど、より低い頻度が設定される。また、演算設定には、観測量とするGPS計測結果の想定誤差を示す観測誤差(R値)が含まれ、GPSの影響度合が低い影響モードほど、より大きな値が設定される。
【0117】
このように、位置算出精度に応じて、衛星測位用ユニットの計測結果の慣性測位用ユニットの計測結果に対する影響度合を変更することで、特に位置算出装置の連続動作時において影響度合を適正化することができる。そして、適正化した影響度合に応じてカップリング処理の演算設定を変更することで、カップリング処理の実効性を高め、ひいては位置算出の正確性を向上させることが可能となる。
【0118】
4.変形例
本発明を適用可能な実施例は、上記の実施例に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは勿論である。以下、変形例について説明するが、上記の実施例と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、上記の実施例とは異なる部分を中心に説明する。
【0119】
4−1.ユニット
上記の実施形態では、衛星測位用ユニットとして、GPSを適用したGPSユニットを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星測位システムを適用したユニットとしてもよいことは勿論である。
【0120】
また、上記の実施形態では、慣性測位用ユニットとして、INSユニットを例に挙げて説明したが、INSメジャメント情報(加速度や角速度)を計測する慣性センサーや慣性計測ユニット(IMU)を慣性測位用ユニットとしてもよい。この場合は、慣性測位用ユニットにより計測されたINSメジャメント情報を用いて、位置算出装置の処理部がINS演算処理を行えばよい。
【0121】
4−2.カップリング処理
上記の実施形態では、カップリング処理の一例としてカルマンフィルター処理を例に挙げて説明したが、カップリング処理はこれに限られない。例えば、GPS計測結果とINS計測結果との平均演算を行う平均処理をカップリング処理に含めることとしてもよい。
【0122】
平均演算としては、単純な算術平均や幾何平均を適用してもよいし、加重平均を適用してもよい。算術平均や幾何平均を適用するのであれば、カップリング処理の演算設定として、例えば、GPS計測結果を採用して平均処理を実行する実行頻度を定めておくことができる。GPSの影響度合が高いほど、GPS計測結果をINS計測結果に作用し易くするように実行頻度を高くすればよい。
【0123】
また、加重平均を適用するのであれば、カップリング処理の演算設定として、例えば、加重平均の重みを定めておけばよい。具体的には、GPSの影響度合が高いモードほど、GPS計測結果をINS計測結果よりも重視して加重平均するように、GPS計測結果の重みとしてより大きな値を設定すればよい。
【0124】
4−3.影響モードの段数
上記の実施形態では、GPS影響モードを第1〜第4の影響モードの4段として説明したが、影響モードの段数は適宜設定可能である。つまり、影響モードをより少ない段数(例えば2段)としてもよいし、より多い段数(例えば8段)としてもよい。これは、GPSの影響度合をより粗く設定したり、より細かく設定することに相当する。
【0125】
4−4.処理主体
上記の実施例では、電子機器の処理部10が、GPSユニット3から取得したGPSメジャメント情報55を用いてGPS演算処理を行うこととして説明した。また、処理部10が、INSユニット5から取得したINSメジャメント情報56を用いてINS演算処理を行うこととして説明した。つまり、GPS演算処理、INS演算処理及びカップリング処理の実行主体が、全て電子機器の処理部10であるものとして説明した。この構成を次のようにしてもよい。
【0126】
GPSユニット3は、GPSメジャメント情報55を用いたGPS演算処理を行ってGPS演算結果57を求め、処理部10に出力する。また、INSユニット5は、INSメジャメント情報56を用いたINS演算処理を行ってINS演算結果58を求め、処理部10に出力する。そして、処理部10は、各ユニットから取得したGPS演算結果57とINS演算結果58とのカップリング処理を実行する。つまり、この場合は、GPS演算処理及びINS演算処理の実行主体が、それぞれGPSユニット3及びINSユニット5となり、カップリング処理の実行主体が、電子機器の処理部10となる。
【0127】
4−5.電子機器
上記の実施例では、四輪自動車に搭載するナビゲーション装置に本発明を適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な電子機器はこれに限られるわけではない。例えば、二輪自動車に搭載するナビゲーション装置に適用してもよいし、携帯型ナビゲーション装置に適用することとしてもよい。
【0128】
また、ナビゲーション以外の用途の電子機器についても本発明を同様に適用可能であることは勿論である。例えば、携帯型電話機やパソコン、PDA(Personal Digital Assistant)といった他の電子機器についても本発明を同様に適用して、当該電子機器の位置算出を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0129】
1、1A 位置算出装置、 3 GPSユニット、 5 INSユニット、 6 位置算出精度判定部、 6A 位置誤差レベル判定部、 7 影響度合設定部、 7A 影響モード設定部、 9 カップリング処理部、 9A カルマンフィルター処理部、 10 処理部、 20 操作部、 30 表示部、 40 通信部、 50 記憶部、 100 カーナビゲーション装置、 1000 ナビゲーションシステム
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に備えられた衛星測位用ユニット及び慣性測位用ユニットの計測結果を用いた位置算出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるシームレス測位やモーションセンシング、姿勢制御など様々な分野において、慣性センサーの活用が注目されている。慣性センサーとしては、加速度センサーやジャイロセンサー、圧力センサー、地磁気センサーなどが広く知られている。慣性センサーの検出結果を利用して慣性航法演算を行って位置算出を行うシステム(以下、「INS(Inertial Navigation System)」と称する。)も実用化されている。
【0003】
INSにおいては、慣性センサーの検出結果に含まれ得る種々の誤差成分に起因して位置算出の正確性が低下するという問題があり、位置算出の正確性を向上させるための様々な技術が考案されている。例えば、特許文献1には、INS演算結果を、GPS(Global Positioning System)を利用して補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0019963号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GPSを利用してINS演算結果を補正する技術は、GPS演算結果が正しいことを前提としている。特許文献1に開示された技術も同様である。しかし、GPS演算結果は、GPS衛星から受信したGPS衛星信号の信号強度、受信環境、GPS衛星の天空配置、マルチパスといった種々の要因により、演算結果の精度が低下する場合がある。このため、常にGPS演算結果を利用してINS演算結果を補正することが、必ずしも位置算出の精度改善に繋がるとは限らなかった。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、移動体に備えられた衛星測位用ユニット及び慣性測位用ユニットの計測結果を併用して、移動体の位置をより正確に算出するための手法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための第1の形態は、移動体に備えられた衛星測位用ユニットの第1の計測結果と、前記移動体に備えられた慣性測位用ユニットの第2の計測結果とを用いて、前記移動体の位置を算出する位置算出方法であって、位置算出精度を判定することと、前記位置算出精度に基づいて、前記第1の計測結果の前記第2の計測結果に対する影響度合を設定することと、前記影響度合に基づき、前記第1の計測結果と前記第2の計測結果とのカップリング処理を実行して前記移動体の位置を算出することと、を含む位置算出方法である。
【0008】
また、他の形態として、移動体に備えられた衛星測位用ユニットの第1の計測結果と、前記移動体に備えられた慣性測位用ユニットの第2の計測結果とを用いて、前記移動体の位置を算出する位置算出装置であって、位置算出精度を判定する位置算出精度判定部と、前記位置算出精度に基づいて、前記第1の計測結果の前記第2の計測結果に対する影響度合を設定する影響度合設定部と、前記影響度合に基づき、前記第1の計測結果と前記第2の計測結果とのカップリング処理を実行して前記移動体の位置を算出するカップリング処理部と、を備えた位置算出装置を構成してもよい。
【0009】
この第1の形態等によれば、位置算出精度を判定する。そして、位置算出精度に基づいて、慣性測位用ユニットの計測結果(第2の計測結果)に対する衛星測位用ユニットの計測結果(第1の計測結果)の影響度合を設定する。これにより、特に連続動作時における影響度合の適正化を実現することができる。そして、適正化した影響度合に基づき第1の計測結果と第2の計測結果とのカップリング処理を実行することで、位置算出の正確性を向上させることができる。
【0010】
また、第2の形態として、第1の形態の位置算出方法において、前記判定することは、前記移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数に基づいて前記位置算出精度を判定することを含む、位置算出方法を構成することとしてもよい。
【0011】
この第2の形態によれば、移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数から、位置算出精度を簡易且つ適切に判定することができる。
【0012】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の位置算出方法において、前記カップリング処理は、算出した位置に含まれている誤差を推定する誤差推定演算を含み、前記判定することは、前記誤差推定演算で推定した誤差に基づいて前記位置算出精度を判定することを含む、位置算出方法を構成することとしてもよい。
【0013】
この第3の形態によれば、カップリング処理において誤差推定演算を行うことで推定した位置の誤差から、位置算出精度を簡易且つ適切に判定することができる。
【0014】
また、第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態の位置算出方法において、前記影響度合には、前記第1の計測結果を採用して前記カップリング処理を実行する実行頻度が含まれており、前記影響度合を設定することは、前記位置算出精度に基づいて前記実行頻度を設定することを含み、前記位置を算出することは、前記実行頻度に従って前記第1の計測結果を採用した前記カップリング処理を実行することを含む、位置算出方法を構成することとしてもよい。
【0015】
この第4の形態によれば、位置算出精度に基づいて、第1の計測結果を採用してカップリング処理を実行する実行頻度を適正化し、カップリング処理の実効性を向上させることができる。
【0016】
また、第5の形態として、第4の形態の位置算出方法において、前記実行頻度を設定することは、前記位置算出精度が高いほど低い頻度を設定することである、位置算出方法を構成してもよい。
【0017】
この第5の形態によれば、位置算出精度が高いほど、第1の計測結果を採用してカップリング処理を実行する実行頻度を低く設定することで、衛星測位用ユニットへの依存度を低減させることができる。位置算出精度が高ければ、第1の計測結果の影響度合を下げてカップリング処理を実行しても、位置算出の正確性は保証される。
【0018】
また、第6の形態として、第1〜第3の何れかの形態の位置算出方法において、前記カップリング処理は、前記第1の計測結果を観測量とするカルマンフィルター処理を含み、前記影響度合を設定することは、前記位置算出精度に基づいて前記カルマンフィルター処理に用いる誤差パラメーター値を設定することを含み、前記位置を算出することは、前記第1の計測結果及び前記誤差パラメーター値を用いて前記カルマンフィルター処理を実行することを含む、位置算出方法を構成することとしてもよい。
【0019】
誤差パラメーター値は、例えば、カルマンフィルター処理において第1の計測結果を重視する程度を決定付ける値である。第6の形態によれば、位置算出精度に基づいて誤差パラメーター値を設定することで、誤差パラメーター値を適正化し、移動体の位置をより正確に求めることが可能となる。
【0020】
また、第7の形態として、第6の形態の位置算出方法において、前記誤差パラメーター値を設定することは、前記位置算出精度が高いほど大きい値を設定することである、位置算出方法を構成することとしてもよい。
【0021】
この第7の形態によれば、位置算出精度が高いほど、カルマンフィルター処理に用いる誤差パラメーター値に大きい値を設定することで、衛星測位用ユニットへの依存度を低減させることができる。位置算出精度が高ければ、第1の計測結果の影響度合を下げてカップリング処理を実行しても、位置算出の正確性は保証される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】位置算出装置の主要構成図。
【図2】第1の位置算出装置の構成図。
【図3】カップリング処理の入出力データの説明図。
【図4】第1のモード設定条件の説明図。
【図5】第2のモード設定条件の説明図。
【図6】位置算出を行った実験結果の一例を示す図。
【図7】位置算出を行った実験結果の一例を示す図。
【図8】ナビゲーションシステムのシステム構成の説明図。
【図9】カーナビゲーション装置の機能構成を示すブロック図。
【図10】演算設定テーブルのテーブル構成の一例を示す図。
【図11】ナビゲーション処理の流れを示すフローチャート。
【図12】カップリング処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態の一例について説明する。本実施形態は、衛星測位システムの一種であるGPS(Global Positioning System)と、慣性航法演算を行うシステムであるINS(Inertial Navigation System)とを併用して位置算出を行う実施形態である。
【0024】
1.原理
1−1.システム構成
図1は、本実施形態における位置算出装置1の主要構成図である。位置算出装置1は、移動体に備えられて、当該移動体の位置を算出する装置(位置算出システム)である。移動体は、自動車やオートバイ、自転車、船、電車といった物の他、人間自体であってもよい。人間が位置算出装置1を携帯し、人間自身が位置算出装置1を備えることとしてもよい。図1では、ユニット(モジュール)を二重線で図示し、ユニットの計測結果を利用して演算処理を行う処理ブロックを一重線で図示することで、両者を区別する。図2についても同様である。
【0025】
位置算出装置1は、ユニット(モジュール)として、GPSユニット3と、INSユニット5とを備える。また、位置算出装置1は、主要な処理ブロックとして、位置算出精度判定部6と、影響度合設定部7と、カップリング処理部9とを有する。
【0026】
GPSユニット3は、衛星測位システムを利用して測位を行うためのユニット(衛星測位用ユニット)である。GPSユニット3は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を受信するアンテナや、受信したGPS衛星信号を処理するプロセッサー等を有して構成される。
【0027】
GPSユニット3は、GPS衛星信号のコード位相やドップラー周波数、擬似距離、擬似距離変化率等のGPSメジャメント情報を計測可能に構成されている。また、GPSユニット3は、GPSメジャメント情報を用いたGPS演算を行って、移動体の位置や速度(速度ベクトル)等を計測可能に構成されている。GPSメジャメント情報やGPS演算結果は、GPS計測結果(第1の計測結果)としてカップリング処理部9に出力される。
【0028】
INSユニット5は、慣性航法を利用して測位を行うためのユニット(慣性測位用ユニット)である。INSユニット5は、加速度センサーやジャイロセンサー等の慣性センサーや、慣性センサーをパッケージ化した慣性計測ユニット(IMU(Inertial Measurement Unit))、慣性センサーの計測結果を処理するプロセッサー等を有して構成される。
【0029】
INSユニット5は、慣性センサーの計測結果を用いて、移動体の加速度(加速度ベクトル)や角速度等をINSメジャメント情報として計測可能に構成されている。また、INSユニット5は、INSメジャメント情報を用いた慣性航法演算(INS演算)を行って、移動体の位置や速度(速度ベクトル)、姿勢角等を計測可能に構成されている。INSメジャメント情報やINS演算結果は、INS計測結果(第2の計測結果)としてカップリング処理部9に出力される。
【0030】
位置算出精度判定部6は、位置算出の確からしさである位置算出精度を判定する。具体的には、位置算出精度判定部6は、移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数に基づいて位置算出精度を判定する。また、位置算出精度判定部6は、カップリング処理部9がカップリング処理において所定の誤差推定演算を行うことで推定したカップリング推定誤差に基づいて、位置算出精度を判定する。
【0031】
影響度合設定部7は、位置算出精度判定部6により判定された位置算出精度に基づいて、GPS計測結果(第1の計測結果)のINS計測結果(第2の計測結果)に対する影響度合を設定する。
【0032】
カップリング処理部9は、影響度合設定部7により設定された影響度合に基づいて、GPS計測結果(第1の計測結果)とINS計測結果(第2の計測結果)とのカップリング処理を実行して移動体の位置等を算出する。
【0033】
図2は、図1の位置算出装置1を適用した第1の位置算出装置1Aの構成図である。第1の位置算出装置1Aでは、図1の位置算出精度判定部6が位置誤差レベル判定部6Aを有し、影響度合設定部7が影響モード設定部7Aを有する。また、図1のカップリング処理部9がカルマンフィルター処理部9Aを有する。
【0034】
位置誤差レベル判定部6Aは、後述するモード設定条件(第1又は第2のモード設定条件)に従って位置誤差レベルを判定する。位置誤差レベルは、位置算出精度を決定付ける位置誤差のレベルである。
【0035】
影響モード設定部7Aは、位置誤差レベル判定部6Aにより判定された位置誤差レベルに基づいてGPS影響モードを設定する。GPS影響モードは、GPSの影響度合を決定づけるモードである。本実施形態では、GPS計測結果のINS計測結果に対する影響度合が低い順に、「第1の影響モード」、「第2の影響モード」、「第3の影響モード」及び「第4の影響モード」の4種類のモードを択一的に設定する場合を想定する。
【0036】
カルマンフィルター処理部9Aは、GPS計測結果を観測量“Z”とするカルマンフィルター処理を実行して、GPS計測結果とINS計測結果とをカップリング(結び付け)する。具体的には、カルマンフィルターの理論に基づき、予測演算(時刻更新)と補正演算(観測更新)とを行って、移動体の状態“X”を推定する。
【0037】
本実施形態において、移動体の状態“X”には、少なくとも移動体の位置が含まれる。予測演算では、例えば、INSユニット5から入力したINS計測結果を制御入力“U”として、1つ前の時刻(前回時刻)における状態補正値“X+”から、現在の時刻(今回時刻)における状態“X”を予測する演算を行って、状態予測値“X−”を算出する。
【0038】
補正演算では、例えば、GPSユニット3から入力したGPS計測結果を観測量“Z”として用いて、予測演算で算出した状態予測値“X−”を補正する演算を行って、状態補正値“X+”を算出する。そして、算出した状態補正値“X+”を、カップリング結果として出力する。
【0039】
また、カルマンフィルター処理部9Aは、GPS計測結果とは別に、移動体の運動モデルに基づく制約条件を観測量“Z”として適用可能に構成されている。本実施形態では、移動体の停止時における速度制約条件である「停止時速度制約条件」と、移動体の移動時における速度制約条件である「移動時速度制約条件」との2種類の速度制約条件を適用する場合を想定する。
【0040】
停止時速度制約条件(第1の制約条件)は、移動体の停止時に適用可能な制約条件である。移動体が停止しているのであれば、理想的には移動体の速度はゼロである。従って、移動体が停止していると判定した場合は「移動体の各軸の速度成分=0(速度ベクトル=ゼロベクトル)」を観測量“Z”として与えることができる。
【0041】
移動時速度制約条件(第2の制約条件)は、移動体の移動時に適用可能な制約条件である。例えば、移動体として四輪自動車を想定した場合、通常、四輪自動車はジャンプや横滑りすることはないと仮定することができる。従って、移動体が移動していると判定した場合は「移動体の縦横方向の速度成分=0」を観測量“Z”として与えることができる。
【0042】
本実施形態では、GPS計測結果と上記の制約条件(停止時速度制約条件又は移動時速度制約条件)とを切り替えて観測量“Z”に適用する場合を一例として説明する。なお、本実施形態とは異なり、GPS計測結果と上記の制約条件とを観測量“Z”として併用することも当然に可能である。
【0043】
図3は、カルマンフィルター処理の入出力データの説明図である。制御入力“U”と、観測量“Z”と、状態“X”との対応関係を表したテーブルを図示している。カップリングには種々の方式が存在する。その中でも、ルーズカップリング(疎結合)と呼ばれる方式と、タイトカップリング(密結合)と呼ばれる方式とが一般的に用いられる。
【0044】
ルーズカップリング方式は、GPSとINSとの結び付きが比較的弱いカップリング方式である。この方式では、例えば、制御入力“U”をINS演算結果(位置、速度、姿勢角等)とし、観測量“Z”をGPS演算結果(位置、速度等)としてカップリング処理を実行する。そして、移動体情報(位置、速度、姿勢角等)を状態“X”として推定する。
【0045】
タイトカップリング方式は、GPSとINSとの結び付きが比較的強いカップリング方式である。この方式では、例えば、制御入力“U”をINS演算結果(位置、速度、姿勢角等)とし、観測量“Z”をGPSメジャメント情報(コード位相、ドップラー周波数、擬似距離、擬似距離変化率等)としてカップリング処理を実行する。そして、移動体情報(位置、速度、姿勢角等)を状態“X”として推定する。
【0046】
また、タイトカップリング方式として、制御入力“U”をINSメジャメント情報(加速度、角速度等)とし、観測量“Z”をGPSメジャメント情報(コード位相、ドップラー周波数、擬似距離、擬似距離変化率等)とし、状態“X”を移動体情報(位置、速度、姿勢角等)とする手法も存在する。
【0047】
本実施形態の位置算出方法は、上記の何れのカップリング方式に対しても実質的に同一に適用可能である。つまり、GPS計測結果(第1の計測結果)として、GPSメジャメント情報を適用してもよいし、GPS演算結果を適用してもよい。また、INS計測結果(第2の計測結果)として、INSメジャメント情報を適用してもよいし、INS演算結果を適用してもよい。
【0048】
INS計測結果及びGPS計測結果として用いる情報は、適用するシステムに応じて適宜設定可能である。この場合、カルマンフィルター処理の予測演算及び補正演算で用いる演算式やパラメーター値を、適用するシステムに応じて適宜設定すればよい。なお、具体的な演算式やパラメーター値については、公知の手法に基づき定義可能であるため、ここでは説明を省略する。
【0049】
1−2.GPS影響モードの設定
本実施形態では、大きく分けて2つのGPS影響モード設定方法について説明する。第1の設定方法は、移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数に基づいて位置算出精度を判定し、当該位置算出精度に基づいてGPS影響モードを設定する方法である。第2の設定方法は、カップリング処理において所定の誤差推定演算を行うことで推定したカップリング推定誤差に基づいて位置算出精度を判定し、当該位置算出精度に基づいてGPS影響モードを設定する方法である。
【0050】
(1)第1の設定方法
図4は、GPS影響モードの第1の設定方法の説明図であり、GPS影響モードの設定で用いる第1のモード設定条件を定めた第1のモード設定条件テーブルを図示したものである。第1のモード設定条件テーブルには、第1のモード設定条件と、位置誤差レベルと、設定モードとが対応付けて定められている。
【0051】
第1のモード設定条件は、移動体が移動を開始してからの経過時間(以下、「移動開始後経過時間」と称す。)、又は、移動体が移動を開始してからの位置算出回数(以下、「移動開始後位置算出回数」と称す。)に応じた条件が定められている。「移動を開始してから」とは、移動体が停止した状態から動き出してからという意味である。
【0052】
1番目の条件は「移動開始後経過時間≦第1の閾値時間θT1、又は、移動開始後位置算出回数≦第1の閾値回数θC1」であり、位置誤差レベルは「L1」、設定モードは「第1の影響モード」である。2番目の条件は「第1の閾値時間θT1<移動開始後経過時間≦第2の閾値時間θT2、又は、第1の閾値回数θC1<移動開始後位置算出回数≦第2の閾値回数θC2」であり、位置誤差レベルは「L2」、設定モードは「第2の影響モード」である。
【0053】
3番目の条件は「第2の閾値時間θT2<移動開始後経過時間≦第3の閾値時間θT3、又は、第2の閾値回数θC2<移動開始後位置算出回数≦第3の閾値回数θC3」であり、位置誤差レベルは「L3」、設定モードは「第3の影響モード」である。4番目の条件は「第3の閾値時間θT3<移動開始後経過時間、又は、第3の閾値回数θC3<移動開始後位置算出回数」であり、位置誤差レベルは「L4」、設定モードは「第4の影響モード」である。
【0054】
位置誤差レベルは、位置算出精度を表すレベルであり、数字が大きいほど位置誤差が大きく、位置算出精度が低いことを意味する。また、設定モードは、数字が大きいほどGPSの影響度合が高いことを意味する。
【0055】
第1〜第3の閾値時間「θT1,θT2,θT3」及び第1〜第3の閾値回数「θC1,θC2,θC3」は、本実施形態の位置算出方法を適用するシステムに応じて適宜設定可能である。例えば、位置算出を「1秒間隔」で行うシステムに適用するのであれば、「θT1=60秒、θT2=90秒、θT3=120秒」や「θC1=50回、θC2=100回、θC3=150回」といった値を定めておくことができる。
【0056】
移動体が停止している場合は、停止時速度制約条件を利用することで、位置算出の誤差を低減させることができる。誤差が低減された状態で移動を開始すると、暫くの間は位置算出精度が高い状態が維持される。しかし、慣性航法演算では、加速度(加速度ベクトル)を積分して速度(速度ベクトル)を算出し、速度(速度ベクトル)を積分して距離及び移動方向を算出し、算出した距離を前回位置に継ぎ足すように加算することで位置を算出する。つまり、多重の積分演算を行って累積的に位置を求めるために、時間経過に伴って誤差が累積する特徴がある。そのため、移動を開始してからの経過時間が長くなると、位置算出の精度が低下する。
【0057】
そこで、第1の設定方法では、移動開始後経過時間が長くなるほど、又は、移動開始後位置算出回数が多くなるほど、位置誤差レベルが高い(位置算出精度が低い)と判定する。そして、位置誤差レベルが高いほど、GPS計測結果をINS計測結果に強く作用させるために、GPSの影響度合を高くする。
【0058】
第1の設定方法は、移動体が頻繁に停止及び移動を繰り返す環境(例えば都心部)に適した設定方法である。都心部では、信号機が多く存在するために、自動車は頻繁に停止及び移動を繰り返す。また、道路が入り組んでいるために、自動車の移動方向も頻繁に変化する。これらの環境では、慣性航法演算に誤差が生じやすいため、移動開始からの時間経過に応じてGPSの影響度合を変更することで、誤差の累積を抑えることができる。
【0059】
(2)第2の設定方法
図5は、GPS影響モードの第2の設定方法の説明図であり、GPS影響モードの設定で用いる第2のモード設定条件を定めた第2のモード設定条件テーブルを図示したものである。第2のモード設定条件テーブルには、第2のモード設定条件と、位置誤差レベルと、設定モードとが対応付けて定められている。位置誤差レベル及び設定モードは、図4の第1のモード設定条件テーブルと同じである。
【0060】
第2のモード設定条件は、カップリング推定誤差に基づいて定義されている。カップリング推定誤差は、カップリング結果に含まれ得る誤差の推定値であり、カップリング処理において所定の誤差推定演算を行うことで推定される。例えば、カルマンフィルター処理では、推定対象とする状態“X”の誤差“P”を設定して演算を行う。予測演算及び補正演算において、状態“X”と併せて誤差“P”の予測及び補正を行うことで、カップリング推定誤差が定まる。
【0061】
状態“X”が複数の要素で構成される場合は、誤差“P”は行列形式の誤差共分散行列“P”で表すことができる。この場合、誤差共分散行列“P”の対角成分から、各要素の誤差を見積もることができる。例えば、状態“X”の要素が移動体の位置、速度及び姿勢角であれば、誤差共分散行列“P”の対角成分が、それぞれカップリング位置推定誤差、カップリング速度推定誤差及びカップリング姿勢角推定誤差となる。
【0062】
1番目の条件は「カップリング推定誤差≦第1の閾値誤差θE1」であり、位置誤差レベルは「L1」、設定モードは「第1の影響モード」である。2番目の条件は「第1の閾値誤差θE1<カップリング推定誤差≦第2の閾値誤差θE2」であり、位置誤差レベルは「L2」、設定モードは「第2の影響モード」である。
【0063】
3番目の条件は「第2の閾値誤差θE2<カップリング推定誤差≦第3の閾値誤差θE3」であり、位置誤差レベルは「L3」、設定モードは「第3の影響モード」である。4番目の条件は「第3の閾値誤差θE3<カップリング推定誤差」であり、位置誤差レベルは「L4」、設定モードは「第4の影響モード」である。
【0064】
この場合は、カップリング位置推定誤差、カップリング速度推定誤差及びカップリング姿勢角推定誤差に対してそれぞれ閾値を定めておく。例えば、第1の閾値誤差θE1に相当する閾値として“10[m]”、“1[m/s]”、“1[°]”、第2の閾値誤差θE2に相当する閾値として“20[m]”、“2[m/s]”、“2[°]”、第3の閾値誤差θE3に相当する閾値として“30[m]”、“3[m/s]”、“3[°]”をそれぞれ定めておく。そして、カップリング位置推定誤差、カップリング速度推定誤差及びカップリング姿勢角推定誤差それぞれに対する閾値判定を行い、AND条件又はOR条件を適用して位置誤差レベルを判定する。
【0065】
カップリング推定誤差が小さければ、位置算出精度は高いと考えられる。そのため、GPSの影響度合を低くしても、位置算出の正確性はある程度保証される。しかし、カップリング推定誤差が大きければ、位置算出精度は低いと考えられる。そのため、GPSの影響度合を高くしなければ、位置算出精度の改善が図れない。
【0066】
そこで、カップリング推定誤差が大きいほど、位置誤差レベルが高い(位置算出精度が低い)と判定する。そして、位置誤差レベルが高いほど、GPS計測結果をINS計測結果に強く作用させることを目的として、GPSの影響度合を高く設定する。
【0067】
第2の設定方法は、高品質のGPS衛星信号を継続して受信可能な環境(例えばオープンスカイ環境)に適した設定方法である。オープンスカイ環境では、GPSメジャメント情報やGPS演算結果を高い精度で取得することができるため、INS計測結果とのカップリング処理を実行することで、位置算出精度が向上する。従って、GPSの影響度合を下げる方向に作用し易くなり、INSを重視した位置算出が実現され易くなる。
【0068】
1−3.演算設定
カップリング処理部9は、GPS影響モードに応じて演算設定を変更してカップリング処理を行う。本実施形態において、演算設定には、GPS計測結果採用頻度と、カルマンフィルター処理で用いる誤差パラメーター値とが含まれる。
【0069】
GPS計測結果採用頻度は、GPS計測結果を採用してカップリング処理を実行する実行頻度である。図2では、カルマンフィルター処理部9Aが、観測量“Z”であるGPS計測結果を採用して補正演算を実行する頻度が、GPS計測結果採用頻度に相当する。
【0070】
GPSの影響度合が高いモードでは、GPS計測結果をINS計測結果に対して強く作用させることが必要となる。逆に、GPSの影響度合が低いモードでは、GPS計測結果をINS計測結果に対する作用を弱める必要がある。そこで、GPSの影響度合が低いモードほど、より低い頻度をGPS計測結果採用頻度に設定する。
【0071】
誤差パラメーター値は、カルマンフィルターの演算において設定するパラメーター値の一種である。本実施形態では、観測量“Z”の誤差に相当する観測誤差(観測雑音)“R”を、誤差パラメーターの一例として説明する。
【0072】
カルマンフィルター処理の補正演算において、観測誤差“R”を小さく設定すると、観測量“Z”に追従するように状態“X”が補正される。つまり、観測量“Z”を信用・重視して状態“X”を推定するようにフィルターが作用する。それに対して、観測誤差“R”を大きく設定すると、状態予測値“X−”に追従するように状態“X”が補正される。つまり、予測演算で予測された状態予測値“X−”を信用・重視して状態“X”を推定するようにフィルターが作用する。
【0073】
そこで、GPSの影響度合が低いモードほど、GPS計測結果のINS計測結果に対する作用を弱めることを目的として、より大きな値を観測誤差(R値)に設定する。
【0074】
1−4.実験結果
実際に位置算出を行った実験結果を説明する。移動体を予め定められた経路に沿って移動させ、その場合に算出される位置を東西南北の2次元平面にプロットする実験を行った。図4の第1のモード設定条件を適用し、移動開始後経過時間に基づいてGPS影響モードを設定した。実験に用いた移動開始後経過時間の閾値は「θT1=60秒、θT2=90秒、θT3=120秒」である。各図において、横軸は東西方向、縦軸は南北方向をそれぞれ示す。単位はメートル[m]である。東西方向「0m」、南北方向「0m」の位置をスタート地点とし、スタート地点から西方向に向かい、時計回り方向に周回する経路を辿った。ゴール地点は、スタート地点の近傍所定位置である。
【0075】
図6は、従来の位置算出方法を適用した実験結果である。この実験ではGPSとINSとのカップリング処理は行っていない。図6では、移動体の真の軌跡を「点線」で、GPS演算位置の軌跡を「一点鎖線」で、INS演算位置の軌跡を「実線」でそれぞれ示している。
【0076】
この実験結果を見ると、最初のうちは真の軌跡に沿ったINS演算位置の軌跡が得られているが、長時間が経過すると、INS演算位置の誤差が増大していることがわかる。特に、点線で囲った部分A1に着目すると、本来は右に曲がるべき場所でINS演算位置は曲がることができず、そのまま行き過ぎてしまっている。その後、行き過ぎた道を引き返したが、本来曲がるべき場所から少し離れた場所で曲がっており、その距離分の誤差が位置誤差として重畳してしまっている。
【0077】
図7は、本実施形態の位置算出方法を適用した実験結果である。この実験ではGPSとINSとのカップリング処理を行った。図7では、移動体の真の軌跡を「点線」で、GPS演算位置の軌跡を「一点鎖線」で、カップリング演算位置の軌跡を「実線」でそれぞれ示している。
【0078】
この実験結果を見ると、長時間が経過しても位置誤差が増大することはなく、良好な結果が得られていることがわかる。部分A1での行き過ぎの問題も解消されている。部分A1の前段部分を調べてみると、部分A2では、GPS影響モードが「第2の影響モード」から「第3の影響モード」に変化していた。つまり、この部分では、GPSの影響度合がより高いモードに遷移していた。その結果、GPS演算位置の軌跡に引き寄せられて、カップリング演算位置の軌跡が真の軌跡に徐々に近付いていく様子が確認できる。
【0079】
2.実施例
次に、上記の位置算出装置を備えた電子機器の実施例について説明する。ここでは、位置算出装置を具備するナビゲーション装置の実施例を説明する。但し、本発明を適用可能な実施例が以下説明する実施例に限定されるわけではないことは勿論である。
【0080】
2−1.システム構成
図8は、本実施例におけるナビゲーションシステム1000のシステム構成の説明図である。ナビゲーションシステム1000は、移動体の一種である四輪自動車(以下、単に「自動車」と称す。)に、位置算出装置を具備した電子機器の一種であるカーナビゲーション装置100が設置されたシステムである。
【0081】
カーナビゲーション装置100は、自動車に設置され、自動車の運転者に対するナビゲーションを行う電子機器である。カーナビゲーション装置100は、GPSユニット3と、INSユニット5とを備える。
【0082】
本実施例では、GPSユニット3は、GPSメジャメント情報55を計測して出力する。また、INSユニット5は、INSメジャメント情報56を、機体座標系(Body Frame)として知られるBフレームで計測して出力する。Bフレームは、例えば、移動体の前方を正とする前後方向をR軸(ロール軸)、右方を正とする左右方向をP軸(ピッチ軸)、鉛直下方を正とする上下方向をY軸(ヨー軸)とする三次元直交座標系である。
【0083】
カーナビゲーション装置100は、GPSユニット3から取得したGPSメジャメント情報を用いてGPS演算処理を行い、且つ、INSユニット5から取得したINSメジャメント情報を用いてINS演算処理を行う。そして、これらの演算結果に対するカップリング処理を実行して自動車の位置を算出し、算出位置をプロットしたナビゲーション画面を表示部30であるディスプレイに表示させる。
【0084】
自動車の位置は、自動車の移動空間を定める絶対的な座標系であるNフレームにおいて演算する。Nフレームは、例えば、北東下座標系として知られるNED(North East Down)座標系や、地球中心地球固定座標系として知られるECEF(Earth Centered Earth Fixed)座標系として定義される。
【0085】
2−2.機能構成
図9は、カーナビゲーション装置100の機能構成の一例を示すブロック図である。カーナビゲーション装置100は、GPSユニット3と、INSユニット5と、処理部10と、操作部20と、表示部30と、通信部40と、記憶部50とを備えて構成される。
【0086】
処理部10は、記憶部50に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従ってカーナビゲーション装置100の各部を統括的に制御する制御装置であり、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを有して構成される。処理部10は、記憶部50に記憶されたナビゲーションプログラム51に従ってナビゲーション処理を行い、自動車の現在位置を指し示した地図を表示部30に表示させる処理を行う。
【0087】
操作部20は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号を処理部10に出力する。この操作部20の操作により、目的地の入力等の各種指示入力がなされる。
【0088】
表示部30は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、処理部10から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部30には、ナビゲーション画面等が表示される。
【0089】
通信部40は、処理部10の制御に従って、装置内部で利用される情報をインターネット等の通信ネットワークを介して外部とやりとりするための通信装置である。この通信には、公知の無線通信技術を適用可能である。
【0090】
記憶部50は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置によって構成され、カーナビゲーション装置100のシステムプログラムや、ナビゲーション機能等の各種機能を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0091】
記憶部50には、プログラムとして、処理部10により読み出され、ナビゲーション処理(図11参照)として実行されるナビゲーションプログラム51が記憶されている。ナビゲーションプログラム51は、カップリング処理(図12参照)として実行されるカップリングプログラム513をサブルーチンとして含む。
【0092】
また、記憶部50には、データとして、演算設定テーブル52と、モード設定条件テーブル53と、設定モード54と、GPSメジャメント情報55と、INSメジャメント情報56と、GPS演算結果57と、INS演算結果58と、カップリング結果59とが記憶される。
【0093】
演算設定テーブル52は、カップリング処理における演算設定が定義されたテーブルであり、そのテーブル構成の一例を図10に示す。演算設定テーブル52には、GPS影響モード521と、演算設定523とが対応付けて記憶されている。
【0094】
GPS計測結果採用頻度については、第1の影響モードでは「採用しない」が定められ、第2の影響モードでは「10回に1回」が定められている。また、第3の影響モードでは「5回に1回」が定められており、第4の影響モードでは「毎回」が定められている。つまり、GPSの影響度合が低くなるほど、より低い頻度がGPS計測結果採用頻度に設定される。
【0095】
カルマンフィルター処理の観測誤差(R値)には、位置の観測誤差である位置観測誤差“RP”と、速度の観測誤差である速度観測誤差“RV”とが含まれる。第1の影響モードではGPS計測結果を採用しないため、観測誤差は「−(無し)」が定められている。また、第2の影響モードでは「RP=500,RV=50」が定められ、第3の影響モードでは「RP=100,RV=10」が定められ、第4の影響モードでは「RP=(σP)2,RV=(σV)2」が定められている。
【0096】
“σP”及び“σV”は、GPS演算結果に含まれる位置誤差及び速度誤差である。本願発明者が行った実験によれば、通常の測位環境では、位置誤差及び速度誤差は“σP=3〜4[m]”、“σV=0.6〜0.8[m/s]”程度の値として算出される。このため、第4の影響モードでは、位置観測誤差“RP”として“10”程度の値が設定され、速度観測誤差“RV”として“0.5”程度の値が設定される。従って、GPSの影響度合が低くなるほど、より大きな値が観測誤差“R”に設定される。
【0097】
モード設定条件テーブル53には、GPS影響モードを設定するための条件が定められたテーブルであり、例えば第1のモード設定条件テーブルや第2のモード設定条件テーブル(図4及び図5参照)がこれに含まれる。
【0098】
設定モード54は、設定されているGPS影響モードであり、影響モード設定処理により随時更新される。
【0099】
2−3.処理の流れ
図11は、処理部10が、記憶部50に記憶されたナビゲーションプログラム51に従って実行するナビゲーション処理の流れを示すフローチャートである。
【0100】
先ず、処理部10は、GPSユニット3及びINSユニット5から、GPSメジャメント情報55及びINSメジャメント情報56の取得を開始する(ステップA1)。そして、処理部10は、移動状況判定処理を行う(ステップA3)。具体的には、例えば、INSユニット5からINSメジャメント情報56として取得した自動車の加速度(加速度ベクトル)や角速度に基づいて、自動車が停止している状態であるか、移動している状態であるかを判定する。
【0101】
その後、処理部10は、GPS演算処理を行う(ステップA5)。具体的には、GPSユニット3から取得したGPSメジャメント情報55を用いて、公知の測位計算を行って、自動車の位置や速度(速度ベクトル)を演算する。また、公知の誤差推定演算を行って、位置及び速度(速度ベクトル)の誤差を推定する。そして、これらの演算結果をGPS演算結果57として記憶部50に記憶させる。
【0102】
また、処理部10は、INS演算処理を行う(ステップA7)。具体的には、INSユニット5から取得したINSメジャメント情報56を用いて、公知の慣性航法演算を行って、自動車の位置や速度(速度ベクトル)、姿勢角を演算する。そして、これらの演算結果をINS演算結果58として記憶部50に記憶させる。
【0103】
その後、処理部10は、位置算出精度判定処理を行う(ステップA8)。具体的には、記憶部50に記憶されたモード設定条件テーブル53を参照し、移動開始後経過時間又は移動開始後位置算出回数や、カップリング推定誤差に基づいて、位置算出精度を示す位置誤差レベルを判定する。
【0104】
次いで、処理部10は、影響モード設定処理を行う(ステップA9)。具体的には、記憶部50に記憶されたモード設定条件テーブル53を参照し、ステップA8で判定した位置誤差レベルに対応付けられた設定モードで記憶部50の設定モード54を更新する。
【0105】
その後、処理部10は、記憶部50に記憶されたカップリングプログラム513に従ってカップリング処理を実行する(ステップA11)。
【0106】
図12は、カップリング処理の流れを示すフローチャートである。
処理部10は、GPS演算結果57をカップリング処理に採用するか否かを判定する(ステップB1)。具体的には、影響モード設定処理で設定されたGPS影響モードに対応付けられたGPS計測結果採用頻度に基づき、今回のカップリング処理においてGPS演算結果57を採用するか否かを判定する。
【0107】
GPS演算結果57をカップリング処理に採用すると判定したならば(ステップB1;Yes)、処理部10は、最新のGPS演算結果57を観測量とする観測量ベクトル“Z”を設定する(ステップB3)。また、演算設定テーブル52を参照し、現在の設定モード54に対応する観測誤差に基づいて観測誤差共分散行列“R”を設定する(ステップB5)。そして、処理部10は、ステップB3及びB5で設定した観測量ベクトル“Z”及び観測誤差共分散行列“R”を用いて、カルマンフィルター処理を実行する(ステップB7)。
【0108】
一方、ステップB1においてGPS演算結果57をカップリング処理に採用しないと判定したならば(ステップB1;No)、処理部10は、ステップA3で判定した移動状況を判定する(ステップB9)。そして、移動状況が「移動」である場合は(ステップB9;移動)、移動時制約速度ベクトルを観測量ベクトル“Z”として設定する(ステップB11)。また、移動時用速度観測誤差(例えば所定値)に基づき観測誤差共分散行列“R”を設定する(ステップB13)。そして、処理部10は、ステップB11及びB13で設定した観測量ベクトル“Z”及び観測誤差共分散行列“R”を用いて、カルマンフィルター処理を実行する(ステップB7)。
【0109】
また、移動状況が「停止」である場合は(ステップB9;停止)、処理部10は、停止時制約速度ベクトルを観測量ベクトル“Z”として設定する(ステップB15)。また、停止時用速度観測誤差(例えば所定値)に基づき観測誤差共分散行列“R”を設定する(ステップB17)。そして、処理部10は、ステップB15及びB17で設定した観測量ベクトル“Z”及び観測誤差共分散行列“R”を用いて、カルマンフィルター処理を実行する(ステップB7)。
【0110】
ステップB7においてカルマンフィルター処理を行うと、処理部10は、その結果をカップリング結果59として記憶部50に記憶させる。そして、処理部10は、カップリング処理を終了する。
【0111】
図11のナビゲーション処理に戻り、カップリング処理を行ったならば、処理部10は、カップリング結果59を出力する(ステップA13)。そして、処理部10は、処理を終了するか否かを判定する(ステップA15)。例えば、操作部20を介してユーザーによりナビゲーションの終了指示操作がなされた場合に、ナビゲーション処理を終了すると判定する。
【0112】
まだ処理を終了しないと判定した場合は(ステップA15;No)、処理部10は、ステップA3に戻る。また、処理を終了すると判定した場合は(ステップA15;Yes)、処理部10は、ナビゲーション処理を終了する。
【0113】
3.作用効果
GPSユニット3とINSユニット5とを備えた位置算出装置1において、位置算出精度判定部6は、位置算出精度を判定する。影響度合設定部7は、位置算出精度判定部6により判定された位置算出精度に基づいて、GPS計測結果のINS計測結果に対する影響度合を設定する。カップリング処理部9は、影響度合設定部7により設定された影響度合に基づいてGPS計測結果とINS計測結果とのカップリング処理を実行して、移動体の位置を算出する。
【0114】
位置算出精度判定部6は、例えば、移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数に基づいて位置算出精度を判定する。また、位置算出精度判定部6は、例えば、カップリング処理部6が所定の誤差推定演算を行うことで推定したカップリング推定誤差に基づいて位置算出精度を判定する。
【0115】
第1の位置算出装置1Aでは、影響度合設定部7は影響モード設定部7Aを有し、位置算出精度判定部6が有する位置誤差レベル判定部6Aにより判定された位置誤差レベルに基づいてGPS影響モードを設定する。具体的には、位置誤差レベルが低いほど(位置算出精度が高いほど)、GPSの影響度合が低いGPS影響モードを設定する。
【0116】
また、第1の位置算出装置1Aでは、カップリング処理部9はカルマンフィルター処理部9Aを有し、影響モード設定部7Aより設定されたGPS影響モードに応じて演算設定を変更してカルマンフィルター処理を実行する。演算設定には、GPS計測結果を採用してカップリング処理を実行する実行頻度が含まれ、GPSの影響度合が低い影響モードほど、より低い頻度が設定される。また、演算設定には、観測量とするGPS計測結果の想定誤差を示す観測誤差(R値)が含まれ、GPSの影響度合が低い影響モードほど、より大きな値が設定される。
【0117】
このように、位置算出精度に応じて、衛星測位用ユニットの計測結果の慣性測位用ユニットの計測結果に対する影響度合を変更することで、特に位置算出装置の連続動作時において影響度合を適正化することができる。そして、適正化した影響度合に応じてカップリング処理の演算設定を変更することで、カップリング処理の実効性を高め、ひいては位置算出の正確性を向上させることが可能となる。
【0118】
4.変形例
本発明を適用可能な実施例は、上記の実施例に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは勿論である。以下、変形例について説明するが、上記の実施例と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、上記の実施例とは異なる部分を中心に説明する。
【0119】
4−1.ユニット
上記の実施形態では、衛星測位用ユニットとして、GPSを適用したGPSユニットを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星測位システムを適用したユニットとしてもよいことは勿論である。
【0120】
また、上記の実施形態では、慣性測位用ユニットとして、INSユニットを例に挙げて説明したが、INSメジャメント情報(加速度や角速度)を計測する慣性センサーや慣性計測ユニット(IMU)を慣性測位用ユニットとしてもよい。この場合は、慣性測位用ユニットにより計測されたINSメジャメント情報を用いて、位置算出装置の処理部がINS演算処理を行えばよい。
【0121】
4−2.カップリング処理
上記の実施形態では、カップリング処理の一例としてカルマンフィルター処理を例に挙げて説明したが、カップリング処理はこれに限られない。例えば、GPS計測結果とINS計測結果との平均演算を行う平均処理をカップリング処理に含めることとしてもよい。
【0122】
平均演算としては、単純な算術平均や幾何平均を適用してもよいし、加重平均を適用してもよい。算術平均や幾何平均を適用するのであれば、カップリング処理の演算設定として、例えば、GPS計測結果を採用して平均処理を実行する実行頻度を定めておくことができる。GPSの影響度合が高いほど、GPS計測結果をINS計測結果に作用し易くするように実行頻度を高くすればよい。
【0123】
また、加重平均を適用するのであれば、カップリング処理の演算設定として、例えば、加重平均の重みを定めておけばよい。具体的には、GPSの影響度合が高いモードほど、GPS計測結果をINS計測結果よりも重視して加重平均するように、GPS計測結果の重みとしてより大きな値を設定すればよい。
【0124】
4−3.影響モードの段数
上記の実施形態では、GPS影響モードを第1〜第4の影響モードの4段として説明したが、影響モードの段数は適宜設定可能である。つまり、影響モードをより少ない段数(例えば2段)としてもよいし、より多い段数(例えば8段)としてもよい。これは、GPSの影響度合をより粗く設定したり、より細かく設定することに相当する。
【0125】
4−4.処理主体
上記の実施例では、電子機器の処理部10が、GPSユニット3から取得したGPSメジャメント情報55を用いてGPS演算処理を行うこととして説明した。また、処理部10が、INSユニット5から取得したINSメジャメント情報56を用いてINS演算処理を行うこととして説明した。つまり、GPS演算処理、INS演算処理及びカップリング処理の実行主体が、全て電子機器の処理部10であるものとして説明した。この構成を次のようにしてもよい。
【0126】
GPSユニット3は、GPSメジャメント情報55を用いたGPS演算処理を行ってGPS演算結果57を求め、処理部10に出力する。また、INSユニット5は、INSメジャメント情報56を用いたINS演算処理を行ってINS演算結果58を求め、処理部10に出力する。そして、処理部10は、各ユニットから取得したGPS演算結果57とINS演算結果58とのカップリング処理を実行する。つまり、この場合は、GPS演算処理及びINS演算処理の実行主体が、それぞれGPSユニット3及びINSユニット5となり、カップリング処理の実行主体が、電子機器の処理部10となる。
【0127】
4−5.電子機器
上記の実施例では、四輪自動車に搭載するナビゲーション装置に本発明を適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な電子機器はこれに限られるわけではない。例えば、二輪自動車に搭載するナビゲーション装置に適用してもよいし、携帯型ナビゲーション装置に適用することとしてもよい。
【0128】
また、ナビゲーション以外の用途の電子機器についても本発明を同様に適用可能であることは勿論である。例えば、携帯型電話機やパソコン、PDA(Personal Digital Assistant)といった他の電子機器についても本発明を同様に適用して、当該電子機器の位置算出を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0129】
1、1A 位置算出装置、 3 GPSユニット、 5 INSユニット、 6 位置算出精度判定部、 6A 位置誤差レベル判定部、 7 影響度合設定部、 7A 影響モード設定部、 9 カップリング処理部、 9A カルマンフィルター処理部、 10 処理部、 20 操作部、 30 表示部、 40 通信部、 50 記憶部、 100 カーナビゲーション装置、 1000 ナビゲーションシステム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に備えられた衛星測位用ユニットの第1の計測結果と、前記移動体に備えられた慣性測位用ユニットの第2の計測結果とを用いて、前記移動体の位置を算出する位置算出方法であって、
位置算出精度を判定することと、
前記位置算出精度に基づいて、前記第1の計測結果の前記第2の計測結果に対する影響度合を設定することと、
前記影響度合に基づき、前記第1の計測結果と前記第2の計測結果とのカップリング処理を実行して前記移動体の位置を算出することと、
を含む位置算出方法。
【請求項2】
前記判定することは、前記移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数に基づいて前記位置算出精度を判定することを含む、
請求項1に記載の位置算出方法。
【請求項3】
前記カップリング処理は、算出した位置に含まれている誤差を推定する誤差推定演算を含み、
前記判定することは、前記誤差推定演算で推定した誤差に基づいて前記位置算出精度を判定することを含む、
請求項1又は2に記載の位置算出方法。
【請求項4】
前記影響度合には、前記第1の計測結果を採用して前記カップリング処理を実行する実行頻度が含まれており、
前記影響度合を設定することは、前記位置算出精度に基づいて前記実行頻度を設定することを含み、
前記位置を算出することは、前記実行頻度に従って前記第1の計測結果を採用した前記カップリング処理を実行することを含む、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項5】
前記実行頻度を設定することは、前記位置算出精度が高いほど低い頻度を設定することである、
請求項4に記載の位置算出方法。
【請求項6】
前記カップリング処理は、前記第1の計測結果を観測量とするカルマンフィルター処理を含み、
前記影響度合を設定することは、前記位置算出精度に基づいて前記カルマンフィルター処理に用いる誤差パラメーター値を設定することを含み、
前記位置を算出することは、前記第1の計測結果及び前記誤差パラメーター値を用いて前記カルマンフィルター処理を実行することを含む、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項7】
前記誤差パラメーター値を設定することは、前記位置算出精度が高いほど大きい値を設定することである、
請求項6に記載の位置算出方法。
【請求項8】
移動体に備えられた衛星測位用ユニットの第1の計測結果と、前記移動体に備えられた慣性測位用ユニットの第2の計測結果とを用いて、前記移動体の位置を算出する位置算出装置であって、
位置算出精度を判定する位置算出精度判定部と、
前記位置算出精度に基づいて、前記第1の計測結果の前記第2の計測結果に対する影響度合を設定する影響度合設定部と、
前記影響度合に基づき、前記第1の計測結果と前記第2の計測結果とのカップリング処理を実行して前記移動体の位置を算出するカップリング処理部と、
を備えた位置算出装置。
【請求項1】
移動体に備えられた衛星測位用ユニットの第1の計測結果と、前記移動体に備えられた慣性測位用ユニットの第2の計測結果とを用いて、前記移動体の位置を算出する位置算出方法であって、
位置算出精度を判定することと、
前記位置算出精度に基づいて、前記第1の計測結果の前記第2の計測結果に対する影響度合を設定することと、
前記影響度合に基づき、前記第1の計測結果と前記第2の計測結果とのカップリング処理を実行して前記移動体の位置を算出することと、
を含む位置算出方法。
【請求項2】
前記判定することは、前記移動体が移動を開始してからの経過時間又は位置算出回数に基づいて前記位置算出精度を判定することを含む、
請求項1に記載の位置算出方法。
【請求項3】
前記カップリング処理は、算出した位置に含まれている誤差を推定する誤差推定演算を含み、
前記判定することは、前記誤差推定演算で推定した誤差に基づいて前記位置算出精度を判定することを含む、
請求項1又は2に記載の位置算出方法。
【請求項4】
前記影響度合には、前記第1の計測結果を採用して前記カップリング処理を実行する実行頻度が含まれており、
前記影響度合を設定することは、前記位置算出精度に基づいて前記実行頻度を設定することを含み、
前記位置を算出することは、前記実行頻度に従って前記第1の計測結果を採用した前記カップリング処理を実行することを含む、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項5】
前記実行頻度を設定することは、前記位置算出精度が高いほど低い頻度を設定することである、
請求項4に記載の位置算出方法。
【請求項6】
前記カップリング処理は、前記第1の計測結果を観測量とするカルマンフィルター処理を含み、
前記影響度合を設定することは、前記位置算出精度に基づいて前記カルマンフィルター処理に用いる誤差パラメーター値を設定することを含み、
前記位置を算出することは、前記第1の計測結果及び前記誤差パラメーター値を用いて前記カルマンフィルター処理を実行することを含む、
請求項1〜3の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項7】
前記誤差パラメーター値を設定することは、前記位置算出精度が高いほど大きい値を設定することである、
請求項6に記載の位置算出方法。
【請求項8】
移動体に備えられた衛星測位用ユニットの第1の計測結果と、前記移動体に備えられた慣性測位用ユニットの第2の計測結果とを用いて、前記移動体の位置を算出する位置算出装置であって、
位置算出精度を判定する位置算出精度判定部と、
前記位置算出精度に基づいて、前記第1の計測結果の前記第2の計測結果に対する影響度合を設定する影響度合設定部と、
前記影響度合に基づき、前記第1の計測結果と前記第2の計測結果とのカップリング処理を実行して前記移動体の位置を算出するカップリング処理部と、
を備えた位置算出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−215491(P2012−215491A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81657(P2011−81657)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.INS
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.INS
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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