説明

熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び成形体

【課題】電気・電子用部品として好適な電気絶縁性を有し、厚さ方向の熱伝導性、及び強度に優れた成形体、並びに該成形体を得るための熱可塑性樹脂組成物の製造方法の提供。
【解決手段】シリンダ及び前記シリンダ内に設置されたスクリューを備えた溶融混練押出機を用い、前記シリンダに設けられた供給口から、(A)熱可塑性樹脂、(B)アルミナ微粒子及び(C)繊維状充填材を前記シリンダに供給して溶融混練することにより、熱可塑性樹脂組成物を製造する方法であって、前記溶融混練押出機のノズルから外部に押し出された混練物を、冷却速度35℃/秒以下で冷却する熱可塑性樹脂組成物の製造方法;かかる製造方法で得られた熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性に優れた成形体、及び該成形体を得るための熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子部品の分野では、その小型化、高性能化に伴い、当該部品内での発熱が懸念されている。かかる発熱に対する放熱対策が不十分であると、熱の蓄積により、電気・電子部品の性能が低下する。したがって、電気・電子部品に使用される部材には、高い熱伝導性(高熱伝導性)を有することが望まれている。
これまでに、高熱伝導性を必要とする部品には、主として金属材料が用いられてきたが、部品の小型化に適合させるうえで金属材料は、軽量性や成形加工性の面で難があり、樹脂材料への代替が進みつつある。
しかしながら、樹脂材料は一般に熱伝導性が低く、樹脂材料自体の高熱伝導化は困難である。そのため、通常は樹脂材料に、銅、アルミニウム、酸化アルミニウム等の高熱伝導性材料のフィラーを高充填することによって、高熱伝導性の樹脂組成物とし、これから電気・電子部品を製造することが検討されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−100577号公報
【特許文献2】特開平4−178421号公報
【特許文献3】特開平5−86246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、電気・電子部品に使用されるような、比較的形状が複雑な成形体は、一般に射出成形によって製造される。しかし射出成形では、比較的容易に樹脂の流動方向の熱伝導率を向上させることができるが、流動方向に対して垂直な、成形体の厚さ方向の熱伝導率を向上させることは非常に困難であるという問題点があった。さらに、樹脂に熱伝導性を付与するためには、フィラーを高充填しなければならないため、成形体の強度が低下するという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電気・電子用部品として好適な電気絶縁性を有し、厚さ方向の熱伝導性、及び強度に優れた成形体、並びに該成形体を得るための熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、
本発明は、シリンダ及び前記シリンダ内に設置されたスクリューを備えた溶融混練押出機を用い、前記シリンダに設けられた供給口から、下記成分(A)、(B)及び(C)を前記シリンダに供給して溶融混練することにより、熱可塑性樹脂組成物を製造する方法であって、前記溶融混練押出機のノズルから外部に押し出された混練物を、冷却速度35℃/秒以下で冷却することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する。
(A)熱可塑性樹脂
(B)アルミナ微粒子
(C)繊維状充填材
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前記成分(B)のBET比表面積が1.0〜5.0m/gであることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前記成分(B)のレーザー回折散乱測定により求めた粒径分布が二峰性であることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前記成分(B)のレーザー回折散乱測定により求めた粒径分布が、体積平均粒径1〜5μmの範囲内と、体積平均粒径0.1〜1μmの範囲内と、にそれぞれ極大値を有する二峰性であることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前記成分(C)が、炭素繊維、ガラス繊維、ウォラストナイトウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー及びチタン酸カリウムウィスカーからなる群より選ばれる一種以上であることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前記成分(A)が液晶ポリエステルであることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前記液晶ポリエステルが、p−ヒドロキシ安息香酸及び/又は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、ヒドロキノン及び/又は4,4’−ジヒドロキシビフェニルの芳香族ジオールに由来する繰返し単位と、テレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる一種以上の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、を含み、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位を合計で30〜80モル%、前記芳香族ジオールに由来する繰返し単位を合計で10〜35モル%、前記芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位を合計で10〜35モル%有することが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前記成分(A)100質量部に対して、前記成分(B)及び(C)の全供給量が100質量部以上であることが好ましい。
また、本発明は、前記製造方法で得られた熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体を提供する。
本発明の成形体は、23℃における体積固有抵抗値が1×1010Ωm以上であることが好ましい。
本発明の成形体は、電気・電子部品用であることが好ましい。
本発明の成形体においては、前記電気・電子部品が、電子素子の封止材、インシュレータ、表示装置用反射板、電子素子収納用の筐体及び表面実装部品からなる群より選ばれる一種以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電気・電子用部品として好適な電気絶縁性を有し、厚さ方向の熱伝導性、及び強度に優れた成形体、並びに該成形体を得るための熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】レーザー回折散乱測定により求めた二峰性の粒径分布の概要(一例)を示す模式図である。
【図2】レーザー回折散乱測定により求めた二峰性の粒径分布の概要(他の例)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、シリンダ及び前記シリンダ内に設置されたスクリューを備えた溶融混練押出機を用い、前記シリンダに設けられた供給口から、下記成分(A)、(B)及び(C)を前記シリンダに供給して溶融混練することにより、熱可塑性樹脂組成物を製造する方法であって、前記溶融混練押出機のノズルから外部に押し出された混練物を、冷却速度35℃/秒以下で冷却することを特徴とする。
(A)熱可塑性樹脂
(B)アルミナ微粒子
(C)繊維状充填材
本発明によれば、押し出された混練物の冷却速度を35℃/秒以下とし、従来よりも低減することで、電気絶縁性、厚さ方向の熱伝導性、及び強度に優れた成形体を製造可能な熱可塑性樹脂組成物が得られる。なお、以下、本明細書においては、特に断りの無い限り、「熱伝導性」とは「成形体の厚さ方向の熱伝導性」を意味するものとする。
【0010】
前記熱可塑性樹脂(成分(A))は、200〜450℃の成形温度で成形できるものが好ましく、その例としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ハロゲン化ビニル樹脂、ポリアセタール、飽和ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリールスルホン、ポリアリールケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリールエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイドスルフォン、ポリアリレート、ポリアミド、液晶ポリエステル、フッ素樹脂などが挙げられる。
熱可塑性樹脂は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してポリマーアロイとして用いてもよい。
【0011】
前記熱可塑性樹脂は、なかでも耐熱性及び電気絶縁性に優れる点から、液晶ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド4/6又はポリアミド6Tが好ましく、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリエステルがより好ましい。そして、耐熱性及び電気絶縁性に優れる点に加え、さらに薄肉成形性にも優れる点から、液晶ポリエステルが特に好ましい。このように、熱可塑性樹脂として薄肉成形性に優れる液晶ポリエステルを使用すると、比較的複雑な形状の電気・電子部品を成形する際の成形性が特に良好となる。
【0012】
以下、ポリフェニレンスルフィド及び液晶ポリエステルについて説明する。
ポリフェニレンスルフィドは、典型的には、下記式(10)で表される繰返し単位を主として含む樹脂である。かかるポリフェニレンスルフィドの製造方法としては、「米国特許第2513188号明細書」、「特公昭44−27671号公報」に開示されているハロゲン置換芳香族化合物と硫化アルカリとの反応、「米国特許第3274165号明細書」に開示されているチオフェノール類のアルカリ触媒又は銅塩等の共存下での縮合反応、あるいは「特公昭46−27255号公報」に開示されている、芳香族化合物と塩化硫黄とのルイス酸触媒下での縮合反応等を行う方法が挙げられる。また、容易に入手可能なポリフェニレンスルフィドの市販品(例えば、大日本インキ化学工業社製のポリフェニレンスルフィド)を用いてもよい。
【0013】
【化1】

【0014】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0015】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0016】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0017】
液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0018】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0019】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0020】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は1〜10であることが好ましい。
【0021】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0022】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが1,3−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0023】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0024】
繰返し単位(1)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30〜80モル%、さらに好ましくは40〜70モル%、特に好ましくは45〜65モル%である。
繰返し単位(2)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(3)の含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10〜35モル%、さらに好ましくは15〜30モル%、特に好ましくは17.5〜27.5モル%である。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、液晶ポリエステルの溶融流動性、耐熱性、強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0025】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0026】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に二種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0027】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することがより好ましい。このようにすることで、液晶ポリエステルは溶融粘度が低くなり易い。
【0028】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)としてp−ヒドロキシ安息香酸及び/又は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、繰返し単位(2)としてテレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる一種以上の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、繰返し単位(3)としてヒドロキノン及び/又は4,4’−ジヒドロキシビフェニルの芳香族ジオールに由来する繰返し単位と、を有することが好ましく、これら繰返し単位のみを有することがより好ましい。
【0029】
液晶ポリエステルは、これを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性よく製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0030】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは270℃以上、より好ましくは270℃〜400℃、さらに好ましくは280℃〜380℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、高過ぎると、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
上述のように、液晶ポリエステルの製造において固相重合を行えば、液晶ポリエステルの流動開始温度を270℃以上にすることが比較的短時間で可能である。
【0031】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0032】
前記アルミナ微粒子(成分(B))は、αアルミナからなる微粒子が好ましく、なかでも酸化アルミニウム(Al)の含有量が95質量%以上であり、体積平均粒径が0.1〜50μmであるものが特に好適である。
酸化アルミニウムの含有量が高いほど、得られる成形体は電気絶縁性や熱伝導性により優れるので、前記含有量は99質量%以上であることが好ましく、99.5質量%以上であることがより好ましい。
また、前記アルミナ微粒子の体積平均粒径は、0.1〜30μmであることが好ましく、0.1〜20μmであることがより好ましく、0.1〜10μmであることが特に好ましい。なお、ここでアルミナ微粒子の「体積平均粒径」とは、マイクロトラック粒度分析計(例えば、日機装社製HRAなど)を用いて測定されたものであり、アルミナ微粒子を2質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に添加し、超音波洗浄装置を用いて十分に分散させた後、レーザー光線を照射して、その回折(散乱)を測定(レーザー回折散乱測定による粒径分布測定)して求めたものである。
【0033】
前記アルミナ微粒子は、上記のような酸化アルミニウム含有量を満たすものであれば、その形状は、球状、多面体状及び破砕粒子状のいずれでもよい。
ただし、前記アルミナ微粒子は、BET比表面積が1.0〜5.0m/gであることが好ましく、比表面積が比較的大きくなり易いという点で、アルミナ微粒子の形状は破砕粒子状のものが特に好ましい。アルミナ微粒子のBET比表面積が、1.0〜5.0m/gの範囲であると、本発明に係る製造方法で得られた熱可塑性樹脂組成物を溶融成形して成形体を得る際に、成形に使用する金型の破損をより低減でき、得られる成形体がより熱伝導性に優れる。このような効果にさらに優れる点から、アルミナ微粒子のBET比表面積は、1.0〜3.0m/gであることがより好ましく、1.0〜2.5m/gであることが特に好ましい。このような、アルミナ微粒子を得るためには、後述するような市販品のアルミナ微粒子の中から、BET比表面積が1.0〜5.0m/gであるものを選択してもよいし、適当な体積平均粒径(例えば、40〜70μm程度)のアルミナ粒子を準備し、これを公知の各種手段によって破砕して、その比表面積を増大させることで、BET比表面積が1.0〜5.0m/gのアルミナ微粒子を調製してもよい。このときの破砕手段の例としては、ジェットミル、ミクロンミル、ボールミル、振動ミル、メディアミルなどの粉砕機を用いる方法が挙げられる。
【0034】
アルミナ微粒子のBET比表面積を測定する方法としては、例えば、次のような窒素吸着法が挙げられる。まず、アルミナ微粒子を120℃、8時間で真空脱気処理した後、定容法を用いて窒素による吸着等温線を測定する。この吸着等温線を用いることで、BET一点法により比表面積が算出される。このとき用いる装置としては、例えば、日本BEL社製「BELSORP−mini」が挙げられる。
【0035】
アルミナ微粒子としては、市販品を用いてもよい。アルミナ微粒子の容易に入手可能な市販品の例としては、住友化学社製、昭和電工社製及び日本軽金属社製のアルミナ微粒子等が挙げられる。これら市販品の中から、上記のようにBET比表面積が好ましくは1.0〜5.0m/g、より好ましくは1.0〜3.0m/gであり、体積平均粒径が好ましくは0.1〜50μmであるものを選択すればよい。
【0036】
アルミナ微粒子は、レーザー回折散乱測定により求めた粒径分布が二峰性であることが好ましく、上記のような好ましい体積平均粒径を満足するうえでは、前記粒径分布が、体積平均粒径1〜5μmの範囲内と、体積平均粒径0.1〜1μmの範囲内と、にそれぞれ極大値を有する二峰性であることがより好ましい。このような二峰性の粒径分布を有するアルミナ微粒子を用いることで、得られる成形体は、アルミナ微粒子がより高充填され、熱伝導性により優れたものとなる。
【0037】
ここで図面を参照して、上記の「二峰性」を説明する。図1及び2は、レーザー回折散乱測定により求められた二峰性の粒径分布の概要を示す模式図である。当該模式図において、横軸は粒径で、右側ほど粒径が大きいことを表す。また、縦軸はその粒径における強度を表す。図1は典型的な二峰性の粒径分布を示しており、当該粒径分布には2つの極大値(第1の極大値、第2の極大値)が存在する。また、図2に示すように、第2の極大値を持つピークに対して、第1の極大値が肩ピークのようにして現れるような粒径分布の場合も、二峰性の粒径分布とする。そして、これら二峰性の粒径分布において、第1の極大値が体積平均粒径0.1〜1μmの範囲内にあり、第2の極大値が体積平均粒径1〜5μmの範囲内にあるアルミナ微粒子がより好ましい。
【0038】
前記繊維状充填材(成分(C))は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。
前記繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;ステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
前記繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。
前記繊維状充填材は、これらの中でも、炭素繊維、ガラス繊維、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー及びチタン酸カリウムウィスカーが好ましく、炭素繊維及びガラス繊維がより好ましい。
繊維状充填材は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
前記繊維状充填材は、数平均繊維径が1〜15μmであり、数平均アスペクト比(数平均繊維長/数平均繊維径)が10以上であるものが好ましい。このような数平均アスペクト比を有する長い繊維状充填材を用いることで、成形体の機械的強度がより向上する。そして、繊維状充填材の数平均アスペクト比は、より好ましくは50以上であり、また、好ましくは500以下、より好ましくは400以下である。繊維状充填材の数平均繊維径及び数平均繊維長は、電子顕微鏡で繊維状充填材を観察することにより測定できる。
【0040】
繊維状充填材としては、例えば、市販品をそのまま用いてもよいし、熱可塑性樹脂に対する分散性や、熱可塑性樹脂との密着性を向上させるために、表面がカップリング剤(シランカップリング剤、チタンカップリング剤等)や界面活性剤等で表面処理されたものを用いてもよい。
【0041】
前記シランカップリング剤の例としては、メタクリルシラン、ビニルシラン、エポキシシラン、アミノシラン等が挙げられ、チタンカップリング剤の例としては、チタン酸等が挙げられる。
前記界面活性剤の例としては、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩類等が挙げられる。
【0042】
本発明においては、溶融混練時に必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲内において、前記熱可塑性樹脂、アルミナ微粒子及び繊維状充填材(成分(A)〜(C))以外の他の成分を供給(配合)し、熱可塑性樹脂組成物を、これら他の成分を含むものとしてもよい。
前記他の成分の例としては、前記アルミナ微粒子及び繊維状充填材以外の充填材、添加剤が挙げられる。
【0043】
前記アルミナ微粒子及び繊維状充填材以外の充填材の例としては、タルク、ガラスフレーク、シリカ粒子、炭酸カルシウム等が挙げられ、これらの中でもタルクが好ましい。
また、前記添加剤の例としては、フッ素樹脂等の離型改良剤;染料、顔料等の着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
本発明においては、前記アルミナ微粒子の供給量を、前記繊維状充填材の供給量よりも質量比較で多くなるようにすることが好ましい。そして、熱可塑性樹脂組成物の供給量に対するアルミナ微粒子の供給量の割合をW(質量%)、繊維状充填材の供給量の割合をW(質量%)としたときに、W/Wの値が2以上であることがより好ましく、3以上であることが特に好ましい。
また、熱可塑性樹脂の供給量100質量部に対して、アルミナ微粒子及び繊維状充填材の全供給量は、100質量部以上であることが好ましく、150質量部以上であることがより好ましい。
【0045】
熱可塑性樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂、アルミナ微粒子及び繊維状充填材(成分(A)〜(C))を押出溶融混練して得られ、押出溶融混練してペレット状として得ることが好ましい。
【0046】
押出溶融混練に用いられる典型的な溶融混練押出機は、加熱手段を有するシリンダを備え、該シリンダに溶融混練の対象となる原材料を供給するための供給口を備え、加熱溶融体を押し出すためのスクリューを前記シリンダ内に備えたものであり、シリンダ内に1本のスクリューが回転駆動されるように設けられている単軸溶融混練押出機でもよいし、シリンダ内に2本のスクリューが互いに異なる方向に又は同じ方向に回転駆動されるように設けられている二軸溶融混練押出機でもよいが、二軸溶融混練押出機が好ましい。
【0047】
溶融混練押出機は、スクリューの直径(D)に対するスクリューの有効長さ(L)の比率(L/D)が20以上(ここでLとDは同一のスケール単位である)であることが好ましく、このようにすることで、熱可塑性樹脂、アルミナ微粒子及び繊維状充填材がより均一に分散する。なお、ここで「スクリューの有効長さ」とは、スクリューの軸方向における長さを意味し、「スクリューの直径」とは、スクリューの呼び外径寸法を意味する。
【0048】
本発明においては、溶融混練押出機のノズルからこの押出機の外部に押し出された混練物(熱可塑性樹脂組成物)を、冷却速度35℃/秒以下で冷却する。このようにすることで、熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体は、優れた熱伝導性及び機械的強度を有するものとなる。
【0049】
前記冷却速度は、例えば、溶融混練押出機から押し出された混練物の冷却方法及び、及び混練物の押出量で調節できる。
前記冷却速度は、例えば、溶融混練押出機のノズルから押し出された直後の混練物の温度a(℃)と、混練物がノズルから押し出されて(温度a(℃)を測定してから)時間t(秒)が経過した後の混練物の温度b(℃)とを測定し、温度aと温度bとの差を時間tで除する((a−b)/t)ことにより求められる。混練物の温度は、例えば、赤外放射温度計を用いて簡便に測定できる。時間tは、例えば、3〜10秒に設定することで、より高い精度で冷却速度を測定できる。
【0050】
本発明においては、ノズルから押し出された混練物は、熱可塑性樹脂組成物として成形体の製造に供するまでの間など、再度加熱を行うまでの間における冷却中に、冷却速度を35℃/秒以下とすればよい。そして、通常は、ノズルから押し出された直後の混練物は高温なので、これに何らかの強制的な冷却操作を加えて冷却する場合には、例えば、この冷却操作時の冷却速度を35℃/秒以下に制御し、少なくとも、自然に放熱させた状態で冷却速度が35℃/秒を越えないようになるまで、この冷却操作を継続すればよい。押し出された直後の混練物に、強制的な冷却操作を行わない場合には、冷却速度は通常、35℃/秒を越えることはないと考えられるが、工程に長時間を要するため、非効率的である。
【0051】
本発明においては、切断機を用いてノズルから押し出された混練物をペレット状等の形状に切断する場合には、前記温度bを切断機の入り口直前の混練物の温度とすることが好ましい。この場合、前記時間tは、押し出された混練物がノズルから前記切断機の入り口に到達するまでの時間となる。
【0052】
混練物の強制的な冷却は、空冷、水冷等で行うことが好ましい。例えば、ストランド冷却引取装置を用いれば、冷却シャワー水の噴霧やエアーの吹き付けの条件を調節することで、比較的容易に混練物の冷却速度を調節できる。このようなストランド冷却引取装置としては、例えば、いすず化工機社製やタナカ社製のものが挙げられる。
例えば、水冷時の冷却速度は、35℃/秒以下、空冷時の冷却速度は30℃/秒以下とすることができる。
【0053】
混練物の押出量は、5〜300kg/時間であることが好ましく、10〜100kg/時間であることがより好ましい。このような範囲とすることで、混練物の冷却速度をより容易に調節できる。
【0054】
<成形体>
本発明に係る成形体は、前記製造方法で得られた熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする。
かかる成形体は、前記熱可塑性樹脂組成物を用いたことで、電気絶縁性、熱伝導性及び強度に優れる。
【0055】
熱可塑性樹脂組成物の成形方法は、目的とする成形体の形状によって好適なものを適宜選択でき、なかでも、射出成形法、押出射出成形法等の溶融成形法が好ましく、射出成形法がより好ましい。射出成形法は、薄肉部を有するような複雑な形状の成形体を成形し易いという利点を有する。射出成形法で得られた本発明に係る成形体は、電気・電子部品等の、特に熱伝導性が必要とされる部品として有用である。
【0056】
射出成形は、射出成形機(例えば、日精樹脂工業社製「油圧式横型成形機PS40E5ASE型」)を用いて、前記熱可塑性樹脂組成物を溶融させ、溶融した熱可塑性樹脂組成物を、適切な温度に加熱して、所望のキャビティ形状を有する金型内に射出することにより行うことができる。射出するために熱可塑性樹脂組成物を加熱溶融させる温度は、使用する熱可塑性樹脂組成物の流動開始温度Tp’℃を基点として、[Tp’+10]℃以上、[Tp’+50]℃以下とすることが好ましい。また、金型の温度は、熱可塑性樹脂組成物の冷却速度と生産性の点から、室温(例えば、23℃)〜180℃の範囲から選択することが好ましい。
【0057】
前記成形体は、例えば、23℃における体積固有抵抗値を1×1010Ωm以上とすることができる。ここで、「体積固有抵抗値」は、「ASTM D257」に準拠して測定した値である。
また、前記成形体は、例えば、熱伝導率を好ましくは0.92W/(m・K)以上とすることができ、曲げ強度を好ましくは98MPa以上とすることができる。ここで、「熱伝導率」は、熱拡散率、比熱及び比重の積から求められた値であり、「曲げ強度」は、「ASTM D790」に準拠して測定した値である。
【0058】
前記成形体は、各種用途に適用できるが、特に電気絶縁性、熱伝導性及び機械的強度に優れる点から、電気・電子部品として好適である。なかでも、電子素子の封止材、インシュレータ、表示装置用反射板、電子素子収納用の筐体、自動車・産業機械用モーターインシュレータ及び表面実装部品からなる群より選ばれる一種以上として好適である。また、前記表面実装部品としては、コネクターが好適である。このような電気・電子部品においては、これら部品を備えた電気・電子機器の稼動によって発熱し、且つこれら部品の放熱性が不十分であると、誤作動等が生じて機器の信頼性が低下し易い。これに対して本発明に係る成形体は、上記のように、熱伝導率が比較的等方性になるという、放熱に有利な特性を有している。したがって、本発明に係る成形体は、前記電気・電子部品として使用したとき、これら部品が比較的複雑な形状であったとしても、熱伝導率の等方性により効率よく放熱して、これら部品を備えた電気・電子機器の安定的な稼動を実現する。
【実施例】
【0059】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、液晶ポリエステルの流動開始温度は、以下の方法で測定した。
【0060】
(液晶ポリエステルの流動開始温度の測定)
フローテスター(島津製作所社製、CFT−500型)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0061】
本実施例で使用したアルミナ微粒子及び繊維状充填材は、以下の通りである。
(アルミナ微粒子)
微粒低ソーダアルミナAL−45−2(昭和電工社製):体積平均粒径1.4μm(粒径分布においては、体積平均粒径1.0〜2.0μmの範囲内と、体積平均粒径0.2〜0.4μmの範囲内とに、それぞれ1つずつ極大値を有する二峰性であった。)、BET比表面積1.8m/g
(繊維状充填材)
ダイアリードK223HE(三菱化学社製):炭素繊維
チョップドガラス繊維CS03JAPX−1(旭ファイバーガラス社製):ガラス繊維
(板状無機充填材)
タルクX−50(日本タルク社製):タルク
【0062】
<液晶ポリエステルの製造>
[製造例1]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で撹拌しながら30分かけて150℃まで昇温し、この温度(150℃)を保持して1時間還流させた。
次いで、留出する副生成物の酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点を反応終了点としてプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合終了後、得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は、327℃であった。
【0063】
<液晶ポリエステル組成物及び成形体の製造>
[実施例1]
(液晶ポリエステル組成物の製造)
製造例1で得られた液晶ポリエステル、並びに前記アルミナ微粒子及び繊維状充填材を、表1に示す割合で、同方向二軸溶融混練押出機(池貝鉄工社製「PCM−30HS」)のシリンダに、このシリンダに設けられた供給口から供給し、次いで、330℃で溶融混練した後、表1に示すように、混練物を前記押出機のノズルからストランド状に押し出して冷却し、ストランドカッターで裁断して造粒することにより、ペレット状の液晶ポリエステル組成物を得た。このとき、ストランド状の混練物は、ストランド冷却引取装置(いすず化工機社製)を用い、エアーの吹き付けによる空冷で冷却した。また、冷却速度は、押出機のノズルから押し出された直後の混練物の温度aと、ストランドカッター入り口直前の混練物の温度bとの差を、ノズルからストランドカッターに到達するまでの時間tで割った値とした。
【0064】
(成形体の製造)
射出成形機(日精樹脂工業社製「PS40E5ASE型」)を用いて、上記で得られた液晶ポリエステル組成物を、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出率30cm3/sの条件で射出成形し、以下に示す形状の二種の成形体(成形体(1)及び(2))を得た。
成形体(1):64mm×64mm×1mm
成形体(2):126mm×12mm×6mm
【0065】
[実施例2、比較例1〜2]
製造条件を表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様に液晶ポリエステル組成物及び成形体を製造した。なお、ストランド状の混練物の水冷は、冷却シャワー水の噴霧により行った。
【0066】
<成形体の評価>
上記各実施例及び比較例で得られた成形体について、下記方法により、厚さ方向の熱伝導率(W/(m・K))、曲げ強度(MPa)及び体積固有抵抗値(Ωm)を測定し、厚さ方向の熱伝導性、強度及び絶縁性を評価した。結果を表1に示す。
【0067】
(厚さ方向の熱伝導率の測定)
成形体(1)の中央部を切り出し、熱伝導率評価用サンプルとした。このサンプルについて、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(アルバック理工株式会社製「TC−7000」)を用いて、熱拡散率を測定した。また、DSC(PERKIN ELMER社製「DSC7」)を用いてこのサンプルの比熱を、さらに、自動比重測定装置(関東メジャー社製「ASG−320K」)を用いてこのサンプルの比重を、それぞれ測定した。そして、熱伝導率を、熱拡散率、比熱及び比重の積から求めた([熱伝導率]=[熱拡散率]×[比熱]×[比重])。
【0068】
(曲げ強度の測定)
成形体(2)について、「ASTM D790」に準拠して測定した。
【0069】
(体積固体抵抗値の測定)
成形体(1)について、「ASTM D257」に準拠した体積固有抵抗測定(東亜ディーケーケー社製「デジタル超絶縁/微少電流計DSM−8104」を使用)により、23℃で測定した。
【0070】
【表1】

【0071】
上記結果から明らかなように、押出機のノズルから押し出した混練物を、20〜22℃/秒の冷却速度で冷却した実施例1〜2の成形体は、いずれも厚さ方向の熱伝導性、強度及び絶縁性に優れていた。これに対して、押出機のノズルから押し出した混練物を、42℃/秒の冷却速度で冷却した比較例1の成形体は、厚さ方向の熱伝導性が劣っていた。また、混練物を、38℃/秒の冷却速度で冷却した比較例2の成形体は、厚さ方向の熱伝導性及び強度が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、高い放熱性が求められる電気・電子部品の製造に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ及び前記シリンダ内に設置されたスクリューを備えた溶融混練押出機を用い、前記シリンダに設けられた供給口から、下記成分(A)、(B)及び(C)を前記シリンダに供給して溶融混練することにより、熱可塑性樹脂組成物を製造する方法であって、
前記溶融混練押出機のノズルから外部に押し出された混練物を、冷却速度35℃/秒以下で冷却することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(A)熱可塑性樹脂
(B)アルミナ微粒子
(C)繊維状充填材
【請求項2】
前記成分(B)のBET比表面積が1.0〜5.0m/gであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記成分(B)のレーザー回折散乱測定により求めた粒径分布が二峰性であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記成分(B)のレーザー回折散乱測定により求めた粒径分布が、
体積平均粒径1〜5μmの範囲内と、
体積平均粒径0.1〜1μmの範囲内と、
にそれぞれ極大値を有する二峰性であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記成分(C)が、炭素繊維、ガラス繊維、ウォラストナイトウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー及びチタン酸カリウムウィスカーからなる群より選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記成分(A)が液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記液晶ポリエステルが、
p−ヒドロキシ安息香酸及び/又は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、
ヒドロキノン及び/又は4,4’−ジヒドロキシビフェニルの芳香族ジオールに由来する繰返し単位と、
テレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる一種以上の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、
を有し、
液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位を合計で30〜80モル%、前記芳香族ジオールに由来する繰返し単位を合計で10〜35モル%、前記芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位を合計で10〜35モル%有することを特徴とする請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記成分(A)100質量部に対して、前記成分(B)及び(C)の全供給量が100質量部以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法で得られた熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項10】
23℃における体積固有抵抗値が1×1010Ωm以上であることを特徴とする請求項9に記載の成形体。
【請求項11】
電気・電子部品用であることを特徴とする請求項9又は10に記載の成形体。
【請求項12】
前記電気・電子部品が、電子素子の封止材、インシュレータ、表示装置用反射板、電子素子収納用の筐体及び表面実装部品からなる群より選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項11に記載の成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−103968(P2013−103968A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247742(P2011−247742)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】