説明

角度計

【課題】アーム部の長さが短くても高精度な角度測定を行える。
【解決手段】角度計1は、第一アーム部2と第二アーム部3が支軸を中心に相対回転可能に支持される。第一アーム部2の中心線は角度表示器5の0度に位置合わせする。支軸と同軸に角度表示器5を第一アーム部3の一端に固定する。第二アーム部3の自由端部に角度器10を設ける。角度器10は周方向に角度目盛りを付した角度表示部8を表示ケース7で囲い一体に回転可能とする。表示ケース7内に設けた球体9は重力方向に位置する。角度器10を関節等に位置決めし、第一アーム部2と第二アーム部3を体幹に沿って直線状に配列し、重力方向に位置する球体9に角度表示部8の0度を一致させる。そして、角度器10を中心に直線の第一アーム部2と第二アーム部3を腕部または大腿部に一致させることで、球体9が回転角度を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば各種施設での実習や診察やリハビリテーション等の際に人体の関節回りにおける体幹と上肢または下肢等との角度の測定等に用いられる角度計に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リハビリテーションや整形外科等の医療分野では、患者等の関節可動域を定量的に測定する機器として角度計(ゴニオメーター)が使用されている。例えば、身体機能の検査等に際し、体幹と上肢または下肢との角度や上腕と前腕との角度等の身体上の各部位の角度を測定することが行われている。これらの測定に用いられる角度計として、例えば支軸によってコンパス状に形成された第一アーム部と第二アーム部とを備え、一方のアーム部に固定された略円弧状の角度目盛り部によって他方のアーム部との間の角度を測定するようになっている。
【0003】
このような角度計では、測定精度を確保するために第一アーム部と第二アーム部の長さをある程度長く(例えば30cm程度)設定する必要がある。
【0004】
また、他の角度計として、例えば特許文献1に記載された角度測定器が知られている。この角度測定器は同一直線上にある第一固定アームと第二固定アームの中間に傾斜角時計が設けられ、この傾斜角時計の中心支軸に重力で垂下する回転バーが設けられている。そして、例えば上腕と前腕との角度を測定する際、上腕に沿って第一固定アームを設置し、関節を介して前腕に回転バーを位置させることで、両者間の角度を傾斜角時計で測定することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/012829号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述したアーム部の長い角度計はいずれも比較的高価であり、例えばリハビリテーションや整形外科等を専攻する医学生や技師見習いの学生等では個人で購入することが困難な場合がある。そのため、これらの学生等はアーム部の長さが上述した角度計より短い、例えば15cm程度の小型で低廉な角度計を個人で購入し、体幹と上肢または下肢との角度やその他の身体上の角度等を測定するのに用いていた。
しかしながら、角度計のアーム部の長さが短いと上肢や下肢に重ねた際にこれらの方向とずれ易く、正確な角度測定が困難であるという欠点があった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みて、アーム部の長さが短くても高精度な角度測定を行えるようにした角度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による角度計は、第一アーム部と第二アーム部が支軸を中心に相対回転可能に支持され、第一アーム部または第二アーム部の自由端部に周方向に角度目盛りが付された角度表示部が回転可能に設けられ、該角度表示部には重力方向を示す指針が設けられたことを特徴とする。
本発明による角度計によれば、通常は支軸を中心に第一アーム部と第二アーム部との角度を測定できると共に、支軸を挟んで第一アーム部と第二アーム部を直線状に延ばして一方のアーム部の端部に設けた角度表示部を例えば関節等の支点に配設し、第一アーム部と第二アーム部を角度測定の基準となる特定の身体部位、例えば体幹の方向に一致させて重力方向を示す指針に角度表示部の基準角度を位置合わせし、その後、角度表示部を支点として第一及び第二アーム部を例えば上肢または下肢等の他の身体部位の方向に回動させると、指針は重力方向で変わらないから、第一及び第二アーム部の示す方向の測定角度を角度表示部で測定することで、基準角度からの角度を例えば体幹と上肢または下肢との角度として測定できる。しかも、比較的短い長さの第一アーム部と第二アーム部を直線状につなげることで例えばほぼ倍の長さに設定できるから、例えば身体上の基準角度位置と測定角度位置とを高精度に設定して高精度の角度測定ができる。
【0009】
また、角度表示部と指針を収容する表示ケースが設けられ、該表示ケースは角度表示部と一体に回転可能としたことが好ましい。
基準角度の設定に際し、重力方向の指針に対して表示ケースを回転させれば角度表示部も一体に回転するから、角度設定や角度調整が容易である。
【0010】
また、指針は表示ケース内に収納された球体であることが好ましい。
球体は表示ケース内で常に重力方向に静止されるから、第一アーム部及び第二アーム部を他の身体部位の角度に応じて回動させることで、角度表示部が一体回転するため、球体との角度を容易に測定できる。
【0011】
また、指針は針であってもよい。
針は重力方向を示すように設定されているから、第一アーム部及び第二アーム部を他の身体部位の角度に応じて回動させることで角度の測定が行える。この場合、表示ケースを設けなくてもよい。
【0012】
また、支軸には第一アーム部と第二アーム部の相対角度を示す角度表示器が設けられている。
通常の使用状態では、支軸と同軸に設けた角度表示器に対して第一アーム部と第二アーム部のなす角度を測定できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による角度計によれば、第一アーム部または第二アーム部の自由端部に角度目盛りが付された角度表示部が設けられているから、第一アーム部と第二アーム部の相対角度を測定できるだけでなく、第一アーム部と第二アーム部を同一直線状に配列させて測定すべき一方の方向を基準として他方の方向との角度を、角度表示部に設けた指針が示す角度によって測定できる。そのため、比較的長さの短い小型で低廉な角度計を用いて、第一アーム部及び第二アーム部を直線状に接続してより長い長さに設定することで、より精度の高い角度測定を行える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態による角度計を示す図である。
【図2】角度計の第二アーム部の自由端部に設けた角度表示部を示すものであり、(a)は角度計を垂直方向に保持した要部平面図、(b)はその縦断面図である。
【図3】第一アーム部と第二アーム部を垂直方向に直線状に配列させた角度計の平面図である。
【図4】体幹と上肢との角度を測定する工程を示す図であり、(a)は体幹に垂直方向に角度計を当てた状態、(b)は外転させた上肢に角度計を当てた状態、(c)は(b)における角度表示部と指針を示す拡大図である。
【図5】角度計を水平方向に保持した要部平面図である。
【図6】横臥した体幹と外転させた下肢との角度を測定する工程を示す図であり、(a)は横臥した体幹に水平方向に角度計を当てた状態、(b)は外転させた下肢に角度計を当てた状態、(c)は(b)における角度表示部と指針を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態による角度計1を示すものであり、例えば15cm程度のほぼ等しい長さの第一アーム部2と第二アーム部3とがそれぞれ一端部で支軸4を中心に相対回転可能に連結されている。支軸4には支軸4を中心にして第一アーム部2と第二アーム部3の幅と同一長さを外径寸法とした全円形の角度表示器5が設けられている。第一アーム部2と第二アーム部3は角度表示器5を挟んで同一直線状に延ばすことで各アーム部2,3の略2倍の長さにすることができる。
【0016】
第一アーム部2と第二アーム部3はそれぞれ支軸4の中心を通過する中心線2a、3aが設けられている。角度表示器5は例えば第一アーム部2に固定されており、中心線2aに0度の位置が重なっている。そして、角度表示器5は例えば0度を中心に左右両側方向に180度ずつ角度表示されている。そのため、第一アーム部2の中心線2aに対する第二アーム部3の中心線3aのなす角度を角度表示器5で読み取ることで角度測定ができる。また、第一アーム部2には、例えばその長手方向の両端縁に長さの寸法表示がなされている。
【0017】
図2及び図3において、第二アーム部3の自由端部、即ち角度表示器5と反対側の端部に天板付きで略円筒状の表示ケース7が第二アーム部3に対して回転可能に支持されている。第二アーム部3に対する表示ケース7の回転構造は図では省略されているが、例えば円形の凸部と凹部とを摺動可能に嵌合させた構造等を採用してもよい。
表示ケース7内には全円形の角度表示部8が設けられており、角度表示部8は表示ケース7と一体且つ同軸に回転可能とされている。角度表示部8は例えば0度を中心に左右方向に180度まで例えば5度刻みで目盛りが表示されている。第二アーム部3の中心線3aは角度表示部8の回転中心と一致するものであり、表示ケース7を回転させることで、角度表示部8の0度を中心線3aに一致させることができる。
そして、表示ケース7内には指針をなす球体9が挿入されており、球体9は表示ケース7内を自由に移動可能であり、その停止位置は重力方向の角度目盛りを指示することになる。これら表示ケース7,角度表示部8,球体9は角度器10を構成する。
角度計1は例えばプラスチック製であり、球体9は例えばプラスチック製または金属製である。
【0018】
本実施形態による角度計1は上述の構成を備えており、次にその使用方法について説明する。なお、図において、角度計1を用いた測定者は省略する。
まず、鉛直方向において、起立状態の被検査者の体幹に対する腕の持ち上げ角度(大関節)を測定する。そのために、先ず図3及び図4(a)に示すように、被検査者の体幹の方向に沿って角度計1を位置させて下方に延ばす。その際、角度計1の角度器10を上端にして肩峰または肩関節に位置させ、第二アーム部3と第一アーム部2を鉛直方向に直線状に垂下させる。この状態で、球体9はその重力により表示ケース7内で鉛直方向の下端に位置するものであり、角度器10の表示ケース7を回転させて角度表示部8の0度の位置を球体9に一致するように微調整する。角度表示部8のこの位置を角度測定の基準位置とする。
【0019】
そして、図4(b)に示すように、腕を外転させて上方に持ち上げる。角度器10を中心にして、角度計1全体を反時計回りに回転させて持ち上げた腕に略平行に重ねると、角度表示器8も一体に回転する。この状態で、図4(c)に示すように、球体9は表示ケース7の最下端である重力方向に位置し、その球体9の位置における回転した角度表示部8の目盛り(例えば100度)を読むと、体幹に対する腕の持ち上げ角度を測定できる。
【0020】
次に図6に示すように、患者等がベッドに寝た状態から膝を折り曲げて大腿部を上方に回動させた状態における体幹と大腿部との角度(大関節)を測定する。
まず、図5及び図6(a)に示すように、角度計1を水平方向に延びる身体に合わせて直線状をなす第二アーム部3及び第一アーム部2を水平に保持させ、下肢を回動させる支点をなす腰関節の部分に角度器10を位置させる。このとき、図5に示すように、角度器10において球体9はその重力により表示ケース7内の下端に垂下した状態にあるから、球体9の位置に角度表示部8の0度の目盛りが重なるように表示ケース7を回転させて調整する。この位置を基準位置とする。
【0021】
この状態から、図6(b)に示すように、膝を折り曲げて大腿部を上方に回動させて保持する。そして、角度計1について角度器10を中心にして反時計回りに回動させて第二アーム部3及び第一アーム部2が一直線状のまま大腿部に略平行に重なるように保持する。
この状態で、表示ケース7内で重力方向の位置にある球体9に対して、角度器10を回動の支点として第二アーム部3及び第一アーム部2を直線状に保持して大腿部の角度まで回動させるため、図6(c)に示すように、角度器10も大腿部の持ち上げ角度まで回動した位置にある。この状態で、図6(c)に示すように、球体9は表示ケース7の最下端である重力方向に位置し、その球体9の位置における回転した角度表示部8の目盛り(例えば105度)を読むと、体幹に対する大腿部の持ち上げ角度を測定できる。
そのため、角度計1によって大腿部が例えば105度の角度まで回動したことを測定できる。
【0022】
なお、手首の角度や指の角度等、小関節における腕や指等の角度を測定する場合には、角度表示器5を小関節に重ねて配設し、第一アーム部2と第二アーム部3をそれぞれの指や前腕部等に重ねることで、従来の小型の角度計と同様に角度表示器5によって角度測定が行える。
【0023】
上述のように本実施形態による角度計1は、垂直面内において、垂直方向の体幹に対する腕部の回動角度や、水平方向の体幹に対する大腿部の上方への回動角度を、第一アーム部2及び第二アーム部3を直線状に延ばした状態で、第一及び第二アーム部2,3の約2倍の長さのアーム部として角度の測定ができる。そのため、第一アーム部2と第二アーム部3の長さが比較的短い小型の角度計1を用いても、第一アーム部2及び第二アーム部3の約2倍の長さのアーム部を基準として体幹に対する腕部や大腿部の曲がり角度等の測定を行うことができて、より高精度な角度測定が行える。
また、通常の測定に用いられる、第一アーム部2に対する第二アーム部3の角度についても支軸4を中心とした角度表示器5によって測定できる。
【0024】
以上、本発明の実施の形態による角度計1について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更可能である。
例えば、角度器10において、指針として球体9に代えて表示ケース7及び角度表示部8の回転中心に軸部を設けて、この軸部から重力方向に垂下させた指示針を設けてもよい。特に指示針の重量を比較的大きくすれば、より精度よく重力方向に垂下させて指示することになる。
この場合には、表示ケース7は必ずしも設けなくてもよい。
また、上述の実施形態では、角度器10を第二アーム部3の自由端部に設けたが、これに代えて第一アーム部2の自由端部に設けてもよいことはいうまでもない。また、第一アーム部2及び第二アーム部3の自由端部にそれぞれ角度器10を設けてもよい。
なお、指針としての球体9や指示針は透明体に形成してもよく、この場合には角度指示部8の目盛りをより精度良く目視確認できる。
【0025】
また、本実施形態では、角度計10について身体における体幹や上肢、下肢等との間の関節回りにおける相互の回転角度を測定するものとしたが、本発明は、このようなリハビリテーション用や医療検査用等における身体の角度測定用の角度計に限定されるものではなく、鉛直方向または重力方向における他の適宜の相互の部材間の角度測定にも用いることができる。
なお、上述した本発明による角度計1は角度器10が鉛直面内または鉛直方向を含む傾斜面内に保持され、指針が重力方向を指示する状態で各種の部材間等の角度の測定に用いることができる。角度器10を完全な水平面内に保持した場合には指針が重力方向を指示しないので、角度測定にはそぐわないことがある。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明による角度計は、支軸で支持する第一アーム部と第二アーム部の挟角を測定すると共に、両アーム部を一直線状に延ばして第一アーム部または第二アーム部の自由端部に角度目盛りが付された角度表示部を回転可能に設けて、小型且つ低廉であっても、重力方向を示す指針との関係で精度の良い角度測定ができるようにしたものである。この角度計はリハビリテーション用や医療検査用等における身体の角度測定用だけなく、任意の分野における鉛直方向または重力方向における適宜の相互の部材間の角度測定にも用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 角度計
2 第一アーム部
3 第二アーム部
4 支軸
5 角度表示器
7 表示ケース
8 角度表示部
9 球体
10 角度器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一アーム部と第二アーム部が支軸を中心に相対回転可能に支持され、前記第一アーム部または第二アーム部の自由端部に周方向に角度目盛りが付された角度表示部が回転可能に設けられ、該角度表示部には重力方向を示す指針が設けられたことを特徴とする角度計。
【請求項2】
前記角度表示部と指針を収容する表示ケースが設けられ、該表示ケースは前記角度表示部と一体に回転可能とした請求項1に記載された角度計。
【請求項3】
前記指針は表示ケース内に収納された球体である請求項2に記載された角度計。
【請求項4】
前記指針は針である請求項1または2に記載された角度計。
【請求項5】
前記支軸には前記第一アーム部と第二アーム部の相対角度を示す角度表示器が設けられている請求項1乃至4のいずれか1項に記載された角度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−98127(P2012−98127A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245518(P2010−245518)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【特許番号】特許第4714799号(P4714799)
【特許公報発行日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000182373)酒井医療株式会社 (46)
【出願人】(510290418)
【出願人】(305062790)
【出願人】(510290430)
【Fターム(参考)】