説明

ころ軸受装置

【課題】組立の際に保持器をかしめる必要がなく、かつ、外輪を外した場合において、保持器およびころが、内輪から離脱することがなく、かつ、保持器の挙動を安定させることができて、ころのスキューを抑制できるころ軸受装置を提供すること。
【解決手段】円錐ころ4の転動面である外周円錐面の大径側に位置する保持器3の大径環状部22の円筒内周面27と、内輪2の外周円錐軌道面12の大径側に位置する鍔部14の円筒状の外周面15との間に、玉軸受6を配置する。上記円筒内周面27に玉軸受6の外輪31を締まり嵌めすると共に、上記円筒状の外周面15に玉軸受6の内輪32を締まり嵌めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外輪、内輪およびころを備えるころ軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ころ軸受装置としては、特開2001−50281号公報(特許文献1)に記載された円錐ころ軸受がある。
【0003】
この円錐ころ軸受は、外輪、内輪、複数の円錐ころおよび保持器を備え、上記内輪は、その内輪の円錐軌道面の大径側に大鍔を有し、その内輪の円錐軌道面の小径側に小鍔を有している。
【0004】
上記保持器は、小径環状部と、この小径環状部よりの大径の大径環状部と、小径環状部と大径環状部とを連結する複数の柱部とからなる。上記小径環状部は、径方向の内方に屈曲し、小径環状部の端部は、略径方向に延在している。上記各柱部の内面は、略内周円錐面の一部からなっている。上記複数の柱部は、小径環状部の周方向に互いに間隔をおいて配置されている。上記周方向に隣接する二つの柱部の周方向の間は、円錐ころを収容するポケットになっている。
【0005】
上記複数の円錐ころは、外輪の円錐軌道面と、内輪の円錐軌道面との間に、保持器によって保持された状態で、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0006】
従来、上記円錐ころ軸受は、次のように組み立てられている。
【0007】
先ず、上記ポケットに円錐ころを収容する。このとき、円錐ころの外周円錐面の軸方向の大径側の端面は、上記ポケットの上記大径環状部側に位置する。
【0008】
次に、かしめによって、上記柱部の上記内面が、内輪の組み付け時において円錐ころと内輪の小鍔とが接触しない程度、保持器の使用時における位置よりも所定距離径方向の外方に位置している状態で、内輪を、上記保持器の径方向に内方に、上記保持器の大径環状部側かつ内輪の軸方向の小鍔側から保持器の軸方向に挿入する。
【0009】
その後、治具で、保持器をかしめて、保持器の柱部の上記内面を、保持器の使用時における所定の箇所に位置させて、内輪、複数の円錐ころおよび保持器からなる保持器アッセンブリを形成する。
【0010】
最後に、上記保持器アッセンブリに外輪を組み付けて、円錐ころ軸受の組立を完了する。
【0011】
従来の円錐ころ軸受では、円錐ころ軸受を組み立てるのに保持器を二度にわたってかしめなければならないから、円錐ころ軸受の組立に要する工数が多くなる。
【0012】
また、従来の円錐ころ軸受では、円錐ころ軸受の定期点検時において、外輪を保持器アッセンブリから取り外した際、保持器が内輪から脱落して、円錐ころが、ばらけることがある。
【0013】
また、従来の円錐ころ軸受において、保持器の挙動を安定させて、転動体のスキューを抑制したいという要請がある。
【特許文献1】特開2001−50281号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明の課題は、組立の際に保持器をかしめる必要がなく、かつ、外輪を外した場合において、保持器およびころが、内輪から離脱することがなく、かつ、保持器の挙動を安定させることができて、ころのスキューを抑制できるころ軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、この発明のころ軸受装置は、
軌道面およびその軌道面の軸方向の一方の側のみに鍔部を有する内輪と、
軌道面を有する外輪と、
上記内輪の上記軌道面と、上記外輪の上記軌道面との間に配置された複数のころと、
上記複数のころを保持していると共に、上記軸方向において上記内輪の上記軌道面の片側に環状部を有する保持器と、
上記保持器の上記環状部の内周面と、上記内輪の外周面の部分との間に配置された転がり軸受と
を備えることを特徴としている。
【0016】
本発明によれば、内輪の軌道面の軸方向の一方の側のみに鍔部が存在し、内輪の軌道面の軸方向の他方の側に鍔部が存在しないから、ころ軸受装置の組立の際に、保持器をかしめなくても、内輪を、保持器およびころが一体となった保持器アッセンブリに、内輪において鍔部が存在しない方から軸方向に挿入することができる。したがって、ころ軸受装置を、保持器を一切かしめることなく、従来よりも格段に容易に組み立てできる。
【0017】
また、本発明によれば、上記転がり軸受の外輪を、上記環状部の内周面に締まり嵌めにより内嵌して固定すると共に、上記転がり軸受の内輪を、上記内輪の上記外周面に締まり嵌めにより外嵌して固定することにより、上記保持器を上記内輪に対して相対移動不可にすることができて、上記保持器を上記内輪に対して位置決めできる。したがって、例えば、円錐ころ軸受装置の外輪1組み付け時において、ころおよび保持器が、内輪から離脱することがなくて、ばらけることがなく、外輪の組み付けを容易に行うことができる。また、例えば、定期点検時において、ころ軸受装置から外輪を取り外した際において、保持器およびころが内輪から離脱してばらけることがなく、定期点検を容易に行うことができる。
【0018】
また、本発明によれば、保持器が、転がり軸受により案内される構成であるから、保持器の挙動を安定させることができて、転動体のスキューを抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のころ軸受装置によれば、内輪の軌道面の軸方向の一方の側のみに鍔部が存在し、内輪の軌道面の軸方向の他方の側に鍔部が存在しないから、保持器をかしめなくても、内輪を、保持器およびころが一体となった保持器アッセンブリに、内輪において鍔部が存在しない方から軸方向に挿入することができ、ころ軸受装置を、従来よりも格段に容易に組み立てできる。
【0020】
また、本発明のころ軸受装置によれば、上記転がり軸受の外輪を、上記環状部の内周面に締まり嵌めにより内嵌して固定すると共に、上記転がり軸受の内輪を、上記内輪の上記外周面に締まり嵌めにより外嵌して固定することにより、上記保持器を上記内輪に対して相対移動不可にすることができて、上記保持器を上記内輪に対して位置決めできる。したがって、外輪の組み付け時や、定期点検時に、ころおよび保持器が、内輪から離脱することがなく、外輪の組み付け時や、定期点検を容易に行うことができる。
【0021】
また、本発明のころ軸受装置によれば、保持器が、転がり軸受により案内される構成であるから、保持器の挙動を安定させることができて、転動体のスキューを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明のころ軸受装置の一実施形態の円錐ころ軸受装置の軸方向の模式断面図である。
【0024】
この円錐ころ軸受装置は、外輪1、内輪2、保持器3、複数の円錐ころ4、および、転がり軸受の一例としての玉軸受6を備える。
【0025】
上記外輪1は、軌道面としての内周円錐軌道面11を有する。
【0026】
一方、上記内輪2は、軌道面としての外周円錐軌道面12を有する。上記内輪2は、軸方向の一方の側である外周円錐軌道面12の大径側のみに鍔部14を有する。上記鍔部14の外周面15は、円筒状の形状を有している。
【0027】
上記保持器3は、小径環状部21、大径環状部22、および、複数の柱部(図示せず)を有する。上記小径環状部21の内径の最大は、大径環状部22の内径の最小よりも小さくなっている。上記小径環状部21は、軸方向の外方にいくにしたがって、内輪2の外周円錐軌道面12に略平行な方向から略径方向の内方に屈曲し、小径環状部21の軸方向の外方の端部は、略径方向に延在している。
【0028】
一方、上記大径環状部22は、軸方向の外方に行くにしたがって、内輪2の外周円錐軌道面12に略平行な方向から略軸方向に屈曲し、大径環状部22の軸方向の外方の端部は、略軸方向に延在している。図1に示すように、上記大径環状部22の上記端部は、略円筒状の形状を有し、その端部は、円筒外周面および円筒内周面27を有している。
【0029】
上記各柱部は、小径環状部21の軸方向の大径環状部22側の端面と、大径環状部22の軸方向の小径環状部21側の端面とを連結している。上記各柱部は、軸方向の断面において、略直線状に延在している。上記複数の柱部は、小径環状部21の周方向に略等間隔に互いに間隔をおいて配置されている。
【0030】
上記各円錐ころ4は、上記周方向に隣接する二つの柱部、小径環状部21、および、大径環状部22に囲まれた領域であるポケット24に収容されている。上記小径環状部21は、円錐ころ4の転動面である外周円錐面の小径側に位置する一方、大径環状部22は、円錐ころ4の転動面である外周円錐面の大径側に位置している。上記複数の円錐ころ4は、外輪1の内周円錐軌道面11と、内輪2の外周円錐軌道面12との間に、保持器3によって保持された状態で、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0031】
上記玉軸受6は、内輪2の鍔部14の円筒状の外周面15と、大径環状部22の上記端部の円筒内周面27との間に配置されている。上記玉軸受6は、外輪31、内輪32および複数の玉33を有する。上記外輪31は、大径環状部22の上記円筒内周面27に圧入により内嵌されて締まり嵌めされている。上記内輪32は、鍔部14の円筒状の外周面15に圧入により外嵌されて締まり嵌めされている。また、上記複数の玉33は、外輪31の軌道溝と、内輪32の軌道溝との間に、保持器(図示せず)によって保持された状態で、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0032】
例えば、上記円錐ころ軸受装置を、次のように組み立てる。
【0033】
先ず、保持器3のポケット24に円錐ころ4を配置する。次に、保持器3の大径環状部22の内周円筒面27に、予め組み立てられた玉軸受6を圧入により内嵌して締まり嵌めする。
【0034】
次に、内輪2を、保持器3の大径環状部22側かつ内輪2の外周円錐軌道面12の小径側から軸方向に圧入して、円錐ころ4、保持器3および玉軸受6に組み付ける。
【0035】
最後に、外輪1を、保持器3の小径環状部21側かつ外輪1の内周円錐軌道面11の大径側から軸方向に挿入して、外輪1を、円錐ころ4および保持器3に組み付けて、円錐ころ軸受装置の組み立てを完了する。
【0036】
また、例えば、上記円錐ころ軸受装置を、次のように組み立てることもできる。
【0037】
先ず、保持器3のポケット24に円錐ころ4を配置する。次に、内輪2を、保持器3の大径環状部22側かつ内輪2の外周円錐軌道面12の小径側から軸方向に挿入して、円錐ころおよび保持器3に組み付ける。
【0038】
次に、予め組み立てられた玉軸受6を、保持器3の大径環状部22の内周円筒面27と、内輪2の鍔部14の円筒状の外周面15との間に、軸方向の外方から軸方向の内方に所定の位置まで圧入して、玉軸受6を、保持器3と内輪2との間に組み付ける。
【0039】
最後に、外輪1を、保持器3の小径環状部21側かつ外輪1の内周円錐軌道面11の大径側から軸方向に挿入して、外輪1を、円錐ころ4および保持器3に組み付けて、円錐ころ軸受装置の組み立てを完了する。
【0040】
上記実施形態の円錐ころ軸受装置によれば、内輪2の外周円錐軌道面12の軸方向の大径側のみに鍔部14が存在し、内輪2の外周円錐軌道面12の軸方向の他方の側に鍔部が存在しないから、円錐ころ軸受装置の組立の際に、保持器3をかしめなくても、内輪2を、保持器3およびころが一体となった保持器アッセンブリにおける保持器3の大径環状部22側、かつ、内輪2において鍔部が存在しない側、すなわち、内輪2の外周円錐軌道面12の小径側から、軸方向に挿入することができる。したがって、ころ軸受装置を、保持器を一切かしめることなく、従来よりも格段に容易に組み立てできる。
【0041】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受装置によれば、保持器3の大径環状部22の内周円筒面27と、内輪3の鍔部14の円筒状の外周面15との間に、玉軸受6が締め代を持った状態で固定されているから、保持器3が、内輪2に対して殆ど相対移動することがない。したがって、例えば、円錐ころ軸受装置の外輪1組み付け時において、円錐ころ4および保持器3が、内輪2から脱落することがなくて、ばらけることがなく、外輪1の組み付けを容易に行うことができる。また、定期点検時において、円錐ころ受装置から外輪1を取り外した際において、保持器3および円錐ころ4が内輪2から脱落することがなくて、ばらけることがなく、定期点検を容易かつ効率的に行うことができる。
【0042】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受装置によれば、保持器3が、玉軸受6により案内される構成であるから、保持器3の挙動を安定させることができて、円錐ころ4のスキューを抑制できる。
【0043】
尚、上記実施形態の円錐ころ軸受装置では、保持器3の大径環状部22の内周円筒面27と、内輪2の鍔部14の円筒状の外周面15との間に、保持器を有する玉軸受6を配置した。ここで、玉軸受6で使用できる保持器としては、二つの環状部材の間を複数の柱部で連結してなる保持器や、所謂冠型保持器がある。
【0044】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受装置では、保持器3の大径環状部22の内周円筒面27と、内輪2の鍔部14の円筒状の外周面15との間に保持器を有する玉軸受6を配置したが、この発明では、保持器の大径環状部の内周円筒面と、内輪の鍔部の円筒状の外周面との間に、保持器を有さない総玉軸受を配置しても良い。また、この発明では、保持器の大径環状部の内周円筒面と、内輪の鍔部の円筒状の外周面との間に、深溝型の軌道溝を有する玉軸受を配置しても、アンギュラ型の軌道溝を有する玉軸受を配置しても良い。
【0045】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受装置では、保持器3と、内輪2との間に玉軸受6を配置したが、この発明では、保持器と、内輪との間に、ころ軸受、ニードル軸受等、玉軸受以外の如何なる転がり軸受を配置しても良い。尚、保持器と、内輪との間に、玉軸受や、自動調心ころ軸受等の非分離型転がり軸受を配置すると、保持器と内輪との間に配置した転がり軸受の分離を心配しなくて良くて好ましい。
【0046】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受装置では、保持器3において、外輪1の円錐軌道面11の大径側に位置する保持器3の大径環状部22と、内輪2の鍔部14の外周面15との間に、転がり軸受を配置した。しかしながら、この発明では、鍔部が存在しない側、すなわち、内輪の円錐軌道面の小径側に、円筒外周面を形成して、保持器において、軸方向において内輪の円錐軌道面の小径側に位置する保持器の小径環状部の径方向の内方の端面と、内輪の円錐軌道面の小径側に位置する内輪の上記円筒外周面との間に、転がり軸受を配置しても良い。
【0047】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受では、玉軸受6の内輪32の軸方向の両側の端面が、他の部材と当接していなかった。しかしながら、この発明では、転がり軸受が配置される内輪の外周面の部分(以下、第1部分という)の外径を、その外周面の部分の軸方向のころ側に位置する外周面の部分(以下、第2部分という)の外径よりも小さくして、転がり軸受の内輪を、第1部分と第2部分とを接続する軸方向の端面に当接させるようにしても良い。このようにすると、転がり軸受の軸方向の位置決めをすることができて、好ましい。
【0048】
また、上記実施形態では、転動体が、円錐ころ4であったが、この発明では、転動体は、円筒ころや、球面ころ(凸面ころ)等の円錐ころ以外のころであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のころ軸受装置の一実施形態の円錐ころ軸受装置の軸方向の模式断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 外輪
2 内輪
3 保持器
4 円錐ころ
6 玉軸受
11 内周円錐軌道面
12 外周円錐軌道面
14 鍔部
15 鍔部の円筒状の外周面
22 大径環状部
27 大径環状部の円筒内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道面およびその軌道面の軸方向の一方の側のみに鍔部を有する内輪と、
軌道面を有する外輪と、
上記内輪の上記軌道面と、上記外輪の上記軌道面との間に配置された複数のころと、
上記複数のころを保持していると共に、上記軸方向において上記内輪の上記軌道面の片側に環状部を有する保持器と、
上記保持器の上記環状部の内周面と、上記内輪の外周面の部分との間に配置された転がり軸受と
を備えることを特徴とするころ軸受装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−191894(P2009−191894A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31601(P2008−31601)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】