ばね部材、ばね部材の製作方法、及びサーボ型センサ
【課題】 所望する厚みの薄肉ヒンジ部を有する薄板状のばね部材を、高精度、低コストで効率良く製作することができるばね部材、そのばね部材の製作方法、及びそのばね部材を有するサーボ型センサを提供することを目的とする。
【解決手段】 固定子に取り付けられる固定部2と、可動子に取り付けられる可動部3と、固定部2と可動部3との間に配設された薄肉ヒンジ部4と、を備え、薄肉ヒンジ部4が弾性変形して可動部3がその板厚方向に揺動運動する薄板状のばね部材1において、固定部2、可動部3及び薄肉ヒンジ部4が、液晶ポリマーによって一体に成形され、薄肉ヒンジ部4は、薄肉ヒンジ部4のヒンジ軸線L方向及び板厚方向にそれぞれ直交する方向に分子配向されている。
【解決手段】 固定子に取り付けられる固定部2と、可動子に取り付けられる可動部3と、固定部2と可動部3との間に配設された薄肉ヒンジ部4と、を備え、薄肉ヒンジ部4が弾性変形して可動部3がその板厚方向に揺動運動する薄板状のばね部材1において、固定部2、可動部3及び薄肉ヒンジ部4が、液晶ポリマーによって一体に成形され、薄肉ヒンジ部4は、薄肉ヒンジ部4のヒンジ軸線L方向及び板厚方向にそれぞれ直交する方向に分子配向されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボ型加速度計やサーボ型傾斜計等のサーボ型センサに組み込まれるばね部材、及び該ばね部材の製作方法、並びに上記ばね部材を有するサーボ型センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密部品の1つであるサーボ型加速度計には、加速度が作用すると揺動する振子が組み込まれている。この振子は、所定の厚さの薄板状のばね部材であり、部分的に厚みがさらに薄く形成された薄肉ヒンジ部を中心に揺動するようになっている。特に、この薄肉ヒンジ部は、微小な加速度でも振子が揺動するように厚み精度が求められている。つまり、振子として機能させるためには、部分的に厚みを変化させながらばね部材を高精度に厚み制御しながら加工することが必要とされている。
【0003】
ここで、この種のばね部材40の厚みを部分的に薄くして図8に示す薄肉ヒンジ部41を加工する方法としては、一般的にプレスを利用する方法や、切削による方法等が知られている。
このうちプレスを利用する方法は、図9に示すように、ばね部材40の両側から、該ばね部材40をプレス工具42で機械的に挟んで部分的に厚みを薄くする方法である。一方、切削による方法は、図10に示すように、ばね部材40の片側を加工工具43で切削加工した後、ばね部材40を裏返し、その後、再度加工工具43で残りの片側を切削加工する方法である。また、上述した機械的加工とは異なり、腐食作用を利用したエッチングによりばね部材40を加工する方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−142247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の方法では、まだ以下の課題が残されている。
即ち、プレスを利用する方法では、容易に薄肉ヒンジ部41を形成することができるが、プレスするタイミングや、プレス時間や、プレスする際の圧力等によって厚みが容易に変わってしまい、薄肉ヒンジ部41の厚みを高精度に制御することが難しいものであった。よって、許容できる厚み公差内に収めることが困難であり、薄肉ヒンジ部41を必要な厚み精度で安定して形成することができなかった。特に、厚み公差のレンジが1μm程度の薄肉ヒンジ部41を形成することは、困難であった。
【0005】
そのため、このばね部材40を振子として利用したとしても、安定した揺動を期待できるものではなかった。また、プレスした際の加工硬化によりばね部材40が本来持っている材料特性が変化してしまう恐れがあった。加えて、薄肉ヒンジ部41をばね部材40の厚みの中心に精度良く形成することが困難であった。これらのことも、安定した揺動を妨げる要因となるものであった。
【0006】
また、切削による方法では、図11に示すように、片側を切削加工した後、残りの片側を切削加工しようとすると、最初の切削によってばね部材40の厚みが既に薄くなっているので、加工工具43を押し付けた際に反ってしまう恐れがある。そのため、通常はこの反りを防ぐため、図12に示すように最初に切削した孔に嵌合する治具44を用意して、ばね部材40の姿勢を安定化させる必要がある。ところが、治具44を毎回セットする必要があるので、加工の効率が悪く、コスト高を招くものであった。
また、プレスする場合と同様に、薄肉ヒンジ部41の厚みを高精度に制御することが難しく、薄肉ヒンジ部41を必要な精度で安定して形成することができなかった。そのため、ばね部材40を振子として利用したとしても、安定した揺動を期待できるものではなかった。
また、切削時に発生する熱の影響や摩擦等の影響により、ばね部材40が本来持っている材料特性が変化してしまうおそれがあった。加えて、薄肉ヒンジ部41をばね部材40の厚みの中心に精度良く形成することが困難であった。これらのことも、安定した揺動を妨げる要因となるものであった。
【0007】
上述したように、プレス及び切削による機械的加工では、薄肉ヒンジ部41を必要な精度で安定して形成することができず、しかも、ばね部材40の特性が変化するおそれがあった。また、低コストで効率良く加工することができなかった。また、ばね部材40を振子として利用したとしても、揺動の安定性に欠けるものであった。
【0008】
一方、エッチングにより加工を行う方法では、上述した機械的加工特有のばね部材40の特性変化に関しては生じないが、やはり、薄肉ヒンジ部41の厚みを高精度に制御することが困難であった。加えて、薄肉ヒンジ部41をばね部材40の厚みの中心に精度良く形成することも困難であった。また、加工形状が制限されるとともに、加工時間がかかるという問題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、所望する厚みの薄肉ヒンジ部を有する薄板状のばね部材を、高精度、低コストで効率良く製作することができるばね部材、そのばね部材の製作方法、及びそのばね部材を有するサーボ型センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るばね部材は、固定子に取り付けられる固定部と、可動子に取り付けられる可動部と、前記固定部と前記可動部との間に配設された薄肉ヒンジ部と、を備え、該薄肉ヒンジ部が弾性変形して前記可動部がその板厚方向に揺動運動する薄板状のばね部材において、前記固定部、前記可動部及び前記薄肉ヒンジ部が、液晶ポリマーによって一体に成形され、前記薄肉ヒンジ部は、該薄肉ヒンジ部のヒンジ軸線方向及び板厚方向にそれぞれ直交する方向に分子配向されていることを特徴としている。
【0011】
このような特徴により、本発明に係るばね部材を製作する際、まず、ばね部材を成形するための金型を用意する。そして、その金型の中に、溶融した液晶ポリマーを流し入れる。そして、その液晶ポリマーが固化した後、金型を脱型することで、薄板状のばね部材が製作される。上記した液晶ポリマーは流動性に優れており、薄い部分にも容易に充填されるため、金属製のものや他の樹脂製のものと比べて薄いばね部材を製作することが可能である。具体的には、固定部及び可動部の厚さを250〜300μm程度、薄肉ヒンジ部の最薄部分の厚さを15〜20μm程度にすることが可能である。また、液晶ポリマーは、分子配向方向によって弾性率(強度)に異方性が生じるが、薄肉ヒンジ部は、その板厚方向及びヒンジ軸線方向にそれぞれ直交する方向(ヒンジ軸線直交方向)に分子配向されているため、ヒンジ軸線方向の弾性率は小さく強度が弱くなるが、上記ヒンジ軸線直交方向の弾性率は大きく強度が強くなる。したがって、薄く成形された薄肉ヒンジ部は、可動部をその板厚方向に揺動運動させるのに十分な弾性率(強度)を有するとともに、座屈が生じ難くなる。また、液晶ポリマーは、金属等の他の材料に比べて曲げ剛性が低いため、所定の曲げ剛性を持つ薄肉ヒンジ部の厚みを厚く設定することが可能である。これにより、製造ばらつき(厚み公差)の影響を受けにくく、より製造し易くなる。
【0012】
また、本発明に係るばね部材は、前記薄肉ヒンジ部が前記ヒンジ軸線方向に間隔をあけて複数配設されていることが好ましい。
これにより、薄肉ヒンジ部における分子配向を上記ヒンジ軸線直交方向に揃い易くなる。すなわち、液晶ポリマーは、その流れ方向に沿って分子配向されるため、仮に、薄肉ヒンジ部が幅広であると、液晶ポリマーは一定の方向に流れずに放射状に広がるように流れ、分子配向の方向が不均等になりやすい。これに対し、上記のように、薄肉ヒンジ部がヒンジ軸線方向に間隔をあけて複数配設されていると、その分、薄肉ヒンジ部の幅が狭くなるため、液晶ポリマーは一定の方向に流れ易くなり、分子配向の方向が一定の方向に揃えられる。したがって、分子配向の方向が上記ヒンジ軸線直交方向に揃えられる。
【0013】
また、本発明に係るばね部材は、前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向に延在する仮想中心線を対称軸にして線対称形状に成形されていることが好ましい。
これにより、上記仮想中心線上の位置から液晶ポリマーを流し入れると、液晶ポリマーが均一に流れ易くなり、高品質のばね部材が製作される。
【0014】
また、本発明に係るばね部材は、前記固定部から前記薄肉ヒンジ部を経て前記可動部に至る導通パターンが表面に形成されていることが好ましい。
これにより、フィードバック制御するための制御装置と可動子とを電気的に接続する際、リード線の振れを抑制することができる。すなわち、仮に、可動子にリード線を直接接続すると、可動子が動くことでリード線が振れることになり、断線や可動部の変位阻害、これに伴う個体差の発生等の原因となる。これに対し、上記のように、固定部から薄肉ヒンジ部を経て可動部に至る導通パターンが表面に形成されていると、可動部上の導通パターンと可動子とをリード線で接続するとともに、固定部上の導通パターンと制御装置とをリード線で接続することで、制御装置と可動子とが電気的に接続される。これにより、可動子に接続するリード線の振れはなくなり、また、制御装置に接続するリード線も振れはなくなる、もしくは極めて小さくなる。なお、液晶ポリマーは、耐熱性に優れているため、導通パターンを形成するのに適している。
【0015】
また、本発明に係るばね部材は、前記液晶ポリマーに、チタン酸カリウムウイスカーからなる強化材が含有されていることが好ましい。
これにより、ばね部材の強度は向上し、薄く成形された薄肉ヒンジ部が破断しにくくなるとともにヒンジ部の減衰率が大きくなる。
【0016】
また、本発明に係るばね部材の製作方法は、上記した本発明に係るばね部材を成形するための金型内に液晶ポリマーを流し入れて成形するばね部材の製作方法であって、前記金型のうち前記固定部又は前記可動部の側面を成形する部分にサイドゲートを設け、該サイドゲートから前記金型内に前記液晶ポリマーを流入させることを特徴としている。
【0017】
これにより、サイドゲートから流し込まれた液晶ポリマーは、金型内を流通して薄肉ヒンジ部を成形する部分に充填される。例えば、サイドゲートが固定部側に設けられている場合、薄肉ヒンジ部を成形する部分には、固定部側から可動部側に向けて液晶ポリマーが流れ込んで充填される。一方、サイドゲートが可動部側に設けられている場合、薄肉ヒンジ部を成形する部分には、可動部側から固定部側に向けて液晶ポリマーが流れ込んで充填される。上記した何れの場合も、薄肉ヒンジ部の液晶ポリマーは、上記ヒンジ軸線直交方向に分子配向される。
【0018】
また、本発明に係るばね部材の製作方法は、前記薄肉ヒンジ部が前記ヒンジ軸線方向に間隔をあけて複数配設されたばね部材を製作する際、隣り合う前記薄肉ヒンジ部間の中央位置を通るとともに前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向と平行に延在する仮想中心線上に、前記サイドゲードを配設させることが好ましい。
これにより、サイドゲートから流し込まれた液晶ポリマーは、隣り合う薄肉ヒンジ部を成形する部分にそれぞれ均等に流れ込む。
【0019】
また、本発明に係るばね部材の製作方法は、前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向に沿って延在する該薄肉ヒンジ部の中心線の延長線上に、前記サイドゲート部を配設させてもよい。
これにより、サイドゲートから固定部を成形する部分、薄肉ヒンジ部を成形する部分、可動部を成形する部分の順で流れる液晶ポリマーの流路が、ヒンジ軸線直交方向に真直ぐ延在する。
【0020】
また、本発明に係るばね部材の製作方法は、前記液晶ポリマーを前記金型内に流し入れた後、該金型を脱型する際、前記固定部及び前記可動部にそれぞれエジェクターピンを当接させることが好ましい。
仮に、固定部及び可動部のうちの何れか一方だけをエジェクターピンで押し出すようにすると、薄く成形された薄肉ヒンジ部が破断するおそれがある。また、薄肉ヒンジ部にエジェクターピンを当接させると、エジェクターピンによる押圧力で薄肉ヒンジ部が変形し、薄肉ヒンジ部の成形精度が悪くなり、ばね部材のばね性能が確保するのが難しくなる。これに対し、上記したように、ばね部材を金型内から外す際、エジェクターピンによって固定部及び可動部をそれぞれ押し出すようにすると、薄肉ヒンジ部が破断したり変形したりすることなく、ばね部材が金型内から容易に外される。
【0021】
また、本発明に係るサーボ型センサは、上記した本発明に係るばね部材を振子として利用することを特徴としている。
これにより、十分な弾性率(強度)を有し、座屈が生じ難いばね部材を振子として用いるので、加速度等の物理量が感度良く、しかも高精度に検出される。また、上記したばね部材は、従来のものと比べて薄く軽い部材なので、サーボ型センサが小型化及び軽量化される。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るばね部材及びばね部材の製作方法によれば、所望する厚みの薄肉ヒンジ部を有する薄板状のばね部材を、高精度、低コストで効率良く製作することができる。
また、本発明に係るサーボ型センサによれば、高感度及び高精度の検出を実現することができるとともに、小型化及び軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係るばね部材、ばね部材の製作方法、及びサーボ型センサの実施の形態について、図面に基いて説明する。
図1はばね部材1を表す平面図であり、図2は図1に示すA−A間の断面図であり、図3はばね部材1を成形するための金型6を表す平断面図であり、図4はばね部材1を用いたサーボ型センサ20を表す平面図であり、図5は図4に示すB−B間の断面図であり、図6は図4に示すC−C間の断面図である。
なお、本実施の形態では、後述する薄肉ヒンジ部4のヒンジ軸線L方向、つまり図1における横方向をX方向とし、薄肉ヒンジ部4のヒンジ軸線L方向及び板厚方向にそれぞれ直交する方向、つまり図1における縦方向をY方向とし、ばね部材1の板厚方向、つまり図2における縦方向をZ方向とする。
【0024】
[ばね部材]
図1、図2に示すように、ばね部材1は、固定部2と可動部3と薄肉ヒンジ部4とを備える薄板状の部材であり、薄肉ヒンジ部4が弾性変形して可動部3がその板厚方向(Z方向)に揺動運動するものである。このばね部材1は、固定部2と可動部3と薄肉ヒンジ部4とが液晶ポリマーによって一体に成形されてなるものであり、Y方向に延在する仮想中心線Pを対称軸にして線対称形状に成形されている。なお、仮想中心線Pは、後述する隣り合う薄肉ヒンジ部4,4間の中央位置を通るとともに後述する薄肉ヒンジ部4の分子配向方向と平行(Y方向)に延在する線である。上記液晶ポリマーは、成形材料となるサーモトロピック型のものであり、上記液晶ポリマーとしては、例えば全芳香族ポリエステルのII型を用いることが可能である。このような液晶ポリマーかなる成形品は、金属等の他の材料からなるものに比べて曲げ剛性が低いため、上記薄肉ヒンジ部4は、その曲げ剛性が相当低くなっているのにもかかわらず、その厚みは比較的厚く設定される。また、この液晶ポリマーには、チタン酸カリウムウイスカーからなる強化材が含有されていることが好ましい。具体的に説明すると、平均繊維径が0.3〜0.6μm、平均繊維長が10〜20μmのチタン酸カリウムウイスカーを5〜30重量%程度含有させることが望ましい。これにより、薄肉ヒンジ部4の厚みが薄くても均一に充填できる。因みに強化繊維として最も一般的に用いられるガラス繊維の径の平均は9〜13μmであるからこのような薄肉部の成形は困難である。
【0025】
固定部2は、固定子(後述する第1フレーム21)に取り付けられる部位であり、平面視略長方形状の薄板状(厚さ250〜300μm程度)のものである。この固定部2の長手方向(X方向)の両端部には、ネジ止めするための円形の孔2aがそれぞれ形成されている。また、固定部2の長手方向(X方向)の中央部分には、ゲート跡2bが形成されている。このゲート跡2bは、ばね部材1を成形する際に液晶ポリマーを流し入れた跡である。ゲート跡2bは、固定部2の一方側(図1における下側)の側面に形成されており、上記した仮想中心線P上に配設されている。
【0026】
可動部3は、可動子(後述するトルカフレーム26)に取り付けられる部位であり、固定部2の他方側(図1における上側)の位置に配設されている。可動部3は、一方側が平面視矩形状を成すとともに他方側が円弧形状を成した薄板状(厚さ250〜300μm程度)のものであり、その略中央部分には、トルカフレーム26を挿通させるための円形の孔3aが形成されている。
【0027】
薄肉ヒンジ部4は、固定部2と可動部3とを繋ぐ部位であり、固定部2と可動部3とを間に配設されている。薄肉ヒンジ部4は、Y方向断面視において、その中央部分の両面に円弧状の凹部4aがそれぞれ形成されている。この凹部4aは、X方向に延在して両端が開放されたU溝状のものであり、凹部4aの中央部分(最薄部分)の厚さは15〜20μm程度になっている。この薄肉ヒンジ部4は、Y方向に分子配向されている。つまり、薄肉ヒンジ部4においては、液晶ポリマーの分子の直鎖がY方向に延在した構成になっている。また、上記した構成の薄肉ヒンジ部4は、X方向に間隔をあけて複数(図1では2つ)設けられており、隣り合う一対の薄肉ヒンジ部4,4の間には略矩形の開口Kが形成されている。これら一対の薄肉ヒンジ部4,4は、仮想中心線Pを挟んで対称に配設されている。
【0028】
また、ばね部材1の表面(両面)には、電流を流通させる金属製の導通パターン5が形成されている。導通パターン5は、固定部2から薄肉ヒンジ部4を経て可動部3に至るものであり、固定部2上に形成された固定部側端子5aと、可動部3上に形成された可動部側端子5bと、固定部側端子5aと可動部側端子5bとを結ぶ連結部5cと、から構成されている。固定部側端子5aは、固定部2の長手方向(X方向)の略中央部分に配設されており、導通パターン5bは、可動部3の隅部に配設されている。また、導通パターン5は、各面(両面)にそれぞれ2つ形成されており、これら2つの導通パターン5,5は、仮想中心線Pを挟んで対称に配設されている。
【0029】
[ばね部材の製作方法]
次に、上記した構成からなるばね部材1を製作する方法について説明する。
まず、図3に示すように、ばね部材1を成形するための金型6を用意する。この金型6は、図1に示す固定部2と可動部3と薄肉ヒンジ部4とを一体成形するための金型であり、金型6内に成形材料(液晶ポリマー)を流し入れるためのサイドゲート8と、成形されたばね部材1を金型6から外すための複数のエジェクターピン7を挿通させるためのエジェクター用孔9と、が備えられている。サイドゲート8は、ばね部材1の固定部2の長手方向(X方向)の側面を成形するための部分6aに設けられており、ばね部材1の仮想中心線P上に配設されている。また、エジェクター用孔9は、金型6のうち、固定部2を成形する部分(固定部成形部6b)及び可動部3を成形する部分(可動部成形部6d)にそれぞれ均等に配設されている。具体的に説明すると、固定部2において、エジェクター用孔9は、固定部2の孔2aを形成する部分6eのX方向の両側にそれぞれ形成されている。また、可動部3において、エジェクター用孔9は、可動部3の一方側(図3における下側)の隅部にそれぞれ形成されているとともに、これら隅部のエジェクター用孔9の中間位置、及び、可動部3の孔3aを成形する部分6fの他方側(図3における上側)の位置にそれぞれ形成されている。なお、上記した隅部のエジェクター用孔9の中間位置に形成されたエジェクター用孔9、及び、可動部3の孔3aを成形する部分6fの他方側の位置に形成されたエジェクター用孔9は、仮想中心線P上にそれぞれ配設されている。
【0030】
次に、上記したサイドゲート8から上記金型6の中に、溶融した液晶ポリマーを流し入れる。サイドゲート8から流し込まれた液晶ポリマーは、図3に示す矢印方向に流通する。すなわち、液晶ポリマーは、金型6のうちの固定部成形部6bに充填されるとともに、金型6のうちの薄肉ヒンジ部4を成形する部分(薄肉ヒンジ部成形部6c)に流れ込み、さらに、薄肉ヒンジ部成形部6cから可動部成形部6dに流れ込んで充填される。このとき、ばね部材1は、仮想中心線Pを対称軸にして線対称形状を成しており、上記仮想中心線P上に配設されたサイドゲート8から液晶ポリマーを流し入れるため、液晶ポリマーが均一に流れ易く、金型6全体に満遍なく充填される。特に、上記液晶ポリマーは流動性に優れており、最薄部分の厚さが15〜20μm程度の薄肉ヒンジ部成形部6cにも満遍なく充填される。また、薄肉ヒンジ部成形部6cにおいては、一方側(固定部2側)から他方側(可動部3側)に向けて液晶ポリマーが流通するため、薄肉ヒンジ部4はY方向に分子配向される。また、薄肉ヒンジ部4は、X方向に間隔をあけて複数配設されているため、薄肉ヒンジ部4の幅は狭く、薄肉ヒンジ部4における分子配向がY方向に揃い易くなる。
【0031】
次に、上記した液晶ポリマーが固化した後、金型6を脱型させる。このとき、上記したエジェクターピン7をエジェクター用孔9から金型6の内側に向けて突出させ、成形されたばね部材1の固定部2及び可動部3にそれぞれ当接させる。そして、これらのエジェクターピン7で押し出すようにばね部材1を金型6から外す。これにより、薄肉ヒンジ部4が破断したり変形したりすることなく、ばね部材1が金型6内から容易に外される。
【0032】
次に、図1、図2に示すように、上記のように成形されたばね部材1の表面に導通パターン5を形成する。この導通パターン5は、ばね部材1の両面にそれぞれ形成する。
以上により、上記した構成からなるばね部材1が完成する。なお、上記したばね部材1の薄肉ヒンジ部4は、曲げ剛性が相当低いにもかかわらず、その厚みが比較的厚く設定されているので、製造ばらつきの影響を受けにくい。
【0033】
上記したばね部材1及びその製作方法によれば、所望する厚みの薄肉ヒンジ部4を有する薄板状のものを、高精度、低コストで効率良く製作することができる。また、薄肉ヒンジ部4はY方向に分子配向されているため、X方向の弾性率は小さく強度が弱くなるが、Y方向の弾性率は大きく強度が強くなる。したがって、可動部3をZ方向に揺動運動させるのに十分な弾性率(強度)を有するとともに、座屈が生じ難くいばね部材1を製作することができ、ばね部材1の安定した揺動運動を実現することができる。
【0034】
また、薄肉ヒンジ部4がX方向に間隔をあけて複数配設されており、薄肉ヒンジ部4における液晶ポリマーの分子配向の方向がY方向に揃えられるため、高品質のばね部材1を提供することができる。
【0035】
また、上記したばね部材1は、仮想中心線Pを対称軸にして線対称形状を成しており、液晶ポリマーが均一に流れ易くなっているため、液晶ポリマーを満遍なく充填することができ、高品質のばね部材1を容易に形成することができる。
【0036】
また、上記したばね部材1の表面には、固定部2から薄肉ヒンジ部4を経て可動部3に至る導通パターン5が形成されているため、図示せぬ制御装置と可動子(第1コイル27)とを電気的に接続する際、後述する図4、図5に示すリード線31の振れを抑制することができる。これにより、リード線31の断線等の不具合を防止することができる。
【0037】
また、ばね部材1の成形材料である液晶ポリマーにチタン酸カリウムウイスカーからなる強化材を含有させると、ばね部材1の強度が向上し、薄く成形された薄肉ヒンジ部4がさらに破断しにくくなる。これにより、より一層安定した揺動運動が可能なばね部材1を提供することができる。そして、このチタン酸カリウムウイスカーの含有量をコントロールすることにより、ばね部材1の剛性、減衰率をコントロールすることが出来る。
【0038】
また、上記したばね部材1の製作方法では、仮想中心線P上に配設されたサイドゲート8から金型6内に液晶ポリマーを流入させており、液晶ポリマーが隣り合う薄肉ヒンジ部成形部6c,6cに均等に流れ込むため、金型6内に満遍なく液晶ポリマーを充填することができ、高品質のばね部材1を提供することができる。
【0039】
さらに、上記したばね部材1の製作方法では、エジェクター用孔9を固定部2及び可動部3にそれぞれ当接させており、薄肉ヒンジ部4が破断したり変形したりすることなく、ばね部材1が金型6内から容易に外されるため、高品質のばね部材1を容易に製作することができる。
【0040】
[サーボ型センサ]
次に、上記したばね部材1を用いたサーボ型センサ20について説明する。
図4から図6に示すように、サーボ型センサ20は、ばね部材1を振子として用いたサーボ型加速度計である。サーボ型センサ20には、第1フレーム21と、第1フレーム21に被せられるケース25と、からなるハウジング30が備えられている。このハウジング30の内部は、密閉されているとともに真空雰囲気になっている。
【0041】
上記ハウジング30内には、ばね部材1、永久磁石28A,28B及び第1、第2コイル27,29がそれぞれ収容されている。ばね部材1は、第1フレーム21に固定されている。詳細に説明すると、固定部2の孔2aに挿通させた取付ねじ22を第1フレーム21に形成されたねじ孔23に螺合することで、ばね部材1を第1フレーム21に固定している。この際、ばね部材1のうち、固定部2のみが第1フレーム21に接触しており、可動部3及び薄肉ヒンジ部4は第1フレーム21に対して非接触状態となっている。つまり、ばね部材1は、固定部2を基端部にして片持ち支持された状態になっており、上記真空雰囲気で揺動するようになっている。
【0042】
また、ケース25の内側には、ばね部材1の可動部3を間に挟んで第1フレーム21に対向配置された第2フレーム24が取り付けられている。第2のフレーム24は、ばね部材1に対して非接触状態を保った状態で配設されている。
【0043】
ばね部材1の可動部3に形成された孔3aには、円筒状に形成されたトルカフレーム26が挿通されて固定されており、このトルカフレーム26の両端部の外周には、第1のコイル27がそれぞれ巻回されている。また、このトルカフレーム26の両端部の内側には、トルカフレーム26と同軸上に延在した円柱状の永久磁石28A,28Bがそれぞれ配設されている。一方の永久磁石28Aは第1フレーム21に突設されており、他方の永久磁石28Bは第2フレーム24に突設されており、2つの永久磁石28A,28Bはばね部材1を挟んで対称に配設されている。ここで、第1フレーム21及び第2フレーム24は、それぞれ電磁軟鉄により形成されており、磁気回路として機能している。また、永久磁石28A,28Bの外周には、第2コイル29がそれぞれ巻回されている。また、ばね部材1の導通パターン5の可動部側端子5bはリード線31を介して第1コイル27に電気的に接続されている。また、導通パターン5の固定部側端子5aは、図示せぬリード線を介して図示せぬ制御装置に電気的に接続される。
【0044】
次に、上記したサーボ型センサ20により、加速度を検出する場合について説明する。
永久磁石28A,28Bの中心軸線Gに沿って加速度が作用すると、ばね部材1は図5に示す矢印方向に揺動する。これに伴って、トルカフレーム26及び第1コイル27も揺動する。すると、第1コイル27の抵抗値と、第2コイル29の抵抗値との差が変化する。そして、この差がゼロになるように、第1コイル27に流れる電流をフィードバック制御する。この電流は、加速度に比例しているので、この電流を検出することで加速度を検出することができる。
【0045】
上記した構成からなるサーボ型センサ20によれば、十分な弾性率(強度)を有し、座屈が生じ難いばね部材1を振子として用いるので、加速度が感度良く、しかも高精度に検出される。また、上記したばね部材1は、従来のものと比べて薄く軽い部材なので、サーボ型センサ20の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0046】
以上、本発明に係るばね部材、ばね部材の製作方法、及びサーボ型センサの実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、仮想中心線P上にサイドゲート8が配設されているが、本発明は、図7に示すように、薄肉ヒンジ部4の分子配向方向(Y方向)に沿って延在する薄肉ヒンジ部4の中心線の延長線O上にサイドゲート8が配設されていてもよい。これにより、サイドゲート8から固定部成形部6b、薄肉ヒンジ部成形部6c、可動部成形部6dの順で流れる液晶ポリマーの流路がY方向に沿って真直ぐ延在するため、薄肉ヒンジ部4における分子配向方向が確実にY方向に揃えられる。これにより、Y方向の弾性率が高く座屈しにくい高品質のばね部材1を製作することができる。
【0047】
また、上記した実施の形態では、金型6のうちの固定部成形部6bにサイドゲート8が設けられているが、本発明は、金型6のうちの可動部成形部6dにサイドゲート8が設けられていてもよい。
【0048】
また、上記した実施の形態では、薄肉ヒンジ部4がX方向に間隔をあけて2つ設けられているが、本発明は、薄肉ヒンジ部4が3つ以上設けられていてもよく、或いは、薄肉ヒンジ部4がX方向の中央部分に1つだけ設けられた構成にすることも可能である。
【0049】
また、上記した実施の形態では、ばね部材1が線対称形状を成しているが、本発明は、非対称形状のばね部材にすることも可能である。
また、上記した実施の形態では、ばね部材1の両面に導通パターン5がそれぞれ形成されているが、本発明は、ばね部材1の表面のうち、いずれか一方の面にのみ導通パターン5が形成されていてもよく、或いは、導通パターン5を形成しないことも可能である。
また、ばね部材1の成形材料である液晶ポリマーにチタン酸カリウムウイスカーからなる強化材が含有されていることが好ましいが、本発明は、チタン酸カリウムウイスカー以外の強化材(例えばガラス繊維等)を含有させることも可能であり、或いは、強化材を含有させないことも可能である。
【0050】
また、上記した実施の形態では、金型6にエジェクター用孔9が形成されており、このエジェクター用孔9を挿通するエジェクターピン7によって、金型6内からばね部材1を押し出して脱型しているが、本発明は、金型6にエジェクター用孔9が形成されてなく、エジェクターピン7を用いずに金型6内からばね部材1を脱型することも可能である。
【0051】
また、上記した実施の形態では、ばね部材1がサーボ型センサ20に用いられているが、本発明に係るばね部材を、他のセンサや機器に用いることも可能である。
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態を説明するためのばね部材の平面図である。
【図2】図2に示すA−A間の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態を説明するための金型の平断面図である。
【図4】本発明の実施の形態を説明するためのサーボ型センサの平面図である。
【図5】図4に示すB−B間の断面図である。
【図6】図4に示すC−C間の断面図である。
【図7】本発明の他の実施の形態を説明するためのばね部材の平面図である。
【図8】従来のばね部材の一例を表す斜視図である。
【図9】図8に示すばね部材をプレス法により製造している状態を示す図である。
【図10】図8に示すばね部材を切削法により製造している状態を示す図である。
【図11】図10に示す切削法によりばね部材を加工する際に、ばね部材が反ってしまった状態を示す図である。
【図12】図10に示す切削法によりばね部材を加工する際に、ばね部材の反りを防止するために治具を利用している状態を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ばね部材
2 固定部
3 可動部
4 薄肉ヒンジ部
5 導通パターン
6 金型
7 エジェクターピン
8 サイドゲート
20 サーボ型センサ
21 第1フレーム(固定子)
26 トルカフレーム(可動子)
L ヒンジ軸線
O 延長線(薄肉ヒンジ部の中心線の延長線)
P 仮想中心線
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボ型加速度計やサーボ型傾斜計等のサーボ型センサに組み込まれるばね部材、及び該ばね部材の製作方法、並びに上記ばね部材を有するサーボ型センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密部品の1つであるサーボ型加速度計には、加速度が作用すると揺動する振子が組み込まれている。この振子は、所定の厚さの薄板状のばね部材であり、部分的に厚みがさらに薄く形成された薄肉ヒンジ部を中心に揺動するようになっている。特に、この薄肉ヒンジ部は、微小な加速度でも振子が揺動するように厚み精度が求められている。つまり、振子として機能させるためには、部分的に厚みを変化させながらばね部材を高精度に厚み制御しながら加工することが必要とされている。
【0003】
ここで、この種のばね部材40の厚みを部分的に薄くして図8に示す薄肉ヒンジ部41を加工する方法としては、一般的にプレスを利用する方法や、切削による方法等が知られている。
このうちプレスを利用する方法は、図9に示すように、ばね部材40の両側から、該ばね部材40をプレス工具42で機械的に挟んで部分的に厚みを薄くする方法である。一方、切削による方法は、図10に示すように、ばね部材40の片側を加工工具43で切削加工した後、ばね部材40を裏返し、その後、再度加工工具43で残りの片側を切削加工する方法である。また、上述した機械的加工とは異なり、腐食作用を利用したエッチングによりばね部材40を加工する方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−142247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の方法では、まだ以下の課題が残されている。
即ち、プレスを利用する方法では、容易に薄肉ヒンジ部41を形成することができるが、プレスするタイミングや、プレス時間や、プレスする際の圧力等によって厚みが容易に変わってしまい、薄肉ヒンジ部41の厚みを高精度に制御することが難しいものであった。よって、許容できる厚み公差内に収めることが困難であり、薄肉ヒンジ部41を必要な厚み精度で安定して形成することができなかった。特に、厚み公差のレンジが1μm程度の薄肉ヒンジ部41を形成することは、困難であった。
【0005】
そのため、このばね部材40を振子として利用したとしても、安定した揺動を期待できるものではなかった。また、プレスした際の加工硬化によりばね部材40が本来持っている材料特性が変化してしまう恐れがあった。加えて、薄肉ヒンジ部41をばね部材40の厚みの中心に精度良く形成することが困難であった。これらのことも、安定した揺動を妨げる要因となるものであった。
【0006】
また、切削による方法では、図11に示すように、片側を切削加工した後、残りの片側を切削加工しようとすると、最初の切削によってばね部材40の厚みが既に薄くなっているので、加工工具43を押し付けた際に反ってしまう恐れがある。そのため、通常はこの反りを防ぐため、図12に示すように最初に切削した孔に嵌合する治具44を用意して、ばね部材40の姿勢を安定化させる必要がある。ところが、治具44を毎回セットする必要があるので、加工の効率が悪く、コスト高を招くものであった。
また、プレスする場合と同様に、薄肉ヒンジ部41の厚みを高精度に制御することが難しく、薄肉ヒンジ部41を必要な精度で安定して形成することができなかった。そのため、ばね部材40を振子として利用したとしても、安定した揺動を期待できるものではなかった。
また、切削時に発生する熱の影響や摩擦等の影響により、ばね部材40が本来持っている材料特性が変化してしまうおそれがあった。加えて、薄肉ヒンジ部41をばね部材40の厚みの中心に精度良く形成することが困難であった。これらのことも、安定した揺動を妨げる要因となるものであった。
【0007】
上述したように、プレス及び切削による機械的加工では、薄肉ヒンジ部41を必要な精度で安定して形成することができず、しかも、ばね部材40の特性が変化するおそれがあった。また、低コストで効率良く加工することができなかった。また、ばね部材40を振子として利用したとしても、揺動の安定性に欠けるものであった。
【0008】
一方、エッチングにより加工を行う方法では、上述した機械的加工特有のばね部材40の特性変化に関しては生じないが、やはり、薄肉ヒンジ部41の厚みを高精度に制御することが困難であった。加えて、薄肉ヒンジ部41をばね部材40の厚みの中心に精度良く形成することも困難であった。また、加工形状が制限されるとともに、加工時間がかかるという問題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、所望する厚みの薄肉ヒンジ部を有する薄板状のばね部材を、高精度、低コストで効率良く製作することができるばね部材、そのばね部材の製作方法、及びそのばね部材を有するサーボ型センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るばね部材は、固定子に取り付けられる固定部と、可動子に取り付けられる可動部と、前記固定部と前記可動部との間に配設された薄肉ヒンジ部と、を備え、該薄肉ヒンジ部が弾性変形して前記可動部がその板厚方向に揺動運動する薄板状のばね部材において、前記固定部、前記可動部及び前記薄肉ヒンジ部が、液晶ポリマーによって一体に成形され、前記薄肉ヒンジ部は、該薄肉ヒンジ部のヒンジ軸線方向及び板厚方向にそれぞれ直交する方向に分子配向されていることを特徴としている。
【0011】
このような特徴により、本発明に係るばね部材を製作する際、まず、ばね部材を成形するための金型を用意する。そして、その金型の中に、溶融した液晶ポリマーを流し入れる。そして、その液晶ポリマーが固化した後、金型を脱型することで、薄板状のばね部材が製作される。上記した液晶ポリマーは流動性に優れており、薄い部分にも容易に充填されるため、金属製のものや他の樹脂製のものと比べて薄いばね部材を製作することが可能である。具体的には、固定部及び可動部の厚さを250〜300μm程度、薄肉ヒンジ部の最薄部分の厚さを15〜20μm程度にすることが可能である。また、液晶ポリマーは、分子配向方向によって弾性率(強度)に異方性が生じるが、薄肉ヒンジ部は、その板厚方向及びヒンジ軸線方向にそれぞれ直交する方向(ヒンジ軸線直交方向)に分子配向されているため、ヒンジ軸線方向の弾性率は小さく強度が弱くなるが、上記ヒンジ軸線直交方向の弾性率は大きく強度が強くなる。したがって、薄く成形された薄肉ヒンジ部は、可動部をその板厚方向に揺動運動させるのに十分な弾性率(強度)を有するとともに、座屈が生じ難くなる。また、液晶ポリマーは、金属等の他の材料に比べて曲げ剛性が低いため、所定の曲げ剛性を持つ薄肉ヒンジ部の厚みを厚く設定することが可能である。これにより、製造ばらつき(厚み公差)の影響を受けにくく、より製造し易くなる。
【0012】
また、本発明に係るばね部材は、前記薄肉ヒンジ部が前記ヒンジ軸線方向に間隔をあけて複数配設されていることが好ましい。
これにより、薄肉ヒンジ部における分子配向を上記ヒンジ軸線直交方向に揃い易くなる。すなわち、液晶ポリマーは、その流れ方向に沿って分子配向されるため、仮に、薄肉ヒンジ部が幅広であると、液晶ポリマーは一定の方向に流れずに放射状に広がるように流れ、分子配向の方向が不均等になりやすい。これに対し、上記のように、薄肉ヒンジ部がヒンジ軸線方向に間隔をあけて複数配設されていると、その分、薄肉ヒンジ部の幅が狭くなるため、液晶ポリマーは一定の方向に流れ易くなり、分子配向の方向が一定の方向に揃えられる。したがって、分子配向の方向が上記ヒンジ軸線直交方向に揃えられる。
【0013】
また、本発明に係るばね部材は、前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向に延在する仮想中心線を対称軸にして線対称形状に成形されていることが好ましい。
これにより、上記仮想中心線上の位置から液晶ポリマーを流し入れると、液晶ポリマーが均一に流れ易くなり、高品質のばね部材が製作される。
【0014】
また、本発明に係るばね部材は、前記固定部から前記薄肉ヒンジ部を経て前記可動部に至る導通パターンが表面に形成されていることが好ましい。
これにより、フィードバック制御するための制御装置と可動子とを電気的に接続する際、リード線の振れを抑制することができる。すなわち、仮に、可動子にリード線を直接接続すると、可動子が動くことでリード線が振れることになり、断線や可動部の変位阻害、これに伴う個体差の発生等の原因となる。これに対し、上記のように、固定部から薄肉ヒンジ部を経て可動部に至る導通パターンが表面に形成されていると、可動部上の導通パターンと可動子とをリード線で接続するとともに、固定部上の導通パターンと制御装置とをリード線で接続することで、制御装置と可動子とが電気的に接続される。これにより、可動子に接続するリード線の振れはなくなり、また、制御装置に接続するリード線も振れはなくなる、もしくは極めて小さくなる。なお、液晶ポリマーは、耐熱性に優れているため、導通パターンを形成するのに適している。
【0015】
また、本発明に係るばね部材は、前記液晶ポリマーに、チタン酸カリウムウイスカーからなる強化材が含有されていることが好ましい。
これにより、ばね部材の強度は向上し、薄く成形された薄肉ヒンジ部が破断しにくくなるとともにヒンジ部の減衰率が大きくなる。
【0016】
また、本発明に係るばね部材の製作方法は、上記した本発明に係るばね部材を成形するための金型内に液晶ポリマーを流し入れて成形するばね部材の製作方法であって、前記金型のうち前記固定部又は前記可動部の側面を成形する部分にサイドゲートを設け、該サイドゲートから前記金型内に前記液晶ポリマーを流入させることを特徴としている。
【0017】
これにより、サイドゲートから流し込まれた液晶ポリマーは、金型内を流通して薄肉ヒンジ部を成形する部分に充填される。例えば、サイドゲートが固定部側に設けられている場合、薄肉ヒンジ部を成形する部分には、固定部側から可動部側に向けて液晶ポリマーが流れ込んで充填される。一方、サイドゲートが可動部側に設けられている場合、薄肉ヒンジ部を成形する部分には、可動部側から固定部側に向けて液晶ポリマーが流れ込んで充填される。上記した何れの場合も、薄肉ヒンジ部の液晶ポリマーは、上記ヒンジ軸線直交方向に分子配向される。
【0018】
また、本発明に係るばね部材の製作方法は、前記薄肉ヒンジ部が前記ヒンジ軸線方向に間隔をあけて複数配設されたばね部材を製作する際、隣り合う前記薄肉ヒンジ部間の中央位置を通るとともに前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向と平行に延在する仮想中心線上に、前記サイドゲードを配設させることが好ましい。
これにより、サイドゲートから流し込まれた液晶ポリマーは、隣り合う薄肉ヒンジ部を成形する部分にそれぞれ均等に流れ込む。
【0019】
また、本発明に係るばね部材の製作方法は、前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向に沿って延在する該薄肉ヒンジ部の中心線の延長線上に、前記サイドゲート部を配設させてもよい。
これにより、サイドゲートから固定部を成形する部分、薄肉ヒンジ部を成形する部分、可動部を成形する部分の順で流れる液晶ポリマーの流路が、ヒンジ軸線直交方向に真直ぐ延在する。
【0020】
また、本発明に係るばね部材の製作方法は、前記液晶ポリマーを前記金型内に流し入れた後、該金型を脱型する際、前記固定部及び前記可動部にそれぞれエジェクターピンを当接させることが好ましい。
仮に、固定部及び可動部のうちの何れか一方だけをエジェクターピンで押し出すようにすると、薄く成形された薄肉ヒンジ部が破断するおそれがある。また、薄肉ヒンジ部にエジェクターピンを当接させると、エジェクターピンによる押圧力で薄肉ヒンジ部が変形し、薄肉ヒンジ部の成形精度が悪くなり、ばね部材のばね性能が確保するのが難しくなる。これに対し、上記したように、ばね部材を金型内から外す際、エジェクターピンによって固定部及び可動部をそれぞれ押し出すようにすると、薄肉ヒンジ部が破断したり変形したりすることなく、ばね部材が金型内から容易に外される。
【0021】
また、本発明に係るサーボ型センサは、上記した本発明に係るばね部材を振子として利用することを特徴としている。
これにより、十分な弾性率(強度)を有し、座屈が生じ難いばね部材を振子として用いるので、加速度等の物理量が感度良く、しかも高精度に検出される。また、上記したばね部材は、従来のものと比べて薄く軽い部材なので、サーボ型センサが小型化及び軽量化される。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るばね部材及びばね部材の製作方法によれば、所望する厚みの薄肉ヒンジ部を有する薄板状のばね部材を、高精度、低コストで効率良く製作することができる。
また、本発明に係るサーボ型センサによれば、高感度及び高精度の検出を実現することができるとともに、小型化及び軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係るばね部材、ばね部材の製作方法、及びサーボ型センサの実施の形態について、図面に基いて説明する。
図1はばね部材1を表す平面図であり、図2は図1に示すA−A間の断面図であり、図3はばね部材1を成形するための金型6を表す平断面図であり、図4はばね部材1を用いたサーボ型センサ20を表す平面図であり、図5は図4に示すB−B間の断面図であり、図6は図4に示すC−C間の断面図である。
なお、本実施の形態では、後述する薄肉ヒンジ部4のヒンジ軸線L方向、つまり図1における横方向をX方向とし、薄肉ヒンジ部4のヒンジ軸線L方向及び板厚方向にそれぞれ直交する方向、つまり図1における縦方向をY方向とし、ばね部材1の板厚方向、つまり図2における縦方向をZ方向とする。
【0024】
[ばね部材]
図1、図2に示すように、ばね部材1は、固定部2と可動部3と薄肉ヒンジ部4とを備える薄板状の部材であり、薄肉ヒンジ部4が弾性変形して可動部3がその板厚方向(Z方向)に揺動運動するものである。このばね部材1は、固定部2と可動部3と薄肉ヒンジ部4とが液晶ポリマーによって一体に成形されてなるものであり、Y方向に延在する仮想中心線Pを対称軸にして線対称形状に成形されている。なお、仮想中心線Pは、後述する隣り合う薄肉ヒンジ部4,4間の中央位置を通るとともに後述する薄肉ヒンジ部4の分子配向方向と平行(Y方向)に延在する線である。上記液晶ポリマーは、成形材料となるサーモトロピック型のものであり、上記液晶ポリマーとしては、例えば全芳香族ポリエステルのII型を用いることが可能である。このような液晶ポリマーかなる成形品は、金属等の他の材料からなるものに比べて曲げ剛性が低いため、上記薄肉ヒンジ部4は、その曲げ剛性が相当低くなっているのにもかかわらず、その厚みは比較的厚く設定される。また、この液晶ポリマーには、チタン酸カリウムウイスカーからなる強化材が含有されていることが好ましい。具体的に説明すると、平均繊維径が0.3〜0.6μm、平均繊維長が10〜20μmのチタン酸カリウムウイスカーを5〜30重量%程度含有させることが望ましい。これにより、薄肉ヒンジ部4の厚みが薄くても均一に充填できる。因みに強化繊維として最も一般的に用いられるガラス繊維の径の平均は9〜13μmであるからこのような薄肉部の成形は困難である。
【0025】
固定部2は、固定子(後述する第1フレーム21)に取り付けられる部位であり、平面視略長方形状の薄板状(厚さ250〜300μm程度)のものである。この固定部2の長手方向(X方向)の両端部には、ネジ止めするための円形の孔2aがそれぞれ形成されている。また、固定部2の長手方向(X方向)の中央部分には、ゲート跡2bが形成されている。このゲート跡2bは、ばね部材1を成形する際に液晶ポリマーを流し入れた跡である。ゲート跡2bは、固定部2の一方側(図1における下側)の側面に形成されており、上記した仮想中心線P上に配設されている。
【0026】
可動部3は、可動子(後述するトルカフレーム26)に取り付けられる部位であり、固定部2の他方側(図1における上側)の位置に配設されている。可動部3は、一方側が平面視矩形状を成すとともに他方側が円弧形状を成した薄板状(厚さ250〜300μm程度)のものであり、その略中央部分には、トルカフレーム26を挿通させるための円形の孔3aが形成されている。
【0027】
薄肉ヒンジ部4は、固定部2と可動部3とを繋ぐ部位であり、固定部2と可動部3とを間に配設されている。薄肉ヒンジ部4は、Y方向断面視において、その中央部分の両面に円弧状の凹部4aがそれぞれ形成されている。この凹部4aは、X方向に延在して両端が開放されたU溝状のものであり、凹部4aの中央部分(最薄部分)の厚さは15〜20μm程度になっている。この薄肉ヒンジ部4は、Y方向に分子配向されている。つまり、薄肉ヒンジ部4においては、液晶ポリマーの分子の直鎖がY方向に延在した構成になっている。また、上記した構成の薄肉ヒンジ部4は、X方向に間隔をあけて複数(図1では2つ)設けられており、隣り合う一対の薄肉ヒンジ部4,4の間には略矩形の開口Kが形成されている。これら一対の薄肉ヒンジ部4,4は、仮想中心線Pを挟んで対称に配設されている。
【0028】
また、ばね部材1の表面(両面)には、電流を流通させる金属製の導通パターン5が形成されている。導通パターン5は、固定部2から薄肉ヒンジ部4を経て可動部3に至るものであり、固定部2上に形成された固定部側端子5aと、可動部3上に形成された可動部側端子5bと、固定部側端子5aと可動部側端子5bとを結ぶ連結部5cと、から構成されている。固定部側端子5aは、固定部2の長手方向(X方向)の略中央部分に配設されており、導通パターン5bは、可動部3の隅部に配設されている。また、導通パターン5は、各面(両面)にそれぞれ2つ形成されており、これら2つの導通パターン5,5は、仮想中心線Pを挟んで対称に配設されている。
【0029】
[ばね部材の製作方法]
次に、上記した構成からなるばね部材1を製作する方法について説明する。
まず、図3に示すように、ばね部材1を成形するための金型6を用意する。この金型6は、図1に示す固定部2と可動部3と薄肉ヒンジ部4とを一体成形するための金型であり、金型6内に成形材料(液晶ポリマー)を流し入れるためのサイドゲート8と、成形されたばね部材1を金型6から外すための複数のエジェクターピン7を挿通させるためのエジェクター用孔9と、が備えられている。サイドゲート8は、ばね部材1の固定部2の長手方向(X方向)の側面を成形するための部分6aに設けられており、ばね部材1の仮想中心線P上に配設されている。また、エジェクター用孔9は、金型6のうち、固定部2を成形する部分(固定部成形部6b)及び可動部3を成形する部分(可動部成形部6d)にそれぞれ均等に配設されている。具体的に説明すると、固定部2において、エジェクター用孔9は、固定部2の孔2aを形成する部分6eのX方向の両側にそれぞれ形成されている。また、可動部3において、エジェクター用孔9は、可動部3の一方側(図3における下側)の隅部にそれぞれ形成されているとともに、これら隅部のエジェクター用孔9の中間位置、及び、可動部3の孔3aを成形する部分6fの他方側(図3における上側)の位置にそれぞれ形成されている。なお、上記した隅部のエジェクター用孔9の中間位置に形成されたエジェクター用孔9、及び、可動部3の孔3aを成形する部分6fの他方側の位置に形成されたエジェクター用孔9は、仮想中心線P上にそれぞれ配設されている。
【0030】
次に、上記したサイドゲート8から上記金型6の中に、溶融した液晶ポリマーを流し入れる。サイドゲート8から流し込まれた液晶ポリマーは、図3に示す矢印方向に流通する。すなわち、液晶ポリマーは、金型6のうちの固定部成形部6bに充填されるとともに、金型6のうちの薄肉ヒンジ部4を成形する部分(薄肉ヒンジ部成形部6c)に流れ込み、さらに、薄肉ヒンジ部成形部6cから可動部成形部6dに流れ込んで充填される。このとき、ばね部材1は、仮想中心線Pを対称軸にして線対称形状を成しており、上記仮想中心線P上に配設されたサイドゲート8から液晶ポリマーを流し入れるため、液晶ポリマーが均一に流れ易く、金型6全体に満遍なく充填される。特に、上記液晶ポリマーは流動性に優れており、最薄部分の厚さが15〜20μm程度の薄肉ヒンジ部成形部6cにも満遍なく充填される。また、薄肉ヒンジ部成形部6cにおいては、一方側(固定部2側)から他方側(可動部3側)に向けて液晶ポリマーが流通するため、薄肉ヒンジ部4はY方向に分子配向される。また、薄肉ヒンジ部4は、X方向に間隔をあけて複数配設されているため、薄肉ヒンジ部4の幅は狭く、薄肉ヒンジ部4における分子配向がY方向に揃い易くなる。
【0031】
次に、上記した液晶ポリマーが固化した後、金型6を脱型させる。このとき、上記したエジェクターピン7をエジェクター用孔9から金型6の内側に向けて突出させ、成形されたばね部材1の固定部2及び可動部3にそれぞれ当接させる。そして、これらのエジェクターピン7で押し出すようにばね部材1を金型6から外す。これにより、薄肉ヒンジ部4が破断したり変形したりすることなく、ばね部材1が金型6内から容易に外される。
【0032】
次に、図1、図2に示すように、上記のように成形されたばね部材1の表面に導通パターン5を形成する。この導通パターン5は、ばね部材1の両面にそれぞれ形成する。
以上により、上記した構成からなるばね部材1が完成する。なお、上記したばね部材1の薄肉ヒンジ部4は、曲げ剛性が相当低いにもかかわらず、その厚みが比較的厚く設定されているので、製造ばらつきの影響を受けにくい。
【0033】
上記したばね部材1及びその製作方法によれば、所望する厚みの薄肉ヒンジ部4を有する薄板状のものを、高精度、低コストで効率良く製作することができる。また、薄肉ヒンジ部4はY方向に分子配向されているため、X方向の弾性率は小さく強度が弱くなるが、Y方向の弾性率は大きく強度が強くなる。したがって、可動部3をZ方向に揺動運動させるのに十分な弾性率(強度)を有するとともに、座屈が生じ難くいばね部材1を製作することができ、ばね部材1の安定した揺動運動を実現することができる。
【0034】
また、薄肉ヒンジ部4がX方向に間隔をあけて複数配設されており、薄肉ヒンジ部4における液晶ポリマーの分子配向の方向がY方向に揃えられるため、高品質のばね部材1を提供することができる。
【0035】
また、上記したばね部材1は、仮想中心線Pを対称軸にして線対称形状を成しており、液晶ポリマーが均一に流れ易くなっているため、液晶ポリマーを満遍なく充填することができ、高品質のばね部材1を容易に形成することができる。
【0036】
また、上記したばね部材1の表面には、固定部2から薄肉ヒンジ部4を経て可動部3に至る導通パターン5が形成されているため、図示せぬ制御装置と可動子(第1コイル27)とを電気的に接続する際、後述する図4、図5に示すリード線31の振れを抑制することができる。これにより、リード線31の断線等の不具合を防止することができる。
【0037】
また、ばね部材1の成形材料である液晶ポリマーにチタン酸カリウムウイスカーからなる強化材を含有させると、ばね部材1の強度が向上し、薄く成形された薄肉ヒンジ部4がさらに破断しにくくなる。これにより、より一層安定した揺動運動が可能なばね部材1を提供することができる。そして、このチタン酸カリウムウイスカーの含有量をコントロールすることにより、ばね部材1の剛性、減衰率をコントロールすることが出来る。
【0038】
また、上記したばね部材1の製作方法では、仮想中心線P上に配設されたサイドゲート8から金型6内に液晶ポリマーを流入させており、液晶ポリマーが隣り合う薄肉ヒンジ部成形部6c,6cに均等に流れ込むため、金型6内に満遍なく液晶ポリマーを充填することができ、高品質のばね部材1を提供することができる。
【0039】
さらに、上記したばね部材1の製作方法では、エジェクター用孔9を固定部2及び可動部3にそれぞれ当接させており、薄肉ヒンジ部4が破断したり変形したりすることなく、ばね部材1が金型6内から容易に外されるため、高品質のばね部材1を容易に製作することができる。
【0040】
[サーボ型センサ]
次に、上記したばね部材1を用いたサーボ型センサ20について説明する。
図4から図6に示すように、サーボ型センサ20は、ばね部材1を振子として用いたサーボ型加速度計である。サーボ型センサ20には、第1フレーム21と、第1フレーム21に被せられるケース25と、からなるハウジング30が備えられている。このハウジング30の内部は、密閉されているとともに真空雰囲気になっている。
【0041】
上記ハウジング30内には、ばね部材1、永久磁石28A,28B及び第1、第2コイル27,29がそれぞれ収容されている。ばね部材1は、第1フレーム21に固定されている。詳細に説明すると、固定部2の孔2aに挿通させた取付ねじ22を第1フレーム21に形成されたねじ孔23に螺合することで、ばね部材1を第1フレーム21に固定している。この際、ばね部材1のうち、固定部2のみが第1フレーム21に接触しており、可動部3及び薄肉ヒンジ部4は第1フレーム21に対して非接触状態となっている。つまり、ばね部材1は、固定部2を基端部にして片持ち支持された状態になっており、上記真空雰囲気で揺動するようになっている。
【0042】
また、ケース25の内側には、ばね部材1の可動部3を間に挟んで第1フレーム21に対向配置された第2フレーム24が取り付けられている。第2のフレーム24は、ばね部材1に対して非接触状態を保った状態で配設されている。
【0043】
ばね部材1の可動部3に形成された孔3aには、円筒状に形成されたトルカフレーム26が挿通されて固定されており、このトルカフレーム26の両端部の外周には、第1のコイル27がそれぞれ巻回されている。また、このトルカフレーム26の両端部の内側には、トルカフレーム26と同軸上に延在した円柱状の永久磁石28A,28Bがそれぞれ配設されている。一方の永久磁石28Aは第1フレーム21に突設されており、他方の永久磁石28Bは第2フレーム24に突設されており、2つの永久磁石28A,28Bはばね部材1を挟んで対称に配設されている。ここで、第1フレーム21及び第2フレーム24は、それぞれ電磁軟鉄により形成されており、磁気回路として機能している。また、永久磁石28A,28Bの外周には、第2コイル29がそれぞれ巻回されている。また、ばね部材1の導通パターン5の可動部側端子5bはリード線31を介して第1コイル27に電気的に接続されている。また、導通パターン5の固定部側端子5aは、図示せぬリード線を介して図示せぬ制御装置に電気的に接続される。
【0044】
次に、上記したサーボ型センサ20により、加速度を検出する場合について説明する。
永久磁石28A,28Bの中心軸線Gに沿って加速度が作用すると、ばね部材1は図5に示す矢印方向に揺動する。これに伴って、トルカフレーム26及び第1コイル27も揺動する。すると、第1コイル27の抵抗値と、第2コイル29の抵抗値との差が変化する。そして、この差がゼロになるように、第1コイル27に流れる電流をフィードバック制御する。この電流は、加速度に比例しているので、この電流を検出することで加速度を検出することができる。
【0045】
上記した構成からなるサーボ型センサ20によれば、十分な弾性率(強度)を有し、座屈が生じ難いばね部材1を振子として用いるので、加速度が感度良く、しかも高精度に検出される。また、上記したばね部材1は、従来のものと比べて薄く軽い部材なので、サーボ型センサ20の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0046】
以上、本発明に係るばね部材、ばね部材の製作方法、及びサーボ型センサの実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、仮想中心線P上にサイドゲート8が配設されているが、本発明は、図7に示すように、薄肉ヒンジ部4の分子配向方向(Y方向)に沿って延在する薄肉ヒンジ部4の中心線の延長線O上にサイドゲート8が配設されていてもよい。これにより、サイドゲート8から固定部成形部6b、薄肉ヒンジ部成形部6c、可動部成形部6dの順で流れる液晶ポリマーの流路がY方向に沿って真直ぐ延在するため、薄肉ヒンジ部4における分子配向方向が確実にY方向に揃えられる。これにより、Y方向の弾性率が高く座屈しにくい高品質のばね部材1を製作することができる。
【0047】
また、上記した実施の形態では、金型6のうちの固定部成形部6bにサイドゲート8が設けられているが、本発明は、金型6のうちの可動部成形部6dにサイドゲート8が設けられていてもよい。
【0048】
また、上記した実施の形態では、薄肉ヒンジ部4がX方向に間隔をあけて2つ設けられているが、本発明は、薄肉ヒンジ部4が3つ以上設けられていてもよく、或いは、薄肉ヒンジ部4がX方向の中央部分に1つだけ設けられた構成にすることも可能である。
【0049】
また、上記した実施の形態では、ばね部材1が線対称形状を成しているが、本発明は、非対称形状のばね部材にすることも可能である。
また、上記した実施の形態では、ばね部材1の両面に導通パターン5がそれぞれ形成されているが、本発明は、ばね部材1の表面のうち、いずれか一方の面にのみ導通パターン5が形成されていてもよく、或いは、導通パターン5を形成しないことも可能である。
また、ばね部材1の成形材料である液晶ポリマーにチタン酸カリウムウイスカーからなる強化材が含有されていることが好ましいが、本発明は、チタン酸カリウムウイスカー以外の強化材(例えばガラス繊維等)を含有させることも可能であり、或いは、強化材を含有させないことも可能である。
【0050】
また、上記した実施の形態では、金型6にエジェクター用孔9が形成されており、このエジェクター用孔9を挿通するエジェクターピン7によって、金型6内からばね部材1を押し出して脱型しているが、本発明は、金型6にエジェクター用孔9が形成されてなく、エジェクターピン7を用いずに金型6内からばね部材1を脱型することも可能である。
【0051】
また、上記した実施の形態では、ばね部材1がサーボ型センサ20に用いられているが、本発明に係るばね部材を、他のセンサや機器に用いることも可能である。
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態を説明するためのばね部材の平面図である。
【図2】図2に示すA−A間の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態を説明するための金型の平断面図である。
【図4】本発明の実施の形態を説明するためのサーボ型センサの平面図である。
【図5】図4に示すB−B間の断面図である。
【図6】図4に示すC−C間の断面図である。
【図7】本発明の他の実施の形態を説明するためのばね部材の平面図である。
【図8】従来のばね部材の一例を表す斜視図である。
【図9】図8に示すばね部材をプレス法により製造している状態を示す図である。
【図10】図8に示すばね部材を切削法により製造している状態を示す図である。
【図11】図10に示す切削法によりばね部材を加工する際に、ばね部材が反ってしまった状態を示す図である。
【図12】図10に示す切削法によりばね部材を加工する際に、ばね部材の反りを防止するために治具を利用している状態を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ばね部材
2 固定部
3 可動部
4 薄肉ヒンジ部
5 導通パターン
6 金型
7 エジェクターピン
8 サイドゲート
20 サーボ型センサ
21 第1フレーム(固定子)
26 トルカフレーム(可動子)
L ヒンジ軸線
O 延長線(薄肉ヒンジ部の中心線の延長線)
P 仮想中心線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子に取り付けられる固定部と、可動子に取り付けられる可動部と、前記固定部と前記可動部との間に配設された薄肉ヒンジ部と、を備え、該薄肉ヒンジ部が弾性変形して前記可動部がその板厚方向に揺動運動する薄板状のばね部材において、
前記固定部、前記可動部及び前記薄肉ヒンジ部が、液晶ポリマーによって一体に成形され、
前記薄肉ヒンジ部は、該薄肉ヒンジ部のヒンジ軸線方向及び板厚方向にそれぞれ直交する方向に分子配向されていることを特徴とするばね部材。
【請求項2】
請求項1に記載のばね部材において、
前記薄肉ヒンジ部が前記ヒンジ軸線方向に間隔をあけて複数配設されていることを特徴とするばね部材。
【請求項3】
請求項1又は2の何れか一項に記載のばね部材において、
前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向に延在する仮想中心線を対称軸にして線対称形状に成形されていることを特徴とするばね部材。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のばね部材において、
前記固定部から前記薄肉ヒンジ部を経て前記可動部に至る導通パターンが表面に形成されていることを特徴とするばね部材。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載のばね部材において、
前記液晶ポリマーに、チタン酸カリウムウイスカーからなる強化材が含有されていることを特徴とするばね部材。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載のばね部材を成形するための金型内に液晶ポリマーを流し入れて成形するばね部材の製作方法であって、
前記金型のうち前記固定部又は前記可動部の側面を成形する部分にサイドゲートを設け、
該サイドゲートから前記金型内に前記液晶ポリマーを流入させることを特徴とするばね部材の製作方法。
【請求項7】
請求項6記載のばね部材の製作方法において、
前記薄肉ヒンジ部が前記ヒンジ軸線方向に間隔をあけて複数配設されたばね部材を製作する際、
隣り合う前記薄肉ヒンジ部間の中央位置を通るとともに前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向と平行に延在する仮想中心線上に、前記サイドゲードを配設させることを特徴とするばね部材の製作方法。
【請求項8】
請求項6記載のばね部材の製作方法において、
前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向に沿って延在する該薄肉ヒンジ部の中心線の延長線上に、前記サイドゲート部を配設させることを特徴とするばね部材の製作方法。
【請求項9】
請求項6から8の何れか一項に記載のばね部材の製作方法において、
前記液晶ポリマーを前記金型内に流し入れた後、該金型を脱型する際、前記固定部及び前記可動部にそれぞれエジェクターピンを当接させることを特徴とするばね部材の製作方法。
【請求項10】
請求項1から5の何れか一項に記載のばね部材を振子として利用することを特徴とするサーボ型センサ。
【請求項1】
固定子に取り付けられる固定部と、可動子に取り付けられる可動部と、前記固定部と前記可動部との間に配設された薄肉ヒンジ部と、を備え、該薄肉ヒンジ部が弾性変形して前記可動部がその板厚方向に揺動運動する薄板状のばね部材において、
前記固定部、前記可動部及び前記薄肉ヒンジ部が、液晶ポリマーによって一体に成形され、
前記薄肉ヒンジ部は、該薄肉ヒンジ部のヒンジ軸線方向及び板厚方向にそれぞれ直交する方向に分子配向されていることを特徴とするばね部材。
【請求項2】
請求項1に記載のばね部材において、
前記薄肉ヒンジ部が前記ヒンジ軸線方向に間隔をあけて複数配設されていることを特徴とするばね部材。
【請求項3】
請求項1又は2の何れか一項に記載のばね部材において、
前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向に延在する仮想中心線を対称軸にして線対称形状に成形されていることを特徴とするばね部材。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のばね部材において、
前記固定部から前記薄肉ヒンジ部を経て前記可動部に至る導通パターンが表面に形成されていることを特徴とするばね部材。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載のばね部材において、
前記液晶ポリマーに、チタン酸カリウムウイスカーからなる強化材が含有されていることを特徴とするばね部材。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載のばね部材を成形するための金型内に液晶ポリマーを流し入れて成形するばね部材の製作方法であって、
前記金型のうち前記固定部又は前記可動部の側面を成形する部分にサイドゲートを設け、
該サイドゲートから前記金型内に前記液晶ポリマーを流入させることを特徴とするばね部材の製作方法。
【請求項7】
請求項6記載のばね部材の製作方法において、
前記薄肉ヒンジ部が前記ヒンジ軸線方向に間隔をあけて複数配設されたばね部材を製作する際、
隣り合う前記薄肉ヒンジ部間の中央位置を通るとともに前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向と平行に延在する仮想中心線上に、前記サイドゲードを配設させることを特徴とするばね部材の製作方法。
【請求項8】
請求項6記載のばね部材の製作方法において、
前記薄肉ヒンジ部の分子配向方向に沿って延在する該薄肉ヒンジ部の中心線の延長線上に、前記サイドゲート部を配設させることを特徴とするばね部材の製作方法。
【請求項9】
請求項6から8の何れか一項に記載のばね部材の製作方法において、
前記液晶ポリマーを前記金型内に流し入れた後、該金型を脱型する際、前記固定部及び前記可動部にそれぞれエジェクターピンを当接させることを特徴とするばね部材の製作方法。
【請求項10】
請求項1から5の何れか一項に記載のばね部材を振子として利用することを特徴とするサーボ型センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−53161(P2009−53161A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222662(P2007−222662)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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