説明

アキシャルギャップ型モータおよび圧縮機

【課題】アキシャルギャップ型モータにおいてロータの回転振動を低減する。
【解決手段】アキシャルギャップ型モータ(30)は、中心に回転軸(20)が固定された円板状のロータ(37)と、ロータ(37)に対し回転軸(20)の軸方向両側にエアギャップを介して対向配置される上側ステータ(31)および下側ステータ(42)とを備えている。ロータ(37)は、回転軸(20)が内嵌されるボス部(38a)と、ボス部(38a)の外周に形成され複数の永久磁石(41)が周方向に嵌め込まれる板状の磁石支持部(38b)と、磁石支持部(38b)の外周に形成される外縁部(38c)とを有し、外縁部(38c)が回転軸(20)の軸方向に突出して磁石支持部(38b)よりも厚肉に形成されている。これにより、ロータ(37)の慣性モーメントが増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシャルギャップ型モータおよびそれを用いた圧縮機に関し、特に、振動の低減対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているように、ステータとロータとが互いにエアギャップ(空隙)を存してロータの回転軸方向に対向配置されたアキシャルギャップ型のモータがよく知られている。このようなアキシャルギャップ型モータでは、ステータへの通電により回転磁界が発生し、この回転磁界によってロータの永久磁石を吸引反発することでロータが回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−353078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したようなアキシャルギャップ型モータでは、特にロータが円板状であるため、そのロータの回転時に回転軸が傾いてしまい(ぶれてしまい)、ロータが回転軸と共に振動するという問題があった。その結果、騒音を引き起こしてしまう。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ロータの回転振動を低減し得るアキシャルギャップ型モータおよびそれを用いた圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、ロータ(37)の構造を工夫してロータ(37)の回転時における慣性モーメントを従来よりも増大させるようにしたものである。
【0007】
具体的に、第1の発明は、中心に回転軸(20)が固定された円板状のロータ(37)と、上記ロータ(37)に対し上記回転軸(20)の軸方向にエアギャップを介して対向配置されるステータ(31)とを備えたアキシャルギャップ型モータを前提としている。そして、上記ロータ(37)は、複数の永久磁石(41)が周方向に嵌め込まれる板状の磁石支持部(38b)と、該磁石支持部(38b)の外周に連続して形成される外縁部(38c)とを有し、該外縁部(38c)が上記磁石支持部(38b)よりも厚肉に形成されているものである。
【0008】
上記第1の発明では、円板状であるロータ(37)の外縁部(38c)がその内側の磁石支持部(38b)よりも厚肉に形成されているため、磁石支持部から外縁部まで同じ厚みで形成されている従来のロータに比べて、ロータ(37)の外縁部(38c)の質量が大きくなる。そのため、ロータ(37)の慣性モーメントが増大する。これにより、ロータ(37)の回転運動が安定し回転振動が低減される。
【0009】
第2の発明は、中心に回転軸(20)が固定された円板状のロータ(37)と、上記ロータ(37)に対し上記回転軸(20)の軸方向にエアギャップを介して対向配置されるステータ(31)とを備えたアキシャルギャップ型モータを前提としている。そして、上記ロータ(37)は、複数の永久磁石(41)が周方向に嵌め込まれる板状の磁石支持部(38b)と、該磁石支持部(38b)の外周に連続して形成される外縁部(38d)とを有し、該外縁部(38d)が上記磁石支持部(38b)の材質よりも比重の大きい材質で形成されているものである。
【0010】
上記第2の発明では、円板状であるロータ(37)の外縁部(38d)がその内側の磁石支持部(38b)の材質よりも比重の大きい材質で形成されているため、磁石支持部から外縁部まで同じ材質で形成されている従来のロータに比べて、ロータ(37)の外縁部(38d)の質量が大きくなる。そのため、ロータ(37)の慣性モーメントが増大する。これにより、ロータ(37)の回転運動が安定し回転振動が低減される。
【0011】
第3の発明は、上記第1の発明において、上記ロータ(37)の外縁部(38c)が、上記磁石支持部(38b)の材質よりも比重の大きい材質で形成されているものである。
【0012】
上記第3の発明では、ロータ(37)の外縁部(38c)が、その内側の磁石支持部(38b)よりも厚肉で且つ磁石支持部(38b)の材質よりも比重の大きい材質で形成されているため、従来のロータに比べて、ロータ(37)の外縁部(38c)の質量が大きくなる。そのため、ロータ(37)の慣性モーメントがより増大する。
【0013】
第4の発明は、上記第1乃至第3の何れか1の発明のアキシャルギャップ型モータ(30)と、該アキシャルギャップ型モータ(30)の回転軸(20)に連結され、冷媒を圧縮する回転式圧縮機構(50)とを備えている圧縮機である。
【0014】
上記第4の発明では、回転式圧縮機構(50)を駆動するアキシャルギャップモータ(30)のロータ(37)の回転振動が低減される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、第1の発明によれば、アキシャルギャップ型モータにおいて、円板状であるロータ(37)の外縁部(38c)の厚みをその内側の磁石支持部(38b)よりも厚くしているため、従来のアキシャルギャップ型モータのロータに比べて、ロータ(37)の外縁部(38c)の質量を増大させることができる。そのため、ロータ(37)の慣性モーメントを増大させることができる。この慣性モーメントの増大により、ロータ(37)の回転運動を安定させることができ、ロータ(37)の回転振動を低減することができる。その結果、アキシャルギャップ型モータの騒音を抑制することができる。
【0016】
また、第2の発明によれば、アキシャルギャップ型モータにおいて、円板状であるロータ(37)の外縁部(38d)をその内側の磁石支持部(38b)の材質よりも比重の大きい材質で形成しているため、従来のアキシャルギャップ型モータのロータに比べて、ロータ(37)の外縁部(38d)の質量を増大させることができる。そのため、ロータ(37)の慣性モーメントを増大させることができる。この慣性モーメントの増大により、ロータ(37)の回転運動を安定させることができ、ロータ(37)の回転振動を低減することができる。その結果、アキシャルギャップ型モータの騒音を抑制することができる。
【0017】
また、第3の発明によれば、ロータ(37)の外縁部(38c)について、磁石支持部(38b)よりも厚肉に形成し且つ磁石支持部(38b)の材質よりも比重の大きい材質で形成するため、ロータ(37)の外縁部(38c)の質量を一層増大させることができる。そのため、ロータ(37)の慣性モーメントを一層増大させることができ、ロータ(37)の回転振動を一層低減することができる。
【0018】
また、第4の発明によれば、回転式圧縮機構(50)を有する圧縮機において、上記第1乃至第3の何れか1の発明のアキシャルギャップ型モータ(30)で回転式圧縮機構(50)を駆動するようにした。この場合、回転式圧縮機構(50)では例えばロータリーピストンが偏心回転して冷媒を圧縮するため振動が発生するが、アキシャルギャップ型モータ(30)の回転振動が低減される分、圧縮機全体の振動を低減することができる。その結果、低振動/低騒音の圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施形態1に係る圧縮機の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る圧縮機構の要部を示す横断面図である。
【図3】図3は、実施形態1に係るアキシャルギャップ型モータの構成を示す分解斜視図である。
【図4】図4は、実施形態2に係るアキシャルギャップ型モータの要部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態および変形例は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0021】
《実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。本実施形態の圧縮機(10)は、冷媒が循環して蒸気圧縮式冷凍サイクルが行われる冷凍装置に用いられる。この圧縮機(10)は、冷媒を圧縮する回転式圧縮機構(50)と、該回転式圧縮機構(50)を駆動するアキシャルギャップ型モータ(30)(以下、単にモータ(30)という。)とを備えている。圧縮機(10)は、回転式圧縮機であって、いわゆる揺動ピストン型の圧縮機を構成している。また、圧縮機(10)は、2つのシリンダ室でそれぞれ冷媒を圧縮する、いわゆる2シリンダ式の圧縮機を構成している。
【0022】
図1に示すように、上記圧縮機(10)は、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング(11)を有している。ケーシング(11)は、その内部を空洞とする圧力容器を構成している。ケーシング(11)は、胴部(12)と上壁部(13)と下壁部(14)とが一体的に接合されて構成されている。ケーシング(11)の胴部(12)には2本の吸入管(15,16)が貫通しており、吸入管(15,16)の流出端がケーシング(11)の内部空間(S)に開口している。なお、これらの2本の吸入管(15,16)の流入端には、冷媒回路の低圧側の配管が2つに分岐して並列に接続されている。また、ケーシング(11)の上壁部(13)の頂部には吐出管(17)が貫通しており、吐出管(17)の流入端がケーシング(11)の内部空間(S)に開口している。一方、ケーシング(11)の内部空間(S)の下部には、下壁部(14)の内面によって潤滑油を貯留する油溜まり部(18)が形成されている。
【0023】
上記ケーシング(11)の内部空間(S)には、上述したモータ(30)と回転式圧縮機構(50)が収容されている。回転式圧縮機構(50)は、後述するモータ(30)の回転軸(20)に連結され、モータ(30)よりも下方に設けられている。つまり、ケーシング(11)内においてモータ(30)の回転軸(20)は上下方向に延びている。
【0024】
上記モータ(30)の回転軸(20)は、上下に延びる主軸部(21)を有し、該主軸部(21)の下端寄りに2つの偏心部(22,23)が形成されている。これらの偏心部は、上側の第1偏心部(22)と下側の第2偏心部(23)であり、何れも主軸部(21)よりも大径に形成されている。第1偏心部(22)と第2偏心部(23)の偏心方向は互いに180°ずれている。また、主軸部(21)の下端部には遠心ポンプ(26)が設けられている。この遠心ポンプ(26)は、油溜まり部(18)の潤滑油に浸漬され、回転軸(20)の回転に伴い潤滑油を回転軸(20)内の給油路(図示省略)に汲み上げて、回転式圧縮機構(50)およびモータ(30)の各摺動部に供給する。
【0025】
上記回転式圧縮機構(50)は、互いに同軸に構成された2つの回転式圧縮機構部(51a,51b)を備えている。この2つの回転式圧縮機構部(51a,51b)は、シリンダ内でピストンが揺動するように偏心回転運動を行う、いわゆる揺動ピストン型の圧縮機構を構成している。回転式圧縮機構(50)は、上側から下側に向かって、フロントヘッド(60)、第1回転式圧縮機構部(51a)の第1シリンダ(52a)、ミドルプレート(61)、第2回転式圧縮機構部(51b)の第2シリンダ(52b)、リアヘッド(62)が順に積層されている。そして、これらの部材を回転軸(20)の主軸部(21)が上下方向に貫通している。
【0026】
上記第1回転式圧縮機構部(51a)および第2回転式圧縮機構部(51b)は、概ね同一の構造となっている。具体的に、図2にも示すように、各回転式圧縮機構部(51a,51b)は、シリンダ(52a,52b)とピストン(53a,53b)と一対のブッシュ(54a,54b)とブレード(55a,55b)とをそれぞれ備えている。
【0027】
上記各シリンダ(52a,52b)は、略円筒状に形成され、その内部にシリンダ室(56a,56b)を形成している。即ち、第1回転式圧縮機構部(51a)の第1シリンダ(52a)は、軸方向両端の開口がフロントヘッド(60)およびミドルプレート(61)で閉塞されることにより、円環状の第1シリンダ室(56a)を内部に区画形成している。また、第2回転式圧縮機構部(51b)の第2シリンダ(52b)は、軸方向両端の開口がミドルプレート(61)およびリアヘッド(62)で閉塞されることにより、円環状の第2シリンダ室(56b)を内部に区画形成している。なお、フロントヘッド(60)は、ケーシング(11)の胴部(12)の内周面に溶接固定されている。フロントヘッド(60)の中心部は、回転軸(20)の主軸部(21)の軸受け部を構成している。ミドルプレート(61)は、円環状の板部材で構成されている。リアヘッド(62)の中心部は、回転軸(20)の主軸部(21)の軸受け部を構成している。
【0028】
上記各シリンダ(52a,52b)には、吸入管(14,15)が径方向に挿通され、その吸入管(14,15)の流出端がシリンダ室(56a,56b)と連通している。また、第1シリンダ室(56a)にはフロントヘッド(60)を貫通する第1吐出ポート(19a)が開口し、第2シリンダ室(56b)にはリアヘッド(62)を貫通する第2吐出ポート(19b)が開口している。これら吐出ポート(19a,19b)は、シリンダ室(56a,56b)で圧縮された冷媒が流出する吐出口を構成している。
【0029】
上記各ピストン(第1ピストン(53a)および第2ピストン(53b))は、主軸部(21)の各偏心部(第1偏心部(22)および第2偏心部(23))に外嵌する円筒状に形成され、各シリンダ室(第1シリンダ室(56a)および第2シリンダ室(56b))に収容されている。これにより、各ピストン(53a,53b)は、シリンダ室(56a,56b)の内周面と摺接しながら偏心回転運動を行うように構成されている。
【0030】
上記各一対のブッシュ(第1ブッシュ(54a)および第2ブッシュ(54b))は、各シリンダ(52a,52b)に形成された円形のブッシュ溝(第1ブッシュ溝(57a)および第2ブッシュ溝(57b))に内嵌している。一対のブッシュ(54a,54b)は、ブッシュ溝(57a,57b)の内周面に摺接する円弧面とフラット面とを有し、互いのフラット面が向かい合うように配置されている。そして、一対のブッシュ(54a,54b)の各フラット面の間にはブレード(55a,55b)が挿通している。
【0031】
上記各ブレード(第1ブレード(55a)および第2ブレード(55b))は、シリンダ(52a,52b)の径方向に延びている。各ブレード(第1ブレード(55a)および第2ブレード(55b))は、一端がピストン(53a,53b)の外周面に一体形成され、一対のブッシュ(54a,54b)の間を進退する。各ブレード(55a,55b)は、シリンダ室(56a,56b)を、吸入管(15,16)に連通する吸入側の空間(低圧室)と、吐出ポート(19a,19b)に連通する吐出側の空間(高圧室)とに仕切っている。
【0032】
以上のような構成の各回転式圧縮機構部(51a,51b)では、ピストン(53a,53b)がシリンダ室(56a,56b)を偏心回転すると共に、ブレード(55a,55b)がブッシュ(54a,54b)の間を進退し且つブッシュ(54a,54b)がブッシュ溝(57a,57b)で揺動する。その結果、各シリンダ室(56a,56b)では吸入管(14,15)から冷媒が低圧室に吸入されると共に高圧室の冷媒が圧縮される。この高圧室の圧縮冷媒は、各吐出ポート(19a,19b)から流出する。
【0033】
図1に示すように、上記リアヘッド(62)の下面に形成された略環状の溝と、該溝を塞ぐ第1カバー板(63)との間の空間が上記第1マフラー室(71)として形成されている。第1マフラー室(71)には第2吐出ポート(19b)が開口している。また、フロントヘッド(60)の上面に形成された略環状の溝と、該溝を塞ぐ第2カバー板(64)との間の空間が上記第2マフラー室(72)として形成されている。第2マフラー室(72)には第1吐出ポート(19a)が開口している。そして、第2カバー板(64)と、その上側に取り付けられた第3カバー板(65)との間の空間が第3マフラー室(73)として形成されている。なお、第2カバー板(64)には第2マフラー室(72)と第3マフラー室(73)とを連通させるための第1流出口(図示省略)が形成され、第3カバー板(65)には第3マフラー室(73)とケーシング(11)の内部空間(S)とを連通させるための第2流出口(図示省略)が形成されている。また、図2に示すように、上記第1マフラー室(71)と第2マフラー室(72)とは2つの冷媒案内流路(C)によって連通している。各冷媒案内流路(C)は、リアヘッド(62)、第2シリンダ(52b)、ミドルプレート(61)、第1シリンダ(52a)およびフロントヘッド(60)を軸方向に連続的に貫通して形成されている。したがって、各吐出ポート(19a,19b)から流出した圧縮冷媒はマフラー室(71,72,73)を介してケーシング(11)の内部空間(S)へ流出する。
【0034】
〈モータの構造〉
図1および図2に示すように、上記モータ(30)は、上述した回転軸(20)と、該回転軸(20)に固定された円板状のロータ(37)と、該ロータ(37)の軸方向両側に配置された上側ステータ(31)および下側ステータ(42)とを備えている。これらロータ(37)、上側ステータ(31)および下側ステータ(42)は、回転軸(20)と同軸に配置されている。そして、上側ステータ(31)および下側ステータ(42)は、それぞれロータ(37)にエアギャップを介して対向配置されている。上側ステータ(31)および下側ステータ(42)は、何れもケーシング(11)の胴部(12)の内面に溶接固定されている。
【0035】
上記上側ステータ(31)は、ステータコア(33)と、該ステータコア(33)を補強する補強板(32)とを備えている。
【0036】
上記ステータコア(33)は、磁性体である円環状の板部材からなるバックヨーク(34)と、磁性体からなる複数(本実施形態では、12個)のティース(35)とを備えている。バックヨーク(34)は回転軸(20)と同軸に配置されている。バックヨーク(34)の下面には、ティース(35)が嵌合する溝が周方向に等間隔に形成されている。各ティース(35)は、柱状体に形成され、その一端部がバックヨーク(34)の下面の上記溝に嵌合して固定されている。つまり、各ティース(35)はバックヨーク(34)の下面から回転軸(20)と同軸方向に延びている(突出している)。このような構成により、複数のティース(35)はバックヨーク(34)を通じて互いに磁気的に接続されている。
【0037】
上記各ティース(35)には、回転軸(20)と平行な方向を軸としてアキシャルコイル(36)が巻回されている。アキシャルコイル(36)は、多相コイル(例えば、三相コイル)に構成され、スター結線されてインバータから電流が供給される。なお、本実施形態では、アキシャルコイル(36)とは、導線が一纏まりに巻回された態様を指す。また、本実施形態では、アキシャルコイル(36)の各々が1つのティース(35)に巻回されたいわゆる集中巻を例示しているが、アキシャルコイル(36)はこれに限られず、例えば分布巻であってもよい。
【0038】
また、上記各ティース(35)は、バックヨーク(34)と反対側の端部(ロータ(37)に対向する端部)に磁性体板(35a)が取り付けられている。この磁性体板(35a)は、平面形状がティース(35)よりも大きい台形状に形成されている。これにより、ティース(35)のエアギャップに対向する対向面の面積が拡大される。つまり、このような磁性体板(35a)を設けることにより、後述するロータ(37)の永久磁石(41)からの界磁磁束が各アキシャルコイル(36)に鎖交し易くなる。
【0039】
上記補強板(32)は、バックヨーク(34)の外径と同径の円板状に形成されている。補強板(32)は、バックヨーク(34)の上面に当接した状態でバックヨーク(34)に固定されている。そして、バックヨーク(34)および補強板(32)の外周面がケーシング(11)の胴部(12)の内周面に固定されることで、上側ステータ(31)がケーシング(11)に固定される。なお、アキシャルコイル(36)の外周側とケーシング(11)の胴部(12)の内面との間には隙間が形成されている。バックヨーク(34)の外縁部には、上下方向に貫通する複数の切欠き部(34a)(即ち、コアカット)が形成されている。また、補強板(32)の外縁部においても、上記バックヨーク(34)の切欠き部(34a)に対応する位置に切欠き部(32a)が形成されている。つまり、これら切欠き部(32a,34a)は、バックヨーク(34)および補強板(32)の上側の空間と下側の空間とを連通させる連通路を構成している。
【0040】
上記下側ステータ(42)は、磁性体である円環状の板部材からなるステータコア(43)と、該ステータコア(43)に取り付けられる円環状の磁性体(44)とを有している。この磁性体(44)は、ステータコア(43)のロータ(37)側の対向面に嵌め込まれ、ロータ(37)に対向している。つまり、磁性体(44)の一部がステータコア(43)から突出している。なお、ステータコア(43)の外縁部には、上下方向に貫通する複数の切欠き部(43a)(即ち、コアカット)が形成されている。この切欠き部(43a)は上側ステータ(31)の切欠き部(32a,34a)に対応する位置に形成されている。つまり、この切欠き部(43a)は下側ステータ(42)の上側の空間と下側の空間とを連通させる連通路を構成している。本実施形態の圧縮機(10)では、回転式圧縮機構(50)からケーシング(11)の内部空間(S)へ流出した圧縮冷媒は、上側ステータ(31)および下側ステータ(42)の各切欠き部(32a,34a,43a)を通って吐出管(17)から流出する。
【0041】
このように、本実施形態のモータ(30)では、上側ステータ(31)はアキシャルコイル(36)が巻回された巻線型ステータを構成し、下側ステータ(42)はアキシャルコイルを巻回されていない非巻線型ステータを構成している。
【0042】
上記ロータ(37)は、ロータ本体(38)と、該ロータ本体(38)に嵌め込まれる磁性体(39)および永久磁石(41)とを有している。ロータ(37)は、中心部に円形の開口を有する円板状に形成されている。
【0043】
上記ロータ本体(38)は、ボス部(38a)と磁石支持部(38b)と外縁部(38c)とを有し、それらが一体的に形成されている。ボス部(38a)は、ロータ本体(38)の中心部に形成された円筒であり、回転軸(20)の主軸部(21)に外嵌して固定される。磁石支持部(38b)は、ボス部(38a)の全周に亘って外方へ延びる板部材である。磁石支持部(38b)には、上記磁性体(39)および永久磁石(41)が装着される複数(本実施形態では、8つ)の開口が周方向に等間隔に形成されている。外縁部(38c)は、磁石支持部(38b)の外周に連続して形成される円環部材である。
【0044】
上記磁性体(39)および永久磁石(41)は、共に板状に形成され、磁石支持部(38b)の各開口に嵌め込まれている。各開口部には磁性体(39)および永久磁石(41)が1つずつ嵌め込まれる。つまり、本実施形態ではロータ本体(38)の周方向に等間隔に磁性体(39)および永久磁石(41)が各8つ装着されている。各開口部では、磁性体(39)と永久磁石(41)が互いに上下方向(即ち、磁石支持部(38b)の厚み方向)に積層された(重ね合わせた)状態で嵌め込まれ、上側(即ち、上側ステータ(31)側)に磁性体(39)が位置し下側(即ち、下側ステータ(42)側)に永久磁石(41)が位置する。つまり、本実施形態のロータ(37)では、磁性体(39)が上側ステータ(31)におけるティース(35)の磁性体板(35a)に対向し、永久磁石(41)が下側ステータ(42)における磁性体(44)に対向している。
【0045】
上記各永久磁石(41)は、その厚み方向に着磁されており、その両面にN極またはS極の磁極を呈している。そして、各永久磁石(41)は、隣り合う永久磁石(41)の磁極の極性が異なるように配置されている。また、各磁性体(39)は、励磁された上側ステータ(31)の外部磁界によってロータ(37)に減磁界が作用する場合に、各永久磁石(41)に作用する減磁界の影響を緩和し、各永久磁石(41)が減磁するのを防止する。なお、下記に詳述する下側ステータ(42)はコイルを有さず励磁されないため、下側ステータ(42)からの減磁界を考慮する必要はない。よって、永久磁石(41)の下側には磁性体を設けず、永久磁石(41)の下面は露出している。
【0046】
上記モータ(30)では、上側ステータ(31)のアキシャルコイル(36)への通電により回転磁界が発生し、この回転磁界でロータ(37)の永久磁石(41)を吸引反発して回転力(マグネットトルク)が発生する。この回転力によって、ロータ(37)が回転軸(20)を中心に該回転軸(20)と共に回転する。
【0047】
また、上記ロータ(37)は、本発明の特徴として、ロータ本体(38)の外縁部(38c)の形状が工夫されている。具体的に、本実施形態のロータ本体(38)は従来に比べて大径に形成されている。ロータ本体(38)の外縁部(38c)は、ボス部(38a)および磁石支持部(38b)と同じ材質で一体形成されている。そして、外縁部(38c)は磁石支持部(38b)よりも厚肉に形成されている。つまり、外縁部(38c)は磁石支持部(38b)よりも上下(回転軸(20)の軸方向)に突出している。このように、ロータ本体(38)の直径が大きくなり且つその外縁部(38c)が厚肉に形成されることで、ロータ(37)の質量が増大する。さらに、外縁部が磁石支持部と同じ肉厚で形成される従来のものに比べて、ロータ(37)の外縁部(38c)の質量が大きくなる。その結果、ロータ(37)の慣性モーメントが増大する。この慣性モーメントが増大することで、ロータ(37)の回転時において回転軸(20)が倒れようとする動きが抑制され、ロータ(37)の回転運動が安定する。これにより、ロータ(37)の回転振動が低減される。また、外縁部(38c)が磁石支持部(38b)の厚みよりも15%以上厚肉であれば、人が感知できるレベルの騒音の差となる。
【0048】
また、従来より、上側ステータ(31)のアキシャルコイル(36)とケーシング(11)の胴部(12)との間には環状の隙間が存する。本実施形態では、ロータ本体(38)の外縁部(38c)が上記環状の隙間に突出している。つまり、デッドスペースである環状の隙間を利用して、ロータ本体(38)の外縁部(38c)を突出させるようにしている。
【0049】
−実施形態1の効果−
以上のように、本実施形態のモータ(30)では、ロータ(37)の外縁部(38c)をその内側の磁石支持部(38b)よりも厚肉に形成するようにした。そのため、従来のロータに比べて、ロータ(37)の外縁部(38c)の質量を増大させることができる。これによって、ロータ(37)の慣性モーメントを増大させることができる。この慣性モーメントが増大することで、ロータ(37)の回転運動を安定させることができ、ロータ(37)の回転振動を低減することができる。その結果、モータ(30)の騒音低減が可能となる。
【0050】
さらに、本実施形態では、ロータ(37)の直径を従来よりも大きくしたので、これによっても、ロータ(37)の外縁部(38c)の質量を増大させることができる。そのため、ロータ(37)の慣性モーメントがより増大して、ロータ(37)の回転振動ひいてはモータ(30)の騒音をより低減することができる。
【0051】
そして、上記圧縮機(10)では、回転式圧縮機構(50)の動作による振動も発生する。ところが、上述したようにモータ(30)の振動が低減されるため、その分、圧縮機(10)の全体の振動を低減することが可能となる。その結果、圧縮機(10)の騒音低減が可能となる。
【0052】
また、本実施形態のモータ(30)では、ロータ本体(38)の外縁部(38c)をデッドスペースであるアキシャルコイル(36)とケーシング(11)との間の環状隙間に突出させるようにした。そのため、モータ(30)の配置スペースを増大させることなく、ロータ(37)の慣性モーメントを効果的に増大させることができる。
【0053】
《実施形態2》
本発明の実施形態2について図4を参照しながら説明する。本実施形態の圧縮機(10)は、上記実施形態1のモータ(30)においてロータ(37)の構成を変更するようにしたものである。
【0054】
具体的に、本実施形態のロータ(37)は、上記実施形態1のものと比べて、ロータ本体(38)の外縁部(38d)の形状が異なる。本実施形態のロータ本体(38)の外縁部(38d)は、磁石支持部(38b)の外周に連続して形成される円環部材であり、肉厚(板厚)が磁石支持部(38b)の肉厚と同じである。そして、本実施形態のロータ本体(38)は、外縁部(38d)の材質がボス部(38a)および磁石支持部(38b)の材質と異なる。外縁部(38d)は、ボス部(38a)や磁石支持部(38b)の材質よりも比重の大きい材質が用いられている。
【0055】
したがって、本実施形態のロータ(37)は、形状自体は従来のものと殆ど変わらないが、外縁部(38d)の質量が従来よりも増大する。そのため、本実施形態においても、ロータ(37)の慣性モーメントを増大させることができる。よって、ロータ(37)の回転振動を低減することができ、モータ(30)ひいては圧縮機(10)の騒音低減が可能となる。また、外縁部(38d)が磁石支持部(38b)の材質よりも15%以上比重の大きい材料であれば、人が感知できるレベルの騒音の差となる。
【0056】
〈その他の実施形態〉
本発明は、上記実施形態について以下のように構成してもよい。
【0057】
例えば、本発明は、上記実施形態1におけるロータ(37)の外縁部(38c)について、上記実施形態2と同様に、磁石支持部(38b)等の材質よりも比重の大きい材質を用いるようにしてもよい。この場合、ロータ(37)の外縁部(38c)の質量が一層大きくなる。したがって、ロータ(37)の慣性モーメントを一層増大させることができ、ロータ(37)の回転振動をより低減することができる。また、外縁部(38d)が磁石支持部(38b)のよりも15%以上厚肉で、15%以上比重の大きい材料であれば、人が一層容易に感知できるレベルの騒音の差となる。
【0058】
また、本発明は、上記実施形態1のモータ(30)において、ロータ(37)の外縁部(38c)の突出形状はこれに限るものではなく他の突出形状を採用してもよいことは勿論である。つまり、外縁部(38c)の肉厚(板厚)が磁石支持部(38b)の肉厚よりも厚くなる形状であれば、どのような形状であってもよい。
【0059】
また、本発明は、上記各実施形態のモータ(30)において、下側ステータ(42)を省略するようにしてもよいし、下側ステータ(42)を上側ステータ(31)と同様に巻線型ステータに構成するようにしてもよい。
【0060】
また、本発明は、上記各実施形態において、回転式圧縮機構(50)は例えばスクロール式等の他の回転式の圧縮機構であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明は、アキシャルギャップ型モータおよびそれを用いた回転式の圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0062】
10 圧縮機
20 回転軸
30 アキシャルギャップ型モータ
31 上側ステータ(ステータ)
37 ロータ
38b 磁石支持部
38c 外縁部
38d 外縁部
41 永久磁石
50 回転式圧縮機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に回転軸(20)が固定された円板状のロータ(37)と、該ロータ(37)に対し上記回転軸(20)の軸方向にエアギャップを介して対向配置されるステータ(31)とを備えたアキシャルギャップ型モータであって、
上記ロータ(37)は、複数の永久磁石(41)が周方向に嵌め込まれる板状の磁石支持部(38b)と、該磁石支持部(38b)の外周に連続して形成される外縁部(38c)とを有し、該外縁部(38c)が上記磁石支持部(38b)よりも厚肉に形成されている
ことを特徴とするアキシャルギャップ型モータ。
【請求項2】
中心に回転軸(20)が固定された円板状のロータ(37)と、上記ロータ(37)に対し上記回転軸(20)の軸方向にエアギャップを介して対向配置されるステータ(31)とを備えたアキシャルギャップ型モータであって、
上記ロータ(37)は、複数の永久磁石(41)が周方向に嵌め込まれる板状の磁石支持部(38b)と、該磁石支持部(38b)の外周に連続して形成される外縁部(38d)とを有し、該外縁部(38d)が上記磁石支持部(38b)の材質よりも比重の大きい材質で形成されている
ことを特徴とするアキシャルギャップ型モータ。
【請求項3】
請求項1において、
上記ロータ(37)の外縁部(38c)は、上記磁石支持部(38b)の材質よりも比重の大きい材質で形成されている
ことを特徴とするアキシャルギャップ型モータ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項のアキシャルギャップ型モータ(30)と、該アキシャルギャップ型モータ(30)の回転軸(20)に連結され、冷媒を圧縮する回転式圧縮機構(50)とを備えている
ことを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−200077(P2011−200077A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66411(P2010−66411)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】