説明

アクリルアミドの生成抑制方法とその用途

【課題】 可食材料を高温で加熱処理することにより生成するアクリルアミドの量を積極的に抑制する方法とその用途を確立し、より安全な飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの中間製品などの組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 加熱処理によりアクリルアミドを生成する恐れのある可食材料を加熱処理するに際し、当該可食材料にアクリルアミド生成抑制能を有する有機物質を含有せしめて加熱処理することを特徴とするアクリルアミドの生成抑制方法、この方法を用いて製造されるアクリルアミドの生成が抑制された飲食物、化粧品、医薬品又はそれらの中間製品などの組成物、並びにアミノ基を有する有機物質及び/又はアクリルアミド生成能を有する糖質とアクリルアミド生成抑制能を有する有機物質を含有せしめてなるアクリルアミド生成抑制能を備えた飲食物、化粧品、医薬品又はそれらの中間製品などの組成物を提供することにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発癌性物質あるいは神経障害を起こす物質として知られているアクリルアミドの生成抑制方法とその用途に関し、アミノ基を有する有機物質及び/又はアクリルアミド生成能を有する糖質などを含有する可食材料を比較的高温に加熱処理することにより生成するアクリルアミドの生成抑制方法、詳細には、加熱処理によりアクリルアミドを生成する恐れのある可食材料を加熱処理するに際し、当該可食材料にアクリルアミド生成抑制能を有する有機物質を含有せしめて加熱処理することを特徴とするアクリルアミドの生成抑制方法とその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、非特許文献1によれば、我々が日常的に食する機会の多い加工食品、例えば、ポテトチップ、フライドポテト、パン、揚げパンなどに、発癌性物質として知られているアクリルアミドが相当量含まれていることが判明し、健康への影響が懸念されている。
【0003】
一方、アクリルアミドの生成機構については、非特許文献2において、食品材料に含まれるL−アスパラギンなどのアミノ酸とD−グルコースなどの還元性糖質とが100℃を越える高温に加熱されてメイラード反応を起こし、アクリルアミドを生成する機構が提唱されている。
【0004】
このように、アクリルアミドは可食材料の加熱加工工程で生成することが判明したものの、その生成量を低減させるか、更には積極的にアクリルアミドの生成を抑制する方法は知られておらず、その方法の確立が望まれる。このことは、非特許文献3において、「アクリルアミドの生成抑制及び毒性抑制についての研究を早急に実施する。」と発表されていることからもうかがえる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】エデン・タレク(Eden Tareke)ら、『ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フード・ケミストリイ(Journal of Agricaltural and Food Chemistry)』、第50巻、4998乃至5006頁(2002年)
【非特許文献2】ドナルド・エス・モットラム(Donald S. Mottram)ら、『ネイチャー(Nature)』、第419巻、448乃至450頁(2002年)
【非特許文献3】厚生労働省ホームページ、『加工食品中のアクリルアミドについて』、厚生労働省食品保健部、平成14年10月31日付トピックス、http://www.mhlw.go.jp./houdou/2002/10/h1031−2.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、可食材料を高温で加熱処理することにより生成するアクリルアミドの量を積極的に抑制する方法を確立し、より安全な飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの中間製品などの組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アクリルアミドの生成機構に着目し、高温下でアミノ基を有する有機物質と各種糖質との共存の影響について鋭意研究を進めたところ、意外にも、特定の有機物質、詳細には、アクリルアミド生成抑制能を有する糖質及び/又はフェノール性物質、さらに詳細には、α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、還元パラチノース、α−グルコシルα,α−トレハロース、α−マルトシルα,α−トレハロース、D−マンニトール、D−エリスリトール、及びβ−シクロデキストリンから選ばれる1種又は2種以上の糖質、及び/又はカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンなどのカテキン類、ケルセチン、イソケルシトリン、ルチン、ナリンジン、ヘスペリジンなどのフラボノイド類、ケンフェロール、けい皮酸、キナ酸、3,4−ジヒドロけい皮酸、3−クマル酸、4−クマル酸、p−ニトロフェノール、クルクミン、スコポレチン、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル及びプロアントシアニジン又はそれらの糖質誘導体から選ばれる1種又は2種以上のフェノール性物質を、アミノ基を有する有機物質と、これと反応してアクリルアミドを生成し得る糖質との共存下で加熱処理することによって、当該特定の有機物質を共存させない場合と比較して、アクリルアミドの生成を顕著に抑制し得るという全く新しい事実を見出し、これに基づいて本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、加熱処理によりアクリルアミドを生成する恐れのある可食材料を加熱処理するに際し、当該可食材料にアクリルアミド生成抑制能を有する有機物質を含有せしめて加熱処理することを特徴とするアクリルアミドの生成抑制方法、詳細には、アミノ基を有する有機物質と、これと反応してアクリルアミド生成能を有する糖質とを含有する、加熱処理によりアクリルアミドを生成する恐れのある可食材料を加熱処理するに際し、当該可食材料にアクリルアミド生成抑制能を有する有機物質を含有せしめて加熱処理することを特徴とするアクリルアミドの生成抑制方法を確立し、この方法を用いて製造されるアクリルアミドの生成が抑制された飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの中間製品などの組成物、アクリルアミド生成抑制能を有する有機物質を有効成分とするアクリルアミドの生成抑制剤、アクリルアミド生成抑制能を有する有機物質を含有せしめたアクリルアミドの生成抑制能を備えた飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの中間製品などの組成物を提供することにより、上記の課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアクリルアミドの生成抑制方法によれば、加熱処理によりアクリルアミドを生成する恐れのある可食材料を加熱処理するに際し、可食材料に含まれ及び/又は含ませる、アミノ基を有する有機物質と、これと反応してアクリルアミド生成能を有する糖質からのアクリルアミドの生成を顕著に抑制することができる。また、本発明のアクリルアミドの生成抑制方法を飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの中間製品など各種組成物の製造に応用することで、発癌及び神経障害などを惹起する恐れの少ない安全性の高い組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明でいう加熱処理によりアクリルアミドを生成する恐れのある可食材料とは、アミノ基を有する有機物質及び/又はこれと反応してアクリルアミド生成能を有する糖質、又はそれを含み及び/又は含ませた可食材料であって、加熱処理することによりアクリルアミドを生成する恐れのある可食材料全般を意味する。
【0011】
本発明でいうアミノ基を有する有機物質としては、例えば、グリシン、L−アラニン、L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−セリン、L−トレオニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−アスパラギン、L−グルタミン、L−リジン、L−アルギニン、L−システイン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トリプトファン及びL−プロリンから選ばれるアミノ酸若しくはその塩、又はそれらアミノ酸を構成アミノ酸として含むペプチド、蛋白質などが挙げられる。
【0012】
アミノ基を有する有機物質を含む可食材料としては、前記アミノ基を有する有機物質、又はこれの1種又は2種以上を含有する、例えば、農産物、畜産物、水産物、又はそれらの加工品などを挙げることができ、より具体的には、例えば、前記のアミノ基を有する有機物質を含むアミノ酸系及び/又は核酸系調味料の他、醤油、味噌、ソース、焼き肉のたれ、ケチャップ、マヨネーズ、バター、チーズ、食酢、みりん、清酒、ワイン、カレールー、シチューの素、ダシの素、牡蠣エキス、カツオエキス、昆布エキス、椎茸エキス、酵母エキス、肉エキスなどの調味料を挙げることができる。
【0013】
本発明でいうアクリルアミド生成能を有する糖質としては、アミノ基を有する有機物質と反応してアクリルアミドを生成する恐れのある糖質全般を意味し、その例としては、D−キシロース、L−アラビノース、D−グルコース、D−フラクトース及びD−ガラクトースから選ばれる1種又は2種以上の単糖、D−キシロース、L−アラビノース、D−グルコース、D−フラクトース及びD−ガラクトースから選ばれる1種又は2種以上の糖質を構成糖として含む還元性オリゴ糖、熱や酸で分解し易い、D−フラクトースを構成糖として含むスクロース、ラフィノース、スタキオースなどの非還元性オリゴ糖、更には、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸誘導体、又はそれらの塩などのL−アスコルビン酸類が挙げられる。L−アスコルビン酸誘導体としては、L−アスコルビン酸2−グルコシド、L−アスコルビン酸5−グルコシド、L−アスコルビン酸6−グルコシド、L−アスコルビン酸2−リン酸、L−アスコルビン酸6−脂肪酸エステルなどが挙げられる。また、L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸誘導体の塩としては、L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸誘導体のナトリウム塩などのアルカリ金属塩又はマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0014】
アクリルアミド生成能を有する糖質を含む可食材料としては、前記の糖質、又はそれの1種又は2種以上を含有する、例えば、農産物、畜産物、水産物又はそれらの加工品などを挙げることができ、より具体的には、例えば、前記の糖質を含む、ぶどう糖、果糖、異性化糖、水飴、還元水飴、乳糖、砂糖などの糖質甘味料を挙げることができる。
【0015】
前記のアミノ基を有する有機物質及び/又はこれと反応してアクリルアミド生成能を有する糖質を含有する可食材料を、飲食物の例で具体的に述べれば、前記した調味料や糖質甘味料に加えて、例えば、スライスポテト、ゆでいも、蒸しいも、マッシュポテト、再構成したいも成形品、いも粉、発芽小麦、引き割り小麦、小麦粉、小麦胚芽、ドウ、グルテン、発芽大麦、発芽米、米グリッツ、米粉、コーングリッツ、コーンフラワー、ソバ粉、大豆粉、脱脂大豆、大豆カゼイン、ゆで豆、ペースト豆、発芽大豆などや、更に、それらの材料を1種又は2種以上配合して製造できる、例えば、スポンジミックス、ドーナツミックス、天麩羅粉、天麩羅種セット、サラダミックスなどのプレミックス製品や中間製品を含む農産物とその加工品が挙げられ、また、例えば、冷蔵又は冷凍肉、枝肉、牛乳、脱脂乳、生クリーム、ミルクカゼイン、バター、チーズ、ホエー、全卵、液卵、卵黄、卵白、ゆで卵などの畜産品、又はそれらの加工品、更には、例えば、冷蔵又は冷凍魚、フィレー、すり身、干物、塩蔵、貝のむき身などの水産物又はその加工品などが挙げられる。
【0016】
本発明でいうアクリルアミド生成抑制能を有する有機物質とは、前記のアミノ基を有する有機物質と前記のアクリルアミド生成能を有する糖質とを含む可食材料を加熱処理するに際し、共存させることでアクリルアミドの生成を抑制する作用を有する有機物質全般を意味する。アクリルアミド生成抑制能を有する有機物質の例としては、アクリルアミド生成抑制能を有する糖質及び/又はフェノール性物質があり、アクリルアミド生成抑制能を有する糖質としては、例えば、α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、還元パラチノース、α−グルコシルα,α−トレハロース、α−マルトシルα,α−トレハロース、D−マンニトール、D−エリスリトール、及びβ−シクロデキストリンなどの糖質が挙げられ、また、アクリルアミド生成抑制能を有するフェノール性物質としては、例えば、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキンなどのカテキン類、ケルセチン、イソケルシトリン、ルチン、ナリンジン、ヘスペリジンなどのフラボノイド類、ケンフェロール、けい皮酸、キナ酸、3,4−ジヒドロけい皮酸、3−クマル酸、4−クマル酸、p−ニトロフェノール、クルクミン、スコポレチン、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル及びプロアントシアニジン又はこれらの糖質誘導体などのフェノール性物質が挙げられ、それら有機物質から選ばれる1種又は2種以上は本発明に有利に利用できる。とりわけ、α,α−トレハロース及び/又はα,β−トレハロースなどの糖質や、また、ルチン、ナリンジン及び/又はヘスペリジンなどのフェノール性物質は、アミノ基を有する有機物質とアクリルアミド生成能を有する糖質とを含む可食材料における、加熱処理によるアクリルアミドの生成を顕著に抑制する。
【0017】
上記のアクリルアミド生成抑制能を有する糖質として、市販の糖質を用いることも有利に実施できる。例えば、α,α−トレハロースとしては、高純度含水結晶α,α−トレハロース((株)林原商事販売、登録商標『トレハ』)が、α,β−トレハロースとしては、試薬級結晶α,β−トレハロース((株)林原生物化学研究所販売、商品名『ネオトレハロース』)が、還元パラチノースとしては、粉末還元パラチノース(三井製糖販売、商品名『パラチニット』)又は(セレスタージャパン販売、商品名『イソマルデックス』)などが、D−マンニトールとしては、粉末結晶マンニトール(東和化成株式会社販売、商品名『マンニトール』)などが、D−エリスリトールとしては、粉末結晶エリスリトール(三菱化学フーズ株式会社販売、商品名『エリスリトール』)又は(日研化学株式会社販売、商品名『エリスイート』)などが、また、β−シクロデキストリンとしては、高純度β−シクロデキストリン(塩水港精糖株式会社販売、商品名『デキシーパールβ−100』)などが有利に利用できる。
【0018】
本発明におけるアクリルアミド生成抑制能を有するフェノール性物質としては、例えば、市販されている試薬級のカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンなどのカテキン類、ケルセチン、イソケルシトリン、ルチン、ナリンジン、ヘスペリジンなどのフラボノイド類、ケンフェロール、けい皮酸、キナ酸、3,4−ジヒドロけい皮酸、3−クマル酸、4−クマル酸、p−ニトロフェノール、クルクミン、スコポレチン、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル及びプロアントシアニジン又はこれらの糖質誘導体などのフェノール性物質はもとより、健康食品として販売されているそれらの混合物や糖質誘導体を用いることも有利に実施できる。例えば、カテキン類としては、緑茶ポリフェノール(東京フードテクノ株式会社販売、登録商標『ポリフェノン』)などが、また、フラボノイド類としては、糖転移ルチン(株式会社林原商事販売、商品名『αGルチン』)、糖転移ナリンジン、糖転移ヘスペリジン(株式会社林原商事販売、商品名『αGヘスペリジン』)糖転移イソケルシトリン(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社販売、商品名『サンメリン』)などフラボノイドの糖質誘導体も有利に利用できる。
【0019】
本発明において、アクリルアミドの生成抑制作用を充分発揮させるためには、アクリルアミド生成抑制能を有する有機物質が糖質の場合、アミノ基を有する有機物質又はアクリルアミド生成能を有する糖質に対して、モル比で、通常、0.5以上、好ましくは0.75以上、より好ましくは1.0以上含有させるのが望ましい。モル比0.5未満では共存によるアクリルアミド生成抑制作用が充分に発揮できない場合がある。また、アクリルアミド生成抑制能を有する有機物質がフェノール性物質の場合、アミノ基を有する有機物質又はアクリルアミド生成能を有する糖質に対して、モル比で、通常、0.004以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上含有させるのが望ましい。モル比0.004未満では共存によるアクリルアミド生成抑制作用が充分に発揮できない場合がある。
【0020】
本発明でいう加熱処理とは、可食材料中に含まれるアミノ基を有する有機物質と、アクリルアミド生成能を有する糖質とが反応してアクリルアミドを生成する温度での加熱処理を意味し、通常、80℃以上、具体的には約100℃乃至240℃での処理を指す。加熱の方法は特に限定するものではなく、その例としては、例えば、焼く、揚げる、焙煎する、電子レンジ加熱する、レトルト加熱する、誘導加熱する、加圧加熱する、茹でる、蒸す、煮る、加熱殺菌するなどの方法が挙げられる。
【0021】
一般に、可食材料中に含まれるアミノ基を有する有機物質とアクリルアミド生成能を有する糖質とからのアクリルアミドの生成量は、加熱温度が高いほど、また、加熱時間が長いほど増加する。さらに、後述する実験の項で示すように、同じ加熱温度及び加熱時間であっても試料(可食材料)の水分含量が低いほどアクリルアミドの生成量は増加する。本発明におけるアクリルアミド生成抑制能を有する有機物質は、試料(可食材料)の水分含量が高い場合と低い場合のいずれにおいてもアクリルアミドの生成を抑制することができる。とりわけ、アクリルアミドの生成を顕著に抑制するためには、加熱処理する際の試料(可食材料)の水分含量は、通常、約10質量%以上が好適である。
【0022】
本発明のアクリルアミドの生成抑制方法を用いてアクリルアミド生成の抑制された飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの中間製品などの各種の組成物を製造することができる。アクリルアミド生成抑制能を有する有機物質を、飲食物、化粧品又は医薬品など各種の組成物を製造するための可食材料に含有せしめる操作は、当該可食材料を加熱処理する前までに行えばよく、可食材料を調製するための原材料を配合する段階であっても、また、加熱処理の直前に添加及び/又は混合してもよい。含有せしめる具体的方法としては、例えば、混和、混捏、溶解、分散、懸濁、乳化、浸透、塗布、噴霧、被覆、注入、浸漬などの方法が適宜選択できる。また、必要に応じて、遺伝子操作などにより、果物、野菜などの植物体細胞内にアクリルアミド生成抑制能を有する有機物質、例えば、糖質及び/又はフェノール性物質を予め生成せしめ、含有させて可食材料にすることも有利に実施できる。
【0023】
本発明においては、アクリルアミド生成抑制能を有するα,α−トレハロース、α,β−トレハロース、還元パラチノース、α−グルコシルα,α−トレハロース、α−マルトシルα,α−トレハロース、D−マンニトール、D−エリスリトール、及びβ−シクロデキストリンから選ばれる1種又は2種以上の糖質及び/又はカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンなどのカテキン類、ケルセチン、イソケルシトリン、ルチン、ナリンジン、ヘスペリジンなどのフラボノイド類、ケンフェロール、けい皮酸、キナ酸、3,4−ジヒドロけい皮酸、3−クマル酸、4−クマル酸、p−ニトロフェノール、クルクミン、スコポレチン、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル及びプロアントシアニジン又はそれらの糖質誘導体から選ばれる1種又は2種以上のフェノール性物質を有効成分として含有させ、必要に応じて適宜組み合わせて含有させて、アクリルアミド生成抑制剤とすることも有利に実施できる。
【0024】
また、本発明においては、前記のアクリルアミドの生成抑制能を有する有機物質を、加熱処理によりアクリルアミドを生成する可食材料に含有させることにより、アクリルアミドの生成抑制能を備えた可食材料含有組成物に仕上げることも有利に実施できる。また、前記のアクリルアミドの生成抑制能を有する糖質及び/又はフェノール性物質を、前記のアミノ基を有する有機物質及び/又は前記のアクリルアミド生成能を有する糖質と組み合わせることにより、アクリルアミド生成抑制能を備えた組成物に仕上げることも有利に実施できる。これを、より具体的に述べれば、例えば、グリシン、L−アラニン、L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−セリン、L−トレオニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−アスパラギン、L−グルタミン、L−リジン、L−アルギニン、L−システイン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トリプトファン及びL−プロリンから選ばれるアミノ酸若しくはその塩、又は、それらアミノ酸を構成アミノ酸として含むペプチド又は蛋白質などのアミノ基を有する有機物質や、D−キシロース、L−アラビノース、D−グルコース、D−フラクトース及びD−ガラクトースから選ばれる1種又は2種以上の単糖、D−キシロース、L−アラビノース、D−グルコース、D−フラクトース及びD−ガラクトースから選ばれる1種又は2種以上の糖質を構成糖として含む還元性オリゴ糖、D−フラクトースを構成糖として含む非還元性オリゴ糖、及び、L−アスコルビン酸類から選ばれる1種又は2種以上の糖質などの場合、共存する糖質の量又はアミノ基を有する有機物質の量にも依存するものの、通常、アクリルアミド生成抑制能を有する糖質として、例えば、α,α−トレハロース及び/又はα,β−トレハロースをモル比で0.5以上、好ましくは0.75以上、さらに好ましくは1.0以上を、及び/又はアクリルアミド生成抑制能を有するフェノール性物質として、例えば、ルチン、ナリンジン及び/又はヘスペリジンをモル比で0.004以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上を、それら調味料や糖質などに含有させることにより、得られるそれら調味料や糖質などの組成物は、アクリルアミドの生成抑制能を備えた組成物となり、これを単独で、又は他の材料などと共に加熱処理しても、アクリルアミドの生成は顕著に抑制され、実質的にその生成が阻止されるという優れた効果を得ることができる。
【0025】
また、前記のアクリルアミドの生成抑制能を有する有機物質は、これをL−アスコルビン酸類に混合、含有せしめることにより、アクリルアミドの生成抑制能を備えた各種用途のL−アスコルビン酸類含有組成物、好ましくは、取り扱い容易で、保存安定性良好な、粉末、顆粒、錠剤などの固状組成物とすることも有利に実施できる。斯るL−アスコルビン酸類含有組成物は、L−アスコルビン酸類を必要とする組成物であって、これを、他に加熱処理によりアクリルアミドを生成する恐れのある可食材料を含む組成物の製造に用いることにより、それらの製造工程でアクリルアミドが生成するのを効果的に抑制することができる。斯かるL−アスコルビン酸類含有組成物は、L−アスコルビン酸類(ビタミンC)を強化した安全性の高い高品質の飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの中間製品などの各種組成物を製造するために有利に用いることができる。
【0026】
本発明のアクリルアミドの生成抑制方法を採用して製造できる組成物のうち、飲食物としては、ヒト、ペットを含む動物のための加熱処理して製造される飲食物、例えば、ポテトチップ、フライドポテト、フライドオニオン、コーンチップス、バナナチップス、野菜チップ、揚げせんべい、大学芋、芋ケンピ、かりんとう、スナック菓子などの揚げ菓子、コロッケ、カツレツ、フライ、天麩羅、油揚げ、薩摩揚げ、揚げ玉、厚揚げ、春巻き、油揚げ麺(即席麺)などの揚げ物、せんべい、あられ、どら焼き、最中、饅頭、鯛焼き、たこ焼き、麦こがしなどの和菓子、ビスケット、クラッカー、クッキー、プレッツェル、シリアル、ポップコーンなどの洋菓子又はスナック食品、パン、ピザ、パイ、スポンジケーキ、ワッフル、カステラ、ドーナツなどの小麦加工品、ハム、ソーセージなどの畜肉加工品、煎り卵、ダシ巻き卵、錦糸卵、ゆで卵などの卵加工品、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、魚肉ソーセージなどの水産加工品、焼肉、焼き鳥、焼き豚、焼き魚、焼きおにぎり、焼きもち、チャーハン、ハンバーグ、餃子、グラタン、ハヤシライス、カレーライス、リゾット、キッシュなどの惣菜食品、アミノ酸飲料、ペプチド飲料、豆乳飲料、乳飲料、乳酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、ココア飲料、コーヒー飲料、甘酒、しるこなどの清涼飲料、麦茶、ほうじ茶、中国茶、紅茶などの茶加工品及び茶飲料、果物、野菜、ハーブなどのジュース、乾果、プリザーブ、ソース、チャツネ、ジャム、マーマレード、スプレッド、ゼリー、キャンディー、缶詰、ビン詰、煮物、揚げ物、焼物などの果物、野菜の加工品、甘栗、落花生、アーモンド、チョコレートパウダー、コーヒーパウダー、コーヒー、ココア、カレー粉、いりゴマ、いり米、いり大麦、はったい粉、きな粉、焙煎小麦胚芽食品、焙煎米胚芽食品などの焙煎加工品、調味された農産加工品、肉加工品、卵加工品、水産加工品、更にはそれらのビン、缶詰などの飲食物、更には、クッキー、ビスケット、ビーフジャーキー、野菜加工品などのペットフード、飼料、餌料など各種飲食物が挙げられる。本発明のアクリルアミドの生成抑制方法を用いて得られるこれら飲食物は、加熱処理をしてもアクリルアミドの量が顕著に低減されており、発癌や神経障害を惹起する恐れの少ない、安全で日常的に飲食できる飲食物として有利に利用できる。
【0027】
本発明のアクリルアミドの生成抑制方法を採用して製造できる組成物のうち、化粧品としては、例えば、ローション、クリーム、乳液、ゲル、粉末、ペースト、ブロックなどの形態で、石けん、化粧石けん、肌洗い粉、洗顔クリーム、洗顔フォーム、フェイシャルリンス、ボディーシャンプー、ボディーリンス、シャンプー、リンス、髪洗い粉などの清浄用化粧品、セットローション、ヘアブロー、チック、ヘアクリーム、ポマード、ヘアスプレー、ヘアリキッド、ヘアトニック、ヘアローション、養毛料、染毛料、頭皮用トリートメントなどの頭髪化粧品、化粧水、バニシングクリーム、エモリエントクリーム、エモリエントローション、パック用化粧料(ゼリー状ピールオフタイプ、ゼリー状ふきとり型、ペースト状洗い流し型、粉末状など)、クレンジングクリーム、コールドクリーム、ハンドクリーム、ハンドローション、乳液、保湿液、アフターシェービングローション、シェービングローション、プレシェーブローション、アフターシェービングクリーム、アフターシェービングフォーム、プレシェーブクリーム、化粧用油、ベビーオイルなどの基礎化粧品、ファンデーション(液状、クリーム状、固型など)、タルカムパウダー、ベビーパウダー、ボディパウダー、パヒュームパウダー、メークアップベース、おしろい(クリーム状、ペースト状、液状、固型、粉末など)、アイシャドウ、アイクリーム、マスカラ、眉墨、まつげ化粧料、頬紅、頬化粧水などのメークアップ化粧品、香水、練香水、粉末香水、オーデコロン、パフュームコロン、オードトワレなどの芳香化粧品、日焼けクリーム、日焼けローション、日焼けオイル、日焼け止めクリーム、日焼け止めローション、日焼け止めオイルなどの日焼け・日焼け止め化粧品、マニキュア、ペディキュア、ネイルカラー、ネイルラッカー、エナメルリムーバー、ネイルクリーム、爪化粧料などの爪化粧品、アイライナー化粧品、口紅、リップクリーム、練紅、リップグロスなどの口唇化粧品、練歯磨、マウスウォッシュなどの口腔化粧品、バスソルト、バスオイル、浴用化粧料などの入浴用化粧品などが挙げられる。本発明のアクリルアミドの生成抑制方法を用いて得られるこれら化粧品は、加熱処理をしてもアクリルアミドの量が顕著に低減されており、発癌や神経障害を惹起する恐れの少ない、安全で日常的に使用できる化粧品として有利に利用できる。
【0028】
本発明のアクリルアミドの生成抑制方法を採用して製造できる組成物のうち、医薬品としては、例えば、ドリンク剤、エキス剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、眼軟膏剤、口腔粘膜貼付剤、懸濁剤、乳剤、硬膏剤、座剤、散剤、酒精剤、錠剤、シロップ剤、注射剤、チンキ剤、点眼剤、点耳剤、点鼻剤、トローチ剤、軟膏剤、芳香水剤、鼻用噴霧剤、リモナーデ剤、リニメント剤、流エキス剤、ローション剤、湿布剤、噴霧剤、塗布剤、浴剤、貼付剤、パスタ剤、パップ剤などが挙げられる。本発明のアクリルアミドの生成抑制方法を用いて得られるこれら医薬品は、加熱処理をしてもアクリルアミドの量が顕著に低減されており、発癌や神経障害を惹起する恐れの少ない、安全で日常的に投与できる医薬品として有利に利用できる。
【0029】
以下に、実験により本発明を具体的に説明する。
【0030】
<実験1:加熱処理によるアミノ酸と各種糖質からのアクリルアミドの生成>
加熱処理によるアミノ酸と各種糖質からのアクリルアミド生成試験は非特許文献2に記載のドナルド・エス・モットラム(Donald S. Mottram)らの方法に準じ、アミノ酸としてL−アスパラギンを用いて以下のように行った。D−グルコース、D−フラクトース、D−ガラクトース、α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、マルトース、スクロース、ラクトース、又はL−アスコルビン酸1mmolをそれぞれ秤量し、予めL−アスパラギン1mmolを採取しておいた20ml容の共栓付試験管にそれぞれ加え、これに0.5Mリン酸緩衝液(pH6.0)を1ml加えた。次いで、それぞれの試験管を密栓し、150℃のオイルバス(油浴)で20分間加熱処理した。加熱処理終了後、直ちに流水中で室温まで冷却した。試料中に生成したアクリルアミドは、「水道用薬品類の評価のための試験方法ガイドライン」(元厚生省生活局水道環境部水道整備課、平成12年3月)に準じて臭素化誘導体(2−ブロモプロペンアミド)化した後、ガスクロマトグラフィーを用いてアクリルアミド誘導体の標準品に相当する保持時間のピークを試料中のアクリルアミド由来の誘導体として定量した。
【0031】
ガスクロマトグラフィー分析は下記の条件にて行った。
(ガスクロマトグラフィー条件)
ガスクロマトグラフ:島津GC−14A
カラム:TC−FFAPキャピラリーカラム
(ジーエルサイエンス社製、内径0.53mm、長さ30m、膜厚1μm)
カラム温度:120℃で5分間保持した後、7.5℃/分の昇温速度で240℃まで昇温
キャリアーガス:ヘリウム(1ml/分)
検出:水素炎イオン化検出器(FID)
試料注入口温度:250℃
試料注入量:4μl(全量注入)
【0032】
試験結果を表1に示した。アクリルアミド生成率(%)は、糖質としてD−グルコースを用いた場合のアクリルアミド生成量を100%としたときの相対値で示した。なお、実験1乃至10を通して、表中のアクリルアミド生成量(mg)はL−アスパラギン1モル当たりに換算した値で示した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、L−アスパラギンとの加熱処理において、D−グルコース、D−フラクトース、及びL−アスコルビン酸は比較的多量のアクリルアミドを生成した。その中でもとりわけL−アスコルビン酸からのアクリルアミドの生成量は、D−グルコースの場合の4倍以上と多量であった。また、D−グルコース及びD−フラクトースの場合に比べ量は少ないものの、D−ガラクトース、マルトース、スクロース及びラクトースも、L−アスパラギンとの加熱処理によりアクリルアミドを生成した。一方、加熱処理してもL−アスパラギンとα,α−トレハロース又はα,β−トレハロースとからのアクリルアミドの生成は認められなかった。非還元性糖質であるα,α−トレハロース及びα,β−トレハロースは、本来、アミノ酸とのメイラード反応を起こしにくいことは知られていたものの、表1の結果によってもそれが確認された。同じく非還元性糖質であるスクロースにおいてアクリルアミドの生成が確認された理由としては、スクロースが熱による分解を受け易い糖質であり、スクロースが熱処理により分解して生成したD−グルコース及びD−フラクトースがL−アスパラギンと反応したものと推定される。以下、L−アスパラギンとの加熱処理においてアクリルアミド生成能を有する糖質としてD−グルコースを用いた場合の実験を、実験2乃至8に、また、L−アスコルビン酸を用いた場合の実験を実験9乃至12に示す。
【0035】
<実験2:L−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミドの生成に及ぼす各種糖質共存の影響>
加熱処理によるL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミドの生成に及ぼす各種糖質共存の影響を調べた。予めL−アスパラギン1mmol及びD−グルコース1mmolを採取しておいた20ml容の共栓付試験管に、表2に示す糖質のいずれかを1mmol加えた。但し、α−シクロデキストリン及びβ−シクロデキストリンの2種は一律720mg(約0.63乃至0.74mmolに相当)を用いた。それ以外は実験1と同じ方法を用いて処理し、アクリルアミドの生成量を定量した。L−アスパラギンとD−グルコースのみを用い、他の糖質を加えないものを対照とした。結果を表2に示した。アクリルアミド生成率(%)は、L−アスパラギンとD−グルコースのみを用いた場合のアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの相対値で示した。
【0036】
【表2】

【0037】
表2の結果から明らかなように、糖質の種類によっては、共存することによって加熱処理におけるL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミドの生成を著しく抑制することが判明した。詳細には、α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、還元パラチノース、α−グルコシルα,α−トレハロース、D−マンニトール、D−エリスリトール、及びβ−シクロデキストリンは、L−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成率を50%未満に抑制し、とりわけ、α,α−トレハロース及びα,β−トレハロースはアクリルアミドの生成率(%)を20%未満に著しく抑制することが確認された。上記のアクリルアミドの生成抑制能を有する糖質は、いずれも非還元性であり、非還元性糖質がアミノ基を有する有機物質とメイラード反応を起しにくいことは知られていたものの、それ自身が、還元性糖質とアミノ基を有する有機物質との反応によるアクリルアミドの生成を顕著に抑制し、積極的な作用効果を示すというのは全く予想外の知見である。
【0038】
<実験3:L−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成量に及ぼすD−グルコース量の影響とα,α−トレハロース共存の効果>
加熱処理におけるL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成に及ぼすD−グルコース量の影響と、実験2において当該アクリルアミドの生成を顕著に抑制したα,α−トレハロース共存の効果を検討した。予めL−アスパラギン1mmolを採取しておいた20ml容の共栓付試験管に、D−グルコースを0.01、0.10、0.25、0.50、1.00、1.33、又は2.00mmolを加えた以外は実験1と同じ方法を用いて処理し、アクリルアミドの生成量を定量した。また、上記反応系にさらにα,α−トレハロースを1mmol加えた試験系についても同様に試験した。結果を表3に示した。なお、表中、モル比はD−グルコースに対するα,α−トレハロースのモル比を、また、アクリルアミド生成率(%)は、各D−グルコース量において、α,α−トレハロース無添加の場合のアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの、α,α−トレハロース添加系の相対値を示した。
【0039】
【表3】

【0040】
表3の結果から明らかなように、α,α−トレハロース無添加系ではD−グルコース量の増加にともないL−アスパラギンから生成するアクリルアミドの量が増加した。1mmolのL−アスパラギンから生成するアクリルアミドはD−グルコース量0.50mmolから2.00mmolの範囲で大差なくほぼ一定となった。一方、1mmolα,α−トレハロース添加系ではD−グルコース量の増加にともなうアクリルアミド生成量の増加が認められるものの、その程度は低く、D−グルコースに対するα,α−トレハロースのモル比が試験した範囲の0.5以上の場合、α,α−トレハロース添加系のアクリルアミド生成率(%)は無添加系の場合の50%未満となった。とりわけ、D−グルコースに対するα,α−トレハロースのモル比が0.75以上の場合は25%未満、モル比が1以上の場合は20%未満と、α,α−トレハロースはアクリルアミドの生成率(%)を著しく抑制することが確認された。
【0041】
<実験4:L−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成量に及ぼすα,α−トレハロース共存量の影響>
実験2において、加熱処理におけるL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成を抑制する作用が顕著であったα,α−トレハロースについて、アクリルアミド生成抑制能の用量依存性を検討した。予めL−アスパラギン1mmol及びD−グルコース1mmolを採取しておいた20ml容の共栓付試験管に、0.00、0.10、0.25、0.50、0.75、1.00、1.50又は2.00mmolのα,α−トレハロースをそれぞれ加えた以外は実験1と同じ方法を用いて処理し、アクリルアミドの生成量を定量した。結果を表4に示した。アクリルアミド生成率(%)はα,α−トレハロース無添加の場合のアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの相対値で示した。
【0042】
【表4】

【0043】
表4の結果から明らかなように、等モルのL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミドの生成量は、共存させるα,α−トレハロースの量が多くなるほど低下し、α,α−トレハロースは用量依存的に加熱処理におけるL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成を抑制し、L−アスパラギン又はD−グルコースに対するモル比が1以上では、その抑制の程度はほぼ一定となり、アクリルアミドの生成率(%)を15%未満に抑制した。また、本条件下では、L−アスパラギン又はD−グルコースに対するモル比で0.5以上のα,α−トレハロースを用いることによりアクリルアミドの生成率(%)を50%未満まで抑制し、モル比で0.75以上のα,α−トレハロースを用いることにより25%未満まで抑制することが判明した。
【0044】
<実験5:各種アミノ酸とD−グルコースとからのアクリルアミドの生成量と、アクリルアミドの生成に及ぼすα,α−トレハロース共存の影響>
各種アミノ酸とD−グルコースとからのアクリルアミド生成量とアクリルアミド生成に及ぼすα,α−トレハロース共存の影響を調べた。予め、表5に示す各種アミノ酸1mmolをそれぞれ採取しておいた20ml容の共栓付試験管に、D−グルコースを1mmol加えた以外は実験1と同じ方法を用いて処理し、アクリルアミドの生成量(mg)を測定した。また、上記反応系にさらにα,α−トレハロースを1mmol共存させた試験系についても同様に試験した。結果を表5に示した。なお、アクリルアミド生成率(%)は、各アミノ酸における、α,α−トレハロース無添加の場合のアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの、α,α−トレハロース添加系の相対値を示した。
【0045】
【表5】

【0046】
表5に示すように、D−グルコースとの加熱によって生成するアクリルアミドの量はアミノ酸の種類によって様々であり、比較的多量のアクリルアミドを生成するアミノ酸はL−アスパラギン及びL−イソロイシンの2種であった。表5の結果から明らかなように、α,α−トレハロースは、L−アスパラギンの場合と同様に、L−イソロイシンからのアクリルアミド生成も顕著に抑制することが判明した。また、アクリルアミドの生成は、L−アスパラギンやL−イソロイシンの場合よりも少ないものの、グリシン、L−アラニン、L−バリン、L−ロイシン、L−セリン、L−トレオニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−リジン、L−アルギニン、L−システイン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トリプトファン、L−プロリンなどのアミノ酸の場合も同様に認められ、α,α−トレハロースは程度の差こそあれ、いずれの場合もこの生成を抑制していた。なお、L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−トレオニン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トリプトファンなどはヒトや動物の成長や維持に欠かすことのできない必須アミノ酸の一種として知られている。
【0047】
実験1乃至実験5では加熱処理によるアクリルアミドの生成反応を、比較的水分の多い水溶液モデルを用いて試験した。以下の実験6乃至実験8では、より実際の可食材料に近い比較的水分の少ない乾燥モデルを用いて行った。また、試料調製の段階でL−アスパラギンを完全に溶解させるため、試験に用いる量を0.1mmolに低減して行った。乾燥モデル試験は、まず、局方馬鈴薯澱粉を基材に用い、これにL−アスパラギン0.1mmol及びD−グルコース0.1mmol及び緩衝液を添加してペースト状物とし、これを適宜乾燥させることにより各種水分含量の試料を調製した。次いで、これを密封して加熱処理し、各種水分含量条件におけるアクリルアミド生成とそれに及ぼす糖質共存の影響を検討した。
【0048】
<実験6:加熱処理によるL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成量に及ぼす各種非還元性糖質共存の影響>
加熱処理によるL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミドの生成量に及ぼす各種糖質共存の影響を乾燥モデル試験にて調べた。予め、局方馬鈴薯澱粉1g、L−アスパラギン0.1mmol(13mg)及びD−グルコース0.1mmol(18mg)を採取しておいた20ml容の共栓付試験管に、糖質水溶液(糖質含量0.1mmol/ml)を1ml及び0.05Mリン酸緩衝液(pH6.0)0.25mlを加え、攪拌することにより水分含量約50%のペースト状物にした。次いで、水分含量を約10%に低減させる場合は60℃で2時間真空乾燥した後、相対湿度22.4%の調湿デシケーター中で2日間保存した。また、水分含量を約1%に低減させる場合は60℃で16時間真空乾燥した。次いで、各試料の水分含量を測定した後、これらを180℃のオイルバス(油浴)で20分間加熱処理し、生成したアクリルアミドをガスクロマトグラフィーにて測定した。また、並行して真空乾燥で水分調整していない試料(ペースト状物、水分含量約50%)についても同様に試験した。なお、共存させる試験糖質として、実験2の水溶液モデル試験において比較的強いアクリルアミド生成抑制効果を示したα,α−トレハロース、α,β−トレハロース、スクロース及びD−マンニトールと、これらと同じ非還元性糖質であるD−ソルビトール及びマルチトールの計6種を用いた。試料の水分含量は、電子式水分計((株)島津製作所製、商品名「MOISTURE BALANCE EB−330MOC」)を用いて測定した。アクリルアミドは、加熱処理後の各試験管に脱イオン水を10ml加えて良く攪拌した後、実験1と同様にガスクロマトグラフィーにて測定した。L−アスパラギンとD−グルコースのみを用い、他の糖質を加えないものを対照とした。結果を表6に示した。アクリルアミド生成率(%)は、対照のアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの相対値で示した。
【0049】
【表6】

【0050】
表6の結果から明らかなように、試料の水分含量が約50%、約10%及び約1%のいずれの条件においても、実験2の結果と同様にα,α−トレハロース、α,β−トレハロース及びD−マンニトールを共存させると、加熱によるL−アスパラギンとD−グルコースからのアクリルアミドの生成が顕著に抑制されることが確認された。また、詳細に見れば、試料の水分含量が約50%、約10%及び約1%と低減するに従い、糖質共存によるアクリルアミドの生成抑制効果は低下する傾向が見られるものの、水分含量が約10%以上の試料にこれら糖質を共存させるとアクリルアミドの生成をよく抑制できることが判明した。一方、スクロースは実験2の結果と異なり、アクリルアミドの生成率(%)が対照の113乃至127%と増加した。これは水分含量が比較的低い条件での加熱がスクロースの分解を促進し、アクリルアミド生成能の強い糖質が生じたためと考えられる。また、D−ソルビトール及びマルチトールのアクリルアミド生成抑制効果は弱く、実験2の結果とほぼ同様であった。
【0051】
<実験7:L−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成量に及ぼす試料の水分含量と加熱温度の影響及びα,α−トレハロース共存の影響>
L−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成量に及ぼす試料の水分含量と加熱温度の影響、及びアクリルアミド生成抑制能を有する糖質としてα,α−トレハロースを共存させた場合の影響をさらに詳細に調べた。60℃で真空乾燥する時間を種々変化させて水分含量が種々異なる試料を調製し、また、加熱処理の温度を150℃、180℃及び200℃の3通りで試験した以外は実験6と同様に処理し、アクリルアミドの生成量を測定した。α,α−トレハロース無添加の試験系で同様に処理したものを対照とした。結果を表7に示した。アクリルアミド生成率(%)は、対照の試料の各水分含量におけるアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの相対値で示した。
【0052】
【表7】

【0053】
表7の結果から明らかなように、加熱温度150℃、180℃及び200℃のいずれの条件においても、L−アスパラギン及びD−グルコースとα,α−トレハロースとを共存させることによりアクリルアミドの生成はよく抑制された。実験6の結果と同様に、試料の水分含量が減少するにつれてα,α−トレハロースによるアクリルアミドの生成抑制効果は弱くなる傾向が認められたものの、試料の水分含量が約10%以上の場合には、加熱温度150℃、180℃及び200℃のいずれの条件においてもL−アスパラギン及びD−グルコースと等モルのα,α−トレハロースを共存させることにより、アクリルアミドの生成を対照の30%未満にまで顕著に低減できることが判明した。
【0054】
<実験8:L−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成量に及ぼす試料の水分含量とα,α−トレハロース共存量との影響>
L−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成量に及ぼす試料の水分含量とα,α−トレハロース共存量との影響を検討した。α,α−トレハロースの添加量を0.010、0.025、0.050、0.075、0.100及び0.500mmolと変化させた以外は実験6と同様に処理し、アクリルアミドの生成量を測定した。α,α−トレハロース無添加の試験系で同様に処理したものを対照とした。結果を表8に示した。アクリルアミド生成率(%)は、対照におけるアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの相対値で示した。
【0055】
【表8】

【0056】
表8の結果から明らかなように、試料の水分含量が約50%、約10%及び約1%のいずれの条件においても、L−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミドの生成は、α,α−トレハロースの添加量が多くなるほど抑制された。本乾燥モデル試験において、L−アスパラギン又はD−グルコースに対してモル比で0.5以上のα,α−トレハロースを共存させることにより、試料の水分含量が約1%の場合にはアクリルアミドの生成率(%)を65%未満に、また、試料の水分含量が約10%の場合にはアクリルアミドの生成率(%)を55%未満に抑制できることが分かった。
【0057】
以上の実験6乃至実験8に示した乾燥モデル試験の結果から、(1)試料の水分含量が低い場合においても、α,α−トレハロース、α,β−トレハロース及びマンニトールを共存させることにより、加熱処理によるL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミドの生成を顕著に抑制できること、(2)試料の水分含量が約10%以上の場合、L−アスパラギン及びD−グルコースと等モルのα,α−トレハロースを共存させることにより、アクリルアミドの生成を顕著に抑制できること、(3)L−アスパラギン又はD−グルコースに対するモル比で0.5以上のα,α−トレハロースを共存させることにより、試料の水分含量が少ない場合でもアクリルアミドの生成率(%)を65%未満まで抑制できること、が判明した。
【0058】
次に、実験1の結果からL−アスコルビン酸の方がD−グルコースよりもアクリルアミドの生成能が高いことが判明したことから、以下の実験9乃至12では、アクリルアミド生成能を有する糖質として、L−アスコルビン酸を用いて実験を行った。また、L−アスパラギンを完全に溶解させるため、試験に用いる量を0.1mmolに低減して行った。更に、実験10乃至12ではL−アスコルビン酸を含有する果物又は野菜類など可食材料の調理条件を考慮に入れて、加熱温度を100℃に設定した。
【0059】
<実験9:L−アスパラギンとL−アスコルビン酸とからのアクリルアミドの生成に及ぼす各種糖質共存の影響>
加熱処理によるL−アスパラギンとL−アスコルビン酸とからのアクリルアミドの生成に及ぼす各種糖質共存の影響を調べた。予めL−アスパラギン0.1mmolを採取しておいた20ml容の共栓付試験管に、0.1MのL−アスコルビン酸水溶液と0.1MのL−アスコルビン酸ナトリウム水溶液を適宜混合してpHが4.0となるように調製した混液を1ml(L−アスコルビン酸類として0.1mmol)加え、次いで、表6に示す糖質のいずれかを0.1mmol加えた。但し、α−マルトトリオシルα,α−トレハロース、α−シクロデキストリン及びβ−シクロデキストリンの3種は一律200mg(約0.17乃至0.24mmolに相当)を用いた。加熱処理条件を150℃、20分とした以外は実験1と同じ方法を用いて処理し、アクリルアミドの生成量を定量した。L−アスパラギンとL−アスコルビン酸のみを用い、他の糖質を加えないものを対照とした。結果を表9に示した。アクリルアミド生成率(%)は、L−アスパラギンとL−アスコルビン酸のみを用いた場合のアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの相対値で示した。
【0060】
【表9】

【0061】
表9の結果から明らかなように、実験2のアクリルアミド生成能を有する糖質としてD−グルコースを用いた場合とほぼ同様に、特定の糖質が共存することによって、加熱処理におけるL−アスパラギンとL−アスコルビン酸とからのアクリルアミドの生成を著しく抑制することが判明した。詳細には、α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、D−マンニトール、D−エリスリトール、還元パラチノース、α−グルコシルα,α−トレハロース、α−マルトシルα,α−トレハロース及びβ−シクロデキストリンは、L−アスパラギンとL−アスコルビン酸とからのアクリルアミド生成率を50%未満に抑制し、とりわけ、α,α−トレハロース及びα,β−トレハロースはアクリルアミドの生成率(%)を16%未満に著しく抑制することが確認された。本実験において、スクロースはアクリルアミドの生成を抑制せず、逆に促進するという、実験2の結果とは異なる結果となった。これは本加熱処理条件下でスクロースがD−グルコースとD−フラクトースとに加水分解され、これらがL−アスパラギンと反応しアクリルアミドを生成したためと推察される。また、本実験と実験2の結果を考え合わせると、α−マルトシルα,α−トレハロースもα,α−トレハロースやα−グルコシルα,α−トレハロースと同様にアクリルアミドの生成抑制能を有する糖質であることが明らかである。
【0062】
<実験10:L−アスパラギンとL−アスコルビン酸とからのアクリルアミド生成量に及ぼす反応pHの影響とα,α−トレハロース共存の効果>
加熱処理におけるL−アスパラギンとL−アスコルビン酸とからのアクリルアミド生成に及ぼす反応pHの影響と、α,α−トレハロース共存の効果とを検討した。予めL−アスパラギン0.1mmolを採取しておいた20ml容の共栓付試験管に、0.1MのL−アスコルビン酸水溶液と0.1MのL−アスコルビン酸ナトリウム水溶液を適宜混合してpHが3、4、5、6、又は6.5となるようにそれぞれ調製した混液を1ml(L−アスコルビン酸類として0.1mmol)加え、加熱処理条件を100℃、20分とした以外は実験1と同じ方法を用いてアクリルアミドの生成量を定量した。また、上記反応系にさらにα,α−トレハロースを0.1mmol加えた試験系についても同様に試験した。結果を表10に示した。なお、表中、アクリルアミド生成率(%)は、各pH条件において、L−アスパラギンとL−アスコルビン酸及びL−アスコルビン酸ナトリウムのみを用い、α,α−トレハロース無添加の場合のアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの、α,α−トレハロース添加系の相対値を示した。
【0063】
【表10】

【0064】
表10に示すように、α,α−トレハロース無添加系及び添加系のいずれにおいても、加熱処理前後でpHの変動は小さかった。また、用いた試料の量が少なく加熱温度も低いため生成量は少ないものの、加熱温度100℃の場合でもアクリルアミドが生成することが判明した。表10の結果から明らかなようにα,α−トレハロース無添加系でのアクリルアミドの生成量は反応pHが高くなるほど増加し、pH6及びpH6.5では急激に増加した。α,α−トレハロース添加系では、いずれの反応pHにおいてもアクリルアミド生成量は無添加系に比べて顕著に低く、α,α−トレハロースを共存させることで、顕著な生成抑制効果が得られることが確認された。
【0065】
<実験11:L−アスパラギンとL−アスコルビン酸とからのアクリルアミド生成量に及ぼすα,α−トレハロースの共存量の影響>
α,α−トレハロースについて、加熱処理におけるL−アスパラギンとL−アスコルビン酸とからのアクリルアミド生成抑制能の用量依存性を検討した。予めL−アスパラギン0.1mmolを採取しておいた20ml容の共栓付試験管に、実験10で用いたpH6のL−アスコルビン酸とL−アスコルビン酸ナトリウムの混液1ml(L−アスコルビン酸類として0.1mmol)を加え、次いで、0.000、0.010、0.025、0.050、0.075、0.100、0.150、0.250、又は0.500mmolのα,α−トレハロースをそれぞれ加えた以外は実験10と同様に加熱処理し、実験1と同じ方法でアクリルアミドの生成量を定量した。結果を表11に示した。アクリルアミド生成率(%)は、L−アスパラギンとL−アスコルビン酸及びL−アスコルビン酸ナトリウムのみを用い、α,α−トレハロース無添加の場合のアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの相対値で示した。
【0066】
【表11】

【0067】
表11の結果から明らかなように、L−アスパラギンとL−アスコルビン酸とからのアクリルアミドの生成量は、共存させるα,α−トレハロースの量が多くなるほど低下し、α,α−トレハロースは、用量依存的に加熱処理におけるL−アスパラギンとL−アスコルビン酸からのアクリルアミド生成を抑制し、L−アスパラギン又はL−アスコルビン酸に対するモル比が1以上では、その抑制の程度はほぼ一定となり、アクリルアミドの生成率(%)を15%未満に抑制した。本条件下では、L−アスパラギン又はL−アスコルビン酸に対するモル比で0.5以上のα,α−トレハロースを用いることによりアクリルアミドの生成率(%)を75%まで抑制し、モル比で0.75以上のα,α−トレハロースを用いることにより50%未満まで抑制することが判明した。
【0068】
<実験12:L−アスパラギンとL−アスコルビン酸誘導体とからのアクリルアミド生成量に及ぼすpHとα,α−トレハロースの共存の影響>
L−アスコルビン酸に代えてL−アスコルビン酸誘導体としてL−アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原生物化学研究所販売、登録商標『AA2G』)又はL−アスコルビン酸2−リン酸(ロシュ・ビタミン社販売、3ナトリウム塩、登録商標『Stay−C 50』)を用い、加熱処理を100℃と125℃の2通りで行った以外は実験10と同様にして、L−アスパラギンとL−アスコルビン酸誘導体とからのアクリルアミド生成量に及ぼすpHとα,α−トレハロースの共存の影響を調べた。また、L−アスコルビン酸誘導体に代えてL−アスコルビン酸を用いた以外は同様に試験して対照とした。L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸2−グルコシド、及びL−アスコルビン酸2−リン酸の結果をそれぞれ表12、表13、及び表14に示した。なお、表中、アクリルアミド生成率(%)は、各pH条件において、α,α−トレハロース無添加の場合のアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの、α,α−トレハロース添加系の相対値を示した。
【0069】
【表12】

【0070】
【表13】

【0071】
【表14】

【0072】
表12から明らかなように、L−アスコルビン酸の場合は加熱処理温度100℃の場合は実験10と同じ結果が得られ、また、加熱処理温度125℃の場合も同様にα,α−トレハロース無添加系でのアクリルアミドの生成量は反応pHが高くなるほど増加し、pH6及びpH6.5では急激に増加した。α,α−トレハロース添加系では、いずれの反応pHにおいてもアクリルアミド生成量は無添加系に比べて顕著に低かった。一方、表13から明らかなように、L−アスコルビン酸誘導体であるL−アスコルビン酸2−グルコシドは、L−アスコルビン酸に比べて加熱処理に安定で、加熱処理温度100℃の場合、pH4乃至6.5の範囲で、また、加熱処理温度125℃の場合pH5乃至6.5の範囲でほとんどアクリルアミドを生成しなかった。よりpHが低い条件ではいずれの温度においてもアクリルアミドを生成したもののその程度は低かった。pHが低い条件でL−アスコルビン酸2−グルコシドからアクリルアミドが生成する理由としては、L−アスコルビン酸2−グルコシドが酸性条件下の加熱処理により部分的に加水分解されてL−アスコルビン酸及びD−グルコースが生成し、この生成したL−アスコルビン酸及び/又はD−グルコースとL−アスパラギンとからアクリルアミドが生成したものと推察される。この場合のアクリルアミドの生成もα,α−トレハロース添加系では、無添加系に比べて顕著に低く、α,α−トレハロースを共存させることで、顕著な生成抑制効果が得られることが確認された。また、表14から明らかなように、L−アスコルビン酸2−リン酸の場合は、100℃の加熱処理において、pH4乃至7の範囲でL−アスコルビン酸に比べてアクリルアミドの生成が少ないものの、pH4未満ではL−アスコルビン酸と同等のアクリルアミド生成量を示した。また、L−アスコルビン酸2−リン酸は、125℃の加熱処理においては、pH4乃至6の範囲でL−アスコルビン酸に比べてアクリルアミドの生成が少ないものの、pH4未満の条件ではL−アスコルビン酸に比べ10倍以上と多量のアクリルアミドを生成し、pH6を越える条件ではL−アスコルビン酸と同等のアクリルアミド生成量を示した。一方、この結果を表10のL−アスコルビン酸2−グルコシドの結果と比較すると、L−アスコルビン酸2−グルコシドの方が、幅広いpH域、高い加熱処理温度においてアクリルアミドの生成量が少ないという点で顕著に優れていた。L−アスコルビン酸2−リン酸の場合においても、アクリルアミドの生成はα,α−トレハロース添加系で顕著に抑制された。
【0073】
<実験13:L−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成量に及ぼす各種フェノール性物質共存の効果>
加熱処理によるL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミドの生成に及ぼす各種フェノール性物質共存の影響を調べた。予めL−アスパラギン0.1mmol(13.2mg)及びD−グルコース0.1mmol(18.0mg)を採取しておいた20ml容の共栓付試験管に、表15に示す22種類のフェノール性物質のいずれかを0.25mg加え、これに0.05Mリン酸緩衝液(pH6.0)を1ml加えた以外は実験1と同じ方法を用いて処理し、アクリルアミドの生成量を定量した。L−アスパラギンとD−グルコースのみを用い、フェノール性物質を加えないものを対照とした。結果を表15に示した。アクリルアミド生成率(%)は、L−アスパラギンとD−グルコースのみを用いた場合のアクリルアミド生成量(mg)を100%としたときの相対値で示した。
【0074】
【表15】

【0075】
表15の結果から明らかなように、フェノール性物質の種類によっては、共存することによって加熱処理におけるL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミドの生成を著しく抑制することが判明した。詳細には、試験に用いたフェノール性物質の内、ガランギン、フラバノン、トリプタンスリン及びクマリンを除いたフェノール性物質、即ち、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、ケルセチン、ルチン、ナリンジン、ヘスペリジン、ケンフェロール、けい皮酸、キナ酸、3,4−ジヒドロけい皮酸、3−クマル酸、4−クマル酸、p−ニトロフェノール、クルクミン、スコポレチン、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル及びプロアントシアニジンは、L−アスパラギン又はD−グルコースに対するモル比で0.004以上共存させることでL−アスパラギンとD−グルコースとからのアクリルアミド生成率を抑制し、とりわけ、ルチン、ナリンジン及びヘスペリジンは、比較的少量の共存、即ち、L−アスパラギン又はD−グルコースに対してモル比で約0.004を共存させることでアクリルアミドの生成率(%)を60%未満に著しく抑制することが確認された。
【0076】
<実験14:フライドポテト調理時のアクリルアミドの生成に及ぼすα,α−トレハロース共存の影響>
食品材料を用いて実際に調理した場合の、アクリルアミドの生成に及ぼすα,α−トレハロース共存の影響を、フライドポテトを例として調べた。
【0077】
<実験14―1:フライドポテトの調製>
水30gに対して高純度含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)を0g、0.02g、0.06g、0.13g、0.27g、0.53g又は1.3gを添加し、電子レンジで30秒間処理して約80℃に加温して溶解した。次いで、得られたそれぞれの液に市販の乾燥マッシュポテト(三木食品株式会社製、商品名『クインズシェフ マッシュポテト』)を20gずつ加えて均一に混合し、径22mm、厚さ3mmに成形した(α,α−トレハロース量は乾燥マッシュポテト製品に対して0、0.1、0.3、0.6、1.2、2.4又は6.0質量%となる。)。得られたそれぞれの成型物を電気フライヤー(モデルMACH F3、マッハ機器株式会社製)を用い、温度150℃で4分間、食用油で揚げてフライドポテトを調製した。尚、本発明者らの分析によると、本実験に用いた乾燥マッシュポテトは、水分を7.2質量%、アクリルアミド生成能を有する糖質を、約8質量%(D−グルコース3質量%、D−フラクトース2.8質量%及びスクロース2.1質量%)含有していた。
【0078】
<実験14―2:フライドポテトのアクリルアミド生成量の測定>
実験14−1で得たフライドポテトそれぞれ5gに脱イオン水25gを添加し、10分間放置した後、ホモジナイザー(モデル『ULTRA−TU−RRAX』、IKAラボテクニーク社製)で3分間、均一に破砕した。破砕物を14,000rpmで60分間遠心分離し、得られた遠心上清を−80℃で凍結し、解凍した後、再度遠心分離してその上清を回収した。次いでこの試料液2mlにアクリルアミド−2,3,3,−d3標準液(2ppm)を0.2ml内部標準として添加、混合し、予めメタノール5ml及び脱イオン水5mlでコンディショニングした固相抽出カラム(商品名『オアシスHBL500mgカートリッジ』、日本ウォーターズ株式会社製)にチャージし、脱イオン水2mlで10回溶出し、計10フラクションに分画した。この内、アクリルアミドを含むフラクションをろ過してアクリルアミド分析用試料とした。本実験では試料のアクリルアミド生成量をより正確に測定するため、測定法として液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS法)を用いてアクリルアミドを定量した。
【0079】
LC−MS分析は装置としてフィニガンイオントラップ型LC/MS/MSシステム(サーモクェスト株式会社製)を用い、下記の条件にて行った。
(LC−MS条件)
<LC部>
カラム;ハイドロスフェアーC18 HS−3C2
(株式会社ワイエムシィ製、内径2mm、長さ150mm、粒子径5μm)
溶離液;メタノール:水(5:95)
流速;0.1ml/ml カラム温度;40℃
分析時間;12分 試料注入量;20乃至40μl
<MS部>
イオン化方式;エレクトロスプレー(ESI)法
イオン化条件;シースガス流速 5(arb)、オックスガス流速 0(arb)
スプレー電圧 5(kV)、キャピラリー電圧 6(V)
キャピラリー温度 200℃、
チューブレンズオフセット電圧 25(V)
測定時間;10分(LC分析時間の4乃至7分をイオン源へ導入する。)
検出:シングルイオンモニタリング(SIM)
アクリルアミドはm/z71.5乃至72.6を、内部標準のアクリル
アミド−2,3,3,−d3はm/z74.5乃至75.6を測定した。
【0080】
予めアクリルアミドと内部標準のアクリルアミド−2,3,3,−d3の標準品を用いてそれぞれのイオン化効率を求めておき、分析は1検体につき3回行い、試料より検出されたアクリルアミドのピーク面積と内部標準のアクリルアミド−2,3,3,−d3のピーク面積の比に添加した内部標準の濃度を乗じた。この3回の測定値に上記イオン化効率を乗じて測定値とした。試験結果を表13に示した。アクリルアミド生成量はフライドポテト製品当たりの濃度、ppmで示した。
【0081】
【表16】

【0082】
表16に示すように、乾燥マッシュポテトにα,α−トレハロースを添加せずに調製したフライドポテトは0.71ppmのアクリルアミドを生成していたのに対して、乾燥マッシュポテトにα,α−トレハロースを添加して調製したフライドポテトはその添加量が多いほどアクリルアミド生成量が低減されており、α,α−トレハロースを0.6質量%添加したものでは0.45ppm(無添加の場合に対して約63%)に低減していた。α,α−トレハロースを2.4質量%以上添加したフライドポテトではアクリルアミド生成量が0.01ppm未満と、検出限界未満であった。α,α−トレハロースの添加がフライドポテト調製時のアクリルアミド生成を著しく抑制することが判明した。なお、本実験の場合、実験4の結果とは違って、乾燥マッシュポテトに含まれるアクリルアミド生成能を有する糖質量約8質量%に対して、比較的少ない0.6乃至2.4質量%のα,α−トレハロース量でアクリルアミド生成抑制効果が顕著に認められた。このことは、フライドポテト調製時のアクリルアミドの生成量が、乾燥マッシュポテトに含まれるアクリルアミド生成能を有する糖質の量のみならず、アミノ基を有する有機物質の量にも依存し、とりわけ、後者がその生成量を律していることが推測される。
【0083】
以上、実験1乃至12の結果から、アミノ基を有する有機物質と、これと反応してアクリルアミド生成能を有する糖質とを含有する可食材料を加熱処理するに際し、α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、還元パラチノース、α−グルコシルα,α−トレハロース、α−マルトシルα,α−トレハロース、D−マンニトール、D−エリスリトール、及びβ−シクロデキストリンから選ばれる糖質、とりわけα,α−トレハロース又はα,β−トレハロースを共存させることで、アクリルアミドの生成を顕著に抑制できることが判明した。また、実験13の結果から特定のフェノール性物質、とりわけルチン、ナリンジン又はヘスペリジンを共存させることによってアクリルアミドの生成を顕著に抑制できることが判明した。さらに、実験14の結果から、実際の食品材料を用いて、これを加熱調理する際においても、α,α−トレハロースを共存させることで、調理された飲食物のアクリルアミド生成量を著しく低減できることが確認された。
【0084】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0085】
<ポテトチップ>
ジャガイモ(北海道産、メークイン)を丸ごと水洗いした後、皮を剥き、再度水洗いし、次いで、業務用スライサー(株式会社新考社製、VスライサーMV−50)にて厚さ1.5mmにスライスした。水にさらし、水切りした後、スライスしたジャガイモをその重量の2倍量の、濃度20質量%の高純度含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)水溶液に浸漬し80℃で2時間保持することにより、α,α−トレハロースをジャガイモに浸透させた。次いで、糖液を切り、水分をふき取ったジャガイモを180℃に油温を調製した電気フライヤー(マッハ機器株式会社、MACH F−3)を用い2分間揚げてポテトチップを調製した。なお、油は食用混合油(食用なたね油と食用大豆油)を用いた。
【0086】
本品は形状及び風味もよく、α,α−トレハロースを含ませていることからフライ処理によるアクリルアミドの生成が抑制された安全性の高いポテトチップであり、そのままおやつとして、有利に利用できる。
【実施例2】
【0087】
<フライドポテト>
ジャガイモ(北海道産、メークイン)を丸ごと水洗いした後、細断機にかけて1辺が約1cmの四角柱状の細断物とし、これを、食塩0.1質量%及び20質量%のα,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)水溶液に浸漬し50℃で20分保持した。水切りし、次いでブランチングを3分間行い、更に−20℃で凍結保存した。これを常法に従いフライにし、フライドポテトを調製した。
【0088】
本品は形状、テクスチャー、風味のいずれも良好で、α,β−トレハロースを含ませていることから、フライ処理によるアクリルアミドの生成が抑制された安全性の高いフライドポテトであり、そのままおやつとして、また、惣菜などとして有利に利用できる。
【実施例3】
【0089】
<クラッカー>
中力粉70質量部、イースト0.25質量部及び水30質量部を混捏して中種を調製し、次いで、この中種に薄力粉30質量部、ショートニング10質量部、D−グルコースを含む水飴1.5質量部、食塩1.5質量部、重曹0.65質量部、及び高純度含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)1.5質量部を加えて本捏ねした。常法によりクラッカーに成形した後、180℃のオーブンで15分間焼成し、ソーダクラッカーを調製した。
【0090】
本品は風味、口当たりともに良好であり、α,α−トレハロースを含ませているため、焼成によるアクリルアミドの生成が抑制された安全性の高いクラッカーである。本品はそのまま、おやつとして有利に利用できる。
【実施例4】
【0091】
<バターロールパン>
強力粉118質量部、砂糖8質量部、高純度含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)10質量部、食塩1.7質量部、脱脂粉乳2質量部、海洋酵母(三共フーヅ(株)製)2質量部、全卵12質量部、無塩バター10質量部、牛乳20質量部、水75質量部をミキサーにかけ、24℃で、低速6分、中速5分で混捏し、一時停止した後、更に中速で4.5分間混捏し、生地を作成した。次いで、これをフロアータイムとして50分間発酵させた。生地は40gに分割して丸めを行い、20分間のベンチタイムを取った後、40℃、湿度80%のホイロにて50分間の発酵を行った。発酵終了後、上火230℃、下火200℃のオーブンにて7分間焼成し、バターロールを調製した。
【0092】
本品はふっくら膨らみ、色調も良好であって、食味も良く、また、α,α−トレハロースを含ませていることから、焼成によるアクリルアミドの生成が抑制された安全性の高いバターロールである。
【実施例5】
【0093】
<焙煎スライスアーモンド>
市販のスライスアーモンド(厚さ1mm)を70℃の濃度約50w/w%のα,β−トレハロース((株)林原生物化学研究所販売、商品名『ネオトレハロース』)溶液に15分間浸漬し、水切りし、次いで、電子オーブンを用いて180℃で焙煎し、焙煎スライスアーモンドを調製した。
【0094】
本品は風味良好であり、α,β−トレハロースを含ませていることから、焙煎によるアクリルアミドの生成が抑制された安全性の高い焙煎スライスアーモンドである。本品はそのままおやつとして、また、各種製菓、製パン材料などとして有利に利用できる。
【実施例6】
【0095】
<焙煎小麦胚芽>
冷凍した生小麦胚芽78質量部を解凍後、含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)20質量部、特開平7−143876号公報の実施例A−2の方法で調製した粉末状のα−グリコシルα,α−トレハロース5質量部(無水物換算で、α−グルコシルα,α−トレハロース4.1%、α−マルトシルα,α−トレハロース52.5%含有)を混合したものに、予め調製しておいたプルラン(株式会社林原商事販売、商品名『プルランPF−20』)の5%水溶液2質量部を加えて混合し、これを密閉型エクストルーダーに入れて加熱、混練して、押し出して造粒し、乾燥した。これをさらに、常法にて焙煎して、焙煎小麦胚芽を調製した。
【0096】
本品は風味良好であり、α,α−トレハロースを含ませていることから、焙煎によるアクリルアミドの生成が抑制された安全性の高い焙煎小麦胚芽である。本品は芳ばしく食べやすい上に、保存安定性にも優れている。また、本品はセレン、亜鉛をはじめとするミネラル、ビタミンや食物繊維を豊富に含有しているので、このまま、健康食品として、あるいは、その他の飲食物の原料として好適である。
【実施例7】
【0097】
<天麩羅用衣(天衣)>
α,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)20gを冷水380mlに溶解した後、これを市販の卵1個を割りほぐしたものに加え、次いで、これに薄力粉約230gを篩い入れて軽く混ぜ、天衣を調製した。
【0098】
本品は、α,α−トレハロースを含有していることから、天麩羅を揚げる際に肉、野菜などの天種につけて用いると、アクリルアミドの生成を抑制することができる天衣である。
【実施例8】
【0099】
<粉末マッシュポテト>
市販の乾燥マッシュポテト(三木食品株式会社製、商品名『クインズシェフ マッシュポテト』)100質量部と高純度含水結晶α,α−トレハロース粉末(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)2.5質量部を均一に混合して粉末マッシュポテトを調製した。
【0100】
本品は、α,α−トレハロースを含有していることから、ポテトコロッケなどを調製する際に肉、野菜など具とともに用いて油で揚げた際、アクリルアミドの生成を抑制することができる安全性の高い粉末マッシュポテトであり、アクリルアミド生成抑制能を備えた組成物である。
【実施例9】
【0101】
<ポテトコロッケ>
実施例8で得た粉末マッシュポテト100質量部に塩、胡椒を加え、牛乳100質量部と熱湯200質量部を加えて10分放置し、ふっくらとしたマッシュポテトに戻したた。次いで、挽肉100質量部とタマネギのみじん切り100質量部をバターで炒め、塩、胡椒で味付けし、上記の戻したマッシュポテトに加えてコロッケに成形した。これを常法に従い、小麦粉、卵、パン粉の順につけ、180℃の食用油で揚げてポテトコロッケを調製した。本品は、α,α−トレハロースを含有する粉末マッシュポテトを用いていることから、揚げる際のアクリルアミドの生成が抑制された、安全性の高いポテトコロッケである。
【実施例10】
【0102】
<さつまいもスナック>
小麦粉100質量部、すりおろした生さつまいも300質量部、水30質量部を混合し、これに高純度含水結晶α,α−トレハロース粉末(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)20質量部、糖転移ルチン(株式会社林原商事販売、商品名『αGルチン H』)0.2質量部を加えて混合し、100℃で10分間蒸練して生地を得た。この生地を1.0mmの厚さに圧延した後、10℃で12時間保持して冷蔵硬化を行い、好みの形に裁断してさつまいもスナックの生地を得た。次いで、この生地を170乃至180℃に熱した植物油で揚げることによりさつまいもスナックを得た。本品は、α,α−トレハロース及び糖転移ルチンを含有していることから、揚げる際のアクリルアミドの生成が抑制された、安全性の高いさつまいもスナックである。
【実施例11】
【0103】
<クリスププレッツェル>
薄力粉100質量部、ベーキングパウダー0.8質量部、食塩1質量部、高純度含水結晶α,α−トレハロース粉末(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)1.5質量部を混合し、これに牛乳35質量部、サラダ油13質量部、粉チーズ12質量部、パセリのみじん切り4.5質量部を加えて混捏して生地を得た。この生地を2mmの厚さに圧延した後、5mm幅に裁断してプレッツェルの生地を得た。次いで、この生地を230乃至260℃に加熱したオーブンで6分間焼成することによりクリスププレッツェルを調製した。本品は、α,α−トレハロースを含有していることから、焼成した際のアクリルアミドの生成が抑制された、安全性の高いクリスププレッツェルである。
【実施例12】
【0104】
<調味済み即席麺>
小麦粉(強力粉)98.5質量部、高純度含水結晶α,α−トレハロース粉末(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)1.5質量部、糖転移ルチン(株式会社林原商事販売、商品名『αGルチン H』)0.01質量部に0.5%のかん水30質量部を添加し、常法により、練り、厚さ0.9mmの麺線を調製し、1分15秒間蒸し器で蒸した。次いで、これに鳥ガラスープ30質量部を添加してスープを吸収させた後、145℃のサラダオイルで1分20秒間フライして調味済み即席麺を調製した。本品は、α,α−トレハロースと糖転移ルチンを含有していることから、フライ時のアクリルアミドの生成が抑制された、安全性の高い調味済み即席麺である。
【実施例13】
【0105】
<L−アスコルビン酸類含有組成物>
L−アスコルビン酸粉末1質量部と高純度含水結晶α,α−トレハロース粉末(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)9質量部とを均一に混合し、顆粒化して、L−アスコルビン酸類含有組成物を得た。
【0106】
本品は、L−アスコルビン酸とともにα,α−トレハロースを含んでいるので、L−アスコルビン酸類を必要とする組成物であって、これと、L−アスコルビン酸と反応してアクリルアミドを生成する恐れのある可食材料とを一緒に加熱処理して他の組成物を製造する場合でも、その製造工程でアクリルアミドが生成するのを効果的に抑制することができる。本品は、固結の防止された流動性良好な、また、取り扱い容易で保存安定性良好な顆粒であり、L−アスコルビン酸類を含有させた安全性の高い高品質の飲食物、化粧品、医薬品又はそれらの中間製品などの各種組成物を製造するために有利に用いることができる。
【実施例14】
【0107】
<L−アスコルビン酸類含有組成物>
L−アスコルビン酸2−グルコシド粉末(株式会社林原生物化学研究所販売、登録商標『AA2G』)1質量部と高純度含水結晶α,α−トレハロース粉末(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)9質量部とを均一に混合して、粉末状L−アスコルビン酸類含有組成物を得た。
【0108】
本品は、L−アスコルビン酸2−グルコシドとともにα,α−トレハロースを含んでいるので、L−アスコルビン酸類を必要とする組成物であって、これと、L−アスコルビン酸類と反応してアクリルアミドを生成する恐れのある可食材料とを一緒に加熱処理して他の組成物を製造する場合でも、その製造工程でアクリルアミドが生成するのを効果的に抑制することができる。本品は、固結の防止された流動性良好な、また、取り扱い容易で保存性良好な粉末であり、L−アスコルビン酸類を含有させた安全性の高い高品質の飲食物、化粧品、医薬品又はそれらの中間製品などの各種組成物を製造するために有利に用いることができる。
【実施例15】
【0109】
<L−アスコルビン酸類含有組成物>
L−アスコルビン酸粉末1質量部、高純度含水結晶α,α−トレハロース粉末(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)5質量部及び糖転移ルチン(株式会社林原商事販売、商品名『αGルチン P』)0.02質量部とを均一に混合し、顆粒化して、L−アスコルビン酸類含有組成物を得た。
【0110】
本品は、L−アスコルビン酸とともにα,α−トレハロース及び糖転移ルチンを含んでいるので、L−アスコルビン酸類を必要とする組成物であって、これと、L−アスコルビン酸と反応してアクリルアミドを生成する恐れのある可食材料とを一緒に加熱処理して他の組成物を製造する場合でも、その製造工程でアクリルアミドが生成するのを効果的に抑制することができる。本品は、固結の防止された流動性良好な、また、取り扱い容易で保存安定性良好な顆粒であり、L−アスコルビン酸類を含有させた安全性の高い高品質の飲食物、化粧品、医薬品又はそれらの中間製品などの各種組成物を製造するために有利に用いることができる。
【実施例16】
【0111】
<W/O型エモリエントクリーム>
以下の成分を、以下の配合にしたがって、80℃で加熱溶解しつつ混合した。

ミツロウ 3.0質量部
セタノール 5.0質量部
還元ラノリン 5.0質量部
スクワラン 31.5質量部
自己乳化型モノステアリン酸グリセリン 4.0質量部
親油型モノステアリン酸グルセリン 2.0質量部
ソルビタンモノラノリン酸エステル 2.0質量部
【0112】
以下の成分を以下の配合にしたがって別途混合し、80℃に加熱溶解したものに上記混合物を攪拌しながら徐々に添加し、30℃以下にまで冷却してW/O型エモリエントクリームを製造した。

防腐剤 0.2質量部
L−グルタミン酸ナトリウム 3.2質量部
L−セリン 0.8質量部
α,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)
2.0質量部
α,β−トレハロース((株)林原生物化学研究所販売、商品名『ネオトレハロース』) 4.0質量部
L−アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原生物化学研究所販売、登録商標『AA2G』) 1.0質量部
プロピレングリコール 5.0質量部
精製水 30.5質量部
【0113】
本品は、アミノ酸及びL−アスコルビン酸2−グルコシドとともにα,α−トレハロース及びα,β−トレハロースを含んでいるので、加熱処理によるアクリルアミドの生成が抑制されたエモリエントクリームである。また、本品は優れた保湿性を示す上、のび、つやとも良く、安全性の高い化粧料として好適である。
【実施例17】
【0114】
<ドリンク剤>
アミノ酸混合物としてL−イソロイシン4質量部、L−ロイシン6質量部、L−リジン塩酸塩8質量部、L−フェニルアラニン8質量部、L−チロシン1質量部、L−トリプトファン8質量部、L−バリン8質量部、L−アスパラギン酸1質量部、L−セリン1質量部、L−メチオニン1質量部、L−トレオニン2質量部、L−アルギニン塩酸塩8質量部の混合物を調製した。次いで、このアミノ酸混合物4質量部、L−アスコルビン酸2−グルコシド粉末(株式会社林原生物化学研究所販売、登録商標『AA2G』)1質量部、高純度含水結晶α,α−トレハロース粉末(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)6質量部、α,β−トレハロース((株)林原生物化学研究所販売、商品名『ネオトレハロース』)2質量部、糖転移ヘスペリジン(株式会社林原商事販売、商品名『αGヘスペリジン PA』)0.02質量部、硝酸チアミン0.01質量部、ニコチン酸アミド0.04質量部、水86.05質量部を均一に混合し、50ml容の褐色瓶に充填した後密封し、これを85℃で30分間保って加熱滅菌してドリンク剤を調製した。
【0115】
本品は、アミノ酸及びL−アスコルビン酸2−グルコシドとともにα,α−トレハロース及びα,β−トレハロースを含んでいるので、加熱処理によるアクリルアミドの生成が抑制された、安全性の高いアミノ酸含有ドリンク剤として好適である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のアクリルアミドの生成抑制方法を飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの中間製品など各種組成物の製造に応用することで、発癌及び神経障害などを惹起する恐れの少ない安全性の高い組成物を製造することができる。また、本発明のアミノ基を有する有機物質及び/又はアクリルアミド生成能を有する糖質とアクリルアミド生成抑制能を有する有機物質とを含有せしめてなるアクリルアミドの生成抑制能を備えた組成物は、農産物、畜産物、水産物又はそれらの加工品、調味料及び甘味料などとして、飲食物、化粧品、医薬品やそれらの中間製品などに有利に利用できる。とりわけ、アクリルアミド生成能を有する糖質がL−アスコルビン酸類の場合には、アクリルアミドの生成抑制能を備えたL−アスコルビン酸類含有組成物として、L−アスコルビン酸類を必要とする組成物であって、これを、他に加熱処理によりアクリルアミドを生成する恐れのある成分を含む飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの中間製品の製造に用いることにより、それらの製造工程でアクリルアミドが生成するのを効果的に抑制することができる。当該L−アスコルビン酸類含有組成物は、安全性が高く、L−アスコルビン酸類(ビタミンC)を強化した高品質の飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの中間製品などの各種組成物を製造するために有利に用いることができる。
【0117】
以上述べたとおり、本発明は、まことに顕著な作用効果を奏する発明であり、飲食物、化粧品、医薬品、又はそれらの中間製品などを製造又は利用する産業への貢献は多大で意義ある発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸を還元性糖質またはL−アスコルビン酸類とともに加熱するにあたり、α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、及びルチン、ナリンジン、ヘスペリジン及びそれらの糖質誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上を、還元性糖質又はL−アスコルビン酸類に対し、モル比で、0.004以上共存せしめることを特徴とするアクリルアミドの生成抑制方法。
【請求項2】
還元性糖質が、D−キシロース、L−アラビノース、D−グルコース、D−フラクトース、D−ガラクトース、又はそれらの糖質を構成糖として含む還元性オリゴ糖である請求項1記載のアクリルアミドの生成抑制方法。
【請求項3】
L−アスコルビン酸類が、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸2−グルコシド、L−アスコルビン酸2−リン酸、又はそれらの塩である請求項1記載のアクリルアミドの生成抑制方法。
【請求項4】
還元性糖質に対し、α,α−トレハロースをモル比で0.75以上共存せしめることを特徴とする請求項1又は2記載のアクリルアミドの生成抑制方法。
【請求項5】
L−アスコルビン酸類に対し、α,α−トレハロースをモル比で1以上共存せしめることを特徴とする請求項1又は3記載のアクリルアミドの生成抑制方法。
【請求項6】
α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、及びルチン、ナリンジン、ヘスペリジン及びそれらの糖質誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上を有効成分とし、アミノ酸と還元性糖質またはL−アスコルビン酸類との加熱混合物におけるアクリルアミド生成を抑制するアクリルアミドの生成抑制剤。
【請求項7】
本質的に、L−アスコルビン酸類と、α,α−トレハロース及び/又はα,β−トレハロースからなる固状組成物。
【請求項8】
ポテトにα,α−トレハロース、α,β−トレハロース、及びルチン、ナリンジン、ヘスペリジン及びそれらの糖質誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有せしめる工程と、該工程により得られたポテトを150℃以上で加熱する工程を含むことを特徴とする、アクリルアミド生成が抑制されたポテト製品の製造方法。

【公開番号】特開2010−46075(P2010−46075A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239315(P2009−239315)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【分割の表示】特願2003−282087(P2003−282087)の分割
【原出願日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】