説明

アクリル樹脂フィルムおよびその製造方法

【課題】透明性、耐熱性、靱性に優れると共に、光学等方性に優れ、かつ高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性に優れたアクリル樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%、(iv)芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位0〜10重量%からなる熱可塑性共重合体(A)から構成され、二軸延伸処理を施してなることを特徴とするアクリル樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性、靱性に優れると共に、光学等方性に優れ、かつ高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性に優れたアクリル樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビや携帯電話等の液晶表示装置には、液晶パネル表面を形成するガラス基板の両側に偏光板を配置することが必要不可欠である。偏光板としては、現在、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルムとヨウ素等の二色性材料からなる偏光子の両面に、トリアセチルセルロース(TAC)に代表されるセルロース系の樹脂フィルムを用いた偏光子保護フィルムを貼り合わせたものが、主流として用いられている。
【0003】
しかし、セルロース系の樹脂フィルムは、耐湿熱特性が十分ではなく、セルロース系の樹脂フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた偏光板を高温/高湿下において使用すると、その光学特性が大きく低下するという欠点があった。また、セルロース系樹脂フィルムは、斜め方向の入射光に対して位相差を生じる。このような位相差は、近年、液晶ディスプレイの大型化が進むに従い、視野角特性に悪影響を及ぼすようになっている。
【0004】
そのような課題を解決するため、近年、セルロース系の樹脂フィルムに代わる、透明性・耐熱性・光学等方性に優れる材料の開発およびそれを使用した偏光子保護フィルムの開発が活発化している。ここで光学等方性とは、面内位相差の絶対値、厚み位相差の絶対値、光弾性係数の絶対値のすべてが小さい特性のことをいう。
【0005】
例えば、透明性・耐熱性・光学等方性に優れる熱可塑性樹脂の一つとして、グルタル酸無水物単位を含有する共重合体が知られており、その共重合体から構成されるフィルムやシートが開示されている(特許文献1、2参照)。しかしながら、該共重合体から構成されるフィルムやシートは脆く、靱性に劣るという課題があった。そのため、該共重合体から構成されるフィルムやシートの靱性を改良する手法として、ゴム質含有重合体を添加したフィルムが開示されている(特許文献3参照)。さらに、その他靱性を改良する手法として、二軸延伸したシートが開示されている(特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献3に開示されているゴム質含有重合体を添加したフィルムでは、確かに靱性に優れるものの、ゴム質含有重合体を添加したフィルムは透明性に劣るという課題があった。さらにゴム質含有重合体の添加により、ガラス転移温度は大きく低下しないものの、ゴム質含有重合体のガラス転移温度は、室温以下と低いため、実用的に高温下での寸法変化に劣るという課題があった。一方、特許文献4に開示されている共重合体から構成される二軸延伸シートは、確かに靱性、耐熱性に優れる。しかしながら、該公報には、光弾性係数、位相差等の光学特性に関する記載が全くなく、光学用フィルム等の用途に関しても全く記載されていない。さらに、該共重合体には、芳香環を含むビニル系単量体成分としてスチレン成分が共重合されている。ポリスチレンは、一般的な透明樹脂とは異なり、位相差と光弾性係数という2つの光学特性の符号が逆であり、この特徴が、光学用フィルムの一つである偏光子保護フィルムとして必要とされる光学等方性を著しく阻害するという課題があった。
【特許文献1】特開2004−51928号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献2】特開2004−51946号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献3】特開2004−292812号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献4】特開昭60−149435号公報(第1−2頁、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、透明性、耐熱性、靱性に優れると共に、光学等方性に優れ、かつ高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性に優れたアクリル樹脂フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1](i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%、(iv)芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位0〜10重量%からなる熱可塑性共重合体(A)から構成され、二軸延伸処理を施してなることを特徴とするアクリル樹脂フィルム。
【0009】
【化1】

【0010】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
[2]ゴム質含有重合体を含まないことを特徴とする上記[1]記載のアクリル樹脂フィルム。
[3]熱可塑性共重合体(A)が、(i)グルタル酸無水物単位5〜40重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位60〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜5重量%、(iv)芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位0〜5重量%からなることを特徴とする上記[1]あるいは[2]記載のアクリル樹脂フィルム。
[4]熱可塑性共重合体(A)の波長580nmに対する光弾性係数の絶対値が、10×10−12Pa−1以下であることを特徴とする上記[1]〜[3]いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
[5]二軸延伸処理後の面内位相差(Re)の絶対値が3nm以下、かつ厚み位相差(Rth)の絶対値が15nm以下であることを特徴とする上記[1]〜[4]いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
[6]60℃、90%RH、500時間湿熱処理後の面内位相差(Re)の絶対値が3nm以下、かつ厚み位相差(Rth)の絶対値が15nm以下であることを特徴とする上記[1]〜[5]いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
[7]引張試験における破断伸度が10%以上であることを特徴とする上記[1]〜[6]いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
[8]60℃、90%RH、500時間湿熱処理後における寸法変化率が、2%以下であることを特徴とする上記[1]〜[7]いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
[9]下記一般式(2)で表されるエステル化剤を、熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と反応させた後、製膜し、二軸延伸処理を施してなることを特徴とする上記[1]〜[8]いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
【0011】
【化2】

【0012】
(ただし、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
[10]光学用フィルムであることを特徴とする上記[1]〜[9]いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
[11]光学用フィルムが偏光子保護フィルムであることを特徴とする上記[10]記載のアクリル樹脂フィルム。
[12]前記エステル化剤を、前記熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と反応させた後、製膜し、二軸延伸処理を施すことを特徴とする上記[1]〜[11]いずれか記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
[13]前記エステル化剤を、前記熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位に対するモル比で、0.3〜3.0倍量添加することを特徴とする上記[12]記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
[14]前記エステル化剤を、160℃〜280℃に昇温した溶融混練装置中で、前記熱可塑性共重合体(A)と溶融混練することを特徴とする上記[12]あるいは[13]記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
[15]溶融混練装置が、押出機であることを特徴とする上記[14]記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
[16]押出機が、二軸押出機であることを特徴とする上記[15]記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
[17]前記エステル化剤を、前記熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と反応させた後、残存ないしは生成する揮発成分を脱揮除去することを特徴とする上記[12]〜[16]いずれか記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
[18]揮発成分を脱揮除去した後、加熱処理により、未反応の(iii)不飽和カルボン酸単位と(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位との脱アルコール反応および/または未反応の(iii)不飽和カルボン酸単位同士による脱水反応による分子内環化反応させることを特徴とする上記[12]〜[17]記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
[19]前記分子内環化反応工程の温度が、260〜360℃であることを特徴とする上記[18]記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
[20]前記分子内環化反応工程が、溶融混練装置での溶融混練工程であることを特徴とする上記[18]あるいは[19]記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
[21](イ)前記エステル化剤を、前記熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と反応させる工程、(ロ)残存ないしは生成する揮発成分を脱揮除去する工程、(ハ)前記分子内環化反応させる工程のすべての工程を、1台の溶融混練装置中で連続的に為すことを特徴とする上記[20]記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、特定の単量単位からなる熱可塑性共重合体を二軸延伸処理することで、透明性、耐熱性、靱性に優れると共に、光学等方性に優れ、かつ高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性に優れたアクリル樹脂フィルムを得ることが出来る。さらには、熱可塑性共重合体中の不飽和カルボン酸単位を特定のエステル化剤によりエステル化することにより、透明性、耐熱性、靭性、光学等方性を維持したまま、高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性を、顕著に向上させたアクリル樹脂フィルムを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のアクリル樹脂フィルムについて具体的に説明する。
【0015】
本発明のアクリル樹脂フィルムを構成する熱可塑性共重合体(A)とは、(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%、(iv)芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位0〜10重量%からなる熱可塑性共重合体である。
【0016】
【化3】

【0017】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【0018】
熱可塑性共重合体(A)中の(i)グルタル酸無水物単位の含有量は、熱可塑性共重合体(A)100重量%中に5〜50重量%、より好ましくは5〜40重量%、最も好ましくは5〜30重量%である。グルタル酸無水物単位が5重量%未満である場合、耐熱性向上効果が小さくなるだけでなく、本発明の効果である光学等方性に劣るという問題がある。
【0019】
熱可塑性共重合体(A)中の(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の含有量は、熱可塑性共重合体(A)100重量%中に50〜95重量%、好ましくは60〜95重量%、最も好ましくは70〜95重量%である。
【0020】
熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位の含有量は、熱可塑性共重合体(A)100重量%中に0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%、最も好ましくは0〜3重量%である。(iii)不飽和カルボン酸単位が10重量%を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下し、さらに高温多湿下での耐久性に劣るという問題がある。
【0021】
熱可塑性共重合体(A)中の(iv)芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位の含有量は、熱可塑性共重合体(A)100重量%中に0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%である。
【0022】
熱可塑性共重合体(A)における各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機、カーボン核磁気共鳴(13C−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、グルタル酸無水物単位は、1800cm−1および1760cm−1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、H−NMR法では、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸単位、およびメタクリル酸メチル単位からなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属は、0.5〜1.5ppmのピークはメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物単位のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素である。
【0023】
熱可塑性共重合体(A)の13C−NMRスペクトルにおいて、(i)グルタル酸無水物含有単位の酸無水物のカルボニル基のピークは化学シフト170.50〜174.40ppmの範囲に分裂して観測され、(ii)不飽和カルボン酸エステル単位のカルボニル基のピークは、そのシーケンスとタクティシティーによって、化学シフト174.60〜179.43ppmの範囲に分裂して観測され、(iii)不飽和カルボン酸単位のカルボニル基のピークは、そのシーケンスとタクティシティーによって、化学シフト179.15〜182.00ppmの範囲に分裂して観測され、(ii)不飽和カルボン酸エステル単位のカルボニル基のピークと(iii)不飽和カルボン酸単位のカルボニル基のピークが一部重なって観察されるが、(ii)不飽和カルボン酸エステル単位のカルボニル基のピークと(iii)不飽和カルボン酸単位のカルボニル基のピークが重なった部分において、(ii)不飽和カルボン酸エステル単位のカルボニル基のピークが占める割合は(iii)不飽和カルボン酸単位のカルボニル基のピークが占める割合と比較して無視できるほど小さいため、本発明では、(ii)不飽和カルボン酸エステル単位のカルボニル基のピークは、化学シフト174.60〜179.14ppmの範囲、(iii)不飽和カルボン酸単位のカルボニル基のピークは、化学シフト179.15〜182.00ppmの範囲とし、これらの積分値から各々の組成を決定できる。
【0024】
前記(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位としては、下記一般式(3)で表される構造を有するものが好ましい。
【0025】
【化4】

【0026】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを表す)
【0027】
前記(iii)不飽和カルボン酸単位としては、下記一般式(4)で表される構造を有するものが好ましい。
【0028】
【化5】

【0029】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【0030】
前記(iv)芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位とは、上記(i)〜(iii)のいずれにも属さない共重合可能なビニル単量体単位である。
【0031】
熱可塑性共重合体(A)は、基本的には以下に示す方法により製造することができる。すなわち、後の加熱工程により上記一般式(1)で表される(i)グルタル酸無水物単位を与える不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を共重合させ、共重合体(a)を得る。その際、前記(iv)芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位を含む場合には該単位を与える芳香環を含まないビニル系単量体を共重合させてもよい。得られた共重合体(a)を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱水反応および/または脱アルコール反応による分子内環化反応を行わせることにより、熱可塑性共重合体(A)を製造することができる。この場合、典型的には、共重合体(a)を加熱することにより、隣接する2単位の(iii)不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基の間の脱水反応により、あるいは、隣接する(iii)不飽和カルボン酸単位と(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の間の脱アルコール反応により、1単位の前記(i)グルタル酸無水物含有単位が生成される。
【0032】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい例として、下記一般式(5)で表されるものを挙げることができる。
【0033】
【化6】

【0034】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを表す)
【0035】
これらのうち、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが特に好適である。なお、上記一般式(5)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると上記一般式(3)で表される構造の(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0036】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい具体例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−へキシル、メタクリル酸n−へキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸クロロメチル、メタクリル酸クロロメチル、アクリル酸2−クロロエチル、メタクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルおよびメタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、なかでもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0037】
また、不飽和カルボン酸単量体としては、他のビニル化合物と共重合させることが可能ないずれの不飽和カルボン酸単量体も使用可能である。好ましい不飽和カルボン酸単量体として、下記一般式(6)
【0038】
【化7】

【0039】
(ただし、R10は水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
で表される化合物、マレイン酸、および無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられる。
【0040】
特に熱安定性が優れる点でアクリル酸またはメタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上を用いることができる。なお、上記一般式(6)で表される不飽和カルボン酸単量体は、共重合すると上記一般式(4)で表される構造の(iii)不飽和カルボン酸単位を与える。
【0041】
また、本発明で用いる共重合体(a)の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、芳香環を含まないその他のビニル系単量体を用いてもかまわない。この芳香環を含まないその他のビニル系単量体は、共重合すると前記の(iv)芳香環を含まないその他のビニル単量体単位を与える。芳香環を含まないその他のビニル系単量体の好ましい具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体、アリルグリシジルエーテル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンなどを挙げることができる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0042】
共重合体(a)の重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、沈殿重合等の公知の重合方法を用いることができる。不純物がより少ない点で溶液重合、塊状重合、懸濁重合、沈殿重合が好ましい。
【0043】
本発明において、共重合体(a)の製造時に用いられるこれらの単量体混合物の割合は、該単量体混合物全体を100重量%として、不飽和カルボン酸単量体が5〜60重量%、好ましくは5〜55重量%、最も好ましくは5〜50重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は40〜95重量%、好ましくは45〜95重量%、最も好ましくは50〜95重量%である。これらに共重合可能な芳香環を含まない他のビニル系単量体の割合は0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%である。
【0044】
不飽和カルボン酸単量体の含有量が5重量%未満の場合には、共重合体(a)の加熱により、熱可塑性共重合体(A)を製造する際に、上記一般式(1)で表される(i)グルタル酸無水物単位の生成量が少なくなり、熱可塑性共重合体(A)の耐熱性向上効果が小さくなり、さらに光学等方性に劣る傾向がある。一方、不飽和カルボン酸単量体の含有量が60重量%を超える場合には、共重合体(a)の加熱により、熱可塑性共重合体(A)を製造する際に、(iii)不飽和カルボン酸単位が多量に残存する傾向があり、熱可塑性共重合体(A)の無色透明性、滞留安定性、高温多湿下での耐久性が低下する傾向がある。
【0045】
本発明の熱可塑性共重合体(A)は、重量平均分子量が3万〜18万であることが好ましい。このような分子量を有する熱可塑性共重合体(A)は、共重合体(a)の製造時に、共重合体(a)を重量平均分子量で3万〜18万に予め制御しておくことにより、達成することができる。
【0046】
共重合体(a)の分子量制御方法については、例えば、アゾ化合物、過酸化物等のラジカル重合開始剤の添加量、あるいはアルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤の添加量等により、制御することができる。特に、重合の安定性、取り扱いの容易さ等から、連鎖移動剤であるアルキルメルカプタンの添加量を制御する方法が好ましく使用することができる。
【0047】
本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタンまたはn−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0048】
これらアルキルメルカプタンの添加量としては、好ましい分子量に制御するために、単量体混合物の全量100重量部に対して、0.2〜5.0重量部が好ましく、より好ましくは0.3〜4.0重量部、さらに好ましくは0.4〜3.0重量部である。
【0049】
本発明における共重合体(a)を加熱処理し、脱水反応および/または脱アルコール反応により分子内環化反応を行い、グルタル酸無水物含有単位を含有する熱可塑性重合体(A)を製造する方法は、特に制限はないが、共重合体(a)をベントを有する加熱した押出機に通す方法や不活性ガス雰囲気または真空下で加熱脱揮する方法が好ましい。酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、系内を窒素などの不活性ガスで十分に置換することが好ましい。特に好ましい加熱処理装置として、例えば、”ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、二軸・単軸複合型連続混練押出装置、三軸押出機その他の押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができ、とりわけ二軸・単軸複合型連続混練押出装置が色調の面から好ましく使用することができる。上記二軸・単軸複合型連続混練押出装置としては、例えば、CTE社製「HTM50」、「HTM38」を好ましく使用することができる。
【0050】
また、窒素などの不活性ガスが導入可能な構造を有した装置が、より好ましい。例えば、二軸押出機に、窒素などの不活性ガスを導入する方法としては、ホッパー上部および/または下部より、10〜100リットル/分程度の不活性ガス気流の配管を繋ぐ方法などが挙げられる。
【0051】
なお、上記の方法により加熱脱揮する温度は、脱水反応および/または脱アルコール反応により分子内環化反応が生じる温度であれば特に限定されないが、好ましくは180〜370℃の範囲、特に好ましくは200〜360℃の範囲である。
【0052】
また、この際の加熱脱揮する時間は、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1分間〜60分間が好ましく、より好ましくは2分間〜30分間、とりわけ好ましくは3〜20分間の範囲である。押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するため、押出機スクリューの長さをL、直径をDとすると、L/Dが40以上110以下であることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる傾向や成形滞留時に色調が悪化する傾向がある。押出機のL/Dが110より大きい場合、押出機の機械的強度や構造上の問題のため、現実的な利点が小さくなるため好ましくない。
【0053】
さらに本発明では、共重合体(a)を上記方法等により加熱する際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリおよび塩化合物から選ばれた1種以上を添加することができる。その添加量は、共重合体(a)100重量部に対し、0.01〜1重量部程度が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム等が挙げられる。さらに、塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩、各種アルキルアンモニウム塩を含むアンモニウム塩等が挙げられる。ただし、その触媒の色が熱可塑性重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。中でも、アルカリ金属を含有する化合物が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられる。とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、および酢酸ナトリウムが好ましく使用することができる。
【0054】
また熱可塑性共重合体(A)は、重量平均分子量が3万〜18万であることが好ましく、より好ましくは5万〜18万、特に7万〜18万が好ましい。重量平均分子量が、この範囲にあることにより、後工程の加熱脱気時の着色を低減でき、黄色度の小さい重合体を得ることができるとともに、成形品の機械的強度も高くすることができる。なお、本発明でいう重量平均分子量とは、多角度光散乱ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC−MALLS)で測定した絶対分子量での重量平均分子量を示す。
【0055】
また、熱可塑性共重合体(A)はガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが耐熱性の面で好ましい。ガラス転移温度は、115℃以上がより好ましく、120℃以上が特に好ましい。また、上限としては、通常、170℃程度である。なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定したガラス転移温度(Tg)である。
【0056】
本発明で用いる熱可塑性共重合体(A)の黄色度(Yellowness Index)の値が5以下が好ましく、さらに好ましい態様においては4以下、最も好ましい態様においては、3以下である。これにより、極めて優れた無色性を有する成形品やフィルムを得ることができるため好ましい。なお、ここでいう黄色度(Yellowness Index)とは、熱可塑性共重合体(A)を射出成形し、得られた厚さ1mm成形品をJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定した値である。
【0057】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、靱性向上の点から、二軸延伸処理を施されたものであることが重要である。ここでいう二軸延伸処理とは、フィルムに対して縦延伸および横延伸を行う手法であり、逐次二軸延伸または同時二軸延伸が好ましく用いられる。
【0058】
好ましい延伸倍率は、1.1〜5.0倍であり、より好ましくは、1.1〜4.0倍、最も好ましくは1.1〜3.0倍である。好ましい延伸温度は、本発明のフィルムのTg−20℃〜Tg+30℃の範囲が好ましい。延伸温度がTg−20℃未満であると、延伸時フィルムへの応力が大きくなり破断しやすくなる。また、Tg+30℃を超えると、フィルムが軟化・溶融する傾向があり、延伸ができなくなる。
【0059】
本発明においては、上記の熱可塑性共重合体(A)にゴム質含有重合体(B)を含有しないことが好ましいが、本発明の効果である透明性、耐熱性、光学等方性を損なわない範囲で、ゴム質含有重合体(B)を添加することも可能である。
【0060】
ゴム質含有重合体(B)を添加する場合、ゴム質含有重合体(B)としては、1以上のゴム質重合体を含む層と、それとは異種の重合体から構成される1以上の層から構成され、かつ、内部に1層以上のゴム質重合体を含む層を有する構造の、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体や、ゴム質重合体の存在下に、ビニル単量体などからなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体等が好ましく使用できるが、特に多層構造重合体が透明性・着色の少なさの点で優れており、好ましい。
【0061】
多層構造重合体としては、市販品を用いてもよく、また公知の方法により作製して用いることもできる。
【0062】
多層構造重合体の市販品としては、例えば、三菱レイヨン社製”メタブレン(登録商標)”、鐘淵化学工業社製”カネエース(登録商標)”、呉羽化学工業社製”パラロイド(登録商標)”、ロームアンドハース社製”アクリロイド(登録商標)”、ガンツ化成工業社製”スタフィロイド(登録商標)”およびクラレ社製”パラペット(登録商標)SA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0063】
熱可塑性共重合体(A)にゴム質含有重合体(B)を添加する場合、熱可塑性共重合体(A)100重量部に対するゴム質含有重合体(B)の割合は、好ましくは0〜20重量部、より好ましくは0〜15重量部、最も好ましくは0〜10重量部である。
【0064】
本発明のアクリル樹脂フィルムについては、波長580nmの光に対する光弾性係数の絶対値が10×10−12 Pa−1以下であることが好ましく、より好ましくは7×10−12Pa−1以下、最も好ましくは5×10−12Pa−1以下である。光弾性係数の絶対値が10×10−12 Pa−1以下であると、例えば、フィルムに応力がかかった場合に、位相差の変化が大きくなることがないので好ましい。ここでいう波長580nmの光に対する光弾性係数とは、楕円偏光測定装置(王子計測機器(株)製 製品名「KOBRA−WPR」)を用いて、サンプル(サイズ15mm×100mm×約40μm厚)の両端を挟んで応力(0.01〜10N)をかけながら、サンプル中央の位相差値(23℃/580nm)を測定し、応力と位相差の関数の傾きから算出した値である。
【0065】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムについては、波長580nmに対する面内位相差(Re)の絶対値は、好ましくは3nm以下、より好ましくは2nm以下、最も好ましくは1nm以下である。また、波長580nmに対する厚み位相差(Rth)の絶対値は、好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下、最も好ましくは3nm以下である。
【0066】
ここでいう波長580nmの光に対するReおよびRthとは、楕円偏光測定装置(王子計測機器(株)製 製品名「KOBRA−WPR」)を用いて、平行ニコル回転法により、サンプル(40mm×40mm×約40μm厚)中央の値を測定したものであり、下記式で表される。
Re=(nx−ny)×d ・・・(1)
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d ・・・(2)
ここで、
nx:平面の屈折率が最大となる方向(x軸)の屈折率
ny:x軸と垂直方向(y軸)の屈折率
nz:厚さ方向(z軸)の屈折率
d :フィルム厚さ(nm)。
【0067】
ここで、ReおよびRthを測定する際のフィルム厚さdは、JIS K 7130−1999に従い測定した値であり、好ましくは40±8μm以内、より好ましくは40±5μm以内である。
【0068】
例えば、光学用フィルムの一つである偏光子保護フィルムについては、光学等方性に優れること、すなわち面内・厚み位相差の絶対値および光弾性係数の絶対値すべてが小さいことが必要とされ、本発明のアクリル樹脂フィルムは、このような用途に好適に使用できる。
【0069】
本発明においては、熱可塑性共重合体(A)の共重合体成分としては、芳香環を含むビニル単量体単位は含まれない。例えば、芳香環を含むビニル単量体単位として、スチレンを使用した場合、共重合後にポリスチレン成分が含まれることとなる。ポリスチレンは、側鎖にベンゼン環を有しており、ベンゼン環に起因する分極率は、高分子主鎖に対して直交する方向を向くため、高分子主鎖方向の符号を「正」とした場合、符号が「負」の位相差を示す傾向がある。一般的に、位相差と光弾性係数の符号は同一であることが多いが、ポリスチレンの場合、光弾性係数の符号は、位相差の符号とは異なり、「正」の符号を示す。熱可塑性共重合体(A)を構成する成分である(i)グルタル酸無水物単位、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(iii)不飽和カルボン酸単位については、それぞれ位相差および光弾性係数の符号は一致している。すなわち、本発明の効果である光学等方性に優れること、すなわち面内・厚み位相差の絶対値および光弾性係数の絶対値すべてを小さくするためには、位相差および光弾性係数の符号の異なるポリスチレンのような芳香環を含むビニル系単量体単位を含んではならない。
【0070】
本発明のアクリル樹脂フィルムの60℃、90%RH下での500時間湿熱処理後のReの絶対値は、好ましくは3nm以下、より好ましくは2nm以下、最も好ましくは1nm以下であり、Rthの絶対値は、好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm、最も好ましくは3nm以下以下である。本発明のアクリル樹脂フィルムは、耐熱性および光学等方性に優れるので、湿熱処理後のReの絶対値、Rthの絶対値をこのような値にすることができ、湿熱処理をおこなったあとでも優れた光学特性を維持することができる。
【0071】
本発明のアクリル樹脂フィルムの引張試験における破断伸度は、好ましくは10%以上、より好ましくは12%以上である。ここでいう破断伸度とは、引張試験機(オリエンテック(株)社製 製品名「RTA−1T」)を用いて、サンプル(20mm×50mm)をチャックに取り付け、チャック間距離20mm、引張速度200mm/minで引張試験を実施した際の、MD方向(フィルム流れ方向)およびTD方向(フィルム流れと垂直方向)の破断伸度の平均値のことである。破断伸度が10%以上であると、フィルムの成形加工時に破壊するおそれがほとんどないため、製造工程上好ましい。
【0072】
本発明のアクリル樹脂フィルムの60℃、90%RH下での500時間湿熱処理後の寸法変化率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1.8%以下、更に好ましくは1.5%以下である。湿熱処理後の寸法変化率をこのような範囲とすることで、高温多湿時の光学特性の変化を小さく抑えることができるので好ましい。ここでいう寸法変化率とは、フィルムに30mm×30mmの正方形を描き、万能投影機(ニコン社製V−12)で湿熱処理前の4辺の正確な長さを測定し、その平均値を算出する(D)。そのフィルムを60℃×90%RHの恒温恒湿槽(タバイ社製LHL−112)中に入れ、500時間処理後、再度万能投影機により、正方形の4辺の正確な長さを測定し、その平均値を算出し(D)、寸法変化率を次式で算出する。
寸法変化率(%)=(D−D)/D×100 ・・・(3)。
【0073】
また、本発明で使用される熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と下記一般式(2)で表されるエステル化剤を反応せしめ、残存する不飽和カルボン酸単位を下記一般式(7)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位に変換し、熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位を低減することにより、本発明の特徴である、透明性、耐熱性、靱性、光学等方性を維持したまま、高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性を更に向上可能である。
【0074】
【化8】

【0075】
(ただし、R、Rは、同一または相異なるものであり、炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【0076】
【化9】

【0077】
(ただし、R11、Rは、同一または相異なるものであり、炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【0078】
この際、当該反応により得られる一般式(7)の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位は、一般式(2)で表されるエステル化剤に由来するアルキル基Rが導入された構造を有している。
【0079】
前記エステル化剤の具体例としては、オルト酢酸エステル系化合物および/またはオルトギ酸エステル系化合物が好ましく、より好ましくはオルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチルである。
【0080】
熱可塑性共重合体(A)を前記一般式(2)で表されるエステル化剤を用いて反応させる方法に特に制限はないが、ベントを有する連続溶融混練装置を用いる方法や不活性ガス雰囲気下または真空下で加熱脱気するバッチ式の溶融混練装置を用いる方法が好ましい。酸素存在下で熱可塑性共重合体(A)と前記一般式(2)で表されるエステル化剤を反応せしめると、黄色度が悪化する傾向が見られるため、系内を窒素などの不活性ガスで十分に置換することが好ましい。特に好ましい溶融混練装置として、例えば、“ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、二軸・単軸複合押出機、多軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができ、より好ましくは単軸押出機、二軸押出機、二軸・単軸複合押出機、多軸押出機などの連続式押出機であり、最も好ましくは二軸押出機である。
【0081】
熱可塑性共重合体(A)を前記一般式(2)で表されるエステル化剤を用いて反応させる際、押出機を使用する場合、エステル化剤を添加する手法として特に制限はないが、押出機の原料供給口から、熱可塑性共重合体(A)とともに前記一般式(2)で表されるエステル化剤を供給する手法や、押出機の途中にエステル化剤注入口を設け、押出機の原料供給口から、熱可塑性共重合体(A)を供給しながら、液体添加ポンプ等によりエステル化剤注入口よりエステル化剤を添加する手法等が挙げられるが、エステル化反応率の向上の点から、押出機の途中にエステル化剤注入口を設け、液体添加ポンプ等によりエステル化剤注入口よりエステル化剤を添加する手法が好ましい。
【0082】
熱可塑性共重合体(A)を前記一般式(2)で表されるエステル化剤を用いて反応させる条件としては、反応温度は160℃〜280℃の範囲が好ましく、より好ましくは170〜280℃、最も好ましくは、180〜280℃の範囲である。
【0083】
エステル化剤の反応量としては、熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位に対するモル比で、0.3〜3.0倍であることが好ましく、より好ましくは0.4〜2.5倍、最も好ましくは0.5〜2.0倍である。
【0084】
また、熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と前記一般式(2)で表されるエステル化剤を反応せしめた後、残存ないしは生成する揮発成分を脱気除去することが成形加工性、光学特性の点から好ましい。ここでいう、残存する揮発成分とは、前記一般式(2)で表されるエステル化剤のことである。また、生成する揮発成分とは、熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と前記一般式(2)で表されるエステル化剤を反応せしめた際、副反応により生成する化合物のことである。例えば、前記一般式(2)で表されるエステル化剤として、オルト酢酸トリメチルを使用した場合、生成する揮発成分とは、副反応により生じる酢酸メチルやメタノール等の化合物が、これに当たる。
【0085】
残存ないしは生成する揮発成分を脱気除去する方法としては、特に制限はないが、熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と前記一般式(2)で表されるエステル化剤を反応せしめる際、例えば、溶融混練装置として連続式の押出機を使用する場合、押出機にベントを設けることにより、ベントを開放した常圧状態や真空ポンプ等をベントに接続した減圧状態で揮発成分を脱気除去する方法等が挙げられ、好ましくは、真空ポンプ等をベントに接続した減圧状態で揮発成分を脱気除去する方法である。この際、ベントを設ける位置としては、熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と前記一般式(2)で表されるエステル化剤を反応せしめた直後の位置が好ましい。
【0086】
また、上記揮発成分を脱気除去した後、未反応の(iii)不飽和カルボン酸単位量を低減するため、加熱処理により、未反応の(iii)不飽和カルボン酸単位と(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位との脱アルコール反応および/または未反応の(iii)不飽和カルボン酸単位同士による脱水反応による分子内環化反応させることが、本発明の効果である光学等方性を維持したまま、高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性のさらなる向上の点で好ましい。
【0087】
上記脱アルコール反応および/または脱水反応により分子内環化反応せしめる手法として、特に制限はないが、ベントを有する加熱した押出機に通す方法や不活性ガス雰囲気または真空下で加熱脱揮する方法が好ましい。酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、系内を窒素などの不活性ガスで十分に置換することが好ましい。特に好ましい加熱処理装置として、例えば、”ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、二軸・単軸複合型連続混練押出装置、三軸押出機その他の押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの溶融混練装置などを用いることができ、より好ましくは単軸押出機、二軸押出機、二軸・単軸複合押出機、多軸押出機などの連続式押出機であり、さらに好ましくは二軸・単軸複合押出機および二軸押出機である。
【0088】
上記分子内環化反応における好ましい反応温度は、脱アルコール反応および/または脱水反応により分子内環化反応が生じる温度であれば特に限定されないが、好ましくは260〜360℃の範囲、より好ましくは270〜360℃の範囲、最も好ましくは280℃〜360℃の範囲である。
【0089】
また、上記分子内環化反応せしめる手法として、例えば溶融混練装置を使用する場合、溶融混練する時間は、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、10秒間〜60分間が好ましく、より好ましくは20秒間〜30分間、とりわけ好ましくは30秒間〜20分間の範囲である。溶融混練装置として、連続式の押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するため、押出機スクリューの長さをL、直径をDとすると、L/Dが10以上110以下であることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の(iii)不飽和カルボン酸単位がより多く残存する傾向にあり、本発明の効果である高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性の向上効果が小さくなる傾向がある。押出機のL/Dが110より大きい場合、押出機の機械的強度や構造上の問題のため、現実的な利点が小さくなるため好ましくない。
【0090】
また、(イ)前記エステル化剤を、前記熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と反応させる工程、(ロ)残存ないしは生成する揮発成分を脱揮除去する工程、(ハ)分子内環化反応させる工程のすべての工程を、1台の溶融混練装置中で連続的に為すことが、生産性の点から好ましい。この際、例えば溶融混練装置として、1台の連続式の押出機を使用する場合、(イ)前記エステル化剤を、前記熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と反応させる工程のL/Dは、3〜20が好ましく、より好ましくは4〜20、最も好ましくは5〜20である。また、1台の連続式の押出機を使用する際、(ロ)残存ないしは生成する揮発成分を脱揮除去する工程としては、(イ)前記エステル化剤を、前記熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と反応させる工程の直後に設けたベントにより脱揮除去する工程が好ましく、この場合、ベントのL/Dは、0.5〜12が好ましく、より好ましくは0.8〜11、最も好ましくは1〜10である。また、1台の連続式の押出機を使用する場合、(ハ)分子内環化反応させる工程のL/Dは、10以上が好ましく、より好ましくは12以上、最も好ましくは15以上である。
【0091】
また、本発明で使用される熱可塑性共重合体(A)には本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などや、熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などから選ばれた一種以上をさらに含有させることができる。この場合、他の熱可塑性樹脂の好ましい添加量は、熱可塑性共重合体(A)100重量部に対して、99重量部以下、より好ましくは95重量部以下、最も好ましくは90重量部以下である。また、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料、染料、蛍光増白剤などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。
【0092】
本発明のアクリル樹脂フィルムの二軸延伸前フィルムの製造方法には、公知の方法が使用できる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、溶液キャスト法、エマルション法、ホットプレス法等の製造方法が使用できる。好ましくは、T−ダイ法、溶液キャスト法またはホットプレス法が使用できる。インフレーション法やT−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。本発明のアクリル樹脂フィルムを製造するための溶融押出温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。また、溶液キャスト法により本発明のアクリル樹脂フィルムを製造する場合、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶媒が使用できる。好ましい溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン等である。溶液キャスト法により本発明のアクリル樹脂フィルムを製造する場合、熱可塑性共重合体(A)を前記の1種以上の溶媒に溶かし、その溶液をバーコーター、T−ダイ、バー付きT−ダイ、ダイ・コートなどを用いて、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱フィルム、スチールベルト、金属箔などの平板または曲板(ロール)上に流延し、溶媒を蒸発除去する乾式法、あるいは溶液を凝固液で固化する湿式法等を用いることにより製造できる。
【0093】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、単層であっても、さらには多層であっても良い。
【0094】
本発明のアクリル樹脂フィルムの厚みは、好ましくは10〜200μmであり、より好ましくは15〜170μm、最も好ましくは20〜150μmである。
【0095】
本発明のアクリル樹脂フィルムの用途は、特に制限はないが、優れた透明性、耐熱性、靱性、光学特性を活かせる用途が好ましい。好ましい用途例として、例えば、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの偏光板、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、タッチパネル用導光フィルム、各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)の基板保護フィルム等の光学用フィルム用途が挙げられる。中でも、優れた光学等方性、高温多湿時の耐久性を有することから、偏光子保護フィルムとして極めて有用である。
【0096】
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0097】
参考例1
熱可塑性共重合体(A−1)の作成
メタクリル酸メチル20重量部、アクリルアミド80重量部、過硫酸カリウム0.3重量部およびイオン交換水1500重量部を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保った。単量体が完全に、重合体に転化するまで反応を続け、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体の水溶液を得た。得られた水溶液を懸濁剤として使用した。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、前記のメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体懸濁剤0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を供給し、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質を反応系を撹拌しながら添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体(a−1)を得た。この共重合体(a−1)の重合率は98%であった。
メタクリル酸 17重量部
メタクリル酸メチル 83重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0098】
次いで、得られた(a−1)を流量調節バルブを備えた非噛合異方向回転の二軸・単軸複合型連続混練押出装置であるHTM38(シリンダー径38mm、二軸部分L/D=34、単軸部分L/D=14、CTE社製)を用いて、酢酸リチウム0.2部を添加し、原料供給速度10kg/h、スクリュー回転数:100rpm、シリンダ温度300℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−1)を得た。なお、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら反応を行った。
【0099】
次いで、ペレットを80℃で8時間乾燥し、13C−NMRにより組成分析を行った結果、グルタル酸無水物単位16.8重量%、メタクリル酸メチル単位81.7重量%、メタクリル酸単位1.5重量%であった。DSC測定によるガラス転移温度は、128℃であった。
【0100】
参考例2
熱可塑性共重合体(A−2)の作成
混合組成を下記に変更した以外は、参考例1と同様にして、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−2)を得た。
メタクリル酸 23重量部
メタクリル酸メチル 77重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0101】
得られた熱可塑性共重合体(A−2)のペレットを80℃で8時間乾燥し、13C−NMRにより組成分析を行った結果、グルタル酸無水物単位24.5重量%、メタクリル酸メチル単位73.3重量%、メタクリル酸単位2.2重量%であった。DSC測定によるガラス転移温度は、131℃であった。
【0102】
参考例3
熱可塑性共重合体(A−3)の作成
混合組成を下記に変更した以外は、参考例1と同様にして、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−3)を得た。
メタクリル酸 31重量部
メタクリル酸メチル 69重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0103】
得られた熱可塑性共重合体(A−3)のペレットを80℃で8時間乾燥し、13C−NMRにより組成分析を行った結果、グルタル酸無水物単位32.5重量%、メタクリル酸メチル単位63.5重量%、メタクリル酸単位4.0重量%であった。DSC測定によるガラス転移温度は、135℃であった。
【0104】
参考例4
熱可塑性共重合体(A−4)の作成
混合組成を下記に変更した以外は、参考例1と同様にして、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−4)を得た。
メタクリル酸 12重量部
メタクリル酸メチル 88重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0105】
得られた熱可塑性共重合体(A−4)のペレットを80℃で8時間乾燥し、13C−NMRにより組成分析を行った結果、グルタル酸無水物単位8.7重量%、メタクリル酸メチル単位90.5重量%、メタクリル酸単位0.8重量%であった。DSC測定によるガラス転移温度は、123℃であった。
【0106】
参考例5
熱可塑性共重合体(A−5)の作成
混合組成を下記に変更した以外は、参考例1と同様にして、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−5)を得た。
メタクリル酸 19重量部
メタクリル酸メチル 37重量部
スチレン 44重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0107】
得られた熱可塑性共重合体(A−5)のペレットを80℃で8時間乾燥し、13C−NMRにより組成分析を行った結果、グルタル酸無水物単位18.2重量%、メタクリル酸メチル単位33.3重量%、スチレン単位46.5重量%、メタクリル酸単位2.0重量%であった。DSC測定によるガラス転移温度は、129℃であった。
【0108】
参考例6
熱可塑性共重合体(A−6)の作成
混合組成を下記に変更した以外は、参考例1と同様にして、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−6)を得た。
メタクリル酸 50重量部
メタクリル酸メチル 45重量部
スチレン 5重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0109】
得られた熱可塑性共重合体(A−6)のペレットを80℃で8時間乾燥し、13C−NMRにより組成分析を行った結果、グルタル酸無水物単位52.0重量%、メタクリル酸メチル単位31.3重量%、スチレン単位8.2重量%、メタクリル酸単位8.5重量%であった。DSC測定によるガラス転移温度は、147℃であった。
【0110】
参考例7
熱可塑性共重合体(A−7)の作成
混合組成を下記に変更した以外は、参考例1と同様にして、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−7)を得た。
メタクリル酸メチル 100重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0111】
DSC測定によるガラス転移温度は、107℃であった。
【0112】
参考例8
ゴム質含有重合体(B−1)の作成
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に脱イオン水120重量部、炭酸カリウム0.5重量部、スルフォコハク酸ジオクチル0.5重量部および過硫酸カリウム0.005重量部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌後、アクリル酸ブチル53重量部、スチレン17重量部およびメタクリル酸アリル(架橋剤)1重量部を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、コア層重合体を得た。次いで、メタクリル酸メチル21重量部、メタクリル酸9重量部および過硫酸カリウム0.005重量部の混合物を90分かけて連続的に添加し、さらに90分間保持して、シェル層を重合させた。この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、2層構造のゴム質含有重合体(B−1)を得た。
【0113】
実施例1〜4、比較例1〜3
参考例1〜7で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(A−1〜A−7)を、リップ間隔0.6mmに調整したT−ダイ付き二軸溶融混練機HK−25D(パーカーコーポレーション社製)に供し、ガラス転移温度(Tg)+130℃の温度で溶融製膜を実施した。ドラム温度を130℃とし、巻き取り速度を調整することにより、約80μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムをフィルム自動二軸延伸装置IMC−11A9型(井元製作所製)に供し、Tg+10℃の温度で、1.5倍同時二軸延伸を実施し、約40μm厚のフィルムを得た。
【0114】
実施例5
参考例2で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(A−2)100重量部および参考例6で得られたゴム質含有重合体(B−1)5重量部を、二軸溶融混練機TEX−30α(日本製鋼所製)に供し、シリンダー温度:280℃、スクリュー回転数:200rpm、10kg/hの供給量で溶融混練し、ペレタイズした。得られたペレットをリップ間隔0.6mmに調整したT−ダイ付き二軸溶融混練機HK−25D(パーカーコーポレーション社製)に供し、熱可塑性共重合体(A−2)のTg+130℃の温度で溶融製膜を実施した。ドラム温度を130℃とし、巻き取り速度を調整することにより、約80μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムをフィルム自動二軸延伸装置IMC−11A9型(井元製作所製)に供し、熱可塑性共重合体(A−2)のTg+10℃の温度で、1.5倍同時二軸延伸を実施し、約40μm厚のフィルムを得た。
【0115】
比較例4
参考例2で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(A−2)を、実施例1と同様に溶融製膜し、巻き取り速度を調整することにより約40μm厚のフィルムを得た。二軸延伸処理は実施しなかった。
【0116】
比較例5
参考例2で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(A−2)を、実施例1と同様に溶融製膜し、巻き取り速度を調整することにより約50μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムをフィルム自動二軸延伸装置IMC−11A9型(井元製作所製)に供し、Tg+10℃の温度で、MD方向(フィルム流れ方向)に、2倍1軸延伸を実施し、約40μm厚のフィルムを得た。
【0117】
比較例6、7
参考例2または3で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(A−2)または(A−3)100重量部と参考例6で得られたゴム質含有重合体(B−1)25重量部を、二軸溶融混練機TEX−30α(日本製鋼所製)に供し、シリンダー温度:280℃、スクリュー回転数:200rpm、10kg/hの供給量で溶融混練し、ペレタイズした。得られたペレットを、実施例5と同様に溶融製膜し、巻き取り速度を調整することにより約40μm厚のフィルムを得た。二軸延伸処理は実施しなかった。
【0118】
実施例6〜8
参考例1〜3で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(A−1)〜(A−3)100重量部を、日本製鋼所社製30mmφ二軸押出機(TEX−30α、L/D=45.5、ベント部1箇所)を使用し、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数:100rpm、供給量:10kg/hにて、240℃で溶融混練した。この際、押出機のL/D=22の位置より、富士テクノ工業社製液体供給ポンプ(HYM−06H)を使用し、メタクリル酸単位に対し等モル量となるように、オルト酢酸メチルを添加し、エステル化反応を実施した。L/D=38の位置に取り付けたベント部(L/D=2)より、真空ポンプを用い、未反応のオルト酢酸メチルおよび副生成物を減圧脱揮除去し、13C−NMRにより分析した表1記載の組成のペレット状の熱可塑性共重合体を得た。これら熱可塑性共重合体から、実施例1〜4と同様の手法により、同時2軸延伸を実施し、約40μm厚のフィルムを得た。
【0119】
実施例9〜11
参考例1〜3で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(A−1)〜(A−3)100重量部を、日本製鋼所社製30mmφ二軸押出機(TEX−30α、L/D=56、ベント部3箇所)を使用し、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数:120rpm、供給量:10kg/hにて、溶融混練した。この際、押出機のL/D=12.5の位置より、富士テクノ工業社製液体供給ポンプ(HYM−06H)を使用し、メタクリル酸単位に対し等モル量となるように、オルト酢酸メチルを添加し、エステル化反応を実施した。この際のエステル化反応工程のL/Dを7.5とし、エステル化反応工程に該当するシリンダーの設定温度を240℃とした。また、押出機のL/D=24の位置にベント部(L/D=2)を設置し、ベント部のシリンダー温度を300℃とし、真空ポンプを用い、未反応のオルト酢酸メチルおよび副生成物を減圧脱揮除去した。さらに、押出機のL/D=26〜56のシリンダー温度を300℃とし、分子内環化反応を実施した。なお、この際L/D=38.5の位置および52.5の位置にベント部(L/D=2)を設置し、分子内環化反応により生成した揮発成分を、真空ポンプを用い、減圧脱揮除去し、13C−NMRにより分析した表1記載の組成のペレット状の熱可塑性共重合体を得た。これら熱可塑性共重合体から、実施例1〜4と同様の手法により、同時2軸延伸を実施し、約40μm厚のフィルムを得た。
【0120】
実施例12
参考例2で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(A−2)を使用し、押出機のL/D=26〜56のシリンダー温度を240℃とし、分子内環化反応を実施した以外は、実施例9〜11と同様の手法で13C−NMRにより分析した表1記載の組成のペレット状の熱可塑性樹脂を得た。得られた熱可塑性共重合体から、実施例1〜4と同様の手法により、同時2軸延伸を実施し、約40μm厚のフィルムを得た。
【0121】
実施例13〜15
参考例1で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(A−1)を使用し、オルト酢酸メチルの添加量を、メタクリル酸単位に対し、モル比で0倍量すなわち添加剤なし(実施例13)、2倍量(実施例14)、4倍量(実施例15)とした以外は、実施例9〜11と同様の手法で、13C−NMRにより分析した表1記載の組成のペレット状の熱可塑性樹脂を得た。得られた熱可塑性共重合体から、実施例1〜4と同様の手法により、同時2軸延伸を実施し、約40μm厚のフィルムを得た。
【0122】
上記により得られたフィルムの各種物性の測定方法を以下に記載する。
【0123】
(1)透明性(全光線透過率およびヘイズ)
得られたフィルムを、東洋精機社製直読ヘイズメーターに供し、23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ(曇度)(%)を測定し、透明性を評価した。
【0124】
(2)光学等方性(光弾性係数、面内位相差および厚み位相差)
得られたフィルムを、15mm×100mmの大きさに切削し、楕円偏光測定装置(王子計測機器(株)製 製品名「KOBRA−WPR」)に供し、そのフィルムの両端を挟んで応力(0.01〜10N)をかけながら、サンプル中央の位相差値(23℃/580nm)を測定し、応力と位相差の関数の傾きから算出した。
【0125】
また、得られたフィルムを、40mm×40mmの大きさに切削し、楕円偏光測定装置(王子計測機器(株)製 製品名「KOBRA−WPR」)に供し、平行ニコル回転法により、波長580nmに対する面内位相差(Re)および厚み位相差(Rth)について、フィルム中央の値を測定した。
【0126】
(3)靱性(引張破断伸度)
得られたフィルムを、20mm×100mmに切削し、引張試験機(オリエンテック(株)社製 製品名「RTA−1T」)に供し、チャック間距離20mm、引張速度200mm/minで引張試験を実施した際の、MD方向(フィルム流れ方向)およびTD方向(フィルム流れと垂直方向)5本ずつの破断伸度を測定し、計10本の平均値を算出した。
【0127】
(4)耐熱性(乾熱処理後の寸法変化率)
得られたフィルムに30mm×30mmの正方形を描き、万能投影機(ニコン社製V−12)で処理前の4辺の正確な長さを測定し、その平均値を算出しDとした。そのフィルムを90℃のハイテンプオーブン(タバイ社製HPS−222)中に入れ、48時間乾熱処理後、再度万能投影機により、正方形の4辺の正確な長さを測定し、その平均値を算出し(D)、寸法変化率を次式で算出した。
寸法変化率(%)=(D−D)/D×100
【0128】
(5)耐久性(湿熱処理後の面内位相差、厚み位相差、寸法変化率)
上記(2)項によりReおよびRthを測定したフィルムを、60℃、90%RHの恒温恒湿槽(タバイ社製LHL−112)に供し、500時間湿熱処理を実施した。湿熱処理後のフィルムのReおよびRthを上記(2)項と同様にして評価した。
【0129】
また、上記(4)項と同様にして、得られたフィルムに30mm×30mmの正方形を描き、万能投影機(ニコン社製V−12)で処理前の4辺の正確な長さを測定した。そのフィルムを60℃、90%RHの恒温恒湿槽(タバイ社製LHL−112)に供し、500時間湿熱処理を実施した。500時間湿熱処理後の寸法変化率を上記(4)項と同様にして算出した。
【0130】
また、実施例9および実施例13〜15より、特定のエステル化剤を使用し、エステル化反応後、揮発成分を脱揮除去し、さらに分子内環化反応せしめる際、エステル化剤添加量を、メタクリル酸単位に対し、モル比で1倍量(実施例9)および2倍量(実施例14)とすることにより、0倍量すなわち添加剤無し(実施例13)と比較し、メタクリル酸単位の量をより低減させることが可能となり、光学特性(透明性、光学等方性)、靱性、耐熱性を維持したまま、湿熱処理時の耐久性をより向上せしめる(面内位相差、厚み位相差の耐久試験に伴う変化量および絶対値がより小さく、寸法変化率もより小さくなる)ことが可能となる。また、実施例9および実施例14は、エステル化剤添加量を、メタクリル酸単位に対し、モル比で4倍量(実施例15)とした系と比較し、耐久性試験前後の面内位相差および厚み位相差の絶対値がより小さく、光学等方性により優れる。すなわち、特定のエステル化剤を、ある特定の範囲内の添加量とすることにより、より顕著に本発明の効果を発現することが可能となる。
【0131】
【表1】

【0132】
実施例1〜4および実施例5より、本発明の二軸延伸アクリル樹脂フィルムは、透明性、光学等方性、靱性および耐熱性に均衡して優れるとともに、湿熱処理時の耐久性に優れる(面内位相差、厚み位相差の耐久試験に伴う変化量および絶対値が小さく、寸法変化率も小さい)ため、偏光子保護フィルム等の光学用フィルムとして極めて有用である。一方、比較例1および2の様に、芳香環を含むビニル系単量体単位を共重合成分として含有する場合、二軸延伸により靱性に優れるものの、透明性に劣るとともに、光学等方性および耐久性に大きく劣り(面内位相差および厚み位相差の絶対値および耐久試験に伴う変化量が大きく)、光学用フィルムへの展開は極めて困難である。
【0133】
また、比較例3の様に、グルタル酸無水物を含有しない共重合体からなる二軸延伸アクリル樹脂フィルムの場合、透明性、靭性に優れるものの、光学等方性および耐熱性に劣り、光学用フィルムへの展開は極めて困難である。
【0134】
また、比較例4の様に、二軸延伸処理をしない未延伸フィルムの場合、透明性、光学等方性、耐熱性、耐久性に優れるものの、靱性に極めて劣り、フィルムとして加工することが極めて困難である。一方、比較例5の様に、二軸ではなく1軸延伸処理を施した場合、靱性は若干向上するものの、1方向の延伸であるため、1方向の靱性しか向上せず、2方向の平均としての靭性向上効果は十分ではない。また、1軸延伸による分子鎖の配向のため、面内位相差および厚み位相差が大きくなるため、光学等方性に劣り、さらに耐久試験後の光学等方性にも大きく劣ることから、偏光子保護フィルムとしての展開は極めて困難である。
【0135】
一方、比較例6および7の様に、二軸延伸処理をせずに、ゴム質含有重合体を多量に添加した場合、確かに靱性は向上するものの、透明性に劣ると共に、乾熱処理後の寸法変化が大きくなり、耐熱性に劣ることから、光学用フィルムとしての展開は困難である。
【0136】
また、実施例6〜8より、特定のエステル化剤により、メタクリル酸単位をエステル化し、メタクリル酸単位の量を低減することにより、実施例1〜3と比較し、光学特性(透明性、光学等方性)、靱性、耐熱性を維持したまま、湿熱処理時の耐久性を更に向上せしめる(面内位相差、厚み位相差の耐久試験に伴う変化量および絶対値がより小さく、寸法変化率もより小さくなる)ことが可能となる。
【0137】
また、実施例9〜11より、特定のエステル化剤を使用し、エステル化反応後、揮発成分を脱揮除去し、さらに分子内環化反応せしめることにより、実施例6〜8と比較し、メタクリル酸単位の量をさらに低減させることが可能となり、光学特性(透明性、光学等方性)、靱性、耐熱性を維持したまま、湿熱処理時の耐久性をさらに向上せしめる(面内位相差、厚み位相差の耐久試験に伴う変化量および絶対値がさらに小さく、寸法変化率もさらに小さくなる)ことが可能となる。
【0138】
また、実施例12より、特定のエステル化剤を使用し、エステル化反応後、揮発成分を脱揮除去し、さらに分子内環化反応せしめる際、分子内環化反応温度を240℃とした場合、実施例7と比較し、メタクリル酸単位の量をより低減させることが可能となり、光学特性(透明性、光学等方性)、靱性、耐熱性を維持したまま、湿熱処理時の耐久性をより向上せしめる(面内位相差、厚み位相差の耐久試験に伴う変化量および絶対値がより小さく、寸法変化率もより小さくなる)ことが可能となる。ただし、分子内環化反応温度を300℃とした実施例10と比較すると、その耐久性向上効果は小さく、分子内環化反応温度がある特定の温度範囲であることが、耐久性向上効果の点から好ましいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%、(iv)芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位0〜10重量%からなる熱可塑性共重合体(A)から構成され、二軸延伸処理を施してなることを特徴とするアクリル樹脂フィルム。
【化1】

(上記式中、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【請求項2】
ゴム質含有重合体を含まないことを特徴とする請求項1記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
熱可塑性共重合体(A)が、(i)グルタル酸無水物単位5〜40重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位60〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜5重量%、(iv)芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位0〜5重量%からなることを特徴とする請求項1あるいは2記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項4】
熱可塑性共重合体(A)の波長580nmに対する光弾性係数の絶対値が、10×10−12Pa−1以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項5】
二軸延伸処理後の面内位相差(Re)の絶対値が3nm以下、かつ厚み位相差(Rth)の絶対値が15nm以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項6】
60℃、90%RH、500時間湿熱処理後の面内位相差(Re)の絶対値が3nm以下、かつ厚み位相差(Rth)の絶対値が15nm以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項7】
引張試験における破断伸度が10%以上であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項8】
60℃、90%RH、500時間湿熱処理後における寸法変化率が、2%以下であることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項9】
下記一般式(2)で表されるエステル化剤を、熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と反応させた後、製膜し、二軸延伸処理を施してなることを特徴とする請求項1〜8いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
【化2】

(ただし、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【請求項10】
光学用フィルムであることを特徴とする請求項1〜9いずれか記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項11】
光学用フィルムが偏光子保護フィルムであることを特徴とする請求項10記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項12】
前記エステル化剤を、前記熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と反応させた後、製膜し、二軸延伸処理を施すことを特徴とする請求項1〜11いずれか記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記エステル化剤を、前記熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位に対するモル比で、0.3〜3.0倍量添加することを特徴とする請求項12記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記エステル化剤を、160℃〜280℃に昇温した溶融混練装置中で、前記熱可塑性共重合体(A)と溶融混練することを特徴とする請求項12あるいは13記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項15】
溶融混練装置が、押出機であることを特徴とする請求項14記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項16】
押出機が、二軸押出機であることを特徴とする請求項15記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記エステル化剤を、前記熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と反応させた後、残存ないしは生成する揮発成分を脱揮除去することを特徴とする請求項12〜16いずれか記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項18】
揮発成分を脱揮除去した後、加熱処理により、未反応の(iii)不飽和カルボン酸単位と(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位との脱アルコール反応および/または未反応の(iii)不飽和カルボン酸単位同士による脱水反応による分子内環化反応させることを特徴とする請求項12〜17記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項19】
前記分子内環化反応工程の温度が、260〜360℃であることを特徴とする請求項18記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項20】
前記分子内環化反応工程が、溶融混練装置での溶融混練工程であることを特徴とする請求項18あるいは19記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項21】
(イ)前記エステル化剤を、前記熱可塑性共重合体(A)中の(iii)不飽和カルボン酸単位と反応させる工程、(ロ)残存ないしは生成する揮発成分を脱揮除去する工程、(ハ)前記分子内環化反応させる工程のすべての工程を、1台の溶融混練装置中で連続的に為すことを特徴とする請求項20記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2009−30011(P2009−30011A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22037(P2008−22037)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】