説明

アジド及び炭素同位体一酸化物を使用しイソシアネートを経由する、ロジウムで促進されたカルボニル化による炭素同位体標識合成の方法

炭素同位体で標識された一酸化炭素を使用して、イソシアネートを経由する、ロジウムで促進されるカルボニル化の方法及び試薬が提供されている。得られる炭素同位体標識化合物は、放射性医薬品として、特に陽電子放射断層撮影(PET)での使用に有用である。関連するPET研究用キットも提供されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽電子放射性核種で標識された、生物学的に活性な化合物を含む診断薬及び放射性診断薬に関する。本発明はさらに、標識合成における炭素同位体一酸化物の使用方法に関する。より具体的には、本発明は、最初の[11C]二酸化炭素ガス混合物から[11C]一酸化炭素が濃縮されたガス混合物を生成し、生成されたガス混合物をイソシアネートを経由しロジウムで促進されるカルボニル化による標識合成において使用する方法に関する。本発明による放射線標識化合物は、放射性医薬品として、特に陽電子放射断層撮影(PET)で使用する放射性医薬品として有用である。
【背景技術】
【0002】
短寿命の陽電子放射性核種(例えば、11C、t1/2=20.3分)で標識されたトレーサーは、陽電子放射断層撮影(PET)と組み合わせた、様々な非侵襲性の生体内検査で頻繁に使用される。標識物質の放射性、短い半減期及びマイクロモル未満の量のために、これらのトレーサーの生成には特別な合成手順が必要である。これらの手順の詳細の1つの重要な部分は、新しい11C標識前駆体の開発と取り扱いである。これは新しい種類の化合物を標識化するためだけではなく、既存の化合物の異なる位置を標識化する可能性を高めるためにも重要である。
【0003】
この20年間に、一酸化炭素を使用するカルボニル化の化学が著しく発展した。最近の、パラジウムで触媒されるカルボニル化カップリング反応などの方法の開発は、一酸化炭素を異なるカルボニル化合物に変換する温和で効率的な手段を提供してきた。
【0004】
生物学的に活性な物質は、カルボニル基又はカルボニル基から誘導することのできる官能基を含むことが多いので、[11C]一酸化炭素を使用するカルボニル化反応は、PET用トレーサー合成にとって主要な価値を有する。この合成法は、ほとんどの官能基に対応することができ、それは複雑な組立て単位をカルボニル化段階で組み立てて、目標化合物をもたらすことができることを意味する。合成時間を短縮し、それによって修正の効かない放射線化学的収率を最適化するために、一連の反応のできるだけ後のほうで、非標識基剤を標識前駆体と組み合わせなければならないPET用トレーサー合成では、このことは特に価値がある。
【0005】
化合物を11Cで標識する場合には、普通は、比放射能を最大化することが重要である。これを達成するためには、同位体希釈と合成時間を最小化しなければならない。標識化反応で「11C」二酸化炭素を使用する場合は、大気中の二酸化炭素による同位体希釈が大幅になることがある。一酸化炭素の反応性及び大気中の濃度は低いので(COについては3.4×10ppmであるのに対して0.1ppm)、[11C]一酸化炭素を使用する反応については、この問題は小さい。
【0006】
亜鉛、木炭又はモリブデンなどの還元剤を含む加熱カラムを使用する、[11C]二酸化炭素からの[11C]一酸化炭素の合成は、以前に複数の刊行物に記載されている。[11C]一酸化炭素は、ヒトにおけるトレーサー実験で適用された最初の11C標識化合物の1つであったが、最近までPETトレーサーの生成における実用的な用途を見出せなかった。その理由の1つは、[11C]一酸化炭素の低い溶解度と比較的遅い反応速度であり、これらが反応媒体中への捕捉効率が低い原因となる。[11C]沃化メチル、[11C]シアン化水素又は[11C]二酸化炭素などの前駆体を使用する一般的な手順は、気相で放射性を移転させることであり、ガスの流れを、反応媒体を通過させて導くことによって放射性を捕捉する。最近まで、これが標識合成で[11C]一酸化炭素を取り扱う唯一の利用可能な手順であった。このやり方では、[11C]一酸化炭素を用いる標識合成の大部分は、非常に低い収率になるか又は完全に失敗すると予想することができる。
【0007】
高圧技術(>300bar)を使用する実用的に価値のある11C標識合成が数例だけある。原理上は、反応速度を増し、試薬の量を最少化するために、高圧を利用することができる。このやり方についての1つの問題は、いかにして標識前駆体を小さな高圧反応器に閉じ込めるかということである。もう1つの問題は、反応器の構成である。普通のカラム型の反応器を使用する場合は(即ちそれぞれの端に配管が取り付けられたシリンダー)、気相は、実際には加圧下の液相から効率良く排除されることになる。その理由は、気相は、収縮させられた形では、取り付けられた配管中へ逃げて、大半の量の液体試薬からは離れてしまうことである。
【0008】
11C標識前駆体の取り扱い、特に11C二酸化炭素の場合には、コールドトラップ技法が広く使用されている。しかし、この手順は、単一の段階で実行されるだけでであったし、標識化合物は常に、コールドトラップの加熱と同時に連続したガス流中に放出された。さらに、標識化合物を捕捉するのに使用された材料の体積は、標識化合物が移送されてきた装置との関係では比較的大きかった。従って、この技法を標識化合物の徹底的な濃縮及び合成装置のミニチュア化のために使用するという選択肢は、検討されてこなかった。これは、11C標識化合物の量が普通は20〜60nmolの範囲にあるということを考慮すると、特に注目に値する。
【0009】
11C]一酸化炭素の生成及び使用のための最近の技術開発は、この化合物を標識合成において有用なものにした。国際公開第02/102711号は、炭素同位体一酸化物濃縮ガス混合物を、最初の炭素同位体二酸化物ガス混合物から生成し、使用する装置と方法を記載している。[11C]一酸化炭素は、サイクロトロンで生成した[11C]二酸化炭素から高い放射化学的収率で得ることができ、高い比放射能の目標化合物を得るために使用することが可能である。この反応器は、上に挙げた問題を克服し、パラジウム又はセレンが媒介する反応で[11C]一酸化炭素を使用して、11C標識化合物を合成するのに有用である。かかる方法で、一連のカルボニル化合物を標識することができる(Kilhlberg, T.; Langstrom, B. J., Org. Chem. 64, 1999, 9201−9205; Kihlberg, T., Karimi, F., Langstrom, B., J. Org. Chem. 67, 2002, 3687−3692)。
【0010】
かかる標識カルボニル化合物は、医薬品として重要な多くのPET用途のトレーサーを合成する道を開いたが、それでもまだ新しい合成方法の必要性がある。11Cの短い半減期の故に、標識化の工程を短時間(数分の範囲内)で完了するためには、厳しい条件、例えば100〜200℃の温度及び大量のパラジウム錯体の使用が必要とされてきた。かかる条件は、時には副反応に有利に働き、それが望ましくない生成物を与える。従って、熱に敏感なPETトレーサーの合成には、より効率的で温和な反応条件が好ましい。それ故に、高い比放射能の生成物を目指して、[11C]一酸化炭素を用いるカルボニル化反応をさらに探索する必要がある。
【0011】
脂肪族及び芳香族イソシアネートが、複雑な分子の組立て単位として広く使用されていることは注目に値する。イソシアネートは、普通は、多くの基剤によって求核付加を受け、生成物をほぼ定量的に与える。イソシアネートの[2+2]、[2+3]及び[2+3]付加環化は、複素環分子を合成するために使用される(H. Ulrich, Chemistry and Technology of Isocyanates, John Wiley & Sons, 1996)。これらの魅力的な特徴は、[11C]イソシアネートから誘導される[11C]カルボニル官能基合成の可能性を示唆している。それ故に、[11C]一酸化炭素を使用することによって、より多彩な標識カルボニル化合物を、反応前駆体又はPETトレーサーとして合成する新しい方法が必要である。それが、「11C」一酸化炭素の、有用なPETトレーサーの調製における有用性をさらに増すであろう。
【0012】
本明細書における参考文献の考察又は引用を、かかる参考文献が、本発明に対する先行技術であることの許可と解釈してはならない。
【特許文献1】国際公開第02/102711号パンフレット
【非特許文献1】Kilhlberg, T.; Langstrom, B. J., Org. Chem. 64, 1999, 9201−9205
【非特許文献2】Kihlberg, T., Karimi, F., Langstrom, B., J. Org. Chem. 67, 2002, 3687−3692
【非特許文献3】H. Ulrich, Chemistry and Technology of Isocyanates, John Wiley & Sons, 1996
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の段階(a)〜(f)を含む化合物を、イソシアネートを経て標識合成する方法を提供する。
【0014】
(a)底面に液体入口及びガス入口を有する高圧反応室を準備する段階、
(b)遷移金属錯体及び液体試薬と混合された、標識化されるアジド溶液を準備する段階、
(c)炭素同位体一酸化物が濃縮されたガス混合物を、ガス入口を経て反応室に導入する段階、
(d)遷移金属錯体及び液体試薬と混合されたアジド溶液を、反応室へ液体入口を経て高圧下で導入する段階、
(e)標識合成が起こっている間、所定の時間待機する段階、
(f)標識化合物を反応室から取り出す段階。
【0015】
本発明は、さらに、本発明の方法によって生成された標識化されたイソシアネートを提供する。
【0016】
さらに他の一実施形態では、本発明は、標識化イソシアネートを前駆体として使用して、[11C]標識化合物を提供する。さらに他の一実施形態では、本発明は、PETトレーサーとして使用するための、かかる[11C]標識化合物を含むキットを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の1つの目的は、先行技術の装置の欠点を克服する、炭素同位体一酸化物を生成し、標識合成において使用する方法及び装置を提供することである。これは、本発明で特許請求する方法及び装置によって達成される。
【0018】
かかる方法及び装置の1つの利点は、炭素同位体一酸化物の標識生成物へのほぼ定量的な変換が達成できることである。
【0019】
本発明の方法及び装置には、他にも幾つかの利点がある。高圧技法は、ジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン(THF)などの低沸点溶媒の高温(例えば、200℃)での使用を可能にする。ガスの拡散を防ぐ材料からなる密閉系の使用は、敏感な化合物の安定性を増し、適正製造基準(Good Manufacturing Practice:GMP)に関しても有利であるかもしれない。
【0020】
得られる標識化合物は高度に濃縮されていること、合成装置の小型化は自動化を促進すること、迅速な合成と精製、同位体希釈の最小化による比放射能の最適化といったさらに他の利点も得られる。
【0021】
最も重要なことは、本発明によって例証されるように、全く新しい合成の可能性が開けるということである。
【0022】
本発明の実施形態を、図を参照しながら以下に説明する。
【0023】
本出願を通じて使用される、炭素同位体という用語は、好ましくは11Cに言及するものであるが、11Cは、所望であれば13C及び14Cなどの他の同位体で置き換えることができることは理解されなければならない。
【0024】
図1は、本発明の方法全体のフローチャートであり、第1に、炭素同位体一酸化物濃縮ガス混合物の生成、及び第2に、標識合成手順を含む。より詳細には、この方法の生成部分は、以下の段階を含む。
【0025】
後で詳細に説明する種類の、適切なキャリヤーガス中の炭素同位体二酸化物を準備する段階。
【0026】
ガス混合物を、後で詳細に説明する反応装置に導入して、炭素同位体二酸化物を炭素同位体一酸化物に変換させる段階。
【0027】
変換ガス混合物を、炭素同位体二酸化物は捕捉されるが炭素同位体一酸化物もキャリヤーガスも捕捉されない、二酸化炭素除去装置を通過して流出させて、痕跡の炭素同位体二酸化物を除去する段階。二酸化炭素除去装置は、後で詳細に説明する。
【0028】
炭素同位体一酸化物は捕捉されるがキャリヤーガスは捕捉されない、一酸化炭素捕捉装置で捕捉する段階。一酸化炭素捕捉装置は、後で詳細に説明する。
【0029】
捕捉された炭素同位体一酸化物を捕捉装置から開放して、ある体積の炭素同位体一酸化物濃縮ガス混合物を得る段階。
【0030】
最初の炭素同位体二酸化物ガス混合物が、炭素同位体二酸化物及び窒素のように、分子特性が似ているなどのために一酸化炭素のキャリヤーガスとして適切ではない第1のキャリヤーガスを含む場合は、生成段階はさらに、最初の炭素同位体二酸化物ガス混合物用のキャリヤーガスを交換する段階を含んでもよい。より詳細には、He、Arなどの適切な第2のキャリヤーガス中の炭素同位体二酸化物を準備する段階は、以下の段階を含む。
【0031】
最初の炭素同位体二酸化物ガス混合物を、炭素同位体二酸化物は捕捉されるが第1のキャリヤーガスは捕捉されない二酸化炭素捕捉装置を通して流出させる段階。二酸化炭素除去装置は、後で詳細に説明する。
【0032】
二酸化炭素捕捉装置を適切な第2のキャリヤーガスでフラッシュして第1のキャリヤーガスの残部を除去する段階。
【0033】
捕捉された炭素同位体二酸化物を適切な第2のキャリヤーガス中に放出する段階。
【0034】
生成段階に続けばよい標識合成段階は、標識化試薬として生成された炭素同位体一酸化物濃縮ガス混合物を利用する。より詳細には、標識合成段階は、以下の段階を含む。
【0035】
底面に、液体試薬入口及び標識化試薬入口を有する、高圧反応室を準備する段階。反応室は、後で詳細に説明する。
【0036】
1種の遷移金属錯体及び液体試薬と混合された、標識化される1種のアジド溶液を準備する段階。
【0037】
炭素同位体一酸化物が濃縮されたガス混合物を、標識化試薬入口を経て反応室に導入する段階。
【0038】
遷移金属錯体及び液体試薬と混合されたアジド溶液を、反応室中へ液体試薬入口を経て高圧下で反応室に導入する段階。
【0039】
標識合成が起こっている間、所定の時間待機する段階。
【0040】
標識化された化合物の溶液を反応室から取り出す段階。
【0041】
所定の時間待機する段階は、さらに、標識合成が促進されるように、反応室の温度を調節することを含んでもよい。
【0042】
図2は、本発明による[11C]二酸化炭素生成及び標識化装置を概略的に示す。この装置は3つの主要なブロックからなり、それぞれが生成及び標識化方法の主要な3つの段階の1つを取り扱う。
【0043】
ブロックAは、最初の炭素同位体二酸化物ガス混合物が、炭素同位体二酸化物及び一酸化炭素のキャリヤーガスとして適切ではない第1のキャリヤーガスを含む場合に、最初の炭素同位体二酸化物ガス混合物のキャリヤーガスの交換を行うために使用される。
【0044】
ブロックBは、炭素同位体二酸化物の炭素同位体一酸化物への変換を行い、変換された炭素同位体一酸化物ガス混合物を精製し濃縮するために使用される。
【0045】
ブロックCは、炭素同位体一酸化物標識合成を行うために使用される。
【0046】
ブロックAは、炭素同位体二酸化物が通常、17MeVのプロトンで衝撃を与えられる窒素及び0.1%の酸素を含むターゲットガス中での、14N(p,α)11C反応を使用して生成され、そのため最初の炭素同位体二酸化物ガス混合物がキャリヤーガスとして窒素を含むことから、普通は必要である。しかし、一酸化炭素と比較して、窒素は分子特性で一定の類似性を示し、それがこれらを、例えば捕捉装置又は類似のもので、互いに分離することを困難にし、そのため、かかるガス混合物中の炭素同位体一酸化物の濃度を高めることは困難である。代わりに適切なキャリヤーガスは、ヘリウム、アルゴン又は類似のものである。ブロックAは、外部の装置がブロックB及びCで必要となるガス圧力に耐えられない場合に、キャリヤーガスの圧力を変えるためにも使用できる(例えば、1から4bar)。代替の一実施形態では、最初の炭素同位体二酸化物ガス混合物は、炭素同位体二酸化物及び一酸化炭素のキャリヤーガスとして適する第1のキャリヤーガスを含み、そのためブロックAは、簡略化してよいか又は排除さえしてよい。
【0047】
好ましい一実施形態(図2)では、ブロックAは、第1の弁V1、二酸化炭素捕捉装置8、及び第2の弁V2からなる。
【0048】
第1の弁V1には、最初の炭素同位体二酸化物ガス混合物の供給源12に接続されている二酸化炭素入口10、ヘリウム、アルゴン及び類似のものなどの適切なキャリヤーガスの供給源16に接続されているキャリヤーガス入口14がある。第1の弁V1には、さらに第2の弁V2の第1の入口20に接続されている第1の出口18、及び二酸化炭素捕捉装置8に接続されている第2の出口22がある。弁V1は、2つのモードA、Bで操作することができ、モードAでは、二酸化炭素入口10は、第1の出口18に接続され、キャリヤーガス入口14は、第2の出口22に接続され、モードBでは、二酸化炭素入口10は、第2の出口22に接続され、キャリヤーガス入口14は、第1の出口18に接続される。
【0049】
第2の弁V2は、第1の入口20に加えて、二酸化炭素捕捉装置8に接続された第2の入口24を有する。第2の弁V2は、さらに廃棄物出口26、及びブロックBの生成物入口30に接続された生成物出口28を有する。弁V2は、2つのモードA、Bで操作することができ、モードAでは、第1の入口20は、廃棄物出口26に接続され、第2の入口24は、生成物出口28に接続され、モードBでは、第1の入口20は生成物出口28に接続され、第2の入口24は、廃棄物出口26に接続される。
【0050】
二酸化炭素捕捉装置8は、二酸化炭素を捕捉し、第1のキャリヤーガスは捕捉しない装置であり、この捕捉された二酸化炭素は、その後、制御下に放出されればよい。これは、好ましくはコールドトラップを使用して実現すればよく、コールドトラップは、例えば冷たい状態で(例えば、液体窒素では−196℃又は液体アルゴンでは−186℃のように)選択的に二酸化炭素を捕捉し、温かい状態で(例えば、+50℃)捕捉した二酸化炭素を放出する材料を包含しているカラムである。(本書では、「コールドトラップ」という表現は、極低温技術の使用には限られない。従って、対象化合物を室温で捕捉し、より高温でそれを放出する材料が含まれる。)適切な材料の例は、シリカ及びporapacQ(登録商標)である。シリカカラム又はporapacカラムの捕捉挙動は、双極子−双極子相互作用又はことによるとファンデルワールス相互作用に関連している。カラム8は、好ましくは、捕捉材料の体積が、炭素同位体二酸化物を効率的に捕捉(>95%)するように十分に大きく、捕捉された二酸化炭素のブロックBへの移送が長引かないように十分に小さく形づくる。porapacQ(登録商標)及び100mL窒素/minの流量の場合は、体積は50〜150μLでなければならない。二酸化炭素捕捉装置8の冷却及び加熱は、例えば、カラムを自動的に液体窒素中に下げ、そこから自動的に加熱装置中へ移動させることによって、自動化された工程として構成することができる。
【0051】
図2の好ましい実施形態では、ブロックBは、中で炭素同位体二酸化物が、炭素同位体一酸化物に変換される反応装置32、二酸化炭素除去装置34、逆止弁36、及び一酸化炭素捕捉装置38からなり、これらの装置はすべて一列に接続される。
【0052】
好ましい実施形態では、反応装置32は、的確な温度区間に加熱されると炭素同位体二酸化物を炭素同位体一酸化物に変換させる材料を含む反応炉である。二酸化炭素を一酸化炭素に変換させる能力を有する広い範囲の様々な材料、例えば亜鉛又はモリブデン或いは類似の還元性を有する他の元素又は化合物を使用することができる。反応装置32が、亜鉛炉である場合は、炉を350〜400℃に加熱しなければならず、温度を高い精度で調節することが重要である。亜鉛の融点は420℃であり、亜鉛炉は、410℃を超えると、おそらく表面の特性が変化するために、二酸化炭素を一酸化炭素に変換する能力を急速に失う。この材料は、少量を使用すればよいように量に関して効率的でなければならず、それが、二酸化炭素捕捉装置8から次の一酸化炭素捕捉装置38への、放射能の移送に必要な時間を最小限に抑える。炉内の材料の量は、実用的な炉の寿命(少なくとも数日間)を確保するのに十分なものでなければならない。顆粒状亜鉛の場合は、体積が100〜1000μLでなければならない。
【0053】
二酸化炭素除去装置34は、反応装置32を出たガス混合物から、痕跡量の炭素同位体二酸化物を除去するために使用する。二酸化炭素除去装置34では、炭素同位体二酸化物は捕捉されるが、炭素同位体一酸化物もキャリヤーガスも捕捉されない。二酸化炭素除去装置34は、ascarite(登録商標)(即ち、シリカ上の水酸化ナトリウム)を包含しているカラムからなるものでよい。反応装置32で反応しなかった炭素同位体二酸化物はこのカラム中に捕捉され(水酸化ナトリウムと反応して炭酸ナトリウムに変化する)、炭素同位体一酸化物は通過する。二酸化炭素除去装置34中の放射能を監視する。この値が高いことは、反応装置32が適切に機能していないことを表すからである。
【0054】
二酸化炭素捕捉装置8と同様に、一酸化炭素捕捉装置38には、捕捉状態と放出状態がある。捕捉状態では、炭素同位体一酸化物は選択的に捕捉されるが、キャリヤーガスは捕捉されず、放出状態では、捕捉された炭素同位体一酸化物が制御下に放出される。これは、好ましくはシリカ又は類似の特性を有するモレキュラーシーブなどの材料を包含しているカラムなどのコールドトラップを使用することによって達成することができる。かかるコールドトラップは、−100℃未満の冷たい状態、例えば液体窒素中での−196℃又は液体アルゴン中での−186℃で、一酸化炭素を選択的に捕捉し、温かい状態(例えば、+50℃)で、捕捉されている一酸化炭素を放出する。シリカカラムの捕捉挙動は、双極子−双極子相互作用又はことによるとファンデルワールス相互作用に関連している。シリカカラムの炭素同位体一酸化物捕捉能力は、放射能を帯びているヘリウムが窒素を含有していると低下する。1つの理由づけは、窒素の物理的特性が一酸化炭素と似ているので、シリカ上の捕捉サイトに関して、窒素が一酸化炭素と競合するということである。
【0055】
図2の好ましい実施形態では、ブロックCは、第1及び第2の反応室弁V3及びV4、先に述べた反応室50、試薬弁V5、注入ループ70並びに溶媒弁V6からなる。
【0056】
第1の反応室弁V3は、一酸化炭素捕捉装置38に接続されたガス混合物入口40、閉止位置42、収集出口44、廃棄物出口46、及び反応室50のガス入口52に接続された反応室接続ポート48を有する。第1の反応室弁V3には、AからDまで4つの操作モードがある。反応室接続ポート48は、モードAではガス混合物入口40に接続され、モードBでは閉止位置42に接続され、モードCでは収集出口44に接続され、モードDでは廃棄物出口46に接続される。
【0057】
反応室50(マイクロオートクレーブ)には、ガス入口52及び液体入口54があり、これらは反応室の底面で終端となるように構成されている。ガス入口52は、標識化が終了した後は、生成物出口としても使用することができる。操作中には、炭素同位体一酸化物濃縮ガス混合物が、ガス入口52を通って反応室50に導入され、そこへ後から高圧の液体試薬が液体入口54を通って反応室50に入る。図3a及び3bは、2つの好ましい反応室50の断面の略図である。図3aは、製作がかなり容易な円筒形の室であり、図3bの球形の室は、室の表面積と体積の比がさらに最小化されているので、最も好ましい実施形態である。最小限の表面積対体積比は、標識生成物の取り出しを最適化し、表面材料との間で起こり得る反応を最小限に抑える。反応室50が「釣鐘形」になっており、ガス入口52と液体入口54が共に液体で満たされ、反応室50は底から上に向かって満たされる。炭素同位体一酸化物を含むガスの体積は、閉じ込められ、反応混合物との効率的な接触が与えられる。液体の最終圧力は、当初のガスの圧力よりも約80倍高いので、最終的なガスの体積は一般的なガスの法則に従って液体の体積の2%未満となる。従って、擬似1相系となる。本出願では、「擬似1相系」という用語は、200barを超える圧力下にあって、>96%の液体及び<4%の気体を含み、表面積対体積比が小さい閉鎖された体積を意味する。大部分の合成では、一酸化炭素の気相から液相への移動は、おそらく律速段階ではない。標識化が終了した後は、標識化された体積は、内部圧力によってほぼ定量的に、反応室からガス入口/生成物出口52及び位置Cにある第1の反応室弁V3を経て移送される。
【0058】
第2の反応室弁V4には、反応室接続ポート56、廃棄物出口58、及び試薬入口60がある。第2の反応室弁V4には、2つの操作モードA及びBがある。反応室接続ポート56は、モードAでは廃棄物出口58に接続され、モードBでは、試薬入口60に接続される。
【0059】
試薬弁V5には、第2の反応室弁V4の試薬入口60に接続された試薬出口62、その間に注入ループ70が接続されている注入ループ入口64及び出口66、廃棄物出口68、試薬供給源に接続されている試薬入口71、並びに溶媒入口72がある。試薬弁V5には、2つの操作モードA及びBがある。モードAでは、試薬入口71は注入ループ入口64に接続され、注入ループ出口66は、廃棄物出口68に接続され、試薬を注入ループ70に供給することができる。モードBでは、溶媒入口72は注入ループ入口64に接続され、注入ループ出口66は試薬出口62に接続され、溶剤入口72に高い圧力を加えれば、注入ループ70中に蓄えられた試薬を第2の反応室弁V4を経て反応室50中に押し込むことができる。
【0060】
溶媒弁V6には、試薬弁V5の溶媒入口72に接続された溶媒出口74、閉止位置76、廃棄物出口78、及び溶媒供給用HPLCポンプ(高性能液体クロマトグラフィー)又は有機溶媒を、0〜10mL/min、圧力400barまでで送れるどんな液体ポンプでも(図示されず)、に接続された溶媒入口80がある。溶媒弁V6には、2つの操作モードA及びBがある。モードAでは、溶媒出口74は閉止位置76に接続され、溶媒入口80は廃棄物出口78に接続される。モードBでは、溶媒出口74は溶媒入口80に接続され、溶媒をHPLCポンプで装置内に高い圧力で送り込むことができる。
【0061】
一酸化炭素捕捉装置38内のシリカの体積が小さいことを除けば、二酸化炭素捕捉装置8との比較及びすべての先行技術との比較においても、1つの重要な相違は、一酸化炭素を放出するために使用する手順である。一酸化炭素捕捉装置38に一酸化炭素を捕捉した後、一酸化炭素捕捉装置38からの流れを止めるために弁V3を位置AからBに変えて、一酸化炭素捕捉装置38に掛かるガスの圧力を、設定された供給ガスの圧力(3〜5bar)まで上げる。次に一酸化炭素捕捉装置38を加熱して、キャリヤーガス中の一酸化炭素の体積を大幅には膨張させないようにしながら、一酸化炭素をシリカの表面から放出させる。弁V4を位置AからBに変え、次に弁V3を位置BからAに変える。この場合、一酸化炭素は、急速に、ほぼ定量的に、境界の明瞭なマイクロプラグとなって反応室50に移送される。マイクロプラグは、反応室50の体積の10%未満の対象物質を含むガスの体積(例えば1〜20μL)と定義される。出口が閉じられた小さな反応室50へのこの独特の効率的な物質移動の方法には、以下の必要条件がある。
【0062】
次のように定義されるマイクロカラム38を使用しなければならない。捕捉材料(例えばシリカ)の体積は、炭素同位体一酸化物を効率的に捕捉する(>95%)のに十分に大きく、炭素同位体一酸化物の最大限の濃度を可能にするのに十分に小さく(<続く反応室50の体積の1%)なければならない。シリカ及び反応室50の体積200μLの場合は、シリカの体積は0.1〜2μLでなければならない。
【0063】
シリカカラムと反応室50を接続している配管及び弁(1以上)のデッドボリュームは最小限でなければならない(<マイクロオートクレーブ体積の10%)。
【0064】
キャリヤーガスの圧力は、移送前の反応室50中の圧力(1atm)よりも3〜5倍高くなければならない。
【0065】
特定の好ましい一実施形態では、材料及び構成要素は次のように選択する。高圧弁は、Valco(登録商標)、Reodyne(登録商標)又はCheminert(登録商標)から入手したものを使用する。ポラパックカラム8、シリカカラム38及び反応室50への接続に、並進運動しやすくするために、外径0.7mm(1/32インチ)のステンレス鋼配管を使用する以外は、外径1.6mm(1/16インチ)のステンレス鋼配管を使用する。V1、V2及びV3の間の接続は、内径0.2〜1mmでなければならない。この要件は、内径が、装置を通過するHeの最適の流れ(2〜50mL/min)を達成する可能性を妨げないように十分に大きく、放射能をポラパックカラム8からシリカカラム38へ移送するのに必要な時間を長引かせないように十分に小さくなければならないということである。V3とオートクレーブの間の接続のデッドボリュームを最小化しなければならない(<オートクレーブ体積の10%)。この接続の内径(0.05〜0.1mm)は、最適のHeの流れ(2〜50mL/min)を可能にするように十分に大きくなければならない。V4とV5の間の接続のデッドボリュームは、オートクレーブの体積の10%未満でなければならない。
【0066】
カラム8がポラパックカラムである場合は、それは好ましくはporapacQ(登録商標)を充填し、ステンレス鋼の網をはめ込んだ、ステンレス鋼管(外径=3.2mm(1/8インチ)、内径=2mm、長さ=20mm)からなる。シリカカラム38は、好ましくは端に空洞(直径=1mm、高さ=1mm、体積=0.8μL)を有するステンレス鋼管(外径=1.6mm(1/16インチ)、内径=0.1mm)からなる。この空洞にはガスクロマトグラフィー(GC)固定相タイプのシリカ粉末(100/80メッシュ)が充填される。カラムの末端にはステンレス鋼の網を当てて固定する。
【0067】
捕捉装置では、広い範囲の様々な材料が使用できると考えられることに注目しなければならない。GC材料を選択する場合の基準は、二酸化炭素と一酸化炭素それぞれについての、良好な遅延と良好なピーク形状ということでなければならない。後者は、放射能の最適の回収を確実にするものである。
【0068】
以下に、先に例として記載した装置を使用して炭素同位体を生成する方法を詳細に記載する。
【0069】
装置の準備は、以下の段階1から5によって行われる。
【0070】
1.V1は位置A、V2は位置A、V3は位置A、V4は位置Aにし、ヘリウムを最大5barの圧力で流し始める。この設定で、ヘリウムは[11C]二酸化炭素捕捉カラム、亜鉛炉、[11C]一酸化炭素捕捉カラム、反応室50を通って流れ、V4を通って外へ出る。装置の状態を、反応室50は溶媒なしであり、ヘリウムが少なくとも10mL/minで装置全体を通して流れることが確認できるようにする。
【0071】
2.亜鉛炉の電源を入れ、400℃に設定する。
【0072】
3.[11C]二酸化炭素及び[11C]一酸化炭素の捕捉カラムを液体窒素で冷却する。−196℃で、ポラパックカラム及びシリカカラムは、それぞれ炭素同位体二酸化物及び炭素同位体一酸化物を効率的に捕捉する。
【0073】
4.V5を位置Aにする(装填)。V5に取り付けられた注入ループ(250μL)に反応混合物が装填される。
【0074】
5.HPLCポンプを蒸留したてのTHF(又は他の高品質溶剤)を入れたフラスコに取り付けて、起動の準備をする。V6を位置Aにする。
【0075】
炭素同位体二酸化物の生成は、段階6から7によって行われてもよい。
【0076】
6.炭素同位体二酸化物は、窒素(AGA、窒素6.0)及び0.1%酸素(AGA.酸素4.8)を含むターゲットガス中の、17MeVプロトンで衝撃された14N(p,α)11C反応を使用して生成させる。
【0077】
7.炭素同位体二酸化物は、流量100mL/minの窒素を使用して装置へ移送する。
【0078】
炭素同位体の合成は、その後段階8から16によって行われてもよい。
【0079】
8.V1は位置B、V2は位置Bにする。ここで炭素同位体二酸化物を含む窒素の流れが、(−196℃に冷却された)ポラパックカラムを通り、廃棄物ラインを通って出るようにする。porapacカラムに捕捉した放射能を監視する。
【0080】
9.放射能がピーク達したら、V1を位置Aに変える。これで、ヘリウムの流れはポラパックカラムを通り、廃棄物ラインを通って出るようになる。この操作によって、配管及びポラパックカラムから窒素が排除される。
【0081】
10.V2を位置Aにし、ポラパックカラムを約50℃に温める。これで、放射能がポラパックカラムから放出され、10mL/minのヘリウムの流れと共に、炭素同位体一酸化物に変換される場所である、亜鉛炉内へ移送される。
【0082】
11.ガスの流れは、(−196℃に冷却された)シリカカラムに到達する前に、ascariteカラムを通過する。これで、炭素同位体一酸化物はシリカカラム上に捕捉される。シリカカラム中の放射能を監視して、その値がピークに達したら、V3を位置Bにし、次にV4を位置Bにする。
【0083】
12.シリカカラムを約50℃に加熱すると、炭素同位体一酸化物を放出する。V3を位置Aにすると炭素同位体一酸化物は、15秒以内で反応室50へ移送される。
【0084】
13.V3を位置Bにし、V5を位置Bにし、HPLCポンプを起動し(流量、7mL/min)、V6を位置Bにする。加圧されたTHF(又は他の溶媒)を使用して、反応混合物を反応室50へ移送する。HPLCポンプが設定された最高圧力(例えば40Mpa)に達すると、ポンプは自動的に停止するので、次にV6を位置Aにする。
【0085】
14.反応室50を、高沸点液体(例えばポリエチレングリコール又は鉱油)を含む加熱ブロックの空洞に移動させる。加熱ブロックの温度は普通、100〜200℃の範囲である。
【0086】
15.十分な反応時間(普通は5分間)の後、V3を位置Cにし、反応室50の内容物を収集ビンへ移送する。
【0087】
16.反応室50は、次の手順で洗い流す。V3を位置Bにし、HPLCポンプを起動し、V6を位置Bにして、最大圧力に達したらV6を位置Aにし、V3を位置Cにすることによって洗浄液体は収集ビンへ移送される。
【0088】
本発明による反応室50の最近開発された完全自動化型を使用すると、[11C]一酸化炭素の11C標識トレーサー用前駆体としての価値が、[11C]ヨウ化メチルと同等になった。現在、[11C]ヨウ化メチルは、生成及び取り扱いの容易さ、並びに[11C]ヨウ化メチルで標識するのに適切な基(例えばヘテロ原子が結合したメチル基)は、生物学的に活性な物質の中でもよく知られているために、最も頻繁に使われる11C前駆体である。[11C]一酸化炭素で都合よく標識化が可能なカルボニル基も、生物学的に活性な物質の中ではよく知られている。多くの事例で、生体内の代謝性事象の故に、標識位置として、カルボニル基はメチル基よりも有利でさえありうる。従って、PETトレーサー生成のための[11C]一酸化炭素の使用は、[11C]ヨウ化メチルの興味深い補完物となる可能性がある。さらにまた、同様の技術を使用することによって、この方法が、13C及び14Cで置換された化合物の合成に適用可能となることは最もありうることである。
【0089】
本発明の主な利点は、現在のカルボニル化反応標識合成の限界を克服し、アジド、[11C]一酸化炭素及び液体試薬を使用する[11C]イソシアネートを経由し、ロジウムによって促進されるカルボニル化反応によって、所望の標識化合物の効率的な新しい合成方法を提供することである。本発明の方法を使用すれば、比放射能のレベルが高い。本発明において前駆体として使用されるアジドは、式R−Nを有し、Rは、直鎖又は環状アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールである。本発明で使用する液体試薬は以下に挙げるものから選択することができる。
【0090】
【化1】

式中、XはCl、Br、又はIから選択され、R′及びR″は独立に線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、カルボニル、ヒドロキシ、チオール、ハロゲン、ニトリル、イソニトリル、シアネート、イソシアネート、チオシアネート、イソチオシアネート官能基を含んでいてもよい。
【0091】
得られる標識アミドは以下の式を有する。
【0092】
【化2】

式中、R、R′及びR″は上記の通り定義され、は標識される炭素位置である。標識アミドを合成する一般的な反応スキームは下記に例示する通りである。
【0093】
【化3】

この反応では、アジド化合物から生成する反応中間体としてのナイトレンが、ロジウム錯体などの遷移金属錯体の存在下で、[11C]一酸化炭素と反応して[11C]イソシアネート又は[11C]イソシアネートを生成する前駆体としての[11C]イソシアネートに配位したロジウム錯体が形成される。
【0094】
次に、有用なPETトレーサーを合成するための幾つかの用途が、様々な工程を経由する幾つかの変換によって達成できる。第1の種類の変換は、求核攻撃である。イソシアネート構造は、適切な試薬が存在する場合には、求核付加されやすい。尿素、カルバメート及びチオカルバメートの誘導体が、この方法で合成できる。第2の種類の変換は、環化付加である。イソシアネートπ電子系は、環化付加反応が生起することを可能にする。通常の環化付加は、α,β−不飽和ケトンと[2+2]環化付加してβ−ラクタムを形成するか又はエポキシドの開環によって環化付加してオキサゾリドンを形成する。加えて11C標識され芳香性を有するピリドン部分の合成も[11C]イソシアネートを経て実行可能である。これらの用途を以下に示す(対応する液体試薬と共に)。
【0095】
【化4】

【0096】
【化5】

これらは、様々なPET研究において価値あるPETトレーサーを提供する。本発明の一実施形態において、本発明は[11C]標識化合物を含むPETトレーサーとして使用するキットを提供する。
【0097】
かかるキットは、ヒトへの投与、例えば血流への直接注射に適合する無菌生成物をもたらすように設計されている。適切なキットは、アドレナリン作用薬及びアドレナリン作用造影剤の前駆体を包含している容器(例えば隔膜で密封されたガラスビン)を含む。
【0098】
このキットは、さらに、適宜に追加の成分、例えば放射能防護剤、抗菌性保存剤、pH調節剤又は充填剤を含む。
【0099】
「放射能防護剤」という用語は、水の放射能分解から生じる酸素含有フリーラジカルなどの反応性の高いフリーラジカルを捕捉することによって、レドックス工程などの分解反応を抑制する化合物を意味する。本発明の放射能防護剤は、適切にはアスコルビン酸、パラアミノ安息香酸(即ち4−アミノ安息香酸)、ゲンチシン酸(即ち2,5−ジヒドロキシ安息香酸)及びこれらの生体適合性の塩から選ぶ。
【0100】
「抗菌性保存剤」という用語は、バクテリア、酵母又はカビなどの、有害となる恐れのある微生物の成長を阻止する薬剤を意味する。抗菌性保存剤は、投与量によってはある程度の殺菌性を示すこともある。本発明の抗菌性保存剤(1種以上)の主な役割は、再構成後の薬剤組成物、即ち放射性診断用生成物そのものの中での、かかる微生物の成長を阻止することである。しかし、抗菌性保存剤は、適宜に、再構成前の本発明のキットの1以上の成分中での、有害となる恐れのある微生物の成長を阻止することにも使用しうる。適切な抗菌性保存剤には、パラベン、即ちエチル、プロピル若しくはブチルパラベン又はこれらの混合物、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール、セトリミド及びチオメルサールが含まれる。好ましい抗菌性保存剤(1種以上)はパラベンである。
【0101】
「pH調節剤」という用語は、ヒトへの投与の場合に、再構成されたキットのpHが許容される限度内(約pH4.0〜10.5)であることを確実にするために有用な化合物又は化合物の混合物を意味する。適切なかかるpH調節剤には、薬学的に許容される緩衝剤、例えばトリシン、リン酸塩又はTRIS(即ちトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、及び薬学的に許容される塩基、例えば炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム又はこれらの混合物が含まれる。酸性塩形態で配位子コンジュゲートが使用される場合は、pH調節剤は、適宜に別のガラスビン又は容器に入れて提供し、キットのユーザーが多段階手順の一部としてpHを調節できるようにしてもよい。
【0102】
「充填剤」という用語は、薬学的に許容される増量剤で、生成及び凍結乾燥の間の材料の取り扱いを容易にし得るものである。適切な充填剤には、塩化ナトリウムなどの無機塩、及び水溶性の糖類又は糖アルコール類、例えば蔗糖、マルトース、マンニトール又はトレハロースが含まれる。
【実施例】
【0103】
本発明を、以下の実施例によって説明するが、これらは決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0104】
実施例1 − 実験の構成
11C]二酸化炭素の生成は、IMANET、Uppsala、のScanditronix MC−17 サイクロトロンを使用して行った。14N(p,α)11C反応を、17MeVのプロトン衝撃を加えられた窒素(窒素6.0)及び0.1%酸素(酸素4.8)を含むガスターゲット中で使用した。
【0105】
11C]一酸化炭素は、本出願に記載の通り[11C]二酸化炭素の還元によって得た。
【0106】
11C]一酸化炭素の合成は、「Synthia2000」システムの一部である自動化モジュールを用いて行った。[11C]二酸化炭素が、−196℃の(PorapacQ)カラムに捕捉され、加熱によって放出され、400℃の亜鉛を充填した管を通過する間に還元された。HPLC分析は、Beckman 126グラジエントポンプ及びβフロー検出器と直列のBeckman 166可変波長UV検出器を用いて行った。分析カラムはBeckman Ultrasphere ODS C18(250×内径4.6mm)であった。
【0107】
実施例2 − 11C標識ジフェニル尿素及び11C標識エチルフェニルカルバメートの合成
一般反応スキームを下に例示する。
【0108】
【化6】

実施例2a − 11C標識ジフェニル尿素の合成
フェニルアジド(6.6mg、55μmol)の乾燥THF(300μL)溶液が入っている、蓋をしたガラスビン(1mL)に、[RhCl(cod)](0.27mg、0.55μmol)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(0.44mg、1.1μmol)を加え、溶液が均質になるまで振盪した。アニリン(10μL、110μmol)を加えた後、得られた混合物を予め[11C]COを入れたマイクロオートクレーブに移した。オートクレーブ(250μL)を、35MPa、120℃で5分間加熱し、粗製品を減圧ガラスビンに移した。ガラスビンをNでフラッシュし、その前後の放射能を測定した(これらの値から[11C]CO捕捉効率は82%と決定された)。粗生成物の少量を採って、逆相HPLCによって分析した。生成物収率、82%。生成物は、HPLCによって、添加した真正参照化合物で同定した。
【0109】
実施例2b − 11C標識エチルフェニルカルバメートの合成
フェニルアジド(6.6mg、55μmol)の乾燥THF(300μL)溶液が入っている、蓋をしたガラスビン(1mL)に、[RhCl(cod)](0.27mg、0.55μmol)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(0.66mg、1.65μmol)を加え、溶液が均質になるまで振盪した。リチウムエトキサイド溶液(1.0M、50μL、50μmol)を加えた後、得られた混合物を予め[11C]COを入れたマイクロオートクレーブに移した。マイクロオートクレーブを、35MPa、120℃で5分間加熱し、粗製品を減圧ガラスビンに移した。ガラスビンをNでフラッシュし、その前後の放射能を測定した(これらの値から[11C]CO捕捉効率は90%と決定された)。粗生成物の少量を採って、逆相HPLCによって分析した。生成物収率、76%。生成物は、HPLCによって、添加した真正参照化合物で同定した。
【0110】
加えて、エタノール(20μL)を使用した150℃での反応は、[11C]CO捕捉効率70%及びHPLC分析収率70%を与えた。
【0111】
実施例3 − 生成物の分析
11C標識ジフェニル尿素:移動層0.05Mギ酸アンモニウムpH3.5及びアセトニトリル(50/50、v/v)、流量2.0mL/min、検出254nm、保持時間5.4〜5.7分。
【0112】
11C標識エチルフェニルカルバメート:移動層0.05Mギ酸アンモニウムpH3.5及びアセトニトリル(60/40、v/v)、流量2.0mL/min、検出254nm、保持時間6.3〜6.6分。
特定の実施形態、参照例の引用
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲を限定されるものではない。実際に、当業者には、以上の説明及び添付の図面から、本明細書に記載したものに加えて、本発明の様々な変更形態が明らかとなる。かかる変更形態は、付属の特許請求の範囲の範囲に入ることを意図するものである。
【0113】
本明細書には、様々な刊行物及び特許出願が引用されており、これらの開示は全体を参照により組み入れる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明による方法全体のフローチャートである。
【図2】本発明による炭素同位体一酸化物の生成及び標識化装置の概略図である。
【図3a】本発明による反応室の代替の実施形態の図である。
【図3b】本発明による反応室の代替の実施形態の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階(a)〜(f)を含む、標識合成の方法。
(a)底面に液体入口及びガス入口を有する高圧反応室を準備する段階、
(b)遷移金属錯体及び液体試薬と混合・標識されるアジド溶液を準備する段階、
(c)炭素同位体一酸化物が濃縮されたガス混合物を、ガス入口を経て反応室に導入する段階、
(d)遷移金属錯体及び液体試薬と混合されたアジド溶液を、反応室中へ液体入口を経て高圧下で導入する段階、
(e)標識合成が起こっている間、所定の時間待機する段階、
(f)標識化合物を反応室から取り出す段階。
【請求項2】
炭素同位体一酸化物が濃縮されたガス混合物が以下の段階(a)〜(d)を含む方法によって生成される請求項1記載の方法。
(a)適切なキャリヤーガス中の炭素同位体二酸化物を準備する段階、
(b)ガス混合物を反応装置内に導入することによって炭素同位体二酸化物を炭素同位体一酸化物に変換する段階、
(c)炭素同位体一酸化物を一酸化炭素捕捉装置で捕捉し、ここで、炭素同位体一酸化物は捕捉されるがキャリヤーガスは捕捉されない段階、
(d)捕捉された炭素同位体一酸化物を捕捉装置から境界の明瞭なマイクロプラグとして放出し、ここで、炭素同位体一酸化物が濃縮されたガス混合物を得る段階。
【請求項3】
炭素同位体が11C、13C、又は14Cである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
炭素同位体が11Cである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
遷移金属錯体及び液体試薬と混合・標識されるアジド溶液を導入する段階が、擬似1相系を維持するために、導入前の圧力よりも約80倍高い圧力を使用して行われる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
所定の時間待機する段階が、反応室の温度を調節して標識合成を増進することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
遷移金属錯体がロジウム錯体である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
液体試薬が以下の群からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【化1】

式中、Xは、Cl、Br、又はIから選択され、R′及びR″は独立に線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、カルボニル、ヒドロキシ、チオール、ハロゲン、ニトリル、イソニトリル、シアネート、イソシアネート、チオシアネート、イソチオシアネート官能基を含んでいてもよい。
【請求項9】
標識化合物が以下のものである、請求項1記載の方法。、
【化2】

式中、Rは、線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、R′及びR″は独立に線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、カルボニル、ヒドロキシ、チオール、ハロゲン、ニトリル、イソニトリル、シアネート、イソシアネート、チオシアネート、イソチオシアネート官能基を含んでいてもよい。
【請求項10】
炭素同位体一酸化物と、式R−Nの化合物とを反応させて式R−N=C=O(Rは線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールである)の炭素同位体標識化合物を得ることを含む、放射性カルボニル化の方法。
【請求項11】
炭素同位体一酸化物と、式(I)の化合物と式(II)の化合物を反応させて式(IIa)の標識化合物を得ることを含む、放射性カルボニル化の方法。
【化3】

式中、Rは、線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、R′及びR″は独立に線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、カルボニル、ヒドロキシ、チオール、ハロゲン、ニトリル、イソニトリル、シアネート、イソシアネート、チオシアネート、イソチオシアネート官能基を含んでいてもよい。
【請求項12】
炭素同位体一酸化物と、式(I)の化合物と式(III)の化合物を反応させて式(IIIa)の標識化合物を得ることを含む、放射性カルボニル化の方法。
【化4】

式中、Rは、線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、R′は、線状又は環状低級アルキル或いは置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、カルボニル、ヒドロキシ、チオール、ハロゲン、ニトリル、イソニトリル、シアネート、イソシアネート、チオシアネート、イソチオシアネート官能基を含んでいてもよい。
【請求項13】
炭素同位体一酸化物と、式(I)の化合物と式(IV)の化合物を反応させて式(IVa)の標識化合物を得ることを含む、放射性カルボニル化の方法。
【化5】

式中、Rは、線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、R′は、線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、カルボニル、ヒドロキシ、チオール、ハロゲン、ニトリル、イソニトリル、シアネート、イソシアネート、チオシアネート、イソチオシアネート官能基を含んでいてもよい。
【請求項14】
炭素同位体一酸化物と、式(I)の化合物と式(V)の化合物を反応させて式(Va)の標識化合物を得ることを含む、放射性カルボニル化の方法。
【化6】

式中、Xは、Cl、Br、又はIから選択され、Rは、線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、R′は、線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、カルボニル、ヒドロキシ、チオール、ハロゲン、ニトリル、イソニトリル、シアネート、イソシアネート、チオシアネート、イソチオシアネート官能基を含んでいてもよい)
【請求項15】
炭素同位体一酸化物と、式(I)の化合物と式(VI)の化合物を反応させて式(VIa)の標識化合物を得ることを含む、放射性カルボニル化の方法。
【化7】

式中、Rは、線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、R′及びR″は独立に線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、カルボニル、ヒドロキシ、チオール、ハロゲン、ニトリル、イソニトリル、シアネート、イソシアネート、チオシアネート、イソチオシアネート官能基を含んでいてもよい。
【請求項16】
炭素同位体一酸化物と、式(I)の化合物と式(VII)の化合物を反応させて式(VIIa)の標識化合物を得ることを含む、放射性カルボニル化の方法。
【化8】

式中、Rは、線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールである。
【請求項17】
炭素同位体一酸化物と、式(I)の化合物と式(VIII)の化合物を反応させて式(VIIIa)の標識化合物を得ることを含む、放射性カルボニル化の方法。
【化9】

式中、Rは、線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールである。
【請求項18】
以下の化合物から選択された炭素同位体標識化合物を含むPET研究用キット。
【化10】

式中、Rは、線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、R′及びR″は独立に線状又は環状低級アルキル又は置換アルキル、アリール又は置換アリールであり、カルボニル、ヒドロキシ、チオール、ハロゲン、ニトリル、イソニトリル、シアネート、イソシアネート、チオシアネート、イソチオシアネート官能基を含んでいてもよい。
【請求項19】
放射線防護剤、抗菌性保存剤、pH調節剤又は充填物をさらに含む、請求項18記載のキット。
【請求項20】
放射線防護剤が、アスコルビン酸、パラアミノ安息香酸、ゲンチシン酸及びこれらの塩から選択される、請求項19記載のキット。
【請求項21】
抗菌性保存剤が、パラベン、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール、セトリミド及びチオメルサールから選択される、請求項19記載のキット。
【請求項22】
pH調節剤が、薬学的に許容される緩衝剤若しくは薬学的に許容される塩基、又はそれらの混合物である、請求項19記載のキット。
【請求項23】
充填剤が、無機塩、水溶性糖類又は糖アルコール類である請求項19記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【公表番号】特表2007−520460(P2007−520460A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544582(P2006−544582)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【国際出願番号】PCT/IB2004/004092
【国際公開番号】WO2005/061445
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】