説明

アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物の製造法

【課題】食品、健康食品、サプリメント、栄養剤、飼料、医薬品、化粧品等の分野で広く用いることができる、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物の製造法を提供する。
【解決手段】ファフィア属酵母よりアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を取得する際に、脂質を添加する事により、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物中のアスタキサンチンの回収率の向上、抽出物に残存する有機溶媒除去の容易化、アスタキサンチンの熱安定性の向上、等を可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物の製造方法に関するものである。さらには、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物にも関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイド化合物は天然色素として有用であり、中でもアスタキサンチン(Astaxanthin:3,3’−ジヒドロキシ−カロチン−4,4 ’−ジオン)は、一般的な食品の着色剤として幅広く使用されているほか、魚類、鶏卵の色揚げ剤としても広く利用されている。さらにフリーラジカルによって誘起される脂質の過酸化に対する抗酸化活性、α−トコフェロールの数百倍に達する一重項酸素消去作用などからその強力な抗酸化作用を生かした健康食品、化粧品、医薬品等にも利用されている。
【0003】
アスタキサンチンはサケ、マス、マダイ等の魚類、カニ、エビ、オキアミ等の甲殻類など広く自然界に分布すると共に、細菌類、緑藻類、酵母といった微生物によっても生産される事が知られている。化学合成品も市販されているが安全面の不安から天然資源由来のものが求められている。
【0004】
アスタキサンチンを生産する酵母として、例えばファフィア・ロドザイマ(Phaffia rhodozyma)が挙げられる。このファフィア属酵母からアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を取得する製法は幾つか知られている。例えば、培養終了後のファフィア属酵母培養液を、遠心分離やろ過により集菌し、そのままあるいは乾燥後、ボールミル、高圧破砕等の物理的破砕処理か、グルカナーゼ、セルラーゼ等を用いた酵素的処理、さらには、酸やアルカリによる化学的処理により菌膜処理を行い、その後、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、エタノール等の有機溶媒を用いて抽出処理し、次いで得た抽出液より有機溶媒留去処理、水層の分液除去、水洗、濃縮処理を実施することによりアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を取得することができる。
【0005】
アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を上記方法にて取得するに際しては、幾つかの課題が存在する。まず、アスタキサンチンの抽出には、アセトン、ヘキサン、酢酸エチル、エタノール、等の有機溶媒を用いて抽出するが、得られるファフィア属酵母抽出物に有機溶媒が微量に残存してしまうという問題がある。また、これらの有機溶媒にてアスタキサンチンを抽出する際、アスタキサンチンと共にファフィア属酵母由来の夾雑物も抽出され、結果として得られるファフィア属酵母抽出物は高粘度となり、ハンドリング性の悪化、アスタキサンチンの回収率の悪化を引き起こす原因となる。
【0006】
これらの課題を解決する為に、従来幾つかの技術が提案されている。例えば、ファフィア属酵母抽出物のハンドリング性の改善、ファフィア属酵母抽出物の回収率の向上という目的で、冷却晶析やアルカリ処理によるファフィア属酵母由来の脂質成分(油脂あるいは脂肪酸)を除去する手法(特許文献1、特許文献2、特許文献3)が開示されている。しかしながら、ここに開示された方法では、0℃〜−50℃への冷却が必要なため、装置導入コストがかかるほか、冷却工程、ろ過工程が必要であり、製造時間の延長が問題となる。また、アルカリ処理は、アスタキサンチンの分解が懸念されるほか、ろ過工程が別途に必要となる。また、アセトン、ヘキサンなどのアスタキサンチンの抽出に用いる有機溶媒の残存量を低減するためには、100℃以上の高温にて減圧留去する手法(特許文献1)が開示されている。しかし、アスタキサンチンは高温において極めて不安定であるため、アスタキサンチンの分解が促進されるという問題が生じ、好適な手法とは言い難い。
【0007】
このように、ファフィア属酵母よりアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を簡便かつ安価に取得する好適な方法は現在までに、知られていない。そこで、上述の課題を改善するような、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物の工業的製法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−99888号公報
【特許文献2】特開2004−208504号公報
【特許文献3】特開平7−99932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、食品、健康食品、サプリメント、栄養剤、飼料、医薬品、化粧品等の分野で広く用いることができる、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物の製造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ファフィア属酵母よりアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を取得する際に、脂質を添加する事により、アスタキサンチンの回収率の向上、抽出物に残存する有機溶媒除去の容易化、アスタキサンチンの熱安定性の向上、等を可能にする事を見出した。
【0011】
すなわち本発明は、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物の製造方法に関するものである。さらには、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物にも関する。
【0012】
本発明の特徴の一つは、ファフィア属酵母菌体よりアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を取得する際に、脂質を添加する事を特徴とする、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物の製造方法である。
【0013】
本発明の特徴の一つは、ファフィア属酵母菌体よりアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を取得する際に、脂質を添加した事を特徴とする、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、食品、健康食品、サプリメント、栄養剤、飼料、医薬品、化粧品等の分野で広く用いることができる、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物の製造法、及び、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を提供する。
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ファフィア属酵母よりアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を取得する際に、脂質を添加する事により、アスタキサンチンの回収率の向上、抽出物に残存する有機溶媒除去の容易化、アスタキサンチンの熱安定性の向上、等を可能にする事を見出した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における「ファフィア属酵母抽出物」とは、ファフィア属酵母より有機溶媒を用いて酵母内容物を抽出して得られた抽出液、抽出液より有機溶媒を留去した組成物、さらに、有機溶媒を留去した後、水分を除去した組成物、等をさす。
【0017】
本発明で原料酵母として用いるファフィア属酵母として、微生物分類学上不完全菌類に属し赤色色素を生産する酵母、例えばファフィア・ロドザイマ(Phaffia rhodozyma)が挙げられる。
【0018】
本発明では、ファフィア属酵母よりファフィア属酵母抽出物を取得する際に、脂質を添加する。本発明で使用する脂質としては、特に制限されないが、油脂、脂肪酸、脂肪酸の部分グリセリド、が挙げられる。それらの中でも、食品、化粧品、医薬品の用途に許容できるものが望ましく、特に食品に許容できるものが好ましい。言うまでもなく、本発明では、これらは、単独であるいは2種類以上の混合物として用いることができる。
【0019】
油脂としては、特に制限されず、例えば、ナタネ油、コメ油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、大豆油、ヒマワリ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、アマニ油、つばき油、玄米胚芽油、アボガド油、落花生油、小麦胚芽油、エゴマ油、綿実油、カポック油、月見草油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ゴマ油、豚脂、乳脂、魚油、牛脂、等が挙げられ、さらに前記油脂を分別・水素添加・エステル交換等により加工した油脂、または、中鎖脂肪酸トリグリセリド、等を挙げる事ができる。これらの中でも、油脂のハンドリング性、食経験等の観点より、ナタネ油、コメ油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、大豆油、ヒマワリ油、ヤシ油、パーム油、ゴマ油、魚油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、が好ましく、ナタネ油、コメ油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、大豆油、ヒマワリ油、ゴマ油、魚油、中鎖脂肪酸トリグリセリドがさらに好ましく、ナタネ油、コメ油、オリーブ油、サフラワー油、中鎖脂肪酸トリグリセリドが特に好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、例えば、脂肪酸の炭素数が各々6〜12、好ましくは8〜12のトリグリセリド等を挙げることができる。
【0021】
脂肪酸としては、特に制限されず、例えば、酢酸、酪酸、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸が挙げられるが、得られる抽出物の流動性や、ハンドリング性の観点から、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸が好ましく、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸がさらに好ましく、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が特に好ましく、オレイン酸が尚更好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0022】
脂肪酸の部分グリセリドとしては、特に制限されないが、例えば、上記の脂肪酸や、脂肪酸の炭素数が各々6〜22、好ましくは炭素数6〜18のモノグリセリドやジグリセリド、さらには、有機酸モノグリセリド、例えば、クエン酸モノグリセリド、酢酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリドを挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明では、ファフィア属酵母抽出物を取得する際、つまり精製する際に脂質を添加するが、脂質を添加する時期は、ファフィア属酵母菌体を培養液から分離した後、あるいは、ファフィア属酵母培養液を濃縮、又は、乾燥した後から、ファフィア属酵母抽出物を最終的に取得するに至るまでの工程中であれば特に制限されない。例えば、ファフィア属酵母より有機溶媒を用いて酵母内容物を抽出する際に、有機溶媒を添加する前の菌体、又は、有機溶媒を添加した後の菌体を含む懸濁液に脂質を添加してもよい。さらに、次いで得た抽出液を冷却晶析する際、アルカリ処理により脂肪酸を除去する際、抽出液より有機溶媒を留去処理する際や、抽出物より水層を分液除去する際、さらには抽出物を水洗する際、あるいは減圧濃縮する際のいずれの場合においても抽出物に脂質を添加することができる。
【0024】
抽出物において、添加する脂質の重量%は、本発明の効果を充分に発揮させるという観点から、抽出物の1重量%以上、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上であり、抽出物中のアスタキサンチンの含有率を高く維持するという観点から、通常は抽出物の99重量%以下、好ましくは97重量%以下、さらに好ましくは95重量%以下である。
【0025】
抽出物中のアスタキサンチンの含有量は特に限定されないが、抽出物中のアスタキサンチンの含有率を高く維持するという観点から、通常0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、なかんずく1重量%以上である。
【0026】
ここで、本発明に用いるファフィア属酵母の形態としては、特に制限されないが、ファフィア属酵母培養液やその濃縮液、ろ過分離や遠心分離によりファフィア属酵母から液体を除去した湿菌体、あるいは、スプレー乾燥、ドラム乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥等の手段により乾燥したファフィア属酵母菌体が挙げられる。なお、有機溶媒にて抽出する際、水分量が多いほどアスタキサンチンの抽出率は低下する傾向にある事から、湿菌体か乾燥菌体を用いることが好ましい。
【0027】
また、アスタキサンチンを抽出する前に、ファフィア属酵母を菌膜処理する事が好ましいが、菌膜処理法としては、ダイノミル、高圧ホモジナイザー、ボールミル、超音波処理、ジェットミル等の機械的処理や、酸もしくはアルカリなどの化学的処理、あるいは、セルラーゼ、プロテアーセ、グルカナーゼ等の酵素処理が挙げられる。これらは単独で実施しても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
抽出に用いる有機溶媒としてはアセトン、酢酸エチル、ヘキサン、エタノール等から選ばれる1種以上の有機溶媒が挙げられるが、アスタキサンチンの抽出率の観点からアセトン、エタノールが好ましく、アセトンが特に好ましい。
【0029】
抽出に用いる有機溶媒量の下限については、アスタキサンチンの抽出効率の観点から、ファフィア属酵母の乾燥菌体重量に対して1倍量以上、好ましくは2倍量以上、さらに好ましくは5倍量以上であり、上限については、特に制限されないが、製造コストの面から、通常400倍量以下、好ましくは200倍量以下、さらに好ましくは100倍量以下である。
【0030】
抽出温度としては、有機溶媒の融点〜溶媒の沸点までの範囲にて実施する事ができるが、操作の容易性、アスタキサンチンの熱安定性等の観点より、0℃〜溶媒の沸点までの範囲、好ましくは0℃〜50℃の範囲、より好ましくは0℃〜40℃の範囲である。
【0031】
抽出時間としては、特に制限されないが、長時間の抽出操作により脂質等の不純物が増加する可能性があるため、通常は0.5〜10時間、好ましくは0.5〜8時間である。
【0032】
抽出液の菌体との分離は、常法によって行うことができるが、具体的には、濾過分離、遠心分離等を挙げることができる。
【0033】
上記のようにして調製したアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物は、そのまま用いる事もできるが、常法により、ソフトカプセル、ハードカプセル、マイクロカプセル等にカプセル化することもできる。これらの中でも、得られる抽出物の性状より、ソフトカプセルが好ましい。
【0034】
上記カプセル剤の材質としては特に制限されないが、例えば、牛骨、牛皮、豚皮、魚皮等を由来とするゼラチン、食品添加物として使用しうるカラギーナン、アルギン酸等の海藻由来品、ローカストビーンガム、グアーガム等の植物種子由来品、小麦デンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、とうもろこしデンプン、デキストリン等のデンプン類等を挙げることができる。入手容易性の観点からは、ゼラチンが好ましい。
【0035】
また、本発明のファフィア属酵母抽出物は、一般的な食品に加えることもできる。例えば、パン、パスタ、雑炊、米飯、ビスケット、クラッカー、ケーキ、菓子、ガム、キャンディー等に適宜添加して用いる事もできる。言うまでもなく、他の食品形態として利用することも妨げない。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって制限されるものではない。なお、アスタキサンチンの定量は下記のHPLC分析条件の下、実施した。
【0037】
(HPLC分析条件)
カラム:Finepak SIL C18-T5 4.6mmφ x 250mm(日本分光株式会社製)
移動相:アセトニトリル/酢酸エチル/蒸留水/蟻酸=60/30/6/4(v:v)
検出波長:471nm
流速:0.8ml/min
アスタキサンチンの保持時間:10.5分。
【0038】
(培地組成)
KH2PO4 0.7%、(NH42、HPO4 1.3%、MgSO4・7H2O 1530ppm、ZnSO4・7H2O 170ppm、MnSO4・4H2O 17ppm、NaCl 170ppm、CaCl2・2H2O 300ppm、FeSO4・7H2O 30ppm、CuSO4・5H2O 1.5ppm、イーストエキス 0.3%、消泡剤 100ppm、pH調整用アンモニア水 適宜。
【0039】
(製造例1)
5mlの上記培地を含む大型試験管4本にファフィア・ロドザイマ(ATCC SD-5340)を接種し、20℃で48時間培養した。内容物を50mlの上記培地を含む500mlの坂口フラスコ4本に移し、20℃で48時間培養した。内容物を2500mlの上記培地を含む5000mlのミニジャーに移し、20℃で本培養を実施した。本培養では、pHは4.8から5.5の間にコントロールし、溶存酸素濃度は飽和の30%から80%の間に保持した。炭素源のグルコースを初発時に50g添加し、グルコースが消費された後、グルコースを補給した。初期の補給はゆっくりと行い、その後グルコースが残存しない程度の低濃度に保ちつつ、補給速度を徐々に速くした。培養約160時間後にグルコースの添加を停止した。10時間後、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7に調整し、ファフィア・ロドザイマ培養液を取得した。
【0040】
(実施例1)
ファフィア・ロドザイマ培養液を遠心分離して培地成分を除去した後、酵母菌体を2.5N硫酸中、70℃で、1.5時間攪拌し、室温まで冷却した。次いで、水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、酵母菌体を遠心分離し、充分量の水で洗浄した。この酵母菌体を乾燥菌体重量の20倍量のアセトンとともに室温下、60分攪拌し、酵母菌体内容物を抽出した。抽出後の酵母菌体をろ過して除去し、アセトンを減圧下留去した後、ファフィア属酵母抽出物中のアスタキサンチン含量が5重量%となるようにサフラワー油(サミット精油株式会社製)を添加した。その後、水層を分液除去した後、水洗、減圧濃縮によりさらにアセトンを除去し、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を得た。培養液中のアスタキサンチン量に対する、取得したファフィア属酵母抽出物中のアスタキサンチンの回収率は78%であった。ファフィア属酵母よりファフィア属酵母抽出物を取得する際に脂質を添加する事によって、後に述べる比較例1に比べてアスタキサンチンの回収率が向上した。
【0041】
(実施例2)
有機溶媒を減圧下留去する前に、ファフィア属酵母抽出物のアスタキサンチン含量が5重量%となるようにオレイン酸(和光純薬工業株式会社製)を添加する事以外は実施例1と同様の方法にてアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を得た。培養液中のアスタキサンチン量に対する、取得したファフィア属酵母抽出物中のアスタキサンチンの回収率は75%であった。ファフィア属酵母よりファフィア属酵母抽出物を取得する際に脂質を添加する事によって、後に述べる比較例1に比べてアスタキサンチンの回収率が向上した。
【0042】
(比較例1)
ファフィア属酵母培養液遠心分離して培地成分を除去した後、酵母菌体を2.5N硫酸中、70℃で、1.5時間攪拌し、室温まで冷却した。次いで、水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、酵母菌体を遠心分離し、充分量の水で洗浄した。この酵母菌体を元の培養液と同容量のアセトンとともに室温下、60分攪拌し、酵母菌体内容物を抽出した。抽出後の酵母菌体をろ過して除去し、アセトンを減圧下留去した。その後、水層を分液除去した後、水洗、減圧濃縮によりさらにアセトンを除去し、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を得た。なお、本製法においては、ファフィア属酵母抽出物の容器への付着が著しく多かったため、培養液中のアスタキサンチン量に対する、取得したファフィア属酵母抽出物中のアスタキサンチンの回収率は41%と低かった。
【0043】
(実施例3)
実施例1及び比較例1に記載の方法にて調製したファフィア属酵母抽出物中の残存アセトン量の測定を実施した。残存アセトン量の測定値を表1に示した。ファフィア属酵母よりファフィア属酵母抽出物を取得する際に脂質を添加する事によって、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物中の残存溶媒量が低減された。
【0044】
【表1】

【0045】
(実施例4)
実施例1及び比較例1の方法にて調製したアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物をプラスチックチューブに注入し、60℃にて24時間保持した後のアスタキサンチン残存率を調べた。各々のアスタキサンチン残存率を表2に示した。ファフィア属酵母よりファフィア属酵母抽出物を取得する際に脂質を添加する事によって、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物中のアスタキサンチンの熱安定性が向上した。
【0046】
【表2】

【0047】
(実施例5)
菜種油、硬化油、ミツロウ、レシチンからなる混合物に、実施例1で得たアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を添加し、常法により、下記成分からなるアスタキサンチンを4mg含有するゼラチンのソフトカプセルを得た。
ファフィア属酵母抽出物 8.0 重量%
(うちアスタキサンチン 1.3 重量%)
菜種油 56.0 重量%
硬化油 29.0 重量%
ミツロウ 5.0 重量%
レシチン 2.0 重量%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファフィア属酵母菌体よりアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を取得する際に、脂質を添加する事を特徴とする、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物の製造方法。
【請求項2】
脂質が、油脂、脂肪酸、及び、脂肪酸の部分グリセリド、から選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
油脂が、ナタネ油、コメ油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、大豆油、ヒマワリ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、アマニ油、つばき油、玄米胚芽油、アボガド油、落花生油、小麦胚芽油、エゴマ油、綿実油、カポック油、月見草油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ゴマ油、豚脂、乳脂、魚油、牛脂、前記油脂を分別・水素添加・エステル交換等により加工した油脂、及び、中鎖脂肪酸トリグリセリド、から選ばれる少なくとも1つである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
脂肪酸が、酢酸、酪酸、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、及び、ドコサヘキサエン酸、から選ばれる少なくとも1つである請求項2または3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
脂肪酸の部分グリセリドが、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、及び、有機酸モノグリセリド、から選ばれる少なくとも1つである請求項2〜4いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
添加する脂質の重量が、ファフィア属酵母菌体またはアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物に対して、10重量%以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物中のアスタキサンチンの含有量が、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物に対して0.01重量%以上となることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
脂質が、食品、化粧品、又は医薬品に許容されるものである請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
得られるアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物中の残存有機溶媒が300ppm以下となることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
得られるアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を60℃で24時間保持した後のアスタキサンチンの残存率が97%以上となることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
ファフィア属酵母菌体よりアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を取得する際に、脂質を添加した事を特徴とする、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物。
【請求項12】
脂質が、油脂、脂肪酸、及び、脂肪酸の部分グリセリド、から選ばれる少なくとも1つである請求項11記載の抽出物。
【請求項13】
油脂が、ナタネ油、コメ油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、大豆油、ヒマワリ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、アマニ油、つばき油、玄米胚芽油、アボガド油、落花生油、小麦胚芽油、エゴマ油、綿実油、カポック油、月見草油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ゴマ油、豚脂、乳脂、魚油、牛脂、前記油脂を分別・水素添加・エステル交換等により加工した油脂、及び、中鎖脂肪酸トリグリセリド、から選ばれる少なくとも1つである請求項12記載の抽出物。
【請求項14】
脂肪酸が、酢酸、酪酸、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、から選ばれる少なくとも1つである請求項12または13に記載の抽出物。
【請求項15】
脂肪酸の部分グリセリドが、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、及び、有機酸モノグリセリド、から選ばれる少なくとも1つである請求項12〜14のいずれか1項に記載の抽出物。
【請求項16】
添加した脂質の重量が、ファフィア属酵母菌体またはアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物に対して、10重量%以上である請求項11〜15のいずれか1項に記載の抽出物。
【請求項17】
アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物中のアスタキサンチンの含有量が、アスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物に対して0.01重量%以上である請求項11〜16のいずれか1項に記載の抽出物。
【請求項18】
脂質が、食品、化粧品、又は医薬品に許容されるものである請求項11〜17のいずれか1項に記載の抽出物。
【請求項19】
得られるアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物中の残存有機溶媒が300ppm以下である請求項11〜18のいずれか1項に記載の抽出物。
【請求項20】
得られるアスタキサンチン含有ファフィア属酵母抽出物を60℃で24時間保持した後のアスタキサンチンの残存率が97%以上となる請求項11〜19のいずれか1項に記載の抽出物。
【請求項21】
経口投与形態に加工された請求項11〜20のいずれか1項に記載の抽出物。
【請求項22】
経口投与形態がカプセル剤である請求項21記載の抽出物。
【請求項23】
カプセル剤がソフトカプセルである請求項22記載の抽出物。

【公開番号】特開2012−100535(P2012−100535A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16889(P2009−16889)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】