説明

アスパラギニルヒドロキシラーゼ及びその修飾物質

FIHを模倣するか、それに結合する化学実体を同定、スクリーニング、特性決定又は設計する方法が記載されている。この方法は、FIHの構造モデルと、前記化学実体の構造モデルとを比較することを含み、その際、FIHの前記構造モデルは、FIHを含有する結晶をX線回折測定に掛けることにより決定された構造因子又は構造座標に由来する。このような化学実体は、高いか低いHIFレベル又は活性を伴う状態を治療する際に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FIHの結晶構造を使用してFIHの阻害剤を設計する方法並びにFIHの阻害剤及び虚血を治療する際のその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの生物の細胞では、最適なレベルよりも酸素が不足している環境にさらされると、低酸素応答が生じる。これらの低酸素細胞では、低酸素誘導因子(HIF)を必要とする転写カスケードの活性化が、酸素輸送を増強するか、酸素要求量を制限する一連の適応応答を指揮する。癌及び虚血性低酸素血管疾患でのHIFの活性化によって、ヒト病理学でのその重要な役割が明らかとなり、HIF活性の操作は重要な治療可能性を有することが証明されている。
【0003】
HIF転写複合体は、αβヘテロ二量体を含有し、式中、HIF−βは、酸素調節HIF−αサブユニットと二量化する構成核タンパク質である(Semenza,G.L.(2000)Genes Dev.14,19831991)。特異的HIF−α残基を水酸化する一連のFe(II)及び2OG依存性ジオキシゲナーゼによって触媒される酸素依存性改変によって、HIF−αの活性は抑制される。ヒトHIF−1αに酸素が存在すると、1セットのHIFプロリルヒドロキシラーゼアイソザイム(PHD1〜3)によるPro402又はPro564の4−水酸化(Epsteinら、(2001年)Cell 107、4354;Bruick,R.K.,及びMcKnight,S.L.(2001年)Science294、13371340)が、フォン・ヒッペル・リンダウ(VHL)ユビキチンリガーゼ複合体によるその認識及びそれによるプロテアソーム破壊のターゲッティングを仲介する(Ivanら、(2001年)Science292、464468;Jaakkolaら(2001年)Science292、468472、国際公開第02/074981号パンフレット)。相補的メカニズムでは、FIHは、HIF−1α Asn803のβ−水酸化を触媒して(Landoら、(2002年)Science295、858861)転写補活性化体p300との相互作用をブロックする(Damesら、(2002年)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99、52715276;Freedmanら、(2002年)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,53675372)。低酸素では、酵素の活性化が限られることにより、HIF−αは、破壊を免れて、転写活性になる。
【0004】
HIFヒドロキシラーゼの阻害は、酸素が存在する場合でも、HIF転写カスケードを強力に活性化する(Epsteinら(2001年)Cell107、4354)。したがって、HIFヒドロキシラーゼの阻害は、前血管形成応答をもたらし、これは、心筋梗塞及び貧血を含む心血管疾患/虚血性低酸素血管疾患を治療する際に使用することができる。この手法での問題は、ヒト細胞が、HIFヒドロキシラーゼと同じファミリーに属する、即ち、ジオキシゲン(補基質)、2−オキソグルタレート(2OG)(補基質)及びFe(II)(補因子)を利用する他の酵素を含むことである。このような酵素の例は、フィタノイル補酵素Aヒドロキシラーゼ、プロコラーゲンプロリル−4−ヒドロキシラーゼ、プロコラーゲンプロリル−3−ヒドロキシラーゼ、ガンマ−ブチロベタインヒドロキシラーゼ、AlkB(DNA修復酵素)及びFIHに類似するサブファミリーを含む配列分析を元に同定される予測された2OGオキシゲナーゼを含む他のものである(Hewitsonら、J BIOL CHEM277(29):26351〜26355、2002)。薬剤として使用される酵素阻害剤は、所望の効果を生じさせる際に必要なその所定のターゲット又は複数のターゲットに選択的であることが望ましいことは、通常、理解される。選択性の不足は、毒性副作用をもたらすことがあり、このことによって、特定の化合物がヒト又は動物治療で使用するために適さないものとなる。所定のターゲットに対して選択的である化合物を同定する1つの手法は、所定の薬剤の構造的、機械的又は他の分析を行い、得られた情報を使用して、ヒト又は動物で使用するための薬剤として使用するための選択的な化合物又はさらに選択的な化合物(既知の化合物に比べて)を調製する際に役立てることである。ここでは、我々は、FIH及び類似酵素の選択的阻害剤の設計を可能にするHIFヒドロキシラーゼの構造的又は他の研究を記載する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、FIHによるHIF−1αのアスパラギン803の水酸化部位を同定した。加えて、本発明者らは、FIHとHIFとの相互作用に関与する結合部位及び残基の同定を含むFIHでの結晶構造を得た。
【0006】
したがって、本発明は、FIHを模倣するか、それに結合する化学実体を同定、スクリーニング、特性決定又は設計する方法を提供し、この方法は、FIHの構造モデルと、前記化学実体の構造モデルとを比較することを含み、その際、FIHの前記構造モデルは、FIHを含有する結晶をX線回折測定に掛けることにより決定された構造因子又は構造座標に由来する。
【0007】
本発明はさらに:
化学実体を同定、スクリーニング、特性決定、設計又は改変するための、FIHを含有する結晶をX線回折測定に掛け、その回折測定から構造座標を推測することにより得られた構造座標の使用;
FIHのアスパラギニルヒドロキシラーゼ活性を阻害する、本発明の方法により同定された化学実体;及び
治療法で使用するための本発明の化学実体
を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、FIHにより水酸化されるアスパラギン803の位置を同定した。加えて、発明者らは、FIHの結晶構造を同定した。したがって、この構造により、FIHとHIFとが結合する際に必要なアミノ酸残基の同定が可能である。
【0009】
相互作用及び構造の同定により、結合して、具体的にはFIHを阻害しうる化学実体の特性決定又は同定が可能である。下記でより詳細に検討するように、数種の異なるタイプの阻害剤を同定することができる。
【0010】
発明者らは、ヒトFIHを結晶化することに成功した。これは初のFIHの結晶化であり、これによって、結晶構造を決定することができた。結晶分析からの座標は、下記の表3に記載する。この研究により、HIFのアスパラギン−803の結合の分析及びFIHとの結合部位でのHIFのc末端活性化領域(CAD)の配座の分析が可能になった。本発明は、化学実体を同定、特性決定、設計又はスクリーニングするためのFIHの構造座標の使用を提供する。該当する化学実体は、FIHに結合する、具体的には、FIHのアスパラギニルヒドロキシラーゼ活性を阻害するものである。加えて、アスパラギンヒドロキシラーゼを改変する化学実体を、同定、特性決定又は設計することもできる。
【0011】
通常、化学実体を同定、スクリーニング、特性決定、設計又は改変するために、FIH又はその断片を含有する結晶をX線回折測定に掛け、その回折測定から構造座標を推測することにより、使用される構造座標を得ることができる。構造座標は、結晶内での個々の原子の位置を示し、化学実体を設計する際に、個々の原子の位置を調節するために利用可能なスペースの指示を与える。
【0012】
X線回折法に掛けられる結晶は、FIH又はその断片を含有する。FIHは、どのような源からであってもよいが、好ましくはヒトFIHである。FIHは、改変された形態であってもよい。例えば、FIHは、挿入、欠失、n末端若しくはC末端付与、又は他のアミノ酸によるアミノ酸の置換によって改変されていてもよい。アミノ酸置換は、保存的置換であってよい。通常、結晶化すると、FIH突然変異体は、対応するFIHがとる構造と同様の三次元構造をとる。突然変異体は、不活性FIHであってもよい。
【0013】
本明細書において、FIHとは、FIH及びその同族体を指す。アミノ酸残基は、FIHでの位置に関して定義される(例えば、Hewitsonら参照)。FIHの同族体の該当アミノ酸残基は、例えば、FIHに対する同族体の最良のアラインメントをベースとして、同等のアミノ酸残基である。
【0014】
結晶化研究で使用するための適切な手段により、FIHを単離することができる。例えば、生化学的手段を使用して適切な源から、FIHを精製することができる。しかしながら通常は、細胞中でFIHを過剰発現させて、これらの細胞からFIHを精製することが簡便である。したがって、FIHをコードするポリヌクレオチドを、ベクターの構造中で使用することができる。当技術分野の専門家に知られている方法に従って、FIHを結晶化させることができる。適切な方法に従って、X線回折を実施することができる。適切な方法を使用して、X線回折実験から集められたデータを処理して、FIHの構造座標を推定することができる。
【0015】
本発明は、化学実体を同定、特性決定、設計又はスクリーニングするために構造座標を使用することを提供する。化学実体は、FIHに結合するか、アスパラギニルヒドロキシラーゼ活性の阻害剤として作用するものであってよい。或いは、この化学実体は、FIHの活性を変化させるために改変されているFIHであってもよい。
【0016】
FIHに結合するか、それを阻害する化学実体は、FIHと会合を生じうる任意の化学実体である。結合又は阻害は、非特異的であってもよく、例えば、このような単位は、他の2OGオキシゲナーゼに結合するか、それを阻害してもよい。或いは、アスパラギニルヒドロキシラーゼに特異的に結合するか、それを阻害する薬剤を設計又は同定することもできる。FIHの特異的阻害剤ではあるが、他のアスパラギニルヒドロキシラーゼの特異的阻害剤ではない薬剤を設計又は同定することもできる。
【0017】
FIHの構造座標により、当業者であれば、どのアミノ酸が活性部位形成で重要であり、どのアミノ酸が、基質との接触で重要であるかを予測することができる。基質結合部位を、物理モデルにより生じるか、コンピュータスクリーン上に表示される二次元表示又は三次元表示として示すことができる。このような表示を使用して、FIHに結合するか、それを阻害する、或いはFIHに結合するか、それを阻害すると予測される化学実体を設計、同定又はスクリーニングすることができる。このような表示を使用して、その活性特性を調節するFIHの改変を同定することもできる。
【0018】
FIHに対する改変の例には、その基質へのFIHの結合を増大させるか、基質特異性を変更するための改変が含まれる。別の改変には、FIHの活性を調節する、例えば、アスパラギニルヒドロキシラーゼ活性を除く改変が含まれる。
【0019】
構造の表示を別の方法で使用することもできる。例えば、FIH活性部位の表示を使用して、FIHが基質に結合すると、相互に接近する原子の間に共有結合がおそらく導入されることによる拘束をモデリングすることができる。活性部位の表示を使用して、FIHのどの残基が、立体障害に関与しているようであるかを予測することもできる。このような残基を改変、置換又は欠失させて、深部障害を減少させ、その基質に関するペプチドの活性を増大させることもできる。
【0020】
通常、コンピュータをベースとする方法で本発明により得られる構造座標を処理して、所望の分子構造を有する化学実体を同定又は設計するか、その構造が該当する他の化学実体の全部又は一部を補足する化学実体を同定することが必要である。したがって、FIHと同様の構造を有する化学実体を、同定又は設計することができる。FIHに結合する化学実体を同定又は設計することもできる。好ましくは、このような化学実体は、FIHの活性部位に結合して、通常は、アスパラギニルヒドロキシラーゼ活性の阻害剤として作用しうる。
【0021】
このようなコンピュータをベースとする方法は、2つの幅広い群に分類される:データベース法及びデノボ設計法。データベース法では、該当する化学実体を、その構造が同定された該当する化合物に多少でも似ている化学構造及び化学実体のデータベースに存在する全ての化学実体と比較する。データベース中の構造は、NMR又はX線結晶学により生成した実験データ又は二次元データに基づく三次元構造のモデルをベースとしている。デノボ設計法では、既知の構造及び/又は理論的規則に由来する情報を使用して、例えば、FIHに結合するであろう化学実体のモデルを、コンピュータプログラムにより生成する。
【0022】
同様に、FIH構造座標を使用して、他のヒドロキシラーゼ、例えばプロリルヒドロキシラーゼの阻害剤などの修飾物質であると選択、設計又は判明している化学実体の予測活性をスクリーニングすることができる。例えば、化合物をスクリーニングして、付加的にFIHヒドロキシラーゼを阻害するプロリルヒドロキシラーゼ阻害剤の公算を評価することができる。HIFプロリルヒドロキシラーゼは選択的に阻害するが、HIFアスパラギニルヒドロキシラーゼは阻害しない薬剤を同定する際に、このようなスクリーニング法を利用することができる。
【0023】
コンピュータ評価又は実験評価を使用して、本発明の方法により設計又は選択された化学実体を試験し且つ最適化することができる。アスパラギニルヒドロキシラーゼの活性に関してアッセイするための実験方法を下記で詳述する。
【0024】
FIHの構造に基づき、幾つかの異なるタイプの阻害剤を同定することができる。これらの阻害剤を、下記で詳細に検討する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
二量化阻害剤
結晶学的不斉単位は、1個のFIH分子を含有する。しかしながら、結晶学的対称性の分析により、FIHの二量体形態が明らかになり、これは、本来のゲル電気泳動分析と一致した。二量体界面は、主に疎水性相互作用を伴うインターロック配置で各分子の2個のC末端らせんを伴う。この珍しい界面は、このサイズの他の二量体タンパク質に比較して、平均して広い3210Åの表面積を占めている。二量化阻害剤には、Leu−340及びIle−344などの330〜346から選択される残基を含む二量化界面を形成する残基に結合するものが含まれる。阻害剤には、二量化界面に関与するFIH残基の全部又は一部に対応するペプチド又はペプチド模倣物質が含まれる。
【0026】
例えば、このような阻害剤は、例えば340〜344の残基、好ましくは残基330から346を含むFIHの断片を含んでもよい。このような断片は通常、長さにおいて6又は10個のアミノ酸、好ましくは長さにおいて15又は20個までのアミノ酸を有する。或いは、例えば1、2又はそれ以上の置換を伴う340〜344又は330〜336の残基に対する同族体を含むペプチド同族体を使用することもできる。さらなる薬剤には、二量化を妨害するように、結晶構造を元に設計することができるペプチド又はペプチド模倣物質が含まれる。
【0027】
FIHでの金属結合を利用する阻害剤
構造研究により、FIH及びおそらく関連するHIFヒドロキシラーゼの活性部位にFe(II)が存在することが判明している。この鉄は、大抵八面体で、His199、Asp201及びHis279の側鎖、2OGの2−オキソ及び1−カルボキシレート基により結合している。酵素−基質複合体では、His279の反対側に空の位置があり、これにより、この酵素は、二酸素結合のためにプライミングされていることが分かる。His279の反対側のリガンドの適応は、Asp201とCAD Asn803との水素結合の破壊を必要とすることがある(鉄及びAsn803β−炭素は、約4.9Åしか離れていない)。2OGの後続の脱炭酸反応はおそらく、鉄−オキソ種[Fe(IV)=O<−>Fe(III)−O・]をもたらし、これは、HIFのC末端トランス活性化領域(CAD)でのAsn−803の炭素での酸化をもたらす。
【0028】
鉄に結合する官能基を含有する化合物は、FIHの阻害剤として役立つ。このような化合物の例には、チオール、アルコール、ケルシチン及びその誘導体などのフラボノイドを含むフェノール、炭水化物、ヒドロキサメート、イミダゾール並びに他の複素環、例えば窒素含有複素環が含まれる。
【0029】
Zn(II)は、Fe(II)と同じ様にFIHに結合し(構造3)、これは、金属仲介低酸素効果が、HIFヒドロキシラーゼの活性部位からのFe(II)の置換によることと一致する。Zn(II)も、FIHの他の金属阻害剤も、触媒作用での補因子としてFe(II)に取って代わることはできないので、FIHの活性部位で、鉄以外の金属[Zn(II)など]の結合を優先的に促進する化合物は、阻害剤として作用する。
【0030】
阻害剤の他の群は、活性部位での結合に関してFe(II)と拮抗することを介して作用する非金属阻害剤である。このような阻害剤は、触媒活性なFIHの活性部位でFe(II)に結合する残基の三つ組(His−199、Asp−201、His−279)のいずれか又は全てに結合しうる。
【0031】
2OG結合部位を利用する阻害剤
NOGを伴うFIH:CAD構造は、2OGのように、二座で鉄に配位されることを示し、鉄結合過酸化物(スーパーオキシド)中間体によるか、金属への二酸素の結合を妨害することによる攻撃に対して感受性が低いことにより、阻害剤であることを示している。
【0032】
FIHでの構造研究により、2OG及びNOGに関する結合相互作用が判明している(例えば、図1参照)。2OG(及びNOGの同等のカルボキシレート)の5−カルボキシレートは、Lys214、Thr196及びTyr145の側鎖と水素結合を形成し;このような相互作用は、2OGオキシゲナーゼの他の構造では前例がなかった。さらに、Lys214が第4のDSBH(二本鎖βらせん)β鎖である一方で、以前に与えられた塩基2OG−5−カルボキシレート結合残基は、第8のDSBH鎖の開始点に存在することにおいて、FIHは珍しい。
【0033】
構造研究により、その中に2OGとNOGとが結合するポケットを形成するFIH残基が判明している。前記に加えて、これらには、Ile−281、Leu−186、Leu−188、Phe−207、Thr−196の側鎖が含まれる。これらの相互作用を知ることにより、改善された(結合パラメーターにより測定される)選択的な阻害剤を設計することが可能である。したがって例えば、2OG結合ポケットでの阻害剤の結合は、Ile−281、Leu−186、Leu−188、Phe−207、Thr−196の側鎖のいずれか又は全てとの疎水性相互作用をもたらしうる。さらに、このことは、2OGの5−カボキシレートの結合に関与する残基(Lys214、Thr196及びTyr145)との静電又は水素結合相互作用をもたらしうる。
【0034】
2OG結合残基との阻害剤の相互作用を介してのFIHの選択的阻害は、次のように例示される:N−オキサロイルアミノ酸をベースとした一連の阻害剤の反応速度分析により、N−オキサロイルアラニンのR−鏡像異性体(IC500.4mM)は、S−鏡像異性体(IC502.5mM)よりもかなり強力であることが判明した。FIH内の2OG結合ポケットの分析により、S−鏡像異性体の結合は、そのメチル基と、2OG結合ポケット内のThr−196及びIle−281の側鎖との相互作用により妨害されることが判明した。プロコラーゲンのプロリル−ヒドロキシラーゼ及びPHDアイソザイムの両方に関しては、逆の選択性(即ち、S−鏡像異性体がより強力であった)が観察され、このことは、個々のタイプのHIFヒドロキシラーゼに関して選択的阻害剤を開発することができるはずであることを証明している。このような阻害剤は、活性部位金属にキレート化してもよいし、しなくてもよい。
【0035】
化合物には、一般式:
【化1】


のものが含まれる
[式中、
R’及びR”はそれぞれ同一又は異なって、H、F或いはCからCアルキル若しくは置換アルキル、CHOH、CHCOH又はCONHであり、Xは、COOH、SOOH若しくはCONHH又はそのエステル又は複素環であるか、或いはLys−214、Thr−196及びTyr−145、即ち、結晶学的分析で判明したように、2OGの5−カルボキシレートの結合に関与する残基の1つ又は複数の側鎖と好ましい相互作用をもたらす他の基であり、
Yは、−(CR’’’R’’’)Zであり、Zは、
−NR’’’COCOOH、−NR’’’CSCOOH、−NR’’’COCOSH、−CHSR’’’CONR’’’R’’’’、−CHOR’’’CONR’’’OR’’’、−CHSR’’’CONR’’’OR’’’又は−CHOR’’’CONR’’’NR’’’OR’’’であり、R’’’はそれぞれ同一又は異なって、H、アルキル、OH又はO−アルキルであり、nは、0〜3であり、好ましくは0である]。
【化2】


[式中、R’’’’は、OH、OR’’’又はNHCOR’’’であり、Wは、S、NH又はOである]。
【0036】
Xは、Lys−214、Thr−196及びTyr−145、即ち、2OGの5−カルボキシレートの結合に関与する残基の1つ又は複数の側鎖と好ましい相互作用を生じる基である。Xは、作用の望ましい部位に輸送されるか、望ましい薬物動態特性を有するようなプロドラッグとして官能化されていてもよい。前記で示したように、Xは、Xのカルボン酸バージョンのメチル若しくはエチルエステルなどのエステル又はアミド誘導体であってよい。
【0037】
nが0である場合には、Yは通常、CONHOH、CONHNH、NR’’’COCOOH、NR’’’CSCOOH又はNR’’’COCOSHである。Yは優先的に、活性部位金属にキレート化しうる一方で、結晶学分析により定義されるような2OG結合ポケットに存在する好ましい結合相互作用の全て又は一部を維持するようなサイズである。Xと同様に、Yは、プロドラッグとして官能化されていてもよい。
【0038】
Yが、前記で示されているように芳香族環を含有する場合には、これは、アリール又は官能化アリール環、さらに複素環及び官能化複素環を含む他の環系を含有してもよい。前記環をさらに官能化して、FIH活性部位での結合を最適化することもできる。
【0039】
ペプチド基質結合部位を利用する阻害剤
2つの結合部位が存在
ES複合体構造によって、それぞれ1640Å及び1080Åの接触表面積を有するCAD795−806(即ち、HIFのC末端トランス活性領域の残基795〜806)(サイト1)及びHIFのCAD813−822(サイト2)を含む2つの別々の結合部位が予期せず判明した(例は、図参照)。これらの領域のCAD残基は、全ての既知のHIF−1α及びHIF−2α配列に保存されている。サイト1での電子密度は、性質が良好であり、Tyr798の側鎖でのみ、乏しいと定義される一方で、サイト2では、より低いレベル及び性質で、これはおそらく、このサイトでの弱い結合を反映している。密度が観察されなかったCAD804−806及びおそらくCAD807−811も、FIHとは直接的な相互作用を生じない。サイト1及びサイト2の相対的重要性を調べるために使用された反応速度分析により、サイト1のみを含有する断片はFIHにより水酸化されるが、両方のサイトを含有するものよりも効率的でないことが判明し、これは、結合の際には両方が重要であり、両方を阻害研究で利用することができることを証明している。
【0040】
サイト1では、CAD795−803は、溝部に結合して、10個の水素結合によりFIHに結合する広く延びた配座をとる。CADのAsn803は、活性でかなりを占めていて、Fe(III)に直接隣接している。CAD Asn803及びAla804は、Val802の主鎖カルボニルとAla804のNHとの間の、Asn803の側鎖をFe(II)に向ける水素結合により安定化されるしっかりとした回転を形成する。CAD Asn803の側鎖は、3個の水素結合により正確に配位されて、β−炭素のプロ−S位置での水酸化を可能にするが、これは、NMR指定と一致する(前記参照)。CAD Asn803の1級アミドは、FIH残基Tyr102とFe(II)との間に挟まれていて、DSBHモチーフへの挿入部に位置する残基であるFIH残基のGln239及びArg238の側鎖と水素結合を生じる。特に、基質とFe(II)との結合部位は、直接結合する。それというのも、CADのAsn803の主鎖窒素も、鉄に複合化していないAsp201のカルボキシレート酸素と水素結合(約3Å)を形成するためである。6個の付加的な水素結合が、FIHとCAD795−801との結合を安定化する。
【0041】
サイト1とは異なり、サイト2は、FIH表面に位置し、2個の水素結合のみを伴う。サイト2のCAD816−823は、α−らせんを生じるが、これは、CBP/p300との複合体でのこの領域の構造に全く一致する(Damesら、(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,52715276;Freedmanら、(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,53675372)。この複合体と同様に、高度に保存されているLeu818、Leu819及びLeu822は、FIH表面の疎水性ポケットに位置し、結合相互作用のベースを形成するので、これらの残基が同時にCBP/p300及びFIHに結合することは不可能である。
【0042】
サイト1の所でCAD残基がとる広いループ構造は、CBP/p300の第1の転写アダプター亜鉛結合領域(TAZ1)と複合化した場合に同じ残基がとるα−らせん構造とは対照的である(Damesら、(2002年)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,52715276;Freedmanら、(2002年)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,53675372)。したがって、溶液中で遊離した場合にCAD及び他のHIF−α残基で観察される乱れた構造は、様々なタンパク質と複合体を形成するために複数の構造をとる必要性を反映している。
【0043】
結合によるCADの構造の変化は、FIHの変化により補足され、これは、誘導される適合結合プロセスを示している;FIHのTrp296は、約Cbeta−Calphaの50°の回転を受けて、CAD Val802を調節する一方で、Tyr102とTyr103の両方は、より整然となる。誘導される適合のさらなる証拠は、CAD断片結合を伴って得られた構造と伴わずに得られた構造との間の分解能における著しい差異に由来し、これは、結合で生じるFIHの配列を反映している(比較のために、構造4は、Fe(II)及び2OGのみと複合化したFIHを示している)。低分子を使用することによるか、遺伝子又はタンパク質治療により、低酸素応答の際に必要な構造変化、特に、CAD領域を伴う構造変化を妨害することにより、前血管形成又は抗血管形成応答が可能であるように低酸素応答を操作することができる。
【0044】
したがって、構造研究により、(i)HIFのCADが結合する際に関与するFIH残基、(ii)CADが結合した場合のFIHの配座及び(iii)FIHに結合した場合のCADの構造が定義される。これらの結果は、FIHの選択的阻害剤及び関連酵素の設計で役立つ。FIH結合部位の特徴を使用して、阻害剤とFIHとのよりしっかりとした結合を仲介するか、FIHにしっかりと結合しない、即ちFIHの阻害を回避しない阻害剤を得ることができる。
【0045】
サイト1に、又はその近くに結合する阻害剤は、Tyr−102、Asp−104、Lys−106、Asp−201、Glu−202、Gln−147、Gln−239、残基299〜303、His−313、Ala−317、Ile−318、Asn−321、Lys−324、Arg−238、Trp−296、Asn−321〜Lys−324との静電水素結合及び/又は疎水性相互作用を利用することができる。サイト1での阻害剤結合は、サイト1に結合した場合にCADがとる回転構造を模倣するか、部分的に模倣してよい。
【0046】
サイト2に、又はその近くに結合する阻害剤は、残基Thr−149、Leu−150、Asn−151、Asp−152及び残基Val−159、Phe−162、Leu−163、Trp−167、Gln−181、Leu−182、Thr−183、Ser−184、Asn−185との静電水素結合及び/又は疎水性相互作用を利用することができる。サイト2での阻害剤結合は、サイト2に結合した場合にCADがとるらせん構造を模倣するか、部分的に模倣してよい。
【0047】
阻害剤は、サイト1及びサイト2の両方に結合してもよいが、その必要はなく、サイト1が、サイト2よりも好ましいと認められる。
【0048】
サイト1で結合するCADの残基801〜805、特に残基802〜805は、802の主鎖C=Oと804の主鎖NHとの距離が約2.8Åである回転構造を形成する。Ala−804のNHとHIF−1αCADのVal−802のカルボニルOとの間に生じるH結合を含めて、この回転は、擬環中に7個の原子を含有する。
【0049】
回転は、酵素阻害又は受容体結合に役立つ類似体による擬態に特に適している。医学的化学文献は、このような回転擬態の例を十分に備えている。既知の方法によりこれらを改変して、具体的にはターゲット構造に関する知識が得られている特定のターゲットに結合させることができる。
【0050】
回転擬態及びその変種の例は、次のレビューで見ることができる:Hanessianら、TETRAHEDRON53:12789−12854 SEP22 1997年;Gillespieら、BIOPOLYMERS43:191−217 1997年;及びBurgessら、ACCOUNTS CHEM RES 34:826−835 2001年)。回転に関する主要な報告の最近の例には、次のもの(及びその参照文献)が含まれる:Maierら、EUR J ORG CHEM:2686−2689、2002年;Reidら、J AM CHEM SOC 124:5673−5683、2002年;Mahadevanら、J BIOMOL STRUCT DYN 19:775−788 2002年;Eguchiら、J MED CHEM 45:1395−1398 2002年;De Borggraeveら、TETRAHEDRON LETTERS 42:5693−5695 2001年;Kohnら、TETRAHEDRON LETT 42:4453−4457 2001年;Eguchiら、TETRAHEDRON LETT 42:1237−1239 2001年;Manzoniら、TETRAHEDRON57:249−255 2001年;Jiangら、HELV CHIM ACTA83:3097−3112 2000年;Derrerら、J CHEM SOC PERK T1:2957−2967 2000年;Belvisiら、EUR J ORG CHEM:2563−2569 2000年;Claridgeら、BIOORG MED CHEM LETT 6:485−490 1996年。
【0051】
これらには、一般式:
【化3】


の化合物が含まれる
[式中、Rは、Gln−237及び又はArg−238と静電又はH−結合相互作用を生じうるもの、好ましくは、CRCONH又はその類似体であり(式中、Rは、水素又はペプチド又はペプチド模倣物質(β−アミノ酸又はペプチドイソター(isotere)からなるものなど)であり、Rは、水素、官能化されていてもよいアルキル、官能化されていてもよいアリール、ヘテロアリール又はCHCONHなどのこれらの組合せである)、Rは、水素又はFIHのTyr−102と有利に相互作用する基であり、Rは、H又はAsp−201とH−結合を生じうる基であり、Zは、>C=O又は>CRであり(式中、Rは、水素、官能化されていてもよいアルキル、アリール又はへテロアリール或いはこれらの組合せである)、R12は、Rと同様に定義されるか、又はNHRであり(式中、Rは、COR又はSOである)、Xは、NR、NRC(R、C(RNR或いはO又はNHである(式中、Rは、COR又はSOである)]。この式又は他の式では、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12はそれぞれ、同じか、異なってよい。特に、これらの化合物は、式:
【化4】


のいずれかであってよい
[式中、基は前記と同様に定義され、R及びRは独立に、β−アミノ酸残基、ウレタン、スルホンアミド又はホスホンアミド結合を含有するか、それからなるもののようなペプチド又はペプチド模倣物質又は部分ペプチド模倣物質である]。
【0052】
使用することができる他の化合物は、式:
【化5】


を有するものである
[式中、Qは、H又はOHであり、R及びRは前記と同様に定義される]。
【0053】
使用することができる他の化合物は、式:
【化6】


を有するものである
[式中、R、R、R及びRは前記と同様に定義され、Dは、S、O、NH又はCHR=CHRである]。したがって、6員環に結合している環は、5員複素環又はアリール環である。
【0054】
これらの式中、R及びRを最適化して、チャネル架橋の際に、2OGとペプチド基質結合部位とを、又は2OG結合部位自体とを結合させることができる。
【0055】
サイト1のCADがとる回転の模倣物質として作用する環式ペプチド。このシクロは、ペプチド結合、ジスルフィド結合又はC−C結合を介して生じさせることができる。
【0056】
結合部位の組合せを利用する阻害剤
場合によっては二基質阻害剤とも称される、複数の基質又は補助基質結合部位での結合と拮抗する酵素阻害剤が有用であることは、よく知られている。例は、Wangら、BIOCHEMISTRY−US:15676−15683 2001年;及びLernerら、ANGEW CHEM INT EDIT40、4040−4041、2001年に見ることができる。
【0057】
FIH及び他の2OGオキシゲナーゼの場合には、二基質阻害剤が有用である。それというのも、2OG結合の特徴は、複数の酵素に存在する一方で、CAD基質は独特であるためである。したがって、両方の結合部位に結合する阻害剤は、2OG結合部位のみに結合するものを上回る改善された選択性を示しうる。構造分析により、このような二基質阻害剤を同定することができる。2OG及びCAD結合部位は、2OG(又はNOG)の2−オキソ基からFIH.Fe.2OG/NOG.HIF(CAD)複合体中のβ−炭素Asn−803へと延びる「チャネル」を介して相互に結合する。この構造では、この「チャネル」は、空のようだが、水分子によって占められていてもよい。2OGの2−オキソ基のCからAsn−803のβ−Cへの距離は、約6Åである。2OGの3−CからAsn−803のβ−Cまでの距離は、約6.6Åである。構造分析からの情報により、次のものを含む二基質阻害剤を同定することができる:
これらは、前記式(II)〜(IV)の化合物であるが、但し、これらは、結晶学情報により定義されるような2OG結合ポケットにも結合しうるように改変されている。したがって、R又はRが、2OG結合ポケットに結合しうるように改変されている。この改変は、R又はRの一般式がA−X(式中、Xは、前記と同様に定義され、Aは、Xを(II)に結合する)であるような形態である。Aは、2OG結合部位を利用する表題の阻害剤下に、Xが式I、前記2OGのカルボキシレートの残基に結合しうるような適切な長さを有する。
【0058】
より一般的には、FIHの二基質阻害剤は、式:
X[B]−[C]
を有してよい[式中、Xは、前記と同様に定義され、Bは、リンカー基であり、Cは、FIHのCAD結合部位の一部に結合する単位、一般的にCONHである]。
【0059】
Bは通常、6〜8個の炭素原子を有するポリメチレン基又は炭素原子のうちの1個又は複数がヘテロ原子、特にO、S又はNにより置換されている同等の基であり、例えば、チオール、アルコール、カルボキシレート、ヒドロキサム酸又はオキサレートで官能化されて、Fe結合を仲介してもよい。これは好ましくは、6から8個の炭素原子長さ又はそれに同等である。或いは、Bは、好ましくはCが結合する5から7員の環を有する架橋基である。
【0060】
2OG結合部位又はその一部並びにペプチド基質に結合する阻害剤
別の群の阻害剤は、酵素−基質複合体、即ちFIH.Fe(II).HIF(CAD)に結合する。構造分析により、このような阻害剤を同定することができる。前記ように、2OG及びCAD結合部位は、FIH.Fe.2OG/NOG.HIF(CAD)複合体中の2OG(又はNOG)の2−オキソ基からAsn−803のβ−炭素へと延びる「チャネル」を介して相互に結合する。
【0061】
このタイプの阻害剤は、X−[B]−[E]と定義することができ、式中、Xは、前記と同様に定義され、Bは、前記ように定義されるリンカー基であり、Eは、HIFに結合する際にCADの一部に結合する単位である。Eは、CADのAsn−803の主鎖カルボニル酸素に、さらにAsn−803の1級アミドのNH基に結合する。
【0062】
阻害剤のベースとなっているメカニズム
他の群の阻害剤は、触媒サイクルの一部を受けうるが、中間体段階で停止するか、損傷又は抑制をもたらす異常反応を惹起することができる基質類似体をベースとしている。FIHは、β位でAsn−803の水酸化を触媒するという観察と、構造分析とにより、このような阻害剤を設計することができる。このような化合物には、Asn−803がβ−フルオロ−アスパラギン、β−ジ−フルオロアスパラギン、β−メチル−アスパラギン、β−ジメチル−アスパラギン誘導体などの酸化を受けない類似体に置換されている基質の類似体(阻害剤)が含まれる。或いは、酸化を受けて、酸化されてエポキシド又は金属キレート化基などの不活性化基をもたらす薬剤をもたらす誘導体を調製することもできる(このようなメカニズムをベースとする阻害剤は時たま、自殺阻害剤と称される)。FIHの場合には、これらには、α−β−デヒドロアスパラギン及びβ−メチレンアスパラギンが含まれる。
【0063】
これらには、式:
【化7】


を有する化合物が含まれる
[式中、Xは、バリン残基又はその類似体を表し、Yは、アラニン残基又はその類似体を表し、R10は、フッ素又はC〜Cアルキル、特にメチルであり、R11は、フッ素、C〜Cアルキル又は水素であり、即ち、前記残基は、β−モノ−若しくはジ−フルオロアスパラギン又はβ−モノ−若しくはジ−メチルアスパラギンである]。
【0064】
或いは、前記化合物は、脱飽和されていてもよい、即ち、α/βデヒドロアミノ酸であるか(R11が存在しない)、又はR10及びR11が、メチレン基で置換されていてもよい、即ち、残基は、α,β−デヒドロ−アスパラギン又はβ−メチレンアスパラギンである。
【0065】
望ましい場合には、バリン残基は、ペプチドDESGLPQLTSYDCEの1個又は複数の単位に所与の順序で、例えば、グルタミン酸(E)のみに、又はアスパラギン酸(D)−システイン(C)−グルタミン酸(E)−に、又はPQLTSYDCE−などのもっと長い鎖に接続している。
【0066】
本発明の化合物では、適切なアリール環には、さらに官能化されているか、他の環系に縮合していてもよいフェニル及びナフタレニルが含まれる。適切な複素環には、官能化されているか、他の環系に縮合していてもよいチオフェン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピリミジン、ピラジン、ピロン、クロモン、クマリン、インドール、イソインドール、インドリジン、ベンゾフラン、ピリダジン、プリン、オキサゾール、ピラゾール、イソチアゾール、ピロリジン、ピペリジン、インドリン、ベンゾチアフェン、モルホリン、ベンズイミダゾール、アゼピン、アザシン(azacine)、アゾイン(azoine)、オキセピン、オキソシン、オキソイン、ピペラジン、オキサジン、チアジン、チエピン、チオシン、チオイン、フラン、イミダゾール、アゾール、ジアゾール、トリアゾール及びテトラゾール環系が含まれる。
【0067】
前記アルキル及びアリール基及び鎖は通常、アルコール、フッ素、チオール、カルボン酸、ホスホン酸若しくはホスフィン酸、スルホン酸又は他のキレート基により、鎖の場合には通常アルキル基を介して官能化されている。本願明細書に記載の式中では、分枝鎖又は直鎖CからCアルキル鎖は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソ−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル又は1級、2級若しくは3級ヘキシル基であってよい。好ましくは、アルキル基は、メチルであり、好ましい複素環は、ピロリジン及びテトラヒドロピランであり、好ましい芳香環は、ベンゼン、ナフタレン及びピリジンである。
【0068】
酸である化合物は、ナトリウム塩などの塩の形態で存在してもよい。
【0069】
FIHの結晶構造により、FIHのアスパラギニルヒドロキシラーゼ活性に関与するそれらの残基を同定することができる。したがって結晶構造を使用して、例えば活性部位内の重要な残基を変異させることにより、例えばアスパラギニルヒドロキシラーゼ活性が減っているか、活性のない改変FIHを設計することができる。或いは、基質結合に関与する残基を同定及び改変して、例えば、アスパラギニルヒドロキシラーゼがHIF以外の基質を許容できるようにすることができる。例えば、アスパラギン結合ポケットを広げるか、狭めることによって。標準的な技術を使用して、このように改変されたアスパラギニルヒドロキシラーゼを生じさせることができる。次いで、下記で詳述するように、予測された活性をアッセイして、例えば、HIFに対するヒドロキシラーゼ活性が、減ったか、除かれたかどうかを同定するか、或いは、他の基質に対するアスパラギニル活性又は結合を評価する。
【0070】
本発明により同定された化合物をさらにアッセイで分析して、アスパラギンヒドロキシラーゼ酵素の活性を直接に監視することができる。HIFアスパラギンヒドロキシラーゼ活性を阻害又は低減する薬剤は、HIF−αの水酸化を低減し、P300、具体的に言うとCH1領域との相互作用の増大を、したがって、転写活性をもたらす。次いでこのことは、血管形成、赤血球精製、エネルギー代謝、炎症、血管運動機能の促進を含みうる低酸素又は虚血に対する全身的な局所防衛の活性化をもたらし、アポトーシス/増殖応答に影響を及ぼす。
【0071】
我々は、HIFヒドロキシラーゼ活性又は本発明により同定されたFIH、具体的にはアスパラギンヒドロキシラーゼ活性の修飾物質、或いは細胞中でのp300とのHIF−α相互作用の調節に影響を及ぼし、したがってHIF仲介活性に影響を及ぼす修飾物質の活性をアッセイするために実施することができる幾つかの異なるアッセイをさらに詳細に以下に記載する。これらのアッセイのうちの幾つかは、HIFポリペプチド及びHIFアスパラギンヒドロキシラーゼを利用する。通常、アッセイは、FIHなどのヒトHIFアスパラギンヒドロキシラーゼ又はヒトHIFアスパラギンヒドロキシラーゼの断片若しくは変異体を利用することができる。これらの成分は、以下に詳述する。必要な場合には、これらの各成分を精製又は未精製の形態で、例えば、細胞抽出物として、又はこのような抽出物からの関連成分の精製により用意することができる。或いは、組換え発現技術を使用して、該当成分を発現させ、アッセイで使用するために精製することができる。或いは、細胞ベースのアッセイで使用するための細胞での組換えにより、成分を発現させることができる。
【0072】
通常、該当成分をコードするポリヌクレオチドを、発現ベクター内に用意する。このような発現ベクターは普通に、当技術分野で構成され、例えば、プラスミドDNA並びに適切なイニシエーター、プロモーター、エンハンサー及び必要となることがあり、十分なタンパク質発現を可能にする正確な配置で位置するポリアデニル化シグナルなどの他の要素の使用を必要としうる。HIFヒドロキシラーゼを参考に本願明細書に詳細に記載されているものなどの適切なベクターは、当技術分野の専門家にはかなり簡単に分かるであろう。プロモーター配列は、選択されたアッセイフォーマットに応じて、誘導性又は構成性プロモーターであってよい。プロモーターは、組織特異性であってよい。発現ベクターで使用するためのプロモーター及び他のフランキング配列の例は、本発明のHIFヒドロキシラーゼ及び特にヒトHIFヒドロキシラーゼを参照してさらに詳細に記載する。
【0073】
HIFポリペプチド及びペプチド類似体
本発明のアッセイは、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼの基質、特に酵素のアスパラギン含有基質を使用することができる。特に、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼ活性の修飾物質の活性を監視するためのアッセイで、このような基質を使用することができる。基質は、HIFポリペプチド又はそのペプチド類似体であってよい。通常は、HIFポリペプチドが基質として使用される。
【0074】
アスパラギン残基がFIHにより水酸化されている任意の適切な基質を使用することもできる。本発明の好ましい実施形態では、このような基質は、HIF−1α若しくはHIF−2αサブユニットタンパク質などのHIFポリペプチド、又はいずれかの断片、或いは該サブユニット又は断片のペプチド類似体である。好ましくは、HIF−αペプチドは、酸素調節応答をもたらす。好ましくは、HIF−αペプチドは、CAD領域を有し、p300との酸素調節相互作用及びダウンストリーム転写活性が可能である。好ましくは、このようなHIF−αペプチドは、p300CH1領域と相互作用しうる。好ましくは、このようなHIFポリペプチド、断片又はペプチド類似体は、HIF−1αを参照して定義されたAsn803と同等のアスパラギン残基を包含する。HIF変異体、断片又は類似体をHIF−1αの配列に並べて、最良の配列アラインメントを得、それにより、HIF−1αのAsn803と同等のアスパラギンを同定することにより、HIF−1αのAsn803と同等のアスパラギンを決定することができる。
【0075】
HIFポリペプチドは、真核由来、特に、ヒト又は他の哺乳動物、HIF−αサブユニットタンパク質若しくはその断片に由来してよい。或いは、ポリペプチドは、C.エレガンス(C.elegans)由来であってよい。p300とのその相互作用を通してHIF−αの水酸化を監視するアッセイでは、HIFポリペプチドは、野生種全長p300タンパク質又はCH1領域を含有するその断片に結合しうる。好ましくは、低酸素細胞環境では、このような結合は転写を活性化しうる。
【0076】
幾つかのHIFαサブユニットタンパク質がクローニングされている。これらには、その配列がGenbank受入番号U22431として入手可能なHIF−1α、Genbank受入番号U81984として入手可能なHIF−2α、Genbank受入番号AC007193及びAC079154として入手可能なHIF−3αが含まれる。これらは全て、ヒトHIFαサブユニットタンパク質であり、全て、本発明で使用することができる。ネズミHIF−1α(受入番号AF003695、U59496及びX95580)、ラットHIF−1α(受入番号Y09507)、ネズミHIF−2α(受入番号U81983及びD89787)及びネズミHIF−3α(受入番号AF060194)を含む他の種からのHIF−αサブユニットタンパク質を、本発明で使用することもできる。
【0077】
特に該当するHIF−αタンパク質の1種は、C.elegansHIF−αサブユニットタンパク質である。C.elegans系を本発明のアッセイでは使用することができる。
【0078】
今日までに同定されている2種のHIF−αサブユニットタンパク質には、幾つかの共通する構造形態が存在することが判明している。これらの形態のうちの幾つかは、O’Rourkeら(1999年、J.Biol.Chem.,274;2060−2071)に同定されており、HIF−αサブユニットタンパク質のトランス活性化機能に関与しうる。これらの共通する構造形態のうちの1つ又は複数が、HIF−ポリペプチドの好ましい形態である。
【0079】
天然に生じるHIF−αサブユニット(特に例えば、HIF−1αなどのヒトHIF−αサブユニット)に対して少なくとも45%のアミノ酸同一率、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%又は98%の同一率を有する合成変異体などの前記HIF−αサブユニットの変異体を使用することができる。このような変異体は、HIFヒドロキシラーゼに関して、前記ような置換又は改変を含む。アミノ酸活性を、HIFヒドロキシラーゼに関して前記ように算出することもできる。
【0080】
HIF断片は、非ペプチジル官能基を含んでもよく、同一率のレベルが下がるようにアッセイのために最適化してもよい。このような官能基は、糖などのように共有結合しているか、金属イオンなどのように非共有結合していてもよい。
【0081】
本願明細書に記載のHIFαポリペプチドは、HIF−αサブユニットタンパク質又はその変異体の断片であってもよいが、但し、前記断片は、野生種p300CH1領域と相互作用する能力を維持する。タンパク質アミノ酸残基を使用する場合には、これらの断片は望ましくは、少なくとも20個、好ましくは少なくとも40個、50個、75個、100個、200個、250個又は400個のアミノ酸サイズである。望ましくは、このような断片は、アスパラギン803を含有する。
【0082】
本発明の細胞ベースのアッセイは、内生HIF−αのアップレギュレーション又は組換え技術によるHIF−α、具体的にはHIF−1αの発現を必要とし得る。
【0083】
アッセイ方法
本発明は、低酸素誘導因子のアスパラギン水酸化の修飾物質として同定される薬剤に関するアッセイ方法を提供する。この方法は、試験基質の不在下にアスパラギン水酸化が生じる条件下に、ヒドロキシラーゼの基質の存在下に、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼと試験物質とを接触させ、基質のアスパラギン水酸化を定量することを含む。別のアッセイでは、試験基質の不在下では水酸化が生じない条件下に、ヒドロキシラーゼの基質の存在下に、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼと試験物質とを接触させる。アスパラギン水酸化の定量を監視して、その薬剤がアスパラギンヒドロキシラーゼのプロモーターとして活性に作用するかどうかを同定する。
【0084】
FIHは、CAD領域内のアスパラギン残基の所でHIF−αを水酸化することが判明した。この水酸化がp300結合を仲介し、特に、p300結合を減らす。このような結合により、転写の活性化がもたらされる。この相互作用及び活性化も、本発明のアッセイのためのベースとして使用することができる。
【0085】
本発明のこのようなアッセイを使用して、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼ活性の阻害剤の活性をアッセイすることができ、これを好ましくは、試験物質の不在下にアスパラギン水酸化が生じるであろう条件下に実施する。本発明のアッセイを使用して、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼに特異的で、他のヒドロキシラーゼ、例えば、HIFプロリルヒドロキシラーゼ又は他のアスパラギン/アスパルテーム酸ヒドロキシラーゼなどでは活性がないか、活性が低い阻害剤の活性をアッセイすることもできる。本発明のアッセイを使用して、構造モデリング研究ではFIHに対して活性を有するとは予測されていないHIFプロリルヒドロキシラーゼ阻害剤などのヒドロキシラーゼ修飾物質の活性をアッセイするために使用することもでき、したがって、プロリルヒドロキシラーゼに対して特異的な阻害剤を同定するために使用することもできる。
【0086】
改変を監視する方法
本発明のスクリーニング又はアッセイ法の正確なフォーマットは、当技術分野の専門家であれば、通常の技術及び知識を使用して変更することができる。専門家であれば、適切な制御実験を付加的に使用する必要性がよく分かるであろう。本発明のアッセイは、適切な基質のアスパラギン水酸化を監視すること、基質及び補基質の利用を監視すること、酵素とその基質との間で予測された生成物の産生を監視することを必要とし得る。本発明のアッセイ方法は、系の成分間の直接的な相互作用をスクリーニングすることを必要とすることもある。或いは、適切なリポーター構成を使用して、又はHIFにより直接若しくは間接に調節されることが知られている遺伝子のアップレギュレーション又は遺伝子の発現パターンの変化を監視することにより、p300によるHIFの結合などのダウンストリーム効果及びHIF仲介転写などのHIFにより仲介されるダウンストリーム効果を監視するアッセイを実施することもできる。
【0087】
水酸化を定量するための様々な方法が当技術分野では知られており、これらを、本願明細書に記載及び例示する。適切な方法を使用して、基質若しくは補基質の使用、ペプチド水酸化などの生成物の発生若しくは水酸化又は非水酸化生成物により仲介されるダウンストリーム効果などにより、HIFヒドロキシラーゼの活性を定量することもできる。
【0088】
アッセイを実施して、該当アスパラギン残基又は他の部分の水酸化を直接に監視することもできる。或いは、アッセイを実施して、補因子又は補基質の欠失を監視することもできる。或いは、このようなアッセイは、例えば、HIFとp300との相互作用又はHIF仲介転写を監視することにより、HIFの水酸化のダウンストリーム効果又は実際に、HIFの水酸化の阻害を監視することもできる。或いは、HIF調節プロモーターにより駆動されるレポーター遺伝子構成物を使用することもできる。HIFアスパラギンヒドロキシラーゼの活性のエンハンサーを同定するためのアッセイも提供する。このようなエンハンサーを使用して、HIFα活性を減らすこともできる。
【0089】
一実施形態では、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼの適切な基質を提供する。これは、HIF−α又は、CAD領域を含有するか、HIF−1αのAsn803に相当する残基を含むその断片であってもよい。基質は、Asn803位で当初は水酸化されていなくてもよい。合成ポリペプチド基質を用意するか、或いは細菌細胞、昆虫細胞若しくは哺乳動物細胞又はin vitro転写及び翻訳系でHIF−αポリペプチドを製造することにより、これは達成することができる。或いは、アッセイが経過する間に、当初は非水酸化形態で基質が生じるように選択された時間経過にわたって、アッセイを実施することもできる。
【0090】
基質、酵素及び可能性のある阻害剤化合物を、阻害剤の不在下にAsn803の水酸化をもたらす条件下にインキュベーションして、基質の水酸化を定量することにより、阻害剤の効果を定量することができる。適切な手段により、これを達成することができる。少量のポリペプチド基質を回収して、質量分析又はクロマトグラフィーなどの物理的分析か、或いはp300に結合しうる(又はp300からのリポーター分子を置換する)可能性などの機能的分析に掛けることができる。当技術分野などで、このような方法は知られており、通常の技術及び知識を使用して実施することができる。定量は、量的でも、質的でもよい。いずれの場合にも、但し、特に後者では、適切な対照、例えば、可能性のある阻害剤なしにインキュベーションした基質と比較して、質的定量を実施することができる。
【0091】
この方法で同定された阻害剤化合物を回収して、薬剤組成物として処方することができる。
【0092】
本発明によるアッセイは、p300とHIFとの相互作用に関して監視することを伴ってもよい。HIFとp300との相互作用は、HIFの水酸化により仲介される。HIFの存在によりアップレギュレーション又はダウンレギュレーションされることが知られている遺伝子の転写及び発現を監視することができるであろう。特に、HIF調節遺伝子のアップレギュレーションにより、アスパラギン水酸化の阻害が証明される一方で、ダウンレギュレーションは、アスパラギン水酸化の増大又は促進を示唆している。
【0093】
別の実施形態では、リポーター構成物を提供することができ、その際、HIFにより仲介されるプロモーターが、リポーター遺伝子に操作可能に結合されて提供される。例えば、酵素などの適切なリポーター遺伝子を使用することができ、次いでこれを、比色、蛍光、蛍光共鳴又は分光アッセイで使用することができる。
【0094】
HIFアスパラギンヒドロキシラーゼは、2OG依存性オキシゲナーゼである。本願明細書に記載のアッセイ方法では通常、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼ及びヒドロキシラーゼの基質を、2−オキソグルタレート(2OG)などの補基質の存在下に接触させる。HIFヒドロキシラーゼのヒドロキシラーゼ活性は、補基質の代謝回転を定量することにより定量することができる。水酸化基質又はコハク酸などの反応生成物の存在及び/又は量を定量することにより、これを達成することができる。生成物の量を、基質の量に相対させて定量することができる。通常、このような実施形態では、基質は、HIF−αポリペプチドであってよいか、例えば、測定される生成物は、水酸化HIF−αポリペプチドであってよい。
【0095】
或いは、終点定量は、HIFα又はHIFαに由来するペプチド断片(合成及び組換えペプチドを含む)の検出可能な生成物への変換をベースとしてよい。ペプチドを、アッセイが簡略化されるように改変して、アッセイを、迅速に実施し、高処理量スクリーニングに適しているようにすることができる。
【0096】
例えば、逆相HPLC(C−18オクタデシルシランカラム)を使用して、HIFヒドロキシラーゼのための出発合成ペプチド基質とアスパラギン水酸化生成物とに分けることができる。それというのも、後者は、カラム中で比較的短い保持時間を有するためである。HIFヒドロキシラーゼ活性に関するこのアッセイ又は別のアッセイの改変は、例えば、当技術分野でよく知られている質量分析技術、分光技術及び/又は蛍光技術を使用することができる(Masimirembwa C.ら、Combinatorial Chemistry & High Throughput Screening(2001年)4(3)245−263、Owicki J.(2000年)J.Biomol.Screen.5(5)297−305、Gershkovich Aら(1996年)J.Biochem.&Biophys.Meths.33(3)135−162、Kraaft G.ら(1994年)Meths.Enzymol.241 70−86)。蛍光技術では、分光又は蛍光アッセイを実施又は最適化するように改変された基質バージョンを使用することもできる。
【0097】
例えば、HIFαポリペプチドを、例えばビーズ又はプレート上に固定化し、アスパラギン803が水酸化される場合と、残基が水酸化されない場合とで異なる親和性を有するHIFαのCAD結合領域と結合する抗体又は他の結合分子を使用して、適切な残基の水酸化を検出することができる。当技術分野でよく知られている標準的な技術により、例えば、水酸化HIFαペプチドを使用して、このような抗体を得ることができる。
【0098】
適切な標識の存在を定量することを含んでもよい当技術分野の専門家が利用可能な技術を使用して、HIFαポリペプチドの水酸化形態と非水酸化形態とを識別する分子の結合を評価することができる。
【0099】
本発明のアッセイ方法は、in vivoアッセイの形態をとってもよい。in vivoアッセイは、該当するポリペプチド又はペプチドが細胞中に導入された1個又は複数のベクターから発現される酵母株などの細胞系で行うこともできる。
【0100】
in vivoアッセイ
in vivoで行われる細胞ベース、臓器ベース又は全動物アッセイを使用して、アッセイを実施することもできる。このようなアッセイは、HIFヒドロキシラーゼヌクレオチド及び/又はポリペプチドの内生発現を利用することができる。本発明の他の形態では、特異的な内生HIFヒドロキシラーゼのアップレギュレーションを、その発現の刺激物質により達成することができる。このような刺激物質は、特異的なHIFアスパラギンヒドロキシラーゼをアップレギュレーションする成長因子又は化学物質であってよい。アッセイの他の形態では、ヌクレオチド構成物を細胞又はトランスジェニック動物に導入して、1種又は複数の特異的HIFアスパラギンヒドロキシラーゼの産生を増大させることができる。
【0101】
p300と複合化したHIFは、前記HIF複合体により調節される内生遺伝子のプロモーター及び/又はエンハンサーに存在する低酸素応答要素を活性化させる。このような低酸素応答要素を単離して、処理によってリポーター遺伝子に結合させて、リポーター遺伝子又はその生成物の検出及び/又は定量を介してHIF複合体の活性をアッセイすることができる。したがって、本発明の別の形態では、HIF結合低酸素応答要素に機能的に結合している内生遺伝子又はリポーター遺伝子の発現に対するHIF複合体の効果を測定することにより、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼにより調節されるHIF−αポリペプチドの活性をアッセイする。こうして調節される内生遺伝子の例は、遺伝子発現の低酸素誘導でのアリール炭化水素核トランスロケーター(ARNT)の役割に見られるはずである。例えば、「ARNT欠失細胞の研究(Studies in ARNT−deficient cells)」、S.M.Wood,J.m.Gleadle,C.W.Pugh、O.Hankinson,P.J.Ratcliffe.Journal of Biological Chemistry 271(1996年)15117〜15123及び「腫瘍随伴炭酸脱水酵素の低酸素誘導発現(Hypoxia inducible expression of tumor−associated carbonic anyhydrases)」,C.C.Wykoff,N.J.P.Beasley,K.J.Turner,J.Pastorek,A.Sibtain,G.D.Wilson,H.Turley,K.Talks,P.H.Maxwell,C.W.Pugh,P.J.Ratcliffe,A.L.Harris.Cancer Research 60(2000)7075−7083参照。例には、これらに限られないが、グルコーストランスポーターアイソホーム1、ホスホグリセレートキナーゼ1、炭素アンヒドラーゼアイソホーム9、血管内皮成長因子が含まれる。前記各遺伝子は、1つ又は複数の低酸素応答要素を含有し、これは、単離して、1回又は複数回のコピーとして、HIFヒドロキシラーゼの活性に従い変化するHIF−αポリペプチドの活性を測定するためのリポーター遺伝子に処理により結合することができる。
【0102】
HIFヒドロキシラーゼの活性に従いHIF−αポリペプチドにより調節される遺伝子又は遺伝子産物の活性は、細胞、臓器及び動物生理に影響を及ぼす。HIFヒドロキシラーゼの活性によるHIF−αポリペプチドの活性に従い調節される特異的機能応答を利用するアッセイを使用することもできる。このような応答には、代謝されないグルコース又はグルコース類似体の摂取率、血管形成による血管の成長、炭酸脱水酵素の活性が含まれる。細胞又は全身レベルで作用する多くの他の応答が、HIFヒドロキシラーゼの活性によるHIF−αポリペプチドの活性により制御され、本発明の更なる態様での前記HIFヒドロキシラーゼ活性のアッセイとして利用することもできることが理解される。
【0103】
HIFヒドロキシラーゼのための基質であるHIF−αポリペプチドは、他のポリペプチドに縮合して、縮合ペプチドの活性を調節する前記HIFヒドロキシラーゼの活性をもたらしてもよい。したがって、本発明の他の形態では、縮合ポリペプチドの活性のアッセイを提供する。好ましい形態では、このような縮合ポリペプチドは、具体的にはAsn803又はCAD領域を含むHIF−αポリペプチドの全体又は一部を含有してもよい。アミノ酸1〜143と共にGal結合アップストリーム活性化配列(UAS)を含有するGal4DNA結合領域は、このような転写因子及び同源のDNA応答要素の例であり、その作用は、当技術分野の専門家であれば、アッセイすることができる。
【0104】
選択性
単一のターゲットとして、又は選択されたヒドロキシラーゼ群で、さらにはファミリー全体で、HIFアスパラギンヒドロキシナーゼの選択性を調節することも有利である。したがって、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼ活性を調節する薬剤は好ましくは、特異的である。即ち、これらは、他の2OG依存性オキシゲナーゼに対してよりも、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼに対して高いか強い作用を有する。
【0105】
したがって本願明細書に記載のアッセイ方法は、試験化合物と1種又は複数の2OG依存性オキシゲナーゼとを、前記2OG依存性オキシゲナーゼが正常に活性である条件下に接触させ、前記オキシゲナーゼの活性を定量することをさらに含んでもよい。試験化合物が存在する場合と不在な場合とでの活性の差異は、その試験化合物が、1種又は複数の2OG依存性オキシゲナーゼの活性を調節することを示している。
【0106】
1種又は複数の2OG依存性オキシゲナーゼに対して、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼの高いか強い調節をもたらす試験化合物は、HIFヒドロキシゲラーゼに対する選択性又は特異性を示す。
【0107】
2OG依存性オキシゲナーゼには例えば、クラバミンテ(clavaminte)合成酵素、Alk BデアセトキシセファロスポリンC合成酵素、コラーゲン−プロリル−4−ヒドロキシラーゼ、コラーゲンプロリル−3−ヒドロキシラーゼ、リシルヒドロキシラーゼ、アスパルチルヒドロキシラーゼ、フィタノイルコエンザイムAヒドロキシラーゼ又はガンマ−ブチロベタインヒドロキシラーゼが含まれうる。2OG依存性オキシゲナーゼは、哺乳動物、好ましくはヒトポリペプチドであってよい。
【0108】
本発明は、低いHIF活性を伴う状態を治療するための薬剤を製造する際にこのようなHIFアスパラギンヒドロキシラーゼの選択的阻害剤を使用することを提供する。
【0109】
治療用途
HIFアスパラギンヒドロキシラーゼのヒドロキシラーゼ活性に影響を及ぼしうることが判明している化合物、物質又は薬剤、或いはFIH阻害剤と本願明細書で称されている化合物は、多くの状況で治療的及びその他の可能性を有する。治療処置では、このような化合物を、他の活性な物質と組み合わせて、例えば、抗腫瘍治療では他の抗腫瘍化合物若しくは放射線療法又は化学療法などの治療と組み合わせて使用することができる。
【0110】
1種又は複数の一次スクリーニングを使用して(例えば、無細胞系)、HIFヒドロキシラーゼのHIFαアスパラギン水酸化活性を調節しうると同定された薬剤を、1種又は複数の二次スクリーニングを使用してさらに評価することができる。二次スクリーニングは、例えば、薬剤が不在の場合に対して薬剤が存在する場合に細胞に存在するHIFターゲット遺伝子又はプロセスのレベルにより明らかなHIF−α又はHIF活性の量の増減を試験することを含む。
【0111】
抗体などの他の活性薬剤と組み合わせた場合を含む、全長ポリペプチド又はその断片或いは改変されたポリペプチド(例えば、安定性を高めるためか、ターゲッティングを保証するための)での処置を含む治療で、HIFヒドロキシラーゼ又はHIFポリペプチドを使用することができる。例えば、Asn803を別のアミノ酸残基に代えるためのHIF−1αの変異により、水酸化を防いで、HIF−αとp300との相互作用を促進し、転写活性を刺激する。
【0112】
通常、本発明による修飾物質である薬剤、化合物又は物質は、単離及び/又は精製された形態、即ち実質的に純粋な形態で提供される。これは、活性成分少なくとも約90%、さらに好ましくは少なくとも約95%、さらに好ましくは少なくとも約98%である組成物であることを含む。しかしながらこのような組成物は、活性薬剤の正確な輸送、放出及び/又は安定化のために必要なものなどの不活性な担体材料又は他の薬学的若しくは生理学的に許容できる賦形剤を含んでもよい。通常、このような組成物中での濃度は、組成物の重量に対して0.1から50重量%、通常は0.5〜20重量%、特に1から10重量%である。前記ように、本発明による組成物は、開示されている修飾物質化合物に加えて、抗腫瘍薬剤などの治療用途の1種又は複数の他の分子を含有してもよい。
【0113】
本発明のアッセイにより得られた生成物
本発明はさらに、本発明の方法により得られたか、同定された化合物及び、この化合物が薬学的に許容できる担体又は希釈剤と混合されている薬剤組成物などの前記化合物を含有する組成物を提供する。担体は、液体、例えば、生理食塩水、エタノール、グリセリン及びこれらの混合物又は固体、例えば、錠剤の形態で、又はデポー処方物として処方されたゲルなどの半固体形態で、又は経皮パッチなどの経皮投与可能なビヒクルであってよい。
【0114】
本発明はさらに、HIFヒドロキシラーゼによるHIFαポリペプチドのアスパラギンターゲット残基の水酸化を妨害する薬剤を患者に投与することを含む治療法を提供する。このような薬剤は、アスパラギンヒドロキシラーゼ活性の阻害剤を含んでもよい。さらに本発明は、前記で定義された化合物を患者に投与することを含む治療法を提供する。
【0115】
治療/予防目的は低いか、最適以下か、高いHIFレベル又は活性を伴う状態或いはHIFレベルは正常だが、HIF活性を増大又は低減するなどのHIF活性の調節が望ましい状態を治療することに関連してよい;例えば:
(i) 虚血状態、例えば、冠状、脳血管及び末梢血管不全を含む臓器虚血。治療を2つの方法で適用することができる;明らかな組織損傷、例えば、心筋梗塞の後に(組織損傷を限るために)、又は虚血を予防するために、例えば、アンギナを治療する際に冠状側枝を促進するために予防的に。
(ii) 創傷治癒及び臓器再生。
(iii) 自己−、同種及び異種移植。
(iv) 全身血圧。
(v) 癌;HIFαは普通、腫瘍細胞ではアップレギュレーションされ、腫瘍成長及び血管形成に主な作用を有する。
(vi) 炎症性疾患。
(vii) 肺動脈圧、神経変性疾患。
【0116】
ヒト、臓器及び細胞群でのHIFプロリルヒドロキシラーゼ活性の調節は、治療効果を得るための様々な方法で活用することができる:
(a) 非細胞自律:細胞は、他の細胞にシグナルを送る物質の産生に影響を及ぼすためにHIF系を使用する。これらのシグナルは、(i)遠隔部位で(例えば、エリスロポイエチンは骨髄に作用する)又は(ii)局所で(血管由来成長因子は、血管の局所形成を増大する)作用を有しうる。したがって、ヒドロキシラーゼ活性を調節することを介しての非細胞自律行動の操作は、貧血並びに例えば眼、脳、心臓及び肢での局所虚血の治療で役立つ。生理的安定性の態様に関与する多くの他のシグナルは、HIF活性化により調節されうるか、調節されることが知られている。したがって、HIFプロリルヒドロキシラーゼ活性の調節を使用して、治療効果に対して有用な応答を強化又は開始するか、有害な応答を予防又は緩和することができる。例えば、この手法を使用して、食欲或いは全身又は肺床での血圧を変更することができる。
【0117】
(b) 細胞自律:細胞代謝、分化に関する決定、増殖及びアポトーシスを調節するためにも、細胞は、HIF系を使用する。したがって、HIF系の操作を使用して、細胞の生存及び行動を変更することができる。例えば、虚血組織で、HIF活性を増大させることにより、細胞生存を増大させることができる。この手法を使用して、糖尿病が改善されるように膵臓β細胞生存を改善する際に、又はパーキンソン病、運動ニューロン疾患若しくは痴呆の形態でのニューロン群又は複数の群の生存又は機能を改善する際に使用することができる。別の手法では、HIFシグナルを操作して、細胞群の増殖を予防するか、その死又は分化を促進することができる。例えば、悪性腫瘍でのHIF系の一時的な活性化を使用して、腫瘍細胞のかなりの数の死を惹起することができる。
【0118】
薬剤組成物
様々な他の態様では、本発明は、HIFアスパラギンヒドロキシラーゼ阻害剤を含む1種又は複数の前記薬剤、化合物又は物質或いは1種又は複数の式(A)から(F)の化合物又はその誘導体を含有する本明細書に記載の、このような目的のための薬剤組成物、薬剤、薬物又は他の組成物、医学的治療法でのこのような組成物の使用、例えば、前記ような医学的状態を治療(予防的治療も含んでよい)するためにこのような組成物を患者に投与することを含む方法、このような目的で、例えば、前記ような状態を治療するために投与するための組成物、薬剤又は薬物を製造する際のこのような薬剤化合物又は物質の使用、並びにこのような薬剤、化合物又は物質と薬学的に許容できる賦形剤、ビヒクル又は担体及び場合によって他の成分とを混合することを含む薬剤組成物を製造する方法を提供する。
【0119】
一実施形態では、薬剤組成物を供給する方法は通常:
(a) 本発明に従い薬剤を同定すること;及び
(b) こうして同定された薬剤を薬学的に許容できる賦形剤と処方すること
を含む。
【0120】
薬剤は、単独の活性薬剤としても、又は1種の他の若しくはいずれかの他の活性物質、例えば、抗腫瘍治療では他の抗腫瘍化合物或いは放射線療法又は化学療法などの治療と組み合わせて使用することもできる。
【0121】
本発明の医学的治療の方法で使用される薬剤であれば、投与は好ましくは、個人に利益を示すに十分な「予防有効量」又は「治療有効量」(場合によっては、予防も、治療と考えられうる)である。投与される実際量及び速度及び投与時間経過は、治療される対象の性質及び重度に左右される。治療の処方、例えば、投与量の決定などは、一般的な開業医及びその他の医師の責任の範囲内である。
【0122】
薬剤又は組成物は、単独で又は他の治療と組み合わせて、例えば、前記ような治療される状態に応じて同時に又は連続して投与することができる。
【0123】
本発明による薬剤組成物及び本発明に従って使用するための薬剤組成物は、活性成分の他に、当技術分野の専門家によく知られている薬学的に許容できる賦形剤、担体、緩衝剤、安定剤又は他の材料を含有してもよい。特にこれらは、薬学的に許容できる賦形剤を含有してもよい。このような材料は、非毒性であるべきであり、活性成分の有効性を妨害すべきではない。担体又は他の材料の正確な性質は、経口によるか、皮膚、皮下又は静脈内注射によってよい投与経路に左右される。組成物は通常、無菌である。
【0124】
経口投与のための薬剤組成物は、錠剤、カプセル、粉末又は液体形態であってよい。錠剤は、ゼラチン又は助剤などの固体担体を含有してもよい。液体薬剤組成物は通常、水、石油、動物油、植物油、鉱油又は合成油などの液体担体を含有する。生理学的食塩水、デキストロース又は他の糖類溶液若しくはエチレングリコール、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールなどのグリコールが含まれていてもよい。
【0125】
静脈内、皮膚又は皮下注射又は病気の部位での注射では、活性成分は、発熱物質不含であり、適切なpH、等張性及び安定性を有する薬学的に許容できる水溶液の形態である。当技術分野の該当する専門家であれば、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンガー液、乳酸加リンガー液などの等張性ビヒクルを使用して適切な溶液を調製することができる。防腐剤、安定剤、緩衝剤、酸化防止剤及び/又は他の添加剤が必要に応じて含まれていてもよい。
【0126】
リポソーム、特に、カチオン性リポソームをキャリヤ処方物中で使用することができる。前記技術及びプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th edition,Osol,A.(ed),1980年に見ることができる。
【0127】
物質又は組成物は、局所的に特定の部位に投与することもできるし、特定の細胞又は組織をターゲットとする方法で、例えば、動脈内ステントベース輸送を使用して輸送することもできる。
【0128】
ターゲッティング治療を使用して、抗体又は細胞特異的リガンドなどのターゲッティング系を使用することにより、活性物質をより特異的に、一定のタイプの細胞に輸送することができる。様々な理由で、例えば、薬剤が許容できない毒性を有する場合、又はそうしなければ、必要な投与量が多すぎる場合、又はそうしなければターゲット細胞に侵入することができない場合に、ターゲッティングが望ましくなりうる。
【0129】
さらなる実施形態では、本発明は、高いか低いHIFレベル又は活性を伴う状態を治療するための薬剤を製造する際に本発明の薬剤の使用を提供する。状態は例えば、虚血、創傷治癒、自己、同種及び異種移植、全身性高血圧、癌及び炎症性疾患からなる群から選択することができる。
【実施例1】
【0130】
水酸化されるヒトHIF−1αのAsn803での位置を、次に記載するように同定した。FIH−1をコードするcDNA配列を、pET28a(+)ベクター(Novagenから)内でクローニングして、精製を容易にするためのN−末端Hisタグを有するFIH−1タンパク質を得た。ニッケル親和性クロマトグラフィーによる粗製材料の精製、それに続くHisタグのトロンビン分離及びサイズ排除クロマトグラフィー(SuperdexS75)により、SDS−PAGE分析によると>95%純粋なタンパク質が得られた。質量分析により、単離された種の同一性が確認された。アスコルベート、DTT、カタラーゼ、2−オキソグルタレート及び鉄(II)の存在下に、FIH−1 FIH(Hewitsonら、J BIOL CHEM 277(29):26351−26355、2002年)と共に37℃で30分間、好気インキュベーションすることにより、ヒトHIF−1αのアミノ酸788〜806を含有する19残基ペプチドを改変した。4℃に冷却し、等容量のメタノールを加えることにより、反応をクエンチした。遠心分離により沈殿物を除去し、Jupiter C4カラム(15cm×4.6mm)を使用するHPLCにより、上澄みを精製した。0.1%トリフルオロ酢酸中のアセトニトリルの勾配を使用して、ペプチドを溶離し、アミノ酸及び質量分析のために、HPLC溶剤から凍結乾燥させた。NMR分析のための調製の際に、試料をDOから2回凍結乾燥させた。
【0131】
HIF−1αの残基788〜806に対応する合成19残基ペプチドの触媒FIH−1仲介水酸化を、HPLC精製された材料の質量分析により確認した:天然ペプチド19マー[M+2H]2+=1026.67Da、改変ペプチド19マー[M+2H]2+=1034.61Da、ペプチド中+16Daに対応する(酸素)、二重に荷電されたイオンの+8Daの質量差異。生成物ペプチドのN末端エドマン分解により、次の配列が得られた:DESGLPQLTSYDCEVxA(式中、xは、アスパラギンではない)。エドマン分解のこの(16)サイクルからのピークは、β−ヒドロキシアスパラギン標準と同じ位置まで達した。改変ペプチドの酸加水分解、それに続くアミノ酸分析により、β−ヒドロキシアスパラギン酸の存在だけが示された。
【0132】
19マーペプチド基質とHPLC精製されたインキュベーション生成物とのH及び13C両方の化学シフト変化を、2D H−13C HSQC実験により評価した。基質で、4種のβ−CH共鳴の組み分けを、H及び13CシフトによりAsp−1、Tyr−11、Asp−12及びAsn−16に属するものとして分けた(Evans,J.N.S.(1995年)Biomolecular NMR Spectroscopy,Oxford University Press,Oxford,UK)。生成物では、2D HSQC及び1Dプロトンスペクトルから、これら4種の共鳴のうちの3種のみが存在することが明確であった。これら2つのスペクトルの比較により、Asn−16β−炭素に該当するシグナル(基質ではδH2.813及び2.695ppm及びδC37.40ppm)は消滅することが判明し、これは、そのβ−炭素の所のアスパラギン残基の水酸化と一致した。2つのアスパラギン酸残基による共鳴は、おそらくプロトン付加状況の変化により若干シフトし、基質ではアスパラギンのβ−プロトンと同じH化学シフトで生じる。2種の試料でのシステインの酸化状態の差異は、システイニルβ−炭素及び水素でほぼ同一の化学シフトによるものではないようである。水酸化された残基のβ−水素での二重の二重項から単一の二重項への変化も可能性を除外され、NMRスペクトルで観察される変化は、凝集による。生成物スペクトルに2つの新たな共鳴が、δH4.913ppm及びδC56.26ppmで、さらにδH4.654ppm及びδC72.22ppmで生じた。これらの共鳴は、2D COSYスペクトルでは相互に関連しており、2.4HzのH−H結合定数を共有するので、水酸化アスパラギンのCHα−CHβと指定される。これらの共鳴の出現も、基質スペクトルで観察されたδH4.706ppm及びδC51.43ppm共鳴の消失と一致し、したがってこれが、改変前の親アスパラギンのCHαとして指定される。水酸化Asn−803で観察された2.4HzのCHα−CHβ結合定数と文献値との比較は、トレオ異性体が生じたことを示していた。
【0133】
前記NMR実験をまとめると:HSQC実験により、ターゲットアスパラギンのβ−炭素で生じる水酸化の直接的な証拠が得られ、その際、水酸化されたβ−炭素は、著しい脱シールド(deshielded)(72.22ppmで)を示し、隣接するα−炭素は、親アスパラギンに比較してより少ない規模で脱シールドした(56.26ppmで)。13C化学シフトでのこれらの規模の変化は、側鎖窒素の水酸化と一致しないが、β−炭素での水酸化と一致する。さらに、遊離DL−トレオ−β−ヒドロキシアスパラギンの13Cスペクトルは(この研究)、α−及びβ−炭素に対応する58.63ppm及び73.85ppmで共鳴を有する。生成物指定は、カルシウムが存在しない場合には、それぞれ4.48ppm及び4.36ppmである(4.75ppmでの水に対して)EGF様領域でのβ−ヒドロキシアスパルチル残基でのα−及びβ−水素のH−NMR化学シフトとも一致する(Selanderら、Biochemistry29、8111〜8118)。ここで報告されている結合定数の分析は、トレオ−異性体は、FIH−1によるAsn−803の水酸化で生じたものであることを示している。
【0134】
2つの報告(Damesら、(2002年)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,52715276;Freedmanら(2002年)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99、53675372)により、HIF−1αのAsn−803のβ−水酸化がどのようにして、p300との複合体形成にダメージを与えるかを示している。水酸化の位置は、いずれの報告でも同じではないが、いずれも、β−炭素のプロ−S位での、つまり、トレオ(2S、3S)−異性体をもたらす水酸化は、HIF−1αの一部がとるα−らせん配座を維持し、ヒドロキシル基のエネルギー的に好ましくない脱溶媒に対する必要性をもたらす水素結合を妨害するであろうことを示している。挿入されたプロ−Sヒドロキシル基及びp300のIle−353(Damesら(2002年)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,52715276からのナンバリング)との間の立体クラッシュは、これら2つのタンパク質の相互作用を中断する。おそらく、同じメカニズムを使用して、HIF−2αとp300との相互作用を排除することもできる。Asn−803のβ位置が改変されるという発見及び随伴するメカニズムの示唆を、p300に結合して、HIF−αに代替する化合物を設計する際に、及びFIHの阻害剤を設計する際に使用することができる(下記参照);いずれの場合にも、前血管形成薬剤が可能となる。
【実施例2】
【0135】
CAD又はFe(II)を酸化させることなく、X線分析に適したFIH:CAD複合体を得るために、FIH及び7〜52残基の様々なCAD断片をFe(II)及び2OGと共に嫌気性条件下に同時結晶化させた。Fe(II)及びN−オキサロイルグリシン(NOG、FIH阻害剤)、(嫌気性)及びZn(II)及びNOG(好気性)と複合化したFIHでの構造も得た。セレノメチオニン置換アポ−FIHでの多重異常分散により得られたモデルを使用して、これらの構造を、分子置換により解明した。CAD786−826、Fe(II)及びNOG又は2OG(構造1及び2、表1)、CAD775−826とZn(II)及びNOG(構造3)で、結晶質FIH:CAD複合体を得た。CAD787−806、CAD850−862(HIF−2α、HIF−1αCAD802−814に等しい)及びCAD800−806との結晶化の試みは、FIH:CAD複合体をもたらさなかった;溶解分析により、20残基よりも短いCAD断片は、in vitro基質では有効ではないことが示された。
【0136】
【表1】

【0137】
構造作業で使用される方法
タンパク質発現、精製及び結晶化
FIH、CAD775−826及びCAD786−826を記載されているように調製した(Hewitsonら、J BIOL CHEM 277(29):26351−26355、2002年)。代謝阻害プロトコル及びL−セレノメチオニン50mg/lを補足されているLeMaster培地を使用して、セレノメチオニン(SeMet)置換されているFIHを製造した。SeMet導入は、ESI−MSによると>95%であった。SeMet FIHの好気性結晶化(11mg ml−1で)を懸滴蒸気拡散により17℃で達成した。母液は、1.2Mの硫酸アンモニウム、4%のPEG400及び0.1MのHepes pH7.5からなった。Belle Technologyグローブボックス中、アルゴンの嫌気性雰囲気下(O0.3〜0.4ppm)に、FIH(11mg ml−1で)、Fe2+(1mM)、2OG/NOG(2mM)及びCAD断片(1mM)を含有する同じ母液及び溶液を使用して、FIH:Fe:CAD断片複合体の結晶化を行った。FIH:Zn:CAD断片の結晶化を、同じ条件下に好気性で行った。ペプチドを、固相ペプチド合成により合成するか、Biopeptide Co.(サンディエゴ、米国)から購入した。
【0138】
結晶データ収集及び構造精密化
液体窒素に入れて結晶を冷凍し、窒素流を使用して100KでX線データを集めた。1.2Mの硫酸アンモニウム、3%のPEG400、0.1MのHepes(pH7.5)及び10%、続いて24%のグリセリンを含有する溶液に連続して移すことにより、凍結保護を行った。三波長多重異常分散(MAD)データセットを、Synchrotron Radiation Source,Daresbury,U.K.のビームライン14.2で2.9Å分解能まで集めた。FIH:CAD複合体の結晶からのデータを、ADSC Quantum4(14.2及び9.6)又はMarCCD検出器(9.5)を使用して、ビームライン14.2、9.6又は9.5で集めた。全てのデータを、プログラムMOSFLM及びCCP4スートを使用して処理した[Collaborative Computational Project Number 4 Acta Crystallogr.D50,760〜763(1994年)]。結晶は、スペース群P42に該当した。6個のセレニウム位を定め、プログラムSOLVEを使用して相を算出した(Terwilligerら、D55、849〜861、1999年)。RESOLVEを使用して、0.56から0.66へとメリットの数値を高める密度改変を行った(Terwilliger Acta Crystallogr.D56、965〜972、2000)。
【0139】
プログラムO(Jonesら、Acta Crystallogr.A47,110−119、1991年)を使用して、当初モデルを構築し、プログラムCNS(Brunger Acta Crystallogr.D54,905〜921、1998)を使用して、SeMetデータ(遠隔波長)を再び精密化した。シミュレートされたアニーリング、それに続くグループ化されたβ因子の精密化の1サイクルにより、Rfreeを36.2%にした。Rfreeを32.3%にするさらなる再構築及び精密化の後に、モデルを、2.15Åデータセットに移した。Fe、基質及び溶剤分子を加えることを含むREFMAC5を使用する再構築及び精密化並びにTLSパラメーターの精密化により、慣用のR因子を17.8%に、Rfreeを21.3%にした。次の残基は、このモデルでは省かれている:FIHの1〜15及び304〜306、CAD断片の786〜794、807〜811及び824〜826。PROCHECKによると、ラマチャンドラン異常値は存在せず、残基の90.7%が、ほぼ好適な主鎖配座を有する。CADペプチドでは、残基の77.8%が、最も好適な領域に存在し、残りの22.2%は、付加的に許される領域に存在する。
【0140】
2.15Åデータからの座標を使用する分子置換及びREFMAC5を使用する精密化により、他の構造を解明した。全ての構造で、Fe及び2OG/NOGでの電子密度を、精密化を介して可視化した。鉄とCAD Asn803β−炭素との間に、著しい明確な電子密度差が観察された。FIHとCADとのB因子差は、CADが100%占有ではないことを示しているので、このことは、基質不在下での1−カルボキシレート2OGに関する別の結合モードを表しているが、これは、基質不在下でも水分子結合によるものでありうる。
【0141】
FIH構造の概観
FIHの核は、8本のβ鎖、β8〜β11及びβ14〜β17から生じる二本鎖βらせん(DSBH又はジェリーロール)モチーフを含む。残基220〜259は、DSBHの鎖4及び5の間の挿入物を形成する。DSBHの底面は、N−末端領域からの付加的な4本のβ鎖と並んで、8員の逆平行βシートを形成する。N−末端鎖β1は、活性部位とは逆のDSBHの面を二分する。このβ1鎖は、β14とβ2とのその相互作用の間に、PXXP配列に位置する360°ねじれを有する。同様に位置するβ鎖は、常にタンパク質の同じ領域からではないが、大抵の2OGオキシゲナーゼに存在する。β1、α1及びβ2により生じるシート−らせん−シートモチーフは、プロリン3−ヒドロキシラーゼを除くこの群の全ての酵素で保存されており、この領域の同様のフォールドが、関連するCu(II)利用クエルセチン2,3−ジオキシゲナーゼ(QD)で判明している(Fusettiら、STRUCTURE10(2):259〜268、2002年)。FIHのトポロジーにより明白に、これは、既にQD及びMn(II)利用タイプIIホスホマンノースイソメラーゼを包含するクピン(cupin)構造ファミリーの鉄結合員と定義される(Clissold,P.M.,及びPonting,C.P.(2001年)Trends Biochem.Sci.26,79)。
【0142】
FIHに関連する酵素
FIHは、jumonji転写因子のJmjCホモロジー領域と著しい配列相似性を有する(Clissold,P.M.,及びPonting,C.P.(2001年)Trends Biochem.Sci.26,79;Hewitsonら、J BIOL CHEM277(29):26351−26355、2002年)。これらのタンパク質は、クピン構造スーパーファミリーのメンバーであり、細胞成長及び心臓の発達に関している。2OGオキシゲナーゼ鉄結合残基は、幾つかのJmjC領域に同定されるが、鉄結合モチーフとしては指定されていない。FIH構造に関する配列探索により、このモチーフと、2OGの5−カルボキシレートの結合に著しく関与するFIH残基Lys214及びThr196との両方を含有する保存残基を有する多くのJmjCタンパク質が明らかになる。こうして、構造によって、FIHは、転写の調節に関与する鉄及び2OG依存性オキシゲナーゼの大きなファミリーのうちの1つであることが明らかになる。FIH以外の指定されたJmjC領域のうちの幾つかは、疾患及び特定の表現型に随伴するので、その(例えば)阻害は、治療的に有効でありうる(例えば、Huら、ONCOGENE 20(47):6946〜6954OCT18 2001年及びClissold,P.M.,及びPonting,C.P.(2001年)Trends Biochem.Sci.26,79及びその参照文献参照)。
【0143】
表2。タンパク質を含有するJmjC領域の選択を伴うFIHの部分配列アラインメント。FIH二次構造は、アラインメントの上に示されている。FIH中に存在する選択された2OG結合残基は、アラインメント下の濃い色の三角で、2個の鉄結合残基は薄い色の三角で示されている。SWALL受入番号は、アラインメントの左側に示されている。
【0144】
【表2】

【0145】
【表3−1】


【表3−2】


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【表3−237】

【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】2OG結合部位を示す図である。
【図2】Asn−803の結合を示す図である。
【図3】サイト1でのCADの配座を示す図である。
【図4】サイト2でのCADの配座を示す図である。
【図5】FIHの活性部位でHIF−CADの802〜804により生じる回転を示す図である。
【図6】FIHの活性部位でHIF−CADの残基802〜804により生じる回転の配座を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FIHを模倣するか、それに結合する化学実体を同定、スクリーニング、特性決定又は設計する方法であって、FIHの構造モデルと、前記化学実体の構造モデルとを比較することを含み、FIHの前記構造モデルは、FIHを含有する結晶をX線回折測定に掛けることにより決定された構造因子又は構造座標に由来する方法。
【請求項2】
化学実体を同定、スクリーニング、特性決定、設計又は改変するための、FIHを含有する結晶をX線回折測定に掛け、前記回折測定から構造座標を推測することにより得られる構造座標の使用。
【請求項3】
前記構造座標が、表3に示されているものである、請求項1又は2に記載の方法又は使用。
【請求項4】
前記化学実体は、FIHに結合する、前記請求項のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項5】
前記化学実体は、FIHのアスパラギニルヒドロキシラーゼ活性を阻害するために選択されている、前記請求項のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項6】
前記化学実体を、HIF又はその断片或いはアスパラギン803を包含するいずれかの同族体と共に、FIH又はFIHのアスパラギニルヒドロキシラーゼ活性を維持しているその同族体と接触させ、アスパラギン803の水酸化を監視することをさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【請求項7】
前記化学実体は、FIHのアスパラギニルヒドロキシラーゼ活性を阻害する、前記請求項のいずれか一項に記載の使用のための方法により同定される化学実体。
【請求項8】
前記化学実体は、FIHによるHIFのアスパラギン部分803の水酸化を阻害する、請求項7に記載の化学実体。
【請求項9】
前記化学実体は、FIHの二量化を阻害する、請求項7に記載の化学実体。
【請求項10】
前記化学実体は、FIHの残基330〜346から選択されるFIHの二量化界面を形成する残基に結合する、請求項9に記載の化学実体。
【請求項11】
前記化学実体は、鉄に結合するか、Fe(II)がFIHに結合することを妨げる、請求項7に記載の化学実体。
【請求項12】
前記化学実体は、鉄に結合するチオール、アルコール、フェノール、カルボキシレート、ヒドロキサメート、イミダゾール又は他の複素環式化合物から選択される化合物である、請求項11に記載の化学実体。
【請求項13】
前記化学実体は、FIHへの2−オキソグルタレートの結合を中断させる、請求項7に記載の化学実体。
【請求項14】
前記化学実体は、N−オキサロイルアラニンのR−エンチオマー、プロコラーゲンプロリル−ヒドロキシラーゼ及びPHDアイソザイムである、請求項13に記載の化学実体。
【請求項15】
前記化学実体は、下式の(I)又は(II)の化合物である、請求項13に記載の化学実体:
【化1】


[式中、R’及びR”はそれぞれ同一又は異なって、H、F或いはCからCアルキル若しくは置換アルキル、CHOH、CHCOH又はCONHであり、Xは、COOH、SOOH若しくはCONHH又はそのエステルであるか、或いはLys−214、Thr−196及びTyr−145のうちの1つ又は複数の側鎖と好ましい相互作用をもたらす他の基であり、
Yは、−(CR’’’R’’’)Zであり、Zは、
−NR’’’COCOOH、−NR’’’CSCOOH、−NR’’’COCOSH、−CHSR’’’CONR’’’R’’’’、−CHOR’’’CONR’’’OR’’’、−CHSR’’’CONR’’’OR’’’又は−CHOR’’’CONR’’’NR’’’OR’’’であり、R’’’はそれぞれ同一又は異なって、H、アルキル、OH又はO−アルキルであり、nは、0〜3である]。
【化2】


[式中、R’’’’は、OH、OR’’’又はNHCOR’’’であり、Wは、S、NH又はOである]。
【請求項16】
前記化学実体は、FIHの残基214、196及び145での相互作用を妨害するか、2OGとFIHの残基281、186、188、207又は196との相互作用を中断する、請求項13又は15に記載の化学実体。
【請求項17】
前記化学実体は、好ましくはHIFの残基102、239又は238でのHIFの結合を妨害することにより、FIHとHIFのAsn803との結合を中断する、請求項16に記載の化学実体。
【請求項18】
HIFのCADとFIHとのサイト1結合を妨害し、FIHの102、104、106、201、202、147、239、299〜303、313、317、318、321、324、238、296又は321〜324から選択される1個又は複数の残基との静電水素結合及び/又は疎水性相互作用を利用する、請求項17に記載の化学実体。
【請求項19】
前記化学実体は、HIFのCADとFIHとの結合をサイト2で妨害し、残基149、150、151、152、159、162、163、167、181、182、183、184又は185との静電水素結合及び/又は疎水性相互作用を利用する、請求項17に記載の化学実体。
【請求項20】
前記化学実体は、下式の化合物である、請求項17に記載の化学実体:
【化3】

【請求項21】
前記化学実体は、下式の化合物である、請求項17に記載の化学実体:
【化4】

【請求項22】
前記化学実体は、下式の化合物である、請求項17に記載の化学実体:
【化5】

【請求項23】
前記化学実体は、式:
X[B]−[C]
の化合物である、請求項17に記載の化学実体
[式中、Xは、前記と同様に定義され、Bは、リンカー基であり、Cは、FIHのCAD結合部位の一部に結合する単位である]。
【請求項24】
前記化学実体は、式:
X−[B]−[E]
の化合物である、請求項17に記載の化学実体
[式中、X及びBは、前記と同様に定義され、Eは、HIFに結合する場合には、CADの一部に結合する単位である]。
【請求項25】
前記化学実体は、下式の化合物である、請求項7に記載の化学実体:
【化6】


[式中、Xは、バリン残基又はその類似体を表し、Yは、アラニン残基又はその類似体を表し、R10は、フッ素又はC〜Cアルキルであり、R11は、フッ素、C〜Cアルキル又は水素であり、或いは対応する化合物R11は存在しないか、又はR10及びR11は、メチレン基を形成する]。
【請求項26】
治療法で使用するための、請求項7から25までのいずれか一項に記載の化学実体。
【請求項27】
低いか、高いHIFレベル又は活性を伴う状態を治療するか、或いはHIF活性を調節することが望ましい状態を治療する際に使用するための、請求項7から25までのいずれかに記載の化学実体。
【請求項28】
前記状態は、虚血、創傷治癒、自己移植、同種移植又は異種移植、全身性高血圧、癌或いは炎症性障害である、請求項27に記載の化学実体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−504415(P2006−504415A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544485(P2004−544485)
【出願日】平成15年10月16日(2003.10.16)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004492
【国際公開番号】WO2004/035812
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(500189296)イシス イノベイション リミテッド (10)
【Fターム(参考)】