説明

アセチレンの選択的な水素化のためのPdを基礎とする触媒

【課題】アセチレンからエチレンへの選択的な水素化において、低温での還元後であっても高いエチレン選択性を示す、Pdの他にLa、Ti、Nb、KまたはSiを含む担持触媒、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の触媒は、担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPdとLa、Nb、Ti、KおよびSiから成る群から選択された1種または2種の金属とから成る。この触媒は、(1)担体をテトラアミンパラジウムヒドロキシドの水溶液に浸し、乾燥し、か焼し、(2)次いで、必要に応じて残りの金属前駆体の溶液に得られたPd触媒を含浸させ、乾燥し、か焼し、(3)次いで、得られた触媒を水素中で200〜600℃で1〜5時間還元することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にアセチレンからエチレンへの選択的な水素化に使用するためのPdを基礎とした担持触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナフサ分解装置の脱エタン塔の塔頂から排出されるエチレン流は、約0.5〜2.0質量%のアセチレンを含有するが、アセチレンは後続のエチレン重合の工程を妨害するため、エチレン不純物は5ppm未満に低減されるべきである。上記エチレン流におけるアセチレンの除去のために、選択的水素化が一般的な方法である。この方法には2つの重要な要因が存在する。1つめの要因は、エチレン選択性、すなわち、アセチレンの転化によって製造されるエチレンの割合である。他の要因は、反応の間のグリーンオイルの蓄積によって制限される触媒寿命である。
【0003】
アセチレンからエチレンへの選択的な水素化のために、貴金属を担持した触媒が通常使用され、特にPdを基礎とした触媒が高い活性と高いエチレン選択性を示すことが知られている。
【0004】
Bondらによると、遷移金属に関するエチレン選択性は、Pd>Rh、Pt>Ni>>Irの順に低下する(“Catalyst by metals”、Academic Press(ニューヨーク)発行、1962年、281−309頁)。
【0005】
シリカ上にPdを含浸させる触媒製造方法が、米国特許第4387258号公報に開示されており、Pd/チタニア触媒の製造方法が、米国特許第4829329号公報に開示されている。
【0006】
シリカおよびチタニアのほかに、アルミナがアセチレンの水素化に使用される触媒の担体としても一般に使用される。これらの担持触媒は、担体表面上で生じる副反応であるグリーンオイルの形成によって容易に不活性化する。このグリーンオイルが細孔を閉塞し、活性点を覆い、そのためこの現象が再生間隔および触媒寿命を短縮する。
【0007】
アセチレン水素化において、触媒寿命とともにエチレン選択性が重要である。
【0008】
BondおよびWellによると、エチレンの水素化速度がアセチレンの水素化よりも10〜100倍も速いという事実にもかかわらずアセチレンが選択的に水素化される理由は、アセチレンの吸着強度がエチレンの吸着強度よりも極めて大きいためである。従って、アセチレンとエチレンの間の水素化に競争が存在する場合には、アセチレンの水素化が支配的である。従って、触媒上での反応は表面の反応速度ではなく吸脱着速度によって大きく規制される。アセチレン、エチレンまたはプロピレンの吸着に関するPdを含む8B族の遷移金属の特性の分析によると、吸着速度は以下の順に減少し、脱離速度は逆の順に減少する:アセチレン>ジオレフィン>オレフィン>パラフィン(The Oil and Gas Journal,27,66(1972))。
【0009】
従って、アセチレンの水素化の反応物流に添加物としてジオレフィンを添加すると、エチレンの吸着を抑制することができ、その結果アセチレンをエチレンに選択的に水素化することができる。このエチレンより強い吸着速度とアセチレンより弱い吸着速度を有するジオレフィンは、調整剤と言われる。しかし、ジオレフィン自体はグリーンオイルの形成を誘発し、その上アセチレンの水素化の後の未反応のジオレフィンの分離は困難である。このため、アセチレンの水素化には、同様に調整剤として作用する一酸化炭素の方が好ましい。
【0010】
一酸化炭素によってエチレン選択性を増加させる方法は、米国特許第3325556号公報および米国特許第4906800号公報に開示されている。しかしながら、一酸化炭素もまたカルボニル化反応によりグリーンオイルの形成を誘発し、従って触媒再生間隔および触媒寿命の問題が依然として存在する。
【0011】
アセチレンの水素化における触媒不活性化の問題を解決するための添加物として、Ti促進剤が提案されており、詳細は韓国特許第2000−0059743号公報に記載されている。Pd触媒をTi化学種で修飾して500℃のような高温で還元すると、酸化チタン種が部分的に還元され、Pd表面に移動し、電子が酸化チタンからPdに移動し、Pdの表面が電子リッチの状態になる。この現象は、強金属−担体相互作用(SMSI)と言われる。SMSI現象はエチレン選択性を増加させ、触媒不活性化を阻止する。しかしながら、上記特許に記載されている実験条件下でのPdTi触媒のエチレン選択性の最高値は約90%であり、依然としてさらに改良する必要がある。
【0012】
TiとPdの間にSMSIが生じるためには、500℃のような高温での還元が必要であるが、工業的に使用されている反応器内で達成することができる温度は約300℃であり、従ってTiによるエチレン選択性の改良は、工業的な工程においては制限される。
【0013】
従って、比較的低い温度でSMSI現象を示す新規な触媒が求められる。
【0014】
【非特許文献1】“Catalyst by metals”、Academic Press(ニューヨーク)発行、1962年、281−309頁
【非特許文献2】The Oil and Gas Journal,27,66(1972)
【特許文献1】米国特許第4387258号公報
【特許文献2】米国特許第4829329号公報
【特許文献3】米国特許第3325556号公報
【特許文献4】米国特許第4906800号公報
【特許文献5】韓国特許第2000−0059743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、触媒製造または触媒再生工程において比較的低い温度での還元の後であっても、アセチレンの水素化の工程において高いエチレン選択性を示す、新規な触媒およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、Pdの他にLa、LaとSi、Nb、またはTiとKを含むPdを基礎とする触媒を使用することにより達成される。
【0017】
本発明は、触媒製造または触媒再生工程において比較的低温での還元の後であっても高いエチレン選択性を示す、新規な触媒およびその製造方法を提供する。
【0018】
本発明の新規な触媒は、Pdの他に、TiとK、La、LaとSi、またはNbを含む。本発明のPd担持触媒は、担体と、
担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPdおよび担持触媒に対して0.035〜5.2質量%のLa、または、
担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPd、担持触媒に対して0.02〜1.0質量%のTiおよび担持触媒に対して0.0002〜7.4質量%のKと、または、
担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPdおよび担持触媒に対して0.045〜1.8質量%のNbと、または、
担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPd、担持触媒に対して0.035〜5.2質量%のLaおよび担持触媒に対して0.0001〜0.065質量%のSiと、
から成る。
【0019】
触媒の残りは担体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
上述のPdを基礎とする水素化触媒は、次の工程によって製造される:
(1)担体をテトラアミンパラジウムヒドロキシドの水溶液に浸し、乾燥し、か焼し、次いで上記担体に他の金属の前駆体を含む前駆溶液を含浸させるPd含浸工程;
(2)Pd−La触媒、Pd−Ti触媒またはPd−Nb触媒を、Pd触媒を対応する前駆溶液に浸し、乾燥し、か焼することによって得る、Ti、Nb、またはLa含浸工程;
(3)場合により、Pd−Ti−K触媒を、上記Pd−Ti触媒をKの前駆溶液に浸し、乾燥し、か焼することによって得る、K含浸工程、または、
場合により、Pd−La−Si触媒を、Pd−La触媒上にSiを化学蒸着させ、350〜700℃で予備還元し、次いで室温で酸化することによって得る、Si蒸着工程;、
(4)触媒の製造が300〜600℃での1〜5時間の還元段階を含む還元工程。
【0021】
以下に、触媒の製造をさらに詳細に説明する。
【0022】
(1)では、Pd触媒の製造方法を示す。触媒上のPdの担持量は0.05〜2.0質量%に調整される。担体(シリカ、チタニア、アルミナ等)をテトラアミンパラジウムヒドロキシド(NH34Pd(OH)2の水溶液に添加し、12時間攪拌し、蒸留水で洗浄する。次いで触媒を50〜150℃で1夜乾燥し、空気中で300〜700℃で1〜5時間か焼する。
【0023】
(2)では、上記Pd触媒上にTi、La、またはNbを含浸させることによりPd−La触媒、Pd−Ti触媒またはPd−Nb触媒を製造する方法を示す。Laの前駆体は水に溶解させた硝酸ランタン水和物であり、Nbの前駆体は水またはヘキサンに溶解させたテトラキスニオブであり、Tiの前駆体はそれぞれ水またはヘキサンに溶解させたTi(O−i−Pr)2(DPM)2、チタンエトキシド、チタンオキシドアセチルアセトナート、およびチタンブトキシドから成る群から選択される。担持触媒に対してそれぞれ0.02〜1.0質量%のTi、0.035〜5.2質量%のLa、または0.045〜1.8質量%のNbが触媒上に担持される。
【0024】
(3)では、Pd−Ti触媒上に水に溶解させたKの前駆体を使用してKを含浸させることによってPd−Ti−K触媒を製造する方法を示す。Kの量は0.0002〜7.4質量%に調整され、Kの前駆体は硝酸カリウムである。Kの含浸の後、50〜150℃で1夜乾燥し、空気中で300〜500℃で1〜5時間か焼する。か焼工程の間に、KとTiとの化合物であるチタン酸カリウムが形成される。
【0025】
(3)ではさらに、上記(2)の工程で製造されたPd−La触媒上へのSiの化学蒸着法を示す。Pd−La触媒を、Siの化学蒸着に先立って350〜700℃で予備還元する。予備還元工程で、Laの酸化物が部分的に還元され、Pd表面上に移動し、その結果Pd表面を修飾する。Si前駆体は、テトラヒドロシラン、トリエチルシラン、トリプロピルシラン、およびフェニルシランから成る群から選択される。上述の前駆体は、水素のようなキャリヤーガスによって200〜300℃で触媒上に運ばれる。
【0026】
(4)では、上記(3)の工程で製造された触媒の還元工程を示す。触媒は、300〜600℃で1〜5時間還元される。上記(3)の工程の間に蒸着したSiは、触媒が空気に晒され、低温で還元された後であっても、LaとPdの相互作用を維持する。
【0027】
その上、本発明は、本発明の触媒の存在下でアセチレンをエチレンに選択的に水素化する連続法であって、エチレン/アセチレン気体混合物中0.5〜2.0質量%のアセチレンを使用し、反応温度を30〜120℃にし、上記気体混合物の流速を触媒1gあたり200〜2500mL/分にすることを特徴とする連続法に関する。
【0028】
さらに、本発明は、アセチレンの選択的な水素化のために本発明のPd触媒を使用する方法に関する。
【実施例】
【0029】
<例1:実施例−触媒A>
A:Pd触媒の製造
Pd/SiO2触媒を、文献に記載された方法によって製造した。20gのシリカ(JRC−SIO−6、BET表面積:109m2/g)を(NH34Pd(OH)20.33質量%の溶液200mLに浸し、溶液を12時間攪拌し、沈降させ、蒸留水で洗浄した。次いで触媒を100℃で12時間乾燥し、空気中で300℃で2時間か焼した。1質量%のPdを担持したPd/SiO2触媒が得られた。
【0030】
B:Tiの含浸
Tiで修飾したPd触媒を、1質量%のPdを担持したPd/SiO2触媒にジイソプロポキシドジピバロイルメタナトチタン(Ti(O−iPr)2(DPM)2;Pr=C36、DPM=C11192)のヘキサン溶液を含浸させることによって得た。次いで触媒を100℃で3時間乾燥し、空気中で300℃で2時間か焼した。ヘキサン溶液は、ジイソプロポキシドジピバロイルメタナトチタン150mgをヘキサン10gに溶解させて調整した。TiとPdの原子比は1に調整された。
【0031】
C:Kの添加
PdTi触媒を0.02質量%の硝酸カリウムの水溶液100mLに浸し、次いで触媒を100℃で3時間乾燥し、空気中で300℃で2時間か焼した。Pdに対するKの原子比は0.1に調整された。
【0032】
D:還元
酸素を除去するために触媒のサンプルに窒素を通気し、次いで300℃で2時間水素中で還元した。その結果、K/Ti/Pdの原子比が0.1/1/1に調整された触媒が調整された。
【0033】
<例2:比較例−触媒B>
Pd触媒を、Ti添加(B工程)およびK添加(C工程)を除いて、例1と同じ方法を使用して製造した。すなわち、シリカ上にPdを含浸させてPd1質量%の触媒を製造し(A工程)、水素中で300℃で1時間還元した(D工程)。
【0034】
<例3−比較例−触媒C>
Pd−Ti触媒を、K添加(C工程)を除いて、例1と同じ方法を使用して製造した。すなわち、シリカ上にPdを含浸させてPd1質量%の触媒を製造し(A工程)、Tiを添加してPd/Tiの原子比が1のPd−Ti触媒を製造し(B工程)、水素中で300℃で1時間還元した(D工程)。
【0035】
<例4−比較例−触媒D>
Pd−Ti触媒を、触媒を500℃で還元したのを除いて、例3と同じ方法を使用して製造した。
【0036】
<例5:化学吸着実験>
触媒表面上に化学吸着したCO量を調査するために、化学吸着実験を実施した。
【0037】
触媒A−Dを自立したディスクの形態に圧縮し、IRセル中に設置し、水素で還元し、次いで吸着した水素を真空脱気して除去した。IRセルを40℃に冷却し、次いで触媒をCOに晒した。真空脱気してセルから気体COを除去した後に、吸着したCOのIRスペクトルを測定した。触媒のCO化学吸着量および化学吸着挙動を表1にまとめた。
【0038】
【表1】

【0039】
触媒を300℃で還元した場合には、Pd−Ti触媒(触媒C)とPd触媒(触媒B)上に吸着したCO量の差は顕著でない。Pd−Ti触媒を500℃で還元した場合(触媒D)には、吸着したCOの量は顕著に減少し、直線結合CO(Al)/多重結合CO(Am)の面積比は増加する。
【0040】
吸着COの総量が減少したにもかかわらずAl/Am比が増加した理由は、Pd表面にTi種が移動し、表面を修飾したためである。
【0041】
Pd−Ti−K触媒(触媒A)の場合には、触媒がより低い温度300℃で還元されたにもかかわらず、吸着CO量が減少し、直線結合CO(Al)/多重結合CO(Am)の面積比が増加する。
【0042】
<例6:XPS実験>
還元の前後での触媒表面のTiとPdの濃度を、XPS分析により調査した。
【0043】
触媒A、CおよびDを還元し、表面をイソオクタンで濡らして空気酸化から保護し、両面テープ上に載置し、次いでXPS分析のためにUHVチャンバー中に置いた。
【0044】
表2に還元前後での触媒表面のTi/Pd面積比を示す。
【0045】
【表2】

【0046】
500℃で還元されたPd−Ti触媒(触媒D)のTi/Pd比は、300℃で還元されたPd−Ti触媒(触媒C)における値より、Pd表面のTiによる修飾のために大きい。Pd−Ti−K触媒のTi/Pd比は、より低い温度300℃で還元されたにもかかわらず、顕著に増加している。
【0047】
<例7:アセチレンの水素化反応>
触媒A−Dについて、アセチレンの選択的な水素化におけるエチレン選択性を調査した。
【0048】
A.反応ガス
エチレン中アセチレンを1.02体積%含有するガス混合物を使用した。
【0049】
B.実験
アセチレンの水素化を、1/4インチの直径を有するパイレックス(登録商標)のミクロリアクター内で、0.03gの触媒を使用して行った。反応混合物の流速を、400、800、1200、1600、2000および2400mL/分に変化させた。水素/アセチレンのモル比を2とし、実験を60℃で行った。
【0050】
C.結果
以下の式により計算したアセチレン転化率とエチレン選択性を図1に示す。図1で、ESはエチレン選択性を、ACはアセチレン転化率を、Aは触媒Aを、Bは触媒Bを、Cは触媒Cを、Dは触媒Dを意味する。
【0051】
式1:アセチレン転化率=A/A0
式2:エチレン選択性=ΔB/ΔA
上式において、A0は供給物におけるアセチレンの初期濃度を示し、ΔAはアセチレン濃度の変化を示し、ΔBはエチレン濃度の変化を示す。
【0052】
Pd−Ti触媒が300℃で還元された場合(触媒C)には、触媒Cのエチレン選択性の曲線は、300℃で還元されたPd触媒(触媒B)における曲線とほとんど重なる。しかしながら、Pd−Ti触媒が500℃で還元された場合(触媒D)には、エチレン選択性が増加している。このことは、Pd表面がTi種で修飾されたため、多重結合吸着サイトを必要とするエチリデン生成が抑制されたことを推測させる。
【0053】
Pd−Ti−K触媒(触媒A)の場合には、300℃で還元されているにもかかわらず、エチレン選択性が500℃で還元されたPd−Ti触媒(触媒D)の選択性より高い。このことは、K2OとTiO2の反応によりチタン酸カリウムが形成された結果である。チタン酸カリウムは、チタニアより顕著に低い融点、すなわちより低いタンマン温度を有しており、従って低い温度300℃での還元後であってもPd表面を修飾する。反応実験も傾向は、XPSの結果と一致している。
【0054】
<例8:実施例−触媒E−H>
Pd−Ti−K触媒を、K/Ti/Pdのモル比を0.01/1/1(触媒E)、1/1/1(触媒F)、4/1/1(触媒G)、10/1/1(触媒H)とした以外を除いて実施例1と同じ方法によって製造した。
【0055】
<例9:アセチレン水素化反応>
エチレン選択性に関するKの添加量の影響を調査するために、実験を触媒A、E−Hを使用して実施例7と同じ条件下で行った。反応の結果を図2に示す。図2において、ESはエチレン選択性を、ACはアセチレン転化率を、Aは触媒Aを、Bは触媒Bを、Eは触媒Eを、Fは触媒Fを、Gは触媒Gを、Hは触媒Hを意味する。
【0056】
Kの量が増加するにつれて、エチレン選択性がK/Pdの比が0.1(触媒A)になるまで増加し、その後Kの添加量が上述の量(触媒E−H)まで増加するにつれて減少した。過剰のKが存在すると1,3−ブタジエンのようなオリゴマーの形成が増加し、その結果触媒の活性および選択性が減少する。K/Pdの最適比は0.1(触媒A)である。
【0057】
本発明のPd−Ti−K触媒は、低温300℃での還元後でさえも、広い転化率にわたって極めて高いエチレン選択性を示す。
【0058】
<例10:実施例−触媒I>
A:Pd触媒の製造
Pd/SiO2触媒を、文献に記載された方法によって製造した。20gのシリカ(JRC−SIO−6、BET表面積:109m2/g)を(NH34Pd(OH)20.33質量%の溶液200mLに浸し、溶液を12時間攪拌し、沈降させ、蒸留水で洗浄した。次いで触媒を100℃で12時間乾燥し、空気中で300℃で2時間か焼した。1質量%のPdを担持したPd/SiO2触媒が得られた。
【0059】
B:Laの添加
Laで修飾したPd触媒を、初期の湿式含浸法によって製造した。1質量%のPdを担持したPd/SiO2触媒に2質量%の硝酸ランタン水和物(La(NO33・xH2O)の水溶液3mLを含浸させた。次いで触媒を100℃で6時間乾燥し、空気中で300℃で2時間か焼した。
【0060】
C:予備還元とSi蒸着
3gのPd−La触媒を固定床反応器に導入し、水素中で500℃で1時間還元し、窒素気流中で250℃に冷却した。触媒を0.01mLのサンプリングループを用いた1%SiH4/Arのパルス注入に晒し、Si添加量はパルス注入の数によって制御した。水素を20mL/分の速度でキャリヤーガスとして使用した。次いで、触媒を酸素に25℃で2時間晒した。
【0061】
D:還元
触媒を300℃で1時間水素中で還元した。その結果、Si/Pdの原子比が0.012に調整されたPd−Si触媒が調整された。
【0062】
<例11:実施例−触媒J>
Si/Pdのモル比が0.006である点を除いて、例10と同じ方法を使用して触媒を製造した。
【0063】
<例12:実施例−触媒K>
Si/Pdのモル比が0.12である点を除いて、例10と同じ方法を使用して触媒を製造した。
【0064】
<例13:比較例−触媒L>
例2と同じ方法により触媒を調整したが、触媒を500℃で還元した。
【0065】
<例14:比較例−触媒M>
Si添加(C工程)を除いて例10と同じ方法で触媒を調整した。すなわち、1質量%のPdを含むPd触媒を製造し(A工程)、La/Pd比が1のPd−La触媒を製造し(B工程)、水素中で300℃で1時間還元した(D工程)。
【0066】
<例15:比較例−触媒N>
触媒を例14と同じ方法を使用して製造したが、触媒を500℃で還元した。
【0067】
<例16:アセチレン水素化反応>
触媒I、B、L−Nについて、アセチレンの選択的な水素化におけるエチレン選択性を調査した。
【0068】
A.反応ガス
エチレン中アセチレンを1.02体積%含有するガス混合物を使用した。
【0069】
B.実験
アセチレンの水素化を、1/4インチの直径を有するパイレックス(登録商標)のミクロリアクター内で、0.03gの触媒を使用して行った。反応混合物の流速を、400、800、1200、1600、2000および2400mL/分に変化させた。水素/アセチレンのモル比を2とし、実験を60℃で行った。
【0070】
C.結果
以下の式により計算したアセチレン転化率とエチレン選択性を図3に示す。図3で、ESはエチレン選択性を、ACはアセチレン転化率を、Iは触媒Iを、Bは触媒Bを、Lは触媒Lを、Mは触媒Mを、Nは触媒Nを意味する。
【0071】
式1:アセチレン転化率=A/A0
式2:エチレン選択性=ΔB/ΔA
上式において、A0は供給物におけるアセチレンの初期濃度を示し、ΔAはアセチレン濃度の変化を示し、ΔBはエチレン濃度の変化を示す。
【0072】
Pd−La触媒が300℃で還元された場合(触媒M)のエチレン選択性は、300℃で還元されたPd触媒(触媒B)のエチレン選択性よりわずかに大きいが、Pd−La触媒が500℃で還元された場合(触媒N)には、300℃で還元されたPd−La触媒(触媒M)およびPd触媒(触媒B)に比較して、エチレン選択性が顕著に改良される。他方、500℃で還元されたPd触媒(触媒L)のエチレン選択性は、Pd粒子の焼結のために極めて小さい。500℃で還元されたPd−La触媒(触媒N)の高いエチレン選択性は、LaとPdとのSMSIに起因している。Pd表面がLaに修飾されたため、多重結合吸着サイトを必要とするエチリデン形成が抑制されてエタン生成が減少し、さらに触媒不活性化を引き起こす1,3−ブタジエンの生成が抑制され、その結果エチレン選択性が増加する。
【0073】
他方、300℃で還元されたPd−La触媒(触媒M)のエチレン選択性が500℃で還元されたPd−La触媒(触媒N)より低い理由は、低温の還元のためPd表面が十分にLa種で修飾されていないためである。
【0074】
300℃で還元されたPd−La−Si触媒(触媒I)のエチレン選択性は、低温で触媒が還元されているにもかかわらず、300℃で還元されたPd−La触媒(触媒M)の値より高く、500℃で還元されたPd−La触媒(触媒N)の値と略同じである。このことは、500℃で還元されたPd−La触媒の改良された触媒活性が、Si添加により、触媒が触媒再生の間に酸素に晒された後に低温で還元されたにもかかわらず維持されうることを示している。従って、Si種はある程度Pd表面上にLaを固定する効果を有すると考えられる。
【0075】
<例17:アセチレン水素化>
エチレン選択性に関するSi添加量の効果を調査するために、触媒I−K、M、Nを使用して例16と同じ条件で実験を行った。反応結果を図4に示す。図4において、ESはエチレン選択性を、ACはアセチレン転化率を、Iは触媒Iを、Jは触媒Jを、Kは触媒Kを、Mは触媒Mを、Nは触媒Nを意味する。
【0076】
Si/Pd比が0.006であり300℃で還元されている(触媒J)の場合には、Pd−La−Siのエチレン選択性が、300℃で還元されたPd−La−Si触媒のPdの値と略同一である。しかしながら、Si/Pd比が0.012まで増加し、300℃で還元された(触媒I)場合には、Pd−La−Si触媒のエチレン選択性は500℃で還元されたPd−La触媒(触媒N)の値まで増加する。過剰量のSiが蒸着してSi/Pd比が大きくなり300℃で還元された(触媒K)場合には、エチレン選択性とともにアセチレン転化率も減少する。Si/Pd比が0.006の触媒Jの場合には、Siの量が少なすぎるため、ランタンを効果的に固定することができず、逆にSi/Pd比が0.12の触媒Kの場合には、Siの量が多すぎて活性点のほとんどを覆ってしまう可能性があり、その結果転化率と選択性の両方が顕著に低下する。従って、比較的高いアセチレン転化率を維持しつつ選択性を向上させるSi/Pdの最適値は、この実験条件では0.012である。
【0077】
本発明のPd−La−Si触媒は、低温300℃での還元後であっても、広い転化率の範囲で、500℃で還元されたPd−La触媒に匹敵する極めて高いエチレン選択性を示す。
【0078】
<例18:実施例−触媒O>
A:Pd触媒の製造
Pd/SiO2触媒を、文献に記載された方法によって製造した。20gのシリカ(JRC−SIO−6、BET表面積:109m2/g)を(NH34Pd(OH)20.33質量%の溶液200mLに浸し、溶液を12時間攪拌し、沈降させ、蒸留水で洗浄した。次いで触媒を100℃で12時間乾燥し、空気中で300℃で2時間か焼した。1質量%のPdを担持したPd/SiO2触媒が得られた。
【0079】
B:Nbの添加
Nbで修飾したPd触媒を、湿式含浸法によって製造した。1質量%のPdを担持したPd/SiO2触媒にテトラキスニオブを溶解したヘキサン溶液を含浸させた。次いで触媒を100℃で6時間乾燥し、空気中で300℃で2時間か焼した。
【0080】
C:還元
酸素を除去するために触媒のサンプルに窒素を通気し、次いで300℃で2時間水素中で還元した。その結果、Nb/Pdの原子比が1に調整されたPd−Nb触媒が調整された。
【0081】
<例19:比較例−触媒P>
Pd−Nb触媒を、触媒を500℃で還元した以外は例18と同じ方法を使用して製造した。
【0082】
<例20:化学吸着実験>
触媒表面上に化学吸着した水素量を調査するために、化学吸着実験を実施した。
【0083】
触媒O、P、B、Lを自立したディスクの形態に圧縮し、IRセル中に設置し、水素で還元し、次いで吸着した水素を真空脱気して除去した。IRセルを40℃に冷却し、次いで触媒を水素に晒した。真空脱気してセルから気体水素を除去した後に、吸着した水素のIRスペクトルを測定した。触媒の水素の化学吸着量および化学吸着挙動を表3にまとめた。
【0084】
【表3】

【0085】
Pd触媒に関しては、還元温度が300℃(触媒B)がら500℃(触媒L)に上昇した場合には、Pd粒子の焼結のため水素吸着量が減少する。500℃で還元されたPd−Nb触媒(触媒P)の場合もまた、Pd表面がNb種で修飾されるため、500℃で還元されたPd触媒(触媒L)の場合よりも水素の化学吸着量が顕著に減少する。この現象は、Pd−Nb触媒が高温で還元された場合に生じる典型的なSMSI現象である。
【0086】
300℃で還元されたPd−Nb触媒(触媒O)に関する水素吸着量もまた、顕著に減少し、この値は500℃で還元されたPd−Nb触媒(触媒P)の値と略同じである。このことは、低温、たとえば300℃での還元後であっても、Pd−Nbの間につよい相互作用が存在することを示している。従って、Nbを促進剤として使用する場合には、比較的低温でPd表面を効果的に修飾することができる。
【0087】
<例21:アセチレン水素化反応>
触媒O、P、B、Lについて、アセチレンの選択的な水素化におけるエチレン選択性を調査した。
【0088】
A.反応ガス
エチレン中アセチレンを1.02体積%含有するガス混合物を使用した。
【0089】
B.実験
アセチレンの水素化を、1/4インチの直径を有するパイレックス(登録商標)のミクロリアクター内で、0.03gの触媒を使用して行った。反応混合物の流速を、400、800、1200、1600、2000および2400mL/分に変化させた。水素/アセチレンのモル比を2とし、実験を60℃で行った。
【0090】
C.結果
以下の式により計算したアセチレン転化率とエチレン選択性を図5に示す。図5で、ESはエチレン選択性を、ACはアセチレン転化率を、Oは触媒Oを、Bは触媒Bを、Lは触媒Lを、Pは触媒Pを意味する。
【0091】
式1:アセチレン転化率=A/A0
式2:エチレン選択性=ΔB/ΔA
上式において、A0は供給物におけるアセチレンの初期濃度を示し、ΔAはアセチレン濃度の変化を示し、ΔBはエチレン濃度の変化を示す。
【0092】
Pd−Nb触媒(触媒O、P)のエチレン選択性は、Pd触媒(触媒B、L)の値より、還元温度に関わらず高い。500℃で還元されたPd触媒(触媒P)の場合には、Pd粒子が焼結し、その結果1,3−ブタジエンの形成を加速する多重配位のPdサイトが形成され、結果的にエチレン選択性が低下する。
【0093】
前の例において示されていたTi促進剤と比較して、300℃で還元されたPd−Nb触媒(触媒O)のエチレン選択性は、500℃で還元されたPd−Nb触媒(触媒P)の値と略等しい。この現象は、Nb促進剤が低温での還元後であってもPdと強く反応することを示している。
【0094】
すなわち、Nbは低温での還元後であってもPd表面を効果的に修飾し、エチリデンを介したエタン形成および1,3−ブタジエン生成を介したグリーンオイルの形成の原因となる多重配位Pdサイトの形成を抑制し、その結果エチレン選択性を向上させる。
【0095】
本発明のPb−Nb触媒は、低温での還元後であっても、広範囲の転化率にわたって極めて高いエチレン選択性を示す。
【0096】
<例22:実施例−触媒Q>
A:Pd触媒の製造
Pd/SiO2触媒を、文献に記載された方法によって製造した。20gのシリカ(JRC−SIO−6、BET表面積:109m2/g)を(NH34Pd(OH)20.33質量%の溶液200mLに浸し、溶液を12時間攪拌し、沈降させ、蒸留水で洗浄した。次いで触媒を100℃で12時間乾燥し、空気中で300℃で2時間か焼した。1質量%のPdを担持したPd/SiO2触媒が得られた。
【0097】
B:Laの添加
Laで修飾したPd触媒を、初期の湿式含浸法によって製造した。1質量%のPdを担持したPd/SiO2触媒に2質量%の硝酸ランタン水和物(La(NO33・xH2O)の水溶液3mLを含浸させた。次いで触媒を100℃で6時間乾燥し、空気中で300℃で2時間か焼した。
【0098】
C:還元
酸素を除去するために、触媒のサンプルに窒素を通気し、次いで500℃で2時間水素中で還元した。その結果、La/Pdの原子比が1に調整されたPd−La触媒が調整された。
【0099】
<例23:比較例−触媒R、S、T>
Pd触媒を例23(A工程)と同じ方法を使用して作成し、La種をPd触媒に添加した(B工程)。C工程の還元を300℃(触媒R)、400℃(触媒S)、および450℃(触媒T)で行った。La/Pdの原子比は、3つの触媒とも1に調整された。
【0100】
<例24:化学吸着実験>
触媒表面上に化学吸着したCO量を調査するために、化学吸着実験を実施した。
【0101】
触媒B、Q−Tを自立したディスクの形態に圧縮し、IRセル中に設置し、水素で還元し、次いで吸着した水素を真空脱気して除去した。IRセルを40℃に冷却し、次いで触媒をCOに晒した。真空脱気してセルから気体COを除去した後に、吸着したCOのIRスペクトルを測定した。触媒のCO化学吸着量および化学吸着挙動を表4にまとめた。
【0102】
【表4】

【0103】
触媒を300℃で還元した場合には、Pd−La触媒(触媒R)とPd触媒(触媒B)上に吸着したCO量の差は顕著でない。還元温度が上昇するにつれ、吸着したCOの量は減少し、温度が450℃以上(触媒T、Q)では顕著に減少し、直線結合CO(Al)/多重結合CO(Am)の面積比は増加する。
【0104】
吸着COの総量が減少したにもかかわらずAl/Am比が増加する事実は、450℃以上の温度で還元した後で、PdとLa種が互いに強く相互作用し、そのためPd表面にLa種が移動し、Pd表面を修飾することを示している。この修飾効果の程度は、500℃で触媒が還元された場合に最大である。
【0105】
<例25:アセチレン水素化反応>
触媒Q−T、Bについて、アセチレンの選択的な水素化におけるエチレン選択性を調査した。
【0106】
A.反応ガス
エチレン中アセチレンを1.02体積%含有するガス混合物を使用した。
【0107】
B.実験
アセチレンの水素化を、1/4インチの直径を有するパイレックス(登録商標)のミクロリアクター内で、0.03gの触媒を使用して行った。反応混合物の流速を、400、800、1200、1600、2000および2400mL/分に変化させた。水素/アセチレンのモル比を2とし、実験を60℃で行った。
【0108】
C.結果
以下の式により計算したアセチレン転化率とエチレン選択性を図6に示す。図6で、ESはエチレン選択性を、ACはアセチレン転化率を、Qは触媒Qを、Bは触媒Bを、Rは触媒Rを、Sは触媒Sを、Tは触媒Tを意味する。
【0109】
式1:アセチレン転化率=A/A0
式2:エチレン選択性=ΔB/ΔA
上式において、A0は供給物におけるアセチレンの初期濃度を示し、ΔAはアセチレン濃度の変化を示し、ΔBはエチレン濃度の変化を示す。
【0110】
300℃および400で還元されたPd−La触媒(触媒R、S)のエチレン選択性は、300℃で還元されたPd触媒(触媒B)における値と略等しい。還元温度が450℃より高い温度に上昇すると、エチレン選択性が増加し(触媒T、Q)、500℃で還元されたPd−La触媒(触媒Q)における値は98%にまで増加する。この値は前の例に示されているPd−Ti触媒の値よりも10%高い。
【0111】
500℃で還元されたPd−La触媒(触媒Q)の高いエチレン選択性は、LaとPdの間のSMSI作用に起因する。La種がPd表面を修飾し、La種が多重結合吸着サイトを必要とするエチリデン形成を抑制することによってエタン生成を低下させ、また触媒不活性化を引き起こす1,3−ブタジエンの生成を抑制する。結果的に、エチレン選択性が増加する。他方、400℃以下の温度で還元されたPd−La触媒(触媒R、S)のエチレン選択性が500℃で還元されたPd−La触媒(触媒Q)の値より小さい理由は、Pd表面が比較的低い温度ではLa種によって十分に修飾されないためである。
【0112】
<例26:実施例−触媒U−X>
Pd−La触媒を、La/Pdのモル比が0.5/1(触媒U)、0.75/1(触媒V)、1.5/1(触媒W)、および2/1(触媒X)である点を除いて、実施例22と同じ方法を使用して製造した。
【0113】
<例27:アセチレン水素化反応>
エチレン選択性に関するLa添加量の効果を調査するために、触媒Q、U−XおよびBを使用して実施例24と同じ条件で実験を行った。反応の結果を図7に示す。図7では、ESがエチレン選択性を、ACがアセチレン転化率を、Qが触媒Qを、Bが触媒Bを、Uが触媒Uを、Vが触媒Vを、Wが触媒Wを、Xが触媒Xを示す。
【0114】
La量が増加するにつれ、エチレン選択性はLa/Pd比が1(触媒R)になるまで増加し、次いでLa/Pd比が2/1(触媒X)になると、Pd触媒(触媒B)の値まで低下する。La/Pd比が1より小さくなる(触媒U、V)と、触媒性能が顕著に改良されないが、これは還元温度が十分に高いにもかかわらずLa種がPd表面を効果的に修飾することができないためである。La/Pd比が1より大きくなる(触媒W、X)と、La種がPdを修飾しすぎて、触媒活性が低下する。そのため、La種が効果的にPd表面を修飾可能な最適のLa/Pd比が存在し、上述の実験条件下ではその比は1(触媒Q)である。
【0115】
<例28:不活性化試験>
触媒の不活性化挙動を調べるために、以下の条件下で触媒QとBを使用して不活性化試験を行った。(反応条件は、より速く触媒が不活性化するように、例25および27における条件より厳しい条件である)。
【0116】
A.反応ガス
反応流は、エチレン中アセチレンを4.84体積%含有していた。
【0117】
B.実験
不活性化実験を、1/4インチの直径を有するパイレックス(登録商標)のミクロリアクター内で、0.05gの触媒を使用して行った。反応混合物の流速は、400mL/分であった。水素/アセチレンのモル比を1とし、実験を90℃で行った。
【0118】
C.結果
結果を図8に示す。図8で、AC/AC(ini)はアセチレン転化率/アセチレン転化率(初期)を、ACCは転化されたアセチレンの総量(mol)を、Qは触媒Qを、Bは触媒Bを意味する。Pd触媒とPd−La触媒の不活性化挙動を比較するために、同じ反応負荷に基づいて比較が行われるように、時間に対してプロットする代わりに、転化したアセチレンの総量に対して標準化したアセチレン転化率をプロットした。300℃で還元されたPd触媒(触媒B)の不活性化速度は、500℃で還元されたPd−La触媒(触媒Q)の速度より極めて大きかった。
【0119】
また、表5に示すように、500℃で還元されたPd−La触媒(触媒Q)のグリーンオイル生成量は、300℃で還元されたPd触媒(触媒B)における量よりも少なかった。例5において示したように、500℃で還元されたPd−La触媒(触媒Q)の不活性化速度が遅い理由は、触媒が高温で還元されると、La種が効果的にPd表面を修飾するためである。La種は触媒を不活性化する1,3−ブタジエンの生成を抑制する。
【0120】
【表5】

【0121】
本発明のPd−La触媒は広範囲の転化率にわたって極めて高いエチレン選択性を示し、アセチレンの選択的水素化において1,3−ブタジエンの生成を抑制することによって触媒の不活性化を阻止する。従って、Pd−La触媒は、触媒の再生間隔を伸ばすという点で経済的な利点を有する。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持Pd触媒であって、担体と、
担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPdおよび担持触媒に対して0.035〜5.2質量%のLaと、または、
担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPd、担持触媒に対して0.02〜1.0質量%のTiおよび担持触媒に対して0.0002〜7.4質量%のKと、または、
担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPdおよび担持触媒に対して0.045〜1.8質量%のNbと、または、
担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPd、担持触媒に対して0.035〜5.2質量%のLaおよび担持触媒に対して0.0001〜0.065質量%のSiと、
から成る触媒。
【請求項2】
担体をテトラアミンパラジウムヒドロキシドの水溶液に浸し、乾燥し、か焼し、次いで前記担体に他の金属の前駆体を含む前駆溶液を含浸させることを特徴とする、請求項1に記載のPd触媒の製造方法。
【請求項3】
Pd−La触媒、Pd−Ti触媒またはPd−Nb触媒を、Pd触媒を対応する前駆溶液に浸し、乾燥し、か焼することによって製造することを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
Pd−Ti−K触媒を、前記Pd−Ti触媒をKの前駆溶液に浸し、乾燥し、か焼することによって製造することを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
Pd−La−Si触媒を、Pd−La触媒上にSiを化学蒸着させ、350〜700℃で予備還元し、次いで室温で酸化することによって製造することを特徴とする、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項6】
触媒の製造が300〜600℃での1〜5時間の還元工程を含むことを特徴とする、請求項2〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
Laの前駆体が硝酸ランタン水和物であり、Nbの前駆体がテトラキスニオブ(?)であり、Tiの前駆体がTi(O−i−Pr)2(DPM)2、チタンエトキシド、チタンオキシドアセチルアセトナート、およびチタンブトキシドから成る群から選択されることを特徴とする、請求項2〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
Kの前駆体が硝酸カリウムであることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項9】
Siの前駆体がテトラヒドロシラン、トリエチルシラン、トリプロピルシラン、およびフェニルシランから成る群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の触媒の存在下でアセチレンをエチレンに選択的に水素化する連続法であって、エチレン/アセチレン気体混合物中0.5〜2.0質量%のアセチレンを使用し、反応温度を30〜120℃にし、前記気体混合物の流速を触媒1gあたり200〜2500mL/分にすることを特徴とする連続法。
【請求項11】
アセチレンの選択的な水素化のために請求項1に記載のPd触媒を使用する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持Pd触媒であって、担体と、
担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPdおよび担持触媒に対して0.035〜5.2質量%のLaと、または、
担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPd、担持触媒に対して0.02〜1.0質量%のTiおよび担持触媒に対して0.0002〜7.4質量%のKと、または、
担持触媒に対して0.05〜2.0質量%のPd、担持触媒に対して0.035〜5.2質量%のLaおよび担持触媒に対して0.0001〜0.065質量%のSiと、
から成る触媒。
【請求項2】
担体をテトラアミンパラジウムヒドロキシドの水溶液に浸し、乾燥し、か焼し、次いで前記担体に他の金属の前駆体を含む前駆溶液を含浸させることを特徴とする、請求項1に記載のPd触媒の製造方法。
【請求項3】
Pd−La触媒またはPd−Ti触媒を、Pd触媒を対応する前駆溶液に浸し、乾燥し、か焼することによって製造することを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
Pd−Ti−K触媒を、前記Pd−Ti触媒をKの前駆溶液に浸し、乾燥し、か焼することによって製造することを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
Pd−La−Si触媒を、Pd−La触媒上にSiを化学蒸着させ、350〜700℃で予備還元し、次いで室温で酸化することによって製造することを特徴とする、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項6】
触媒の製造が300〜600℃での1〜5時間の還元工程を含むことを特徴とする、請求項2〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
Laの前駆体が硝酸ランタン水和物であり、Tiの前駆体がTi(O−i−Pr)2(DPM)2、チタンエトキシド、チタンオキシドアセチルアセトナート、およびチタンブトキシドから成る群から選択されることを特徴とする、請求項2〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
Kの前駆体が硝酸カリウムであることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項9】
Siの前駆体がテトラヒドロシラン、トリエチルシラン、トリプロピルシラン、およびフェニルシランから成る群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の触媒の存在下でアセチレンをエチレンに選択的に水素化する連続法であって、エチレン/アセチレン気体混合物中0.5〜2.0質量%のアセチレンを使用し、反応温度を30〜120℃にし、前記気体混合物の流速を触媒1gあたり200〜2500mL/分にすることを特徴とする連続法。
【請求項11】
アセチレンの選択的な水素化のために請求項1に記載のPd触媒を使用する方法。

【公表番号】特表2006−521197(P2006−521197A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504885(P2006−504885)
【出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003263
【国際公開番号】WO2004/085353
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】