説明

アセチレン化合物及び血糖低下剤組成物

【課題】 本発明は、優れた血糖低下作用を有し、かつ、副作用のない新規物質としてアセチレン化合物及び該アセチレン化合物を含む血糖低下剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のアセチレン化合物は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【化5】


ただし、前記一般式(1)中、Rは、水素原子及び炭素数24以下の直鎖又は分岐していてもよいアルキル基のいずれかを示し、Rは、水素原子及び糖のいずれかを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた血糖低下作用を有するアセチレン化合物及び該化合物を含む血糖低下剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国の糖尿病患者数は、食の欧米化や生活習慣と社会環境の変化に伴い、急速に増加を続けている。糖尿病は、ひとたび発症すると治癒することはなく、放置すると網膜症・腎症・神経障害などの様々な合併症を引き起こし、そのためさらに医療費を圧迫している現状である。
【0003】
従来から、糖尿病の治療方法として、例えば、食事療法、運動療法などによる生活改善をはじめ、インスリン注射、薬物投与などの治療方法が行われている。
具体的には、糖尿病の治療法としては、インスリン、スルホニル尿素系血糖低下剤、ビグアナイド系血糖低下剤、チアゾリジン誘導体などを有効な治療薬として投与することが行われている。
しかしながら、これら従来の糖尿病の治療方法では、血液中の血糖値を十分に低下させることができず、過度の投与により、肥満やインスリン抵抗性の増悪、血糖値コントロールの不全などの副作用をもたらすことがあるという問題がある。
【0004】
また、近年、植物由来の物質を有効成分として用いる血糖低下剤等が提案されている。
例えば、薬用人参中の20−0−[α−L−アラビノピラノシル(1→6)−β−D−グルコピラノシル]−20(S)−プロトパナキサジオールを有効成分とした糖尿病性合併症療剤が提案されている(特許文献1参照)。
また、オタネニンジン属植物等の植物から得られるLPS(リポポリサッカライド)を有効成分とする抗糖尿病剤が提案されている(特許文献2参照)。
また、血糖降下作用を有する物質として、ウコギ科に属する薬用ニンジン等から単離され、パナキサン化合物を含むペプチドグリガン類が提案されている(特許文献3参照)。
また、高麗人参に由来し、PPARγ(Peroxisome Proliferator Activated Receptor γ)を活性化させる20(S)−プロトパナキサトリオールが開示されている(特許文献4参照)。
センダングサ属植物、とくにビデンス・ピローサ抽出物の成分である新規アセチレン系化合物、または、これを含有する画分を含有する組成物が提案されている(特許文献5参照)。
ヒュウガトウキ含有成分であるポリアセチレン系化合物を含む新規な医薬組成物が提案されている(特許文献6参照)。
【0005】
しかしながら、従来のインスリンなどの物質に代わる、優れた血糖低下作用を有し、かつ、副作用のない物質としては、満足できるものが開発されておらず、これらを満足する新規物質の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−212296号公報
【特許文献2】特開平 4− 49244号公報
【特許文献3】特開昭60−172927号公報
【特許文献4】韓国公開特許10−2006−0131012号公報
【特許文献5】特開2004−83463号公報
【特許文献6】特開平11−310527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れた血糖低下作用を有し、かつ、副作用のない新規物質としてアセチレン化合物及び該アセチレン化合物を含む血糖低下剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記一般式(1)で示されることを特徴とするアセチレン化合物である。
【化1】

ただし、前記一般式(1)中、Rは、水素原子及び炭素数24以下の直鎖又は分岐していてもよいアルキル基のいずれかを示し、Rは、水素原子及び糖のいずれかを示す。
<2> トチバニンジン属植物の抽出成分を分画して得られる前記<1>に記載のアセチレン化合物である。
<3> トチバニンジン属植物が田七人参である前記<1>から<2>のいずれかに記載のアセチレン化合物である。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のアセチレン化合物を有効成分として含むことを特徴とする血糖低下剤組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、本発明は、優れた血糖低下作用を有し、かつ、副作用のない新規物質としてアセチレン化合物及び該アセチレン化合物を含む血糖低下剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、逆相HPLCの分取結果を示すクロマトグラムである。
【図2】図2は、本発明のアセチレン化合物のH−NMR分析チャートである。
【図3】図3は、比較化合物のH−NMR分析チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(アセチレン化合物)
本発明のアセチレン化合物は、下記一般式(1)で示される化合物としてなる。前記アセチレン化合物は、優れた血糖低下作用を有し、また、後述するトチバニンジン属植物に含まれるように、人が摂取する際の副作用がないという性質を有する。
【0012】
【化2】

ただし、前記一般式(1)中、Rは、水素原子及び炭素数24以下の直鎖又は分岐していてもよいアルキル基のいずれかを示し、Rは、水素原子及び糖のいずれかを示す。
【0013】
前記アセチレン化合物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、トチバニンジン属植物の抽出成分を分画して得る方法が好ましい。
【0014】
前記トチバニンジン属植物としては、前記アセチレン化合物を含むものであれば、特に制限はなく、例えば、田七人参(デンシチニンジン、別名:三七人参(サンシチニンジン))、御種人参(オタネニンジン、別名:朝鮮人参(チョウセンニンジン)、高麗人参(コウライニンジン))、トチバニンジン(別名:竹節人参(チクセツニンジン))、アメリカニンジン(別名:西洋人参(セイヨウニンジン)、西洋参(セイヨウジン))、ベトナムニンジン、ヒマラヤニンジン、相思子様人参(ソウシシヨウニンジン)、ホソバチクセツニンジン、狭葉仮人参(キョウヨウカニンジン、別名:竹根七(チクコンシチ))、羽葉三七(ウヨウサンシチ)、秀麗仮人参(シュウレイカニンジン、別名:竹節三七(チクセツサンシチ))、大葉三七(ダイヨウサンシチ)、峨眉三七(ガビサンシチ)、ビョウブサンシチニンジン(別名:托三七(タクサンシチ))、ミツバニンジン、ノサンシチニンジン(別名:姜状三七(キョウジョウサンシチ))等が挙げられる。中でも、御種人参、田七人参が好ましく、特に安定的に入手出来る観点から、田七人参がより好ましい。
前記トチバニンジン属植物としては、その根や根茎に特に有効成分を多く含んでいるので、その根や根茎部分を粉砕した粉末を用いることが好ましい。
【0015】
<製造方法>
具体的には、以下の製造方法により前記アセチレン化合物を製造することができる。
即ち、前記製造方法としては、溶媒抽出工程と、画分溶出工程と、粗生成物分画工程と、精製物分画工程とを含む製造方法が挙げられる。
【0016】
<<溶媒抽出工程>>
前記溶媒抽出工程は、前記トチバニンジン属植物の粉末を抽出溶媒に添加し、前記トチバニンジン属植物中の前記アセチレン化合物を含む成分を溶媒抽出し、その溶媒抽出物を濃縮してトチバニンジン属植物の抽出物を得る工程である。
【0017】
前記抽出溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クロロホルム、ジエチルエーテル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル等が挙げられる。
前記溶媒抽出工程を行う回数としては、特に制限はないが、前記アセチレン化合物の収率を向上させる観点から、複数回行うことが好ましい。
前記溶媒抽出の具体的な方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、効率的に溶媒抽出が可能であることから、例えば、前記トチバニンジン属植物の粉末に前記抽出溶媒を添加し、均一に混ぜた後、超音波装置等を用いて抽出する方法が好ましい。
【0018】
<<画分溶出工程>>
前記画分溶出工程は、前記溶媒抽出物を複数に分画された画分ごとに溶出溶媒に溶出し、その溶出物を濃縮して前記アセチレン化合物の溶出画分を得る工程である。
【0019】
前記溶出溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イソオクタン、ジエチルエーテル、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、四塩化炭素、トルエン、ジクロロメタン、2−プロパノール、酢酸エチル、1−プロパノール、アセトン、エタノール、メタノール等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記画分溶出工程を行う回数としては、特に制限はないが、前記アセチレン化合物の収率を向上させる観点から、複数回行うことが好ましい。
また、前記溶出溶媒に画分を溶出するに際し、予め、前記画分をカラムに供し、洗浄を行うことが好ましい。前記洗浄に用いる洗浄剤としては、前記溶出溶媒を含む溶媒を用いることができる。
また、前記画分溶出の具体的な方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビーカー等の容器に前記溶媒抽出物と前記溶出溶媒を加え、室温、大気圧にて溶出させ、該溶出物から不溶分をろ過して除き、可溶分を得る方法等が挙げられる。
なお、前記溶出に際し、溶出効果を高める観点から、攪拌装置もしくは超音波装置を用いることが好ましい。また、前記ろ過に際し、分液ロートを用いて液―液抽出を行い、不要な物質を除くことが好ましい。
【0020】
<<粗生成物分画工程>>
前記粗生成物分画工程は、複数の溶出画分の全量を順相クロマトグラフィーにより分画して粗生成物を得る工程である。
【0021】
前記順相クロマトグラフィーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、順相薄層クロマトグラフィーやスティックタイプの順相クロマトグラフィー(例えば、GLサイエンス社製TLCスティック)が挙げられる。
前記順相薄相クロマトグラフィーによる場合、溶出画分の溶解に用いられる溶媒としては、前記抽出溶媒と同様の溶媒を用いることができる。
また、溶出画分を溶解させた溶媒を、順相薄層クロマトグラフィープレートにアプライし、展開用の溶媒を用いて展開させた後、紫外線を照射して、消光する付近の領域を掻き取ることで、粗生成物を得ることができる。
この際、前記展開用の溶媒としては、例えば、クロロホルムとメタノールとの混合液を用いることができる。
【0022】
<<精製物分画工程>>
前記精製物分画工程は、前記粗生成物を逆相クロマトグラフィーにより分画して精製アセチレン化合物を得る工程である。
前記逆相クロマトグラフィーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー(逆相HPLC)、逆相薄層クロマトグラフィー法(逆相TLC)が挙げられる。
【0023】
前記逆相高速液体クロマトグラフィーの条件としては、例えば、以下の条件により行うことができる。
<条件>
・装置名 :LC−20A、島津製作所製
・検出器 :紫外吸光光度計(測定波長202nm)
・カラム :SHISEIDO CAPCELLPAK C18(10×150mm、5μm)、資生堂製
・カラム温度 :40℃付近の一定温度
・移動相 :70%アセトニトリル
・流速 :4mL/min
この条件で、前記逆相高速液体クロマトグラフィーを行ったとき、前記アセチレン化合物は、溶出時間8.3分に表れるピークを有する化合物として、分取することができる(図1参照)。
【0024】
前記アセチレン化合物の同定方法としては、特に制限はないが、H−NMR、13C−NMR等が挙げられる。
また、前記アセチレン化合物におけるRとRの具体的構造の同定方法としては、特に制限はなく、例えば、MS、IR等の測定方法が挙げられる。
【0025】
前記アセチレン化合物の用途としては、特に制限はないが、血糖低下作用を有することから、血糖低下剤組成物、血糖低下剤、抗糖尿病剤、高血糖改善剤等が挙げられる。
【0026】
(血糖低下剤組成物)
本発明の血糖低下剤組成物は、本発明の前記アセチレン化合物を含むこととしてなり、必要に応じて、その他の成分を含む。
【0027】
前記血糖低下剤組成物における前記アセチレン化合物の含有量としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記血糖低下剤組成物は、前記アセチレン化合物そのものであってもよい。
【0028】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
前記血糖低下剤組成物としては、製剤化により血糖低下剤、抗糖尿病剤等の治療剤として用いることができる。
前記製剤化の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の製剤技術により行なうことができ、製剤中には適当な添加物も加えることができる。
また、前記血糖低下剤組成物を含む治療剤としては、経口的に投与するか、経皮的に投与するのが望ましい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
田七人参乾燥粉末50gずつを500mLのクロロホルムで3回、室温にて1時間抽出、濃縮という一連の工程を、20回繰り返し、クロロホルム抽出物を総量2.0011g得た。
この抽出物0.1gずつをイソオクタンで充填したシリカゲルカラム(ワコーゲルC−200:和光純薬社製、径15mm、30cm)に供し、イソオクタン:ジエチルエーテル(容量比9:1)混合溶媒150mLで洗浄後、同(容量比3:1)混合溶媒150mLで溶出濃縮し、この一連の工程を20回繰り返すことで501.0mgの溶出画分を得た。
この501.0mgをクロロホルム5mLに溶かし順相薄相クロマトグラフィプレート(PLC−シリカゲル60 F254S、1.0mm、20×20cm:Merck社製)にアプライし、クロロホルム:メタノール(容量比19:1)混合溶媒で展開した。波長254nmの紫外光の照射により消光するR値0.4〜0.5付近の帯を掻取り、クロロホルム抽出し、掻取り画分50.2mgを得た。
次に、この50.2mg(全量)に対して、以下の条件で高速液体クロマトグラフィーを行い、溶出時間(Retention Time;RT)8.3分のピークを分取し(図1)、実施例1におけるアセチレン系化合物7.2mgを得た。
<試験条件>
・装置名 :LC−20A、島津製作所製
・検出器 :紫外吸光光度計(測定波長202nm)
・カラム :SHISEIDO CAPCELLPAK C18(10×150mm、5μm)、資生堂製
・カラム温度 :40℃付近の一定温度
・移動相 :70%アセトニトリル
・流速 :4mL/min
【0032】
実施例1におけるアセチレン化合物に対するH−NMRの測定結果は、図2に示す通りであり、上記分画法にて得られた新規アセチレン系化合物を更に同様のHPLC操作を繰返し、精製した後、以下の条件でプロトン-NMR分析し、スペクトルから分子内にアセチレン基、エチレン基、エポキシ基と、アルコール基又は糖置換アルコール基を有する化合物であることが確認できた。
即ち、下記一般式(1)に示す化合物のうち、1−アルキル−1,2−エポキシ−7−オクテン−4−イン−6−オール又は1−アルキル−1,2−エポキシ−7−オクテン−4−イン−6−O−グリコシドと考えられる。
H−NMR測定条件>
・装置名:パルスフーリエ変換NMRスペクトル測定装置 ECX−500(日本電子社製)
・装置の周波数:500MHz
・測定溶媒:重クロロホルム
・測定温度:室温
・サンプル調製:精製有効画分5mgをNMR試験管(外径5mm)にとり、液量が4cmになるよう0.5mLの重クロロホルムに溶解
【0033】
【化3】

【0034】
実施例1におけるアセチレン化合物を用いて下記のように、実施例1における血糖低下剤組成物を調製した。
得られたアセチレン化合物を10,000ppmの濃度となるよう99.5%エタノールに溶解し、該溶解物を細胞評価試験に用いた。
【0035】
(比較例1)
実施例1におけるアセチレン化合物を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1における血糖低下剤組成物を調製した。
【0036】
(比較例2)
実施例1におけるアセチレン化合物に代えて、インスリン終濃度100nMを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2における血糖低下剤組成物を調製した。
【0037】
(比較例3)
実施例1におけるアセチレン化合物に代えて、以下の方法により得られた比較化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3における血糖低下剤組成物を調製した。
得られた比較化合物を10,000ppmの濃度となるよう99.5%エタノールに溶解し、該溶解物を細胞評価試験に用いた。
比較化合物は、実施例1における高速液体クロマトグラフィーにおいて、溶出時間8.3分のピークに代えて、溶出時間7.7分のピークのもの(図1参照)を分取したこと以外は、実施例1と同様にして得られる化合物である。
【0038】
前記比較化合物について、実施例1のアセチレン化合物に対するH−NMR測定と同様の条件で、H−NMR測定を行った結果を図3に示す。
この図3のH−NMR測定チャートから、比較化合物は、1−Alkyl−1,2−epoxy−7−octen−4−yne−6−olであると考えられる。
【0039】
(血糖低下の評価方法)
血糖低下は、肝臓や筋肉及び細胞脂肪への糖の取り込み促進によって引き起こされる。ところが、高血糖者や糖尿病患者は筋肉細胞の糖取り込み能のみが低下し、血糖値が高値となる。
本実施例では、治療薬、薬学的組成物への応用を考慮して、筋肉細胞の糖取り込み活性をもって血糖低下とする。
具体的には、筋肉細胞への糖取り込みを活性化させる成分が、筋肉細胞に取り込まれたりあるいは筋肉細胞上にある糖取り込み経路関連因子に刺激または作用すると、筋肉細胞の糖取り込み機能が活性化され、筋肉細胞に糖が取り込まれる。この筋肉細胞に取り込まれた糖の量に応じて、血液中の血糖値が下がることになる。そこで、本実施例では、実施例1及び比較例1〜3における血糖低下剤組成物を用いたときの筋肉細胞における糖取り込み量を以下のように測定することで、血糖低下を評価した。
【0040】
ラット骨格筋由来細胞(L6細胞、大日本製薬社製)を10%FBS(Fetal bovine serum;ウシ胎児血清)及び1%AB(抗生物質)を含むDMEM(Doulbecco’s modified Eagle’s Medium)培地15mLに懸濁し、75cm培養フラスコに分注し37℃、5%CO環境下で増殖・分化させ、実施例1及び比較例1〜3における血糖低下剤組成物を培地に対して10ppmになるようを添加した。
その後、RI(radioisotope)ラベルされた2−デオキシグルコース(2−DG)(American Radiolabeled Chemicals社製)を終濃度6.5mM(0.5μCi)となるよう添加した。
取り込み反応開始5分後に細胞を氷冷したKRHBufferにて余分な2−DGを洗浄後、細胞を溶解し、細胞内に取り込まれたRIラベルされた2−DGの放射活性を液体シンチレーションカウンター装置(LSC−5100、Aloka)社製により測定し、その単位時間当りの測定個数(count/min)をもって、糖取り込み量(RI取り込み量)とした。
【0041】
この測定を4回行い、その測定結果を以下の評価基準を基に評価した。4回の測定結果に関する統計解析は、全てスチューデントt検定で実施した。
なお、上記統計解析において、P<0.05で有意な差とした(*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001)。ただし、P値は、有意確率を示す。
また、下記表1において糖取り込み量(RI取り込み量)は、4回の測定結果の平均値を示している。
【0042】
下記表1から理解されるように、実施例1における溶出時間8.3分のアセチレン化合物を有効成分とする血糖低下剤組成物を細胞に添加すると、非添加の比較例1の血糖低下剤組成物に比べ1.8倍と高い糖取り込み量(RI取り込み量)を示した。
また、実施例1におけるアセチレン化合物を有効成分とする血糖低下剤組成物は、既に有効成分として知られているインスリンを含む血糖低下剤組成物(比較例2)よりも高い糖取り込み量(RI取り込み量)を示した。
また、溶出時間7.7分の比較化合物を含む血糖低下剤組成物では、糖取り込み量(RI取り込み量)の増加が確認されなかった。したがって、田七人参から分画される画分のうち、溶出時間8.3分のアセチレン化合物が糖取り込み活性作用を有すると推察される。
【0043】
なお、表1では、参考として、サイトカラシンBを含む血糖低下剤組成物についての評価を示した。サイトカラシンBは、糖取り込み阻害剤として一般的であり、血糖低下を評価する系として、実施例1及び比較例1〜3の系が成立しているかを示すネガティブコントロールとして測定したものである。下記表1に示すように、サイトカラシンBを含む血糖低下剤組成物は、糖取り込み阻害剤として糖取り込み量が比較例1よりも低い値を示しており、血糖低下を評価する系として、実施例1及び比較例1〜3の系が成立しているものと考えることができる。なお、サイトカラシンBを含む血糖低下剤組成物は、実施例1におけるアセチレン化合物に代えて、サイトカラシンB(終濃度20μM)を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、調製したものである。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のアセチレン化合物は、優れた血糖低下作用を有し、血糖低下剤組成物、血糖低下剤、抗糖尿病、高血糖改善剤等として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とするアセチレン化合物。
【化4】

ただし、前記一般式(1)中、Rは、水素原子及び炭素数24以下の直鎖又は分岐していてもよいアルキル基のいずれかを示し、Rは、水素原子及び糖のいずれかを示す。
【請求項2】
トチバニンジン属植物の抽出成分を分画して得られる請求項1に記載のアセチレン化合物。
【請求項3】
トチバニンジン属植物が田七人参である請求項1から2のいずれかに記載のアセチレン化合物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のアセチレン化合物を有効成分として含むことを特徴とする血糖低下剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−275193(P2010−275193A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126296(P2009−126296)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】