説明

アリールカルボン酸誘導体を有効成分とする糖化最終産物形成阻害剤

【課題】新規なAGE形成阻害剤を提供すること。
【解決手段】
次の一般式(1)
【化1】



[式中、Rは、C〜Cアルキルオキシ基、置換基を有してもよいC〜C14炭素環基又は置換基を有してもよい5〜14員複素環基を示し、A及びXは、独立して単結合又はC〜Cアルキレン基を示し、Yは、単結合、−O−(C〜Cアルキレン基)−又は−NH−(C〜Cアルキレン基)−を示し、Zは、酸素原子又はN−R(ここで、Rは、C〜Cアルキル基又は(C〜Cアルキレン基)−(CO)−Rを示し、Rは、NR,ピペリジノ基又はモルホリノ基を示し、R及びRは、同一又は異なって水素原子又はC〜Cアルキル基を示し、nは0又は1を示す)を示す]で表されるアリールカルボン酸誘導体若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするAGE形成阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸球体病変における不可逆的蛋白修飾による糖尿病性腎症の発症又は進展に対する予防及び/又は治療に有用な薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、本邦では糖尿病患者、糖尿病が疑われる患者及び糖尿病予備群が約2千万人存在するといわれている。糖尿病を起因とした合併症のうち、糖尿病性腎症の発症率は年々増加の推移をたどり、透析導入原因としてすでに慢性糸球体腎炎を上回り第一位となっている。
【0003】
糖尿病性腎症が発症した場合における最大の問題点は、末期腎不全即ち透析への移行率が、非常に高いことにある。また、糖尿病性腎症による透析への移行は医療費高騰等の社会的に大きな問題となっている。そこで、糖尿病性腎症に関わる治療剤、又は予防を期待できる薬剤が強く望まれている。
【0004】
糖尿病性腎症の成因には、(1)遺伝的素因をはじめとして、(2)糸球体血行動態変化、(3)グリケーションの亢進やカルボニル・酸化ストレスにより生じた糖化最終産物(Advanced Glycation End Products(以下、「AGE」と称する))の蓄積、(4)Protein Kinase Cの活性化や、(5)ポリオール代謝の亢進等、様々な因子の関与が考えられている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。
【0005】
現在、糖尿病性腎症の治療現場では、糸球体血行動態の改善を主目的としたアンジオテンシン変換酵素阻害剤(以下、「ACE阻害剤」と称する)やアンジオテンシンIIの1型受容体拮抗剤(以下、「ARB」と称する)が汎用されており、基礎のみならず臨床的なevidenceが報告されている(非特許文献6、非特許文献7)。しかしながら、これらの多くは血圧降下剤として認可されており、糖尿病性腎症の治療剤としての認可はほとんどなされていない。単に、糖尿病性腎症の患者の多くは高血圧であることから、これらが汎用されているに過ぎない。なお、ACE阻害剤の塩酸イミダプリルは1型糖尿病性腎症の治療剤として初めて認可されたものの、糖尿病性腎症に対する治療又は予防的作用を有する薬剤はほとんどなく、新規な薬剤の登場が切望されている。
【0006】
そこで次の糖尿病性腎症の治療剤として、AGE形成阻害剤が注目を浴びている。AGEで修飾されたタンパクは腎循環動態、腎糸球体基底膜の濾過機構等、多数の腎機能に悪影響を及ぼし、また、AGE自身がメサンギウム細胞等の腎構成細胞に多数存在するAGE関連受容体(例えば、Receptor for AGE:RAGE)に作用して、サイトカインや増殖因子等の障害因子を産生させることが報告されている(非特許文献8)。従って、AGEの形成を抑制することは、糖尿病性腎症の進展抑制に繋がると考えられる。
【0007】
アミノグアニジンは、反応性カルボニル化合物(3−デオキシグルコソン、メチルグリオキサール等)の捕捉作用、酸素ラジカル(特に、ヒドロキシラジカル)の捕捉作用及び金属キレート形成作用により、AGEの形成を阻害すると考えられており、AGE阻害に基づく糖尿病性腎症の治療剤として、最初に本格的な研究がなされた化合物である。しかし、これはすでに臨床治験も終了したが、いまだ実用化には至っていない(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)。
【0008】
また、その他のAGE形成阻害剤としてはアミノグアニジンの誘導体であるOPB−9195、LR−90、ALT−946、天然化合物及びその類縁体であるチアミン(ビタミンB1)、チアミンピロリン酸、ベンフォチアミン等幾つかの化合物が知られている(非特許文献12)が、いずれも実用化には至っていない。
その一方で下記一般式(1)で示されるようなアリールカルボン酸誘導体を骨格として持つAGE形成阻害剤は知られていなかった。
【0009】
【非特許文献1】Cooper, M. E. et al.; Lancet, 352, 213-219, 1998.
【非特許文献2】槙野博史;糖尿病性腎症発症・進展機序と治療:80−121,1999年;診断と治療社
【非特許文献3】Bohlender, J. et al.; Am. J. Physiol. Renal Physiol., 289, F645-F659, 2005
【非特許文献4】D, Jay. et al.; Free Radical Biology & Medicine, 40, 183-192, 2006
【非特許文献5】Vinik, A.; Expert Opin. Investig. Drugs, 14(12), 1547-1559, 2005
【非特許文献6】Masakuni, N. et al.; Jpn. J. Pharmacol., 85: 416-422, 2001
【非特許文献7】Rossing, K. et al.; Diabetes Care., 28(9): 2106-2112, 2005
【非特許文献8】Locatelli, F. et al.; Nephrol.Dial.Transplant., 18(9): 1716-25, 2003
【非特許文献9】Price,DL.et al.; J. Biol. Chem., 276, 48967-48972, 2001
【非特許文献10】Abdel-Rahman, E. et al.; Expert Opin. Investig. Drugs., 11(4): 565-574, 2002
【非特許文献11】Mark E. et al.; Current Diabetes Reports., 4: 441-446, 2004
【非特許文献12】今泉勉 ほか;AGEs研究の最前線:209−217,2004年;メディカルレビュー社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、新規なAGE形成阻害剤を提供することにある。AGE形成阻害剤は糸球体病変における不可逆的蛋白修飾による糖尿病性腎症の発症及び進展に対する予防又は治療に有用である。また、原疾患が糖尿病性腎症と診断されていない患者であっても、慢性糸球体腎炎や高血圧性腎症等の糸球体疾患により透析移行している患者の多くは血漿中のAGEが著しく増加しているという周知の事実から、AGE形成阻害剤は糖尿病性腎症のみならず、慢性糸球体腎炎や高血圧性腎症等も含めた糸球体疾患に対する予防又は治療に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記実情に鑑み、本発明者らは、AGE形成阻害作用を持つ化合物を探索した結果、下記一般式(1)で表されるアリールカルボン酸誘導体が、AGEの一種であるペントシジンを指標にしたin vitro系での阻害試験において、アミノグアニジンと比較して、強いAGE形成阻害作用を有することを見出し、また、下記一般式(1)で表される化合物がin vivo系において、尿中排泄アルブミン量が減少することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記一般式(1)
【0013】
【化1】

【0014】
[式中、Rは、C〜Cアルキルオキシ基、置換基を有してもよいC〜C14炭素環基又は置換基を有してもよい5〜14員複素環基を示し、A及びXは、独立して単結合又はC〜Cアルキレン基を示し、Yは、単結合、−O−(C〜Cアルキレン基)−又は−NH−(C〜Cアルキレン基)−を示し、Zは、酸素原子又はN−R(ここで、Rは、C〜Cアルキル基又は(C〜Cアルキレン基)−(CO)−Rを示し、Rは、NR,ピペリジノ基又はモルホリノ基を示し、R及びRは、同一又は異なって水素原子又はC〜Cアルキル基を示し、nは0又は1を示す)を示す]で表されるアリールカルボン酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物で表される化合物を有効成分とするAGE形成阻害剤を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、一般式(1)で示されるアリールカルボン酸誘導体が、[4−(2−メチル−5−メチルオキシインドール−3−イル)メチルカルボキシ]安息香酸 2−[4−(モルホリノエチル)ピペラジノ]エチル、4−[(クマリン−3−イル)カルボキシ]ベンゾイル 4−イソプロピルピペラジン、4−[[(ナフタレン−1−イル)メチル]カルボキシ]安息香酸 2−モルホリノエチル、4−[[(ナフタレン−1−イル)メチル]カルボキシ]安息香酸 2−[4−[(N,N−ジメチルカルバモイル)メチル]ピペラジノ]エチル、4−[(2,3,3α,7α−テトラヒドロインデン−2−イル)カルボキシ]安息香酸 2−モルホリノエチル、4−[(8−メトキシ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)カルボキシ]ベンゾイル 4−[(N−イソプロピルカルバモイル)メチル]ピペラジン、4−(シクロヘキサンカルボキシ)安息香酸 2−[4−[(モルホリノカルボニル)メチル]ピペラジノ]エチル、4−[(ナフタレン−1−イル)メチルカルボキシ]ベンゾイル 2−[4−[(モルホリノカルボニル)メチル]ピペラジノ]エチルアミン、4−[(5−メチル−3−フェニルイソオキサゾール−4−イル)カルボキシ]ベンゾイル 4−イソプロピルピペラジン、4−[(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル)カルボキシル]フェニルアセチル 4−イソプロピルピペラジン、4−(フェニルカルボキシ)安息香酸 2−モルホリノエチル及び[4−(エチルオキシカルボニルオキシ)]安息香酸 2−[4−(2−モルホリノエチル)ピペラジノ]エチルからなる群から選ばれる化合物である、AGE形成阻害剤を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、一般式(1)で表されるAGE形成阻害剤を有効成分とする糸球体疾患の予防又は治療剤を提供するものである。
【0017】
さらに、本発明は、一般式(1)で表されるAGE形成阻害剤を有効成分とする糖尿病性腎症の予防又は治療剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一般式(1)で表されるアリールカルボン酸誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物は、後記試験例に示すように、優れたAGE形成阻害作用を有すること、糖尿病モデル動物(db/dbマウス)で糖尿病性腎症の緩和を示すことから、糸球体疾患の予防及び/又は治療剤、特に糖尿病性腎症の予防及び/又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明における定義は以下の通りである。
「C〜Cアルキル基」とは、炭素数1乃至6個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基又は2−エチルブチル基である。本発明の「C〜Cアルキル基」は、好適には「C〜Cアルキル基」であり、より好適にはメチル基、n−ブチル基又はt−ブチル基である。
【0020】
「C〜Cアルキル基」とは、炭素数1乃至4個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基又はt−ブチル基である。
【0021】
「C〜Cアルキルオキシ基」とは、そのアルキル基部位が上記定義の直鎖状又は分岐鎖状の「C〜Cアルキル基」である炭素数1乃至6個のアルキルオキシ基を意味し、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、イソペントキシ基、2−メチルブトキシ基、ネオペントキシ基、1−エチルプロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、4−メチルペントキシ基、3−メチルペントキシ基、2−メチルペントキシ基、1−メチルペントキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、1,1−ジメチルブトキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、1−エチルブトキシ基又は2−エチルブトキシ基である。本発明の「C〜Cアルキルオキシ基」は、好適には「C〜Cアルキルオキシ基」であり、より好適にはメトキシ基又はn−ブトキシ基である。
【0022】
「C〜Cアルキルオキシ基」とは、そのアルキル基部位が前記定義の直鎖状又は分岐鎖状の「C〜Cアルキル基」である炭素数1乃至4個のアルキルオキシ基を意味し、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基又はt−ブトキシ基である。
【0023】
「置換基を有してもよいC〜C14炭素環基」とは、単環あるいは多環の炭素数3乃至14個の飽和又は不飽和(部分的不飽和及び完全不飽和を含む)の炭素環基を意味する。「C〜C14炭素環基」としては、例えば、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、芳香環基が挙げられる。
【0024】
「シクロアルキル基」とは、炭素数3乃至14個の飽和炭素環基であり、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノナニル基又はシクロデカニル基等である。
【0025】
「シクロアルケニル基」とは、炭素数3乃至14個の不飽和炭素環基であり、例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル(例えば、2,4−シクロヘキサジエン−1−イル又は2,5−シクロヘキサジエン−1−イル基等)、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基、ビシクロ[4.1.0]ヘプタ−1,3,5−トリエニル基又は1,2−ジヒドロベンゾシクロブテニル基等である。
【0026】
「芳香環基」とは、炭素数6乃至14個の芳香環を1以上含む炭素環基であり、飽和炭素環基、部分的不飽和炭素環基又は芳香環基が縮環してもよく、単環及び縮環を包含し、例えば、フェニル基、ナフタレン−1−イル基、ナフタレン−2−イル基、アントラセニル基、インダン−1−イル基、インダン−2−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロベンゾシクロヘプテン−1−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロベンゾシクロヘプテン−2−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロベンゾシクロヘプテン−3−イル基、1,2,3,4,5,6−ヘキサヒドロベンゾシクロヘプテン−1−イル基、1,2,3,4,5,6−ヘキサヒドロベンゾシクロヘプテン−2−イル基、1,2,3,4,5,6−ヘキサヒドロベンゾシクロヘプテン−3−イル基等である。
【0027】
本発明の「置換基を有してもよいC〜C14炭素環基」は、好適には「置換基を有してもよいC〜C14炭素環基」であり、より好適にはシクロヘキシル基、インダン−2−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル基である。
【0028】
「置換基を有してもよいC〜C14炭素環基」とは、炭素数5乃至14個のシクロアルキル基、シクロアルケニル基又は芳香環基であり、具体的にはシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノナニル基、シクロデカニル基、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル(例えば、2,4−シクロヘキサジエン−1−イル又は2,5−シクロヘキサジエン−1−イル基等)、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基、ビシクロ[4.1.0]ヘプタ−1,3,5−トリエニル基、1,2−ジヒドロベンゾシクロブテニル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、インデニル基、アズレニル基、フルオレニル基又はフェナントリル基等である。
【0029】
「置換基を有してもよい5〜14員複素環基」における「複素環基」とは、炭素原子の他に、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1つ、好ましくは1乃至4個のヘテロ原子を包含する飽和若しくは不飽和(部分的不飽和及び完全不飽和を含む)の複素環基を意味し、該複素環基は炭素環基と縮環してよい。
【0030】
ここで、「単環である飽和の複素環基」としては、ピロリジニル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロチエニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、1,3−ジオキソラニル基、1,3−オキサチオラニル基、オキサゾリジニル基、チアゾリジニル基、ピペリジニル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、ピペラジノ基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、ジオキサニル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、2−オキソピロリジニル基、2−オキソピペリジニル基、4−オキソピペリジニル基又は2,6−ジオキソピペリジニル基等を挙げることができる。
【0031】
また、「単環である不飽和の複素環基」としては、ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、1,2−ジヒドロ−2−オキソイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジアゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、1,2,4−トリアゾリル基、1,2,3−トリアゾリル基、テトラゾリル基、1,3,4−オキサジアゾリル基、1,2,4−オキサジアゾリル基、1,3,4−チアジアゾリル基、1,2,4−チアジアゾリル基、フラザニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、3,4−ジヒドロ−4−オキソピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、1,3,5−トリアジニル基、イミダゾリニル基、ピラゾリニル基、オキサゾリニル基(例えば、2−オキサゾリニル基、3−オキサゾリニル基、4−オキサゾリニル基等)、イソオキサゾリニル基、チアゾリニル基、イソチアゾリニル基、ピラニル基、2−オキソピラニル基、2−オキソ−2,5−ジヒドロフラニル基又は1,1−ジオキソ−1H−イソチアゾリル基を挙げることができる。
【0032】
また、「縮合環である複素環基」としては、インドリル基(例えば、3−インドリル基、4−インドリル基、7−インドリル基等)、イソインドリル基、1,3−ジヒドロ−1,3−ジオキソイソインドリル基、ベンゾフラニル基(例えば,4−ベンゾフラニル基、7−ベンゾフラニル基等)、インダゾリル基、イソベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基(例えば、4−ベンゾチオフェニル基、7−ベンゾチオフェニル基等)、ベンゾオキサゾリル基(例えば、4−ベンゾオキサゾリル基、7−ベンゾオキサゾリル基等)、ベンゾイミダゾリル基(例えば、4−ベンゾイミダゾリル基、7−ベンゾイミダゾリル基等)、ベンゾチアゾリル基(例えば、4−ベンゾチアゾリル基、7−ベンゾチアゾリル基等)、インドリジニル基、キノリル基、イソキノリル基、1,2−ジヒドロ−2−オキソキノリル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノリジニル基、プリル基、プテリジニル基、インドリニル基、イソインドリニル基、5,6,7,8−テトラヒドロキノリル基、1,2,3,4−テトラヒドロキノリル基、2−オキソ−1,2,3,4−テトラヒドロキノリル基、ベンゾ[1.3]ジオキソリル基、2,3−ジヒドロベンゾ[1.4]ゾオキシリル基、3,4−メチレンジオキシピリジル基、4,5−エチレンジオキシピリミジニル基、クロメニル基、クロマニル基又はイソクロマニル基等を挙げることができる。
【0033】
これら「複素環基」の好適な例としては、フリル基(例えば、2−フリル基、3−フリル基等)、チエニル基(例えば、2−チエニル基、3−チエニル基等)、ピリジル基(例えば、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基等)、ピリミジニル基(例えば、2−ピリミジニル基、4−ピリミジニル基、5−ピリミジニル基、6−ピリミジニル基等)、ピリダジニル基(例えば、3−ピリダジニル基、4−ピリダジニル基等)、ピラジニル基(例えば、2−ピラジニル基等)、ベンゾピラノイル基(例えば、ベンゾピラン−2−オン−3−イル基等)、ピロリル基(例えば、1−ピロリル基、2−ピロリル基、3−ピロリル基等)、イミダゾリル基(例えば、1−イミダゾリル基、2−イミダゾリル基、4−イミダゾリル基、5−イミダゾリル基等)、ピラゾリル基(例えば、1−ピラゾリル基、3−ピラゾリル基、4−ピラゾリル基等)、オキサゾリル基(例えば、2−オキサゾリル基、4−オキサゾリル基、5−オキサゾリル基等)、イソオキサゾリル基、チアゾリル基(例えば、2−チアゾリル基、4−チアゾリル基、5−チアゾリル基等)、イソチアゾリル基、オキサジアゾリル基(例、1,2,4−オキサジアゾール−5−イル基、1,3,4−オキサジアゾール−2−イル基等)、チアジアゾリル基(例えば、1,3,4−チアジアゾール−2−イル基等)、トリアゾリル(例えば、1,2,4−トリアゾール−1−イル基、1,2,4−トリアゾール−3−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−2−イル基、1,2,3−トリアゾール−4−イル基等)、テトラゾリル基(例えば、テトラゾール−1−イル基、テトラゾール−5−イル基等)、キノリル基(例えば、2−キノリル基、3−キノリル基、4−キノリル基等)、キナゾリル基(例えば、2−キナゾリル基、4−キナゾリル基等)、キノキサリル基(例えば、2−キノキサリル基等)、ベンゾフリル基(例えば、2−ベンゾフリル基、3−ベンゾフリル基等)、ベンゾチエニル基(例えば、2−ベンゾチエニル基、3−ベンゾチエニル基等)、ベンゾオキサゾリル基(例えば、2−ベンゾオキサゾリル基等)、ベンゾチアゾリル基(例えば、2−ベンゾチアゾリル基等)、ベンゾイミダゾリル基(例えば、ベンゾイミダゾール−1−イル基、ベンゾイミダゾール−2−イル等)、インドリル基(例えば、インドール−1−イル基、インドール−3−イル基等)、1H−インダゾリル基(例えば、1H−インダゾール−3−イル基等)、1H−ピロロ[2,3−b]ピラジニル基(例えば、1H−ピロロ[2,3−b]ピラジン−2−イル基等)、1H−ピロロピリジニル基(例えば、1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−6−イル基等)、1H−イミダゾピリジニル基(例えば、1H−イミダゾ[4,5−b]ピリジン−2−イル基、1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−2−イル基等)、1H−イミダゾピラジニル基(例えば、1H−イミダゾ[4,5−b]ピラジン−2−イル基等)、トリアジニル基、イソキノリル基、ベンゾオキサジアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基及びベンズトリアゾリル基等を挙げることができる。本発明の「5〜14員複素環」は、好適には「5〜10員複素環」であり、より好適には、インドリル基、イソオキサゾリル基、クロメニル基又はベンゾピラノイル基である。
【0034】
「5〜10員複素環」とは、その複素環部位が前記定義の「複素環」である、環状基と縮環してもよい5乃至10員の複素環を意味する。
【0035】
「C〜Cアルキレン基」とは、炭素数1乃至6個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を意味し、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、s−ブチレン基、t−ブチレン基、n−ペンチレン基、イソペンチレン基、2−メチルブチレン基、ネオペンチレン基、1−エチルプロピレン基、n−ヘキシレン基、イソヘキシレン基、4−メチルペンチレン基、3−メチルペンチレン基、2−メチルペンチレン基、1−メチルペンチレン基、3,3−ジメチルブチレン基、2,2−ジメチルブチレン基、1,1−ジメチルブチレン基、1,2−ジメチルブチレン基、1,3−ジメチルブチレン基、2,3−ジメチルブチレン基、1−エチルブチレン基又は2−エチルブチレン基である。本発明の「C〜Cアルキレン基」は、好適には「C〜Cアルキレン基」であり、より好適にはメチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基である。
【0036】
「C〜Cアルキレン基」とは、炭素数1乃至4個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を意味し、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、s−ブチレン基又はt−ブチレン基である。
【0037】
「置換基を有してもよい」における「置換基」とは、C〜Cアルキル基、C〜Cアルキルオキシ基、C〜C14炭素環基、5〜14員複素環基又はハロゲン原子を意味し、その置換基の数は、1乃至3個を意味する。C〜Cアルキル基、C〜Cアルキルオキシ基、C〜C14炭素環基及び5〜14員複素環基は、前記定義のものを意味し、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
【0038】
「脱離基」とは、ハロゲン原子、アリールスルホニルオキシ基及びアルキルスルホニルオキシ基等の脱離能の高い基を意味し、好適には塩素原子である。
【0039】
「アリールスルホニルオキシ基」とは、そのアリール基部位が前記定義の炭素数6乃至14個のアリールスルホニルオキシ基を意味し、「アルキルスルホニルオキシ基」とは、そのアルキル基部位が前記定義の炭素数1乃至6個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキルスルホニル基を意味する。
【0040】
その他、ここに定義のない基については、通常の定義に従う。
【0041】
本発明の一般式(1)で表される具体的なアリールカルボン酸誘導体として、[4−(2−メチル−5−メチルオキシインドール−3−イル)メチルカルボキシ]安息香酸 2−[4−(モルホリノエチル)ピペラジノ]エチル、4−[(クマリン−3−イル)カルボキシ]ベンゾイル 4−イソプロピルピペラジン、4−[[(ナフタレン−1−イル)メチル]カルボキシ]安息香酸 2−モルホリノエチル、4−[[(ナフタレン−1−イル)メチル]カルボキシ]安息香酸 2−[4−[(N,N−ジメチルカルバモイル)メチル]ピペラジノ]エチル、4−[(2,3,3α,7α−テトラヒドロインデン−2−イル)カルボキシ]安息香酸 2−モルホリノエチル、4−[(8−メトキシ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)カルボキシ]ベンゾイル 4−[(N−イソプロピルカルバモイル)メチル]ピペラジン、4−(シクロヘキサンカルボキシ)安息香酸 2−[4−[(モルホリノカルボニル)メチル]ピペラジノ]エチル、4−[(ナフタレン−1−イル)メチルカルボキシ]ベンゾイル 2−[4−[(モルホリノカルボニル)メチル]ピペラジノ]エチルアミン、4−[(5−メチル−3−フェニルイソオキサゾール−4−イル)カルボキシ]ベンゾイル 4−イソプロピルピペラジン、4−[(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル)カルボキシル]フェニルアセチル 4−イソプロピルピペラジン、4−(フェニルカルボキシ)安息香酸 2−モルホリノエチル及び[4−(エチルオキシカルボニルオキシ)]安息香酸 2−[4−(2−モルホリノエチル)ピペラジノ]エチルなどが挙げられる。
【0042】
一般式(1)で表されるアリールカルボン酸誘導体は、以下に記載した製薬学的に許容される塩に代表される任意の塩を形成することができ、これらの塩も本発明に包含される。
【0043】
本発明のアリールカルボン酸誘導体の製薬学的に許容される塩としては、具体的には、化合物を塩基性化合物として扱う場合は、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等)や有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等)との酸付加塩等が挙げられ、化合物を酸性化合物として扱う場合には、無機塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、バリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)や有機塩(例えば、ピリジニウム塩、ピコリニウム塩、トリエチルアンモニウム塩等)が挙げられる。
【0044】
また、一般式(1)で表されるアリールカルボン酸誘導体は、水和物に代表される任意の溶媒和物を形成することができ、これらの溶媒和物も本発明に包含される。
【0045】
さらに、一般式(1)で表されるアリールカルボン酸誘導体に、光学異性体や幾何異性体が存在する場合は、これらすべての異性体が本発明に包含される。
【0046】
本発明の一般式(1)で表されるアリールカルボン酸誘導体は、特開昭57−203060及び特開昭58−092659等に記載の方法により製造することができる。即ち、以下の通り製造することができる。
【0047】
[1]Zが酸素原子を示す時、4−置換フェノール誘導体(II)とカルボン酸誘導体(III)をエステル化させることで、アリールカルボン酸誘導体(1’)を製造することができる。
【0048】
【化2】

【0049】
[式中、A,R,X及びYは前記と同じものを示し、Bは脱離基を示す。]
【0050】
[2]Zが、N−Rを示す時、4−置換フェノール誘導体(II’)より公知の方法で窒素原子を修飾し、アルキルアミノ誘導体(II")を製造することができる。アルキルアミノ誘導体(II")とカルボン酸誘導体(III)を公知の方法に従いアリールカルボン酸誘導体(1")を製造することができる。
【0051】
【化3】

【0052】
[式中、A,R,R,X及びYは前記と同じものを示し、Bは、脱離基を示す。]
【0053】
[3]Yが−O−(C〜Cアルキレン基)を示す時、4−置換フェノール誘導体(II''')は以下の通り製造することができる。
即ち、ベンゼンカルボン酸誘導体(VII)と飽和複素環誘導体(VI)を公知の方法で反応させることにより4−置換フェノール誘導体(II''')を製造することができる。飽和複素環誘導体(VI)は、アミン誘導体(IV)と化合物(V)を公知の方法で反応させ製造することができる。
【0054】
【化4】

【0055】
[式中、X,Y及びZは前記と同じものを示し、Bは、脱離基を示し、Y’は、前記アルキレン基を示す。]
【0056】
[4]Yが単結合又は−NH−(C〜Cアルキレン基)を示す時、4−置換フェノール誘導体(II''')は以下の通り製造することができる。
即ち、飽和複素環誘導体(VI’)に対し、フェノール誘導体(VII)を反応させることによりアリールカルボン酸誘導体(II''')を製造することができる。飽和複素環誘導体(VI’)は、市販品を使用することができる。
【0057】
【化5】

【0058】
[式中、X,Y及びZは前記と同じものを示し、Bは脱離基を示す。]
【0059】
本発明の一般式(1)で表されるアリールカルボン酸誘導体は、上記方法によって得られるが、さらに必要に応じて再結晶法、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段を用いて精製することができる。また必要に応じて、常法によって前記した所望の塩あるいは溶媒和物にすることもできる。
【0060】
本発明の医薬組成物は、一般式(1)で表されるアリールカルボン酸誘導体、もしくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有するものであって、単独で用いてよいが、通常は薬学的に許容される担体、添加物等を配合して使用される。医薬組成物の投与形態は、特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択できる。斯かる剤形としては、例えば、散剤、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ剤、錠剤、カプセル剤、注射剤等を挙げることができる。
【0061】
これらの製剤は、その剤形に応じて製剤学上使用される賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤等の医薬品添加物と適宜混合、希釈又は溶解し、常法に従い製造することができる。
【0062】
例えば、散剤の場合は、必須成分のほかに、必要に応じて適当な賦形剤、滑沢剤等を加えよく混和して調製すればよい。錠剤の場合は、必要に応じて適当な賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等を加え、常法に従い打錠して調製すればよい。また錠剤は必要に応じてコーティングを施し、フィルムコート錠、糖衣錠等にすることができる。
【0063】
また、注射剤の場合は、液剤(無菌水又は非水溶液)、乳剤及び懸濁剤の形態とすることができる。これらに用いられる非水担体、希釈剤、溶媒又はビヒクルとしては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、オレイン酸エチル等の注射可能な有機酸エステルが挙げられる。また、該組成物には防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤等の補助剤を適宜配合することができる。
【0064】
本発明の、一般式(1)で表されるアリールカルボン酸誘導体の投与量は、年齢、体重、症状、投与形態及び投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して1日1〜1000mgを、1回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与するのが好ましい。
【0065】
後記実施例に示すとおり、本発明の一般式(1)で表されるアリールカルボン酸誘導体は、アミノグアニジンと比べ、AGE形成阻害作用が強力であり、尿中排泄アルブミン量を減少する作用を有することから、糖尿病性腎症の予防又は治療剤に有用である。
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0067】
血液透析患者の血漿を用いてのAGE形成阻害作用
血液透析患者の血漿中AGE(指標:ペントシジン)の測定はMiyataらの報告に従って実施した(Miyata, T. et al: J Am Soc Nephrol, 13, 2478-2487, 2002)。血液透析患者の血漿0.9mLをアミノグアニジン又は各被検薬物の存在下(添加量は0.1mL)で、37℃で7日間反応した。アミノグアニジン及び各被検薬物の最終濃度は5.0mMとした。なお、アミノグアニジン又は各被検薬物はジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解して使用した。DMSOの最終濃度は反応溶液1mL中、反応時における酸化反応に影響しない10%とした。7日間の反応後に、アミノグアニジン又は各被検薬物を添加した血漿中のペントシジンの濃度を以下に示す方法で測定した。
【0068】
反応溶液0.05mLに等量の10%トリクロロ酢酸(以下、「TCA」と称する)を加え、5000×g、5分間遠心した。上清を除去し、沈殿物を5%TCA0.3mLで洗い、その後凍結乾燥し乾燥させた。次いで、窒素条件下で110℃、16時間6N塩酸0.1mLを添加し、乾燥物を加水分解した。引き続き、5N水酸化ナトリウム0.1mLと0.5Mリン酸緩衝液(pH7.4)0.2mLを添加し中和した。中和溶液は、口径0.5μmのフイルターを通し、リン酸緩衝液で希釈し、ペントシジン測定用サンプルを調整した。ペントシジン濃度の測定はMiyataらの方法に従って実施した。
【0069】
表1に、各被検薬物によるペントシジン形成阻害強度を、アミノグアニジンによる形成阻害強度を1.0とした場合における相対値として表した(形成阻害強度はコントロール群を対照においた。コントロール群にはDMSOのみ添加した)。
相対値=(被検薬物の形成阻害率)÷(アミノグアニジンの形成阻害率)
【0070】
アミノグアニジン及び各被検薬物の反応中における最終濃度は5.0mMに固定した。
【0071】
血液透析患者の血漿を用い、アミノグアニジン又は各被検薬物を添加した評価において、各被検薬物は、アミノグアニジンと比べ、優れたAGE形成阻害活性を示した。即ち、血液透析患者の血漿を用い、37℃、7日間、アミノグアニジン又は各被検薬物を添加した系において認められた主要なAGEの一種であるペントシジンの生成に対して、各被検薬物の添加は、いずれもアミノグアニジンによるペントシジン形成阻害強度と同等以上であった。以上から、一般式(1)で表される本発明のアリールカルボン酸誘導体は、アミノグアニジンよりも強力なAGE形成阻害作用を有し、さらに強力な治療剤としての可能性が本実験結果より明らかとなった。
【0072】
【表1】


【実施例2】
【0073】
db/dbマウスを用いた糖尿病性腎症抑制作用の検討
雌性db/dbマウス(日本クレア(株))を6週齢で入荷後、7週齢時に杉山元社製のメタボリックケージ(商品名:METABOLICA)を用いて18時間の蓄尿を実施した。採取した尿より、尿中アルブミン濃度をDCA2000システム(ミクロアルブミン・クレアチニンカートリッジ(バイエルメデイカル社製))を用いて測定し、尿中アルブミン排泄量(尿中アルブミン濃度×尿量)を指標にブロック化割付により群分けを実施し、対照群(n=12)に対し薬物投与群(n=12)とした。なお、尿量は重量法によって算出した。すなわち、採尿開始前にあらかじめ測定しておいた採尿瓶(品名:ボトル30mL、型:MM−09、製造元:株式会社杉山元医理器社製)の重量と、採尿終了後の採尿瓶の重量との差から、18時間あたりの尿量とした。被検薬物(化合物1)投与は8週齢時より開始し、25週間の反復投与(1日2回(bid)、強制経口投与)を行った。被検薬物は、0.5%メチルセルロース溶液を添加し、25mg/kg溶液を調製した。投与期間中、4,8,12,16,20,および25週間後に投与前と同様の方法で18時間の蓄尿を実施し、主要パラメータである尿中アルブミン排泄量を測定した。
【0074】
糖尿病モデル動物(db/dbマウス)を用い、被検薬物を投与した評価において、図1に示すとおり、化合物1は疾患の緩和をもたらした。即ち、糖尿病モデル動物db/dbマウスを用い、一日2回、25週間投与し、尿中アルブミン排泄量を測定したところ、対照群に比べその値が減少し、疾患の緩和が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】化合物1投与群とコントロール群におけるdb/dbマウスに対する尿中アルブミン排泄量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】

[式中、Rは、C〜Cアルキルオキシ基、置換基を有してもよいC〜C14炭素環基又は置換基を有してもよい5〜14員複素環基を示し、A及びXは、独立して単結合又はC〜Cアルキレン基を示し、Yは、単結合、−O−(C〜Cアルキレン基)−又は−NH−(C〜Cアルキレン基)−を示し、Zは、酸素原子又はN−R(ここで、Rは、C〜Cアルキル基、又は(C〜Cアルキレン基)−(CO)−Rを示し、Rは、NR、ピペリジノ基又はモルホリノ基を示し、R及びRは、同一又は異なって水素原子又はC〜Cアルキル基を示し、nは0又は1を示す)を示す]で表されるアリールカルボン酸誘導体若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするAGE形成阻害剤。
【請求項2】
一般式(1)のアリールカルボン酸誘導体が、[4−(2−メチル−5−メチルオキシインドール−3−イル)メチルカルボキシ]安息香酸 2−[4−(モルホリノエチル)ピペラジノ]エチル、4−[(クマリン−3−イル)カルボキシ]ベンゾイル 4−イソプロピルピペラジン、4−[[(ナフタレン−1−イル)メチル]カルボキシ]安息香酸 2−モルホリノエチル、4−[[(ナフタレン−1−イル)メチル]カルボキシ]安息香酸 2−[4−[(N,N−ジメチルカルバモイル)メチル]ピペラジノ]エチル、4−[(2,3,3α,7α−テトラヒドロインデン−2−イル)カルボキシ]安息香酸 2−モルホリノエチル、4−[(8−メトキシ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)カルボキシ]ベンゾイル 4−[(N−イソプロピルカルバモイル)メチル]ピペラジン、4−(シクロヘキサンカルボキシ)安息香酸 2−[4−[(モルホリノカルボニル)メチル]ピペラジノ]エチル、4−[(ナフタレン−1−イル)メチルカルボキシ]ベンゾイル 2−[4−[(モルホリノカルボニル)メチル]ピペラジノ]エチルアミン、4−[(5−メチル−3−フェニルイソオキサゾール−4−イル)カルボキシ]ベンゾイル 4−イソプロピルピペラジン、4−[(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1−イル)カルボキシル]フェニルアセチル 4−イソプロピルピペラジン、4−(フェニルカルボキシ)安息香酸 2−モルホリノエチル又は[4−(エチルオキシカルボニルオキシ)]安息香酸 2−[4−(2−モルホリノエチル)ピペラジノ]エチルである請求項1記載のAGE形成阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のAGE形成阻害剤を有効成分とする糸球体疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項4】
糸球体疾患が、糖尿病性腎症である請求項3記載の予防及び/又は治療剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−91296(P2009−91296A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263748(P2007−263748)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】