説明

アルカリ可溶性樹脂の製造方法、該製造方法により得られるアルカリ可溶性樹脂、及び該アルカリ可溶性樹脂を含有する感光性組成物、並びに該感光性組成物を含有する感光性平版印刷版材料

【課題】経時での安定性を向上したアルカリ可溶性樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】重合反応後に酸素存在下に加熱処理することを特徴とするアルカリ可溶性樹脂の製造方法。前記アルカリ可溶性樹脂がアクリル又はメタクリル共重合体であること、加熱処理時の酸素濃度が7〜16容量%であること、加熱処理温度が80〜120℃であること、加熱処理時間が2〜24時間であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ可溶性樹脂の製造方法に関し、詳しくは重合反応後に酸素存在下に加熱処理するアルカリ可溶性樹脂の製造方法に関する。該アルカリ可溶性樹脂は感光性平版印刷版材料、特に光重合型平版印刷版材料の高分子結合材として好適である。
【背景技術】
【0002】
近年、画像情報をコンピュータを用いて電子的に処理、蓄積、出力する、デジタル化技術が広く普及し、オフセット印刷用の印刷版の作製技術においては、デジタル化された画像情報に従って、指向性の高いレーザー光を走査し、直接、感光性平版印刷版に記録する所謂CTP(コンピュータ・ツウ・プレート)システムが開発され、実用化が進展している。
【0003】
このCTPシステムに適応した感光性平版印刷版材料(以下、「平版印刷版材料」又は単に「印刷版材料」とも称す)の内、比較的高い耐刷力を要求される印刷の分野においては、重合可能な化合物及び高分子結合剤を含む重合型の感光性層を有するネガ型の平版印刷版材料を用いることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この様な平版印刷版材料は、一般に、高分子結合材、エチレン性不飽和結合含有化合物(以下、エチレン性不飽和化合物と称す)、重合開始剤(以下、開始剤と称す)を含んで成る感光性層を有している。
【0005】
従来、重合型の感光性層に用いられる高分子結合剤として、メタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合体等のアルカリ現像可能な有機高分子ポリマーが提案され(例えば特許文献2〜8参照)、用いられて来た。
【0006】
しかし、上記の様な従来の高分子結合材を含有する感光性層を設けたネガ型平版印刷版材料は、レーザー出力に対応可能な分光波長と感度を十分に有していない。
【0007】
一方、この様な重合型の感光性層を有するネガ型平版印刷版材料に露光前後、もしくは露光中に加熱処理を加えることで、感度と耐刷力向上が見られることは公知であり、現在の重合型の平版印刷版形成システムでは、露光後に加熱処理を行うシステムが主流になっている。この様な加熱処理で、耐刷性は高められるが、過剰に加熱を強めた場合、開始剤の開裂、エチレン性不飽和化合物の反応などにより、カブリを生じる等の問題が生じていた。又、従来では、この様な現象を生じるのは、基本的に、開始剤の熱安定性の問題と考えていた。
【0008】
しかしながら、今回の我々の検討は、この様な現象は、開始剤以外の因子で大きく変化することを明らかにした。即ち、一定条件下で作製した樹脂を結合材として用いることにより、高い耐刷性が得られ、非画像部の汚れを大きく改善し、更に解像度が向上し、面内均一性が大きく改善されることが判った。
【0009】
(メタ)アクリル系樹脂の製造に関しては、従来からラジカル重合のため、酸素による重合阻害が存在するので、窒素雰囲気下で重合させることが公知であり、工業的にもその様な方法で作製されることが通常である。
【特許文献1】特開2001−194782号公報
【特許文献2】特公昭54−25957号公報
【特許文献3】特公昭54−34327号公報
【特許文献4】特公昭58−12577号公報
【特許文献5】特公昭59−44615号公報
【特許文献6】特開昭54−92723号公報
【特許文献7】特開昭59−53836号公報
【特許文献8】特開昭59−71048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、経時での安定性を向上したアルカリ可溶性樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討の結果、重合反応後のアルカリ可溶性樹脂を酸素存在下に加熱処理すると、樹脂自体は黄色味を帯びるが、経時での安定性が格段に向上することを見い出し、本発明を為すに到った。即ち、本発明の目的は以下の構成によって達成される。
1.
重合反応後に、酸素存在下に加熱処理することを特徴とするアルカリ可溶性樹脂の製造方法。
2.
アルカリ可溶性樹脂がアクリル又はメタクリル共重合体であることを特徴とする前記1項記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法。
3.
加熱処理時の酸素濃度が7〜16容量%であることを特徴とする前記1又は2項記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法。
4.
加熱処理温度が80〜120℃であることを特徴とする前記1、2又は3項記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法。
5.
加熱処理時間が2〜24時間であることを特徴とする前記1〜4項の何れか1項記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法。
6.
前記1〜5項の何れか1項記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法により得られたことを特徴とするアルカリ可溶性樹脂。
7.
前記5項記載のアルカリ可溶性樹脂を含有することを特徴とする感光性組成物。
8.
少なくとも前記1〜6項の何れか1項記載のアルカリ可溶性樹脂、エチレン性不飽和結合含有化合物、重合開始剤を含有することを特徴とする感光性組成物。
9.
前記7又は8項記載の感光性組成物を含有することを特徴とする感光性平版印刷版材料。
10.
粗面化された親水性支持体上に、少なくとも前記1〜6項の何れか1項記載のアルカリ可溶性樹脂、エチレン性不飽和結合含有化合物、重合開始剤を含有して成る感光層、更に水溶性オーバーコート層とを、この順に設けたことを特徴とする感光性平版印刷版材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、経時での安定性が向上したアルカリ可溶性樹脂の製造が可能となった。該樹脂は平版印刷版材料の感光層の結合材として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0014】
〈高分子結合材〉
本発明により得られるアルカリ可溶性樹脂は平版印刷版材料の感光層の高分子結合材(以下、単に結合材とも称す)に用いられる。
【0015】
本発明で言うアルカリ可溶性とは、KOH水溶液(pH=12.5)の25℃液に1%以上溶解することを言う。この様なアルカリ可溶性を保持するため、本発明の樹脂は酸基(カルボン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基)等を有することが好ましく、より好ましくはカルボン酸基を有する樹脂である。
【0016】
結合材としては、アクリル系重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、その他の天然樹脂等が使用できる。又、これらを2種以上併用しても構わない。
【0017】
好ましくはアクリル系モノマーの共重合によって得られるビニル系共重合体が好ましい。更に、共重合組成として、(a)カルボキシル基含有モノマー、(b)メタクリル酸アルキルエステル又はアクリル酸アルキルエステルの共重合体であることが好ましい。
【0018】
カルボキシル基含有モノマーの具体例としては、α,β−不飽和カルボン酸類、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。その他、フタル酸と2−ヒドロキシメタクリレートのハーフエステル等のカルボン酸も好ましい。
【0019】
メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、等の無置換アルキルエステルの他、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の環状アルキルエステルや、(メタ)クリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−クロロエチル、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の置換アルキルエステルも挙げられる。
【0020】
更に、本発明の結合材は、他の共重合モノマーとして、下記(1)〜(14)に記載のモノマー等を用いることが出来る。
【0021】
1)芳香族ヒドロキシル基を有するモノマー、例えばo−(又はp−,m−)ヒドロキシスチレン、o−(又はp−,m−)ヒドロキシフェニルアクリレート等。
【0022】
2)脂肪族ヒドロキシル基を有するモノマー、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、5−ヒドロキシペンチ(メタ)ルアクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、ヒドロキシエチルビニルエーテル等。
【0023】
3)アミノスルホニル基を有するモノマー、例えばm−(又はp−)アミノスルホニルフェニル(メタ)アクリレート、N−(p−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−(p−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミド等。
【0024】
4)スルホンアミド基を有するモノマー、例えばN−(p−トルエンスルホニル)アクリルアミド、N−(p−トルエンスルホニル)メタクリルアミド等。
【0025】
5)アクリルアミド又はメタクリルアミド類、例えば(メタ)アクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−ヘキシルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−(4−ニトロフェニル)アクリルアミド、N−エチル−N−フェニルアクリルアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド等。
【0026】
6)弗化アルキル基を含有するモノマー、例えばトリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、ヘキサフルオロプロピルメタクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート、N−ブチル−N−(2−アクリロキシエチル)ヘプタデカフルオロオクチルスルホンアミド等。
【0027】
7)ビニルエーテル類、例えば、エチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等。
【0028】
8)ビニルエステル類、例えばビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニル等。
【0029】
9)スチレン類、例えばスチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等。
【0030】
10)ビニルケトン類、例えばメチルビニルケトン、エチルビニルケトン、プロピルビニルケトン、フェニルビニルケトン等。
【0031】
11)オレフィン類、例えばエチレン、プロピレン、i−ブチレン、ブタジエン、イソプレン等。
【0032】
12)N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、4−ビニルピリジン等。
【0033】
13)シアノ基を有するモノマー、例えば(メタ)アクリロニトリル、2−ペンテンニトリル、2−メチル−3−ブテンニトリル、2−シアノエチルアクリレート、o−(又はm−,p−)シアノスチレン等。
【0034】
14)アミノ基を有するモノマー、例えばN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリブタジエンウレタンアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−i−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等。
【0035】
更にこれらのモノマーと共重合し得る他のモノマーを共重合してもよい。
【0036】
上記ビニル系重合体は通常の溶液重合により製造することができる。又、塊状重合あるいは懸濁重合等によっても製造することができる。開始剤としては特に限定されないが、アゾビス系のラジカル発生剤が挙げられ、例えば2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等が挙げられる。
【0037】
これらの開始剤の使用量は、共重合体を形成するのに使用されるモノマー全体100質量部に対し、通常、0.05〜10.0質量部(好ましくは0.1〜5質量部)である。溶液重合を行う際に使用される溶媒としては、ケトン系、エステル系、芳香族系の有機溶媒が挙げられ、中でもトルエン、酢酸エチル、ベンゼン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の一般にアクリル系ポリマーの良溶媒が挙げられ、中でも沸点60〜120℃の溶媒が好ましい。
【0038】
溶液重合の場合、上記溶媒を使用し、反応温度としては、通常、40〜120℃(好ましくは50〜110℃、更に好ましくは60〜100℃、特に好ましくは70〜90℃)である。反応時間としては、通常、3〜10時間(好ましくは5〜8時間)の条件で行うことができる。反応終了後、溶媒を除去して共重合体を得る。又、溶媒を除去せずに、引き続き後記の二重結合の導入反応を行うこともできる。
【0039】
得られる共重合体の分子量は、使用される溶媒及び反応温度を調整することにより調節することができる。目的とする分子量の共重合体を得るために使用される溶媒及び反応温度等は、使用されるモノマーによって適宜決定することができる。又、特定の溶媒を上記溶媒に混合することによっても、得られる共重合体の分子量を調節することができる。
【0040】
このような溶媒としては、例えばメルカプタン系(オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール等)、四塩化炭素系(四塩化炭素、塩化ブチル、塩化プロピレン等)等が挙げられる。これらの溶媒を上記反応に使用する溶媒に混合する割合は、反応に使用するモノマー、溶媒、反応条件等によって適宜決定することができる。
【0041】
一般的に、この様な樹脂の合成は、酸素が存在する環境下で合成を行うと、反応の進行が著しく遅く、反応が進まないとか、酸化の影響で目的物と異なる物質が形成される等の不都合を生じるばかりか、工業的に大量合成を行う場合においては、安全性の観点で好ましくなく、酸素の存在しない環境で重合させるのが一般である。
【0042】
本発明の高分子結合材は、上記の重合反応を酸素の存在しない状況下で行った後、更に酸素の存在下で加熱を行うところに特徴がある。
【0043】
この様な酸素存在下で加熱を行うことにより、驚くべきことに感度/耐刷性を劣化させること無く、非画像部の汚れが大きく改善され、更に解像度も向上し、面内均一性が大きく改善されることが判った。
【0044】
本発明で言う酸素存在下とは、後述する酸素濃度計で示されるactualな酸素濃度であり、実際に加熱される時の酸素濃度である。この様に規定される酸素濃度が2〜30容量%であることを言い、好ましくは3〜25容量%、より好ましくは4〜20容量%、又は簡便には、大気(空気、即ち酸素濃度≒21容量%)下での加熱が好ましい。
【0045】
酸素存在下で加熱温度としては20〜150℃、好ましくは40〜140℃、より好ましくは60〜130℃、特に好ましくは80〜120℃であり、この範囲より低くても高くても効果が少なくなる。
【0046】
又、酸素存在下での加熱時間としては1〜30時間、好ましくは2〜20時間、特に好ましくは3〜15時間であり、これ以上長くても短くても効果が少なくなる。
【0047】
この酸素濃度の測定は、磁気式酸素濃度計(横河電機社製)を設置した合成釜にて実施する。該酸素濃度計の原理を図1で説明する。
【0048】
サンプルガス(入口1)中に酸素分子が含まれない場合は、補助ガス(入口2)の左右の流量(QR5,QL6)は等しく、QR=QLとなる。酸素分子が含まれると、磁界の発生側の流量QLは、磁界がサンプルガス中の酸素分子を引き付けることにより生じる補助ガス流通路両端の圧力変化により減少し、QR>QLとなる。その流量差△Q=QR−QLは,サンプルガス中の酸素濃度に比例するので、各々の流量をサーミスタ3で測定して差を採り酸素濃度信号に換算する。
【0049】
このセンサを用いると合成釜の中の酸素濃度を測定することが可能であり、揮発性/引火性のある有機溶剤存在下での合成においても、良好に結果を検出できる。又、サンプルガスはセンサ部に導入される迄に50℃未満に下げられており、溶剤/蒸気等の影響を受けること無く、安定な結果が得られる為、その測定精度は±1%の範囲である。
【0050】
従って、本発明で規定する2%未満とは、実酸素濃度としては1%以下の領域を指し、実質的に酸素の存在しない領域と定義している。
【0051】
この様にして合成され、酸素存在下で加熱処理して得られたアルカリ可溶性樹脂の製造方法及び、この様にして得られたアルカリ可溶性樹脂を用いた感光性組成物及び感光性平版印刷版材料が本発明の対象である。
【0052】
更に、本発明の結合材は、側鎖にカルボキシル基及び重合性二重結合を有するビニル系重合体であることが好ましい。例えば、上記ビニル系共重合体の分子内に存在するカルボキシル基に、分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基を有する化合物を付加反応させて得られる、不飽和結合含有ビニル系共重合体も結合材として好ましい。分子内に不飽和結合とエポキシ基を共に含有する化合物としては、具体的にはグリシジル(メタ)アクリレート、特開平11−271969号に記載のエポキシ基含有不飽和化合物等が挙げられる。又、上記ビニル系重合体の分子内に存在するヒドロキシル基に、分子内に(メタ)アクリロイル基とイソシアナト基を有する化合物を付加反応させて得られる、不飽和結合含有ビニル系共重合体も結合材として好ましい。分子内に不飽和結合とイソシアナト基を共に有する化合物としては、ビニルイソシアネート、(メタ)アクリルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、m−(又はp−)i−プロペニル−α,α′−ジメチルベンジルイソシアネート等が好ましく、(メタ)アクリルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等が挙げられる。
【0053】
ビニル系共重合体の分子内に存在するカルボキシル基に、分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基を有する化合物を付加反応させる方法は公知の方法で出来る。例えば、反応温度として20〜100℃、好ましくは40〜80℃、特に好ましくは使用する溶媒の沸点下(還流下)にて、反応時間として2〜10時間、好ましくは3〜6時間で行うことができる。使用する溶媒としては、上記ビニル系共重合体の重合反応において使用する溶媒が挙げられる。又、重合反応後、溶媒を除去せずに、その溶媒を、そのまま脂環式エポキシ基含有不飽和化合物の導入反応に使用することができる。又、反応は必要に応じて触媒及び重合禁止剤の存在下で行うことができる。
【0054】
ここで、触媒としてはアミン系又は塩化アンモニウム系の物質が好ましい。具体的には、アミン系の物質としてはトリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、i−プロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ベンジルアミン等が挙げられ、塩化アンモニウム系の物質としてはトリエチルベンジルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0055】
これらを触媒として使用する場合、使用する脂環式エポキシ基含有不飽和化合物に対して、0.01〜20.0質量%の範囲で添加すればよい。
【0056】
又、重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロモノメチルエーテル、2,6−ジ−t−ブチルハイドロトルエン等が挙げられ、その使用量は、使用する脂環式エポキシ基含有不飽和化合物に対して0.01〜5.0質量%である。尚、反応の進行状況は反応系の酸価を測定し、酸価が0になった時点で反応を停止させればよい。
【0057】
ビニル系重合体の分子内に存在するヒドロキシル基に、分子内に(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基を有する化合物を付加反応させる方法は公知の方法で出来る。例えば、反応温度として通常20〜100℃、好ましくは40〜80℃、特に好ましくは使用する溶媒の沸点下(還流下)にて、反応時間として通常2〜10時間、好ましくは3〜6時間で行うことができる。使用する溶媒としては、上記高分子共重合体の重合反応において使用する溶媒が挙げられる。又、重合反応後、溶媒を除去せずに、その溶媒をそのままイソシアネート基含有不飽和化合物の導入反応に使用することができる。反応は必要に応じて触媒および重合禁止剤の存在下で行うことができる。ここで、触媒としては錫系又はアミン系の物質が好ましく、具体的には、ジブチル錫ラウレート、トリエチルアミン等が挙げられる。触媒は、使用する二重結合を有する化合物に対して0.01〜20.0質量%の範囲で添加することが好ましい。又、重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−t−ブチルハイドロトルエン等が挙げられ、その使用量は、使用するイソシアネート基含有不飽和化合物に対して、通常、0.01〜5.0質量%である。尚、反応の進行状況は反応系のイソシアナト基の有無を赤外吸収スペクトル(IR)で判定し、吸収が無くなった時点で反応を停止させればよい。
【0058】
上記した本発明に用いられる側鎖にカルボキシル基及び重合性二重結合を有するビニル系重合体は、高分子結合剤全量に対し50〜100質量%であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0059】
感光性層として塗布・形成する感光性組成物中における高分子結合剤の含有量は10〜90質量%の範囲が好ましく、15〜70質量%の範囲が更に好ましく、20〜50質量%の範囲で使用することが感度の面から特に好ましい。
【0060】
以下、本発明のアルカリ可溶性樹脂を用いる感光性組成物、及び平版印刷版材料について簡単に説明する。
【0061】
〈感光性組成物〉
平版印刷版材料の感光層を形成する感光性組成物は、少なくともアルカリ可溶性樹脂、重合可能なエチレン性二重結合含有化合物、及び光重合開始剤(以下、開始剤と略記)から成り、通常、更に増感色素及び添加剤(界面活性剤、顔料など)を含む。
【0062】
(開始剤)
開始剤としては、公知の臭素化合物、チタノセン化合物、モノアルキルトリアリールボレート化合物、鉄アレーン錯体化合物、ビイミダゾール化合物を用いることが出来る。フォトポリマー用途を目指す本発明においては、上記の中でも鉄アレーン錯体化合物、ビイミダゾール化合物が好ましい。
【0063】
(鉄アレーン錯体化合物)
鉄アレーン錯体化合物としては、特開昭59−219307号に記載される化合物等挙げられるが、更に好ましい具体例としては、η−ベンゼン−(η−シクロペンタジエニル)鉄・ヘキサフルオロホスフェート、η−クメン−(η−シクロペンタジエニル)鉄・ヘキサフルオロホスフェート、η−フルオレン−(η−シクロペンタジエニル)鉄・ヘキサフルオロホスフェート、η−ナフタレン−(η−シクロペンタジエニル)鉄・ヘキサフルオロホスフェート、η−キシレン−(η−シクロペンタジエニル)鉄・ヘキサフルオロホスフェート、η−ベンゼン−(η−シクロペンタジエニル)鉄・テトラフルオロボレート等が挙げられる。
【0064】
(ビイミダゾール化合物)
ビイミダゾール化合物はビイミダゾールの誘導体であり、特開2003−295426号に記載の化合物等が挙げられる。
【0065】
本発明においては、ビイミダゾール化合物としてヘキサアリールビイミダゾール(HABI)で代表されるイミダゾール2量体が好ましく用いられる。
【0066】
HABI類の製造工程はDE1,470,154に記載されておりそして光重合可能な組成物中での、それらの使用はEP24,629、EP107,792、US4,410,621、EP215,453及びDE3,211,312に記述されている。
【0067】
好ましい誘導体は例えば、2,4,5,2′,4′,5′−ヘキサフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(2−クロロフェニル)−4,5,4′,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(2−ブロモフェニル)−4,5,4′,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(2,4−ジクロロフェニル)−4,5,4′,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(2−クロロフェニル)−4,5,4′,5′−テトラキス(3−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(2−クロロフェニル)−4,5,4′,5′−テトラキス(3,4,5−トリメトキシフェニル)−ビイミダゾール、2,5,2′,5′−テトラキス(2−クロロフェニル)−4,4′−ビス(3,4−ジメトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(2,6−ジクロロフェニル)−4,5,4′,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(2−ニトロフェニル)−4,5,4′,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ジ−o−トリル−4,5,4′,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(2−エトキシフェニル)−4,5,4′,5′−テトラフェニルビイミダゾールおよび2,2′−ビス(2,6−ジフルオロフェニル)−4,5,4′,5′−テトラフェニルビイミダゾールである。
【0068】
HABI開始剤の量は、光重合可能な組成物の非揮発性成分の合計質量に対して、典型的には0.01〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%の範囲である。
【0069】
(エチレン性二重結合含有化合物)
エチレン性二重結合含有化合物としては、一般的なラジカル重合性のモノマー類、紫外線硬化樹脂に一般的に用いられる分子内に付加重合可能なエチレン性二重結合を複数有する多官能モノマー類や、多官能オリゴマー類を用いることができる。
【0070】
該化合物に限定はないが、好ましいものとして、例えば2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、グリセロールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルオキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルオキシヘキサノリドアクリレート、あるいはこれらのアクリレートをメタクリレート、イタコネート、クロトネート、マレエートに代えたメタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸エステル;例えばエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングルコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ハイドロキノンジアクリレート、レゾルシンジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのジアクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートのジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε−カプロラクトン付加物のジアクリレート、2−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−5−ヒドロキシメチル−5−エチル−1,3−ジオキサンジアクリレート、トリシクロデカンジメチロールアクリレート、トリシクロデカンジメチロールアクリレートのε−カプロラクトン付加物、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテルのジアクリレート等の2官能アクリル酸エステル類、あるいはこれらのアクリレートをメタクリレート、イタコネート、クロトネート、マレエートに代えたメタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸エステル;例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートのε−カプロラクトン付加物、ピロガロールトリアクリレート、プロピオン酸・ジペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピオン酸・ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ヒドロキシピバリルアルデヒド変性ジメチロールプロパントリアクリレート等の多官能アクリル酸エステル酸、あるいはこれらのアクリレートをメタクリレート、イタコネート、クロトネート、マレエートに代えたメタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸エステル等を挙げることができる。
【0071】
これら以外にも、特開2005−181684号記載のエチレン性二重結合含有化合物を好適に使用できる。
【0072】
(増感色素)
光源にレーザー光を用いる場合、好ましくは感光層に増感色素を添加する。光源の波長付近に吸収極大波長を有する色素を用いることが好ましい。
【0073】
光源のレーザー光として380〜430nmの範囲に発光波長を有する半導体レーザー、所謂バイオレットレーザーを用いた記録を行う場合は、350〜450nmの間に吸収極大有する色素を含有させることが望ましい。これに適した色素としては、シアニン、フタロシアニン、メロシアニン、ポルフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、クマリン誘導体、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、ピリリウム化合物、ピロメテン化合物、ピラゾロトリアゾール化合物、ベンゾチアゾール化合物、バルビツール酸誘導体、チオバルビツール酸誘導体等、ケトアルコールボレート錯体等が挙げられるが、特にクマリン誘導体が有効である。
【0074】
〈平版印刷版材料〉
平版印刷版材料は、親水性支持体上に前述の感光層と保護層(酸素遮断層)を順次積層した層構成を有する。
【0075】
(酸素遮断層)
酸素遮断層には、酸素透過性の低い被膜を形成し得る水溶性ポリマーを使用する。具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)及びポリビニルピロリドン(PVP)を含有する。PVAは酸素の透過を抑制する効果を有し、PVPは隣接する感光層との接着性を確保する効果を有する。
【0076】
上記2種のポリマーの他に、必要に応じてポリサッカライド、ポリエチレングリコール、ゼラチン、膠、カゼイン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチル澱粉、アラビアゴム、サクローズオクタアセテート、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアミン、ポリエチレンオキシド、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、水溶性ポリアミド等の水溶性ポリマーを併用することも出来る。
【0077】
(親水性支持体)
親水性支持体は感光層を担持可能な板状体又はフィルム体であり、感光層が設けられる側に親水性表面を有するのが好ましい。
【0078】
支持体としては、例えばアルミニウム、ステンレス、クロム、ニッケル等の金属板、又、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のプラスチックフィルムに前述の金属薄膜をラミネート又は蒸着したもの等が挙げられる。又、ポリエステルフィルム、塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム等の表面に親水化処理を施したもの等が使用できるが、中でもアルミニウム支持体が好ましく使用される。
【0079】
アルミニウム支持体の場合、純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる。アルミニウム合金としては種々のものが使用でき、例えば珪素、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、鉛、ビスマス、ニッケル、チタン、ナトリウム、鉄等の金属とアルミニウムの合金が用いられる。又、アルミニウム支持体は、保水性付与のため、表面を粗面化したものが用いられる。
【0080】
アルミニウム支持体を用いる場合、粗面化(砂目立て処理)するに先立って表面の圧延油を除去するために脱脂処理を施すことが好ましい。脱脂処理としては、トリクレン、シンナー等の溶剤を用いる脱脂処理、ケシロン、トリエタノール等のエマルジョンを用いたエマルジョン脱脂処理等が用いられる。又、脱脂処理には、水酸化ナトリウム等のアルカリの水溶液を用いることもできる。水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を用いた場合、上記脱脂処理のみでは除去できない汚れや酸化皮膜も除去することができる。
【0081】
脱脂処理に水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を用いた場合、支持体の表面にはスマットが生成するので、この場合には、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸等の酸、あるいは、それらの混酸に浸漬しデスマット処理を施すことが好ましい。粗面化の方法としては、例えば機械的方法、電解によりエッチングする方法が挙げられる。
【0082】
用いられる機械的粗面化法は特に限定されないが、ブラシ研磨法、ホーニング研磨法が好ましい。電気化学的粗面化法も特に限定されないが、酸性電解液中で電気化学的に粗面化を行う方法が好ましい。
【0083】
上記の電気化学的粗面化法で粗面化した後、表面のアルミニウム屑等を取り除くため、酸又はアルカリの水溶液に浸漬することが好ましい。酸としては、例えば硫酸、過硫酸、弗酸、燐酸、硝酸、塩酸等が用いられ、塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が用いられる。これらの中でもアルカリの水溶液を用いるのが好ましい。
【0084】
又、アルカリの水溶液で浸漬処理を行った後、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸等の酸あるいは、それらの混酸に浸漬し中和処理を施すことが好ましい。機械的粗面化処理法、電気化学的粗面化法は、それぞれ単独で用いて粗面化してもよいし、又、機械的粗面化処理法に次いで電気化学的粗面化法を行って粗面化してもよい。
【0085】
粗面化処理の次には、陽極酸化処理を行うことができる。陽極酸化処理の方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。陽極酸化処理を行うことにより、支持体上には酸化皮膜が形成される。
【0086】
陽極酸化処理された支持体は、必要に応じ封孔処理を施してもよい。封孔処理は、熱水処理、沸騰水処理、水蒸気処理、珪酸ナトリウム処理、重クロム酸塩水溶液処理、亜硝酸塩処理、酢酸アンモニウム処理等、公知の方法を用いて行うことができる。
【0087】
(平版印刷版材料の塗布)
前記感光層塗布液を従来公知の方法で支持体上に塗布し、乾燥して印刷版材料を作製することが出来る。塗布方法としては、例えばエアドクタコータ法、ブレードコータ法、ワイヤバー法、ナイフコータ法、ディップコータ法、リバースロールコータ法、グラビヤコータ法、キャストコーティング法、カーテンコータ法及び押出しコータ法等を挙げることが出来る。
【0088】
(画像露光)
本発明の印刷版材料に画像記録する光源としては、発光波長が350〜450nmのレーザ光の使用が好ましい。例えば、He−Cdレーザ(441nm)、固体レーザとしてCr:LiSAFとSHG結晶の組合せ(430nm)、半導体レーザ系としてKNbO3、リング共振器(430nm)、AlGaInN(350nm〜450nm)、AlGaInN半導体レーザ(市販InGaN系半導体レーザ400〜410nm)等を挙げることができる。
【0089】
レーザ露光の場合には、光をビーム状に絞り画像データに応じた走査露光が可能なので、マスク材料を使用せず、直接書込みを行うのに適している。又、レーザを光源として用いることで、露光面積を微小サイズに絞ることが容易であり、高解像度の画像形成が可能となる。
【0090】
レーザの走査方法としては、円筒外面走査、円筒内面走査、平面走査などがある。円筒外面走査では、記録材料を外面に巻き付けたドラムを回転させながらレーザ露光を行い、ドラムの回転を主走査としレーザ光の移動を副走査とする。円筒内面走査では、ドラムの内面に記録材料を固定し、レーザビームを内側から照射し、光学系の一部又は全部を回転させることにより円周方向に主走査を行い、光学系の一部又は全部をドラムの軸に平行に直線移動させることにより軸方向に副走査を行う。平面走査では、ポリゴンミラーやガルバノミラーとfθレンズ等を組み合わせてレーザ光の主走査を行い、記録媒体の移動により副走査を行う。
【0091】
円筒外面走査及び円筒内面走査の方が光学系の精度を高め易く、高密度記録には適している。
【0092】
(現像=印刷版の作製)
印刷版材料の未露光部を、アルカリ水溶液により除去するのには、一般の印刷版材料の現像処理に用いる自動現像機を使用するのが有利である。自動現像機としては、露光後の印刷版材料を挿入した後、未露光部を除去する前に加熱処理を行う熱処理装置を備えていることが好ましい。熱処理装置としては、セラミックヒーター等の輻射熱により加熱処理を行うもの、又はセラミックヒーター等により加熱した温風によって加熱処理を行うもので、版面の温度が80℃〜160℃の範囲で任意の温度になるように調整できるものが好ましい。又、加熱処理の後に酸素遮断層と感光層の一部を除去するための水洗部を有することができる。水洗部は、版面に洗浄水を供給するシャワーノズルを備えているもの、洗浄水を張った水洗槽に版を浸漬させるもの等が挙げられる。版面をローラー状のブラシにより擦る機構が付与されているものも好ましい。
【0093】
未露光部をアルカリ水溶液により除去する工程には、通常の一般印刷版材料の現像処理に用いる自動現像機の現像浴を用いることが出来る。該現像浴は該水溶液を一定温度に調整できる機構を有していることが好ましい。温度調節は20〜35℃の範囲で任意に設定できることが好ましい。又、自動的に該水溶液を必要量補充する機構が付与されており、好ましくは一定量を超える該水溶液は、排出する機構が付与されており、好ましくは通版を検知する機構が付与されており、好ましくは通版の検知を基に版の処理面積を推定する機構が付与されており、好ましくは通版の検知及び/又は処理面積の推定を基に補充しようとする補充液の補充量及び/又は補充タイミングを制御する機構が付与されており、好ましくは該水溶液の温度を制御する機構が付与されており、好ましくは該水溶液のpH及び/又は電導度を検知する機構が付与されており、好ましくは該水溶液のpH及び/又は電導度を基に補充しようとする補充液及び/又は水の補充量及び/又は補充タイミングを制御する機構が付与されている。
【0094】
(プレヒート)
本発明においては、平版印刷版に画像を露光した後、現像処理する前又は現像処理しながら感光性平版印刷版材料を加熱処理することが好ましい。この様に加熱処理することで、感光層と支持体の接着性が向上し、耐刷性・感度を向上させることが出来る。
【0095】
本発明の樹脂を用いた場合、特にこのプレヒートにより生じる耐刷性・感度の向上を十分に達成でき、尚かつプレヒートにより生じ得る非画像部の汚れについて、従来の樹脂と全く異なる結果を得られることが確認できた。
【0096】
プレヒートは、例えば平版印刷版材料を現像処理する自動現像装置において、現像処理時に搬走される平版印刷版材料を現像前に所定の温度範囲に加熱するプレヒートローラによる加熱する方法を挙げることができる。例えば、プレヒートローラは、内部に加熱手段を有する少なくとも一つのローラを含む1対のローラから成り、加熱手段を有するローラとしては、熱伝導率の高い金属(アルミニウム、鉄等)から成る中空パイプの内部に発熱体としてニクロム線等を埋設し、該金属パイプの外側面をポリエチレン、ポリスチレン、テフロン(登録商標)等のプラスチックシートで被覆したものを使用することができる。又、こうしたプレヒートローラの詳細については、特開昭64−80962号を参照することができる。
【0097】
当該プレヒートは70〜180℃で、3〜120秒程度行うことが好ましい。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれに限定されない。尚、実施例における「部」及び「%」は、特に断りない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0099】
〈結合材樹脂の合成〉
窒素気流下の三ツ口フラスコに、メタクリル酸メチル80.0部、メタクリル酸20.0部、エタノール100部及びα,α′−アゾビスイソブチロニトリル1.23部を入れ、窒素気流中80℃のオイルバスで6時間反応させて高分子重合体P−1を得た。
【0100】
GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)を用いて測定した質量平均分子量は約40,000、酸価90、Tg122℃であった。
【0101】
一度冷却後、更に表1の加熱環境/加熱条件に従い加熱処理し、アルカリ可溶性の高分子結合材樹脂(P−1〜P−27)を得た。尚、樹脂3′は重合反応後、連続して(冷却することなく)酸素雰囲気下で加熱処理したものである。内容を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
以下の様にして平版印刷版材料を作製した。
【0104】
〈支持体の作製〉
厚さ0.3mmのアルミニウム板(材質1052,Al:99.3%以上、Na:0.003%、Mg:0.20%、Si:0.08%、Ti:0.06%、Mn:0.004%、Fe:0.32%、Ni:0.004%、Cu:0.002%、Zn:0.015%、Ga:0.007%、Cr:0.001%を含有)を55℃に保たれた5%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、15秒間の脱脂処理を行った後、水洗した。
【0105】
この脱脂アルミニウム板を、25℃に保たれた10%硝酸水溶液中に10秒間浸漬して中和した後、水洗した。
【0106】
次いで、60Hzの正弦波交流電源を用いて電解粗面化した。その後、60℃に保たれた100g/L燐酸水溶液中で10秒間浸漬しデスマット処理を行い、水洗した。
【0107】
次いで、直流電源を使用し、35℃の硫酸水溶液(200g/l)中で、電流密度10A/dm2で皮膜質量20mg/dm2の陽極酸化処理を行った。
【0108】
次いで、0.44%のポリビニルホスホン酸水溶液に、75℃、30秒間ディップ処理を行い、次いで蒸留水で水洗し乾燥した。
【0109】
〈重合性単量体の合成〉
ブチルジエタノールアミン1モル、ヘキサメチレンジイソシアネート2モル、ヒドロキシエチルメタクリレート2モルを原料として、重合可能なエチレン性二重結合含有化合物PM−1を合成した。この合成は、特許2669849号に記載される方法を参考にして実施した。
【0110】
PM−1:[CH2=C(CH3)COOCH2CH2OOCNH(CH26NHCOOCH2CH22NC49
〈平版印刷版材料の作製〉
上記支持体上に、下記組成の感光層塗工液を乾燥時1.7g/m2になるようワイヤーバーで塗布し、95℃で1.5分間乾燥し感光層塗布試料を得た。
【0111】
更に、上記感光層塗布試料上に、下記組成の保護層(酸素遮断層)塗工液を乾燥時2.0g/m2になるようワイヤーバーで塗布し、75℃で1.5分間乾燥して、感光層上に酸素遮断層を有する平版印刷版材料(1〜27及び3′)を作製した。
(感光層塗工液)
高分子結合材(表1に示す組成のもの) 45.0部
重合性単量体 PM−1 33.0部
ポリエチレングリコール#200ジメタクリレート(NKエステル4G:新中村化学工業社製) 11.0部
分光増感剤 SS7 4.0部
重合開始剤1(イルガキュア261:チバスペシャルティケミカルズ社製、鉄アレーン化合物) 1部
共開始剤1* 0.75部
フタロシアニン顔料(MHI454:御国色素社製)の30%メチルエチルケトン分散物 3.0部
ヒンダードアミン光安定化剤(LS770:三共ライフテック社製) 0.5部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 820部
*)共開始剤とは、重合開始剤のラジカル発生効率を高める機能を有する化合物である。本実施例では、開始剤との併用で高感度開始系として作用している。
【0112】
SS7:3−カルボエトキシ−7−ジエチルアミノクマリン
共開始剤1:[Br3CCONHCH22C(CH32
(保護層塗工液)
ポリビニルアルコール(NL05:日本合成化学社製) 90部
ポリビニルピロリドン共重合体(VA64W:BASF社製) 10部
界面活性剤(サーフィノール465:日新化学社製) 0.3部
水 900部
〈画像形成〉
このようにして作製した平版印刷版材料に、408nm、60mW出力のレーザー光源を備えたプレートセッター(NewsCTP:ECRM社製)を用いて1,200dpi(dpiとは1インチ即ち2.54cm当たりのドット数を表す)の解像度で画像露光を行った。
【0113】
次いで、現像前に加熱装置部、保護層を除去する前水洗部、下記現像液組成を充填した現像部、版面に付着した現像液を取り除く水洗部、画線部保護のためのガム液(GW−3:三菱化学社製を2倍希釈したもの)を備えたCTP自動現像機(Raptor Polymer85:G&J社製)で現像処理を行い、平版印刷版を得た。平版印刷版材料が現像液に接触している時間を現像時間とし、上記自動現像機を用い、現像温度24℃、現像時間25秒で処理し、各平版印刷版を得た。
【0114】
加熱部条件は、平版印刷版材料の版面温度110℃±5℃とした。版面温度は、サーモラベル(日油技研社製)を平版印刷版材料支持体の裏面に貼り付け、処理時の温度を測定した。
(現像液組成)
A珪酸カリウム 8.0部
ニューコールB−13SN(日本乳化剤社製) 3.0部
エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム2水和塩 0.1部
水酸化カリウム pH=12.45なるよう調整
〈平版印刷版の評価〉
上記のようにして得られた各平版印刷版について、以下の評価をした。
【0115】
《耐刷性》
50μj/cm2で露光現像し、作製した平版印刷版を印刷機(三菱重工業社製DAIYA1F−1)で、下記条件で印刷した。
(印刷条件)
紙:コート紙(再生パルプ含有率20%北越製紙社製)
ブランケット:SR100(SRIハイブリッド社製)
印刷インキ:大豆油インキ ナチュラリス100(Y,M,C,K):大日本インキ化学工業社製
湿し水:H液SG−51濃度1.5%:東京インク社製
印刷スピード:4,000枚/時
スタート時点の画像と比較し、ハイライト部のdotが3%変動するか、もしくはシャドー部の絡み(画像部周辺の非画像部にインクが付着する)の発生する印刷枚数を耐刷力の指標とした。勿論、数値が多いほど好ましい。
【0116】
《保存性評価》
平版印刷版材料を強制劣化させるため、55℃・RH(相対湿度)20%の環境下の恒温槽に3日間保存し、保存する以前のサンプルと共に上記の印刷評価を行い、長期保存の影響を比較評価した。
【0117】
上記印刷条件にて印刷物を作成した。100枚目の印刷物の非画像部(100cm2内)のインキ汚れを目視にて評価した。
【0118】
A:非画像部にインキ汚れは認められない
B:1m2に数点300μm未満の汚れがあるが、実害無いレベル
C:1m2に数点300μm以上の汚れがある
D:非画像部にインキ汚れが認められ、印刷物として不適
E:非画像部にインキ汚れが顕著に認められ、印刷物として不適。
【0119】
《プレヒート汚れ評価》
上記の様にして作製した平版印刷版材料を露光後の熱処理温度を変化させ、同一現像処理を行った後、印刷し非画像部に汚れ、もしくはシャドー部の絡みの生じない温度上限を確認した。印刷条件は上記の条件と同様に行った。
【0120】
この評価では、上記現像処理機の加熱装置部分の電源は切り、加熱処理は露光後、セーフライト環境下に置いた別の加熱装置を用いて、所望の版面温度となるように設定し、30秒間熱処理を行った。
【0121】
《画質評価》
Stoffer step solid 3段の画像を出力し、以下の基準で評価した。
【0122】
A:40μmネガポジラインが共に良好に確認できる
B:40μmの抜き線がやや潰れている
C:60μmネガポジラインが共に良好に確認でき、40μmの抜き線は潰れている
D:60μmの抜き線がやや潰れている
E:60μmの抜き線が潰れている。
【0123】
結果を表2に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
表2から明らかなように、本発明により得られるアルカリ可溶性樹脂を結合材として有する平版印刷版材料から作製された平版印刷版は、プレヒート汚れ、保存汚れが少なく、耐刷性及び画質にも優れている。
【0126】
本発明の酸素存在下に追加加熱することによる改善効果は、樹脂組成に関わらず確認されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明のアルカリ可溶性樹脂の製造に用いる磁気式酸素濃度計の断面図。
【符号の説明】
【0128】
1 サンプルガス入口
2 補助ガス入口
3 サーミスタセンサ
4 磁界
5 補助ガス流量QR(磁界のない方向)
6 補助ガス流量QL(磁界のある方向)
7 サンプルガス+補助ガス出口
8 リングチャンバーセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合反応後に、酸素存在下に加熱処理することを特徴とするアルカリ可溶性樹脂の製造方法。
【請求項2】
アルカリ可溶性樹脂がアクリル又はメタクリル共重合体であることを特徴とする請求項1記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法。
【請求項3】
加熱処理時の酸素濃度が7〜16容量%であることを特徴とする請求項1又は2記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法。
【請求項4】
加熱処理温度が80〜120℃であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法。
【請求項5】
加熱処理時間が2〜24時間であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項記載のアルカリ可溶性樹脂の製造方法により得られたことを特徴とするアルカリ可溶性樹脂。
【請求項7】
請求項5記載のアルカリ可溶性樹脂を含有することを特徴とする感光性組成物。
【請求項8】
少なくとも請求項1〜6の何れか1項記載のアルカリ可溶性樹脂、エチレン性不飽和結合含有化合物、重合開始剤を含有することを特徴とする感光性組成物。
【請求項9】
請求項7又は8記載の感光性組成物を含有することを特徴とする感光性平版印刷版材料。
【請求項10】
粗面化された親水性支持体上に、少なくとも請求項1〜6の何れか1項記載のアルカリ可溶性樹脂、エチレン性不飽和結合含有化合物、重合開始剤を含有して成る感光層、更に水溶性オーバーコート層とを、この順に設けたことを特徴とする感光性平版印刷版材料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−7441(P2009−7441A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168904(P2007−168904)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】