説明

アルカリ電池用正極缶及びアルカリ電池

【課題】好適な放電性能を維持できるにもかかわらず、製造時において環境に与える負荷が小さいアルカリ電池用正極缶を提供すること。
【解決手段】本発明のアルカリ電池用正極缶11は、ニッケルめっき鋼板M1を多段深絞り加工することで、底部11aから開口部11cに行くに従って胴部11bの厚さが徐々に厚くなる有底筒状に成形してなる部材である。正極缶11の内面側のニッケルめっき層42上には、コバルトめっき43が施されている。正極缶11の内面側には、多段深絞り加工により生じた鋼板M1の皺61及び/またはめっきの割れ62が存在している。コバルトめっき43の厚さは0.05μm以上0.10μm以下とすることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池用正極缶及びそれを使用したアルカリ電池に係り、特には内面のめっき組成及び微細形状などに特徴を有するアルカリ電池用正極缶及びそれを使用したアルカリ電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばデジタル・スチル・カメラなどのように、大電流を必要とする電池利用機器が多くなってきており、これに対応して例えばニッケル電池(ZR型)のように、重負荷(大電流放電)用の高容量アルカリ電池の需要が増えつつある。
【0003】
アルカリ電池などの電池の場合、発電要素を密閉封止状態で収容するために金属製の正極缶が使用されている。例えばLR型のアルカリ電池では、有底円筒状の正極缶に筒状または環状の正極合剤を圧入状態で装填し、この正極合剤の内側に筒状セパレータ及びゲル状負極を装填することにより、発電要素が形成される。この場合、正極缶は正極端子及び正極集電体を兼ねたものとなる。
【0004】
ところで、一般的なアルカリ電池の正極缶は電池缶用めっき鋼鈑の多段深絞りプレス加工により製造されるが、錆の発生を防ぐことを目的として、NPS(Nickel Plated Steel)と呼ばれるニッケルを主体としためっき鋼板がよく用いられる。また、一般的なアルカリ電池の正極缶では、放電性能を高めるために、正極缶の内面側に黒鉛を含む導電塗料を塗布することで、正極合剤との接触を良好に維持している。
【0005】
通常、導電塗料は有機溶剤で希釈されており、正極缶への塗布工程において、有機溶剤の揮発ガスによる環境負荷が問題となっている。しかも、乾燥にも熱量を必要とするため、大量のエネルギーが必要となる。また、近年においては水系の導電塗料も市販されているが(例えば、特許文献1参照)、乾燥に膨大な熱量を必要とすることになり、エネルギー消費を増大させてしまう。
【特許文献1】特開2002−151016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、従来のアルカリ電池を長期間保存した場合、ニッケルめっき鋼板表層のニッケルめっき層が酸化して、導電性の低い酸化ニッケルが形成されてしまう。このため、初度の放電性能がよくても、保存後に放電性能が損なわれる傾向があった。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、好適な放電性能を維持できるにもかかわらず、製造時において環境に与える負荷が小さいアルカリ電池を提供することにある。また、上記の優れたアルカリ電池に使用するのに好適なアルカリ電池用正極缶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで上記課題を解決するための手段[1]〜[6]を以下に列挙する。
【0009】
[1]ニッケルめっき鋼板を多段深絞り加工することで底部から開口部に行くに従って胴部の厚さが徐々に厚くなる有底筒状に成形してなり、内面側のニッケルめっき層上にコバルトめっきが施され、前記多段深絞り加工により生じた鋼板の皺及び/またはめっきの割れが内面側に存在していることを特徴とするアルカリ電池用正極缶。
【0010】
従って、上記手段1によると、内面側の表層にコバルトめっきが施されていることから、このような正極缶を使用してアルカリ電池を構成した場合、正極缶の内面側と正極合剤との間に良好な電気的接触状態が長期にわたり維持される。しかも、内面側に存在している鋼板の皺及び/またはめっきの割れに正極合剤の一部が入り込むことによっても、両者間に良好な電気的接触状態が長期にわたり維持される。ゆえに、導電塗料の塗布により導電膜の形成を行わなくても、それと同等の好適な放電性能を維持できるアルカリ電池とすることができる。また、表層のコバルトめっきは基本的に溶剤を必要としないめっき法により形成可能なため、溶剤を飛ばすための乾燥工程も不要となり、環境負荷を低減することができる。
【0011】
[2]前記多段深絞り加工後における前記コバルト層の厚さが0.05μm以上0.10μm以下であることを特徴とする上記手段1に記載のアルカリ電池用正極缶。
【0012】
従って、上記手段2によると、コバルトめっきの厚さを上記好適範囲内に設定しているため、これを使用してアルカリ電池を構成した場合、正極缶の内面側と正極合剤との間に良好な電気的接触状態が長期にわたり確実に維持される。その結果、導電膜の形成を行った従来品と同等の重負荷連続放電性能及び間欠放電性能を実現することができる。この厚さが0.05μm未満であると、両者間に良好な電気的接触状態を維持することが困難になり、重負荷連続放電性能が低下しやすくなる。この厚さが0.10μm超であると、長期間保存後における間欠放電性能が低下し、放電時間が著しく短くなる場合がある。
【0013】
[3]前記多段深絞り加工後における前記正極缶の内面の表面粗さRaが0.8μm以上であり、前記めっきの割れが前記ニッケルめっき層よりも深い位置まで及んでいることを特徴とする上記手段1または2に記載のアルカリ電池用正極缶。
【0014】
従って、上記手段3によると、そもそも粗くなっている内面にさらに比較的深い凹部が存在した状態となるため、正極合剤との接触面積が大きくなるとともに、正極合剤の一部が確実に入り込んだ状態となる。ここで、「正極缶の内面の表面粗さRa」とは、正極缶における缶胴部中央部分(即ち底部と開口部との中間位置)の内面の表面粗さRaのことであり、より具体的には当該部分を周方向に沿って1cm計測したときの表面粗さRaの値(μm)のことをいうものとする。
【0015】
[4]上記手段1乃至3のいずれか1項に記載のアルカリ電池用正極缶と、リング状に成形された正極合剤とを備え、前記アルカリ電池用正極缶の内面に前記正極合剤の外周面が直接接触した状態で、前記正極合剤が前記アルカリ電池用正極缶内に圧入されるとともに、前記鋼板の皺及び/または前記めっきの割れに前記正極合剤の一部が入り込んでいることを特徴とするアルカリ電池。
【0016】
従って、上記手段4によると、正極缶への正極合剤の圧入によって、正極缶の内面に正極合剤の外周面が押し付けられた状態で確実に接触するとともに、鋼板の皺及び/またはめっきの割れに正極合剤の一部が確実に入り込むことから、両者間に良好な物理的及び電気的接触状態を長期にわたり維持することができる。
【0017】
[5]前記正極合剤は、二酸化マンガン及び黒鉛を主材として含み、ポリアクリル酸またはその塩類をバインダとして含むことを特徴とする上記手段4に記載のアルカリ電池。
【0018】
従って、上記手段5によると、ポリアクリル酸またはその塩類をバインダとして含んでいるため、正極合剤において好適な弾性が発現するとともに、正極合剤中の二酸化マンガンの酸化が抑制されることにより、正極合剤と正極缶との間に長期にわたり良好な物理的及び電気的接触状態を長期にわたり維持することができる。
【0019】
[6]前記ポリアクリル酸またはその塩類の含有量は、二酸化マンガンに対して0.4重量%以上1.5重量%以下であることを特徴とする上記手段5に記載のアルカリ電池。
【0020】
従って、上記手段6によると、当該含有量を好適範囲内に設定しているため、これを使用してアルカリ電池を構成した場合、長期間保存後における重負荷連続放電性能の低下を防止することができる。上記含有量が0.4重量%未満あるいは1.5重量%超であると、長期間保存後における重負荷連続放電性能が顕著に低下し、放電時間が著しく短くなる場合がある。
【発明の効果】
【0021】
以上詳述したように、請求項1〜3に記載の発明によると、好適な放電性能を維持できるにもかかわらず、製造時において環境に与える負荷が小さいアルカリ電池に使用するのに好適なアルカリ電池用正極缶を提供することができる。請求項4〜6に記載の発明によると、好適な放電性能を維持できるにもかかわらず、製造時において環境に与える負荷が小さいアルカリ電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施の形態の筒型アルカリ電池10を図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
図1に示されるように、本実施形態の筒型アルカリ電池10を構成する正極缶11は、正極集電体を兼ねる電池用金属部品であって、ニッケルめっき鋼板M1を多段深絞り加工して有底筒状に成形してなる。正極缶11の内面側のニッケルめっき層42上には、コバルトめっき43が施されている。本実施形態では、多段深絞り加工後におけるニッケルめっき鋼板M1の胴部11bの厚さが一定ではなく、正極缶11の底部11aから開口部11cに行くに従って徐々に厚くなっている。例えば具体例を挙げると、筒型アルカリ電池10がLR20形である場合、底部11aの厚さが0.290mm、底部からの距離10mmの位置の厚さが0.270mm、底部からの距離20mmの位置の厚さが0.270mm、底部からの距離30mmの位置の厚さが0.273mm、底部からの距離40mmの位置の厚さが0.277mm、底部からの距離50mmの位置の厚さが0.283mmとなっているものが好適である。ただし、底部11aの厚さのほうが開口部11cの厚さよりも若干厚くなっている。筒型アルカリ電池10がLR14形である場合、底部11aの厚さが0.290mm、底部からの距離10mmの位置の厚さが0.280mm、底部からの距離20mmの位置の厚さが0.286mm、底部からの距離30mmの位置の厚さが0.292mm、底部からの距離40mmの位置の厚さが0.304mmとなっているものが好適である。
【0024】
また、本実施形態の場合、正極缶11の胴部11bの内面側には、多段深絞り加工により生じた鋼板M1の皺61及び/またはめっきの割れ62が存在している(図2(b)を参照)。このような皺61や割れ62は、胴部11bにおいて特に厚さの薄くなっている箇所に多く見られるとともに、正極缶11の軸線に沿った方向(即ち縦方向)に延びている。なお、めっきの割れ62は、コバルトめっき43及びニッケルめっき層42より深い位置(深さ数μmの位置)まで及んでおり、部分的に鉄を主体とする母材41を露出させている。
【0025】
正極缶11の内部空間には、発電要素(即ち、正極合剤13、セパレータ14及びゲル状負極15)が装填可能となっている。正極合剤13はリング状に成形されており、正極缶11の内部空間に複数個圧入して装填されている。その結果、正極缶11の内面(即ち表層にあるコバルトめっき43)に対して、正極合剤13の外周面が直接接触した状態となっている(図1(b)参照)。発電要素の一部をなす正極合剤13は、二酸化マンガン及び黒鉛を主材として含み、ポリアクリル酸またはその塩類をバインダとして含んでいる。二酸化マンガンと黒鉛との重量比は、黒鉛1に対して二酸化マンガンが9以上11以下という好適範囲になるように設定されている。ポリアクリル酸またはその塩類の含有量は、二酸化マンガンに対して0.4重量%以上1.5重量%以下という好適範囲に設定されている。ゆえに、本実施形態の正極合剤13はある程度弾性を有したものとなっている。これら正極合剤13の内側には、有底円筒状のセパレータ14が挿入されている。セパレータ14は、例えば、ビニロン繊維やレーヨン繊維等といった複数種類の繊維を混抄してなる不織布を用いて構成されている。セパレータ14及び正極合剤13中には、水酸化カリウム水溶液等のようなアルカリ電解液が浸潤されている。セパレータ14の中空部にはゲル状負極15が充填されている。ゲル状負極15には、亜鉛、ゲル化剤及びアルカリ電解液が含有されている。ゲル化剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸及びその塩類、アルギン酸ソーダ、エーテル化デンプン等が好適である。
【0026】
正極缶11の開口部内面側には、複数の部品を組み付けてなる封口体が装着されかつカシメ付けられ、その結果として正極缶11が液密的に封口されている。この封口体は、負極端子21と、絶縁封口材としての封口ガスケット24と、負極集電子26とによって構成されている。
【0027】
封口ガスケット24は、例えばポリプロピレン樹脂などといったポリオレフィン系のような合成樹脂材料からなる射出成形部品である。ポリプロピレン樹脂の代わりにポリアミド樹脂等のようなアミド系樹脂を用いてもよい。この封口ガスケット24は中央部にボス部25を備えており、そのボス部25を貫通するボス孔内には負極集電子26が挿通可能となっている。なお、ガス透過性を有するポリプロピレン樹脂製の封口ガスケット24を選択した場合、正極缶11に施すべきめっきとしてコバルトめっき43を選択することが特に好適である。
【0028】
負極集電子26は導電性金属からなる断面円形状の棒材であって、その先端部がゲル状負極15中に挿入配置されるようになっている。一方、負極集電子26の基端部は、ボス部25のボス孔に挿通されるとともに、負極端子21の内面側中央部に対してスポット溶接等により固着されている。
【0029】
次に、本実施形態の筒型アルカリ電池10を製造する手順を説明する。
【0030】
まず、鉄を主体とする母材41の表面及び裏面にニッケルめっき層42が形成された従来周知のニッケルめっき鋼板M1を用意する。ニッケルめっき層42の厚さは特に限定されないが、例えば0.1μm〜3μm程度に設定され、ここでは2.0μmに設定されている。ニッケルめっき層42の表面粗さRaも特に限定されないが、例えば0.2μm〜0.5μm程度に設定され、ここでは約0.3μmに設定される。
【0031】
次に、このニッケルめっき鋼板M1の片側面に対して所定のめっき処理を施し、ニッケルめっき層42よりも厚さのかなり薄いめっきを析出させる(めっき工程、図2(a)参照)。本実施形態において具体的には、図1(b)のようなコバルトめっき43を施す。コバルトめっき43は、従来周知の電解コバルトめっき浴を用いて電解めっきを行うことで、ニッケルめっき層42の表面上に形成される。コバルトめっき43の厚さは特に限定されないが、ここでは好適範囲である0.05μm以上0.10μm以下に設定されている。
【0032】
前記めっき工程の後、コバルトめっきを施した面が内面側になるようにニッケルめっき鋼板M1を多段深絞り加工することにより、有底筒状の正極缶11を成形する(正極缶成形工程)。なお、後工程において実施される圧入工程のことを考慮すると、圧入を容易に行うために正極缶11の開口部を若干末広がり形状としておくことが好ましい。そして、この工程を経ることで、正極缶11の胴部11bの厚さが、底部11aから開口部11cに行くに従って徐々に厚くなるとともに、胴部11bの内面側に鋼板M1の皺61やめっきの割れ62が生じた状態となる(図2(b)参照)。なお、この程度の皺61や割れ62であれば、電池性能にとってプラスに作用することはあってもマイナスに作用することはない。
【0033】
本実施形態の正極缶11は表面粗さRaが0.8μm以上であることが好ましいが、そのようなRa値を達成するにあたり、ダル仕上げの鋼板M1を用いるわけではない。言い換えると、当初からその表面に凹凸を付加して人為的に表面を粗くした鋼板M1を用いるわけではない。つまり、本実施形態では、ブライト仕上げ等のような凹凸のない鋼板M1を用い、これに多段深絞り加工により皺61や割れ62を生じさせることで、結果的にRa値が0.8μm以上になるようにしている。
【0034】
前記正極缶成形工程の後、洗浄を実施し、内面側に導電塗料の塗布を何ら行うことなく、そのままの状態で圧入工程を行う。圧入工程では、正極缶11内にリング状に成形された正極合剤13を圧入して、正極缶11の内面と正極合剤13の外周面とを直接接触させるようにする。正極合剤13の外径は正極缶11の内径よりも僅かに大きく形成されているため、正極合剤13の外周面を正極缶11の内面に対して密着させることができる。また、この圧入により、鋼板M1の皺61やめっきの割れ62に正極合剤11の一部が入り込んだ状態となり、皺61や割れ62がない場合に比べて両者の接触面積が大きくなる(図2(c)参照)。さらに正極合剤13の内側にセパレータ14を挿入し、次いでセパレータ14の中空部にアルカリ電解液を注入し、セパレータ14及び正極合剤13にアルカリ電解液を浸潤させる。その後、セパレータ14の中空部にゲル状負極15を充填する。かかる充填工程後、封口体を正極缶11の開口部に装着して、負極集電子26の先端部をゲル状負極15中に挿入配置する。この状態で正極缶11の開口部の先端をカシメ付けて当該部分を液密的に封口する封口工程を行い、封口体を開口部の内面に強固に取り付ける。この後、さらに正極缶11の外表面に外装ラベル(図示略)を巻き付けることにより、図1のアルカリ電池10を完成させる。以上述べたような製造方法によれば、所望とする優れたアルカリ電池10を簡単にかつ確実に製造することができる。
【0035】
以下、本実施形態をよりいっそう具体化した実施例について説明する。
【実施例1】
【0036】
ここでは、試験対象となるLR20形のアルカリ電池10の試験サンプルを複数種類作製し、それぞれの放電特性や電気的特性を比較する試験を行った。
(A)試験1の方法及び結果
【0037】
試験1においては、正極缶11の内面にニッケルめっき(2μm)のみを施し、これに導電塗料を塗布したサンプルを従来例として位置付け、導電塗料を塗布しないサンプルを比較例として位置付けた。これに対し、正極缶11の内面にニッケルめっき(2μm)を施し、さらにコバルトめっき(0.10μm)を施す一方で、導電塗料の塗布を行わないサンプルを作製した。また、正極缶11の内面にニッケルめっき(2μm)を施す一方で、導電塗料の塗布を行わないサンプルを作製した。なお、ポリアクリル酸(PA)の添加量を0.30重量%とし、正極缶11の胴部11bにおける内面の表面粗さRaを0.8μmとした。
【0038】
そして、これらのサンプルについて、表1に示す放電試験(重負荷連続放電性能試験及び間欠放電性能試験)を実施し、初度における放電持続時間、60℃20日加速試験後の放電持続時間を調査した。なお、放電は20℃雰囲気下にて実施した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0039】
表1から明らかなように、通常使用されているニッケルめっきのみの仕様のもの(比較例)は、導電膜がないことから、従来例と比較して重負荷連続放電性能が悪く、特に保存後において顕著に悪くなることが認められた。これに対し、ニッケルめっき層42上にコバルトめっき43を施したものについては、重負荷連続放電性能の悪化は認められず、従来例とほぼ同等の放電性能が維持されていた。
(B)試験2の方法及び結果
【0040】
試験2では、正極缶11の内面にニッケルめっき(2μm)を施し、さらにコバルトめっき43を施すとともに、その厚さを変更していくつかのサンプルを作製した。なお、導電塗料の塗布は行わないようにした。なお、ポリアクリル酸(PA)の添加量を0.30重量%とし、正極缶11の胴部11bにおける内面の表面粗さRaを0.8μmとした。
【0041】
そして、これらのサンプルについて、試験1と同様の放電試験(重負荷連続放電性能試験及び間欠放電性能試験)を実施し、初度における放電持続時間、60℃20日加速試験後の放電持続時間を調査した。なお、放電は20℃雰囲気下にて実施した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0042】
表2から明らかなように、コバルトめっき43の厚さが0.1μm以上の場合、60℃20日加速試験後の間欠放電で放電開始後に一旦低下した電圧が終止電圧を下回ってしまい、放電時間が短くなってしまうことがわかった。また、0.05μm未満であると、重負荷連続放電条件で性能が低下してしまうことがわかった。以上の結果から、最適なコバルトめっき厚は0.05μm以上0.1μm以下であると結論付けられた。
(C)試験3の方法及び結果
【0043】
試験3では、正極缶11の胴部11bにおける内面の表面粗さRaを変更していくつかのサンプルを作製した。なお、導電塗料の塗布は行わないようにした。そして、これらのサンプルについて、試験1と同様の放電試験(重負荷連続放電性能試験及び間欠放電性能試験)を実施し、初度における放電持続時間、60℃20日加速試験後の放電持続時間を調査した。なお、放電は20℃雰囲気下にて実施した。その結果を表3に示す。
【表3】

【0044】
表3から明らかなように、内面の表面粗さRaが0.8μm未満の場合、負荷間欠放電性能試験での性能が極端に低下することがわかった。これに対して、Raが0.8μm以上の場合には、負荷間欠放電性能試験での性能が極端に低下するようなことがなく安定した性能が維持されていた。以上の結果から、最適なRaの値は0.8μm以上であると結論付けられた。
(D)試験4の方法及び結果
【0045】
試験4では、正極缶11の内面にニッケルめっき(2μm)を施し、さらにコバルトめっき(0.10μm)を施すとともに、ポリアクリル酸(PA)の添加量を変更していくつかのサンプルを作製した。なお、導電塗料の塗布は行わないようにした。そして、これらのサンプルについて、放電試験(重負荷連続放電性能試験)を実施し、初度における放電持続時間、60℃20日加速試験後の放電持続時間を調査した。なお、放電は20℃雰囲気下にて実施した。その結果を表4に示す。
【表4】

【0046】
表4から明らかなように、ポリアクリル酸の添加量が0.4重量%未満の場合、60℃で20日保存した時点での重負荷連続放電で性能が極端に低下することがわかった。従って、最適なポリアクリル酸の添加量は0.4重量%以上1.5重量%以下であると結論付けられた。
(E)試験5の方法及び結果
【0047】
試験5では、正極缶11の内面にニッケルめっき(2μm)を施し、さらにコバルトめっき(0.10μm)を施すとともに、二酸化マンガンと黒鉛との比率(重量%)を変更していくつかのサンプルを作製した。なお、導電塗料の塗布は行わないようにした。そして、これらのサンプルについて、放電試験(重負荷連続放電性能試験及び間欠放電性能試験)を実施し、初度における放電持続時間、60℃20日加速試験後の放電持続時間を調査した。なお、放電は20℃雰囲気下にて実施した。その結果を表5に示す。
【表5】

【0048】
表5から明らかなように、二酸化マンガンと黒鉛との重量比を、黒鉛1に対して二酸化マンガンを8以下とした場合には、二酸化マンガン量が不足してしまい、軽負荷及び中負荷放電条件で性能が低下する傾向がみられた。また、黒鉛1に対して二酸化マンガンを11超とした場合には、黒鉛量が不足してしまい、正極缶11と正極合剤13との接触状態が悪化し、やはり放電性能が低下する傾向がみられた。以上の結果から、最適な二酸化マンガン:黒鉛の値は9:1〜11:1であると結論付けられた。
(F)試験6の方法及び結果
【0049】
試験6では、正極缶11の内面にニッケルめっき(2μm)を施し、さらにコバルトめっき(0.10μm)を施すとともに、正極合剤13の外径を変更していくつかのサンプルを作製した。なお、導電塗料の塗布は行わないようにした。そして、これらのサンプルについて、いくつかの電気的特性(開路電圧、内部抵抗、閉路電圧、短絡電流)をそれぞれ測定した。その結果を表6に示す。
【表6】

【0050】
表6から明らかなように、正極缶11の内径(ただし最も狭い部分の内径)よりも正極合剤13の外径が0.005mmφ以上大きいものを用い、それを正極缶11内に圧入することにより、内部抵抗が小さくなり短絡電流が流れやすい状態となることがわかった。
(F)結論
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0052】
(1)本実施形態のアルカリ電池10における正極缶11の内面側にはニッケルめっき層42が形成され、その上にはコバルトめっき43またはパラジウムめっき44が施されている。従って、正極缶11の内面側と正極合剤13との間に良好な電気的接触状態を長期にわたり維持することができる。しかも、内面側に存在している鋼板M1の皺61やめっきの割れ62に正極合剤13の一部が入り込むことによっても、両者間に良好な電気的接触状態が長期にわたり維持される。ゆえに、導電塗料の塗布により導電膜の形成を行わなくても、それと同等の好適な放電性能を維持したアルカリ電池10とすることができる。また、表層のめっきは基本的に溶剤を必要としないめっき法により形成可能なため、溶剤を飛ばすための乾燥工程も不要となり、環境負荷を低減することができる。
【0053】
(2)コバルトめっき43を施した本実施形態のアルカリ電池10の場合、コバルト自体がニッケルに比べて安定的で酸化しにくい導電性金属であることから、長期間保存したときでもニッケルめっき層42を保護してその酸化を阻止することができる。ゆえに、導電性の低い酸化ニッケルの形成に起因する放電性能の低下を防止することができ、長期にわたり好適な放電性能を維持することができる。
【0054】
(3)本実施形態では、上述のようなめっきを施すことに加え、二酸化マンガン及び黒鉛を主材として含みポリアクリル酸またはその塩類をバインダとして含むリング状の正極合剤13を成形し、これを正極缶11内に圧入して、正極缶11の内面に正極合剤13の外周面を直接接触させるようにしている。従って、この構成を採ることにより、正極缶11と正極合剤13との間に良好な物理的及び電気的接触状態を長期にわたり維持することができる。その結果、導電膜の形成を行った従来品と同等、またはそれ以上の重負荷連続放電性能及び間欠放電性能を実現することが可能となる。
【0055】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0056】
・上記実施形態では本発明をLR20(単1形)の円筒形アルカリ電池に具体化したが、他のタイプの円筒形アルカリ電池、例えば、LR14(単2形)、LR6(単3形)、LR03(単4形)、LR1(単5形)などに具体化してもよく、あるいは、ZRタイプに具体化してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、略平板状の封口ガスケット24を例示したが、封口ガスケット24の構造はこれのみに限定されず、任意に変更することが可能である。また、封口ガスケット24の材質もポリプロピレン樹脂のみに限定されず、他のポリオレフィン系樹脂や、あるいはアミド系樹脂を使用してもよい。
【0058】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0059】
(1)ニッケルめっき鋼板を多段深絞り加工することで底部から開口部に行くに従って胴部の厚さが徐々に厚くなる有底筒状に成形してなり、内面側のニッケルめっき層上にコバルトめっきが施され、前記多段深絞り加工により生じた鋼板の皺及び/またはめっきの割れが内面側に存在している一方で、黒鉛を含む導電膜が形成されていないLR20用の電池用正極缶と、二酸化マンガン及び黒鉛を主材として含みポリアクリル酸またはその塩類をバインダとして含み、前記電池用正極缶の内径よりも外径が大きいリング状に成形された正極合剤と、前記電池用正極缶の開口部を封口するポリプロピレン樹脂製の封口ガスケットとを備え、前記アルカリ電池用正極缶の内面に前記正極合剤の外周面が直接接触した状態で、前記正極合剤が前記アルカリ電池用正極缶内に圧入されているとともに、前記鋼板の皺及び/または前記めっきの割れに前記正極合剤の一部が入り込んでいることを特徴とするアルカリ電池。
【0060】
(2)請求項4,5,6、上記思想1において、終止電圧0.9Vかつ試験温度20度とした1Ω連続放電条件にて持続時間が6.5時間超である放電性能を備えたことを特徴とするアルカリ電池。
【0061】
(3)請求項4,5,6、上記思想1または2において、60度20日間保存後における、終止電圧0.9Vかつ試験温度20度とした1Ω連続放電条件にて持続時間が5時間超である放電性能を備えたことを特徴とするアルカリ電池。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(a)は本発明を具体化した一実施形態の筒型アルカリ電池をその軸線方向に切断したときの断面図、(b)は(a)における円A1の部分を示す拡大断面図。
【図2】(a)〜(c)は一実施形態の筒型アルカリ電池をその径方向に切断したとき様子を概念的に示す拡大断面図。
【符号の説明】
【0063】
11…アルカリ電池用正極缶
13…正極合剤
42…ニッケルめっき層
43…コバルトめっき
M1…ニッケルめっき鋼板
61…鋼板の皺
62…めっきの割れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルめっき鋼板を多段深絞り加工することで底部から開口部に行くに従って胴部の厚さが徐々に厚くなる有底筒状に成形してなり、内面側のニッケルめっき層上にコバルトめっきが施され、前記多段深絞り加工により生じた鋼板の皺及び/またはめっきの割れが内面側に存在していることを特徴とするアルカリ電池用正極缶。
【請求項2】
前記多段深絞り加工後における前記コバルト層の厚さが0.05μm以上0.10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池用正極缶。
【請求項3】
前記多段深絞り加工後における前記正極缶の内面の表面粗さRaが0.8μm以上であり、前記めっきの割れが前記ニッケルめっき層よりも深い位置まで及んでいることを特徴とする請求項1または2に記載のアルカリ電池用正極缶。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルカリ電池用正極缶と、リング状に成形された正極合剤とを備え、前記アルカリ電池用正極缶の内面に前記正極合剤の外周面が直接接触した状態で、前記正極合剤が前記アルカリ電池用正極缶内に圧入されるとともに、前記鋼板の皺及び/または前記めっきの割れに前記正極合剤の一部が入り込んでいることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項5】
前記正極合剤は、二酸化マンガン及び黒鉛を主材として含み、ポリアクリル酸またはその塩類をバインダとして含むことを特徴とする請求項4に記載のアルカリ電池。
【請求項6】
前記ポリアクリル酸またはその塩類の含有量は、二酸化マンガンに対して0.4重量%以上1.5重量%以下であることを特徴とする請求項5に記載のアルカリ電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−62013(P2010−62013A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226830(P2008−226830)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】