説明

アルキレングリコールの調製方法

本発明は、アルキレングリコールをアルケンから調製する方法であって、アルキレンオキシドからアルキレングリコールへの変換がアルキレンオキシド吸収装置および場合によりさらなる反応器中で行われ、ファット吸収剤をリーン溶媒に接触させることによってアルキレングリコールがファット吸収剤から抽出され、それによってファット溶媒が生成され、アルキレングリコールがファット溶媒から回収され、リーン溶媒が再循環される方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケンからアルキレングリコールを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノエチレングリコールは、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)プラスチック、および樹脂の製造における原材料として使用される。また、これは自動車の不凍液中に混入される。
【0003】
モノエチレングリコールは典型的にはエチレンオキシドから調製され、このエチレンオキシドはエチレンから調製される。エチレンおよび酸素が、典型的には10から30barの圧力および200から300℃の温度で酸化銀触媒上に通されることで、エチレンオキシド、二酸化炭素、エチレン、酸素、および水を含む生成物流が生成される。この生成物流中のエチレンオキシドの量は通常約0.5から10重量%の間である。この生成物流はエチレンオキシド吸収装置に供給され、ここでエチレンオキシドは、大部分が水である再循環溶媒流によって吸収される。得られたエチレンオキシドが大幅に減少した流れは二酸化炭素吸収塔に部分的または完全に供給され、ここで二酸化炭素が、再循環吸収剤流によって少なくとも部分的に吸収される。再循環吸収剤流によって吸収されないガスは、二酸化炭素吸収塔を迂回した任意のガスと再び混合され、エチレンオキシド反応器に再循環される。
【0004】
エチレンオキシド吸収装置を離れた溶媒流をファット吸収剤と呼ぶ。ファット吸収剤はエチレンオキシドストリッパーに供給され、ここでエチレンオキシドはファット吸収剤から蒸気流として取り出される。エチレンオキシドが大幅に減少した溶媒流をリーン吸収剤と呼び、エチレンオキシド吸収装置に再循環されて、さらにエチレンオキシドが吸収される。
【0005】
エチレンオキシドストリッパーから得られたエチレンオキシドは、保管および販売のために精製することができるし、エチレングリコールを得るためにさらに反応させることもできる。周知の方法の1つでは、非触媒プロセスにおいてエチレンオキシドを大過剰の水と反応させる。この反応では典型的には、ほぼ90重量%のモノエチレングリコールからなるグリコール生成物流が生成され、残分は主としてジエチレングリコール、一部のトリエチレングリコール、およびより高次の同族体が少量である。別の周知の方法の1つでは、加水分解触媒の存在下で、エチレンオキシドを等モル量またはわずかに過剰の水と反応させる。別の周知の方法の1つでは、エチレンオキシドを二酸化炭素と触媒反応させることで、エチレンカーボネートが生成する。次にエチレンカーボネートを加水分解させることでエチレングリコールが得られる。エチレンカーボネートを介した反応では、モノエチレングリコールに対する選択性を改善することができる。
【0006】
ほとんどの従来方法は、エチレンをエチレンオキシドに変換するステップと、エチレンオキシドをガス流から液体流中に吸収させるステップと、続いてエチレンオキシドを反応させてエチレングリコールを得るステップとを含む。GB 2 107 712には、吸収ステップと反応ステップとが1つにまとめられ:エチレンオキシド反応器からのガスが反応器に直接供給され、この反応器中でエチレンオキシドが、エチレンカーボネート、またはエチレングリコールおよびエチレンカーボネートとの混合物に変換される方法が記載されている。
【0007】
公知の方法の結果として得られるエチレングリコール含有溶液は、典型的には一連のフラッシングおよび/または蒸留のステップにおいて水の除去が行われる。水の除去は、特にエチレングリコール含有溶液中に大過剰の水が存在する場合には、エネルギーを大量に消費するプロセスとなり得る。吸収および反応のステップが1つにまとめられるプロセスでは、特に多量の水を含有するエチレングリコール生成物溶液が得られるため、水の除去には大量のエネルギーの使用が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】英国特許第2 107 712号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、アルケンからのアルキレングリコールの製造をさらに改善することを探求した。特に、本発明者らは、プラントの資本コストおよび/または運転費が削減され、同時に高い選択性が保証される方法の提供を探求した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明は、アルケンからアルキレングリコールを調製する方法であって:
(a)反応器中、触媒の存在下でアルケンを酸素と反応させて、アルキレンオキシド、アルケン、酸素、二酸化炭素、および水蒸気を含むガス組成物を生成するステップと;
(b)(a)で得たガス組成物をアルキレンオキシド吸収装置に供給し、リーン吸収剤をアルキレンオキシド吸収装置に供給し、吸収装置中、加水分解を促進する1種類以上の触媒の存在下でガス組成物をリーン吸収剤に接触させ、吸収装置からファット吸収剤を抜き取るステップと;
(c)場合によりファット吸収剤を1つ以上の反応容器に供給するステップとを含み;
アルキレンオキシドからアルキレングリコールへの変換がステップ(b)および場合によりステップ(c)で起こり、それによって、ステップ(b)またはステップ(c)で得られたファット吸収剤がアルキレングリコールを含み;
(d)ステップ(b)またはステップ(c)で得られたファット吸収剤をリーン溶媒に接触させ、それによってファット吸収剤からアルキレングリコールを抽出し、ファット溶媒を生成するステップと;
(e)ファット溶媒からアルキレングリコールを回収し、それによってリーン溶媒を生成し、リーン溶媒をステップ(d)に再循環させるステップとをさらに含む方法を提供する。
【0011】
本発明の方法は、吸収ステップと反応ステップとが1つにまとめられているため、アルキレングリコールがアルキレンオキシド吸収装置中で生成され、従来方法よりも少ないまたは小さい反応容器を使用する方法でアルキレングリコール生成物溶液が得られ、さらに液液抽出を使用することで、従来の生成物溶液中の多量の水の除去に関連するエネルギー費が回避される。JP 56−40625には、エチレングリコールなどのポリオール類を水溶液から抽出する方法が開示されており、炭化水素または塩化炭化水素溶媒をポリオールの抽出に使用しているが、エチレングリコール溶液をどのようにして調製できるかについては対処していない。本発明者らは、液液抽出が、アルケンからアルキレングリコールを調製する方法とともに好都合に使用され、アルキレンオキシド反応器中で吸収および反応の両方が行われる方法を考案した。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態による方法を示す概略図である。
【図2】本発明の第2の実施形態による方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、アルケンからアルキレングリコールを調製する方法を提供し:
【0014】
【化1】

、R、R、およびRは、好ましくは水素、または1から6個の炭素原子、より好ましくは1から3個の炭素原子を有する場合により置換されたアルキル基から選択される。置換基として、ヒドロキシ基などの部分が存在することができる。好ましくは、R、R、およびRは水素原子を表し、Rは水素または非置換C−Cアルキル基を表し、より好ましくは、R、R、R、およびRのすべてが水素原子を表す。
【0015】
従って、好適なアルケンの例としてはエチレンおよびプロピレンが挙げられる。本発明において最も好ましいアルケンはエチレンである。
【0016】
反応器中、触媒の存在下でアルケンを酸素と反応させると、アルキレンオキシド、アルケン、酸素、二酸化炭素、および水蒸気を含むガス組成物が生成される。酸素は、酸素としてまたは空気として供給することができるが、好ましくは酸素として供給される。典型的にはバラストガス、例えばメタンまたは窒素が、可燃性混合物を生じさせることなく高酸素濃度で作業を行うために供給される。調節剤、例えばモノクロロエタンまたはジクロロエタンを、エチレンオキシド触媒の性能の制御のために供給することができる。アルケン、酸素、バラストガス、および調節剤は好ましくは、アルキレンオキシド吸収装置からアルキレンオキシド反応器に供給される再循環ガスに供給される。
【0017】
アルキレンオキシド反応器は典型的には多管式固定床反応器である。触媒は好ましくは、担持材料上、例えばアルミナ上の微細分散した銀および場合により助触媒金属である。反応は、好ましくは1MPaを超え3MPa未満の圧力および200℃を超え300℃未満の温度で行われる。好ましくはアルキレンオキシド反応器を出たガス組成物は、好ましくは1つ以上の温度の流れを発生させる1つ以上の冷却器中で冷却させる。
【0018】
汚染物質は好ましくは、ガス組成物がアルキレンオキシド吸収装置に供給されるより前にガス組成物から除去される。可能性のある汚染物質としては、酸類、エステル類、アルデヒド類、アセタール類、および有機ハロゲン化物類が挙げられる。好ましい汚染物質除去方法の1つは、好ましくはガス組成物を冷却した再循環水溶液と接触させることによる急冷である。急冷は、好ましくはアルキレンオキシド吸収装置と同じ容器中で行われる。再循環水溶液の一部は、急冷セクションからブリード流として抜き取ることができ、ブリード流中の任意のアルキレンオキシドは従来方法によって回収することができる。急冷後、ガス組成物は、好ましくはアルキレンオキシド反応器から出た高温ガス組成物と熱統合することによって、アルキレンオキシド吸収装置に供給する前に再加熱することができる。
【0019】
アルキレンオキシド吸収装置は、好ましくは垂直積層トレイのカラムまたは充填カラムを含む。トレイまたは充填カラムによって、吸収剤およびガス組成物が接触する表面領域が得られ、2つの相の間の物質移動が促進される。さらに、トレイによって、液相反応が起こり得る大量の液体体積が得られる。アルキレンオキシド吸収装置が一連の垂直積層トレイを含む実施形態では、ガスはトレイを上方に通過することができ、液体はトレイ間を下方に流れることができる。好ましくはカラムは少なくとも20個のトレイ、より好ましくは少なくとも30個のトレイを含む。好ましくはカラムは70個未満のトレイを含む。トレイ数が増加するほど、カラムの吸収性能が増加するが、さらなるトレイの追加によって費用が増加する。アルキレンオキシド吸収装置が充填カラムを含む実施形態では、構造化充填剤、不規則な充填剤、および触媒蒸留の内容物などの従来の充填剤を使用することができる。
【0020】
酸化ステップ(a)で得られるガス組成物は、好ましくはアルキレンオキシド吸収装置の底部に供給される。アルキレンオキシド吸収装置が垂直積層トレイのカラムを含む場合、ガス組成物は好ましくは、カラムの底部トレイの下に供給される。アルキレンオキシド吸収装置が充填カラムを含む場合、ガス組成物は好ましくは充填材料の下に供給される。
【0021】
リーン吸収剤は、アルキレンオキシド吸収装置に供給され、アルキレンオキシド吸収装置中のガス組成物と接触し、ファット吸収剤(ガス組成物から吸収された成分およびアルキレングリコールを含む。)がアルキレンオキシド吸収装置から抜き取られる。一実施形態では、リーン吸収剤は、アルキレンオキシド吸収装置の上部に供給される。アルキレンオキシド吸収装置が垂直積層トレイのカラムを含む場合、リーン吸収剤は好ましくは吸収塔中の最上部のトレイに供給される。アルキレンオキシド吸収装置が充填カラムを含む場合、リーン吸収剤は好ましくは充填材料の上に供給される。別の一実施形態では、リーン吸収剤がアルキレンオキシド吸収装置に供給される位置より上にトレイまたは充填材料が存在するようにリーン吸収剤が供給される。この実施形態では、冷水または冷却された追加のリーン吸収剤をアルキレンオキシド吸収装置の上部に供給して、アルキレンオキシド吸収装置の上部にあるアルキレンオキシドまたは汚染物質を吸収させることができる。
【0022】
リーン吸収剤は好ましくは少なくとも20重量%の水を含む。より好ましくは、リーン吸収剤は少なくとも50重量%の水、最も好ましくは少なくとも70重量%の水を含む。
【0023】
ガス組成物を、アルキレンオキシド吸収装置中、加水分解を促進する1種類以上の触媒の存在下でリーン吸収剤と接触させる。この加水分解触媒の存在は、アルキレンオキシド吸収装置が、アルキレンオキシドをガス組成物から吸収する吸収装置として、およびアルキレンオキシドをアルキレングリコールに変換する反応器としての両方で機能することを意味する。従ってステップ(b)で得られたファット吸収剤は、アルキレングリコールを含む。アルキレンオキシド吸収装置中で吸収と加水分解との両方を行うことは、加水分解が起こる追加の反応器の必要性が減少するという利点を有し、従って資本コストの削減につなげることができる。
【0024】
加水分解を促進する1種類以上の触媒は均一系であってもよく、そのためリーン吸収剤が1種類以上の触媒を含む。加水分解を促進することが知られている均一系触媒としては、炭酸カリウム、水酸化カリウム、および重炭酸カリウムなどの塩基性アルカリ金属塩類;モリブデン酸カリウムなどのアルカリ金属メタレート類;または硫酸などの酸性触媒が挙げられる。または、加水分解を促進する1種類以上の触媒は不均一系であってもよく、不均一系触媒は、垂直積層トレイ中または充填カラムの充填剤中に含まれる。加水分解を促進する不均一系触媒としては、固体担体上に固定されたメタレート類、例えば第4級アンモニウム基もしくは第4級ホスホニウム基を含有するイオン交換樹脂上に固定されたモリブデート類、ババナデート類、もしくはタングステート類;固体担体上に固定された重炭酸イオンなどの塩基性陰イオン、例えば第4級アンモニウム基もしくは第4級ホスホニウム基を含有するイオン交換樹脂上に固定されたバイカーボネート;またはゼオライト類、酸性粘土、もしくは酸性イオン交換樹脂などの酸性触媒が挙げられる。
【0025】
本発明の一実施形態では、ガス組成物を、アルキレンオキシド吸収装置中、カルボキシル化を促進する1種類以上の触媒の存在下でリーン吸収剤と接触させる。加水分解触媒とカルボキシル化触媒との両方が存在することは、アルキレンオキシド吸収装置が、アルキレンオキシドをガス組成物から吸収する吸収装置として、およびアルキレンカーボネートを介してアルキレンオキシドをアルキレングリコールに変換する反応器としての両方で機能することを意味する。従ってステップ(b)で得られたファット吸収剤は、アルキレングリコールを含む。この実施形態は高い選択性の実現に好都合となる。
【0026】
本発明のこの実施形態では、カルボキシル化を促進する1種類以上の触媒は均一系であってもよく、そのためリーン吸収剤が1種類以上の触媒を含む。カルボキシル化を促進することが知られている均一系触媒としては、ヨウ化カリウムおよび臭化カリウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物類、ならびに、ヨウ化トリブチルメチルホスホニウム、ヨウ化テトラブチルホスホニウム、ヨウ化トリフェニルメチルホスホニウム、臭化トリフェニルプロピルホスホニウム、塩化トリフェニルベンジルホスホニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、およびヨウ化トリブチルメチルアンモニウムなどのハロゲン化有機ホスホニウム塩類またはアンモニウム塩類が挙げられる。または、カルボキシル化を促進する1種類以上の触媒は不均一系であってもよく、不均一系触媒は、垂直積層トレイ中または充填カラムの充填剤中に含有される。カルボキシル化を促進する不均一系触媒としては、シリカ上に固定された第4級アンモニウムおよび第4級ホスホニウムハロゲン化物、不溶性ポリスチレンビーズに結合した第4級アンモニウムおよび第4級ホスホニウムハロゲン化物、ならびに、第4級アンモニウム基または第4級ホスホニウム基を含有するイオン交換樹脂などの第4級アンモニウム基または第4級ホスホニウム基を含有する固体担体上に固定された亜鉛塩類などの金属塩類が挙げられる。
【0027】
本発明の一実施形態では、ガス組成物を、アルキレンオキシド吸収装置中、金属炭酸塩、好ましくはアルカリ金属炭酸塩の存在下でリーン吸収剤と接触させる。金属炭酸塩は、加水分解触媒として機能すると思われる。しかし金属炭酸塩は、アルキレンオキシド吸収装置中の二酸化炭素の吸収を促進する機能も果たし、そのためステップ(b)後のファット吸収剤は二酸化炭素を含む。好ましくはリーン吸収剤は、吸収装置中の二酸化炭素の吸収をさらに促進する金属バナジン酸塩および金属ホウ酸塩などのさらなる添加剤を含む。
【0028】
アルキレンオキシド吸収装置は、ステップ(a)から得たガス組成物からアルキレンオキシドを吸収する吸収装置として、およびステップ(b)でアルキレンオキシドからアルキレングリコールへの変換が起こる反応器としての両方で機能し、そのためステップ(b)の結果得られたファット吸収剤はアルキレングリコールを含む。アルキレンオキシドからアルキレングリコールへの顕著な変換(例えば少なくとも50%の変換)が吸収装置中で起こる場合は、ステップ(c)は不要である。アルキレンオキシドからアルキレングリコールへの変換がステップ(b)で最大となり、そのため、ステップ(c)の反応容器をより小さくすることができるか、またはステップ(c)を完全に省略できることが好ましい。
【0029】
アルキレンオキシド吸収装置内の圧力は1から4MPa、好ましくは2から3MPaである。好ましい圧力は、より安価な設備(例えばより薄い壁を有する設備)で必要となる低い圧力と、吸収を増加させガスの体積流量を減少させ、それによって設備および配管が小さくなる高い圧力との間で折り合いをつけることになる。
【0030】
アルキレンオキシド吸収装置中で吸収されないガスは、好ましくはアルキレンオキシド反応器に再循環される。従来方法では、吸収装置中で吸収されないガスは、典型的には二酸化炭素吸収塔に供給され、二酸化炭素は、再循環吸収剤流によって少なくとも部分的に吸収される。ガス組成物を、アルキレンオキシド吸収装置中、金属炭酸塩の存在下でリーン吸収剤と接触させる本発明の実施形態では、二酸化炭素はファット吸収剤中に吸収され、アルキレンオキシド吸収装置中で吸収されないガスを二酸化炭素吸収塔に供給する必要がない場合があり(これらはアルキレンオキシド反応器に直接再循環され得る。)、より小さな二酸化炭素吸収塔を使用することも可能である。
【0031】
ファット吸収剤はアルキレンオキシド吸収装置から抜き取られ、好ましくは、アルキレンオキシド吸収装置の底部から液体を抜き取ることによって抜き取られる。場合により、ファット吸収剤は1つ以上の反応容器に供給され、アルキレンオキシドからアルキレングリコールへのさらなる反応が行われる。先に説明したように、これらの反応容器の必要性は、アルキレンオキシド吸収装置中で起こる変換の量によって決定される。最も好ましい一実施形態では、十分な変換がアルキレンオキシド吸収装置中で起こり、そのためさらなる反応容器は不要となる(この説明の目的では、「アルキレンオキシド吸収装置」は、吸収容器、例えばカラム、および吸収容器をプロセスの次の反応容器に接続する配管を含んでいる。)。別の一実施形態では、1つ以上の反応容器は実質的に最終的な反応器として機能し、即ちステップ(b)で50%を超える変換が起こり、ステップ(c)でさらなる変換が起こる。ステップ(c)中の1つ以上の反応容器は、加水分解反応器(触媒方法または熱的方法によって加水分解が行われる。)であってもよいし、カルボキシル化および加水分解の両方の反応器(アルキレンカーボネートを介してアルキレンオキシドをアルキレングリコールに変換する。)であってもよい。
【0032】
ステップ(b)またはステップ(c)で得られたアルキレングリコールを含むファット吸収剤は、場合によりフラッシュ容器に供給され、軽留分が除去される。軽留分は、(a)で得られるガス組成物中に存在するアルケンなどのガス、およびメタンなどのバラストガスであり、ステップ(b)中に吸収剤中に吸収される。軽留分は、好ましくはアルキレンオキシド反応器に再循環される。軽留分をアルキレンオキシド反応器に再循環させることで、アルケンを含む軽留分が回収されるので、プロセスの効率が増加する。このフラッシングは0.01から2MPa、好ましくは0.1から1MPa、最も好ましくは0.1から0.5MPaの圧力で行うことができる。
【0033】
ステップ(d)中、ファット吸収剤をリーン溶媒と接触させることによって、アルキレングリコールがファット吸収剤から抽出され、ファット溶媒が生成する。リーン溶媒は、好ましくはアルコール(1つのヒドロキシル基を有する化合物)、例えばベンジルアルコールもしくはフェニルグリコール、またはポリオール(複数のヒドロキシル基を有する化合物)である。好ましくは、このポリオールは250を超える分子量を有する。好ましいポリオール類は、グリセロールおよびプロピレンオキシドおよび/またはエチレンオキシドから調製される。標準的な抽出装置を使用することができ、例えばミキサーセトラーを板状充填剤または合体要素などの解乳化剤とともに使用することができる。
【0034】
ステップ(d)でファット吸収剤をリーン溶媒と接触させた後、これをアルキレンオキシド吸収装置にリーン吸収剤として再循環させることが好ましい。ガス組成物を、アルキレンオキシド吸収装置中、金属炭酸塩の存在下でリーン吸収剤に接触させる本発明の実施形態では、二酸化炭素はファット吸収剤中に存在し、好ましくは、ファット吸収剤がアルキレンオキシド吸収装置にリーン吸収剤として再循環される前に、二酸化炭素が除去される。好ましくは、ファット吸収剤を二酸化炭素ストリッパーに通すことによって二酸化炭素が除去される。二酸化炭素は上部から除去され、リーン吸収剤は底部から抜き取られて、アルキレンオキシド吸収装置に再循環される。
【0035】
アルキレングリコールがファット溶媒から回収されることによって、リーン溶媒が生成される。これは好ましくは、ファット溶媒を水除去塔(水は上部から除去され、グリコール含有溶媒は底部から除去される。)に通し、次に蒸留塔に通すことによって行われる。リーン溶媒の沸点がグリコール類の沸点よりも高い場合は、粗グリコールが上部から除去され、リーン溶媒が底部から除去される。リーン溶媒の沸点がグリコール類の沸点よりも低い場合は、リーン溶媒が上部から除去され、グリコールが底部から除去される。リーン溶媒はステップ(d)に再循環される。
【0036】
ファット溶媒から回収されるアルキレングリコールは依然として未精製の形態であり、アルキレングリコール類(モノアルキレングリコール、ジアルキレングリコール、およびより高級なグリコール類)と水との混合物を含む。粗アルキレングリコールは好ましくは脱水塔に供給される。脱水器は、好ましくは1つ以上のカラムであり、好ましくは0.05MPa未満、より好ましくは0.025MPa未満、最も好ましくは約0.0125MPaの圧力で使用される少なくとも1つの真空カラムを含む。脱水塔で除去された水は、好ましくは、アルキレンオキシド吸収装置に供給されるリーン吸収剤の一部と再混合される。アルキレングリコールは好ましくは、従来の蒸留装置にも供給され、モノアルキレングリコール、ジアルキレングリコール、トリアルキレングリコール、およびより高級なグリコール類が分離される。
【0037】
1種類以上の均一系触媒がステップ(b)またはステップ(c)のいずれかで使用される場合、これらの触媒はファット吸収剤中に存在し、好ましくはリーン吸収剤の一部として再循環される。
【0038】
図1は、本発明の方法の一実施形態を示している。エチレン、酸素、メタン、および抑制ガス(例えばモノクロロエタン)が(1)における再循環ガスに供給される。エチレンオキシド反応器(2)中、エチレンと酸素とが反応して、エチレン、酸素、エチレンオキシド、および二酸化炭素を含むガス組成物が得られ、この組成物は、エチレンオキシド吸収装置(4)の下の急冷セクション(3)に供給される(注:吸収装置に示されているトレイの数は、吸収装置内に存在する可能性があるトレイの数を示すものではなく、吸収装置が一連の垂直積層トレイを含むことを単に示しているだけである。)。炭酸カリウムを含むリーン吸収剤が、吸収装置(4)に供給され、吸収装置の上部の最上トレイ中に供給される(5)。吸収装置内で、エチレンオキシドおよび二酸化炭素は吸収剤中に吸収される。エチレンオキシドは、炭酸カリウム加水分解触媒の存在下で水と反応して、モノエチレングリコールが得られる。吸収装置(4)内で吸収されなかったガスは、エチレンオキシド反応器(2)に再循環される。モノエチレングリコール、二酸化炭素、および炭酸カリウムを含むファット吸収剤は吸収装置(4)から抜き取られて、フラッシュ容器(6)に供給される。軽留分は除去されて、エチレンオキシド吸収装置(2)に再循環される。次に、ファット吸収剤は、フラッシュ容器(6)から1つ以上のミキサーセトラーからなる抽出システム(7)に供給される。リーン溶媒が抽出システム(7)に供給される(8)。このリーン溶媒がファット吸収剤と抽出システム(7)内で接触して、エチレングリコール類がファット吸収剤から抽出される。モノエチレングリコールおよびより高級なグリコール類を含有するファット溶媒が抽出容器(7)から抜き取られ(9)、水除去塔(10)に供給され、次に蒸留塔(11)に供給される。モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびより高級なグリコール類が蒸留塔(11)から抜き取られ(12)、さらなる精製が行われる。リーン溶媒が蒸留塔(11)から抜き取られ、抽出システム(7)に再循環される(8)。リーン吸収剤が抽出容器(7)から抜き取られ(13)、二酸化炭素ストリッパー(14)に供給される。二酸化炭素がストリッパーから除去され(15)、リーン吸収剤が吸収装置(4)に再循環される(5)。
【0039】
図2は、本発明の方法の別の一実施形態を示している。最終反応器として機能する追加の反応容器(16)が存在し、エチレンオキシド反応器(2)への再循環において二酸化炭素吸収装置(17)が存在し、リーン吸収剤が二酸化炭素ストリッパーを通過しないことを除けば、すべての要素が図1と同じである。ファット吸収剤が吸収装置(4)から抜き取られ、最終反応器(16)に供給される。エチレンオキシドからモノエチレングリコールへの変換が吸収装置(4)内で起こるが、エチレンオキシドからモノエチレングリコールへのさらなる変換は最終反応器(16)内で起こる。最終反応器(16)から得られたファット吸収剤はフラッシュ容器(6)に供給される。フラッシュ容器(6)から得られたガス、およびエチレンオキシド吸収装置(4)から得られる未反応ガスは、二酸化炭素吸収装置(17)内で二酸化炭素の吸収が行われた後、これらのガスはエチレンオキシド反応器(2)に供給される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケンからアルキレングリコールを調製する方法であって:
(a)反応器中、触媒の存在下でアルケンを酸素と反応させて、アルキレンオキシド、アルケン、酸素、二酸化炭素、および水蒸気を含むガス組成物を生成するステップと;
(b)(a)で得たガス組成物をアルキレンオキシド吸収装置に供給し、リーン吸収剤をアルキレンオキシド吸収装置に供給し、吸収装置中、加水分解を促進する1種類以上の触媒の存在下でガス組成物をリーン吸収剤に接触させ、吸収装置からファット吸収剤を抜き取るステップと;
(c)場合によりファット吸収剤を1つ以上の反応容器に供給するステップとを含み;
アルキレンオキシドからアルキレングリコールへの変換がステップ(b)および場合によりステップ(c)で起こり、それによって、ステップ(b)またはステップ(c)で得られたファット吸収剤がアルキレングリコールを含み:
(d)ステップ(b)またはステップ(c)で得られたファット吸収剤をリーン溶媒に接触させ、それによってファット吸収剤からアルキレングリコールを抽出し、ファット溶媒を生成するステップと;
(e)ファット溶媒からアルキレングリコールを回収し、それによってリーン溶媒を生成し、リーン溶媒をステップ(d)に再循環させるステップとをさらに含む、方法。
【請求項2】
ガス組成物がアルキレンオキシド吸収装置に供給される前に、ガス組成物を冷却した再循環水溶液に接触させることによって、汚染物質がガス組成物から除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルキレンオキシド吸収装置中、カルボキシル化を促進する1種類以上の触媒の存在下でガス組成物をリーン吸収剤に接触させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アルキレンオキシド吸収装置中、金属炭酸塩の存在下でガス組成物をリーン吸収剤に接触させる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)またはステップ(c)で得られたアルキレングリコールを含むファット吸収剤がフラッシュ容器に供給され、ステップ(d)の前に軽留分が除去される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
リーン溶媒がアルコールまたはポリオールである、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ステップ(d)でファット吸収剤をリーン溶媒に接触させた後、この吸収剤を、場合により二酸化炭素ストリッパーを介して、アルキレンオキシド吸収装置にリーン吸収剤として再循環させる、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ファット溶媒を水除去塔に通し、次に蒸留塔に通すことによって、アルキレングリコールがファット溶媒から回収される、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ステップ(e)で回収されたアルキレングリコールが脱水塔および蒸留装置に供給される、請求項1から8のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−516530(P2011−516530A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503444(P2011−503444)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054269
【国際公開番号】WO2009/124987
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】