説明

アルミニウムチューブの製造方法

【課題】 口付きのアルミニウムチューブでも効率よく均一加熱して焼鈍処理まで行えるアルミチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】 異なった肉厚部分を有するアルミニウムチューブを製造する方法であって、厚肉部分と薄肉部分とに対応させてそれぞれ高周波加熱コイル(2)(3)を配置し、厚肉部分に対応させて配置した高周波加熱コイル(3)に出力周波数の高い高周波電源(5)からの出力を印加するとともに、薄肉部に対応させて配置した高周波加熱コイル(2)に出力周波数の低い高周波電源(4)からの出力を印加するようにしてそれぞれの部分を異なる高周波によって誘導加熱して焼鈍する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異なる肉厚を有するアルミニウムチューブの製造方法に関し、特に、口部付きのアルミチューブを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や化粧品、接着剤等を注入するチューブは一般にアルミニウムで製造されている。このようなアルミニウム製チューブは、アルミニウム素材をプレスによる冷間成型加工で口部・肩部・胴部を一体の状態として成型され、その後、内部応力の除去及び加工硬化の回復(軟化)のための焼鈍処理を施し、この焼鈍処理での加熱によりアルミニウム製チューブに付着している潤滑剤が蒸発除去され、内外面に塗装を施して、製品とされる。
【0003】
従来、口部を有するアルミニウムチューブの焼鈍加工はガス炉や電気炉等の加熱炉を使用して、加熱炉内の雰囲気温度を450〜500℃程度まで上昇させて、アルミニウムチューブを350〜450℃程度まで昇温し、その後徐冷するようにしている。また、この焼鈍加工時の加熱により、アルミニウムチューブの表面に付着してるプレス加工時の潤滑剤(例えばステアリン酸亜鉛)が蒸発除去されている。
ところが、加熱炉を使用した焼鈍方法では、処理をする前に炉内の温度を一定温度(450〜500℃)まで昇温するという予備加熱の操作が必要で、予備加熱に要するエネルギーが無駄であるうえ、輻射熱を利用した間接加熱であることから熱効率が悪いというエネルギー上の問題がある。また、加熱炉を使用しての焼鈍作業では、処理時間が2〜10分程度かかるっていた。さらに、加熱炉が高温であることから、炉の周辺が40℃以上の高熱雰囲気となり、作業環境も悪化するという問題もあった。
【0004】
そこで、ワークとしてのアルミニウムチューブを電磁誘導加熱して焼鈍しようとするものも提案されている。(特許文献1)
【特許文献1】特開平8−260033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の特許文献1に開示の技術では、加熱コイルを展開状態で矩形状に巻いたコイルをその略中央部で曲げて略門型に形成することにより、ワーク(アルミニウムチューブ)の搬送方向と略平行な複数の水平コイル部と、この水平コイル部と略直交する複数の垂直コイル部とを有する加熱装置とし、ワークの全体を同一条件で誘導加熱するようにしている。ところが、口付きのアルミニウムチューブの場合、円筒状の胴部と比べると口部や胴部と口部とを連結している肩部の肉厚が厚いことから、前記従来の電磁誘導加熱装置ではチューブ全体を均一に加熱することが難しいという問題が残っていた。
【0006】
本発明はこのような点に着目してなされたもので、被処理材として例えば口付きのアルミニウムチューブのような異なる肉厚を有するアルミニウムチューブでも効率よく均一加熱して焼鈍処理を行うことのできるアルミチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために本発明は、厚肉部分と薄肉部分とに対応させてそれぞれ高周波加熱コイルを配置し、厚肉部分に対応させて配置した高周波加熱コイルに出力周波数の高い高周波電源からの出力を印加するとともに、薄肉部に対応させて配置した高周波加熱コイルに出力周波数の低い高周波電源からの出力を印加するようにしてそれぞれの部分を周波数の異なる高周波電力によって誘導加熱するようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、胴部等の肉厚が薄い部分に比較的低い周波数(例えば、20kHz程度)の高周波電力を印加するとともに、肩部や口部等の肉厚の厚い部分に比較的高い周波数(例えば、50kHZ〜100kHz)の高周波電力を印加するようにしていることから、肉厚部分と肉薄部分とでの加熱度合いを変化させて肉厚部での加熱状態と、薄肉部での加熱状態を均等化することができる。そして、アルミニウムチューブ自体の発熱作用であることから、短時間のうちに所定の温度まで昇温ができ、焼鈍処理に必要な時間を数秒から数十秒に短縮することができる。
【0009】
また、請求項2に示すように、薄肉部部分では、被加熱物とその外周を覆う状態に配置されている高周波加熱コイルとの間で、高周波加熱コイル軸芯方向で相対出退移動させるとともに、高周波加熱コイルと被加熱物であるアルミニウムチューブを相対回動させるようにすると、温度ムラの生じやすい肉薄部分を均一に加熱することができる。
【0010】
さらに、アルミニウムチューブの焼鈍作業を電磁誘導加熱を利用して行っているので、所望の個所を短時間(数秒)に所定温度まで昇温させることができ、加熱装置としての予備加熱等の作業を省略することができるようになり、エネルギー無駄な使用を抑制でき、作業環境の悪化も防止することができる。また、電磁誘導加熱により、焼鈍処理のワークであるアルミニウムチューブ自体の品温が350〜450℃程度まで昇温することになるから、その温度上昇に伴って、アルミニウムチューブ成形時に使用されてワークに残存付着している潤滑剤を昇華除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明方法の実施に利用する加熱装置の一例を示す概略図である。
本発明方法に使用するアルミニウムチューブ(1)は、アルミニウム素材を冷間プレス加工により薄肉の胴部(1b)と、厚肉の口部(1c)と、この口部(1c)及び胴部(1b)を連結する厚肉の肩部(1s)とを一体に形成したのち、旋盤加工で所定の寸法に形成したものであり、本発明方法による焼鈍工程を終了した後には、アルミチューブ内面にエポキシ系樹脂等の内面加工材を吹き付けた後に乾燥させ、その外面の地塗り、乾燥、外面印刷と進行するものである。なお、口部(1c)としては、その外周面に螺旋ねじを形成した首部を有するものものもある。
【0012】
アルミニウムチューブを加熱する加熱装置は、図1に示すように被処理材(ワーク)であるアルミニウムチューブ(1)の胴部(1b)に対応する状態に配置した胴部加熱コイル(2)と、胴部(1b)と口部(1c)とを連結する状態で一体に形成されている肩部(1s)に対応する状態で配置した肩部加熱コイル(3)と、胴部加熱コイル(2)に高周波電力を供給する高周波電源(4)と、肩部加熱コイル(3)に高周波電力を供給する高周波電源(5)及びアルミニウムチューブ(1)の口部(1c)を保持するチャック装置(6)(7)とで構成してある。
【0013】
胴部加熱コイル(2)は、リッツ線を円筒コイル状に巻回して構成してあり、この胴部加熱コイル(2)の内周面とワークであるアルミニウムチューブ(1)の外周面との間には熱輻射を防止する為のセラミックスチューブ(8)が配置してある。一方、肩部加熱コイル(3)はリッツ線を円錐コイル状に巻回して構成してある。
【0014】
高周波誘導加熱では、周波数が高いほど・また出力が大きいほど急速加熱が行えることが知られている。そこで、胴部加熱コイル(2)に高周波電力を供給する胴部加熱用高周波電源(4)は、広い面積の薄肉部分を加熱昇温させるためのものであることから、1800W・20kHz程度の比較的低い出力周波数の高周波電源を使用しており、肩部加熱コイル(3)に高周波電力を供給する肩部加熱用高周波電源(5)は、狭い面積の厚肉部分を局部的に加熱昇温させるものであることから、800W・100kHz以上の比較的高い出力周波数の高周波電源を使用している。ここで胴部を加熱する周波数が比較的低い高周波と、肩部を加熱する周波数比較的高い高周波とは、その周波数差が30kHz以上あることが望ましい。
【0015】
また、胴部加熱コイル(2)に対応させて配置したチャック装置(6)はアルミニウムチューブ(1)の口部(1c)を保持した状態でアルミニウムチューブ(1)をその軸芯に沿って出退移動させるとともに、アルミニウムチューブ(1)を軸芯周りに回転させて、薄肉に形成されている胴部全体を均一に加熱できるようにしている。肩部加熱コイル(3)に対応させて配置したチャック装置(7)はアルミニウムチューブ(1)の口部(1c)をしっかりと把持できるようにしてある。
【0016】
上記の高周波電源を使用した場合、肉厚0.15mmの胴部を焼鈍温度まで昇温する時間と、肉厚1mmの肩部を焼鈍温度まで昇温する時間では、肩部の必要加熱時間が約2倍程度必要であるから、肩部加熱コイル(3)を2基配置するとともに、胴部加熱コイル(2)を1基配置して、胴部加熱時間を基準として、ワークを順次移動させるようにすると、作業時間を有効に利用することができることになる。
【0017】
図2は上述した加熱装置を利用してのアルミニウムチューブの焼鈍手順を示す。
まず、ワークであるアルミニウムチューブ(1)の肩部に肩部加熱コイル(3)が位置する状態に配置してアルミニウムチューブ(1)の口部(1c)をチャック装置(7)で把持する。この状態で肩部加熱用高周波電源(5)を作動させて肩部加熱コイル(3)に高周波電力を供給して、アルミニウムチューブ(1)の肩部を加熱(予備加熱)する(ステップS1)。肩部の加熱時間が予め設定されている時間(例えば4.5秒)経過すると(ステップS2)、肩部加熱用高周波電源(5)からの出力を停止する(ステップS3)。この加熱停止時間を利用して、ワークであるアルミニウムチューブ(1)を次の作業ステージに移動させる。
【0018】
次いで、肩部加熱用高周波電源(5)からの出力停止時間が予め設定した時間に達すると(ステップS4)、再び肩部加熱用高周波電源(5)を作動させて、アルミニウムチューブ(1)の肩部を加熱(本加熱)する(ステップS5)。
【0019】
肩部加熱高周波電源(5)の出力時間が予め設定されている時間(例えば4.5秒)経過すると(ステップS6)、肩部加熱用高周波電源(5)からの出力を停止してアルミニウムチューブ(1)での肩部の加熱が終了する(ステップS7)。アルミニウムチューブの肩部の加熱が終了すると、ワークであるアルミニウムチューブ(1)をさらに次の作業ステージに移動させ、胴部加熱用高周波電源(4)を作動させる(ステップS8)。胴部加熱用高周波電源(4)の出力時間が予め設定されている時間(例えば4秒)経過すると(ステップS9)、胴部加熱用高周波電源(4)からの出力を停止する(ステップS10)。
【0020】
この場合、胴部の加熱作業中に、ワークであるアルミニウムチューブ(1)を加熱コイル(2)の軸芯に沿って移動させるとともに、軸芯周りに回転ないし揺動させることにより、胴部を均一に加熱することができる。また、前述のように、加熱装置を3つの作業ステージを有する状態に構成しておき、第1及び第2ステージを肩部加熱ステージ、第3ステージを胴部加熱ステージとし、一定のタクトタイムでワークを順次移動させるようにすることにより、各ステージでの加熱タイムをそろえることができることになる。
【0021】
図3は本発明方法の実施に利用する加熱装置の別の実施形態を示す概略図である。
この加熱装置は、同じアルミニウムチューブ(1)の胴部と肩部とを加熱できる状態に、胴部加熱コイル(2)と、肩部加熱コイル(3)とを配置したものである。
【0022】
図4はこの加熱装置を利用してのアルミニウムチューブの焼鈍手順を示す。
まず、ワークであるアルミニウムチューブ(1)の肩部に肩部加熱コイル(3)が位置する状態に配置してアルミニウムチューブ(1)の口部(1c)をチャック装置(7)で把持する。 そして、処理を開始すると、肩部の加熱処理と胴部の加熱処理とが並行処理としておこなわれる。処理開始と同時に肩部加熱用高周波電源(5)を作動させて肩部加熱コイル(3)に高周波電力を供給する(ステップS11)。肩部加熱コイル(3)への電力供給に伴いタイマーが作動し(ステップS12)、肩部の加熱時間が予め設定されている時間(例えば9秒)が経過すると(ステップS13)、肩部加熱用高周波電源(5)からの出力を停止して(ステップS14)、アルミニウムチューブ(1)での肩部の加熱が終了する。
【0023】
一方、胴部の加熱処理は、処理の開始とともにタイマが作動し(ステップS15)、予め設定した時間(例えば5秒)が経過すると(ステップS16)、胴部加熱用高周波電源(4)を作動させて胴部加熱コイル(2)に高周波電力を供給する(ステップS17)。また、胴部加熱用高周波電源(4)からの給電開始と同時にタイマーが作動し(ステップS18)、胴部加熱時間が設定した時間(例えば4秒)を経過すると(ステップS19)、胴部加熱用高周波電源(4)からの出力を停止して(ステップS20)、アルミニウムチューブ(1)での胴部の加熱が終了する。
【0024】
このように肩部加熱コイル(3)と胴部加熱コイル(2)とが近接して配置されている状態で両コイル(2)(3)を同時に作動させる場合には、比較すると低い側の周波数を出力する高周波数電源(4)側に、ローパスフィルタあるいはハイパスフィルタを挿入しておくと電源干渉を防止することができる。
【0025】
また、前述の両実施形態では、胴部加熱コイル(2)にリッツ線を使用していることから、アルミニュウムチューブ(1)の胴部(1b)をセラミックスチューブ(8)で套嵌して、熱輻射を防止するように構成したが、胴部加熱コイル(2)に銅管やアルミニウム管を使用し、内部に冷却液を流通させるようにすると、アルミニュウムチューブ(1)の胴部(1b)を套嵌するセラミックチューブを省略することができる。さらに、上記各実施形態ではアルミニウムチューブ(1)を加熱コイル(2)に対して、コイル軸芯に沿って出退させるとともに、コイル軸芯周りに回転ないし揺動させているが、コイル側を出退移動及び回転させるようにしてもよい。
【0026】
なお、肩部加熱用高周波電源(5)及び胴部加熱用高周波電源(4)のそれぞれの出力周波数及び出力電力を適当に調整することにより、それぞれの加熱時間を制御することができる。両高周波電源の出力周波数及び出力電力を変更した場合での400℃以上の温度に達するまでの時間を表1に示す。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、医薬品や化粧品、接着剤等の充填容器に使用される口付きチューブなどのように肉厚の異なる部分を有するアルミニウムチューブの製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明方法の実施に利用する加熱装置の一例を示す概略図である。
【図2】アルミニウムチューブの焼鈍手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明方法の実施に利用する加熱装置の別の実施形態を示す概略図である。
【図4】アルミニウムチューブの別の焼鈍手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
1…アルミニウムチューブ、2・3…高周波加熱コイル、4…出力周波数の低い高周波電源、5…出力周波数の高い高周波電源。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なった肉厚部分を有するアルミニウムチューブを製造する方法であって、
厚肉部分と薄肉部分とに対応させてそれぞれ高周波加熱コイル(2)(3)を配置し、厚肉部分に対応させて配置した高周波加熱コイル(3)に出力周波数の高い高周波電源(5)からの出力を印加するとともに、薄肉部に対応させて配置した高周波加熱コイル(2)に出力周波数の低い高周波電源(4)からの出力を印加するようにしてそれぞれの部分を周波数の異なる高周波電力によって誘導加熱するようにしたアルミニウムチューブの製造方法。
【請求項2】
薄肉側加熱部では高周波加熱コイル(2)と被加熱物であるアルミニウムチューブ(1)とを相対回転させるとともに高周波加熱コイルの軸芯に沿う方向に相対出退させるようにして焼鈍するように構成した請求項1に記載したアルミニウムチューブの製造方法。
【請求項3】
厚肉部の加熱を先行させ、厚肉部の加熱に続けて薄肉部の加熱を行う請求項1又は請求項2に記載したアルミニウムチューブの製造方法。
【請求項4】
厚肉部の加熱と薄肉部の加熱とを並行して行うようにした請求項1又は請求項2に記載したアルミニウムチューブの製造方法。
【請求項5】
アルミニウムチューブが冷間プレス成型された口部付きチューブである請求項1から4のいずれかに1項に記載したアルミニウムチューブの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−100169(P2007−100169A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291883(P2005−291883)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(591288056)パール工業株式会社 (6)
【出願人】(000156824)関西チューブ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】